運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2005-5670
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10370審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10140審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10228審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  自然法則 /  反復(反復可能性) /  技術的思想 /  創作性(創作) /  物の発明 /  方法の発明 /  物を生産する方法 /  発明を特定する事項 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  優先権 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  社会通念 /  業として /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10067号 審決取消請求事件
原告X
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理人吉岡浩
同 井関守三
同 山本章裕
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/06/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2005-5670号事件について平成18年12月27日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,後記特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年9月17日,名称を「記号化した対語の羅列化により,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化を理論化する方法」とする発明について特許出願をし(以下「本願」という。請求項の数1。特願2003-363862号),その後何度かにわたり明細書等の補正をしたが,平成17年2月28日拒絶査定を受けた。
そこで原告は,平成17年4月1日付けで不服の審判請求を行ったので,特許庁は同請求を不服2005-5670号事件として審理し,その中で原告は,平成18年7月26日付けで明細書の補正をした(発明の名称を「記号化した対語の羅列化により,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化を理論化する技術」と変更された。)ものの,特許庁は,平成18年12月27日,「本件審判の請求は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本は平成19年2月3日原告に送達された。
(2) 発明の内容平成18年7月26日付け補正後の特許請求の範囲は,請求項1から成り,その内容は次のとおりである(以下「本願発明」という。)。
「宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想を,記号等を用いて理論化することにおいて,記号化した対語だけを用い,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想を,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則だけを利用して(利用してとは,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にしてということである),その記号化した対語を羅列化することで,限定的に,そしてコンパクトに理論化する技術。」(3) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,@本件特許請求の範囲「請求項1」に記載された「技術」に係る発明は,物の発明又は方法の発明のいずれの発明であるか特定できず,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないので,本願は特許法36条6項2号の要件を満たしていない,A本願発明は,特許法2条でいう「自然法則」を利用した「発明」ではない,というものである。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(特許法36条6項2号の要件を満たしていないとの判断の誤り)辞書によれば,「発明」とは「(1)物事の正しい道理を知り,明らかにすること,(2)新たに物事を考え出すこと,(3)機械・器具類,あるいは方法・技術などをはじめて考案すること,(4)かしこいこと」(広辞苑[第五版]2161頁)であり,「(3)機械・器具類,あるいは方法・技術などをはじめて考案すること」との記載を踏まえれば,「技術」という用語も十分に発明に該当する。
また,審決は,「技術」が「わざ,技芸」の意味を有しているという点で,物又は方法のいずれに属するか特定できない概念であるとの判断をしている(6頁9行〜14行)が,その根拠が不明確である。なぜなら,辞書においては,上記のとおり,「発明」も「物事の正しい道理を知り,明らかにすること」の意味を包有し,それは物又は方法のいずれに属するか特定できない概念であって,物であるか方法であるかは,発明の属する法律上のカテゴリーをある程度明確にしているにすぎないからである。
特許法68条,同法2条3項,審査基準第1部第1章2.2.2.1(3)を参照しても,「技術」という用語は,特許法上において明記されていないから,「物又は方法のいずれに属するか特定できない概念」とは断定できる根拠がない。むしろ,特許法上に明記がない以上は,民法の規定である占有権的考え,既得権的考え,社会的通念,優先権的考えに基づいて考えるべきであり,「技術」という用語は「『物又は方法のいずれかに属する概念』であるから,発明に該当する」と解釈するのが妥当であり,既に社会通念となっている。
