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関連審決 審判1997-14410
関連ワード 公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  実施 /  構成要件 /  既判力 /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  要旨変更 /  不服申立 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 278号 審決取消請求事件
原告 株式会社エポック社
訴訟代理人弁護士 内田実,椙山敬士,堀井敬一,石新智規
同 弁理士 羽村行弘
被告 株式会社バンダイ
訴訟代理人弁護士 柳瀬康治
同 弁理士 高田修治,山田益男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成9年審判第14410号事件について平成13年5月9日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,本件特許権を有する原告が,被告から無効審判を請求され,無効審判請求不成立の審決(第一次審決)を受けたが,被告が提訴した東京高裁における審決取消訴訟の判決(第一次判決)で同審決が取り消されたことにより,特許庁で再度審理が行われ,その結果,本件特許を無効とする審決(「本件審決」又は単に「審決」という。)がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
なお,以上のほか,本件特許権については,本件被告が,本件原告を被請求人として,手続補正書の補正が要旨変更に当たることを理由に,無効審判を請求し,審判請求不成立の審決があり,この審決の取消しを求めて訴訟が提起されたが,平成9年10月9日,請求棄却の判決がされた経緯がある〈甲13,14〉。
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,名称を「カードゲーム玩具」とする特許第1961761号の発明(平成元年12月22日出願,平成7年8月25日設定登録。その請求項1に係る発明を「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成9年8月26日,原告を被請求人として本件特許について無効審判を請求した。特許庁は,これ(平成9年審判第14410号事件)を審理し,平成10年7月9日,「本件審判の請求は成り立たない」との審決をした〈甲15〉。
ところが,第一次審決は,被告が提起した審決取消訴訟(東京高裁平成10年(行ケ)第255号事件)において,平成11年11月16日言渡しの判決〈甲17〉で取り消され,その後,同判決は確定した。
特許庁は,上記審判事件について,さらに審理した上,平成13年5月9日,特許を無効とするとの審決をし,平成13年5月22日,原告にその謄本を送達した。 2 特許請求の範囲(便宜のため符号AないしGを付加) (請求項1) 必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段(A)と,該読取手段で読取った対戦データを記憶する記憶手段(B)と,該記憶手段で記憶された対戦データのうち,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段(C)と,前記データに従ってカードを対戦させるときに攻撃側が押す攻撃キー(D)と,該攻撃キーを押したときに守備側カードのダメージを計算する計算手段(E)と,該計算手段で計算されたダメージと守備側カードのデータとで計算し生存を判定する生存判定手段(F)と,該生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段(G)とを備えたことを特徴とするカードゲーム玩具。
(請求項2の記載は省略) 3 本件審決の理由の要旨 本件審決は,別紙審決書写しのとおり,本件発明は,検乙1の電子ゲーム機(「ウルトラマン倶楽部LSIシミュレーションウルトラ大決戦」,審判検甲1。
以下「検証物ゲーム機」)と検乙2の電子ゲーム機(「LSIGAMEカードベースボール熱血スタジアム」。審判検甲2)により,本件出願前に国内において公然実施された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,無効とすべきものである,とした。
原告の主張
1 審決の理由の認否 「1.手続の経緯」,「2.本件請求項1に係る発明」,「3.請求人の主張」,「4.被請求人の反論」(ただし,原告の進歩性の主張はそれに尽きるものではない。)及び「5.証拠関係」は認める。
「6.当審の判断」の「(1)検甲1(本訴検乙1)」のうち,前文及び1)は認める。2)の第1文「該読取手段で読み取った対戦データである,移動力,攻撃力,パワーが判定スクリーンに表示される。」のうち,移動力,攻撃力,パワーが判定スクリーンに表示されることは認めるが,それらが該読取手段で読み取った対戦データであることは否認する。同第2文は認める。3)ないし6)はいずれも認める。7)の第1文「該生存判定手段による判定結果を勝敗表示手段により表示する。」は否認する。
「6.当審の判断」の「(2)本件発明と検甲1(本訴検乙1)」のうち,相違点1ないし4については認める(ただし,後述のとおり,相違点はこれらに限定されない。)。一致点については否認ないし争う。
「6.当審の判断」の「(3)相違点についての判断」のうち,東京高裁が「1)相違点1についての判断」及び「2)相違点2についての判断」と同内容の判示をしたことは認め,「3)相違点3及び4についての判断」及び「4)上申書における被請求人(原告)の主張について」についての判断は否認ないし争う。
「7.むすび」は争う。
2 第一次判決の判断内容とその拘束力の範囲等 (1) 第一次審決(無効審判請求不成立) 第一次審決は,本件発明と検証物ゲーム機との相違点として,次の相違点@ないしDを挙げた上,相違点CDについては想到容易であるが,相違点@ないしBについては想到容易ではないとして,無効審判請求を不成立とした。
@ データをコード表示した表示媒体について,本件発明では表示形態をバーコードにしたカードであるのに対し,検証物ゲーム機では表示形態をピンコードとした駒状のユニットである点。
A 読取手段で読み取った対戦データについて,本件発明では記憶手段で対戦のため記憶するのに対して,検証物ゲーム機では対戦のために記憶していない点。
B 先攻指示手段について,本件発明ではゲーム機自体が先攻を判定して指示するのに対し,検証物ゲーム機ではあらかじめ決められている先攻をゲーム機が単に表示して指示する点。
