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関連審決 異議2003-71323
関連ワード 容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10002号 特許取消決定取消請求事件
原告株式会社湯山製作所
訴訟代理人弁理士伊藤晃,前田厚司
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人一ノ瀬覚,石原正博,寺本光生,森川元嗣,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が異議2003-71323号事件について平成17年11月16日にした異議の決定中,「特許第3347320号の請求項1に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「薬剤包装装置」とする特許第3347320号の特許(平成6年10月21日に出願された特願平6-256542号の一部を新たに分割した特願平11-35957号の一部を新たに分割した特願2001-18865号の一部を分割した特願2001-322424号の一部をさらに新たに分割して,平成14年4月12日に出願。同年9月6日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
平成15年5月20日付けで,本件特許の請求項1に係る発明について,村田元から特許異議の申立てがされ,特許庁は,この申立てを異議2003-71323号事件として審理した。その過程で,原告から,平成17年8月2日付け訂正請求書が提出され,特許庁は,同年11月16日,上記訂正請求を認めた上で,「特許第3347320号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定(以下「異議決定」という。)をし,同年12月5日,異議決定の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲平成17年8月2日付け訂正請求書による訂正後の本件特許の請求項1(請求項は全部で2項である。)は,次のとおりである。
【請求項1】錠剤容器に設けられた識別手段と,前記錠剤容器が装着されて錠剤を供給する錠剤供給手段と,該錠剤供給手段に装着された錠剤容器の前記識別手段を読み取る読取手段と,前記錠剤容器の装着場所を記憶する装着場所記憶手段と,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着されていなければ当該錠剤容器を表示する表示手段とを備え,前記表示手段に錠剤を表示した後,前記装着場所記憶手段に再度問い合わせをし,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着されていなければ,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が前記錠剤供給手段に装着されるまで待機し,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器がオペレータによって前記錠剤供給手段に装着されると,前記読取手段によって前記識別手段を読み取り,その装着場所を前記装着場所記憶手段に新たに記憶するとともに,前記表示手段の表示を消去して,当該錠剤供給手段から錠剤を供給するようにしたことを特徴とする薬剤包装装置。
(以下,異議決定と同様に,請求項1に係る発明を「訂正発明」といい,訂正後の明細書(甲第2号証)を「訂正明細書」という。)3異議決定の理由別紙異議決定の理由の要点は,訂正発明は,特開昭60-82130号公報(甲第1号証。以下,異議決定と同様に,「刊行物1」といい,刊行物1記載の発明を「引用発明」という。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により,本件特許を取り消すというものである。
異議決定は,上記結論を導くに当たり,引用の内容並びに訂正発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明の内容錠剤フィーダに設けられた被検出体と,前記錠剤フィーダが装着されて錠剤を供給する排出部材と,該排出部材に装着された錠剤フィーダの前記被検出体を検出するセンサと,前記錠剤フィーダの装着場所を記憶する配置メモリと,処方に該当する錠剤を収容する錠剤フィーダが装着されていなければ当該錠剤を表示する表示器とを備え,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤フィーダが調剤オペレータによって前記排出部材に装着されると,前記センサによって前記被検出体を検出し,その装着場所を前記配置メモリに新たに記憶するとともに,当該排出部材から錠剤を供給する錠剤の包装装置。
