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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ワ14019特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成17ワ2274特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  公然知られ(29条1項1号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  警告 /  数値限定 /  文言解釈 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  間接侵害 /  構成要件 /  のみ用いる /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 /  釈明 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 15425号 特許権差止請求権不存在確認請求事件
平成 18年 (ワ) 18446号 特許権差止請求権不存在確認請求事件
大阪市<以下略>
本訴原告・反訴被告大 日本除蟲菊株式会社
訴訟代理人弁護 士赤尾直人東京都千代田区<以下略>
本訴被告・反訴原告ア ース製薬株式会社
訴訟代理人弁護 士吉原省三
同 小松勉
同 三輪拓也
同 上田敏成
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2007/03/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本訴原告・反訴被告の請求を棄却する。
2本訴被告・反訴原告の請求をいずれも棄却する。
, , , 3訴訟費用は 本訴反訴ともにこれを2分し その1を本訴原告・反訴被告のその余を本訴被告・反訴原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の請求1本訴原告・反訴被告(以下「原告」という )の請求(本訴)。
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という )は,原告における別紙物件目 。
録1記載の殺虫用器具(以下「原告器具」という )及び別紙物件目録2記載 。
のカートリッジ(以下「原告カートリッジ」といい,原告器具と併せて「原告各製品」という )の製造販売につき,登録第3802196号の特許権を侵 。
害する旨を告知し,かつ流布してはならない。
2被告の請求(反訴)( ) 原告は,原告器具を製造し販売してはならない。
1( ) 原告は,原告カートリッジを製造し販売してはならない。 2( ) 原告は,その占有する原告各製品を廃棄せよ。 3第2事案の概要本件は 「KINCHO」の表示を用いて「カトリス」の商品名を有する害 ,虫防除用器具(原告器具,9種類)及び同器具の各取り替えカートリッジ(原告カートリッジ,8種類)を製造・販売する原告が,害虫防除装置に関する特許権を有する被告に対し,原告各製品の製造販売が同特許権を侵害する旨の告知,流布行為の中止を求め(本訴 ,被告が,原告に対し,上記特許権に基づ )き,原告各製品の製造,販売の差止め及び廃棄を求めた(反訴)事案である。
( ) 1前提となる事実 争いのない事実及び末尾掲記の証拠により認められる事実( ) 原告は,殺虫剤等の薬剤の製造販売等を目的とする株式会社である。
1被告は,殺虫剤等の薬剤の製造販売等を目的とする株式会社である。
( ) 被告は,次の特許(以下「本件特許」という )につき特許権(以下「本2 。
件特許権」という )を有する(甲2の1ないし3,乙1,2 。 。 )ア発明の名称害虫防除装置イ特許番号第3802196号ウ出願日平成9年7月10日エ出願番号特願平9-185284オ公開日平成11年2月2日カ公開番号特開平11-28040キ登録日平成18年5月12日( ) 本件特許の願書に添付した明細書(平成17年12月5日受付の補正後の3もの。以下,同明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という )の特許。
請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(甲2の1・2,乙2。以下,請求項1に記載された発明を「本件特許発明」という。本判決添付の特許公報(乙2。以下「本件公報」という )参照 。。)「チャンバと,該チャンバの両端に設けた吸気口と排気口と,前記チャンバの内部に設けられ前記吸気口から吸気した外気を前記排気口から排気するファンと,該ファンを,電圧3Vで,無負荷時の消費電流量が25mA以下で駆動する直流モータと,該直流モータへ電源を供給する電池と,前記ファンと前記排気口との間に設けられ難揮散性の害虫防除成分を保持した薬剤保持材と,を備え,前記ファンは,ファン直径が74mm以下,且つファン重量が30gよりも軽量であり,前記排気口から排気される風量は,0.2リットル/sec〜6リットル/secであることを特徴とする害虫防除装置 」。
( ) 本件特許発明の特許請求の範囲構成要件に分説すると,次のとおりであ4る(以下「構成要件A」などという。。)A1チャンバと,A2該チャンバの両端に設けた吸気口と排気口と,A3前記チャンバの内部に設けられ前記吸気口から吸気した外気を前記排気口から排気するファンと,A4該ファンを,電圧3Vで,無負荷時の消費電流量が25mA以下で駆動する直流モータと,A5該直流モータへ電源を供給する電池と,A6前記ファンと前記排気口との間に設けられ難揮散性の害虫防除成分を保持した薬剤保持材と,を備え,B前記ファンは,ファン直径が74mm以下,且つファン重量が30gよりも軽量であり,C前記排気口から排気される風量は,0.2リットル/sec〜6リットル/secであるDことを特徴とする害虫防除装置( ) 原告各製品について5ア原告器具について原告は,原告各製品を製造,販売している(甲1 。原告各製品のうち)原告器具の構成(9種類共通)を構成要件に則して分説すると次のとおりである(以下「原告器具の構成a」などという。。)a1チャンバと,a2該チャンバの上端又は前側端に設けた吸気口と側面の円周状の周囲全体に設けられた排気口と,a3前記チャンバの内部に設けられ前記吸気口から吸気した外気を前記排気口から排気するファンと,a4該ファンを,電圧3Vで,無負荷時の消費電流量が25mA以下で駆動する直流モータと,a5該直流モータへ電源を供給する電池と,a6ファン及び当該ファンとその外側周囲において同心円状にて一体形成されており,かつ同心円状のスリット状の側部による内周面及び外周面を有している環状薬剤保持容器からなるプラスチック製のカートリッジを設けることによって,環状薬剤保持容器は,前記ファンと前記排気口との間にてピレスロイド系の薬剤含浸粒体を保持した状態を具備しており,b前記ファンは,ファン直径が74mm以下の範囲内であって,且つファン重量が30gよりも軽量であり,c前記排気口から排気される風量は,0.2リットル/sec〜6リットル/secの範囲内であるdことを特徴とする害虫防除用器具イ原告カートリッジについて, , 原告カートリッジは 前記アa6のプラスチック製カートリッジであり原告器具に交換可能な部品として装着されている。その構成は,前記アa6記載のとおりである(弁論の全趣旨 。)( ) 原告器具の構成a1,3ないし5,bないしdは,本件特許発明の構成要6件A1,3ないし5,BないしDを充足する(弁論の全趣旨 。), , ( ) 被告は 平成18年7月28日付けで次のような記載を含む書面を作成し7顧客に配布した(甲14。以下「甲14文書」という。。)「弊社は……弊社特許権を侵害する『カトリス』シリーズを製造販売する大日本除虫菊(株)に対して,その製造販売の中止を求める通知書を送付いたしました。……大日本除虫菊(株)は,弊社特許権には侵害しない旨を述べておりますが,弊社特許権は先発メーカーとして基本的技術で特許権を取得したものであり大日本除虫菊(株)の権利侵害は明らかであります。……以上御賢察の上,お得意様各位におかれましては引き続き弊社製品をご愛顧頂きますようお願い申し上げます 」。
( ) 被告は,同年8月24日ころ,朝日新聞社,毎日新聞社,読売新聞社,産8経新聞社に対し,原告の本訴に対して,本件反訴を提訴した旨の情報を提供した(甲9の1ないし4。以下「本件情報提供行為」という。。)2争点( ) 原告器具が本件特許発明技術的範囲を充足するか(争点1 。
1 )ア原告器具の構成a2が本件特許発明構成要件A2を充足するか(争点1-1 。)イ原告器具の構成a6が本件特許発明構成要件A6を充足するか(争点1-2 。)( ) 原告カートリッジの製造,販売について間接侵害(特許法101条1号)2が成立するか(争点2 。)( ) 本件特許が公開特許公報WO96/04786(甲6)に記載された発明 3に周知技術を組み合わせて当業者が容易に発明することができたものといえるか(争点3 。)( ) 甲14文書の配布行為ないし本件情報提供行為が不正競争防止法2条1項414号の虚偽事実の告知,流布行為に当たるか(争点4 。)第3当事者の主張1原告器具の構成a2が本件特許発明構成要件A2を充足するか(争点1-1 。)( ) 原告1ア構成要件A2の「チャンバの両端」の意味)原告の主張a構成要件A2は,吸気口と排気口とが「チャンバの両端」に設けられていることを構成要件としている。通常の文言解釈によれば 「両端」,とは 「両側の端部」の意味である。 ,本件明細書の図1に示す実施形態においては,排気口13がチャンバの上側端部に設けられ,吸気口11がチャンバの下側端部に設けられているから 「両側の端部」に設けられているといえる。しかし,本件明 ,細書の図6に示す実施形態においては,排気口13はチャンバ9の上端に設けられ,吸気口11がチャンバ9の側部に設けられている。このようにチャンバの上部と側部とが「両側の端部」の関係になる理由について格別説明がなされていない。
上記のような本件明細書の記載によれば,構成要件A2の「チャンバの両端」とは 「チャンバの上下両端又は側部両端の一方側又は両側」 ,を意味するものと解釈される。
)被告の主張に対する反論b被告は,構成要件A2の「チャンバの両端」について 「チャンバ内,の空気の流れの両端」を意味するものと主張する。
しかし 「チャンバの両端」とは物であるチャンバの存在領域におけ ,る両端の意味であり,空気流はチャンバの存在領域の外においても内においても連続しているのであるから,両端という概念は本来成立し得ない。
被告のいう「チャンバ内の空気の流れの両端」の意味を「チャンバ内に流入し,かつ流出する空気の流れの始端及び終端」という趣旨に解釈することも可能である。
