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関連審決 異議2003-73424
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24行ケ10124審決取消請求事件 判例 特許
平成21ワ31535損害賠償請求事件 判例 特許
平成20行ケ10261審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10098審決取消請求事件 判例 特許
平成23行ケ10018審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 有用性 /  物の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  発明特定事項 /  上位概念 /  下位概念 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  優先権 /  共有 /  着想 /  特許出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  設定登録 /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  取消決定 /  国際出願 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10303号 特許取消決定取消請求事件
原告アンジオテックファーマシューティカルズ,インコーポ レイテッド
訴訟代理人弁護士片山英二,本多広和,江幡奈歩,中村閑
訴訟代理人弁理士小林純子,杉山共永
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理 人山崎豊,稲村正義,唐木以知良,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/11/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が異議2003-73424号事件について平成18年2月15日にした決定を取り消す 」との判決。。
第2事案の概要本件は,後記本件発明の特許権者(共有者)である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯( )本件特許1特許権者:アンジオテックファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド(原告 ,ザユニヴァーシティオブブリティッシュコロンビア )発明の名称: 抗-血管形成性組成物およびそれにより被覆されたステント」 「特許出願日:平成6年7月19日(国際出願 (特願平7-504823号) )優先権主張日:1993年(平成5年)7月19日(米国)設定登録日:平成15年4月25日特許番号:特許第3423317号( )本件手続2特許異議事件番号:異議2003-73424号訂正請求日:平成17年12月5日上記訂正請求に係る手続補正日:平成17年12月28日決定日:平成18年2月15日決定の結論: 訂正を認める。特許第3423317号の請求項1,5ないし2 「5,29ないし43に係る特許を取り消す 」。
決定謄本送達日:平成18年3月6日(原告に対し)2本件発明の要旨決定が対象とした発明は,平成17年12月28日付け手続補正後の同月5日付け訂正請求によって訂正された後の請求項1,5〜25,29〜43に記載された発明であり(以下,個々の発明を表示するときは,当該発明に係る請求項の番号に従い 「本件発明1」などといい,決定が対象とした上記各発明を一括して示すと ,きは「本件発明」という。なお,上記訂正後の請求項全部の数は43個である,。)その要旨は,以下のとおりである。
「 請求項1】身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントであって,該 【ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,かつ,該ステントが該身体通路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステント。
【請求項5】前記抗血管形成ファクタが,1つ以上のポリマーをさらに含む,請求項1〜4のいずれか1項に記載のステント。
【請求項6】前記ポリマーが生分解性のポリマーである,請求項5に記載のステント。
【請求項7】前記ポリマーが非生分解性のポリマーである,請求項5に記載のステント。
【請求項8】前記ポリマーがアルブミンまたはゼラチンである,請求項5に記載にステント。
【請求項9】前記ポリマーがセルロースである,請求項5に記載のステント。
【請求項10】前記ポリマーが多糖類である,請求項5に記載のステント。
【請求項11】前記ポリマーがポリ(ラクチド)である,請求項5に記載のD,Lステント【請求項12】前記ポリマーがポリ(グリコリド)である,請求項5に記載のステント。
【請求項13】前記ポリマーがポリ(カプロラクトン)である,請求項5に記載のステント。
【請求項14】前記ポリマーがコポリマーである,請求項5に記載のステEVAント。
【請求項15】前記ポリマーがシリコーンまたはポリ(メチルメタクリレート)である,請求項5に記載のステント。
【請求項16】前記ステントが血管ステントである,請求項1〜15のいずれか1項に記載のステント。
【請求項17】前記ステントが胆管ステントである,請求項1〜15のいずれか1項に記載のステント。
【請求項18】前記ステントが尿道ステントである,請求項1〜15のいずれか1項に記載のステント。
【請求項19】前記ステントが食道ステントである,請求項1〜15のいずれか1項に記載のステント。
【請求項20】前記ステントが気管/気管支ステントである,請求項1〜15のいずれか1項に記載のステント。
【請求項21】身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントの製造方法であって,該ステントに該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成性組成物を直接固定する工程を包含し,該抗血管形成性組成物が,タキソールを含み,かつ,該ステントが該身体経路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステントの製造方法
【請求項22】身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントの製造方法であって,該ステントに該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成性組成物で被覆された糸を織り込む工程を包含し,該抗血管形成性組成物が,タキソールを含み,かつ,該ステントが該身体経路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステントの製造方法
【請求項23】身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントの製造方法であって,ステントをスリーブまたはメッシュ中に挿入する工程を包含し,該スリーブまたはメッシュが,該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成性組成物を含むか,または抗血管形成性組成物で被覆されており,該抗血管形成性組成物が,タキソールを含み,かつ,該ステントが該身体経路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステントの製造方法
【請求項24】前記抗血管形成性組成物が,抗血管形成ファクタおよびポリマーを含む,請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントの製造方法であって,ステントを抗血管形成ファクタを吸収する物質で被覆する工程,および該抗血管形成ファクタを該ステントに吸収させる工程を包含し,ここで該抗血管形成ファクタが該ステントの閉塞を防止し,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,かつ,該ステントが該身体経路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステントの製造方法
【請求項29】前記ポリマーが生分解性のポリマーである,請求項24に記載の方法。
【請求項30】前記ポリマーが非生分解性のポリマーである,請求項24に記載の方法。
【請求項31】前記ポリマーがアルブミンまたはゼラチンである,請求項24に記載の方法。
【請求項32】前記ポリマーがセルロースである,請求項24に記載の方法。
【請求項33】前記ポリマーが多糖類である,請求項24に記載の方法。
【請求項34】前記ポリマーがポリ(ラクチド)である,請求項24に記載D,Lの方法。
【請求項35】前記ポリマーがポリ(グリコリド)である,請求項24に記載の方法。
【請求項36】前記ポリマーがポリ(カプロラクトン)である,請求項24に記載の方法。
【請求項37】前記ポリマーがコポリマーである,請求項24に記載の方EVA法。
【請求項38】前記ポリマーがシリコーンまたはポリ(メチルメタクリレート)である,請求項24に記載の方法。
【請求項39】前記ステントが血管ステントである,請求項21〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】前記ステントが胆管ステントである,請求項21〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】前記ステントが尿道ステントである,請求項21〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】前記ステントが食道ステントである,請求項21〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】前記ステントが気管/気管支ステントである,請求項21〜38のいずれか1項に記載の方法 」。
3決定の理由の要点決定は,下記刊行物1,2,5,6,7,8を引用し,本件発明1は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明5は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明6は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明7は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明8は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明9は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明10は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明11は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明12は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明13は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明14は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明15は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明16〜20は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明21は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明22は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明23は,刊行物1,2,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明24は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明25は,刊行物1,2,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明29は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明30は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明31は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明32は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明33は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明34は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明35は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明36は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明37は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,本件発明38は,刊行物1,5,6,7,8に記載された発明に基づき,本件発明39〜43は,刊行物1,5,6,8に記載された発明に基づき,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,平成15年法律第47号による廃止前の特許法113条2号に該当し,取り消されるべきであるとした。
刊行物1特表平5-502179号公報(甲第1号証)刊行物2特開平1-299550号公報(甲第2号証)刊行物5国際公開第92/12717号パンフレット(甲第5号証)刊行物6国際公開第93/11120号パンフレット(甲第6号証の1)刊行物7特表平3-502053号公報(甲第7号証)刊行物8国際公開第90/13332号パンフレット(甲第8号証)決定の理由中,各刊行物の記載事項の認定,本件発明1と刊行物1記載のステントの発明(以下「第1引用発明」という )との対比・判断,本件発明16〜20 。
についての判断は,以下のとおりである。
( )各刊行物の記載事項の認定1ア刊行物1「刊行物1・・・には,図面と共に以下の事項が記載されている。
( )『再狭窄は,以前に拡張,融除,もしくはレーザー処置された末梢のもしくは冠状の管のa封入であると定義される(第2ページ右上欄第8〜9行) 。』( )『この再狭窄の問題を評価するために近年開発されたのが血管内のステントである。ステbントは金属製の装置で,永久的に末梢もしくは冠状血管内へ膨らんだ状態で埋め込まれるものである。このステントの目的は,長期間にわたって血管の狭窄に対抗する足場となることである。その理論としては,血管内部から支持すれば,血管は閉塞したり再狭窄したりすることがない,というものである。しかしながら治療上埋め込まれたステントについての初期的なデータが示すものは,残念ながらこの金属製の装置では再狭窄が目だって少なくなるということがないというものである(第2ページ右上欄第15〜23行) 。』( )『本発明は,血管等の管状器官内に挿入され,処置を必要とする部位に近接する器官の壁cに固定される装具を提供するものである。最も典型的なものとしては,器官は再狭窄をおこす人体の血管構造の一部である。しかしながら,本発明の方法及び装置は,いかなる器官,排泄管,胆嚢管,前立腺,気管,気管支及び肝臓等のすべての管状の器官で,外科的処置なしに投薬できない箇所を含むものである。本発明は,急性,慢性を問わず血管等の管状器官の閉鎖もしくは再閉鎖に適用されるものである(第2ページ左下欄第15〜22行) 。』( )『再狭窄を防止するには,平滑化筋細胞(判決注:刊行物1自体に「平滑化筋細胞」と記d載されているが 「平滑化筋」は「平滑筋」の誤記であると解される。以下,本判決が審決又 ,,「」「」。) は刊行物1の記載を引用する場合には平滑化筋 とあるのを 平滑筋 と改めた上で行うの増殖を止めなければならない。既に述べたように,これは生物化学的なもので物理的に扱うことができないものである。生物化学的に再狭窄を止めるための仮説が現在いくつか存在している。それらのうちの幾つかは以下のようなものである。
1.動脈損傷箇所における血小板の癒合と凝結とを減らす。
2.成長因子とその受容器の発現をブロッキングする。
3.上記成長因子の拮抗物を発現させる。
4.受容器とそれに対応する分子間のシグナリングを妨害する。
5.平滑筋増殖に体する自然の抑制体を発見する。
・・・ 省略 ・・・()血小板の癒合と凝結を防止するには少なくとも二つの異なるやり方がある。一つの方法は抗血小板剤を用いることであり,他の方法は抗凝結物質を用いることである。
抗血小板剤にはアスピリンやジビリダモールが含まれる。
・・・ 省略 ・・・()抗凝血剤にはヘパリン,マクリン,ブロタミン及びヒルジンが含まれる。
・・・ 省略 ・・・()。() 細胞の複製を阻害する薬剤としては数種のものがある 細胞分裂阻止性物質 細胞障害性剤は直接的に細胞分裂(複製)を阻止するように働き,一方代謝拮抗物質はDNA合成を阻止して複製を阻害するように働く。これら細胞分裂阻止性物質と代謝拮抗物質の作用は類似のもの, 。 。 であり 一つのカテゴリーに入るものである このカテゴリーは抗複製剤として知られている抗複製剤には,メトトレキサート,アザチオプリン,ビンクリスチン,ビンブラスチン,フルオロウラシル,アドリアマイシン,ミュータマイシンがある(第3ページ右下欄第27行 。』〜第4ページ左下欄第2行)( )『ステント10は単一のフィラメントからなるもので,図1に示すように単一フィラメンeトをメッシュ状に編んで形成したものである。16本のフィラメント12からなり,そのうちの8本は-の方向へ螺旋状に旋回し,他の8本が反対の方向へ旋回している。このステント10は一定径まで自己拡張性を有する。ステント10の外径は長手方向へ引っ張ることにより簡単に小さくなる。この減径した状態で,血管中へ導入するためのカテーテルに取付けることができる。
