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関連審決 異議2002-71999
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10779号 特許取消決定取消請求事件
原告富 士ゼ ロッ ク ス株式会 社
訴訟代理人弁理士木村高久
被告特 許庁長 官中嶋誠
指定代理 人山崎慎一
同 大日方和幸
同 小池正彦
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が異議2002-71999号事件について平成17年9月14日にした取消決定を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「印刷システム」とする特許第3254758号(平成4年10月19日出願,平成13年11月30日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許の特許権者である。
本件特許に対し,特許異議の申立てがあり,特許庁がこの申立てを異議2002-71999号事件として審理する過程で,原告は,平成15年1月7日,願書に添付した明細書又は図面の訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。その結果,平成17年9月14日,特許庁は,上記訂正請求を認めた上で,本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消す旨の決定をし,同年10月3日,決定の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲本件訂正による訂正後の本件特許の請求項1ないし3(請求項の数は全部で3項である。)は,次のとおりである。
「【請求項1】ホストコンピュータと印刷装置から構成される印刷システムにおいて,前記ホストコンピュータは,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力するホストコンピュータデータ処理部と,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なり,前記ホストコンピュータデータ処理部から出力された前記印刷情報データを受信して該印刷情報データを前記接続方式に対応した転送方式で前記印刷装置に転送するホストコンピュータインターフェース制御部とを有し,前記印刷装置は,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なり,前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信する印刷装置インターフェース制御部と,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置データ処理部とを有することを特徴とする印刷システム。
【請求項2】印刷装置と接続されるホストコンピュータであって,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力するデータ処理部と,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なり,前記データ処理部から出力された前記印刷情報データを受信して該印刷情報データを前記接続方式に対応した転送方式で前記印刷装置に転送するインターフェース制御部とを有することを特徴とするホストコンピュータ。
【請求項3】ホストコンピュータと接続される印刷装置であって,印刷装置とホストコンピュータの接続方式によって異なり,ホストコンピュータから前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを受信するインターフェース制御部と,印刷装置とホストコンピュータの接続方式について共通であって,前記インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置データ処理部とを有することを特徴とする印刷装置。」(以下,請求項1ないし3に係る発明をそれぞれ「本件発明1ないし3」という。)3決定の理由別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1ないし3は,いずれも,特開昭63-185671号公報(甲第1号証。以下,決定と同様に「刊行物1」という。),特開昭64-67354号公報(甲第2号証。以下,決定と同様に「刊行物2」という。)及び特開平1-140328号公報(甲第3号証。以下,決定と同様に「刊行物3」という。なお,これらの刊行物に記載された発明を「刊行物1記載発明」などという。)の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により,請求項1ないし3に係る本件特許を取り消すというものである。
決定は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載発明の内容及び本件発明1ないし3と刊行物1記載発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)刊行物1記載発明の内容「ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等にも適用することができる,低速で安価なワイヤドットプリンタ103と高速なレーザプリンタ104の2種類のプリンタをサポートする印刷処理システムにおいて,ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等は,テキスト,図形,グラフなど各アプリケーションに依存し,対応する編集プログラムのデータから,OS(オペレーティングシステム)が用意する印刷用コマンドを発生し,印刷制御プログラム206に対して,コマンド1100aとパラメータ1100bからなる印刷コマンドをレーザプリンタ104に転送するファンクションを発行する印刷プログラム201と,ワイヤドットプリンタ103を制御するワイヤドットプリンタドライバ208と,レーザプリンタ104を制御するレーザプリンタドライバ209と,基本的なタスク制御や入出力制御などを行うカーネル部207と,上述した印刷用コマンドからドットイメージを発生させるなどの印刷処理特有の機能を実現し,レーザプリンタドライバ209を介してレーザプリンタ104のコントローラ部210に印刷コマンドを転送する印刷制御プログラム206に別れるOS205とを有し,レーザプリンタ104は,実際の印字を行うレーザプリンタエンジン211と,ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等と通信を行い,ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等から転送されてきた印刷コマンドに基づき,頁メモリ650に展開された1頁の印刷イメージをレーザプリンタエンジン211に転送し,レーザプリンタエンジン211が印刷するように制御するコントローラ部210とを有する印刷処理システム。」