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関連審決 異議2003-72681
関連ワード 承継 /  発明者 /  製造方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  試行錯誤 /  技術常識 /  技術的特徴 /  特許出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  一般に流通 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10074号 特許取消決定取消請求事件
原告日清丸紅飼料株式会社
訴訟代理人弁理士辻邦夫,辻良子
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人渡部葉子,三原裕三,徳永英男,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/12/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
第1原告の求めた裁判「特許庁が異議2003-72681号事件について平成17年12月22日にした決定を取り消す 」との判決。。
第2事案の概要本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁から本件特許を取り消す旨の決定を受けたため,同決定の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲1)特許権者:原告(原告は,日清飼料株式会社から会社分割により特許権を承継した )。
発明の名称: 養魚用配合飼料」「特許出願日:平成6年6月28日設定登録日:平成15年2月28日特許番号:第3402763号(2)本件手続特許異議事件番号:異議2003-72681号訂正請求日:平成17年7月8日(甲2。以下「本件訂正」といい,甲2の訂正明細書を「本件訂正明細書」という )。
異議の決定日:平成17年12月22日決定の結論: 訂正を認める。特許第3402763号の請求項1ないし2に係 「る特許を取り消す 」。
決定謄本送達日:平成18年1月16日(原告に対し)2本件発明の特許請求の範囲の記載(本件訂正後のもの。請求項の番号に応じて「本件発明1」などという )。
【請求項1】多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料。
【請求項2】体表面にウロコを有する魚類に,請求項1の養魚用配合飼料を給与して,ウロコの剥がれを防止する方法。
3決定の理由の要点決定は,本件訂正を認めた上で,本件発明1,2は,いずれも引用発明(後記)等に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
(1)引用例及び周知例(以下,各引用例に記載された発明を引用例の番号に応じて「引用発明1」な ア引用例どという )。
引用例1(本訴甲4 :ERLAND AUSTRENG and TORGER GJEFSEN “FISH OILS WITH DIFFERENT )CONTENTS OF FREE FATTY ACIDS IN DIETS FOR RAINBOW TROUT FINGERLINGS AND SALMON PARR”Aquaculture,25(1981) 173 - 183引用例2(本訴甲5 :TESS INFORMASJON,FOR OG FORING 1985 - 86 )引用例3(本訴甲6 :FISKEFORKATALOG1984/85 )引用例4(本訴甲7 :TOR HJERTNES and JOHANNES OPSTVEDT“Effects of Dietary Protein )Levels on Growth in Juvenile Halibut ,189 - 193,The Proceedings of the Third ”, ,, International Symposium on Feeding and Nutrition in Fish August 28 - September 1 1989Toba,Japan引用例5(本訴甲8 :WERNER STEFFENS “PRINCIPLES OF FISH NUTRITION ,3.2 Fats 142, ) ”ELLIS HORWOOD LIMITED,1989引用例6(本訴甲9 : 添加油のハマチにおよぼす影響について」塚原宏子・古川厚・船江 )「克美著水産庁内海区水産研究所研究報告 24 号 29-5 頁昭 42-3-25引用例7(本訴甲10 :特開昭57-83255号公報 )参考資料(本訴甲11 :Norsildmel “Norsalmoil”Updated10.11.98 )イ周知例周知例1(本訴甲12 :松下七郎著「魚油とマイワシ」初版第1刷 1991 年 11 月 25 日 )株式会社恒星社厚生閣59 頁,62 頁周知例2(本訴甲13 :外山健三外2名編「水産油糧学」初版 1988 年 5 月 30 日株式 )会社恒星社厚生閣174 頁周知例3(本訴甲14 :日本油化学協会編「油脂化学便覧」第3版第2刷昭和 41 年 10 )月 30 日丸善株式会社16 - 21 頁周知例4(本訴甲15 :FRANK D. GUNSTONE 外2名編 「THE LIPID HANDBOOK」1986 ,134 頁 )(2)引用例に記載された発明ア引用発明1「カラフトシシャモの未精製油(crudeoil)を13.5%または15.0%添加し,米ヌカ油を添加しない,虹鱒と鮭の養魚の成育実験に用いる配合飼料 」。
イ引用発明2「 ノルサームオイル(NorSalmOil 』を15.0%または18.0%含み,米ヌカ油を添加 『 )しない,魚用ペレット 」。
ウ引用発明3「 ノルサームオイル(NorSalmOil 』を11.3%または12.0%含み,米ヌカ油を添加 『 )しない,魚用ペレット状飼料 」。
エ引用発明4「 ノルサームオイル(NorSalmOil 』を16.0%,17.5%,19.0%,それぞれ含 『 )み,米ヌカ油を添加しない,オヒョウの養魚の成育実験に使用した配合飼料 」。