図2及び図4に示すステント20は,柔軟な金属製のもので,バルーンカテーテルによって管状器官の壁に押し付けられ,そこに固定されるようになっている。金属フィラメント22の外側表面は,既に述べたような薬剤溶出可能なポリマーからなるコーティング14を備えている。ポリマーは生物安定性のもの,もしくは生物吸収性のものである。もし生物安定性のものであれば,薬剤はポリマーから放散される。
図1及び図2に示す実施例に示されるステントの形態変化は,本発明の装具が管状器官の壁にしっかりと固定されなければならないこと,及び薬剤溶出性のポリマーを備えていなければならないことを示している。
ステント10の構成については多くの変形が有り得る。フィラメント12の角度αは主な変更点である。角度αは0度から180度まで可変できる。図示の例のものにおける角度は60度ないし90度の範囲のものとしてある。
薬剤溶出ステントを編み上げるには多くの選択肢がある。第一には16本すべてのフィラメントを薬剤溶出可能なものとすることである。また,16本のうちの幾本かを薬剤溶出可能なものとすることもできる(第4ページ右下欄第3行〜第5ページ左上欄第1行) 。』( )『生物吸収性装具(ステント)の材料f生物吸収性のポリマーを通しての制御された遊離は,希望する治療箇所における処置の間の薬剤レベルを保つ。ステントの場合は,装具が生物吸収性のポリマー構造体であっても生物分解性のポリマー構造体であっても,少なくとも2週間もしくは血管の壁に一体化されるまで血管を支える。
生物吸収性及び薬剤含浸可能性有りと考えられている公知の幾つかの重合体化合物は,本発明の装具を形成するのに有用である。このようの化合物には,ポリ-1-乳酸/ポリグリコール酸( ,ポリ酸無水物(,及びポリ燐酸塩エスpoly-1-lactic acid/Polyglycolic acidpolyanhydride ) )テルがある(第5ページ右上欄第5〜15行) 。』上記( )〜( )の記載事項(以下 『刊行物1記載事項( )〜( )』という )のうち,刊行物1af af , 。
記載事項( )〜( )を総合すると,刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
ad『人体の管状器官の管腔の開放状態を維持するためのステントであって,該ステントの閉塞を防止するための平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤で被覆されている,ほぼ管状の構造を有するステントであって,該ステントが該人体の管状器官の再狭窄を処置または予防するために使用される,ステント(第1引用発明) 。』また,上記刊行物1記載事項( )から,刊行物1に記載されたステントは,その製造工程とeして,少なくともその幾本かが,該ステントの閉塞を防止するための平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤を含有するポリマーをコーティングされた複数のフィラメントを組織してステントを構成する工程を有していることは明らかであるから,上記刊行物1記載事項( )〜( )を総合すadると,刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
『人体の管状器官の管腔の開放状態を維持するためのステントの製造方法であって,少なくともその幾本かが,該ステントの閉塞を防止するための平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤を含有するポリマーをコーティングされた複数のフィラメントを組織してステントを構成する工程を有し,該ステントが該人体の管状器官の再狭窄を処置または予防するために使用される,ステントの製造方法(第2引用発明 」 。』)イ刊行物2「刊行物2・・・には,第5図及び6図と共に,以下の事項が記載されている。
( )『本発明は身体通路()又は管()内で使用するための伸張可能な管g body passagewayduct腔内移植片( )に関するものであり,更に特定的には疾患により狭 expandable intraluminal graftくなった又は閉塞した血管を修復するための特に有用な伸張可能な管腔内脈管移植片( )移植片及び伸張可能な管腔内移植片を移植するための方法及び装expandable vascular graft置に関する ・・・ 省略 ・・・ 。()従来管腔内脈管移植片として使用されてきた構造物には,ステンレス鋼コイルバネ;伸張可能な感熱性材料から製造されたら旋状に巻かれたコイルバネ;及びジグザグパターンにステン()。』 レス鋼ワイヤから形成された伸張性ステンレス鋼ステント stents が包含されていた(第3ページ左上欄第14行〜同ページ右上欄第17行)( )『第5図及び6図を参照すると,第1A図及び1B図に関連して先に記載したプロテーゼh又は移植片70が示されており,そして移植片又はプロテーゼ70の管状部材71は管状の形状の部材71の壁表面74上に生物学的に不活性な又は生物学的に適合性のある被覆90が配置されている。適当な生物学的に不活性な被覆の例は,多孔性ポリウレタン,テフロン又は他の慣用的な生物学的に不活性なプラスチック材料である。被覆90はプロテーゼ又は移植片70の所望の伸張及び変形を妨害しないように薄く且つ高度に弾性的でなければならない ・・ 。
・ 省略 ・・・。該吸収性重合体は又被覆90が吸収され,又は溶解されるにつれて,薬品が ()徐々に身体通路中に放出されるような,各種の形式の薬品を含むことも可能である(第10。』ページ右下欄第7行〜第11ページ左上欄第18行)上記刊行物2記載事項( )及び( )を総合し要約すると,刊行物2には以下の発明が記載されghている。
『多孔性ポリウレタン等の,薄く且つ高度に弾性的な,生物学的に不活性なプラスチック材料よりなる被覆(90)を,ステントの壁表面(74)に配置し,該被覆(90)に薬品が徐々に身体通路中に放出されるような,各種の形式の薬品を含ませた,ステント(刊行物2に記。』載された発明)ウ刊行物5「刊行物5・・・には,以下の事項が記載されている。
iThe tetracyclines can be administered alone or in combination with, either before, ( )『simultaneously, or subsequently to treatment using conventional chemotherapeutic or radiation therapy.A preferred embodiment is the systemic administration, either by injection or implantation of polymericencapsulated drug, of minocycline in combination with a chemotherapeutic such as- cyclodextrin, inβa ratio of between 0.5 and 2.0 to 1,-cyclodextrin to minocycline.Other chemotherapeutics include βcarmustine BCNU , 5-fluorouracil,- cyclodextrin, vinca allcaloids such as vincristin, taxol and()β・・・.vinblastin,immunotoxinsPharmaceutical compositions are prepared using the antibiotic as the active agent to inhibitangiogenesis based on the specific application. Application is either topical, localized, or systemic. Anyof these compositions may also include preservatives, antioxidants, antibiotics, immunosuppressants,and other biologically or pharmaceutically effective agents which do not exert a detrimental effect onthe antibiotic or cells. For treatment of tumors, the composition may include a cytotoxic agent which』 selectively kills the faster replicating tumor cells, many of which areknown and clinically in use.(テトラサイクリンは,従来の化学療法または放射線療法を用いた治療の前,該治療と同時,または該治療の後のいずれかに単独または該治療薬との組み合わせで投与されうる。好適な実施例は,注射またはポリマー被包薬剤の植込みのいずれかにより,ミノサイクリンをβ-サイクロデキストリン等の化学療法薬と,β-サイクロデキストリンとミノサイクリンとを0.5〜2.0対1の範囲内の比で組み合わせて全身的に投与する方法である。その他の化学療法薬には,カルムスチン(BCNU ,5-フルオロウラシン,β-サイクロデキストリン,ビン )クリスチンやタキソールおよびビンブラスチン等のビンカアルカロイド ・・・が含まれる。 ,薬剤組成物は,抗生物質を有効成分として用いて調整されて,特定の施用に基いて血管形成。,, 。,, を抑制する 適用は 局所的 局部的または全身的のいずれかである 組成物には 抗腐食剤抗酸化剤,抗生物質,免疫抑制剤その他,生物学的または薬学的効果を有し,抗生物質や細胞に対して害を及ぼさないものが含まれる。腫瘍の治療においては,その組成物は,急速に複製される腫瘍を選択的に殺傷する,公知の臨床的に用いられる多くのものが含まれる(第9ペ。)ージ第22行〜第10ページ第13行,括弧内は当審による仮訳)jIn a preferred form, the composition is administered in combination with a biocompatible ( )『polymeric implant which releases the antibiotic over a controlled period of time at a selected site.Examples of preferred biodegradable polymeric materials include polyanhydrides, polyorthoesters,polyglycolic acid, polylactic acid, polyethylene vinyl acetate, and copolymers and blends thereof.Examples of preferred non-biodegradable polymeric materials include ethylene vinyl acetate』 copolymers.(好適な形態において,前記組成物は,所定の部位において調整された期間にわたって抗生物質を放出する生体適合性ポリマー埋設物との組み合わせで投与される。
好適な生分解性ポリマー材料の例には,ポリアンヒドリド類,ポリオルトエステル類,ポリグリコール酸類,ポリ乳酸,ポリエチレン酢酸ビニルおよびこれら共重合体および混合物が含まれる。
好適な非生分解性ポリマー材料の例には,エチレン酢酸ビニル共重合体が含まれる(第1。)1ページ第20〜27行,括弧内は当審による仮訳), 。 上記刊行物5記載事項( )及び( )をまとめると 刊行物5には以下の事項が記載されている ij『テトラサイクリンとタキソールを組み合わせた薬剤組成物を含有し,血管形成を抑制する,人体に埋設するためのポリマー埋設物 (刊行物5に記載された発明 」 』 )エ刊行物6「刊行物6・・・には,以下の事項が記載されている。
kDrugs that prevent or reduce the proliferation of pathological cell types are essential to the ( )『treatment and control of various diseases involving undesirable or uncontrolled cell proliferation. Butantiproliferatives, by definition, must be toxic to certain cell types. It is often not feasible to administerthese drugs systemically, because the amounts needed to control the diseased cell types may be toxic ordeadly to the patient's normal cells. This difficulty could be circumvented by administeringantiproliferative agents directly to the site of the undesired cell proliferation. A mechanism is alsoneeded for retaining antiproliferative agents at the disease site, so that they may effectively control theproliferation of undesired cells, while being restrained from migrating and damaging normal cell types.Specific diseases and conditions for which site-specific delivery and retention of antiproliferativeswould be particularly effective are briefly described below. Each of these conditions involves theproliferation of a particular undesirable cell type, and systemic administration of drug therapy for theirtreatment has not yielded optimal results.1. Post-Angioplasty Reocclusion and Restenosis・・・ 省略 ・・・()2. Rheumatoid Arthritis・・・ 省略 ・・・()3. Ovarian Cancer・・・ 省略 ・・・()』4. Psoriasis(病的細胞種の増殖を防止あるいは低減する薬物は,有害あるいは制御不可能な細胞増殖を伴う様々な疾患の治療と制御に不可欠なものである。しかし,抗増殖物質はその定義上,ある種の細胞にとって毒物とならざるをえない。疾患細胞種を制御するために必要な分量が,患者の正常な細胞にとって有毒あるいは致命的になることがあるため,これらの薬物の全身的投与はしばしば実現不可能である。この困難は,有害細胞の増殖部位に抗増殖物質を直接投与することによって避けることができる。また,正常な細胞種の移動および損傷を制限しながら有害な細胞の増殖を効果的に制御するために,疾患部位に抗増殖薬を保持するための機構が必要である。
抗増殖物質の部位特異的な供給と保持が特に効果的な特定の疾患と状態について,以下に簡潔に記述する。これらの各状態は,特に有害な細胞種の増殖を含み,治療のための全身投与による薬物療法が最適な結果を生んでいないものである。
1.血管形成術後の再閉塞および再狭窄・・・ 省略 ・・・()2.慢性関節リウマチ・・・ 省略 ・・・()3.卵巣癌・・・ 省略 ・・・()4.乾癬)(国際公開パンフレットの第2ページ第8行〜第7ページ第27行,訳文は,同パンフレットの日本国公表公報である特表平8-502719号公報の第14ページ右上欄21行〜第19ページ左下欄第6行,以下同様 )。
lIn accordance with the present invention, the above-described compounds are used for ( )『siteselective delivery of therapeutic agents, and retention thereof at the selected site. According to apreferred aspect of the invention, the therapeutic agent has an anti-proliferative action, useful for thetreatment of diseases or other pathological conditions involving cell proliferation.・・・ 省略 ・・・()Such chemotherapeutic substances may be selected, for example, from the group consisting ofcolchicine, vinca alkaloids, taxol and derivatives thereof, which exhibit their bio-effect only upon』 release from the compounds.(本発明に従って上述の化合物は,治療薬の選択的な供給と,選択した部位へのその保持のために使用する。本発明の好ましい側面に従って,治療薬は,細胞増殖を伴う疾患あるいは他の病的状態の治療に有効な抗増殖作用を備える。
・・・ 省略 ・・・()これらの化学治療物質は,例えば,化合物から放出された場合のみにそのバイオ作用を示すコルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールおよびその誘導体で構成される群から選択することができる(国際公開パンフレットの第10ページ第16行〜第11ページ第4行,訳文 。)は,同パンフレットの日本国公表公報の第21ページ左上欄第5〜16行)上記刊行物6記載事項( )および( )を総合すると 刊行物6には以下の医学的見識( )及び( )kl 12 ,(以下 『刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( )及び( )』という )が記載 , 。
12されていると認められる。
( )タキソールが細胞増殖を伴う疾患,例えば,血管形成術後の再閉塞および再狭窄,慢1性関節リウマチ,卵巣癌及び乾癬の治療に有効な抗増殖作用を備える薬剤であること。
( )上記( )において,タキソールを有害細胞の増殖部位に直接投与し保持することで,全21身投与による副作用を避け,効果的な治療が可能なこと 」。
