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関連審決 訂正2002-39124
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  優先権 /  参酌 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 293号 審決取消請求事件
原告 インターディジタル テクノロジー コーポレーション
訴訟代理人弁護士 中島和雄
訴訟代理人弁理士 内原 晋
同 船山 武
同 渡邉 隆
被告 特許庁長官 小川洋
指定代理人 川名幹夫
同 小曳満昭
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が訂正2002−39124号事件について平成15年3月24日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「多重音声通信やデータ通信を単一又は複数チャンネルにより同時に行うための無線ディジタル加入者電話システム」とする特許第2979064号の特許(昭和61年2月26日に出願した昭和61年特許願第39331号(優先権主張日1985年3月20日,米国)の一部を分割して平成9年7月11日に出願(以下「本件出願」という。),平成11年9月17日設定登録
以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許に対し,特許異議の申立てがあり,その審理の過程で,原告は,平成13年4月17日に本件出願の願書に添付した明細書の訂正(以下「第1訂正」という。)を請求し,特許庁は,同年10月23日,「訂正を認める。特許第2979064号の特許請求の範囲第1項ないし第5項に記載された発明についての特許を取り消す。」との決定(附加期間90日,同年11月12日謄本送達)をした。
原告は,平成14年3月8日,上記取消決定の取消を求める訴訟(平成14年(行ケ)第113号)を提起するとともに,同年5月17日,明細書の特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)を求める審判を請求した。特許庁は,これを訂正2002-39124号事件として審理した結果,平成15年3月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(附加期間90日),同年4月4日,その謄本を原告に送達した。
2 訂正の概要 本件訂正は,第1訂正による異議決定時の特許請求の範囲第1項ないし第3項及び第5項を追加訂正するとともに第4項を削除し,第5項を第4項に項番変更するものである(明細書の特許請求の範囲以外の部分に訂正はない。以下,本件訂正の審判請求書に添付された訂正明細書を「本件訂正明細書」という。)。
[本件訂正後の特許請求の範囲](一重下線部は,第1訂正により訂正された箇所であり,二重下線部(編注:ホームページ上では太字斜体字で表記)は,本件訂正による訂正箇所である。) 「1 無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が複数の スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであって,基地局及び加入者局を含み,その基地局が, 電話網から複数の順方向ディジタル化音声信号を受けるとともに加入者局から少なくとも一つの逆方向ディジタル化音声信号を受ける複数の回線接続経路と, 前記順方向ディジタル化音声信号をそれぞれ圧縮して圧縮音声信号を生ずる複数の圧縮器と, 前記圧縮音声信号を単一の送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられた周波数/スロットに配置して多重化するマルチプレクサと, 前記順方向搬送波周波数の各々を前記送信チャンネル・ビット・ストリームで変調して順方向被変調搬送波を生ずる複数の変調器と, 前記順方向被変調搬送波を少なくとも一つの加入者局にRF送信する送信機と, 前記ディジタル化音声信号を前記圧縮器の一つにそれぞれ導く交換手段と, 入来呼要求に応答して圧縮音声信号の占めるべき順方向の スロット及び周波数を指示するスロット/周波数割当て信号を発生しそれによって圧縮済みのディジタル化音声信号を前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の順方向の スロット及び周波数に割り当てる スロット/ 割当て信号発生手段であって,スロット/周波数の割当て済みの状況に関する情報を記憶するメモリを含み前記入来呼要求に応答して前記メモリにアクセスするスロット/周波数割当て信号発生手段と, 前記スロット/周波数割当て信号に応答して入来ディジタル化音声信号を前記圧縮器経由で前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられたスロットに経路づけするように所要の接続を前記交換手段に完結させる手段と, 前記 スロット /周波数割当 て信号 を表す情報 を前記加入者局 に送る手段とを含み,前記加入者局が, 前記逆方向ディジタル化音声信号を圧縮して逆方向圧縮音声信号を生ずる圧縮器と, 前記逆方向圧縮音声信号を送信チャンネル・ビット・ストリーム内の逐次的時間スロット,すなわち 前記順方向 の割当 てスロット から固定時間幅 だけずれた 時間 スロットに配置するチャンネル・コントローラと, 前記逆方向搬送波周波数,すなわち 前記順方向 の割当 て周波数 から 固定周波数幅 だけずれた 逆方向搬送波周波数 を前記送信チャンネル・ビット・ストリームで変調し逆方向被変調搬送波を生ずる変調器と, 前記逆方向被変調搬送波を前記基地局にRF送信する送信機と を含むことを特徴とするディジタル陸上通信システム。」(以下「本件訂正第1発明」という) 「2 局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムにおいて, 前記基地局における切換マトリクス及び各加入者局におけるセット・アップ手段であって,前記局線に接続され前記局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として前記局線に導く前記切換マトリクス,及び第1の逆方向情報を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップする前記セット・アップ手段と, 前記基地局及び各加入者局における信号圧縮器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに第1の圧縮済みの第1の順方向信号すなわち圧縮前の前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮器と, 前記基地局及び各加入者局における信号圧縮解除器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記加入者局から前記RFリンクの前記逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の逆方向信号を前記基地局切換マトリクス用に発生する基地局信号圧縮解除器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続され前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ手段用に発生する加入者局信号圧縮解除器と, 前記圧縮済みの順方向情報信号及び逆方向情報信号への一つのチャンネル/スロット割当てをその情報信号を前記順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て手段であって,チャンネル/スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段を含む割当て手段とを含み, 前記加入者局 が前記順方向情報信号 および 逆方向情報信号 の一方 を割当 てチャンネル / スロット 経由 で受信 し,その 割当 てチャンネル から 固定周波数幅だけずれた 周波数 およびその 割当 て スロット から固定時間幅 だけずれた スロットを前記順方向情報信号 および 逆方向情報信号 の他方 に自動的 に提供 し, 前記基地局圧縮器に接続され前記圧縮済みの順方向信号を前記順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの時間スロットを占める形で印加するように組み上げる信号コンバイナと, 前記基地局及び加入者局における送信機及び受信機であって前記基地局と加入者局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機と をさらに含む陸上無線ディジタル多元接続通信システム。」