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関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  技術常識 /  意匠権 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  侵害 /  損害額 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 22172号 損害賠償請求事件
神奈川県大和市<以下略>
原告株 式会社シコー技研群馬県伊勢崎市<以下略>
原告東京 パー ツ 工業株式 会社
上記両名訴訟代理人弁護士對崎俊一
上記両名補佐人弁理士佐野惣一郎 東京都墨田区<以下略>
被告テ クタイト株式会社
訴訟代理人弁護士山口伸人
同 大場由美
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2007/09/11
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告両名の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告両名の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,原告両名に対し,それぞれ金3525万円及びこれに対する平成18年10月17日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言第2事案の概要本件は 「振動型軸方向空隙型電動機」について特許権(特許番号第213 ,4716号)を有していた原告両名が,被告が販売した別紙物件説明書記載の電動機が上記特許権の特許発明技術的範囲に属し,その販売が上記特許権を侵害したものであると主張して,被告に対し,民法709条,特許法102条1項に基づき,原告両名それぞれに対する損害賠償金各3525万円及びこれに対する遅延損害金(不法行為の後の日である平成18年10月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によるもの )を求めている事案である。 。
1前提となる事実等(当事者間に争いがないか,該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる )。
( ) 原告両名が有していた特許権1原告両名は,次の特許権を有していた(以下 「本件特許権」といい,そ ,の特許を「本件特許」という(甲1,甲2)。)。
ア特 許 番 号第2134716号イ発明の名称振動型軸方向空隙型電動機ウ出願日昭和62年5月21日エ登録日平成10年2月6日オ本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」とい。)(),(, うの特許請求の範囲 請求項1 の記載は 次のとおりである 以下請求項1の特許発明を「本件特許発明」という。本判決添付の特許公報参照。。)「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した,振動型軸方向空隙型電動機 」。
( ) 構成要件2本件特許発明構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記する。。)AN,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,B偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子をC上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した,D振動型軸方向空隙型電動機。
( ) イ号物件3被告は,別紙物件説明書記載の振動型軸方向空隙型電動機(以下「イ号物件」という )を訴外任天堂株式会社(以下「任天堂」という )に対して 。 。
販売した。
( ) 本件特許発明とイ号物件との対比4イ号物件の構成は,別紙物件説明書記載のとおりであり,これによれば,イ号物件は,N,Sの磁極を交互に2個有する界磁マグネットを固定子として備え(構成要件A ,コアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向 )の空隙を介して面対向し且つ回転自在に支持した(構成要件C ,振動型軸)方向空隙型電動機(構成要件D)である。