(2)一致点錠剤容器に設けられた識別手段と,前記錠剤容器が装着されて錠剤を供給する錠剤供給手段と,該錠剤供給手段に装着された錠剤容器の前記識別手段を読み取る読取手段と,前記錠剤容器の装着場所を記憶する装着場所記憶手段と,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着されていなければ当該錠剤を表示する表示手段とを備え,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器がオペレータによって前記錠剤供給手段に装着されると,前記読取手段によって前記識別手段を検出し,その装着場所を前記装着場所記憶手段に新たに記憶し,当該錠剤供給手段から錠剤を供給する薬剤包装装置である点(3)相違点訂正発明が,「前記表示手段に錠剤を表示した後,前記装着場所記憶手段に再度問い合わせし,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着されていなければ,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が前記錠剤供給手段に装着されるまで待機」するという構成を有するものであるのに対し,引用発明は,当該事項について言及がない点(以下,異議決定と同様に,「相違点1」という。)訂正発明が,錠剤容器がオペレータによって錠剤供給手段に装着されると,「前記表示手段を消去して」という構成を有するものであるのに対し,引用発明は,当該事項について言及がない点(以下,異議決定と同様に,「相違点2」という。)第3異議決定取消事由の要点異議決定は,訂正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点2についての認定判断を誤り(取消事由2),訂正発明の顕著な効果を看過した(取消事由3)ものであるところ,これらの誤りがいずれも異議決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点認定の誤り)訂正発明では,錠剤容器の装着場所についての情報が一つの装着場所記憶手段(=メモリ)内に格納されるように構成されているのに対し,引用発明では,錠剤識別コード及び錠剤品名が入力装置側に設けられた品名メモリ17に,また,錠剤容器の装着場所が識別コードにより錠剤供給装置側に設けられた配置メモリ14に,それぞれ格納され,品名メモリ17内で錠剤識別コードによって錠剤品名と装着場所とが関連づけられている。したがって,錠剤容器の装着の有無を確認するために,訂正発明では装着場所記憶手段にだけ問い合わせればよいが,引用発明では品名メモリ及び配置メモリという二つの記憶手段に問い合わせるステップを必要とする。
以上のように,訂正発明の装着場所記憶手段と引用発明の配置メモリは構成を異にするものである。しかるに,異議決定は,引用発明の「配置メモリ」が訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当すると認定し,両者の一致点を認定したものであるから,この一致点の認定が誤りであることは明らかである。
2取消事由2(相違点2についての認定判断の誤り)(1)表示手段の表示を,その表示内容が不要になれば,適宜消去することが周知慣用技術であることは認める。しかし,表示手段の表示が不要になった時点より後のどの時点で表示手段の表示を消去するかという消去タイミングを含んだ表示消去技術は,一般的技術又は周知慣用技術とはいえない。すなわち,錠剤容器装着等の一つの行為が行われた後,その行為に関係する何らかのデータの読取が行われ,かつ,そのデータの記憶がされた後に,又は同時的に,表示が自動的に消去されるような技術が本件特許の出願時点において一般的であったとはいえない。例えば,パソコンの起動時にフロッピーディスクがドライブに挿入されていたときにされる起動不可の警告表示や,複写機の紙詰まりの時に表示されるメッセージは,フロッピーディスクや詰まった紙が除去され,表示が不要になった後,その表示を消去するためには,エンターキーの押下や複写機の扉を閉じるなど,オペレーターによる何らかのアクションが必要とされるのが一般的である。
引用発明では,表示を消去しなくても錠剤の排出が可能であるし,表示を消去するにしても,訂正発明のタイミングで表示を消去することが必然的に帰結されることにはならない。
(2)被告の提出する特開平5-221554号公報(乙第1号証。以下「乙1」という。)は画像形成装置すなわち複写機の技術に関するものであり,特開平1-145946号公報(乙第2号証。以下「乙2」という。)はプリンタの技術に関するものであり,訂正発明に係る薬剤包装装置と技術分野が全く相違し,目的ないしは課題に共通性がない。したがって,上記の周知技術を訂正発明に適用する動機付けが存しないから,訂正発明の分野の当業者にとっては,それらを組み合わせることは容易に行えないことである。
(3)訂正発明における消去タイミングを含んだ表示消去技術は,被告のいう「正常作動が開始可能となるタイミング」ではない。訂正発明において,仮に「正常作動が開始可能となるタイミング」があるとすれば,それは,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着された時点である。訂正発明における消去タイミングは,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器の装着,識別手段の読み取り及び装着場所の記憶がセットになったタイミングであって,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着された時点ではない。
したがって,訂正発明における表示の消去タイミングは正常作動が開始可能となるタイミングであり,周知技術に見られる表示消去タイミングと格別相違しないとの被告の主張は失当である。