C 計算手段について,本件発明では守備側のみのダメージ計算をするものであるのに対して,検証物ゲーム機では攻守双方のダメージ計算の場合と守備側のみのダメージ計算の場合とを兼用できる点。
D 生存判定手段について,本件発明では守備側のみの生存を判定するのに対して,検証物ゲーム機では攻守双方の生存を判定する点。
(2) 第一次判決(無効審判請求不成立とした審決を取り消し) 被告は,無効審判請求を不成立とした第一次審決に対し,東京高裁に審決取消訴訟を提起した。第一次判決の審理の対象は,被告が無効審判手続で主張して排斥された,相違点@ないしBについて,想到容易性を否定した第一次審決の判断に誤りがあるか否かであった。
第一次審決において被告に有利に判断された事項,すなわち,(ア)本件発明と検証物ゲーム機の一致点と認定された点,(イ)相違点として取り上げられなかった点,及び,(ウ)相違点CDについて想到容易とされた点については,第一次訴訟において審決に対する不服申立ての事由とはされていない(審決取消訴訟の構造上不服申立ての事由とする余地がない)から,第一次判決は当然のことながらこれらの事項については判断しておらず,したがって,第一次判決の拘束力も,第一次訴訟において審理判断されていない上記(ア)ないし(ウ)の事項及びそれら全体の組合せに基づく進歩性の有無には,及ばないと解すべきである。
(3) 審決は,以下の3ないし6に詳述するとおり,本件発明と本件出願前に公然実施された検証物ゲーム機との相違点を看過し(取消事由1,2),本件発明の「バーコード」についての認定判断を誤り(取消事由3),本件発明と検証物ゲーム機との対比における進歩性についての総合的判断を誤った(取消事由4)から,違法として取り消されるべきである。
3 生存判定手段と連動した勝敗表示手段についての相違点の看過(取消事由1) (1) 審決は,本件発明と検証物ゲーム機とが「計算手段で計算されたダメージとダメージを受ける側の表示媒体のデータとで計算し生存を判定する生存判定手段と,該生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段とを備えた」(審決書6頁33行〜35行)点で一致すると認定したが,誤りである。
(2) 検証物ゲーム機の生き残りゲームは,20個の駒を対戦させて,駒が全部撃破された方を負けとする団体戦であり,検証物ゲーム機は,そもそも,この勝敗を表示する勝敗表示手段を持たない。また,生き残りゲームの個々の対戦においては,一方が死亡した場合,他方を勝者として表示し,対戦によって双方が生存している場合には,ダメージの少ない方を勝者として表示し,双方が死亡した場合には,勝敗を表示しない。これでは,生存判定結果による勝敗表示をしているとはいえない。
したがって,審決の上記認定は誤りであり,この点は,本件発明と検証物ゲーム機との相違点となるものである。そして,本件発明は,この相違点に係る構成を備えることにより,「カードとカードとの攻撃防御の判定がテンポよく,迅速,的確に出されるために,対戦に緊迫感があり,しかも戦術性や判定の公平性があるなどの優れた効果」〈甲2の7欄12行〜15行〉を奏するのである。
(3) 被告は,この点について,第一次判決の拘束力を主張する。しかし,上記2に述べたとおり,第一次判決の拘束力は,第一次審決において請求人(第一次訴訟の原告・本訴被告)に不利益に判断されたために不服申立ての対象とされ,第一次判決が判断した相違点@ないしBに関する部分についてのみ生じているものである。そして,生存判定手段と連動した勝敗表示手段を備えるか否かという点については,第一次判決で判断されていない(第一次審決で想到容易と判断されたため,無効審判請求人・本訴被告からの不服申立てがされなかった。)から,拘束力の範囲外であり,原告は,本訴において主張することが許される。
4 攻撃キーについての相違点の看過(取消事由2) (1) 本件審決は,本件発明と検証物ゲーム機とが「攻撃側が押す攻撃キー」を備える点で一致すると認定したが,誤りである。
本件発明では,攻撃側と守備側が明確に分かれており,攻撃キーを操作している者のみが攻撃することができ,攻撃キーを操作している者が攻撃を受ける(ダメージを受ける)ことはない。
これに対し,検証物ゲーム機では,ターンのある攻撃側が「移動/攻撃/ターンボタン」を押すと,守備側は,何ら自らの攻撃意思をゲーム機に伝達しないのに自動的に攻撃を始める。すなわち,検証物ゲーム機には,「攻撃側の押す戦闘開始キー」があるだけで,「攻撃側が押す攻撃キー」は存在しない。
戦闘型のゲームにおいて,プレーヤーが攻撃意思をキー操作によりゲーム機に伝達することができるか否かは,そのゲームの趣向・構成を大きく左右するものである。
そして,検証物ゲーム機が有している「移動/攻撃/ターンボタン」が単なる「攻撃側の押す戦闘開始キー」である以上,検証物ゲーム機を先行技術として本件発明の進歩性を否定することはできない。
原告は,本件審判手続において,「攻撃キー」を相違点であると主張したが,本件審決は,「攻撃キー」を一致点と認定し,これを前提として本件発明の進歩性を判断したものであって,その認定判断は誤りであり,取消しを免れない。
(2) なお,本件審決は,「相違点3(判決注:第一次審決の相違点C)及び4(判決注:同相違点D)についての判断」(計算手段,生存判定手段)の中で,「「生き残りゲーム(2人用)」では基本ユニットのみを用い,母船ユニットは用いないのであるが,母船ユニットをセットして砲撃キーを押せば,守備側のみのダメージが計算されて勝敗が表示されることが示されている」(審決書9頁下から3行ないし10頁2行)と認定している。しかし,砲撃キーは,マップとユニット及び「LSI判定器」を用いて敵の基地ユニットを撃破するゲーム(盤上ゲーム)においてのみ使用され,生き残りゲームではそもそも使用されないし,母船ユニットも生き残りゲームで用いられない駒なので,攻撃側のみが攻撃するという場合は発生しない。
したがって,母船ユニットと砲撃キーの存在を理由として検証物ゲーム機に「攻撃キー」があるということはできない。
(3) 攻撃キーについても,第一次判決において判断されていないから,拘束力は及ばない。
5 バーコードについての認定判断の誤り(取消事由3) (1) バーコードの意義 情報システム監査用語辞典104頁(発行日1987年(昭和62年)4月15日)〈甲3〉,通信用語辞典127頁(発行日昭和63年3月25日)〈甲4〉,国語大辞典言泉1824頁(発行日昭和61年12月20日)〈甲5〉,日本語大辞典1527頁(発行日1989年(平成元年)12月1日)〈甲6〉,学研国語大辞典第2版1530頁(発行日昭和63年2月10日)〈甲7〉,及び新選国語辞典896頁(発行日昭和62年1月20日)〈甲8〉によれば,本件出願当時「バーコード」という用語の普通の意味には,一般の商品に付されたバーコードが当然含まれている。本件発明に接する当業者にとって「バーコード」が一般の商品に付されているバーコードを含むことは自明である。
