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関連ワード 技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  援用権(援用) /  均等 /  均等論 /  同一の作用効果 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 2347号 損害賠償等請求控訴事件

控訴人(1審原告) ユミックス株式会社
同訴訟代理人弁護士 深井潔
同補佐人弁理士 辻本一義
同 窪田雅也
被控訴人(1審被告) 株式会社ユアビジネス
同訴訟代理人弁護士 石川幸吉
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2004/12/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、4275万円及びこれに対する平成15年5月11日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言 (以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。)
事案の概要
1 本件は、プレス用金型に関する特許発明の特許権者(共有者)である原告が、被告の製造販売するプレス用金型(成形装置)は当該特許発明技術的範囲に属するとして、被告に対し、不当利得及び損害賠償を請求している事案である。
原審は、原告の請求を棄却し、これに対し、原告が本件控訴を提起した。
2 争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決1頁末行から22頁24行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
以下、原判決中に「別紙特許公報」、「別紙イ号物件目録」及び「別紙イ号製品目録」とあるのを、それぞれ「原判決別紙特許公報」、「原判決別紙イ号物件目録」及び「原判決別紙イ号製品目録」と読み替える。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、原告の請求は理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり訂正等し、原告の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決22頁末行から34頁9行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
【原判決の訂正等】 (1) 25頁1行目の「下型中央部」を「下型の略中央部」と改める。
(2) 26頁末行の「取り出せる」を「取出せる」と改める。
(3) 31頁末行の「属する」の次に「技術の」を加える。
【原告の当審における補充主張に対する判断】 (1) 構成要件A、B充足性について 原告は、「広辞苑第4版(甲12)によれば、『内方』とは『内部の方』、『連なる』とは『つながる』、『溝』とは『くぼみ』、『挿入』とは『差し込む』をそれぞれ意味するから、本件発明の構成要件Aの『内方に当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝を有する下型』とは『内部の方に保持部とつながる円弧面のくぼみを有する下型』というのが、同構成要件Bの『下型に設けたカム溝に回動自在に挿入された、一端に寄曲げ部を有する回転カム』とは『くぼみに回動自在に差し込まれた、一端に寄曲げ部を有する回転カム』というのがそれぞれ通常の意味である。また、本件明細書の発明の詳細な説明の冒頭には、『、下型と共同して素材を保持するためのプレス用金型』(本件公報1欄16行ないし17行)、発明の目的欄には、『、下型と共同してピラーを保持するための』(本件公報3欄42行ないし43行)(、
発明の効果欄には、『カム溝に寄曲げ部を有する回転カムを回動自在に 』(本件公報6欄22行ないし23行)(編注;下線部分は判決書では当該文字部分に傍点が付されている。)とそれぞれ記載されていることからすると、本件発明の最大のポイントは、下型の内部に寄曲げ部を有する回転カムを回動自在に挿入することにあり、本件発明においては、下型内方へつながるくぼんだ面すべてが円弧面でなければならないとか、くぼんだ面の全面が回転カムの表面に接触して回動しなければならないなどというものではない。イ号物件は、下型1の上部に素材を載置する受け部1bを、内部に軸受け15の挿入孔17(円弧状のくぼみ)をそれぞれ有し、両者は物理的なつながりを持っているから、『内部の方に受け部1bとつながる円弧面のくぼみを有する下型』を備え、回転型4は、その両端の円柱状部材である回転シャフト14が軸受け15の挿入孔17の円弧状のくぼみに差し込まれており、下型内部に回動自在に配置されているから、『くぼみに回動自在に差し込まれた、一端に寄せ曲げ成形部11を有する回転型4』を備えている。したがって、
イ号物件は、本件発明の構成要件A、Bを充足する。」旨主張する。
