運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2005-80326
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  持分譲渡(持分の譲渡) /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10112号 審決取消請求事件
原告株式会社オートドアー技研
同訴訟代理人弁理士波多野久
同 古川潤一
被告株 式会社ユニフロー
同訴訟代理人弁護士日野修男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/11/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2005-80326号事件について平成19年2月16日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「スライド・スイング式ドア装置」とする発明につき,平成11年5月31日(優先権主張日平成10年12月28日,日本国),株式会社ユニオンと共に特許を出願し,平成17年4月28日にその特許の登録がされた(甲1)。これに対し,被告は,平成17年11月11日,本件特許の請求項1ないし9に係る発明につき無効審判請求をした。なお,原告は,平成17年12月19日,株式会社ユニオンからその持分の譲渡を受けた(甲20)。
特許庁は,この審判請求を無効2005-80326号事件として審理し,その結果,平成19年2月16日,「特許第3673115号の請求項1〜9に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。
2特許請求の範囲特許請求の範囲請求項1ないし9の記載は,次のとおりである。
【請求項1】建物の床面上に開口部を形成する上枠及び両縦枠から成る3方枠体に設けられるとともに,前記開口部の幅方向及び縦方向にそれぞれ所定長さを有し且つ当該開口部の前後方向に所定厚さを有する開閉用の扉体を備えたスライド・スイング式ドア装置において,前記扉体を,前記3方枠体の一方の縦枠の前記開口部の側の側面に沿って配置され且つ前記上枠及び床面の間に回転可能に支持された回転竪柱と,前記回転竪柱に隣接して前記上枠と床面との間で回転可能に支持され且つドア閉時には前記回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有するドアパネルとで形成し,前記回転竪柱を,当該回転竪柱の前記縦方向の上端及び下端それぞれの面の前記前後方向の中心位置であって前記幅方向で同じ位置にそれぞれ設けられた回転軸を介して前記上枠及び床面との間に回転可能に支持させる一方で,前記回転竪柱の上端部に一端が剛結され且つ前記ドアパネルの上端面の所定位置に他端を回転自在に取り付けた回転吊りアームと,前記回転竪柱の下端部に一端が剛結され且つ前記ドアパネルの下端面の所定位置に他端を回転自在に取り付けた回転下部アームと,前記上枠と前記ドアパネルおよび回転竪柱との間に前記開口部の幅方向に沿って設けた吊りレールと,前記ドアパネルを前記吊りレールに沿ってスライド自在に吊持する吊り車とを備えたことを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項2】請求項1記載の発明において,前記回転堅柱を,前記ドアパネルの少なくとも半分の荷重を保持可能な強度を持たせて形成するとともに,前記吊り車を,前記ドアパネルの少なくとも半分の荷重を保持可能な強度を持たせて形成したことを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項3】請求項2記載の発明において,前記回転堅柱と前記ドアパネルが一体化した外観形状として,当該回転堅柱及び当該ドアパネルの前記前後方向の厚さが前記所定厚さであって互いに同じであり,当該回転堅柱及び当該ドアパネルの前記縦方向の長さが前記所定長さであって互いに同じであることを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項4】請求項2記載の発明において,前記パネルの前記回転堅柱に対向する側面部の一方の角部をその縦方向全体に渡って切除し,この切除部に前記回転堅柱を配置したことを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項5】請求項4記載の発明において,前記縦枠に対して前記回転堅柱の長手方向の一部を当該回転堅柱が回動自在な状態で保持する中間ガイドを設けたことを