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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ネ2563特許権侵害差止等請求控訴事件 平成16ネ3016附帯控訴事件 判例 特許
平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ11981特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ12631特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ29850職務発明等に対する相当対価等請求事件 判例 特許
関連ワード 新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  上位概念 /  下位概念 /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  単一性 /  遡及 /  分割出願 /  実施料相当額 /  クレーム /  原出願日 /  出願経過 /  均等 /  均等論 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  置換容易性 /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  権原 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 12773号 損害賠償請求事件
原 告X
被 告株式会社ナナオ
訴訟代理人弁護 士阿部隆徳
訴訟代理人弁理 士杉谷勉
補佐人弁理士戸高弘幸
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/05/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告は,原告(原告代表X)に対して特許実施料相当額として少なくとも損害賠償9600円を支払え。
第2事案の概要本件は,被告が製造販売する液晶テレビに使用されている表示装置が,原告が特許権者である特許権の技術的範囲に属し,被告の同テレビの製造販売行為が原告の特許権を侵害するとして,原告が,被告に対し,特許権に基づき,特許権侵害による実施料相当額の損害賠償金の支払を求めた事案である。
第3前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠等により認められる。)1特許権原告は,次の特許の特許権者である(以下,この特許を「本件特許」,その特許権を「本件特許権」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)。
発明の名称表示装置出願日平成15年10月2日(特願2003-344634)原出願日平成7年6月14日(特願平7-147445の分割)登録日平成16年6月25日特許番号特許第3569522号特許請求の範囲別紙特許公報(甲2)のとおり2構成要件の分説(1)請求項1本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は,次のとおり分説することができる。(以下,その記号に従って「構成要件A」などという。後記請求項2についても同じ。)ALCDを備え,B前記LCDに異なる画像を順次表示する場合において,C前記LCDに1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する毎に,前記LCDに全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することを特徴とするD表示装置。
(2)請求項2本件特許の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下「本件発明2」といい,本件発明1と併せて「本件発明」という。)は,次のとおり分説することができる。
E前記LCDにおける前記全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数を,前記映像信号のそれよりも高くするようにしたことを特徴とするF請求項1に記載の表示装置。
3被告の行為被告は,型式番号VT32XD1及びVT23XD1の各液晶テレビを製造,販売している(以下,VT32XD1型の液晶テレビを「32型」といい,VT23XD1型の液晶テレビを「23型」といい,これらを併せて「被告製品」という。)。
第4争点1被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(争点1)2本件特許の無効事由の有無(争点2)3本件特許権の侵害による損害額(争点3)第5争点に対する当事者の主張1被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について(1)原告の主張ア被告製品の構成(ア)被告製品の構成aLCDを備え,b前記LCDに動画像を順次表示する場合において,c前記LCDに1フレーム分の映像信号を時間軸圧縮(周波数を高く)して入力する毎に,表示期間の間に黒を挿入することを特徴とするd表示装置。
e前記LCDにおける画面走査時の入力映像信号を時間軸圧縮して表示して黒挿入するf請求項1に記載の表示装置。
(イ)構成c(黒挿入)に関する被告の主張について被告は,平成19年2月20日付け被告第1準備書面24ページの図5(別紙1の右側の「イ号」についての図。以下「被告図5」という。)において,被告製品の黒挿入の方法が,1フレームの間に帯状が上から下に移動する図を示すが,被告図5は,被告のパンフレット(甲17。以下「被告パンフレット」という。)の23ページに示されている23型の黒挿入についての図(別紙2の左上「OCB液晶パネル(VT23XD1)」の右下「OCBパネル+黒挿入」と題する図。以下「パンフレット図」という。)と,その技術的内容が全面的に矛盾する。
被告図5は23型の図であるところ,被告は,32型について,どのように黒挿入して,「全画面黒表示」とはどのような関係になるのか一切説明していない。
被告が被告製品の写真として提出する乙8は,シャッター速度が明示されていないため,技術的証拠としては不足する面があり,23型の写真は,黒帯挿入というよりは黒画面に近い画面である。
被告は,被告製品の説明において,1フレームのスタート時点で上に黒帯があって映像表示が完結し,その完結した映像は次のフレームまで継続しているように見えるが,これは映像表示技術としてどのように説明されるのか,また,その上に黒帯が走る(1フレームに対応する表示期間内に行う。)というのはどういう信号処理なのか,また,液晶ディスプレイにおいては,上から下へ順次表示を進めて映像を完成させるだけのことであるから,黒帯が上から下まで順次移動するというのは,どのような技術をもって可能なのか説明を求める。1フレーム期間内では,黒帯は画面上で1か所しか表示できないにもかかわらず,どのような信号処理で可能なのか,映像技術者として明確な説明をいただきたい。
イ本件発明の構成要件充足性(ア)構成要件の充足被告製品の構成aないしfは,それぞれ構成要件AないしFを充足する。
(イ)本件発明の技術的範囲に二次元映像表示装置が含まれることについて(構成要件B,D)被告は,構成要件B,Dについては,立体映像表示装置であることを前提として充足性を判断すべきであると主張する。しかし,本件発明は,次のとおり,二次元映像表示装置も含む。
?T「特許請求の範囲」の文言等本件発明の「特許請求の範囲」はもちろん,本件明細書の発明の詳細な説明にも,「立体」の表示装置に限定する旨の文言はない。
?U出願経過等a)原出願についての審査官の認識本件特許に係る出願(以下「本件出願」という。)は,分割出願されたものであるが,その原出願(特願平7-147445,甲3。以下「本件原出願」といい,その願書に添付された明細書及び図面を「本件原出願明細書」という。)は,「産業上の利用分野」を「立体映像表示装置に関するもの」としていた。
これに対し,特許庁は,本件原出願には2以上の発明が含まれており,発明の単一性を満たさないとして,特許法37条により拒絶理由の通知をした。その拒絶理由通知書(以下「本件原出願拒絶理由通知書」という。)には「請求項21に係る発明は,倍速走査によりフリッカーを低減する発明であり」「請求項22〜26に係る発明は,LCDを用いた(但し,クレーム中では規定されていない)場合にも,方向像を時間的に分離する発明である。」と記載されていた(同記載は,対象となる表示装置は立体映像表示装置に限定されない趣旨も含むものである。)。
このように,審査官は,本件原出願は立体映像表示装置と二次元の表示装置の双方を含んだ発明であると理解していた。
b)本件原出願の補正本件原出願の出願人は,本件原出願について「請求項21〜26等を削除したので,本願は特許法27条の要件を満足するものと思料する」旨の意見書を提出したが,特許庁では,何の異論も示されずに適法であると認められて受理された。
また,本件原出願の請求項15(後に特許査定された特許第3516774号〔甲11〕の請求項8)に関する記述及び本件原出願明細書の【0112】では,立体映像表示装置と二次元の表示装置の双方を技術的範囲に含む旨の記載があるところ,本件原出願の出願人は,請求項15は,本件原出願に帰属させて,請求項1の従属項とする意見を出したが,特許庁では,何の異論もなかった。
c)本件出願の名称変更等の意図本件原出願当時の技術については,NIKKEI MICEODEVICEの1995年10月号及び11月号で,当時80msec程度であった液晶の応答速度の向上の必要性が説かれており,2000年4月にようやく「1フィールドの1/3〜2/3の期間黒レベルを挿入する」ことが論文発表され,本件発明の1フィールド期間すなわち16.5msec以内の応答速度が実現したとき,黒挿入駆動によりCRTと同等の映像特性を得ることは,本件原出願当時新規であった。
また,前記のとおり,本件原出願拒絶理由通知書には「請求項22〜26に係る発明は,LCDを用いた…場合にも,方向像を時間的に分離する発明である。」「請求項21に係る発明は,倍速走査によりフリッカーを低減する発明であり」と記載され,「方向像を時間的に分離する」とは,CRTディスプレイと同等な特性を持つ表示装置すなわち疑似インパルス化技術による面順次走査液晶をいうものと解されるので,本件原出願は,液晶表示装置においてフリッカーの概念を示した最初の特許であり,フリッカーフリーにするため,黒挿入駆動を採用して画像と黒を1/120秒ごとに交互に表示してフィールド周波数60HZの画像を表示しインパルス型の表示に近づけるものであった。
そこで,本件発明が「立体表示装置」に限る課題ではなく,面順次走査液晶表示器の画像一般に対する課題である疑似インパルス化技術に関する発明であることを示すため,発明の名称を「立体映像表示装置」からLCD一般が対象となる「表示装置」に変更し,立体映像表示と平面映像表示の双方を表示することを包摂した発明の名称「表示装置」として出願したのである。
d)本件出願についての審査官の認識分割後の本件出願について作成された書類である早期審査に関する事情説明書(甲7),先行技術調査報告書(甲8),特許庁審査官の特許メモ(甲9)において,本件原出願当時,本件発明を技術的範囲に含む先行技術はなかったことが明らかにされているが,特に,特許メモにおいては,「左右視差画像等の異なる画像」と記載され,「左右視差画像」の後に「等」が付されていることから,審査官は,「異なる画像」は「左右視差画像」に限定されないという認識であった。
本件出願に係る出願情報(甲10)においては,「審査官フリーワード記事」に,「5C082黒画面」が新規に記載されており,これは本件原出願の審査時とは別に,本件出願について新たに設定されたキーワードであるから,審査官は,本件発明が「全画面黒表示の信号処理を行う液晶パネルを備えた表示装置」であって立体映像表示装置には限定されないと認識していたことは明らかである。
e)本件明細書の記載本件明細書【0014】【0027】において「通常の2次元映像を表示する場合でも」「通常の2次元映像表示装置に切り替えた場合に」という記載があることからも,本件発明に二次元映像表示装置が含まれることは明らかであるなお,本件明細書に立体映像表示装置に関する記載が含まれるのは,本件原出願に立体映像表示装置に関する発明が含まれていたためであり,特許法44条1項により,本件原出願に係る明細書を元に,本件明細書を再構築したことによる。
?V映像表示の仕組み両眼視差の原理で立体映像を認識する立体映像表示装置において,映像を表示する装置は,CRT,LCD,PDPなど,平面映像を表示する装置と同一のものであり,表示される画像の内容が異なるにすぎない。
そして,立体映像と平面映像の差異は,立体映像に表示された対象が奥行き方向に変化すると両眼視差に対応した左右眼用に異なる画像が表示されるのに対し,平面映像では表示された対象が奥行き方向に変化しても大きさや位置が変化するだけで,左右眼用に異なる画像は表示されないにすぎない。そのため,立体映像でも表示された対象が平面内でしか移動しない画像の場合,そこに表示された映像は画像であり,かつ平面内で移動しているため時間的に「異なる画像」が表示されている。この場合,立体映像表示装置が表示する立体画像は,平面画像で時間的に「異なる画像」である。このように,立体画像は平面画像を包摂しており,立体映像表示装置による発明が平面しか表示しない平面映像表示装置にも適用されることは自明である。