(2) ゲームの拡張性 検証物ゲーム機では,駒のパワー,攻撃力などの対戦データは,ゲーム機内のROMに記憶されているものであるから,記憶されていないデータを引き出すことは不可能である。これに対し,本件発明では,バーコード表示を対戦データとするから,バーコード表示であれば,あらゆるデータのカードを作成し,対戦させることが可能となる。本件審決は,バーコードを使用する本件発明のこの拡張性について正当な評価をしておらず,本件発明の進歩性の判断を誤るものであるから,取消しを免れない。
なお,「バーコード」については,第一次審決において「被請求人(本件原告)は,本来ゲームと関係ないものに用いられる一般名称としてのバーコードという言葉を用いていると言うが,そのように受け取れる記載は本件明細書のどこにもない。‥‥本件発明のバーコードは,対戦に必要なデータを攻守双方に予め意味付けて先ず用意し,それにより特定されたものであって,それ以外の態様を含むものではない。」〈甲15の12頁3行〜13頁8行〉と,請求人(第一次訴訟原告=本件訴訟被告)に有利な判断がされ,独立した相違点として採りあげられなかった。
したがって,「バーコード」の意義及びそれに伴うゲームの拡張性については,第一次判決の拘束力は及ばない。
6 多数相違点による進歩性についての総合的判断の欠落(取消事由4) (1) 本件発明と検証物ゲーム機には,第一次判決で進歩性を否定された相違点を含め,多数の相違点が存在し,それら相違点の総和が両者の顕著な差異をもたらしている。本件審決は,それらの相違点について総和的な判断をしていないから,違法である。
すなわち,検証物ゲーム機と本件発明では,(ア)相違点@ないしD(相違点@ないしBは,第一次判決では,個々に判断がなされたが,相違点の総和の判断に際しては考慮されるべきである。),(イ)検証物ゲーム機では駒が双方対戦する団体戦であるのに対し,本件発明では個々のバーコードのデータそのものを主体とする個人戦であるという相違点,(ウ)検証物ゲーム機では一つの駒の生存判定結果と対戦の勝敗が直接関連しないのに対し,本件発明では生存判定がそのまま対戦の勝敗結果となるという相違点,(エ)検証物ゲーム機ではターンのある攻撃ボタンを押すと,守備側は何ら攻撃意思を伝達しないのに自動的に守備側も攻撃側に対し攻撃するのに対し,本件発明では攻撃キーを操作した者のみが攻撃することができるという相違点,(オ)検証物ゲーム機では対戦データはゲーム内のROMに予め記憶されているので,それ以外の駒をゲームに付け加えることができないのに対し,本件発明では広くバーコードを使えるので拡張性があるという相違点,(カ)検証物ゲーム機では予め意味づけられたデータを使うだけであるが,本件発明ではバーコードであれば一般の商品に付されたバーコードでも対戦ができるという相違点,が存在する。このような多数の相違点の総和により,本件発明は検証物ゲーム機と著しく異なるゲーム機として構成されているのであるから,全体として検証物ゲーム機から本件発明を想到することが容易でないことは明らかである。
(2) 上記(1)の点についても,第一次判決は判断していないから,拘束力は及ばない。
被告の反論
1 第一次判決の拘束力等に関する原告の主張に対する被告の反論 原告は,第一次判決の拘束力は,第一次審決のうち,同訴訟の原告(本件被告)に不利益に判断された本件発明と検証物ゲーム機との相違点@ないしBに関する部分にのみ及び,その余には及ばない,と主張する。しかしながら,原告の上記主張は原告の独自の見解であり,第一次判決の拘束力は,同判決において認定判断された事項のすべてに及ぶものである。
第一次判決では,「理由1 争いのない部分」において,「本件発明と検甲1(判決注:本件検乙1,すなわち検証物ゲーム機)との対比(‥‥)のうち,相違点2の認定(‥‥)及び「相違点2の整理について」(‥‥)を除く事実は,当事者間に争いがない。」〈甲17の21頁5〜8行〉,そして,「相違点についての判断(‥‥)のうち,相違点C及びDについての判断(‥‥)も,当事者間に争いがない。」〈同頁9〜11行〉と明確に認定しており,この認定は,本件審判に拘束力を有するものである。
第一次判決では,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づいて本件発明が認定され,当事者間に争いがある事項と争いがない事項が整理された上で,その争点について審理され,本件発明の進歩性が否定されたものであるから,本件審決は,第一次判決の拘束力に従った判断をしたまでのことであり,違法はない。
念のため,原告が主張する取消事由に対して個々に反論する。
2 生存判定手段と連動した勝敗表示手段についての相違点の看過(取消事由1) に対して 原告は,「検証物ゲーム機の生き残りゲームは団体戦であり,勝敗表示手段を持たない。」と主張するが,検証物ゲーム機による生き残りゲームでは,戦闘において対戦する基本ユニットはダメージを受けるとその分パワーが減り,パワーがゼロとなるとそのユニットは撃破となる。その場合,撃破された側のキャラクタが表示画面(判定スクリーン)から消え,点滅する後光のみが残る。これは,結局のところ,一方のユニットが撃破され死亡したので,負けが表示されたということであり,検証物ゲーム機のこの機能は,生存判定手段と連動した勝敗表示手段にほかならない。
3 攻撃キーについての相違点の看過(取消事由2)に対して (1) 原告は,「検証物ゲーム機は攻撃側の押す戦闘開始キーを有するが,攻撃側が押す攻撃キーは存在しない。」と主張するが,失当である。
検証物ゲーム機のゲームが,一方が攻撃側となり他方が守備側となって戦うもの(交互対戦型ゲーム)ではなく,対戦者が同時に相手方を攻撃し合うもの(同時対戦型ゲーム)であることは,本訴以前の段階で,当事者間で争いのない事実としてきた事柄である。そして,第一次判決では,交互対戦型ゲームも同時対戦型ゲームも,共に周知のゲーム形態であることを前提に,「検甲1の構成に代えて,先攻判定手段を設けることは,当業者が適宜に選択すべき設計変更にすぎないものと認められる。」〈甲17の29頁〉と判断していることから明かなように,本件特許出願時点において,両タイプのゲームは周知であったことの認定がされている。
そうだとすれば,本件発明が交互対戦型ゲームであるにせよ,請求項1には「攻撃側が押す攻撃キー」とあるだけであるから,守備側も兼ねているとしても攻撃する側である点で何ら変わりのない一方が攻撃のために押す(ATTACK)キー(検甲1の「移動/攻撃/ターンボタン」)は,当該構成要件を満たしているというべきである。なお,このことは,母船ユニットや砲撃キーを持ち出すまでもなく,生き残りゲームの範囲内で立証できる事柄である。