(以下「本件訂正第2発明」という。) 「3 局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を備える市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信を行う方法であって,各々が複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信方法において, 前記基地局における切換及び前記加入者局の各々におけるセット・アップを行う過程であって,前記局線に接続され前記局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として前記局線に導く前記切換過程,及び第1の逆方向情報を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報としてセット・アップするセット・アップ過程と, 前記基地局及び前記各加入者局における信号圧縮過程であって,前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに第1の圧縮済みの順方向信号すなわち圧縮前の第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮過程,及び,前記セット・アップ過程からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮過程と, 前記基地局及び各加入者局における信号圧縮解除過程であって,前記加入者局から前記RFリンクの前記逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の逆方向信号を前記切換過程期間中の切換用に発生する基地局信号圧縮解除過程,及び前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ過程用に発生する加入者局信号圧縮解除過程と, 前記圧縮済みの順方向及び逆方向情報信号への一つのチャンネル/スロット割当てをその情報信号を前記順方向及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て過程であって,チャンネル/スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段の維持を含む割当て過程とを含み, 前記加入者局 が前記順方向情報信号 および 逆方向情報信号 の一方 を割当 てチャンネル / スロット 経由 で受信 し,その 割当 てチャンネル から 固定周波数幅だけずれた 周波数 およびその 割当 て スロット から固定時間幅 だけずれた スロットを前記順方向情報信号 および 逆方向情報信号 の他方 に自動的 に提供 するようにし, 前記基地局信号圧縮過程からの前記圧縮済みの順方向信号を前記順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの時間スロットを占める形で印加するように組み上げる過程と, 前記基地局及び加入者局における送信過程及び受信過程であって前記基地局と加入者局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信過程及び受信過程と をさらに含む陸上無線ディジタル多元接続通信方法。」(以下「本件訂正第3発明」という。) 「4 局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムにおいて, 前記基地局における切換マトリクス及び各加入者局におけるセット・アップ手段であって,前記局線に接続され前記局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として前記局線に導く前記切換マトリクス,及び第1の逆方向情報信号を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップするセット・アップ手段と, 前記基地局及び各加入者局における信号圧縮器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに圧縮済みの第1の順方向信号すなわち圧縮前の前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報信号を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮器と, 前記基地局及び各加入者局における信号圧縮解除器であって,前記基地局切換マトリクスに接続され前記加入者局から前記RFリンクの前記逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報信号をもたらす第2の逆方向信号を前記基地局切換マトリクス用に発生する基地局信号圧縮解除器,及び前記加入者局セット・アップ手段に接続され前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報信号をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ手段用に発生する加入者局信号圧縮解除器と, 前記圧縮済みの順方向情報信号及び逆方向情報信号の一つへのチャンネル/スロット割当てをその情報信号を前記順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て手段であって,チャンネル/スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段を含む割当て手段と, 前記基地局圧縮器に接続され前記圧縮済みの順方向信号を前記順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの内の時間スロットを占める形で印加するように組み上げる信号コンバイナと, 前記基地局及び加入者局における送信機及び受信機であって前記基地局と加入者局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機と を含む陸上無線ディジタル多元接続通信システムに用いる加入者局において, 前記第1の方向情報信号を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップするセット・アップ手段と, 前記セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの前記第1の逆方向信号を圧縮して圧縮前の前記第1の逆方向信号と実質的に同じ情報信号を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する信号圧縮器と, 前記セット・アップ手段に接続され前記基地局から前記RFリンクの前記順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報信号をもたらす第2の順方向信号をセット・アップ手段用に発生する信号圧縮解除器と, 前記基地局との間の前記RFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機とを含み, 前記順方向情報信号 および 逆方向情報信号 の一方 を割当 てチャンネル /スロット 経由 で受信 し,その 割当 てチャンネル から 固定周波数幅 だけずれた 周波数およびその 割当 て スロット から固定時間幅 だけずれた スロット を前記順方向情報信号 および 逆方向情報信号 の他方 に自動的 に提供 する 加入者局。」