オ刊行物7「刊行物7・・・には,以下の事項が記載されている。
( )『この発明は,体腔に導入される医療用具に関するものであり,この発明の用具は上記m体腔の中に挿入するよう構成されたその一端に,活性物質が埋封され,かつ予め定められた速度で放出されるマトリックスを備え,そのマトリックスは水を全く浸透しないかごく僅か浸透しうる物質で構成されている。またこの用具は上記体腔中に液体の排出及び/または供給のための管及び/または棒で構成されているのが好ましい(第4ページ左上欄第7〜14行) 。』( )『またこの発明は,上に記載し,並びに次記にこの発明を詳細に開示した医療用具を,体n腔中に,好ましくは悪性であることが発見された体腔中に挿入し,マトリックス中に埋封された活性物質が抗腫瘍剤及び細胞増殖抑制剤から選ばれたものであることからなるガンまたは悪性腫瘍の予防または治療法に関する(第4ページ左下欄最終行〜同ページ右下欄第4行) 。』( )『マトリックス物質の具体例としては,上記定義の浸食性物質を含み,この目的に有用でoあるものは,ポリマー(例,ポリアミド,ポリウレタン,シリコン,ポリエステル,ポリカーボネート,ポリアセタール,ボリセタール,ポリカプロラクトン ,ポリアルキレングリコー )ル(例,ポリエチレングリコールまたはポリアルキレングリコール ,ポリアルキレン(例, )ポリエチレン ,ポリアルキレンオキシド(例,ポリエチレンオキシド,ポリ(オルト)エス )),, (, ),(, テルペプチド ポリペプチドまたは蛋白質 例 コラーゲンもしくはゼラチン多糖類 例澱粉もしくは澱粉誘導体,セルロースもしくはセルロース誘導体 ,ポリ乳酸,ポリグリコー )ル酸,またはその誘導体,混合物もしくはコポリマー:高級アルカン(例,C14以上のアルカン :高級アルケン(例,C18以上のアルケン :脂肪酸もしくは脂肪酸アルコールもしく ) )は脂肪酸エステル:またはステロイド(例,コレステロール及びその誘導体 ,もしくはその )組合わせが挙げられる(第5ページ右上欄第13行〜同ページ左下欄第4行) 。』上記刊行物7に記載された事項( )ないし( )をまとめると,刊行物7には以下の発明が記mo載されている。
『体腔に導入され,体腔中に液体の排出及び/または供給のための管及び/または棒で構成されている医療用具を,抗腫瘍剤及び細胞増殖抑制剤を含浸させて,含浸した薬剤を予め定められた速度で放出するマトリックスにて構成し,該マトリックスを,ポリマー(例,ポリアミド,ポリウレタン,シリコン,ポリエステル,ポリカーボネート,ポリアセタール,ボリセタール,ポリカプロラクトン ,ポリアルキレングリコール(例,ポリエチレングリコールまた )はポリアルキレングリコール ,ポリアルキレン(例,ポリエチレン ,ポリアルキレンオキシ ) )ド(例,ポリエチレンオキシド,ポリ(オルト)エステル ,ペプチド,ポリペプチドまたは )蛋白質(例,コラーゲンもしくはゼラチン ,多糖類(例,澱粉もしくは澱粉誘導体,セルロ )ースもしくはセルロース誘導体 ,ポリ乳酸,ポリグリコール酸,またはその誘導体ゼラチン )等とする医療用具(刊行物7に記載された発明 」 。』 )カ刊行物8「刊行物8・・・には,以下の事項が記載されている。
pAbstract ( )『A mechanical support or stent containing pharmaceutical agents. The stent can be placed in the wallof a blood vessel where it releases pharmaceutical agents to prevent arterial thromboses, plateletaggregation and/or excessive endothelial cell proliferation at the placement site. The stent may also beplaced in a blood vessel, bile duct, ureter, or fallopian tube or other duct or vessel, so that it delivers』 drugs to specific body sites or organs.(アブストラクト。, , 薬剤成分を含有する機械的支持体またはステント このステントは 血管壁内に配置されて配置部位において薬剤成分を放出して,動脈血栓症,血小板凝集および/または過剰な内皮細胞の増殖を防ぎ得る。このステントは,さらにまた,血管,胆管,尿管またはファロピウス管またはその他の管または脈管内配置されて,特定の身体部位または器官に薬物が送給されるようにし得る(国際公開パンフレットのアブストラクト欄,括弧内は当審による仮訳) 。)qDetailed Description of The Invention ( )『The mechanical support or stent of this invention may be formed from any of the materialsemployed in the prior art that are non-toxic to the blood and body tissue and otherwise biocompatable.The stent may be in the form of any structure that successfully preserves the luminal diameter of avessel or duct, and may operate by any mechanism known in the art.The pharmaceutical agents suitable to be employed in this invention are too numerous to list. Theagents may be anticoagulants, antiplatelet substances, antispasmodics or drugs that inhibit excessiveendothelial cell growth, or they may be antimicrobial agents, hormones or anticancer drugs, or anycombination of these agents, or any others to accomplish any other localized purpose. The precisecoating or impregnating of the stent with the pharmaceutical agent will vary depending on the form and』 material of the stent, and upon the pharmaceutical agent employed.(詳細な発明の詳細な説明)この発明の機械的保持体またはステントは,従来技術として公知の材料のうちのどれからも, , 。, 形成され それは血液および身体組織に無毒で そして生体適合性の物質である ステントは血管や流路といった管腔直径を持続的に保持するための形状ないし構造を備え,従来技術として公知の機構により作動する。
この発明で使用されるものとして適切な薬剤は,あまりにも多数なので,列記することができない。薬剤は,抗凝血剤,抗血小板剤,鎮痙剤あるいは過度の内皮細胞成長を禁じる薬,あるいは,抗菌薬,ホルモンまたは抗癌剤,またはこれらの薬剤の任意のコンビネーション,あるいは他の局所的な目的を遂行する任意の他のものを含む。ステントに対する薬剤のコーティングまたは含浸は,ステントの形状や材質,更には用いられている薬剤に応じて適宜変更される(第5ページ第22行〜第6ページ第5行,括弧内は当審による仮訳) 。), 。 上記刊行物8記載事項( )及び( )をまとめると 刊行物8には以下の発明が記載されているpq『血管や流路といった管腔直径を持続的に保持するための形状ないし構造を備え,抗癌剤をコーティングまたは含浸したステント (刊行物8に記載された発明 」 』 )( )本件発明1と第1引用発明との対比・判断 2「本件発明1と第1引用発明とを対比すると,本件発明1の『身体通路』とは,本件特許明細書全体の記載からみて,人体の管状器官を意味していることは明らかである。そして,第1引用発明の『人体の管状器官』は『身体通路』と言い換えることができる。また,本件発明1の『血管形成ファクタ』と第1引用発明の『平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤』は,共に薬剤である点で共通しているから,両者は,『身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントであって,該ステントの閉塞を防止するための薬剤で被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステント 』。
の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点>本件発明1は,ステントを被覆している薬剤が『抗血管形成ファクタ』であって 『該抗血 ,管形成ファクタがタキソール』であり,この薬剤で被覆されたステントが身体通路の『再発性狭窄』を処置または予防するものであるのに対し,第1引用発明は,ステントを被覆している薬剤が『平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤』であり,この薬剤で被覆されたステントが,身体通路の『再狭窄』を処置または予防するものである点 (以下『相違点1』という ) 。 。
ところで,上記相違点1について検討の前提として,本件発明1を特定するために必要な事項である 『身体通路の再発性狭窄』及び『抗血管形成ファクタ』の技術的意義について,並 ,びに本件発明1のステントの作用について検討する。
(検討1 『身体通路の再発性狭窄』について )本件発明1の『身体通路の再発性狭窄』とは,それ自体で,かならずしも意味が明らかでないが 特に本件特許明細書第4ページ第7欄第13〜38行の記載を参酌して解釈すると身 , ,『体通路の癌性の閉塞』を意味するものと認められる。なお,そのような『身体通路の癌性の閉塞』は『癌および他の血管形成-依存性疾患』において所見される症状であることは,同明細書に記載されるとおりであり,且つよく知られた事項である。
(検討2 『抗血管形成ファクタ』について )本件発明1の『血管形成』とは,それ自体で,かならずしも意味が明らかでないが,特許明細書全体の記載を参酌して解釈すると 『癌および他の血管形成-依存性疾患』の進行或いは ,再発の原因となる細胞の増殖が,血管形成に端を発するという意味においての血管形成であると認められる。そして,本件発明1の『抗血管形成ファクタ』は,この血管形成を阻害する作用機序を備えたファクタであると認められる。
(検討3)本件発明1のステントの作用について本件発明1のステントは,このステントを身体通路の管腔に挿入することで,該身体通路の壁を『物理的に解放状態に維持する (特許明細書第11ページ第22欄第29〜30行 (以 』 )下 『本件発明1の作用1』という )とともに,ステントが上記検討2に記載した『抗血管形 , 。
成ファクタ』で被覆されているから,上記抗血管形成ファクタの作用機序により,血管形成を阻害し得る(以下 『本件発明1の作用2』という )ものであると認められる。この本件発明 , 。
1の作用2は,詳細には,特に特許明細書第4ページ第7欄第22〜24行を参酌すると,再発性狭窄を処置または予防処置するために 身体通路にステントを留置した場合におけるス , ,『テントの間隙を通しての腫瘍または炎症性物質の内部成長を,該ステントは阻止しない』という問題を解消し得ること(以下 『本件発明1の作用2a』という,及び再発性狭窄の処置 , 。)または予防のために,身体通路にステントを留置したこと自体によって発生する 『体内での ,ステントの存在は,反応性または炎症性の組織(例えば,血管,繊維芽細胞,白血球)の,該ステント内腔への侵入を誘発 (特許明細書第4ページ第7欄第27〜29行)するという問 』題を解消し得ること(以下 『本件発明1の作用2b』という )であると認められる。 , 。
(相違点1についての検討)以上の検討1〜3をふまえ,本件発明1と第1引用発明との相違点1について検討する。
( )抗血管形成ファクタ及びタキソールの適用容易性について1まず,第1引用発明のステントに被覆されている平滑筋の増殖を防止する薬剤に換えて,抗血管形成ファクタを適用すること,及び抗血管形成ファクタとしてタキソールを適用することの容易性について検討する。
『抗血管形成ファクタ』の技術的意義は,上記(検討2)で検討したとおりであるところ,刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( )に例示された疾病は,いずれも血管1形成-依存性疾患であることから,刊行物6には,抗血管形成ファクタとしてタキソールが記。, , 載されていることは明らかである これに加えて 同タキソールに関する医学的見識( )では2, , タキソールを有害細胞の増殖部位に直接投与し保持することで 全身投与による副作用を避け血管形成依存性疾患の効果的な治療が可能なことが示され,更に,刊行物5及び8に記載された発明によって,血管形成の抑制を目的とする人体への埋設物薬剤にタキソールを含有させること及びステントに抗癌剤を被覆することが公知であることを考慮すれば,第1引用発明の,ステントを被覆する平滑筋の増殖を防止する薬剤に換えて,抗血管形成ファクタを適用すること,及び抗血管形成ファクタとしてタキソールを選択することは当業者が容易に想到することである。
( )身体通路の再発性狭窄を処置または予防する点について2本件発明1における 身体通路の再発性狭窄 の技術的意義及びステントの作用は 上記 検 『 』 ,(討1)及び(検討3)で検討したとおりであるところ,刊行物1記載事項( )ないし( )によるadと,第1引用発明のステントも,身体通路に適用して,該通路を内部から支持するという物理的作用と,被覆された薬剤による生物化学的作用によって,身体通路における再発の可能性のある狭窄を処置または予防するものであることは,本件発明1と共通するものである。
一方,刊行物6記載事項( )に記載されるような 『癌および他の血管形成-依存性疾患』にk ,類する疾患において,身体通路の再発性狭窄という症状が所見されることはよく知られたことである。
また,刊行物1記載事項( )並びに刊行物8記載事項( )及び( )にも記載されるように,そb pqもそもステントは管腔の狭窄を防止するものである。
更に,上記『( )抗血管形成ファクタ及びタキソールの適用容易性について』で検討した検1討過程及び検討結果を考慮すると,第1引用発明のステントにおいて,ステントを被覆する平滑筋の増殖を防止する薬剤に換えて,抗血管形成ファクタとしてタキソールを適用し,刊行物6記載事項( )に記載されるような 『癌および他の血管形成-依存性疾患』において当然予測k ,される,身体通路の再発性狭窄を処置または予防に用いようとすることは当業者が容易に想到することである。
そして,上記(検討3)で挙げた本件発明1のステントの作用1,2a及び2bは,刊行物1記載事項( )ないし( ),刊行物6記載事項( ),刊行物5記載事項( ),並びに刊行物8記載ad k i事項( )及び( )に記載されたもの,又はこれら記載事項から,当業者が当然予測し得るもので pqあって,格別のものではない。
( )相違点1についての検討のむすび3したがって,本件発明1の相違点1に係る構成は,刊行物1,5,6及び8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
よって,本件発明1は,刊行物1,5,6及び8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである 」。
( )本件発明16〜20についての判断 3「,,『 』(, 本件発明16は 本件発明1に前記ステントが血管ステントである という事項 以下『本件発明16付加事項』という )を付加したものであり,同じく本件発明17は 『前記ス 。 ,テントが胆管ステントである』という事項(以下 『本件発明17付加事項』という )を,同 , 。
じく本件発明18は 『前記ステントが尿道ステントである』という事項(以下 『本件発明1 , ,8付加事項』という )を,同じく本件発明19は 『前記ステントが食道ステントである』と 。 ,いう事項(以下 『本件発明19付加事項』という )を,同じく本件発明20は 『前記ステ , 。 ,ントが気管/気管支ステントである』という事項(以下 『本件発明20付加事項』という ) , 。
を付加したものであるが,刊行物1記載事項( )には 『排泄管,胆嚢管,前立腺,気管,気管c ,支及び肝臓等のすべての管状の器官』に適用するものとしてステントを構成することが記載されているから,上記付加事項は刊行物1に記載されたものである。
したがって,本件発明16ないし20は,本件発明1についてと同様の理由により,刊行物1,5,6及び8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである 」 。
第3原告の主張(決定取消事由)の要点( ) 1取消事由1 本件発明1についての判断における相違点についての判断の誤り( )決定は,本件発明と第1引用発明との相違点(相違点1)として 「本件発1 ,明1は,ステントを被覆している薬剤が『抗血管形成ファクタ』であって 『該抗 ,血管形成ファクタがタキソール』であり,この薬剤で被覆されたステントが身体通路の『再発性狭窄』を処置または予防するものであるのに対し,第1引用発明は,ステントを被覆している薬剤が『平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤』であり,この薬剤で被覆されたステントが,身体通路の『再狭窄』を処置または予防するものである点」を認定した上 「本件発明1の相違点1に係る構成は,刊行物1,5,6 ,及び8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである 」と判 。
断したが,以下のとおり,誤りである。
なお,決定は,本件発明16につき 「本件発明16は,本件発明1に 『前記ス , ,テントが血管ステントである』という事項・・・を付加したものであり「刊行,」,物1記載事項( )には 『排泄管,胆嚢管,前立腺,気管,気管支及び肝臓等のすべc ,ての管状の器官』に適用するものとしてステントを構成することが記載されているから,上記付加事項は刊行物1に記載されたものである 」とした上で 「本件発明 。,16・・・は,本件発明1についてと同様の理由により,刊行物1,5,6及び8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり」と判断したが,上記のとおり,本件発明1に係る相違点1についての判断が誤りである以上,本件発明16についての判断も誤りである。
