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関連審決 無効2005-80341
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10383審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10485審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10661特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10098審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10055審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  発明特定事項 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  上位概念 /  下位概念 /  同一の発明 /  発明の詳細な説明 /  限定的減縮 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  侵害 /  設定登録 /  請求の理由 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10404号 審決取消請求事件
原告カルソニックカンセイ株式会社
訴訟代理人弁理士三好秀和,岩崎幸邦,工藤理恵
被告株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦,伊藤高順
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/04/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2005−80341号事件について平成18年7月28日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決。
第2事案の概要本件は,特許に対する無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事件であり,原告は無効審判の請求人,被告は特許権者である。
1特許庁における手続の経緯(1)被告は,発明の名称を「ワイヤレス車両制御システム」とする特許第3434934号(平成7年6月7日に出願,平成15年5月30日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲7)。
(2)原告は,平成17年11月29日,本件特許について無効審判の請求をし(無効2005-80341号事件として係属),これに対し,被告は,平成18年2月16日,明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した(甲8)。
(3)特許庁は,平成18年7月28日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年8月9日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲の記載(1)本件訂正前のもの(甲7)【請求項1】送信装置と,車両内で互いに離れた位置に設けられる受信装置および制御装置とを有するワイヤレス車両制御システムにおいて,前記送信装置からの変調された制御信号を受信する受信回路と,受信された前記制御信号を復調し出力する復調回路と,外部信号に応じて前記受信回路および復調回路への給電を開始ないし停止する電源制御回路とを前記受信装置に設け,かつ,単一のCPUにより実現され,給電開始を指令する信号を前記電源制御回路へ発した後,前記復調回路から入力する前記制御信号を識別して識別結果に応じた駆動信号を出力し,その後,給電停止を指令する信号を前記電源制御回路へ発する信号識別回路と,前記駆動信号を入力して所定の車載機器を作動させる駆動回路と,前記信号識別回路へ電源を常時供給する電源供給回路とを前記制御装置に設けたことを特徴とするワイヤレス車両制御システム。
【請求項2】受信状態を検出する受信状態検出回路を前記受信装置にさらに設け,前記信号識別回路は,検出された受信状態が悪い場合には,即座に前記給電停止を指令する信号を発するものであることを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス車両制御システム。
【請求項3】前記受信状態検出回路で検出された受信状態が悪い場合に,前記復調回路からの制御信号の出力を禁止する信号出力禁止回路を前記受信装置にさらに設けたことを特徴とする請求項2に記載のワイヤレス車両制御システム。
【請求項4】前記信号識別回路はさらに,マニュアル操作スイッチの操作信号に応じて前記駆動信号を出力するものである請求項1ないし3のいずれか1つに記載のワイヤレス車両制御システム。
(2)本件訂正後のもの(甲8,本件訂正は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4について,1を削除し,4を独立形式で新たな請求項1とした上,その内容を変更するものである。下線部が訂正個所である。)【請求項1】送信装置と,車両内で互いに離れた位置に設けられる受信装置および制御装置とを有するワイヤレス車両制御システムにおいて,前記送信装置からの変調された制御信号を受信する受信回路と,受信された前記制御信号を復調し出力する復調回路と,外部信号に応じて前記受信回路および復調回路への給電を開始ないし停止する電源制御回路とを前記受信装置に設け,かつ,単一のCPUにより実現され,給電開始を指令する信号を前記電源制御回路へ発した後,前記復調回路から入力する前記制御信号を識別して識別結果に応じた駆動信号を出力し,その後,給電停止を指令する信号を前記電源制御回路へ発する信号識別回路と,前記駆動信号を入力して所定の車載機器を作動させる駆動回路と,前記信号識別回路へ電源を常時供給する電源供給回路とを前記制御装置に設け,前記信号識別回路はさらに,マニュアル操作スイッチの操作信号に応じて前記駆動信号を出力するものであり,前記受信装置にはCPUが設けられていないことを特徴とするワイヤレス車両制御システム。
【請求項2】受信状態を検出する受信状態検出回路を前記受信装置にさらに設け,前記信号識別回路は,検出された受信状態が悪い場合には,即座に前記給電停止を指令する信号を発するものであることを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス車両制御システム。