しかし,上記のように解釈すると,チャンバを構成する壁面の厚さを考慮した場合,排気口及び吸気口を構成する壁面の内側部分も「チャンバ内の空気の流れの両端 に当たることになるが チャンバの内側が 両 」,「端」とはいえない以上,そのような解釈は不可能である。
そもそも,本件特許発明においては,薬剤保持材とファンが一体をなして回転する構成を含まず,薬剤保持材はチャンバ内に静止しているものと解釈される。そうすると,チャンバに流入し,薬剤保持材を通過してチャンバから流出する気流は所定の流出方向を有している必要がある。原告器具のように気流がチャンバの側面全周に流出するような場合に,側面全周をチャンバの端部ということはできない。
イ原告器具の構成a2が構成要件A2を充足するか原告器具の構成a2の排気口は,チャンバの円周状の周囲全体に配列した状態にて配置されており,このような周囲全体においては 「両端 ,,」すなわち 「両側端部」に該当する位置を特定することができない。した ,がって,原告器具の構成a2は構成要件A2の「両端に設けられ」の要件を充足しない。
( ) 被告2ア構成要件A2の「チャンバの両端」の意味構成要件A2の「チャンバの両端」とは,チャンバ内の空気の流れの両端のことを意味する。
原告は,吸気口と排気口を捨象してチャンバの両端を定めようとしているようである。しかし,そのように考えると,球形のチャンバや原告器具のように半球形のチャンバにおいてはそもそも端部がないということになる。本件特許発明構成要件A1においては「チャンバ」とされており,「端部を有するチャンバ」とはされていない。構成要件A2が規定しているのは,吸気口と排気口をチャンバのそれぞれ別の位置に設け,チャンバの内部に吸気口から排気口への空気の流れを生じさせることである。
イ原告器具の構成a2が構成要件A2を充足するか, , , 原告器具は 空気の流れの両端に吸気口 排気口が設けられているから構成要件A2を充足する。
原告が,原告器具において,排気口が設けられているのは端部ではない旨主張するは理由は,薬剤保持材23が充填されているのは環状薬剤保持容器62であり,これが回転することによって周囲のスリット63から薬効成分を含んだ空気がはき出されていることであると解される。しかし,本件特許発明は薬剤保持材の設置方法について限定していないし,排気口の数も限定していない。原告の上記主張には理由がない。
2原告器具の構成a6が本件特許発明構成要件A6を充足するか(争点1-2 。)( ) 原告1ア構成要件A6「前記ファンと前記排気口との間に設けら・・・れた薬剤保持材」は,ファンと薬剤保持材が一体となって設けられ,薬剤保持材がファンとともに回転する構成を含むか。
)原告の解釈a構成要件A6の「前記ファンと前記排気口との間に設けられた…薬剤保持材」とは,ファンと排気口との間に,これらとは独立した薬剤保持材が設けられることを意味するのであって,薬剤保持材がファンと一体。, となって回転するような構成を含まないと解すべきである その根拠は以下のとおりである。
)本件特許出願当時の特許法36条6項1号(平成6年改正の同条同項b同号)との関係,,, 構成要件A6の薬剤保持材は チャンバに固着され 静止しているか又はファンに接続され,ファンと一体をなして回転し得るかのいずれかであり,これ以外の状態はあり得ない。
本件明細書には,後者の場合,すなわち薬剤保持材がファンと一体をなして回転することを裏付けるような記載は全く存在せず,第1図及び第6図に示す実施形態のように,前者の場合,すなわちチャンバに固着されている構成の開示のみが記載されている。
本件特許出願当時の特許法36条6項1号(平成6年改正の同条同項同号)は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されていることを要件としている以上,発明の詳細な説明に薬剤保持材がファンと一体をなして回転する構成が何ら記載されていない本件特許発明においては,かかる構成が構成要件A6に含まれるものと解釈することはできない。
)本件特許発明構成要件Bとの関係c構成要件Bは,ファンの直径が74mm以下であり,ファンの重量が30gよりも軽量であることを必須の要件としている。当該要件は,構成要件A5の電池及びA4の直流モータによるファンの駆動を行う場合の適切な負荷を設定するための要件である。
仮に,本件特許発明において,薬剤保持材がファンと一体をなして回転する構成が包摂されているのであれば,薬剤保持材の直径及びその重量もまた,ファンのこれらと同様に前記駆動における負荷の程度を左右することは明らかである。したがって,薬剤保持材がファンと一体をなして回転する場合には,薬剤保持剤の直径及び重量もファンと同様に数値要件を定める必要がある。
それにもかかわらず,本件特許発明においては単にファンの直径及び重量を規定するのみであるから,本件特許発明において薬剤保持材がファンと一体をなして回転する構成を包摂しないことは明らかである。
被告は,薬剤保持材がファンと一体をなしていたとしても,薬剤保持材と一体となったファンが本件特許発明構成要件Bを充足する場合には,本件特許発明の作用効果を奏するものである旨主張する。しかしながら,数値要件がファンのみを対象とするのか,それとも,ファンと薬剤保持材が一体となった物を対象とするのかという問題は,ファンと薬剤保持材が一体となった物がファンのみを対象とした数値要件を充足するかという問題とは異なる事項である。原告器具におけるカートリッジの直径及び重量の数値がたまたま構成要件Bの範囲内にあるとしても,このことは,構成要件Bの数値要件がファンと薬剤保持剤が一体となった物をも対象としていることの根拠とはなり得ない。
)本件特許発明構成要件Cとの関係d構成要件Cは,排気口から排気される風量について0.2リットル/sec〜6リットル/secであることを要件としているが,当該要件は,ファンによって生じた風量によって,薬剤の揮散効率及び揮散の持続性を調整するという技術上の要請に由来している。
仮に,本件特許発明において,薬剤保持材がファンと一体をなして回転する構成が包摂されているのであれば,薬剤の揮散は,単にファンによって生じる風による気流との衝突だけでなく,薬剤保持材の回転に伴, 。 う遠心力及び気流との衝突もまた 当該揮散の原因とならざるを得ないしたがって,薬剤保持材がファンと一体をなして回転する場合には,薬剤の揮散効率及び揮散の持続性を調整するための要件を定めるに当たって,単に風量を所定の数値範囲とすることだけではなく,ファンの回転速度を所定の数値範囲に設定する必要がある。実際,薬剤揮散装置に関する特許(特許第3806903号,甲5の1・2。薬剤保持材がファンと一体をなして回転する害虫防除器具に関する発明)においては,その請求項11においてファンの駆動源であるモータの回転数を500〜2000rpmと設定する旨規定している。
それにもかかわらず,本件特許発明においては単に風量の数値範囲のみを規定するのみであるから,本件特許発明において薬剤保持材がファンと一体をなして回転する構成を包摂することは技術的に不合理である。
薬剤保持材の回転に伴う遠心力や回転による気流との衝突を原因として,薬剤が揮散されることは,甲4(特願2005-233853号に係る願書及び出願明細書並びに図面)に記載された発明において,ファンによる通風を伴わずに繊維を素材とする薬剤保持材(薬剤保持体1)の回転自体によって所定の揮散が行われ,かつノックダウン効果が生じていること(実施例1〜3参照)に照らしても明らかである。原告は,この点について確認するために実験を行った。すなわち,原告器具について内部のファンを取り外し,600,800,1000rpmの回転状態に基づいてノックダウンテストを行ったところ,ファンと薬剤保持材とが独立した構成である他社製品よりも優れた効果を呈するとともに,回転数が上昇するほどノックダウン効果が大きくなることがわかった(甲10 。)被告は,回転によって生じる気流による揮散は,ファンによる送風による揮散の量に比して低いことを主張して乙7を提出する。しかし,両者の量的割合は問題ではない。一体的に回転する場合,被告が主張する程度であっても回転によって生じる気流による揮散が生じることが明白であるにもかかわらず,これを規律していないことから,本件特許発明の技術思想として,ファンと薬剤保持材を一体として回転させる構成を含まないことが明らかである旨主張するものである。なお,乙7の実験結果は,カートリッジの回転によってカートリッジの外側に生じる気流の量のみを測定しており,カートリッジ内における回転方向に沿った気流の量が測定されていない点で不十分である。
遠心力によって揮散(蒸発及び拡散)が生じるか否かという点について,被告は,これを否定する。しかし 「蒸発」とは液相(液体状態) ,の表面にある分子が近距離分子間力を切断して気体,すなわち 「定ま,った形がないばかりでなく,自ら限りなく膨張しようとする性質をもつ状態 (甲12)に至ることをいう。遠心力によって液相の薬剤が表面 」から分離しやすくなるものであり,遠心力によって蒸発が促されることは明らかである。また「拡散」とは大気中に飛散させることをいう。遠心力によって表面から分離して気相となった薬剤が周囲の大気中に飛散することは明らかである。
)構成要件A2との関係e構成要件A2において,排気口はチャンバの「両端」に位置していることが規定されている。そして 「両端」とは,チャンバに厚みがある ,ことを考えれば,チャンバを構成する壁面の最も外側の壁面を意味するのであるから,チャンバを構成する壁面の内側に位置するであろう薬剤保持材と,チャンバの壁面の最も外側の部分との間には必然的に間隔が存在することになる。現に図1に示す実施例は,薬剤保持材17は,排気口13及びファン15の双方に対して所定の間隔を隔てた状態にて設置されている。
構成要件A2について,以上のような理解に立つと,構成要件A6が薬剤保持材を「前記ファンと前記排気口との間に設けられ」ることを要件としている意味は,薬剤保持材と排気口との間及び薬剤保持材とファンとの間に,必然的に所定の「間」すなわち所定の間隔が存在しなければならないことを意味するものと解釈される。
)特開2003-102361に記載された発明との関係f薬剤保持容器がファンと一体となって回転する害虫防除器具が,本件特許公開後に,本件特許発明とは異なる発明として特許査定されている( 薬剤揮散装置」に関して平成15年4月8日に公開された特開20 「03-102361公報(甲5の1)について特許第3806903号(甲5の2。一体となって回転するカートリッジが,本件特許発明 )。)に包摂されるのであれば,このような特許の成立はありえない。このことからも,薬剤保持材がファンと一体となって回転する害虫防除器具と薬剤保持材がファンと一体となって回転せずに単に風を受けるだけの害虫防除器具とは異なる技術思想に立脚したものであることは明らかである。