オ引用発明5「油以外に固形脂肪も虹鱒のエネルギー源として考えられ,脂肪補給剤に動物の死体が多く含まれていても虹鱒にとって不利な結果はなく,天然のカラフトシシャモの油と比較して,カラフトシシャモからの固形の脂肪は成長を減らした 」。
動物の死体が多く含まれてい る 天然のカラフトシシャモの油 は実質的に未精製の カ (「 」 「 」「ラフトシシャモの油」を意味しており 「カラフトシシャモからの固形の脂肪」は実質的に加 ,工された「カラフトシシャモの油」を意味しているといえる )。
カ引用発明6「分子蒸溜など行なわない原油であるタラ肝油を5%,15%,30%,それぞれ含み,米ヌカ油を添加しない,添加油のハマチにおよぼす影響についての実験に使用した配合飼料 」。
キ引用発明7「缶詰工場,魚市場等より副生する魚腸骨より製造される,イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油および米ヌカ油よりなり,ウナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用されうる養魚用飼料添加油 」。
(3)対比・判断(3-1) 本件発明1について[理由1]「「 , 引用発明7は イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油および米ヌカ油よりなりウナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用されうる養魚用飼料添加油」であり,上記「残サイ魚油」は「そのまゝ」でも使用可能であるが 「常用のアルカリ脱酸,湯洗,および脱臭処理を行った方がよい」とされている。 ,そして,魚油を未精製の状態で養魚用飼料に添加することは,例えば上記引用例1ないし6に記載されているようによく知られていることを勘案すると,同引用発明7は 「イワシ主体,の製造原料より採油された残サイ魚油」を「タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油」として「そのまゝ」で使用することを実質上開示しているといえる。
そこで,本件発明1と引用発明7とを対比すると,両者は「養魚用配合飼料」である点で共通しており,さらに引用発明7における「イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油」は,本件発明1における「多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油」に実質的に対応するということができ,また引用発明7における「飼育時の添加油として使用されうる」は,本件発明1における「 魚油を)添加し」に,同様に「タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚」は「体表 (面にウロコを有する魚類」に,それぞれ対応している。
そうすると,両者は「多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を添加した,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料」である点で一致し,本件発明1は米ヌカ油を添加しないものであるのに対して,引用発明7は米ヌカ油を添加するものである点で相違している。
上記の相違点について検討すると,未精製魚油を添加した,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料において,米ヌカ油を添加しないことは引用発明1ないし4並びに引用発明6に例示されるようにむしろ普通のことであるから,引用発明7において米ヌカ油を添加しないこととすることは当業者が飼料設計上,適宜になし得る設計変更にすぎない。
, ,,「 , ところで 本件発明の効果について 本件の明細書には養殖魚の商品価値を高める上でウロコの剥がれや体表の傷などがなくて外見的に優れていること,疾病に感染しておらず生育状態が良好であることが求められている (段落【0002 【従来の技術 )という課題のも 」】】とに 「本発明の飼料を体表面にウロコを有する魚類に給餌すると,ウロコの剥がれが極めて ,少なくて,外見が良好な商品価値の高い養殖魚を生産することができる。
更に,魚類におけるウロコの剥がれが少ないので,魚の体表にウロコの剥がれによる傷が生じにくく,病原微生物がウロコが剥がれて傷になった箇所に寄生したり,その箇所から魚類の体内に侵入することが少なくなり,生育状態の良好な魚類を生産性よく得ることができる。
そして,本発明の飼料は,多穫性赤身魚類から採取された安価な未精製魚類を使用している, 。」 ために 配合飼料の生産コストおよび養殖魚の生産コストを従来よりも下げることができる(段落【0022 【発明の効果 )という作用効果を奏するものであると記載されている。 】】ここで,養殖技術の分野において,養殖魚の商品価値を高めるために魚体に傷などがなく外見的に優れていること,魚体の傷に起因する疾病に感染しておらず生育状態が良好であることは当業者にとって自明な課題であり,上記した,魚体に傷などがなく外見的に優れていることはウロコの剥がれがないことでもあり,養殖魚の商品価値を高める上でウロコの剥がれがないこともまた,当業者にとって自明な課題であることは明らかである。
そして 「タイ,ヒラメ,ハマチ等」の体表面にウロコを有する「海産魚」の「配合飼料飼 ,育時の添加油として使用されうる養魚用飼料添加油」である引用発明7において,米ヌカ油を添加しないといった,若干の設計変更を行って,これを「養魚用 ,すなわち養殖用に用いれ 」ば,比較的安価な「イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油」を用いることで生産コストが低く,またウロコの剥がれがない,商品価値の高い養殖魚を生産することができるであろうと,当業者であれば容易に予測するものであるから,本件発明1の上記効果も格別顕著なものとはいえない。