【請求項3】前記受信状態検出回路で検出された受信状態が悪い場合に,前記復調回路からの制御信号の出力を禁止する信号出力禁止回路を前記受信装置にさらに設けたことを特徴とする請求項2に記載のワイヤレス車両制御システム。
3審決の理由の要点審決の理由は,要するに,本件訂正を認めるとした上,無効審判請求の理由及び提示した証拠によっては,本件特許を無効とすることはできない,というものである。
( ) 訂正請求は違法との主張に対する検討 1訂正事項である「受信装置にはCPUが設けられていない」は,受信回路,復調回路等の回路を設けている受信装置に「CPUが設けられていない」という発明特定事項を付加することで,受信装置を上位概念から下位概念に限定した,限定的減縮(所謂,内的付加)に相当するものであるから,請求人が主張するような新たな構成要件を付加(所謂「構成要件の外的付加」)するものではなく,前記訂正事項である「受信装置にはCPUが設けられていない」は,実質上特許請求の範囲変更するものではない。
したがって,「受信装置にはCPUが設けられていない」という限定事項の付加に対しては,請求人が主張するような違法性はない。
請求人の主張によれば,そもそも,特許請求の範囲限定的減縮(所謂,内的付加)すらできないということになる。
( ) 訂正の容認2本件訂正は,平成6年法律第116号附則6条1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法134条2項ただし書に掲げる事項を目的とし,特許法134条の2第5項において準用する平成6年法律第116号附則6条1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法126条2項に規定する要件に適合するので,当該訂正を認める。
( ) 訂正後の本件特許発明3本件特許の各請求項に係る発明は,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものと認める。
なお,請求項1については,便宜上,構成要件ごとに分説して符号を付して記載する。
【請求項1】A1 送信装置と,A2 車両内で互いに離れた位置に設けられる受信装置および制御装置とを有するワイヤレス車両制御システムにおいて,B1 前記送信装置からの変調された制御信号を受信する受信回路と,B2 受信された前記制御信号を復調し出力する復調回路と,B3 外部信号に応じて前記受信回路および復調回路への給電を開始ないし停止する電源制御回路とを前記受信装置に設け,C1 かつ,単一のCPUにより実現され,C2 給電開始を指令する信号を前記電源制御回路へ発した後,前記復調回路から入力する前記制御信号を識別して識別結果に応じた駆動信号を出力し,その後,給電停止を指令する信号を前記電源制御回路へ発する信号識別回路と,D前記駆動信号を入力して所定の車載機器を作動させる駆動回路と,E前記信号識別回路へ電源を常時供給する電源供給回路とを前記制御装置に設け,I前記信号識別回路はさらに,マニュアル操作スイッチの操作信号に応じて前記駆動信号を出力するものであり,J前記受信装置にはCPUが設けられていないFことを特徴とするワイヤレス車両制御システム。
(この訂正後の請求項1に係る発明を,以下「本件特許発明」という。)【請求項2】受信状態を検出する受信状態検出回路を前記受信装置にさらに設け,前記信号識別回路は,検出された受信状態が悪い場合には,即座に前記給電停止を指令する信号を発するものであることを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス車両制御システム。
【請求項3】前記受信状態検出回路で検出された受信状態が悪い場合に,前記復調回路からの制御信号の出力を禁止する信号出力禁止回路を前記受信装置にさらに設けたことを特徴とする請求項2に記載のワイヤレス車両制御システム。
( ) 無効理由の検討4ア 甲号証刊行物[審判甲1(本訴甲1,以下「甲1」という。)]実願平4-32863号(実開平5-91996号)のCD-ROM(構成要件A1)に関して段落【0016】(1〜2行)「図示しない携帯型送信機」(構成要件A2)に関して段落【0016】(1行目)「受信回路としての高周波ユニット15」段落【0017】(1〜2行)「制御回路としてのCPU17」段落【0013】(3行目)「自動車用負荷制御装置」したがって,甲1には,「受信回路としての高周波ユニット15及び制御回路としてのCPU17とを有する自動車用負荷制御装置」が記載されている。
(構成要件B1)に関して段落【0016】(1〜7行)「受信回路としての高周波ユニット15は,・・・携帯型送信機から送信されてくる・・・高周波電波信号を・・・受信できるように構成されており,・・・電波信号は,・・・自動車用ドアロック機構16の解錠を指令する第1の遠隔操作信号と,施錠を指令する第2の遠隔操作信号とを送信可能となっており」(構成要件B2)に関して段落【0016】(4〜5行)「電波信号を受信したときには,その電波信号を検波して検波信号Sdを出力する。」(構成要件B3)に関して段落【0020】(3〜6行)「この保持信号Shは,インバータ19によりローレベル信号に反転されてトランジスタ13のベースに与えられるものであり,これに応じてトランジスタ13がオンされて高周波ユニット15に給電された状態となる。」段落【0022】「これに対し,時間τ内に検波信号Sdが入力された場合(ステップS4で「YES」)には,その検波信号Sdを解読するルーチンS8を実行した後に,その解読検波信号Sd中に・・・シリアル暗号コードが含まれているか否かを判断する(ステップS9)。ここで,「NO」と判断した場合,つまり…場合には,前記検波信号Sdの入力の有無を所定の短時間τだけ判断するループ(ステップS4,S5)へ移行するが,「YES」と判断した場合には動作制御ルーチンS10を実行する。」(構成要件C1)に関して図1には「単一のCPU」が記載されている。