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項6】請求項3記載の発明において,前記回転堅柱及び前記ドアパネルの互いの対向する側面同士がドア閉時につくる隙き間を,前記縦方向にわたって前記前後方向に非直線状になる形状又は前記幅方向に対して非直交する形状に形成したことを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項7】請求項3記載の発明において,前記ドアパネルと前記回転堅柱との間,および,そのパネルと前記枠体の回転堅柱とは反対側の縦枠との間を同時にロックおよびアンロック可能なマグネット構造の双頭の鍵を設けたことを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項8】請求項3記載の発明において,前記回転堅柱の上下端に前記回転吊りアーム及び前記回転下部アームを夫々固設した状態で当該回転堅柱を前記枠体及び床面に着脱自在に取り付けるピボット手段を備えたことを特徴とするスライド・スイング式ドア装置。
【請求項9】請求項8記載の発明において,前記回転吊りアームと前記回転下部アームの各々両端の前記回転竪柱及び前記ドアパネルへの取り付け位置は,この回転竪柱及びドアパネルそれぞれの前記前後方向の中心位置に一致していることを特徴とするスライド・スイング式ドア装置(以下「本件発明1」等といい,本件発明1ないし本件発明9を総称して「本件各発明」という。)。
3審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件各発明は,特開平9-184352号公報(甲4。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容並びに本件各発明と引用発明との一致点及び相違点(相違点3ないし9を除く。)を次のとおり認定した。
(1)引用発明の内容壁面Wに嵌め込むようにして床面Fに立設された扉枠30が,左右の竪枠31,32,上枠33により門形に形成されているとともに,該扉枠30と平行するようにして閉じることができる扉21を備えた折畳み回転扉において,上記扉枠30の一方の竪枠の前面側に埋め込むようにして並設され,該竪枠31に対して上下一対の保持ピン34,34を用いて回転自在に装着された回転支柱11と,該回転支柱11の上端及び下端に付設した一対の支持アーム12,12と,上下一対の連結ピン27,27を介して該支持アームに対して回転自在に装着された扉21とを備え,上記上下一対の保持ピン34,34が,回転支柱11の軸心上の位置であって扉枠30の左右方向の同じ位置に,それぞれ設けられており,上方の連結ピン27は,上方の支持アーム12とスラストベアリング28とを介して扉21を吊下することができ,上記扉21は,厚さ内に配設する上下一対の連結ピンを介して支持アームに連結するとともに,該扉21の上端面には,ガイドローラ29a付きのガイドピン29が立設させ,該ガイドローラ29aを,上記扉枠30の上枠33に付設するガイドレール35に係合させることにより,該扉21が,ガイドローラ29a,ガイドレール35によって前後方向の動きが規制され,連結ピン27,27のまわりに回転すると同時に,ガイドローラ29aがガイドレール35に沿って回転支柱11に向けて進行するように扉の開閉軌跡を規定したガイド機構を備えるように構成された折畳み回転扉。
(2)一致点建物の床面上に開口部を形成する上枠及び両縦枠から成る3方枠体に設けられるとともに,前記開口部の幅方向及び縦方向にそれぞれ所定長さを有し且つ当該開口部の前後方向に所定厚さを有する開閉用の扉体を備えたスライド・スイング式ドア装置において,前記扉体を,前記3方枠体の一方の縦枠の前記開口部の側の側面に沿って配置され且つ前記上枠及び床面の間に回転可能に支持された回転竪柱と,前記回転竪柱に隣接して前記上枠と床面との間で回転可能に支持されたドアパネルとで形成し,前記回転竪柱を,当該回転竪柱の前記縦方向の上端及び下端それぞれの面の前記前後方向の中心位置であって前記幅方向で同じ位置にそれぞれ設けられた回転軸を介して前記上枠及び床面との間に回転可能に支持させる一方で,前記回転竪柱の上端部に一端が剛結され且つ前記ドアパネルの上端面の所定位置に他端を回転自在に取り付けた回転吊りアームと,前記回転竪柱の下端部に一端が剛結され且つ前記ドアパネルの下端面の所定位置に他端を回転自在に取り付けた回転下部アームと,前記開口部の幅方向に沿って設けたレールと,前記ドアパネルを前記レールに沿ってスライド自在に案内する手段とを備えたスライド・スイング式ドア装置である点。
