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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ12225特許権侵害行為差止等請求事件 平成13ワ143損害賠償等請求事件 判例 特許
平成11ワ8435特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成11ワ8434特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成15ワ3552不当利得返還請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  協議 /  物の発明 /  製造方法 /  頒布された刊行物 /  インターネット /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術的範囲 /  共有 /  警告 /  クレーム /  参酌 /  文言解釈 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売利益 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  独占的通常実施権 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  拡張 /  釈明 / 
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事件 平成 17年 (ワ) 3668号 特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件
平成 17年 (ワ) 9357号 売掛代金等請求事件
甲乙事件原告株式会社グレース・インターナショナル
訴訟代理人弁護 士山川富太郎甲事件原告補佐人弁理 士三枝英二
同 眞下晋一 甲事件被告P1 甲乙事件被告株式会社クローバー365
上記被告ら訴訟代理人弁護士明石法彦
同 曽我部晋太 甲事件被告ら訴訟代理人弁護士曉琢也
同 畑郁夫
同 重冨貴光 乙事件被告訴訟代理人弁護士佐野晃子 甲事件被告ら補佐人弁理士藤本昇
同 薬丸誠一
同 岩田徳哉
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/02/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1甲事件原告の別紙物件目録記載の装飾印鑑の製造,譲渡,貸渡し並びに譲渡及び貸渡しの申出につき,甲事件被告P1が特許番号第3630660号の特許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
2甲事件被告P1は,自ら又は甲事件被告株式会社クローバー365の役員ある- 2 -いは従業員をして,別紙物件目録記載の装飾印鑑の製造,譲渡,貸渡し並びに譲渡及び貸渡しの申出が,特許番号第3630660号の特許権を侵害する旨の告知又は流布をし,又はさせてはならない。
3甲事件被告らは,甲事件原告に対し,連帯して,775万1200円及びこれに対する平成17年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4乙事件被告は,乙事件原告に対し,114万8155円及びこれに対する平成17年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5甲乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,甲乙事件原告に生じた費用の5分の1と甲事件被告P1に生じた費用の5分の1と甲乙事件被告株式会社クローバー365に生じた費用の5分の1を甲乙事件原告の負担とし,甲乙事件原告に生じた費用の5分の2と甲事件被告P1に生じたその余の費用を同被告の負担とし,甲乙事件原告に生じたその余の費用と甲乙事件被告株式会社クローバー365に生じたその余の費用を同被告の負担とする。
7この判決は,第3,4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求1甲事件(1)主文第1,2項と同旨。
(2)甲事件被告らは,甲事件原告に対し,連帯して,895万1200円及びこれに対する甲事件の訴状送達の日の翌日(平成17年5月14日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2乙事件乙事件被告は,乙事件原告に対し,227万4370円及びこれに対する乙事件の訴状送達の日の翌日(平成17年10月6日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1甲事件本件は,装飾印鑑を製造販売している甲事件原告が,1)甲事件被告P1(以下「被告P1」という。)に対し,上記印鑑の製造販売行為について,被告P1が特許権者である特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに,被告P1及び甲事件被告株式会社クローバー365の従業員が,甲事件原告の取引先に対し,上記印鑑の製造販売が上記特許権を侵害する旨を告知・流布した行為について,不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実の告知・流布に該当し,又は不法行為を構成するとして,2)被告P1に対し,不正競争防止法3条1項に基づき,上記印鑑の製造販売が上記特許権を侵害する旨の告知・流布の差止め,3)被告P1に対し,民法709条に基づき,甲事件被告株式会社クローバー365に対し,同法715条に基づき,上記2)の行為により生じた損害についての損害賠償金895万1200円及びこれに対する不法行為の日以後である甲事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2乙事件本件は,乙事件被告と代理店契約を締結し,同被告が供給する印鑑を販売していた乙事件原告が,乙事件被告に対し,未払預り金及び返還すべき差入れ保証金の合計227万4370円及び弁済期後である乙事件の訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。乙事件被告は,乙事件原告に対し,1)未払売掛金債権,2)乙事件被告は上記1の特許権の独占的通常実施の許諾を受けて同特許権を実施しているところ,乙事件原告が同特許権を侵害したことにより,乙事件被告に損害が生じたとして,その損害賠償金債権との相殺を主張している。
第3前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認めることができる。)1当事者(1)甲乙事件原告(以下「原告」という。)は,印鑑,ゴム印の製造販売等を目的とする株式会社である。
(2)甲乙事件被告株式会社クローバー365(以下「被告会社」という。)は,印章の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
(3)被告P1は,被告会社の取締役である。
2特許権被告P1は,次の特許の特許権を訴外P2と共有している(以下,この特許を「本件特許」,その特許権を「本件特許権」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)。
発明の名称印鑑基材およびその製造方法出願日平成13年12月11日(特願2001-377644)登録日平成16年12月24日特許番号特許第3630660号3本件特許の特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲は次のとおりである。
(1)請求項1(以下「本件発明1」という。)「有底状の透明な筒体と該筒体内に注入された透明な合成樹脂からなる芯材と該芯材と前記筒体の内周面との間に介挿入された所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体とからなり,しかも該シート体には前記合成樹脂が浸透してシート体と合成樹脂が一体化されてなることを特徴とする印鑑基材。」(2)請求項2(以下「本件発明2」という。)「前記筒体は,アクリル系の合成樹脂によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の印鑑基材。」(3)請求項3(以下「本件発明3」という。)「前記筒体内に注入された透明な合成樹脂は,エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の印鑑基材。」(4)請求項4(以下「本件発明4」といい,本件発明1ないし4を併せて「本件発明」という。)「有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する第一次樹脂注入工程と,所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体を前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入するシート体挿入工程と,シート体の介挿入された筒体内に満了になるまで液状の合成樹脂を注入する第二次樹脂注入工程と,前記筒体内の合成樹脂を固化させる固化工程とからなることを特徴とする印鑑基材の製造方法。」4本件発明の構成要件本件発明は,次のとおり分説することができる。(以下,その記号に従って「構成要件A」などという。)(1)本件発明1の分説A有底状の透明な筒体とB該筒体内に注入された透明な合成樹脂からなる芯材とC該芯材と前記筒体の内周面との間に介挿入された所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体とからなり,しかもD該シート体には前記合成樹脂が浸透してシート体と合成樹脂が一体化されてなることを特徴とするE印鑑基材。
(2)本件発明2の分説F前記筒体は,アクリル系の合成樹脂によって形成されていることを特徴とするG請求項1に記載の印鑑基材。
(3)本件発明3の分説H前記筒体内に注入された透明な合成樹脂は,エポキシ樹脂であることを特徴とするI請求項1又は2に記載の印鑑基材。
(4)本件発明4の分説J有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する第一次樹脂注入工程と,K所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体を前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入するシート体挿入工程と,Lシート体の介挿入された筒体内に満了になるまで液状の合成樹脂を注入する第二次樹脂注入工程と,M前記筒体内の合成樹脂を固化させる固化工程とからなることを特徴とするN印鑑基材の製造方法
5原告の行為原告は,別紙物件目録記載の装飾印鑑(以下「原告商品」という。)を製造販売している(原告商品は2種類あり,以下,それぞれ「イ号物件」,「ロ号物件」という。その構成は,後記のとおり争いがある。原告がイ号物件,ロ号物件を製造する方法を,以下,それぞれ「ハ号方法」,「ニ号方法」といい,これらを併せて「原告方法」という。その構成は,後記のとおり争いがある。)。
6各構成要件の充足性(1)本件発明1原告商品は,いずれも構成要件A,Eを充足する。
(2)本件発明2原告商品は,いずれも構成要件Fを充足する。
(3)本件発明3原告商品は,いずれも構成要件Hを充足する。
(4)本件発明4原告方法は,いずれも構成要件J,M,Nを充足する。
7原告と被告会社の代理店契約に関する事実関係(1)代理店契約の締結原告と被告会社は,平成15年10月ころ,原告が被告会社の販売代理店として,被告会社から仕入れた被告会社が製造する印鑑及び印鑑ケース等(以下「被告商品」という。)を販売する旨の販売代理店契約を締結した(以下「被告代理店契約」という。)。
(2)被告商品の販売原告は,平成16年8月1日から同年9月27日までの間,被告会社から仕入れた被告商品を,三越松山店,そごう徳島店,そごう呉店,天満屋三原店において販売した。
(3)未払いの預り金上記(2)の被告商品の販売に関する代金の決済は,各百貨店が,被告商品の売上げから各百貨店所定の手数料を差し引いた残額をいったん被告会社に支払い,被告会社は,各百貨店から支払われた預り金を原告に支払うこととなっていた。
被告会社は,原告に対し,216万9765円の未払いの預り金がある。
(4)返還すべき差入れ保証金原告は,被告会社に対し,被告代理店契約に基づき,保証金20万円を預託したが,平成16年9月ころ,被告代理店契約の解約を申し入れ,販売地域における全店舗を廃止した。
被告会社は,原告に対し,差入保証金のうち10万円を返還する義務がある。
(5)被告会社は,平成16年8月4日から同月27日まで,原告に対し,被告代理店契約に基づき,代金合計112万1610円で被告商品を売り渡した。
この売買代金は未払いとなっている。
(6)相殺の意思表示被告会社は,平成17年12月8日の乙事件の第1回弁論準備手続(併合前)において,上記(3)及び(4)の各債権と上記(5)及び後記第5の7(1)の各債権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。
8甲事件の進行協議期日の経過(1)平成18年4月11日の甲事件の進行協議期日(併合前)において,原告従業員は,短冊状の和紙の裏面全体に接着剤(フエキスピード強力超速乾〔紙用〕であって,その場でパッケージを開封したもの。)を塗り,棒状体の外周面に巻き付け接着したものを10本作成し,これを裁判所が保管した。
(2)同月14日の甲事件の進行協議期日(併合前)において,原告従業員は,上記10本から2本を巻き付け不良として除き,被告ら代理人は,残り8本から6本を選んだ。原告従業員は,上記6本について,筒体に合成樹脂をあらかじめ満了に満たない量だけ注入し,筒体内に和紙を巻き付けた棒状体を挿入し,筒体に合成樹脂を注入する工程を行った。次に,原告従業員は,上記6本について別の工程(X工程)を実施した(同工程は受命裁判官の面前で行われたが,被告らは立ち会っていない。)。その後,これを裁判所が保管したが,同月25日までの間に,注入された合成樹脂は固化していた。
受命裁判官は,同年5月29日の甲事件の第1回弁論準備手続において,X工程では,上記棒状体の入替えは行われてはいない旨述べている。
(3)同年4月25日の甲事件の進行協議期日(併合前)において,原告及び被告らは,上記6本のうち5本を破断した。(以下,これら一連の実験を「A実験」といい,上記(1)及び(2)による方法を以下「A方法」という。)第4争点1原告商品の構成(甲乙事件)2原告方法の構成(甲乙事件)3原告商品の本件発明1,2,3の技術的範囲の属否(甲乙事件)4原告方法の本件発明4の技術的範囲の属否(甲乙事件)5告知・流布の差止請求権の存否(甲事件)6告知による損害賠償請求権の存否とその額(甲事件)7本件特許権侵害による損害賠償請求権の存否とその額(乙事件)第5争点に対する当事者の主張1原告商品の構成(上記第4の1の争点)(1)被告らの主張アイ号物件の構成イ号物件の構成は次のとおりであり,イ号物件の拡大縦断面は,別紙イ号物件図(被告ら)(以下「被告イ号図面」という。)のとおりである。(以下,その記号に従って「構成a」などという。以下,ロ号物件,ハ号方法,ニ号方法についても同じ。原告の主張についても同じ。)a有底状の透明な筒体 と,1b1該筒体 内に注入された透明な合成樹脂体 及び 1 2b2前記筒体 内に挿入された透明な棒状体 と, 1 3c該棒状体 の外周面と筒体 の内周面との間に介挿入された所定の絵 31柄を有する和紙からなる筒状のシート体 と,からなり,しかも 4d該シート体 には前記合成樹脂体 が浸透してシート体 と合成樹脂 4 2 4が一体化されてなる,e印鑑基材であり,f前記筒体 は,アクリル系の合成樹脂によって形成されており,1h前記筒体 内に注入された透明な合成樹脂体 は,エポキシ樹脂であ 1 2る。
イロ号物件の構成ロ号物件の構成は次のとおりであり,ロ号物件の拡大縦断面は,別紙ロ号物件図(被告ら)(以下「被告ロ号図面」という。)のとおりである。
a有底状の透明な筒体 と,1b1該筒体 内に注入された透明な合成樹脂体 及び 1 2b2前記筒体 内に挿入された透明な棒状体 と, 1 3c該棒状体 の外周面と筒体 の内周面との間に介挿入された所定の絵 31柄を有する和紙からなる筒状のシート体 と,からなり,しかも 4d該シート体 には前記合成樹脂体 が浸透してシート体 と合成樹脂 4 2 4が一体化されてなる,e印鑑基材であり,f前記筒体 は,アクリル系の合成樹脂によって形成されており,1h前記筒体 内に注入された透明な合成樹脂体 は,エポキシ樹脂であ 1 2る。
pただし,前記筒体 内の棒状体 上方約3分の1の長さ部分は空間部13になっており,粒状体 による模様が形成されている。 5 6ウ接着剤塗布工程(原告の主張する構成c2)の有無について原告商品は,次のとおり,接着剤塗布工程を実施しておらず,棒状体 と3シート体 との間に介在するのは合成樹脂体 であり,接着剤ではない。A 4 2実験により製作されたものは原告商品とは異なるものである。
(ア)主張に至る経緯の不自然さ原告が,原告商品の製造過程について接着剤塗布工程を主張するに至った経緯は極めて不自然である。原告は,本訴(甲事件)提起時には,接着3 4 剤を塗布することには一切言及せず,単に棒状体 の外周面にシート体を巻き付けるとしているにすぎなかったが,被告らから,製造工程について求釈明を受けるや,巻き付け接着の概念を説明しようとし,被告らからその概念の不自然さを指摘されるや,原告の第3準備書面において初めて,接着剤塗布工程を主張するに至った。原告の接着剤塗布工程の主張は,侵害回避のため後知恵で考案されたもので,その主張に至る経緯の不自然さから,到底信用できない。
(イ)経済的不合理性シート体 の裏面側のほぼ全体に接着剤を塗布することは,すべて手作4業であるというのであり,煩雑となって生産性が著しく落ちることが容易に想定され,経済合理性の観点から極めて不合理,不効率である。接着剤塗布工程に,製造コストをかけるだけの技術的意義もない。
原告は,被告P1の他の特許出願の公開特許公報(甲A17)の記載を指摘するが,同記載は,「例えば接着剤を介し」とされているとおり,あくまで芯体の製造方法の一実施例を挙げたにすぎず,接着剤塗布工程自体の経済合理性と上記の製造方法の一例の記載とは関係がないし,上記記載は,筒体20の周面に彫刻を施したり図柄を手書きするような面倒な工程を経る必要がなくなったことが大量生産に資する旨を説明しているのであって,原告の主張は失当である。