(2) 原告は,本件発明と検証物ゲーム機とが交互対戦型ゲームと同時対戦型ゲームであることに基づく差異を主張したいようであるが,この議論については,既に第一次判決で,両タイプのゲーム機が周知であることを前提としていずれを選択するかは設計事項である旨判示されている〈甲17の28,29頁〉。したがって,それぞれのゲーム機に付随する機能に差異があっても,それは当業者には自明であり,その選択は設計事項の範疇にすぎない。
4 バーコードについての認定判断の誤り(取消事由3)に対して 第一次判決が「本件発明は一般の商品にも付されているバーコードを主体として戦い得るようゲーム機を構成しているとの点については,前記説示のとおり,本件明細書に記載がなく,本件明細書に接する当業者に自明の効果とも認められない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。」〈甲17の27頁〉と判示したとおり,本件発明の「必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段と,該読取手段で読み取った対戦データを記憶する記憶手段」との構成は,バーコードであればあらゆるデータのものが利用でき,そのようなカードを作ることで無限に対戦相手を創出することができる機能を保証するものではない。
しかるに,一般の商品に付けられているバーコードは,製造国,製造者,商品を特定する情報などが表示されているものであって,本来的に対戦データを含むものではない。そのような一般の商品に付けられているバーコードが対戦データとして読み替えられる拡張性を持たせるためには,ゲーム機に前述したようなバーコードの判読機能が備わっていなければならないところ,本件明細書にはそのようなバーコードの判読機能を備える点についての記載はもちろん,それを示唆する記載すらない。
したがって,審決が「一般の商品に付されたバーコードを主体として戦い得るようゲーム機を構成することは明細書に記載がなく自明でもない」旨の判断をした点に誤りはない。
以上のとおり,第一次判決を受けてこれと同旨の判断をした審決に違法はなく,取消事由3は理由がない。
5 多数相違点による進歩性についての総合的判断の欠落(取消事由4)に対して 原告は,審決が多数の相違点について総和的な判断をしていないと主張するが,どの構成要素とどの構成要素の総合によってどのような格別の効果を奏しているのか具体的指摘がない。このような主張は,審判でも取り上げようもなく,採用しなかった点に違法はない。
当裁判所の判断
1 第一次判決の拘束力について 本件は,本件特許の無効審判請求についてされた二度目の審決に対する審決取消訴訟であり,第一次審決を取り消した第一次判決の拘束力の範囲が争点となっているので,まず,この点について検討する。
(1) 本訴に至るまでの経緯 ア 第一次審決の認定判断 第一次審決〈甲15〉は,本件発明と検証物ゲーム機との一致点及び相違点を次のとおり認定し,相違点@ないしDのうち,相違点CDは想到容易であるが,相違点@ないしBは想到容易ではないと判断し,無効審判請求を不成立とした(対応する本件発明の構成要件の符号A〜Gを付記)。
〔一致点〕 「必要なデータをコード表示した表示媒体のコード読取手段(A)と,該読取手段で読み取った対戦データのうち,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻指示手段(C)と,前記データに従って表示媒体を対戦させるときに攻撃側が押す攻撃キー(D)と,該攻撃キーを押したときにダメージを受ける側の表示媒体のダメージを計算する計算手段(E)と,該計算手段で計算されたダメージとダメージを受ける側の表示媒体のデータとで計算し生存を判定する生存判定手段(F)と,該生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段(G)とを備えたことを特徴とする表示媒体ゲーム玩具。」〔相違点〕 @ データをコード表示した表示媒体について,本件発明では表示形態をバーコードとしたカードであるのに対し,検証物ゲーム機では表示コードをピンコードとした駒状のユニットである点(A)。
A 読取手段で読み取った対戦データについて,本件発明では記憶手段で対戦のために記憶するのに対して,検証物ゲーム機では対戦のために記憶していない点(B)。
B 先攻指示手段について,本件発明ではゲーム玩具自体が先攻を判定して指示するのに対して,検証物ゲーム機ではあらかじめ決められている先攻をゲーム機が単に表示して指示する点(C)。
C 計算手段について,本件発明では守備側のみのダメージ計算をするものであるのに対して,検証物ゲーム機では攻守双方のダメージ計算の場合と守備側のみのダメージ計算の場合とを兼用できるものである点(E)。
D 生存判定手段について,本件発明では守備側のみの生存を判定するのに対して,検証物ゲーム機では攻守双方の生存を判定する点(F)。
である。
イ 第一次判決の認定判断 第一次判決は,第一次審決がした本件発明と検証物ゲーム機との対比及び相違点についての判断に対し,第一次訴訟原告(本訴被告)がした認否を次のとおり整理した。
「(2) 審決の理由Y(当審の判断)のうち,1(検甲1(判決注:本訴検甲1又は本訴検乙1)。審決書5頁12行ないし7頁16行)は認める。
同2(本件発明と検甲1との対比。審決書7頁18行ないし17頁16行)のうち,相違点Aの認定(審決書9頁3行ないし5行),及び「相違点Aの整理について」(審決書13頁10行ないし14頁6行)は争い,その余は認める。
同3(相違点についての判断。審決書17頁18行ないし22頁11行)のうち,(4)(相違点C及びDについて。審決書21頁末行ないし22頁11行)は認め,その余は争う。」 そのうえで,第一次判決は,判決の「理由」欄の「1 争いのない部分」において,第一次訴訟原告(本訴被告)において争うとした上記以外の事項は当事者間に争いがない旨摘示し,同原告(本訴被告)の主張する取消事由1(相違点A,C及びDについて当事者に意見を述べる機会を与えなかった手続上の違法),取消事由2(相違点Aの認定の誤り),取消事由3(相違点@についての判断の誤り)及び取消事由4(相違点Bについての判断の誤り)のうち,取消事由2ないし4を取り上げ,取消事由2ないし4はいずれも理由があるとして,第一次審決を取り消したものである。
取消事由2ないし4についての第一次判決の判断の骨子は,第一次審決における相違点についての認定判断のうち,(1)相違点Aは相違点であるとは認められないから,これを相違点とした認定は誤りである,(2)相違点@及びBに係る構成は想到容易であるから,これを想到容易ではないとした判断は誤りである,というものである。
ウ 本件審決 本件審決は,第一次審決の認定した一致点に加えて,「読取手段で読み取った対戦データを記憶する手段」(第一次審決で相違点Aとされたが,第一次判決により相違点ではないとされた。)を一致点と認定した。