( )「身体通路の再発性狭窄」及び「抗血管形成ファクタ」の技術的意義の認定2の誤り決定は,本件発明1に係る相違点1についての判断に当たり,その前提として,身体通路の再発性狭窄 及び 抗血管形成ファクタ の技術的意義を検討し本 「」「」,「件発明1の『身体通路の再発性狭窄』とは ・・・特に本件特許明細書第4ページ ,第7欄第13〜38行の記載を参酌して解釈すると 『身体通路の癌性の閉塞』を ,意味するものと認められる。なお,そのような『身体通路の癌性の閉塞』は『癌および他の血管形成-依存性疾患』において所見される症状であることは,同明細書に記載されるとおりであり,且つよく知られた事項である「本件発明1の『血 。」,管形成』とは ・・・特許明細書全体の記載を参酌して解釈すると 『癌および他の , ,血管形成-依存性疾患』の進行或いは再発の原因となる細胞の増殖が,血管形成に端を発するという意味においての血管形成であると認められる。そして,本件発明1の『抗血管形成ファクタ』は,この血管形成を阻害する作用機序を備えたファクタであると認められる 」と認定した。 。
しかしながら,上記認定は,以下のとおり 「身体通路の再発性狭窄」及び「抗 ,血管形成ファクタ」のいずれについても,誤りである(便宜上,先に「抗血管形成ファクタ」の技術的意義について主張する。。)ア「抗血管形成ファクタ」の技術的意義について平成17年12月28日付け手続補正後の同月5日付け訂正請求によって訂正された後の明細書(甲第10号証添付。以下単に「本件明細書」という )の発明の 。
詳細な説明には 「本発明は抗-血管形成ファクタを利用する方法および組成物を ,提供する。簡単に言えば,本発明の範囲内において,抗-血管形成ファクタは,血管の成長を阻害するように作用する蛋白質,ペプチド,化学的または他の分子を包含するものと理解すべきである。所定のファクタの該抗-血管形成活性を測定するのに,例えばヒヨコ漿尿膜()アッセイを包含する種々の方法を容易に利"CAM"用することができる ・・・本発明において使用するのに適した,特に好ましい抗 。
-血管形成ファクタは,上記アッセイにおいて新たな血管の形成を完全に阻害する(10頁14〜末行)との記載がある。また 「血管形成」は「」 。」 ,angiogenesisの訳であり血管新生 とも訳されるところヘンダーソン生物学用語事典甲 ,「」,「 」(第30号証)には「」の語につき「血管形成.すでに存在している小angiogenesis血管から派生する新しい毛細血管の形成 」との,分子細胞生物学辞典(甲第31 .号証)には「血管新生(」の語につき「既存の血管から血管内皮細胞angiogenesis )が出芽し,組織に侵入する形で毛細血管を伸ばしていく」との解説がある。
これらの記載にあるとおり 「抗血管形成ファクタ」とは,血管(毛細血管)の ,,,() 形成や成長を阻害する分子であり その抗血管形成活性は ヒヨコ漿尿膜CAMアッセイ等により測定することができるものである。決定のように 「血管形成」 ,を,血管形成依存性疾患等の疾患又は細胞の増殖と関連付けて定義することは誤りである。
なお,細胞の増殖とは,細胞が細胞分裂によって増えることであり(甲第31号証 ,有糸核分裂と呼ばれるプロセスによって行われる。このプロセスでは,まず )細胞のDNAが2倍になり,その細胞が2つの細胞に分かれる(二倍化する。。)多くの細胞が同時に二倍化すると,細胞の数が比較的急速に増加するという結果になる。そして 「抗増殖」とは,このような細胞の二倍化を妨げ,あるいはその速 ,度を低下させることをいう。これに対し,血管形成とは,新しく形成された組織に酸素や栄養を供給するための新たな血液源が必要となったときに開始される新しい血管の形成のプロセスであり,多数のステップにわたる複雑な過程を経るものである。そして 「抗血管形成」とは,このような新しい血管の形成を阻害することを ,いう。
「血管形成」と「増殖」とは,全く異なるプロセスであり,それぞれのプロセスを阻害する「抗血管形成」と「抗増殖」も全く異なる作用である。ある薬剤に抗増殖作用があるからといって抗血管形成作用があるとは限らず,逆に抗血管形成作用があるからといって抗増殖作用があるとは限らないのであり 「抗増殖剤」と「抗 ,血管形成剤」とは,別個の薬剤の種類として分類される。
イ「身体通路の再発性狭窄」の技術的意義について「身体通路の再発性狭窄」は,本件明細書に 「ステントは動脈および静脈両者 ,の広範な血管に配置して,誤った血管形成サイトにおける再発性狭窄症を防止し,血管形成により処置した場合には失敗するであろう狭窄の治療,および外科手術後の(例えば,裂開移植片狭窄)の治療を可能とする(28頁12〜15行「腸 。」),骨,腎臓,および冠動脈,上大静脈および裂開移植片内部 (同頁16行)と記載 」されているものであって,冠動脈等の血管における再発性狭窄(再狭窄)のことであり,決定が認定しているような癌や腫瘍による身体通路の閉塞を意味するものではない。
( )第1引用発明の評価の誤り3刊行物1は 「再狭窄を防止するには,平滑筋細胞の増殖を止めなければならな ,。」(),,,, い決定の記載事項( ) とし そのための薬剤として 抗血小板剤 抗凝血剤d抗複製剤を挙げているが,ここで挙示された「抗血小板剤」等は,薬剤を一般的な機能に基づくカテゴリによって分類したものであって,具体例として例示されているアスピリン等は,それらの薬剤の代表例であるにすぎない。したがって,刊行物1は,実際には,様々なカテゴリに属する何百,何千という薬剤を示すものであって,特定の薬剤をステントに使用することを示すものとはいえない。さらに,刊行物1は,単に仮説を示すのみで,実験を行っているものではないから,具体的にど, 。 の薬剤を使用すればよいかについて 当業者に何らかの示唆を与えるものではないなお,刊行物1に,平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤として,抗血小板剤(アスピリンやジビリダモール ,抗凝結剤(ヘパリン,マクリン,ブロタミンおよびヒ )),(,,, ルジンおよび抗複製剤 メトトレキサート アザチオプリン ビンクリスチンビンブラスチン,フルオロウラシル,アドリアマイシン,ミュータマイシン)が例示されているが,本件優先権主張日当時,これらの薬剤は,実際には再狭窄を防止し得ないことが知られていた。また,これらの薬剤のうち,ビンクリスチン,ビンブラスチン,アドリアマイシン及びミュータマイシンは,糜爛剤(皮膚や内膜の表皮の糜爛(欠損)を生じさせるもの)であって,接触した組織は壊死を起こすこと, , , が知られ ミュータマイシン及びアザチオプリンは 発癌物質として知られておりミュータマイシンは,化学的に不安定であることも知られている。加えて,冠状血管の場合において,アドリアマイシン,ビンクリスチン,ビンブラスチン及びフルオロウラシルは,心臓に対して,心筋梗塞の誘導など毒性効果があることが予想される。したがって,刊行物1において開示されている薬剤が,再狭窄の予防または処置のための薬物溶出ステントにおいて使用するには不適切であると考えられたことは明らかであり,当業者は,刊行物1に記載された薬物溶出性ステントに抗複製剤(抗増殖剤)を使用することは避けようとしたとさえいえる。タキソールは,刊行物1に記載されていないが,仮に,本件優先権主張日当時,タキソールが,抗複製剤(抗増殖剤)の一つとみなされていたとしても,抗複製剤(抗増殖剤)に関する上記知見に照らすと,当業者は,そのような抗複製剤(抗増殖剤)とステントを組み合わせることは想起し得ず,むしろ回避したはずである。
( )刊行物5に基づく容易想到性判断の誤り4決定は 「刊行物5・・・に記載された発明によって,血管形成の抑制を目的と ,する人体への埋設物薬剤にタキソールを含有させること及びステントに抗癌剤を被覆することが公知であることを考慮すれば,第1引用発明の,ステントを被覆する平滑筋の増殖を防止する薬剤に換えて,抗血管形成ファクタを適用すること,及び抗血管形成ファクタとしてタキソールを選択することは当業者が容易に想到するこiThe tetracyclines can be とであると判断した そして この判断は 記載事項( )の 。」。,,「administered alone or in combination with, either before, simultaneously, or subsequently(テトラサイクリ to treatment using conventional chemotherapeutic or radiation therapy.ンは,単独で,又は従来の化学療法薬又は放射線療法薬を用いた治療の前,同時又はその後に投与され得る(決定の「テトラサイクリンは,従来の化学療法また 。)」は放射線療法を用いた治療の前,該治療と同時,または該治療の後のいずれかに単独または該治療薬との組み合わせで投与されうる 」との仮訳は誤りである, 。。)Other chemotherapeutics include carmustine BCNU , 5-fluorouracil,- cyclodextrin, 「 ()β・・・(その他のvinca allcaloids such as vincristin, taxol and vinblastin,immunotoxins.化学療法薬には,カルムスチン(),5-フルオロウラシン,β-サイクロデ BCNUキストリン,ビンクリスチンやタキソール及びビンブラスチン等のビンカアルカロイド ・・・が含まれる」との記載を根拠とする。 ,。)しかしながら,刊行物5において,抗血管形成作用があるとされているのは,テトラサイクリンであり,タキソールは,従来の化学療法薬の1例として挙げられているにすぎず,タキソール自体に抗血管形成性があることは,刊行物5には記載も示唆もされていない。したがって,刊行物5に基づき 「抗血管形成ファクタとし ,てタキソールを選択することは当業者が容易に想到することである 」とし,これ 。
を前提とした決定の上記判断は誤りである。
( )刊行物6に基づく容易想到性判断の誤り5決定は,刊行物6に係る記載事項( ),( )に基づいて,刊行物6には 「タキソ kl ,ールが細胞増殖を伴う疾患,例えば,血管形成術後の再閉塞および再狭窄,慢性関, 。」 節リウマチ 卵巣癌及び乾癬の治療に有効な抗増殖作用を備える薬剤であること(刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( ))及び「上記( )におい11て,タキソールを有害細胞の増殖部位に直接投与し保持することで,全身投与による副作用を避け,効果的な治療が可能なこと(同 ( ))が記載されているとし, 。」2また,本件発明の「抗血管形成ファクタ」につき 「本件発明1の「血管形成」と ,は ・・・ 癌および他の血管形成-依存性疾患』の進行或いは再発の原因となる細 ,『胞の増殖が,血管形成に端を発するという意味においての血管形成であると認められる。そして,本件発明1の『抗血管形成ファクタ』は,この血管形成を阻害する作用機序を備えたファクタであると認められる 」と理解した上で 「刊行物6に記 。,載されたタキソールに関する医学的見識( )に例示された疾病は,いずれも血管形1成-依存性疾患であることから,刊行物6には,抗血管形成ファクタとしてタキソールが記載されていることは明らかである。これに加えて,同タキソールに関する医学的見識( )では,タキソールを有害細胞の増殖部位に直接投与し保持すること2で,全身投与による副作用を避け,血管形成依存性疾患の効果的な治療が可能なことが示され 」と判断した。,しかしながら,上記( )のとおり,決定の「抗血管形成ファクタ」の理解は誤り2である上,刊行物6に係る記載事項( ),( )に基づいて認定した刊行物6に記載さ klれたタキソールに関する医学的見識( ),( )も誤りであって,これらの認定に基づ 12く上記判断も誤りである。
すなわち,刊行物6には,それに記載された発明(化合物)が,細胞やウイルスなどに治療上有効な物質(化学治療物質)を結合させることができるものであること,当該化合物は,化学治療物質の類似体,結合成分及び脂質親和性基を含むコンジュゲートであることが記載され,この化合物の実施例として,化学治療物質が脂質親和性基に結合成分を介して抱合したコンジュゲートが開示されているところ,刊行物6において,タキソールは,様々な化学治療物質の1例として記載されているにすぎず,タキソールを用いて,上記化合物を作成することについての具体的な指示や実施例は見当たらない。
,,「 」 しかるところ まず刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( )1,, ,,, は タキソールが 血管形成術後の再閉塞及び再狭窄 慢性関節リウマチ 卵巣癌,, 乾癬のいずれに対しても有効であるかのように認定したものであるが 刊行物6はこれらの疾病を 「抗増殖物質の部位特異的な供給と保持が特に効果的な特定の疾 ,患」の例として挙げているにすぎず(決定の記載事項( ) ,どの抗増殖物質が,どk )の疾患に有効であるかを具体的に記載したものではなく,まして,抗増殖物質として挙げられている各種の物質のうちのタキソールが,これらの疾患のうちのどの疾患に有効に作用するのかについては,記載も示唆もない。したがって 「刊行物6 ,に記載されたタキソールに関する医学的見識( )」は誤りである。
1さらに,決定は,上記各疾患が,いずれも血管形成依存性疾患であるとして,刊, , 行物6には 抗血管形成ファクタとしてタキソールが記載されていると認定するが, , 刊行物6には 血管形成性又は血管形成依存性疾患について全く記載されておらずまた,本件優先権主張日当時,血管形成術後の再閉塞及び再狭窄が血管形成依存性疾患であることは,一般に知られていなかった。上記( )のアのとおり 「抗血管形2 ,成」ファクタは,血管の形成を阻害又は制限する薬剤であり,他方 「抗増殖剤」 ,は,細胞分裂を阻害する薬剤であって,両者は同じ薬効の薬剤ではないから,抗増殖性があるからといって,抗血管形成性があるとはいえない。したがって,決定の上記認定も誤りである。
次に 「刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( )」の「有害細胞 ,2の増殖部位に直接投与」するとは,刊行物6の記載内容及び発明の内容から見て,化学治療物質が脂質親和性基に結合成分を介して抱合されている刊行物6の発明に係る「化合物 (コンジュゲート)を使用することにより,化学治療物質の類似体 」を有害細胞内に取り込んで,そこで初めて化学治療物質が活性を生じ,有害細胞に直接作用するようにすることであると理解されるものである。
刊行物6の発明の利点である,全身性の副作用なく,疾患部位に十分な化学治療物質のコンジュゲートを投与することや,毒性のある化学治療物質の治療効果を,他の細胞に影響させずに,選択した細胞にのみ及ぼすことは,化学治療物質を抱合しなければ達成できず,本件発明1,16のように,抱合されていないタキソールを用いることによっては,刊行物6の発明の利点は何ら得られないのである。刊行物6は,脂質親和性基に結合成分を介して抱合されていない化学治療物質を,有害細胞が増殖している部位に投与することは全く記載しておらず,むしろ抱合していない化学治療物質を投与することから遠ざけるような教示(ティーチ・アウェイ)をするものである。
,「」, ,, さらに その 直接投与 の方法として 刊行物6に挙げられているのは 注射輸液,カテーテル等の従来からある標準的な方法であり,本件発明1,16のように,タキソールが固定されたステントが狭窄部位に直接留置され,ステントからタキソールが溶出するような方法については,全く記載していない。
加えて,本件優先権主張日当時,タキソールは,毒性を有する物質として当業者に知られているものであるところ(甲第21〜第26号証,第37号証の1〜8,第38号証 ,刊行物6には,タキソールは,刊行物6の発明の「化合物」から放 ),, 出された場合にのみ作用する化学治療物質の例として挙げられており 本件発明116のように,抱合していないタキソールの活性を維持したまま,ステントと組み, ,。 合わせるようなことは 刊行物6の記載内容とは逆であって 阻害事由が存在するしたがって,決定の上記判断は誤りである。
なお,被告は,本件発明1の要旨において 「抗血管形成ファクタ」と「タキソ ,ール」は同義であるから,本件発明1の要旨は 「該ステントの閉塞を防止するた ,めのタキソールで被覆されている・・・ステント」というものと同じであり,本件発明1につき 「抗血管形成ファクタ」という要素を検討する余地はないと主張す ,るが,誤りである。
すなわち,本件発明1において,タキソールは,抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆されるのであり,その点が,本件発明1の要旨の「ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されて」おり,かかる「抗血管形成ファクタがタキソール」であるという規定に反映されているのである 「抗血管形 。
成ファクタ」は「タキソール」を包含する上位概念であり 「タキソール」と同義 ,ではない。また,タキソールといっても,薬剤としての用途が異なれば,別の物であることは我が国の特許法における確立した考え方である。そして,本件発明1におけるタキソールは,あくまでも抗血管形成ファクタとして用いられるタキソールであって,抗増殖剤として用いられるものではない。
( )刊行物8に基づく容易想到性判断の誤り6決定は 「刊行物5及び8に記載された発明によって,血管形成の抑制を目的と ,する人体への埋設物薬剤にタキソールを含有させること及びステントに抗癌剤を被覆することが公知であることを考慮すれば,第1引用発明の,ステントを被覆する平滑筋の増殖を防止する薬剤に換えて,抗血管形成ファクタを適用すること,及び抗血管形成ファクタとしてタキソールを選択することは当業者が容易に想到することである 」と判断したところ,この判断は,刊行物8に関しては,ステントに抗 。
癌剤を被覆することが開示されており,タキソールは抗癌剤として知られているから,ステントにタキソールを被覆することも,第1引用発明から当業者が容易に想到することであるとの趣旨であると解される。
