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事件 |
平成
19年
(行ウ)
593号
異議申立棄却決定取消等請求事件
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神奈川県横浜市<以下略> 原告有限会社センサ研究所 東京都千代田区<以下略> 被告国 処分行政庁特許庁長官肥塚雅博 指定代理人石田久隆 同 神谷一秀 同 五十 嵐伸司 同 門奈伸幸 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/11/29 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求の趣旨特許庁長官が平成19年3月22日付けで原告に対してした行政不服審査法による異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,特許料等の納付期限及び追納期限経過後に提出した納付書に係る手続却下処分に対する異議申立てについて,特許庁長官において特許法112条の2第1項に規定する「その責めに帰することができない理由」が認められないとしてこれを棄却する旨の決定(以下「本件異議決定」という )。 をしたことにつき,本件異議決定が特許法に違反するものであるとして,被告に対して,本件異議決定の取消しを求めた事案である。 ( , 。) 1前提となる事実 当事者間に争いがないか 後掲各証拠によって認められる( ) 当事者1原告は,工業廃水,養殖池などの水の浄化に関する研究と設計,施工及び請負等を目的とする有限会社である。 ( ) 原告の特許権2,(「」。)()。 原告は 次の特許権 以下 本件特許権 というを有していた 乙1特 許 番 号第3360075号登録日平成14年10月18日出 願 番 号特願平2-261769出願日平成2年9月28日発明の名称浮遊型省エネ浄水機( ) 本件特許権の消滅3本件特許権は,平成17年10月18日を納付期限とする第4年分特許料, ,()。 不納を原因として 平成18年6月21日付けで 抹消登録された 乙1( ) 本件訴訟に至る経緯4ア特許法107条1項,108条2項によれば,本件特許権の第4年分の特許料の納付期限は,平成17年10月18日であった。そして,特許法112条1項によれば,この納付期限内に特許料を納付することができないときは,その期限が経過した後であっても,その期限の経過後6か月以内は,特許料の納付が認められており,その追納期限は,平成18年4月18日であった。 原告は,前記追納期限である平成18年4月18日までに,所定の特許料及び割増特許料(以下「本件特許料等」という )を納付しなかった。 。 イ原告は,処分行政庁に対し,平成18年5月24日,本件特許権の第4(「」 年分から第7年分までの本件特許料等の納付書 以下 本件特許料納付書という )を提出した(乙2 。 。)これに対し,処分行政庁は,平成18年6月28日付けで,本件特許権は,第4年分の特許料等が追納期間内に納付されなかったため,特許法112条4項により,平成17年10月18日の経過の時にさかのぼって消滅したものとみなされたことから,本件特許料納付書による本件特許料等の納付は,権利消滅後の年分に係わる特許料の納付であることを理由に却下すべきものと認められる旨の却下理由通知をした(乙3 。)ウ原告は,平成18年8月9日,前記却下理由通知について 「特許取得 ,の経過と,実用化状況を述べながら,本特許の置かれている立場と重要性についての説明を行ない,特許消滅の件に関して理解を求める 」旨の内 。 容等を記載した弁明書(甲1,乙4〔弁明方法参照 )を提出した。 〕これに対し,処分行政庁は,同年9月26日付けで,前記却下理由通知書に記載の却下理由が解消されていないとして,本件特許料納付書を却下する処分(以下「本件却下処分」という )をした(甲2,乙5 。 。)エ原告は,平成18年11月30日付けで,本件却下処分について,行政不服審査法に基づく異議申立てをした(甲3,乙6の1ないし3 。)これに対し,処分行政庁は,平成19年3月22日付けで,特許法112条の2第1項の規定により追納が認められる場合とは 「その責めに帰 ,することができない理由」に該当する場合のみであるから,原告の主張は理由がない等として,本件異議決定(甲4,乙7の1)をした。なお,同決定書は,同年3月25日に原告に送達された(乙7の2 。)オ原告は,本件異議決定の取消しを求めて,平成19年9月21日,本件 |
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追加 | |
