運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2000-35113
無効2006-80183
関連ワード 新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  権利の濫用(権利濫用) /  優先日 /  参酌 /  発明の要旨認定 /  差止請求(差止) /  侵害 /  設定登録 /  移転登録 /  請求の範囲 /  対世的効力 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10358号 審決取消請求事件
原告東 京計装株式会社
訴訟代理人弁護 士稲元富保
被告日本フローセル製造株式会社
訴訟代理人弁護 士得丸大輔
訴訟代理人弁理 士萩原康弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2006−80183号事件について平成19年9月12日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨第2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)1 特許庁における手続の経緯等(1)クローネメステヒニークゲゼルシャフトミットベシュレンクテルハフツングウントコンパニーコマンデイトゲゼルシャフト(以下「クローネ社」という。)は,平成6年8月31日,発明の名称を「貫流容積測定装置」とする発明について特許出願(優先権主張・ドイツ連邦共和国,優先日1993年9月1日,特願平6-207327号。請求項の数1)をし,平成10年6月19日,特許庁から特許第2793133号として特許権の設定登録(以下,同特許を「本件特許」といい,同特許権を「本件特許権」という。)を受けた(甲17)。その後,同年9月21日,本件特許権について,クローネ社から原告への移転登録がされた。
(2)本件特許について東京フローメータ研究所(以下「東京フローメータ研究所」という。)及び本多電子株式会社(以下「本多電子」という。)から特許異議の申立て(異議平成11年第70762号)がされ,特許庁は,平成11年12月22日,本件特許を維持する旨の決定をし,同決定は,確定した。また,東京フローメータ研究所及び本多電子は,平成12年2月29日,本件特許について特許無効審判請求(無効2000-35113号)をした。
他方,原告は,同年4月19日,東京フローメータ研究所に対し,東京フローメータ研究所の超音波流量計の製造等が本件特許権を侵害すると主張して,その製造等の差止め及び損害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所平成12年(ワ)第7933号。以下「別件訴訟」という。)を提起した。
東京地方裁判所は,平成13年2月27日,本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから,原告の請求は権利の濫用により許されないとして,同請求を棄却する判決(以下「別件判決」という。)をした(甲8)。原告は,同判決を不服として控訴(東京高等裁判所平成13年(ネ)第1530号)したが,控訴審において,同年5月25日,原告と東京フローメータ研究所との間で訴訟上の和解が成立し,別件訴訟は終了した。同月30日,東京フローメータ研究所及び本多電子の上記特許無効審判請求は,取り下げられた。
(3)被告は,平成18年9月13日,本件特許について特許無効審判請求(無効2006-80183号)をした。
特許庁は,原告に対し,平成19年5月14日付けで無効理由通知(以下「本件無効理由通知」という。)をし,その上で,同年9月12日,「特許第2793133号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】走行時間差法に基いて作業する,液体の容積流を測定するための貫流容積測定装置であって,測定導管(2)と第1測定ヘッド(5)と第2測定ヘッド(6)とを備えている形式のものにおいて,測定導管(2)が,夫々1つの測定ヘッド(5,6)から発信される音波信号が液体よりも小さな音波速度で伝達されうるような材料から成っていることを特徴とする貫流容積測定装置。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,?@別件判決の判決書の理由の記載を根拠として,「小口径超音波流量計」(UCUF;UltraClean,UltrasonicFlowmeter)のパンフレット(以下「本件刊行物」という。甲7)は本件特許の優先日前に頒布されたものと認定し,?A本件発明は,本件刊行物に記載された発明と同一であるから,本件特許は,特許法29条1項3号に該当するものに対してされたものであると判断し,その余の無効理由について検討するまでもなく,同法123条1項2号の規定により無効とすべきである,とした。なお,審決の上記理由は,本件無効理由通知に係る本件特許の無効理由と同旨である。
