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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
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関連ワード 方法の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  発明特定事項 /  公知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  同一の発明 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  設定登録 /  移転登録 /  審判制度 /  審理範囲 /  審理終結通知 /  拒絶理由通知 /  訂正審判 /  訂正の許否 /  誤記の訂正 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  要旨変更 /  一部の訂正 /  特許無効審決 /  審決確定(審決が確定) /  一事不再理 /  取消決定 /  異議申立 /  国際出願 /  国際公開 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10163号 審決取消請求事件
原告三星エスディアイ株式会社
同訴訟代理人弁護士中島和雄
同 長沢幸男
訴訟代理人弁理士志賀正武
同 船山武
同 佐伯義文
同 高橋詔男
同 渡邉隆
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人末政清滋
同 森内正明
同 山本章裕
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/05/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が訂正2006−39153号事件について平成19年2月16日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨第2事案の概要1原告は,訴外日本電気株式会社(以下「訴外会社」という )から譲り受け 。
た後記特許(発明の名称「多色発光有機ELパネルおよびその製造方法 ,特」許第3206646号,以下「本件特許」という)の特許権者であるが,第三者からの特許異議の申立てに基づき特許庁が平成18年2月2日付けで特許取消決定をしたことから,原告がその取消しを求める訴訟を当庁に提起した(平成18年(行ケ)第10275号 。本件訴訟は,原告が本件特許の特許請求 )の範囲の記載を訂正する内容の訂正審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,?@審決が,各訂正事項を不可分一体なものであることを前提として一部の請求項のみについてしか判断を示さなかったことが適法か,?A訂正審判請求における手続補正において請求項を削除する補正を許さないのは適法か,?B訂正発明が先願発明と同一か(特許法29条の2 ,である。 )第3当事者の主張1請求原因( )特許庁等における手続の経緯1ア訴外会社は,平成10年1月22日,名称を「多色発光有機ELパネルおよびその製造方法」とする発明につき特許出願し,平成13年7月6日に特許第3206646号(本件特許)として設定登録を受けた(請求項の数7 。)イこれに対し,請求項3・4・5・7につき平成14年3月5日に訴外Aから,請求項1ないし7につき平成14年3月8日に訴外イーストマンコダック カンパニーから,それぞれ特許異議の申立てがなされ,同事件は異議2002-70587号事件として特許庁に係属した。原告は,訴外会社から本件特許を譲り受け平成16年3月29日にその旨の移転登録を経たが,特許庁は,平成18年2月2日 「特許第3206646号の ,請求項1ないし7に係る特許を取り消す 」との決定(以下「本件取消決 。
定」という )をしたので,原告は,平成18年6月16日,同決定の取 。
(())。 消しを求める訴訟を当庁に提起した 平成18年 行ケ 第10275号ウ上記取消訴訟係属中の平成18年9月13日,原告は,本件特許につき訂正審判請求(以下「本件訂正審判請求」という )を行い,同請求は訂 。
正2006-39153号として特許庁に係属した。そして平成18年11月24日付けで訂正拒絶理由通知(甲5)を受けたことから,原告は平( ) 成19年1月15日付けで審判請求書の補正 請求項3・5・7の削除等を内容とする手続補正(以下「本件補正」という。甲7)をしたものの,特許庁は,平成19年2月16日,本件手続補正は審判請求書の要旨を変更するものであるから認めることができないとした上,上記請求項3・5・7には独立特許要件を認めることはできないとして 「本件審判の請求 ,は,成り立たない 」との審決をし,その謄本は平成19年2月28日原 。
告に送達された(出訴期間として90日が附加 。)( )訂正前発明の内容2( ) , 本件訂正前の特許請求の範囲 平成13年7月6日特許登録時のもの は請求項1〜7から成るが(以下この請求項を「旧請求項」といい,そこに記載された発明を「訂正前発明1」ないし「訂正前発明7」等という,その。)内容は次のとおりである。
【請求項1】少なくとも一方が透明または半透明の対向する,かつ,互いに直交するストライプ状の電極間に,各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層,および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて,前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており,前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴する有機ELパネル。
【請求項2】前記電子輸送層が一様な膜として形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。
【請求項3】少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極間に,各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層,および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて,前記有機発光層が,隣接画素間のスペース部内のみで重なりあっていることを特徴とする多色発光有機ELパネル。
【請求項4】正孔注入・輸送層をさらに有している請求項1〜3のいずれかに記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項5】前記正孔注入・輸送層が,正孔注入層と正孔輸送層の2層からなることを特徴とする請求項4記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項6】透明基板上に,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と,形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法
【請求項7】透明基板上に,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,前記有機発光層を,隣接画素間のスペース部内のみで重なり合うように形成することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法
( )本件訂正審判請求の内容3ア本件補正前(ア)平成18年9月13日になされた本件訂正審判請求(平成19年1月15日付けの本件補正前)の内容は次のとおりである。
【訂正事項a】旧請求項1の「前記有機発光層同士は」を 「前記有機 ,発光層のパターンは,前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され,前記有機発光層同士は」と訂正する。
【訂正事項b】旧請求項3の「電極間に,各色に対応して」を 「電極,間に,正孔注入・輸送層を有し,各色に対応して」と訂正する。
【訂正事項c】旧請求項4の「請求項1〜3のいずれかに」を 「請求,項1又は2」と訂正する。
【訂正事項d】旧請求項5の「請求項4記載」を 「請求項3又は4記 ,載」と訂正する。
【訂正事項e】旧請求項6の「製造方法において,前記有機発光層同士を」を 「製造方法において,透明または半透明のストライプ状の陽 ,極を形成する工程と,前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに,前記有機発光層同士を」と訂正する。
【訂正事項f】旧請求項7の「透明基板上に,各色に」を 「透明基板 ,上に,少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極を形成する工程と,正孔注入・輸送層を形成し,各色に」と訂正する。
【訂正事項g】明細書の段落【0006】の「前記有機発光層同士は」を 「前記有機発光層のパターンは,前記透明または半透明電極のう ,ちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され,前記有機発光層同士は」と訂正する。
【訂正事項h】明細書の段落【0006】の「電極間に,各色に対応して」を 「電極間に,正孔注入・輸送層を有し,各色に対応して」と ,訂正する。
【訂正事項i】明細書の段落【0007】の「製造方法において,前記有機発光層同士を」を 「製造方法において,透明または半透明のス ,トライプ状の陽極を形成する工程と,前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに,前記有機発光層同士を」と訂正する。
【訂正事項j】明細書の段落【0007】の「透明基板上に,各色に」を 「透明基板上に,少なくとも一方が透明または半透明の対向する ,電極を形成する工程と,正孔注入層・輸送層を形成し,各色に」と訂正する。
(イ)そうすると,上記(ア)によりなされた訂正に係る発明の内容は,次のとおりである(以下,この請求項を「新請求項」といい,そこに記載された発明を「訂正発明1」ないし「訂正発明7」という。下線は訂正部分。甲4 。)【請求項1】少なくとも一方が透明または半透明の対向する,かつ,互いに直交するストライプ状の電極間に,各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層,および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて,前記有機発光層のパターンは,前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され,前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており,前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】前記電子輸送層が一様な膜として形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。
【請求項3】少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極間に,正孔注入・輸送層を有し,各色に対応して異なる波長を発光する有機, , 発光層 および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて前記有機発光層が,隣接画素間のスペース部内のみで重なりあっていることを特徴とする多色発光有機ELパネル。
【請求項4】正孔注入・輸送層をさらに有している請求項1又は2記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項5】前記正孔注入・輸送層が,正孔注入層と正孔輸送層の2層からなることを特徴とする請求項3又は4記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項6】透明基板上に,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と,前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに,前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と,形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法
【請求項7】透明基板上に,少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極を形成する工程と,正孔注入・輸送層を形成し,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,前記有機発光層を,隣接画素間のスペース部内のみで重なり合うように形成することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法
イ本件補正後(ア)平成19年1月15日付けでなされた訂正審判請求書の補正(本件補正)の内容のうち,上記訂正審判請求の訂正事項に係る部分は,次のとおりである(甲7。下線は補正部分 。)【】「 。」 補正事項ア 訂正事項bの 特許請求の範囲の請求項3…と訂正するを 「特許請求の範囲の請求項3を削除する 」と補正する。 , 。
【】「 。」 補正事項イ 訂正事項dの 特許請求の範囲の請求項5…と訂正するを 「特許請求の範囲の請求項5を削除する 」と補正する。 , 。
【】「 。」 補正事項ウ 訂正事項fの 特許請求の範囲の請求項7…と訂正するを 「特許請求の範囲の請求項7を削除する 」と補正する。 , 。
【補正事項エ】訂正事項gの「明細書の段落【0006】の『前記有機発光層同士は』を 『前記有機発光層のパターンは,前記透明または ,半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され,前記有機発光層同士は』と訂正する」を 「明細書の段落【0006】 ,を『 課題を解決するための手段】本発明は,少なくとも一方が透明 【または半透明の対向する,かつ,互いに直交するストライプ状の電極間に,各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層,および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて,前記有機発光層のパターンは,前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され,前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており,前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネルに関する 』と訂正する 」と補正する。 。。
【補正事項オ】明細書段落【0006】の訂正事項hを削除する。
【補正事項カ】訂正事項iの「明細書の段落【0007】の『製造方法において,前記有機発光層同士を』を 『製造方法において,透明ま ,たは半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と,前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに,前記有機発光層同士を』と訂正する 」を 「明細書の段落【0007】 。,を『さらに本発明は,透明基板上に,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と,前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに,前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と,形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法に関する 』と。
訂正する 」と補正する。。
【補正事項キ】明細書段落【0007】の訂正事項jを削除する。
(イ)そうすると,上記補正後の発明は,次のとおりである(以下,この「」「」。) 請求項を 補正請求項1 ないし 補正請求項4 ということがある【請求項1】少なくとも一方が透明または半透明の対向する,かつ,互いに直交するストライプ状の電極間に,各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層,および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて,前記有機発光層のパターンは,前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され,前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており,前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】前記電子輸送層が一様な膜として形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。