(以下「本件訂正第4発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明は,いずれも「電子通信学会論文誌(J64-B)第9号」(昭和56年9月25日,社団法人電子通信学会発行)1016〜1023頁「TD-FDMA移動通信方式の検討」(以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)と,特開昭58-51635号公報(以下「刊行物2」という。
なお,審決(審決書7頁27〜28行)に「刊行物2(特開昭54-60806号公報)」とあるのは「刊行物2(特開昭58-51635号公報)」の誤記である。)及び特開昭54-60806号公報(以下「刊行物3」という。)記載の各発明に基づき,周知技術参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は認められないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たって,本件訂正第1発明及び本件訂正第2発明と引用発明とを対比して,一致点・相違点を次のとおり認定している。
(1) 本件訂正第1発明と引用発明とは,次のアないしセの点で実質的な差異がない。
ア 無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであるとの点(以下「一致点1-ア」という。) イ 基地局が,電話網から複数の順方向ディジタル化音声信号を受けるとともに加入者局から少なくとも一つの逆方向ディジタル化音声信号を受ける複数の回線接続経路を含むとする点(以下「一致点1-イ」という。) ウ 基地局が,順方向ディジタル化音声信号をそれぞれ圧縮して圧縮音声信号を生ずる複数の圧縮器を含むとする点(以下「一致点1-ウ」という。) エ 基地局が,圧縮音声信号を単一の送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられた周波数/時間スロットに配置して多重化するマルチプレクサを含むとする点(以下「一致点1-エ」という。) オ 基地局が,順方向搬送波周波数の各々を送信チャンネル・ビット・ストリームで変調して順方向被変調搬送波を生ずる複数の変調器を含むとする点(以下「一致点1-オ」という。) カ 基地局が,順方向被変調搬送波を少なくとも一つの加入者局にRF送信する送信機を含むとする点(以下「一致点1-カ」という。) キ 基地局が,ディジタル化音声信号を前記圧縮器の一つにそれぞれ導く交換手段を含むとする点(以下「一致点1-キ」という。) ク 基地局に含まれる時間スロット/周波数割当て信号発生手段が,入来呼要求に応答して圧縮音声信号の占めるべき順方向の時間スロット及び周波数を指示する時間スロット/周波数割当て信号を発生しそれによって圧縮済みのディジタル化音声信号を前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の順方向の時間スロット及び周波数に割り当てるとする点(以下「一致点1-ク」という。) ケ 基地局が,「時間スロット/周波数割当て信号に応答して入来ディジタル化音声信号を圧縮器経由で前記送信チャンネル・ビット・ストリーム内の動的に割り当てられたスロットに経路づけするように所要の接続を交換手段に完結させる手段」を含むとする点(以下「一致点1-ケ」という。) コ 基地局が,時間スロット/周波数割当て信号を表す情報を前記加入者局に送る手段とを含むとする点(以下「一致点1-コ」という。) サ 加入者局が,逆方向ディジタル化音声信号を圧縮して逆方向圧縮音声信号を生ずる圧縮器を含むとする点(以下「一致点1-サ」という。) シ 加入者局が,逆方向圧縮音声信号を送信チャンネル・ビット・ストリーム内の逐次的時間スロットに配置するとする点(以下「一致点1-シ」という。) ス 加入者局が,逆方向搬送波周波数,すなわち順方向の割当て周波数から固定周波数幅だけずれた逆方向搬送周波数を用いるとする点(以下「一致点1-ス」という。) セ 加入者局が,逆方向被変調搬送波を基地局にRF送信する送信機を備えるとする点(以下「一致点1-セ」という。) (2) 本件訂正第1発明と引用発明とは,次のアないしウの点で相違する。
ア 基地局に含まれる時間スロット/周波数割当て信号発生手段に関し,本件訂正第1発明においては,時間スロット/周波数の割当て済みの状況に関する情報を記憶するメモリを含み入来呼要求に応答してメモリにアクセスするとしているのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点(以下「相違点1-ア」という。) イ 本件訂正第1発明においては,加入者局が,順方向の割当てスロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットに配置するチャンネル・コントローラを含むとするのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点(以下「相違点1-イ」という。) ウ 本件訂正第1発明においては,加入者局が,送信チャンネル・ビット・ストリームで変調し逆方向被変調搬送波を生ずる変調器を含むとしているのに対し,刊行物1にはその点が記載されていない点(以下「相違点1-ウ」という。) (3) 本件訂正第2発明と引用発明とは,次のアないしキの点で実質的な差異がない。
ア 局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムであるとする点(以下「一致点2-ア」という。) イ 基地局における切換マトリクス及び各加入者局におけるセット・アップ手段であって,局線に接続され局線からの第1の順方向情報を第1の順方向信号として複数の圧縮器のある一つに導くとともに基地局圧縮解除器からの第2の逆方向信号を第2の逆方向情報として局線に導く切換マトリクス,及び第1の逆方向情報を第1の逆方向信号としてセット・アップするとともに加入者局圧縮解除器からの第2の順方向信号をユーザへの出力用の第2の順方向情報信号としてセット・アップする前記セット・アップ手段を含むとする点(以下「一致点2-イ」という。) ウ 基地局及び各加入者局における信号圧縮器であって,基地局切換マトリクスに接続され前記順方向周波数チャンネルの一つのある時間スロットに第1の圧縮済みの第1の順方向信号すなわち圧縮前の前記第1の順方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように加入者局で再構成できる第1の圧縮済みの順方向信号を発生する基地局信号圧縮器,及び加入者局セット・アップ手段に接続されそのセット・アップ手段からの第1の逆方向信号を圧縮するとともに圧縮前の第1の逆方向信号と実質的に同じ情報を生ずるように基地局で再構成できる圧縮済みの逆方向信号を発生する加入者局信号圧縮器と,基地局及び各加入者局における信号圧縮解除器であって,基地局切換マトリクスに接続され加入者局からRFリンクの逆方向周波数チャンネル経由で受ける圧縮済みの逆方向信号を圧縮解除し第1の逆方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の逆方向信号を基地局切換マトリクス用に発生する基地局信号圧縮解除器,及び加入者局セット・アップ手段に接続され基地局からRFリンクの順方向周波数チャンネル経由で受けた圧縮済みの順方向信号を圧縮解除するとともに第1の順方向信号と実質的に同じ情報をもたらす第2の順方向信号を前記加入者局セット・アップ手段用に発生する加入者局信号圧縮解除器を含むとする点(以下「一致点2-ウ」という。) エ 