しかしながら,抗癌剤は,決定の記載事項( )にあるとおり 「この発明で使用さq ,,,。」 れるものとして適切な薬剤は あまりにも多数なので 列記することができないと前置きされた上で,ステントにコーティングすることができる薬剤として 「抗,凝血剤,抗血小板剤,鎮痙剤あるいは過度の内皮細胞成長を禁じる薬,あるいは,抗菌薬,ホルモンまたは抗癌剤,またはこれらの薬剤の任意のコンビネーション,あるいは他の局所的な目的を遂行する任意の他のものを含む」と記載されているものの1例にすぎず,しかも,上記抗凝血剤等の薬剤はその種類毎に何百,何千もの薬剤が存在するものである。さらに,刊行物8は,単に抗癌剤という広いカテゴリーを記載しているだけであって,具体的にタキソールを抗癌剤として例示または示唆しているわけではない。仮に,タキソールが抗癌剤に含まれ得るとしても,そこで問題となるのはタキソールの抗癌剤としての薬効であって,本件発明1,16で問題とされるような再狭窄の治療や予防とは全く関係がない。
したがって,このような刊行物8の記載を根拠として,当業者がステントに被覆する薬剤としてタキソールを選択することは容易に想到し得るとした決定の判断は,いわゆる後知恵であって,明らかに誤りである。
( )組合せの動機付けの不存在7決定は,第1引用発明に,刊行物6の医学的見識( ),( )並びに刊行物5,8に 12記載された発明を組み合わせる動機付けの存在,その他組合せの容易性について何ら示さないまま 「第1引用発明の,ステントを被覆する平滑筋の増殖を防止する ,薬剤に換えて,抗血管形成ファクタを適用すること,及び抗血管形成ファクタとしてタキソールを選択することは当業者が容易に想到することである 」との結論を 。
導いた誤りがある。
上記のとおり,刊行物1などに挙げられている多数の候補薬剤の中からタキソールを選択することは,母集団の大きさゆえに容易であるとはいえず,また,本件優先権主張日当時の技術的背景として,毒性を有するタキソールは,重大な副作用を生じさせる問題を有するとされていたから,たとえ,当業者が刊行物1,5,6及び8を了知していたとしても,身体経路の再狭窄の予防及び処置のために,タキソールを薬剤溶出ステントに適用するという技術思想には至らなかったはずである。
2取消事由2(特別顕著な作用効果の看過)本件発明は,従来技術にない特別顕著な作用効果を有するものであり,決定は,この点を看過した誤りがある。
すなわち,本件明細書の実施例2(39頁13行〜44頁1行)には,抗血管形成性の測定方法であるヒヨコ漿尿膜(CAM)アッセイ(受精した鶏卵から殻の一部を除去し,薬剤を含むメチルセルロースディスクを漿尿膜上に配置して,数日後に,血管の状態を観察する試験)において,タキソールが,強力で長期にわたる抗血管形成性を有することが示されている。この実験は,また,タキソールが,生体(ヒヨコ漿尿膜は生体である)を死滅させる毒性をもたずに生体内で抗血管形成性を有することを初めて示したものである。かかる事項を開示する従来技術はこれまで存在しなかった。さらに,本件明細書の実施例16,17(78頁9行〜82頁16行)では,タキソールが血管形成依存性疾患である腫瘍の成長を阻害することがインビボ(生体内)での実験により実証されている。
さらに,冠状動脈狭窄の治療に係る臨床試験(甲第13,第27号証,甲第43号証の1〜18)においては,本件発明が,従来型のステントに比べて,標的血管の血管再生,標的傷害の血管再生及び標的血管の不全のリスクを顕著に減少させるものであることが報告され,過敏反応,心臓障害,局所性炎症などのタキソールの副作用は報告されていない。これらの結果は,本件優先権主張日当時の技術水準及び引用文献に照らしても,予想外の顕著性を示すものである。
第4被告の反論の要点1取消事由1(本件発明1についての判断における,相違点についての判断の誤り)に対し( )「 身体通路の再発性狭窄』及び『抗血管形成ファクタ』の技術的意義の認1 『定の誤り」との主張に対しア「抗血管形成ファクタ」の技術的意義について「抗血管形成ファクタ」という技術用語は,本件優先権主張日当時,知られておらず,また,意味内容が明確ではないので,明細書全体の記載を参酌して解釈せざ, ,「」 るを得ないものであるところ 本件明細書の記載によれば抗血管形成ファクタの技術的意義は,決定が認定したとおりである。
原告は 「血管形成」と「増殖」とは,全く異なるプロセスであるから,それぞ ,れのプロセスを阻害する「抗血管形成」と「抗増殖」も全く異なる作用であると主張するが,血管形成は,内皮細胞等,血管を形成する細胞の増殖(分裂)によるものであり,それを阻害する抗血管形成性は,細胞の増殖と密接に関連するものである。このことは,本件明細書の「本発明は,一般的に癌および他の血管形成-依存性疾患を治療するための組成物および方法に関し,より詳しくは抗-血管形成ファクタおよびポリマー担体を含む組成物,該組成物で被覆されているステント並びにこれらステントおよび組成物の利用法に関するものである(1頁4〜7行「創 。」),,, 。, 傷および瘢痕形成の治癒は 炎症 増殖および成熟の3段階で起こる 第一の段階即ち炎症は,皮膚を破壊するのに十分な重度の創傷に応答して生ずる。3〜4日間継続するこの段階中に,血液および組織流は,該創傷を受けた表面を結合するように機能する接着性のクロットおよび繊維素ネットワークを形成する。これに増殖段階が続き,この段階においては,該創傷端部からの毛細血管および結合組織の内部成長があり,かくして皮膚の損傷部が閉じられる(33頁19〜25行)等の記 。」載からも明らかである。
イ「身体通路の再発性狭窄」の技術的意義について原告は身体通路の再発性狭窄 とは 冠動脈等の血管における再発性狭窄 再 ,「」, (狭窄)のことであり,決定が認定しているような癌や腫瘍による身体通路の閉塞を意味するものではないと主張する。
しかしながら,本件発明1の発明特定事項である「身体通路の再発性狭窄」は,その文言のとおり解釈すれば,腫瘍性のもの及び非腫瘍性のものを包含していることは明らかである。このことは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載(4頁末行〜5頁2行,21頁23〜24行,30頁25行〜31頁5行)を参酌すれば,より一層明らかである。決定の(検討1)では,腫瘍又は炎症性の組織による閉塞を「癌性の閉塞」と称したものであるが,仮にこれが正確性を欠く表現であったとしても,決定は,特許請求の範囲の請求項のとおり本件発明を認定したものであり,() , 。 上記 検討1 は 本件発明をことさら限定解釈する意図でなされたものではない原告の上記主張は,本件発明1に係る「身体通路」を血管に限定し 「再発性狭 ,窄」を血管形成術後の再狭窄に限定するものであって,発明の要旨に基づかないものである。
( )「第1引用発明の評価の誤り」との主張に対し2原告は,刊行物1が 「再狭窄を防止するには,平滑筋細胞の増殖を止めなけれ ,ばならない 」とし,そのための薬剤として挙げる抗血小板剤,抗凝血剤,抗複製 。
剤が,それぞれ,薬剤を一般的な機能に基づくカテゴリによって分類したものであ,, , , り 実際には 様々なカテゴリに属する何百 何千という薬剤を示すものであって特定の薬剤をステントに使用することを示すものとはいえないと主張する。
, , , しかしながら 血管の再狭窄過程の概略が 刊行物1にも記載されているとおりバルーン等による血管形成術により血管を拡張することによって血管内壁が傷付く, , , と そこに血小板が凝集して血栓ができ 次に傷の修復のために平滑筋細胞が移動増殖し,その過剰な増殖が血管を再狭窄せしめるというものであることは周知である(乙第1,第4号証 。そして,刊行物1は,このような血管の再狭窄過程に基 )づき,その予防及び治癒に効果の期待できる薬剤を,大きく血小板の癒合と凝結を防止する薬剤(抗血小板剤,抗凝血剤)と,血小板凝結後に続いて起こる平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤(抗複製剤)に分け,その具体例として,いずれも著名であり,かつ,当時動物実験等により効果が確認されていた少数の薬剤を例示しているのであって,多数の薬剤を漠然と根拠もなく示しているのではない。
すなわち,アスピリン,ジビリダモール,ヘパリン,クマリン,ヒルジンは,1991年(平成3年)7月発行の「」122巻1号(1)所American Heart JournalWalter R. M. HermansPrevention of restenosis after percutaneous収のらによる「」と題する論文(乙transluminal coronary angioplasty: The search for a "magic bullet"第2号証,甲第16号証)の表2(乙第2号証訳文1頁)に,動物実験により再狭窄を抑制することが確認された薬剤として列挙されており(なお,同表に記載されている「クマディン」は「クマリン」の誘導体である,アドリアマイシンは,1 。)993年(平成5年)発行の「」46号(1)所収のらDrugsJean-Paul R. HerrmanPharmacological Approaches to thePrevention of Restenosis Followingによる「()」と題する論文(乙第3号証,甲Angioplasty The Search for the Holy Grail? Part 1第12号証の1)に,らの動物実験によって,ドキソルビシンの局所投与 Currierは管腔の再狭窄防止に著しい効果があった旨が記載されており(乙第3号証訳文1。「」 「」。),, 7〜20行アドリアマイシン は ドキソルビシン の商品名であるまたメトトレキサート,フルオロウラシル,アドリアマイシンは,平成4年6月発行の「癌と化学療法」19巻6号所収の小川一誠による「進行乳癌の化学療法」と題する論文(乙第6号証)において,癌の化学療法薬剤の第1の選択肢として挙げられる(769頁右欄,770頁右欄)など,抗複製剤としての作用に優れた著名なもPreventionof restenosisafter percutaneous のであり,ビンクリスチンは,上記「」と題する論文(乙transluminal coronary angioplasty: The search for a "magic bullet"第2号証,甲第16号証)に引用される(乙第2号証訳文2頁10〜20行)とおり,1989年(平成元年)に公表された,らによる動物実験によって,バBarathルーン拡張後の血管内の平滑筋細胞の増殖を,通常の平滑筋細胞を損傷することなく妨げるものとして,周知である。
原告は,本件優先権主張日当時,これらの薬剤が,実際には再狭窄を防止し得ないことが知られていたとか,刊行物1は,単に仮説を示すのみで,実験を行っているものではないから,具体的にどの薬剤を使用すればよいかについて,当業者に何らかの示唆を与えるものではないと主張するが,上記のとおりであるから,これら主張は失当である。なお,本件明細書にこそ 「タキソールを被覆したステント」 ,を用いた具体的な裏付け(実験例)は一例も示されていない。
原告は,ビンクリスチン,ビンブラスチン,アドリアマイシン及びミュータマイシンには,毒性効果等があり,当業者は,再狭窄の予防または処置のための薬物溶出ステントにおいて使用することは避けようとしたと主張する。
しかしながら,刊行物1において,抗複製剤等の毒性は認識されており,その上で,毒性による副作用を避けるために,薬剤を局所的に投与することを提案しているものである(2頁左下欄5〜7行,同欄23〜25行,5頁右上欄6〜7行 。)刊行物1に記載されたステントは,そのような前提で,薬剤を人体に好適に処方することを目的として開発されたものであり,刊行物1に挙げられた薬剤は,そのようなステントに坦持させるものとして挙げられているのであるから,当業者は,薬物溶出ステントに使用することは避けようとしたとの主張は当たらない なお毒。,「性による副作用を避けるために,薬剤を局所的に投与すること」は,使用量によっては有害な薬剤を用いる場合において,周知の技術手段である。
したがって,決定の刊行物1についての認定又は評価に誤りはない。
( )「刊行物5に基づく容易想到性判断の誤り」との主張に対し3原告は,刊行物5において,抗血管形成作用があるとされているのは,テトラサイクリンであり,タキソールに抗血管形成性があることは,刊行物5に記載も示唆もされていないから,刊行物5に基づき 「抗血管形成ファクタとしてタキソール ,を選択することは当業者が容易に想到することである 」とし,これを前提とした 。
決定の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物5には,決定の記載事項( ),( )に係る記載があり,このij記載によれば,決定が,刊行物5には「テトラサイクリンとタキソールを組み合わせた薬剤組成物を含有し,血管形成を抑制する,人体に埋設するためのポリマー埋設物」が記載されていると認定したことに誤りはない。
なお,刊行物5には 「好適な形態において,前記組成物は,所定の部位におい ,て調整された期間にわたって抗生物質を放出する生体適合性ポリマー埋設物との組み合わせで投与される(決定の記載事項( ))との記載があり,使用量によって 。」jは有害な薬剤を用いる場合において 「毒性による副作用を避けるために,薬剤を ,局所的に投与すること」が開示されている。
( )「刊行物6に基づく容易想到性判断の誤り」との主張に対し4原告は,刊行物6には,それに記載された発明(化合物)が,細胞やウイルスな() , どに治療上有効な物質 化学治療物質 を結合させることができるものであること当該化合物は,化学治療物質の類似体,結合成分及び脂質親和性基を含むコンジュゲートであることが記載され,この化合物の実施例として,化学治療物質が脂質親和性基に結合成分を介して抱合したコンジュゲートが開示されていると主張するが,本件明細書では 「 タキソール (ここではタキソールの類似体および誘導体 ,『』……をも包含するものと理解すべきである(12頁11〜13行)と定義付られ )」ているところ 「タキソールと脂質親和性基とのコンジュゲート」は 「タキソール , ,の誘導体」であるから,刊行物6記載の「タキソール」は,本件発明における「タキソール」と同一である。
また,原告は,決定の認定した,刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( ),( )が誤りであると主張するが,以下のとおり,刊行物6に化学治療物12質としてのタキソールが開示されていること,及び上記医学的見識( ),( )の認定 12に誤りがないことは明白である。
すなわち,刊行物6に「チューブリン過程を妨げるコルヒチンのような抗増殖薬は,その抗増殖作用を及ぼすためには,細胞内に取り込まれる必要がある。この例においては,内側壁の動脈細胞内に急速に内在化できるように本発明の化合物を合成することが好ましい。好ましい実施例では,酸で切断可能な抱合体として本発明の化合物のバイオ作用性成分でコルヒチンが構成される。コルヒチンは,その抱合体の形では不活性である。しかし,細胞内酸小胞内への化合物の取り込みは,化合物からの薬物の放出を引き起こし,それによって活性化する。したがって,活性コルヒチンは,その作用部位の細胞内に供給され,その部位のチューブリン過程を阻, 。」(,) 止し それによって細胞分割を阻止する甲第6号証の2 53頁10〜19行と記載されているとおり,チューブリン過程を妨げるコルヒチンのような抗増殖薬においては,薬物として作用するのは,不活性な抱合体ではなく 「化合物(抱合 ,体 」から放出された「薬物」である。すなわち,刊行物6の発明においては,化 )学治療物質が結合成分を介して脂質親和性基と結合しているが,細胞内に入った後に結合成分が酸により開裂され,化学治療物質が細胞内で放出されて活性化し,化学治療物質としての作用効果を奏するのである。
そして,刊行物6は,そのような化学治療物質(抗増殖剤)が有効な抗増殖作用を示す特に効果的な対象疾患の一つとして,血管形成術後の再閉塞及び再狭窄を挙げている(決定の記載事項( ))のであり,また,刊行物6の「これらの化学治療k物質は,例えば,化合物から放出された場合のみにそのバイオ作用を示すコルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールおよびその誘導体で構成される群から選択することができる(決定の記載事項( ))との記載,及びこの記載に引き続く「こ 。」 l,”” ,, れらの化合物は 以下 チューブリン 過程と呼ぶチューブリン合成重合 脱重合あるいは,分解および/または機能を妨げる(甲第6号証の2,21頁16〜1 。」8行)との記載は,コルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールの化学治療物質としての共通の性質を記述していることが明らかである。
なお,上記( )のとおり,血管の再狭窄が平滑筋細胞の過剰増殖により起こるこ2とは,周知であるところ,コルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールの3つの薬剤が,チューブリン過程を阻止し,チューブリンの重合によって形成される有糸分裂紡錘体繊維の正常な形成・分解を阻害することにより,細胞分裂を抑止し,細胞の増殖を阻むという共通の性質を持つことは周知であり(乙第7,第8号証 ,)さらに,タキソールについては,高い増殖性によって著名なヒト由来の細胞株である(ヒーラー)細胞の増殖を抑止し,傷の修復に関係する繊維芽細胞の増殖HeLaと移動を防止する抗増殖剤であることも周知である(乙第9号証)から,タキソールが再狭窄に有効な抗増殖作用を備えることは当然予測されることである。
, , したがって 刊行物6に化学治療物質としてのタキソールが開示されていること決定の,刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( ),( )の認定に誤12りがないことは明らかである。
原告は,刊行物6には,血管形成性又は血管形成依存性疾患について全く記載されておらず,また 「抗血管形成」ファクタは血管の形成を阻害又は制限する薬剤 ,であるのに対し 「抗増殖剤」は細胞分裂を阻害する薬剤であって,両者は同じ薬 ,効の薬剤ではなく,抗増殖性があるからといって,抗血管形成性があるとはいえないとして,血管形成術後の再閉塞及び再狭窄,慢性関節リウマチ,卵巣癌,乾癬の各疾病が,いずれも血管形成-依存性疾患であるとし,刊行物6には,抗血管形成ファクタとしてタキソールが記載されているとした決定の認定が誤りであるとも主張する。