【請求項4】正孔注入・輸送層をさらに有している請求項1又は2記載の多色発光有機ELパネル。
【請求項6】透明基板上に,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と,前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに,前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と,形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法
( )審決の内容4審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,旧請求項3・5・7の削除は 審判請求書の要旨変更に当たるから 許されない 特 , ,(許法131条の2第1項 ,訂正発明3・5・7は,下記先願の明細書に記 )載された発明と同一であるから,特許法29条の2に違反し特許出願の際に独立して特許を受けることができない(以下「独立特許要件」という )か。
ら,本件訂正審判請求は特許法126条5項の規定に適合しない。
記先願:国際出願番号PCT/JP97/03721(発明の名称「有機電界発光装置の製造方法 ,国際出願日 1997年〔平成9 」年〕10月15日,出願人 東レ株式会社,国際公開日 1999年〔平成11年〕4月22日,甲8 )。
( )審決の取消事由5しかしながら,審決には以下に述べる誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった違法)(ア)特許明細書の複数個所の訂正を求める訂正審判において,一部訂正を認めるべきか否かに関しては,かつて,一貫してこれを認めないとする特許庁審判実務と,これを容認するいくつかの東京高裁判決との間に混乱を生じたが,最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(民集34巻3号431頁,以下「昭和55年最高裁判決」という )において, 。
誤記の訂正のごとき形式的なものである場合は別として,前者の実務が原則的に支持されたことにより,現在この問題はすでに決着済であるかのように解する向きも少なくない。
旧請求項1ないし7のそれぞれにつき訂正を求めた本件訂正審判請求において,訂正後の請求項3・5・7(訂正発明3・5・7)の訂正が認められないことを理由に,その余の請求項の訂正の許否を審理せず,全体として本件訂正審判請求は成り立たないとした本件審決は,上記審判実務に沿うものである。
(イ)しかし,昭和55年最高裁判決にかかる事案は,単一項のみからなる実用新案登録請求の範囲の記載につき複数箇所の訂正を求めるものであったから,昭和62年改正前特許法による,いわゆる併合出願の各発明につきそれぞれなされた訂正の場合において,昭和55年最高裁判決, 。 の射程が及ぶかについては 当初から否定的に解する説が有力であった, , , 加えて 昭和55年最高裁判決の後に 以下の重要な法改正がされて現在の特許法に至っている。
?@昭和62年改正法では,いわゆる改善多項制の採用による請求項の, 。 概念導入とともに 無効審判は請求項ごとに請求できるものとされた?A平成5年改正法により,訂正無効審判が廃止されて,訂正の不適法は,特許無効審判において当該請求項の無効理由として判断されることとなった。
?B平成15年改正法により,特許無効審決(特許取消決定の場合も同様)がされた特許に対する訂正審判請求は,審決取消訴訟の提起後90日以内に制限された。
単項からなる実用新案登録請求の範囲の複数箇所訂正に関する,昭和55年最高裁判決の法理は,このような3度にわたる重要な法改正により,その射程が限定されたと解するのが正当である。
(ウ)そして,東京高裁平成14年10月31日判決(判例時報1821号117頁。以下「平成14年東京高裁判決」という)は,昭和55年最高裁判決以後に前記?@,?Aの法改正がされたことを根拠として,次のように,その射程が限定されるべきことを判示した。
「本件特許は,いわゆる改善多項制下での出願にかかるものであり,本件訂正は,本件無効審判手続における訂正請求であって,訂正が不適法であった場合に当該訂正を特許の無効理由とし,この場合も含め,審判で請求項ごとに無効の判断がなされるようになった制度下における訂正請求である。そして,本件訂正審判請求の内容は,訂正請求前の特許請求の範囲の請求項1,同5,同6,及び同9につき訂正をするものであり(括弧内略),明細書の「発明の詳細な説明」欄については,上記訂正に伴って必然的に生じる各請求項の記載の引用部分のみを訂正するものである。このように,本件訂正請求は,それぞれ請求項ごとに別個独立のものとして理解し得るものであり,本件において請求項ごとに訂正の許否を判断するのに特段の支障は認められない。以上のような事情に照らせば,本件訂正請求の許否の判断は,請求項ごとにすべきものと解するのが相当である。なお,最高裁第一小法廷判決昭和55年5月1日民集34巻3号431頁の判示するところは,前提となる制度が本件とは異なっており,上記の本件のような制度下においては,特定の請求項に関してされた複数箇所の訂正請求につき一体として許否の判断をすべきとの点では当てはまるとしても,別個の請求項に関する別個独立の訂正請求の許否についてまでも及ぶものではないと解される 」。
「なお,本件については,審決取消後に再開される審判においても,ある特定の請求項に関する訂正請求を認めるべきでないと判断する場合でも,各請求項に関する訂正請求の許否を請求項ごとに判断すべきものである 」。
(エ)昭和55年最高裁判決の判示は,以下の通りである。
「実用新案登録を受けることができる考案は,一個のまとまった技術思想であって,実用新案法39条の規定に基づき実用新案権者が請求人となってする訂正審判の請求は,実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「原明細書等」という )の記載を訂正審判請求書添 。
付の訂正した明細書又は図面(以下「訂正明細書等」という )の記載 。
のとおりに訂正することについての審判を求めるものにほかならないから,右訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるときは事の性質上別として,本件のように実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるときには,訂正明細書等の記載がたまたま原明細書等の記載を複数箇所にわたって訂正するものであるとしても,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべく,これを形式的にみて請求人において右複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものであると。, , 解するのは相当でない それ故 このような訂正審判の請求に対しては請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別,これがなされていない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決をすることができるだけであり,たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係にはないと認められ,かつ,右の一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のないことではないときであっても,その箇所についてのみ訂正を許す審決をすることはできないと解するのが相当である 」。
前述のように,上記事案は,単項からなる実用新案登録請求の範囲の記載の複数箇所の訂正を求めるものであったから,上記引用中の「一個のまとまった技術思想であって…本件のように実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるとき」とは,本来的に一個のまとまった技術思想である単項記載の実用新案登録請求の範囲に,複数の訂正事項がともに実質的な影響を与える場合を前提とした判示である。また,複数箇所にわたる訂正事項につき「これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべく」との判示部分も,上記前提の下における判示と解される。
他方,改善多項制の下における訂正の場合においては,出願に係る発明が複数の請求項に記載され,これらが全体として一個のまとまった技, , 術思想の記載とはいえないから 特定の請求項に係る発明の訂正事項が当然に他の請求項に係る発明に実質的な影響を与えるものではない。
してみれば,改善多項制の下においては,複数箇所にわたる訂正事項でも,それらが互いに異なる請求項の訂正であれば,それら複数の訂正事項をもって「一体不可分の一個の訂正事項」ということはできない。
平成14年東京高裁判決は,改善多項制下でも 「特定の請求項に関 ,してされた複数箇所の訂正請求」に関する限り「一体として許否の判断をすべき」との限度で昭和55年最高裁判決の射程が及ぶことを認めつつ 「別個の請求項に関する別個独立の訂正請求の許否」については, ,その射程が及ばないことを明確に示したもので,改善多項制下における昭和55年最高裁判例の射程について,正当な解釈を判示しているというべきである。
(オ)以下に述べるとおり,平成14年東京高裁判決は正当である。
a上記のように,平成14年東京高裁判決は,改善多項制下における特許明細書の複数箇所の訂正に関して,昭和55年最高裁判決の射程, 。 を正当に判断した判決例として 実務の指針とされるべき判例であるbおよそ複数箇所の訂正を求める特許権者としては,すべての訂正が一括して許されなくても,一部の訂正が許されれば,訂正の目的を一部達成し得る場合が大多数である。もっとも,昭和55年最高裁判決の事案のような,単項のみからなる発明・考案の場合において,当該複数訂正箇所が技術的に一体不可分の関係にあるときにまで,一部のみの訂正を認めることは妥当ではなかろう。
しかしながら,昭和55年最高裁判決は,他方で,単項からなる考案の場合においてさえ 「客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が ,他の部分と技術的に不可分の関係にはないと認められ,かつ,右の一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のないことではない」場合をも想定しつつ,全体としては 「これを一体不可分の一個の訂正事 ,項として訂正審判の請求をしているものと解すべく ・・・独立した ,複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものであると解するのは相当でない 」と判示し,訂正を請求する特許権者の一般的な意 。
思を考慮して,訂正審判における審理範囲を画すべきとの考え方を示している。
このような,訂正を請求する特許権者の意思という観点からも,平成14年東京高裁判決の判示するように,改善多項制の下における各請求項ごとの訂正請求であれば 「本件訂正請求は,それぞれ請求項 ,ごとに別個独立のものとして理解し得るものであり,本件において請求項ごとに訂正の許否を判断するのに特段の支障は認められない」以, , 上 訂正を請求する特許権者の一般的な意思及び利益保護の観点から「本件訂正請求の許否の判断は,請求項ごとにすべきものと解するのが相当」とする判断が正当である。
cところで,平成14年東京高裁判決が,上記判断に先立ち 「本件,訂正は,本件無効審判手続における訂正請求であって,訂正が不適法であった場合に当該訂正を特許の無効理由とし,この場合も含め,審判で請求項ごとに無効の判断がなされるようになった制度下における訂正請求である 」と判示するように,昭和55年最高裁判決の後に 。
された上記制度改正により,訂正許否の判断を請求項ごとにすべきことは,一層明らかになったものというべきである。
昭和62年改正特許法123条1項柱書は,無効審判請求につき,「二以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる 」と規定し,平成5年同改正法は,旧129条の訂正無効 。
審判の規定を廃止するとともに123条1項に8号を新設し,訂正が不適法になされた場合を独立の特許無効理由に位置づけた。
これにより,訂正不適法を理由とする無効審判も請求項ごとに請求され,かつ,請求項ごとに無効の判断がなされるべきことになった。
, , このように 訂正の適否が無効理由として事後的に判断される際には請求項ごとの判断がされるのであるから,訂正審判において訂正の適否を事前に判断する際にも,請求項ごとの判断がされると解することが,法解釈の論理一貫性を保つために必要である。このような意味でも,平成14年東京高裁判決の判旨が,正当ということができる。
(カ)a昭和55年最高裁判決の調査官解説は,複数箇所の訂正の場合に一部訂正を認める審決ができないとする特許庁の実務について 「訂,正審判についてはいわゆる一事不再理の原則が適用されず,したがって,一部訂正許可,一部訂正不許となるような内容の訂正審判請求につき全部訂正不許の審決がされたとしても,請求人は,後日訂正許可となる部分に限定して再び訂正審判の請求をすることが原則として可能であり,請求人に不当に不利益を強いることにもならないこと,などが挙げられていた 」と解説する。 。
また,中山信弘「実用新案明細書の訂正審判において一部の訂正を許す審決をすることの可否」(判例評論264号15頁-判時985号153頁)は,昭和55年最高裁判決に結論賛成の主たる理由として,訂正審判には一事不再理の適用はないことを前提に 「たとえ一 ,部訂正が認められないとしても,訂正審判の再請求によって最終的には訂正が認められ,その効果は出願時に遡るため,第三者との関係においても一部訂正を認めた場合と異なる点はない 」としている。 。
昭和55年最高裁判決が 「客観的には複数の訂正箇所のうちの一 ,部が他の部分と技術的に不可分の関係にはないと認められ,かつ,右の一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のないことではない」場合,すなわち,本来ならば請求人の利益のために一部訂正を許してしかるべき場合を敢えて想定しつつも,結論的には「複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決をすることができるだけ」と判示するのは,訂正を請求する特許権者には訂正審判を再度請求する途が拓かれていることを,重要な前提として考慮しているからである。
, ,。 bところで 平成15年改正特許法126条には 2項が追加された同項は 「訂正審判は,特許無効審判が特許庁に係属した時からその ,審決が確定するまでの間は,請求することができない。ただし,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内(…)は,この限りではない 」と規定する。 。
上記新規定の下においては,特許無効審決の送達を受けた特許権者が,特許を維持するために,審決取消訴訟の提起とともに訂正審判を請求した場合,請求不成立の審決が審決取消訴訟の提起日から90日以内の早期に送達されることは実務上あり得ないから,そのような請求不成立審決の送達を受けた特許権者が訂正審判を再請求し得る機会はなく,事実上,訂正審判一事不再理効が付与されたにも等しい結果が招来されている。
訂正事項の一部のみが不適法であることを理由に,請求の全部が不許とされるなら,特許権者の不利益は,一層大きくなる。適法な訂正事項があっても,訂正事項の全部について,事実上の一事不再理効が生じてしまい,特許権者は,本来適法な訂正事項についてさえ,永遠に訂正を請求する機会を喪失してしまうからである。
c前記のように,訂正審判一事不再理効が生じないことが,特許庁の審判実務の理由付けにされていたなら,平成15年法改正により訂正審判に事実上の一事不再理効が付与された現行法の下においては,上記審判実務の根拠が,更に失われていることになる。
他方,前記平成14年東京高裁判決は,時期的に,上記平成15年改正前の特許法の下における判決であるが,同改正により訂正審判の再請求が事実上閉ざされたという特許権者側の事情を考慮すると,一部訂正許可の審決をすべきとする平成14年東京高裁判決の判旨は,平成15年特許法改正以後の現行法の下において,一層強く妥当するに至ったというべきである。
(キ)訂正発明1,4及び6の各独立特許要件を審理判断しないまま本件訂正審判請求全体が成り立たないとした審決の違法以上の諸理由により,本件では,平成14年東京高裁判決の判旨に従って,請求項ごとに訂正の許否が判断されるべきである。
特許請求の範囲が7請求項からなる平成10年出願の本件特許は,昭和62年改正法の改善多項制に基づく多項出願として成立したものである。