(構成要件C2)に関して段落【0020】(3〜6行)「この保持信号Shは,インバータ19によりローレベル信号に反転されてトランジスタ13のベースに与えられるものであり,これに応じてトランジスタ13がオンされて高周波ユニット15に給電された状態となる。」段落【0022】「時間τ内に検波信号Sdが入力された場合(ステップS4で「YES」)には,その検波信号Sdを解読するルーチンS8を実行した後に,その解読検波信号Sd中に前記第1及び第2の遠隔操作信号が有するシリアル暗号コードが含まれているか否かを判断する(ステップS9)。・・・「YES」と判断した場合には動作制御ルーチンS10を実行する。」段落【0024】(4〜6行)「ドアロック機構16の動作制御が行われたときには,その制御動作の終了に応じた保持信号Shの出力停止により,トランジスタ13がオフされて受信回路15への給電が停止されるものであり,」(構成要件D)に関して段落【0023】「この動作制御ルーチンS10では,検波信号Sd中に第1の遠隔操作信号が含まれていた場合に,ドライバ18を通じてドアロック機構16の解錠動作を実行し,第2の遠隔操作信号が含まれていた場合に,ドライバ18を通じてドアロック機構16の施錠動作を実行する。」(構成要件E)に関して段落【0017】(1〜2行)「常時において車載バッテリ11からヒューズ11aを介して給電される制御回路としてのCPU17は,」(構成要件F)に関して段落【0002】(2〜3行)「自動車用ドアロック機構の解錠及び施錠動作を,運転者が携帯した端末装置からの遠隔操作用電波信号により行い得るようにしたシステム」[審判甲4(本訴甲4,以下「甲4」という。)]特開平6-229153号公報ドアロック制御装置であって,「この受信機8は,受信部8a,メモリー部8b,CPU8cから構成されている。受信部8aは,受信アンテナ2から取り入れた識別情報の受信と復調を行う部分である。」と記載されている(段落【0016】及び図2参照)。
図2及びこの記載に基づけば,甲4の受信部8aは本件特許発明の受信回路及び復調回路に相当し,甲4の受信機8は本件特許発明の受信装置に相当し,さらに,本件特許発明の受信装置に相当する受信機8にCPU8cが設けられていると解することができる。
[審判甲5(本訴甲5,以下「甲5」という。)]特開昭59-80872号公報車上電磁ドアロック装置であって,「SW4はマニュアルロック/アンロックスイッチであり,CPUのプルアップされた入力ポートP6およびP7に接続されている」(5頁右上欄8〜11行)「マニュアルスイッチSW4がロック又はアンロックに操作されると,それぞれロック又はアンロック動作を行なう。」(5頁右下欄8〜10行)これらの記載と第3図の記載を総合すると,甲5には,「マニュアルロック/アンロックスイッチSW4からの信号をマイクロコンピュータCPUに入力し,該CPUの出力によりロック又はアンロック動作を行う車上電磁ドアロック装置」に関する技術事項が記載されているものと認められる。
イ 対比,判断本件特許発明と甲1に記載の発明とを対比する。
(構成要件A1)に関して甲1に記載された「図示しない携帯型送信機」は,本件特許発明のワイヤレス車両制御システムを構成する「送信装置」に相当するので,構成要件A1は,甲1に記載されている。
(構成要件A2)に関して甲1に記載された「受信回路としての高周波ユニット」,「制御回路としてのCPU」及び「自動車用負荷制御装置」は,本件特許発明を構成する「受信装置」,「制御装置」及び「ワイヤレス車両制御システム」に相当するので,構成要件A2は,甲1に記載されている。
(構成要件B1)に関して甲1に記載された「受信回路15」は第1,第2遠隔操作信号を受信するものであるから,本件特許発明を構成する「制御信号を受信する受信回路」と同一であるから,構成要件B1は,甲1に記載されている。
(構成要件B2)に関して甲1に記載された「検波信号Sd」は制御回路であるCPUに入力されるのであるから,本件特許発明と同様に復調されていることは明らかであり,復調回路が存在することは明らかであるから,構成要件B2は,甲1に記載されている。
(構成要件B3)に関して甲1に記載された発明において,外部信号である検波信号が解読され,シリアル暗号コードの有無によりステップS4,S5へ移行したり動作制御ルーチンS10を実行するということは,受信回路及び復調回路への給電を制御していることであり,電源制御回路を有していることである。構成要件B3は,甲1に記載されている。
(構成要件C1)に関して甲1の図1には「単一のCPU」が記載されているので,構成要件C1も甲1に記載されている。
(構成要件C2)に関して甲1に記載された発明において,保持信号Shがトランジスタ13をオンして給電を開始した後,制御回路17(CPU)は高周波ユニットからの検波信号Sdを識別・判断し,ドアロック機構の制御動作終了に応じた保持信号Shの出力停止により受信回路への給電停止を指令しているので,制御回路には信号識別回路が組み込まれていることが明らかであるから,構成要件C2は,甲1に記載されている。
(構成要件D)に関して甲1に記載された発明において,検波信号中の第1,第2遠隔操作信号の有無に基づいて,ドライバ18を介してドアロック機構を動作させるのであるから,ドライバ18は本件特許発明の駆動回路ということになり,構成要件Dも甲1に記載されている。
(構成要件E)に関して甲1に記載された「制御回路(CPU17)」は,常時において車載バッテリ11からヒューズ11aを介して給電されているのであるから,制御回路中の信号識別回路にも常時給電されていることは明らかであり,構成要件Eも甲1に記載されている。
(構成要件F)に関して甲1に記載されたドアロック機構の解錠・施錠を遠隔操作用電波信号により作動制御するものであるから,構成要件Fは,甲1に記載されている。
以上の対比から,両者は,前記構成要件A1,A2,B1,B2,B3,C1,C2,D,E及びFを備えた発明である点で一致し,以下の点で相違しているものと認められる。
<相違点1>本件特許発明が,「前記信号識別回路はさらに,マニュアル操作スイッチの操作信号に応じて前記駆動信号を出力するもの」(構成要件I)であるのに対して,甲1に記載の発明では,そのような構成を備えていない点<相違点2>本件特許発明が,「前記受信装置にはCPUが設けられていない」(構成要件J)のに対して,甲1に記載の発明は,受信装置(高周波ユニット)がCPUを有しているか否か不明である点これらの相違点について検討する。
<相違点1>について本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5には,「マニュアルロック/アンロックスイッチSW4からの信号をマイクロコンピュータCPUに入力し,該CPUの出力によりロック又はアンロック動作を行う車上電磁ドアロック装置」に関する技術事項が記載されており,すなわち,このことは本件特許発明の「信号識別回路は,マニュアル操作スイッチの操作信号に応じて駆動信号を出力するもの」と同じことであるから,この技術を甲1記載の発明に採用することによって前記相違点1でいう本件特許発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
<相違点2>について請求人が前記<相違点2>に対して追加提示した甲4には,前記したように「受信装置にはCPUが設けられている」ものが記載されているから,これとは逆に「受信装置にはCPUが設けられていない」もの(本件特許発明の<相違点2>でいう構成)を想到することは,以下の顕著な効果に鑑みれば技術的に困難性があるといわざるを得ない。