したがって,イ号物件は,本件特許発明構成要件のうち,構成要件A,C及びDを充足する。
2本件の争点( ) イ号物件は,本件特許発明技術的範囲に属するか(イ号物件は,構成要1件Bを充足するか (争点1 。))( ) 本件特許は無効とされるべきものか(争点2 。
2 )( ) 原告両名の損害額はいくらか(争点3 。 3 )3争点に関する当事者の主張(, (, ( ) 争点1 イ号物件は 本件特許発明技術的範囲に属するか イ号物件は1構成要件Bを充足するか)について)。
ア原告両名の主張イ号物件は,本件特許発明構成要件をいずれも充足するから,本件特許発明技術的範囲に属する。
)イ号物件が,本件特許発明構成要件のうち,構成要件A,C及びDaを充足することは,上記1( )のとおりである。 4)また,イ号物件は,別紙物件説明書記載のとおり,支持体23上に3 b個のコアレス電機子コイル12-1ないし3を回転軸2の中心を基準に片寄らせて配置したコアレス偏平電機子32を備えているから,構成要件Bを充足する。
)被告は,構成要件Bの「平面において」とは,コアレス電機子コイルcが単層で配置されることが前提となっており,コアレス電機子コイルを多層に重ね合わせる構成は含まれないと主張する。
しかし,構成要件Bの「平面において」について,被告主張のような限定解釈をすべき理由はない。
「平面において」とは,例えば「平面図」との用語があるように,コアレス偏平電機子を平面に直交する方向で見た場合のことを指したものであり,コアレス偏平電機子を平面的に,いわば上から見たときに,コアレス偏平電機子が円板状になっていないことを意味するものであるから,コアレス電機子コイルが重層であるか否かは何ら限定されるものではない。
振動モーターにおいて「安価で軸方向の厚みが薄く且つ小型軽量化を達成した」という本件特許発明の作用効果は,電機子自体を偏心し且つ振動する構成とすることにより,従来振動モーターにおいて必要とされた旋回板を不要とすることで達成されるものであるから,コイルが重層であるか否かに意味を持たせるものではない。
イ被告の反論イ号物件は,本件特許発明構成要件Bを充足しない。
)構成要件Bの「平面において」とは,コアレス電機子コイルが単層でa配置されることが前提となっており,コアレス電機子コイルを多層に重ね合わせる構成は含まれない。
すなわち,本件特許発明の出願前に公開された特開昭55-122467号公報(以下「乙1公報」という )には,4個の偏平なコアレス 。
電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて回転軸を中心に偏って重層的に取り付けられた波巻電機子を備えた直流電動機が開示されている。
また,本件明細書の記載によれば,本件特許発明は 「従来の欠点を,解消するためになされたもので,回転軸に旋回板を取り付けることなく振動するページャ等に適する振動型軸方向空隙型電動機を安価且つ軸方向に厚みが薄く小型軽量に構成できるようにすることを課題としてなされた (甲2,6欄27行ないし31行)ものである。 」このように,重層構造の振動モーターについては既に先行発明が存在することや,本件特許発明の課題に鑑みれば,本件特許発明は,コアレス電機子コイルを単層で配置する点がポイントなのであって,コアレス電機子コイルを多層に重ね合わせる構成を含まないといわなければならない。
,「」, , 原告両名は平面において とは コアレス偏平電機子を平面的にいわば上から見たときをいうと主張する。しかし,原告両名の主張は,意匠権などであればともかく,技術的,客観的にどのような構造になっているかが問題となっている本件には当てはまらない議論である。
)イ号物件は,別紙物件説明書記載のとおり,支持体23上に3個のコ bアレス電機子コイル12-1ないし3を重層的(12-1及び12-2を下層に,12-3をその上層)に配置したものであるから 「平面に,おいて円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子」には当たらず,構成要件Bを充足しない。
( ) 争点2(本件特許は無効とされるべきものか )について2 。
ア被告の主張本件特許発明は,乙1公報に記載された公知の発明(以下「引用発明」という )に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 。