しかしながら、本件明細書の特許請求の範囲には、カム溝と回転カムの形状について、「上部に素材を保持するための保持部を有し、且つ内方に当該保持部と連なる円弧面からなるカム溝を有する下型と、下型に設けたカム溝に回動自在に挿入された、一端に寄曲げ部を有する回転カム」と明記されているところ、広辞苑第4版(甲12)によれば、「内方」とは「内部の方。うちがわ。」とされていることからすると、本件発明の構成要件Aにいう「内方」とは「下型の上部に設けられた保持部の内方(うちがわ)」を意味し、「カム溝」とは「当該保持部と連なる(つながる)円弧面から」構成されるものであることは明らかである(実施例を示す本件公報第5図、第6図参照)。そうすると、本件発明の「保持部」は、下型の上部、すなわち円弧面で構成されるカム溝の開口端部の外方(そとがわ)に設けられたものでなければならない。また、広辞苑第4版(甲12)によれば、「溝」とは「一般に、細長くくぼんだところ。」とされ、単なる「くぼみ」とはされていないことからすると、「細長い」とはいえないイ号物件の軸受け15の支軸挿入孔17は、そもそも「溝」に該当しない(前記のとおり、原判決別紙イ号物件目録添付の図面と原判決別紙イ号製品目録添付の図面は同じである。そのうち「17」の部材について、原告は「回転型4が挿入される挿入孔」と主張し、被告は「軸受け15に穿孔された支軸挿入孔」と主張しているが、原告の表現は適切でない。その余の部材の名称は、原告の主張に従う。以下同じ。)。したがって、イ号物件は本件発明の構成要件A、Bを充足しているとはいえないから、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 均等論の適用について 原告は、「本件発明の『保持部に切欠部を設けることを不要とし、プレス成形時にピラーを安定した状態で保持できるとともに、成形後の素材の下型からの取出しが容易にできる』という作用効果は、寄曲げ部の移動・後退の動きを、プレス成形のための寄曲げ刃の動き、すなわち寄曲げ刃を先端に有する吊りカムの下降に伴わせる構成によって基礎付けられるものではなく、保持部と共同して素材を保持する寄曲げ部を有する回転カムを下型内に回動自在にした構成によって基礎付けられるものである。したがって、本件発明の特徴的構成(本質的部分)は、@下型内方にカム溝を設けてこれに回転カムを回動自在に挿入し、回転カムが回動することができる構成とし、A素材のプレス加工時においては、回転カムが保持部の方向へ移動し、Bこれに伴い、回転カムの先端に設けられた寄曲げ部が保持部に向かって移動し、上方から素材を圧接するパッドと共に、下型上部の保持部に載置された素材を挟持して、下型の保持部、回転カムの寄曲げ部及びパッドの3者によって素材を安定した状態で保持した上で成形加工し、C成形後においては、回転カムを逆方向に回動させることにより、寄曲げ部を保持部から離反させるように構成したところにある。本件発明とイ号物件との相違点は、(ア)下型内方へつながるくぼんだ面のすべてが円弧面であるのか(本件発明)、一部のみが円弧面であるのか(イ号物件)の点、(イ)くぼんだ面を覆う蓋部材があるのか(イ号物件)否か(本件発明)の点、(ウ)くぼんだ面の全面が回転カムの表面に接触して回動するのか(本件発明)、一部の面、すなわち挿入孔17のくぼみ及び受け部1bの下面のみが回転型4の表面に接触して回動するのか(イ号物件)の点であるが、上記(ア)、(イ)及び(ウ)は、いずれも本質的な相違点ではなく、イ号物件においても本件発明と同一の作用効果(下型の逃がし〈受け部1bに切欠部を設けること〉を不要とし、プレス成形時に素材を安定した状態で保持できるとともに、成形後の素材の下型からの取り出しが容易にできるという作用効果)を奏するもので、単なる設計事項の範囲であるから、本件発明とイ号物件とは技術的に均等である。」旨主張する。
しかしながら、前記(原判決32頁24行目から33頁17行目まで〈23頁5行目から28頁8行目まで〉に記載)のとおり、本件発明は、保持部、カム溝を含む下型、寄曲げ部を含む回転カム、パッド、寄曲げ刃を含む吊りカムの各構成を有機的に結合したことにより、保持部に切欠部を設けることを不要とし、プレス成形時にピラーを安定した状態で保持できるとともに、成形後の素材の下型からの取出しが容易にできるという本件発明特有の作用効果を奏するものであるから、
カム溝の構成(開口部が保持部と連なっており、かつ、その内部に挿入されて内部内を回動するカム部材〈回転カム〉の動きに応じて、カム部材先端の寄曲げ部が開口端部に露出したり後退したりできるような溝構造)は、本件発明の本質的部分であるというべきであり、そのような構造を有しないイ号物件は、本件発明とその本質的部分において異なっているというべきである。
もっとも、この点について、原告は、プレス加工時において素材を保持するのは回転カムであり、加工後において素材の取出しが容易になるのは、回転カムが後退するからであり、カム溝の構成は回転カムの運動を補助するにすぎないから、本件発明の本質的部分は、カム溝の構成にあるのではなく、回転運動をする部材を構成したことにある旨主張するが、上記のとおり、本件発明においては、カム溝と回転運動をする回転カムとが有機的に結合され、これらが協働して「発明の目的」である上記作用効果を奏するのであって、原告が主張するように、その一方である回転運動をする部材に係る構成のみが本件発明の本質的部分であるとはいえないから、その点において、原告の上記主張は既に採用することができない。また、
その点をおいて、仮に原告が主張するように、回転運動をする部材に係る構成のみが本件発明の本質的部分であるとしても、上記部材に係る構成も、本件発明(回転カム:少なくとも、それ自体が円弧面からなるカム溝に回動自在に挿入され、カム溝を前後に回動することができる構成)とイ号物件(両端の円柱状部材である回転シャフト14が軸受け15の支軸挿入孔17の円弧状のくぼみに差し込まれた回転型4)とでは全く異なっている以上、本件発明とイ号物件とが本質的部分において異なっていることに何ら変わりはないから、いずれにせよ、原告のこの点に関する主張は失当である。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
2 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審及び当審の引用する原審の認定判断を覆すに足りるものはない。
3 以上の次第で、原告の請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、原告の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成16年10月15日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 長井浩一