したがって,本願は,特許法36条6項2号の要件を満たしている。
イ取消事由2(特許法2条でいう「自然法則」を利用した発明ではないとの判断の誤り)(ア)審決は,「特許法第2条の『自然法則』は,…端的にいえば,エネルギー保存の法則,万有引力の法則,熱力学の法則などの自然界の現象に直接関わる法則のことであり(審査基準第2部第1章1.1(1)〜(4)参照)」と判断している(7頁下8行〜5行)。
しかし,「自然法則」は,社会通念では,「自然事象の間に成り立つ,反復可能で一般的な必然的関係。これは規範法則とは異なる存在の法則であり,因果関係を基礎とする。狭義では自然界に関する法則であるが,広義では社会法則,心理法則等のうち規範法則に属さないものを指す。」(広辞苑[第5版]1175頁)とされている。
特許庁の審査基準第2部第1章1.1(4)(甲7)には,「逆…に,発明を特定するための事項に自然法則を利用していない部分があっても,請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは,その発明は,自然法則を利用したものとなる。」と記載されている(2頁8行〜10行)。この記載は,「請求項は自然法則自然法則以外のものだが,全体としてみれば自然法則だから,自然法則として大丈夫である」と言っているようなものであるから,特許法上での「自然法則」は,上記の広義の自然法則,すなわち,社会法則,心理法則等のうち規範法則に属さないものと考えるのが妥当である。
(イ)審決は,「また,本願発明は,4つの思想を,世の中に認知されている定説に基づいて対語のみを用いて表現する行為又はその行為の結果得られる表現物につきるが,社会常識からして,表現を行う行為は著作に当たり,表現物は著作物にあたるから,本願発明は,特許法第2条の『発明』というべきものではない。」と判断している(7頁下1行〜8頁4行)。
単に自然法則のみで言語が羅列ができるという法則であれば,特許法の特許要件を欠くことになるが,本願発明は,自然科学の教育資材,人工知能ソフトウエア等の商品を製造する方法(技術)として,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化を理論化する過程を技術的に特定して出願したものであるから,特許法2条の「発明」に当たるというべきである。
また,言語の羅列は次の3種類の形態に分類できる。すなわち,@「先ず一つ目は,規範法則を利用して言語を羅列化することである。因みに学校などでは規範文法として教えている。」(本願明細書の段落【0003】),A「二つ目は,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則だけを利用して(利用してとは,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にしてということである)言語を羅列化することである。」(段落【0004】),B「三つ目は,規範法則,自然法則のどちらをも根拠とせず,一般に無意味な言語の羅列と言われるものである。なぜなら,何かしらの法則を利用しておらず,人の心の働きや人間の精神活動だけで羅列されたようなものであるからである。」(段落【0005】)。審決が「社会常識からして,表現を行う行為は著作に当たり,表現物は著作物にあたる」という言語の羅列は,上記@,Bである。これに対し,上記Aは,特許法2条に規定する「自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のもの」であって,同条の「発明」に当たる。
(ウ)言語とは「(1)人間が音声または文字を用いて思想・感情・意志など伝達したり,理解したりするために用いる記号体系。また,それを用いる行為。ことば。(2)ある特定の集団が用いる個別の言語体系。
日本語・英語の類。(3)ソシュールの用語で,ラングの訳語。」(広辞苑[第五版]854頁)であり,文字とは「(1)もんじ。字。
(2)ことば。文言。(3)字の音。(4)仮名であらわされる文字の数。すなわち音節数。(5)学問。文章。(6)(畿内で)銭の面の文字のある方。転じて,銭。」(広辞苑[第五版]2642頁)であり,記号とは「(1)一定の事柄を指し示すために用いる知覚の対象物。言語・文字などがその代表的なもので,交通信号のようなものから高度の象徴まで含まれる。また,文字に対して特に符号類をいう。(2)ソシュールによれば,能記または記号表現(シニフィアン)と所記または記号内容(シニフィエ)の両面を備えた言語単位。」(広辞苑[第五版]637頁)である。したがって,言語,文字,記号は,人工の道具であるから,特許権,実用新案権,著作権等の知的財産権として保護すべき対象である。
専門家の間では,記号活動は物理的出来事として再現可能なものであるということは常識である。例として,御領謙,菊地正,江草浩幸共著「最新認知心理学への招待心の働きとしくみを探る」(甲11)では,「情報処理過程とは何らかの事象を記号化し,その結果生まれた記号を操作し,変換する過程であり,コンピュータによる情報処理はまさに記号処理過程である。ところで,コンピュータの誕生の基礎となった理論に,万能機械の理論がある。万能機械とは理論的に考えうるありとあらゆる記号処理の可能な理論的,抽象的な機械である。たとえば,チューリング(Turing,A.)の提案したチューリング・マシン(Turing machine)が有名である。現代のコンピュータはこのチューリング・マシンをその上に実現することができる。つまり,チューリング・マシンが万能機械であるといえるかぎりにおいて,現代のコンピュータは万能機械にほかならない。ひるがえって人間について考えてみると,言語行動はいうに及ばず,身振り,手振り,表情による伝達など,われわれの行動を支えている心的活動はまさにある種の記号活動に他ならない。万能機械はすべての記号活動を実行しうるのであるから,人間の活動を記号化できればそれらをすべて実行しうるわけである。このことは,心的活動を記号活動として捉えうるかぎりは,必ずそれをコンピュータ上で,物理的できごととして再現できることが理論的に保証される可能性を示唆している。」(22頁下1行〜14行)と述べられている。したがって,記号活動は,特許権,実用新案権,著作権等の知的財産権として保護すべき対象である。