から,特許法29条2項により特許を受けることができず,特許無効審判により無効にされるべきものである。したがって,同法104条の3第1項により,原告両名の本件特許権の行使は許されない。
)本件特許発明と引用発明との対比a@乙1公報には,直流電動機においてN,S磁極を交互に複数個(2n個)円環状に並べて筐体に貼着固定する構成が記載されており(1欄7行ないし8行,5欄8行ないし9行,5欄18行ないし6欄10行など ,この構成は,本件特許発明構成要件Aと一致する。 )A乙1公報には,4個の電機子巻線を,電機子の回転中心軸に対して対称に配置せず,片寄らせて配置し,また,電機子巻線が互いに重なり合うような重畳的に配置した電機子の構成が記載されており(1欄18行ないし2欄3行,6欄16行ないし7欄8行,7欄11行ないし8欄15行など ,この構成は 「複数のコアレス電機子コイルを ),回転中心を基準に片寄らせて配置することで 「円板状を形成しない 」ように変形形成したコアレス偏平電機子」の点において構成要件Bと一致する。ただし,乙1公報には 「偏心且つ振動して回転するよう ,に」との明示的な記載はなく,また,電機子が重畳的に配設されていることから 「平面において」配設されたものではない。 ,B乙1公報には,回転軸1の方向に空隙を有し,当該空隙を介して界, , 磁磁極6と電機子7が対向しており 電機子7は回転軸1に固定され当該回転軸1は,筐体2に固定されている軸承4,5によって回動自( , 在に支承されている構成が記載されており 1欄14行ないし18行5欄5行ないし7行,5欄10行ないし13行など ,この構成は,)構成要件Cと一致する。
C乙1公報には,軸方向に空隙がある電動機が記載されており(2欄, , ), 3行 2欄19行ないし3欄3行 8欄19行ないし9欄3行などこの構成は 「軸方向空隙型電動機」の点において構成要件Dと一致 ,する。ただし,乙1公報には「振動型」であることの明示的な記載はない。
D以上のとおり,乙1公報には,本件特許発明構成要件A及びCと同じ構成が記載されており,また,構成要件Bのうち「複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで 「円」板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子」及び構成要件Dのうち「軸方向空隙型電動機」も記載されている。
したがって,本件特許発明と引用発明との相違点は,@本件特許発明は,電機子が偏心し且つ振動して回転するのに対し,引用発明は,この点が明らかではない点(以下「相違点@」という,A本件特。)許発明は,電機子が平面において構成されているのに対し,引用発明は,電機子が重畳的に重なり合う配置となっている点(以下「相違点A」という )のみである。。
Eこれに対して,原告両名は,本件特許発明と引用発明との相違点として,電機子が円板状であるか否かの点を指摘する。しかし,この点は相違点には当たらないというべきである。
すなわち,構成要件Bの「円板状」であるかどうかは,電機子コイ,, ルの配置のことをいっていると解すべきであり 乙1公報においても例えば第7図( )のように,一部のコイルが削除されたことにより,bコイルが円板状を形成しないように偏って配置された電機子が開示されているからである。
)容易想到性b@上記相違点@について引用発明のように,回転軸に対して偏心した形状を有する部材を回転させる場合,振動を生じることは技術常識である。本件特許権に関する特許異議の決定(乙2添付の「甲第4号証 )においても「偏心」した部材を回転させた場合には,その偏心部材の形成方法の如何に関わらず振動を生じることが技術的常識であるから,コアレス偏平電機子を平面において円板状を形成しないように変形形成して偏心部材とすれば,その形成方法の如何に関わらず当該電機子の回転に伴って振動を生じることが当業者にとって自明である」とされている。
すなわち,乙1公報に示されている第7図( ),第17図( ),第2bb0図( )のように,電機子巻線を回転軸に対して偏心して配置した電b機子を回転させれば,電機子が振動することは当業者にとって自明である。
したがって,乙1公報には,実質的には,電機子が「偏心且つ振動して回転する」ことが記載されているに等しく,相違点@を本件特許発明と引用発明との実質的な相違点ということはできない。
