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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ29554特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  実施料相当額 /  抵触 /  実施 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  侵害するおそれ /  組成した物 /  供した設備 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  単位数量 /  実施料 /  相当因果関係 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 21425号 損害賠償等請求事件
千葉市<以下略>
原告株式会社鈴木ラテックス
訴訟代理人弁護 士鈴木真
同 中山美恵子
同 山口知子
訴訟代理人弁理 士斎下和彦東京都墨田区<以下略>
被告株式会社マルサ斉藤ゴム
訴訟代理人弁護 士大野幹憲
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/06/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。
2被告は,原告に対し,68万3453円及びこれに対する平成19年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
5この判決の第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1被告は,別紙物件目録記載の製品及び同製品製造のための金型を廃棄せよ。
2被告は,原告に対し,323万0095円及びこれに対する平成19年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,「風船用クリップ止め装置」に関する発明の特許権者である原告が,被告が別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造,販売した行為が原告の特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条2項に基づき,被告製品及びその製造に用いる金型の廃棄を請求するとともに,民法703条,709条(特許法102条1項)に基づき,不当利得の返還及び不法行為による損害賠償を請求する事案である。
なお,原告は,本件訴訟の提起時には,上記各請求と併合して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,販売又は販売の申出の差止請求をしていたが,被告が平成19年9月25日の本件第1回口頭弁論期日において上記差止請求につき請求の認諾をしたため,上記差止請求部分に関する訴訟は終了した。
1 争いのない事実(1)原告と被告は,いずれもゴム風船及びその付属機器等の製造,販売を目的とする株式会社である。
(2)ア原告は,発明の名称を「風船用クリップ止め装置」とする特許権(平成6年11月18日出願,平成11年4月23日設定登録,特許番号第2916876号。以下,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である。
イ本件特許権の特許出願に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】風船の口管部分を挟み込んだV字形状の挟持体を導入するV字形溝を上部に設けると共に,該V字形溝の底部に連続して広がる受け穴を設けた台部材からなる風船用クリップ止め装置。」(3)ア被告は,平成11年5月ころから平成19年7月まで,業として,被告製品を製造,販売した。
上記期間中の被告製品の販売数は合計9391個(内訳・平成11年5月から平成11年9月まで1550個,平成11年12月から平成19年7月まで7841個)であり,平成19年7月現在において被告が保有する被告製品の在庫数は150個である。
なお,被告は,被告製品を単品で販売せず,すべてヨーヨー風船止め具等とのセット商品として被告製品を販売した。
イ 被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
2 争点本件の争点は,被告製品及びその製造に用いる金型の廃棄請求の可否(争点1),被告が返還又は賠償すべき原告の損害額等(争点2)である。
3 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(被告製品等の廃棄請求の可否)についてア 原告の主張(ア)被告は,被告製品の在庫品を保有し,被告製品の製造に用いる金型を保有(占有)している。
そして,被告製品は本件特許権の侵害行為を組成した物に,上記金型は同侵害行為に供した設備にそれぞれ該当する。
(イ)被告は,将来にわたり,被告製品の在庫品を販売したり,前記金型を使用して被告製品を製造,販売することにより,被告製品の製造,販売を継続して原告の本件特許権を侵害するおそれがあるから,被告製品及び前記金型の廃棄の必要性がある。
(ウ)したがって,原告は,被告に対し,特許法100条2項に基づき,侵害の予防に必要な措置として,被告製品及びその製造に用いる金型の廃棄を求める。
イ 被告の反論(ア)被告が将来にわたり被告製品の製造,販売を継続して本件特許権を侵害するおそれがあるとの原告の主張は争う。
(イ) 被告は,被告製品の製造に用いる金型を占有していない。
すなわち,被告は,被告製品の製造を株式会社フジプラス(以下「フジプラス」という。)に発注し,フジプラスから被告製品の納入を受けていた。被告製品の製造に使用された金型の現物は,フジプラスの下請けであるユウセイ産業と称する会社が所持していたが,その後同社が倒産した結果,金型の所在は,現在不明である。
(2) 争点2(原告の損害額等)についてア 原告の主張(ア) 被告の不当利得額a前記第2の1(3)アのとおり,被告は,平成11年5月から平成11年9月までの間に,被告製品1550個を販売した。