具体例として,二次元アニメーションでは,背景,動く対象のいずれも平面であり,画像上のあらゆる部分で平面画像と全く同一である。このように対象物が平面内を移動する二次元アニメーション画像においては,本件発明も,被告製品も,同一対象に,同一目的で,同一手段をもって,同一作用によって,同一効果を得ているのであり,被告製品が二次元映像装置であっても,本件発明の技術的範囲に属することは明らかである。逆に,ある平面映像装置が本件発明の技術的範囲に属しないというのであれば,最低限,二次元アニメーションは表示しないように構成される必要があるが,被告製品にはそのような制限は設けられていない。
(ウ)被告製品は立体映像表示装置の機能を有する表示装置であるから,構成要件B,Dを充足する。
被告製品に立体画像信号を入力して立体映像を表示することは可能であり,被告製品にそれを制限する構成は設けられていない。すなわち被告製品は,外部入力端子を有しており,外部入力端子から表示可能な信号として,「左右信号」を含んでおり,もし,被告製品が「動画像」のみを表示するというのであれば,「左右画像」が外部入力から入力されても「左右信号」は表示しないことを証明しなければならない。「左右画像」の信号は通常のVHSテープなどで記録及び再生可能な信号であり,表示装置に外部入力がありさえすれば,再生表示を行うことは可能であり,被告製品には外部信号入力が備わっているので,「左右画像」を表示することが可能である。被告製品のカタログや現物を見る限り,「左右画像」を入力できないようにする回路上の処理機能も,「左右画像を入力することは禁じている」との文言もない。
また,ディスプレイとしてCRTを使用し,アタッチメントとして素子ドライバ及びシャッタメガネを使用して,これにより時分割による左右画像の交互の表示を行って立体画像を表示する技術が公知であるところ,本件発明は,CRTと同等な特性を持つLCDの発明であり,被告製品もCRTと同等の機能を有している。CRTは,本来面順次の平面画像を表示する物であるが,それにアタッチメントを追加させることにより面順次すなわち時分割すなわち左右画像を交互に表示して立体画像を表示し,可逆的にアタッチメントをはずして平面画像を表示する。
(エ)「異なる画像」には動画像が含まれることについて(構成要件B)「異なる」とは広辞苑によると「あるものが他のものと同じでない」とされており,「異なる画像」とは,連続する画像信号が時間的に変化している画像全般,すなわち立体画像,平面画像の両方をいうものである。本件発明が,立体映像表示装置と二次元映像表示装置の双方を含むものであることは前記のとおりであるが,「異なる画像」という文言も,立体映像と平面映像の双方を含み,本件明細書【0027】においても,「異なる方向像とせず…通常の2次元映像を表示する場合でも」という記載があり,「異なる」は方向像,すなわち立体映像と二次元映像の両方の映像を一体として説明するものであることが明らかである。
また,動画像とは,異なる画像を順次表示させることで動きを表現するものであり,両眼視差によって立体視を表現させる場合,静止画像であっても両眼視差を表現するために異なる画像が順次表示される。
このように,「異なる画像を順次表示させる」とは,動画像を含む上位概念であり,動画像とは,異なる画像を順次表示させることに含まれる下位概念であるから,構成bは構成要件Bを充足する。
(オ)「全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力」について(構成要件C)?T被告製品において黒挿入がされていること被告製品は,パンフレット等(甲15ないし17)において,「クリアな動画画像のために「黒挿入技術」を新採用液晶パネルの応答速度だけでは解決しきれない動画応答性能向上のために,映像の変わり目に黒い画像を差し込むことで残像を減らす「黒挿入技術」を採用しています。」「映像のフレーム間に一旦,黒を挿入することによって,残像感を抑え,より一層ボケを抑えることに成功しました。」「「黒挿入技術」につきましては,画面が更新される1フレームごと(1/60秒)に1回黒帯が挿入されます。(実際には画面の上から下に向かって帯が流れます。高速ビデオで画面を撮ると見えます)これは,フレームとフレームの間の残像効果を低減されるために用いられています。」「黒挿入技術を理想的なレベルで採用」と説明されている。また,被告のホームページ(甲16)では,時間経過と輝度変化の関係を示す図面において,1フレーム分の入力信号の変化のうち後半部分に輝度が著しく低い部分があり,「映像のフレーム間に一旦黒を挿入」と記載されている。
?U23型について被告パンフレットでは,23型について,OCB液晶パネル(製造供給は東芝・松下ディスプレイテクノロジー)を搭載している旨記載され,パンフレット図では,入力信号につき,黒信号と白信号の連続を1フレームの信号として表し,信号レベルが著しく低い部分につき「黒挿入」の文言がある。
パンフレット図において,1目盛りが4msecとされているが,これを前提とすると,異なる画像のフィールド周波数は60Hzであることと矛盾するので,2目盛りを4msecとし,立ち上がり時間4msec(A点からC点),立ち下がり時間1msec,8目盛りで1フィールド16.8msec(60Hz,A点からH点まで)とし,1フィールドの中間点(8.4msec,E点)までに倍速表示(120Hz駆動)の映像信号を挿入するとすれば,原告の平成19年2月26日付け準備書面(その9)の4ページの?Dの図(別紙3の図。以下「原告作成図」という。)のとおり,映像が完成するのは映像信号挿入スタート(A点)から12.6msec後のG点となり,信号を挿入しない期間(4.2msec,E点からG点)の次の4.2msec区間(G点〜H点〜A点)で黒映像信号を挿入するとすれば,少なくともA点では全黒画像となる。
23型は,二筆書きで黒挿入を行っているが,二筆書きの場合は,黒帯が細いことが特徴である。
?V32型について32型については,被告パンフレットでは,IPSモード(液晶パネル製造供給はIPSアルファテクノロジー,日立・松下・東芝の合弁)を採用したとあり,液晶パネルはパネルメーカーから購入しているが,液晶パネルには液晶,バックライトが一体化されており,単一の映像信号源から画像を表示する際に液晶パネル内部の制御回路で黒挿入を行っている(この点は被告が自認している)。
日立のカタログによれば,IPSαパネル搭載液晶テレビでは,「倍速スーパーインパルス表示技術」が採用されており,「1秒間に60コマの元の映像を,2倍の120コマに変換。動画の残像を軽減する黒のデータを挿入することで大幅に動画ぼやけを解消します。」とある。原告が,日立製W32L-H9000(前記のIPSαパネル搭載液晶テレビ)を使用して,横方向に罫線を入れた全白画面のビデオ信号を入力し,高速写真撮影したところ,シャッター速度1/60秒(開放時間16.8msec)では黒挿入は確認できないが,シャッター速度1/2000秒(開放時間0.5msec)では,全黒画像,全白画像,上方が黒の画像,下方が黒の画像が確認できた。32型は,一筆書きで黒挿入を行っている。
?W被告製品において黒挿入を完了するまでに要する時間パンフレット(甲15)では,「液晶パネルの応答速度5msecを達成しました」とあり,液晶1素子の応答速度すなわち立ち上がりと立ち下がりの時間の和が5msecであると解釈されるので,1フレーム分の画像の表示を完結するには,10ないし12msec要すると考えられる。
また,被告製品(32型)の画面を1/1000秒の露出によりフィルム撮影した写真撮影結果(甲16)によると,連続して撮影したので,黒帯が上から下に移動し,約1/4が黒画面化しており,被告のホームページの中でメールで問い合わせをした返信メールによると,1/60秒ごとに1回黒帯が挿入されるとのことなので,1/250秒(4msec)で黒挿入が完了する。
これらの和は14ないし16msecであり,16.5msec以内すなわち1フレームごと(1/60秒)であるから,上記の返信メールの文言とも合致する。
パンフレット図からも,画像信号挿入時間は10msec,黒挿入時間は6msecであることがわかる。
?X被告製品における黒挿入の効果前記のとおり,被告製品のパンフレット等においては,「黒い画像を差し込む」ことの効果として,「残像効果を低減」「残像感を抑え,より一層ボケを抑える」等と記載されており,これは「前後の映像を時間的に分離」と同じ意味である。
?Yまとめ以上のとおり,構成cは,画像の一部に入力された黒信号を移動させることで全画面に黒信号が入力されるものであり,このように帯状の黒信号を上から下へ,すなわち時間経過に従って挿入する場合においても,実質的な差異はないので,構成cは構成要件Cを充足する。
なお,液晶は,ゲート線に信号を入れればそこが表示されるところ,最初に1本目のゲートに信号を入れて表示させて,次に240本目のゲートに信号を入れて黒信号を入力することもできる。原告は,黒帯の幅を問題としているのではなく,黒帯が画面の上から下に移動して,黒信号が全画面にまんべんなく挿入されていること,すなわち目的が黒画面挿入であり,結果として黒挿入されていることが構成要件Cを充足すると主張するものである。
均等(構成要件C)仮に,被告製品について文言侵害が認められないとしても,被告製品は,本件発明と均等であって,本件発明の技術的範囲に属する。
(ア)本質的部分本件発明は,LCDが有する次の画像が入力されるまで画像の輝度が一定に保たれるホールド特性によって生じる画像劣化を疑似インパルス化によって軽減するために,次の走査信号が入力されるまで一定に保たれるはずの輝度を黒表示とするように,表示画面上の全ての液晶画素にフィールド又はフレーム分の映像信号を入力する毎に黒信号を入力させる黒挿入駆動が最大の特徴である。
(イ)置換可能性「全画面黒信号を入力」と「画像の一部に入力された黒信号を移動」との差違は,画像信号及び黒信号の走査速度や位相差の差違にすぎず,しかも画面上の全ての画素に対してフレーム期間の一定時間を画像表示によって発光させ,フレーム期間の残りの時間を黒表示によって非発光させるという黒挿入駆動に対して同一である。したがって,かかる画像信号及び黒信号の走査速度や位相差の差違により,作用効果になんらの差違が生じるものではない。
被告の「黒挿入技術」に関する資料(甲15)には「映像フレーム間に一旦,黒を挿入することによって,残像感を抑え,より一層ボケを抑える」という本件発明と同様の目的・作用効果が記載されている。よって,被告製品は,本件発明と同一の目的・作用効果を有する。
(ウ)置換容易性したがって,当業者が置換することは容易である。
(エ)容易推考性本件特許の審査経緯から明らかなとおり,本件発明の特徴は「黒挿入駆動を行うために1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する毎入力させた全画面黒信号」である。しかも,本件原出願以前には,「疑似インパルス化を行うために1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する毎に全画面黒信号を入力させたこと」が記載ないし示唆されている文献は存在しない。したがって,被告製品は,本件原出願当時において,公知資料などにより容易に推考しえたものではない。
(オ)意識的除外本件特許の審査経過において,全画面を黒表示させるために画像の一部に入力された黒信号を移動させることを除外する旨の特段の記載はない。
(2)被告の主張ア被告製品の構成(ア)認否被告製品が,原告が主張する構成aを備えることは認め,構成bないしfは否認する。被告製品は,原告の主張する構成b,c,dについては,次のとおりの構成を備えている。
b"前記LCDに動画像を表示する場合において,c"前記LCDに1フレーム分の映像信号を入力する毎に,前記1フレーム分のLCDの画像の表示時間内に,前記LCDに帯状黒表示を行わせるための帯状黒信号を入力し,この帯状黒表示された領域を画面の全体にわたって移動させるd"二次元映像表示装置。
(イ)構成bについて構成bについては,「動画像」とは内容が1連に変化する一方向の画像を順次表示されるものを意味するため,「順次表示する」では記載が重複してしまうので,これを考慮して,構成b"のとおり,「動画像を表示する」とすべきである。
(ウ)構成cについて構成cについては,黒信号が「LCDに全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号」であるか「LCDに帯状黒表示を行わせるための帯状黒信号」であるかは全く相違し,したがって,入力のタイミングも「1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する毎」であるか「1フレーム分に対応する表示期間内」であるかも全く相違し,これにより,「LCDに全画面黒表示」がなされるか「帯状黒表示」がなされるかの点において,被告製品は,構成c"のとおり,原告が特定した構成cと大きく異なる。
被告製品が「黒帯」を挿入し,これがテレビ画面上を上から下へ移動していることについては,乙8,14,15の写真に示されているし,原告自身が,甲16の第6図において,「TV画面内に黒帯が表示されていることが撮影され」「黒帯が斜めになっているのは」「黒帯の走査が進むため」と主張し,原告が撮影した上記第6図の写真にも黒帯が斜めに写っていることから,原告が自認しているところでもある。
イ本件発明の構成要件充足性について(ア)認否被告製品の構成aが構成要件Aを充足することは認め,その余は否認する。
(イ)構成要件Bについて本件原出願明細書及び本件明細書には,特許請求の範囲の記載はもとより,発明の詳細な説明における発明の説明,実施例の説明,図面において,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」ことを前提とした「立体映像表示装置」のみが記載されている。