A上記相違点Aについて乙1公報に示された電機子巻線の複数個が重畳的に重なり合う配置から,本件特許発明構成要件Bのように電機子巻線コイルを同一平面上に配置する構成に想到することは,当業者にとって極めて容易である。乙1公報において,二段に重なっている電機子のうち,いずれかの重なり部分を削除すれば,残りは同一平面上の電機子巻線のみの構成となることは明白であるし,乙1公報には,第7図( ),第17d図( ),第17図( )のように,電機子巻線を同一平面上に配置した電 cd機子の構成も記載されているから,電機子巻線を同一平面上に配置する構成に関しても示唆がなされているといえ,相違点Aは単なる設計変更ということができる。
また,同一平面上に電機子コイルを配置したコアレス偏平電機子の構成は,本件特許発明の従来例としても示されており,引用発明にこの従来例を組み合わせて,平面において円板状を形成しないように変形形成させた電機子に想到することも,当業者にとって極めて容易である。
このように,相違点Aは,極めて軽微なものであり,当業者であれば容易に想到することができるものである。
イ原告両名の反論本件特許発明は,当業者が引用発明から容易に想到することができたものではなく,特許法29条2項に該当するものではないから,特許無効審判により無効にされるべきものには当たらない。
その理由は,以下のとおりである。
, ,a)被告も 本件特許発明と引用発明との相違点@として指摘するように本件特許発明とは異なり,引用発明のモーターは,振動モーターではなく,回転力を得るための通常のモーターである。すなわち,乙1公報に開示された技術的思想は,円板状の電機子を構成する複数個の電機子コイルの一部を削除しつつ,整流子を工夫して個数が削減されたコイルを短絡することにより,電機子コイルを少なく,すなわち電機子を薄くしても,良好な振動のない回転力が得られるモーターを提供しようというものである。乙1公報の第1図において回転軸1が上方に突出して示されているのは,回転軸の突出部分を通じて振動のない回転力が取り出されることを意味しており,このモーターが振動を得るものとは無縁であることを示している。この回転軸1は第7図( )にも示されている。
b乙1公報には,このモーターが振動モーターであることを暗示する記載は絶無であり,電機子を偏心させ振動させて回転させるという技術的思想は微塵も開示されていない。
むしろ,乙1公報においては,電機子が「円板状」であることが繰り返し説明されているのであり,このような円板状の電機子を備えたモーターが,分銅を特別に付加するという従来技術の構成をとらなくても,電機子自体の回転で振動が得られる構成となっている本件特許発明の振動モーターを示唆するものと受け取られることは全く考えられない。
このような引用発明に基づいて本件特許発明容易に想到されるはずがない。
被告は,回転軸に対して偏心した形状を有する部材を回転させると振動を生じることは技術常識であるなどと主張する。しかし,乙1公報に開示されている電機子は,電機子巻線(電機子コイル)を回転軸に対して偏心して配置してはいるものの,円板状の電機子であり,その中心に回転軸1があるから 「回転軸に対して偏心した形状を有する部材」に ,なっていない。
)被告は本件特許発明と引用発明との相違点として指摘していないが,b本件特許発明における電機子が平面において円板状を形成しないものであるのに対し,乙1公報に記載されているものはすべて円板状の電機子。「 」, である 構成要件Bの 平面において円板状を形成しないように とはコアレス偏平電機子について言っているものであり,被告主張のように電機子コイルの配置について言っているものではない。
そして,乙1公報中には,電機子を平面において円板状を形成しないように変形形成することを示唆する記載も皆無である。
したがって,このような引用発明に基づいて本件特許発明容易に想到されるはずがない。
)なお,被告が本件特許発明と引用発明との相違点Aとして指摘する,c電機子が平面において構成されているか否かについては,被告が「平面において」を誤解しているために生じるものであって,上記( )ア )の1c,「」,。 とおり平面において を正しく解釈すれば 相違点には当たらない( ) 争点3(原告両名の損害額はいくらか )について3 。
ア原告両名の主張)被告は,平成16年及び平成17年の2年間で,任天堂に販売した分aを含め,少なくとも合計100万個のイ号物件を販売した。