そして,本件特許発明では,「システムスタンバイ状態での消費電流は大きく低減される。また,受信装置にCPUを設ける必要がないから,受信装置全体が小型となり,インパネ等に容易に設置することができる。また単一のCPUにより実現される信号識別回路によって,マニュアル操作スイッチによる車載機器の作動が可能である。」という特許明細書に記載の顕著な効果を発現するものと認められるので,結局,本件特許発明は,甲1記載の発明,甲4記載の発明及び甲5記載の発明から容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 本件請求項2,3に係る特許発明について本件請求項2,3に係る特許発明は,本件特許発明の構成を全て含み,更に,限定事項を付加したものであるから,本件特許発明が前述したとおり進歩性を有するものである以上,本件請求項2,3に係る特許発明も本件特許発明と同様の理由により進歩性を有するものであるのは明らかである。
エ 請求人が提示した他の証拠についての検討請求人が審判請求書で提示した審判甲2(公知文献)及び審判甲3(先願明細書)と審判甲6(公知文献)には,それぞれ概略以下のことが記載されている。
[甲2]特開昭63-312482号公報車両用のワイヤレス・ドアロック制御装置であって,3頁左上欄17〜20行に「出力回路23の出力はソレノイド30の制御に用いられるが,同様のことはマニュアル式のロック/アンロックSW34によっても行うことができる。」と記載されている。すなわち,ロック/アンロックSW34から直接ソレノイド30を制御しており,「信号識別回路がマニュアル操作スイッチの操作信号に応じて駆動信号を出力する」ことはしていない。
したがって,甲2は,本件特許発明構成要件I(前記相違点1)を開示するものではなく,前記相違点2を示唆するものでもない。
[甲3] 特開平7-309135号公報車載FM受信器(受信装置に相当)内に受信モジュール(受信回路,復調回路に相当)及び制御部(信号識別回路に相当)を備えたキーレス/セキュリティシステムが記載されている。甲3には,本件特許発明構成要件A2,すなわち,「受信装置と信号識別回路が設けられている制御装置とを車両内で互いに離れた位置に設ける。」ことが開示されていない。
なお,甲3は,旧請求項1〜3に対して拡大先願を規定する特許法29条の2の規定に違反するとして提示された無効理由の証拠である。
旧請求項4は,もともと特許法29条の2の無効理由になっておらず,ましてや旧請求項4に更に限定事項である「前記受信装置にはCPUが設けられていない」を付加した訂正後の新たな請求項1〜3に対しては,特許法29条の2の規定に違反するという無効理由が存在しないのは明らかである。
[甲6]特公平3-66478号公報請求人が提示した甲6も,ループアンテナ10,41a〜41dの開示があるのみで,立証しようとしている本件特許発明構成要件である「CPUを設けていない受信装置」を「信号識別回路を設けた制御装置」と車両内で互いに離れた位置に設けることを立証できるものではない。
( ) 審決のむすび5以上のとおり,無効審判請求の理由及び提示した証拠によっては,本件請求項1〜3に係る発明の特許を無効とすることはできない。
また,本件請求項1〜3に係る発明の特許について,他に無効とすべき理由も発見しない。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(訂正の容認の判断の誤り)審決は,訂正事項である「受信装置にはCPUが設けられていない」は,受信回路,復調回路等の回路を設けている受信装置に「CPUが設けられていない」という発明特定事項を付加することで,受信装置を上位概念から下位概念に限定した,限定的減縮(いわゆる,内的付加)に相当するから,実質上特許請求の範囲変更するものでないとして,本件訂正を認めた。
ア訂正前は,「受信装置にはCPUが設けられていない」との限定がされていないから,受信装置にCPUが設けられている場合も含まれていることとなり,受信装置のCPUは,「十分な電界強度がある場合に制御信号1a中の制御コードを識別」する機能等を実現していた(当初明細書の段落【0004】)。
ところが,本件特許発明は,「受信装置にはCPUが設けられていない」から,訂正前における受信装置のCPUの機能は,本件特許発明における制御装置のCPUが果たすように変更された。換言すれば,制御装置のCPUは,本件訂正の前後において,その果たす機能が変更され,その結果,本件特許発明は,訂正前の特許発明とは実質的に変更されたものとなった。
そうであるから,本件訂正は,実質上特許請求の範囲変更するものであって,容認されるべきものでない。
イ訂正前の特許請求の範囲は,「前記受信装置にはCPUが設けられていない」ことを構成要件としていないから,受信装置にCPUが設けられている場合も含んでいる。ところが,当初明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】ないし【0016】並びに実施例に係る図1,4及び5を参照すると,当初明細書に開示された発明は,「前記受信装置にはCPUが設けられていない」ものに限られている。そうすると,訂正前の特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を規定する平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項1号(以下「特許法旧36条5項1号」という。)に違反するものであって,無効理由がある。ところで,特許権等の侵害に係る訴訟において,当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者等は,相手方に対しその権利を行使することができない(特許法104条の3第1項)から,訂正前は,実際上権利を行使することができないものであったが,本件訂正が認められると,上記無効理由が解消し,特許権者等は権利を行使できることになる。すなわち,本件特許発明実施する第三者は,訂正前には権利の行使を受ける可能性がなかったにもかかわらず,訂正後には権利の行使を受ける可能性があることになるから,このような場合,訂正がたとえ特許請求の範囲減縮に該当するとしても,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項に規定する実質上特許請求の範囲変更するものに該当するとして,訂正は認められるべきではない。
また,仮に本件特許発明同一の発明について同日にした第三者の特許出願があったときは,特許法39条2項の規定する法的問題が発生するが,本件特許発明は訂正前の特許発明と同一でないから,訂正前には同項の規定する法的問題が発生していない。そうすると,訂正前には同項の規定する法的問題が発生していなかったにもかかわらず,訂正後には同項の規定する法律問題が発生し,これにより,第三者の利益を害し,法的安定性を損なう結果になる可能性があるから,このような訂正は,本来認められるべきではない。