平成16年8月9日起案の拒絶理由通知書(甲8)において,特許庁審査官は,「…宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想を,自然法則,社会科学,人文科学の定説を根拠にして,対語を羅列化することは,人間の精神活動そのものであり」と述べている(1頁下14行〜12行)から,自然法則による言語羅列が可能であることは,被告も認めている。
(エ) 以上のとおり,本願発明は特許法2条の「発明」に当たる。
2請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対し審決は,「技術」が発明の概念に該当しないと言っているのではない。また,審決は,「技術」が物又は方法のいずれの概念にも属さないと言っているわけでもない。審決は,「技術」という用語は「わざ,技芸」の意味を有しているが,「わざ,技芸」は,物又は方法のいずれに属するか特定できない概念であると言っているのである。
原告は平成18年7月26日付け意見書の【意見8】(乙4)において,本願発明は「教育資材等の発明であり,同時に方法にもなりうる為に『技術(方法)』と記載したものである。」と主張し,【意見10】において,「【0002】段落の『理論として証明する術』,【0004】段落の『各思想の内容理解を簡潔にし,一般人にも普段馴染みのある対語だけを用いた為に,難解な各思想に容易に親しめる』,【産業上の利用可能性】【0023】段落の『教育資材』の記載等に着目すれば,人間が主体とは言い切れない筈である。これは人間が,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想に,何らかの一連の法則を学習するための技術(道具)である。それは西尾正左衛門殿が発明した特許第27983号の亀の子たわしと何ら異なることはない技術(道具)である。」と主張している。
「技術」という用語は,一般に物又は方法のいずれに属するか特定できない概念であり,本願の特許請求の範囲の記載は,全体として「物の発明」又は「方法の発明」と断定できるほど明確なものではなく,また,原告の意見書の上記主張を参酌すれば,本願の特許請求の範囲に記載された「技術」とは,物の発明方法の発明の両方の概念を含むものと解するのが妥当である。
特許法68条で「特許権者は,業として特許発明実施をする権利を専有する。」とされ,特許法2条3項では「実施」を物の発明,方法の発明及び物を生産する方法の発明に区分して定義している。これらを考慮すれば,「物の発明」であると同時に「方法の発明」である発明に特許を付与することは,権利の及ぶ範囲を不明確にするものであり,適切ではない。
したがって,本願発明は,物の発明又は方法の発明のいずれの発明であるか特定できず,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないので,特許法第36条6項2号の要件を満たしていないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2に対しア特許庁の審査基準第2部第1章1.1(4)(甲7)には,自然法則の利用について,原告が引用する,「逆に,発明を特定するための事項に …自然法則を利用していない部分があっても,請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは,その発明は,自然法則を利用したものとなる。」との記載の他に,「発明を特定するための事項 …に自然法則を利用している部分があっても,請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していないと判断されるときは,その発明は,自然法則を利用していないものとなる。」との記載もある。これらの両方の記載を併せて考えると,発明とは通常発明を特定する事項が複数寄り集まって構成されているものであるが,個々の発明を特定する事項自然法則が利用されている部分があってもなくても,それに基づいて即座に自然法則を利用しているか否かを判断するのではなく,請求項に係る発明を全体として捉えて自然法則を利用しているか否かを判断するべきであることを説示するものである。
イ特許法2条の「自然法則」は,広義の自然法則をいっているのではなく,端的にいえば,エネルギー保存の法則,万有引力の法則,熱力学の法則などの自然界の現象に直接関わる法則のことであり,広義,狭義でいえば,狭義の自然界に関する法則である。したがって,社会法則,心理法則,経済の法則など,狭義の自然界に関する法則以外の法則は,特許法2条の「自然法則」には当たらない。
ウ自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠としていることと自然法則を利用していることとは同義ではない。自然法則を根拠とした定説は,自然法則そのものではなく,自然法則に対する人間の知見が加わった概念と考えられるから,自然法則を根拠とした定説を用いるからといって自然法則を利用することにはならない。
したがって,自然法則を根拠とした定説を利用して対語を羅列化することは自然法則を利用した対語の羅列化とはいえず,原告の主張する二つ目の羅列化(前記1(4)イ(イ)A)についても,社会常識からして,表現を行う行為は著作に当たり,表現物は著作物に当たるとみるのが至当である。
エ以上のとおり,本願発明は,特許法でいう自然法則を利用した発明とはいえないものである。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