原告両名は,いずれも本件特許発明実施品を製造販売するメーカーであるから,イ号物件に相当する小型振動モーターを製造して販売することができ,原告両名においてそれぞれ50万個程度の当該モーターの製造能力を有している。
原告両名がイ号物件に相当する小型振動モーターを製造して販売すれ, .。 ば 当該モーター1個につき少なくとも70 5円の利益が見込まれるしたがって,特許法102条1項に基づき,原告両名の損害額はそれぞれ3525万円である。
(算式)50万個×70.5円=3525万円)原告シコー技研においては,平成17年8月,任天堂から,偏平型振b動モーターの試作品の提案依頼を受け,当時月産10万台程度の規模で量産していたモーターを提出したが,性能特性で食い違いがあり,原告シコー技研としても,性能特性を合致させるまでの開発対応に時間を割けない事情があったことから,採用とはならなかったものである。
さらに平成18年にも,原告シコー技研は,任天堂から,従来とは異なる新規のゲームソフト用の偏平型振動モーターの製作を依頼され,最終段階まで製品特性の手直しをして,採用決定に至ったが,任天堂においてゲームソフト自体が商品化されなくなったため,実取引には発展しなかったものである。
イ被告の反論)上記ア )の原告両名の主張は,いずれも否認する。
aa)原告両名には,以下のとおり,特許法102条1項但書所定の譲渡数 b,, 量の全部を販売することができない事情が認められるから 原告両名は被告に対し,特許法102条1項に基づく損害を請求することはできない。
すなわち,被告がイ号物件を販売した先は任天堂のみであるが,被告が納入を提案したイ号物件のみが任天堂の規格に合格したのであり,原告両名の製造にかかるコイン型振動モーターは,その性能が任天堂の要求する製品仕様を満たさなかったために不採用となったものである。したがって,仮に被告がイ号物件を任天堂に納入しなかったとしても,任天堂は原告両名のモーターを採用することはできなかった。
第3当裁判所の判断本件においては,事案の内容に鑑み,まず,争点2(本件特許は無効とされるべきものか )から判断する。。
1本件特許発明と引用発明との一致点及び相違点( ) 乙1公報には [特許請求の範囲]の請求項1として次のアの記載が [発1 , ,明の詳細な説明]に次のイないしキの記載がある。また,第1図,第2図,第7図( ),第7図( )は別紙引用発明関係図のとおりであり [図面の簡単ab ,な説明]として,第1図について「整流子電動機の構成の説明図」との説明が,第2図について「整流子電動機に本発明を適用した界磁磁極及び電機子の実施例の展開式巻線図」との説明が,第7図( )について「第2図示から a第6図示の界磁磁極の実施例の展開図 との説明が 第7図( )について 第 」,「 b2図示の電機子の実施例の展開図」との説明が付されている (乙1)。
ア「N,S極に等しい開角で磁化された2n個(nは1以上の整数)の磁極を備えた界磁磁極と,該界磁磁極の磁路を閉じる為の磁性体と,発生トルクに寄与する導体部の開角が前記した界磁磁極の磁極幅にほぼ等しく巻回された複数個の電機子巻線と,該電機子巻線の端子がそれぞれ接続される整流装置と,前記した電機子巻線が互いに等しいピッチで配設されると共に,前記した磁路内で前記した界磁磁極に対向して設けられた波巻電機子, , と 該波巻電機子若しくは前記した界磁磁極を回転自在に支持すると共に外筺に設けた軸承に支承された回転軸とより構成される直流電動機において,前記した電機子巻線を所定個削除して構成された電機子と,削除された前記した電機子巻線の両端子が接続していた整流装置を電気的に短絡する短絡部材とより構成されたことを特徴とする少数個の電機子巻線に構成した波巻電機子を備えた直流電動機(1欄7行〜2欄3行) 。」イ「本発明は,波巻電機子を構成する電機子巻線の所定個数を短絡することにより削除し,従って電機子の厚みを薄く形成し,しかも整流特性を良好にした波巻電機子を円板状若しくは円筒状に形成して有効な直流電動機に関するものである(2欄19行〜3欄3行) 。」「, 。 ウ 第1図は 円板状の電機子を設けた整流子電動機の構成の説明図であるプレス加工された軟鋼性の筐体3には軸承5が固定され,またプレス加工された軟鋼性の筐体2がビス11によって筐体3に固定されて磁路となっている。筐体2には,軸承4が固定され,軸承4,5には回転軸1が支承され,回転軸1の一端は筐体3に圧接している。筐体3にはN,S磁極が回転軸方向に磁化された円環状の界磁磁極6が貼着して固定されている。