(2)本件発明1と刊行物1記載発明との対比ア一致点ホストコンピュータと印刷装置から構成される印刷システムにおいて,前記ホストコンピュータは,印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力するホストコンピュータデータ処理部と,前記ホストコンピュータデータ処理部から出力された前記印刷情報データを受信して該印刷情報データをホストコンピュータと印刷装置の接続方式に対応した転送方式で前記印刷装置に転送するホストコンピュータインターフェース制御部とを有し,前記印刷装置は,前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信し,受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷システムである点イ相違点本件発明1では,印刷装置は,印刷装置インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有し,ホストコンピュータデータ処理部と印刷装置データ処理部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるのに対して,刊行物1記載発明では,印刷装置が印刷装置インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有していることや,ホストコンピュータデータ処理部,印刷装置データ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部のうち,どれが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通で,どれが異なるのかが明らかでない点(3)本件発明2と刊行物1記載発明との対比ア一致点印刷装置と接続されるホストコンピュータであって,印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを生成して出力するデータ処理部と,前記データ処理部から出力された前記印刷情報データを受信して該印刷情報データをデータホストコンピュータと印刷装置の接続方式に対応した転送方式で転送されてきた前記印刷装置に転送するインターフェース制御部とを有するホストコンピュータである点イ相違点本件発明2では,コンピュータデータ処理部が,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,インターフェース制御部が,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるのに対して,刊行物1記載発明では,データ処理部,インターフェース制御部のうち,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式についてどちらが共通で,どちらが異なるのかが明らかでない点(4)本件発明3と刊行物1記載発明との対比ア一致点ホストコンピュータと接続される印刷装置であって,ホストコンピュータから印刷装置とホストコンピュータの接続方式に対応した転送方式で転送されてきた印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データを受信し,受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置である点イ相違点本件発明3は,インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有し,印刷装置データ処理部が,印刷装置とホストコンピュータの接続方式について共通であって,インターフェース制御部が,印刷装置とホストコンピュータの接続方式によって異なるのに対して,刊行物1記載発明では,インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有しており,印刷装置データ処理部,インターフェース制御部のうち,印刷装置とホストコンピュータの接続方式についてどちらが共通で,どちらが異なるのかが明らかでない点第3原告主張の取消事由の要点決定は,本件発明1と刊行物1記載発明との一致点の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1及び2),相違点を看過し(取消事由3),相違点についての判断を誤った(取消事由4)ものであり,本件発明2についても本件発明1におけると同様の誤り(取消事由5)があり,本件発明3についても本件発明1におけると同様に,相違点を看過し,相違点についての判断を誤った(取消事由6)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)刊行物1記載発明の「OS205」は,接続方式の違いを考慮しない,あるいは,各接続方式の違いに対応した書き出しプログラムを用いるものであり,「ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって」と明確に特定する本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当するものではない。
2取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)刊行物1記載発明の「レーザプリンタドライバ209」は,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるものでも,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるインターフェース機能を有するものでもないから,本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」に相当するものではない。