そして,原告が本件訂正審判において,補正前の審判請求書により訂(,) 正を求めた請求項1・2・4・6の各訂正事項 訂正事項a c及びeは,いずれも請求項3・5・7の各訂正事項(前記訂正事項b,d及びf)とはそれぞれ別個独立の訂正事項であるから,請求項ごとに訂正の許否を判断されるべきものである。
しかるに,審決は,本件訂正発明の独立特許要件については,請求項3・5・7の各訂正に対応する訂正発明3・5・7についてのみ審理して,それら各訂正発明は他人の先願明細書と同一であると認め,特許法29条の2により独立特許要件を否定した。他方,審決は,請求項1・2・4・6の各訂正に対応する訂正発明1・2・4・6については,なんら独立特許要件の判断をしないままに,それら訂正事項を含む全体と「, , しての 本件訂正は 特許法第126条第5項の規定に適合しないので訂正を認めることができない 」とした。。
すでに述べたところから明らかなように,本件訂正審判は,昭和55年最高裁判例の射程外の事案であって,前記平成14年東京高裁判決が正当に判示するように,請求項1・2・4・6に関する訂正の許否についても,請求項ごとに判断すべき事案であった。それにもかかわらず,訂正発明1・2・4・6について独立特許要件の判断を怠り,本件訂正審判請求全体が成り立たないとした審決は,訂正審判独立特許要件に係る特許法126条5項の解釈を誤り,ひいてはこれら独立特許要件の, 。 判断を遺脱しているから 法令に違反するものとして取消しを免れない(ク)原告は,単項制の下で判断された昭和55年最高裁判決が,改善多項制を採用する現行法の下でどのような射程を有するかを論じたが,次のように考えることもできる。
すなわち,単項制の下で「複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず」という昭和55年最高裁判決は,改善多項制を採用する現行法の下では,当然ながら「複数の訂正箇所を請求項ごと一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず」と読み替えるべきことになるから,同判例の下においても本件訂正の可否は請求項ごとに判断すべきものである。
また原告は,平成18年9月13日付け訂正審判請求書における訂正事項を,平成19年1月15日付手続補正書において補正し,訂正箇所のうち一部である,請求項1・2・4・6についてのみ訂正を求める趣旨を特定して明示している。
昭和55年最高裁判決は,補正により一部訂正を求める旨の明示を,複数の訂正箇所のうちの一部について訂正を認めるための要件としており,原告による本件訂正審判請求はこの要件を充足している。
この点からしても,訂正箇所のうち一部について,訂正が認められるべきである。
イ取消事由2(請求項を削除する補正を許さない違法)(ア)審決は,平成19年1月15日付け手続補正書による審判請求書の補正につき 「上記補正は,補正前請求項3,5及び7の削除による少 ,なくとも3個の新たな訂正事項が追加され (4頁25行〜26行)と 」か,上記請求項を削除する補正(前記補正事項アないしウ)及び明細書記載のこれに対応する補正(前記補正事項エ及びカ)はいずれも「訂正事項の趣旨を変えて新しい趣旨について審判を請求するものに該当する (4頁18行〜19行)などとして,本件「手続補正は,本件審判 」請求書の要旨を変更するものであるから,特許法第131条の2第1項の規定により,認めることができない (4頁33行〜35行 )とする 」」が,特許法の解釈を誤った違法な判断である。
(イ)a一般に,申立てや請求は,法令上これを許さない根拠がある場合を除き,申立人や請求人が,いつでもその全部又は一部を取下げ又は削除できるのが手続原則である。したがって,特許法上,訂正事項の削除が認められるのは当然であり,かつ,訂正請求の対象である請求項自体の削除が許されないとする法令上の根拠はない。
b平成15年改正前特許法131条2項(現行131条の2第1項に相当)は,訂正審判請求書の補正によって審判の審理が徒に遅延することを防止する趣旨の規定である。他方,補正により請求項を削除することは,特定請求項にかかる訂正事項の審理自体を不要ならしめ,審判の審理を促進するものであって,何ら特許法131条2項の趣旨に反するところはない。
cそもそも,訂正拒絶理由通知を受けるなど,一部請求項の訂正が認められない可能性が高まった場合,審判請求人である特許権者が,請求項の維持を断念してその削除を求めたにもかかわらず,当の審判請求人が求めている請求項の削除を許さず,もはや特許権者が審理を求めてもいない請求項にかかる訂正事項の許否について審理を続行する必要性も合理性もない。
(ウ)a平成10年3月改訂の「審判便覧(改訂第7版 」の「54-1 )0訂正の可否決定上の判断及び事例」9〜10頁(甲9)は 「請,求の趣旨の変更(特§131?A 」との標題の下 「(2)訂正審判請求 ),書に添付した明細書又は図面(全文訂正明細書等)を基準明細書等とし,特許請求の範囲減縮(請求項の削除も含む ,誤記の訂正及び )明りょうでない記載の釈明等に該当するものは,特§131?Aの請求書の要旨を変更するものにはあたらないものとする(括弧内略」と)。
して,請求項を削除する補正が審判請求書の要旨を変更しないことを明記していた。
bところが,平成16年7月改訂の「審判便覧(改訂第9版 」にお)いては 「54-10訂正の可否決定上の判断及び事例 (甲10) , 」10頁 9 請求書の要旨の変更 特§131?Aの標題の下(4) 「.()」,「その他」として 「なお,請求項を削除することは訂正事項であるの ,で,請求項を削除する訂正は別個の訂正事項を追加する変更となり,請求書の要旨を変更するものである 」として,何ら合理的理由も示 。
さないまま,便覧の内容を変更している。この間,関係法令は,何も改正されていない。
, 「()」 c注目すべきことに 上記改訂第9版の審判便覧注2 参考判例では 「東京高判平8(行ケ)222号(平11.6.3 」の判示の一部 , )を引用するが,この引用は,判例の誤解に起因するものである。すなわち,この判決(以下「平成11年東京高裁判決」という)は,請求項を削除する補正について判断したものではない。この事案は,審判請求時の訂正事項(1)及び(3)に対し,手続補正書によりこれらとは全く異なる技術的事項である訂正事項(2)及び(4)を追加するものであって,平成11年東京高裁判決は,このような訂正事項の追加について,訂正請求書に係る訂正を求める範囲を変更するものと判示しているのである。平成11年東京高裁判決は,請求項を削除する補正が請求書の要旨を変更するものであることなど判示しておらず,審判便覧の改訂の際に,何らかの理由により誤って引用されたとしか考えられない。
かえって,平成11年東京高裁判決は,便覧が引用していない判示部分において 「特許法131条2項は,審判請求書の補正に関する ,規定であるから,訂正審判請求にも適用されるものであるところ,仮に訂正審判請求書の補正によって訂正を求める範囲を拡大変更することができるとするならば,補正の内容が小出しにされ,これが何度も繰り返されて訂正審判の審理がいたずらに遅延される可能性もあるのであって,訂正を求める範囲の拡大変更を制限することも,全く不合理とは言い切れない 」とするものである。 。
審判便覧が,訂正審判請求書の訂正事項とはされていなかった「請求項の削除 について 平成11年東京高裁判決を拠り所として 「訂 」, ,正を求める範囲の拡大変更」に当たると解したのであれば,判決を誤解したものと評し得る。
およそ訂正を求める請求項の削除は,当該請求項に関する訂正事項がよって立つ基盤自体を失わせることになるから,単なる訂正事項の削除よりも根源的な請求の取下げとみるべきで,上記判決のいう「訂正を求める範囲の拡大変更」などに当たらないことは当然である。また,請求項を削除する補正は,各請求項につき1回だけであって,これが何度も繰り返されることはあり得ず,したがって,訂正審判の審,。, 理をいたずらに遅延させるおそれなど およそ考えられない つまり請求項の削除は,平成11年東京高裁判決の判示する特許法131条2項の立法趣旨とは全く無縁の補正であるから,これを審判請求書の要旨を変更する補正とみることは誤りである。審決が最新の便覧に従いこれを許さないとしたのであれば,便覧の誤りを踏襲したものとして,特許法の解釈を誤ったと断ずるほかはない。
dなお,審決は,請求項を削除する審判請求書の補正ともに,請求書添付の訂正明細書が補正後訂正明細書変更されることになる点をも問題にするごとくであるが(審決4頁10行以下参照 ,平成6年改 )正法により特許法17条の4が新設され,訂正審判審理終結通知のあるまでは訂正明細書の補正が認められることが明確にされたので,審判請求書の要旨変更とならない請求項の削除に伴う訂正明細書の補正が許されることは明らかである。
eそして,本件において請求項3・5・7を削除する補正が許されるならば,一部訂正を許さないとする審決の解釈に立っても,請求項1・2・4・6の訂正許否の審理判断を行うべきことになるから,審決の上記誤りは,審決の結論に影響を及ぼす違法となる。
ウ審決の取消事由3(訂正発明3・5・7の独立特許要件についての認定・判断の誤り)審決は,訂正発明3・5・7について,下記?@〜?Cの点についての認定・判断を誤ったものであり,違法として取消しを免れない。
?@先願発明の1の認定の誤り1(すべての発光層パターンの重なり)?A先願発明の1の認定の誤り2(発光層の幅とシャドーマスクの開口部の幅)?B先願発明の1の認定の誤り3(具体的計算の妥当性)?C先願発明の1との相違点の看過(スペース部内で「のみ」重なりあっている)なお,上記?@〜?Cの誤りは,それぞれ単独で,審決の結論に影響を及ぼすものとして,独立の審決取消理由となるものである。
注・先願発明の1,2の内容は,別添審決書記載のとおり。
(ア)先願発明の1の認定の誤り1(上記?@)a先願明細書の「好ましい例」の解釈(),「」, 先願明細書 甲8 19頁9〜10行には好ましい例 として「発光層パターンおよび開口部の幅をピッチと等しい100μmを中心とした値に設定すること」が記載されている(審決13頁24行〜25行 。)しかし 「発光層パターンおよび開口部の幅をピッチと等しい10 ,0μm」に設定するとの記載から開示されているのは,発光層パターン幅=シャドーマスク開口部幅=ピッチ幅=100μmという関係のみである 「100μmを中心とした値」に設定すると 。
の記載から,上記3種類の幅は100μmでなくてもよいが,これに近い値であり,かつ,3種類の幅がいずれも同一であることが開示されているにとどまる。さらには,先願明細書に記載された真空加熱蒸着法により蒸着物を蒸着する場合には,後述するシャドー効果が存在するために,有機発光層の幅よりもシャドーマスクの開口部の幅の方が広いことは,当業者に自明である。したがって,先願明細書の「好ましい例」の記載及び他の記載をもって 「すべての隣接有機発光層 ,がスペース部内で重なりあう」という技術思想が開示されていると認められない。
上記開示があるとする審決の認定には,論理の飛躍がある。すなわ,,「 」 ち 審決は 先願発明では マスクの幅がピッチ幅より5μm大きいことを引用して「重なりあい」を認定するが,後述するように,先願明細書では,i)有機発光層の重なりの技術思想は開示されておらず,かつ,先願発明の1ではii) 先願発明の実施例1の有機発光層の重なり構造と,訂正発明の重なり構造とは異なることから,そもそも,先願明細書を訂正発明3の先行技術として引用する審決の認定自体,誤りである。
したがって,審決が「好ましい例」の認定に基づき 「隣接するい ,」 「」 ずれの発光層パターンも重なっていると考えること が 自然であるとの認定に至ったことも,また必然的に誤りである。
b技術常識から見た先願発明における発光層パターンの隙間の存在審決は,先願発明の1には 「隣接するいずれの発光層パターン間 ,にも隙間が実質的に存在しない」と認定しているが,このような認定を導く根拠として,審決は,技術常識から見て,隣接する発光層パターンの間に隙間が存在する自体,視覚的に問題がある(審決13頁28行〜32行)ことを前提としている。
しかしながら,実際には 「隣接する発光層パターンの間にも隙間 ,が存在」していても,視覚的に何らの問題も生じない。隣接する発光層間に隙間がある構造は,本件明細書(甲1)において従来技術を示す図7(段落【0004 )のように,本件特許出願前にすでに公知 】であった。訂正発明3は,そのような公知技術における電流リーク等の技術課題を解決するために発明されたものである。例えば,本件明細書の図7を用いて説明するに,有機発光層4で発光した光は,透明電極であるITO電極2を透過する。また,発光層の厚さは数十nmの範囲であり,発光層間のスペース部の幅は数十μmの範囲であることを考慮すると,スペース部10内においては,ある発光層から透過した光が隣接発光層から透過した光と混在する可能性はほぼない。したがって,このスペース部10の上に有機発光層4を隙間をあけて蒸着させても視覚上の問題は発生しない。
したがって,審決の「視覚的な問題がある」との認定は,何ら証拠に基づかないばかりか,技術常識に反するものである。先願発明の1には「隣接するいずれの発光層パターン間にも隙間が実質的に存在しない」とする審決の認定は誤りである。
先願明細書において「隣接するいずれの発光層パターン間」に「隙間」が存在しないことは,全く開示されていない。開示されているのは,僅かに,先願明細書の図2,図33に記載されている大雑把な概念図にすぎず,それによっても「隣接する発光層」が単に「接している」態様以外の何物でもない。
c先願発明の1の実施例1の構造と訂正発明の構造との相違審決が認定するシャドーマスクの開口部の幅寸法は,先願発明(甲8)の実施例1に示されている(27頁14行〜20行,図17 。)この実施例1によって製造された構造は,三色の有機発光層のうち,R層とG層は互いに隣接するが,B層は電子輸送層と兼用されているので,スペース部内のみで重なる構造ではなく,R層とG層(スペース部外のITO第1電極上)にも重なっている。
これに対して,訂正発明3の構造は「隣接するスペース部内のみで..重なり合っている」構造であるから,B層がスペース部外でも重なる先願発明1とは,明確に異なる。
このように,そもそも,訂正発明3と先願発明の構造が異なるのであるから,実施例1にシャドー開口部の幅寸法等が開示されているからといって,先願発明と訂正発明3を比較対比することは,失当である。したがって,先願明細書は特許法29条の2の引用例としての適格性がない。
d先願発明の1の実施例2の構造と訂正発明3の構造との相違実施例2においては,発光層パターン用マスクの幅及びピッチが記載されておらず,単に,発光層と係わって「前記第一電極の露出部分を完全に覆っている (先願明細書32頁10行目の段落)とのみ記 」載され,発光層形成の際に,マスクが陽極を全部覆うことができる幅を有することが示唆されているにすぎない。結局,実施例1に上記寸法が開示されているが,実施例2には上記寸法が開示されていないから,審決が実施例1と実施例2とを組み合わせるかのようにして先願発明の1の構成を認定することもまた誤りである。審決には,実施例1と実施例2の組み合わせることについて明示的に触れてはいないが,先願明細書における開示技術として実施例2の記載を摘示したのはそのような意図であったはずである。換言すれば,実施例1と実施例2を組み合わせて「重なりあい」という一つのまとまった技術思想を導くのは,進歩性における容易想到性の判断手法であって,特許法29条の2の先願範囲の拡大規定における同一性判断手法としては誤りであるといわざるを得ない。
また,実施例2によると,有機発光層のRGB各層は,すべてシャドーマスクを用いてパターニングされるとともに,図21に示されているように,基板前面にわたって有機発光層の上部に電子輸送層も蒸着される。しかし,この実施例2においても電子輸送層とB層はDPVBiという同じ物質が用いられるから,実施例2は,実施例1とパターニング方法は異なるものの,有機発光層の重なり構造としては,実施例1の構造と同じである。したがって,実施例2も,実施例1と同様,先願明細書を特許法29条の2の引用例として引用することは明らかに誤りである。
(イ)先願発明の1の認定の誤り2(上記?A)a審決の認定審決は,先願明細書の開示内容として,以下のとおり認定する。
先願発明は,その発光層のパターニングの条件として,発光層パターンと開口部の幅を同じように設定できるようなパターニング条件,すなわち入射角…が略90度でシャドー効果の影響が実質的に無視できるような条件設定を含むものといえる。
そこで,入射角が略90度とすると,上記ストライプ状開口部の幅305μmと上記ピッチ300μmとの差分が…略5μm幅分として重なり(14頁9行〜21行)審決は,この記載を根拠に,有機発光層の重なり幅を計算している。
b発光層パターンと開口部の幅を同じように設定できるようなパターニング条件発光層パターンと開口部の幅を同じように設定できるようなパターニング条件が,仮にありえるとすれば,後述のシャドー効果が存在する以上,基板表面とシャドーマスクとが完全密着状態で,かつ,シャドーマスクの厚さがゼロの場合のみである。