(ウ)被告らの実験(E実験,F実験,G実験)被告らが,原告商品を通常の販売ルートにより購入し,乙A3の1ないし5のとおり,筒体 を切除し,合成樹脂体 とシート体 を棒状体 か1 243ら分離したところ,分離された棒状体 の外周面と筒体 の内周面との間 313に介在する要素(以下「棒状体-筒体間介在要素」という。)は棒状体から簡単に分離することができ,その内周面には,外部の照明光による写り込みがはっきりと認められた。(以下「E実験」という。)被告らが,再度,原告商品を通常の販売ルートにより購入し,乙A12の1ないし9,乙A13の1ないし9のとおり,筒体合成樹脂体 及1,2びシート体 を棒状体 から分離したところ,分離された棒状体 の外周 43 33面より外側にある構成要素(以下「棒状体外要素」という。)は棒状体から簡単に分離することができ,その内周面には,外部の照明光による写り込みがはっきりと認められた。(以下「F実験」という。)被告らが,シート体(和紙)の裏面全体に接着剤(フエキスピード強力超速乾〔紙用〕)を塗布した後,1枚のアクリル板の上に貼着し,その上にエポキシ樹脂を垂らしてまんべんなく広げ,その上に別のアクリル板を置き,アクリル板間からはみ出した余分なエポキシ樹脂を除いた後,乾燥機により乾燥させたものを(乙A14の1・2はその写真である。)アクリル板間で割ったところ,乙A14の3・4のとおり,シート体に無理矢理分離させたような形跡が見受けられた。(以下「G実験」という。)以上からすれば,接着剤を用いた場合,貼着したシート体のみをきれいに分離することは困難であり,棒状体-筒体間介在要素及び棒状体外要素の滑らかな面である内面は,合成樹脂体 により形成されているのであっ2て,表面が粗面になる和紙ではない。そして,棒状体 とシート体 との 34間に合成樹脂体 が介在しているということは,シート体 が棒状体 か 2 43ら離間していることを意味するし,棒状体-筒体間介在要素及び棒状体外要素は,棒状体 とは一体化しておらず,簡単に分離することができるの3で,シート体 が棒状体 に接着していることはありえない。 43(エ)被告らの実験(B実験)被告らは,シート体の裏面全面に接着剤を塗布して棒状体に巻き付け接着したモデル品を製作し,接着剤が完全に乾くという3日後に,このモデル品のシート体を棒状体から分離した。
その結果,乙A15の1・2のとおり,シート体の裏面は,全面的に接着層が残置した積層状態にあり,接着層の表面はシート体の裏面である粗面に追従して微細な凹凸面となっていた。また,接着層の表面は,それが接着剤であるがゆえに,微少な粘着性を有し,表面上に指を走らせると,かすかな抵抗感があり,若干の弾力性を有し,完全な固形ではなかった。
(以下「B実験」という。)上記のとおり,接着剤を使用すると,接着層は,指を走らせると抵抗感があり,若干の弾力性を有し,完全な固形ではないはずであるところ,E実験,F実験では,棒状体外要素の内面は,真っ直ぐな写り込みが生じるほど非常に滑らかな面であり,指を走らせても抵抗感が全くなく,弾力性を有しない完全な固形であったから,原告商品の市販品は接着剤を使用していない。
(オ)被告らの実験(C実験,D実験)被告らは,原告が使用する合成樹脂体 (中粘度のエポキシ系樹脂)と2原告が使用する接着剤(フエキスピード強力超速乾〔紙用〕)を透明な板上の別々の箇所にそれぞれ垂らし,ヘラで薄く平らにのばし,3日間置いて乾燥させ,指で擦りながら湯を1,2分かけ続けた。その結果,乙A18の1・2のとおり,合成樹脂体 は,湯をかける前後で変化はなかった2が,接着剤は,湯をかけた後,水により溶解し,洗い流されて消失した。
(以下「C実験」という。)なお,C実験の擦り洗いは,あくまで湯で溶けていく接着剤を除去させる程度の軽い力をかけただけであり,原告がH実験に関連して主張するように,シート体 の内面がきれいに削れるほどの強い力をかけたものでは4ない。
また,被告らは,通常の販売ルートで購入した原告商品を分解し,分離した棒状体外要素の内面を指で擦りながら湯を1,2分かけ続けた。その結果,乙A19の1・2のとおり,棒状体外要素の内面は,湯をかける前後で変化はなかった。(以下「D実験」という。)C実験により,原告が使用する合成樹脂体 は,いったん乾燥すると,2水を供給しても,溶解することはなく,原告が使用する接着剤は,いったん乾燥した後であっても,水を供給することにより溶解することが客観的に裏付けられ,D実験により,原告商品に係る棒状体外要素の内面は,水を供給しても,溶解してシート体 全面が露呈した状態になることはない4という事実が客観的に裏付けられた。
よって,原告商品の棒状体外要素の内面は,水を供給しても,その内面が溶解してシート体 の全面が露呈した状態になることはないので,その4内面は接着剤ではない。
(カ)原告の実験(H実験)について原告は,H実験により,実際の原告商品は積層部分の内面が平滑ではないといい,他方で,A方法で製作したA実験のモデル品については,積層部分の内面が照明光の写り込みが生じるほど平滑であると主張し,同じ方法で製作したにもかかわらず,内面の状態に関する主張は矛盾している。
H実験は,積層部分を水中に一晩浸漬したり,水で擦り洗いする前の状態について,外観写真がなく,水の供給前後の外観対比ができないので,本当に原告商品を用いたかどうか疑問である。
エ棒状体 とシート体 との間の合成樹脂体 の有無(原告の主張する構成34 2c3)について仮に,原告商品の製造過程で,原告が主張するような接着工程を採用したとしても,次のとおり,なお,棒状体 とシート体 との間にも合成樹脂体34が介在する。 2接着剤は,シート体 が棒状体 に巻き付け接着された後,まだ乾燥して 43いない活性状態から徐々に乾燥していくが,この乾燥に伴って,接着剤は次第に体積凝縮を起こし,その結果,接着層の表面は,シート体 の裏面に追4従して微細な凹凸面になると考えられる。原告が使用しているという接着剤フエキスピード強力超速乾〔紙用〕は,溶媒として水が用いられる水性タイプであり,この水分が蒸発して接着剤は乾燥し,その蒸発した水分に相当するだけの体積凝縮が接着層に生じ,接着層の表面は棒状体 の表面が滑らか3であることとは無関係にシート体 の裏面に追従して微細な凹凸面となると 4考えられる。そうすると接着層の表面は,凹凸面となって固化するにあたり,棒状体 の表面から離間し,接着層の表面と棒状体 の表面との間には,微3 3細な隙間が無数形成される。
筒体 内に合成樹脂体 が注入されると,合成樹脂体 は棒状体 とシー12 23ト体 との間に回り込み,時間の経過により合成樹脂体 は固化し,棒状体 4 2とシート体 との間に合成樹脂体 の層が形成される。E実験,F実験, 34 2A実験で製造されたモデル品において,棒状体 から分離した断片の内面が, 3真っ直ぐな写り込みが生じるほどに非常に滑らかな面であり,その上に指を走らせても抵抗感がまったくなく,弾性を有しない完全な固形となっているのは,上記の考察によってのみ説明できる。
したがって,仮に,原告商品が,A方法により製造されたとしても,接着剤が乾燥する過程で棒状体 とシート体 との間に隙間が生じる結果,その34後に注入された合成樹脂体 が,棒状体 とシート体 との間に流れ込み浸 234入し,依然として棒状体 とシート体 と間に合成樹脂体 が介在する結果 34 2となる。あるいは,原告が使用する合成樹脂体 が,いったん乾燥した接着 2剤を溶解させる成分を含有している可能性もある。
(2)原告の主張アイ号物件の構成(ア)原告の主張する構成イ号物件の構成は次のとおりであり,イ号物件の拡大縦断面は,別紙原告イ号図面(以下「原告イ号図面」という。)のとおりである(判決注・下記dにつき,原告の主張する文言上は,合成樹脂がシート体に浸透する方向が明らかでないが,原告イ号図面では,シート体の内側に合成樹脂が存在しないから,浸透する方向は,外周面側から浸透しているという趣旨と解される。)。
aアクリル系の合成樹脂からなる有底状の透明な筒体 と,1b筒体 内に注入されたエポキシ樹脂からなる透明な合成樹脂体 と, 1 2c1筒体 内に挿入された透明な棒状体 と, 1 3c2棒状体 に巻き付け接着され合成樹脂体 の内部に封入された絵柄を 3 2有する和紙からなるシート体 とを備え, 4c3合成樹脂体 は,筒体 の内周面とシート体 との間に注入されて両 21 4者の間に介在されており,dシート体 には合成樹脂が浸透してシート体 と合成樹脂体 が一体4 42化されている,(判決注・この点につき,文言上は合成樹脂がシート体に浸透する方向が明らかでないが,構成c3では,合成樹脂体 は,筒4 2体 の内周面とシート体 との間に介在しているから,合成樹脂がシー 1 4ト体 の外周面から浸透していることになる。)4e印鑑基材である。
(イ)被告らの主張する構成について被告イ号図面は否認する。同図面には,棒状体 と筒状のシート体 と3 4の間に合成樹脂体 が介在された構成が開示されているが,イ号物件は, 2シート体 が棒状体 の外周面に巻き付け接着されており,原告イ号図面 43のとおり,棒状体 とシート体 との間には,実質的に隙間が存在しない 34から,筒体 の内周面とシート体 との間に注入した合成樹脂 は,シー 1 4 2ト体 に浸み込むことはできても,シート体 を通過して棒状体 との間 4 4 3に流れ込むことは技術的にありえないので,棒状体 とシート体 との間 34には,合成樹脂体 は存在しない。 2イロ号物件の構成(ア)原告の主張する構成ロ号物件の構成は次のとおりであり,ロ号物件の拡大縦断面は,別紙原告ロ号図面(以下「原告ロ号図面」という。)のとおりである。
aアクリル系の合成樹脂からなる有底状の透明な筒体 と,1b筒体 内に注入されたエポキシ樹脂からなる透明な合成樹脂体 と, 1 2c1筒体 内に挿入された透明な棒状体 と, 1 3c2棒状体 に巻き付け接着され合成樹脂体 の内部に封入された絵柄を 3 2有する和紙からなるシート体 とを備え, 4c3合成樹脂体 は,筒体 の内周面とシート体 との間に注入されて両 21 4者の間に介在されており,dシート体 には合成樹脂が浸透してシート体 と合成樹脂体 が一体4 42化されている,(判決注・合成樹脂がシート体 の外周面側からシート 4体に浸透していることになることは,イ号物件の構成と同様であ 4る。)e印鑑基材であり,p筒体 の内部における棒状体 の上方の空間部 に収容され合成樹脂1 35体 により封入された多数の粒状体 を更に備える。 2 6(イ)被告らの主張する構成について被告ロ号図面は否認する。同図面には,棒状体 と筒状のシート体 と3 4の間に合成樹脂体 が介在された構成が開示されているが,ロ号物件は, 2シート体 が棒状体 の外周面に巻き付け接着されており,原告ロ号図面 43のとおり,棒状体 とシート体 との間には,実質的に隙間が存在しない 34から,筒体 の内周面とシート体 との間に注入した合成樹脂 は,シー 1 4 2ト体 に浸み込むことはできても,シート体 を通過して棒状体 との間 4 4 3に流れ込むことは技術的にありえないので,棒状体 とシート体 との間 34には,合成樹脂体 は存在しない。 2ウ接着剤塗布工程(原告が主張する構成c2)の有無について原告商品の製作工程は,市販しているものも全てA方法のとおりである。
A実験では,市販されている原告商品を用いたE実験とF実験同様,被告らは,ラジオペンチなどを用いなければ棒状体 と積層部分を分離できず,3外力を加えて棒状体 と積層部分を分離したところ,棒状体 の表面は,長 3 3手方向に沿ってまっすぐな写り込みが発生するほどの非常に滑らかな面を維持しており,積層部分の内周面も滑らかで外部の照明光の写り込みがあった。
このように,破断実験の結果が同じである以上,市販品の原告商品も,A方法により製作されている。
また,シート体 は,棒状体 に巻き付け接着されていて,棒状体 とシ43 3ート体 との間には隙間が存在しないので,筒体 の内周面とシート体 と4 1 4の間に注入した合成樹脂は,シート体 に浸み込むことはできても,シート 4体 を通過して棒状体 との間に流れ込むことは技術的にあり得ない。そう 4 3すると,積層部分の内周面の写り込みは,シート体 を棒状体 の外周面に 43巻き付け接着するために,シート体 の裏面全体に塗布された接着剤である 4ということになる。したがって,市販品の原告商品も,構成c2を含む原告が主張する構成を有している。
エ接着剤塗布工程の有無に関する被告らの主張について(ア)接着剤塗布工程の主張に至る経緯が不自然であるとの主張について被告らは,原告の接着剤塗布工程の主張に至る経緯が不自然であると主張するが,「巻き付ける」とは,「巻いてくっつける」の意味であり,くっつけるための手段として接着剤を用いることは自明である。「巻き付ける」という記載が,当初からシート体 が棒状体 に接着されたものを意43図していることは,甲事件の訴状に添付した原告商品の断面図の図面において,棒状体 とシート体 との間に隙間がないことからも明らかである。
34原告の主張は,本件の争点を考慮して,巻き付けるための具体的手段が水溶性アクリル系接着剤であることを明らかにしただけである。
(イ)接着剤塗布工程は経済的に不合理であるとの主張について被告らは,接着剤塗布工程を実施することは技術的,経済的合理性からありえないと主張するが,仮に,接着剤を使用せずにシート体 を棒状体4の外周面に巻き付けようとすれば,注入した合成樹脂体 が固化するま 3 2で何らかの外力を作用させ続けることにより,シート体 と棒状体 の外 43周面との接触状態を維持しなければならず,このような作業は,接着剤塗布工程に比べて著しく煩雑なものとなる。
また,被告P1は,他の特許出願の公開特許公報(甲A17)において,絵柄付きシート体が表面に設けられた芯体40と筒体20の内周面との間に合成樹脂50が注入された印鑑基材において,「芯体40の外周面に例えば接着剤を介し絵柄付きシート体30を巻き付けるようにして予め絵柄付き芯体を製造しておく。」「また,印鑑基材10の製造方法は,筒体20の周面に彫刻を施したり図柄を手書きするような面倒な工程が存在しないため製造が容易で大量生産に向いており,絵柄を有する印鑑のコストダ3 4 ウンに貢献できる。」としており,棒状体 に接着剤を用いてシート体に巻き付けたものをあらかじめ用意しておくことが量産化に好適であるとしている。
(ウ)被告らの実験(E実験,F実験,G実験)について被告らは,E実験の作業において,棒状体-筒体介在要素は棒状体 と3は一体化していないので,簡単に分離することができたと主張するが,原告が,実際に原告商品においてシート体 を棒状体 から分離しようとし43たところ,棒状体 とシート体 とは接着剤により強固に接着されており, 34最終的には分離できたものの作業は困難であった。
また,被告らのF実験の分離作業を記録した乙A11のCD-Rでは,半円柱状に切り取った原告商品を,ラジオペンチで何箇所も力を入れたあげくに分離した状況や,ラジオペンチでは分離できず,千枚通しを使ってやっと分離する状況が写っており,到底簡単に分離できたとはいえない。
G実験については,被告らは,シート体に接着剤を塗ってアクリル板に貼り付けた後,接着剤が乾く前に,直ちに合成樹脂を注入した実験を行い,その結果,接着剤の跡あるいはシート体が部分的に剥離された跡が見られると主張するが,原告商品は,棒状体 に巻き付けたシート体 の接着剤3 4が乾くまで1,2日置いた上で,筒体 とシート体 との間に合成樹脂を 14注入して固化しているので,製造工程が異なる実験である以上,その結果は無意味である。
(エ)被告らの実験(B実験)について被告らは,B実験によると,接着剤を使用した場合,接着層は,指を走らせると抵抗感があり,若干の弾力性を有し,完全な固形ではないはずであるが,E実験,F実験では,棒状体外要素の内面は,真っ直ぐな写り込みが生じるほど非常に滑らかな面であり,指を走らせても抵抗感が全くなく,弾力性を有しない完全な固形であったから,市販品は接着剤を使用していないと主張する。しかし,A実験の結果,接着剤を使用した場合でも,棒状体外要素の内面は,E実験,F実験と同じであることが明らかになった。
(オ)原告の実験(H実験)と被告らの実験(C実験,D実験)について原告は,原告商品を破断し,筒体 ,合成樹脂体 ,シート体 の積層124構造になった2つの半円筒状の積層部分を棒状体 から分離し,その断面 3をマイクロスコープにより観察した。その結果,甲A14の2のとおり,上から順に,シート体 ,合成樹脂体 ,筒体 からなる積層部分が確認4214 3され,積層部分を構成するシート体 の内面には,外力によって棒状体を分離しているため,表面が平滑ではないものの,何らかの樹脂層が存在した。
次に,原告は,上記の積層部分を水中に一晩浸漬させてから(これを写真撮影したのが甲A16の1・2である。),再び切断面をマイクロスコープにより観察した。その結果,甲A14の1のとおり,シート体 の内4面を覆っていた樹脂層が水中への浸漬により消失し,シート体 を構成す 4る繊維の一部が起立している様子が確認できた。
また,原告は,原告商品を破断し,分離した積層部分のシート体 の内4面を擦り洗いした後(これを写真撮影したのが甲A16の3・4である。),マイクロスコープにより観察した。その結果,甲A14の3のとおり,シート体 の内面は,樹脂層が消失しているが,甲A14の1のよ4うにシート体 の繊維が起立した状態になっておらず,シート体 の厚み 4 4は,甲A14の2より若干薄くなっているように見えた(以上について,以下「H実験」という。)。
4 これらの結果から,甲A14の3では,擦り洗いによって,シート体4 2 の内面が削られることで,シート体 の外面側から浸透した合成樹脂体が,シート体 の内面を露出し,滑らかな状態になったと考えられる。
4なお,被告らは,甲A16の4の積層部分の内面は滑らかであると言い難く,乙A19の2と比べてその違いは歴然であると主張するが,いずれもその積層部分を擦り洗いしたものである以上,擦り洗いの力,時間,範囲などによって,最終的な表面の状態に違いが生じるのは当然であるし,積層部分の内面に存在する樹脂が水溶性か否かを明らかにする目的であれば,積層部分を水中に浸漬した後の状態を観察すればよいのであって,物理的な外力が作用する擦り洗いのように,溶解以外の理由で状態変化のおそれがある実験を行うのは妥当ではない。そして,甲A14の1・2は,マイクロスコープで拡大した積層部分の内面であり,肉眼で平滑に見えることと何ら矛盾しない。
オ棒状体 とシート体 との間の合成樹脂体 の有無(原告の主張する構34 2成c3)について(ア)原告商品のシート体 は,内面全体に接着剤が塗布された後,棒状4体 の外周面に巻き付け接着したものであるが,シート体 の内面側は, 3 4接着剤が浸透してシート体 と接着剤とが一体化された状態であり,シ 4ート体 の外面側は,巻き付け接着後も乾いた状態が維持され,接着剤4はシート体 の外面までは浸透していない。この状態で,シート体 の 4 4外面側に合成樹脂体 を供給すると,シート体 の外面側から合成樹脂 2 4体 が浸透するが,シート体 の内面側には,既に浸透して硬化した接 2 4着剤が存在するから,合成樹脂体 がシート体 を透過して,シート体 24と棒状体 との間に流れ込むことはなく,シート体 に浸透した合成 43 4樹脂体 は,シート体 の内部において接着剤と衝突し,それ以上浸透24しないでとどまっている。
(イ)被告らは,棒状体 に巻き付け接着したシート体 を,合成樹脂体3 4が関与しないまま棒状体 から分離すると,B実験のとおり,接着層 2 3の表面が微細な凹凸面になるのに対し,シート体 を合成樹脂体 が関 42与した後に棒状体 から分離すると,A実験のとおり,接着層の表面が 3滑らかになることから,A実験においては,接着層の表面が凹凸面になることによって,棒状体 とシート体 との間に微細な隙間が形成され,34この隙間に合成樹脂体 が浸入していると主張する。 2仮に,B実験において接着層の表面に微細な凹凸面があったとしても,和紙の裏面と同程度であり,せいぜい数μm程度と推測され,このように極めて微細な凹凸面であれば,A実験においてこの凹凸面に起因して棒状体 とシート体 との間に隙間が生じたとしても,粘性を有する合34成樹脂体 がシート体 の隙間全体に浸入することは困難である。 24B実験において接着層表面が微細な凹凸面となるにもかかわらず,A実験においては接着層が滑らかな面となっているのは,棒状体 にシー3ト体 を巻き付け接着したものを筒体 内に挿入し,筒体 内に合成樹 4 1 1脂体 を注入して印鑑基材を製造していることから,棒状体 に巻き付 2 34 2け接着されたシート体 の外周面は,その周囲に存在する合成樹脂体34 によって,径方向内方に押圧された状態となり,棒状体 とシート体との隙間に合成樹脂体 が浸入したからではなく,シート体 の外周面2 4が径方向内方に押圧されることによって棒状体 とシート体 との間に 34形成されていた微細な隙間が押しつぶされ,その結果,接着層表面が棒状体 の外周面になじんで滑らかな面になったからと考えられる。