3取消事由3(相違点の看過)本件発明1は,ホストコンピュータデータ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部及び印刷装置データ処理部のそれぞれについて,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式との関係を明らかに規定し(特許請求の範囲請求項1),ホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いを踏まえて発明の詳細な説明に記載した二つの課題を達成するために従来の書き出しプログラムと印刷処理プログラムに代えてなされた発明である(発明の詳細な説明及び図面)のに対し,刊行物1記載発明は,コンピュータと印刷装置の接続方式の違いに何ら関与する技術ではない。決定は,この点を相違点として挙げておらず,本件発明1と刊行物1記載発明の相違点を看過している。
4取消事由4(相違点判断の誤り)(1)周知技術の認定決定は,刊行物2及び3記載発明等を参照すれば,「印刷装置インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有する印刷装置において,印刷装置データ処理部が,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるようにすることで,外部のインタフェースが変更されても,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部を切り換えるだけで対応できる技術」が周知であることは明らかであると認定している。
しかし,本件発明1には,@印刷装置インターフェース制御部が「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力された印刷情報データを,ホストコンピュータインターフェース制御部で,データ構造を変えずに転送したものを受信する」構成,A印刷装置データ処理部が処理する印刷情報データが「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力されたデータ構造を,接続方式,転送方式の違いで変えることなく,印刷装置に転送されたものである」構成,B「転送方式の違いにより,ホストコンピュータデータ処理部で生成されたデータの構造/フォーマットが変わるものではない」という構成が含まれている。
これに対し,刊行物2及び3記載発明は,本件発明1のホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部及び印刷装置データ処理部に相当するものを備えていないし,各接続方式に対応した書き出しプログラムを用いる以上,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通である印刷装置データ処理部では各接続方式に対応した書き出しプログラムで生成出力された印刷情報データを処理することができず,当然,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部を切り替えても外部のインターフェースが変更に対応することはできないから,決定がした周知技術の認定は誤りである。
(2)容易想到性の判断ア刊行物1記載発明にはホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いに対応する何らの技術思想がなく,ホストコンピュータ側では接続方式の違いに対応する構成も備えていないから,刊行物1記載発明をもって接続方式の違いに対応する技術に想到することは,当業者が容易になし得るものではない。
イ刊行物1記載の「コントローラ部210」は,たとえ2分割しても本件発明1の課題を達成することができるものではないし,各接続方式との関係を示唆する何らの記載もないから,本件発明1の「前記印刷情報データを受信する印刷装置インターフェース制御部」と「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当しない。
ウ刊行物1記載発明の「OS205」をホストコンピュータと印刷装置の接続方式が異なる場合についてもそのまま使えるようにする,つまり,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式についても共通にすることは,当業者が容易になし得ることではない。本件発明1でいう「ホストコンピュータデータ処理部」は印刷情報データを生成して出力するものであり,印刷情報データの生成出力について具体的プログラムが明示されないCPU全体又は多種の外部装置へのデータ処理を行うものの総体ではないから,乙第1ないし第4号証が例示する周知技術は,本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」の先行技術としての周知技術ではない。
エ本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて,2分割し,機能分けをしたものである。
5取消事由5(本件発明2についての認定判断の誤り)本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明2は「ホストコンピュータ」の発明ではあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質的に同じであり,本件発明2についての決定の認定判断には,上記取消事由1ないし4と同様の誤りがある。
6取消事由6(本件発明3についての認定判断の誤り)本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明3は「印刷装置」の発明ではあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質的に同じであり,本件発明3についての決定の認定判断には,上記取消事由3及び4と同様の誤りがある。