)被告の無効に関する主張との関係g被告は,本件特許発明が無効理由を有するか否かの主張において,甲6発明と比較した本件特許発明1の特徴は,@設置場所の制約を受けないこと,A特定の電圧と消費電流量によるモータ使用による使用段階の持続性という点を主張した。
ところで,甲6公報には,本件明細書の「前記ファンと前記排気口との間に設けられ難揮散性の害虫防除成分を保持した薬剤保持材 ( 0」【049】の6行ないし7行)に相当する記載があり,甲6発明は,薬剤保持材がチャンバに固定されておりファンと一体となって回転するものではないことが明らかである。
ところが,被告は,上記の点を本件特許発明と甲6発明との相違点として挙げていないのであるから,本件特許発明も,薬剤保持材をチャンバに固定し,ファンと一体となって回転させる構成を含まないことを自白したことになる。
イ原告器具の構成a6が構成要件A6を充足するか。
原告器具の構成a6は,薬剤含浸粒体を保持する環状薬剤保持容器はファンと一体形成されており,両者が必然的に一体となって回転する構成である。したがって,原告器具は,本件特許発明構成要件A6を充足しない。
( ) 被告2ア構成要件A6「前記ファンと前記排気口との間に設けられ…た薬剤保持材」は,ファンと薬剤保持材が一体となって設けられ,薬剤保持材がファンとともに回転する構成を含むか。
)被告の解釈a薬剤保持材がファンと排気口との間にあれば,本件特許発明構成要件A6の構成を充足する。
原告は,薬剤保持材がファンと一体となって回転するように設置されている構成は構成要件A6に含まれないと主張する。しかし,本件特許発明構成要件A6は 「前記ファンと前記排気口との間に設けられ難 ,揮散性の害虫防除成分を保持した薬剤保持材」とするのみで,薬剤保持材をどのように設置するかについては特に限定していない。薬剤保持材を回転体に収容して設置し,回転させる構成は,被告が特許出願した甲7公報にも記載されており公知の薬剤保持剤設置方法である。
構成要件A6「前記ファンと前記排気口との間に設けられ…た薬剤保持材」について,原告が主張するように限定解釈する理由はない。
)本件特許発明構成要件Bとの関係b構成要件Bのファンの直径及び重量の数値要件は,電池及び直流モータによる駆動を行う際の適切な負荷を設定するための要件であることは原告の主張どおりである。また,仮に薬剤保持材がファンと一体をなして回転する場合には,薬剤保持材の直径及び重量も上記負荷を左右することになるという点も原告の主張どおりである。そして,本件特許発明構成要件Bにおいては,ファンの直径及び重量のみを規定しており,薬剤保持材の重量及び直径を規定するものではない。
しかし,だからといって,本件特許発明について,薬剤保持材がファンと一体となって回転する構成を含まないと解釈しなければならないとはいえない。ファンに特許請求の範囲に記載されていない部材が付加されていたとしても,全体の直径と重量が構成要件Bの範囲に入っていれば,本件特許発明の作用効果を奏することに変わりはなく,構成要件Bを充足することに変わりはない。なお,原告器具は,カートリッジ全体の直径が6.5mm,重量が薬効成分の揮発前において15gであり,薬剤保持容器が付加されたファンであっても構成要件A6の数値要件を満たしている。
)本件特許発明構成要件Cとの関係c原告は,薬剤保持材がファンと一体形成されて回転する場合には,薬, , 剤保持材の揮散は 風量のみならず遠心力にも左右されるのであるから本件特許発明が薬剤保持材がファンと一体形成されて回転する構成を含むのであれば,ファンの回転速度をも規定しなければならないところ,構成要件A6はそのような規定をしていない,したがって,本件特許発明は,薬剤保持材がファンと一体をなして回転する構成を含まない旨主張する。
薬剤保持材が回転することによって生じる気流によって薬剤の拡散が促進されるということがあり得るというのは原告の主張どおりである(ただし,回転による遠心力によって薬剤成分の揮発が促進されるということはない。そして,構成要件Cにおいては,ファンの回転数に 。)ついて規定されていない。
しかし,薬剤保持材の回転が薬剤の揮散に影響するものであり,その回転数について本件特許発明が規定していないとしても,本件特許発明について,薬剤保持材がファンと一体となって回転する構成を含まないと解釈しなければならないとはいえない。薬剤保持材をファンと一体的に回転させることによって,薬剤保持材を固定した場合とは異なる特有の作用効果(回転によって生じる気流との衝突によって拡散が促進される効果)を得ることができるとしても,それは,本件特許発明に付加された作用効果であって,原告器具が本件特許発明構成要件Cを充足することに変わりはない。被告が実験したところ,回転による揮散の効果は,ファンによる送風による揮散の効果に比して付加的なものにすぎない(全体の風量の7.2%〜18.7%である。乙7 。)なお,回転によって生じる遠心力によって揮発を促進させるか否かについて,原告は,表面にある分子が近距離分子間力を切断して気体になりやすい状態になるとして,遠心力が揮発を促進する旨主張する。しかし,分子同士に働く力は,核と電子の相互関係によっており,このとき質量に作用する重力は無視できるほど小さく分子間力への寄与はほとんどが電磁気相互作用であるとされている(乙5 。遠心力は物理的な力 )。, , であって電磁的な力ではない また 遠心力は物体に働くのであるから遠心力によって飛び出すとすればそれはひとかたまりの揮発性薬剤液であって個々の分子ではない。このように,遠心力によって個々の分子が近距離分子間力を切断されて揮発するということはあり得ない。
)構成要件A2との関係d原告作成の別紙物件目録第2図によれば,原告器具においてはファンと薬剤保持材との間には間隔がある。
イ原告器具の構成a6が構成要件A6を充足するか。
原告器具の構成a6においては,薬剤保持材がファンの外側周囲において同心円状に一体形成されており,さらに,その外側に位置するチャンバに排気口が設けられているのであるから,原告器具の構成a6は構成要件A6を充足する。
3原告カートリッジの製造,販売について間接侵害(特許法101条1号)が成立するか(争点2 。)( ) 原告1原告器具が本件特許発明技術的範囲に属しない以上,原告カートリッジの製造,販売行為が間接侵害に該当することはない。
また,原告カートリッジは,その駆動源である直流モータに対する印加電圧と技術上格別の関連性を有していないから,印加電圧が3Vではない直流モータを採用した場合にも適用可能である。現に,原告カートリッジは,原告が販売している印加電圧が3Vではない殺虫用器具の交換部品としても用いられている。
したがって 原告カートリッジは 本件特許発明の構成にのみ用いる物 特 ,, (許法101条1号)に該当しない。
( ) 被告2争う。
4本件特許が公開特許公報WO96/04786(甲6)に記載された発明に周知技術を組み合わせて当業者が容易に発明することができたものといえるか(争点3 。)( ) 原告1(。「」。) ア公開特許公報WO96/04786 甲6 以下 甲6公報 というに記載された発明(以下「甲6発明」という )について。
甲6公報の図2,図3,図4,図5及び発明の詳細な説明には,次のような発明(甲6発明)が開示されている。
A1’チャンバ(整流板40)と,A2’該チャンバ(整流板40)の両端(上端及びファン)に設けた吸気口12と排気口14と(図2参照 ,)A3’前記チャンバ(整流板40)の内部に設けられ前記吸気口12から吸気した外気を前記排気口14から排気するファン(送気手段20,シロッコファン42)と(図2及び図5参照 ,)A4’該ファン(送気手段20,シロッコファン42)を電圧3V(甲6公報22頁の下から10行)で駆動する直流モータ7,43(これらのモータが直流であることは,甲6公報20頁及び図2において電源として電池に採用している旨の記載からも明らかである )と,。
A5’該直流モータ7,43へ電源を供給する電池15と(甲6公報20頁及び図1,図2 ,)A6’前記ファン(送気手段20,シロッコファン42)と前記排気口14との間に設けられ難揮散性の害虫防除成分(甲6公報7頁ないし8頁の( ),8頁の( ),9頁の( )などにその具体例が列挙されている )245 。
を保持した薬剤保持材(保持材30)と,を備え(図2,及び甲6公報18頁の前記図2に関する説明部分参照 ,)B’前記ファン(送気手段20)は,ファン直径が5cmである(甲6公報21頁下から11行 ,)’ ( ) D ことを特徴とする害虫防除装置 図2に示すファン式害虫防除用装置イ甲6発明と本件特許発明との相違点甲6発明と本件特許発明との相違点は次の3点である。
@本件特許発明では無負荷時における直流モータの消費電力が25mA以下であるが(構成要件A4 ,甲6発明では無負荷時における直流モ )ータの消費電力が記載されていないこと(相違点1)A本件特許発明ではファンの重量が30gよりも軽量であるが(構成要), () 件B甲6発明ではファンの重量が記載されていないこと 相違点2B本件特許発明では排気される風量が0.2リットル/sec〜6リットル/secであるが(構成要件C ,甲6発明では排気風量が明示さ )れていないこと(相違点3)ウ相違点1について)甲7公報に開示された技術についてa特開平5-68459号公報(甲7。以下「甲7公報」という )の。
表7(段落【0056 )には,害虫防除装置の薬剤拡散用ファン1を 】駆動するモータとして,マブチ製モータ(RF330TK07800。
以下「甲7モータ」という )が例示されている。平成7年10月当時 。
発行されていたマブチモータ総合カタログ(甲7の2。以下「甲7カタログ」という )によれば,甲7モータの印加電圧3Vにおける無負荷 。
時の消費電流量は,0.006A,すなわち6.0mAである。甲7公報には甲7モータの無負荷時の消費電流量が記載されているわけではないが,このような特定の印加電圧及び無負荷時の消費電流量に適合する製品の開示は,すなわち,当該製品が公然と知られ,かつ,実施されていることを証明している。
そうすると,甲7モータが公然と販売され,害虫防除装置に用いられることが公知となっていた平成7年10月当時,害虫防除装置の薬剤拡散用ファンを駆動する直流モータにおいて印加電圧3Vの場合,無負荷時の消費電流量として25mA以下とすることは当業者において公然と知られていた事項である。
)甲6発明と甲7モータを組み合わせることの容易性についてb甲7公報の実施例6,表6及び表7においては,害虫防除装置の直径4.7cm及び重量5.3gであるシロッコファンを回転させる駆動モータの具体例として甲7モータが記載されているのであるから,同じく害虫防除装置のファンを回転させる甲6発明において,モータとして甲7モータを採用することは容易である。