加えて,本件審決は,第一次審決で相違点とされた前記@,B,C及びDの点を相違点1ないし4として認定した上,相違点1(第一次審決の相違点A)及び相違点2(同相違点B)については,第一次判決の判示をそのまま踏襲して,当業者が容易になし得た設計変更ないし適宜選択すべき設計変更にすぎないと判断した。
そのうえで,本件審決は,相違点3(同相違点C)及び相違点4(同相違点D)について,次のとおり判断した。
「 相違点3及び4についての判断 検甲1(判決注:本訴検乙1)の遊び方の内,「生き残りゲーム(2人用)」では,基本ユニットのみを用い,母船ユニットは用いないのであるが,母船ユニットをセットして砲撃キーを押せば,守備側のみのダメージが計算されて勝敗が表示されることが示されていることから,攻守双方のダメージを計算することに替えて,守備側のみのダメージを計算してその生存判定結果を勝敗表示するようになすことは,当業者ならば容易に想到できたことと認められる。
よって,上記相違点3及び4は当業者が容易に想到できた設計の変更である(前示10行ケ255号判決(判決注:第一次判決)の21頁10〜11行によれば,この判断について当事者間に争いはない。)。」 本件審決は,以上の判断に基づき,本件発明は,検乙1等(審判検甲1,2,検証物ゲーム機)により公然実施されていた発明から想到容易であるとして,本件特許を無効とした。
(2) 第一次判決の効力の及ぶべき範囲について ア 上記(1)の経緯から明らかなように,第一次訴訟において審理判断された事項は,第一次審決の相違点@ないしB(当該原告(本訴被告)が主張した取消事由2ないし4)についての認定判断に誤りがあるか否かであり,第一次判決は,相違点Aについてこれを相違点であると認定したことの誤り,及び,相違点@及びBについてこれに進歩性があると判断したことの誤りを理由として,第一次審決を取り消したものであり,その余の事項は,当事者からその旨の主張がなかったことにより,判断していない。
なお,第一次判決は,第一次審決について,相違点CDについての判断は当事者間に争いがないと説示しているが,これは「当事者間に争いがない」とした部分の内容的な不可抗争性や正当性についてまで立ち入って判断して説示したものではなく,当該原告(本訴被告)が審決で進歩性なしとの自己に有利な判断を受けていることから,審決取消事由としては主張しておらず,他方,当該被告(本訴原告)も審決で進歩性なしとの自己に不利な判断を受けてはいるものの,当該原告(本訴被告)の主張する相違点@ないしBに関する審決取消事由の存在を争うことに終始し,相違点CDについては,進歩性ありとの主張をしなかったため,裁判所としては,結局,判断を要しない事項であるとして,その趣旨を念のために説示したにすぎないと理解すべきものである。
イ しかしながら,そうであるからといって,審決を取り消した判決の拘束力は,当該審決取消訴訟で実際に主張されて審理判断された事項に常に限定されるものではなく,むしろ,基本的には,当該判決が審理の対象とする審判手続及び審決で審理判断された事項のすべてに及ぶものとするのが審決取消訴訟の判決の最も望ましい理念型であるということができる。もっとも,このような見解を採用するとしても,当事者が審決取消訴訟で当該事項を主張しなかったことにつき相当な理由があったり,あるいは,当該事項を主張することにつき障害事由や困難な事情等があったりしたなどの特段の事情があり,審決取消訴訟で現実に審理判断がされなかった場合には,当該事項には判決の拘束力は及ばないものとするのが相当であろう。以下,この問題について検討する(なお,以下の検討においては,主張立証責任の帰属の問題には踏み込んでいない。)。 本件の事案に即して考えると,無効審判の請求人が審判手続においていくつかの無効事由(特許権者である被請求人によって相違点とされる点が相違点とは認められないこと,相違点があったとしても進歩性はないことなど)を主張し,これに対し,被請求人はいくつかの相違点の存在とその点についての進歩性を主張したとしよう。そして,審決では,「相違点@ないしBについては,進歩性が認められるので,無効事由とはならない。相違点CDについては,相違点であるとは認められない(又は相違点ではあるものの進歩性は認められない。)。」として,請求人の無効審判請求を排斥したとする。無効審判の請求人が当該審決の取消しを求めて提訴した場合には,原告として,相違点@ないしBについて進歩性がないことを主張することはあっても,審決が相違点CDについてした判断については,被告を含めて何ら主張立証する機会がないかのように考えられないでもない。
しかしながら,審判手続においては,相違点CDについて,請求人は,相違点であるとは認められない,仮に相違点であるとしてもその点について進歩性がないと主張することができ,これに対し,被請求人は,相違点CDについて,その双方又は一方について,相違点であり,かつ,進歩性があるものと主張立証することができる。そうすると,審決の結論及び審判手続の当事者双方の主張の当否が審理判断の対象となっている審決取消訴訟においても,当事者双方がこれと同じように主張立証の機会が与えられ,判決も審決がしたと同じ範囲で審理判断をすることが可能でなければならない。すなわち,審決取消訴訟においては,原告が審決取消訴訟で取消事由として主張した相違点@ないしBについての進歩性不存在のみが審理対象となるのではなく,これに応訴した被告は,相違点CDについて,原告が何ら言及していなくとも,その必要があると考えたときは,進歩性があることを主張立証し,進歩性があるとの立証に成功すれば,仮に相違点@ないしBについて進歩性がないものと認定判断されたとしても,無効審判請求不成立の審決の結論は維持され,請求棄却の勝訴判決を得ることができるのである。
そうであるとすれば,当該被告とすれば,本件のように第二次審決取消訴訟をまたなくとも,第一次審決取消訴訟において,相違点CDについて進歩性の存在を主張立証していれば,その目的を達成し得たはずであり,しかも,できるかぎり一回の審決とその取消訴訟において決着すべきであることは審決取消訴訟の指導理念の一つであることはいうまでもないところであるから,審決取消訴訟の被告としては,そのような訴訟活動をすることが法制度設計上要請されているものということもできなくはない。そのように考えれば,特段の事情がない限り,判決の拘束力は,現実に審理判断された事項に限られず,審判手続及び審決で審理判断された事項のすべてについて及ぶものと解すべきことになり,本件についていえば,本訴原告が,第一次訴訟において,当該訴訟の被告として,第一次審決の相違点CDについて,これに進歩性があるとの主張立証をしなかったことにつき相当な理由,格別の障害や困難があったと認められるのでなければ,第一次訴訟において,これを主張立証することが要請されていたものとされ,本訴に至って,これを主張することは,第一次判決の拘束力に反するものとして許されないことになる筋合いである。