第4被告の反論の骨子決定の認定判断はいずれも正当であって,決定を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について刊行物1記載発明の「OS205」は,これに含まれる「印刷制御プログラム206」が,レーザプリンタドライバ209を介して印刷コマンドを転送するものであり(刊行物1の6頁左下欄8行〜10行),接続方式の異同について論じなければ,本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コマンド」を生成し出力しているから,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当するものである。なお,「OS205」が印刷装置との接続方式によって共通であるか否かについて,決定は,相違点として挙げて判断をしている。
2取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)について刊行物1記載発明の「レーザプリンタドライバ209」は,これを介して印刷制御プログラム206がレーザプリンタ104のコントローラ部210に印刷コマンドを転送するものであるから,印刷制御プログラムから出力された印刷コマンドを受信して印刷コマンドを印刷装置に転送するものである(刊行物1の6頁左下欄8行〜10行)。転送するに際し,何らかの接続方式があることは当然であるから,「レーザプリンタドライバ209」は,何らかの接続方式に対応した転送方式で印刷コマンドを転送するものであり,接続方式の異同について論じなければ,本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コマンド」を受信して転送している点で,本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」に相当するものである。なお,「レーザプリンタドライバ209」が印刷装置との接続方式によって異なるか否かについて,決定は,相違点として挙げて判断をしている。
3取消事由3(相違点の看過)について本件特許の特許請求の範囲の請求項1において,「ホストコンピュータデータ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部,及び,印刷装置データ処理部のそれぞれについて,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式との関係を明らかに規定」しても,本件発明1が「ホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いを踏まえて発明の詳細な説明に記載した2つの課題を達成するために従来の書き出しプログラムと印刷処理プログラムに代えてなされた発明」である根拠とはならない。また,それぞれの処理部や制御部につき,接続関係の異同に関しては,決定は,相違点として挙げ,進歩性を判断しているから,看過したとされる相違点は存在しない。
4取消事由4(相違点判断の誤り)について(1)周知技術の認定本件特許の特許請求の範囲の記載によれば,本件発明1の「印刷情報データ」は,ホストコンピュータ側の「ホストコンピュータデータ処理部」で生成出力され,「ホストコンピュータインターフェース制御部」によって印刷装置へ転送され,さらに印刷装置側の「印刷装置インターフェース制御部」で受信されるものであり,「印刷装置データ処理部」は,「印刷情報データ」に「基づく」印刷制御を行うものである。
しかし,「印刷装置データ処理部」が印刷制御を行うに際し「基づく」データは,「前記印刷情報データ」ではあるが,これが「ホストコンピュータインターフェース制御部」及び「印刷装置インターフェース制御部」を経る間に,データストリームなりコマンド体系などが変化するか否かについては,特許請求の範囲の記載において何らの特定もされていないだけでなく,「ホストコンピュータと印刷装置の…中略…接続方式に対応した転送方式で前記印刷装置に転送する」とされている。この記載からは,「ホストコンピュータインターフェース制御部」と「印刷装置インターフェース制御部」との間は,むしろ,接続方式に合わせた形に変換されて転送されるものと解釈するのが自然である。したがって,本件発明1は「印刷情報データをホストコンピュータインターフェース制御部でデータ構造を変えずに転送したものを受信する」ものであるとの原告の主張は当を得ない。
刊行物2記載発明で使用されるプログラムが何であるかは別として,その機能に着目すれば,刊行物2記載発明の「ホストインターフェース」及び刊行物3記載発明の計算機9の有する「セントロニクス及びRS-232Cの各インターフェース」を本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」に,刊行物2記載発明の「セントロニクス,RS-232C,IBMチャネルなどの各種インタフェースから入力されるデータストリームを共通のフォーマットに変換する入力管理部10」及び刊行物3記載発明の「セントロニクスインターフェイス印字コード受信部11とRS-232Cインターフェース印字コード受信部12」を本件発明1の「印刷装置インターフェース制御部」にそれぞれ相当するとした認定に誤りはないから,決定がした周知技術の認定に誤りはない。
(2)容易想到性の判断ア刊行物1記載発明がホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いに対応する技術でないとしても,刊行物2及び3記載発明等から認定することのできる前記第3の4(1)の技術が周知技術であって,この技術も刊行物1記載発明も共にホストコンピュータと印刷装置とからなる印刷処理システムであり,技術的関連性を有するから,刊行物1記載発明及び周知技術とに基づき本件発明1を想到することは当業者にとって容易である。
イ刊行物1記載発明の「コントローラ部210」は,「転送されてきた印刷コマンドに基づき,…(中略)…印刷イメージを展開」して,後に「レーザプリンタエンジン211によって印刷」される機能を有するものであり(刊行物1の6頁左下欄10行〜14行),本件発明1における「前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信する」機能及び「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う」機能を共に有するものである。したがって,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」が本件発明1の「印刷装置インターフェース制御部」と「印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当する。