被告は,モータが多数存在することを指摘する。しかし,当業者はモータ作動条件の必要性に応じて甲7カタログに記載されているモータを選択し得るのであって,他のモータが存在することは,甲7モータを甲6発明に適用することの支障にはなり得ない。特に,甲7モータは甲7公報に記載されたモータの中でも最も電池の消費電力が小さく,かつ持続した稼働を実現し得るモータであるから,甲7モータを選択することは当業者にとって技術常識である。当業者は,可能な限り電池の消費電力を小さくし,かつ持続可動を実現しようとしているのであるから,表6及び表7において,甲7モータを選択することはむしろ当然である。
しかも,25mAという数値には臨界的意義はない。甲6公報と甲7公報,甲7カタログとの間に異なる技術事項が記載されているとしても,そのことは何ら甲7モータを甲6発明に適用することの支障とはなり得ない。
したがって,甲6発明に甲7モータを採用して印加電圧3Vにおける無負荷時の消費電流量を6mAとすることは,当業者において何ら困難性が存在しない。
エ相違点2について)甲7公報に開示された技術についてa甲7公報の図1,図3において薬剤拡散用ファンとしてシロッコファンを採用しているところ,甲7公報の【0054】にファンの規格として外形(直径)4.7cm,重量5.3gという設計を開示している。
)甲6発明に甲7発明のファンの直径及び重量を組み合わせることの容b易性について甲6発明は,図5に示すように,ファンとしてシロッコファン42を採用する場合を開示しており,かつ21頁には当該ファンの直径を5cmとすることが例示されている。
したがって,甲6発明のシロッコファン42について,甲7公報のシロッコファンと置換するか,又は,甲7公報を参照してその重量を5., , 3gとすることは 当業者が必要に応じて採用し得た設計事項にすぎずそこには何らの困難性が存在しない。むしろ,ファンの直径及び重量を所定の数値以下とすることは,消費電力を少なくするということにすぎず,消費電力を少なくすることは当業者における一般的な課題であるから,甲6発明において,消費電力を少なくするために甲7発明のファンの直径及び重量を組み合せることは当業者が容易になし得ることである。
)そもそも,ファンの重量については,甲6発明のシロッコファンは,c甲7発明のファンと組み合わせるまでもなく,本件特許発明構成要件Bの要件を満たしているともいえる。すなわち,甲6公報に開示されている直径5cmのシロッコファンの体積は,計算によれば約8.47cm である。このファンの素材として一般的に用いられているプラスチ3ックで製造した場合には,プラスチックの密度は最大でもせいぜい2.2であり,多く見積もっても3未満であるから(甲16のポリクロロト),.(.. ) リフロロエチレンその重さは25 4g 8 47×3≒25 4未満であることは当然であるといえる。このように,甲6公報に記載されている寸法でファンを製造した場合には,当然に本件特許発明構成要件Bのファンの重量の範囲に収まるというべきである。
オ相違点3について「 」 ,a)ファン式殺虫・防虫方法 に関して平成7年5月2日に公開された特開平7-111850公報(甲8。以下「甲8公報」という )に開。
示された技術について甲8公報の【0018】には,薬剤保持体(保持体)に対し,ファンによって通過する風量として393〜7860cm /sec=0.3393〜7.860リットル/secの範囲が開示されている。甲8公報の実施例1には直径6.0cmであって羽数18枚のシロッコファンの回転によって,風量1470cm /秒(1.47リットル/sec)3を実現している。さらに,これらの実施例において,回転数を変化させることによって,前記のように0.393〜7.860リットル/secの範囲内の風量を実現することは十分可能である。
)甲6発明に甲8発明を組み合わせることの容易性についてb甲6発明と甲8発明は,所定の形状の薬剤保持材によって難揮散性薬, 。 剤等を保持し ファンによって揮散させている点において共通しているこのような甲8発明の排気風量を甲6発明に適用することに何らの困難性は存在しない。風量については,本件特許出願前に公開された甲6公報に「0.1リットル/sec」の記載があり,これに対して本件特許発明の「0.2ないし6リットル/sec」という選択をすることには何ら進歩性はない。その余の技術的事項において,甲6発明と甲8発明の間に何らかの相違が存在するとしても,そのことは甲6発明において甲8発明の排気風量を採用することの支障にはならない。
したがって,甲6発明のシロッコファンとして甲8発明のシロッコファンを採用し,しかも本件特許発明の数値範囲内にある風量を実現することは当業者が容易に想到し得るところであって,そこには何らの困難性が存在しない。
)被告は,甲8発明が複数の穴に対する通風量を規定したものであるこcとを指摘するが,甲8発明が規定する1.47リットル/sec,1.25リットル/secの風量は1個の穴に対する通風量ではなく,ファン全体に対する通風量である( 0027。本件特許発明において甲 【】)8発明におけるシロッコファンを採用した場合には,ファンの通風量が1.47リットル/secとなることは当業者の技術常識である。
また,被告は,甲8公報には本件特許発明に記載のある乾電池の交換なしで288時間モータを運転できるという目的課題と構成の効果について記載がないことを主張する。しかし,原告は,甲8発明で記載されている風量を甲6発明に組み合せることを主張しているのであって,甲8発明の連続運転時間は無関係である。また,甲8公報の【0019】の2行ないし3行の記載には「単一電池2本にて所定の揮散系薬剤量を達成しながら,毎日12時間30日以上の運転ができる」と記載されている。実施例1及び3によれば,直径6.0cmであり,かつ18枚の羽根を有しているシロッコファンによって1.47リットル/secの風量を生じさせ( 0025,かつ1日12時間稼働させたところ, 【】)( 0031,28日稼働した後に,電池が3.0Vから2.60V 【】)に低下したことが記載されており,本件発明の持続した使用に関する作用効果を十分に示唆している。
カ上記相違点三つを甲6発明に組み合わせることの容易性の有無被告は,本件特許発明は,甲6発明を基本発明として,@無負荷時における直流モータの消費電流量を25mA以下とし(構成要件A4 ,Aフ)ァンの重量を30gよりも軽量とし(構成要件B ,B風量を0.2〜6 )リットル/secとする(構成要件C)という複数の数値限定を採用した点に進歩性を有するかのように主張する。
しかし,上記のような消費電流量,ファンの重量,排気風量などは,それぞれ連続して変化する以上,前記数値の選択は,作用効果として質的な変化を発揮するのではなく,精々定量的な相違が生じているにすぎない。
もとより,このような程度の差にすぎない作用効果は,当業者において当然予測し得る技術内容である以上,このような作用効果が進歩性を裏付けることなどあり得ない。
前記のとおり,消費電力を少なくすることは当業者における一般的な課題である。ファンの直径及び重量を所定の数値以下とし,3Vの電池(甲6公報に記載されている)の消費電流量を25mA以下とすることは,消費電力を少なくするということにすぎない。風量についても,前記のとおり,甲6公報に通気量が0.1リットル/sec以上であることが記載されていることを前提として,揮散効率及び揮散の持続性の双方を考慮した上で通気量,即ち風量について,0.2〜6リットル/secの数値限定を課すことは,当業者において単なる選択事項である。
被告は,上記のような数値限定をすることによって甲6発明とは異なる新たな作用効果として,@設置場所の制約を受けない,A特定の電圧と消費電流量のモータを用いることによって市販の電池を用いて1日12時間使用で30日以上継続使用可能という作用効果が生じる旨主張する。
しかし,上記@については,甲6発明においても直流モータ7,21,43に対する電源供給として電池15を採用している以上(甲6公報20頁,図1,図2 ,設置場所の制約を受けないことは明らかである。上記 )Aについては,甲6公報に既に1日12時間使用で30日以上の継続使用が可能である旨記載されている(甲6公報22頁下から8行ないし2行,図8 。なお,甲6発明においては,電池を使用してこのような継続使用 )が可能であったことは明記されていないが,本件特許発明は電池の容量や個数を限定していないから,電池を用いて上記の程度の継続使用が可能であることは当然であって何らの工夫を要しない。したがって,上記@及びAは,本件特許発明における数値限定による作用効果とはいえない。
キ小括このように,本件特許発明は,甲6発明をベースに,甲7公報,甲7カタログ及び甲8公報に記載された各数値要件を採用することによって実現可能である。しかも,上記各数値要件の採用,これらの数値要件の結合自体には格別な技術的意義は存在しない(そもそも無負荷時の消費電流量,ファンの重量,風量は相互に次元の異なる物理量であって,技術的に着目し,かつ評価をしなければならない関連性が存在するわけではない )こ。
とを考慮するならば,本件特許発明は,甲6公報,甲7公報,甲7カタログ及び甲8公報に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であるといえる。
( ) 被告2ア相違点1について甲7発明は揮散性薬剤を回転させることによって薬剤を拡散させる害虫防除用具である。甲7発明の薬剤を回転させるためのモータとして甲7モータが記載されていることは原告が指摘するとおりである。
しかし,甲7公報には甲7モータの型式番号が記載されているものの,甲7モータの詳細(無負荷時の消費電流等)については何も開示されていない。また,モータには様々な仕様のものがあるから,モータ自体が公知であっても,本件特許発明の装置にいかなるモータを選ぶかは公知ではないし容易ということもできない。
イ相違点2についてファンの大きさ及び重量について,原告は,甲6発明のファンを甲7公報に記載されているファンに置き換えることは当業者にとって容易である旨主張する。
しかし,甲6発明を基礎とし,かつ,モータの無負荷時の消費電流量及び風量という他の二つの構成との関連性という条件の下において直径74mm以下で重量が30gより軽量という構成のファンを選択したところに本件特許発明の特徴がある。
ウ相違点3について甲8発明は,薬剤を収容する保持材の間に風を通すことによって均質な送風を達成し,もって害虫防除用具の経済性を実現しようとするものである。甲8発明においては,気体整流機能をもつ少なくとも1以上の穴を有することを特徴とするものである。
確かに,甲8公報では保持体の通風量が1.47リットル/secであることが開示されているが,甲8公報にかかる記載があるからといって本件特許発明進歩性を否定することはできない。まして,甲8公報の上記, 。 記載は保持体の通風量であって 厳密な意味での装置の排気風量ではないなお,甲8発明でいう長時間持続可能という意味は,薬剤の有効成分が残留したままで揮散しなくなったりしないという意味であって,乾電池の。, 交換なしに長くモータを動かすことができるという意味ではない そして甲8公報には本発明に記載のある乾電池の交換なしで288時間モータを運転できるという目的課題と構成の効果について,記載はもとより,その示唆すらない。