仮に,本件発明が,本件原出願明細書に記載した事項の範囲とは技術的範囲を異にする「二次元映像表示装置」まで含むものと解するならば,本件特許は,分割出願の適法要件を満たさなくなり,分割の要件を欠いて出願されたことになるから,出願日遡及は認められず,本件原出願の公開によりその出願前公知の出願となり,明白な無効理由が存することになる。
したがって,本件特許の出願人の意思及び特許庁の判断を尊重し,本件特許に無効事由がないように解するとすれば,本件発明の構成要件Bにおける「前記LCDに異なる画像を順次表示する」とは,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」と解される。
被告製品は,搭載する液晶パネルに対して,チューナや外部入力端子を通じて入力されるテレビ放送,DVDビデオなど複数の映像信号源のうちのいずれか一つの映像信号源から,所定の時間感覚(1フィールド,1/60秒)毎に連続して入力され経時的に変化する一連の映像信号を,入力順序そのままに,液晶パネルにおいて,一方向の画像すなわち二次元動画像を表示するものである。
したがって,被告製品の構成b"の「動画像を表示する」とは,「単一の映像信号源からの経時に変化する一連の一方向の画像」を表示するものであって,バックライトの出射方向は一方向に固定されているので,「方向の異なる画像」を「順次時間的に交互に表示する」ことすらできない。
よって,被告製品の構成b"の「動画像を表示する」は,本件発明の構成要件Bの「異なる画像を順次表示する」には含まれない。
(ウ)構成要件Cについて本件発明の構成要件Cの「全画面黒表示」とは,右眼用映像と左眼用映像が一部分でも同時に表示されることなく,前後の映像を時間的に分離して表示するために,1フィールドもしくは1フレームの表示と次の1フィールドもしくは1フレームの表示の間に,全画面黒信号を入力させるものである。
被告製品の「黒表示」は,画面の一部が黒表示(黒帯)となり,この黒表示された画面の一部である領域(黒帯)が上から下まで順次移動する。
すなわち「黒表示」となる領域は画面の全体ではなく,全画面が黒になる瞬間はないので,前後の映像を時間的に分離するものではない。そして,黒信号を入力し黒表示させるタイミングは,構成要件Cのように,1フィールドもしくは1フレームの表示と次の1フィールドもしくは1フレームの表示の間に行われるものではなく,1フレームに対応する表示期間内に行われる。したがって,被告製品の構成c"は,本件発明の構成要件Cを充足しない。
原告は,被告製品の黒挿入の状況は原告作成図のとおりになると主張するが,被告製品では,乙14,15の画像のとおり,黒帯の太さは変わらず,画面の上部分に黒ではない部分が残ったままとなっており,1フレーム終了時点で全画面黒表示にはなっていない。
また,原告は,日立製W32L-H9000をシャッター速度1/2000秒で写真撮影したところ,全黒画像が撮影されたと主張するが,日立製W32L-H9000は被告製品ではない。仮に,1/500秒で撮影すると全画面黒表示の瞬間は映らないが,1/2000秒では映るとすると,原告が,原告作成図において,全白画像(右から3つめの画像)のGから全黒画像(右から1つめの画像)のAまで移行するのに,4.2msかかると記載され,全黒画像(一番左の画像)のAから全白画像(左から5つめの画像)のEまで移行するのに8.4msかかると記載されているので,4.2msを要する全白画像から全黒画像への移行及び8.4msを要する全黒画像から全白画像への移行がそれぞれ1/500秒(2.0ms)以下で行われたとする原告の主張と矛盾する。したがって,被告製品を1/2000秒で撮影したとしても,1フレーム内に全画面黒表示の瞬間はない。
(エ)構成要件Dについて前記構成要件Bについて述べたのと同様の理由により,構成要件Dの「表示装置」とは,「立体映像表示装置」と解するのが相当である。
被告製品の構成d"の「二次元映像表示装置」は,一連に変化する複数の画像を時間の経過とともに順次表示させて一方向の動画像を表示するものである。すなわち,一連に変化する複数の各画像は,両眼に同じように投影させるための一方向の画像であり,このような画像を連続して表示し,両眼に投影することによって動きのある映像(動画)が表示されているように観察者に知覚させる。
被告製品は,方向分離されるバックライト光を生成する構成や,右眼用光源・左眼用光源・それぞれの光源からの光を右眼と左眼とに集光させるような凸レンズを有さず,右眼と左眼とにそれぞれ「異なる画像」を投影させるようにして「立体」画像を表示する機能を有さず,観察者に立体的に見えるという視覚効果を引き起こすように画像を表示する機能も有していない。このため,仮に,被告製品に,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像」に対応する映像信号を入力しても,立体映像表示すらできない。このように,被告製品の構成d"の「二次元映像表示装置」は「立体映像表示装置」とは技術的に全く異なるものである。よって,被告製品の構成d"は,本件発明の構成要件Dに含まれない。
均等の主張について(構成要件C)(ア)本質的部分本件発明の構成要件Cの「全画面黒表示」と被告製品の構成c"の「黒表示」の相違点,すなわち?@「黒表示」となる領域が画面の全体に及ぶか否か,?A前後の映像を時間的に分離するものであるか否かという点は,右眼用映像と左眼用映像を完全に分離し,同時に表示されている期間を生じさせなくするという本件発明の本質的部分に該当するので,均等論の第1要件を満たさない。
(イ)置換可能性上記相違点を被告製品におけるものと置き換えた場合,右眼用映像と左眼用映像を完全に分離し,同時に表示されている期間を生じさせなくするという本件発明の目的を達成することができなくなり,同一の作用効果を奏するとはいえない以上,均等論の第2要件を満たさない。
2本件特許の無効理由の有無(争点2)について(1)被告の主張本件特許は,次のとおり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告はその権利を行使することができない。
ア分割要件違反及び新規性の欠如1(ア)分割要件違反仮に,本件発明が,本件原出願明細書に何ら開示されていない二次元映像表示装置まで含むものと解するなら,本件出願は,分割出願の適法要件を満たさないので,特許法44条2項の出願日遡及は認められない。そうすると,本件特許の出願日は,実際に出願された日である平成15年10月2日となり,本件原出願の公開公報(甲3)は,本件特許の出願日より前(平成8年12月24日)に頒布された刊行物に該当する。
(イ)本件原出願明細書に記載された発明本件原出願明細書の記載(実施例22の段落【0119】【0120】,実施例24の段落【0122】,実施例25の段落【0123】)によれば,本件原出願には,次の発明が開示されている。
?@LCDで構成された透過型映像表示板1を備えた立体映像表示装置である。
?A透過型映像表示板1には時分割回路5が透過型映像表示板1に接続されており,時分割回路5には全画面黒表示切換回路41を介して左右映像信号源4と全画面黒表示信号源42とが並列に接続されている。
?B左右映像信号源4は右眼映像,左眼映像信号源4R,4Lを備えて,2つの方向像の信号,すなわち映像R,Lを全画面黒表示切換回路41に出力する。
?C全画面黒表示切換回路41によって1フィールドごとに右眼映像,左眼映像信号源4R,4Lをそれぞれ全画面黒表示信号源42に切り換える。時分割回路5は2フィールド分である1フレームごとに右眼映像,左映像信号源4R,4Lのラインを交互に切り換える。この結果,あるフレームの前半の1フィールド(以下「先フィールド」という。)において透過型映像表示板1に映像Rを表示させると,後半の1フィールド(以下「後フィールド」という。)で全画面黒信号が入力されて全画面黒表示を行わせる。次のフレームでは,先フィールドで透過型映像表示板1に映像Lを表示させ,後フィールドで全画面黒信号が入力されて全画面黒信号を行わせる。続く次のフレーム以降においては,このような2フレーム分の動作を繰り返す。
?D時分割回路5が映像R,Lを2フレームごとに切り換えて透過型映像表示板1に入力する。このとき,全画面黒表示切換回路41は,1フレームごとに映像R又は映像Lをそれぞれ全画面黒信号に切り換えて時分割回路5に出力している。この結果,ある1フレームにおいて透過型映像表示板1に映像Rを表示させると,次の1フレームで全画面黒信号が入力されて全画面黒表示を行わせる。その次の1フレームでは透過型映像表示板1に映像Lを表示させ,続く1フレームで全画面黒表示を行わせる。このような4フレーム分の動作を繰り返す。
?Eさらに,透過型映像表示板1に対する全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数を高くしている。
?F図28では,単位時間当たりに映像R,Lから黒表示に変化する映像表示領域が,黒表示から映像R,Lに変化する映像表示領域に比べて広い。すなわち,図28には,全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数は,映像R,Lの入力時の画面走査時の周波数に比べて高いことが明示されている。
(ウ)対比?T構成要件Aについて構成要件AのLCDは,実施例22で開示されたLCDそのものであり,構成要件Aは,本件原出願明細書に記載された発明の構成と一致する。
?U構成要件B構成要件Bの「前記LCDに異なる画像を順次表示する」は,前述のとおり,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」を包含する。
実施例22では,右眼映像,左眼映像信号源4R,4Lからそれぞれ出力される映像Rと映像Lとが1フレームごとに交互に透過型映像表示板1に表示することが開示されている。したがって,右眼映像,左眼映像信号源4R,4Lは「異なる映像信号源」に相当し,映像Rと映像Lは「異なる画像」に相当する。よって,構成要件Bは,本件原出願明細書において実施例22として開示された発明の構成と一致する。
また,実施例25,26では,透過型映像表示板1に対して1フレームごとに〔映像R表示〕〔全画面黒表示〕〔映像L表示〕〔全画面黒表示〕の順番で繰り返し動作させているので,2フレームごとに映像Rと映像Lとが交互に透過型映像表示板1に表示することが開示されている。
したがって,実施例25,26でも,映像Rと映像Lは「異なる画像」に相当し,構成要件Bは,本件原出願明細書において実施例25,26として開示された発明の構成と一致する。
?V構成要件C実施例22には全画面黒表示信号源42から出力され,画素に書き込まれた映像R,Lを消去する(透過型映像表示板1に黒表示を行わせる)全画面黒信号が開示されており,この全画面黒信号は,構成要件Cの「全画面黒信号」そのものである。また,実施例22では,1のフレームの先フィールドで映像Rを表示させ,後フィールドで全画面黒信号を行わせると,次のフレームの先フィールドで映像Lを表示させ,後フィールドで全画面黒表示を行わせる。したがって,各フレームの先フィールドで表示される映像Rと映像Lは,それぞれ構成要件Cの「1フィールド分の映像信号」に相当し,各フレームの後フィールドではそれぞれ透過型映像表示板に全画面黒表示を行わせているので,構成要件Cは,本件原出願明細書において実施例22として開示された発明の構成と一致する。
実施例25,26における映像R,映像Lは,それぞれ構成要件Cの「1フレーム分の映像信号」に相当し,映像R,映像Lを表示する各フレームの次のフレームでは,それぞれ透過型映像表示板1に全画面黒表示を行わせているので,構成要件Cは,本件原出願明細書で実施例25,26として開示された発明とも一致する。
?W構成要件D構成要件Dの「表示装置」は,前述のとおり,立体映像表示装置を包含するところ,実施例22は立体映像表示装置に係る発明を開示しているので,構成要件Dは,本件原出願明細書に記載された発明の構成と一致する。
?X構成要件E実施例25では,全画面黒表示信号の入力時の画面走査時の周波数は,映像R,Lの入力時の画面走査時の周波数に比べて高いことが開示されており,このように動作させることは,構成要件Dの「前記LCDにおける前記全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数を,前記映像信号のそれよりも高くするようにしたこと」そのものであるから,構成要件Dは,本件原出願明細書に記載された発明と一致する。
(エ)まとめ以上より,本件発明の構成要件AないしFは,本件原出願明細書に記載された発明の構成とすべて一致しているので,本件発明は新規性がなく,特許法29条1項3号に違反しているので,特許無効審判により無効にされるべきものである。
新規性の欠如2(ア)乙9パンフレットに記載された発明平成7年1月12日に発行された国際公開95/01701パンフレット(乙9。以下「乙9パンフレット」という。)の記載によれば,乙9パンフレットには次の発明が開示されている。
?@アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネル10を備えた表示システムである。
?Aビデオ,例えばTVや画像を表示する表示システムであり,特に動いている像を品質よく表示する表示システムである。
?BTVディスプレイの場合,液晶パネル10にTVラインの画像情報信号を表示させる。
?C行駆動回路20は,TVフィールドに関するデータ信号の供給に同期した従来の速度(TV信号のライン速度)の2倍の速度において行導線を走査する。これにより,1TVフィールドに関するデータを,TV信号フィールド周期の半分の周期内で表示パネルに表示させる。