ウ接続方式の違いがあっても,「OS」は共通で用いられるものであることは技術常識である。また,ホストコンピュータデータ処理部は接続方式によらず共通で,ホストコンピュータインターフェース制御部は接続方式によって異なることは,乙第1ないし第4号証で示されるように周知である。
また,被告が乙第1ないし第4号証によって立証しようとすることは,「ホストコンピュータと外部装置の接続方式(インターフェース)によってインターフェース制御部が異なるが,ホストコンピュータデータ処理部が共通であること」が周知であることであって,原告が主張する事項ではないから,原告の主張は失当である。
エ原告は,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて,2分割し,機能分けをしたものであると主張する。
しかし,特許請求の範囲には,「各接続方式に対応する書き出しプログラム」の文言はなく,発明の詳細な説明にも,そのように限定的に解釈すべき記載はない。本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」を各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて2分割し機能分けしたものであると限定的に解釈すべき理由がない。
5取消事由5(本件発明2についての認定判断の誤り)について前記取消事由1ないし4について述べたとおり,本件発明2についての決定の認定判断に誤りはない。
6取消事由6(本件発明3についての認定判断の誤り)について前記取消事由3及び4について述べたとおり,本件発明3についての決定の認定判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について刊行物1記載発明の「OS205」は,「基本的なタスク制御や入出力制御のなどを行うカーネル部207と上述した印刷用コマンドからドットイメージを発生させるなどの印刷処理特有の機能を実現する印刷制御プログラム206に別れる」ものであり(刊行物1の5頁左上欄16行〜20行及び第2図),「OS205」に含まれる「印刷制御プログラム206」は,レーザプリンタドライバ209を介して印刷コマンドを転送するものである(刊行物1の6頁左下欄8行〜10行)。したがって,接続方式の異同を別にすると,「OS205」は,本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コマンド」を生成し出力しているから,この点において,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当すると認められる。また,「OS205」が印刷装置との接続方式によって共通であるか否かについて,決定が相違点として挙げて判断をしていることは,前記第2の3(2)のとおりであるから,決定には原告の主張する一致点認定の誤りはなく,相違点の看過もない。
2取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)について刊行物1記載発明の「レーザプリンタドライバ209」は,これを介して印刷制御プログラム206がレーザプリンタ104のコントローラ部210に印刷コマンドを転送するものであるから,印刷制御プログラムから出力された印刷コマンドを受信して印刷コマンドを印刷装置に転送するものである(刊行物1の6頁左下欄8行〜10行)。ワードプロセッサ等からプリンタへの転送がされる(刊行物1の第7図)以上,何らかの接続方式があることは当然である。
したがって,「レーザプリンタドライバ209」は,何らかの接続方式に対応した転送方式で印刷コマンドを転送するものであり,接続方式の異同を除き,本件発明1の「印刷情報データ」に相当する「印刷コマンド」を受信して転送している点で,本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」に相当するものである。また,「レーザプリンタドライバ209」が印刷装置との接続方式によって異なるか否かについて,決定が相違点として挙げて判断をしていることは,前記第2の3(2)のとおりであるから,決定には原告の主張する一致点認定の誤りはなく,相違点の看過もない。
3取消事由3(相違点の看過)について原告は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1において,「ホストコンピュータデータ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部,及び,印刷装置データ処理部のそれぞれについて,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式との関係を明らかに規定」しているのに対し,刊行物1記載発明は,コンピュータと印刷装置の接続方式の違いに何ら関与する技術ではないところ,決定がこの点を相違点と認定せず,相違点を看過したと主張する。
しかしながら,決定が認定した本件発明1と刊行物1記載発明との相違点は,「本件発明1では,印刷装置は,印刷装置インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有し,ホストコンピュータデータ処理部と印刷装置データ処理部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるのに対して,刊行物1記載発明では,印刷装置が印刷装置インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有していることや,ホストコンピュータデータ処理部,印刷装置データ処理部,ホストコンピュータインターフェース制御部,印刷装置インターフェース制御部のうち,どれが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通で,どれが異なるのかが明らかでない点」であるから,決定が印刷システムの各部間及びホストコンピュータと印刷装置との間の接続方式の具体的関係を相違点として認定していることは明らかである。原告の主張は,決定を正解しないものであって,失当である。