しかしながら,血管形成術後の再閉塞及び再狭窄,慢性関節リウマチ,卵巣癌,乾癬の各疾病は,刊行物6に 「特に有害な細胞種の増殖を含み,治療のための全 ,身投与による薬物療法が最適な結果を生んでいない」ものとして,列挙されたもの,「 」 「」 であるところ血管形成術後の再閉塞および再狭窄 が 血管形成-依存性疾患に該当することは明らかであり,また,本件明細書には,癌及び他の血管形成-依存性疾患につき,腫瘍性のものとして卵巣癌を含む各種の癌(卵巣癌について21頁20〜24行)が,非腫瘍性のものとして,リューマチ性関節炎,乾癬(30頁25行〜31頁5行)が挙げられている。したがって,刊行物6に「特に有害な細胞種の増殖を含み,治療のための全身投与による薬物療法が最適な結果を生んでいない」ものとして列挙された,上記各疾病は,いずれも本件明細書の「癌および他の血管形成-依存性疾患」に包含されるものである。そして,刊行物6には,上記のとおり,コルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールが,チューブリンの合成重合,脱重合を妨げる化合物であることが記載され,また,細胞分裂を阻止し,血管形成術後の再狭窄を治療することが記載されている(甲第6号証の2,53頁3〜8行 。なお,チューブリンは,重合することにより微小管(マイクロ・チュー )ブル)と呼ばれる繊維状の組織を形成するが,微小管は細胞内で細胞骨格や核分裂の際に形成される紡錘体を構成するもので,紡錘体の形成・分解が滞ると染色体が, , 。 移動できなくなり 細胞分裂が阻害されることは よく知られているところであるしたがって,刊行物6には,コルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールが,チューブリン過程を阻止し,チューブリンの重合によって形成される有糸分裂紡錘体繊維の正常な形成・分解を阻害することにより,細胞分裂を抑止し,細胞の増殖を阻むという共通の性質を持った抗増殖剤として記載されているのであり,これらが血管の平滑筋細胞の増殖を抑制し,血管形成依存性疾患であるとされる血管の再狭窄を防止するというのであるから,これらは本件発明でいう抗血管形成ファクタであるということができる。
そうすると,刊行物6に,抗血管形成ファクタとして,タキソールが記載されているという決定の認定に誤りはない。
なお,本件発明1の要旨は 「該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成フ ,ァクタで被覆されている ・・・ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキ ,ソールであ・・・る ステント と規定するのであるから 本件発明1における 抗 ,」,「血管形成ファクタ」は「タキソール」そのものであると考えるのが自然である。すなわち 「該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されてい ,る」は「該ステントの閉塞を防止するためのタキソールで被覆されている」と同義であって,結局,本件発明の要旨は,実質上 「該ステントの閉塞を防止するため ,のタキソールで被覆されている・・・ステント」というものと同じであり,したがって,本件発明1につき 「抗血管形成ファクタ」という要素を検討する余地はな ,いということもできる。
( )「刊行物8に基づく容易想到性判断の誤り」との主張に対し5原告は,抗癌剤は,ステントにコーティングすることができる薬剤として,刊行物8に記載されているものの1例にすぎないと主張する。
しかしながら,刊行物8に係る決定の記載事項( ),( ),及び「本件発明の好まpqしい実施例として,血管内ステントはヘパリン,アスピリン,プロスタサイクリンあるいは類似物を含有し,これらはステントから放出されると,血栓形成や過剰な内皮細胞の成長を阻止する。また,別の実施例では,血管内ステントは,放出されると抗癌作用を奏する抗癌剤を含有することができる。上記発明のようにステントを構成することにより,幾つかの利点が実現できる。第一に,血管内へのステントの配設は,配設位置において,抗凝血剤,抗血小板剤,内皮細胞の過剰な増殖を阻止する薬剤を放出し,配設位置での内皮細胞の過剰な増殖を阻止し,血管の開,。, , 通性を保持し 管腔の狭窄を阻止する 第二に 薬剤を含有するステントの配設は配設部位,及び/又は特定の身体部位又は器官に対して当該薬剤を送給することに,, 。」 より 当該薬剤の全身的作用 及び他の細胞に対する副作用や毒作用を最小化する(6頁15〜33行。訳は乙第12号証の訳文による )との記載によれば,刊行 。
物8に 「血管や流路といった管腔直径を持続的に保持するための形状ないし構造 ,を備え,抗癌剤をコーティングまたは含浸したステント」の発明が記載されていることは明らかであり,その旨の決定の認定に誤りはない。
なお,上記記載において,第一,第二の利点とされているように 「毒性による ,副作用を避けるために,薬剤を局所的に投与すること」は,使用量によっては有害な薬剤を用いる場合において,周知の技術手段である。
( )「組合せの動機付けの不存在」との主張に対し6原告は,刊行物1などに挙げられている多数の候補薬剤の中からタキソールを選択して,薬剤溶出ステントに適用することは,母集団の大きさや,毒性を有するタキソールが重大な副作用を生じさせる問題を有するとされていたことから,容易ではなかったと主張する。
しかしながら,本件特許出願当時,タキソールは,ビンカアルカロイドと同様,細胞分裂に重要な役割を果たす微小管の合成・分解を阻害し,細胞の増殖を抑制する強力な抗複製剤として,よく知られていたものであり(乙第7,8号証 ,その )抗複製剤としての効果が優れていることは,原料としてのイチイの大量伐採が,自然保護団体からの反発を招き,社会問題にまで発展した(乙第10号証)こともあって,当業者のみならず一般大衆にも広く知られていた。したがって,引用発明1の「平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤」に替えて 「身体通路の再発性狭窄」を処 ,置又は予防するために使用するものとして 「抗血管形成ファクタ」である「タキ ,ソール」を適用することは,当業者が容易になし得たことである。
また,上記( )のとおり,刊行物1は,抗複製剤の毒性を認識しており,その上2で,毒性による副作用を避けるために,薬剤を局所的に投与することを提案してい(,,), るものであって 2頁左下欄5〜7行 同欄23〜25行 5頁右上欄6〜7行刊行物1に記載されたステントは,そのような前提で,薬剤を人体に好適に処方することを目的として開発されたものであり,刊行物1に挙げられた薬剤は,そのようなステントに坦持させるものとして挙げられているのであるから,タキソールが毒性を有するがゆえに,それを薬物溶出ステントに使用することが,当業者にとって容易ではなかったとの主張は当たらない。
2取消事由2(特別顕著な作用効果の看過)に対し原告は,本件発明が,従来技術にない特別顕著な作用効果を有するものであり,決定は,この点を看過した誤りがあると主張する。
しかしながら,本件明細書には,原告が縷々主張するような血管形成術後の再狭窄の問題を解決する手段として,タキソールを被覆したステントにより,血管形成術後の再狭窄を防止できることを見出したことについては,全く触れられていないから,原告の主張は明細書の記載に基づかない,根拠に欠ける主張にすぎない。
すなわち,本件明細書は,本件発明が,抗-血管形成組成物を癌及び他の血管形成-依存性疾患の治療に利用する方法及び装置を提供するものであるとし(4頁末行〜5頁2行 ,対象となる血管形成-依存性疾患として,胆管癌,膵臓癌,食道 )癌,肺癌等の広範な種類の癌(25頁9行〜27頁22行 ,角膜の新血管形成, )肥大性瘢痕及びケロイド,増殖性糖尿病性網膜症,リューマチ性関節炎等の16種類もの非-腫瘍性の疾患(30頁26行〜31頁5行)を列挙しており,その一つとして,脈管障害に言及している(28頁9〜24行)にすぎないところ,当該箇所には 「動脈および静脈両者の広範な血管に配置して,誤った血管形成サイトに ,おける再発性狭窄症を防止し,血管形成により処置した場合には失敗するであろう狭窄の治療・・・を可能とする 」と記載されていて,本件発明が,特にタキソー 。
ルを被覆したステントによって,血管形成術後の再狭窄を防止することにあることを窺わせるような記載は見出せない。
また,本件明細書には,実施例2として,ヒヨコ漿尿膜(CAM)アッセイでタキソールにより血管形成阻害が見られたこと,実施例16として,CAMに移植した腫瘍について,タキソール担持サーモペーストによる腫瘍周辺の血MDAY-D2管形成阻害,及び腫瘍の増殖阻害が見られたこと,実施例17として,二十日ネズミ腫瘍モデルにおいて,タキソール担持サーモペーストによる腫瘍の増殖阻害が見られたこと等が記載されているのみであり,裏付け(実施例)として,タキソールをはじめとする抗-血管形成組成物で被覆されたステントによる,血管形成術後の再狭窄防止効果を実証する試験結果を何ら開示していない。
要するに,本件明細書は,タキソールを被覆したステントが血管形成術後の再狭窄を防止することを具体的に記載し,かつ,そのことを試験結果により裏付けたものではなく,本件発明は,かかる抗-血管形成組成物で被覆されたステントが,血管形成術後の再狭窄を防止し得る可能性があるかもしれないと漠然と推測した,単なる着想の域を出ないものである。
仮に,本件発明に係るステントが,冠状動脈狭窄の治療に係る臨床試験において優れた効果を示したとしても,それは,本件明細書に記載された事項ではなく,本件優先権主張日以後に研究を積み重ねた結果,見出された事項に基づくものである, 。 から かかる事項は本件発明の進歩性に対してなんら考慮されるべきものではない第5当裁判所の判断( ) 1取消事由1 本件発明1についての判断における相違点についての判断の誤りについて( )「身体通路の再発性狭窄」及び「抗血管形成ファクタ」の技術的意義につい1てア「身体通路の再発性狭窄」の技術的意義について,「」 「」 決定は 本件発明1に係る 身体通路の再発性狭窄 を 身体通路の癌性の閉塞を意味するものと認定した(決定書19頁3〜9行)が,本件発明1の要旨が規定する「身体通路の再発性狭窄」につき,その「再発性狭窄」を腫瘍性の閉塞に限定する根拠はなく,上記認定の「癌性の閉塞」が,腫瘍性の閉塞を意味するものとすれば,誤りである(もっとも,本件において,被告は 「再発性狭窄」が,腫瘍性 ,のもの及び非腫瘍性のものを包含していること及び「癌性の閉塞」との表現が正確性を欠くことを認めている。。)他方,原告は 「身体通路の再発性狭窄」とは,冠動脈等の血管における再発性 ,狭窄(再狭窄)のことであると主張するが,本件発明1の要旨と本件発明16〜20の要旨とを対比すれば,本件発明1の要旨が規定する「身体通路の再発性狭窄」につき,その「身体通路」が「血管」に限定されないことは明らかであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
イ「抗血管形成ファクタ」の技術的意義についてBIOTECHNOLOGYMarsha (ア)1991年 平成3年 7月発行の9号所収の ()「」らによる「 」と題する論文(乙第19号A. MosesINHIBITORS OF ANGIOGENESIS),「 (「」) 証 には新しい毛細血管の形成である血管形成 判決注:原文は Angiogenesisは,健康な状態あるいは病気の状態であっても,多くの重要な生理学的事象にとって,必須のものである。近年は,このプロセスを抑制する抑制剤を抽出し特徴付けることに,注目が集められている。なぜなら,血管形成抑制剤の本質的な治療薬としての価値は 増殖性網膜症 固形癌 関節リウマチ 血管新生緑内障などの 血 ,,,,『』 。」(), 管新生の病気 をコントロールすることである訳文4〜9行 との記載がありその表1()に「血管形成依存性疾患」として21種類の疾患が挙げらTABLE 1J.れている(訳文11〜32行 。また,平成4年5月1日第1版第2刷発行の ),「」(),「」Stenesh angiogenesis著 中村運訳・編 分子生物学辞典甲第71号証 にはの語につき「血管形成:新しい毛細血管の形成」との解説が付されている。
これらの記載によれば,本件優先権主張日当時,当業者には 「血管形成」 ,()が 「新しい毛細血管の形成」を意味し 「健康な状態あるいは病angiogenesis , ,気の状態であっても,多くの重要な生理学的事象にとって,必須のもの」であること,上記表1記載の各疾患のような「血管形成依存性疾患」が存在することが知られていたとともに 「血管形成」のプロセスを抑制する「血管形成抑制剤」が 「血 , ,管形成依存性疾患」をコントロール(治療)するものとして,注目を集めていたこと,したがって,その当時 「血管形成「血管形成抑制剤」の概念ないし技術的 ,」,意義は,上記のようなものとして確立していたことが認められる。
THE ANGIOGENIC PROCESS AND IN VIVOなお,上記乙第19号証には 「,」との標題(1頁右欄23〜24行)ASSAYS FOR ANGIOGENESIS INHIBITORSThe two most commonly used in vivo assays are the rabbit corneal pocketの下に 「,(1頁右欄33〜35行)との記載があり,CAMアッmodel and the CAM assay. 」,(),() セイが 血管形成抑制性 抗血管形成性 について 通常用いられる生体in vivo検定法の一つであることが示されている。
他方,本件明細書には 「本発明は抗-血管形成ファクタを利用する方法および ,組成物を提供する。簡単に言えば,本発明の範囲内において,抗-血管形成ファクタは,血管の成長を阻害するように作用する蛋白質,ペプチド,化学的または他の分子を包含するものと理解すべきである。所定のファクタの該抗-血管形成活性を測定するのに,例えばヒヨコ漿尿膜()アッセイを包含する種々の方法を"CAM"容易に利用することができる ・・・本発明において使用するのに適した,特に好 。
ましい抗-血管形成ファクタは,上記アッセイにおいて新たな血管の形成を完全に阻害する(10頁14〜末行)との記載があり,また 「本発明の抗-血管形成 。」 ,組成物または抗-血管形成ファクタで治療することができる (30頁27〜28 」行)とされている,腫瘍以外の「血管形成-依存性の疾患」として,十数種類の疾患が挙げられている(31頁1〜5行)ところ,それらの疾患の大部分は,乙第19号証の上記表1掲記の「血管形成依存性疾患」と一致している。
そうすると,仮に本件発明の「抗血管形成ファクタ」という用語自体がよく知られていないものであったとしても,本件明細書に接した当業者には,上記「抗血管形成ファクタ」が,乙第19号証の上記「血管形成抑制剤」に相当するものである,,「」, ことがたやすく理解され そうであれば抗血管形成ファクタ の技術的意義は新しい毛細血管の形成である「血管形成」を抑制することにより 「血管形成依存 ,性疾患」をコントロール(治療)するものということができる。
決定の「抗血管形成ファクタ」の技術的意義についての認定(決定書19頁10〜16行)は,以上に反する限度で誤りというべきである。
(イ)なお,1999年(平成11年)7月1日第1版第4刷発行の村松正実ら編「分子細胞生物学辞典 (甲第31号証)に 「細胞増殖」の語につき「細胞が細胞 」,分裂によって増えること 」との解説が付されていることに照らすと,抗増殖剤と 。
は 細胞が細胞分裂によって増えることを阻害する薬剤であることが認められる な , (お,上記甲第31号証は,本件優先権主張日の後に発行された刊行物であるが,その辞典としての性質上,上記語義を有する「細胞増殖」の語自体は,本件優先権主張日前から用いられていたものと推認される。他方 「抗血管形成ファクタ (血 。),」管形成抑制剤)は,上記のとおり,新しい毛細血管の形成である「血管形成」を抑制するものであるから,その作用により,成長する組織への酸素や栄養の供給を断ち,結果的に,組織の成長を妨げることになるとしても 「抗血管形成ファクタ」 ,(血管形成抑制剤)の作用と抗増殖剤の作用とは異なるものということができる。
( )「第1引用発明の評価の誤り」との主張について2決定は,刊行物1に「人体の管状器官の管腔の開放状態を維持するためのステントであって,該ステントの閉塞を防止するための平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤で被覆されている,ほぼ管状の構造を有するステントであって,該ステントが該人体の管状器官の再狭窄を処置または予防するために使用される,ステント(第1。」引用発明)が記載されているものと認定した。
しかるところ,原告は,刊行物1が 「再狭窄を防止するには,平滑筋細胞の増 ,殖を止めなければならない 」とし,そのための薬剤として挙げる抗血小板剤,抗 。
凝血剤,抗複製剤が,それぞれ,薬剤を一般的な機能に基づくカテゴリによって分類したものであり,実際には,様々なカテゴリに属する何百,何千という薬剤を示すものであるとか,刊行物1は,単に仮説を示すのみで,実験を行っているものではないとして,刊行物1が,具体的にどのような薬剤を使用するかにつき,当業者に何らの示唆も与えないと主張する。
しかしながら,刊行物1には,決定の記載事項( )に係る記載,及びこれに先立dって 「何ゆえに,またどのように再狭窄が生じるのかについてはいくつかの仮説 ,がある。現在最も広く受け入れられている説明は,すべての血管形成過程中に生じる動脈損傷に対応する自然治癒過程が再狭窄であるというものである。この非常に複雑な治癒過程は,結果的に脈管内膜の増殖を引き起こし,さらに詳細には内部の平滑筋細胞()の移動と増殖を引き起こすというものである(3頁右上欄2SMC 。」6行〜左下欄4行)との記載があり,これらの記載によれば,刊行物1は,再発性狭窄の発生に関する仮説のうち,第1引用発明に係る特許出願についての優先権主張日である1990年(平成2年)2月28日当時,当業者に最も広く受け入れられていた,動脈損傷に対応する自然治癒過程により平滑筋の移動と増殖が引き起こされ,再発性狭窄が生じるとの説明に基づいて,再発性狭窄を防止し得る薬剤を記載したものであると認められる。
そして,いずれも第1引用発明に係る優先権主張日(平成2年2月28日)の前後から本件優先権主張日(平成5年7月19日)当時にかけて発行された刊行物である,?@1985年(昭和60年)8月発行の「」6巻2号所収J Am Coll CardiolAustin GEIntimal Proliferation of smooth muscle cells as an explanationのらによる「for recurrent coronary artery stenosis after percutaneous transluminal coronary」と題する論文(乙第1号証)に 「経皮経腔的血管形成術後5日,1 angioplasty. ,7日,62日経過し,そして死亡した3人の患者の冠状動脈の病理学変化をそれぞれ観察した ・・・平滑筋細胞の局部的増殖は,血管形成の17日後に死亡した患 。