(3)相違点ア相違点1ドアパネルをレールに沿ってスライド自在に案内する手段に関して,本件各発明が「前記上枠と前記ドアパネルおよび回転竪柱との間に前記開口部の幅方向に沿って設けた吊りレールと,前記ドアパネルを前記吊りレールに沿ってスライド自在に吊持する吊り車と」を用いたものであるのに対して,引用発明が,そのような吊りレールや吊り車を用いたものではない点。
イ相違点2「扉体」(「回転竪柱」及び「ドアパネル」)の構成に関して,本件各発明が,「扉体」を,「ドア閉時には前記回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有するドアパネルとで形成し」たものであるのに対して,引用発明は,そのような一体化させた外観形状を備えていない点。
第3原告主張の取消事由審決は,一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点2の認定及び容易想到性の判断を誤った(取消事由2,3)から,取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)(1)審決は,本件各発明と引用発明とは開閉用の扉体を備えている点で一致すると認定したが,誤りである。
本件各発明における「開閉用の扉体」は,「回転竪柱とドアパネルとから形成され,ドア閉時には前記回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有する」ことに特徴がある。他方,引用発明における「扉21」及び「回転支柱11」は,前者が薄い板状の直方体であるのに対し,後者は扉21を構成せず,一方の竪枠31の前面側に埋め込むように並設され,回転支柱11の直径が「扉21」の厚さと異なる円筒状のパイプであり,「扉21」と「回転支柱11」とは,隣接して並設されている。
本件各発明は,3方枠体の開口部の側の側面に回転竪柱が配置されて開閉用の扉体の開口部をドアパネルとともに開閉可能に構成されるのに対し,引用発明の「回転支柱11」は,竪枠31の前面側に並設され,開口部の扉21を構成していない。したがって,引用発明の「扉21」及び「回転支柱11」を合わせたものは,「開閉用の扉体」に相当するということはできない。
(2)審決は,本件各発明と引用発明とは,「3方枠体の一方の縦枠の前記開口部の側の側面に沿って配置され且つ前記上枠及び床面の間に回転可能に支持された回転竪柱」を備えている点で一致すると認定したが,誤りである。
本件各発明における「回転竪柱」は,3方枠体の一方の縦枠の前記開口部の側の側面に沿って配置され,ドアパネルとともに,開閉用の扉体を構成するものであり,引用発明のように,回転支柱が扉枠30の一方の竪枠31の前面側に埋め込むようにして並設され,扉枠21のみで開口部が開閉されるのではないから,両者は一致しない。
2取消事由2(相違点2の認定の誤り)審決の相違点2の認定は,?@「扉体」を「回転竪柱」及び「ドアパネル」と同列に扱っている点,?A「ドア閉時には前記回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有するドアパネルで形成」される構成を,「扉体」に付加された構成にすぎないと理解している点で誤りがある。相違点2は,「本件各発明が回転竪柱とドアパネルとから形成される『開閉用の扉体』を備えるものであるのに対し,引用発明は,そのような構成を備えていない点」と認定すべきである。
3取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)(1)審決は,「建物や家具等の開口部に設けられる開閉用の扉体を複数の部材で構成する際に,当該複数の部材らがドア閉時にはできる限り外観上一体のものとして視認され得るように構成することは,例を示すまでもなく,従来より周知ないし慣用の技術であったということができる。」と判断したが,誤りである。
審決は,本件各発明を「建物や家具等の開口部に設けられる開閉用の扉体を複数の部材で構成する際に」当てはめ,「回転竪柱」及び「ドアパネル」から構成される「開閉用の扉体」を上位概念である「複数の部材」の構成にまで敷衍している。すなわち,下位概念で表現された本件各発明の特徴的技術事項を,上位概念で表わされる周知技術に基づいて,容易想到性の有無を判断するものであり,失当である。また,「回転竪柱」と「ドア閉時には前記回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有するドアパネル」は,「例を示すまでもなく,従来より周知ないし慣用の技術であったということができる。」とはいえない。