4取消事由4(相違点判断の誤り)について(1)周知技術の認定ア刊行物2及び3記載発明についてする原告の主張は,本件発明1に,@印刷装置インターフェース制御部が「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力された印刷情報データを,ホストコンピュータインターフェース制御部で,データ構造を変えずに転送したものを受信する」構成,A印刷装置データ処理部が処理する印刷情報データが「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力されたデータ構造を,接続方式,転送方式の違いで変えることなく,印刷装置に転送されたものである」構成,B「転送方式の違いにより,ホストコンピュータデータ処理部で生成されたデータの構造/フォーマットが変わるものではない」という構成が含まれていることを前提にしている。
本件特許の請求項1において,印刷制御用データと印刷データからなる印刷情報データの転送経路は,ホストコンピュータのホストコンピュータデータ処理部において印刷情報データが生成・出力され,ホストコンピュータインターフェース制御部においてこれが受信されて印刷情報データを接続方式に対応した転送方式で印刷装置に転送され,印刷装置の印刷装置インターフェース制御部において受信され,印刷装置データ処理部においてこれに基づく印刷制御がされること,ホストコンピュータデータ処理部及び印刷装置データ処理部はホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であるが,ホストコンピュータインターフェース制御部及び印刷装置インターフェース制御部は上記接続方式ごとに異なることの2点は確かに規定されている。
しかし,次の3点が本件特許の請求項1において特定されているとは認められない。
@印刷装置インターフェース制御部がホストコンピュータデータ処理部で生成して出力された印刷情報データを,ホストコンピュータインターフェース制御部で,データ構造を変えずに転送したものを受信する構成であるか否か。
A印刷装置データ処理部が処理する印刷情報データが,ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力されたデータ構造を,接続方式,転送方式の違いで変えることなく,印刷装置に転送されたものである構成であるか否か。
B転送方式の違いにより,ホストコンピュータデータ処理部で生成されたデータの構造/フォーマットが変わるものではない構成であるか否か。
したがって,原告の上記主張は,請求項1の記載に基づかないものである。
「ホストコンピュータと印刷装置の…(中略)…接続方式に対応した転送方式で前記印刷装置に転送する」との記載からは,むしろ,「ホストコンピュータインターフェース制御部」と「印刷装置インターフェース制御部」との間は,接続方式に合わせた形に変換されて転送されるものと解釈するのが自然である。
イ機能に着目すれば,刊行物2記載発明の「ホストインターフェース」及び刊行物3記載発明の計算機9の有する「セントロニクス及びRS-232Cの各インターフェース」を本件発明1の「ホストコンピュータインターフェース制御部」に,刊行物2記載発明の「セントロニクス,RS-232C,IBMチャネルなどの各種インタフェースから入力されるデータストリームを共通のフォーマットに変換する入力管理部10」及び刊行物3記載発明の「セントロニクスインターフェイス印字コード受信部11とRS-232Cインターフェース印字コード受信部12」を本件発明1の「印刷装置インターフェース制御部」にそれぞれ相当するとした認定に誤りはないから,決定がした周知技術の認定に誤りはない。
決定が刊行物2及び3によって周知技術として認定したのは,「印刷装置インターフェース制御部と印刷装置データ処理部とを有する印刷装置において,印刷装置データ処理部が,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通であって,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部とが,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式によって異なるようにすることで,外部のインタフェースが変更されても,ホストコンピュータインターフェース制御部と印刷装置インターフェース制御部を切り換えるだけで対応できる技術」であって,「本件発明1のホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通なホストコンピュータデータ処理部からの出力を受信して印刷装置に転送するホストコンピュータインターフェース制御部に相当」する構成を有すること,印刷装置インターフェース制御部が「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力された印刷情報データを,ホストコンピュータインターフェース制御部で,データ構造を変えずに転送したものを受信する」こと,印刷装置データ処理部が処理する印刷情報データが「ホストコンピュータデータ処理部で生成して出力されたデータ構造を,接続方式,転送方式の違いで変えることなく,印刷装置に転送されたものである」こと,「転送方式の違いにより,ホストコンピュータデータ処理部で生成されたデータの構造/フォーマットが変わるものではない」ことではない。したがって,原告の主張は決定を正解しないものであり,失当である。
(2)容易想到性の判断刊行物1には,OSに関連するものとして次の記載がある。