34 4(ウ)以上により,原告商品において,シート体 に浸透してシート体と一体化する合成樹脂体 は,筒体 の内周面とシート体 との間に注21 4入された合成樹脂であり,シート体 の内面全体に接着剤が浸透して一 4体化されている以上,この合成樹脂は,シート体 に浸透することはな 4いので,棒状体 とシート体 との間に合成樹脂体 は存在しない。 34 22原告方法の構成(上記第4の2の争点)(1)被告らの主張アハ号方法の構成ハ号方法の構成は次のとおりである。
j有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する第一次樹脂注入工程と,k所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体を棒状体の外周面と筒体の内周面との間に介挿入する工程と,lシート体の介挿入された筒体内に満了になるまで液状の合成樹脂を注入する第二次樹脂注入工程と,m前記筒体内の合成樹脂を固化させる固化工程と,からなることを特徴とするn印鑑基材の製造方法
イニ号方法の構成ニ号方法の構成は次のとおりである。
j有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する第一次樹脂注入工程と,k所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体を棒状体の外周面と筒体の内周面との間に介挿入する工程と,lシート体の介挿入された筒体内に満了になるまで液状の合成樹脂を注入する第二次樹脂注入工程と,m前記筒体内の合成樹脂を固化させる固化工程と,からなることを特徴とするn印鑑基材の製造方法
qなお,前記棒状体については,あらかじめ,その上方約3分の1の長さ部分は空間部にし,粒状体による模様を形成する工程が付加される。
ウ原告主張の構成k1について前記1の原告商品の構成の(1)の被告らの主張のとおり,原告は,原告商品の製造過程において,接着剤塗布工程を実施していない。
また,原告は当初,1)棒状体及びシート体を挿入しておいてから合成樹脂体を注入する方法と,それに加えて,2)棒状体及びシート体を挿入する前に筒体内に合成樹脂をあらかじめ若干注入しておく工程を付加する方法の2通りの方法があると主張していたが,A実験をした進行協議期日の直前になって,現時点では2)の方法のみを採用しており,1)の方法での製造は行っていないと主張するに至った。しかし,原告商品において,筒体とシート体との間の空間は1ミリメートル以下となるはずであり,棒状体及びシート体を挿入した後,筒体とシート体との間に合成樹脂体を注入することが困難であることからすると,そもそも1)の方法を採用していたとする原告の主張はにわかに信じがたく,当初から2)の方法のみを採用していたことは明らかである。
このように,構成jの筒体内に合成樹脂をあらかじめ注入しておく工程があるので,筒体内にあらかじめ注入され流動状態にある合成樹脂は,棒状体が筒体内に挿入されると自然に,固形の棒状体の外周面と和紙からなるシート体との間,筒体の内周面とシート体との間にそれぞれ浸入することとなり,シート体は筒体の内周面と合成樹脂との間に介挿入されることになるので,被告らが主張する構成kとなる。
(2)原告の主張アハ号方法の構成(ア)原告の主張する構成ハ号方法の構成は次のとおりである。ただし,構成jは備えない場合もあり,この場合,構成k2は,「この棒状体を,筒体の中心部に挿入する工程と,」となる。
j有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する工程と,k1所定の絵柄を有する和紙からなるシート体を棒状体に巻き付け接着する工程と,k2この棒状体を,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体が介在されるように,筒体の中心部に挿入する工程と,lシート体が巻き付け接着された棒状体が挿入された筒体内におけるシート体と筒体の内周面との間に,満了になるまで液状の合成樹脂を注入することにより,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂を介在させる工程と,m筒体内の合成樹脂を固化させて合成樹脂体の内部にシート体を封入する工程とを備える,n印鑑基材の製造方法
(イ)被告らの主張する構成について被告らの主張するハ号方法の構成k,構成lのうち「シート体の介挿入された筒体」は否認する。ハ号方法は,シート体を棒状体に巻き付け接着してから筒体内に挿入したものである。
イニ号方法の構成(ア)原告の主張する構成ニ号方法の構成は次のとおりである。ただし,構成jは備えない場合もあり,この場合,構成k2は,「この棒状体を,筒体の中心部に挿入する工程と,」となる。
j有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する工程と,k1所定の絵柄を有する和紙からなるシート体を棒状体に巻き付け接着する工程と,k2この棒状体を,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体が介在されるように,筒体の中心部に挿入する工程と,lシート体が巻き付け接着された棒状体が挿入された筒体内におけるシート体と筒体の内周面との間に,満了になるまで液状の合成樹脂を注入することにより,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂を介在させる工程と,m筒体内の合成樹脂を固化させて合成樹脂体の内部にシート体を封入する工程とを備える,n印鑑基材の製造方法であって,q筒体の内部における棒状体の上方の空間部に多数の粒状体を収容し,これら粒状体の隙間に合成樹脂を注入して固化する工程を更に備える。
(イ)被告らの主張する構成について被告らが主張するニ号方法の構成k,構成lのうち「シート体の介挿入された筒体」は否認する。ニ号方法は,シート体を棒状体に巻き付け接着してから筒体内に挿入したものである。
ウ原告方法の構成が上記のとおりであることは,前記1の原告商品の構成の(2)の原告の主張のとおりである。
3原告商品の本件発明1,2,3の技術的範囲の属否(上記第4の3の争点)(1)被告らの主張アイ号物件前記の被告らの主張するイ号物件の構成を前提とすれば,イ号物件のa,b1,c,d,eの各構成は,それぞれ本件発明1のA,B,C,D,Eの各構成要件を充足する。
原告商品の構成b1の合成樹脂体 は本件発明1の構成要件Bの「芯材」に2該当する。原告商品は,構成cのとおり,棒状体 の外周面と筒体 の内周 31面にシート体 があり,棒状体 とシート体 との間には「芯材」に相当す 434る合成樹脂体 が存在する。原告商品の棒状体 は,本件発明1との関係で 2 3は,付加的構成部材である。あるいは,合成樹脂体 とあいまって実質上 2「芯材」の一部を構成すると解することもできる。
イ号物件のfの構成は,本件発明2の構成要件Fを,a,b1,c,d,eの各構成は,本件発明2の構成要件Gをそれぞれ充足する。
イ号物件のhの構成は,本件発明3の構成要件Hを,a,b1,c,d,e,fの各構成は,本件発明3の構成要件Iをそれぞれ充足する。
イロ号物件前記の被告らの主張するロ号物件の構成を前提とすれば,ロ号物件のa,b1,c,d,eの各構成は,それぞれ本件発明1のA,B,C,D,Eの各構成要件を充足する。
ロ号物件のfの構成は,本件発明2の構成要件Fを,a,b1,c,d,eの各構成は,本件発明2の構成要件Gをそれぞれ充足する。
ロ号物件のhの構成は,本件発明3の構成要件Hを,a,b1,c,d,e,fの各構成は,本件発明3の構成要件Iをそれぞれ充足する。
なお,ロ号物件のpの構成は,本件発明1,2,3の各構成要件と関係では,単なる付加的構成である。
ウ原告主張の構成を前提とした場合(予備的主張)仮に,原告商品の構成が原告主張のとおり,棒状体 とシート体 との間34に接着剤が介在する構成になっているとしても,次のとおり,その構成は,本件発明1ないし3の技術的範囲に属する。
(ア)棒状体 と接着剤があいまって「芯材」に該当すること3棒状体 及び接着剤は,両部材あいまって実質的に本件発明1の「芯3材」に該当する。
「芯材」の意義は,「物の中心」を意味するところ,原告の主張によれば,原告商品のシート体 の裏面側のほぼ全体に接着剤が塗布されている4ので,棒状体 の外周面のほぼ全体に接着剤が存在することは明らかであ 3り,原告商品の棒状体 及び接着剤は「芯材」に含まれる。 3また,「芯材」は「透明な合成樹脂からなる」ものであれば十分であるところ,原告が使用しているという接着剤は水溶性アクリルを主成分としており,「透明な合成樹脂」である。
さらに,原告の主張によれば,棒状体 がその外周面のほぼ全体に存在3する接着剤とあいまって,シート体 を筒体 内に固定させる構造になっ 41ていることは明らかであり,本件発明1においても,芯材は,固化することにより合成樹脂が浸透して一体化されたシート体 を筒体 内に固化す41る作用を有するので,棒状体 と接着剤は,シート体 を筒体 内に固定 3 41する作用において,本件発明1の「芯材」の有する機能と同一である。
なお,本件明細書には,【0028】「上記芯材40は,本実施形態においては,エポキシ樹脂によって形成されている。」との記載があるが,同記載は,合成樹脂の一実施例を挙げているにすぎず,「シート体を固化する」という目的を達成する手段として「液状を呈した固化前のものに所定の硬化剤を混入して所定時間加温処理を施す」という一製法が示された場面にすぎないので,接着剤を塗布して固化する方法などの他の手段を排除するものではない。また,「芯材」を構成する合成樹脂の種類は,シート体 を固化するに足りるものであればよく,格別エポキシ樹脂に限定され4ない。本件明細書【0028】において「本発明は,芯材40がエポキシ樹脂製であることに限定されるものではなく,エポキシ樹脂に代えて寸法安定性に富んだ他の合成樹脂を採用してもよい」とされているとおりである。
(イ)作用効果が同じであること接着剤の介在は,格別の作用効果もなく,本件発明1ないし3との関係では,付加的事項又は迂回的事項にすぎない。原告商品は,接着剤の有無にかかわらず,筒体 ,シート体 ,シート体 の内側に位置する合成樹144脂体(棒状体 )をそれぞれ構成要素とし,同構成を採用したことにより, 3従来の印鑑基材の外周面に手書きされた絵柄のようにこすれて落剥する不都合が生じず,いつまでも印鑑の美麗な状態を実現し,かつシート体 の4絵柄により印鑑をオリジナリティ豊かなものとすることができる点において,本件発明1ないし3の作用効果と全く同一であり,本件発明1ないし3と実質的に異なるところはない。
4 この点,原告は,原告商品は,いわゆるレンズ効果によってシート体の模様が拡大して視認されるという装飾的効果を発揮することから,本件発明1ないし3では奏しえない格別の効果を奏するものであると主張する。
しかし,シート体 と筒体 の外周面との間の距離は微々たるものである41から,印鑑を肉眼で見た場合,原告主張のようなレンズ効果があるとは思われない。前述のとおり,原告商品は,本件発明の効果を全部具備しているので,仮にレンズ効果が多少あるとしても,それは付加的効果であり,そのことによって原告商品の本件発明1ないし3の構成要件該当性を免れるものではない。
エ「注入」に関するの原告の主張について原告は,1)原告商品の棒状体 は,筒体 内に「注入」されるものではな31いから,構成要件Bを文言上充足することができず,「芯材」には該当しな1 4 い,2)原告商品は,芯材を構成する合成樹脂が筒体 の内周面とシート体との間に注入されたものであり,シート体 の内側には芯材は存在しないの4で,シート体 は,「該芯材と前記筒体の内周面との間に介挿入された」も 4のではなく,本件発明1の構成要件Cを文言上充足しないと主張する。
しかし,本件発明1は「物の発明」であるから,その文言の一部に方法的要素が記載されていたとしても,それは物としての発明を特定する意味を持つにすぎず,物の構成要件的理解としては,その部分を捨象して,あくまで物の構成自体をもって当該発明の構成要件であると解釈すべきである。
したがって,本件発明1の構成要件Bの「注入された」という表現は,1)単に注入され終わった結果,発明対象である印鑑基材としては固化している状態の合成樹脂を説明したにすぎず,2)製法によって物の特定をしたいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム手法による特定であるから,物の構成要件自体の解釈に格別に影響を及ぼすものではない。
オ固定に関するの原告の主張について原告は,「芯材」は最終的にシート体 を筒体 内に固定する機能を有す41るところ,棒状体 及び接着剤は,合成樹脂が注入されるまでシート体 を 3 41 41筒体 の中心部に起立保持する機能を果たすに留まり,シート体 を筒体内に固定する機能を有しないことから,「芯材」とは異なるものであり,他方,筒体 の内周面とシート体 との間に介在する合成樹脂体 の存在によ1 4 2って,初めてシート体 が筒体 内に固定されることから,合成樹脂体 が 41 2「芯材」に相当すると主張する。
しかし,そもそも「固定」とか「保持」という概念は本件発明1ないし3の構成要件に直接関係がない。
のみならず,本件発明1ないし3においては,合成樹脂はシート体の内側だけでなく,外側にも回り込むことにより,シート体の内側の合成樹脂と,シート体の外側の合成樹脂があいまって,シート体を固定する結果となることは経験則上明らかである。
これに対し,原告商品は,シート体 の内側の棒状体 及び接着剤と,シ43ート体 の外側の合成樹脂体 があいまって,シート体 を固定しているの4 2 4で,棒状体 及び接着剤の機能は,シート体 の内側にある芯材と異ならず, 3 4原告の主張は失当である。
カ密着に関するの原告の主張について原告は,本件発明1の構成要件Cは,シート体 が筒体 の内周面に密着41した構成であると解釈すべきと主張し,その根拠として,本件明細書の記載及び実公昭34-19405号公報(甲A10。以下「甲10公報」という。)を指摘する。しかし,次のとおり,その解釈は誤りである。
(ア)特許請求の範囲の記載本件発明1の「特許請求の範囲」において,その文言上,シート体 を4筒体 の内周面に密着させることを要件としていると読みとれる文言は一 1切ない。むしろ,構成要件Cは,シート体 は「該芯材と前記筒体の内周 4面との間に介挿入」されていればよいのであって,筒体 の内周面に密着 1させることを内容としていない。特許発明技術的範囲は,「特許請求の範囲」の記載に基づいて定めなければならないところ,原告の主張する解釈は,「特許請求の範囲」に記載された文言にはまったくない構成を構成要件として付加し,不当にその範囲を限定するものである。
(イ)本件明細書の記載確かに,「特許請求の範囲」の文言解釈に際し,場合により「詳細な説明」欄の記載を参酌することはでき,本件明細書には,シート体と筒体の内周面に関して,「密着」「積層」「摺接状態」といった文言が用いられている部分はある。
しかし,これらはいずれもシート体と筒体の内周面とが「密着」していることが技術上は不可欠であると述べるものではなく,【0011】「密着」は,【0008】「印鑑基材の外周面に手書きされた絵柄は,使用する度に手によってこすられることになるため,剥がれ落ちやすいという問題点」があるので,この課題を解決するための手段として,絵柄付きシート体が筒体の内側に存在することにより,度重なる使用によっても絵柄がこすれて落剥するような不都合がないことを明らかにし,強調する趣旨で記載されたものである。「積層」「摺接状態」という用語は,その意味自体,原告の主張する「密着」とは異なる。
(ウ)公知文献甲10公報は,本件特許出願の審査経過において拒絶理由通知書中で引用された文献であり,出願人らは,本件特許出願の効果について,甲10公報は,絵柄を化体させた板であるのに対し,本件発明1の絵柄は筒状シートに化体されている点で異なり,そのため,絵柄が二方向ではなく,どの方向からも視認できるようになったことなどの優位性を主張し,特許された。
実開平4-47559号公報(甲A12。以下「甲12公報」という。)は,全体略柱状の印鑑用基材の外周部に,切り込み装飾を配設したものを開示しているが,本件発明1の構成は,円柱状の筒体の内周側に和紙からなる筒状シートに絵柄を化体したものであり,技術上の優位性は十分ある。
(2)原告の主張ア属否について原告商品は,「芯材」に相当する合成樹脂体 の内部に,棒状体 に巻き2 3付け装着されたシート体 が封入されたものであり,シート体 が「該芯材 4 4と前記筒体の内周面との間に介挿入された」構成ではないから,本件発明1の構成要件Cを充足しない。
3 すなわち前記1の原告商品の構成の(2)の原告の主張のとおり,棒状体とシート体 との間に何らかの樹脂が介在しているとしても,この樹脂は,4筒体 内に注入された合成樹脂が浸入したものではなく,シート体 を棒状 1 4体 に貼着するための接着剤であり,この接着剤は,シート体 を筒体 内 3 41に挿入する前に棒状体 に巻き付け接着するためのもので,筒体 内に「注 3 1入」されてシート体 を筒体 内の内周面に密着させるためのものでないか 41ら,本件発明1の構成要件Cの「芯材」に該当しない。
仮に,被告らが主張するように,合成樹脂がシート体 と棒状体 との間43に浸入することがあったとしても,それは局部的なものであり,極めて微量であることから,本件発明1の構成要件Cの「芯材」とすることはできない。
本件発明2,3は,本件発明1の従属項であり,本件発明1の構成要件Cを必須の構成要件とするので,原告商品が構成要件Cを充足しない以上,本件発明2,3の技術的範囲には属しない。
イ棒状体と接着剤を「芯材」と解することはできないこと(ア)「注入」の解釈被告らは,原告商品の棒状体 は,本件発明1の構成要件B,Cの「芯3材」の一部に該当すると解釈できると主張するが,原告商品の棒状体 は, 3筒体 内に「注入」されるものではないから,構成要件Bの文言を充足せ 1ず,「芯材」に該当しない。棒状体 は,筒体 の内周面とシート体 と 31 4の間に合成樹脂が注入されるまでシート体 を筒体 の中心部に保持する 41ためのものであり,シート体 を筒体 の内周面に密着させるためのもの 41ではないから,機能面をみても,本件発明1の構成要件B,Cの「芯材」とは異なるものである。
被告らは,原告商品は,棒状体 と接着剤があいまって,本件発明1の3「芯材」に該当すると主張し,構成要件Bの「注入された」はプロダクト・バイ・プロセス・クレームであり,棒状体 と接着剤がシート体 を筒3 4体 内に固定するという作用において,「芯材」の機能と共通すると主張 1する。
しかし,本件発明1の「芯材」は,筒体の内部全体を隙間なく満たすことにより,最終的にシート体を筒体内に固定する機能を有するものであるから,芯材を構成する合成樹脂は,筒体の内部全体に行き渡るように,元は液状でなければならないから,本件発明1の構成要件Bの「注入」は文字通り解釈されるべきである。原告商品において,筒体 内に「注入」さ1れるのは,棒状体 と接着剤ではなく,合成樹脂体 であるから,合成樹 3 2脂体 が本件発明1の「芯材」に相当する。2(イ)「芯材」の機能すなわち固定について最終製造物として比較した場合であっても,本件発明1の「芯材」は,最終的にシート体を筒体内に固定する機能を有するものであるのに対し,原告商品の棒状体 と接着剤は,合成樹脂が満了注入されるまでシート体3を筒体 の中心部に起立保持する機能を果たすにとどまり,筒体 の内 41 1周面とシート体 との間には隙間が形成されるので,棒状体 と接着剤の 4 3みでは,シート体 を筒体 内に固定することはできないから,これらは 41本件発明1の「芯材」とは異なるものである。