当事者の主張
1 原告主張の取消事由審決は,以下のとおり,本件刊行物の頒布時期の認定の誤り(取消事由1),本件発明と本件刊行物に記載された発明との同一性の判断の誤り(取消事由2)があるから,違法である。
(1) 取消事由1(本件刊行物の頒布時期の認定の誤り)審決は,以下のとおり,別件判決の判決書の理由の記載を唯一の根拠とし,他に本件刊行物の頒布時期を証する証拠を何ら示すことなく,本件刊行物が本件特許の優先日前に頒布された事実を認定した。審決には,的確な証拠に拠らない,誤った事実認定に基づく判断をした違法がある。
ア審決は,?@別件判決の判決書で引用された「本件パンフレット」(別件訴訟・乙1)は,特許異議の申立て(異議平成11年第70762号),特許無効審判請求(無効2000-35113号),別件訴訟の各事件において同一の者である東京フローメータ研究所から証拠として一貫して提示されているものであり,「本件パンフレット」の記載内容についても上記3事件で一致し,パンフレットである以上は同一の物が複数部存在することは自明であることを考慮すると,本件刊行物は「本件パンフレット」と同一の内容が記載されたパンフレットと推認することは十分に可能である(審決書10頁28行〜11頁2行),?A別件判決は和解による終局のために確定してはいないが,「本件パンフレット」が本件特許の優先日である平成5年9月1日より前の「平成5年7月ころまでには」すでに公知であったとの別件判決の認定について,これを否定する証拠は現在に至るまでどこにも示されてはいない(同11頁4行〜8行),?Bしたがって,本件刊行物は,少なくとも別件判決の判決書における「本件パンフレット」によって本件特許の優先日前に頒布された刊行物として成立していたものと認められる(同11頁9行〜11行)と認定,判断した。
イ しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。
(ア)別件判決の判決書の理由において,「本件パンフレット」が本件特許の優先日である平成5年9月1日より前の「平成5年7月ころまでには」すでに公知であったと認められると認定されているとしても,それは,別件訴訟の当事者間の具体的な紛争解決を目的とする民事訴訟において提出された「特定のパンフレット」に対する認定評価であって,そのことから同パンフレットとは異なる本件刊行物についての認定ができるものではない。審決が,上記判決書の理由中の記載に依拠して,本件刊行物の頒布時期を認定したことは根拠を欠く。
そして,原告は,別件判決に対して控訴して争い,その結果,控訴審で和解が成立したものであり,別件判決は確定しておらず,別件判決の理由中の判断である「本件パンフレット」の頒布時期の認定も控訴審において正当なものとして支持されたわけでもなく,別件判決の理由中の判断について対世的効力は認められる根拠も存在しない。審決が,別件判決の判決書の理由の記載を唯一の証拠として事実認定を行うことは,到底許されるものではない。
(イ)審決においては,本件刊行物の頒布時期が本件特許の優先日より前であることが立証命題であるが,本件刊行物そのものの頒布時期を証する証拠はない。パンフレットが,複数部存在する場合に,仮に1部が頒布されれば,他のものまで頒布されたという経験則はない。したがって,仮に,別件判決の判決書で言及された「本件パンフレット」の記載内容と本件刊行物の記載内容とが一致するとしても,本件刊行物が「本件パンフレット」によって本件特許の優先日前に頒布された刊行物として成立していたものと認めることはできない。
(ウ)さらに,審決は,「本件パンフレット」が本件特許の優先日前の「平成5年7月ころまでには」すでに公知であったとの別件判決の認定について,これを否定する証拠は現在に至るまでどこにも示されてはいないというが,7年も前に言い渡された別件判決(未確定)の判決書の理由中に示された事実認定について,これを覆す証拠が示されない限り,当該判決のした事実認定のとおりの事実が存在するものとしなければならない根拠はない。