しかしながら,原告が弁論終結後に提出した準備書面(平成16年10月14日付けの準備書面)で指摘している点を踏まえて,審決取消訴訟の従来の運営の実際を顧みると,裁判所は,多くの場合,原告の主張する審決取消事由の存否のみについて審理判断すれば足りるものとし,被告に対し,いわば抗弁として,審決が相違点であることを否定したり又は相違点であるとしても進歩性を否定したりした事項について,これを覆すための主張立証の機会を与えないできたのであり,例外的に,被告に対し,抗弁的な主張立証をするよう釈明権を行使しても,被告がその趣旨を容易には理解しないことも決して希有ではなかったことなどを考慮すると,本件について,直ちに上述した見解を採用し,これをもってに臨むことには,いささか躊躇せざるを得ないものがある。
そもそも,判決の既判力や拘束力といった効力がどの範囲に及ぶかという問題は,訴訟制度の目的から純粋理論的に演繹的に導出するという問題にとどまるのではなく,訴訟の実際の運営において一般的にどこまで審理判断しているのかという実情に即して,現実に審理判断した範囲のほか,これと同視するのが相当である範囲はどこまでかを相対的・帰納的に導出する政策的な問題を多分に含むものである。上述したように,現在の審決取消訴訟の運営の実情をみると,通常,原告の主張する審決取消事由の存否のみを審理判断の対象として,主張整理及び証拠調べが行われているのであって,原告主張の審決取消事由が認められることに備えて,被告に対し,審決で当該特許を無効とする方向の判断をした点(相違点ではないとした点,相違点ではあるものの進歩性がないとした点)について,これを覆すような抗弁的な主張立証を促す訴訟指揮をすることに対しては,これを違法視し,そのような見解に立って請求棄却の判決をすることは許されないとする見解もないではない。そうすると,裁判所は,上記のような釈明権が必要かつ妥当な事件を選んでこれを適切に行使し,当事者もこれに応じて的確な訴訟活動(被告が必要でもない抗弁的な主張立証をし,そして,原告がこれに反論反証をすることによって,訴訟遅延を招かないよう特に注意すべきであろう。)をし,これによって無用な第二次,第三次訴訟をできる限り少なくするよう努めることが当面の課題となるであろう。
そうした常態が実現したときに至って,初めて,第一次訴訟の被告が必要な主張立証をしなかったことについて,第一次判決の拘束力によって失権効を肯定すべきことになるであろう。
以上のとおり考えると,現状の下において,上記の見解をにわかに採用することは妥当性を欠くきらいがあるので,原告主張の取消事由の検討に当たっては,上記見解に立たずに,第一次判決の拘束力は現実に審理判断した事項に限定されるとの従来の実務上の見解に立って,以下,検討することとしたい。
(3) 原告主張の取消事由と第一次判決の効力 ア 取消事由1(生存判定手段と連動した勝敗表示手段についての相違点の看 過)及び取消事由2(攻撃キーについての相違点の看過)について そこで,本訴で主張されている個々の取消事由について検討すると,取消事由1及び2については,それぞれ,第一次審決において一致点と認定された「生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段」及び「攻撃側が押す攻撃キー」に関するものであり,これらは,いずれも第一次審決において一致点と認定されたため,第一次訴訟の原告(本訴被告)としては,当然のことながら取消事由として主張せず,第一次判決も,したがって,審理判断していない事項である。
そうすると,原告が本訴に至ってこれを主張することは,第一次判決の拘束力に反するものとはいえない。そこで,取消事由1及び2については,それぞれ,後記4及び5において,改めて検討することとする。
イ 取消事由3(バーコードについての認定判断の誤り)について 取消事由3については,第一次審決の「データをコード表示した表示媒体について,前者が表示形態をバーコードとしたカードであるのに対して,後者は表示形態をピンコードとした駒状のユニットである点。」(第一次審決書〈甲15〉の8頁18行〜9頁1行)という相違点@についての第一次審決の判断に対して,第一次訴訟の被告(本訴原告)が「一般の商品にも付されているバーコードを主体として戦い得るようゲーム機を構成している」(第一次判決〈甲17〉19頁12,13行)と主張したことに伴い,第一次判決は,「本件発明は一般の商品にも付されているバーコードを主体として戦い得るようゲーム機を構成しているとの点については,前記説示のとおり,本件明細書に記載がなく,本件明細書に接する当業者に自明の効果とも認められない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。」(同27頁13〜17行)と判示しているのであるから,本件発明の「バーコード」の意義は,相違点@を想到容易とした第一次判決の判断に不可欠の理由とされているのであって,第一次判決が実際に審理判断した事項に属するものとして,その拘束力が及ぶものと解さざるを得ない。
また,バーコードを使用することによる「拡張性」をいう原告の主張も,「バーコード」が「一般の商品にも付されているバーコード」を含むことを前提とするものであるから,同様に,第一次判決の拘束力が及ぶものといわざるを得ない。
したがって,取消事由3は,第一次判決のこの点の判断に則して判断せざるを得ないものであり,採用することはできない。
ウ 取消事由4(多数相違点による進歩性についての総合的判断の欠落)について 取消事由4については,その主張の構成は,本件発明と検証物ゲーム機とのすべての相違点を総合すると,その差異は顕著であるというものであり,第一次判決で個別に判断された相違点と判断されていない相違点の双方を含んでいるので,第一次判決の拘束力は取消事由4の全体には及ばないものとして,後記6で,検討することとする。
(4) 小括 以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由は,取消事由3は第一次判決の拘束力に反するものであり,採用することができないが,取消事由1,2,4については,第一次判決の拘束力は及ばないものとして,改めて検討することとする。
2 本件発明の特徴と作用効果等 (1) 本件発明の構成は,「第2 当事者間に争いのない事実」の2に摘示したとおりであって,本件明細書〈甲2〉の発明の詳細な説明欄には,以下のとおり記載されている。
「〔産業上の利用分野〕 この発明はバーコードによりカードの持つデータを読取り,そのデータに従ってカードとカードを対戦させて勝敗判定を行うカードゲーム玩具に関するものである。 〔従来の技術〕 従来からカードに絵,文字,記号を記入し,そのカードに性格や強さを与え,そのデータに従ってカードとカードを見せ合って対戦させて勝敗を決する遊びがある。