(2)審決は,刊行物1には,「この発明の目的は,かかる従来技術の問題に鑑み,回転支柱を一方の竪枠の前面に埋め込むとともに,扉の厚さ内に配設する連結ピンを介して扉を支持アームに連結することによって,扉の前面にブラケットを突設する必要がなく,全体の体裁を大きく向上させることができる折畳み回転扉を提供することにある。」との記載があることから,引用発明における回転支柱と扉とを含む全体的な体裁を良好なものにするという技術的課題が示唆されているとし,相違点2についての容易想到性があると判断したが,誤りである。
引用発明は,「扉21」とは別個独立し,開閉用扉体を構成せず,扉枠30の前面側に埋め込まれる「回転支柱11」を備えたものであり,また,ドア閉時においては,「支持アーム12」の一部が「扉21」の前面から突出して,「開閉機構の存在が目立つ」ものである。したがって,刊行物1には本件各発明が解決しようとする課題は開示又は示唆されていない。
(3)審決は,「本件発明1がこのような断面形状を備えることにつき,特許請求の範囲の請求項1に規定がなく,また,本件発明のスライド・スイング式ドア装置が外開き・内開きを決定するに当たっての選択の自由度を備えたものである点も,特許請求の範囲のみならず,本件特許明細書中にも記載がないのであるから,被請求人(原告)の上記主張を採用することはできない。」と判断するが,誤りである。
引用発明における「回転支柱11」は,扉枠30の一方の竪枠31の前面側に埋め込むようにして並設される。そうすると,扉枠30の方の竪枠31は,回転支柱11を一面側から覆うように,自ずとZ字状の平断面を呈さざるを得ず,また,他方の竪枠32には,戸当り部32aが一体に設けられており,刊行物1の(図2)に示される扉21は,戸当り部32aの存在により,「右開きか左開きか」が自動的に決定される。しかも,引用発明では開閉用の扉体は扉21だけであり,回転支柱11は開閉機能を備えていない。
これに対し,本件各発明に係る「上枠」及び「縦枠」にはかかる制限がない。
したがって,本件各発明には,「右開きか左開きか,或いは,外開きか内開きかを気にすることなく」枠体の立て付けや外開き・内開きを選択することができ,選択の自由度が増す等の優れた効果があるといえる。
第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)及び取消事由2(相違点2の認定の誤り)に対して(1)本件各発明における「開閉用の扉体」について本件各発明における「開閉用の扉体」は,引用発明における「扉21」と「回転支柱11」とを合わせた構成に相当することは,本件特許明細書の図1,図11等と刊行物1の図1,図2等との対比から明らかである。
(2)本件各発明における「回転竪柱」について引用発明における「回転支柱11」は,扉枠30の一方の竪枠の前面側に埋め込むようにして並設されたものであり,「回転支柱11」は,軸心上の位置であって扉枠30の左右方向の同じ位置に,それぞれ設けられた上下一対の保持ピン34,34を用いて回転自在に装着されている。他方,本件各発明における「回転竪柱」は,3方枠体の一方の縦枠の前記開口部の側の側面に沿って配置されたものであり,その縦方向の上端及び下端それぞれの面の前記前後方向の中心位置であって前記幅方向で同じ位置にそれぞれ設けられた回転軸を介して前記上枠及び床面との間に回転可能に支持されている。
したがって,引用発明における「回転支柱11」が,本件各発明における「回転竪柱」に相当することは,本件特許明細書の図1,図11等と引用発明の図1,図2等との対比から明らかである。
よって,審決の一致点及び相違点2の認定にはいずれも誤りはない。
2取消事由3(相違点2の判断の誤り)に対して本件各発明において,回転支柱と扉とを含む全体的な体裁を良好なものにするという技術的課題が示唆されており,かつ回転支柱と扉とを含む全体的な体裁を良好なものにするという技術的課題の実現を阻害する特段の事情は見出し難い。したがって,審決の相違点2の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)本件各発明における「開閉用の扉体」についてア認定(ア)本件各発明の「扉体」について本件各発明の「扉体」は,?@建物の床面上に開口部を形成する上枠及び両縦枠から成る3方枠体に設けられていること,?A前記開口部の幅方向及び縦方向にそれぞれ所定長さを有し且つ当該開口部の前後方向に所定厚さを有し,前記開口部の開閉のために用いられるものであること,?B3方枠体の一方の縦枠の前記開口部の側の側面に沿って配置され,かつ前記上枠及び床面の間に回転可能に支持された「回転竪柱」と,回転竪柱に隣接して前記上枠と床面との間で回転可能に支持される「ドアパネル」により形成されていることが認められる(甲1,請求項1)。