しかしながら,現実には,基板表面とシャドーマスクとが隙間の無い完全密着状態はありえない。シャドーマスクは,四週の周縁部分で引っ張られて基板との並行度を高精度に維持するのであるが,シャドーマスク自身の重量,熱による変形等により,シャドーマスク全域にわたって基板と完全密着することはできないし,むしろ,先願明細書(甲8)14頁8行〜20行では,基板に有機発光層よりも厚さの高いスペーサを介在させ,基板とシャドーマスクを接触させないようにして(完全密着ではなく積極的に間隙を設けるようにして)有機薄膜層(発光層)を傷つけないようにしている。また,シャドーマスクの厚さは,25μm(先願明細書27頁18行)である。
したがって,発光層パターンと開口部の幅を同じように設定できるようなパターニング条件は,技術的に存在し得ないし,先願明細書にも開示されていない。
c先願発明の1における蒸着物の入射角また,訂正発明3のような,低分子有機物の真空加熱蒸着法においては,そもそも,蒸着源の全ての蒸着物質が略90度で基板に入射することはあり得ない。蒸着物質の蒸着方向が略90度で基板に入射す, , 。 るのは 蒸着源の真上の領域のうち 極めて限られた領域でしかないそもそも蒸着源の蒸着物質は,加熱されて上方に向かって放射状に広がって基板に蒸着されるので,蒸着源の真上から横方向にずれればずれるほど,基板への入射角は小さくなって,隣接発光層の重なりはなくなる。
この点に関し,審決は,先願明細書の図18,図19を引用し,これらの図に記載された矢印12を根拠に,蒸着物の蒸着方向を「略90度」と認定している。しかし,そもそも先願明細書に添付された各図は,概念的構成が示されているだけで,図18,図19に関していえば,単に,蒸着物の蒸発が基板の下面に向かっていることが開示されているにすぎず,蒸着方向が「略90度」であることは,開示されていない。
dシャドー効果の影響が実質的に無視できるような条件設定以上の理由から,先願明細書には「シャドー効果の影響が実質的に無視できるような条件設定」は開示されていない。
換言すれば,先願発明のように,一枚の基板において,ある領域は有機発光層の重なりが生じ,かつ,ある領域は有機発光層の重なりが生じないのであれば,訂正発明3の技術課題である「電流リーク」等(段落【0004 )の問題は解決できない。したがって,訂正発明3 】は,いずれの有機発光層も,スペース部内のみで重なり合うことが必須である。
結局のところ,先願発明の1は,すべての有機発光層が重なっているという構成を開示しておらず,この構成を具備する訂正発明3とは異なる構成であることは明らかであるから,審決には,この相違点を看過した誤りがある 「シャドー効果の影響が実質的に無視できるよう 。
な条件設定」を「含む」ことを前提として先願発明1を認定したことは,明らかに失当である。
(ウ)先願発明の1の認定の誤り3(上記?B)a当業者が,先願明細書に記載されたシャドーマスクの開口幅と移動ピッチ寸法幅から,有機発光層の重なり代が5μmであることを計算, 。 する動機付けを持つためには 訂正発明3に接することが必要である訂正発明3に接したことのない当業者であれば,何人といえども,そのような計算を行うことはあり得ない。
また,後述するように,当業者の技術常識によれば,本件特許の真, , 空蒸着技術では シャドーマスクによるシャドー効果があることから有機発光層パターンの幅と,シャドーマスク開口部の幅とは,一致しない。したがって,シャドーマスクの開口部の幅寸法がわかったとしても,その寸法から直ちに,有機発光層の幅が導き出せるわけではない。
結局のところ,先願明細書において 「隣接する有機発光層を重ね ,る」という技術思想は,開示されていない。
bさらに,先願明細書の図18,図19の矢印12から,蒸着方向が「略90度」であることを読み取って,なおかつシャドーマスクの開口部の幅とピッチ幅に基づいて有機発光層の幅を具体的に計算しなければ 「隣接有機発光層の5μmの重なり」は,導き出すことはでき ,ないのであるから 「隣接有機発光層はスペース部内で重なりあって ,いる」という審決の認定も誤りである。
(エ)相違点の看過(上記?C)審決は,先願明細書の記載からみても,また,先願明細書及び図面の図示内容に基づき具体的に計算してみても,有機発光層が,隣接画素間のスペース部内で重なりあっていると認定している(14頁19行〜22行 。)審決は,このように 「隣接するいずれの発光層パターンも重なって ,いる」と認定するが 「隣接するいずれの発光層パターンもスペース部 ,内のみで重なっている」ことは認定していない。これに対して,訂正発明3はスペース部内のみで重なりあう ことを特定しているのでの ,「 」,「み」という構成を有する点において,先願発明の1と相違しているが,審決は,この相違点を看過している。かかる誤りに基づいて,相違点1は「実質的な相違とはいえない」とした審決の判断は,審決の結論に影,。 響を及ぼす違法なものというべきであるから 審決は取消しを免れない(オ)訂正発明5及び7について訂正請求項5は,訂正請求項3を引用するものである。訂正請求項3に係る訂正発明3は,上述の通り,独立特許要件を有することは明らかであることから,訂正請求項5に係る訂正発明5も論理的に独立特許要件を有することになる。
審決は,訂正発明7と先願発明の2の相違点3は実質的な相違点とはいえないと認定判断しているが,誤りである。このような認定判断が誤りであることは,相違点1に関する訂正発明3の主張と同じであるから,これを援用する。
上記したように,訂正発明3,訂正発明5及び訂正発明7は,上記,, 先願明細書に記載された発明とは異なるものであるから 訂正発明3訂正発明5及び訂正発明7は,特許法29条の2の規定に違反することなく,独立特許要件を充足するものである。
2請求原因に対する認否請求の原因( )ないし( )の各事実はいずれも認めるが,同( )は争う。
14 53被告の反論( )取消事由1に対し1ア訂正審判における訂正に関する基本的考え方(ア)特許法は,「特許権者は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる 」。
(126条1項本文)と規定しており,この訂正審判の請求に当たっては,「訂正審判を請求するときは,請求書に訂正した明細書,特許請求。 , の範囲又は図面を添付しなければならない 」(131条3項)と規定し訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面を添付しなければならないこ。,,, とを定めている そして 訂正が確定すると 「願書に添付した明細書特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなす。」(同128条)と規定されているとおり,訂正後にお,(),, ける明細書 特許請求の範囲又は図面 訂正明細書 により 特許出願特許権の設定の登録がされたものとみなされることになる。
(イ)これらの規定によれば,訂正審判においては,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について,訂正審判請求書に添付した訂正明細書,特許請求の範囲又は図面のとおりに訂正することの是非が審理されるのであり,個々の訂正事項についての訂正の是非が個別に審理されるのではない。したがって,審判では,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかが審理されるのであって,仮に,一部の訂正事項について訂正が許されるとしても,この一部の訂正事項について訂正を許す審決をすることはできない。訂正審判における,上記のような法解釈,運用の正当性については,原告が提示した昭和55年最高裁判決が支持するところである。
そして,訂正審判の実務においても,従来から,基本的に上記のような法解釈に基づき,運用がなされてきており,本件訂正審判の審理も,上記のような法解釈に基づき行われたものである。
イ訂正事項ごとに訂正の可否を判断することによる問題(ア)仮に,訂正事項ごとに訂正の可否を判断することにすると,以下のような運用上の問題を生起する。すなわち,訂正は,審決の確定によって確定するところ(特許法128条),一部の訂正を認容する審決がなされると,審決が認容した部分については出訴されることはないから,この部分については審決をすると同時に訂正が確定すると考えざるを得ない。この場合,訂正が確定した明細書,特許請求の範囲又は図面と,訂正審判請求書に添付された,訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面とは,内容が異なるものとなり,そもそも 「審判請求書に添付した明 ,細書のとおり訂正すること」を求めた,請求人の請求の趣旨にそぐわないものとなってしまう。
(イ)また,一部の訂正が認容された場合,認容後の明細書等が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)とみなされ(128条),その後の訂正審判,訂正請求については,この明細書等を基準として訂正の是非が判断されることになるが,先の訂正審決に,訂正不認容の部分が含まれ,審決を不服として,請求人が出訴した場合は(178条1項),認容後の明細書等は依然として確定しておらず,また,なされた判決により,さらに,願書に添付された明細書等の内容が変更されることもあり得るから,その後の訂正審判,訂正請求について,請求人の意図する訂正が実現されない場合も生ずる可能性がある。第三者も,無効審判を請求するに当たり,基準となる明細書等の内容が定まらないと,監視負担が増大する。
(ウ)なお,訂正事項ごとの訂正を認めることは,訂正事項ごとにつの1訂正審判として取り扱うことであるから,同日の複数の訂正審判請求を認めることと変わりはなく,その場合,そのいずれもが認容されるという場合が生じ得るが,これは,同時に二つの訂正が確定することに他ならず,128条の規定とは相容れないものである。
, , (エ)以上のとおりであり 訂正事項ごとに訂正の可否を判断することはかえって請求人,第三者にとって不合理な結果を招くおそれがあり,運用面からみても混乱を生じかねないといえる。そして,平成15年改正特許法では,上記基本的な考え方において指摘した,訂正事項ごとに訂正の可否を判断することの欠点である,請求人,第三者にとって不合理な結果を招来すること,運用面からみても混乱が予想されること等に対する手当は特に規定されておらず,これらの問題点による影響の大きさを考えると,現法制下において,上記基本的考え方に基づいて審理を行い,本件審決が複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を判断したことは妥当である。
ウ原告主張に対する反論ところで,原告の主張は,要約すれば,「審決は,補正前の本件訂正審判請求書により訂正を求めた第1ないし第7訂正発明のうち,第3,第5及び第7訂正発明に限って独立特許要件を審理判断して,それらが独立特許要件を欠くことを理由に,第1,第2,第4及び第6訂正発明を含む本件訂正審判請求全体を成り立たないとしたが,現在の特許法制下において,このような審判の判断は違法であり,すべての請求項ごとに訂正の可否を判断すべきである 」とい。
うものである。
この点について検討する。
平成5年法改正前においては,無効審判等の権利取得後の攻撃から防御する手段として明細書の訂正を求める場合,別に訂正審判を請求して明細書を変更しないかぎり無効事由を取り除くことはできなかった。このため無効審判と訂正審判が同時に審理されても,いずれを先に処理するという制約もなく,訂正審判が確定すればその限りで無効審判の審理は無意味となって,結局権利の有効性に関する審理の遅延を生じた。
そこで平成5年法改正によって無効審判手続きの中で明細書の訂正がで, , きるようにされ 平成6年法改正による付与後異議の制度の導入の際にも同様に訂正の請求を異議の審理の過程で行うことが認められたものである。さらに,平成11年改正法によって,無効審判及び異議の申立てに係る訂正請求は,取消理由の審理においてのみ独立特許要件が審理されることとされた。このように,無効審判や異議の攻撃に対する防御方法としての訂正審判は,訂正請求として無効審判手続きや付与後異議の審理に吸収され,請求項毎に権利の有効性が判断されるに際して,結果として訂正の適否も実質的に請求項ごとに判断されるような制度体系に改正されてきたのである。なお,本件においても,原告は異議の審理過程で訂正の請求を行うことも可能であった。
ところで,原告は,平成14年東京高裁判決が,各請求項に関する訂正請求の許否は請求項ごとに判断すべきであると判示したとして,これを主張の主な根拠としている。しかしながら,この判決にかかる事案は,無効審判手続における訂正請求について判示したものであり,すなわち,上述したように請求項ごとに権利の有効・無効を判断をする無効審判のなかでなされた判断である。したがって,無効審判とは無関係な訂正審判にかかる本件とはその前提が異なっているから,これに基づく原告の主張はその前提において失当である。
また原告は,平成15年改正特許法126条2項により「訂正審判は,特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は,請求することができない。ただし,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内(括弧内略)は,この限りではない。」旨定められたことにより,事実上,訂正審判一事不再理効が付与されたにも等しい結果が招来された現行法の下においては,上述の特許庁における審判実務の根拠が,更に失われていると主張する。
しかしながら,上述したように攻撃に対する防御方法としての訂正審判は,無効審判や異議の審理に吸収され,結果として実質的に請求項毎に訂正の適否も判断されるような制度体系に改められてきた。加えて平成15年改正特許法では,審決取消訴訟後の訂正審判に起因して,事件が裁判所における審決取消訴訟と特許庁における無効審判の間を行き来するいわゆるキャッチボール現象が審理の無駄や遅延といった弊害を引き起こしていることに鑑み,原告が指摘する90日の制限を含む一連の制度改正がなされたものである。したがって,90日の制限は制度全体として審理の無駄を省き,紛争の迅速な解決を目的とするものであるから,仮に原告が主張する一事不再理効が働く結果となっても,これをもって請求項毎に訂正を判断すべき理由とはならない。
また原告は,本件補正により訂正箇所の一部についてのみ訂正を求める趣旨を明示したとも主張するが,本件手続補正は下記( )記載のとおり要2旨変更補正であって認められるものではないから,原告の主張は失当である。
( )取消事由2に対し2原告の主張は要約すると「審決は,本件訂正審判請求書において訂正を求めた請求項3,5及び7を後に削除する補正は,特許法131条の2第1項が規定する審判請求書の要旨を変更する補正に当たると解するが,このような解釈は誤りである。訂正を求めた請求項を削除する補正は,訂正審判請求書の要旨を変更するものではないから,その削除を許し,その余の請求項にかかる訂正発明について,独立特許要件を判断すべきである 」というもの 。
である。
訂正審判手続きにおいて,訂正事項を補正することについて,特許法では131条の2第1項において「前条第1項の規定により提出した請求書の補正はその要旨を変更するものであってはならない 」と定められており,こ 。
こで要旨の変更とは「新たに訂正事項を加える,あるいは訂正事項を変更すること」と解すべきである。これについては,特許庁ホームページにおいて「新たに訂正事項を加える,あるいは訂正事項を変更することは,請求書の要旨の変更に該当するものとします 」として運用の周知徹底をはかってき 。
た(乙1 。)一方,ここで問題とされている補正は 「 補正事項ア】訂正事項bの『特 ,【許請求の範囲の請求項3…と訂正する 』 を『特許請求の範囲の請求項3を 。
削除する 』と補正する( 補正事項イ 【補正事項ウ】も同様)という補 。。」【】正であり,これは,もとの訂正事項を削除し,あらたに請求項の削除という訂正事項を新規に付け加えるという性質のものである。したがって,全く新しい訂正事項を加えるものであって,明らかに訂正の要旨を変更しているものであるから,上述した特許法131条の2の規定によって,補正が認められないことは明白であって,このように判断した本件審決に誤りはない。
また原告は本件補正により求めた訂正は,実質的に請求項の取り下げに当たり,審判の審理が徒に遅延することを防止するという制度の趣旨に鑑みて認められるべきものであると主張する。しかしながら,審理遅延の防止という制度の趣旨に鑑みても,仮にこのような補正が認められることになれば,請求項の削除により残された請求項に対して,訂正の可否の判断をやり直さなければならない場合も生じ,これでは審理が遅延し,立法の趣旨に反する懸念がある。したがって,制度の趣旨から本件補正は認められるべきであるという原告の主張は失当である。