ウしたがって,本件訂正を認めた審決の判断は,誤りである。
(2)取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)ア相違点2の認定の誤りについて審決は,本件特許発明と甲1に記載の発明との相違点2として,「本件特許発明が,「前記受信装置にはCPUが設けられていない」(構成要件J)のに対して,甲1に記載の発明は,受信装置(高周波ユニット)がCPUを有しているか否か不明である点」であると認定した。
甲1には,段落【0016】に,「受信回路としての高周波ユニット15は,携帯型送信機から送信されてくる空中電波信号としての高周波電波信号をアンテナ15aを介して受信できるように構成されており,電源ライン12を介して給電された状態で電波信号を受信したときは,その電波信号を検波して検波信号Sdを出力する。」と,段落【0017】には,「制御回路としてのCPU17は,高周波ユニット15からの検波信号Sdを受けるようになっている。」と,段落【0020】には,「CPU17は,タイマ時間Tが24時間以下であった場合には,そのウェークアップ毎にトランジスタ13をオンさせて高周波ユニット15に給電するものである。」と記載されている。甲1に記載された「受信回路15」(高周波ユニット)は,アンテナ15aを介して電波信号を受信し,当該電波信号を検波して検波信号をCPU17に出力するとともに,CPU17からの制御により給電されるというものであって,CPUを備えていない。このことは,甲1の図1の全体構成及び図2や図4のフローチャートから考えても明らかである。
そうすると,甲1に記載の発明も,受信装置(高周波ユニット)がCPUを有していないものであるから,この点を相違点2とした審決の認定は,誤りである。
イ相違点2の判断の誤りについて審決は,甲4には,「受信装置にはCPUが設けられている」ものが記載されているから,これとは逆に「受信装置にはCPUが設けられていない」ものを想到することは,本件特許発明の顕著な効果にかんがみれば,技術的に困難性があるとして,本件特許発明は,甲1記載の発明,甲4記載の発明及び甲5記載の発明から容易に想到し得たものとはいえないと判断した。
本件特許発明の車両制御システムには,単一のCPUが存在し,この単一のCPUによって本件特許発明の車両制御システムを実現している。「前記受信装置にはCPUが設けられていない」という本件特許発明構成要件Jの技術的意義は,図1に明確に示されているように,車両制御装置2が有する単一のCPU21がCPUとして必要な機能を全て果たす点にある。
ところで,車両制御システムにおいて,単一のCPUによってCPUとしての全ての機能を果たすようにしたものは,甲4に示されている。すなわち,甲4の図2には,CPU8cが示されていて,当該CPU8cが車両制御システムとして必要な制御のためのCPUとしての全ての機能を果たしている。
甲4の図2では,受信機8の点線枠の中にCPU8cが示されているが,車両制御システムにおいて,単一のCPUがCPUとしての全ての機能を果たすという点においては,本件特許発明も,甲4記載の発明も同じである。本件特許発明において,技術的意義からみて重要なことは,単一のCPUがCPUとしての全ての機能を果たすという点であり,単一のCPUをどこに配置するかという点にあるのではない。しかも,受信装置と制御装置とを互いに離れた位置に設けることは,本件特許発明の特許出願時において周知であった(実開平5-77474号のCD-ROM(甲9)の図1,特開平5-231057号公報(甲10)の図2,特開昭62-258073号公報(甲11)の図1参照)。
単一のCPUをどこに配置するかは,まさに設計事項に相当するものであり,また,受信装置にCPUを設けないことによる効果は,消費電力の低減,受信装置全体の小型化及び設置の容易さである(訂正明細書の段落【0014】ないし【0016】)が,このような一般的な効果は,当業者が予測することができないような格別な効果ではない。
そうすると,本件特許発明が,甲1記載の発明,甲4記載の発明及び甲5記載の発明から容易に想到し得たものとはいえないとした審決の判断は,誤りである。
2被告の反論(1)取消事由1(訂正の容認の判断の誤り)に対してア受信装置のCPUが「十分な電界強度がある場合に制御信号1a中の制御コードを識別」する機能は,当初明細書の段落【0004】ないし【0008】の記載から明らかなように,従来技術を前提とするものである。そして,当初明細書の段落【0009】ないし【0010】の記載によれば,訂正前における受信装置は,本来的にCPU17を設けていないものを前提としているのであって,訂正前も,訂正後も,制御装置に設けられた単一のCPUにより実現される信号識別回路制御によって制御信号を識別する点は変わっていないから,制御信号の識別に関して,訂正の前後において,信号識別回路の機能は何ら変更されていない。
そうであるから,本件訂正は,実質上特許請求の範囲変更するものではない。
イ訂正前の特許請求の範囲は,「受信装置にCPUが設けられている」ものに限定していないから,「受信装置にCPUが設けられている」ことは訂正前の特許発明の構成に欠くことができない事項でもなく,また,「受信装置にCPUが設けられている」ことによる作用効果も記載していない。むしろ,訂正前は,「受信装置にCPUが設けられている」ものを積極的に除外しているのであるから,当初明細書に,「受信装置にCPUが設けられている」実施形態が開示されていないとしても,特許法旧36条5項1号に違反するものではない。なお,付言すれば,本件訂正は,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものではないから,本件特許発明実施する第三者は,必然的に訂正前の特許発明をも実施していたことになるのであって,本件特許発明を訂正前に実施する第三者が,本件訂正が認められた後に引き続き本件特許発明実施しても,訂正前と異なる新たな不利益を被ることはない。
また,特許法39条2項が規定する法的問題については,その前提となる事実を明らかにしないで空論のみの主張に終始しているのであって,特許発明を訂正すること自体が特許法39条2項が規定する法的問題を発生するかのような極端な見解である。しかも,本件訂正は,実質上特許請求の範囲拡張し又は変更するものではないから,本件訂正が認められても,第三者の利益を害するものではなく,法的安定性を損ねるものでもない。
ウしたがって,本件訂正を認めた審決の判断に誤りはない。