ウしたがって,審決が,別件判決の判決書の理由の記載を唯一の根拠として本件刊行物が本件特許の優先日前に頒布されたと認定したことは,誤った事実認定であり,違法である。
(2) 取消事由2(同一性の判断の誤り)ア審決は,「本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄の段落【0011】には,・・・と記載されていること,および,本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄のその他の段落においては,『測定導管(2)』を形成する他の材料および『測定導管(2)』内を流れる液体の他の音波速度については何も記載されていないことからみて,本件発明における『測定導管(2)』とは,PFAにより形成されているものであり,『測定導管(2)』内を流れる液体は,その音波速度が『ほぼ1500m/s』のものであ」る(審決書11頁17行〜27行),?A「刊行物記載発明における液体の流路を形成する『本体』と本件発明の『測定導管(2)』とは,共にPFAにより形成されている点で共通し,刊行物記載発明における本体内を流れる液体と本件発明がその出願時点で想定する『測定導管(2)』内を流れる液体の音波速度とは,共に『ほぼ1500m/s』である点で共通するから,刊行物記載発明における液体の流路を形成する『本体』と本件発明の『測定導管(2)』とは,共に『夫々1つの測定ヘッドから発信される音波信号が液体よりも小さな音波速度で伝達されうるような材料から成っている』こととなり,刊行物記載発明の液体の流路を形成する『本体』は本件発明の『測定導管(2)』に相当するものである」(審決書11頁34行〜12頁6行)と認定した上で,本件発明は,本件刊行物に記載された発明と同一であると判断した。
イ しかし,審決の認定判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)発明の特許性の判断における発明の要旨の認定に当たっては,特段の事情がなければ,明細書の発明の詳細な説明などの記載を参照することができないというべきである。
しかるに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「測定導管(2)」と記載されているだけであって,審決が認定する「測定導管(2)が『PFA』により形成されている」というような記載も,「『測定導管(2)』内を流れる液体は,その音波速度が『ほぼ1500m/s』のものであ」るというような記載もいずれも存しない。しかるに,審決は,本件において,特段の事情について何ら認定判断を行うことなく,本件特許に係る明細書(以下,図面と併せて「本件明細書」という。甲9)の発明の詳細な説明の記載を参酌して,上記のとおり,本件発明における「測定導管(2)」は,PFAにより形成され,「測定導管(2)」内を流れる液体は,その音波速度が「ほぼ1500m/s」のものであると,本件発明の要旨認定をした誤りがある。
(イ)本件刊行物(甲7)の「■概要」欄には,流量計の計測対象について,「純水・超純水,薬液など」と記載され,また,本件刊行物の「■標準仕様」欄には,「計測対象:液体全般」と記載されていることに照らすならば,本件刊行物記載の流量計は,「液体全般」を計測対象とし,当然に「本体」を流れる液体は「純水や超純水」という特定の液体ではなく,それ以外の液体も含まれる。そうすると,本件刊行物記載の流量計が対象とする「液体」にはフッ酸などのように,PFAよりも音波速度が遅い液体も含まれるから,本件刊行物記載の流量計の「本体」は,「音波信号が液体の音波速度よりも小さくなったり,大きくなったりする音波速度で伝達されるような材料から成っている」といえる。にもかかわらず,審決が,本件刊行物記載の流量計の「本体」は,「夫々1つの測定ヘッドから発信される音波信号が液体よりも小さな音波速度で伝達されうるような材料から成っている」と認定したのは誤りである。
(ウ)以上によれば,本件刊行物記載の流量計の「本体」が「音波信号が液体の音波速度よりも小さくなったり,大きくなったりする音波速度で伝達されるような材料から成っている」のに対し,本件発明の「測定導管(2)」が「音波信号が液体の音波速度よりも小さな音波速度で伝達されるような材料から成っている」点で両発明は相違しているのに,この相違点を看過し,本件発明と本件刊行物に記載された発明とは同一であるとした審決の判断は誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア審決が,別件判決の判決書(甲8)の理由の記載を根拠として,本件刊行物(甲7)は本件特許の優先日前に頒布されたと認定したことに誤りはない。本件刊行物の頒布時期の認定判断の根拠として,別件判決の判決書における認定結果を信用力あるものとして採用した審決の認定に,不合理な点はない。