甲8発明の薬剤保持材の通風量から本件特許発明の場合のファンの構成や排気風量を想到することは容易とはいえない。
エ上記相違点三つを甲6発明に組み合わせることの容易性の有無原告は,甲6発明と本件特許発明の相違点一つ一つについて別の証拠を挙げて進歩性を欠く旨主張する。しかし,それらの相違点の組み合わせにこそ本件特許発明があるのであり,その組み合わせは容易ではない。
甲7発明,甲8発明はいずれも甲6発明とは発想が異なる技術であって各発明が開示する以外の事項について範囲を特定することも,他の発明が開示する事項と組み合せるということも示唆されていないのであるから,その組み合わせは容易ではない。
甲6発明は,被告の出願によるものであるが,いわば,常温で風によって薬効成分を揮散させ害虫を防除するという基本発明である。本件特許発,, , 明は 甲6発明を前提として 甲6発明には開示されていない三つの構成すなわち,使用するモータの無負荷時の消費電流,ファンの重量及び排気される風量を所定の構成とすることによって,設置場所の制約を受けず,利便性を向上させるという作用効果を奏し,特定の電圧と消費電流量のモータを用いることによって,市販の電池を用いて1日12時間使用で30日以上という,甲6発明とは異質の際だって優れた効果を認めるものである。
上記三つの構成は,甲6発明を実用化するために極めて重要な構成要素である。甲6発明の効果を設置場所の制約なしに得るためには,電池を用いることが好ましいが,電池を用いて長時間継続使用するためには消費電力を極力抑えることが要請される。他方で,甲6発明の効果を得るためには,所定の風力も必要となる。本件特許発明が意図する効果を得るために省電と風力の兼ね合いを調整するという課題が生じ,これを解決するのが本件特許発明における上記三つの構成の組み合わせである。上記三つの構成要素に着目し,その範囲を特定した点に,本件特許発明の特徴がある。
5甲14文書の配布行為ないし本件情報提供行為が不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為に当たるか(争点4 。)( ) 原告1ア本件情報提供行為について,, , 被告は 本件情報提供行為の際 我が国を代表する複数の新聞社に対し原告各製品の製造販売が本件特許権に対する直接侵害及び間接侵害である旨を告知,流布した(甲9の1ないし4 。)原告と被告は,殺虫器具において競争関係にあるところ,原告各製品の製造及び販売は,本件特許権を侵害するものではないから,本件情報提供の際に行われた上記告知,流布行為は,虚偽事実の告知,流布行為に該当する。
被告による上記告知及び流布行為によって原告の営業の信用が毀損されることはいうまでもない。
したがって,被告の本件情報提供行為の際の上記告知,流布行為は不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当する。
被告は,反訴を提起し終わった現段階において,被告が再度新聞社等に対して本件情報提供行為と同内容の情報提供行為をするおそれはない旨主張する。しかし,被告は,後記イのとおり,本件情報提供行為以前に甲14書面を配布しているのであるから,反訴提起後においてもそのような行為が行われないという保証はない。
イ甲14文書の配布について被告は,平成18年7月下旬ころ,甲14書面を,業界(被告の得意先が多いがその一部は原告の得意先にも該当する )に配布し,原告器具が 。
本件特許権を侵害する旨告知,流布した。上記告知,流布行為は,虚偽事実の告知,流布行為に該当する。
被告による上記告知及び流布行為によって原告の営業の信用が毀損されることはいうまでもない。被告による甲14書面の配布により,原告は得, 。 意先からのいろいろな問い合わせを受け その対応に大変な労力を要したしたがって,被告の本件情報提供行為の際の上記告知,流布行為は不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当する。
( ) 被告2ア本件情報提供行為について被告が本件情報提供行為の際,新聞社に対して原告各製品の製造販売が本件特許権の侵害に当たる旨告知,流布した事実はない。被告は,本件情報提供行為において,侵害であると主張して反訴を提起した旨述べたにすぎない。上記被告の告知内容は何ら虚偽ではない。
本件情報提供行為を機に作成,報道された記事の内容は,被告に不利な事実や原告の見解も記載された客観的な報道記事であり,被告の本件情報提供行為が穏当なものであったことの証左である(甲9の各枝番 。)また,本件情報提供行為は次のような経緯でなされたものである。原告は,平成18年7月20日,被告に対し原告各製品について本件特許権に(。, 基づく差止請求権を有しないことの確認を求める訴訟 本件本訴 ただし差止請求不存在確認請求は反訴提起後に取下げられた )を提起し,そ。
の旨が同月21日付け産経新聞朝刊に報じられた(乙3 。これは,原告)が新聞社に情報提供したことによる。これに対し,被告は,やむなく応訴するとともに,反訴を提起し,その旨を新聞社に対して情報提供した。被告は公開会社であり,その旨公表すべきであると判断したためである。このような経緯で本件情報提供行為に至ることは何ら不当なことではない。
そもそも,既に反訴が提起された後の現段階においては,被告が再び新聞各社に同じような情報提供をするおそれがあるということもできない。
イ甲14文書の配布について被告は,原告に対し,平成18年7月5日付けで,原告各製品が本件特許権を侵害する旨の通知を行い,同書面は同月7日に原告に到達した。
これに対し,原告は,被告に対して同月19日付け回答書を発送すると, ,,,「」 ともに 同月20日に本件本訴を提起し さらに 同日お得意様各位宛に被告から警告を受けたこと,原告が東京地方裁判所に差止不存在確認訴訟を提起したこと,被告の本件特許発明と原告各製品は構成が異なること,被告の本件特許発明は無効とされるべきものであること,原告は勝訴判決が得られる旨確信していることを記載した文書(乙6。以下「乙6文書」という )を配布した。。
被告は,同月27日に,乙6文書の存在を知り,乙6文書に対して何らかの釈明の必要があると判断し,同月28日に,原告が乙6文書を配布したと推測される先に,甲14文書をFAXで送信したものである。
以上のとおり,甲14文書は,原告が乙6文書を配布したことに対する釈明のために配布したものである。このような行為をもって,被告に不正競争の意図があるということはできない。
第4当裁判所の判断本件においては,事案の性質に鑑み,争点3から判断する。
1本件特許が公開特許公報WO96/04786(甲6)に記載された発明に周知技術を組み合わせて当業者が容易に発明することができたものといえるか(争点3 。)( ) 甲6によれば,甲6公報には次の記載がある。
1ア6頁3行目ないし11行目「・・・従来より強制的に薬剤を揮散させる手段として,送風により薬剤を揮散させる方法が知られている。その例として,装置内にナフタリンなどの昇華性防虫剤を収納し,装置の吸入孔から外気を吸入し,装置内で防虫剤の揮発成分を揮散させ,防虫剤の揮発成分を含んだ空気を排気孔から排出する防虫装置…などが知られている。また,常温揮散性薬剤を保持した拡散用材を例えばファンの形として駆動手段により駆動させ,該揮散性薬剤を拡散させて殺虫する方法が知られている。この方法は送風下,かつ非加熱条件下で薬剤を揮散させる方法の一つである。しかし,この方法で揮散させる場合でも,適用する薬剤は,比較的揮散性の高いものについて有効であるとされていた 」。
イ6頁27行目ないし7頁8行「上記のごとく,害虫,特に飛翔性の害虫に対して使用される殺虫薬剤, ,。 の多くは 通常は加熱条件下でその有効成分を揮散 拡散するものであるこの際に多くのエネルギーを必要とする他,器具やその周囲の温度の上昇や火傷などの危険を含んでいる。一方,加熱手段を用いないで常温で揮散させる場合は,充分な量の有効成分をその空間内に供給するためには,殺虫薬剤中の有効成分として常温で蒸気圧の高いものを用いる必要がある。
, 。, しかし 常温で蒸気圧の高いDDVPなどは安全性に問題がある そこで安全であって常温ではあまり揮散せず,つまり使用しない条件下で消失せず,それでいて使用時に非加熱条件下で充分な量の薬剤をその空間内に供給できる有効な手段はなかった 」。
ウ7頁12行ないし22行「本発明者らは,従来技術の欠点を解消し,通常は加熱条件下で薬剤の有効成分を揮散,拡散させて害虫防除に使用してきた薬剤を用いながら,非加熱条件下でそれら薬剤を空間にリリースさせ,害虫を防除する事について鋭意検討した結果,本発明を完成した。すなわち,本発明は,次のこ。 , , とからなる ( )薬剤の害虫防除成分が 常温で難揮散性の化合物であり1該成分から選ばれた1種類以上を含む薬剤を担体に保持し,該薬剤を担体に保持した薬剤保持材を設置して送風手段により気体の流れに接触させることにより,非加熱下で該保持材から前記成分を気体中にリリースさせて害虫を防除することを特徴とする害虫防除方法。…」エ11頁12行ないし15行「ここで,害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持した薬剤保持材に気体を送風する手段としては,電池で駆動させることができる簡単なファンのようなものでも良いが,送風を開始した直後から,30日後といった長期間にわたり,安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適する送風方法などを挙げることができる 」。
オ16頁1行ないし8行「本発明の薬剤保持材を構成する担体としては,送風手段による気体の流れを遮断,外方に拡散することがないように通気性が良いものが望ましい。そして薬剤(害虫防除成分など)を十分に保持することができるものが望ましい。…この担体は,その通気性が,通気量で通常0.1リットル/sec以上のものであればよく,好ましくは0.1リットル/sec以上のものである 」。
カ18頁20行ないし19頁6行「本発明の装置は,図2に符号13で示す通気路及び通気口(図2では。)。 符号12で示す吸気口及び符号14で示す排気口であるを有している…ここで…通気路とは,通気口にて発生する気体の流れが移動する通路,空間域である。しかし,あえて設ける必要はない。また,通気口とは,装置内に外部より気体を取り入れる吸気口と装置内に吸引された気体を装置外部に排出する排気口とからなる。ここでの気体の流れを図1及び図2で説明すると,例えば,装置内にモーターやぜんまい等の駆動手段とプロペラ…などの一般にファンとして認識されている形状,形態及び機能を有する通常送風器具と称されるものを設置し,該ファンを該駆動手段によって駆動させることで装置内に外部より吸気口を通じて気体を吸引する。そして吸引された気体はさらに通気路を経て排気口へと移動する 」。