原告商品においては,筒体 の内周面とシート体 との間に介在された1 4合成樹脂体 の存在によって初めてシート体 が筒体 内に固定されるの 2 41であるから,本件発明1の「芯材」に相当するものは合成樹脂体 である。 2少なくとも合成樹脂体 の存在を無視して,棒状体 と接着剤のみを取り 2 3出して,これらが本件発明1の「芯材」に相当すると解釈することはできない。
ウシート体 の配置(筒体 の内周面に密着)について41(ア)本件明細書の記載本件明細書には,次の記載がある。
【0011】「この発明によれば,度重なる使用で印鑑の印鑑基材の表面がこすれても,絵柄は,筒体の内周面に密着している絵柄付きシート体に付与されているため,…」【0050】【発明の効果】「請求項1記載の発明によれば,印鑑基材を透明な筒体と,筒体の内周面に積層された所定の絵柄を有する絵柄付きシート体と,この絵柄付きシート体の内側に注入された所定の合成樹脂とから構成しているため,…」【0021】「…筒体20の内周面に積層された…シート体30と,…からなる基本構成を備えている。」【0027】「…シート体30は,…横寸法が筒体20の内周長と略等しく寸法設定されている。したがって,この絵柄付きシート体30を横方向に向けて筒状に巻いた後に摺接状態で奥部にまで届くように筒体20内に挿入することによって,…になる。」【0034】「シート体挿入工程P2においては,筒体20の内径寸法と略一致する外径寸法になるように丸められた絵柄付きシート体30が,筒体20の内周面に密着した状態で,当該筒体20内に緩やかに挿入される。こうすることによって…筒体20の内周面に絵柄付きシート体30が当接した状態となる。」【0039】「このようにして製造された第一実施形態の印鑑基材10によれば,…絵柄は筒体20の内周面に密着している絵柄付きシート体30に付与されたものであるため,…できる。」以上のとおり,シート体は,一貫して筒体の内周面に密着したものとして開示されており,シート体の他の配置は何ら開示されていない。これらの記載からすれば,本件発明1の構成要件Cの「該芯材と前記筒体の内周面との間に介挿入された所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体」とは,芯材により筒体の内周面に密着して保持されるように介挿入されたシート体と解釈されるべきであり,本件明細書のどこを見ても,これに反する解釈が生じる余地はない。
被告らは,本件明細書の「密着」「積層」「摺接状態」などの記載は,シート体と筒体の内周面とが「密着」していることが技術上不可欠であることを述べているのではないと主張するが,前述のとおり,本件明細書には,筒体の内周面にシート体を「密着」させ,これを筒体内に注入した芯材によって固定した構成が開示されているのみであり,原告商品の構成を示唆する記載はないから,本件特許の発明者は,本件発明1の効果を奏する構成として,筒体の内周面にシート体が密着することが必須であることを自認しているのであり,発明者が認識した限度を超えて技術的範囲を及ぼすのは妥当ではない。
したがって,本件明細書の記載を参酌することにより,本件発明1の構成要件Cのシート体は筒体の内周面に密着した構成に限定して解釈すべきである。
(イ)甲10公報本件特許出願前の公知文献である甲10公報によれば,日本紙(和紙)を貼着したプラスチック製貼着板(棒状体)を容器(筒体)内にプラスチック製円柱(芯材)で封入した印材(印鑑基材)が,本件特許出願時において既に公知の技術であった。
仮に,原告商品において,被告らが主張するように,棒状体 とシート3体 との間に合成樹脂体 が介在するとすれば,甲10公報に開示された 4 2印材は,a)有底状の透明な容器と,b)容器内に注入された透明なプラスチック体と,容器内に挿入された透明な貼着体と,c)貼着体に貼着されプラスチック体の内部に封入された絵柄を有する日本紙とを備え,プラスチック体は,容器の内周面と日本紙との間に注入されて両者の間に介在されており,d)日本紙は,プラスチックが浸透して日本紙とプラスチック体とが一体化されているから,原告商品と同様の構成を備えるものであり,原告商品の棒状体 とシート体 は,互いに接着された状態で合成樹脂に封入34される点で,甲10公報の印材における貼着体及び日本紙と共通する。
そうすると,被告らが主張するように,原告商品において,棒状体 と 3シート体 との間に合成樹脂体 が介在するとすれば,甲10公報に開示 4 2された印材においても,貼着体と日本紙との間にプラスチックが介在することになり,甲10公報の印材において,貼着体と日本紙との間に介在されたプラスチックが本件発明1の「芯材」に相当することを前提として,本件発明1と甲10公報の発明を対比すると,甲10公報に係る発明は,a)有底状の透明な容器と,b)容器内に注入された透明なプラスチックと,c)プラスチックと容器の内周面との間に挿入された平板状の日本紙からなり,d)日本紙にプラスチックが浸透して日本紙とプラスチックが一体化された印材であるから,本件発明1のシート体が筒状であるのに対し,甲10公報の日本紙は平板状である点で相違し,その他の点で一致することとなる。
筒体内に挿入するシート体の形状を平板状とするか筒状とするかについては,甲12公報により,筒状の外周面に絵柄が付与された印鑑基材は本件特許出願前に公知になっており,シート体に付与した絵柄の見せ方などに応じて当業者が適宜選択し得る事項であるから,その相違点に進歩性はない。
とすれば,本件発明1は,無効理由を有することとなるので,本件発明1の構成要件Cは,シート体が筒体の内周面に密着した構成に限定して解釈されるべきである。
(ウ)原告商品は,シート体 が筒体 の内周面に密着した構成ではないの41で,本件発明1ないし3の技術的範囲に属しない。
エ作用効果被告らが主張する本件発明1の作用効果は,原告商品も奏するが,いずれも本件特許出願前の公知文献である甲10公報に記載された構成が有する効果と同様であり,本件発明1に特有のものではない。原告商品は,筒体 の1内周面とシート体 との間に合成樹脂体 が介在するため,いわゆるレンズ 4 2効果によってシート体 の模様が拡大して視認されるという装飾的効果を発 4揮し,これは本件発明1では奏しえない格別の効果である。
オ被告ら主張の構成を前提とした場合仮に,被告らが主張するように,原告商品において,シート体 が棒状体4に巻き付け接着されたものではなく,棒状体 とシート体 との間に介在 3 34するのは合成樹脂体 であるとしても,原告商品は,本件発明1ないし3の 2技術的範囲に属しない。
すなわち本件発明1の「芯材」の機能は,シート体 を筒体 内に固定す41ることにあるから,棒状体 とシート体 との間に介在するの微量の合成樹 34脂体 のみを取り出して,これが本件発明1の「芯材」であると解釈するこ 2とはできない。原告商品は,筒体 の内周面とシート体 との間に介在する 1 4大部分の合成樹脂体 によって初めてシート体 が筒体 の中心部に固定さ 2 4134 2れるのであり,棒状体 とシート体 との間に介在する微量の合成樹脂体がシート体 を固定する機能の一部を果たすとしても,上記の大部分の合成4樹脂体 の存在なくしてこの機能を論じることはできない。2このように,原告商品において,本件発明1の「芯材」は,少なくとも筒体 の内周面とシート体 との間に介在する大部分の合成樹脂体 を含むか1 4 2ら,シート体 は,「芯材」の内部に封入されたものであり,「該芯材と前 4記筒体の内周面との間に介挿入された」ものではない。
4原告方法の本件発明4の技術的範囲の属否(上記第4の4の争点)(1)被告らの主張アハ号方法ハ号方法のj,k,l,m,nの各構成は,本件発明4のJ,K,L,M,Nの各構成要件を充足する。
イニ号方法ニ号方法のj,k,l,m,nの各構成は,本件発明4のJ,K,L,M,Nの各構成要件を充足する。なお,ニ号方法のqの構成は,本件発明4の各構成要件との関係では,単なる付加的構成である。
ウ原告主張の構成を前提とした場合(予備的主張)仮に,原告が主張するとおり,原告商品の製造過程において,接着剤塗布工程があり,原告方法は,原告が主張するとおりの構成であったとしても,原告方法は,次のとおり,なお本件発明4の技術的範囲に属する。
(ア)構成要件Kの「介挿入」について原告の主張する原告方法は,棒状体に巻き付け接着されたシート体が筒体に挿入されるので,筒体の内周面と合成樹脂(接着剤)間に「介挿入」されたものということができる。
原告は,原告方法は,シート体と筒体の内周面との間に合成樹脂体が介在されるように,棒状体を筒体の中心部に挿入する工程を備えるが,このとき筒状のシート体の内側には筒体内に注入された合成樹脂は存在しないので,シート体は筒体の内周面と合成樹脂間に「介挿入」されるものではなく,原告方法は,本件発明4の構成要件Kを文言上充足しないと主張する。
しかし,原告商品では,棒状体 の外周面に塗布された接着剤は,本件3発明1の「芯材」を形成し,シート体を固定する機能を果たしているところ,原告方法では,棒状体に巻き付けられ接着されたシート体が筒体に挿入されるので,筒体の内周面と合成樹脂(接着剤)間に「介挿入」されるものといえる。
(イ)合成樹脂の固化の時期について前述のとおり,棒状体の外周面のほぼ全体に塗布された接着剤の主成分である水溶性アクリル樹脂は,本件発明1の「芯材」を形成する合成樹脂であり,シート体を固定する機能を果たしている。
本件発明4では,「芯体」を構成する合成樹脂が先に筒体内に注入され,その状態でシート体が介挿入され,その後,合成樹脂が固化し,「芯体」を形成する方法を採用しているのに対し,原告方法では,あらかじめ固化された棒状体の外周面にあらかじめ固化された合成樹脂(接着剤)によりシート体が接着している部材を筒体に挿入し,その後,合成樹脂を注入し,結果としてシート体を筒体内と合成樹脂(接着剤)との間に介挿入した状態とした上で固化する方法を採用しているのであって,結局両者の差異は製造方法設計上の微差であり,原告方法は,当業者であれば,本件発明4を知れば容易に想到できる範囲のことである。
原告方法の手順は,接着剤を使用する点を付加していることから,本件発明4の構成要件を迂回し,その該当性を回避した方法であり,接着剤を使用することによって生ずる格別の技術的意義もないので,実質上,本件発明4の構成要件を充足するものである。
(ウ)密着原告は,本件発明4の構成要件Kは,シート体が筒体の内周面に密着するように挿入される工程であるという前提に立って,原告方法は,シート体と筒体の内周面の間に合成樹脂が介在するように,シート体が挿入されるものであり,シート体は筒体の内周面とは密着していないので,本件発明4の構成要件Kを充足しないと主張する。
しかし,前記1の原告商品の構成の(1)の被告らの主張のとおり,本件明細書,甲10公報によっても,そのように解釈しなければならない理由はない。
(エ)作用効果本件発明4によれば,筒体の周面に彫刻を施したり図柄を手書きするような面倒な工程が存在しないため製造が容易で大量生産に向いており,絵柄を有する印鑑基材の製造コストも低減化に貢献することができるところ,原告方法も上記作用効果を奏することは明らかであるから,たとえ,原告方法が原告の主張する構成であったとしても,本件発明4の構成要件Kを実質的に充足する。
(2)原告の主張ア技術的範囲の属否原告方法は,構成jを備える場合,シート体と筒体の内周面との間に合成樹脂体が介在されるように,棒状体を筒体の中心部に挿入する工程を備えるものである。このとき,筒状のシート体の内側には,筒体内に注入された合成樹脂は存在しないから,シート体は,「前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入」されるものではない。したがって,原告方法は,いずれも本件発明4の構成要件Kを充足しないので,その技術的範囲に属しない。
また,本件発明4の構成要件Kは,前記1(2)及び後記のとおり,シート体が筒体の内周面に密着するように挿入される工程であると解釈されるのに対し,原告方法は,シート体と筒体の内周面との間に合成樹脂が介在するようにシート体が挿入されるものであり,シート体は筒体の内周面とは密着していないので,原告方法は,いずれも本件発明4の構成要件Kを充足せず,その技術的範囲に属しない。
イシート体の挿入の位置(筒体の内周面に密着)について(ア)本件明細書の記載本件明細書には,【0053】「請求項4記載の発明によれば,印刷基材を,筒体に満了に満たない量の合成樹脂を注入する第一次樹脂注入工程と,この工程で合成樹脂の注入された筒体の内周面に沿うように絵柄付きシート体を当該筒体に挿入する絵柄付きシート体挿入工程と,この工程で絵柄付きシート体の挿入された筒体に満量になるまで合成樹脂を注入する第二次樹脂注入工程とを経ることによって製造するようにしているため,…」と記載されていることから,本件発明4は,シート体が筒体の内周面に密着するように挿入される工程を備えるものであり,この工程によって特有の作用効果を奏するものである。
また,前記のとおり,【発明の実施の形態】の欄には,シート体は,一貫して筒体の内周面に密着するように挿入されるものとして開示されており,シート体の他の配置は何ら開示されていない。
以上の記載からすれば,本件発明4の構成要件Kにおける「所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体を前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入するシート体挿入工程」とは,筒体の内周面に密着して芯材により保持されるようにシート体を介挿入する工程と解釈されるべきであり,本件明細書のどこをみても,これに反する解釈を生じる余地はない。
(イ)甲10公報甲10公報によれば,日本紙(和紙)をプラスチック製貼着板(棒状体)に貼着し,このプラスチック製貼着板を容器(筒体)内に設けた後,プラスチック溶液を注入して固化させることにより印材(印鑑基材)を製造する方法が,本件特許出願時において既に公知の技術であった。
仮に,原告商品において,棒状体 と筒状のシート体 との間に合成樹3 4脂体 が介在するとすれば,前記1(2)のとおり,甲10公報に開示され 2た印材においても貼着体と日本紙との間にプラスチックが介在することになる。甲10公報の印材における貼着体と日本紙との間に介在されたプラスチックが,本件発明4の「合成樹脂」に相当することを前提とすると,甲10公報の発明は,k)貼着体に貼着された平板状の日本紙を容器内に挿入する工程と,l)日本紙が挿入された容器内に満了になるまでプラスチック溶液を注入する工程と,m)容器内のプラスチック溶液を固化させる工程とを備える,n)印材の製造方法である。
本件発明4と甲10公報を対比すると,本件発明4が,構成要件Jのとおり,シート体を挿入する前に筒体内に合成樹脂を注入する第一次樹脂注入工程を備え,構成要件Kのとおり,挿入されるシート体が筒状であるのに対し,甲10公報の発明は,このような第一次樹脂注入工程を備えず,シート体が平板である点で相違し,その他の点で一致する。
相違点については,封入すべき物体を型に入れる前に合成樹脂を満了に満たない量注入し,物体を型に入れてから満了となるまで注入するという注入方法は,合成樹脂の注入に際して一般的に広く行われる慣用手段にすぎず,甲10公報記載の印鑑基材を製造する際に慣用される注入方法を採用することに格段の困難性を見いだすことはできず,この点については,本件特許の審査過程における拒絶理由通知書において,審査官が指摘したとおりである。なお,出願人らは,この指摘に対して,シート体は筒体の内周面にひっかかからないでスムーズに筒体内に介挿入することができると意見書で主張しており,ここでもシート体が内周面に密着するものであることを前提とする反論をしている。また,シート体が筒状か平板状であるかは,前記1(2)のとおり,相違点に進歩性がない。
したがって,本件発明4の構成要件Kの「所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体を前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入するシート体挿入工程」の解釈において,原告方法のように,棒状体に巻き付け接着したシート体を,筒体の内周面との間に合成樹脂が介在するように挿入する場合も含むと解釈すると,本件発明4は無効理由を有することになる。
(ウ)よって,本件発明4の構成要件Kは,シート体を筒体の内周面に密着するように挿入する工程に限定して解釈されるべきである。
ウ被告らの合成樹脂の固化の時期に関する主張について被告らは,原告方法は,棒状体に巻き付け接着されたシート体が筒体に挿入されるから,筒体の内周面と合成樹脂(接着剤)間にシート体が介挿入されるものであり,本件発明4と原告方法の差異は,製造方法設計上の微差であると主張する。
しかし,本件発明4の構成要件Kにおける「合成樹脂」が,筒体内に注入された合成樹脂であることは,特許請求の範囲から明らかであるから,原告方法において,本件発明4の「合成樹脂」に相当するものは,筒体内に注入された合成樹脂体であり,シート体を棒状体に巻き付け接着するのに用いられる接着剤ではない。
本件発明4の「合成樹脂」は,本件発明1の「芯材」と同様に,シート体を筒体内に固定する機能を有するものであるところ,原告方法において,シート体を筒体内に固定する機能を果たすのは,筒体内に注入され,筒体の内周面とシート体との間に介在される合成樹脂体であるから,機能面からみても,原告方法における合成樹脂体が本件発明4の「合成樹脂」に相当する。
原告方法において,シート体を棒状体に巻き付け接着するのは,合成樹脂の満了注入までシート体を筒体の中心部に起立保持するためであり,シート体の巻き付け接着に用いられる接着剤のみでは,シート体を筒体内に固定する機能を果たすことはできない。
エ作用効果被告らは,本件発明4と原告方法の作用効果の共通性を主張するが,かかる効果は公知の構成である甲10公報に記載のものと同じであり,本件発明4に特有のものではない。
原告方法は,棒状体にシート体を巻き付け接着して筒体の中心部に挿入し,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体を介在させることにより,前記のとおり,本件発明が奏しえないレンズ効果による装飾的効果という格別の効果を奏する。
したがって,被告らが主張するような製造工程上の微差に相当するものではなく,本件発明の迂回発明に該当するものでもない。
オ被告らが主張する構成を前提とした場合仮に,被告らが主張するとおり,原告方法において,被告らの主張する構成kを備え,シート体と棒状体との間に合成樹脂が介在していたとしても,その合成樹脂は微量であり,原告方法において,最終的に固化することによってシート体を筒体内に固定する機能を果たすのは,筒体の内周面とシート体との間に介在する大部分の合成樹脂体であるから,この大部分の合成樹脂体が本件発明4の合成樹脂に該当する。棒状体とシート体との間に合成樹脂が介在するとしても,上記の大部分の合成樹脂体と比較して極めて微量であり,これのみでシート体を筒体内に固定することができないのは明らかである。
したがって,本件明細書及び甲10公報の記載から,本件発明4の構成要件Kにおけるシート体挿入工程は,シート体が筒体の内周面に密着して挿入される場合に限定して解釈されるべきである。原告方法は,シート体が筒体の内周面に密着されるように介挿入されるものではないから,構成要件Kを充足せず,本件発明4の技術的範囲に属しない。
5告知・流布の差止請求権の存否(上記第4の5の争点)(1)原告の主張ア原告は,平成16年9月初旬ころ,有限会社トップエージェント(以下「トップエージェント」という。)との間で,原告商品の販売に関する東京統括代理店契約を締結する交渉を行っていたところ,トップエージェントは,同月28日,東京サンシャインアルパ内のワゴンショップにおいて,原告商品の先行販売を開始した。トップエージェントは,原告との間で東京統括代理店契約を締結することを決意し,同年11月1日,契約締結を予定していた。