イ別件判決が,控訴がされたため確定していないことや,控訴審で和解が成立したことは,審決が別件判決の判決書の理由を正しいものとして自己の認定の根拠とすることに対する妨げとなるものではない。
確定していない判決の判決理由であっても,少なくとも一般の証拠と等しく判断の根拠たり得る。別件判決の判決書の記載が,証拠として採用できるか否かは,判決の証明力如何に係る問題である。そして,別件判決の判決書は,事実認定のプロである3人の裁判官によって証人尋問等を経て認定判断されたものであるから,十分な証明力,事実上の推定力が存するものであり,一般の書証に比して格段に証明力は強い。このような経験則に照らすならば,別件判決の認定結果が真実に基づくということができる。
ウ以上によれば,本件刊行物の頒布時期についての審決の認定の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
(2) 取消事由2に対しア明細書の発明の詳細な説明において特許請求の範囲に属するものとして例示された構成のうちの1つでも公知であれば,新規性が否定されることは論を待たない。審決が,本件発明の新規性を論ずるに当たり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,「刊行物記載発明における液体の流路を形成する『本体』と本件発明の『測定導管(2)』とは,共にPFAにより形成されている点で共通し」と,また「刊行物記載発明における本体内を流れる流体と本件発明がその出願時で想定する『測定導管(2)』内を流れる液体の音波速度とは,共に『ほぼ1500m/s』である点で共通する」と認定したことに違法はない。したがって,本件発明の要旨認定の誤りをいう原告の主張は,独自の見解に基づいて審決を論難するものであって,失当である。
イPFAは,本件発明の測定導管(2)の材料の少なくとも1種類であることは明らかであるので(本件明細書の段落【0011】),本件刊行物に記載された発明の「本体」の材質と本件発明の「測定導管(2)」の材質は何ら変わりない。一方,フッ酸も本件発明における液体となり得るものであるから,本件発明においても測定導管(2)は「音波信号が液体の音波速度よりも小さくなったり,大きくなったりする音波速度で伝達されるような材料から成っている」といえる。したがって,本件刊行物記載の流量計の「本体」が「音波信号が液体の音波速度よりも小さくなったり,大きくなったりする音波速度で伝達されるような材料から成っている」のに対し,本件発明の「測定導管(2)」が「音波信号が液体の音波速度よりも小さな音波速度で伝達されるような材料から成っている」点で,本件刊行物に記載された発明と本件発明とが相違しているとの原告の主張は,誤りである。
ウ以上のとおり,本件発明と本件刊行物に記載された発明とは同一であるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件刊行物の頒布時期の認定の誤り)について(1) 審決の事実認定の当否ア 事実認定の内容(ア)審決は,別件判決の判決書(甲8)のみを根拠に挙げて,本件刊行物(甲7)が本件特許の優先日前に頒布されたものであるとの事実認定をし,本件発明は,本件刊行物に記載された発明と同一であると判断した。
すなわち,審決は,別件判決の判決書の理由の記載部分〔「第4当裁判所の判断」,「1争点1(2)」,「(1)本件パンフレットの記載について」及び「(2)本件パンフレットの配布について」欄の記載(審決書7頁28行〜10頁18行)〕を根拠として,?@本件刊行物(甲7)は,別件判決に言及されている「本件パンフレット」と同一の内容が記載されたパンフレットであると推認することが可能である(同10頁28行〜11頁2行),?A別件判決は,和解によって終局したため確定してはいないが,別件判決において,「本件パンフレット」が本件特許の優先日である平成5年9月1日より前の平成5年7月ころまでには,既に公知であったと認定した点について,これを否定する証拠は現在に至るまでどこにも示されてはいない(同10頁28行〜11頁2行),?Bしたがって,本件刊行物は,「本件パンフレット」によって,本件特許の優先日前に頒布されたことが認められる(同11頁10行〜11行)旨認定,判断した。なお,審決は,別件判決の判決書以外の証拠は何ら摘示していない。