圧縮済みの順方向情報信号及び逆方向情報信号への一つのチャンネル/時間スロット割当てをその情報信号を順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルの一つ経由で前記基地局及び加入者局の一つに伝送できるように行う割当て手段を含むとする点(以下「一致点2-エ」という。) オ 加入者局が,順方向情報信号および逆方向情報信号の一方を割当てチャンネル/時間スロット経由で受信するとする点(以下「一致点2-オ」という。) カ 基地局圧縮器に接続され圧縮済みの順方向信号を順方向周波数チャンネルにそれら順方向信号の各々がその順方向周波数チャンネル内の一つの時間スロットを占める形で印加するように組み上げる信号コンバイナを含むとする点(以下「一致点2-カ」という。) キ 基地局及び加入者局における送信機及び受信機であって基地局と加入者局との間のRFリンク経由の直接通信をもたらす送信機及び受信機とを含むとする点(以下「一致点2-キ」という。) (4) 本件訂正第2発明と引用発明とは,次のア及びイの点で相違する。
ア 本件訂正第2発明において,割当て手段が,チャンネル/時間スロット割当て済みの状況を記憶するとともに伝達すべき情報の基地局による受信に応答してその記憶を調べるメモリ手段を含むとしているのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点(以下「相違点2-ア」という。) イ 本件訂正第2発明においては,加入者局が,割当てチャンネルから固定周波数幅だけずれた周波数およびその割当て時間スロットから同一時間スロット内における送信および受信の回避のための固定時間幅だけずれた時間スロットを前記順方向情報信号および逆方向情報信号の他方に自動的に提供するとしているのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点(以下「相違点2-イ」という。)
原告の主張の要点
審決は,本件訂正第1発明及び本件訂正第2発明と引用発明との一致点(実質的な差異がないとした点)の認定を誤り相違点を看過するとともに,相違点の判断を誤って,両発明の進歩性を否定し,さらに本件訂正第2発明についての誤った認定判断を前提として,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明の進歩性も否定したものであって,違法として取り消されるべきである。
1 本件訂正第1発明について (一致点の認定の誤り・相違点の看過) (1) 一致点1-アについて 審決の一致点1-アの認定は,誤りである。
ア 本件訂正第1発明は,システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミングおよびフレーム・タイミングを基地局時間基準に合致させ,その合致状態を維持しているので,本件訂正明細書の表1ないし表5に示されるとおり,順方向チャンネルのスロットと逆方向チャンネルのスロットとは時間軸上で一致する。
一方,引用発明の方式は,順方向時間スロットと逆方向時間スロットとの同期維持に基づく本件訂正第1発明の同期方式とは全く異なる非同期方式であり,下り回線と上り回線との間で同期維持されたタイムスロットを有するものでない。
イ 被告は,本件訂正第1発明のRCCメッセージによる同期と対応した同期が,引用発明においてもとられていると主張するが,誤りである。引用発明のシステムは,システムに収容可能な移動機の数を増やすために複数の搬送波周波数を用いた場合,下り回線で,それら複数の搬送波の各々の先頭部にフレーム同期信号F及び制御ワードCの挿入を要するだけでなく,上り回線で,移動機からのバースト信号の各々に先行するガードタイムGを設ける必要がある。このため,下り回線の1フレーム中に形成されるスロットの数と上り回線の1フレーム中に形成されるスロットの数は必然的に異なる。両回線の1フレーム中のスロット数が異なるので,下り回線のスロットと上り回線のスロットとの間で同期をとることはできない。
ウ 本件訂正第1発明では,順方向搬送波周波数に含まれるスロットと逆方向搬送波周波数のスロットとが互いに同期しているので,各加入者局は順方向搬送波周波数の割当てスロットで受信しその割当てスロットから固定時間幅だけずれた時間スロットを自動的に逆方向圧縮音声信号の送信に設定することができ,それによって加入者局の単純化,小型化,コスト低減を達成できる。しかも逆方向搬送波周波数のスロット相互間にガードタイムGを設ける必要がないので,より多数の音声チャンネルを形成しシステム容量を拡大できるという効果を奏するのである。
(2) 一致点1-イ及び1-ウについて 刊行物1の図7の「Exchanger」が「Hybrid(2W/4W)」との間で授受する信号は,アナログ信号である。また,刊行物1には,基地局におけるCoder/Decoderが圧縮器として作用することは記載されていないし,複数の個別のCoder/Decoderがあるともいえない。したがって,審決の一致点1-イ及び1-ウの認定は,誤りである。
(3) 一致点1-エについて 刊行物1には,Coder/Decoderを複数のもので構成すること及び周波数/時間スロットを動的に割り当てることは記載されていないから,審決の一致点1-エの認定は,誤りである。
(4) 一致点1-オ及び1-カについて 引用発明の基地局は,群分割方式の基地局であり,移動機に割り当てられる周波数は固定されている。したがって,審決の一致点1-オ及び1-カの認定は,誤りである。
(5) 一致点1-キについて 引用発明の交換機は,アナログ交換機であり,しかも基地局に備えられるものではなく,また,刊行物1には複数の圧縮器を備えることについて何らの記載もないから,審決の一致点1-キの認定は,誤りである。
(6) 一致点1-ク及び1-ケについて 引用発明の基地局は交換機を備えておらず,刊行物1には回線制御の内容について記載がない。また,刊行物1は,固定搬送波による群分割方式を示すものであり,群分割方式では,各群の使用搬送波周波数は固定されているから,周波数割当て信号が発生することはない。したがって,審決の一致点1-ク及び1-ケに関する認定は,誤りである。
(7) 一致点1-コについて 引用発明の基地局は,群分割方式の基地局であり,この基地局と交信する移動局は周波数固定であるから,移動機に対し,搬送波とタイムスロットの指定信号を送信することはない。したがって,審決の一致点1-コの認定は,誤りである。
(8) 一致点1-サについて 刊行物1には,基地局にも移動機にもディジタル化音声信号を生じる圧縮器は記載されていないから,審決の一致点1-サの認定は,誤りである。
(9) 一致点1-シについて 引用発明の移動機が「指定されたタイムスロットにて情報信号を基地局に送信するようにして」いるとの審決の認定は根拠がなく,審決の一致点1-シの認定は,誤りである。
(相違点の判断の誤り) (1) 相違点1-アについて 審決が相違点1-アの判断において示している刊行物2の記載は,周波数分割多元接続(FDMA)に限られるものであり,同じく刊行物3の記載は,「制御」の具体的記載を欠き,特に周波数選択制御について全く記載していないものであるから,これらを引用発明に適用して当業者が容易になし得ることとした審決の判断は誤りである。