3取消事由3(顕著な効果の看過)異議決定においては,訂正発明による次の顕著な効果が看過されている。
(1)訂正発明によれば,未装着の錠剤容器を薬剤包装装置に装着したのに表示が消去されない場合は,装着が不完全になっていると瞬時に判断することができる。また,錠剤容器の装着が完全であるのに表示が消去されない場合は,識別手段,読取手段いずれかの不具合を瞬時に推測することができる。
(2)薬剤包装装置においては,「親子カセット」と呼ばれる錠剤容器が一般的に用いられている。訂正発明による薬剤包装装置では,処方に該当する錠剤容器が装着されると表示手段の表示が消去されるので,親子カセットの一方(例えば,子カセット)が収納棚(保管棚)に残っていたとしても,あわててこの子カセットを装着しようとするような混乱を生じるおそれがない。
第4被告の反論の骨子異議決定の認定判断はいずれも正当であって,取消事由はいずれも失当である。
1取消事由1(一致点認定の誤り)について(1)訂正発明の「装着場所記憶手段」については,本件特許の請求項1に,次の記載があり,「装着場所記憶手段」は錠剤容器の装着場所を記憶する機能を有するものである。
ア「前記錠剤容器の装着場所を記憶する装着場所記憶手段」イ「前記表示手段に錠剤を表示した後,前記装着場所記憶手段に再度問い合わせをし,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着されていなければ,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が前記錠剤供給手段に装着されるまで待機し,」ウ「その装着場所を前記装着場所記憶手段に新たに記憶する」(2)刊行物1には,「排出部材(3)(3)…に設置されている錠剤フィーダ(1)(1)…の各識別コードは,適宜の配置メモリ(14)に排出部材(3)(3)…の各配置に対応して記憶される」(3頁左上欄14〜16行)との記載があり,排出部材に配置されている錠剤フィーダの各識別コードを排出部材の各配置に対応して配置メモリに記憶することが記載されており,引用発明の「錠剤フィーダ」は訂正発明の「錠剤容器」に相当するものであるから,引用発明の「配置メモリ」は,「錠剤容器の装着場所を記憶する」という機能(前記(1)アに相当する。)を奏するものである。
また,刊行物1には,「錠剤フィーダ(1)(1)…の設置場所に変更があっても,入力操作によって指示された錠剤が間違いなく排出される」(3頁左下欄15〜17行)との記載もあり,錠剤フィーダの設置場所を変更することも可能であることが記載されている。上記各記載を併せてみると,直接的な記載はなくとも,配置メモリの機能を考慮すれば,錠剤フィーダを新たな装着場所に装着した場合に,装着場所を配置メモリに新たに記憶する(前記(1)ウに相当する。)ものであることが明らかである。
(3)訂正発明における「装着場所記憶手段」について,特許請求の範囲には前記(1)ア〜ウの記載しかないから,刊行物1の実施例における「品名メモリ」の機能まで有するとの特定はされていないし,「装着場所記憶手段」が一つの部材から構成されている旨の特定もない。したがって,引用発明における「品名メモリ」及び「配置メモリ」の両者で初めて訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当するということもできない。
以上のとおり,引用発明の「配置メモリ」が訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当するとの認定に誤りはない。
なお,一般に,電子データを記憶する際に,データを一か所で管理するか,分散して関連づけして管理するかは,電子データの管理をする際に,いずれも広く実施されていたことであり,いずれを選択するかは,当業者であれば所望により適宜選択し得たことにすぎない。したがって,仮に,「配置メモリ」単独で訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当するのではなく,「品名メモリ」及び「配置メモリ」の両者で初めて訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当するとしても,異議決定の結論に影響するような相違点の看過があることにはならない。
2取消事由2(相違点2についての認定判断の誤り)について(1)原告は,表示手段の表示を,その表示内容が不要になれば,適宜消去することが周知慣用技術であることは認めている。このほかに公知の表示・消去の手法としては,異常を検知して表示し,異常を解消するための行為をし,正常に作動可能となった状態を検出して表示の消去を行う技術を示すものとして,乙1及び乙2がある。表示手段の機能を考慮すれば,引用発明の表示手段の表示について,表示内容を表示する必要がなくなったときに消去するようにすることは,必然的になし得たことであると判断したことに誤りはない。
(2)表示を消さなくても,表示と独立して装置自体を作動可能とすることが機構的に可能であることは,原告が例示する技術その他のよく知られた技術においても同様である。引用発明が,表示の消去をしなくても錠剤の排出が可能であるからといって,それが引用発明に周知技術を適用する際の何らの阻害要因となるものでもない。