さらに原告は,審判便覧の記載が「請求項を削除することは訂正事項であるので,請求項を削除する訂正は別個の訂正事項を追加する変更となり請求書の要旨を変更するものである」と改められたのは,平成11年東京高裁判決を誤解したものであると主張している。たしかに,原告が主張するように平成11年東京高裁判決が判示しているのは請求項を削除する補正に関するものでない。しかしながら,同判決は「訂正請求に係る訂正を求める範囲を実質的に拡大変更するものであるから,・・・訂正請求書の要旨を変更するものといわざるを得ない 」と判示し,また 「訂正請求書の補正と明細書の補 。,正とは別の問題である」旨も判示しているから,結果として請求項を削除することになる補正であっても,訂正の要旨を変更するという観点において違, 。 法であるとした解釈に誤りはなく この点における原告の主張も失当である( )取消事由3に対し3ア先願発明の1の認定の誤り1(前記?@)につき(ア)「先願明細書の「好ましい例」の解釈」に対して先願明細書19頁5行〜11行には 「横方向ピッチとして100μ ,mという値を例示することができる 」と記載した上で 「発光層パター 。,ンおよび開口部の幅をピッチと等しい100μmを中心とした値に設定することが好ましい 」とされているのであるから,この文章を普通に 。
読めば 「発光層パターンおよび開口部の幅」を「ピッチと等しい10 ,0μm」を「中心とした値」に設定することが好ましい,となり「発光層パターンおよび開口部の幅」の幅は,100μmの前後にずれていても良いと理解されるべきである。
原告は 「有機発光層の幅よりもシャドーマスクの開口部の幅の方が ,広いことは,当業者に自明である 」と主張するが,そうであるなら, 。
訂正発明3の構成は,当業者に自明である技術事項に基づくもので何ら格別のものではない。それを裏付けるものとして,本件明細書(甲1)の段落【0041】には 「この実施例では,有機発光層および電子輸 ,送層が隣接する画素同士で接する場合を説明したが,マスクの窓幅を広くして,許容される発光面積が確保される範囲内であれば,隣同士重な。」。,, って成膜してもよいとの記載がある 原告はまた 先願明細書には「すべての隣接有機発光層がスペース部内で重なりあう」という技術, , 思想が開示されてはいないと主張するが本件明細書の記載を見れば「隣同士重なって成膜してもよい 」との一文があるのみで 「重なりあ 。,う」ことの目的,作用効果等一切記載されておらず,本件明細書にも,そのような技術思想が明確に開示されていたとは到底いえない。
(イ)「技術常識から見た先願発明の1における発光層パターンの隙間の存在」に対して審決において 「技術常識からみて,隣接する発光層パターンの間に ,隙間が存在する自体,視覚的に問題があるものであるから,好ましいとされる例においては,隣接するいずれの発光層パターン間にも隙間が実質的に存在しないといえる 」と判断した点は,確かに根拠を欠くもの 。
,「 」 , であったかもしれないが隣接する発光層パターンが接する態様 が先願図面の図2,図11,図21等に示されていることは事実である。
さらに,以下に反論するように,先願発明に,訂正発明3の構成である「有機発光層が隣接画素間のスペース部内のみで重なりあっている」点も開示されているので,隣接する発光層パターンが接する理由如何は,審決の結論に直接影響するものではない。
(ウ)「先願発明の1の実施例1の構造と訂正発明の構造との相違」に対して上記は 「先願発明1の実施例1の構造と訂正発明の構造との相違」 ,,,「 , に関する主張であり 実施例1の構造は参考図2からわかるように三色の有機発光層のうち,R層とG層は互いに隣接するが,B層は電子, , 輸送層と兼用されているので スペース部内のみで重なる構造ではなくR層とG層(スペ一ス部外のITO第1電極上)にも重なっている 」。
ものであるから,訂正発明3の構造とは相違する旨の主張といえるが,審決で,先願発明の認定に際し,基礎とした実施例は,実施例2であって,実施例1は,実施例2から先願発明を抽出する際,先願明細書において実施例2を説明するに当たって,先に,説明した実施例1との共通部分は「実施例1と同様」として省略していたので,その省略部分を実。, 施例1の説明箇所を使用して補ったにすぎないものである したがって先願発明の1とは異なる実施例1における有機発光層に係る積層構造を,訂正発明3における有機発光層に係る積層構造に対応させて,それらの異同を論じる原告の主張は失当である。
(エ)「先願発明の1の実施例2の構造と訂正発明3の構造との相違」に対して原告は 「審決が実施例1と実施例2とを組み合わせるかのようにし ,て先願発明の1の構成を認定することもまた誤りである 」と主張する 。
が,上記(ウ)で述べたように,実施例1は,実施例2から先願発明の1を抽出する際,実施例2の省略部分を実施例1の説明箇所を使用して補うためにその記載を引用したにすぎず,先願発明が,実施例1と実施例2とを組み合わせたものでないことは明らかであり,原告が主張する認定の誤りは失当である。
また,原告は 「実施例2は,実施例1とパターニング方法は異なる ,ものの,有機発光層の重なり構造としては,実施例1の構造と同じである。したがって,実施例2も参考図2に示す構造となるので,実施例1と同様,先願明細書を特許法29条の2の引用例として引用することは明らかに誤りである 」とも主張する。 。
これについて反論するに,原告のいうように,電子輸送層とB層はDPVBiという同じ物質が用いられているが,B層の「DPVBi」はあくまでも青色の波長を発光する有機発光層としてのものであり,電子輸送層の「DPVBi」はあくまでも電子輸送層としてのものである。
そして,訂正発明3は 「各色に対応して異なる波長を発光する有機 ,発光層,および電子輸送層を有」すると規定されているが,有機発光層のいずれか各色に対応して異なる波長を発光する層と電子輸送層の層を構成する材料が同じであることを排除するものでないから,上記原告の主張も失当である。
イ先願発明の1の認定の誤り2(前記?A)につき(ア)「発光層バターンと開口部の幅を同じように設定できるようなパターニング条件」に対して先願明細書の実施例2のものも「第一の発光層用シャドーマスクを基板前方に配置して両者を密着させ」ているので,敢えて,開口部幅より狭い発光層バターンを作成するためとは解されず,発光層バターンと開口部の幅を同じように設定できると考えるのが自然である。
したがって,先願明細書には,発光層バターンと開口部の幅を同じように設定できるようなパターニング条件が開示されているといえ,原告の主張は失当である。
(イ)「先願発明の1における蒸着物の入射角」に対してまず,上記(ア)で述べたように「発光層用シャドーマスクを基板前方に配置して両者を密着させ (先願明細書31頁下4行〜下3行) 」ているのであるから,マスク幅と同様の幅の発光層バターンを作成しようとするものであることが理解され,図18,図19からも,明らかに蒸着方向は「略90度」であると理解される。
さらに,審決15頁3行〜16頁19行に「成膜の均質化の工夫」として記載されているように,先願明細書には,発光層用シャドーマスクのマスク幅と同様の幅の発光層バターンを作成する点が記載されているに等しいといえる。さらに,先願明細書の第39頁8〜14行の「そのうえ,補強線によりシャドーマスクの開口部の形状が変形しないので,マスク法によって発光層や第二電極などの微細パターニングを高精度に実現することが可能である。さらに第二電極のパターニング方法として例示したように,補強線の影となる部分に蒸着物を回り込ませて蒸着せしめることもできるので,多様な蒸着角度が存在するような条件でもパターニングを高精度に実現することが可能である 」との記載から,マスク幅よりもさらに広い幅に蒸着することも 。
可能であることが開示されている。
したがって,先願発明における蒸着物の入射角を論じて,基板への入射角は小さくなって,隣接発光層の重なりはなくなるとする原告の主張は失当である。
(ウ)「シャドー効果の影響が実質的に無視できるような条件設定」に対してシャドー効果が実質的に無視できるような構成として,先願明細書には,上記で既に述べた発光層用シャドーマスクの密着配置 「略9,0度 の蒸着方向 審決における 成膜の均質化の工夫 で挙げた 断 」,「」「面形状がテーパー形状のマスク断面」等種々の構成,すなわち,シャドー効果の影響が実質的に無視できるような条件設定が開示されており,原告の主張は失当である。
ウ先願発明の1の認定の誤り3(前記?B)につき, , (ア)原告の主張については 当業者が計算するかしないかというよりそのような長さの関係が開示されていれば,結果的に「重なり」が開示されているといえるから,その主張は結局2つの部材の長さが示されていても,比べてみようとする動機付けがなく,いずれが長いかわからない,と主張するに等しく失当である。
「隣接する有機発光層を重ねる」という技術思想については,同一性を論ずる場合,先願明細書から「隣接する有機発光層を重ねる」という事実が開示されていれば十分である。
(イ)一方,訂正発明3の技術思想をみると,訂正明細書(甲4)の段落【0041】には 「この実施例では,有機発光層および電子輸送 ,層が隣接する画素同士で接する場合を説明したが,マスクの窓幅を広くして,許容される発光面積が確保される範囲内であれば,隣同士重なって成膜してもよい 」との記載があるのみで,訂正明細書にも, 。
そのような技術思想が明確に開示されていたとは到底いえず,原告の主張は失当である。
(ウ)まず 「先願明細書には,発光層バターンと開口部の幅を同じよ ,うに設定できるようなパターニング条件が開示されているといえ」ることは,既に述べたとおりである。
そして 審決で摘記した先願明細書27頁14行〜20行には発 , ,「光層パターニング用として,図17に示したようにマスク部分と補強線とが同一平面内に形成された構造のシャドーマスクを用意した。…マスク部分31の厚さは25μmであり,長さ64mm,幅305μmのストライプ状開口部32がピッチ900μmで横方向に92本配置されている 」と記載されているのであるから,隣接発光層の重な 。
, ,。 りは 5μmとなることは明らかであって 原告の主張は失当であるエ先願発明の1との相違点の看過(前記?C)につき(ア)訂正発明3における「スペース部内のみ」の意味であるが,訂正明細書(甲4)の段落【0017】には 「また,有機発光層または電子 ,輸送層の少なくとも一方が,隣接画素境界で重なりあうようにしてもよ。, 。」 い この場合 発光部の上では重ならないようにすることが好ましいと記載され,段落【0041】には 「マスクの窓幅を広くして,許容 ,される発光面積が確保される範囲内であれば,隣同士重なって成膜してもよい 」と記載されていることからすると,重なりが発光部,すなわ 。
ちITO電極に掛からないようにする,との意味に理解される。
(イ)そこで,先願発明の1についてみると,審決で摘記した先願明細書(甲8)28頁9行〜18行には 「第一電極は…ITO基板上にフォ ,トレジストを塗布して,通常のフォトリソ法による露光,現像によってフォトレジストをパターニングした。ITOの不要部分をエッチングした後にフォトレジストを除去することで,ITOを長さ90mm,幅270μmのストライプ形状にパターニングした。図8に示したように,このストライプ状第一電極2は300μmピッチで横方向に272本配置されている 」と記載され,既に引用したように,マスクのストライ 。
プ状開口部32の幅は305μmで,ピッチは900μmである。
有機発光層がRGB3色であることを考慮し,さらに,先願図面の図2,図11,図21等からも電極と発光層との各パターンの中心を敢えてずらすことは考えにくいので,有機発光層の幅305μmの内,両端の重なりは5μmずつであり,重なり部分のない発光層パターン295μmに対し,ITOパターンの幅は270μmであるので,発光層パターン両端の5μmの重なり部分は,当然,ITOパターンの間の隙間に位置すると理解され,訂正発明3における「スペース部内のみで重なりあう」構成と実質的に同一である。
したがって,一応の相違点と認定した上で,実質的な相違点とはいえない,とした審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張は失当である。
オ訂正発明5,7について訂正発明5に対しては,訂正発明3が,独立特許要件を有することを前提として 「独立特許要件を有することになる」と主張しているが,訂正 ,発明3が独立特許要件を有さないことは,これまで主張したとおりであるので,訂正発明3が,独立特許要件を有することを前提とした原告の主張は失当である。
また,訂正発明7については,先願発明の1についてこれまで反論したとおり,先願発明の2についても,有機発光層が「スペース部内のみで重なりあう」ように形成されていることは明らかであるので,原告の主張は失当である。
第4当裁判所の判断1請求原因( ) 特許庁等における手続の経緯( ) 訂正前発明の内容( )1 2 3 ( ),(),(本件訂正審判請求の内容 ,( )(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者 ) 4間に争いがない。
2審判手続の適否(取消事由1及び2)について( )ア上記争いのない請求原因( )ないし( )によれば,審決は,特許登録さ1 14れている旧請求項1ないし7を新請求項1ないし7等に変更しようとする本件訂正審判請求につき,新請求項3・5・7を削除し残った新請求項1・2・4・6をそのまま補正請求項1・2・3・4にしようとうする本件補正は特許法131条の2第1項にいう要旨変更に当たるから許されないとした上,上記補正により原告が削除しようとした新請求項3・5・7の, , みについて独立特許要件の有無を判断し 審理の結果同要件を欠くとして残りの新請求項1・2・4・6について独立特許要件の有無を判断することなく,本件訂正審判請求を請求不成立としたものである。
イこれにつき原告は,特許法の昭和62年改正により請求項の制度が導入されたいわゆる改善多項制の下では,訂正拒否の判断は請求項ごとにすべきであり,新請求項1・2・4・6につき判断をせずにした本件審決は違法である,仮に訂正不可分の原則を論じた昭和55年最高裁判決の論旨が改善多項制の下においても妥当するとしても,原告は本件補正により新請求項3・5・7を削除し新請求項1・2・4・6のみの訂正を求める趣旨を特定して明示しているから,新請求項1・2・4・6につき判断をせずにした本件審決は違法である(以上が取消事由1 ,また訂正を求める請 )求項の削除は訂正を求める範囲の拡大変更に当たるものではないから,同削除が審判請求書の補正の要件を定めた平成15年改正前の特許法131条2項(現131条の2第1項)にいう要旨変更に当たることはなく(平成10年3月改訂の審判便覧〔改訂第7版,甲9〕では,請求項の削除が要旨変更に当たらないとされていたのに,平成16年7月改訂の審判便覧〔,〕 ), 改訂第9版 甲10 では請求項の削除は要旨変更に当たるとされたこれを看過して新請求項1・2・4・6につき判断をせずにした本件審決は違法である(取消事由2 ,等と主張した。 )ウこれに対し被告は,審判では複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかが審理されるのであって,仮に一部の訂正事項について訂正が許されるとしてもこの一部の訂正事項について訂正を許す審決, , をすることはできないし 昭和55年最高裁判決も支持するところでありこの立場は請求項制度が導入された特許法の昭和62年改正後も変わりがない,また審判請求書の補正により一部の請求項の削除を認めることになると,残された請求項に対して訂正の可否の判断をやり直さなければならない場合も生じるから,上記削除は訂正の要旨を変更することになり許されない等と反論した。
エところで,原告のなした本件特許の訂正の申立ては,訂正の拒否が異議事由の有無と一体として審理される特許異議申立ての手続中の訂正請求(平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第2項)ではなく,特許法126条に基づく訂正審判請求である。
そして上記訂正審判請求は 「願書に添付した明細書,特許請求の範囲 ,又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる1」()「 ,, 26条1項本文 ・ 訂正審判を請求するときは 請求書に添付した明細書特許請求の範囲又は図面を添付しなければならない131条3項 ・ 願 」()「書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定登録がされたものとみなす (128条)等とされていることから明ら 」かなとおり,特許出願に準じた法的性質を有するうえ,特許法には請求項ごとに訂正の可否を決すべき旨の規定もないから,訂正審判において一部の訂正を許す審決をすることの可否を論じた最高裁昭和55年5月1日第(。 ) 一小法廷判決 民集34巻3号431頁 前述した昭和55年最高裁判決は,いわゆる改善多項制を導入した昭和62年の特許法改正後においてもそのまま妥当すると解される。
したがって,本件訂正審判請求のように,原明細書等の記載を複数個所にわたって訂正するものであるときは,原則として,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべきであり,これを請求人において複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解するのは妥当でない。