?D列駆動回路22と液晶表示パネル10との間に設けられ,列駆動回路22から出力されるデータ信号と,画素をほぼ非透過状態に駆動する基準電圧VBとを切り換える切換回路35を備えている。
?Eそして,1TV信号フィールド周期の半分である表示情報アドレス期間に1TVフィールドに関する信号データを表示パネル10に書き込み,TV信号フィールド周期の残りの半分の期間(時間間隔)は基準電圧VBを与えて画素をほぼ非透過状態に駆動する。そして,このような1TV信号フィールドの動作を繰り返す。
?F上記1TV信号フィールドの動作において,周期信号データの書き込み,及び,基準電圧VBの印加では,それぞれTV信号のフィールド速度の2倍の速度で走査する。そして,時間間隔の終了時までには最終行の画素の駆動を完了させる。
?G画像表示期間(アドレス期間)と暗期間(時間間隔)を各々フィールド期間の半分にするのは,「便利で簡便」のためであって必然性はない。
?Hこのため,画像表示期間(アドレス期間)と暗期間とが種々変更実施できることが開示されている。
?I例えば,TVフィールド周期の2/3をパネルアドレス期間fとし,TVフィールド周期の1/3を期間f’とすることが例示されている。
このように期間f’を短くすることは,行駆動回路をより高いクロック速度によって動作させることで達成できる。
(イ)対比?T構成要件A乙9パンフレットに記載された「アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネル10」は,構成要件Aに記載される「LCD」の一種であり,「LCD」に包含されるので,構成要件Aは,乙9パンフレットに記載される発明の構成と一致する。
?U構成要件B乙9パンフレットに開示される表示システムが表示するものとして「ビデオ,例えばTVや画像」が開示されており,また,TVディスプレイの場合では「TVラインの画像情報信号」を表示すると開示されており,これら「ビデオ,例えばTVや画像」や「TVラインの画像情報信号」は動画像の下位概念にあたる。このため,構成要件Bに記載される「異なる画像」が仮に「動画像」まで含むものと解するならば,構成要件Bは乙9パンフレットに記載された発明と一致する。
?V構成要件C乙9パンフレットのFIG.4は,TV信号VSの連続するTV信号フィールド周期F(A),F(B),F(C),F(D)にわたるタイミングチャートであるが,例えばTV信号のフィールド速度(周波数)が50Hzの場合,TV信号フィールド周期F(A)〜(D)で示される期間はそれぞれ20ミリ秒となる。ここで,TV信号フィールド周期F(B)に注目すると,表示情報アドレス期間f(A)と期間f'に2分されており,例えば10ミリ秒ずつとなる。
前半の表示情報アドレス期間f(A)では,TV信号フィールド周期F(A)において読み込まれた信号データを表示パネル10に表示する。このとき,TV信号のフィールド速度(周波数)の倍の走査速度(例えば100Hz)で表示パネル10に書き込むので,TV信号のTV信号フィールド周期の半分であっても表示パネル10の全面に映像が表示される。次の期間f'では,同じ倍の走査速度で画素を非透過(黒い)状態に駆動する。したがって,期間f'の終了時においては,表示パネル10の全面が非透過(黒い)状態になり,TV信号フィールド周期F(A)で表示させた映像は完全に消去される。このような動作を,以降のTV信号フィールド周期F(C),(D),…においても繰り返す。この結果,表示パネル10は,表示情報アドレス期間f(B),f(C)に応じた映像の表示と,期間f'における非透過(黒い)状態とを交互に繰り返す。
ここで,表示情報アドレス期間f(B),f(C)に表示される各映像は,それぞれ構成要件Cに記載される「1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号」に相当する。また,期間f'の非透過状態は構成要件Cに記載される「全画面黒表示」に相当する。さらに,このことから画素をほぼ非透過状態に駆動する基準電圧VBは構成要件Cに記載される「全画面黒信号」と認められるので,構成要件Cは,乙9パンフレットに記載された発明の構成と一致する。
?W構成要件D乙9パンフレットに開示される表示システムは,前述のとおり,「ビデオ,例えばTVや画像」や「TVラインの画像情報信号」を表示するものであるので,二次元映像表示装置ということができる。このため,構成要件Dの「表示装置」が仮に「二次元映像表示装置」まで含むものと解するなら,構成要件Dは,乙9パンフレットに記載された発明に開示されていることになる。
?X構成要件E前述したとおり,期間f’では,TV信号のフィールド速度(周波数)の倍の走査速度で画素を非透過状態に駆動している。ここで,画素を非透過状態に駆動する走査速度は,構成要件Eの「前記全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数」に相当し,TV信号のフィールド速度(周波数)は,構成要件Eに記載される「映像信号のそれ」に相当する。
そして,乙9パンフレットには画素を非透過状態に駆動する走査速度はTV信号フィールド速度(周波数)より高いことが開示されているので,構成要件Eは乙9パンフレットに記載される発明の構成と一致している。
また,乙9パンフレットには,FIG.4において,表示情報アドレス期間f(A)等をTV信号フィールド周期F(A)等の2/3の期間とし,期間f'をTV信号フィールド周期F(A)等の1/3の期間として,期間f'を相対的に短縮することが開示されている。さらに,この場合,期間f'では行駆動回路がより高いクロック速度で走査して画素を非透過状態に駆動することが開示されている。ここで,上記の行駆動回路のクロック速度は画素を非透過状態に駆動する走査速度と実質的に同じである。したがって,乙9パンフレットには,構成要件Eの「前記全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数」をより高くすることが開示されているので,構成要件Eは乙9パンフレットに記載された発明の構成と一致している。
(ウ)まとめ以上より,本件発明の構成要件AないしFは,乙9パンフレットに記載された発明の構成とすべて一致しているので,本件発明は新規性がなく,特許法29条1項3号に違反しているので,特許無効審判により無効にされるべきものである。
進歩性の欠如(ア)乙11公報に記載された発明平成6年7月22日に公開された特開平6-205446号公報(乙11。以下「乙11公報」という。)には,次の発明が開示されている。
?@LCDを備えた立体映像表示装置である。
?A左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2とを時分割的で(交互に)LCDに表示させる。
(イ)乙12パンフレットに記載された発明平成6年3月17日に発行された国際公開94/06249パンフレット(乙12。以下「乙12パンフレット」という。)には,次のような発明が開示されている。
?@画像を表示させるLCD6を備えた立体及び2-Dディスプレイである。
?A1フィールドは第1期間(22),休止又は待機期間(23),動作消去期間(24)の3つの期間に分割されている。
?B第1期間(22)は,最上行から最下行までの画素(全画素)を走査し,印加信号に応答して画素は画像を表示するための状態に変化する。これにより,LCDに画像を表示させる。
?C画像は,画素1列ごとに交互に並んだ左眼画像と左眼画像とによって構成されている。また,左眼画像と左眼画像の位置は1フィールドごとに入れ替わる。
?Dなお,画像を表示するための画素の変化が完了すると,フィールドごとに光源(42)(43)が交互に点灯する。
?E休止又は待機期間(23)は何も起こらない(LCDは画像を表示し続ける)。
?F動作消去期間(24)は,全ての画素を走査してLCDを暗状態とすることが例示されている。これにより,LCDに表示させた画像は完全に消去される。
?GLCDの画素は,ターンオンされるとターンオフされるまでオンに滞在するため,LCD上の画素列間の画像がフリップする際に,二重画像が見えるという不都合がある。このため,左及び右眼画像の位置をフリップするためにLCD上の画素が変化する短い期間の全体は,ランプをオフにすることが望ましい。ただし,上述したような動作消去期間(24)でLCDを暗状態とする場合は,ランプを動作消去期間(22)中点灯させても画質は低下しない。
(ウ)対比?T構成要件A乙11公報に記載される「LCD」は,構成要件Aの「LCD」そのものであるから,構成要件Aは,乙11公報に記載される発明の構成と一致する。
?U構成要件B乙11公報に,左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2とを時分割的に交互にLCDに表示させることが開示されている。このことは,乙11公報の図2に「表示映像」が時間の経過とともに「VD1」「VD2」「VD1」「VD2」と変化していることが図示されていることからも明らかである。ここで,左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2は,構成要件Bの「異なる画像」に相当するので,構成要件Bは乙11公報に記載された発明の構成と一致する。
?V構成要件C乙11公報には,LCDに1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力するごとに,前記LCDに全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することについての積極的な明示はないので,乙11公報に記載された発明は構成要件Cを備えていない点で相違する(以下「本件相違点1」という。)。もっとも,乙11公報の【0010】及び図2の記載から,この立体映像表示装置では,左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2とを時間的に映像表示がされない期間を挟んで明確に区分していることがわかる。
?W構成要件D構成要件Dの「表示装置」は,前述のとおり,「立体映像表示装置」を包含するところ,乙11公報は立体映像表示装置を開示しているので,構成要件Dは乙11公報に記載された発明と一致する。
?X構成要件E乙11公報には,全画面黒表示信号の入力時の画面走査時の周波数は,映像R,Lの入力時の画面走査時の周波数に比べて高いことについて開示されていないので,乙11公報に記載された発明は,構成要件Eを備えていない点で相違する。(以下「本件相違点2」という。)(エ)本件相違点1について乙12パンフレットには,LCDを備えた立体及び2-Dディスプレイの画フィールドにおいてLCDに画像を表示させると,すべての画素を走査してLCDを暗状態としてLCDに表示させた画像を完全に消去することが開示されている。
乙12パンフレットのFIG.3aにおいて図示されるように,時間の経過と共に第1期間22,休止又は待機期間23,動作消去期間24と移り,これら2つの期間によって1フィールド期間が構成されている。第1期間22では,LCDの「最上行」から「最下行」まで走査されることが明示され,これにより全画素の状態が印加信号に応じてそれぞれ変化し,符号T4で示される時刻において完了する。動作消去期間24では再びLCDの「最上行」から「最下行」まで走査されることが明示され,これにより全ての画素がフルオン又はフルオフに状態変化し,LCD全面は暗状態となり,これにより第1期間22においてLCDに画像に表示させた画像は完全に消去される。
動作消去期間24が終了すると,次のフィールド期間に移行し,第1期間22から順に同じ動作を繰り返す。このように,LCD全画面に画像を表示させるために,第1期間22において画素に印加される印加信号は,構成要件Cの「1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号」に相当する。また,動作消去期間24においてLCD全画面を暗状態とすることは,構成要件Cの「全画面黒表示」に相当する。よって,構成要件Cに相当する構成は乙12パンフレットに開示されている。
乙12パンフレットでは,LCDの画素はターンオンされるとターンオフされるまでオンに滞在するため二重画像が見えるおそれがあることを指摘し,この不都合を解消するために左及び右眼画像の位置をフリップするときはランプをオフにすることが望ましい,動作消去期間24でLCDを暗状態とする場合にあっては,ランプをオンにしたままでも画質は低下しないことが開示されている。
乙11公報では,眼鏡等を使用せずに観察者に立体映像を知覚させる原理は,右眼用,左眼用の各方向画像をそれぞれ時間的に交互に右眼,左眼で観察させることにあり,このため,方向像を左右両眼に分離投影できなければ,上記原理から外れるので不都合(例えば画質の低下など)が生じることは自明であり,乙11公報に開示される立体映像表示装置では,左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2とを時間的に映像表示がされない期間を挟んで明確に区分しているので,その分野における当業者が上記原理から外れないように立体映像表示装置を構成して画質低下等の不都合が生じないようにすることは極めて当然の事項である。したがって,乙11公報に記載された発明における時間的な映像の区分の一手法として,乙12パンフレットに開示された構成要件Cに相当する構成を適用して,方向像を左右両眼に確実に分離投影するように構成することに格別の困難性はない。