また,訂正発明の表示の消去のタイミングは,オペレータの錠剤容器の装着という行為があり,これによって正常作動状態が開始可能となるタイミングであり,周知技術における表示を消去するためタイミングと格別相違はなく,当業者であれば容易に選択し得たことである。
3取消事由3(顕著な効果の看過)について(1)訂正発明の表示が消去されない場合における効果として原告が主張するものは,訂正明細書に記載がない。また,表示の消去タイミングを訂正発明のように構成することは,当業者であれば容易に選択し得たことであり,原告の主張する上記の効果は,引用発明及び周知技術から当然に予測される効果にすぎない。
(2)「親子カセット」に関する事項は,本件特許の請求項1にも,訂正明細書発明の詳細な説明にも一切記載がない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(一致点認定の誤り)について原告は,引用発明の「配置メモリ」が訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当するとした異議決定の一致点の認定は誤りであると主張する。
(1)訂正発明の「装着場所記憶手段」については,本件特許の請求項1に,次の記載がある。
ア「前記錠剤容器の装着場所を記憶する装着場所記憶手段」イ「前記表示手段に錠剤を表示した後,前記装着場所記憶手段に再度問い合わせをし,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着されていなければ,前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が前記錠剤供給手段に装着されるまで待機し,」ウ「その装着場所を前記装着場所記憶手段に新たに記憶する」(2)刊行物1には,図面とともに,次の記載がある。
ア「品名メモリ(17)に当該品名とともに登録されている識別コードが読出されて配置メモリ(14)に転送され,これと同一の識別コードに対応した排出部材(3)が作動」(3頁左下欄8〜11行)イ「排出部材(3)(3)…に設置されている錠剤フィーダ(1)(1)…の各識別コードは,適宜の配置メモリ(14)に排出部材(3)(3)…の各配置に対応して記憶される」(3頁左上欄14〜16行)ウ「錠剤フィーダ(1)(1)…の設置場所に変更があっても,入力操作によって指示された錠剤が間違いなく排出される」(3頁左下欄15〜17行)(3)刊行物1においては,上記(2)イのとおり,排出部材に配置されている錠剤フィーダの各識別コードを排出部材の各配置に対応して配置メモリに記憶することが記載されており,引用発明の「錠剤フィーダ」は訂正発明の「錠剤容器」に相当するものであるから,引用発明の「配置メモリ」は,訂正発明の前記(1)アの「錠剤容器の装着場所を記憶する」機能を有するものである。また,前記(2)ウには,錠剤フィーダの設置場所を変更することができる旨の記載があるから,前記(2)イの記載と併せると,直接的な記載はなくても,配置メモリの機能を考慮すれば,錠剤フィーダを新たな装着場所に装着した場合には,装着場所を配置メモリに新たに記憶するものであり,訂正発明における前記(1)ウの機能を奏する。
異議決定が認定した訂正発明と引用発明との一致点のうち,「前記錠剤容器の装着場所を記憶する装着場所記憶手段」の点は,前記(1)アに対応するものであり,「前記処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器がオペレータによって前記錠剤供給手段に装着されると,前記読取手段によって前記識別手段を検出し,その装着場所を前記装着場所記憶手段に新たに記憶し」の点は,前記(1)ウに対応するものである。なお,前記(1)イに相当する訂正発明の構成は,訂正発明と引用発明との一致点ではなく,相違点1の一部として認定されているところ,原告は,異議決定のした相違点1の認定を争うと認否しているが,具体的取消事由は主張していない。
以上のとおり,引用発明の「配置メモリ」は,訂正発明の「錠剤容器の装着場所を記憶する」機能(前記(1)ア)及び「装着場所を前記装着場所記憶手段に新たに記憶する」機能(前記(1)ウ)を有すると認められるから,引用発明の「配置メモリ」が訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当するとし,これを一致点とした取消決定の認定に誤りはない。
(4)原告は,引用発明における「品名メモリ」及び「配置メモリ」の両者で初めて訂正発明の「装着場所記憶手段」に相当すると主張する。
訂正発明における「装着場所記憶手段」について,特許請求の範囲には前記(1)ア〜ウの記載しかないから,刊行物1の実施例における「品名メモリ」の機能まで有するとの特定はされていないし,「装着場所記憶手段」が一つの部材から構成されている旨の特定もない。したがって,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから採用することはできない。
2取消事由2(相違点2についての認定判断の誤り)について(1)原告は,表示手段の表示を,その表示内容が不要になれば,適宜消去することが周知慣用技術であることは認めるが,表示手段の表示が不要になった時点より後のどの時点で表示手段の表示を消去するかという消去タイミングを含んだ表示消去技術は,一般的技術又は周知慣用技術とはいえないと主張する。