〔発明が解決しようとする課題〕 しかしながら,上記遊びはジャンケンと同じようにカードを出し合い,カードの記入の絵,文字等を子ども達が自分で読取り,本等に照らして性格や強さを判定して勝敗を決するため,判定に時間が掛かるから攻撃防御のテンポが遅くなり,ゲームに緊迫感がない。しかも,手持ちのカードの出し方の戦術性も少ないため,遊びの面白さにも欠けていた。
この発明は上記の点に鑑み,攻撃防御のテンポに合わせて判定が早く出るために緊迫感があり,戦略性や判定の公平性があるカードゲーム玩具を提供することを目的としている。
〔課題を解決するための手段〕 上記の目的を達成するため,この発明は必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段と,該読取手段で読取った対戦データを記憶する記憶手段と,該記憶手段で記憶された対戦データのうち,一方を攻撃側,他方を守備側とする先攻判定手段と,前記データに従ってカードを対戦させるときに攻撃側が押す攻撃キーと,該攻撃キーを押したときに守備側のカードのダメージを計算する計算手段と,該計算手段で計算されたダメージと守備側カードのデータとで計算し生存を判定する生存判定手段と,該生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段とを備えたことを特徴とするカードゲーム玩具を提供するものであり,また,前記生存判定手段が,守備側カードを生存と判定したときに攻撃側を守備側と交代させる攻撃交代手段を備えているカードゲーム玩具を提供するものである。」(1頁1欄20行〜3頁14行) 「〔発明の効果〕 ‥‥‥カードとカードの攻撃防御の判定がテンポがよく,迅速,的確に出されるために,対戦に緊迫感があり,しかも戦術性や判定の公平性があるなどの優れた効果を奏するものである。」(4頁7欄12〜15行) (2) これらの記載によれば,従来,カードとカードを見せ合って対戦させて勝敗を決する遊びがあったが,カードの文字などを子ども達が自分で読み取るなどして判定して勝敗を決するため,攻撃防御のテンポが遅くなり,ゲームに緊迫感がないという問題があった,というのである。
そこで,本件発明は,この問題を解決することを課題に,カードの性格や強さをバーコード表示したカードを使用し,このバーコードデータを機械により読み取って対戦させ,一方を攻撃側とし,他方を守備側として守備側カードのダメージを計算するなどして生存を判定して勝敗を表示するようにしたカードゲーム玩具を提供するというものであり,これによって,カードとカードの攻撃防御の判定がテンポよく,迅速,的確に出され,対戦に緊迫感があり,しかも,判定の公平性があるなどの優れた効果を奏することができるようになった,というのである。
3 検証物ゲーム機の内容と作用効果 検甲1(検証物ゲーム機),甲23(同ゲーム機の取扱説明書),甲25(動作確認説明書:弁論準備手続において両当事者が確認した検甲1の動作内容を記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許出願前に販売された検証物ゲーム機について,以下の事実を認めることができる。
@ 検甲1のゲームは,ゲーム機(LSI判定機)と22個×2組の駒及びマップで構成され,ウルトラ側と怪獣側に分かれて遊ぶものである。遊び方として,本来の遊び方である「盤上ゲーム」(マップ上に駒を並べて行うゲーム)のほかに,マップを使用することなく基本ユニットとゲーム機(LSI判定機)だけで行うことのできる「生き残りゲーム(2人用)」がある。
A 駒は,ウルトラ側及び怪獣側のそれぞれに,「基本ユニット」と称する駒が20個(番号1〜20が割り振られている。)ずつ,「母船ユニット」と称する駒及び「基地ユニット」と称する駒が1組ずつ存在する。
B 検証物ゲーム機(LSI判定器)には,「パワースイッチ」及び本体中央部の「判定スクリーン」(表示画面)が設けてあり,「判定スクリーン」を挟んでウルトラ側及び怪獣側のそれぞれに,「ユニットセットスイッチ」(駒を差し込む凹部),「移動/攻撃/ターンボタン」,及び「砲撃/回復ボタン」がある。
C 「パワースイッチ」をオンにすると,「判定スクリーン」上において,ウルトラ側にターン表示がされる。
D 各基本ユニットは,あらかじめ所定の「攻撃力」,「パワー」及び「移動力」が与えられており,各基本ユニットには,これらのデータを表示したシールが貼付されている(プレイヤーには自駒のこれらのデータが分かるようになっている。)。ウルトラ側及び怪獣側それぞれの対応する番号の駒は「攻撃力」,「パワー」及び「移動力」の値が互いに同一である。母船ユニット及び基地ユニットについても与えられた「攻撃力」,「パワー」及び「移動力」の値は,ウルトラ側と怪獣側とで互いに同一である。
「ユニットセットスイッチ」にウルトラ側又は怪獣側の駒を差し込むと,各駒の上記データ(ただし,自爆駒についてはダミー値)が判定スクリーン上に表示される。ただし,「パワー」は,対戦及び回復によって変動した場合には,変動後の数値が判定スクリーン上に表示される。
E ウルトラ側及び怪獣側の基本ユニットを「ユニットセットスイッチ」に差し込んだ状態で,ターン表示のある側(以下「ターン側」といい,反対側を「非ターン側」という。)が「移動/攻撃/ターンボタン」を押すことにより,対戦が行われる。対戦が行われると,「判定スクリーン上」に,ターン側,非ターン側の順に,2度ずつ攻撃を行う様子が表示され,その後,後述Fのとおり対戦結果の表示がなされる。
1ターンは5回,すなわちターン側は「移動/攻撃/ターンボタン」を押すことにより5回連続して上記対戦を行うことができるが,6回目には「移動/攻撃/ターンボタン」を押した段階でエラー表示がされる(ターンは相手方に移る。)。
F 対戦結果の表示は,次のとおりである。
双方の駒のパワーが残っている場合,対戦によるダメージが大きい側に「まけ」の表示がされる(ダメージが等しい場合,両者に「まけ」の表示がされる。)とともに,双方の駒について,対戦前のパワーから対戦によるダメージ分のパワーを減じたパワー値が表示される。
一方の駒のみのパワーが0になった場合(以下「死亡」という。),死亡した側の駒の表示(ウルトラマン又は怪獣のキャラクター)が消え,他の駒は対戦前のパワーから対戦によるダメージ分のパワーを減じたパワー値が表示される。
双方の駒が死亡した場合,双方の駒の表示(キャラクター)が消える。
なお,非ターン側が自爆駒(番号「19」又は「20」の駒)を用いたときは,非ターン側の駒のいかんにかかわらず,双方死亡となるが,双方死亡となるケースはこれに限らず,番号1〜18の駒同士の対戦でも生じる。
G 対戦によるダメージ値は,相手方の攻撃力,地形,及び偶然的要素(乱数)によって決定される。死亡した駒は,再度対戦に用いることはできない(用いようとすると,エラー表示)。