(オ)本件相違点2についてLCDに画像を表示するたびに全画面黒表示を行わせる場合,全画面黒表示の時間は短いほど,輝度の低下を防止できて,本来の画像を表示させることができ,好ましいことは明らかである。このことは,表示される画像が立体映像の場合に限られず,動画等の二次元映像の場合であっても同様である。前述のとおり,乙9パンフレットには構成要件Eに相当する構成が開示されているので,乙11公報に記載された発明に,乙9パンフレットに開示された構成を適用して,「前記全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数を,前記映像信号のそれよりも高くするように」構成することには格別の困難性はない。
(カ)まとめ本件発明は,乙11公報ないし乙12パンフレットと乙9パンフレットに記載された発明に基づいて,本件出願前に,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないものであり,特許無効審判により無効とされるべきである。
(2)原告の主張争う。特許庁は,本件特許の無効審判請求において,本件審判の請求は成り立たないと判断し,原告の主張を支持している。
3本件特許権の侵害による損害額(争点3)について(1)原告の主張被告製品1台の平均的売価は20万円であるところ,うち本件発明に関する付加価値を10パーセントと考え,それに対する実施料率を3パーセントとすると,被告製品1台あたりの本件特許の実施料相当額は600円である。被告は,EIZOガレリア大阪において,被告製品を最低16台販売したことを口頭で認めているので,原告には,少なくとも9600円の損害が生じた。
(2)被告の主張争う。
第6当裁判所の判断1本件発明の技術的範囲について(争点1)(1)はじめに被告は,本件発明が立体映像表示装置についての発明であることを前提として,構成要件Bの「前記LCDに異なる画像を順次表示する」は,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」と限定して解し,構成要件Dの「表示装置」は,「立体映像表示装置」と限定して解釈すべきであると主張する。
そこで,まず,本件発明が二次元映像表示装置を含まない,立体映像表示装置についての発明であるか否か,すなわち構成要件Dについて検討する。
(2)構成要件Dについてア本件明細書の記載証拠(甲2)によれば,本件明細書には次の記載があることが認められる。
(ア)【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】「本発明は,眼鏡を必要としない立体映像表示装置に関するものである。」(イ)【技術背景】【0004】「…図32は例えば特開平6-205446号公開に示された従来の立体映像表示装置を上方から見た原理図であり,このものは映像表示装置として背面照射型の液晶表示板(LCD)などの透過型映像表示板を用い,このLCDをはさんで観察者とは反対側に複数の線状光源を配置して構成されている。…」【0005】「このような従来の立体映像表示装置では透過型映像表示板1に右眼用の映像R-1が表示されているときは,線状光源45のうち●で示す右眼EYE2用の光源LL2のみ点燈し,○で示す左眼EYE1用の光源LL1は消燈するようにする。次の時点で透過型映像表示板1に左眼用の映像L-1が表示され,線状光源45のうち○で示す左眼EYE1用の光源LL1が点燈し,●で示す右眼EYE2用の光源LL2は消燈する。」【0006】「以上のように,透過型映像表示板1に表示する左眼用の映像と右眼用の映像,および,線状光源45の左眼用の光源と右眼用の光源を,時分割的に切り換えるようにしたことで,左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影され,立体映像として観察できる。…」(ウ)【発明が解決しようとする課題】【0016】「また,図33(a)に示すようなフィールド毎に時分割した映像入力による映像は,(b)に示すようにCRTに表示した場合,表示面を走査している瞬間だけ走査点が光るだけなので,どの瞬間をとっても映像R-1と映像L-1は時間的に分離しているが,(c)に示すように透過型映像表示板としてLCDに表示した場合,表示面上の画素は次にこの画素が走査されるまで表示を続けるので,斜線領域全てで映像R-1と映像L-1の表示が継続するため時間的に分離されていないという問題点があった。」【0031】「また,時分割した方向像を表示する透過型映像表示板にLCDを使用しても,時分割した方向像を時間的に分離して表示することができる立体映像表示装置を得るものである。」(エ)【課題を解決するための手段】【0032】「この発明の表示装置は,LCDを備え,前記LCDに異なる画像を順次表示する場合において,前記LCDに1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する毎に,前記LCDに全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力する。」(オ)【発明の効果】【0033】「この発明の表示装置によれば,どの任意の時間で前後の映像が一部分でも同時に表示されることが無く,前後の映像を時間的に分離して表示することができる。」(カ)【発明を実施するための最良の形態】【0066】「実施例22. 図24は本発明の実施例22における立体映像表示装置を上方から見た原理図であり,いわば,透過型映像表示板1をLCDで構成した場合の入力信号を,映像信号の片フィールド毎に全画面を黒表示にするようにしたものを示している。…」【0068】「実施例23. 図26は本発明の実施例23の動作を説明する表示領域の時間変化を示す図であり,詳しくは,表示する透過型映像表示板2のLCDにフィールド2を表示する画素がフィールド1と同じ映像を同時に表示するようにした場合の表示領域の時間変化を示している。上記実施例22では左右映像R,Lの全画面を時間分離できても,LCDの画素を半分しか使用してないので水平縞になるが,フィールド2の画素も表示するのでLCDの全画素を用いて水平縞のない表示ができる。」【0069】「実施例24. 図27は本発明の実施例24の動作を説明する表示領域の時間変化を示す図であり,透過型映像表示板1をLCDで構成した場合の入力信号を,映像信号のフレーム表示毎に全画面を黒表示するようにしている。図において,(a)は映像R,L,および映像R,Lを1フレーム毎に全画面を黒表示してから2フレーム単位で切り換えた映像入力,(b)は(a)の映像入力によって画面上に表示された領域の時間変化を示すものである。…この結果,透過型映像表示板1に同一画素に次に信号が来るまで表示を継続するLCDを用いても,どの任意の時間で両画面が一部分でも同時に表示されることがなく,映像R,Lの全画面を時間分離することができ,さらに上記実施例22,23のような垂直解像度の低下を招かない。」【0070】「実施例25. 図28は本発明の実施例25の動作を説明する表示領域の時間変化を示す図であり,上記実施例24における全画面黒表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くするようにしている。…」【0071】「実施例26. 図29は本発明の実施例26における立体映像表示装置の上方から見た原理図であり,…」【0072】「実施例27. 図31は本発明の実施例27における立体映像表示装置を上方から見た原理図であり,…」イ前記認定事実によれば,本件明細書においては,【技術分野】【発明が解決しようとする課題】のいずれの項目においても,立体映像表示装置についてのものであることが明記されている。
また,実施例についても,本件発明の構成要件をすべて備える実施例は実施例22ないし27であることから,本件発明の実施例は実施例22ないし27であると理解すべきところ,実施例22ないし24は,左右映像の全画面を時間的に分離することについての記載があり,前記認定のとおり,本件明細書の【0006】の記載によれば,左右映像の全画面を時間的に分離して表示するのは立体映像を表示するためであることが認められるから,実施例22ないし24は立体映像表示装置についての実施例である。実施例25は実施例24を前提とするものであるから,立体映像表示装置についての実施例であると認められ,実施例26,27は立体映像表示装置である旨明記されている。したがって,本件発明の実施例である実施例22ないし27は,いずれも立体映像表示装置についてのものであると認められる。
そして,前記に認定した本件明細書の記載からすれば,本件発明は,従来の技術によれば,透過型映像表示板に左眼用と右眼用の各映像を表示し,左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えることにより,左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影され,立体映像として観察されるところ,前記の透過型映像表示板にLCDを使用した場合,CRTの場合とは異なり,表示面上の画素は,次に同一画素に表示信号が来るまで前の表示を続けるので,時分割で切り換えて投影するはずの左右両眼用の方向像の表示が,走査線による書き換えが終了するまでの間,書き換えを始めた片方の眼用の新しい方向像と書き換えにより消される前の他方の眼用の古い方向像とが同時に表示されてしまい,完全に時間的に分離することができないという問題点があったので,片方の眼用の方向像が書き込まれた後,次の画像の書き換えが始まる前に,いったん全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することにより,最初に書き込まれた片方の眼用の方向像とその次に書き込まれる他方の眼用の方向像を時間的に完全に分離することを実現した発明であると認められる。
以上のとおり,本件明細書においては,技術分野,発明の課題,実施例のすべてにおいて,立体映像表示装置についての記載しかなく,立体映像の表示機能を備えない装置の記載はないこと,また,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する表示装置において,表示板にLCDを使用した場合の問題点を解決しようとする発明であることからすれば,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置の発明であって,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)を含まない発明である。したがって,本件発明の技術的範囲は立体映像表示装置に限定されるから,構成要件Dは,「立体映像表示装置」と解すべきである。
(3)本件原出願と構成要件Dの関係構成要件Dに係る上記の解釈は,次のような本件出願の経過からも裏付けられる。
ア本件原出願明細書の記載証拠(甲3)によれば,本件原出願明細書には,次の記載があることが認められる。
(ア)【発明の名称】「立体映像表示装置」(イ)【特許請求の範囲】【請求項1】「透過型映像表示板,該透過型映像表示板の背面に配置した該透過型映像表示板の表示面より大きい凸レンズ板,前記透過型映像表示板に時分割して表示された左右2つの方向像を観察者の左右両眼へ選択的に投影して立体映像を表示するために前記透過型映像表示板を境に観察者のいる空間から反対側の空間に配置された発光面上の任意の部分領域で発光する分割光源,前記透過型映像表示板に表示する方向像を時間交互に切り換える時分割手段,および前記分割光源を前記透過型映像表示板に表示する方向像の時間交互の切り換えに対応して左右2分割した領域で交互に発光するように制御する分割制御手段で構成したことを特徴とする立体映像表示装置。」【請求項2】「前記時分割手段を,前記透過型映像表示板に表示された3以上の方向像を順次切り換える複数時分割手段にして,前記分割制御手段を,3以上の方向像の順次切り換えに対応して前記分割光源を左右方向に3以上に分割した領域で順次発光させる複数分割制御手段にしたことを特徴とする請求項1記載の立体映像表示装置。」【請求項3】「前記複数分割制御手段を,左右および上下方向に分割した領域で発光させる平面分割制御手段にしたことを特徴とする請求項2記載の立体映像表示装置。」【請求項4】「観察者の左右位置検出手段と,前記分割光源の分割位置を移動させて左右2分割した領域で発光するように制御する分割位置移動手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の立体映像表示装置。」【請求項5】「前記分割位置移動手段を,観察者の位置に応じて左右方向に必要最小限の領域で分割光源を発光させる発光位置左右移動手段にしたことを特徴とする請求項4記載の立体映像表示装置。」【請求項6】「前記左右位置検出手段を,観察者の左右および上下の平面位置検出手段にして,前記発光位置左右移動手段を,観察者の位置に応じて左右および上下方向に必要最小限の領域で分割光源を発光させる発光位置平面移動手段にしたことを特徴とする請求項5記載の立体映像表示装置。」【請求項7】「観察者までの距離検出手段と,観察者までの距離に応じて前記分割光源の左右方向の発光領域範囲を変化させる発光領域左右可変手段を備えたことを特徴とする請求項5記載の立体映像表示装置。」【請求項8】「前記距離検出手段と,観察者までの距離と上下方向の位置に応じて前記分割光源の左右および上下方向の発光領域範囲を変化させる発光領域平面可変手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の立体映像表示装置。」