回転軸1には一体にモールドされた電機子7及び整流子8が固定されている。電機子7は筐体2と界磁磁極6との空隙磁界内に介在するように構成されている。記号10は刷子保持具であり,整流子8に摺接する刷子9を保持している(5欄1行〜5欄14行) 。」エ「第2図示より第20図示において説明するものは,上述した整流子電動機に本発明を適用した実施例の展開式巻線図,及び界磁磁極,電機子の実施例の展開図である。第1図示の界磁磁極6に相当するものは,第2図示より第6図示においては,第7図( )に示すように90度の開角でN,Sa極に回転軸方向に磁化された磁極12-1,12-2,12-3,12-4よりなる界磁磁極12であり (5欄15行〜6欄3行) 」オ「第2図に示したものは,界磁磁極が4磁極で,4個の電機子巻線よりなる実施例の展開式巻線図である。電機子13は,電機子巻線13-3,13-4,13-5,13-6が第7図( )に示すように配設され,一体にbモールドされて構成している。即ち,電機子巻線13-3と13-4,13-4と13-5 13-5と13-6はそれぞれ約51 4度の開角 磁 , .(極幅の4/7)で,電機子巻線13-6と13-3は約205.7度の開角(磁極幅の16/7)で一部分が重畳して配設されている。電機子巻線の発生トルクに寄与する導体部(電機子巻線13-3の場合は13-3-a,13-3-b部である)の開角は90度で磁極幅とほぼ等しくされており,第1図示の電機子7に相当する(6欄14行〜7欄8行) 。」カ「電機子13は,各電機子巻線の発生トルクに寄与する導体部の開角を磁極幅と同一にした従来より公知の7個の電機子巻線よりなるオープン接続正規波巻を,点線で図示した4個の電機子巻線を整流子片を介して短絡することにより構成したものである。かかるオープン接続正規波巻について説明すると,7個の電機子巻線13-1,13-2,……,13-7は波巻接続とされ,電機子巻線13-1と13-4,13-4と13-7,13-7と13-3,13-3と13-6,13-6と13-2,13-2と13-5,13-5と13-1の接続部はそれぞれ整流子片14-2,14-5,14-1,14-4,14-7,14-3,14-6に接続されている。本発明による実施例は,電機子巻線13-1,13-7,13-2を削除し,各電機子巻線の両端子(巻き始めと巻き終わり端子)が接続されていた整流子片同士を短絡部材(導線等)により電気的に短絡して構成しているものである。即ち,電機子巻線13-1を削除することにより整流子片14-6と14-2を,電機子巻線13-7を削除することにより整流子片14-5と14-1を,電機子巻線13-2を削除することにより整流子片14-7と14-3をそれぞれ短絡している(7欄1。」1行〜8欄15行)キ「上述した全ての実施例は,円板状の無鉄心電機子を設けた整流子電動機に本発明を適用したものである (53欄3行〜53欄5行) 」(2) 上記(1)の記載及び図示によれば,引用発明は 「N,S極に等しい開角 ,で磁化された2n個(nは1以上の整数)の磁極からなり,筐体に貼着して固定された界磁磁極を備え,複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置し,これを一体にモールドして円板状に形成した無鉄心電機子を,上記界磁磁極と軸方向の空隙を介して面対向し且つ回転自在に支持した,直流電動機 」と認められる。なお,引用発明において,電機子巻線を一体に取 。
り付けているモールド部が円板状のものであることは,乙1公報の第7図( ),第7図( ),第17図( ),第17図( ),第17図( )及び第20図( )bdbcdb並びに上記各記載から認められる。
(3) 上記(1)及び(2)をふまえ,本件特許発明と引用発明との一致点,相違点を認定すれば,次のとおりである。
ア上記( )で認定した引用発明の「界磁磁極「電機子巻線「無鉄心2 」,」,電機子」は,それぞれ本件特許発明の「界磁マグネット「コアレス電」,機子コイル「コアレス偏平電機子」に相当するから,引用発明の構成 」,は,本件特許発明構成要件A「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え ,構成要件C「上記界磁マグネットと軸 」方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した」と一致し,構成要件Bのうち「複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて」,「」 配置したコアレス偏平電機子構成要件Dのうち 軸方向空隙型電動機と一致する。