イ被告P1は,被告会社の社員3名と共に,平成16年10月31日,上記の東京サンシャインアルパ内のトップエージェントが経営する店舗に突然押しかけ,原告商品が粗悪品であり,本件特許権(当時は出願中の権利)を侵害する旨を述べて,その販売を中止して被告会社の製造する印鑑を販売しないかと申し向けた。
ウ被告らは,平成16年11月,原告の取引先に対し,原告商品が本件特許権(当時は出願中の権利)を侵害している旨を記載した文書を配布した。
エ上記被告らの行為は,不正競争防止法2条1項14号の行為に該当する。
(2)被告P1の主張イについては,被告P1がサンシャインアルパ内の店舗を訪問したことは認め,その余は否認する。被告P1は,被告会社と代理店契約を締結していた取引先から,東京サンシャインアルパ内の店舗において,被告商品と類似した商品が販売されているとの情報を得て,取引先社員と同店舗を訪れ,販売員に対し,販売されていた商品がどこのものか,どれくらい売れているかなどを聞き,しばらくして現れた責任者らしい男性に対しても,自分が被告会社の会長であると名乗ったにすぎず,原告商品が粗悪品であり本件特許権を侵害する旨述べていない。
ウについては,否認する。被告らが文書を配布したのは,原告の取引先にではなく,被告会社の取引先及び仙台市内のはんこ屋1件に対してである。
6告知による損害賠償請求権の存否とその額(上記第4の6の争点)(1)原告の主張ア故意・過失被告P1及び被告会社社員は,原告商品が本件特許権の技術的範囲に属しないことを知りながら,もしくは容易に知り得たのに,トップエージェントのワゴンショップに押しかけ,原告商品が粗悪品であるとか,本件特許権を侵害しているなどと申し向け,原告とトップエージェントとの間の東京統括代理店契約の締結を妨害した。したがって,被告P1は,民法709条不法行為責任を負い,被告会社は,被告P1及び被告会社社員の行為につき,民法715条の使用者責任を負う。
イ損害の発生原告は,トップエージェントとの東京統括代理店契約を締結すると,次のとおり,トップエージェントから940万7150円の支払を受けることとなっていた。
@)地域保証金120万円A)加盟金600万円B)印鑑(12ミリメートル)82万5000円C)印鑑(16ミリメートル)39万3750円D)印鑑ケース/リップケース7万円E)ディスプレイ26万8400円F)和風小物10万円G)研修費20万円H)備品一式35万円合計940万7150円ウ損害額(ア)@)について締結するはずであった東京統括代理店契約の契約書(以下「原告代理店契約書」という。)11条により原則として返還されないので,全額が原告の損害となる。
(イ)A)について原告代理店契約書10条によりいかなる事情があっても返還されないので,全額が原告の損害となる。
(ウ)B)について単価1100円で750本販売することが予定されていたのであり,原告の製造原価は,1本あたり135円であるから,原告の損害は72万3750円である。
(エ)C)について単価1575円で250本販売することが予定されていたのであり,原告の製造原価は,1本あたり190円であるから,原告の損害は34万6250円である。
(オ)D)について単価700円で100本販売することが予定されていたのであり,仕入値は1本あたり450円であるから,原告の損害は2万5000円である。
(カ)E)について26万8400円で販売することが予定されていたのであり,仕入値は18万2200円であるから,原告の損害は8万6200円である。
(キ)F)について10万円で販売することが予定されていたのであり,仕入値は6万円であるから,原告の損害は4万円である。
(ク)G)について全額が原告の損害となる。
(ケ)H)について35万円で販売することが予定されていたのであり,原価は2万円であるから,原告の損害は33万円である。
(コ)まとめ以上の@)ないしH)の損害を合計すると,895万1200円となる。
(2)被告らの主張否認ないし争う。被告P1は,原告商品が本件特許権の技術的範囲に属しないことを知らず,容易に知り得ない。
7本件特許権侵害による損害賠償請求権の存否とその額(上記第4の7の争点)(1)被告会社の主張被告P1及び訴外P2は,被告会社との間で,平成14年1月ころ,被告会社に対して本件特許権の独占的通常実施権を許諾する旨の合意をした。被告会社は,上記独占的通常実施権に基づき,本件特許権の実施品である被告商品を製造販売している。原告は,前記のとおり,原告商品の製造販売により,本件特許権を侵害している。
原告は,平成16年7月1日から平成17年12月7日までの間,原告商品を少なくとも1000本販売した。被告会社は,被告商品の販売により,1本あたり少なくとも2470円の利益を得ている。したがって,被告会社の損害は,特許法102条1項類推により,少なくとも247万円である。
原告は,原告商品の販売により,1本あたり少なくとも2500円の利益を得ている。したがって,被告会社の損害は,特許法102条2項類推により,少なくとも250万円である。
(2)原告の主張争う。
第6当裁判所の判断1原告商品の構成(前記第4の1の争点)について(1)前記第3の前提となる事実,証拠(各事実の末尾に記載した。),検証(平成17年11月25日,平成18年2月28日,同年5月29日各実施)の結果及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア被告らの実験(E実験)の結果被告らは,原告商品を通常の販売ルートにより購入し,工具を使用して,1)刻印面を切断し,2)長手方向に半分に切断して半円柱状にし,3)刻印面から所定の長さの部分について,筒体を取り除き,4)筒体を取り除いた部分について,棒状体から外側の部分(棒状体-筒体間介在要素)を棒状体から分離する実験を行った。(E実験)分離された棒状体-筒体間介在要素は,その一部が棒状体に張り付いたまま残置してしまうということはなく,全体をきれいに棒状体から分離することが可能であった。棒状体-筒体間介在要素の内周面は,肉眼で見る限りは,目立った立体状の凹凸はなく滑らかで,外部の照明光による写り込みが認められたが,近距離で細かく観察すると,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様や細かい傷が若干観察できた。
なお,上記3)の工程で,筒体と筒体から内側の部分とを分離して取り除いたが,きれいに分離して取り除くことはできず,筒体から分離された筒体より内側の部分の表面は,合成樹脂が余分にはぎ取られてしまったり,逆に筒体の一部が残ってしまうなど,激しく凹凸のある面となっており,筒体から内側の部分には大きなヒビが入っていたり,途中で欠けていたりして,相当程度の物理的力を作用させる必要があったことが推認された。(平成17年11月25日実施の検証の結果,乙A3,乙A7ないし乙A9。枝番は省略。
以下,特に言及のない限り同じ。)イ被告らの実験(F実験)の結果被告らは,原告商品を通常の販売ルートにより購入し,うち2本について,工具を使用して,1)刻印面を切断し,2)刻印面切断部分から所定の長さを残して長手方向に半分に切断した半円柱状の部分を切り取り,3)同部分から棒状体の外周面より外側にある部分(棒状体外要素)を棒状体から分離する実験を行った。(F実験)分離された棒状体外要素は,その一部が棒状体に張り付いたまま残置してしまうということはなく,その全体をきれいに棒状体から分離することが可能であった。棒状体外要素の内周面は,肉眼で見る限りは,目立った立体状の凹凸はなく滑らかで,外部の照明光による写り込みが認められたが,近距離で細かく観察すると,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様や細かい傷がごく僅かであるが観察でき,表面に空気が入っていたと思われるような斑点状の模様,表面からは少し奥側(シート体と棒状体との間)に現在も空気が入っていると思われるような小さな気泡のようなものが若干観察できた。なお,実験を行った2本のうちの1本(検乙4)については,棒状体外要素の筒体と合成樹脂との間で割れ目が入り,筒体の一部分が剥落していた。
他方,上記3)の半円柱状部分を切り取られた残りの部分について,筒体の外面側から観察すると,実験を行った2本のうちの1本(検乙3)については,用いられているシート体の紙の色が比較的薄く,合成樹脂が浸透することによってほぼ透明になっているところ,筒体とシート体との間の合成樹脂部分に比較的大きな気泡が見られ,筒状にしたシート体を重ね合わせた部分(のりしろ部分)は,帯状に黄色っぽくなっているが(紙が重なった色であると思われる。)そののりしろ部分に沿って,特に細かい気泡が多数残存しており,肉眼で見る限りは,その細かい気泡の部分がのりしろ部分に沿って帯状に白っぽくシミのようになってみえるのが観察された。(平成18年2月28日実施の検証の結果,乙A7ないし乙A13)ウ被告らの実験(G実験)の結果被告らは,1)シート体(和紙)の裏面全体に接着剤(フエキスピード強力超速乾〔紙用〕)を塗布した後,2)1枚のアクリル板の上に貼着し(以下「下の板」という。),3)その上にエポキシ樹脂を垂らしてまんべんなく広げ,4)その上に別のアクリル板を置き(以下「上の板」という。),5)アクリル板間からはみ出した余分なエポキシ樹脂を除いた後,6)乾燥させたものを,7)アクリル板間で割る実験を行った。(G実験)シート体は,その大部分が上の板に張り付いていたが,うち一部は分離して下の板にも張り付いており,残りの部分は分離しないで上の板のみに張り付いていた。また,分離しないで下の板のみに張り付いている部分もわずかながらあり,主として縁付近部分にそのような部分があった。
シート体が上下の板に分離して張り付いている部分は,シート体の裏部分において白い繊維状のものが露呈して,一部が上の板に,残りの部分が下の板にまだら状に張り付いていた。
シート体が上下の板に分離しないで,どちらか一方の板にのみ張り付いている部分は,上の板のみに張り付いているものについては,一部は白い繊維状のものが現れている部分もあったが,その大部分は白い繊維状のものは現れず,シート体のピンク色(一部については赤色と白色)を半透明のまま残していた。同部分については,上の板に張り付いているものも,下の板に張り付いているものも,シート体が張り付いているのと反対側の板からはきれいに分離されていた。
シート体が上の板のみに張り付いていて,白い繊維状のものが現れていない部分の裏面は,肉眼で見る限りは,目立った立体状の凹凸はなく滑らかで,外部の照明光による写り込みが認められ,ツヤツヤと光っていたが,近距離で細かく観察すると,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様や空気が入っていたと思われるような跡が若干観察できた。(平成18年2月28日実施の検証の結果,乙A11,14)エ被告らの実験(B実験)の結果被告らは,1)シート体の裏面全面に接着剤を塗布して棒状体に巻き付け接着したモデル品を製作し,2)3日後にモデル品のシート体を棒状体から分離した。(B実験)シート体の裏面は,接着層が残置し,微細な凹凸面となっていた。(乙A15)オ被告らの実験(C実験,D実験)の結果被告らは,1)合成樹脂体(中粘度のエポキシ系樹脂)と接着剤(フエキスピード強力超速乾〔紙用〕)を透明な板の別々の箇所にそれぞれ垂らし,2)ヘラで薄く平らにのばし,3)3日間置いて乾燥させ,4)指で擦りながら湯を1,2分かけ続けた。(C実験)また,被告らは,1)通常の販売ルートで購入した原告商品を工具を用いて分解し,2)分離した棒状体外要素の内面を指で擦りながら湯を1,2分かけ続けた。(D実験)C実験では,合成樹脂体は,湯をかける前後で変化はなかったが,接着剤は,湯をかけて擦り洗いした後,溶解し洗い流されて消失した。D実験では,棒状体外要素の内面は,肉眼で観察する限りでは,湯をかける前後で変化はなかった。(乙A17ないし19)カ原告の実験(H実験)の結果原告は,1)原告商品を破断して,筒体,合成樹脂体及びシート体の積層構造になった2つの半円筒状の積層部分を棒状体から分離し,3)その切断面をマイクロスコープにより観察した(以下「H1」という。)。次に,原告は,4)上記の積層部分を水中に一晩浸漬させてから,5)再び切断面をマイクロスコープにより観察した(以下「H2」という。)。さらに,原告は,6)別の原告商品を破断して,筒体,合成樹脂体及びシート体の積層構造になった2つの半円筒状の積層部分を棒状体から分離し,7)分離した積層部分のシート体の内面を擦り洗いした後,8)その切断面をマイクロスコープにより観察した(以下「H3」という。)。(H実験)H1では,シート体と樹脂部分が確認でき,シート体の表面にうっすらと透明な層が断片的に観察された。
H2では,同じくシート体と樹脂部分が確認できるが,シート体の表面は,断片的な透明な層は消失し,凹凸な面になっているのみならず,シート体の繊維の一部が起立していることが確認できた。なお,H2については,肉眼で観察しても,棒状体から分離された半円筒状の積層部分の内周面は,まだら状の模様が現れて相当程度白っぽく濁ったような色になり,シート体の模様がはっきり確認できないほど透明度は失われていた。
H3では,同じくシート体と樹脂部分が確認できるが,シート体の表面の透明な断片的な層はなく,シート体自体もH1,H2と比べて薄くなっていたが,シート体の表面は微細な凹凸が観察された。なお,H3については,肉眼で観察すると,棒状体から分離された半円筒状の積層部分の内周面は,白っぽいまだら状の模様が現れていたが,依然としてシート体の模様は確認でき,H2の同じ部分を肉眼で見た場合ほど白く濁ってはいなかった。(甲A14ないし16)キ進行協議期日における実験(A実験)の結果平成18年4月11日,同月14日,同月25日の進行協議期日において,1)原告の従業員がA方法により作成した6本のモデル品(検甲1ないし6)のうち,原告は3本(検甲1ないし3),被告らは2本(検甲4,5)について,2)それぞれ工具を使用して,長手方向に半分に切断して半円柱状の部分を切り取り,3)棒状体の外周面より外側にある部分を工具を使用して棒状体から分離する実験を行った。(A実験)5本のうち,1本(検甲3)については,糸ノコギリの刃が残ったままで上記2)の切断・切り取り作業が失敗したため,上記3)の分離作業を行うことはできなかったが,それ以外の4本(検甲1,2,4,5)についてはいずれも,分離された棒状体の外周面より外側にある部分は,その一部が棒状体に張り付いたまま残置してしまうということはなく,全体をきれいに棒状体から分離することが可能であった。同部分の内周面は,肉眼で見る限りは,目立った立体状の凹凸はなく滑らかで,外部の照明光による写り込みが認められたが,近距離で細かく観察すると,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様が観察でき,若干白っぽくなっているように見えるものもあり,その程度はモデル品によって異なっていた。なお,分離する際に,一部のモデル品については,筒体と合成樹脂との間で割れ目が入ったり,更に進んで筒体の一部分が剥落しているものもあった。(平成18年5月29日実施の検証の結果)(2)接着剤塗布工程の有無についてアE実験,F実験,B実験の結果とA実験の結果との比較被告らのE実験,F実験の結果と,A実験の結果を比較すると,破断して棒状体から分離された合成樹脂体,シート体などで構成される半円筒状の棒状体より外側の部分の内周面(棒状体に接していた部分)は,いずれも肉眼で見る限りは,目立った立体状の凹凸はなく滑らかで,外部の照明光による写り込みが認められたが,近距離で細かく観察すると,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様が観察できたという点で同じであり,分離された棒状体より外側にある部分は,その一部が棒状体に張り付いたまま残置してしまうということはなく,全体をきれいに棒状体から分離することが可能であったという点でも一致している。以上のとおり,破断して棒状体より外側にある部分の内周面を観察した結果については,A実験のA方法を経たモデル品を破断した結果と原告商品の市販品を破断したE実験,F実験の結果とで大きな相違はないといえる。
なお,近距離で観察した場合,A実験のモデル品では,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様が観察でき,若干白っぽくなっているように見えるものもあり,その程度はモデル品によって異なっていたのに対し,E実験,F実験では,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様はごく僅かしか観察できず,ましてや白っぽい色のものはなく,A実験のモデル品よりもつるつるとした滑らかな面となっているが,これは,塗布する接着剤の量の違いや,保管状況,棒状体より外側の部分の内周面と他のものとの接触の有無,製作からの経過時間の相違などによるものと思われる。
そして,分離された棒状体より外側にある部分の内周面の表面に観察された,まだらの何かが付着しているような斑点状の模様は,A実験においては,モデル品が接着剤塗布工程を経るA方法により製作されたことからすると,接着剤である可能性が高いと考えられる。
被告らは,B実験の結果,シート体の裏面全面に接着剤を塗布して棒状体を巻き付け接着したモデル品について,シート体を棒状体から分離したところ,シート体の裏面に積層されている接着剤の層の表面は,シート体の裏面である粗面に追従して微細な凹凸面となっていたが,E実験,F実験では,原告商品の市販品を分解した棒状体外要素の内面は真っ直ぐな写り込みが生じるほと非常に滑らかな面であったから,原告商品の市販品は接着剤を使用していないと主張する。確かに,前記認定のとおり,B実験の結果,シート体の裏面全面に接着剤を塗布して棒状体を巻き付け接着したモデル品について,シート体を棒状体から分離すると,シート体の裏面は接着層が残置し,微細な凹凸面となっていたことが認められる。しかし,この点は,次のような現象が起こっている可能性もある。すなわち,@接着剤(フエキスピード強力超速乾〔紙用〕)は水溶性であるから,これをシート体(和紙)に塗布すると,シート体も水分を含み,伸びた状態(和紙の裏面もふやけて粗さが少なくなった状態)になる。Aこれが乾燥すると,シート体は収縮して元の粗面に戻ろうとするが,棒状体と接着されているために収縮できないでいる。Bその状態で,棒状体から分離されると,収縮可能となるため,もとの粗面となり,接着剤は,それまでは棒状体に支えられていたのが,支えを失ったために,シート体の粗面に追従した凹凸となってしまう。B 他方,シート体が棒状体に接着された状態のまま合成樹′脂が注入されると,シート体は合成樹脂によって収縮していない状態のまま固定されてしまうから,その状態で棒状体から分離しても,収縮不可能であり,元の粗面に戻れないために,接着剤もシート体に追従して凹凸となることがない。そのため,接着剤を使用したA実験においても,棒状体より外側の部分の内周面は,なめらかな面となっている。
上記の可能性を考慮すれば,B実験から直ちに,原告商品の市販品において接着剤を使用していなかったと結論づけることはできない。
イE実験,F実験,A実験の結果とG実験の結果との比較G実験では,接着剤を使用してシート体をアクリル板に接着後,合成樹脂を垂らし,別のアクリル板で挟んで乾燥させた後,アクリル板を割っているが,その結果,シート体が上の板のみに張り付いている部分について,その裏面は,肉眼で見る限り,目立った立体状の凹凸はなく滑らかで,外部の照明光による写り込みが認められ,ツヤツヤと光っていたが,近距離で細かく観察すると,表面にまだらに何かが付着しているような斑点状の模様や空気が入っていたと思われるような跡が若干観察できた。この結果は,A実験,E実験,F実験において,棒状体より外側の部分を分離して,その内周面を観察した結果とほぼ同じであるといえる。