【請求項9】「前記透過型映像表示板,前記凸レンズ板,前記分割光源,前記左右位置検出手段,前記分割光源の分割位置を複数の固定位置のいずれかに移動させる分割位置切換手段,前記分割光源の2分割領域の交互の発光に対応して3以上の方向像の隣接2方向像を時間交互に切り換えるように設けられた複数の時分割手段,および複数の時分割手段の出力を観察者の左右位置に応じて選択する信号左右切換手段で構成したことを特徴とする立体映像表示装置。」【請求項10】「前記分割位置切換手段を,3以上に分割された発光領域の隣接した2領域を交互に発光させるように制御する発光領域切換手段にしたことを特徴とする請求項9記載の立体映像表示装置。」【請求項11】「左右位置検出手段を平面位置検出手段にして,観察者の上下位置毎の複数の信号左右切換手段の出力を観察者の上下位置に応じて選択する信号上下切換手段を備えたことを特徴とする請求項9または10記載の立体映像表示装置。」【請求項12】「前記分割光源の発光領域の制御を前記発光位置左右移動手段と発光領域左右可変手段にして,前記距離検出器と,観察者の距離毎の複数の信号左右切換手段または信号上下切換手段の出力を観察者の距離に応じて選択する信号距離切換手段を備えたことを特徴とする請求項11記載の立体映像表示装置。」【請求項13】「前記左右位置検出器または前記平面位置検出器を備えた立体映像表示装置において,観察者が左右両眼による立体映像を観察不可能な位置にいることを検出すると映像表示を行わないようにしたことを特徴とする立体映像表示装置。」【請求項14】「3以上の方向像の隣接2方向像を時間交互に切り換えて表示する立体映像を,複数の観察者で使用する場合には,2つの左右両眼用方向像を観察者に追従させて表示する立体映像に切り換えるようにしたことを特徴とする請求項9〜請求項12のいずれかに記載の立体映像表示装置。」【請求項15】「立体映像表示と,前記透過型映像表示板の時分割切換なしと前記分割光源の常時全面発光によって表示する平面映像を,観察者が任意に切り換えるように構成したことを特徴とする立体映像表示装置。」【請求項16】「前記分割光源を,個別に発光を制御できる複数の部分面光源の組み合わせで構成したことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれかに記載の立体映像表示装置。」【請求項17】「前記分割光源を,面光源と,個別に該面光源の遮光,通過を制御できる複数の光シャッタの組み合わせで構成したことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれかに記載の立体映像表示装置。」【請求項18】「前記分割光源を,CRT光源で構成したことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれかに記載の立体映像表示装置。」【請求項19】「前記分割光源を,面光源と,シャッタ用透過型映像表示板の組み合わせで構成したことを特徴とする請求項1〜請求項15のいずれかに記載の立体映像表示装置。」【請求項20】「前記凸レンズ板を,直交する断面で曲率が異なるトーリックレンズで構成したことを特徴とする請求項1〜請求項19のいずれかに記載の立体映像表示装置。」【請求項21】「前記透過型映像表示板および前記分割光源を備えた立体映像表示装置において,前記透過型映像表示板および前記分割光源の両方を倍またはそれ以上で高速走査をするようにしたことを特徴とする立体映像表示装置。」【請求項22】「左眼用および右眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互または順次に切り換える立体映像表示装置において,前記左眼用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に交互に切り換えて前記透過型映像表示板に入力するようにしたことを特徴とする立体映像表示装置。」【請求項23】「前記透過型映像表示板を,2ライン同時に走査して表示するようにしたことを特徴とする請求項22記載の立体映像表示装置。」【請求項24】「左眼用および右眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互または順次に切り換える立体映像表示装置において,前記左眼用および右眼用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2フレーム毎に交互に切り換えて前記透過型映像表示板に入力するようにしたことを特徴とする立体映像表示装置。」【請求項25】「前記透過型映像表示板における全画面黒表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くするようにしたことを特徴とする請求項22または24記載の立体映像表示装置。」【請求項26】「前記透過型映像表示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くして,該映像表示信号と前記全画面黒表示信号の間に入力信号のない期間を設けたことを特徴とする請求項25記載の立体映像表示装置。」【請求項27】「前記透過型映像表示板における映像表示に同期して,前記シャッタ用透過型映像表示板の制御を行う請求項17記載の立体映像表示装置。」(ウ)【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】「本発明は,眼鏡を必要としない立体映像表示装置に関するものである。」(エ)【従来の技術】【0002】【0004】【0005】【0006】前記認定に係る本件明細書の【技術背景】【0002】【0004】【0005】【0006】の記載と同じである。
(オ)【発明が解決しようとする課題】【0007】「図32について説明した従来の立体映像表示装置は,透過型映像表示板に照射する線状光源を,透過型映像表示板に使用するLCDの画素より微細な構造にする必要があるという問題点があった。」【0015】【0032】前記認定に係る本件明細書の【発明が解決しようとする課題】【0016】【0031】と同じである。
(カ)【課題を解決するための手段】【0033】「本発明の請求項1に係る立体映像表示装置は,左右両眼用の方向像を交互に切り換えて時分割表示を行う透過型映像表示板の背面に表示面より大きい凸レンズ板を密着させるとともに,発光面上の任意の部分領域で発光する分割光源と,分割光源を左右2分割した領域で交互に発光させる分割制御手段を設けたものである。」【0054】「また,本発明の請求項22に係る立体映像表示装置は,左眼用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力するように構成したものである。」【0055】「また,本発明の請求項23に係る立体映像表示装置は,左眼用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力する立体映像表示装置において,透過型映像表示板を,2ライン同時に走査して表示するように構成したものである。」【0056】「また,本発明の請求項24に係る立体映像表示装置は,左眼用および右眼用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力するように構成したものである。」【0057】「また,本発明の請求項25に係る立体映像表示装置は,全画面黒表示信号の画面走査時の周波数を高くするように構成したものである。」【0058】「また,本発明の請求項26に係る立体映像表示装置は,透過型映像表示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くして,映像表示信号と全画面黒表示信号の間に入力信号のない期間を設けるように構成したものである。」【0059】「また,本発明の請求項27に係る立体映像表示装置は,映像表示に同期して前記分割光源の発光を行うように構成したものである。」(キ)【0060】【作用】「本発明の請求項1に係る立体映像表示装置においては,透過型映像表示板に時分割して表示された左右両眼用の方向像を,分割光源の左右2分割した領域の交互発光による照射によって,観察者の左右両眼へ選択的に投影することができる。」【0081】「また,本発明の請求項22に係る立体映像表示装置においては,左眼用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,時分割した方向像を時間的に分離して表示することができる。」【0082】「また,本発明の請求項23に係る立体映像表示装置においては,左眼用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に交互に切り換えて入力する透過型映像表示板を2ライン同時に走査して表示することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,全画素を使用して表示したすることができる。」【0083】「また,本発明の請求項24に係る立体映像表示装置においては,左眼用および右眼用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,全画素を使用して表示した時分割の方向像を時間的に分離することができる。」【0084】「また,本発明の請求項25に係る立体映像表示装置においては,全画面黒表示信号の画面走査時の周波数を高くすることにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,映像表示しない期間を短縮することができる。」【0085】「また,本発明の請求項26に係る立体映像表示装置においては,透過型映像表示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くして,映像表示信号と全画面黒表示信号の間に入力信号のない期間を設けることにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,映像表示する効率を向上することができる。」【0086】「また,本発明の請求項27に係る立体映像表示装置においては,映像表示に同期して前記分割光源の発光を行うことにより,シャッタ用透過型映像表示板を使用して遮光を行う分割光源を使用しても,分割領域の発光を時間的に分離することができる。」(ク)【0087】【実施例】「実施例1.図1は本発明の実施例1における立体映像表示装置を上方から見た原理図である。図において,1は透過型映像表示板,2は透過型映像表示板1の背面に配置した透過型映像表示板1の表示面より大きい凸レンズ板で,oは凸レンズ板中心,FLは焦点である。3は透過型映像表示板1に時分割して表示された2つの方向像を観察者の左右両眼へ選択的に照射して立体映像を表示するために透過型映像表示板1を境に観察者のいる空間から反対側の空間に配置された発光面上の任意の部分領域で発光する分割光源,4は透過型映像表示板1に表示する2つの方向像の信号を出力する左右映像信号源で,4R,4Lはそれぞれ映像R,Lを出力する右眼映像,左眼映像信号源である。5は透過型映像表示板1に表示する左右両眼用の方向像を時間交互に切り換える時分割回路,6は透過型映像表示板1に表示する左右両眼用の方向像の時間交互の切り換えに対応して分割光源3を左右2分割した領域3R,3Lで交互に発光するように制御する分割制御回路である。図2は実施例1の動作を説明するための光路図であり,観察位置における透過型映像表示板1上の各位置を照らすバックライトの光路を示す。」【0088】「次に,図1ないし図2を参照して動作について説明する。図1に示すように,分割光源3の領域3Lが発光していると,領域3L上の点3aから凸レンズ板2の2a,2b間方向に発した光は凸レンズ板2によって点aに結像される。同様に点3aから点3bまでの各点から凸レンズ板2の2a,2b間方向に発した光は点aからbまでの線L上の位置に結像される。また,点3aから2b,点3bから2aに発した光は凸レンズ板2によって点cに,点3aから2a,点3bから2bに発した光は凸レンズ板2によって点dに結像される。逆に,点aから凸レンズ板2を見ると,点3aが凸レンズ板2全面に拡大されて,凸レンズ板2全面が発光して見える。同様に点aから点bまでの線L上の位置から凸レンズ板2を見ると,点3aから点3bまでの各点を発した光で凸レンズ板2全面が発光して見える。また,点c,点dから凸レンズ板2を見ると,領域3Lが凸レンズ板2全面に拡大されて,凸レンズ板2全面が発光して見える。すなわち,分割光源3の領域3Lが発光しているとき,凸レンズ板2全面が発光して見える観察位置は,点a,b,c,dの実線で囲まれた線Lを含む斜線範囲内になり,この範囲外では分割光源3の領域3Lから発っする光は見えず,凸レンズ板2は暗い。同様に,分割光源3の領域3Rが発光しているとき,凸レンズ板2全面が発光して見える観察位置は,点線で囲まれた線Rを含む斜線範囲内になる。透過型映像表示板1はそれ自体発光せず透過光を制御して映像を表示するので,バックライトがない状態では画像は見えない。そのため,凸レンズ板2全面が発光して見える状態がバックライトのある状態に対応するので,領域3Lが発光しているときは線Lを含む斜線領域内から見た場合だけ,また領域3Rが発光しているときは線Rを含む斜線領域内ら見た場合だけ透過型映像表示板1の映像を観察することができる。そこで,映像R,Lを時分割回路5で高速に切り換えて透過型映像表示板1に表示して,それに対応して分割制御回路6で分割光源3の左右発光領域3R,3Lを高速に切り換えることで,左眼を線Lを含む斜線領域内のどの位置からでも,また右眼を線Rを含む斜線領域内のどの位置からでも透過型映像表示板1を見れば,映像R,Lを左右眼別々に視差角の異なる方向像として見ることができる。」【0089】「また,透過型映像表示板1の映像を観察することができる斜線領域内での位置による輝度を,図2で説明する。図2(a)は点aから,(b)は点cから見た場合の,透過型映像表示板1上の各位置を照らすバックライトの光路を示す。(b)では領域3L全体の光が透過型映像表示板1を通過するので,点3aの光だけが透過型映像表示板1を通過する(a)の場合より明るいように思える。しかし,(b)の点3aから発する光のうち点cに見えるのは点2bを通る光だけでそれ以外は関係ない。すなわち(a),(b)で点2bを通る光の輝度は同じである。同様に点3b,3c,3d,3eの発する光も,各点からあらゆる方向に発光しているうちの点2a,2c,2d,oを通る光だけが点cに見えるだけなので,透過型映像表示板1は点aからを見ても,点bからを見ても同じ輝度である。