(2) 相違点1-イについて 刊行物1は,移動機の構成について何も記載していないし,順方向搬送波周波数の時間スロットと逆方向搬送波周波数の時間スロットとを同期状態に維持することにできない非同期方式であるので,固定時間幅だけずれた時間スロットに逆方向圧縮情報信号を配置することは不可能である。また,審決が周知例として挙げる特開昭55-120235号公報及び刊行物3は,本件訂正第1発明の相違点1-イに係る構成を示唆するものではない。
審決は,上記の判断を誤るとともに,本件訂正第1発明の顕著な作用効果を看過するものである。
(3) 相違点1-ウについて 審決の判断は,その前提とする刊行物1記載の移動通信システムの認定を誤っており(図5は著者らが想定した方式構成例を構成するものではない。),また,本件訂正第1発明の顕著な作用効果を看過するものである。
(4) 審決は,原告が審判において本件訂正第1発明の進歩性の判断に直接関連するとして提出した刊行物1の著者らの文献(甲5号証の1ないし6)について,何ら理由を挙げることなく考慮外としており,審理を尽くしたものといえない。
2 本件訂正第2発明について (一致点の認定の誤り・相違点の看過) (1) 一致点2-アについて 上記1の(一致点の認定の誤り・相違点の看過)の(1)で主張したように,引用発明の方式は下り回線と上り回線との間で同期維持されたタイムスロットを有するものでない。したがって,審決の一致点2-アの認定は,誤りである。
(2) 一致点2-イについて 審決の刊行物1の交換機に関する認定には根拠がなく,また,刊行物1には,移動機の構成についての記載がないから,審決が一致点2-イの前提とした刊行物1の記載事項の認定は誤りである。
(3) 一致点2-ウについて 刊行物1には,基地局におけるCoder/Decoderが圧縮器として作用することが記載されていないこと,移動機の構成について記載がないことなどからすれば,審決の一致点2-ウの認定は,誤りである。
(4) 一致点2-エについて 刊行物1では,交換機は基地局に設けられておらず,CPUの制御についての審決の認定には全く根拠がない。また,刊行物1の移動機は周波数固定であるから,基地局が,移動機に対し,搬送波とタイムスロットの指定信号を送信することはないし,刊行物1には,移動機の構成が記載されていない。 したがって,審決の一致点2-エの認定は,誤りである。
(5) 一致点2-カについて 審決が前提とする引用発明の基地局におけるMultiplexerの動作に関する認定は根拠を欠くものであるし,また,刊行物1に記載されていない複数の順方向周波数チャンネルの存在及びそれら周波数チャンネルの基地局における選択制御の実行を前提としている点でも,審決の一致点2-カの認定は,誤りである。
(6) 一致点2-キについて 引用発明は,搬送波周波数固定の群分割方式であるから,その送信機は本件訂正第2発明の送信機と異なるものであり,審決の一致点2-キの認定は,誤りである。
(相違点の判断の誤り) (1) 相違点2-アについて 前記1の(相違点の判断の誤り)の(1)と同様の理由により,審決の判断は誤りである。
(2) 相違点2-イについて 引用発明は,群分割による固定周波数方式であり,また,順方向搬送波周波数の時間スロットと逆方向搬送波周波数の時間スロットとを同期状態に維持することにできない非同期方式であるので,固定時間幅だけずれた時間スロットを順方向情報信号及び逆方向圧縮情報信号の他方に自動的に提供することは不可能である。また,審決が周知例として挙げる特開昭55-120235号公報及び刊行物3は,本件訂正第2発明の相違点2-イに係る構成を示唆するものではない。したがって,審決の判断は,誤りである。
(3) 審決が原告の提出した文献について審理を尽くしたものといえないことは,前記1の(相違点の判断の誤り)の(4)で主張したとおりである。
3 本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明について 本件訂正第2発明について主張したのと同じ理由により,審決の認定判断は,誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張はいずれも理由がない。
1 本件訂正第1発明について (一致点の認定の誤り・相違点の看過)について (1) 一致点1-アについて ア 刊行物1には,TDMA方式における同期系に関しては,移動機は搬送波,フレーム及びクロックのいずれかについても基地局に従属した位相同期系を構成することができるとしているから,審決の認定に誤りはない。
引用発明では,基地局,移動機において,所定のタイムスロットで送信,受信が行われており,このことは,基地局と移動機との間で同期がとられているからに他ならない。そして,その同期をとるために使われるのが,フレーム同期信号である。このように,引用発明においても,本件訂正第1発明のRCCメッセージによる同期に対応する同期がとられている。
イ 本件訂正明細書には,「加入者局は,加入者局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための小時間量だけ自己の伝送を基地局に対し進める。この方法による結果,基地局が受信中であるすべての加入者局からの伝送は相互に正しい位相関係にあることになる。」【0055】と記載されているが,本件第1訂正発明の特許請求の範囲には,「複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む」と記載されているだけであり,上記明細書のようなことまでは記載されていない。
上記明細書の記載は,本件訂正第1発明の場合,基地局と加入者局とがフレーム同期信号を起点として動作していても,加入者局から基地局に信号を伝送する場合に,加入者局と基地局は距離が離れているので,その距離分を考慮しないと基地局の所定のスロットに信号が納まらなくなってしまうことが考えられ,そのため,その距離分を考慮した時間だけ信号の伝送を早めるということを述べているものである。したがって,特許請求の範囲の「互いに同期した複数の時間スロット」中の「同期」が上記明細書の記載内容を意味するとするのは無理がある。
ウ なお,引用発明においても,移動局は,本件訂正明細書の段落【0055】と同様に,伝搬遅延を考慮したタイミングで指定の時間スロットにバースト信号として送信し,基地局が受信中であるすべての加入者局からの伝送は相互に正しい位相関係にあるようにしている。すなわち,刊行物1には,「・・・指定のタイムスロットにバースト信号として送信する.」(1023頁左欄18〜19行)と記載されているように,各移動機はそれぞれ指定のタイムスロットにそれぞれのバースト信号が納まるように送信していることが示され,また,基地局受信機において隣接バースト信号が時間的にオーバーラップしないようにすることが記載されている(1019頁左欄11〜31行)。さらに,刊行物1の図3,図5,図6の各「Inbound to Base」のタイトルが付された箇所には,複数の加入者局からの音声データ(「V」の記号が付された部分)が相互に重なることなく配置されている状況が示されている。
(2) 一致点1-イ及び1-ウについて ハイブリッド回路「Hybrid(2W/4W)」がディジタル信号を双方向に伝送する場合にも用いられることは,通信分野において,ごく普通に知られたことである。また,「圧縮・伸張」操作がTDMA方式の特徴であることは,通信分野においてごく普通に知られたことであり,刊行物1には,圧縮機に相当するCoder/Decoderが複数設けられている。
(3) 一致点1-エについて 引用発明は,多数の搬送波と多数のタイムスロットにより信号を伝送するTD-FDMAに関するものであり,複数の周波数のうちの所定の搬送波で,所定のタイムスロットにて情報が宛先の移動局に送信されるものであるから,審決の引用発明の認定に誤りはない。