a 「1.マルチタスクの制御が可能であり,メッセージの送受信によってプログラム間の通信機能を実現するオペレーティングシステムと,プリンタと,テキスト,図形,グラフ等の編集プログラムに対応し,編集データにより印刷コマンドを発生する複数の印刷プログラムと,印刷コマンドを上記プリンタに転送し,かつ上記プリンタの動作を制御するプリンタドライバとを備えている印刷処理システムにおいて,・・・」(特許請求の範囲)b 「[問題点を解決する手段]上記目的は以下の手段により実現することができる。レーザプリンタのコントローラ部には,レーザプリンタエンジンとワードプロセッサからの割込みを処理する手段,割込みによって変化する状態に応じて,処理すべき内容を判定する手段を設ける。ワードプロセッサ側では,各アプリケーションに対応した印刷処理用のプログラムと各々のアプリケーションの印刷処理に共通な機能を提供するシステムプログラム(印刷制御プログラムと呼ぶ)を分離して構成する。アプリケーションプログラムは印刷制御プログラムにファンクションを発行することによりシステムプログラムの機能を利用できる。システムプログラムのレーザプリンタをコントロールするレーザプリンタドライバには,レーザプリンタのコントローラ部からの割込みによって,その状態を記憶する手段及び印刷プログラムから発行されたファンクションの終了コードとして記憶している状態を設定する手段を設ける。印刷処理用のプログラムは印刷処理全体を管理する印刷管理プログラムと印刷管理プログラムから起動される複数の印刷プログラムから構成し,印刷管理プログラムと印刷プログラムの間にメッセージを交換する手段を設け,印刷制御プログラムには,印刷プログラムからの異常メッセージを受けて,ユーザにその旨を通知し,必要な異常処理を行う手段を設ける。」(3頁右上欄19行〜右下欄6行)c 「103と104はプリンタであり,第2図では,低速で安価なワイヤドットプリンタ103と高速なレーザプリンタ104の2種類のプリンタをサポートするシステムの例を示している。106はIPL(イニシャルプログラムローダ)用ROMである。第2図は,本発明の一実施例である印刷処理システムのソフトウェア構成を示している。201と202は,テキスト,図形,グラフなど各アプリケーションに依存する印刷プログラム群である。図では二つしか示されていないが,テキスト,図形,グラフ,表,英文,囲み記事,イメージなどの様々なアプリケーションに対応する印刷プログラムが考えられる。これら印刷プログラムは,対応する編集プログラムのデータから,後で説明するOS(オペレーティングシステム)が用意する印刷用コマンドを発生する。203は印刷管理プログラムであり,印刷プログラムの実行順序等を制御する。204は印刷条件設定プログラムであり,印刷条件を入力して後,印刷管理プログラム203を起動する。以上の201〜204の各プログラムは各々独立したタスクとしてOS205で制御される。OS205は基本的なタスク制御や入出力制御などを行うカーネル部207と上述した印刷用コマンドからドットイメージを発生させるなどの印刷処理特有の機能を実現する印刷制御プログラム206に別れる。印刷制御プログラム206は,プログラム201〜204に対して高度な印刷処理機能を提供する。印刷プログラム201〜202は,それぞれ編集プログラムのデータからテキスト列描画,直線描画,円描画などの描画コマンドを発生する。該コマンドにより,印刷制御プログラムは所望の印刷用バッファに印刷用ドットイメージを展開する。208はワイヤドットプリンタドライバであり,209はレーザプリンタドライバである。これらは各々ワイヤドットプリンタ103,レーザプリンタ104を制御する。レーザプリンタ104は,実際の印字を行うレーザプリンタエンジン211と,レーザプリンタエンジン211を制御し,ワードプロセッサ200と通信を行い,ワードプロセッサ200から転送された印刷データを,レーザプリンタエンジン211が印字できる形に変換するコントローラ部210からなる。」(4頁右下欄13行〜5頁右上欄16行)d 「印刷条件設定プログラム204は印刷管理プログラム203を起動して処理を終了する。起動の方法は,OSが用意するタスク起動マクロを利用する。」(6頁右上欄3〜6行)e 「印刷制御プログラム206は,レーザプリンタドライバ209を介してレーザプリンタ104のコントローラ部210に印刷コマンドを転送する。
コントローラ部210は転送されてきた印刷コマンドに基づき,頁メモリ650に1頁と印刷イメージを展開する。頁メモリ650に展開された印刷イメージは,レーザプリンタエンジン211によって印刷される。印刷プログラムは自分の領域のイメージの展開が終了すると,第7図に示すように,印刷管理プログラム203に終了したことを,OSが提供するメッセージ通信にてその旨通知する。」(6頁左下欄8〜18行)f 「割込みを受けたワードプロセッサ200のレーザプリンタドライバ209では,レーザプリンタ104の異常を記憶し,印刷プログラム201から印刷制御コマンドが発行された時,OS205を介して終了コードとして異常状態が印刷プログラム201に伝えられる。」(9頁左上欄2〜7行)g 「印刷制御プログラム206は,印刷プログラム201からのコマンドをレーザプリンタドライバ209のマクロに変換したり,またレーザプリンタドライバ209からの終了コードを印刷プログラム201に伝えたりする他,様々な機能を備えているが,本発明とは直接関係がないので,それらの機能や処理の詳細については省略する。本発明に関する限り,印刷プログラム201や印刷管理プログラム203が,直接レーザプリンタドライバ209のマクロを発行し,終了コードをそれらのプログラムに直接返すようにしても一向に差しつかえない。」(10頁左下欄2〜12行)h 第2図には,ワイヤドットプリンタドライバ208に対応してワイヤドットプリンタ103が,レーザプリンタドライバ209に対応してレーザプリンタ104が,それぞれ図示されている。
これらの記載によれば,刊行物1には,次の事項が記載されていると認められる。
@ワードプロセッサ200は,各アプリケーションに対応した印刷処理用のプログラムと,各々のアプリケーションの印刷処理に共通な機能を提供するシステムプログラムである印刷制御プログラムから構成されていること。
AOS205は,基本的なタスク制御や入出力制御などを行うカーネル部207と,印刷用コマンドからドットイメージを発生させるなどの印刷処理特有の機能を実現する印刷制御プログラム206からなること。
Bワイヤドットプリンタドライバ208は,ワイヤドットプリンタ103を制御し,レーザプリンタドライバ209は,レーザプリンタ104を制御すること。
C印刷制御プログラム206は,レーザプリンタドライバ209を介してレーザプリンタ104に印刷コマンドを転送すること。
上記の事項からは,刊行物1記載発明において,OSがアプリケーションの印刷処理に共通な機能を提供する印刷制御プログラムを有し,印刷制御プログラムはプリンタドライバを介してプリンタに印刷コマンドを転送すること,プリンタドライバがプリンタを制御することが認められる。また,プリンタドライバがプリンタとのインターフェイスを動作させる部分をOSから独立させた別のプログラムであることは,コンピュータの分野では技術常識であり,ワイヤドットプリンタとの接続方式とレーザプリンタとの接続方式とは,異なるのが一般的であるから,刊行物1記載発明の各プリンタドライバが本件発明のホストコンピュータデータインターフェイス制御部に対応するものであることは,明らかである。したがって,刊行物1記載発明におけるOSの印刷制御プログラムの一態様として,プリンタドライバの機能以外の,印刷処理に共通な機能のみを有する場合,すなわち,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式について共通な機能のみを有する場合も含まれる。