, ,(, イ他方 本件特許発明と引用発明との相違点は 次のとおりである 以下各相違点をその符号に従い「相違点 )」などという。
a 。)構成要件Bの「平面において」とは,複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することにより振動して回転するようにしたとの本件特許発明の技術思想と 「円板状を形成しないように変形形成 ,した」との請求項1の文言からすれば 「平面視において」の意味に解す ,べきである。したがって,被告が主張する上記第2の3( )ア )D記載の2a「A本件特許発明は,電機子が平面において構成されているのに対し,引用発明は,電機子が重畳的に重なり合う配置となっている点」は相違点ではない。ただし,構成要件Bの「円板状を形成しないように変形形成」する対象が「複数のコアレス電機子コイルの全体形状」ではなく 「コアレ,」 ,, ス偏平電機子 であることは請求項1の記載自体から明らかであり また「」 「」 本件特許発明における コアレス偏平電機子 が コアレス電機子コイルとこれを固定するモールド部等から成るものであることは,本件明細書の「該プラスチックのモールドにより電機子コイル群を有するコアレス偏平電機子を平板状に形成してなる (請求項10)との記載,及び 「電機 」 ,子コイル12-3のプラスチックモールド部をも削除してコアレス偏平電機子21そのものが平面において円板状を形成しないように変形形成して8欄11行ないし14行 との記載からも明らかであるから 次の ) 」( ) ,bのとおり,引用発明において電機子を構成するモールド部が円板状を形成している点は相違点である。
)本件特許発明は,コアレス偏平電機子が「振動して回転する 「振動a 」型」電動機であるのに対し,引用発明は,前記のとおり,複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置したものであるものの,その無鉄心電機子が振動して回転するものであるかどうかについては,乙1公報に何の記載もないこと。
)本件特許発明は,コアレス偏平電機子が「平面において円板状を形成bしないように変形形成」されたものであるのに対し,引用発明は,前記のとおり,複数の電機子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置したものであるものの,電機子巻線を一体に固定するモールド部が円板状であるため,無鉄心電機子が平面視において円板状を形成していること。
2相違点についての判断本件特許発明と引用発明との上記各相違点を踏まえて,当業者が,本件出願時において,引用発明を出発点として,本件特許発明の構成に想到することが容易であるか否かについて判断する。
(1) 相違点a)についてア乙1公報の第2図並びに第7図(a)及び第7図(b に示された実施例 引 )(用発明)は,4個の電機子巻線(電機子コイル)13-3,13-4,13-5,13-6が,回転中心である回転軸1を基準として偏った配置となっている。
このように回転中心を基準として電機子巻線が偏って配置されている電機子は,錘等を追加するなどの重量バランスを保つための格別の措置をとるなどの特段の事情のない限り,これを回転させれば振動が発生することは,当業者にとって自明の事柄(技術常識)である。
そして,乙1公報には,回転中心を基準として偏った配置となっている電機子巻線(電機子コイル)について,重量バランスを保つための格別の措置をとった旨の記載もされておらず,上記特段の事情があることを窺わせる記載は全く見当たらない。
そうすると,当業者が,本件出願時において,電機子巻線が回転中心を基準として偏って配置されている引用発明を見れば,回転により振動が発,, 生することを明確に認識することができるのであるから 当業者としては引用発明の上記構成を振動型電動機(モーター)の構成とすることに想到することは容易である。
イ原告両名は,引用発明は,第1図において回転軸1が上方に突出して示されているように,回転軸の突出部分を通じて振動のない回転力を取り出す通常のモーターに関する発明であって,振動モーターに関する発明ではないから,当業者が引用発明に基づいて本件特許発明のような回転により振動が発生する振動モーターに容易に想到することはできない旨主張する。