H ターン側は,同一ターン内で同一駒を2度使用することも,自爆駒を使用することもできない。ターン側が駒をセットせずに「移動/攻撃/ターンボタン」を押すことにより,ターンは相手方に移る。
4 生存判定手段と連動した勝敗表示手段についての相違点の看過(取消事由1)について そこで,本件発明と検証物ゲーム機についてした上記認定に基づいて,原告の主張する取消事由を順次検討することとする。
原告は,検証物ゲーム機の生き残りゲームは,団体戦であって,そもそも勝敗表示手段を持たず,個々の対戦を取り上げてみても,双方が死亡した場合には勝敗を表示しないことなどから,本件発明の「生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段(G)」との構成を有しない,と主張する。
しかしながら,検証物ゲーム機について上記3で認定した事実Fによれば,同ゲーム機では,対戦を行って駒が死亡すると,その駒の表示(キャラクター)が判定スクリーンから消滅するようになっているのであり,これは勝敗表示であるということができる。そして,駒が死亡したかどうかは,生存判定手段(対戦前のパワー値と対戦によるダメージ値の比較)によって判断されるのであるから,同ゲーム機が「生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段(G)」を備えることは明らかである。
以上のとおりであるから,取消事由1は,採用することができない。
5 攻撃キーについての相違点の看過と判断の誤り(取消事由2)について (1) 原告は,本件審決が,本件発明と検証物ゲーム機とが「攻撃側が押す攻撃キー」を備える点で一致すると認定したのは誤りであると主張する。
そこで,検討するに,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明欄の記載によれば,本件発明に係るゲーム機は,一方が攻撃側となり,他方が守備側となって戦うもの(交互対戦型のゲーム機)であって,「攻撃キー」を押したときには,守備側のみがダメージを受け,攻撃側はダメージを受けないことを前提とするものであると認められる(本件発明が交互対戦型ゲームであることについては争いがない。)。これに対し,検証物ゲーム機は,被告も認めるとおり,交互対戦型ではなく,ターン側が相手方を攻撃すると,相手方が同時に反撃する同時対戦型のゲーム機である。
しかしながら,検証物ゲーム機においても,前記認定のとおり,ウルトラ側と怪獣側のうち,ターン表示のなされた側が「移動/攻撃/ターンボタン」を押すことにより,攻撃意思をゲーム機に伝達し,ターン側から相手方への攻撃が開始されることには変わりがないのであるから,検証物ゲーム機の「移動/攻撃/ターンボタン」も「攻撃側が押す攻撃キー」ということができ,守備側が同時に反撃するかどうかはこの認定を左右しないというべきである。したがって,審決が,本件発明と検証物ゲーム機とは「攻撃側が押す攻撃キー」を備える点で一致すると認定したことに誤りがあるとは認められない。
(2) なお,原告は,本件発明の「攻撃側が押す攻撃キー」は攻撃側のみが攻撃するように動作させるためのキーであり,対戦を開始するためのキーにすぎない検証物ゲーム機の「移動/攻撃/ターンボタン」とは相違しているということができるとの前提の下に,本件発明のかかる構成は進歩性を有すると主張し,被告もこれに対する反論・反証を行っているので,念のため,この点についても判断する。
原告は,どのような攻撃キーを設けるかは,そのゲームの趣向・構成を大きく左右するものであり,検証物ゲーム機が有している「移動/攻撃/ターンボタン」が単なる「攻撃側の押す戦闘開始キー」である以上,検証物ゲーム機を先行技術として本件発明の進歩性を否定することはできないと主張する。
しかしながら,本件発明と検証物ゲーム機は,相手方への攻撃を開始するために攻撃側のプレイヤーが操作するキーを備えている点では共通しており(原告もかかるキーを設けた点に進歩性があるとは主張していない。),結局のところ,その差異は,本件発明においては,戦闘を開始するキーを1回押すことにより,攻撃側が攻撃を行うのみで,守備側からの反撃は行われない(交互対戦型)のに対し,検証物ゲーム機においては,攻撃側の攻撃及び守備側の反撃が同時に行われる(同時対戦型)点にあるということができるところ,ゲームの対戦場面における守備側の関与の形態としては,同時対戦型か交互対戦型のいずれかにならざるを得ないのであり,いずれの方式を採用するかは,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないというべきである。また,前記認定のとおり,検証物ゲーム機では,ウルトラ側及び怪獣側がそれぞれ5回ずつ連続して「移動/攻撃/ターンボタン」を押すように構成されているが,これは検証物ゲーム機が同時対戦型をとっているため,一方が5回連続して攻撃側に立っても他方が不利にならないからであると考えられ,検証物ゲーム機が交互対戦型の構成を採用した場合にゲームとしての興趣を損なわないため,本件発明のように攻撃側と守備側が1回ずつ交代して攻撃キーを押す構成とすることも,当業者であれば容易に想到し得るということができる。
以上のとおり,本件発明のような攻撃キーを設けることは,当業者であれば,検証物ゲーム機から容易に想到し得たということができ,この点についての原告の主張も理由がない。
6 多数相違点による進歩性についての総合的判断の欠落(取消事由4)について 取消事由4は,第一次判決で進歩性を否定された相違点に,第一次審決で相違点として直接言及されなかった点を含めたすべての相違点について,総合的な判断をすれば,それらの相違点の総和が両者の顕著な差異をもたらしているから,進歩性があるということができる,という主張である。
しかしながら,取消事由4において原告が主張する相違点のうち,相違点CD(ダメージ計算及び生存判定を守備側のみについて行うか,攻守双方について行うか)については,帰するところ,交互対戦型の構成を採用するか,同時対戦型の構成に採用するかに依拠するところ,前記判示のとおり,いずれの構成を採用するかは当業者が選択し得る設計事項にすぎないのであるから,ダメージ計算及び生存判定を守備側についてのみ行うかどうかも,同様に単なる設計事項にすぎず,進歩性を肯認すべき要素は見当たらない。また,原告が主張するその他の相違点についても,原告の主張に照らして,これを精査しても,何ら進歩性が認められないものである。
したがって,原告の主張するように多数の相違点を総和的に検討したとしても,想到容易性を肯定することはできず,これを否定した審決の判断に誤りはなく,取消事由4は,採用することができない。
7 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文