(イ)引用発明の「扉21」は,左右の竪枠31,32,上枠33により門形に形成されている扉枠30に設けられ,扉枠30が形成する開口部の開閉のために用いられるものである(甲4)。
引用発明の「回転支柱11」は,?@上記扉枠の一方の竪枠の前面側に埋め込むようにして並設され,?A竪枠31に対して回転自在に装着され,?B扉21を回転可能に支持して,扉枠が形成する開口部の開閉のために用いられるものである(甲4)。さらに,刊行物1の発明の詳細な説明には,「回転支柱11」については,「【0018】一方の竪枠31は,扉枠30の全体幅が前面側において広く,後面側において狭くなるように,段付きに形成されている(図2,図3)。すなわち,竪枠31は,反対方向に2段に屈曲する板材31a,31bと,内面側の装飾板31cとを組み合わせて形成されており,内側の板材31bの前面側,装飾板31cの後面側は,コ字状に屈曲して閉じられている。また,板材31bの内側の前面側寄りには,パッキン材31dが付設されており,装飾板31cの前端は,外側に屈曲されている。竪枠31は,アンカボルト31eを介して壁面Wに固定されている。」との記載がある(甲4)。
この記載と図2及び図3を併せると,竪枠31の開口部側の面は,扉枠30の全体幅が狭い後面側の開口部側の側面から,段付き部を形成する前面側の面を介して,扉枠30の全体幅が広い前面側の開口部側の側面に続いており,回転支柱11は,竪枠31に形成された平面視逆L字状の段付き部において,竪枠31の前面側の面と後面側の開口部側の側面とに沿った配置関係を有しているものと認められる。
イ判断以上の認定によれば,引用発明の回転支柱11は,竪枠31の開口部側の側面に沿って配置されており,竪枠31に対して回転自在に装着されるとともに,扉21を回転可能に支持して,扉21とともに,扉枠が形成する開口部の開閉のために用いられる点で,本件各発明の回転竪柱と一致するものということができるから,回転支柱11と扉21とを合わせたものは,扉枠が形成する開口部の開閉のために用いられるものである点において,本件各発明の「開閉用の扉体」に相当するものということができる。
ウ原告の主張に対し(ア)原告は,本件各発明における「開閉用の扉体」は,「回転竪柱とドアパネルとから形成され,ドア閉時には前記回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有する」ことを特徴としている点で,引用発明における回転支柱11と扉21とを合わせたものと相違すると主張する。しかし,引用発明の回転支柱11と扉21とを合わせたものは,扉枠が形成する開口部の開閉のために用いられるものである点において,本件各発明の「開閉用の扉体」に相当するものといえることは上記イのとおりである。本件各発明における「開閉用の扉体」が,「ドアパネルが,ドア閉時に回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有する」ことについては,審決は引用発明との相違点2として判断しているのであるから,原告の主張は採用の限りでない。
(イ)原告は,本件各発明は,3方枠体の開口部の側の側面に回転竪柱が配置されて開閉用の扉体の開口部をドアパネルとともに開閉可能に構成されるのに対し,引用発明の開口部を開閉するのは扉21のみであると主張する。しかし,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし9には,回転竪柱とドアパネルとで開口部を開閉する旨の記載はないし,本件特許明細書においては,図21及び図22に示される第2の実施形態の説明として,「【0090】回転堅柱(判決注:「竪柱」の誤記と認められる。)122は,例えば金属製の円柱棒状体で形成され,・・」との記載があるところ,円柱棒状体で形成された回転竪柱を用いる場合,開口部を開閉するものはドアパネルのみであることになるから,本件各発明の「開閉用扉体」が,回転竪柱とドアパネルとで開口部を開閉するものであると解することはできない。よって,かかる実施形態を含む本件各発明が引用発明と相違するとはいえず,原告の主張は失当である。
(2)本件各発明における「回転竪柱」について前記認定に係る引用発明の内容によると,「回転支柱11」は,本件各発明の「回転竪柱」と同様に,竪枠31の開口部側の側面に沿って配置されていることが認められる。そして,回転支柱11と扉21とを合わせたものは,本件各発明の「開閉用の扉体」に相当するものといえることは,上記(1)イのとおりであり,引用発明の竪枠は,上記(1)イのとおり,扉枠30の全体幅が前面側において広く,後面側において狭くなるように,段付きに形成されているものであるのに対して,本件各発明は,竪枠の断面形状については,何らの限定もない。したがって,引用発明の竪枠が上記のように段付きに形成されているとしても,このことをもって,引用発明の「回転支柱11」が本件各発明の「回転竪柱」と相違するとはいえない。