キ19頁19行ないし25行「実際の使用についてみてみると,通常の家屋の居室程度の空間に対しては小型の送風機を使用すれば十分に足りるものである。具体的には,ファンの回転数としては500から10000rpm程度であればよく,モーターやぜんまい等の駆動手段を用いることができる。…上記の居室程度の空間に対しては,太陽電池,二次電池,乾電池などで動く小型のモーターにより駆動する程度のファンを使用しても効果は十分に奏するものである 」。
ク20頁11行ないし16行「各種形態のファンの中で,図5に示したシロッコファン42と呼ばれるものを使用することが好ましい。該ファン42は電池からアダプターまで様々の電源により,種々の電圧により送風が調節できる。…該ファンの形状を換えることで,例えば直径を大きくしたり,厚みを増やすことで風量を増やすことができ,反対に直径を小さくしたり,薄くすることで風量を減らすこともできる 」。
ケ21頁18行ないし23行「例えば,紙製のハニカム状の担体(70×70×15mm)をシロッコファン(直径5cm,厚さ2cm)を用いて送風した場合,該ファンを駆動させるための電源電圧を2.0Vから4.0Vまでの範囲で変化させ, 。, た時は 担体とファンとの間隔は5mmから15mmが好ましい しかしこれらの範囲は限定されるものではなく,担体ファンの形状,電源電圧,装置の形状及び大きさそしてこれらの関係や組合せ等により適宜選択することができる 」。
コ甲6発明の実施態様として,甲6公報の図2には,本件明細書の図1とほぼ同一の図が記載されている。甲6公報18ないし19頁の記載と照らし合わせると,甲6公報の図2には次のような構成が開示されているといえる。
「チャンバと,該チャンバの両端に設けた吸気口12と排気口14と,前記チャンバの内部に設けられ前記吸気口12から吸気した外気を前記排気口14から排気するプロペラ20と,該ファンを駆動する直流電動モータ21と,該直流電動モータへ電源を供給する電池と,前記プロペラ20と前記排気口14との間に設けられ害虫防除成分を保持した薬剤保持材30と,を備えたことを特徴とする害虫防除装置」( ) 以上によれば,甲6公報には,原告主張のA1’ないしD’の構成を有す2る甲6発明が開示されており,甲6発明と本件特許発明は,原告主張のとおり次の三つの相違点を有することが認められる(この点については当事者間に争いがない。。)@本件特許発明では無負荷時における直流モータの消費電力が25mA以下であるが(構成要件A4 ,甲6発明では無負荷時における直流モータ )の消費電力が記載されていないこと(相違点1)A本件特許発明ではファンの重量が30gよりも軽量であるが(構成要件B ,甲6発明ではファンの重量が記載されていないこと(相違点2) )B本件特許発明では排気される風量が0.2リットル/sec〜6リットル/secであるが(構成要件C ,甲6発明では排気風量が明示されて )いないこと(相違点3)( ) 相違点1(無負荷時の消費電流量)について3アそもそも,駆動装置において消費エネルギーの低減は,一般的な課題であるところ,モータで駆動する装置においては無負荷時の消費電流量が小さいほど消費エネルギーが低減されていることは明らかであるから,甲6発明の装置において,所定の風量を確保できる範囲内において,無負荷時の消費電流量を所定の数値以下とすることは当業者が適宜行い得ることである。
また,以下に述べるとおり,本件特許発明と同じ乾電池によって小型のファンを駆動させることにより薬剤を拡散する害虫防除装置において,電圧3Vで無負荷時の消費電流量を6mAとするモータを採用する実施態様が,本件特許出願前に公開された特許公報に記載されている。
イ甲7の1によれば 「揮散性薬剤の拡散方法及びそれに用いる薬剤拡散 ,用材」に関して平成5年3月23日に公開された特開平5-68459公報(甲7公報)には次の記載がある。
)【0002 【従来の技術】a 】「従来,揮散性薬剤を所定の場所に拡散させるに当っては,通常,揮散性薬剤又はそれを保持した担体を所定の場所に設置し,単に拡散による揮散をしているにとどまるが,それでは時間がかかるので,早く拡散させたい場合には,揮散性薬剤を保持する担体を加熱するか,あるいは送風機により空気を吹き出して,それを揮散性薬剤を保持する担体に当てることにより前記薬剤を強制的に揮散させる方法が知られている 」。
)【0003 【発明が解決しようとする課題】b 】「担体に保持された薬剤を前記の送風機により強制的に揮散させる場合には,送られた風が揮散性薬剤を保持した担体と十分に接触しないためか,あるいは風が弱いために接触しても風力が小さく,前記担体からの薬剤の揮散化を促進する力が小さいために,十分満足しうる薬剤の拡散が行われなかった 」。
)【0005 【課題を解決するための手段】c 】「本発明は,揮散性薬剤を保持した揮散用材を駆動させると,その揮散が著しく増大することを見出すことによってなされたものであって,下記の手段によって,上記の目的を達成した 」。
)【0022】d「本発明の揮散性薬剤の拡散方法に使用する薬剤の拡散用材の形状としては,その駆動のさい揮散性薬剤を良く拡散するような形状ならばどのようなものでもよく,…これらの形状のうち,空気を攪乱する作用が大きいものとしては送風機のブレードを有するもの,例えば,ファンのようなものがあり,これらを用いるのが好ましい…」)【0029】e「通常の家屋の居室程度の空間に対してはかなり小型の送風機を使用すれば十分足りるものであって,ファンの回転数としては300rpm以上好ましくは,500〜10,000rpm程度で用いるのがよい。
前記ファンの駆動手段としては,モーター,ゼンマイなどを用いることができる。上記の居室程度の空間に対しては乾電池などで動く小型モーターにより駆動する程度のファンを使用しても十分効果を奏する 」。
)【0054】f「実施例6…揮散性薬剤封入体を作製し,これらの封入体をモーターに付設された図1記載の形状で内径3.3cm,外径4.7cm,高さ2.2cm,そして重量5.3gであるファン内部に沿って円柱状に装着し,表6及び表7に示す本発明の薬剤拡散用材を得た 」。
)【0057】g「上記実施例6の試料No.1〜10を使用し,表6及び表7に併記したモーターで上記試料のものを駆動させて,経時的に揮散性薬剤封入, 。 体の重量測定を行ない その重量減少量をエムペンスリン揮散量とした…前記のモーターは単一乾電池により駆動するものを用いており…」)表7には,試料No.10の試料の「モーター」欄に「RF330ThK07800 (甲7モータ)と記載されている。 」ウ甲7の2によれば 「マブチモーター総合カタログNo.11 (甲7 , 」カタログ)の61頁には 「RF-330TK07800 (甲7モータ) , 」について,電圧が3Vの場合の無負荷時電流量が0.006Aである旨記載されている(甲7の2 。)エ前記イ及びウによれば,甲7公報には,揮散性薬剤を保持したファンを駆動させて揮散性薬剤を拡散させる害虫防除装置が記載されており,当該ファンは乾電池などで動く小型モータにより駆動されるものであること,及び,その実施例として,ファンを駆動させるモータに甲7モータを採用する例が記載されていることが認められる。そして,甲7モータは,電圧3Vで,無負荷時の消費電流量は6mAであることが認められる。
そうすると,本件特許出願前に公開された甲7公報により,小型のファンの駆動により,薬剤を気中に拡散させるタイプの害虫防除装置に用いられるファンを,直流電圧3Vで,無負荷時の消費電流量が25mA以下の直流モータで駆動する技術は公知であったと認められる。
オ甲6発明に甲7モータを組み合わせて相違点1にかかる構成に想到することの容易性について前記のとおり,そもそも,所定の風量を確保できる範囲内において,無負荷時の消費電流量を所定の数値以下とすることは,当業者が適宜なし得ることである。
また,甲6発明と甲7発明は,いずれも乾電池によって小型のファンを駆動させることにより薬剤を拡散する害虫防除装置に関する発明であり,いずれも通常の家屋の居室に対して500ないし10000の回転rpm。, 数のモータによりファンを回転させて送風することを推奨している また両者は同じ動力源により,同様の大きさのファンを同程度の回転数で駆動させるものである。そして,甲7公報は害虫防除装置のファンを駆動するためのモータの一例として甲7モータを記載しているのであるから,同じくファンを用いた害虫防除装置である甲6発明においてファンを駆動するためのモータとして,電圧3Vで無負荷時の消費電流量が6mAである甲7モータを採用し,本件特許発明の相違点1にかかる構成(無負荷時の直流モータの消費電力を25mA以下とすること)に想到することは容易であるといえる。
被告は,モータには数多くの種類があることを指摘する。しかし,甲7モータはカタログに記載されるほど汎用のモータである。甲7公報において,種々のモータの中から甲7モータが実施例として選択され記載されているのであるから,モータの種類が多いからといって甲6発明に甲7モータを採用することが容易ではないということはできない。また,甲7公報には甲7モータ以外のモータも記載されているが,このことから,甲6発明に甲7モータを採用することが容易ではないということはできない。
( ) 相違点2(ファンの重量)について4ア前記のとおり,そもそも,駆動装置において消費エネルギーの低減は,一般的な課題であるところ,ファンをモータで駆動して送風する装置においては,ファンの重量が軽いほど消費エネルギーが低減されていることは明らかであるから,所定の風量を確保できる範囲内において,甲6発明の装置においてファンの重量を所定の数値以下とすることは当業者が適宜行い得ることである。
また,以下に述べるとおり,本件特許発明と同じ乾電池によって小型のファンを駆動させることにより薬剤を拡散する害虫防除装置において,ファンの重量を30g以下とする実施態様が,本件特許出願前に公開された特許公報に記載されている。
イ甲7の1によれば,甲7公報には,上記( )アに記載したほか,次のよ3うな記載がある。
)【0040】実施例1a「単2アルカリ乾電池で駆動するモーター(回転数2100rpm)の回転軸に直径2.5cm4枚羽のファンを取付けた送風機を構成した 」。
)【0048】b「実施例3…上記プレート4枚をファンの中心となる部材にブレード(,) (. 羽根 厚み1mm として取り付けて拡散用材であるファン 直径46cm)を作成した。このブレード部分の重量は合計で1.7973gであった 」。
)【0054】c「実施例6…揮散性薬剤封入体を作製し,これらの封入体をモーターに付設された図1記載の形状で内径3.3cm,外径4.7cm,高さ2.2cm,そして重量5.3gであるファン内部に沿って円柱状に装着し,表6及び表7に示す本発明の薬剤拡散用材を得た 」。