そして,上記のツヤツヤと光っている部分,まだらに何かが付着しているような斑点状の模様は,G実験が接着剤を用いてシート体をアクリル板に貼着したものであることからすれば,接着剤である可能性が高いと考えられる。
なお,G実験では,A実験,E実験,F実験とは異なり,シート体の全体が下の板に張り付いて上の板からきれいに分離できたわけではなく,シート体の大部分は上の板に張り付き,一部については上下の板に分離して張り付いて白い繊維状のものが現れていた。しかし,証拠(乙A14の1・2)によれば,G実験における接着剤の塗布には相当な塗りムラがあることが認められる。そして,A実験では,接着剤塗布後乾燥のために3日間おいてから合成樹脂を注入したのに対し,G実験では,このような乾燥過程があったと認めるに足りる証拠がない。このことからすると,G実験では,接着剤の塗布の状態に相当なムラがあり,厚く塗布されている部分と薄く塗布されている部分があったところ,接着剤塗布後の乾燥が不十分な状態で,すなわち接着剤が乾燥している部分と乾燥していない部分がある状態で,合成樹脂が充填された後に乾燥機により乾燥されたことに起因して,接着剤が乾燥している部分と乾燥していない部分が生じていたため,分離の状態にムラが生じたものと説明することができる。したがって,G実験の結果が,A実験,E実験,F実験の結果と矛盾する結果であるとはいえない。
ウC実験,D実験の結果とH実験の結果についての考察C実験の結果,合成樹脂体は水溶性ではないが,接着剤(フエキスピード強力超速乾〔紙用〕)は水溶性であることが確認された。
原告商品の棒状体から外側の部分を一晩水に浸けた場合の変化については,H実験により,マイクロスコープを使用して観察すると,シート体の表面にうっすらと断片的に観察されていた透明な層が消失して,シート体の繊維の一部が起立するに至ったことが観察されたのであり,その変化を肉眼で観察すると,棒状体から分離された半円筒状の積層部分の内周面は,まだら状の模様が現れて相当程度白っぽく濁ったような色になっていた。
上記のとおり,接着剤は水溶性であることからすれば,シート体の表面の断片的な透明な層は接着剤であり,一晩水中に置くことにより接着剤は溶解して消失したものと推認され,接着剤が消失したことと長時間水中に置いたことにより,シート体の繊維がほぐされて広がり起立するに至ったものであると考えられる。
原告商品の棒状体から外側の部分の内周面を水ないし湯で擦り洗いした場合の変化については,D実験により,指で擦りながら湯を1,2分かけ続けても,肉眼で観察する限りでは,変化はないことが確認されたが,H実験により,マイクロスコープで観察すると,擦り洗いする前よりシート体部分が薄くなり,シート体の表面にあった透明な断片的な層が消失したことが確認された。
もっとも,D実験とH実験で用いた原告商品の保管状況,製造からの経過時間などは明らかではないことに加え,棒状体を分離した部分の内周面を擦った力の強さ,擦り洗いの時間,かけた水又は湯のかける勢いの強さ・温度・量によって,異なる結果が生じることは容易に想定できることであって,上記の各条件や加えた物理的作用の内容・程度が不明である以上,単純にD実験とH実験を比較することはできない。
D実験とH実験とを整合的に説明しようとすると,@D実験のサンプルにおいて擦り洗いした箇所では,棒状体とシート体が接着剤で接着された後,後述するように,接着剤の乾燥に伴って接着剤層の表面と棒状体の表面との間に微細な隙間が無数に形成されたため,合成樹脂は棒状体とシート体との間に回り込み,棒状体と接着剤層との間に合成樹脂体のごく薄い層が形成されたが,H実験のサンプルにおいて水に浸した部分では,上記の微細な隙間が少なかったので,合成樹脂体の薄い層はほとんど形成されなかった,AD実験のサンプルは,接着剤塗布から長時間経過し,接着剤が十分に硬化していたため,指で擦りながら湯を1,2分かけ続けた程度では,肉眼で確認できるほど接着剤は溶けなかったが,H実験のサンプルは,硬化がさほどでもなかったところへ水に浸ける時間がD実験の数百倍であったために,接着剤が水に溶け出してきたなどの可能性を考えることができる。したがって,D実験の結果から,直ちに接着剤塗布工程がなかったとすることはできない。
エ検討(ア)以上の各実験についての比較・考察の結果に加え,他に原告商品の製造にあたって接着剤塗布工程がなかったとか,シート体と棒状体との間に接着剤は一切存在しなかったことを裏付ける証拠はないことからすれば,市販品の原告商品は,A実験同様,A方法により製作されたものであり,市販品を含めた原告商品の製作は,接着剤塗布工程を経ており,市販品を含めた原告商品の棒状体とシート体との間には,接着剤からなる層が存在しているものと考えるのが合理的である。
(イ)F実験の結果,2本のうちの1本(検乙3)については,A実験のモデル品(検甲1〜6),E実験の市販品(検乙1),F実験のもう1本の市販品(検乙4)とは異なり,筒体とシート体との間,シート体と棒状体との間に小さな気泡が数個観察されており,筒状にしたシート体を重ね合わせたのりしろ部分に沿って非常に細かい気泡が帯状に観察されている。
証拠(乙A7ないし10)によれば,E実験の市販品(検乙1)とF実験のもう1本の市販品(検乙4)は,被告会社の従業員が平成17年12月にインターネットを通じて購入したものであり,F実験の1本(検乙3)は,被告会社の従業員が同年12月末ころ,デパートの店頭販売で購入したものであることが認められる。したがって,F実験の1本(検乙3)は,他のものと製造された時期が異なる可能性もあるところ,上記のとおり,気泡の状態が異なるので,他の市販品ないしモデル品とは異なる工程により製作されている可能性もないとはいえない。しかしながら,同じ工程で製作していたとしても,接着剤塗布工程は手作業で実施され,その方法は,ペン型の接着剤のチューブを指で押して,接着剤をチューブの口からシート体の裏面に排出させ,それを接着剤のチューブの口でのばして広げるという方法であり,原告商品は,平成15年当時,ローテーションを組んで作業をする3人の原告のパート社員により製造されていた(甲A10,乙A16,弁論の全趣旨)。したがって,作業をする者によって,接着剤の塗布量,ムラの有無などに差異が生じ,完成した個々の原告商品についても細かな相違が生じることも十分あり得ることであって,上記の細かな相違(気泡の量など)をもって,接着剤塗布工程がなかったとまでいうことはできない。付言すると,F実験の1本(検乙3)の筒状のシート体ののりしろ部分の非常に細かい気泡が帯状に現れている部分については,筒状のシート体ののりしろ部分は,シート体が重なり,シート体の裏面に塗布された接着剤も重なっているため,他の部分より接着剤の量が多くなり,上記のような状態になって現れたものである可能性もあるのである。
(ウ)なお,筒体とシート体との間は合成樹脂(エポキシ樹脂からなる合成樹脂体 )であることは争いがないところ,E実験の結果,筒体と筒体か2ら内側の部分とを分離した場合,きれいに分離することができず,筒体から分離された筒体より内側の部分の表面は,合成樹脂が余分に除かれてしまったり,筒体の一部が残ってしまうなど,激しく凹凸のある面となっていた。これは,筒体(アクリル系の合成樹脂)と液状の合成樹脂(エポキシ樹脂)とは,一体となって分離しにくい状態になることを意味する。他方,これとは対照的に,A実験,E実験,F実験の結果,棒状体と棒状体から外側の部分(ただし,E実験の場合は,筒体から内側の分離された部分)とを分離した場合,きれいに分離することができ,分離した棒状体から外側の部分の内周面はつるつるであった。筒体も棒状体も透明な素材であり,仮に,棒状体もアクリル系の合成樹脂であるとすると,エポキシ樹脂とは一体となって分離しにくい状態になり,筒体とエポキシ樹脂の関係と同様,きれいに分離できないこととなるであろうから,このようにきれいに分離するのは,棒状体と接触しているものの大部分はエポキシ樹脂ではないことを示唆するものとなる。もっとも,本件においては,被告らはG実験で2枚のアクリル板を筒体と棒状体に見立てて実験し考察してはいるものの,棒状体がアクリル系の合成樹脂であるという的確な証拠はないから,上記は可能性の問題にすぎず,その旨を直ちに認定することができるものではない。
オ被告らの主張について被告らは,接着剤塗布工程を原告が主張するに至る経緯が不自然であると主張する。
しかし,原告が接着剤塗布工程を経ていることを初めて主張したのは,被告らが主張する第3準備書面においてではなく,原告は,第2準備書面において「巻き付け接着されており」と主張しており,本件が特許権に基づく差止請求不存在確認訴訟であり,被告らの第1準備書面において,原告商品が本件特許権を侵害していることについての具体的に主張があった後の最初の準備書面(原告の第2準備書面)で上記のとおりの主張があったことからすれば,原告の接着剤塗布工程の主張が不自然に遅延しているということはできない。
また,被告らは,接着剤を手作業でシート体全面に塗布することは経済的合理性がないと主張する。
しかし,原告商品は,透明な筒体を介してシート体の絵柄が見えることによって装飾されている印鑑基材であり,シート体の棒状体への接着状態がずれたり,棒状体とシート体の間に空気が入って,シート体がしわになったり,入った空気が気泡となって外から見えるようになったりすると,不良品となることは明らかである。このことからすれば,接着剤をシート体全面に塗布すれば,上記の不良品発生率を低くすることができると認められるから,手作業による接着剤全面塗布を経済的に不合理であるとはいえない。
(3)棒状体とシート体との間の合成樹脂(合成樹脂体 )の有無について2ア前記のとおり,原告商品の製作工程においては,接着剤塗布工程が実施され,原告商品がA方法により製作されていることが認められる。したがって,棒状体とシート体との間には接着剤が存在する。そして,シート体に合成樹脂が浸透して,シート体と合成樹脂が一体化されていることについては争いがない(構成d)。そこで,シート体の内部あるいはシート体と棒状体との間において,接着剤と合成樹脂がどのような関係で存在している(又は存在していない)のかが問題となる。
イこの点,被告らは,接着剤は,溶媒として用いられている水分が蒸発して乾燥すると,その蒸発した水分に相当するだけの体積凝縮が接着層に生じ,接着層の表面は,棒状体の表面が滑らかであることとは無関係にシート体の裏面に追従して微細な凹凸面となり,凹凸面となって固化するにあたり,棒状体の表面から離間し,接着層の表面と棒状体の表面との間には,微細な隙間が無数形成される,合成樹脂体は,前記の無数の微細な隙間により棒状体とシート体との間に回り込み,合成樹脂体が固化することにより,棒状体とシート体との間に合成樹脂体の層が形成されると主張する。
しかし,接着剤の乾燥に伴って水分が蒸発して,接着剤の体積凝縮が生ずるとしても,その体積凝縮の態様として,接着層が,棒状体の表面が滑らかであることとは無関係にシート体の裏面に追従して微細な凹凸面となるという態様であることについては根拠がない。接着層は,片面は滑らかな面を有する棒状体に,他方の面は微細な凹凸を有するシート体に接着しているのであるから,体積凝縮を生じた場合であっても,特段の事情がない限り,棒状体に接している面は滑らかなまま,シート体に接している面は微細な凹凸のまま凝縮するはずである。被告らの主張を前提として,接着層が棒状体と接する面においても凹凸面となり,固化するにあたり棒状体の表面から離間するとすれば,その段階においてシート体を棒状体に接着する効果がなくなってしまい,シート体は棒状体から離れてしまうはずであるが,A実験の過程においても,シート体を棒状体に巻き付け接着したものを3日間置いて乾燥させた段階で,シート体が部分的にも棒状体から離れていたり,接着の効果が失われていたと認めるに足りる証拠はない(むしろ,巻き付け不良として除かれた2本以外のものは,シート体が棒状体から離れずにきちんと接着されていたからこそ,巻き付け不良とされなかったものと推認される。)。したがって,被告らが主張するように,接着層が乾燥により棒状体の表面が滑らかであることとは無関係にシート体の裏面に追従して微細な凹凸面となり,接着層と棒状体との間が離間して隙間が生じると考えることはできない。
なお,被告らは,原告が使用する合成樹脂体が,いったん乾燥した接着剤を溶解させる成分を含有している可能性もあると主張するが,根拠がないばかりではなく,前記のとおり,A実験,E実験,F実験,G実験,H実験の結果,合成樹脂を注入した後であっても,分離された棒状体より外側の部分の内周面(G実験の場合は分離したシート体の裏面側)には,接着層と思われるまだら状の模様(H実験の場合は透明のうっすらとした断片的な層)が観察されたことと矛盾するので,採用できない。
ウ次に,原告の主張について検討する。
原告は,棒状体とシート体との間には,実質的に隙間が存在しないので,筒体の内周面とシート体との間に注入された合成樹脂は,シート体に浸み込むことはできても,シート体を通過してシート体と棒状体との間に流れ込むことはあり得ない,シート体の内面側は,接着剤が浸透してシート体と接着剤が一体化された状態であり,シート体の外面側から浸透した合成樹脂は,シート体の内部において既に硬化した接着剤と衝突し,それ以上浸透しないでとどまっていると主張する。
そして,B実験において接着層の表面が微細な凹凸面となるにもかかわらず,A実験では接着層が滑らかな面となっているのは,棒状体に巻き付け接着されたシート体の外周面は,その周囲に存在する合成樹脂体によって,径方向内方に押圧されることにより,棒状体とシート体との間に形成されていた微細な隙間が押しつぶされ,接着層表面が棒状体の外周面になじんで滑らかな面になったと主張する。
しかしながら,H実験の結果,棒状体の外側にある部分の断面(H1)は,シート体の表面に接着剤と思われるうっすらとした透明な層が観察されているが,上記の透明な層は,びっしりとシート体の表面を覆っているのではなく,断片的になっていた。また,A実験,E実験,F実験,G実験において,棒状体の外側を分離した部分の内周面の表面には,まだらに何かが付着しているような斑点状の模様や空気が入っていたと思われるような斑点状の模様が若干観察できたが,これらの模様の状況は,実験に用いたモデル品ないし原告商品により程度の違いがあった。さらに,前述のとおり,接着剤塗布工程は手作業で実施され,その方法は,ペン型の接着剤のチューブを指で押して,接着剤をチューブの口からシート体の裏面に排出させ,それを接着剤のチューブの口でのばして広げるという方法であり,原告商品は,平成15年当時,ローテーションを組んで作業をする3人の原告のパート社員により製造されていた。以上からすれば,シート体の表面に塗布された接着剤は,肉眼で見る限りはまんべんなく塗布されていたとしても,肉眼では見えないレベルにおいては,小さな塗り損じがあったり,同じシート体においても,部分的に塗布量にムラがあったり,個々の原告商品によって,シート体に塗布する接着剤の量が異なったりしていることは十分に考えられることである。
したがって,すべての原告商品において,原告が主張するように,筒状のシート体の内周面の表面と内周面側から一定の深さまでは接着剤が浸透して接着剤とシート体が一体化した層となり,筒状のシート体の外周面の表面と外周面側から接着剤が浸透している深さまでは合成樹脂体が浸透してシート体と一体化しており,シート体の内部で,接着層と合成樹脂体の層がきれいに二分されていると考えることには躊躇を覚える。
エ接着剤は液状で,シート体(和紙)には目の粗い細孔があるから,シート体の裏面に接着剤が塗布されると,接着剤がシート体の一定の深さまで染み込むことは原告の主張のとおりと認められる。また,A実験において,シート体を棒状体に巻き付け接着した段階で,シート体の絵柄は半透明にはなっていなかったことから(弁論の全趣旨),接着剤がシート体の裏面から反対側まで完全に浸透しているわけではないことも原告の主張のとおりと考えられる(接着剤がシート体の表側まで完全に浸透すると,巻き付け作業の際に,表側からシート体を棒状体に押しつけて接着を確実にしようとする作業者の指に接着剤が付き,指とシート体が接着されて作業に支障が生じてしまうが,そのような現象がなかったからこそ,A実験が行えたものと認められる。)。
シート体を接着剤により巻き付け接着した棒状体を,接着剤を乾燥させるため3日間置いた段階で,接着剤の水分が蒸発し,接着剤は硬化して体積凝縮を生じることは被告らの主張のとおりと考えられる。そして,前述のとおり,接着剤は,塗布量において,細かくムラがあるであろうから,塗布量の多寡によって,乾燥後にどうなるかを個別に検討する。
オまず,塗布量が多い部分については,体積凝縮をしても隙間が生じることはなく,棒状体とシート体との間には,接着剤が存在するのみでそれ以上の空間は生じないはずである。
塗布量が少なく,接着層が薄い部分については,接着剤が体積凝縮をしても,接着層はそれぞれ棒状体とシート体に接面したまま縮小し,シート体は棒状体側に引き寄せられる形で棒状体とシート体との距離が縮まる。このとき,接着剤の塗布量の多い部分と少ない部分とでは,棒状体とシート体との距離が異なるが,シート体が接着剤に引っ張られることにより少し伸張すると考えられる。
もっとも,接着剤の塗布量が極めて少ない場合は,その部分は接着力が相当程度弱いと考えられるので,シート体と棒状体とを接着させた状態を維持することができず,接着剤はシート体,棒状体のいずれか又は両方に残ったまま,シート体は棒状体から離間してしまう部分も,微細な部分的に生じることもあり得ると思われ,このような場合には,シート体と棒状体との間に微細な隙間が生じることになる。
また,接着剤の塗布量が少ない部分の面積が極めて微細である場合は,同部分の面積が微細であることから,接着剤が体積凝縮しても,接着層はシート体を棒状体に引き寄せることができず,棒状体側若しくはシート体側のいずれか(もっともシート体は粗面であり,棒状体は滑らかな面であって,シート体の方がより接着しやすいことからすれば,隙間は棒状体側に生じると考えられる。)に接着層との間の微細な隙間が生じることもありうると思われる。
さらに,F実験の結果,2本のうちの1本(検乙3)については,筒状のシート体の重なったのりしろ部分に,非常に細かい気泡がのりしろに沿って帯状に観察されたことに加え,前記のとおり,接着剤の塗布方法は,ペン型のチューブを指で押してチューブの口から接着剤を排出して手作業で塗布するものであることからすれば,接着剤に空気が含まれて非常に細かい気泡となっていることもしばしばあると考えられ(液状の接着剤に小さな気泡が観察されることは日常経験することがある。),そのような接着剤が塗布された結果,棒状体とシート体との間に小さな隙間(空間)が生じる可能性もある。
接着剤は,手作業により塗布されることから,肉眼で見る限りはまんべんなく塗布されていたとしても,肉眼では見えないレベルすなわちシート体全体の棒状体への接着にはほとんど影響のない範囲において,小さな塗り損じが生じうることも前記のとおりであり,このような場合においても,棒状体とシート体との間には接着層が存在しない極めて微細な隙間が生じることになる。
カ棒状体とシート体との間の接着層が上記のような状態にあるところ,シート体の外側と筒体の内側との間に液状の合成樹脂を注入すると,合成樹脂は,シート体の外側からシート体に浸透し,大部分については,原告が主張するように,接着剤が存在するため,シート体の内部の一定の深さまで浸透した段階で,それ以上内側に浸透することができないが,シート体と棒状体との間に微細な隙間がある部分については,接着剤の塗り損じなどにより微細に点在するシート体の内部の接着剤がない部分から,合成樹脂がシート体を通過して,シート体と棒状体との間の接着剤によって埋められていない部分である微細な隙間に回り込んで流入し,最終的にこれらが固化するものと考えられる。