上記のような不可分処理は客観的・画一的審理判断をむねとする特許庁における訂正審判制度の要請から導かれる結論であるから,客観的・画一的処理の要請に反しない場合,例えば上記昭和55年最高裁判決も明言するように,?@訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるとき,?A請求人において複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは,それぞれ可分的内容の訂正審判請求があるとして審理判断をする必要があると解される。
オそこで,以上の見地に立って本件事案について検討する。
( )ア本件訂正審判請求に至る経緯2証拠(甲1ないし8,11,21ないし24)及び弁論の全趣旨によれば,本件訂正審判手続及びこれに先立つ特許異議申立て手続等は,以下のとおりであったことが認められる。
(ア)訴外会社は,平成13年7月6日,本件特許の設定登録を受けた。
その後,本件特許の旧請求項3・4・5・7につき平成14年3月5日にAから,平成14年3月8日に旧請求項1ないし7につきイーストマン コダック カンパニーから,それぞれ特許異議の申立てがなされ,同事件は異議2002-70587号事件として特許庁に係属した。
Aは先願明細書(甲8)を,イーストマン コダック カンパニーは刊行物2(特開平9-167684号公報,甲18)を,それぞれ特許異議申立て事件の証拠として提出した。
(イ)特許庁は,訴外会社に対し,平成15年3月14日付け取消理由通知書(甲21)を発送したが,その内容は,?@旧請求項1・2・4・6については,刊行物1(特開平9-115672号公報,甲17 ,刊)行物2(甲18)及び特開平10-12377号公報によれば容易想到であり,?A旧請求項5については,上記刊行物1・2及び特開平10-12377号公報に加え,刊行物3(特開平10-12381号公報,甲19 ・刊行物4(特開平9-241629号公報,甲20)から容 )易想到であるほか,?B旧請求項3・4・5・7は先願明細書(甲8)記載の発明と同一であり,?C旧請求項6については先願明細書(甲8。特願平10-535549号)に同一の発明が記載されている,などとしていた。
(ウ)これに対し訴外会社は,平成15年5月26日付けで特許異議意見書(甲22)と題する書面を特許庁に提出し,上記取消理由は理由がないなどとして反論した。その要点は以下のとおりである。
<ア>上記(イ)の拒絶理由?@,?A,?Cに対して,旧請求項1・2・4・5・6の発明の「電子輸送層が,前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていること」に該当する記述及び示唆は刊行物1・2には全くされていない。
<イ>また拒絶理由?Bに対して,旧請求項3・7については,先願明細書に記載された発明では画素上で発光層が重なり得るものでありス,「ペース部内のみで重なり合っている」ことを特徴とする旧請求項3・7と異なることが明らかである,先願明細書(甲8)29頁に「それぞれが10μm程度の精度で基板と位置合わせができるように,上記4種類のシャドーマスクを交換することが可能である 」と記載があ 。
るように,誤差である10μmを考慮すればさらに発光層同士が画素上で重なり合うことは明らかであり,旧請求項3,7の発明と異なることが明らかである。
, ,, (エ)原告は 訴外会社から本件特許を譲り受け 平成16年3月29日特許権の移転登録を経た。
(オ)特許庁は,平成17年8月25日付けで,本件明細書に記載された「画素」の意味について,原告に対し審尋を行った(甲23 。その内 )容は概ね次のとおりである。
・旧請求項1等に記載された「画素 ,本件明細書(甲1)段落【0 」009】等に記載された「画素」は,段落【0021】等に記載された「各表示色の画素に対応するストライプ状の窓パターン…をもつメ」「」「」 タルマスク8を基板にほぼ接して…共蒸着して形成したG画素のような画素を指し,段落【0027】の「画素数」を説明する文脈で使用されている「画素」は 「互いに直交するストライプ状の電極 ,間」に 「有機発光層」及び「電子輸送層」を「有する」ことから, ,ストライプ状の上記「G画素「R画素」及び「B画素」に対して互 」,いに直交する電極間の電界をかけることによりマトリックス状に発光する部分の各々を指すものと解するのが相当である。
(カ)これに対して原告は,平成17年12月2日の回答書と題する書面において,上記審尋において特許庁審判長が示した解釈に異論ない旨を回答した(甲24 。)(キ)その後特許庁は,平成18年2月2日 「特許第3206646号 ,。」() の請求項1ないし7に係る特許を取り消す旨の決定 本件取消決定をしたが,その理由の要旨は,?@旧請求項1・2・6の発明は,下記刊行物1・2記載の発明から容易想到であり特許法29条2項の規定に違反する,?A旧請求項3・7の発明は後記先願明細書記載の発明と実質同一であり,特許法29条の2の規定に違反する,?B旧請求項4・5の発明も下記刊行物1・2に記載の発明及び下記刊行物3・4記載の周知技,。 術から容易想到であり特許法29条2項に違反する としたものである記・刊行物1:特開平9-115672号公報(発明の名称「有機光学的素子及びその製造方法 ,出願人 ソニー株式会社,公開日 」平成9年5月2日。以下ここに記載された発明を「刊行物1発明の1 〔ディスプレイ装置の発明「刊行物1発 」 〕,明の2 〔刊行物1発明の1のディスプレイ装置を製造す 」る方法の発明〕という。甲17)・刊行物2:特開平9-167684号公報(発明の名称「有機エレクトロルミネセンス表示パネルの製造方法 ,出願人 イース 」トマン コダック カンパニー,公開日 平成9年6月24。 「」。 日 以下ここに記載された発明を 刊行物2発明 という甲18)・刊行物3:特開平10-12381号公報(発明の名称「有機電界発光素子 ,出願人 三菱化学株式会社,公開日 平成10年 」1月16日。甲19)・刊行物4:特開平9-241629号公報(発明の名称「有機エレクトロルミネッセンス素子 ,出願人 出光興産株式会社,公 」開日 平成9年9月16日。甲20)(ク)原告は,平成18年6月16日,本件取消決定の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(当庁平成18年(行ケ)第10275号 。)上記取消訴訟係属中の平成18年9月13日,原告は,本件訂正審判請求を行い(甲4 ,同請求は訂正2006-39153号として特許 )庁に係属した。
(ケ)本件訂正審判請求に係る訂正の内容は,前記のとおりであり,訂正事項aないしfは旧請求項1・3ないし7について訂正し,それぞれ訂正発明1・3ないし7とするものである(訂正発明2は訂正発明1を引用 。)a訂正審判請求書(甲4)における訂正発明1に関する訂正の原因の記載の要旨は以下のとおりである。
(a)刊行物1発明の1は,訂正発明1の構造とは異なり,透明電極5の上部にホール輸送層4が透明電極と直交するようにストライプ状に形成され,その上部に発光材料が混合された電子輸送層2が形成され,同じパターンで電極1が形成される。したがって,刊行物1発明の1では,電極1が電子輸送層を含む発光層の全面にわたって形成されるようになり,且つその下部にホール輸送層4が形成されているので,電極1と透明電極5間の距離が,訂正発明1のスペース部10における陰極と陽極間の距離よりはるかに遠く形成されるので,訂正発明1のような陰極と陽極が互いに近接して生ずる電流リークの問題点は発生しない。
(b)訂正発明1においては陰極と直交する陽極,発光層の上に電子輸送層を基板全面に共通層として形成するので,スペース部にも電子輸送層が形成され,それによって,陽極と陰極との間の距離を所定の間隔に維持させることで電流リークを完璧に防止することができる。
bまた,訂正発明3に係る訂正の原因の記載の要旨は以下のとおりである。
訂正発明3の「正孔注入・輸送層を有し」は,特許公報の特許請求の範囲における「請求項4正孔注入・輸送層をさらに有し」に相当するものであり,訂正発明3は,旧請求項3に旧請求項4の内容を追加したものである。本件取消決定では,旧請求項3に対して特許法29条の2の先願範囲の拡大の規定を適用し,旧請求項4に対して同法29条2項を適用して進歩性を否定するものである。訂正発明3は,旧請求項3に旧請求項4の内容を追加したものであることにより,旧請求項3に対して同法29条の2を適用した異議決定は誤りとなる。
また,旧請求項3については,本件取消決定において同法29条2項は理由とされておらず,出願手続において1度もこれを理由とした拒絶理由が出されていない。
これらにより,訂正発明3は,先願明細書記載の発明とは構成及び作用効果が異なることが明確である。
(コ)特許庁は,原告に対し,平成18年11月24日付けで訂正拒絶理由通知書(甲5)を発した。その内容は?@訂正事項aないしfに係る訂正は特許請求の範囲減縮を目的とするものであり,訂正事項gないしjに係る訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである,?A訂正事項aないしjに係る訂正は,いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされるものであり,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものでもない,?Bしかし,訂正発明1ないし7のうち,訂正発明3・5・7は,先願明細書に記載された発明と同一であり独立特許要件を備えないから,本件訂正審判請求は,特許法126条5項の規定に適合しない,とするものであり,訂正発明1・2・4・6の独立特許要件について触れるところはない。
また,同通知書の本文末尾には,以下の内容が記載されている。
「なお,この訂正拒絶理由通知に対して,請求人は,訂正請求書の要旨を変更しない範囲で訂正請求書を補正することができるが,訂正請求書の補正において,訂正事項の補正は,訂正事項の削除,及び請求書の要旨を変更しない範囲での軽微な瑕疵の補正等は可能であるが,新たに訂正事項を加える,あるいは訂正事項を変更することは,請求書の要旨の変更に該当するものとなるので留意されたい 特許庁ホームページの 訂 (『正の補正に関する運用変更のお知らせ』参照」)。
(サ)そこで原告は,平成19年1月15日付けで本件手続補正を行った(甲7 。本件手続補正の内容は,前記のとおりであり,その主な内容 )は,訂正発明3・5・7に係る請求項及びこれと関連する発明の詳細な説明を削除しようとするものである。
(シ)また原告は,平成19年1月15日付けで意見書と題する書面を提() , ()。 出した 甲6 が そこには以下の内容が記載されている 4行目以下「…本件の事案では,今回の補正によって削除される訂正前請求項3,4 5と 残存する補正請求項1 2 3 訂正前請求項44 訂 ,,, , (), (正前請求項6)とは,異なる実施例に基づいた2つの請求項群であって,これら残存請求項と削除請求項との間には直接の一体不可分の関係にはないのであるから,新たな審理の負担が何ら発生するはずもないし,審理遅延の恐れもなく,しかも第3者に不測の損害を与えることも到底考えられない(5頁4行〜9行) 。」「したがって,この意見書と同時に提出した手続補正書による訂正前請求項3,4,5の削除およびこれに伴う発明の詳細な説明の該当部分の補正は,審判請求書の要旨をなんら変更する〔判決注 「しない」 ,は誤記〕ものではない。そして,最高裁55年5月1日判決及び平成15年(行ケ)288判決を反対解釈すれば,訂正審判事件で補正をすれば,訂正の可否を請求項毎に判断することができるから,訂正後請求項1,2,4,6の訂正は認容し,訂正後請求項3,5,7の訂正は棄却するとの判断が示されなければならない(5頁10行〜1。」6行)「したがって,仮に訂正後請求項3,5,7が独立特許要件を充足しないとしても,訂正後請求項1,2,4,6は独立特許要件を充足しているのであるから,訂正後請求項1,2,4,6の訂正を認め,訂正後請求項3,5,7の訂正は認めない,という一部認容,一部棄却の判断が示されるべきである(24頁11行〜15行) 。」(ス)特許庁は,平成19年2月16日,審判請求書の要旨を変更するものであるから本件手続補正は認めることができないとした上で,上記請求項3・5・7には独立特許要件を認めることはできないとして 「本,件審判の請求は,成り立たない 」との審決(本件審決)をし,その謄 。
本は平成19年2月28日原告に送達された。
イ(ア)一方,本件訂正後の本件明細書(甲4)の【発明の詳細な説明】には,以下の記載がある(下線は本件訂正による訂正箇所 。)「 0001】【【発明の属する技術分野】本発明は,有機ELパネルに関し,特に各色ごとに独立して異なる波長の光を発光する多色発光有機ELパネルおよびその製造方法に関する。
【0002】【従来の技術】従来の各色ごとに独立して異なる波長の光を発光する3色独立発光方式を用いたカラー有機ELパネルの製造方法として,特開平5-25859号公報(米国特許5294869)には,ガラス基板にITO等で透明電極パターンを形成し,次に絶縁材料で作られたシャドウマスクを基板上に配設し,各有機層を成膜する方法が記載されている。
【0003】この方法によれば,3色分離には,図6に示すように各色に対応する有機層を蒸着によって形成する際に,蒸着源からの蒸気流に対して,高さの異なる壁21a,21bを用いて基板との角度関係を制御することによりパターン化する,いわゆる斜方蒸着法が用いられている。最後にITO膜22と直交するように,電極金属を蒸着して陰極を形成し,有機ELパネルを作製している。しかし,この方法では,蒸着源と基板及び壁の配置,位置合わせが非常に困難であり,また,各色有機層の膜厚にムラができやすく,RGB有機層間の色分離が不明確になる。また,発光しない隙間(スペース)が大きくなる等の問題が生じやすい。さらに,蒸着源との幾何的角度が重要となるため,大きなパネルを作製する場合,パネル中央部と端部で角度が異なり,各ドットの大きさが不均一となる。
【0004】ところで,一般的な従来のパネル構造では,RGB3色各有機発光層を蒸着により形成する際に,有機発光層および電子輸送層を発光部より少し大きい程度に形成していたため,色の異なる画素間(スペース部10)に有機発光層が存在しない隙間が生じていた。この表面に陰極材料を蒸着すると,図7に示すように各画素間のスペース部の隙間にも陰極が成膜されるため,スペース部10で陰極-陽極の距離が短くなり,この部分で電界集中が起きたり,不均一電界が生じる。そのため,パネルをドットマトリックス構造としたとき,画素のリーク電流やショートがランダムに発生しやすいという問題があった。また,電界集中のために駆動時のジュール熱による発熱の偏りが生じて,パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットが発生することがあった。
【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は,このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり,電界集中および不均一電界の発生を防止し,パネルのショート,電流リークの問題がなく,パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットの発生のない多色発光有機ELパネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】【課題を解決するための手段】本発明は,少なくとも一方が透明または半透明の対向する,かつ,互いに直交するストライプ状の電極間に,各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層,および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて,前記有機発光層のパターンは,前記透明または半透明電極のうちの一方の陽極の長手方向と同じ方向に形成され,前記有機発光層同士は隣接する全ての画素間で互いに分離しており,前記電子輸送層は前記隣接する全ての画素間で隙間なく形成されていると共に前記有機発光層同士が互いに分離されている全ての隙間に充填されていることを特徴とする有機ELパネルに関する。少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極間に,正孔注入・輸送層を有し,各色に対応して異なる波長を発光する有機発光層,および電子輸送層を有する多色発光有機ELパネルにおいて,前記有機発光層が,隣接画素間のスペース部内のみで重なりあっていることを特徴とする多色発光有機ELパネルに関する。
【0007】さらに本発明は,透明基板上に,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,透明または半透明のストライプ状の陽極を形成する工程と,前記有機発光層のパターンを前記陽極の長手方向と同じ方向に形成するとともに,前記有機発光層同士を隣接する全ての画素間で互いに分離するように形成する工程と,形成された有機発光層同士の隙間を充填しながら前記隣接する全ての画素間で隙間なく前記電子輸送層を形成する工程とを有することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法に関する。また本発明は透明基板上に,少なくとも一方が透明または半透明の対向する電極を形成する工程と,正孔注入層・輸送層を形成し,各色に対応する有機発光層を形成する工程と,形成した有機発光層上に電子輸送層を形成する工程とを有する多色発光有機ELパネルの製造方法において,前記有機発光層を,隣接画素間のスペース部内のみで重なり合うように形成することを特徴とする多色発光有機ELパネルの製造方法に関する。