事案にかんがみ,取消事由2(特許法2条でいう「自然法則」を利用した発明ではないとの判断の誤り)の有無についてまず判断する。
2取消事由2について(1)ア平成18年7月26日付けの補正後の本願明細書(乙1)の【発明の詳細な説明】の段落【0001】〜【0013】,【0032】〜【0035】には,次の記載がある。
「【技術分野】本発明は,人工知能等において,今まで不可能であった宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の一連の法則(段階)を,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠に,記号化した対語を用いて理論化しようとするものである。」(段落【0001】)「【背景技術】言語を羅列化するということ,また言語の羅列において,次の「0003」,「0004」,「0005」段落で述べられる三種類の形態に分類できる。」(段落【0002】)「先ず一つ目は,規範法則を利用して言語を羅列化することである。因みに学校などでは規範文法として教えている。」(段落【0003】)「二つ目は,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則だけを利用して(利用してとは,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にしてということである)言語を羅列化することである。」(段落【0004】)「三つ目は,規範法則,自然法則のどちらをも根拠とせず,一般に無意味な言語の羅列と言われるものである。なぜなら,何かしらの法則を利用しておらず,人の心の働きや人間の精神活動だけで羅列されたようなものであるからである。」(段落【0005】)「というように,言語を羅列化するということ,また言語の羅列において,以上のように三種類の形態がある。」(段落【0006】)「そして,結論から先に述べれば,先の「0004」段落で述べられた言語羅列を活用すれば,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の一連の法則(段階)を理論化できうる可能性がある。なぜなら,その言語羅列に普遍性が見出せる部分があるからである。」(段落【0007】)「一方,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想は,古来より様々な形で論じられ,実証されてきている。だが,その宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想に,何らかの一連の法則があるとは論じられていても,記号を用いて体系的に理論として証明する術がなかった。また,現状も個別には詳細に研究されてはいても,一般人には「辞書による語彙定義だけである」と言っても良いほどの形式上のもので,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想に,一連の何らかの法則があるという考えについても古来より殆ど進展はない。相変わらず一般人には縁遠く,専門家だけのものであると言っても良い状況である。」(段落【0008】)「しかし,先の「0007」段落で述べたように,「0004」段落で記載された言語羅列を活用すれば,その何らかの一連の法則があるとは論じられていても記号を用いて体系的に理論として証明する術がなかった宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の一連の法則(段階)を,理論化できうる可能性が見出せうる。」(段落【0009】)「理由は「0007」で述べたとおり,その言語羅列に普遍性が見出せる部分があるからである。だが,数多ある言語を羅列化するとなると膨大であり,また複数の意味を持つ言語もある等で,その状況下ではとても理論化できうる状況ではない。また,それは逆に複雑怪奇な印象を与えてしまい,ますます一般人を宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想から遠ざけてしまうという欠点ともなりうる。」(段落【0010】)「そこで,記号化した対語だけを用い,実証された自然法則で根拠付け,その記号化した対語を羅列化する事で,今まで不可能であった宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想を,コンパクトに,そして限定的に理論化することが可能である。そしてそれはまたある意味において,各思想の内容理解を簡潔にし,一般人にも普段馴染みのある対語だけを用いた為に,難解な各思想に容易に親しめるという特徴をも同時に持つものである。」(段落【0011】)「図1-1,図1-2,図1-3,図1-4,図1-5,図1-6は,記号化する対語の定義であり,図2-1,図2-2,図2-3,図2-4,図2-5,図2-6は,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想の範疇に,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にして,図1(図1-1,図1-2,図1-3,図1-4,図1-5,図1-6)で記号化した対語を振り分けしたものである。図3は,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想の範疇に,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にして,図1で記号化した対語を振り分けたものである。図4は,図2(図2-1,図2-2,図2-3,図2-4,図2-5,図2-6)・図3での対語を,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化のそれぞれ思想の範疇で,更に詳細に根拠付けて羅列化したものであり,先ほど説明したコンパクト化に,そして簡潔化に成功したものである。」(段落【0012】)「そして図4での記号化した対語の羅列に,普遍性が見出せるのであれば,理論の定義に照らし合わせる事により,理論として成り立つことになる。