ウ前記イによれば,甲7公報には,揮散性薬剤を保持したファンを駆動させて揮散性薬剤を拡散させる害虫防除装置が記載されており,実施例とし, (,) て 直径74mm以下のファンを採用する複数の例 実施例1 3及び6が記載されている。このうち一つの例においては当該ファンの重量が5.3gであることが記載されている(実施例6 。また,別の例では,中心 )部材に4枚のブレード(羽根)を折り付けたファンを採用したことが記載されており,かつ,当該ブレードの重量が合計1.7973gであることが記載されている(実施例3 。)そうすると,甲7公報には,揮散性薬剤を保持したファンを駆動させて揮散性薬剤を拡散させる害虫防除装置において,直径74mm以下で,かつ,重量が30gよりも軽量のファンを用いる技術が開示されているといえる。
なお,甲7発明は,ファンと薬剤保持材を一体として回転させる構成を採用した発明である。この場合には,ファンの重量が開示されるのみでは, , 足りず ファンと薬剤保持材を併せた直径と重量が記載されていなければ本件特許発明構成要件Bの構成が開示されているとはいえないのではないかとの疑問も生じ得る。
しかし,仮に,本件特許発明において,ファンと薬剤保持材が一体をなして回転する場合には,ファンと薬剤保持材の双方の直径及び重量が構成要件Bの数値範囲を満たしていなければならないものと解釈したとしても,甲7公報の図1には薬剤袋をファンの内側に設置する構成が開示されているから,薬剤保持材とファンとを一体とした上で,上記直径の数値範囲内とする技術は開示されているといえる。また,重量については,甲7公報の図5ないし図7には薬剤を封入した封入体重量について揮散前の状.. , 態で最大で8 5gから2 0g以下の実施例が記載されていることから甲7公報に記載された実施例3及び6においてはファンと薬剤保持材(封入体)の重量を合計しても30g以下になることは明らかである。したがって,甲7公報には,揮散性薬剤を保持したファンを駆動させて揮散性薬剤を拡散させる害虫防除装置において,ファンと薬剤保持材を併せても直径74mm以下で,かつ,重量が30gよりも軽量となる技術が開示されているといえる。
エ甲6発明に甲7発明を組み合せて相違点2にかかる構成に想到することの容易性について前記のとおり,そもそも,所定の風量を確保できる範囲内において,ファンの重量を所定の数値以下とすることは当業者が適宜なし得ることである。
また,甲6発明と甲7発明は,いずれも乾電池で動く,小型のファンの駆動により薬剤を拡散する害虫防除装置に関する発明であり,上記のとおり,いずれも通常の家屋の居室に対して500ないし10000のrpm回転数のモータによりファンを回転させて送風することを推奨している。
そして,甲7公報は害虫防除装置に用いるファンとして上記各実施例のファンを記載しているのであるから,同じく害虫防除装置の甲6発明において当該ファンを採用し,相違点2にかかる構成(ファンの重量を30gよりも軽量とすること)に想到することは当業者にとって容易であるといえる。
( ) 相違点3(排気風量)について5アそもそも,どの程度の排気風量を確保するかは,当該装置の目的とする害虫防除効果の強弱に応じて当業者が適宜設定できる事項である。当業者は,装置の目的に応じて排気風量を設定した上で,当該排気風量を実現するために装置の構成を決定するのが通常である(装置の構成の決定においては,当該排気風量を実現できる範囲内で可能な限り消費エネルギー量を低減させるために,モータの無負荷時における消費電流量を低減させ,ファンの重量を軽減しようとすることは当業者が適宜なし得ることであることは,前記のとおりである。。)また,以下に述べるとおり,本件特許発明と同じ乾電池によって小型のファンを駆動させることにより薬剤を拡散する害虫防除装置において,排. , 気風量を0 2リットル/sec〜6リットル/secとする実施態様が本件特許出願前に公開された特許公報に示唆されている。
イ甲8によれば 「ファン式殺虫・防虫方法」に関して平成7年5月2日 ,に公開された特開平7-111850公報(甲8公報)には,次のような記載がある(以下,甲8公報に記載された発明を「甲8発明」という。。))【請求項3】a「@Si/Wq=(0.1〜2.0 (Si=保持体の各穴の総内表 ),,,, 面積=nπRd n=保持体の穴の個数 R=見掛け穴径 d=奥行きWq=保持体を通過する風量(cm /秒 ,かつAWv=保持体内の3)風速=20〜100cm/秒であることを特徴とする請求項1または2記載のファン式殺虫・防虫方法」)【0004】b【発明が解決しようとする課題】「・・・本発明は,均質な送風を達成すると共に均質な送風ができないため失われていた経済性を回復しようとするものであり,乾電池で長時間使用が可能で,かつ安定して十分な揮散ができるファン式殺虫・防虫方法を提供するものである 」。
)【0009】c「Sa=保持体横断面における各穴の面積の総和(単位:cm」2))【0011】d「本発明では,d,R,Si,およびSaを所望に決定することにより,最適なWq,Wv,Vrが決定できることがわかる。そして,本発明は,上記条件を満足する保持体を使用すると共にこの保持体をファンの吸込口に設置することにより,乾電池程度の電圧で安定して長時間,殺虫・防虫剤の揮散成分を極めて有効に無駄なく揮散させることが出来る 」。
)【0025 【実施例】e 】「実施例1径6.0cm,巾2.7cm,羽根数18枚の水車翼のシロッコファンを装着した。殺虫・防虫機器(単一電池2個でモーター,.,.,.) 起動 吸入口直径5 2cm 吹出口:巾3 1cm 長さ4 8cmの吸込口にアタッチメントで7.0×7.0cm保持体部を設け,次の保持体をセットする 」。
)【0026】f「かかる殺虫・防虫機器を25〜29℃下で毎日12時間,7日間起動した 」。
)【0027】g「次いで起動中の保持体も通過する空気量(Wq)をアダプターを付けて測定したところ1470cm /秒であった。そして,Si/Wq3は0.55であった 」。
)【0034】h【発明の効果】「ファン式殺虫・防虫機器は,殺虫・防虫成分を加熱揮散させる方法に比べて,エネルギー消費量が小さく電源として通常の乾電池が利用できる。このことは電源の解放され,キャンプ場での使用は勿論,屋内での室間移動等を容易にする。さらに一般電源が100に対し乾電池Vの場合は3Vと安全性が向上する 」。
ウ前記イによれば,甲8公報には,ファン式殺虫・防虫機器において起動中の薬剤保持材を通過する空気量が1.47リットル/secである実施例が記載されていることが認められる。
エ甲6発明に甲8発明を組み合せて相違点3にかかる構成に想到することの容易性について甲6発明と甲8発明は,いずれも乾電池で動く小型のファンの駆動により薬剤を拡散する害虫防除装置に関する発明であり,いずれも通常の家屋の居室程度の空間に対する使用を前提としている(甲8公報にも,上記のとおり,家屋の居室内での使用を前提とした記載がある。そして,甲。)8発明は,均質な送風により,乾電池で長時間使用可能で,かつ安定して十分な揮散を実現することを目的として,薬剤保持材に風を当てる際に,薬剤保持材を通過する風量が1.47リットル/secになるようにする構成を開示している。また,甲6公報においても,前記のとおり,ファン式害虫防除用装置を30日という長期間にわたり安定して送風することが記載されている。このように,通常の家屋の居室程度の空間に対し,乾電池で長時間使用可能で,かつ安定して十分な揮散を実現することは,送風による害虫防除装置にかかる両発明に共通する課題であるから,甲6発明において薬剤保持材を通過する風量を1.47リットル/secとすることは当業者が適宜採用し得る設計的事項の範囲内のものといえる。なお,この点に関連して,被告は,甲8発明でいう「長時間使用可能」とは,薬剤の有効成分が残留したままで揮散しなくなったりしないという意味である旨主張する。しかし,薬剤の有効成分が残留したままで揮散しなくなったりしないようにすることも,甲6発明においても共通する課題であることに変わりはない。
そして,チャンバ内において薬剤保持材に風を当て,これによって薬剤を揮発させ,かつ,排気口を通じて揮発した薬剤をチャンバ外に拡散させる装置においては,薬剤保持材を通過する空気を効率よくチャンバ外に拡散して十分な害虫防除効果が得られることを目的としているのであるから,薬剤保持材を通過する空気量は,排気口から排気される風量より若干大きいとしても,概ね等しいものといえる。
そうすると,甲6発明に甲8発明を組み合せて,甲6発明において薬剤保持材を通過する風量を1.47リットル/secとすることは当業者にとって容易であり,かつ,薬剤保持材を通過する風量を1.47リットル/secとした場合には,排気口から排気される風量が1.47リットル/secに近い値,すなわち,少なくとも0.2リットル/sec〜6リットル/secの範囲内の値になることは明らかである。
したがって 甲6発明に甲8発明を組み合せて相違点3にかかる構成 排 , (気口の排気風量を0.2リットル/sec〜6リットル/sec)に想到することは,当業者にとって容易であるといえる。
( ) 三つの相違点をすべて組み合わせることの容易性について6被告は,甲6発明について,個々の相違点を甲7発明,甲7モータないし甲8発明と組み合せることによって解消することが容易であったとしても,消費電力を極力抑え,かつ,所定の風力を確保するという二つの要請を調整するという課題を解決するために,上記三つの事項に着目してその範囲を限定したところに本件特許発明進歩性があるところ,そのような構成を採用することは当業者にとって容易ではない旨主張するので,この点について判断する。
甲6発明と甲7発明は,いずれも乾電池で動く小型のファンの駆動により薬剤を拡散する害虫防除装置に関する発明であり,いずれも通常の家屋の居室に対して500ないし10000の回転数のモータによりファンをrpm回転させて送風することを推奨するものであるから,甲6発明におけるモータ及びファンとして,甲7公報に記載された無負荷時の消費電流量の直流モータ及び甲7公報に記載された重量のファンを採用することが容易であることは前記のとおりである。また,甲8発明も,乾電池で動く小型のファンの駆動により薬剤を拡散する害虫防除装置に関する発明であり,通常の家屋の居室程度の空間に対する使用を前提としているものであるから,甲6発明において,甲8公報に記載された通気風量のファンを採用することも容易であることは前記のとおりである。