【0009】【発明の実施の形態】本発明の多色発光有機ELパネルでは,有機発光層または電子輸送層の少なくとも一方が,隣接する画素間で隙間なく形成されているので,陰極材料が各画素間のスペース部に入り込むことがない。そのため,陰極と陽極が極端に近接することがなく,電界の集中および不均一電界の発生がない。従って,本発明によれば,陽極と陰極の近接部によるパネルのショート,リーク問題が改善され,パネル作製時の良品率を上げることができる。また,電界集中が起きにくいため,駆動時のジュール熱による発熱も偏りができず,パネル内で偏った輝度劣化やダークスポットの発生を防ぐことができる 」。
(イ)上記によると,本件特許発明は,各色毎に独立して異なる波長の光を発光する3色独立発光方式を用いたカラー有機ELパネル及びその製造方法に関するものであるところ,このカラー有機ELパネルは,ガラス基板に透明電極パターンを作製し,絶縁材料で作られたシャドウマスクを配設して有機層を蒸着により成膜するところ,陽極と陰極の両電極間に,RGB3色の各色有機発光層,電子輸送層をそれぞれ蒸着する方法による。この点につき,従来技術では有機発光層及び電子輸送層を発光部より少し大きい程度に形成していたため,画素間のスペース部に陰極が成膜され,スペース部で陽極と陰極との距離が短くなりショートが。 , 発生する等の問題があった この問題を防止するため本件訂正発明では多色発光有機有機ELパネル(上記段落【0006 )とその製造方法 】(段落【0007 )につき,?@有機発光層同士が互いに分離している 】構成において,有機発光層同士の隙間に電子輸送層を充填すること,?A有機発光層同士が,隣接する画素間のスペース部内でのみ重なっていること,の2つの別々の構成をとる発明としていることが理解できる(?@【】【】,)。 につき段落 0006 及び 0007 の各前段 ?Aにつき各後段そして,これは本件訂正の前後で変わりがない。
(ウ)さらに 本件訂正後の本件明細書 甲4 には以下の記載がある 訂 ,()(正の前後で変わりはない )。
「 0014】本発明においては,この図1のように正孔注入・輸送層 【を設けることが好ましいが,有機発光層が正孔の輸送機能を有するのであれば,特に設けなくてもよい。また,正孔注入・輸送層は,正孔注入層と正孔輸送層の2層で形成し,それぞれの層に注入層,輸送層としての機能の高い材料を用いるようにしてもよい 」。
上記によれば,有機発光層が正孔輸送層の機能を兼ねるもの,正孔注入・輸送層を有機発光層と別に設けるもの,正孔注入層と正孔輸送層の2層としてこれを設けるものについても発明の詳細な説明に記載がある。
(エ)本件訂正前の旧請求項1〜7,本件訂正後の訂正発明1〜7の特許請求の範囲の記載は,それぞれ上記第3,1( )( )のとおりである。
23これによれば,旧請求項1ないし5は有機ELパネルに関するもの,, , 旧請求項6 7は有機ELパネルの製造方法に関するものであるところ旧請求項1・2・6が有機発光層同士が隣接する画素間で分離している構成(上記(イ)の?@)に関するものであり,旧請求項3・7が有機発光層が隣接する画素間のスペース部内でのみ重なっている構成(上記(イ)の?A)に関連し,請求項4・5は上記いずれにもかかる正孔注入・輸送層に関する構成(上記(ウ))であることが理解できる。
また,訂正発明に関しては,訂正発明1ないし5は有機ELパネルに関するもの,訂正発明6・7は有機ELパネルの製造方法に関するものであるところ,訂正発明1・2・4・6が有機発光層同士が隣接する画素間で分離している構成(上記(イ)の?@)に,訂正発明3・5・7が有機発光層が隣接する画素間のスペース部内でのみ重なっている構成(上記(イ)の?A)に関連し,訂正発明5は正孔注入・輸送層に関する構成としては有機発光層同士が隣接する画素間で分離しているもの(上記(イ)の?@)と関連することが理解できる。
なお本件訂正のうち特許請求の範囲の記載の訂正事項は,訂正発明1・6については旧請求項1・6について有機発光層のパターンを電極の陽極の長手方向に形成することを加え,訂正発明3については旧請求項3から正孔注入・輸送層を有する構成に限定をし,旧請求項4については訂正発明3の限定に伴い旧請求項3からの引用をはずして訂正発明4とし,さらに請求項5については上記訂正発明3の限定と関連して訂正発明3・4を引用する(訂正発明5)ことをそれぞれ内容とするものである。
(オ)そして,本件訂正後の本件明細書(甲4)には以下の記載がある。
「 0011】本発明の1形態を図1に示す。この形態では,ガラス基 【板1の上にITO2が各画素に対応して形成され,その上に正孔注入・輸送層3が設けられ,さらにその上に有機発光層4(この図ではドーパントが存在する4aと存在しない4bに分けてある )が有機発 。
光層同士が隣接するR,G,B画素間で互いに分離するように形成さ, , れ 電子輸送層6が隣接する画素間で隙間を生じないように形成され隣接有機発光層の隙間に電子輸送層6が充填されている。また,電子輸送層は一様な膜として形成されている。
…【0016】また,本発明の異なる形態においては,図4に示すように有機発光層または電子輸送層の少なくとも一方が,隣接画素間で接するように形成される。この図のように,有機発光層と電子輸送層の両方が隣接画素間で接するように形成されていてもよい。
【0017】また,有機発光層または電子輸送層の少なくとも一方が,隣接画素境界で重なりあうようにしてもよい。この場合,発光部の上では重ならないようにすることが好ましい。
【0018】【実施例】以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【0019 [実施例1]本実施例を図2,図3を参照して説明する。 】まず図3に示すように,透明基板として厚さ1.1mmのガラス基板1に,スパッタによりITO膜2を厚さ20nmに形成し,リソグラフィーとウェットエッチングにより陽極電極を形成した。シート抵抗は15Ω/□で,配線ピッチ40μmのストライプ形状とした。
【0024】このようにRGB3色の有機発光層を形成した後,図3に示すように電子輸送層としてアルミキノリン錯体(Alq)層16を35nm厚に蒸着により形成した。このとき,14R,14G,14Bで示す各有機発光層の間は,Alq層16で充填される。
【0030 [実施例2]本実施例を図4を参照して説明する。まず, 】実施例1と同様に厚さ1.1mmのガラス基板に陽極としてスパッタによりITO膜を20nmを形成し,リソグラフィーとウェットエッチングにより透明電極を形成した。シート抵抗は,15Ω/□で,配線ピッチは40μmとした。
【0032】その上に,図5(a)に示すように,各表示色の画素に対応するストライプ状の窓パターン(1ドット+スペース分の幅120μmの窓,2ドット+スペース分220μmのマスク部)をもつメタルマスク8を基板に,ほぼ接して(50μm以下)配設した状態で,レッドの有機発光層14Rとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてDCM(ドーピング濃度15wt%)を25nm共蒸着し,引き続き同じマスクを用いて,電子輸送層16Rとしてアルミキノリン錯体を30nm厚に蒸着により形成した。
【0033】続いて,図5(b)に示すように,G画素に対応する個所までメタルマスク8をスライドさせ,R画素と同様に,グリーンの有機発光層14Gとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてキナクリドン(ドーピング濃度10wt%)を25nm共蒸着後,引き続き電子輸送層16Gとしてアルミキノリン錯体を30nm厚に蒸着により形成した。
【0034】最後に,同様にB画素に対応する個所までメタルマスク8をスライドさせ,ブルーの有機発光層14Bとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてペリレン(ドーピング濃度3wt%)を25nm共蒸着後,引き続き電子輸送層16Bとしてアルミキノリン錯体を30nm蒸着により形成した。
【0035】このように,RGB3色の有機発光層および電子輸送層をそれぞれの異なる色同士で接するよう形成した後,Al:Liを共蒸着により30nm,その後アルミニウムのみを150nm蒸着して陰極7を形成した。
【図面の簡単な説明】【】 。 図1 本発明の多色発光有機ELパネルの1実施形態を示す図である【】 。 図2 実施例1の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である【図3】実施例1の多色発光有機ELパネルの構成を示す図である。
【図4】実施例2の多色発光有機ELパネルの構成を示す図である。
【】 。 図5 実施例2の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である【図6】従来の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である。
【図7】従来の多色発光有機ELパネルの構成を示す図である 」。
(カ)一方,上記[実施例1]の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である図3の記載は以下のとおりである。図中14Rはレッドの有機発光層,14Gはグリーンの有機発光層,14Bはブルーの有機発光層である。
(キ)また,上記[実施例2]の多色発光有機ELパネルの製造方法を示す図である図4の記載は以下のとおりである。
(ク)上記(カ)(キ)によれば,訂正発明1・6と,請求項1を引用する請求項2に係る発明である訂正発明2,請求項1又は2を引用する請求項,「(「」) 4に係る訂正発明4は いずれも 有機発光層同士は 請求項6は を」 , 隣接する全ての画素間で互いに分離 していることを発明特定事項とし訂正発明3・5・7は 「有機発光層が(請求項7は「を,隣接画素 , 」)間のスペース部内のみで重なり」合うようにすることを発明特定事項としているところ,?@訂正発明1,2,4,6については上記発明の詳細な説明の段落【0006】及び【0007】の各第1文 「本発明の1 ,形態」を説明する段落【0011】ないし【0015[実施例1]の】,説明である【0019】ないし【0029【図2】及び【図3】が, 】,?A訂正発明3,5,7については段落【0006】及び【0007】の各第2文 「本発明の異なる形態」を説明する段落【0016】ないし ,【0017[実施例2]を説明する段落【0030】ないし【004 】,3【図4】及び【図5】が,それぞれ対応した発明の詳細な説明の記 】,載及び図面となっていることが明らかである。
そうすると,訂正発明1・2・4・6と訂正発明3・5・7は,発明の詳細な説明及び図面においても,対応する記載は明確に区分されているとともに,それぞれで完結した内容となっていることも明らかというべきである。
( )上記( )及び( )によれば,原告からなされた平成18年9月13日付け312の本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1〜7を新請求項1〜7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。本件における上記のような扱いは,原告が削除を求めた新請求項3・5・7は,その他の請求項とは異なる実施例( 本発「明の異なる形態「実施例2 )に基づく一群の発明であり,発明の詳細な 」,」説明も他の請求項に関する記載とは截然と区別されており,仮に原告が上記手続補正書で削除を求めた部分を削除したとしても,残余の部分は訂正後の請求項1・2・4・6とその説明,実施例の記載として欠けるところがないことからも裏付けられるというべきである。
そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。
3訂正発明3・5・7についての独立特許要件の有無(取消事由3)について本件訴訟の審理の経過に鑑み,念のため,取消事由3についても判断する。
( )原告は,審決は先願発明の1の認定を誤り,訂正発明3,5,7との相1, 。 違点も看過しているとして 具体的には以下の?@ないし?Cの4点を主張する?@審決が,先願発明の1に示されているのは発光層パターンおよび開口部の幅をピッチと等しい100μmに設定することのみであり,先願発明の1においてすべての発光層パターンが重なっていると認定したのは誤りである。
?A審決は先願発明の1につき,発光層のパターニングの条件として,発光層パターンと開口部の幅を同じように設定できる条件設定を含むものと認定したが,シャドーマスクによるシャドー効果が存在することは技術常識であるから,先願発明の1ではすべての有機発光層を重ねるという構成は開示されていない。
?B先願明細書に記載されたシャドーマスクの開口幅と移動ピッチ寸法幅から有機発光層の重なり代が5μmであることを計算する動機付けを持つためには本件訂正発明3に接することが必要であるとともに,上記シャドー効果があるためにシャドーマスク開口幅と有機発光層パターンの幅とは一致しないから,先願発明には隣接する有機発光層を重ねるという技術思想は開示されていない。
?C審決は,訂正発明3の「スペース部内のみで重なりあう」の「のみ」の点については先願発明の1と相違するところ,この相違点を看過している。
そこで,以下判断する。
( )先願明細書(甲8)には,以下の記載がある。
2ア先願発明は,発明の名称を「有機電界発光装置の製造方法」とするものであり,その請求項1の記載は以下のとおりである。
「1.基板上に形成された第一電極と,少なくとも有機化合物からなる発光層を含み前記第一電極上に形成された薄膜層と,前記薄膜層上に形成された複数の第二電極とを含み,前記基板上に複数の発光領域を有する有機電界発光装置の製造方法であって,少なくとも一部分が前記薄膜層の厚さを上回る高さをもつスペーサーを前記基板上に形成する工程と,開口部を横切るようにして形成された補強線を有するシャドーマスクを前記スペーサーに密着させた状態で蒸着物を蒸着せしめることによりパターニングする工程とを含むことを特徴とする有機電界発光装置の製造方法 」。
イまた先願明細書には 「本発明の製造方法によって製造された有機電界 ,発光装置の一例を図1〜3に示す(8頁10行〜11行)とし,これに 。」関連して以下の記載がある。
「…図1〜3に示した単純マトリクス型発光装置においては,実用レベルでの各発光領域の典型的な横方向ピッチとして100μmという数値を例示することができる。この場合に第一電極の幅が70μmとすれば,第一電極の幅より大きく,隣接する第一電極上には重ならないように,発光層パターンおよび開口部の幅をピッチと等しい100μmを中心とした値に設定することが好ましい(19頁5行〜11行) 。」, () ウまた 先願明細書の図1〜3の図面の簡単な説明 5頁10行〜13行及び図面自体は以下のとおりである。
・図1(本発明によって製造された有機電界発光装置の一例を示す平面図 )。
・図2(図1のII’断面図 )。
・図3(図1の?U?U’断面図 )。
エ上記図1〜3によれば,隣接する第一電極(図中符号2)の上方には,発光層パターン(同6)が配置され,発光層パターンは第一電極の幅よりも大きく図示され,隣接する発光層は,互いに隣接する第一電極間の中間で接していることが図示されていることが分かる。
そして,上記のとおり「発光層パターンおよび開口部の幅をピッチと等しい100μmを中心とした値に設定することが好ましい」と記載されていることからすると,発光層パターンと開口部の幅は,100μmを中心とした略同じ寸法とすることが先願明細書に記載されているといえる。
オ(ア)さらに先願明細書(甲8)には,実施例1として,以下の記載がある。
実施例1発光層パターニング用として,図17に示したようにマスク部分と補強線とが同一平面内に形成された構造のシャドーマスクを用意した。シャドーマスクの外形は120×84mm,マスク部分31の厚さは25μmであり,長さ64mm,幅305μmのストライプ状開口部32がピッチ900μmで横方向に92本配置されている(27頁14行〜20行) 。」「上記のようにして,図32〜34に模式的に示すように,幅270μm,ピッチ300μm,本数272本のITOストライプ状第一電極2上に,パターニングされたRG発光層6およびB発光層を兼用する電子輸送層7を含む薄膜層10が形成され,前記第一電極と直交するように幅750μm,ピッチ900μmのストライプ状第二電極8が66本配置された単純マトリクス型カラー発光装置を作製した。RGBからなる3つの発光領域が1画素を形成するので,本発光装置は900μmピッチで90×66画素を有する(30。」頁22行〜31頁3行)「第一電極は…ITO基板上にフォトレジストを塗布して,通常のフォトリソ法による露光,現像によってフォトレジストをパターニングした。ITOの不要部分をエッチングした後にフォトレジストを除去することで,ITOを長さ90mm,幅270μmのストライプ形状にパターニングした。図8に示したように,このストライプ状第一電極2は300μmピッチで横方向に272本配置されている(28頁9行〜18行) 。」(イ)図8(第一電極パターンの一例を示す平面図 )の記載は以下のと 。