原告の上記主張は,採用できない。
2取消事由2(相違点2の認定の誤り)について引用発明の「回転支柱11」と「扉21」とを合わせたものは,扉枠が形成する開口部の開閉のために用いられるものである点において,本件各発明の「開閉用の扉体」に相当するものといえることは上記1(1)イのとおりであるから,原告が主張する「本件各発明が回転竪柱とドアパネルとから形成される『開閉用の扉体』を備えるものであるのに対して,引用発明は,そのような構成を備えていない点」を相違点とすることはできない。
また,本件各発明が,回転竪柱とドアパネルとで構成される「開閉用の扉体」が「ドア閉時には前記回転竪柱の外観形状と一体化させた外観形状を有するドアパネル」を構成要件とする点については,審決は相違点2として認定しており,この認定に誤りはない。
したがって,原告の上記主張は,採用できない。
3取消事由3(相違点2の判断の誤り)について(1)判断引用発明の「回転竪柱」及び「ドアパネル」にどのような外観形状をもたせるかということは,美観を考慮して当業者が適宜設計的に定め得る事項であるということができ,相違点2に係る構成が格別の技術的効果を奏するものということはできない。したがって,審決が,相違点2に係る本件各発明の構成について,当業者が容易に想到し得たものと判断したことに誤りはない。
(2)原告の主張に対しア原告は,刊行物1には,本件各発明における「蝶番や開閉機構の存在が目立つこと無く,ドアパネルがその周囲の構造体に対し美観的に極力,調和する等,ドア装置全体としての体裁上の価値を高め」るという解決課題は,開示ないし示唆されていないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
そもそも,本件において,「回転竪柱」及び「ドアパネル」の外観形状を工夫することによって美観の向上に寄与するとの効果が,何らかの技術的意味を持つものと解することはできないので,原告の主張は,主張自体失当である。
のみならず,刊行物1には,回転支柱及び扉からなる全体の体裁を良好なものとする技術的課題が示唆されていると理解できる。すなわち,刊行物1には,「かかる従来技術によるときは,回転支柱は,一方の竪枠の前面に並設されているから,扉は,回転支柱の上下の支持アームに対し,扉の前面に突設する上下一対のブラケットを介して連結する必要があり,全体の体裁が極めて不格好になるばかりでなく,下方の支持アーム,ブラケットが通行の支障になりかねないという問題があった。そこで,この発明の目的は,かかる従来技術の問題に鑑み,回転支柱を一方の竪枠の前面に埋め込むとともに,扉の厚さ内に配設する連結ピンを介して扉を支持アームに連結することによって,扉の前面にブラケットを突設する必要がなく,全体の体裁を大きく向上させることができる折畳み回転扉を提供することにある。」(段落【0004】【0005】)との記載がある。この記載によれば,引用発明は,回転支柱が一方の竪枠の前面に並設されていた従来技術の構成に代えて,回転支柱を一方の竪枠の前面に埋め込む構成を採用したものということができる。そうすると,刊行物1には,本件各発明と同様に,回転支柱を竪枠の前面に埋め込む構成も含めて,扉全体の体裁を向上させるとの課題が開示されているものというべきである。
よって,原告の主張は理由がない。
イ原告は,本件各発明には,引用発明と異なり,「上枠」及び「縦枠」に制限がないことから,「右開きか左開きか,或いは,外開きか内開きかを気にすることなく」枠体の立て付けや外開き・内開きを選択することができ,選択の自由度が増す等の優れた効果があると主張する。
しかし,本件各発明において,竪枠の断面形状は,何ら規定されていないから,引用発明の竪枠が段付きに形成されていることをもって,本件各発明と相違するとはいえない。また,戸当たり部についても,そもそも本件各発明の構成として何ら特定されていないから,刊行物1において,他方の竪枠32に戸当り部32aが一体に設けられたものが記載されているとしても,これをもって引用発明が本件各発明と相違するとはいえない。
そうすると,竪枠の断面形状の相違や戸当たり部の相違に基づき,本件各発明が引用発明と異なる効果を奏するとはいえないのであるから,原告の上記主張は,失当である。
4結論以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 三村量一
裁判官 上田洋幸