(4) 一致点1-オ及び1-カについて 引用発明の基地局が「複数の変調器」及び「送信機」を含む点については,審決が認定したとおりであり,誤りはない。
(5) 一致点1-キについて ハイブリッド回路はディジタル信号を双方向に伝送する場合にも用いられるものであるから,引用発明の交換機がアナログ交換機でなければならないということはないし,刊行物1の記載からすれば,交換機が基地局の構成であることが示されている。
(6) 一致点1-ク及び1-ケについて 引用発明においては,CPUが回線制御および多重化の指示を行い,この指示により,基地局に備えられた交換機が,入来してきた信号を,搬送波当たり複数設けられた一つのCoder/Decoderに接続し,Multiplexerは,Coder/Decoder出力を所定のタイムスロットに組み上げるようにしている。また,刊行物1で提案しているのは,原告が主張するような群分割方式ではない。
(7) 一致点1-コについて 上記(6)のとおりであり,審決の認定に誤りはない。
(8) 一致点1-サについて 移動機が基地局から送られてきた信号情報を復元するための構成を備えることはごく普通のことであり,また,移動機から送られてきた情報信号を基地局で復元しているのであるから,移動機において復元前の処理をしていることは明らかであって,そのための構成を備えることはごく普通に考えられることである。
(9) 一致点1-シについて 刊行物1の移動機は,送られてきた情報信号を指定されたタイムスロットで受信し,所定のタイムスロットにて情報信号を基地局に送信することとされており,移動機がそのための何らかの手段を有することは明らかである。
(相違点の判断の誤り)について (1) 相違点1-アについて 刊行物2には,基地局がメモリに記憶された各通話チャンネルの空塞情報を参酌して空通話チャンネルの選択を行うことが記載され,メモリを調べて,接続要求に応じて未割当の周波数,タイムスロットを与えるようにしているのであり,また,刊行物3には,周波数帯の各々についてどの時間スロットが割当て済みであるかを示すメモリを維持することが示されている。
したがって,審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点1-イについて 移動機が所定のタイムスロットに情報を割り当てるようにする何らかの手段を有することは,前記のとおりである。また,刊行物1の基地局と移動機との間で同期がとられていることは,上記1(1)のとおりであり,送信に用いるタイムスロットと受信に用いるタイムスロットとを異ならせることは,本件出願前に周知である。
本件訂正第1発明においても引用発明においても,基地局が,使用する搬送周波数,時間スロットを加入者局(移動機)に通知するようにしている。加入者局が逆方向搬送波周波数/時間スロットを独自に選択(指定)するといったことは通常なく,本件訂正第1発明は,通常の移動通信システムが当然に有する以上の効果を奏するものではない。
(3) 相違点1-ウについて 刊行物1の下り回線の搬送波周波数と上り回線の搬送波周波数との認定に誤りがないことは,審決で説示したとおりである。
(4) 原告は,原告提出の文献を考慮していないと非難するが,本件において,それらの文献を参酌すべき理由はない。
2 本件訂正第2発明について (一致点の認定の誤り・相違点の看過)について (1) 一致点2-アについて 「同期した複数の時間スロット」についての審決の認定に誤りがないことは,本件訂正第1発明について述べたとおりである。
(2) 一致点2-イについて 交換機がCoder/Decoderにつながり,Coder/DecoderがMultiplexer,Demultiplexerにつながっていることは,刊行物1の図7に明らかであるし,移動機についての審決の認定にも誤りはない。
(3) 一致点2-ウについて 引用発明の基地局のCoder/Decoder及び移動機の認定に誤りがないことは,前記のとおりである。
(4) 一致点2-エについて 引用発明において,交換機が基地局に備わっていること,CPUの回線制御を行っていることについての審決の認定に誤りはなく,また,移動機の認定にも誤りはない。
(5) 一致点2-カについて 引用発明の基地局のMultiplexer及びTD-FDMA方式についての審決の認定に誤りはない。
(6) 一致点2-キについて 引用発明における基地局の送信機及び受信機並びに移動機の認定に誤りはない。
(相違点の判断の誤り) 本件訂正第一発明の相違点に関して述べたとおり,審決の判断に誤りはない。
3 本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明について 本件訂正第2発明について述べたとおりであり,審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件訂正第1発明について 原告が主張する一致点の認定の誤り・相違点の看過のうち,一致点1-アについて検討する。
(1) 審決は,一致点1-アについて 「(ア) 上記刊行物1記載の移動通信システムは,搬送波を用いて,基地局と移動機間との音声信号の送受を行なうものであり,その使用する搬送波は,・・・基地局が移動局に情報を送信するために使用する搬送波と移動局が基地局に情報を送信するために使用する搬送波とは異なるものを用いるとし,・・・基地局では,所定のタイムスロットにて音声信号を移動局に送信し,所定のタイムスロットにて音声信号を移動機から受信するようにし,移動機においても,送られてきた音声信号を指定されたタイムスロットで受信し,指定されたタイムスロットにて音声信号を基地局に送信するようにしている。 そして,上記刊行物1記載の移動通信システムにおいては,・・・品質が確保できる符号化速度を採用するとしているから,本件訂正第1発明が,無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システムであることと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない。」(審決書18頁29行〜19頁6行) と認定している。
(2) 本件訂正第1発明の一致点1-アに係る構成は,「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに 同期 した複数の時間 スロットを含むとともにアナログ音声信号1チャンネル分の関連の所定の帯域幅を有する複数の順方向及び逆方向搬送波周波数に複数の音声信号チャンネルを形成する市外通話同等の通話品質のディジタル陸上通信システム」であり,下線部が本件訂正の箇所であって,本件訂正は,順方向及び逆方向搬送波周波数について,その各々が「互いに同期した」複数の「時間」スロットを含むことを限定したものである。
一般に,同期とは,「作動を時間的に一致させること」(広辞苑第5版)であり,上記特許請求の範囲の記載からすれば,本件訂正第1発明の複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって「各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む」とは,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解するのが自然である。
この点について,本件訂正明細書には,次の記載がある(甲6号証)。