訂正明細書の段落【0006】には,「処方に該当する錠剤容器が装着されるまで待機し,装着されると当該錠剤容器から供給するので,直ちに錠剤の供給を行なうことができる。」との記載があり,訂正発明においては,表示手段に表示がされるのは,未装着の錠剤を示してそれが入った錠剤容器の装着を促すことを目的としているから,表示内容が不要となる時点は,表示された錠剤の入った錠剤容器が装着された時点以降であり,これより前の時点となることはない。原告は,目的とする行為(錠剤容器の装着)がされた後,その行為に関係する何らかのデータの読取が行われ,かつ,そのデータの記憶がされた後に,又は同時的に,表示が自動的に消去されるような技術が訂正発明に採用されていると主張しているから,目的とする行為がされたか否かを検出する過程があることを前提にしている。また,訂正明細書の段落【0048】〜【0051】及び【図18】のステップ602から605までによれば,錠剤容器が「装着されていればステップ605でカートリッジ番号表示を消去」(段落【0051】)するから,表示を消去するための条件は,錠剤容器が「装着された」ことが検出されることである。
原告の挙げる第1の例(パソコンの起動時にフロッピーディスクがドライブに挿入されていたときに起動不可の警告表示がされ,フロッピーディスクを除去し,エンターキーを押下すると,起動を再開し,警告表示が消去される。)においては,表示の目的は,フロッピーディスクの除去を促すことにあり,フロッピーディスクの除去が検出されたならば,エンターキーの押下がなくても起動を再開し,警告表示を消去する構成としても差支えはない。
また,第2の例(複写機の紙詰まりのときにメッセージが表示され,詰まった紙を除去し,複写機の扉を閉じると,複写が可能となり,メッセージが消去される。)においても,表示の目的は,詰まった紙の除去を促すことにあり,詰まった紙の除去が検出されたならば,扉を閉じなくても複写可能の状態にし,メッセージを消去する構成としても差支えはない。したがって,原告の挙げる例において,「エンターキーの押下」も「複写機の扉を閉じること」も表示を消去するための条件ではなく,これを要することとするか否かは,設計事項にすぎない。
(2)原告は,乙1及び乙2が訂正発明に係る薬剤包装装置と技術分野が全く相違し,目的ないしは課題に共通性がなく,上記の周知技術を訂正発明に適用する動機付けが存しないから,訂正発明の分野の当業者にとっては,それらを組み合わせることは容易に行えないと主張する。
異議決定においては,「表示手段の表示を,その表示内容が不要になれば適宜消去することは,分野を問わず一般的に行われていること」と認定判断されているのであるから,訂正発明と乙1及び乙2との技術分野の相違を論じても意味がない。また,乙1及び乙2には,異常を検知して表示し,異常を解消するための行為を促し,目的とする行為が行われ,正常に作動可能となった状態を検出したならば,表示の消去を行うことが示されている。したがって,異議決定の認定判断に,原告の主張する誤りはない。
(3)原告は,訂正発明における消去タイミングは,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器の装着,識別手段の読み取り及び装着場所の記憶がセットになったタイミングであって,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着された時点,すなわち,被告のいう「正常作動が開始可能となるタイミング」ではないと主張する。
しかし,原告は,訂正発明において「表示手段の表示の消去は,錠剤容器の装着と錠剤供給の間のタイミングで行われるものであり,かつ,錠剤容器の装着後,識別手段の読み取りと装着場所の記憶をした後のタイミング又はこれらと同時的タイミングで自動的に行われる」と主張しているから,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器の装着,識別手段の読み取り及び装着場所の記憶がほぼ同時であると主張していることになり,技術常識からみてもこれらはほぼ同時である。したがって,訂正発明における表示の消去タイミングは,処方に該当する錠剤を収容する錠剤容器が装着された時点,すなわち「正常作動が開始可能となるタイミング」とほぼ同時であって,周知技術に見られる表示消去タイミングと格別相違しない。
(4)以上のとおり,相違点2についての異議決定の判断に誤りはない。
3取消事由3(顕著な効果の看過)について(1)訂正発明の表示が消去されない場合における効果として原告が主張するもの(未装着の錠剤容器を薬剤包装装置に装着したのに表示が消去されない場合に,装着が不完全であると判断すること。錠剤容器の装着が完全であるのに表示が消去されない場合に,識別手段,読取手段いずれかの不具合を推測すること。)は,表示の消去タイミングを訂正発明のようにすることによって,引用発明及び周知技術から当然に予測される効果にすぎない。
(2)「親子カセット」に関する事項は,特許請求の範囲の請求項1にも,訂正明細書発明の詳細な説明にも一切記載がなく,原告の主張は,明細書の記載に基づかないもので,失当である。
(3)以上のとおり,訂正発明の効果について,異議決定に顕著な効果を看過した誤りはない。
4結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,異議決定を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