しかしながら,電動機に関する当業者,特に,振動型電動機の改良に興味を有している当業者が,乙1公報の第2図並びに第7図(a)及び第7図(b)に示された実施例(引用発明)を見れば,回転中心に対し偏って配置されている電機子巻線から成る無鉄心電機子の回転により,電動機に振動,, が発生することを明確に認識することができることからすれば 当業者は引用発明の構成を振動型電動機の構成とすることに容易に想到するものというべきである。また,引用発明が通常のモーターであるとすれば,当業者であれば,引用発明において生じる振動は,通常のモーターとして許容し得る範囲の振動であると理解するものであるとしても,回転により発生する振動の程度をどの程度のものにするかは,当業者が,当該振動モーターによって得たいと考える振動の程度に応じて,偏った配置となっている電機子巻線(電機子コイル)とその余の部材との比重とを適宜設計することで決めることができる設計事項にすぎないことも自明であるから,このことも引用発明を振動型電動機に使用することの妨げとなるものでもない。さらに,本件特許発明の対象となる振動型電動機が使用されるページャ等においては(本件明細書の「発明の産業上の利用分野」参照 ,その)軽量化,小型化は一般的な課題であることからすれば,当業者が,本件出願時において,電機子巻線の数を削減している引用発明を見たときに,同発明の電動機が偏心により振動することとともに,その小型化,軽量化との課題にも符合することから,この構成を振動型電動機に使用することに想到することについて積極的な動機付けも存在するということができる。
ウ原告両名は,引用発明の電機子が円板状であることも,当業者が引用発明に基づいて本件特許発明のような回転により振動が発生するコアレス偏平電機子に容易に想到することができない理由として指摘する。
しかしながら,上記アのとおり,引用発明において,無鉄心電機子を構成するモールド部等が円板状をしていたとしても,回転中心を基準として電機子巻線が偏って配置されていれば,特段の事情のない限り,当該電機子を回転させれば振動が生じると理解されるのであるから,電機子を構成するモールド部等が円板状であることは,当業者が引用発明を見て,回転により振動が発生すると認識することを妨げるものではない。
(2) 相違点b)について引用発明は,無鉄心電機子(コアレス偏平電機子)における円板状モールド部が回転中心を基準として偏って配置されている複数の電機子巻線を一体に固定しているため,電機子全体として円板状を形成している。しかし,乙1公報には,回転中心を基準として偏って配置されている複数の電機子巻線を固定するためのモールド部が円板状を形成しなければならないことの格別の理由は何ら記載されていない。そして,上記( )のとおり,当業者が,本1件出願時において,引用発明を見て,この構成を振動型電動機に使用することに想到することが容易である以上 振動型電動機としては 電機子巻線 電 ,,(機子コイル)を回転中心を基準にして偏った配置とすることのみならず,従来配置されていた電機子巻線(電機子コイル)を削除した箇所のモールド部を部分的に削除することも,当業者が構成部材の重量をアンバランスにし,適度な振動を得るために適宜設計することのできる設計的事項にすぎないものというべきである。
したがって,当業者が,引用発明の電動機に基づいて,電機子巻線を平面,, において円板状を形成しないようにした構成を振動型電動機に使用し かつ従来配置されていた電機子巻線を削除した箇所のモールド部も部分的に削除し,コアレス偏平電機子が平面において円板状を形成しないように変形形成した構成に想到することは容易であると認められる。
( ) 以上によれば,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと3認められるから,原告両名は,本件特許権を行使することができない(特許法104条の3 。なお,本件については,弁論終結後に,無効不成立とす )る審決がなされたとして,原告両名から弁論の再開申請がなされている。しかし,本件特許については,本件特許発明の課題解決手段の主要な部分がすでに乙1公報に開示されており,無効にされるべきものと認められることは上記のとおりであるから,本件については弁論の再開は不要と考える。
3結論よって,原告両名の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研