ア 「基地局と加入者局との間のタイミング同期を正確にとることは,全システム的に重大なことである。全システムに対するマスタ・タイミング・ベースは基地局によって作られる。ある特定のシステム内のすべての加入者装置は,周波数,シンボル・タイミング,及びフレーム・タイミングに関して,このタイム・ベースに同期しなければならない。」【0051】 イ 「基地局は,80.000MHzの極度に正確なタイミング基準クロック信号を生成するシステム・タイミング装置(STIMU)を包含している。この80MHzの基準クロック信号は16KHzのクロック信号及び22.222Hz(持続時間45msec)のフレーム・ストローブ・マーカ信号を生成するために周波数逓降される。すべての基地局送信タイミングはこれらの3つの同期マスタ基準信号から発生する。・・・。16KHzのクロック信号はすべての基地局周波数による伝送に対するシンボル・レートタイミングを供給する。45msecのマーカ信号は,新しいフレーム内の最初のシンボルを付与するために使用される。・・・。基地局内の周波数チャンネルはすべて,伝送に際して同一時間基準を使用する。3つのタイミング信号(80MHz,16KHz,及びフレーム開始{SOF}マーカ)は基地局内の各モデム19に供給される。モデム19は,同一の直列接続送信受信チャンネル対内のCCU18及びRFU21に適切なクロック信号を分配する。CCU18はこの16KHz及びSOFマーカを使用して当該周波数についての現フレーム構造に従って音声の伝送のタイミングをとりかつシンボルを制御する。」【0052】 ウ 「基地局内の受信タイミングは,基地局の送信タイミングと原則的に同一である。即ち,SOFマーカとシンボル・クロック信号は送信信号と受信信号との間で正確に並んでいなければならない。しかし,完全なタイミング同期は加入者局の伝送から期待できないので,基地局のモデム19の受信タイミングは加入者局からの入力シンボルに整合しなければならない。これは基地局モデム19の受信機能のサンプリング期間が加入者局から受信中のシンボルについて最良予測をもたらすために必要である。モデム19の受信機能にインタフェースしているCCU18内の小容量弾性バッファはこのわずかなタイミング・スキューを補償している。」【0053】 エ 「全システム内の加入者局はその時間基準を基地局のマスタ・タイム・ベースに同期させている。この同期は,加入者局が基地局からのRCCメッセージを使用することによって基地局時間基準を最初に取得する多段階手順によって達成される。・・・」【0054】 オ 「いったん加入者局が基地局から時間基準を最初に捕捉完了すると,加入者局モデム30a,30b,30cの復調器内のトラッキング・アルゴリズムが加入者局の受信タイミングを正確に保持する。加入者局は,加入者局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための小時間量だけ自己の伝送を基地局に対して進める。この方法による結果,基地局が受信中であるすべての加入者局からの伝送は相互に正しい位相関係にあることになる。」【0055】 以上のとおり,本件訂正明細書にも,@基地局は80MHzの基準クロック信号を生成するシステム・タイミング装置を含み,基地局において,この基準クロック信号から16KHzのクロック信号と22.222Hzのフレーム・ストローブ・マーカ信号(フレーム開始(SOF)マーカ)が生成され,これら3つのタイミング信号は基地局の各モデムに供給されて,基地局内の周波数チャンネルはすべて伝送に関して同一の時間基準を使用することになること,A基地局内の受信タイミングは,基地局の送信タイミングと原則的に同一であるが,完全なタイミング同期は,加入者局からの伝送からは期待できないこと,B全システム内の加入者局は,その時間基準を基地局のマスタ・タイム・ベースに同期させており,その手順は,加入者局が基地局からのRCCメッセージを使用して基地局時間基準を取得し,モデムがトラッキング・アルゴリズムにより加入者局による受信タイミングを正確に保持すること,C加入者局が,その位置に起因する伝送往復遅延を相殺するために,小時間量だけ自己の伝送を基地局に対して進めることにより,基地局が受信する伝送は正しい位相関係になること,が明らかにされている。そして,各周波数チャンネルのフレームは変調形式に依存して2個又は4個のスロットに分割されるから(本件訂正明細書【0068】,【0071】,表1〜5参照),基地局の全周波数チャンネルが周波数やタイミングに関して同一の時間基準を採用すると,各周波数チャンネル間で複数の時間スロットが互いに同期することとなるのである。
このように,本件訂正明細書の記載も,本件訂正第1発明の「互いに同期した複数の時間スロット」が,各々の搬送周波数(チャンネル)が複数の時間スロットを含み,各搬送周波数チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味していることを裏付けているということができる。
(3) 次に,引用発明の構成について見るに,刊行物1には,次の記載がある(甲3号証)。
ア 「3.3 同期系 下り回線では,無線基地局において一つの無線搬送波源により発生された搬送波をベースバンドパルス段において1列のパルス列として時分割多重した信号で変調して送出し,各移動機でこれを受信し,ゲート選択するという方法が採られる。従って,各移動機は搬送波,フレーム及びクロックのいずれについても基地局に従属した位相同期系を構成することができる。
上り回線では,各移動機の送信搬送波源およびクロック源は相互に非同期の関係にあり,且つ,各移動機と基地局の距離,すなわち伝搬遅延時間がばらつくため基地局受信機入力点で,各移動機からの搬送波およびクロックを相互同期状態にするのは非常に困難であるのでクロック非同期とせざるを得ない。」(1018頁右欄8〜21行) イ 「TDMA方式では基地局受信機において隣接バースト信号が時間的にオーバラップしないように,下り回線でバースト信号の送出時刻を指示しなければならない。前述のようにクロック非同期で,且つ基地局と移動機間の伝搬遅延時間にばらつきがあるため,バースト信号の時間的オーバラップを避けるためには,バースト信号間にガードタイムを設ける必要がある。」(1019頁左欄11〜17行) ウ 「(1) 下り回線 移動機の呼出し信号,チャネル指定信号などの各移動機に共通の回線制御信号を音声と一緒に伝送することが必要となる下り回線は,これらの制御信号用のタイムスロット(control word)の繰返単位を1フレームとするのが適すると考えられる。フレーム内にそう入する情報部( message portion)の構成法としては,(@)ビット単位,(A)ワード単位,(B)サブフレーム単位,のいずれも可能であるが,ベースバンド段における各通話チャネルとの対応を簡潔にするという点から,図3に示すようなサブフレーム単位の構成が適すると考えられる。
(2) 上り回線 クロック非同期のTDMAであるため,情報部の構成は,ワード単位もしくはサブフレーム単位とせざるを得ないが,後述するように回線使用効率の点でサブフレーム単位が適する。通常は図3に示すように,情報部の先頭に搬送波再生用ビット,クロック同期用ビット及び,サブフレーム検出用ユニークワード(unique word)とで構成されるプリアンブル(pre-amble)を付加し,一つのサブフレームを構成しバースト信号として指定されたタイムスロットに送出する。」(1019頁左欄34行〜右欄12行) エ 図3(1019頁)には,フレームフォーマットの例として,F(Frame sync.),C(Control word),複数のV(Message portion (voice))からなる下り回線のフレーム構成と,P(Preamble)とV(Message portion (voice))とからなる複数のサブフレームが互いにG(Guard bits)を介して配置された上り回線のフレーム構成が記載されており,図6(1022頁)にも,TD-FDMAにおけるフレームフォーマットとして同様のフレーム構成が記載されている。