おりである。
(ウ)上記によれば,実施例1には,RG発光層6およびB発光層を兼用する電子輸送層7を含む薄膜層の形成のため,発光層パターニング用としてのシャドーマスクには,305μm幅のストライプ状開口部がピッチ900μmで形成され,このシャドーマスクを300μmピッチで横に移動させながら各発光層6をパターニングして行き,90×66画素の発光装置を製作するものであること, 第一電極2は,幅が270μm,ピッチ300μmでパターニングされてなるものであるから,図8にあるように隣接する第一電極間に間隔があり,これが30μmであるものと理解することができる。
カ(ア)さらに先願明細書には,実施例2として以下の記載がある。
実施例2正孔輸送層を形成するまでは実施例1と同様に行った。
次に,第一の発光層用シャドーマスクを基板前方に配置して両者を密着させ,基板後方にはフェライト系板磁石(日立金属社製,YBM-1B)を配置した。この際,図18および図19に示したように,ストライプ状第一電極2がシャドーマスクのストライプ状開口部32の中心に位置し,補強線33がスペーサー4の位置と一致し,かつ補強線とスペーサーが接触するように,両者は位置合わせされている。
この状態でAlq3を30nm蒸着して,G発光層をパターニングした。次に,前記G発光層のパターニングと同様にして第二の発光層用シャドーマスクを使用し,1wt%のDCMをドーピングしたAlq3を40nm蒸着して,R発光層をパターニングした。さらに,同様にして第三の発光層用シャドーマスクを使用し,DPVBiを30nm蒸着して,B発光層をパターニングした。
それぞれの発光層は図20に示したようにストライプ状第一電極2, 。 の3本おきに配置され 前記第一電極の露出部分を完全に覆っているさらに,図21に示したような配置において,DPVBiを90n, 。 m Alq3を30nm基板全面に蒸着して電子輸送層7を形成したこの後に,薄膜層10をリチウム蒸気にさらしてドーピング(膜厚換算量0.5nm)した。
その後,第二電極のパターニングおよび保護層の形成は実施例1と同様に行った。
, ,, 上記のようにして 図1〜3に模式的に示すように 幅270μmピッチ300μm,本数272本のITOストライプ状第一電極上2上に,パターニングされたRGB発光層6を含む薄膜層10が形成され,前記第一電極と直交するように幅750μm,ピッチ900μmのストライプ状第二電極8が66本配置された単純マトリクス型カラー発光装置を作製した。RGBからなる3つの発光領域が1画素を形成するので,本発光装置は900μmピッチで90×66画素を有する(31頁21行〜32頁25行) 。」(イ)上記によれば,実施例2は,第一,第二,第三の発光層用シャドーマスクにより,G,R,Bの発光層をパターニングする場合について,実施例1と同様に,第一電極2は,幅が270μm,ピッチ30,, 0μmでパターニングするものであるから 隣接する第一電極間には30μmの間隔があるものと解することができ,また,上記のとおり「RGBからなる3つの発光領域が1画素を形成するので,本発光装置は900μmピッチで90×66画素を有する 」と記載されてい 。
ることから,シャドーマスクの開口部幅(305μm)について明記はされていないものの,実施例1と同様に,発光層パターニング用として,305μm幅のストライプ状開口部がピッチ900μmで形成されたシャドーマスクを300μmピッチで横に移動させながらG,R,Bの各発光層をパターニングしていると解され,それにより90×66画素の発光装置を製作するものであると理解することができる。
( )そうすると,審決が「…ストライプ状開口部の幅305μmと上記ピッ3チ300μmとの差の分が,前にパターニングされた発光層6の上に次にパターニングされた発光層の略5μm幅分として重なり,また,この重なりあいは,シャドーマスクを使用してのパターニングを300μmずつ横に移動させるパターニング作業に伴い次々に生じるものといえる(14頁14行。」),「, ,, 〜18行 として上記のことから 先願明細書の記載からみても また先願明細書及び図面の図示内容に基づき具体的に計算してみても,有機発光層が,隣接画素間のスペース部内で重なりあっているといえる(14頁1。」9行〜21行)と判断したことに誤りはない。
( )ア原告の主張?@について4(ア)原告は,上記発光層パターンおよび開口部の幅をピッチと等しい100μmに設定するとの記載から,開示されているのは,発光層パターン幅=シャドーマスク開口部幅=ピッチ幅=100μmという関係のみであるとするが,上記認定に照らし,採用できない。
(イ)また原告は,シャドー効果(マスクと蒸着源との間の角度により蒸着されない部分が出るという効果)が存在するために,有機発光層の幅よりもシャドーマスクの開口部の幅の方が広いことは,当業者に自明であるとし,また審決が先願発明の1について隣接するいずれの発光層パターン間にも隙間が実質的に存在しないと認定したのも誤りであると主張する。
この点に関し,先願明細書の図2には前記のとおり隣接する発光層パターンが接している状況が図示されているほか,以下の図11,図22でも同様である。
・・そして,上記( )イで認定した本件発明の製造方法によって製造され2た一例の記載,実施例1,2の記載によれば,マスクの幅がピッチ幅より5μm大きい先願発明の1においては,隣接するいずれの発光層パターンも重なっていると考えることができる。そうすると,審決の認定に誤りはないことになる。
(ウ)原告は,審決が認定したシャドーマスクの開口部の幅寸法は実施例1に示されているところ,その三色の有機発光層のうち,R層とG層は互いに隣接するが,B層は電子輸送層と兼用されているので,スペース部内のみで重なる構造ではなく,R層とG層(スペース部外のITO第1電極上)にも重なっており,訂正発明3の「隣接するスペース部内のみで重なり合っている」構造とは異なるとも主張する。
先願明細書には,上記(2)オ(ア)のとおり「実施例2正孔輸送層を形成するまでは実施例1と同様に行った(31頁21行〜22行 , 。」)「その後,第二電極のパターニングおよび保護層の形成は実施例1と同様に行った(32頁16行〜17行)と記載されており,実施例2は 。」実施例1と基本的部分を共通にしている。そして実施例1は既に検討したとおり電子輸送層10をB発光層と兼用する点で訂正発明3と相違するが,実施例2は上記のとおり「第三の発光層用シャドーマスクを使用し,DPVBiを30nm蒸着して,B発光層をパターニングした。…それぞれの発光層は…第一電極2の3本おきに配置され,前記第一電極の露出部分を完全に覆っている。さらに,図21に示したような配置において,DPVBiを90nm,Alq3を30nm基板全面に蒸着して電子輸送層7を形成した(32頁7行〜14行)とあるように電 。」子輸送層と有機発光層のB層とをそれぞれ別の工程で形成するもののであり,DPVBiという同じ物質を用いているにすぎない。
そして,本件訂正後の本件明細書(甲4)においても,有機発光層と電子輸送層の材料につき以下の記載がある。
「 0034】最後に,同様にB画素に対応する個所までメタルマ 【スク8をスライドさせ,ブルーの有機発光層14Bとしてアルミキノリン錯体にドーパントとしてペリレン(ドーピング濃度3wt%)を25nm共蒸着後,引き続き電子輸送層16Bとしてアルミキノリン錯体を30nm蒸着により形成した。
【0042】尚,実施例2において,有機発光層のホストと電子輸送層に各色に共通して同じ材料を用いたが,各色ごとに独立して最適な異なる有機発光層のホスト材料および電子輸送材料を選択することもできる 」。
上記記載によれば,訂正発明3において電子輸送層と有機発光層で材料が同じであることが除かれるものとは解されないから,原告の主張は採用することができない。
イ原告の主張?Aについて(ア)原告は,先願明細書には,シャドーマスクと基板との間は離間されていること及びシャドーマスクには厚さが存在することが各々記載されている以上,シャドー効果は不可避であるから,発光層パターンと開口部の幅を同じように設定できるようなパターニング条件は存在しないと主張する。
(イ)しかし先願明細書(甲8)には,スペーサー4により形成された隙間で蒸着物の回り込みが発生することにつき 「図6および図7に示す ,ように,マスク部分31がスペーサー4と重なるように位置を合わせながら,このシャドーマスクをスペーサーに密着させる。この状態で第二電極材料14を蒸着することにより所望の領域に第二電極8を形成する。補強線33側から飛来してきた第二電極材料は,隙間36が存在するために補強線の影となる部分に回り込んで蒸着されるので,補強線によって第二電極が分断されることはない(20頁16行〜23行)と 。」記載されており,第二電極材料は回り込んで蒸着されるものである。また,同じように有機化合物からなる発光層を含む薄膜層も,スペーサー4による隙間36が存在するから,蒸着物の回り込みが発生するものと解される。
そして,実施例1により作製した発光装置については「本発光装置の発光領域は270×750μmの大きさでRGBそれぞれ独立の色で均一に発光した。また,発光層のパターニング時における発光材料の回り込みなどによる発光領域の発光色純度低下も認められなかった。また,回路内に発生した蓄積電荷を走査ライン選択切り替え時に放電する機能, , をもつ線順次駆動回路によって この発光装置を線順次駆動したところ明瞭なパターン表示とそのマルチカラー化が可能であった(31頁1。」3行〜20行)と記載され,実施例2により作製した発光装置も「本発光装置では電子輸送層が図2に示すように基板全面に形成されており,パターニング工程の簡略化と,すでに述べた発光装置の特性劣化を防ぐ効果をもつ構造である。各ストライプ状第二電極は,実施例1と同様に長さ方向に渡って電気的に十分低抵抗であり,短絡は皆無であった。作製した発光装置の発光領域は270×750μmの大きさでRGBそれぞれ独立の色で均一に発光した。また,発光層のパターニング時における発光材料の回り込みなどによる発光領域の発光色純度低下も認められなかった。また,実施例1と同様にこの発光装置を線順次駆動したところ,明瞭なパターン表示とそのマルチカラー化が可能であった(32。」頁下1行〜33頁10行)と記載されており,第一電極の幅270μmとそれに直交する第二電極の幅750μmに沿って,発光領域が270×750ミクロンとなるように,パターニングの条件に沿った発光装置が得られることが記載されているといえる。
そうすると,先願明細書には,シャドーマスクと有機発光層との間には,離間距離(隙間)を設けること,及び,マスクの厚さが存在することが記載されているが,蒸着材料の回り込みによりマスク開口部の幅と同じように発光層パターンを設定することができることが記載されているといえるから,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ)また原告は,蒸着源の蒸着物質は,加熱されて上方に向かって放射状に広がって基板に蒸着されるので,蒸着源の真上から横方向にずれればずれるほど,基板への入射角は小さくなって,隣接発光層の重なりはなくなるうえ,シャドー効果の影響が無視できるような条件設定は先願明細書には開示されていないと主張する。
この点につき先願明細書(甲8)には 「第二電極材料の蒸着条件は ,特に限定されるものではなく,1つの蒸着源から蒸着してもよいが,補強線による第二電極の分断を発生させにくくするためには,補強線に対して複数の異なる方向から第二電極材料を補強線に回り込んで蒸着せしめることが効果的である。このような効果を発現させる方法としては,蒸着物が蒸着源から基板まで直進的に到達する真空蒸着法などの高真空プロセスを用いる場合には,複数の蒸着源から第二電極材料を蒸着したり,1つ以上の蒸着源に対して基板を相対的に移動させながら,もしくは回転させながら第二電極材料を蒸着する方法が工程的には好ましい。
また,スパッタリング蒸着法などの低真空プロセスも,原理的に第二電極材料がランダムな方向から飛来して補強線を回り込んで蒸着されやすいので,好ましい方法である(21頁6行〜17行)と記載されてい 。」るように,蒸着条件を改善するための方法として 「蒸着源を複数にす ,る」こと 「蒸着源又は蒸着対象を移動又は回転させる」こと 「真空プ , ,ロセスを用いる」ことも記載されている。そうすると,これら手段によりマスク開口部の幅と同じように発光層パターンを設定できるようにすることを開示しているといえる。
さらに先願明細書(甲8)には 「本発明の製造方法は,少なくとも ,一部分が薄膜層の厚さを上回る高さをもつスペーサーを基板上に形成する工程と,開口部を横切るようにして形成された補強線を有するシャドーマスクをスペーサー層に密着させた状態で蒸着物を蒸着せしめることによりパターニングする工程とを含むことを特徴とする。例えば,図1のII II’断面図である図3に示すように,薄膜層10の厚さを上回る高さをもつようにスペーサー4を基板1上に形成しておく。薄膜層などの形成の後に,図4および図4のII’断面図である図5に示すような補強線33を有するシャドーマスクを,前記スペーサーに密着させた状態で,図6および図6の側面図である図7に示すように蒸着物を蒸着せ。, しめることにより第二電極8をパターニングすることができる この際シャドーマスクはスペーサーに密着するので薄膜層を傷つけることを防止できる。また,このシャドーマスクのマスク部分31の一方の面35と補強線との間には隙間36が存在するので,蒸着物をこの隙間に回り込んで蒸着せしめることにより,第二電極を補強線によって分断されることなくパターニングすることができる(14頁8行〜24行)と記 。」載されており,補強線を有するシャドーマスクをスペーサー層に密着させた状態で蒸着物を蒸着せしめること,すなわち,補強線によりシャドーマスクを補強し,シャドーマスクの開口部の形状の変形を防止すること,及び,シャドーマスクと有機発光層との隙間による蒸着材料の回り込みが生じることが記載されている。
そうすると,仮に原告のいうシャドー効果があったとしても,上記のとおり蒸着時の回り込みが発生し,その回り込み量を各製造方法により調整することにより,マスク開口部の幅と同じように発光層パターンを設定し,製作することが可能であることが先願明細書に示されているということができるから,原告の上記主張は採用することができない。
ウ原告の主張?Bについて原告は,当業者が,先願明細書に記載されたシャドーマスクの開ロ幅と移動ピッチ寸法幅から,有機発光層の重なり代が5μmであることを計算する動機付けを持つためには,訂正発明3に接することが必要であって,先願明細書において,隣接する有機発光層を重ねるという技術思想は,開示されていないから,蒸着方向が略90度であることを読み取って,なおかつシャドーマスクの開口部の幅とピッチ幅に基づいて有機発光層の幅を具体的に計算しなければ,隣接有機発光層の5μmの重なりは,導き出すことはできないと主張する。
しかし先願明細書に隣接する有機発光層を重ねることについての開示がされていることは既に検討したとおりであり,先願明細書には「発光層パターニング用として,図17に示したようにマスク部分と補強線とが同一平面内に形成された構造のシャドーマスクを用意した。…マスク部分31の厚さは25μmであり,長さ64mm,幅305μmのストライプ状開口部32がピッチ900μmで横方向に92本配置されている(27頁。」14行〜20行)と記載されていることから,隣接発光層の重なりは,5μmとなることは明らかといえる。原告の主張は採用することができないエ原告の主張?Cについて原告は訂正発明3は 「スペース部内のみで重なりあう」 ことを特定し ,ているので 「のみ」という構成を有する点において,先願発明の1と相 ,違しており,審決は,これを看過していると主張する。
しかし,先願明細書(甲8)には「第一電極は…ITO基板上にフォトレジストを塗布して,通常のフォトリソ法による露光,現像によってフォトレジストをパターニングした。ITOの不要部分をエッチングした後にフォトレジストを除去することで,ITOを長さ90mm,幅270μmのストライプ形状にパターニングした。図8に示したように,このストライプ状第一電極2は300μmピッチで横方向に272本配置されている(28頁9行〜18行)と記載されており,マスクのストライプ状開 。」口部32の幅は305μmで,ピッチは900μmである。有機発光層がRGB3色であることを考慮し,さらに,既に上記で摘示した先願明細書に記載された図2,図11等の記載内容からしても,電極と発光層との各パターンの中心を敢えてずらすとする根拠は示されていない。
そうすると有機発光層の幅305μmの内,両端の重なりは5μmずつであり,重なり部分のない発光層パターン295μmに対し,ITOパターンの幅は270μmであるので,発光層パターン両端の5μmの重なり部分は,当然ITOパターンの間の隙間に位置すると理解することができる。これは訂正発明3における「スペース部内のみで重なりあう」構成と実質的に同一であるといえるから,審決の認定に誤りはない。原告の主張は採用することができない。
オ以上の検討によれば,原告主張の取消理由3は理由がない。
4結語以上によれば,原告主張の取消事由1は理由があり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 今井弘晃