者からの冠状動脈の新生内膜の表面で顕著であった。血管形成の62日後に死亡した患者の,生前に血管拡張が行われた冠状動脈では,古いアテローム斑の中の隙, , , 間や 脈管内膜の表面の全周囲上に分布した 平滑筋細胞の広範囲な増殖によって狭窄が発生していた。この種の脈管内膜の増殖は,冠動脈血管形成術の後に起こる再発性冠状動脈狭窄の原因と考えられる(訳文5〜15行)との記載があり, 。」?A1989年(平成元年)2月発行の「」13巻2号所収のらにJACCPeter BarathLOW DOSE OF ANTITUMOR AGENTS PREVENTS SMOOTH MUSCLEよる「」と題する論文(乙第5CELL PROLIFERATION AFTER ENDOTHELIAL INJURY号証)には 「バルーン血管形成術後の再狭窄の,細胞学的根拠は,平滑筋細胞の ,脱分化にある ・・・我々は,細胞有糸分裂フェーズの特効薬であるビンクリスチ 。
ン()及び転写阻害剤であるアクチノマイシン()を,ウ0.075mg/kg D0.015mg/kgサギの大動脈のバルーン削剥中に点滴投与した ・・・結論:細胞増殖抑制剤の損 。
傷時における低濃度投与は,通常の平滑筋細胞を損傷することなく,平滑筋細胞の増殖を抑制する。このことからして,これらの薬剤は,血管形成術後の再狭窄を阻止する可能性がある(訳文3〜12行)との記載があり,?B1989年(平成元 。」SupplementCirculationJesse V. Currier 年)10月発行の「?U」80巻4号所収のColchicine Inhibits Restenosis After Iliac Angioplasty in the Atherosclerotic らによる「(アテローム性動脈硬化のウサギにおける,コルヒチンによる血管形成術後Rabbit)」() ,「 , の再狭窄阻止と題する論文 乙第4号証 に経腔的血管形成術後の再狭窄は血小板の相互作用や血管壁の損傷が引き起こす,白血球の浸潤,平滑筋細胞の脈管内膜への移動及び増殖に起因する ・・・このように,コルヒチンがこのモデルに 。
おいて再狭窄を阻止したことは,抗増殖剤及び抗刺激剤がヒトの再狭窄を低減するであろうことを示している(訳文4〜8行)との記載があり,?C1991年(平 。」American Heart JournalWalter R. M. 成3年)7月発行の「」122巻1号所収のHermansPrevention of restenosis after percutaneous transluminal coronaryらによる「」と題する論文(乙第2号証)が 「再狭angioplasty: The search for a "magic bullet" ,窄の過程での重要なステップは,血小板癒着,血小板凝集,フィブリン形成を伴う止血システムの活性化である。平滑筋細胞の増殖が後に続くが,これは血液及び障害を受けた血管壁内の細胞の成分によって産生される成長因子によって影響される。これらの各段階は,再狭窄の過程を停止させる介入の部位となり得る。動物モデルでの再狭窄を減少あるいは予防することができる薬剤は,表2に列挙されている(訳文1頁3〜9行)とした上で,表2(?U)に「細胞増殖」の段階の 。」Table「」「」(), 薬剤として コルヒチン 及び 細胞増殖抑制薬 を挙げており 訳文1頁表2さらに 「コルヒチンコルヒチンは平滑筋細胞の増殖と移動,白血球による化 ,。 , 学走化性剤の放出を阻害する 再狭窄におけるコルヒチンの効果を検討するために腸骨経腔的血管形成術を施した後に50%まで管腔の狭窄したアテローム硬化のウサギを用いた ・・・高用量のコルヒチンは径の狭窄を有意に低下させた (訳文2 。 」頁2〜8行「細胞増殖抑制薬バルーン拡張による破壊活動後,平滑筋細胞の ),分化の変化・・・が観察され,細胞増殖と細胞外基質の生成を伴う。それは再狭窄過程の基礎となる。らは,細胞増殖抑制薬は,正常の平滑筋細胞に傷害をBarath与えることなく,活発な増殖する平滑筋細胞に選択的に傷害を与えることによって再狭窄を予防する可能性があると,仮説をたてた ・・・第3のグループは細胞増 。
(, ,) 殖抑制薬の投与 ビンクリスチンとアクチノマイシン0.075mg/kgD 0.015mg/kgを受けた ・・・細胞増殖抑制薬は『正常な』平滑筋細胞を傷害することなく,平 。
滑筋細胞の増殖を防止した(2頁9〜20行)と記載し,?D1993年(平成5 。」DrugsJean-Paul R. HerrmanPharmacological 年 発行の46巻1号所収のらによる )「」 「Approaches to the Prevention of Restenosis Following AngioplastyThe Search for the()(血管形成術後の再狭窄の予防に対する薬理学的アプローチ Holy Grail? Part 1聖杯の探求(第1部」と題する論文(乙第3号証)に 「形態学的に,再狭窄部 )) ,位には内膜組織の過形成が見られ,それは主に,プロテオグリカンからなる大量の, 。」 細胞外基質の生成を伴う 合成タイプの平滑筋細胞の増殖として特徴付けられる(訳文4〜6行「コルヒチンコルヒチンは植物由来の ),Colchicum autumnaleアルカロイドであり,チューブリンと結合し ・・・平滑筋細胞の増殖・遊走の阻 ,害 ・・・を含む微小管に関連する機能を妨げることで細胞分裂中期の阻止を引き ,起こす ・・・高用量コルヒチンは 経過観察時の狭窄径を著しく減少させた訳 。 , 。」(文8〜15行)との記載があることにかんがみれば,上記刊行物1に記載された再発性狭窄の発生の機序及びその発生防止の方法に関する提案は,たとえ,それ自体においては実験を伴わないものであっても,合理的な根拠を備えるものであって,当業者に,具体的にどのような薬剤を使用すべきかについて有用な示唆を与えることができたものと認めることができ,このことは,刊行物1に記載された薬剤の範囲が広範であったとしても変わるところはない。
なお,甲第12号証の1(乙第3号証 ,甲第17,第19号証,第34号証の ),, (), 1 2には 刊行物1が具体的な名称を掲げる薬剤の一部 ヘパリン等 について再狭窄の低減又は平滑筋細胞の増殖抑制に効果がなかった旨の報告があるが,そうであるからといって,刊行物1が掲げる抗血小板剤,抗凝血剤,抗複製剤に属する薬剤(とりわけ抗複製剤に属する薬剤)の全部について,上記効果がないと判断されるものでないことは明らかである。
,, () また 原告は 刊行物1が具体的な名称を掲げる薬剤の一部 ビンクリスチン等に毒性効果がある旨主張するが,仮にそうであるとしても,刊行物1が掲げる抗血小板剤,抗凝血剤,抗複製剤に属する薬剤(とりわけ抗複製剤に属する薬剤)の全部について毒性効果があると判断されるものでないことは明らかであるし,他方,本件においては,刊行物1に記載された第1引用発明に係るステントの被覆剤として,タキソールを適用することが容易であるか否かが問題なのであるところ,原告は,タキソールについても,毒性を有する物質として知られていたとして,第1引用発明に適用することが容易でないと主張するのであるから,結局,毒性の有無や毒性の存在と容易想到性との関係は,タキソールについて判断すれば足りるものである(この点は後記( )のキにおいて判断する。
4 。)したがって,決定の第1引用発明の認定に原告主張の誤りはないというべきである。
( )「刊行物5に基づく容易想到性判断の誤り」との主張について3原告は,刊行物5において,抗血管形成作用があるとされているのは,テトラサイクリンであり,タキソールに抗血管形成性があることは,刊行物5に記載も示唆もされていないから,刊行物5に基づき 「抗血管形成ファクタとしてタキソール ,を選択することは当業者が容易に想到することである 」とし,これを前提とした 。
決定の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,仮に,刊行物5が,タキソールに抗血管形成性があることを開示するものでないとしても,後記( )のとおり,この点は,決定の結論に影響を及ぼ 4すものということはできないから,原告の上記主張を採用することはできない。
( )「刊行物6に基づく容易想到性判断の誤り」との主張について4ア決定は 「抗血管形成ファクタ」の技術的意義に関する「本件発明1の『血 ,管形成』とは ・・・ 癌および他の血管形成-依存性疾患』の進行或いは再発の原 ,『因となる細胞の増殖が,血管形成に端を発するという意味においての血管形成であると認められる。そして,本件発明1の『抗血管形成ファクタ』は,この血管形成を阻害する作用機序を備えたファクタであると認められる 」とする認定,及び刊 。
行物6に「タキソールが細胞増殖を伴う疾患,例えば,血管形成術後の再閉塞および再狭窄,慢性関節リウマチ,卵巣癌及び乾癬の治療に有効な抗増殖作用を備える薬剤であること(刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( ))が 。」1記載されているとの認定を前提とした上 「刊行物6に記載されたタキソールに関 ,する医学的見識( )に例示された疾病は,いずれも血管形成-依存性疾患であるこ1とから,刊行物6には,抗血管形成ファクタとしてタキソールが記載されていることは明らかである 」と認定した。 。
しかしながら,本件発明1に係る「抗血管形成ファクタ」の技術的意義は,新しい毛細血管の形成である「血管形成」を抑制することにより 「血管形成依存性疾 ,患」をコントロール(治療)するものと理解されることは上記( )のイの(ア)のとお1りであり 「抗血管形成ファクタ (血管形成抑制剤)の作用と抗増殖剤の作用とが ,」異なるものであることは,同(イ)のとおりである。そうであるとすれば,仮に「血管形成術後の再閉塞および再狭窄,慢性関節リウマチ,卵巣癌及び乾癬」が「血管形成依存性疾患」であり,かつ,タキソールがこれらの疾患の治療に有効な抗増殖作用を備える薬剤であるとしても,直ちにタキソールが「抗血管形成ファクタ」であるといえるものではなく,また,刊行物6には,他に,タキソールが「抗血管形成ファクタ (あるいは乙第19号証でいう「血管形成抑制剤 )であることを示す 」 」ような記載は見当たらないから,決定の「刊行物6には,抗血管形成ファクタとしてタキソールが記載されている」との認定は誤りである。
イしかしながら,本件発明1の要旨は 「身体通路の管腔の開放状態を維持す ,るためのステントであって,該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,かつ,該ステントが該身体通路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステント 」と規定しているところ,この規定 。
は,ステントを被覆する物質を2段階で特定するもの,すなわち,第1段階は上位概念である「抗血管形成ファクタ」と特定し,当該物質が「抗血管形成ファクタ」の集合中から選択されるものであることを示した後,第2段階として,当該物質が「抗血管形成ファクタ」の集合に含まれる「タキソール」である旨,下位概念によって特定し直しているにすぎず,したがって,本件第1発明の要旨のうち 「該ス ,テントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり 」,の部分は,端的に「該ステントの閉塞を防止するためのタキソールで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであり 」と規定するのと何ら変わりはな ,い。
この点につき,原告は,タキソールは,抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆されるのであり,その点が,本件発明1の要旨の「ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されて」おり,かかる「抗血管形成ファクタがタキソール」であるという規定に反映されているとか,タキソールといっても,薬剤としての用途が異なれば,別の物であることは我が国の特許法における確立した考え方であると主張する。
しかしながら,物の発明である本件発明1において,ステントを被覆する物質として構成されているタキソールの用途ないし作用が何であるかは,本来,発明を特定する要素とはなり得ないものである。仮に,原告の上記主張の趣旨が,タキソールを抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆する場合と,他の作用を奏する薬剤として(例えば,抗増殖性を有する薬剤として)ステントに被覆する場合と, , では技術思想が異なるというものであったとしても 上記用途ないし作用の相違は単に身体通路の再発性狭窄を予防する機序に関係するのみであって,同一構成から成る発明を別発明と評価し得るほど,その技術思想において異なるということはできない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
そしてそうであれば,ことさら「抗血管形成性」に着目しなくとも 「再発性狭 ,窄を処置または予防するため」に使用される血管ステントに,タキソールを被覆することが,引用各刊行物から容易に想到することができれば,相違点に係る本件発明1の構成は容易想到ということができる。
,「 」, ウしかるところ 原告の 第1引用発明の評価の誤り との主張に理由がなく刊行物1には 「人体の管状器官の管腔の開放状態を維持するためのステントであ ,って,該ステントの閉塞を防止するための平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤で被覆されている,ほぼ管状の構造を有するステントであって,該ステントが該人体の管状器官の再狭窄を処置または予防するために使用される,ステント(第1引用発。」明)が記載されているものと認められることは,上記( )のとおりであり,また,2刊行物1には,その「平滑筋細胞の増殖を防止する薬剤」の一つとして 「抗複製 ,剤」の記載があることは,決定の記載事項( )から明らかである。
dエ他方,刊行物6には,以下の記載がある(国際公開パンフレットである刊行物6については,その訳文に相当するものとして,日本国出願に伴う同パンフレットの翻訳文を掲載した公表特許公報(特表8-502719号,甲第6号証の2)が提出されているので,引用箇所は,甲第6号証の2の該当箇所によって示す。。)(ア)「1.血管形成術後の再閉塞および再狭窄冠状血流を制限または閉塞するアテローム硬化性病変は,冠状動脈心疾患に関連する脂肪の主要な原因である。経皮経管冠動脈形成(PTCA ,あるいは冠状動 )脈バイパス移植術による直接的手術が用いられてきた。PTCAの主な難点は,血管形成術後の閉鎖の問題であり,それにはPTCAの直後に起こるもの(急性再閉塞)と,長い期間内で起こるもの(再狭窄)の両方がある。血管形成術後の再狭窄は,血管形成術の処置によって起こる動脈内壁の損傷に対する反応である。その正確な機構は依然として調査中であるが,一般的には,動脈中間層の平滑筋細胞と,細胞が増殖を続ける内側(内膜)層に向かう,これらの細胞の移動を含む。増殖は,通常は損傷後7〜14日以内に内膜内で停止する ・・・再狭窄の防止のた 。
めに活発に研究されているいくつかの抗増殖薬について,以下に詳細に記述する。
a.ヘパリンとヘパリン断片・・・b.コルヒチン・・・アテローム硬化性腸骨動脈を持つウサギに毎日コルヒチンを投与したところ,バルーン損傷後4週に血管造影に観察された再狭窄の程度が減少したことが最近報告された(甲第6号証の2,15頁5行〜16頁23行) 。」(イ)「好ましい実施例においては,血管形成術後の再狭窄の治療に有効な本発明の化合物は,ヘパリン,ヒルジン,コルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールお。」(,) よびその誘導体などの抗増殖薬で構成される甲第6号証の2 53頁3〜5行上記各記載によれば,刊行物6には,血管形成術後の再発性狭窄の治療に有効な抗増殖薬として,タキソールが記載されていることが認められる(なお,刊行物1記載の「抗複製剤」と刊行物6記載の「抗増殖薬」とが同義であることは,原告の自認するところである。。)そうすると,刊行物1及び6に接した当業者が,第1引用発明の「人体の管状器官の再狭窄を処置または予防するために使用される,ステント」を被覆する「抗複製剤(抗増殖薬 」として,刊行物6に,血管形成術後の再発性狭窄の治療に有効 )な抗増殖薬の例として記載されているタキソールを試みることは容易なことというべきである。
,, ,, オ原告は 刊行物6は 血管形成術後の再閉塞及び再狭窄 慢性関節リウマチ卵巣癌,乾癬を 「抗増殖物質の部位特異的な供給と保持が特に効果的な特定の疾 ,患」の例として挙げているにすぎず,どの抗増殖物質が,どの疾患に有効であるかを具体的に記載したものではなく,まして,抗増殖物質として挙げられている各種の物質のうちのタキソールが,これらの疾患のうちのどの疾患に有効に作用するのかについては 記載も示唆もないと主張するが 上記エのとおり 刊行物6は血 , ,,,「管形成術後の再狭窄の治療に有効な本発明の化合物」として 「ヘパリン,ヒルジ ,ン,コルヒチン,ビンカアルカロイド,タキソールおよびその誘導体」を特に挙げているのであるから,当業者が,これらの化合物の中から 「タキソール」を選択 ,し,第1引用発明の「抗複製剤(抗増殖薬 」として試みることに,何ら困難性は )認められない。
カ原告は,決定が刊行物6の記載事項として認定した「タキソールを有害細胞の増殖部位に直接投与し保持することで,全身投与による副作用を避け,効果的な治療が可能なこと(刊行物6に記載されたタキソールに関する医学的見識( )) 。」2に係る「直接投与」とは,化学治療物質が脂質親和性基に結合成分を介して抱合されているコンジュゲートを使用することにより,化学治療物質の類似体を有害細胞内に取り込んで,そこで初めて化学治療物質が活性を生じ,有害細胞に直接作用するようにすることであるとし,刊行物6は,脂質親和性基に結合成分を介して抱合されていない化学治療物質を,有害細胞が増殖している部位に投与することは記載しておらず,むしろ抱合していない化学治療物質を投与することから遠ざけるような教示(ティーチ・アウェイ)をするものであると主張する。
しかしながら,刊行物6には下記記載がある。
「 発明の背景】疾患と他の病的状態の治療のための治療薬の供給は,様々な方法によ (ア) 【って達成することができる。それらには,経口,静脈内,皮下,経皮,筋肉内投与,あるいは局所的適用が含まれる。一部の治療薬の場合,現行の供給方法では,全身性の副作用を及ぼすことなく疾患部位へ十分な量を供給すること,または,意図する治療効果を生むための十分な間,疾患部位に治療物質を十分に保持しておくことが不可能である。病的細胞種の増殖を防止あるいは低減する薬物は,有害あるいは制御不可能な細胞増殖を伴う様々な疾患の治療と制御に不可欠なものである。しかし,抗増殖物質はその定義上,ある種の細胞にとって毒物とならざるをえない。疾患細胞種を制御するために必要な分量が,患者の正常な細胞にとって有毒あるいは致命的になることがあるため,これらの薬物の全身的投与はしばしば実現不可能である。この困難は,有害細胞の増殖部位に抗増殖物質を直接投与することによって避けることができる。また,正常な細胞種の移動および損傷を制限しながら有害な細胞の増殖を効果的に制御するために,疾患部位に抗増殖薬を保持するための機構が必要である。抗増殖物質の部位特異的な供給と保持が特に効果的な特定の疾患と状態について,以下に簡潔に記述する。これらの各状態は,特に有害な細胞種の増殖を含み,治療のための全身投与による薬物療法が最適な結果を生んでいないものである。