2本件における争点本件異議決定に違法事由があるか否か。 3争点に関する当事者の主張()原告の主張1ア本件異議決定に関する違法事由について本件異議決定は,下記?@ないし?C記載の理由に基づいて,原告の申立てを棄却している。これらの理由は,いずれも特許法の精神に背くものであるから,本件異議決定は,特許法に違反するものであって,違法なものである。 ?@本件異議決定には「特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行な,われるものである。万全の注意を払っても避けることができなかった事由とは認められない。したがって特許法第112条の2第1項に規定する“その責めに帰することができない理由”に該当するとは認められない」と記載されている。。 しかしながら,処分行政庁は,特許法に疎い発明者を一方的に法で責,,め立てるべきではなく原告による特許料等の追納を認めない行為は特許法1条の精神を無視するものであって,違法なものである。 ?A本件異議決定には「当庁には,特許料の支払いの催告を義務付ける,法令の根拠も無い」と記載されている。。 しかしながら,処分行政庁は,発明を奨励して育成する立場にあるものであるから,特許法を知らない発明者に対する開き直りの言動を慎むべきである。仮に,発明者が特許料等の納付を失念しているような場合には,処分行政庁は,発明者に納付を催促して,発明を育てるべきである。 ?B本件異議決定には「失効した特許権の回復を無期限に認めると,第,三者に過大な監視負担をかけることを考慮したからである」と記載さ。 れている。 しかしながら,この記載は,本件特許権を消滅させたことに後ろめたさを感じていることの現われであって,特許法の精神に背く行為を正当化するための言い訳にすぎない。 ?C本件異議決定には「弁明書は特許行政に対する意見を述べるにとど,まり,本件却下処分の違法または不当について述べたものではない」。 と記載されている。 しかしながら,この記載は,発明者が置かれている立場や事情を全く理解しようとしないものであって,発明者の感情を逆撫でするものである。 イ本件異議決定に関する固有の違法事由について本件異議決定には,東京高等裁判所平成16年8月4日判決(乙9)が引用されている。この判決と本件異議決定の事案はそれぞれ異なるものであるから,この判決を理由付けとして用いたことは,本件異議決定に関する固有の違法事由である。 ()被告の主張2行政事件訴訟法10条2項は「処分の取消しの訴えとその処分について,の審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない」と定める。同規定は,行政処分とこれを維持した裁決。 とがある場合に,行政処分と裁決のいずれに対しても取消訴訟を提起することは可能であるが,原処分の違法事由は処分取消しの訴えにおいてのみ主張することが許され,裁決取消しの訴えにおいてこれを主張することはできないとする原処分主義を定めるものである。 本件訴えについてみると,特許法184条の2は,審査請求前置主義を採用するものの,いわゆる裁決主義を採用するものではないから,原処分である本件却下処分の取消しの訴えと本件訴えとは,双方ともに提起することができる。 ,,,そうすると本件訴えには行政事件訴訟法10条2項が適用されるから本件異議決定の取消原因となる違法事由は,本件異議決定の固有の瑕疵に限られることになる。 したがって,前記()アの原告の主張は,本件異議決定の固有の瑕疵を主1張するものではないから,主張自体失当である。前記()イの原告の主張は1争う。 第3当裁判所の判断1本件異議決定の取消理由について行政事件訴訟法10条2項は「処分の取消しの訴えとその処分についての,審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない」と規定している。。 他方で,特許法184条の2は,処分の取消しの訴えは「当該処分につい,ての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ,提起することができない」と規定している。しかし,この規定は,審査請求前置。 主義を規定するにとどまるものであって,取消しの訴えは,裁決に対するものでなければならないとする裁決主義を規定するものではない。 そうすると,本件では,本件却下処分の取消しの訴えと本件異議決定の取消しの訴えをいずれも提起することができる場合に当たるから,行政事件訴訟法,,10条2項の規定により本件異議決定の取消しを求める本件訴えにおいては本件却下処分の違法を理由とすることができないことになる。 2本件異議決定に関する固有の違法事由についてア原告主張に係る上記第2の3()アの主張は,本件却下処分の違法を理由1とするものであるから,本件異議決定に関する固有の違法事由とはいえず,これを本件異議決定の取消しの理由と認めることはできない。 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。 イ原告主張に係る上記第2の3()イの主張は,結局のところ,特許法1112条の2第1項に規定する「その責めに帰することができない理由」の解釈について論難するにすぎない。そうすると,本件却下処分の違法を理由とするものであって,本件異議決定に関する固有の違法事由とはいえず,これを本件異議決定の取消しの理由と認めることはできない。 したがって,この点に関する原告の主張も理由がない。 3結論以上のとおり,本件異議決定にはその取消しの理由となる違法事由が認められないから,本件異議決定は適法である。 したがって,原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部設樂隆一裁判長裁判官中島基至裁判官古庄研裁判官 |