上記記載によれば,刊行物1の方式において,下り回線では,各移動機が搬送波,フレーム及びクロックのいずれについても基地局に従属した位相同期系を構成するものの,上り回線では,基地局受信機入力点でクロック非同期とせざるを得ないことが示されているが,下り回線のタイムスロットと上り回線のタイムスロットとの同期については,明らかにされていない。しかし,刊行物1の上記記載からすると,下り回線(順方向チャンネル)には,制御信号用のタイムスロットと複数の情報部用のタイムスロットが含まれるのに対し,上り回線(逆方向チャンネル)には,プリアンブルを付加した情報部が伝送されるべきタイムスロットが,下り回線の情報部タイムスロットと同数だけ含まれることとなる。したがって,刊行物1の方式では,下り回線と上り回線とでタイムスロットの数が異なるし(下り回線には制御信号用のタイムスロットが含まれるが,上り回線には含まれない。),情報部用のタイムスロットに関して,下り回線と上り回線とでは時間幅が異なる(下り回線のタイムスロットには情報部が隙間なく詰め込まれているのに対し,上り回線のタイムスロットには,情報部にプリアンブルが付加され,さらにガードタイムによる余裕を設けて挿入されている。)ことになり,下り回線と上り回線が互いに同期した複数のタイムスロットを含むということができないことになる。
(4) 被告は,引用発明では,基地局,移動機において,所定のタイムスロットで送信,受信が行われており,このことは,基地局と移動機との間で同期がとられているからに他ならないとし,また,本件訂正第1発明の「互いに同期した時間スロット」の「同期」は,本件訂正明細書にいう「加入者局は,加入者局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための小時間量だけ自己の伝送を基地局に対して進める。この方法による結果,基地局が受信中であるすべての加入者局からの伝送は相互に正しい位相関係にあること」を意味するものではないと主張する。
しかし,本件訂正第1発明の「互いに同期した複数の時間スロット」が,複数の順方向及び逆方向周波数(チャンネル)間での複数の時間スロットの同期を意味すると解すべきこと,そして,本件訂正明細書の段落【0051】,【0054】,【0055】がその構成を説明するものであることは前記のとおりであり,また,刊行物1の方式が,本件訂正第1発明と同様の同期系の構成をとるものであるとしても,その具体的な構成において,下り回線と上り回線のタイムスロットが同期しているといえないことも前述したとおりであるから,被告の上記主張は採用できない。
また,被告は,引用発明においても,移動局は,伝搬遅延を考慮したタイミングで指定の時間スロットにバースト信号として送信し,基地局が受信中であるすべての加入者からの伝送は相互に正しい位相関係にあるようにしているとも主張する。
しかし,刊行物1のTDMA方式あるいはTD-FDMA方式は,上り回線でプリアンブルを付加したバースト信号間にガードタイムを設けたものであり,図3,図6に示されるフレームフォーマットでは,「互いに同期した複数のタイムスロット」が認められないことは,前記のとおりであるし,また,刊行物1には,ガードタイムの設定法として「基地局において各移動機からの信号の伝搬遅延時間を測定し,伝搬遅延を補正して各移動機ごとにバースト信号の送出タイミングを指示する(可変長ガードタイム方式)」との記載もあるが,そのときのフレームフォーマットが図3,図6のものと異なるものであるとは明示されていないのであって,この記載をもって,刊行物1の方式が,下り回線と上り回線との間で「互いに同期した複数のタイムスロット」を有するものであると認めることもできないから,被告の上記主張は失当である。
(5) 以上のとおり,刊行物1には,複数の順方向及び逆方向搬送波周波数の各々が「互いに同期した複数の時間スロットを含む」ものであることが開示されていないことは明らかであるから,本件訂正第1発明が「無線周波数(RF)電話システムの複数の順方向及び逆方向搬送波周波数であって各々が互いに同期した複数の時間スロットを含む・・・ことと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない」とした審決の認定は誤りであり,この点を本件訂正第1発明と引用発明との相違点とすべきであるところ,審決は,これを看過し,この相違点について適切な判断をしていない誤りがあるというべきである。
2 本件訂正第2発明について 原告が主張する一致点の認定の誤り・相違点の看過のうち,一致点2-アについて検討する。
(1) 審決は,「本件訂正第2発明が,局線及び複数の加入者局と交信可能な基地局を有する市外通話同等の通話品質の陸上無線ディジタル多元接続通信システムであって,各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる陸上無線ディジタル多元接続通信システムであるとすることと上記刊行物1記載の移動通信システムとに実質的な差異はない。」(審決書23頁9〜16行)と認定した。
(2) しかしながら,本件訂正第2発明の「各々が互いに同期した複数の時間スロット」についても,複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルが複数の時間スロットに分割され,各チャンネル間で対応する時間スロットが互いに同期する(位相が一致又は位相差が一定)ことを意味するものと解すべきことは,本件訂正第1発明について検討したところと同様であり,引用発明が,下り回線と上り回線とが互いに同期したタイムスロットを有するものと認められないことも,前述したとおりである。
したがって,本件訂正第2発明と引用発明とが,「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネル」という点で実質的な差異がないとした審決の上記認定は誤りであり,審決には,この点の相違点を看過し,これについて適切な判断をしていない誤りがあるというべきである。
3 本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明について 本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明は,「各々が互いに同期した複数の時間スロットに分割されている複数の順方向周波数チャンネル及び逆方向周波数チャンネルによる前記局線と前記複数の加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で順方向情報信号及び逆方向情報信号の同時伝送を行うことのできる」陸上無線ディジタル多元接続通信方法(本件訂正第3発明)あるいは陸上無線ディジタル多元接続通信システム(本件訂正第4発明)である点を要件とするものであるところ,審決は,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明について,「本件訂正第2発明に示した理由と同様な理由で,上記刊行物1乃至3記載の発明に基づき,周知事項を参酌して,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(審決書26頁20〜22行,24〜26行)と判断した。
そうすると,本件訂正第2発明について,審決に一致点の認定の誤り・相違点の看過があることは,前記のとおりであるから,審決には,本件訂正第3発明及び本件訂正第4発明についても同様の誤りがあることになる。
4 以上のとおりであって,審決には,本件訂正第1発明ないし本件訂正第4発明のいずれについても,上記の誤りがあり,これが審決の結論に影響することは明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消を免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