合成樹脂がシート体と棒状体との間に入り込んだ量,合成樹脂が棒状体にまで到達している部分の棒状体の表面積については,前述のとおり,接着剤の塗布量の多寡とムラの程度,保管状況,経過時間の相違などにより,必ずしも一定ではないと考えられる。また,A方法において被告らが立ち会っていないが裁判所の面前で行われた別工程(X工程)により,微細な隙間の大きさや合成樹脂の流入の程度が,影響を受けて変化が生じる可能性も否定できないが,これがあるとすれば,その変化も個々の原告商品により差異があるものと考えられる。
もっとも,棒状体とシート体の間に合成樹脂が流入している部分の厚みは,前記のとおり,棒状体とシート体は,その接面している部分は,微細な隙間ができている部分を除いた大部分において接着剤により埋められており,かつその接着剤は,チューブの口から排出させて,のばして塗布したものが,乾燥により体積凝縮したものであるから,シート体は棒状体側に引き寄せられている結果,棒状体とシート体の距離は極めて小さくなっており,その隙間に流入する合成樹脂の厚みも極めて薄いものと考えられる。
なお,前記のとおり,F実験のうちの1本(検乙3)は,筒体とシート体との間だけではなく,シート体と棒状体との間にも同様の小さな気泡が若干個観察されており,この気泡の形状,大きさは,筒状にしたシート体を重ね合わせたのりしろ部分に沿って帯状に観察される接着剤によると思われる非常に細かい気泡とは異なるものであることから,接着剤の塗りムラにより,棒状体とシート体との間に空気が入っており,液状合成樹脂を入れた際にその空気が封じ込められてできたものである可能性が高いと思われる。しかし,このことは,その気泡のある何か所かの小さな場所において,接着剤が棒状体とシート体を接着しきっていなかった部分が存在したことを示すだけのものにすぎない。したがって,このことから,棒状体の周囲全体について,棒状体とシート体との間に広範な空間ができ,そこに合成樹脂が多量に流入したとかということはできないから,F実験の結果は,接着剤による接着後は,棒状体とシート体との間には微細な隙間が部分的に発生しうるにすぎないとの前記認定に反するものではない。
また,前述のとおり,D実験のサンプルにおいて擦り洗いした箇所について,棒状体とシート体が接着剤により接着された後,接着剤の乾燥に伴って,接着剤の層の表面と棒状体の表面との間に微細な隙間が無数に形成され,上記の隙間に合成樹脂が回り込んだ可能性があり,その隙間が形成される数,程度,状態の違いから,H実験のサンプルとの実験結果の相違が生じた可能性がある。すなわちD実験のサンプルにおいては,シート体への接着剤の塗布量が極めて少なかったり,微細な塗り残しがあったりしたため,棒状体・シート体の間あるいは棒状体・接着剤とシート体が一体となった層の間に,微細な隙間が形成され,シート体内の接着剤が浸透していない隙間から流入してきた合成樹脂が回り込んで,上記の隙間に入り込んだ結果,棒状体とシート体(及び接着剤の層)との間に極めて薄い合成樹脂の層が形成された可能性があり,他方,H実験のサンプルにおいては,そのような隙間が形成されず,合成樹脂の層も形成されなかった可能性がある。このような差異が生じるのは,個々の原告商品によって,接着剤の塗布量の多寡,ムラの程度,製造からの経過時間などが異なることによることも前記のとおりである。したがって,D実験とH実験の結果が一見異なるように見えるとしても,そのいずれも,接着剤を使用した工程により製造した場合のシート体と棒状体との間における接着剤及び合成樹脂の状態について,前記の認定と矛盾するものではない。
(4)原告商品の構成について上記に認定したところからすれば,原告商品の構成は次のとおりであると認められる。
アイ号物件a有底状の透明な筒体と,b該筒体内に注入された透明な合成樹脂体と,c1該筒体内に挿入された透明な棒状体と,c2該棒状体に巻き付け接着され前記合成樹脂体の内部に封入された所定の絵柄を有する和紙からなるシート体とを備え,c3前記合成樹脂体は,筒体の内周面とシート体との間に注入されて両者の間に介在されているが,ごく僅かの量のものはシート体と棒状体との間に流入しているものもあり,d1該シート体には前記合成樹脂がシート体の外周面側から浸透してシート体と合成樹脂体が一体化されd2前記接着剤がシート体の内周面側から浸透してシート体と一体化されている,e印鑑基材であり,f前記筒体は,アクリル系の合成樹脂によって形成されており,h前記筒体内に注入された透明な合成樹脂体は,エポキシ樹脂である。
イロ号物件a有底状の透明な筒体と,b該筒体内に注入された透明な合成樹脂体と,c1該筒体内に挿入された透明な棒状体と,c2該棒状体に巻き付け接着され前記合成樹脂体の内部に封入された所定の絵柄を有する和紙からなるシート体とを備え,c3前記合成樹脂体は,筒体の内周面とシート体との間に注入されて両者の間に介在されており,ごく僅かの量のものはシート体と棒状体との間に流入しているものもあり,d1該シート体には前記合成樹脂がシート体の外周面側から浸透してシート体と合成樹脂体が一体化されd2前記接着剤がシート体の内周面側から浸透してシート体と一体化されている,e印鑑基材であり,f前記筒体は,アクリル系の合成樹脂によって形成されており,h前記筒体内に注入された透明な合成樹脂体は,エポキシ樹脂であり,p前記筒体の内部における棒状体の上方の空間部に収容され合成樹脂体により封入された多数の粒状体を更に備える。
2原告方法の構成(前記第4の2の争点)について(1)原告方法の構成原告商品の構成は上記1で認定したとおりであり,その製造方法はA方法を経ていることが認められるので,原告方法は次のとおりの構成である。
アハ号方法の構成j有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する工程と,k1所定の絵柄を有する和紙からなるシート体を棒状体に巻き付け接着する工程と,k2該シート体を巻き付けた棒状体を,前記筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体が介在されるように,前記筒体の中心部に挿入する工程と,lシート体が巻き付け接着された棒状体が挿入された筒体内におけるシート体と筒体の内周面との間に,満了になるまで液状の合成樹脂を注入することにより,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂を介在させる工程と,m前記筒体内の合成樹脂を固化させて合成樹脂体の内部にシート体を封入する工程とを備える,n印鑑基材の製造方法
イニ号方法の構成j有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する工程と,k1所定の絵柄を有する和紙からなるシート体を棒状体に巻き付け接着する工程と,k2該シート体を巻き付けた棒状体を,前記筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体が介在されるように,筒体の中心部に挿入する工程と,lシート体が巻き付け接着された棒状体が挿入された筒体内におけるシート体と筒体の内周面との間に,満了になるまで液状の合成樹脂を注入することにより,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂を介在させる工程と,m前記筒体内の合成樹脂を固化させて合成樹脂体の内部にシート体を封入する工程とを備える,n印鑑基材の製造方法であって,q筒体の内部における棒状体の上方の空間部に多数の粒状体を収容し,これら粒状体の隙間に合成樹脂を注入して固化する工程を更に備える。
(2)被告らの主張について被告らは,原告は,棒状体及びシート体を筒体に挿入する前に,あらかじめ合成樹脂を筒体に若干注入しておく方法を採用し,あらかじめ合成樹脂を筒体に若干注入しない方法は採用していないところ,筒体内にあらかじめ合成樹脂を注入しておく工程があると,棒状体が筒体に挿入されると,自然に棒状体の外周面とシート体との間,筒体の内周面とシート体との間にそれぞれ浸入し,シート体は筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入されると主張する。
しかし,あらかじめ注入されている合成樹脂は「若干量」であることに加え,前記1で認定したとおり,シート体は棒状体に接着剤により巻き付け接着されており,合成樹脂は,シート体に浸み込んでも,シート体と棒状体の間にまで流入するものは,ごく僅かの量であるから,シート体は筒体の内周面と合成樹脂間に「介挿入」されるとはいえない。
3原告商品の本件発明1,2,3の技術的範囲の属否(前記第4の3の争点)について(1)「芯材」の意義国語的には,「芯」は,「心」とも書き,辞書的には「物のまん中。1)物の中央の(固い)部分。2)かなめ。根本。本性。3)形を保ち整えるために衿・帯などに入れる布。4)華道で,中心となる役枝の称。」を意味するものと一般的に解される。本件発明1,2,3は印鑑基材の発明であるから,構成要件B,Cの「芯」は,2),3),4)ではなく,1)の意味と解される。
また,「材」は,辞書的には「1)建築などに用いる木。また,原料となるもの。2)用いて役に立つべきもの。3)役に立つ能力。また,それを有する人。」を意味するものと解されている。
したがって,「芯材」は,「物のまん中の原料となるべきもの」ないし「物の中央の(固い)部分の原料となるべきもの」を国語的には意味するものと解される。
(2)「芯材」を合成樹脂体と考えた場合ア被告らは,被告らの主張する原告商品の構成b1の「該筒体内に注入された透明な合成樹脂体」が「芯材」に該当し,原告商品は,被告らの主張する原告商品の構成cのとおり「棒状体の外周面と筒体の内周面との間に介挿入された所定の絵柄を有する和紙からなる筒状のシート体」という構成を有し,棒状体とシート体との間には「芯材」に相当する合成樹脂体が存在すると主張する。
しかしながら,前記1(3)で認定したとおり,棒状体とシート体との間に存在するのは,基本的には接着剤であり,接着剤がシート体の内周面側(棒状体のある側)からシート体に浸透しているため,シート体と筒体との間に注入された合成樹脂は,シート体の外周面側から浸透しても,接着剤が浸透している部分まで到達した段階で,接着剤の存在に邪魔されてそれ以上浸透することはできない。ただ,接着剤の塗布量の多寡,ムラの状況,含有している空気(気泡)の有無・程度などによって,棒状体とシート体との間に微細な隙間が生じており,シート体の内部にも接着剤が浸透していない微細な点状の隙間部分が残っているため,シート体の外周面側から浸透した合成樹脂が,これらの微細な隙間を充填するように回り込んで固化しているので,棒状体とシート体との間の合成樹脂は,その限度において存在しているにすぎない。
以上のとおり,棒状体とシート体との間に存在する合成樹脂は,ごく僅かな量のものが接着剤の存在していない微細な隙間部分を充填するような状態で点在しているにすぎず,これをもって,「物のまん中」にあるものとか,「物の中央にある(固い)部分」の原料ということはできないから,「芯材」に該当するとはいえない。
なお,1)シート体の内部にも,シート体の外周面から浸透した合成樹脂,が存在し,2)シート体と筒体との間にも合成樹脂が存在する。しかし,これらの合成樹脂を「芯材」と解すると,これと筒体の内周面との間にシート体が介挿入されていることが必要であるところ(構成要件C),上記1),2)の合成樹脂は,シート体の内部又はシート体と筒体との間に存在するものであって,これらの合成樹脂と筒体との間にシート体は存在しないから,シート体が,これらの合成樹脂と筒体との間に「介挿入」されているものということはできず,構成要件Cを充足しなくなってしまう。したがって,これらの合成樹脂を「芯材」とすることはできない。
イD実験のサンプルについては,前示のとおり,棒状体とシート体が接着剤で接着された後,D実験のサンプルにおいて擦り洗いをした部分は,接着剤の乾燥に伴って接着層の表面と棒状体の表面との間に微細な隙間が無数に形成され,合成樹脂は棒状体と接着剤の間に回り込み,棒状体と接着剤層との間に合成樹脂体のごく薄い層が形成されている可能性(前示のとおり,それは一つの可能性であって他の可能性もあるから,立証できているわけではない。)があるから,原告商品の中には,合成樹脂が棒状体と接着剤の間に回り込み,棒状体と接着剤層との間に合成樹脂体のごく薄い層が相当部分にわたってできているものがある可能性がある。
しかし,上記アにおいて説示した「芯材」の意味からすれば,このようなごく薄い層も,やはり「芯材」ということはできない。
また,本件発明1の芯材たる合成樹脂は,「芯材と前記筒体との内周面との間に介挿入されたシート体」(構成要件C)というのであるから,シート体より内側(筒体と逆の側)にあることになるところ,「前記合成樹脂が浸透してシート体と合成樹脂が一体化され」(構成要件D)ているのであるから,芯材たる合成樹脂がシート体へ浸透している方向は,シート体の内側からであることになる。ところが,原告商品において棒状体と接着剤層との間に合成樹脂体のごく薄い層が形成されていたとしても,その配列とシート体への浸透の状態は,棒状体を基点として内側から順に,@棒状体,A内側の合成樹脂,B接着剤層(シート体の内側から浸透してシート体と一体化),C外側の合成樹脂(シート体の外側から浸透してシート体と一体化),D筒体という順序になり,Aの内側の合成樹脂は,シート体の内側からシート体へ浸透しているのではない(前記のとおり,接着剤の塗り残しがあり,棒状体とシート体との間に接着剤層が存在しない部分がまったくないわけではないが,肉眼では見えない程度の極めて微細な点在する隙間部分に限定されるものである。)。したがって,これを本件発明1の「芯材」とすることはできない。
(3)「芯材」を棒状体及び接着剤と考えた場合(被告らの予備的主張)ア被告らは,棒状体及び接着剤は,両部材あいまって実質的に「芯材」に該当すると主張する。
構成要件Cにおいては「該芯材」と記載されており,構成要件Cでいう「芯材」は,それ以前の構成要件Bの「芯材」と同じものを指していることが明らかである。そして,構成要件Bでは,「該筒体内に注入された透明な合成樹脂からなる芯材」とされており,「芯材」は「注入された」合成樹脂である。また,後続する構成要件Dでは,「該シート体には前記合成樹脂が浸透してシート体と合成樹脂が一体化され」と記載されていることから,芯材を構成する合成樹脂は,シート体に浸透してシート体と一体化するものであることが必要である。以上からすれば,「芯材」を構成する合成樹脂は,液状の合成樹脂で,シート体に浸透した後に固化してシート体と一体化することが可能なものをいうと解せられる。
ウ本件明細書には次の記載がある。
【0025】「シート体として和紙を採用した理由は以下のとおりである。すなわち,流動状態の合成樹脂を絵柄付きシート体30の装填された筒体20内に注入したときに,この合成樹脂が目の粗い和紙の細孔内に侵入し,当該和紙が絵柄の部分を除いて地の部分が半透明になるとともに,和紙独特の繊維絵柄が顕出して印鑑基材10の外観視が極めて風合いに富んだものになるからである。
【0026】「なお,本発明は,シート本体が和紙であることに限定される…」【0050】【発明の効果】「請求項1記載の発明によれば,印鑑基材を,透明な筒体と,筒体の内周面に積層された所定の絵柄を有する絵柄付きシート体と,この絵柄付きシート体の内側に注入された所定の合成樹脂とから構成しているため,従来の印鑑基材の外周面に手書きされた絵柄のようにこすれて落剥するような不都合の生じることはなく,印鑑にいつまでも華麗な状態を維持させることができるとともに,絵柄付きシート体の絵柄として各種のものを容易に採用することができるばかりか,単なる模様に留まらず,写真や書画をも採用することが可能であり,印鑑をオリジナリティに富んだものにすることができる。」エ上記の本件明細書の記載からすれば,本件発明1は,シート体を和紙とし,シート体の内側に注入された合成樹脂を浸透させてシート体と合成樹脂を一体化させることにより,シート体を半透明にして和紙独特の繊維絵柄を顕出させ,シート体を筒体の内周面に積層させることにより,従来の印鑑基材の外周面に手書きされた絵柄のようにこすれて落剥することなく,印鑑をいつまでも華麗な状態に維持させることができる作用効果を有するものである。
したがって,構成要件Dの「前記合成樹脂」は,シート体に浸透してシート体と一体化することにより,シート体を半透明にすることができるものであることが必要である。
そして,前述のとおり,構成要件Bにおいて「透明な合成樹脂からなる芯材」と記載され,構成要件Dにおいて「前記合成樹脂」と記載されていることから,構成要件Bの「芯材」となる「合成樹脂」は,構成要件Dの「前記合成樹脂」と同一のものである。したがって,「芯材」となる「合成樹脂」は,上記のとおり,シート体に浸透してシート体と一体化することにより,シート体を半透明にすることができるものであることを要する。
しかしながら,前認定のとおり,A実験において,シート体の裏面に接着剤を塗布して巻き付け接着し,これを筒体内に置いた段階では,シート体は半透明化しておらず,このことからすれば,原告商品においては,接着剤はシート体を半透明化していないものというべきである。また,棒状体それ自体が,シート体を半透明化する効果を有しないことは明らかである。そうだとすれば,棒状体と接着剤を併せたものは,シート体に浸透してシート体と一体化することにより,シート体を半透明にしているものではないから,構成要件Dの「前記合成樹脂」に該当するものではないし,ゆえに構成要件Bの「芯材」となる「合成樹脂」であるということもできない。
オ被告らは,本件発明1は,物の発明であり,その文言の一部に方法的要素が記載されていたとしても,それは物としての発明を特定する意味を有するにすぎず,物の構成要件的理解としては,その部分を捨象して,あくまで物の構成自体をもって当該発明の構成要件であると解釈すべきである,したがって,本件発明1の構成要件Bの「注入された」は,単に注入され終わった結果,発明対象である印鑑基材としては固化している状態の合成樹脂を説明したにすぎず,製法によって物の特定をしたいわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレーム手法による特定であるから,物の構成要件自体の解釈に格別の影響を及ぼすものではないと主張する。
しかしながら,仮に,被告らが主張するように,「注入され終わった合成樹脂」との解釈をとったとしても,原告商品においては,前記のとおり,棒状体と接着剤は,シート体に浸透してシート体と一体化し,その結果,シート体を半透明化しているものではないので,棒状体と接着剤を合成樹脂からなる「芯材」と解することはできない。
(4)甲10公報記載の発明との関係原告商品において,合成樹脂又は棒状体及び接着剤を「芯材」と解すると,次のとおり,本件発明1は,甲10公報記載の発明と甲12公報記載の発明から容易に発明することができ,無効理由を有することとなってしまう。そのような解釈をすべきではないから,この点からも,原告商品の合成樹脂又は棒状体及び接着剤を「芯材」と解することはできない。
ア甲10公報記載の発明証拠(甲A10)によれば,本件特許出願前に頒布された刊行物である甲10公報には,図形を日本紙 に描出して,既製の透明プラスチック製貼着2板 に貼着し,上面開口で筒状の透明容器 に縦設して,該透明容器 内に 1 3 3注入されたプラスチック溶液を固結して,全体が透明性状に形成せられた結果,日本紙 はあたかも貼着してないような外観を呈し,図形が透明な円柱2内に浮かんだごとく見える印材が記載されている。 4そして,甲10公報記載の発明において,透明容器 内に,プラスチック 3溶液を注入すると,日本紙 は目が粗く細孔があるから,該プラスチック溶 2液が目の粗い日本紙 の細孔内に外側から浸透して,日本紙 とプラスチッ 2 2ク溶液が一体化されてしまうことは自明であり,だからこそ,日本紙 があ 2たかも貼着してないような外観を呈するものと解される。また,透明プラスチック製貼着板 に日本紙 を貼着するに当たって,液状の合成樹脂製接着12剤を使用することが周知慣用手段であることは当裁判所に顕著であるが,そのようにした場合,接着剤の塗布の仕方によっては,乾燥後に,透明プラスチック製貼着板 と日本紙 との間に微細な隙間が部分的には生じ得,プラ12スチック溶液がそこに流入することがあることは,A方法における棒状体とシート体の接着の場合と同様と認められる。