(2)取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)に対してア相違点2の認定の誤りについて車両は,駐車場所や周囲,車内の状況に依存してノイズの影響を受けるものであって,識別コード等の複雑なコード体系を有する送信装置からの制御信号は,ノイズの影響を受けると信号識別回路において正しく識別することができなくなるおそれがあるから,受信回路,復調回路及び信号識別回路等は,一体にして電波環境の良い同じ場所に配置し,ノイズの影響をなるべく受けないようにしている。甲1の図1において,高周波ユニット15とCPU17が受信装置の設置場所や体格について何ら考慮されていない以上,当業者であれば,ノイズが検波信号Sdに重畳して該検波信号SdがCPU17において識別することができなくなったり,ノイズによってトランジスタ13が誤動作したりしてしまうことを優先的に考慮して装置を設計するのが常識であり,このような常識によれば,高周波ユニット15とCPU17とが車両内で互いに離れた位置に配置されるとは考えられないから,本件明細書に記載された従来技術のように,1つの受信装置内に配置されると考えるのが至極自然である。すなわち,甲1の高周波ユニット15は,従来技術の受信装置1内に配置された受信回路11及び復調回路12に相当し,甲1のCPU17は,従来技術の受信装置1内に配置されたCPU17に相当し,甲1のトランジスタ(スイッチング回路)13は,従来技術の受信装置1内に配置された電源制御回路13に相当する。
そうすると,甲1に,「受信装置にはCPUが設けられていない」ことは記載されていないことになるから,本件特許発明と甲1に記載の発明との相違点2が,「本件特許発明が,「前記受信装置にはCPUが設けられていない」(構成要件J)のに対して,甲1に記載の発明は,受信装置(高周波ユニット)がCPUを有しているか否か不明である点」であるとした審決の認定に誤りはない。
イ相違点2の判断の誤りについて本件特許発明に係る請求項1の記載によれば,単一のCPUが実現する信号識別回路は,@給電開始を指令する信号及び給電停止を指令する信号を電源制御回路に発し,A復調回路から入力する制御信号を識別して識別結果に応じた駆動信号を出力するとともに,マニュアル操作スイッチの操作信号に応じて駆動信号を出力する,という機能を果たしているということができる。これに対し,甲4には,図2に示されたCPU8cが上記@及びAの機能を果たすことが開示されていないから,本件特許発明と甲4記載の発明とでは,単一のCPUがCPUとしての全ての機能を果たすという点において同じであるとはいえない。そして,本件特許発明は,構成要件Jの「受信装置にはCPUが設けられていない」との構成を採用することにより,受信装置全体が小型となり,インパネ等に容易に設置することができるという効果を得ることができるのであるから,CPUの配置場所を考慮して「受信装置にCPUが設けられていない」こととすることには,大きな技術的意義がある。確かに,受信装置と制御装置とを互いに離れた位置に設けることは,本件特許発明の特許出願時において周知であったが,本件特許発明は,車両内に受信装置と制御装置とをどのように配置し,また,CPUをどこに配置し,さらにCPU(=単一のCPUにより実現される信号識別回路)にどのような機能を果たさせるかを総合的,有機的に結び付けたものであって,単一のCPUをどこに配置するかという点は,単なる設計事項にとどまらない。
そうであるから,本件特許発明は,甲1記載の発明,甲4記載の発明及び甲5記載の発明から容易に想到し得たものとはいえないとした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(訂正の容認の判断の誤り)について(1)本件特許発明に係る請求項1の「前記送信装置からの変調された制御信号を受信する受信回路と,受信された前記制御信号を復調し出力する復調回路と,外部信号に応じて前記受信回路および復調回路への給電を開始ないし停止する電源制御回路とを前記受信装置に設け,」との受信装置の構成は,本件訂正の前後で何ら変更されたものではなく,また,訂正前の請求項1は,受信装置にCPUが設けられている点を特定したものでもない。「受信装置にはCPUが設けられていない」との訂正事項は,上記のように,受信回路,復調回路及び電源制御回路からなる受信装置の構成を更に限定しようとするものであって,実質上特許請求の範囲変更するものであるということはできない。
(2)原告は,訂正前においては,受信装置にCPUが設けられている場合をも含まれることを前提に,上記第3の1(1)のように主張するが,上記(1)のとおり,訂正前の請求項1は,受信装置にCPUが設けられている点を特定したものではなく,「受信装置にはCPUが設けられていない」との訂正事項は,受信回路,復調回路及び電源制御回路からなる受信装置の構成を更に限定しようとするものであるから,原告の主張は,異なる前提に基づくか,又は独自の見解に立つものであって,採用することができない。
(3)したがって,訂正事項である「受信装置にはCPUが設けられていない」が実質上特許請求の範囲変更するものでないとした審決の判断に誤りはないから,取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(相違点2の認定判断の誤り)について(1)相違点2の認定の誤りについてア本件特許発明の信号識別回路(CPU)について(ア)本件特許発明構成要件である「受信装置」には,CPUが設けられていないことは,請求項1に「前記受信装置にはCPUが設けられていない」(構成要件J)との記載があることから明らかである。もっとも,この請求項1の記載は,受信装置とCPUとの物理的な関係を特定しているだけであって,受信装置とCPUとの機能的な関係を特定しているものではなく,ましてや,受信装置の構成要素である受信回路,復調回路及び電源制御回路とCPUとの関係を特定しているものでもない。
(イ)請求項1に,「単一のCPUにより実現され,給電開始を指令する信号を前記電源制御回路へ発した後,前記復調回路から入力する前記制御信号を識別して識別結果に応じた駆動信号を出力し,その後,給電停止を指令する信号を前記電源制御回路へ発する信号識別回路」,「前記信号識別回路はさらに,マニュアル操作スイッチの操作信号に応じて前記駆動信号を出力するものであり,」と記載されているように,「信号識別回路」は,@給電開始及び給電停止を指令する信号を(受信回路及び復調回路への給電を制御する)電源制御回路へ発すること,A復調回路からの制御信号を識別してその結果に応じた(所定の車載機器を作動させるための)駆動信号を出力すること,Bマニュアル操作スイッチの操作信号に応じて駆動信号を出力することを実現するための構成要素として,単一のCPUが特定されている。