1.血管形成術後の再閉塞および再狭窄・・・ (甲第6号証の2,14頁14行〜15頁 」5行)「薬理学的手法によって再狭窄を防ぐ試みは,通常は様々な薬剤の全身的投与を必要と(イ)し,一般的には成功しない(甲第6号証の2,15頁20〜21行) 。」「血管形成術後の再狭窄を治療するため経口投与など全身への薬品供給の使用は,一定(ウ)間隔での周期的投与を必要とし,その結果,疾患部位における治療薬濃度の周期的な変動が生じる。さらに,患者が薬物の全身的投与を受けなければならない20〜30日の期間を過ぎると,通常は摂取された薬物の99%以上が,薬物によって肝臓または腎臓で処理される。これは,重大な副作用の可能性を表している(甲6号証の2,17頁18〜23行) 。」これらの記載によれば,刊行物6に記載された発明自体は,化学治療物質が脂質親和性基に結合成分を介して抱合されているコンジュゲートを使用する構成を採用するものであるとしても,刊行物6が,かかる構成を採用することによって解決しようとした課題は,抗増殖物質を全身投与した際に生じ得る全身性の副作用,ない, ,, しかかる副作用のために 全身的投与がしばしば実現不可能となること すなわち抗増殖物質の全身投与を前提として生ずる問題であるものと認められる。刊行物6には,抗増殖物質をステントに被覆して留置するなどの局所投与までを否定する記載は見当たらず,むしろ,上記(ア)の「抗増殖物質はその定義上,ある種の細胞にとって毒物とならざるをえない。疾患細胞種を制御するために必要な分量が,患者の正常な細胞にとって有毒あるいは致命的になることがあるため,これらの薬物の全身的投与はしばしば実現不可能である。この困難は,有害細胞の増殖部位に抗増殖物質を直接投与することによって避けることができる 」との記載からは,全身 。
投与に対する局所投与一般について,その有用性を肯定していることが窺われる。
したがって,刊行物6が,脂質親和性基に結合成分を介して抱合されていない化学治療物質(抗増殖物質)をステントに被覆して留置する局所投与の方法から遠ざけるような教示をするものであるとする原告の主張を採用することはできない。
なお,原告は,刊行物6に,その「直接投与」の方法として,タキソールが固定されたステントが狭窄部位に直接留置され,ステントからタキソールが溶出するよ, ,「, うな方法については 記載されていないとも主張するが抗複製剤で被覆された人体の管状器官の再狭窄を処置または予防するために使用されるステント」の構成は,第1引用発明が備えるところであり,かかる構成が刊行物6にも記載されていなければ,第1引用発明の抗複製剤(抗増殖薬)として,刊行物6に,血管形成術後の再発性狭窄の治療に有効な抗増殖薬として記載されたタキソールを採用することができないとはいえないから,上記主張も失当である。
キ原告は,甲第21〜第26号証,第37号証の1〜8,第38号証を引用して,本件優先権主張日当時,タキソールは,毒性を有する物質として当業者に知られているものであるとし,さらに,刊行物6には,タキソールは,刊行物6の発明の「化合物」から放出された場合にのみ作用する(すなわち,脂質親和性基に結合成分を介して抱合されているコンジュゲートとして,有害細胞に取り込まれ,その後に活性を生じ,有害細胞に直接作用する)化学治療物質の例として挙げられており,抱合していないタキソールの活性を維持したまま,ステントと組み合わせるようなことは,刊行物6の記載内容とは逆であるとして,刊行物6に記載されたタキソールを第1引用発明に適用することには阻害事由があると主張する。
しかしながら,まず,刊行物6が,脂質親和性基に結合成分を介して抱合されていない化学治療物質(抗増殖物質)をステントに被覆して留置する局所投与の方法を否定しているものと解されないことは,上記カのとおりである。
そこで,タキソールが毒性を有する物質として当業者に知られているとの主張につき検討するに,甲第24〜第26号証,第37号証の2〜6には,以下の記載が(,,, ,, ある 甲第21〜23号証 第37号証の1 第37号証の7 8 第38号証はいずれも刊行物であるが,本件優先権主張日前に頒布されたものと認めることができない。。)CANCER (ア)甲第37号証の2(1987年(昭和62年)5月発行の「RESEARCHPeter H. WiernikPhase I Clinical and 」47号所収のらによる「」と題する論文)Pharmacokinetic Study of Taxol「急性過敏性反応が前投薬および注入時間の延長前に頻繁かつ重度であった(訳文4行)。」Annals of Internal (イ)甲第37号証の3(1989年(平成元年)8月発行の「MedicineWilliam P. McGuireTaxol: A Unique」111巻4号所収のらによる「」Antineoplastic Agent with Signficant Activity in Advanced Ovarian Epithelial Neoplasmsと題する論文)「本試験において心モニタリングを有する患者は,再び無症候性徐脈を示した。患者2例は,一時的にタキソールに関係していると思われるさらに顕著な不整脈を発現した(訳文4〜5。」行)「タキソールの顕著な皮下溢血が2コース療法中に発生した。両方の場合に浸潤部位における腫脹,紅斑および軽度疼痛が認められ,これは5〜10日以内に消散し,潰瘍形成の証拠はなかった(訳文7〜9行) 。」Journal of Clinical (ウ)甲第37号証の4(1990年(平成2年)7月発行の「OncologyRaymond B. WeissHypersensitivity Reactions」8巻7号所収のらによる「」と題する論文)from Taxol「過敏性反応()は本剤の投与で観察された毒性の一つであった。治療した患者301例 HSR中32例がタキソールに対する明確な(27例)または可能性のある(5例)過敏性反応を有した。患者1例を除く全例が本剤への第1または第2の曝露からの反応を有した。反応は様々な用量で発生し,最も頻繁に呼吸困難,高血圧,気管支攣縮,蕁麻疹,および紅斑性発疹によって特徴づけられた。患者13例(41%)がかかる毒性を予防するように考えられた前投薬を受けていたが,同患者らはかかるを持続した(訳文3〜8行)HSR 。」Journal of the National (エ)甲第37号証の5 1990年 平成2年 8月発行の (()「Cancer Institute Eric k. RowinskyTaxol: A Novel 」 「 82巻15号所収の上記らによる」と題する論文)Investigational Antimicrotubule Agent「タキソールもしくはそのクレモフォール賦形剤が直接,徐脈性不整脈に関与しているかどう, , かは不明であるが クレモフォールで製剤化された他の薬剤は同様の不整脈と関係がないためタキソールは疑われている(訳文8〜10行) 。」「一部の患者はタキソール注入中に非定型胸部痛をも訴えた。これらの疼痛は実際に過敏性反応の兆候であるとみられる。しかし,検視で確認され,かつ不整脈が先行しなかった致命的心筋梗塞もアテローム性心血管疾患患者に投与されたタキソールの注入中に発生した・・・ 」 。
(訳文12〜15行)Journal of Clinical (オ)甲第24号証(1991年(平成3年)9月発行の「OncologyEric k. RowinskyCardiac Disturbances」第9巻第9号所収のらによる「」と題する論文)During the Administration of Taxol「無症候性の徐脈が患者の高い割合で発生しており,フェーズ?U研究でタキソールの最大限許容性を示した服用量で処置された卵巣がん患者の29%を含む。房室伝導ブロック,脚ブロック,心室性頻脈および虚血の徴候を含むより深刻な心臓障害が,タキソールを服用した140人の患者のうち7人(5%)に観察された(訳文1頁3〜7行) 。」(()「」 (カ)甲第25号証 1992年 平成4年 12月発行の Seminars in OncollogyEric k. RowinskyTaxol: The First of the Taxanes, an19巻6号所収の上記らによる「」と題する論文)Important New Class of Antitumor Agents「過敏性反応は,より短い挿入スケジュールで頻繁に起こるようであるため,その後の試験では時間挿入スケジュールを使用した。加えて,ヨウ素化された放射性造影剤に過敏な患者 24の過敏性反応のために有効な予防法であるステロイド及び及びヒスタミンアンタゴ H1-H2-ニストを含む予防的な前投薬が投与された(訳文1頁3〜7行) 。」「心臓のリズム障害も観察されているが,これらの影響の臨床意義は知られていない。その最も一般的な影響である一過性の無症候性の徐脈が,フェーズ試験で卵巣がん患者の%まII 29で観察された ・・・また,心臓ペースメーカーまたは外部心臓ペースの配置を要求し,第三 。
級ブロックで最高に達するより深刻なブロックが報告されている。加えて,致命的な心筋AV梗塞および異型の胸痛がタキソール挿入の間に起きている(訳文1頁9〜14行) 。」「これらの心臓リズム障害が試験の中で報告され,継続的な心臓の観察が行われた(訳文1。」頁16〜17行)「過敏性反応はタキソールのビヒクルによって起こるようであるが,タキソーCremophorELル自身が過敏性反応を引き起こすかどうかは知られていない。その半合成のタキサン類似体である()が,過敏性反応を誘発することも報告されており,そのポリソルベーTaxotere RP 56976ト剤形ビヒクルによって起こるということが推定されている(訳文2頁5〜9行) -80 。」(キ)甲第26号証(1993年(平成5年)6月発行の「」1 Clinical PharmacyR. Elizabeth GregoryPaclitaxel: A New Antineoplastic Agent for2巻所収のらによる「」。「」() ,Refractory Ovarian CancerPaclitaxel と題する論文 なおパクリタキセル はタキソールの一般名称)「早期の臨床試験の間,患者の84%が過敏性反応を示した。これらの反応を防ぐ特別の処置およびそれらの迅速な認識によって,ひどい反応の広がりを減少させたようである(訳文1。」頁6〜8行)「心臓の障害がタキソールの服用と関連付けられるということが報告されている。これらは,徐脈,左脚ブロックを伴うあるいは伴わない心室性頻脈,心筋梗塞,二連脈,三連脈,心室性期外収縮および胸痛を含んでいる(訳文1頁10〜12行) 。」Journal of Clinical (ク)甲第37号証の6(1993年(平成5年)6月発行の「OncologyVictoria SeewaldtBowel Complications with」11巻6号所収のらによる「」と題する論文) Taxol Therapy「腸せん孔の4例が多くの前治療を受けた卵巣癌患者におけるタキソール注入後に確認されている(訳文3〜4行) 。」上記各記載は,いずれもタキソールの投与に伴って,徐脈,頻脈又は不整脈等の心臓障害や,過敏性反応などの障害が生じた例があったことを報告するものであって,これらの報告の存在によれば,タキソールの性質として,その投与に伴い,そのような副作用を生じさせる毒性があることが,本件優先権主張日当時,当業者に周知であったことを認めることができる。
しかしながら,刊行物1および刊行物8(甲第8号証,乙第12号証)には,それぞれ下記記載がある。
(ケ)刊行物1「本発明の装具は少なくとも一種類の薬剤を含み,この薬剤は全身供与による過多もなく,制御された比率でその薬剤が必要な箇所へ供給される(2頁左下欄23〜25行) 。」「本発明に係る装具により薬剤を局所的に投与すると,血流中で検出可能になる下限域で病んだ箇所を治療し得るレベルに到達する。血管等の管状器官に対して効果的な局所治療を行なうのに必要な薬剤はごく少量であり,血液標本中からは検出できないほどである(4頁左下欄。」6〜10行)「生物吸収性のポリマーを通しての制御された遊離は,希望する治療箇所における処置の間の薬剤レベルを保つ(5頁右上欄,6〜7行) 。」(コ)刊行物8「薬剤を含有するステントの配設は,配設部位,及び/又は特定の身体部位又は器官に対して当該薬剤を送給することにより,当該薬剤の全身的作用,及び他の細胞に対する副作用や毒作用を最小化する(乙第12号証訳文12〜末行) 。」これらの記載は,必要量に制限された薬剤を含有したステント(上記(ケ)の各記載中の「装具」がステントを意味することは,例えば,決定の記載事項( )を参照eすれば,明らかである )を身体部位に配設することによる局所投与の方法を採用 。
することによって,全身投与の方法によった場合の薬剤の過剰投与を避けることができ,ひいて,当該薬剤による副作用や毒作用を最小化し得ること,及び薬剤を含浸させる生物吸収性ポリマーにより,ステントから血中に溶出する薬剤レベル(濃度)を制御し得ることを教示するものであり,しかも,刊行物1には,上記のとお, 「」 , り ステントに含有させる薬剤として 抗複製剤 が記載されているのであるから当業者が,刊行物1及び6の記載に基づいて,第1引用発明の「抗複製剤(抗増殖薬 」としてタキソールを選択しようとするときに,タキソールの性質としては, ), , その投与に伴い 上記副作用を生じさせる毒性があることを認識していたとしても必要量に制限されたタキソールを,ステントに被覆して身体の管状器官に留置する局所投与の方法を採り,かつ,生物吸収性ポリマーに含浸させて,血中に溶出する濃度を制御した場合でさえ,なおそのような副作用が生ずることを併せて認識していない限り,上記タキソールの毒性のゆえに,第1引用発明の「抗複製剤(抗増殖薬 」としてタキソールを選択することが,妨げられることはないものというべき )である。しかるに,甲第24〜第26号証,第37号証の2〜6の上記各記載中には,ステントを用いた局所投与の方法によった場合に副作用が生じた旨の記載はなく,他に,本件優先権主張日当時,当業者がかかる認識を抱くものと認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件優先権主張日当時,タキソールが毒性を有する物質として当業者に知られていたから,刊行物6に記載されたタキソールを第1引用発明に適用することには阻害事由があるとする原告の主張を採用することはできない。
( )「刊行物8に基づく容易想到性判断の誤り」との主張について5原告は,決定の刊行物8に関する判断は,刊行物8に,ステントに抗癌剤を被覆することが開示されており,タキソールは抗癌剤として知られているから,ステントにタキソールを被覆することも,第1引用発明から当業者が容易に想到することであるとの趣旨と解されるところ,刊行物8は,単に抗癌剤という広いカテゴリーを記載しているだけであって,具体的にタキソールを抗癌剤として例示または示唆しているわけではなく,仮に,タキソールが抗癌剤に含まれ得るとしても,本件発明1,16で問題とされるような再狭窄の治療や予防とは全く関係がないから,刊行物8の記載を根拠として,当業者がステントに被覆する薬剤としてタキソールを選択することは容易に想到し得るとした決定の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物8に記載された抗癌剤を被覆したステントに言及するまでもなく,第1引用発明の「抗複製剤(抗増殖薬 」としてタキソールを選択するこ )とが容易であると判断されることは,上記のとおりであるから,原告の上記主張の当否は,決定の結論に影響を及ぼさない。
( )「組合せの動機付けの不存在」との主張について6原告は,刊行物1に挙げられている多数の候補薬剤の中からタキソールを選択することは,母集団の大きさゆえに容易であるとはいえず,また,本件優先権主張日当時,毒性を有するタキソールは,重大な副作用を生じさせる問題を有するとされていたから,当業者は,身体経路の再狭窄の予防及び処置のために,タキソールを薬剤溶出ステントに適用するという技術思想には至らなかったと主張するが,この主張に理由がないことは,上記( )のオのとおりである。
4( )以上のとおりであるから,本件発明1の相違点1に係る構成は,引用刊行物 7記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たとする決定の認定判断に,決定の結論に影響を及ぼすべき誤りはない。
2取消事由2(特別顕著な作用効果の看過)について原告は,本件明細書の実施例2のヒヨコ漿尿膜(CAM)アッセイにおいて,タキソールが,強力で長期にわたる抗血管形成性を有すること,タキソールが,生体を死滅させる毒性をもたずに生体内で抗血管形成性を有することが示され,実施例16,17で,タキソールが血管形成依存性疾患である腫瘍の成長を阻害することがインビボ(生体内)での実験により実証されていると主張する。
しかしながら,本件明細書には,タキソールで被覆されたステントによる,血管形成術後の再狭窄防止効果を実証する実施例(試験結果)の記載がなく,上記各実施例(実験)があるのみでは,本件発明(タキソールによって被覆されているステント)が,血管形成術後の再狭窄を防止する上で,顕著な効果を奏することが実証されたとすることはできない。
すなわち,本件優先権主張日当時,血管形成術後の再閉塞及び再狭窄が血管形成依存性疾患であることが,一般に知られていなかったことは,原告の自認するとこ,,, , ろであり そうであれば 本件明細書において タキソールが強力で長期にわたりかつ,生体を死滅させる毒性をもたずに生体内で抗血管形成性を有することが実証されたとしても,血管形成術後の再閉塞及び再狭窄が血管形成依存性疾患であることが実証されていない以上,タキソールで被覆されたステントによる,血管形成術後の再狭窄防止の効果が実証されたとはいえないからである。
また,原告は,冠状動脈狭窄の治療に係る臨床試験(甲第13,第27号証,甲第43号証の1〜18)において,本件発明が,従来型のステントに比べて,予想外の顕著な効果を示していると主張するが,上記各臨床試験の結果は,本件明細書に記載されたものではなく,かつ,本件優先権主張日当時の知見でもない。
,, 。 したがって 本件発明が 顕著な作用効果を奏するとの原告の主張は失当である3結論以上によれば,原告の主張は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記