この結果,透過型映像表示板1の映像を観察することができる斜線領域内での位置に関わらず,同じ輝度の方向像として観察できるので,立体表示を広い範囲で観察できる。」【0119】ないし【0125】本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】【0066】ないし【0072】と同じである。
(ケ)【0126】【本件発明の効果】「本発明は,以上説明したように構成されているので,以下に示すような効果を奏する。」【0127】「本発明の請求項1記載の立体映像表示装置によれば,透過型映像表示板の時分割して表示された左右両眼用の方向像を,分割光源の左右2分割した領域の交互発光による照射によって,観察者の左右両眼へ選択的に投影することができ,このため観察者は眼鏡無しで立体映像を観察することができる。」【0148】「また,本発明の請求項22記載の立体映像表示装置によれば,左眼用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,時分割した方向像を時間的に分離して表示することができ,観察者に左右両眼毎の方向像を投影できる。」【0149】「また,本発明の請求項23記載の立体映像表示装置によれば,左眼用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に交互に切り換えて入力する透過型映像表示板を2ライン同時に走査して表示することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,全画素を使用して表示したすることができ,観察者に全画素を使用して表示した左右両眼毎の方向像を投影できる。」【0150】「また,本発明の請求項24記載の立体映像表示装置によれば,左眼用および右眼用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,全画素を使用して表示した時分割の方向像を時間的に分離することができ,観察者に垂直解像度の低下しない左右両眼毎の方向像を投影できる。」【0151】「また,本発明の請求項25記載の立体映像表示装置によれば,全画面黒表示信号の画面走査時の周波数を高くすることにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,映像表示しない期間を短縮することができ,観察者にフリッカを低減した左右両眼毎の方向像を投影できる。」【0152】「また,本発明の請求項26記載の立体映像表示装置によれば,透過型映像表示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くして,映像表示信号と全画面黒表示信号の間に入力信号のない期間を設けることにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,方向像を表示する効率を向上することができ,観察者に輝度の向上した左右両眼毎の方向像を投影できる。」【0153】「また,本発明の請求項27記載の立体映像表示装置によれば,映像表示に同期して前記分割光源の発光を行うことにより,シャッタ用透過型映像表示板を使用して遮光を行う分割光源を使用しても,分割領域の発光を時間的に分離することができ,観察者に左右両眼毎の方向像を投影できる。」イ前記認定事実によれば,本件原出願明細書においては,【発明の名称】が「立体映像表示装置」であり,【特許請求の範囲】の請求項1ないし27のすべてが,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置であることを構成要件とするものであり,【産業上の利用分野】においても,立体映像表示装置に関する発明であることが明記されている。
また,証拠(甲3)によれば,本件原出願明細書においては,【従来の技術】【0002】ないし【0032】においても,立体映像表示装置に関する技術の記載しかなく,【課題を解決するための手段】【0033】ないし【0086】においても,【実施例】【0087】ないし【0125】の実施例1ないし27のすべてについても,【発明の効果】【0126】ないし【0153】においても,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置に関する記載しかなく,平面映像表示装置についての記載はないことが認められる(なお,本件原出願の請求項15に係る発明については後述する。)。
分割出願が行われると,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなされるが,出願日の遡及が認められるためには,分割出願に係る発明がその原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることを要する。
エ本件において,本件出願が分割出願の適法要件を満たすものであるかどうかについて検討する。
前記認定のとおり,本件原出願明細書には,従来の技術には立体映像表示装置の記載しかなく,発明の名称,特許請求の範囲,産業上の利用分野,課題を解決するための手段,実施例,発明の効果のいずれにおいても,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみが記載されており,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)に関する記載は一切なく,明細書又は図面に記載された事項の範囲内とすることもできない。
したがって,仮に,本件発明が左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置についての発明ではなく,二次元の映像のみを表示する装置をも含む表示装置についての発明であると解釈すると,本件明細書には,本件原出願明細書又は図面に記載した事項の範囲内ではないものが含まれることになり,本件出願は分割出願の適法要件を満たさないことになってしまう。
オそして,本件出願が分割出願の適法要件を欠くとすれば,出願日の遡及は認められず,現実の出願日である平成15年10月2日が本件発明の出願日となる。
証拠(甲3)によれば,同出願日の前である平成8年12月24日には既に本件原出願の発明が公開されていることが認められる。また,前記認定事実によれば,本件発明は,その公開特許公報において,請求項22ないし26及びこれに関する【発明が解決しようとする課題】の【0015】【0032】,【課題を解決するための手段】の【0054】ないし【0058】,【作用】の【0081】ないし【0086】,【実施例】の【0119】ないし【0125】の記載のとおり,既に開示されていることが認められる。
とすれば,本件発明は新規性を欠くものであり,特許法29条1項3号の規定する発明に該当し,同法123条1項2号に基づき,特許無効審判により無効にされるべきものとなってしまう。
他方で,本件発明は,二次元映像のみを表示する装置を含まず,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であると解すれば,同発明は,本件原出願明細書に記載されたものであるから,本件出願が分割出願の適法要件を欠くことにはならず,上記無効理由があるとはいえない。
この点からみても,本件発明は,その技術的範囲の解釈に当たっては(発明の要旨の認定は別論である。),左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であるとすべきである。したがって,構成要件Dは,本件発明の技術的範囲の解釈としては「立体映像表示装置」と解釈するのが相当である。
(4)原告の主張についてア特許庁審査官の認識について原告は,本件原出願拒絶理由通知書の記載からすれば,審査官は,本件原出願は立体映像表示装置と二次元表示装置の双方を含んだ発明であると理解していたのであり,本件出願は,立体表示装置に限る課題ではなく,面順次走査液晶表示器の画像一般に対する課題である疑似インパルス化技術に関する発明であることを示すため,発明の名称を本件原出願の「立体映像表示装置」からLCD一般が対象となる「表示装置」に変更して出願したと主張する。
また,原告は,本件出願の特許庁審査官作成の特許メモにおいて,「左右視差画像等の異なる画像」と記載されていることから,審査官は,「異なる画像」は「左右視差画像」に限定されないという認識であった,出願情報では,本件原出願の審査時にはなかった「黒画面」が新たに審査官フリーワード記事として設定されているので,審査官は,本件発明が立体映像表示装置には限定されない,全画面黒表示の信号処理を行う液晶パネルを備えた表示装置であると認識していたと主張する。
しかしながら,特許発明技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めるべきものであり,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語を解釈するものとされているのであるから(特許法70条1項,2項),当該出願を取り扱った特許庁審査官の当該出願についての認識の内容は,特許発明技術的範囲の決定に影響を及ぼすものではない。したがって,原告の主張は失当である。
なお,証拠(甲4)によれば,本件原出願拒絶理由通知書には,「請求項22〜26に係る発明は,LCDを用いた(但し,クレーム中では規定されていない)場合にも,方向像を時間的に分離する発明である。」という記載があることが認められ,その中に「立体映像表示装置についての発明」といった表現はない。しかし,本件原出願明細書によれば,前記認定のとおり,本件原出願の特許請求の範囲の請求項22ないし26は,いずれも左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える方法による「立体映像表示装置」を構成要件とする記載がされているのであるから,本件原出願の請求項22ないし26に係る発明は,いずれも左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置に関する発明であることは明らかであって,本件原出願拒絶理由通知書の記載も,請求項22ないし26に係る発明が,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置に限定されないことを意識して敢えて「立体映像表示装置」という文言を記載しなかったのではなく,同発明が左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置に関する発明であることが明らかであることから,特にその旨を記載しなかったにすぎないと理解できる。
また,証拠(甲9,10)によれば,原告が指摘する特許メモには,「左右視差画像等の異なる画像」という記載があること,出願情報には「黒画面」が審査官フリーワード記事とされていることが認められるが,特許要件の有無の審査においては,進歩性の判断等も含めて,周辺の技術について調査することもあるのであって,上記の事実それ自体が本件発明が二次元表示装置を含むものであることの根拠となるものではない。
イ二次元映像表示装置に関する記載について(ア)原告は,本件明細書【0014】【0027】において「通常の2次元映像を表示する場合でも」「通常の2次元映像表示装置に切り替えた場合に」という記載があることからも,本件発明に二次元映像表示装置が含まれると主張する。
(イ)証拠(甲2)によれば,本件明細書には,次の記載があることが認められる。
【発明が解決しようとする課題】【0014】「また,透過型映像表示板に表示する映像をフィールド毎に異なる方向像とせず同一映像の繰り返しと線状光源の同時照射によって通常の2次元映像表示をする場合でも,観察位置が立体表示と同様に1カ所しかないという問題点があった。」【0027】「また,通常の2次元映像表示に切り換えた場合に,広い範囲で観察できる立体映像表示装置を得るものである。」【発明を実施するための最良の形態】【0059】「実施例15. 図17は本発明の実施例15における立体映像表示装置を上方から見た原理図である。図において,26は分割光源3を全面で発光させる全面発光回路,27は立体(3次元)表示と,2次元表示を切り換える平面表示変更回路である。図17の例では,映像R,Lを時間交互に切り換えと分割光源3の分割制御による立体(3次元)表示を,片眼用映像の表示と分割光源3の全面発光回路26による2次元表示に平面表示変更回路27によって選択できる。この結果,通常の立体でない映像を広い範囲で観察できる。」(ウ)また,証拠(甲3)によれば,本件原出願明細書には,次の記載があることが認められる。
【特許請求の範囲】【請求項1】【請求項15】前記認定のとおり。
【発明が解決しようとする課題】【0013】【0028】本件明細書の【0014】【0027】と同じ。