そして,甲6公報の前記各記載(例えば「害虫防除成分を含む薬剤を担体に保持した薬剤保持剤に気体を送風する手段としては,電池で駆動することができる簡単なファンのようなものでも良いが,送風を開始した直後から,30日後といった長期間にわたり,安定して一定濃度の薬剤をリリースさせるに適する送風方法などを挙げることができる(11頁12行ないし1 。」5行「実際の使用についてみてみると,通常の家屋の居室程度の空間に ),対しては小型の送風機を使用すれば十分に足りるものである。具体的には,ファンの回転数としては500から10000rpm程度であればよく ・,・・上記の居室程度の空間に対しては,太陽電池,二次電池,乾電池などで動く小型のモーターにより駆動する程度のファンを使用しても効果は十分に奏するものである(19頁19行ないし25行)等の記載 ,甲7公報の 。」 )前記各記載(例えば「本発明は,揮散性薬剤を保持した揮散用材を駆動させると,その揮散が著しく増大することを見出すことによってなされたものであって,下記の手段によって,上記の目的を達成した【0005 )及び。」】甲8公報の前記記載(例えば「本発明は,均質な送風を達成すると共に均質な送風ができないため失われていた経済性を回復しようとするものであり,乾電池で長時間使用が可能で,かつ安定して十分な揮散ができるファン式殺虫・防虫方法を提供するものである【0004 )からすれば,このよう 。」】な小型の送風機により薬剤を拡散する害虫防除装置においては,長期間持続して使用できるように消費電力を抑えること,及び,通常の家屋の居室において害虫防除の効果を奏し得る程度に所定の風力を確保するという二つの要請を調整するという課題は,一般的な課題であるということができる。
そうすると,甲6公報において,長期間継続して使用できるように消費電力を極力抑えること,及び,通常の家屋の居室において害虫防除の効果を奏し得る程度に所定の風力を確保するという二つの要請を調整するという上記一般的課題を解決するために,同じく乾電池で動く小型のファンの駆動により薬剤を拡散する害虫防除装置である甲8発明で採用された風量に設定した上,同じく乾電池で動く小型のファンの駆動により薬剤を拡散する害虫防除装置である甲7発明及び甲8発明におけるモータ及びファンを組み合せて,無負荷時のモータの消費電流量,ファンの重量,ファンの排気口の風量の三つの事項についてその数値範囲を定めることは,当業者が容易になし得たことであるというべきであり,本件特許発明におけるこれらの数値範囲について,特段の臨界的意義があるとは到底認められない。
また,本件特許発明によって奏される効果のうち,設置場所の制約を受けない点,加熱を要しない点については甲6発明において既に実現されていた効果であり,電池駆動により十分な薬剤拡散量及び長時間運転が可能となり経済性を向上させる点についても,前記1( )エに記載されているとおり,1,, 甲6発明において既に実現されていたものであって 本件特許発明によって従来にない顕著な効果が実現されたということもない。
( ) 小括7以上によれば,本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に日本において公然知られた発明である甲6発明,甲7発明及び甲8発明に基づいて容易に発明をすることができたものといえるから,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる(特許法29条2項,123条1項2号 。したがって,被告は,原告に対し,本件特許権を行使することがで )きない(特許法104条の3第1項 。)2甲14文書の配布行為ないし本件情報提供行為が不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為に当たるか(争点5 。)( ) 証拠(甲3,9の1ないし4,14,乙3,6)及び弁論の全趣旨によれ 1ば,次の事実が認められる。
ア被告は,原告に対し,平成18年7月5日付けで,原告器具の製造販売は本件特許権を侵害するものであり,原告カートリッジの製造販売は本件特許権の間接侵害になるから,製造販売を中止するよう要請する通知書を発送した(甲3 。)イ原告は,平成18年7月20日,東京地方裁判所に被告が原告各製品の製造販売に対して本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める訴え(一部取下げ前の本件本訴)を提起した。
ウ原告は,同日付けで次のような内容を記載した書面(乙6。以下「乙6文書」という )を,その取引先に対して配布した。 。
すなわち,乙6文書には,被告から原告各製品が本件特許権を侵害している旨の警告を受けたこと,原告は被告の上記警告を不当として原告各製品が本件特許権を侵害していないことを確認するために訴訟を提起したこと,原告各製品は,薬剤を保持しているカートリッジが回転する独自の構成を採用しており,本件特許発明の構成と明らかに相違していること,本件特許発明は既存の技術に常識の範囲内にある数値限定を加えているだけ, , であって特許性に疑問があり 近い将来無効審判請求を予定していること被告は平成6年にも「液体かとり」に関して特許権侵害訴訟を提起してきたが被告が敗訴していることなどが記載されていた。
エ平成18年7月21日付け産経新聞に,原告が,被告に対し,原告各製品が本件特許権を侵害していないことの確認を求める訴訟を提起した旨の記事が掲載された(乙3 。)オ被告は,平成18年7月28日付けで次のような記載を含む書面(甲14文書)を作成し,その取引先に配布した。
「弊社は……弊社特許権を侵害する『カトリス』シリーズを製造販売する大日本除虫菊(株)に対して,その製造販売の中止を求める通知書を送付いたしました。……大日本除虫菊(株)は,弊社特許権には侵害しない旨を述べておりますが,弊社特許権は先発メーカーとして基本的技術で特許権を取得したものであり大日本除虫菊(株)の権利侵害は明らかであります。……以上御賢察の上,お得意様各位におかれましては引き続き弊社製品をご愛顧頂きますようお願い申し上げます 」。
カ被告は,平成18年8月23日,東京地方裁判所に原告各製品の製造販売の差止め等を求める訴え(本件反訴)を提起した。
,,,, , 被告は 同日ころ 朝日新聞 毎日新聞 読売新聞及び産経新聞に対し本件反訴を提起した旨の情報提供を行った(本件情報提供行為 。)翌日の平成18年8月24日付けの上記各新聞には,被告が,同月23日に原告各製品が本件特許権を侵害しているとして製造販売の中止を求めて提訴したこと,これに先だって原告が被告に対して本件特許権を侵害しないことの確認を求めて提訴していることを内容とする記事が掲載された(甲9の1ないし4 。このうち朝日新聞及び毎日新聞の記事には,原告 )及び被告が,従前,液体電気蚊取り器の特許権をめぐって法廷で争った際には被告が敗訴して確定していることも記載された(甲9の1・2 。)( ) 原告は,前記( )オの甲14文書の内容及び同カの本件情報提供行為の内21容に虚偽の事実が含まれており,甲14文書の配布行為及び同カの本件情報提供行為が,不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為に当たると主張するので,以下,判断する。
ア甲14文書配布行為について被告は,甲14文書によって,取引先に対し 「大日本除虫菊(株)の ,権利侵害は明らかであります 」旨告知した。そして,前記1によれば, 。
被告は,原告各製品の製造販売行為について本件特許権を行使し得ない。
しかし,当該告知,流布の内容が同条項の「虚偽の事実」に当たるか否かは,当該事実の告知,流布を受けた受け手に真実と反するような誤解を生じさせるか否かという観点から判断すべきである。具体的には受け手がどのような者であってどの程度の予備知識を有していたか,当該陳述が行われた具体的状況を踏まえつつ,当該受け手を基準として判断されるべきである。
これを本件についてみると,前記2( )記載のとおり,原告は,被告か1ら原告各製品が本件特許権を侵害している旨の警告を受けたため,被告による甲14文書の配布に先立ち,その取引先に対して,原告各製品は本件特許権を侵害せず,かつ,本件特許権が無効理由を有する旨の乙6文書を配布していること,及び,甲14文書の配布に先立ち,全国紙において,原告が被告に対して原告各製品が本件特許権を侵害していないことの確認を求める訴訟を提起した旨の記事が掲載されたことが認められる。
以上のような甲14文書配布の経緯,すなわち,原告が本件本訴(一部取り下げ前のもの)を提起し,乙6文書を配布していること,及び,受け手である原告及び被告の取引先がこれらの経緯により取得した予備知識を前提とすると,原告と被告の取引先は,甲14文書の配布を受けたとしても,被告が原告各製品の製造販売行為が本件特許権を侵害するものと認識していると解釈することはあっても,原告各製品が客観的にみて本件特許権を侵害しているものと解するとまでいうことはできない。
したがって,甲14文書の配布行為を不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為ということはできない。
イ本件情報提供行為について弁論の全趣旨及び前記2( )カ記載の新聞記事の内容から,被告は,本1件情報提供行為の際,新聞記者に対して,@原告が本件本訴(一部取下げ前のもの)を提起したこと,A被告が原告各製品が本件特許権を侵害している旨主張していること,及びB平成18年8月23日に原告各製品が本件特許権を侵害しているとして製造販売の中止を求めて提訴したことを告げたことが認められる。
,, 。 しかし 上記@ないしBの事実は いずれも真実であって虚偽ではないなお,原告及び被告が,従前,液体電気蚊取り器の特許権をめぐって法廷で争った際には被告が敗訴して確定していることについては,被告に不利な事実であり,原告の営業上の信用を害する事実とはいえないし,そもそも本件情報提供行為を受けた新聞社のうちの一部のみが記載していることからすれば,被告が当該事実を告げたとまでは認められない。
したがって,本件情報提供行為を不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為ということはできない。
なお,原告は,被告が,本件情報提供行為の際,原告各製品が本件特許権を侵害している旨告知した旨主張する。しかし,原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
また,仮に,被告が新聞記者に対して原告各製品が本件特許権を侵害している旨告知していたとしても,訴訟の一方当事者がそのような告知を行ったことのみによって,新聞記者が当該告知内容を真実であると誤解するとは認められない。いずれにしても,この点に関する原告の主張は理由がない。
第5結論, ,。 以上によれば 原告の本訴請求及び被告の反訴請求は いずれも理由がないよって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂隆一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