つまり,自然法則を利用した理論となる。」(段落【0013】)「図1-1,図1-2,図1-3,図1-4,図1-5,図1-6は,記号化した対語の定義である。」(段落【0032】)「図1-1,図1-2,図1-3,図1-4,図1-5,図1-6で定義付けた記号化した対語は,自然科学,社会科学,人文科学の定説を根拠にして,図2-1,図2-2,図2-3,図2-4,図2-5,図2-6で,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想の範疇を,それぞれの定義に照らし合わせて選別したものである。逆に図3は,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想の範疇に,自然科学,社会科学,人文科学の定説を根拠に,記号化した対語の定義を照らし合わせて振り分けたものである。」(段落【0033】)「図4は,図2(図2-1,図2-2,図2-3,図2-4,図2-5,図2-6)・図3で,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の各思想の範疇に振り分けられた記号化した対語を,その記号概念の対象事物発生順に羅列化したものである。勿論,その羅列化は現代科学(自然科学,社会科学,人文科学)が明らかにした自然法則の事実と定説だけを根拠にして羅列化されたものである。」(段落【0034】)イ本願の【図面】(平成16年3月2日付け補正後のもの。乙2)は,別紙のとおり,図1-1〜6,図2-1〜6,図3,図4から成っている。
そして,図1-1〜6においては,「記号化した対語」として,「丁半」,「上下」,「体用」,「伯叔」等の多くの言葉が記載されている。
図2-1〜6においては,それらの言葉が,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類に分類され,分類の理由が記載されている。例えば,「丁半」は,「文明開化」に分類され,その理由について「丁半という対語が成り立つには,双六がいる。丁を偶数,半を奇数と考える事も出来るが,丁半とは双六の采の目の事である。」と説明されている。「上下」は,「人類誕生」に分類され,その理由について「上下という概念は人類の判断基準である。」と説明されている。「体用」は,「宇宙論」に分類され,「体用という対語が成り立つには,先ず事物がいる。」と説明されている。「伯叔」は,「生命誕生」に分類され,「伯叔という対語が成り立つには,先ず生命がいる。」と説明されている。図3は,図2-1〜6で分類した言葉を,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類に分けて記載したもの,図4は,図3で,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類に分けて記載された言葉を,それぞれの種類の中で順序を付けたものである。
ウ本願の特許請求の範囲「請求項1」の記載を,上記アの【発明の詳細な説明】及びイの【図面】の記載をさんしゃくして解釈すると,特許請求の範囲「請求項1」の「記号化した対語だけを用い,宇宙論,生命誕生, …人類誕生,文明開化の各思想を,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則だけを利用して(利用してとは,自然科学,社会科学,人文科学の自然法則の定説だけを根拠にしてということである),その記号化した対語を数多くの対語となる言葉を,その意味する内容に則 羅列化すること」は,って,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種類の思想に当てはめいうことができる。 て,分類し,連ね並べて整理したことを意味すると(2)特許法2条1項は,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものをいう。」と規定している。
数多くの対語となる言葉を, 本願発明は,前記(1)のようなものであり,その意味する内容に則って,宇宙論,生命誕生,人類誕生,文明開化の4種ものであって,その分 類の思想に当てはめて,分類し,連ね並べて整理した類整理の過程において自然法則を考慮することがあったとしても,発明全体としてみた場合には,言葉(対語)を分類整理したものにすぎず,自然法則を利用しているということはできない。
原告は,自然法則は,辞書では,「自然事象の間に成り立つ,反復可能で一般的な必然的関係。これは規範法則とは異なる存在の法則であり,因果関係を基礎とする。狭義では自然界に関する法則であるが,広義では社会法則,心理法則等のうち規範法則に属さないものを指す。」と定義されている(広辞苑[第5版]1175頁)ところ,特許法2条1項の「自然法則」は,この辞書の定義のうち広義のものを指す,と主張する。しかし,法律の条文にある用語は,必ずしも上記のような一般的辞書によって解釈しなければならないものではなく,これも含めた社会一般通念及び特許法等の当該法律全体の趣旨を踏まえて解釈すべきものである。のみならず,仮に,原告が主張するように広義に解したとしても,本願発明においては,そのような自然法則は,分類整理の過程において考慮されているにすぎず,言葉を分類整理するという発明の内容自体に自然法則の利用があるということはできない。原告の上記主張は失当である。
また原告は,「言語,文字,記号は,人工の道具である」とか「記号活動は物理的出来事として再現可能なものである」などとも主張するが,これらの主張は,何ら上記判断を左右するものではない。
3 結語以上のとおり,本願発明は,特許法2条1項が規定する「発明」に当たらないから,特許法29条1項柱書により特許を受けることができないとした審決の判断は正当として是認できる。
そうすると,取消事由1(特許法36条6項2号の要件を満たしていないとの判断の誤り)について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海