被告製品の販売価格は500円であり,本件発明の実施料は販売価格の5パーセントを下らない。
そうすると,被告製品1550個の販売に対する本件発明の実施料相当額は,3万8750円(計算式・1550個×500円×0.05)となる。
bしたがって,被告は,被告製品1550個の販売により本件発明の実施料相当額3万8750円を利得し,これにより原告は同額の損失を受けた。
(イ) 被告製品の販売による原告の損害額a前記第2の1(3)アのとおり,被告は,平成11年12月から平成19年7月までの間に,被告製品7841個を販売した。
被告製品の販売形態をみると,被告は,主として,ヨーヨー風船止め具100個と被告製品(風船用クリップ止め装置である台座)1台とを組み合わせたセット商品(商品名「水チカ用ラクチン止め具」)として被告製品を販売していた。
b原告が販売するセット商品である「しばらずパッチン!100入」(ヨーヨー風船止め具である「パッチンクリップ」100個,本件発明の実施品である「パッチンスタンド」1台)は,被告の商品「水チカ用ラクチン止め具」と内容が類似し,市場において排他的な関係に立つから,特許法102条1項にいう「その侵害の行為がなければ販売することができた物」に相当する。
そして,原告の商品「しばらずパッチン!100入」の販売価格から同商品の1セット当たりの売上原価を控除した額が,特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」となり,これに被告が販売した侵害品の数を乗じることにより,原告の損害額を算定することができる。
そうすると,被告が被告製品7841個を販売したことによる本件特許権の侵害により原告が受けた損害額は,特許法102条1項により,以下のとおり合計290万1223円となる。
?@原告の商品「しばらずパッチン!100入」の販売価格は450円(消費税抜き)である。
?A原告の商品「しばらずパッチン!100入」の1セット当たりの売上原価は合計77.14円である。
(内訳)パッチンスタンドの単価18.50円パッチンクリップの単価0.49円×100=49.00円包装用ポリ袋の単価 3.00円包装用外袋の単価 6.64円合計 77.14円?B原告の商品「しばらずパッチン!100入」の「単位数量当たりの利益の額」は,上記?@から?Aを控除した額となるから,この額に被告製品の販売個数7841個を乗じると,290万1223円(判決注・計算上は(450円-77.14円)×7841個=292万3595円)となる。
(ウ) 弁護士費用相当額原告は,本件訴訟の遂行のため弁護士費用の負担を余儀なくされたものであり,被告の本件特許権侵害相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損害は,前記(イ)の額の10パーセントに相当する29万0122円である。
(エ) 小括したがって,原告は,被告に対し,不当利得の返還及び不法行為による損害賠償として,前記(ア)ないし(ウ)の合計額323万0095円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年8月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告の反論(ア)原告の主張のうち,被告が被告製品1550個の販売により本件発明の実施料相当額3万8750円を利得し,原告が同額の損失を受けたこと(前記ア(ア))は認めるが,その余は争う。
(イ)原告は,ヨーヨー風船やその止め具の販売自体について独占権を有しているものではなく,ヨーヨー風船の口管部分を閉鎖するのに用いる風船用クリップ止め装置の発明についての特許権(本件特許権)を有しているにすぎない。したがって,原告が,ヨーヨー風船止め具とのセット商品を前提に損害額を算定し,その結果,ヨーヨー風船止め具の販売についてまでも被告に損害賠償を求めていることは承服できない。
(ウ)また,本件訴訟において,被告は,答弁書で,被告製品の製造,販売により原告の本件特許権を侵害したことを認め,損害論の審理に際しても十分な資料提供をするなど終始協力している。したがって,原告の訴訟活動に特別困難な点は全くないのであるから,被告が原告の弁護士費用相当額を負担すべき理由はない。
当裁判所の判断
1 争点1(被告製品等の廃棄請求の可否)について(1) 被告製品の廃棄請求ア被告が平成19年7月現在において被告製品の在庫150個を保有していたことは,前記第2の1(3)アのとおりである。
そして,被告が本件口頭弁論終結時までに上記在庫150個を廃棄したことについての主張立証はされていないから,被告は,現在もなお,上記在庫150個を保有しているものと認められる。
なお,上記在庫が本件特許権の侵害行為を組成した物に該当することは明らかである。
イ次に,証拠(甲5,甲6,甲8の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,?@原告は,平成12年3月3日付け内容証明郵便で,被告に対し,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれるので,被告製品の製造,販売を停止し,販売先から被告製品を回収することなどを求める通知をしたこと,?Aこれに対して被告は,平成12年3月27日付け回答書で,原告に対し,被告製品が本件発明の技術的範囲に含まれることを認め,陳謝するとともに,今後被告製品の販売をしない旨の回答をしたこと,?B原告の代理人弁護士は,平成19年4月21日到達の内容証明郵便で,被告に対し,被告が本件特許権に抵触する止め器(被告製品)の販売を継続していることが判明したので,その製造,販売を直ちに停止し,販売先から回収することなどを求める通知をしたこと,?Cその後,原告は,平成19年8月20日,本件訴訟を提起したことが認められる。
ウ以上の認定事実を総合すれば,被告が本件訴訟に係る請求のうち,被告製品の製造,販売等差止請求につき請求の認諾をしていること(前記第2の冒頭部分)を勘案しても,被告は,将来において被告製品の在庫品を販売することにより,原告の本件特許権を侵害するおそれがあるものと認められる。