したがって,甲10公報記載の発明は,次のとおり分説することができる。
a上面開口で筒状の透明容器 と,3b該透明容器 内に注入された透明なプラスチック溶液と, 3c1該透明容器 内に挿入された透明なプラスチック製貼着板 と, 3 1c2該プラスチック製貼着板 に貼着されプラスチック溶液の内部に封入 1された図形を有する日本紙 とからなり, 2c3プラスチック溶液は,前記透明容器 内の内周面と日本紙 との間に 3 2注入されて両者の間に介在されているが,ごく僅かの量のものは日本紙とプラスチック製貼着板 との間に流入しているものもあり,2 12 2 1d1日本紙 にはプラスチック溶液が日本紙 のプラスチック製貼着板に貼着している側とは反対側から浸透して日本紙 とプラスチック溶液2が一体化されd2日本紙 のプラスチック製貼着板 に貼着している側から接着剤が浸2 1透して日本紙 と一体化されている, 2e印材。
イイ号物件との対比甲10公報記載の発明とイ号物件に係る前記1(4)アのうちf,hを除く構成を対比すると,「上面開口で筒状の透明容器 」は「有底状の透明な筒3体」に,「プラスチック溶液」は「合成樹脂」に,「貼着」は「接着」に,「図形」は「所定の絵柄」に,「日本紙 」は「和紙からなるシート体」に,2それぞれ相当する。
したがって,甲10公報記載の発明と,イ号物件に係る前記1(4)アの構成(fとhを除いたもの)を対比すると,両者は,次の点で相違し,他の点では一致する。
《相違点》イ号物件では,筒体内に挿入されたのが棒状体であり,所定の絵柄を有するシート体は,巻き付け接着されるのに対し,甲10公報記載の発明では,筒体内に挿入されるのがプラスチック製貼着板であり,シート体は,巻き付け接着されるのではなく貼着されるにとどまる点。
ウ甲12公報記載の発明証拠(甲A12)によれば,本件特許出願前に頒布された刊行物である甲12公報には,印鑑用基材において,全体略円柱状の基材の外周面に装飾を設け,その結果,装飾が全体略円柱状の基材の周りを取り囲んですべての方向から鑑賞できる発明(甲A12の第1図)が記載されていることが認められる。ここで,「印鑑用基材」とは「印鑑基材」と,「全体略円柱状の基材」は「棒状体」と,「装飾」は「図柄」とそれぞれいうことができる。
エ組合せの容易性甲10公報記載の発明も,甲12公報記載の発明も,印鑑基材であって,絵柄を見せようとするものであるから,甲10公報記載の発明において,甲12公報記載の発明の棒状体の外周面に図柄を設けて,図柄がすべての方向から鑑賞できるようにするために,板状であるプラスチック製貼着板を棒状として,これに対応してシート体を巻き付けることとすることは,当業者が容易になし得たものと認められる。
オしたがって,イ号物件に係る前記1(4)アの構成(fとhを除いたもの)は,甲10公報及び甲12公報各記載の発明から,当業者が容易に発明することができたものである。ところが,シート体と棒状体の間に流入した僅かの合成樹脂を「芯材」と解した場合も,また,棒状体及び接着剤を「芯材」と解した場合も,前記1(4)アの構成(fとhを除いたもの)は,本件発明1の技術的範囲に属することになる。しかし,それでは,本件発明1は,甲10公報及び甲12公報各記載の発明から容易に発明することができたものとなってしまうから,そのような解釈をすべきではないのである。
(5)まとめ以上より,原告商品は,いずれも構成要件Cを充足しないので,本件発明1の技術的範囲には属しない。また,原告商品が本件発明1の技術的範囲に属しない以上,これを前提とする構成要件G,Iを充足せず,本件発明2,3の技術的範囲にも属しない。
4原告方法の本件発明4の技術的範囲の属否(前記第4の4の争点)について(1)原告方法の構成は,前記2のとおりであるところ,構成k2は,シート体を巻き付けた棒状体を,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体が介在されるように,筒体の中心部に挿入する工程であり,シート体は,筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体が介在されるように筒体に挿入されるのであって,筒体の内周面と合成樹脂との間に介挿入するものではないから,構成要件Kの「シート体を前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入する」を充足せず,本件発明4の技術的範囲に属しない。
(2)被告らは,原告方法は,棒状体に巻き付け接着されたシート体が筒体に挿入されるので,筒体の内周面と合成樹脂たる接着剤との間に「介挿入」されたものということができると主張する。
しかし,本件発明4は,構成要件Jの「有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入する第一次工程」において注入された液状の合成樹脂が筒体内に既に存在していることを前提として,構成要件Kの「シート体を前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入するシート体挿入工程」を行い,これにより「シート体が筒体内に介挿入された」ことを前提として,筒体内に満了になるまで液状の合成樹脂を注入する構成要件Lの工程が行われ,更にその後に,構成要件Mの「前記筒体内の合成樹脂を固化する固化工程」を備えるものである。したがって,構成要件Kの「合成樹脂」は,構成要件Jの「合成樹脂」と同一のものを意味し,更に構成要件Lの「合成樹脂」と併せたものが構成要件Mの「合成樹脂」を意味することがその文言上,明らかである。
ところが,構成要件Kの「合成樹脂」を接着剤であると考えた場合,接着剤は,筒体内に入れられる前に乾燥固化させられているから,「有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入」(下線は当裁判所による。)するものではなく,また,二次樹脂注入工程により注入された合成樹脂と共に,筒体内において固化工程を経て固化されるものでもないので,構成要件J,Mを充足しないこととなってしまう。したがって,原告方法における接着剤を構成要件Kの「合成樹脂」に該当するという解釈をとることはできない。
この点,被告らは,上記の主張に関し,構成要件Mに係る合成樹脂の固化の時期については,本件発明4では,合成樹脂が先に筒体内に注入され,シート体が介挿入された後に合成樹脂が固化する方法が採用されているのに対し,原告方法では,あらかじめ固化されている棒状体の外周面にあらかじめ固化された合成樹脂たる接着剤によりシート体が接着している部材を筒体内に挿入し,その後,合成樹脂を更に注入して,結果としてシート体を筒体と合成樹脂たる接着剤との間に介挿入した状態とした上で固化する方法を採用しているのであって,両者の差異は製造方法設計上の微差であり,原告方法は当業者であれば,本件発明4を知れば容易に想到できる範囲のことであると主張する。
しかし,前記のとおり,合成樹脂を筒体内に注入する工程と固化工程の順番は,構成要件J,K,L,Mにより文言上明確に規定されているものであり,上記の被告らの解釈は,構成要件J,Mに文言上明らかに反するものであるから,採用できない。
5告知・流布の差止請求権の存否(前記第4の5の争点)について(1)証拠(甲A5ないし8,11,乙A2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア原告は,平成16年9月初旬ころ,トップエージェントとの間で,原告商品の販売に関する東京統括代理店契約を締結する交渉を行っていたところ,トップエージェントは,同月28日,東京サンシャインアルパ内のワゴンショップにおいて,原告商品の先行販売を開始した。
イ被告P1は,被告会社の取締役会長であって,被告会社の対外的な取引等を担当しているが,上記ワゴンショップで原告商品が販売されているとの情報を得て,同被告の関係者3名と共に,平成16年10月31日,上記ワゴンショップを訪れ,原告商品が本件特許権(当時は出願中の権利)を侵害しているから販売を中止するようにと申し入れ,原告商品のような粗悪品を売るのだったら,被告会社の商品を売りませんかとも述べた。その際,被告P1は,自分が被告会社の会長である旨名乗っている。
ウトップエージェントは,原告との間で東京統括代理店契約を締結することを決意し,平成16年11月1日,契約締結を予定していたが,上記イの事実に鑑み,原告と被告会社との間のトラブルに巻き込まれたくないと考えて,原告との上記代理店契約を白紙撤回することとし,その旨を原告に伝えた,エ被告らは,平成16年11月,原告ないし被告会社の取引先に対し,原告商品が本件特許権(当時は出願中の権利)の技術的範囲に属する旨を記載した文書を配布した。
(2)この点に関し,乙A第2号証には,被告P1の上記(1)イの言動を否定する記載がある。しかし,被告らは,平成16年8月24日付けで,代理人を通じて,原告の印鑑の製造及び販売行為が当時出願中の本件特許の技術的範囲に属する旨の警告書を原告に送付しており(甲A3),また,同年11月にも,原告ないし被告会社の取引先に対し,原告商品が本件特許権(当時は出願中の権利)の技術的範囲に属する旨を記載した文書を配布している。このように,被告P1は,同年10月31日の前後に,原告商品が本件特許の技術的範囲に属すると認識して,その旨外部に表明していたのである。そうである以上,原告商品を販売していることを知ってわざわざ前記ワゴンショップに出向き,その相手方(トップエージェント)と原告商品について話をしているのに,被告P1が,この時だけは,上記認識を表明しなかったというのは不自然であって,この点に関する乙A第2号証の記載は採用することができない。
(3)以上の事実及び前記第3の前提となる事実によれば,原告と被告会社は,いずれも印鑑の製造販売をする会社であって競争関係にあり,被告P1は,被告会社の取締役会長であって,被告会社に対して本件特許権の独占的通常実施権を許諾しているから,原告と被告P1も競争関係にあるということができる。
上記(1)イの被告P1が,原告と代理店契約を締結する予定であるトップエージェントに対し,原告商品が当時出願中であった本件特許権を侵害する旨告知すること及び上記(1)エの被告らが,原告ないし被告会社の取引先に対し,原告商品が当時出願中であった本件特許権の技術的範囲に属する旨流布することは,いずれも原告の営業上の信用を害する行為である。
そして,前記3及び4のとおり,原告商品及び原告方法は,いずれも本件特許を侵害していないので,被告らが告知・流布した事実は虚偽であり,このような虚偽事実が告知・流布されると,原告の営業上の信用が害されるおそれがあることは明らかである。また,被告らは,原告商品及び原告方法が本件特許権を侵害するとして争っており,今後も,原告商品及び原告方法が本件特許権を侵害することを告知・流布するおそれがある。
(4)よって,原告は,被告P1に対し,原告商品の製造・販売等が本件特許権を侵害する旨を告知・流布することについての差止請求権がある。
6告知による損害賠償請求権の存否とその額(前記第4の6の争点)について(1)前記5のとおり,被告P1が,トップエージェントに対し,原告商品の販売が本件特許権(当時は出願中の権利)を侵害する旨を告知することは,虚偽の事実の告知であって,原告の営業上の信用を害する事実の告知である。
被告P1が上記の告知をした平成16年10月31日当時は,本件特許は特許出願中であって登録されてなかったので,被告P1は,本件特許権に基づく原告商品の販売についての差止請求権を有していなかったのに,原告商品の販売中止を申し入れた過失がある。さらに,原告商品のように市場で入手できる商品に関し,原告の取引先に対して,原告商品が本件特許権を侵害する旨告知する際には,原告商品を入手して分析し,検討した上で行うべきである。そして,原告商品を分析すると,内部に棒状体が存在し,シート体と棒状体の間隔が非常に狭く,本件明細書の実施例とは相当異なり,構成要件Cを充足するか否かに問題があることが分かるから,これについての十分に検討し,これを踏まえて「虚偽」とならないような方法を採る義務があった。ところが,証拠(乙A7)によれば,被告P1が原告商品を入手して分析したのは平成17年5月ころであって,平成16年10月31日までには原告商品を入手すらしておらず,ゆえに,原告商品の分析も行っていなかった過失があることが認められ,この過失により,被告P1は,上記虚偽の事実の告知に至ったものと認められる。
したがって,上記の虚偽事実の告知行為により原告に生じた損害について,被告P1は,民法709条不法行為責任を負う。また,被告P1の上記告知行為は,被告会社の事業の執行について行われたことは,前記5(1)に認定した事実から明らかであるから,被告会社は,被告P1の行為につき,民法715条の使用者責任を負う。
(2)前記5(1)イのとおり,被告P1が,原告と代理店契約を締結する予定であったトップエージェントに対し,原告商品が当時出願中であった本件特許権を侵害する旨告知することにより,上記(1)ウのとおり,トップエージェントは,平成16年11月1日に締結する予定であった原告との代理店契約を白紙撤回することを決定し,その旨原告に伝えたのであるから,原告が,トップエージェントと代理店契約を締結できなかったことにより生じた損害は,上記の被告P1の虚偽事実の告知行為と因果関係がある損害である。
(3)証拠(甲A5,9,11)によれば,原告は,トップエージェントと代理店契約を締結できなかったことにより,次のとおり,合計775万1200円の損害を被ったことが認められる。
ア加盟金相当額600万円原告代理店契約書(甲A9)10条によれば,原告は,トップエージェントと東京統括代理店契約を締結することにより,トップエージェントから加盟金600万円を受領することができ,同金額については後にトップエージェントに対して返還する必要がないと認められるので,原告の損害は600万円である。
イ印鑑(12ミリメートル)の得べかりし販売利益72万3750円原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,印鑑(12ミリメートル)を1本1100円で750本販売することになっていたこと,印鑑(12ミリメートル)の製造単価は135円であることが認められるので,原告の損害は72万3750円である。
ウ印鑑(16ミリメートル)の得べかりし販売利益34万6250円原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,印鑑(16ミリメートル)を1本1575円で250本販売することになっていたこと,印鑑(16ミリメートル)の製造単価は190円であることが認められるので,原告の損害は34万6250円である。
エ印鑑ケースの得べかりし販売利益2万5000円原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,印鑑ケースを1個700円で100個販売することになっていたこと,印鑑ケースの仕入れ単価は450円であることが認められるので,原告の損害は2万5000円である。
オディスプレイの得べかりし販売利益8万6200円原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,ディスプレイ一式を26万8400円で販売することになっていたこと,ディスプレイ一式の仕入価格は18万2200円であることが認められるので,原告の損害は8万6200円である。
カ和風小物の得べかりし販売利益4万円原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,和風小物一式を10万円で販売することになっていたこと,和風小物式の仕入価格は6万円であることが認められるので,原告の損害は4万円である。
キ研修費の得べかりし利益20万円原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントから研修費20万円を受領し,原告の従業員がトップエージェントの従業員に対し,研修を実施することになっていたことが認められるので,原告の損害は20万円である。
ク備品一式の得べかりし販売利益33万円原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,備品一式(商品ポスター,広告用パネル,はさみ,やすり,チラシ,セロテープ,ボールペンなど)を35万円で販売することになっていたこと,備品一式の仕入価格は合計2万円以下であることが認められるので,原告の損害は33万円である。
ケ原告は,地域保証金120万円について,原則として返還されないので,その全額が原告の損害となると主張するので検討する。
証拠(甲A9)によれば,原告代理店契約書11条1項には,「乙は甲に対し,本契約締結と同時に,保証金として金120万円を支払い預託する。
但し取引保証金には利息を付さない。」,同条3項では,契約締結の日又は第3条1項において原告が代理店に対しなした許諾(「ジュエリーズハンコ」の名称,マークを使用し「ジュエリーズハンコ販売東京統括代理店」と称することの承諾)の通知があった日から「1年以内に,その販売地域…において全店舗を廃止する場合,甲は乙に第1項の保証金の内,その半額を返戻しなければならない。」とされ,2条2項では,「甲が必要と認めた場合,乙の指定地域を拡張又は縮小することが出来る。但し,縮小した場合は,縮小した地域の保証金を甲は乙に30日以内に半額返金を行う事とする。」とされているものの,他に保証金の返戻について触れた条項はないことが認められる。このことからみると,原告が受領した保証金120万円は,契約又は上記通知の日を基準として,トップエージェントが,1年以内に販売地域から全面撤退した場合は半額を無利息で返戻しなければならず,残額は返戻しなくてもよいものと認められる(11条3項の場合)ものの,1年以上継続して営業を継続した後に全面撤退した場合に,保証金は,返戻を全く要しないのか,全額を返戻しなければならないのかは,必ずしも明らかでない。
そして,仮に,前者(返戻不要)だとすれば,少なくとも保証金の半額は,いかなる場合にも返戻しないことになるが,不返戻を明記した文言のないままで,返戻しない半分も含めて,「保証金」として「預託する」という11条1項の文言をそのように解釈できるかは,いささか疑問があるところである。また,証拠(甲A11)には,地域保証金120万円は,原告代理店契約書11条に基づいて原則として返還されない旨の記載があるが,上記は,返還されないことが有利に働く原告代表者の陳述書であって,11条をどのように理解するかについての事情が不明である。
以上の次第で,地域保証金120万円については,上記契約書によっても原則として返還不要であったか否かが定かではないので,これが損害であるとする立証が不十分であるといわざるを得ない。
7本件特許権侵害による損害賠償請求権の存否とその額(前記第4の7の争点)について前記2,3のとおり,原告商品の製造販売は,本件特許権を侵害しないので,被告会社の原告に対する本件特許権侵害による損害賠償請求権はない。
8相殺額の判断被告会社は,原告に対し,前記第3の7(5)のとおり,112万1610円の売掛金債権を有し,これを前記第3の7(3)(4)の各債権合計226万9765円と対当額で相殺することができる。被告会社が相殺の意思表示をしたことは前記第3の7(6)のとおりであるから,被告会社は,原告に対し,前記第3の7(3)(4)の各債権の相殺後の残額114万8155円について支払義務がある。
9よって,本件の原告の請求は,主文第1項ないし4項の限度において理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 村上誠子