(ウ)また,請求項1に,「かつ,単一のCPUにより実現され,給電開始を指令する信号を前記電源制御回路へ発した後,前記復調回路から入力する前記制御信号を識別して識別結果に応じた駆動信号を出力し,その後,給電停止を指令する信号を前記電源制御回路へ発する信号識別回路と,前記駆動信号を入力して所定の車載機器を作動させる駆動回路と,前記信号識別回路へ電源を常時供給する電源供給回路とを前記制御装置に設け,」と記載されているように,「信号識別回路」は,駆動回路及び電源供給回路とともに制御装置に設けられ,かつ,この制御装置は,受信装置とは「車両内で互いに離れた位置に設けられる」ものであって,CPUを有しない受信装置とCPUを有する制御装置とは,車両内で互いに離れた位置に設けられているものとして特定されているが,車両内での配置場所までは特定されていない。
イ甲1に記載の発明のCPUについて(ア)甲1には,CPU17について,次の記載がある。
「制御回路としてのCPU17は,車載バッテリ11からヒューズ11aを介して給電されると共に,発振器14からのパルス信号Sp及び高周波ユニット15からの検波信号Sdを受けるようになっている。この場合,CPU17は,・・・,前記発振器14からのパルス信号Spを受ける毎に起動されてウェークアップ状態に切換えられる構成となっており,そのウェークアップ状態では,検波信号Sdの内容及び予め設定されたプログラムに基づいて,ドライバ18を介したドアロック機構16の動作制御並びにインバータ19を介したトランジスタ13のオンオフ制御を行う」(段落【0017】)「この保持信号Shは,インバータ19によりローレベル信号に反転されてトランジスタ13のベースに与えられるものであり,これに応じてトランジスタ13がオンされて高周波ユニット15に給電された状態となる。」(段落【0020】)「時間τ内に検波信号Sdが入力された場合(ステップS4で「YES」)には,その検波信号Sdを解読するルーチンS8を実行した後に,その解読検波信号Sd中に前記第1及び第2の遠隔操作信号が有するシリアル暗号コードが含まれているか否かを判断する(ステップS9)。・・・「YES」と判断した場合には動作制御ルーチンS10を実行する。」(段落【0022】)「ドアロック機構16の動作制御が行われたときには,その制御動作の終了に応じた保持信号Shの出力停止により,トランジスタ13がオフされて受信回路15への給電が停止されるものであり,」(段落【0024】)(イ)上記(ア)の記載によれば,CPU17は,単一のものであって,受信回路(高調波ユニット)15への給電を制御するスイッチング回路13に対して給電開始及び給電停止を指令する機能,受信回路(高調波ユニット15)からの検波信号を解読,判断した結果に応じてドアロック機構の動作(駆動)を制御する機能を奏するものであると認められる。そうすると,CPU17は,給電開始及び給電停止を指令する信号を(受信回路への給電を制御する)電源制御回路へ発すること,復調回路からの制御信号を識別した結果に応じて(所定の車載機器を作動させるための)駆動信号を出力することを実現するための構成要素であるから,本件特許発明の「信号識別回路」に相当するということができる。
ところが,甲1には,受信装置とCPU17との物理的な関係を特定する記載はなく,また,受信装置と制御装置との配置位置やその相互関係を特定する記載もない。
そうであれば,甲1記載の発明において,本件特許発明の「受信装置」に相当する構成がCPUを有しているか否かは明らかでないといわなければならず,本件特許発明と甲1に記載の発明との相違点2が,「本件特許発明が,「前記受信装置にはCPUが設けられていない」(構成要件J)のに対して,甲1に記載の発明は,受信装置(高周波ユニット)がCPUを有しているか否か不明である点」であるとした審決の認定に誤りはない。
ウ原告は,甲1に記載の発明も,受信装置(高周波ユニット)がCPUを有していないと主張するが,上記判示したところに照らせば,原告の主張は,採用することができない。
エしたがって,取消事由2アは,理由がない。
(2)相違点2の判断の誤りについてア甲4に記載の発明について(ア)甲4には,次の記載がある。
「ドアロック制御装置100には,固有の識別情報を含む空中伝播信号を取り入れる受信アンテナ6が設けられ,受信アンテナ6から取り入れた識別情報に基づき,ドアロックの駆動を行う駆動機構7を制御する受信機8が設けられた構成となっている。そして,この受信機8は,受信部8a,メモリー部8b,CPU8cから構成されている。受信部8aは,受信アンテナ2から取り入れた識別情報の受信と復調を行う部分である。・・・さらにCPU8cは,受信部8aおよびメモリー部8b,キーシリンダー状態スイッチ2,ドア状態スイッチ3,ドアロック状態スイッチ4,イグニッション状態スイッチ5からのそれぞれの情報を取り入れ,それぞれの情報に基づいて所定の処理を行う部分である。」(段落【0016】)「上記構成のドアロック制御装置100において,通常,送信機1によってドアの施錠,解錠する場合には,送信機1から送出された識別情報は受信アンテナ6を通じて受信機8に取り入れられる。取り入れられた識別情報は,受信機8に設けられた受信部8aにおいて,受信,復調された後,CPU8cに伝達され,CPU8cは伝達された識別情報を取り入れる。そして,CPU8cは予め所定の識別情報が記憶されているメモリー部8bの識別情報と送信機1から送出された識別情報とを比較し,両者が一致していれば,駆動機構7にドアロックのロック,アンロックを行うように信号を送る。」(段落【0017】)「通常,CPU8cは,送信機1がキーシリンダーに差し込まれると受信機8をオフ状態にさせ,差し込まれていなければオンの状態とする。」(段落【0025】)図2には,実施例に基づくドアロック制御装置100を表す構成図が示されている。
(イ)上記(ア)の記載によれば,CPU8cは,単一のものであって,ドアロック(すなわち,所定の車載機器)の駆動を行う駆動機構7を制御する機能(キーシリンダー状態スイッチ2,ドア状態スイッチ3,ドアロック状態スイッチ4,イグニッション状態スイッチ5等のいわゆるマニュアル操作スイッチに係る操作信号に基づく制御や送信機1からの識別情報に応じた制御が行われる。),受信及び復調を行う受信機8のオンオフ(すなわち,電源)を制御する機能を奏するものであると認められる。そして,これらの制御は,車両制御システムにおいて特定された必要な制御のためのCPUの機能といえるから,本件特許発明のCPUの機能と格別相違するものではない。
もっとも,甲4のCPU8cは,受信機,すなわち受信装置に設けられたものであり,本件特許発明の「受信装置にはCPUが設けられていない」(構成要件J)点と明らかに相違するものである。