(イ)甲8(別件判決の判決書)によれば,別件判決は,別件訴訟で証拠調べのされた書証(別件訴訟乙19,20,30,31等)及び人証(証人【C】,証人【D】)と弁論の全趣旨を基礎として,「原告は,平成5年7月ころまでには,本件パンフレットを取引先等に配布したものと認められる。」(審決書10頁13行〜14行)と認定したことが認められる。
イ 事実認定の当否上記を前提に,審決のした事実認定の当否について判断する。
(ア)本件審判における立証の対象となる事実は,本件刊行物が,本件特許の優先日である平成5年9月1日より前に頒布されたか否か,本件刊行物の記載内容がどのようなものであったか,そして,本件発明が特許法29条1項3号に該当するか否か等である。本件審判において,上記の立証対象事実が存在するとの認定をするためには,少なくとも直接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料又は間接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料を取り調べた上,審判体自ら,各証拠の信用性を総合的な観点から,吟味検討し,あるいは取捨選択して,立証対象事実の存否に関する心証を形成することを要するというべきであって,そのような審理ないし検討を一切することなく,他者の認定判断に依拠して,事実が存在すると認定することは合理性を欠く。
これを本件についてみると,本件刊行物が,本件特許の優先日である平成5年9月1日より前に頒布された事実が存在すると認定するためには,少なくとも,別件判決が認定の基礎とした書証や人証を自ら取り調べるか,そのような証拠を取り調べることができない場合には,代替的な証拠を取り調べる必要があるというべきである。しかし,本件審判手続において,審判体が,当事者から上記書証や上記人証に係る証人尋問調書の提出を受け,又はこれらを取り寄せるなどして上記検討をした形跡は一切認められない。
(イ)そして,審決は,別件判決の判決書の理由中の記載事項のみをもって,「原告は,平成5年7月ころまでには,本件パンフレットを取引先等に配布した」との事実を認定したものであり,このような事実認定には合理性がなく,到底是認されるものでない。
(ウ)以上のとおり,審決が,「本件パンフレット」が本件特許の優先日である平成5年9月1日より前の「平成5年7月ころまでには」すでに公知であったとし,「本件パンフレット」と同一内容が記載された本件刊行物が,本件特許の優先日前に頒布されたものと認定したことには,誤りがある。
(2) 被告の主張に対する判断被告は,?@審決は,別件判決の判決書の認定を信用力あるものとして,積極的に本件刊行物の頒布時期の認定判断の根拠として採用したものであり,また,上記判決書の認定は,きめ細かく,説得力のあるものであるから,審決が上記判決書の認定を根拠としたことに何ら不合理な点はない,?A別件判決は,確定していないが,事実認定の専門家である3人の裁判官によって証人尋問等を経て認定判断されたものであるから,それ自体十分な証明力があり,一般の書証に比較して証明力は高いなどと主張する。
しかし,上記(1)イ記載のとおり,本件発明が特許法29条1項3号に該当する事実の存否について,少なくとも,別件訴訟で取り調べられたのと同様の書証,人証を取り調べた上で,それらの証拠の信用性について総合的に検討することを要するというべきであるが,本件審判手続において,その検討はされていない(なお,別件訴訟の終了後に受訴裁判所に保管された書証の写し,証人尋問調書等の訴訟記録は,保存期間経過のため,既に廃棄されている。)。また,原告は,別件判決を不服として控訴し,別件判決のした「本件パンフレット」の頒布時期の事実認定を争っていたこと,別件訴訟は,原告が東京フローメータ研究所に対して提起した本件特許権の侵害に基づく差止め及び損害賠償請求訴訟であり(前記第2の1(2)),別件訴訟と本件審判とは,当事者が異なること,別件判決は確定していないこと等に照らすならば,別件判決の何らかの効力が本件審判の当事者に及ぶこともない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3) 小括以上によれば,審決における本件刊行物の頒布時期の認定の誤りをいう原告主張の取消事由1は理由がある。
2 結論以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