【課題を解決するための手段】【0047】「また,本発明の請求項15に係る立体映像表示装置は,透過型映像表示板の時分割を通常表示に切り換える平面表示変更手段と,分割光源の全面発光手段を設けたものである。」【作用】【0074】「また,本発明の請求項15に係る立体映像表示装置においては,透過型映像表示板の時分割を通常表示に切り換える平面表示変更手段と,分割光源の全面発光手段を設けることにより,通常の2次元映像表示を広い範囲で観察することができる。」【実施例】【0112】「実施例15. 図17は本発明の実施例15における立体映像表示装置を上方から見た原理図である。図において,26は分割光源3を全面で発光させる全面発光回路,27は立体(3次元)表示と,2次元表示を切り換える平面表示変更回路である。図17の例では,映像R,Lを時間交互の切り換えと分割光源3の分割制御による立体(3次元)表示を,片眼用映像の表示と分割光源3の全面発光回路26による2次元表示に平面表示変更回路27によって選択できる。この結果,通常の立体でない映像を広い範囲で観察できる。」【発明の効果】【0141】「また,本発明の請求項15記載の立体映像表示装置によれば,透過型映像表示板の時分割を通常表示に切り換える平面表示変更手段と,分割光源の全面発光手段を設けることにより,通常の2次元映像表示を広い範囲で観察することができ,両表示方式を任意に切り換えることができる。」(エ)前記認定事実によれば,原告が指摘する本件明細書の記載は,本件原出願の請求項15に係る発明(以下「請求項15発明」という。)に関する記載であることが認められるところ,請求項15発明は,透過型映像表示板,凸レンズ板,時分割して表示された左右2つの方向像を観察者の左右両眼へ選択的に投影して立体映像を表示するための分割光源,表示する方向像を時間交互に切り換える時分割手段,方向像の時間交互の切り換えに対応して左右2分割した領域で交互に発光するように制御する分割制御手段で構成したことを特徴とする立体映像表示装置(請求項1の発明)において,a)立体映像表示と,b)透過型映像表示板への片眼用画像の表示と分割光源の全面発光による平面映像表示とを,任意に切り換えられるように構成した立体映像表示装置であることが認められる。
言い換えれば,請求項15発明は,立体映像表示装置であって,二次元映像も表示できる構成としたものにすぎず,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)ではない。したがって,請求項15発明があることによって,本件発明の技術的範囲が,立体映像表示機能を備えない表示装置も含むことになるものではない。
よって,原告の主張は採用できない。
ウ原告は,立体映像でも表示された対象が平面内でしか移動しない画像の場合,そこに表示された映像は画像であり,かつ平面内で移動しているため時間的に「異なる画像」が表示され,立体映像表示装置が表示する立体画像は,平面画像で時間的に「異なる画像」であることから,立体画像は平面画像を包摂し,立体映像表示装置による発明は,平面しか表示しない平面映像(二次元映像)表示装置にも適用されると主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件明細書の記載によれば,本件発明は左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置の発明であると解すべきであり,本件原出願明細書の記載からしても,分割の適法要件を満たしているという前提に立てば,本件発明は左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置の発明であると解さざるをえない。そのような表示装置が平面画像を表示することも可能であるとしても,そのことにより立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)までもが本件発明の技術的範囲に含まれるようになるものではない。
(5)構成要件Bの解釈前記認定のとおり,本件発明は,透過型映像表示板に左眼用と右眼用の各映像を表示し,左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えることにより,左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影する方法による立体映像表示装置において,透過型映像表示板にLCDを使用した場合,左眼用と右眼用の各映像を完全に時間的に分離できないという問題点を解決するため,片方の眼用の方向像が書き込まれた後,次の画像の書き換えが始まる前に,いったん全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することにより,最初に書き込まれた片方の眼用の方向像とその次に書き込まれる他方の眼用の方向像を時間的に完全に分離することを実現した発明である。そして,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置の発明である。
したがって,構成要件Bの「異なる画像を順次表示する」は,左眼用と右眼用の各映像を表示するための左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えて,左眼と右眼にそれぞれの異なる方向像が分離投影されるということであるから,「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えて順次表示する」という意味と解される。
原告は,「異なる画像」とは,連続する画像信号が時間的に変化している画像全般,すなわち立体画像と平面画像の両方をいい,動画像は,異なる画像を順次表示させることで動きを表現するものであるから,二次元動画像も構成要件Bに含まれると主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置に関する発明であって,「異なる画像を順次表示する」について二次元動画像まで含めて解釈する余地はないから,原告の主張は採用できない。
2被告製品の本件発明の技術的範囲への属否について(争点1)(1)被告製品の構成のうち構成要件Dに対応する点についてア被告製品の構成のうち構成要件Dに対応する点の構成(構成dないし構成d")について,原告は,被告製品は構成dすなわち「表示装置。」であると主張し,被告は,被告製品は構成d"すなわち「二次元映像表示装置。」であると主張する。
被告製品が,被告が主張するとおりの「二次元映像表示装置。」(構成d")であるとすれば,構成要件Dを満たさないことになるので,まず,この点について判断する。
イ証拠(各事実の末尾に記載)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)被告製品はいずれも液晶テレビである(争いがない)。
(イ)被告製品において受信可能な放送/メディアは,地上アナログ放送(アナログCATVを含む。),地上デジタル放送,BS/110度CSデジタル放送,デジタルCATVである。被告製品の入力端子は,ビデオ・Sビデオ入力(前面・後面各1個),D端子入力(種類「D4」×2個),コンポーネント入力1個,PC入力(映像,音声各1個)である。
(甲17)これらは,いずれも通常は二次元映像を伝送・入力するものである。
(ウ)立体映像表示をする方法としては,何らかの光学作用で立体映像を構成する多方向像のうち,各方向像に対応する表示光線を観察者の目の位置で収束させ,それぞれの収束点が横方向に観察者の左右両眼の間隔になるようにすることで,その観察位置に両眼を置くと自律的に左右両眼にそれぞれ左右映像が分離投影され,立体映像として観察できることが知られている(甲3の【発明の詳細な説明】【背景技術】【0002】)。
ウ被告製品は二次元映像表示装置かどうかについて上記認定事実によれば,被告製品は,家庭等で使用される液晶テレビであって,受信可能な放送/メディアも通常,二次元映像を伝送しているものであり,入力端子も二次元映像を入力するものであることが認められる。
そして,立体映像表示をする方法としては,立体映像を構成する多方向像があり,各方向像に対応する表示光線をそれぞれの収束点が観察者の左右両眼の間隔になるようにして観察者の目の位置で収束させ,観察者の左右両眼にそれぞれ左右映像が分離投影する方法が知られていることが認められるところ,被告製品が,このような方法を用いるために必要とされる,方向分離されるバックライト光を生成する構成,右眼用光源,左眼用光源,それぞれの光源からの光を右眼と左眼に集光するような凸レンズを用いて,右眼と左眼とにそれぞれ異なる画像を投影させるようにする機能を有していることを認めるに足りる証拠はない。
よって,被告製品は,立体映像を表示できないから立体映像表示装置ではなく,二次元の映像のみを表示する「二次元映像表示装置」であると認められる。
したがって,被告製品は,構成要件Dを充足しない。
エ原告の主張について(ア)原告は,被告製品は,外部入力端子を有し,外部入力端子から左右画像・左右信号を入力して左右信号・左右画像を表示することが可能であり,これを制限する回路上の処理機能は,カタログ・現物のいずれにもないので,立体画像信号を入力して立体映像を表示することは可能であると主張する。
確かに,被告パンフレットには,左右画像の入力を禁じる旨の文言はない。しかし,前記認定のとおり,被告製品が受信可能な放送/メディアは,地上アナログ放送(アナログCATVを含む。),地上デジタル放送,BS/110度CSデジタル放送,デジタルCATVであり,これらの放送/メディアにおいては,通常,二次元映像の動画像信号が伝送されることは,一般に広く知られた事実である。
また,仮に,被告製品について,外部入力端子から,左右画像を表示するための左右信号を入力したとしても,前記のとおり,立体映像を表示するためには,左右画像に対応する表示光線の各収束点が観察者の左眼,右眼の各位置で収束させて,観察者の左右両眼にそれぞれ左右映像が時間を隔てて別々に投影されることが必要であるところ,原告は,被告製品に,このような装置が備わっていることを立証していない。
よって,仮に,被告製品において,左右画像を表示するための左右信号を外部入力端子から入力可能であったとしても,被告製品が立体映像表示をする機能を備えていると認めることはできない。
(イ)原告は,本来面順次の平面画像を表示するCRTにおいて,アタッチメント(素子ドライバ及びシャッタメガネ)を追加させることにより,時分割された左右画像を交互に表示して立体画像を表示できる技術が公知であるところ,LCDもCRTと同等な特性を持っているので,被告製品においても,アタッチメントの追加により,時分割された左右画像を交互に表示して立体画像を表示できるはずであると主張する。
しかしながら,本件全証拠によっても被告製品が上記アタッチメントを備えていると認めることはできない。そして,アタッチメントを追加すれば立体映像を表示できるとしても,被告製品にはアタッチメントがない以上,これを立体映像表示装置ということはできない。なお,被告製品が上記アタッチメントとともに販売されているとか,もっぱらアタッチメントとともに販売されているなどといった事情も認められない。
なお,証拠(甲2)によれば,本件明細書の【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】において,「本発明は,眼鏡を必要としない立体映像表示装置に関するものである。」と記載されていることからして,本件発明は,眼鏡等のアタッチメントを使用しなくても「立体表示装置」である表示装置についての発明であると理解すべきである。そして,被告製品がアタッチメントなくして立体映像を表示できる表示装置であることを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)原告は,被告製品の構成要件Dに対応する点について,構成dすなわち「表示装置。」であると主張する。しかし,構成要件Dの技術的範囲は「立体映像表示装置。」であるから,被告製品が「表示装置。」であるとしても,そのことは,被告製品が構成要件Dを充足しないとの前記認定に反するものではない。
(2)被告製品の構成のうち構成要件Bに対応する点についてア被告製品の構成被告製品は,地上アナログ,地上デジタル,衛星放送等のメディアを通じて,二次元の動画像に関する信号,すなわち経時に変化する一連の一方向の画像に関する信号を受信し,経時に変化する一連の一方向の画像を表示する表示装置であることが認められる。したがって,被告製品の構成のうち構成要件Bに対応する点は,被告の主張するとおり「前記LCDに動画像を表示する場合において,」との構成を備えているものと認められる。
構成要件Bの充足性構成要件Bが,「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えて順次表示する」という意味であることは前示のとおりである。他方,被告製品の上記「動画像」とは,「経時に変化する一連の一方向の画像」であって「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えたもの」ではないことは前記アのとおりである。したがって,被告製品は,「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えて順次表示する」ために必要な表示装置の構成を備えるものとは認められない。
よって,被告製品は構成要件Bを充足しない。
(3)まとめ以上のとおり,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件B,Dを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。
3結論よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 村上誠子
裁判官 高松宏之