イ甲5に記載の発明について(ア)甲5には,次の記載がある。
「第3図に車輌側に搭載されるドアロック装置本体の概略構成を示し,第4図に,第3図のキーコード受信器KCRの構成を示す。・・・この実施例ではキーコード受信器KCRは発振器OSC2,局部発振回路OSC3,高周波増幅回路RF2,混合回路MIX,中間周波増幅回路IFA,周波数弁別回路DIS,受波検出回路WDE,低周波増幅回路AFAおよび比較器CP1で構成してある。高周波増幅回路RF2の入力端には,同調回路を介して受信用アンテナAT2を接続してある。・・・キーコード受信器KCRのそれぞれの出力端は,シングルチップマイクロコンピュータCPUの入力ポートP1,P2およびP3に接続してある。」(4頁左下欄17行ないし5頁左上欄4行)「SW4はマニュアルロック/アンロックスイッチであり,CPUのプルアップされた入力ポートP6およびP7に接続されている。」(5頁右上欄8行ないし11行)「マニュアルスイッチSW4がロック又はアンロックに操作されると,それぞれロック又はアンロック動作を行なう。」(5頁右下欄8ないし10行)「キーコード受信器KCRが電波を検出すると,次にキーコード読取処理を行なう。ここで読取つたキーコードを受信キーコードレジスタにストアして,このレジスタの内容と参照キーコードレジスタの内容とを比較する。・・・キーコードが一致すると,次に車速をチェックする。・・・車速が10Km/h以下でしかも受信キーコードと参照キーコードが一致するとドアロックをアンロックにする。すなわちポートP9にHを出力してリレーRL2をオンし,ソレノイドSL2を付勢する。」(6頁左上欄1行ないし右上欄12行)第3図には,車上電磁ドアロック装置本体の概略構成を示すブロック図が示され,第4図には,キーコード受信器KCRの概略構成を示すブロック図が示されている。
(イ)上記(ア)の記載によれば,キーコード受信器KCRは,その内部にCPUが設けられていないものであって,キーコード発信器KCGから発せられる電波信号の受信及び復調を行い,また,そして,シングルチップマイクロコンピュータCPUは,CPUが設けられていないキーコード受信器KCRから受け取った検波信号(キーコード)の識別結果やマニュアルロック/アンロックスイッチ(操作スイッチ)の操作信号に応じて,それぞれドアロック/アンロックのための駆動信号を出力し,車載機器であるドアロック装置の駆動制御を行うところ,このキーコード受信器KCRが本件特許発明の受信装置における受信回路及び復調回路に相当する機能を奏し,シングルチップマイクロコンピュータCPUが本件特許発明の制御装置の構成要素である信号識別回路に相当する機能を奏するものと認められる。もっとも,甲5には,キーコード受信器KCRとシングルチップマイクロコンピュータCPUの車両内の配置については明示されていないから,車両内における両者相互の位置(配置)関係は特定されていない。
ところで,受信装置と制御装置とを互いに離れた位置に設けることが本件特許発明の特許出願時において周知であることは,当事者間に争いがないから,甲5に記載の発明において,受信装置に相当するキーコード受信器KCRと制御装置の構成要素に相当するシングルチップコンピュータCPUとを互いに離れた位置に設けることは,適宜に採用することができる設計的事項であり,それを排除する要因は見当たらない。
ウそして,CPUを設けていない受信装置が,それを設けている受信装置と比べて,小型化が図られ,その結果,受信装置の設置が可能となる対象個所が拡大されることは,自明な効果として当然に想定されることであり,インパネが,受信装置の設置個所の対象となり得ることも容易に認識し得ることである。
また,甲1には,「CPU17は,常時おいて消費電流が小さくて済むホルトモードで待機し,高周波ユニット15は,CPU17が周期的にウェークアップされるタイミングにおいて所定の割合で給電されることになるから,全体の平均消費電流を低く抑制できるようになる。」(段落【0034】)との記載があり,これによれば,「システムスタンバイ状態での消費電流は大きく低減される」との効果は,甲1に記載の発明においても達成されるものである。
さらに,上記イのとおり,シングルチップマイクロコンピュータCPUは,マニュアルロック/アンロックスイッチ(操作スイッチ)の操作信号に応じて,それぞれドアロック/アンロックのための駆動信号を出力し,車載機器であるドアロック装置の駆動制御を行うものであるから,「単一のCPUにより実現される信号識別回路によって,マニュアル操作スイッチによる車載機器の作動が可能である」との効果は,甲5に記載の発明において達成されるものである。
エそうであれば,甲1に記載の発明に甲4及び甲5に記載された発明を適用して,本件特許発明のように,受信装置をCPUが設けられていない構成とし,この受信装置と制御装置としての機能を奏するCPUとを離れた位置に設けることは,当業者が容易に想到することができるものであって,しかも,それによる効果も格別なものということはできないから,本件特許発明が,甲1記載の発明,甲4記載の発明及び甲5記載の発明から容易に想到することができるものである。
オ被告は,CPUの配置場所を考慮して「受信装置にCPUが設けられていない」こととすることには,大きな技術的意義があり,本件特許発明は,車両内に受信装置と制御装置とをどのように配置し,また,CPUをどこに配置し,さらにCPU(=単一のCPUにより実現される信号識別回路)にどのような機能を果たさせるかについて総合的,有機的に結び付けたものであって,単一のCPUをどこに配置するかという点は,単なる設計事項にとどまらないと主張する。
しかしながら,受信装置と制御装置とを互いに離れた位置に設けることは本件特許発明の特許出願時において周知であるから,上記イのような甲5に記載の発明があることにかんがみると,甲1に記載の発明に甲4及び甲5に記載された発明を適用して,本件特許発明のように,受信装置をCPUが設けられていない構成とし,これと制御装置としての機能を奏するCPUとを離れた位置に設けることは,当業者が容易に想到することができるといわなければならない。
被告の上記主張は,採用することができない。
カしたがって,本件特許発明が,甲1記載の発明,甲4記載の発明及び甲5記載の発明から容易に想到し得たものとはいえないとした審決の判断は誤りであり,この誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,取消事由2イは,理由がある。
第5結論以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由2イは理由があるから,審決は取り消されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文