したがって,原告は,被告に対し,特許法100条2項に基づき,本件特許権の侵害の予防に必要な措置として,被告製品の廃棄を求めることができる。
(2) 金型の廃棄請求ア原告は,被告が被告製品の製造に用いる金型を占有していると主張するが,本件全証拠によっても,これを認めるに足りない。かえって,フジプラス作成の平成19年10月11日付け陳述書(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,?@被告は,被告製品を自社で製造することはなく,フジプラスに製造の発注をしていたこと,?Aフジプラスは,下請業者に対し,被告製品の製造に用いる金型を作らせた上で,その金型により被告製品を製造させ,被告に対し,製造された被告製品を納品していたこと,?Bその後,フジプラスの上記下請業者が倒産したことに伴い,上記金型は所在不明となったことが認められ,これらの事実に照らすならば,被告は被告製品の製造のための金型を占有していないことがうかがわれる。
イ以上によれば,被告が被告製品の製造のための金型を占有していることが認められないから,原告の被告に対する金型の廃棄請求は理由がない。
2 争点2(原告の損害額等)(1) 被告の不当利得額被告が平成11年5月から平成11年9月までの間に被告製品1550個を販売したことにより本件発明の実施料相当額3万8750円を利得し,原告が同額の損失を受けたことは,当事者間に争いがない(前記第2の3の(2)イ(ア))。
(2) 被告製品の販売による原告の損害額ア前記第2の1の争いのない事実と証拠(甲3の1,2,甲7の1,2,甲13,乙1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,?@被告は,平成11年12月から平成19年7月までの間に,被告製品7841個を販売したが,被告製品(風船用クリップ止め装置である台座)を単品では販売しておらず,すべてヨーヨー風船,止め具等とのセット商品(例えば,商品名「水チカ用ラクチン止め具」及び商品名「水チカスジ物混-ITDXセット」は,ヨーヨー風船100個(同数の止め具を含む。)と被告製品1台等とを組み合わせたセット商品である。)として被告製品を販売したこと,?A原告は,本件発明の実施品を単品では販売しておらず,ヨーヨー風船の止め具である「パッチンクリップ」100個と本件発明の実施品である「パッチンスタンド」1台とを組み合わせたセット商品(商品名「しばらずパッチン!100入」)として販売していることが認められる。
上記認定事実を総合すれば,原告のセット商品である「しばらずパッチン!100入」に含まれる,本件発明の実施品である「パッチンスタンド」は,被告が被告製品の販売による本件特許権の侵害をしなければ,原告において販売することができたものと認められる。
イそして,?@原告のセット商品である「しばらずパッチン!100入」の1セット当たりの小売価格(消費税抜き)は,450円であること,?A同売上原価は,77.14円で,そのうち,本件発明の実施品である「パッチンスタンド」の単価部分は18.50円であり(甲13ないし16),その割合は約23.9パーセントであること,?B原告が本件発明の実施品を販売して利益を得るためには,売上原価のほかに,増産等に伴う送料等の追加的な費用(変動経費)も要すること,?C原告及び被告の事業規模,被告製品の販売個数等本件に現れた諸般の事情を総合すれば,原告のセット商品「しばらずパッチン!100入」のうち,「パッチンスタンド」部分の「単位数量当たりの利益の額」は,上記小売価格(450円)から上記売上原価(77.14円)を控除した金額の20パーセントに当たる74.57円(小数点第3位以下切り捨て)をもって相当と認める。
そうすると,被告が被告製品7841個を販売したことによる本件特許権の侵害により原告が受けた損害額は,特許法102条1項により,74.57円に被告製品の販売個数7841個を乗じた58万4703円となる。
(3) 弁護士費用相当額原告は,本件訴訟の遂行のため弁護士費用の負担を余儀なくされたものであり,本件訴訟に至る経緯,本件審理の経過等諸般の事情にかんがみれば,被告の本件特許権侵害による不法行為相当因果関係のある弁護士費用相当額の原告の損害額は,6万円と認めるのが相当である。
(4) 小括以上によれば,原告は,被告に対し,不当利得の返還又は不法行為による損害賠償として合計68万3453円(上記(1)ないし(3)の合計額)及びこれに対する訴状の送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成19年8月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
3 結論以上によれば,原告の本訴請求は,被告に対し,被告製品の廃棄,68万3453円及びこれに対する平成19年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
物件目録別紙図面に示し,下記に説明する風船用クリップ止め装置第1図面の説明図1風船用クリップ止め装置の正面図図2同風船用クリップ止め装置の平面図図3図1におけるX-X矢視で示す断面図図4同風船用クリップ止め装置の斜視図図5同風船用クリップ止め装置の口止め作用の説明図第2符号の説明1台部材2台座3V字形溝4受け穴B風船の口管部分C挟持体(クリップ)第3構造の説明図1〜図4に示すように,台部材1はプラスチックから台座2と一体に成形されている。
台部材1の上部に,V字形溝3が上端側にV字状に開口するように設けられ,そのV字形溝3の底部に連続して,円形に広がる受け穴4が設けられている。
第4作用の説明図5に示すように,V字形溝3の上端開口部に,(イ)のように風船の口管部分Bを挟み込んだV字形状の挟持体(クリップ)Cを差し込み,下方に向けて押し下げる。
押し下げられた挟持体(クリップ)Cは,V字形状の両側面をV字形溝3により徐々に押圧され,(ロ)に示すようにV字形溝3の下端部で風船の口管部分Bを挟圧口止めするとともに,V字形状の両側面同士を係合状態にする。
最後に,V字形溝3の下端部から受け穴4に落とされる。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 杉浦正典
裁判官 古庄研