以上によれば,刊行物1記載発明におけるOSの印刷制御プログラムは,本件発明のホストコンピュータデータ処理部に対応するものと解するのが相当である。刊行物1記載発明において,OS205は,ワイヤドットプリンタドライバ208とレーザプリンタドライバ209を介して,低速で安価なワイヤドットプリンタ103と高速なレーザプリンタ104の2種類のプリンタを制御しているから,印刷装置が異なる場合でもOS205をそのまま使うことができ,刊行物1記載発明のOS205(本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当)を,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式が異なる場合でも共通にすることは,当業者が容易になし得るとした決定の判断は,是認し得るものである。
ア原告は,刊行物1記載発明にはホストコンピュータと印刷装置の接続方式の違いに対応する何らの技術思想がなく,ホストコンピュータ側では接続方式の違いに対応する構成も備えていないから,刊行物1記載発明をもって接続方式の違いに対応する技術に想到することは,当業者が容易になし得るものではないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,刊行物1記載発明のOS205(本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当)を,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式が異なる場合でも共通にすることは当業者が容易になし得ることであるから,刊行物1記載発明及び周知技術とに基づき本件発明1を想到することは当業者にとって容易である。
イ原告は,刊行物1記載の「コントローラ部210」は,たとえ2分割しても本件発明1の課題を達成することができるものではないし,各接続方式との関係を示唆する何らの記載もないから,本件発明1の「前記印刷情報データを受信する印刷装置インターフェース制御部」と「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当しないと主張する。
しかしながら,刊行物1によれば,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」は,「転送されてきた印刷コマンドに基づき,…(中略)…印刷イメージを展開」して,後に「レーザプリンタエンジン211によって印刷」される機能を有するもの(刊行物1の6頁左下欄10行〜14行)であることが認められる。したがって,「コントローラ部210」は,本件発明1における「前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信する」機能及び「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う」機能を共に有するものである。
上記のとおり,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」が本件発明1の「印刷装置インターフェース制御部」と「印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当するとの決定の認定に誤りはない。
ウ原告は,刊行物1記載発明の「OS205」をホストコンピュータと印刷装置の接続方式が異なる場合についてもそのまま使えるようにする,つまり,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式についても共通にすることは,当業者が容易になし得ることではないと主張する。
刊行物1記載発明のOS205(本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」に相当)を,ホストコンピュータと印刷装置の接続方式が異なる場合でも共通にすることは,前記(2)のとおり,当業者が容易になし得ることであるし,「OS」は,接続方式の違いがあっても,共通で用いられるものをいうのが技術常識である。
エ原告は,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて,2分割し,機能分けをしたものであると主張する。
しかし,特許請求の範囲には,「各接続方式に対応する書き出しプログラム」の文言はなく,発明の詳細な説明にも,そのように限定的に解釈すべき記載はない。本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」を各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて2分割し機能分けしたものであると限定的に解釈すべき理由がない。
5取消事由5(本件発明2についての認定判断の誤り)について本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明2は「ホストコンピュータ」の発明ではあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質的に同じであり,前記取消事由1ないし4について述べたとおり,本件発明2についての決定の認定判断に誤りはない。
6取消事由6(本件発明3についての認定判断の誤り)について本件発明1は「印刷システム」の発明,本件発明3は「印刷装置」の発明ではあるが,刊行物1記載発明との一致点及び相違点は両者で実質的に同じであり,前記取消事由3及び4について述べたとおり,本件発明3についての決定の認定判断に誤りはない。
7結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,決定を取り消すべきその他の誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
裁判官 嶋末和秀