したがって,本件発明1は周知技術参酌し,引用発明7に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである 」。
[理由2]「(i) 引用発明1は「カラフトシシャモの粗製油(crude oil)を13.5%または15.0%添加し,米ヌカ油を添加しない,虹鱒と鮭の養魚の成育実験に用いる配合飼料」であり,引用発明1における「虹鱒」及び「鮭」は本件発明1における「体表面にウロコを有する魚類」に,また 「カラフトシシャモの粗製油」は「未精製魚油」に,それぞれ対応している。 ,そうすると,引用発明1は 「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロ ,コを有する魚類用の養魚用配合飼料」を実質的に開示しているといえる。
(ii)引用発明2は「 ノルサームオイル(NorSalmOil 』を15.0%または18.0%含 『 )み,米ヌカ油を添加しない,魚用ペレット」であり,引用例2の20頁及び21頁の右上の図が示す組成表から明らかなように,引用発明2に係る「魚用ペレット」は養魚用配合飼料であるといえる。
ところで上記参考資料によれば 「ノルサームオイル(NorSalmOil 」はカラフトシシャモと , ),「()」 ニシンから作られる未精製の魚油であり 引用発明2は該 ノルサームオイル NorSalmOilを含む魚用ペレットとして,実質上 「体表面にウロコを有する魚類」の飼料としても使用さ ,れるものである。なお,参考資料は「10.11.98」に更新されたものであり,参考資料自体は本件特許の出願前に頒布された刊行物であるとはいえないが,該参考資料に記載されている「ノルサームオイル(NorSalmOil 」は本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用 )例1や引用例4にも記載されているように本件特許の出願前既に公知であったことが明らかであって 「ノルサームオイル(NorSalmOil 」が未精製の魚油であることを参考資料により参酌 , )することを妨げられるものではない。
そうすると,引用発明2は 「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロ ,コを有する魚類用としても使用される養魚用配合飼料」を実質的に開示しているといえる。
(iii) 引用発明3は「 ノルサームオイル(NorSalmOil 』を11.3%または12.0%含 『 )み,米ヌカ油を添加しない,魚用ペレット状飼料」であり,引用例3の16頁及び17頁の組成表から明らかなように,引用発明3に係る「魚用ペレット状飼料」は養魚用配合飼料であるといえる。
そして上記(ii)に記載したように 「ノルサームオイル(NorSalmOil 」は未精製の魚油であ , )り,引用発明3は該「ノルサームオイル(NorSalmOil 」を含む「魚用ペレット状飼料」とし )て,実質上 「体表面にウロコを有する魚類」の飼料としても使用されるものである。 ,そうすると,引用発明3は 「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロ ,コを有する魚類用としても使用される養魚用配合飼料」を実質的に開示しているといえる。
(iv) 引用発明4は ノルサームオイル NorSalmOilを16 0% 17 5% 19 0 「()」.,.,.%,それぞれ含み,米ヌカ油を添加しない,オヒョウの養魚の成育実験に使用した配合飼料」,「()」 。, であり 上記したように ノルサームオイル NorSalmOilは未精製の魚油であるそして上記配合飼料は「オヒョウの養魚の成育実験に使用」したものであり 「オヒョウ」は「体表 ,面にウロコを有する魚類」に属するものである。
そうすると,引用発明4は 「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロ ,コを有する魚類用の養魚用配合飼料」を実質的に開示しているといえる。
(v) 引用発明6は「分子蒸溜など行わない原油であるタラ肝油を5%,15%,30%,それぞれ含み,米ヌカ油を添加しない,添加油のハマチにおよぼす影響についての実験に使用した配合飼料」であり 「分子蒸溜など行わない原油であるタラ肝油」は未精製魚油であるとと ,もに 「ハマチ」は「体表面にウロコを有する魚類」に属するものである。 ,そうすると,引用発明6は 「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロ ,コを有する魚類用の養魚用配合飼料」を実質的に開示しているといえる。
以上(i)ないし(v)をまとめると,引用発明1ないし4並びに引用発明6はいずれも 「未精,製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料」を実質的に開示しているということができる。
(,「」。) (, そこで本件発明1 以下前者 というと引用発明1ないし4並びに引用発明6 以下「後者」という )とを対比すると, 。
両者は,未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料である点で一致しており,添加する未精製魚油が,前者においては,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油であるのに対して 後者においては 多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油であるか明確でない 引 ,, (用発明1ないし4)か,あるいは多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油ではない(引用発明6)点で両者は相違すると認められる。
上記の相違点について検討すると,上記[理由1]に記載したように,引用発明7は「イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油および米ヌカ油よりなり,ウナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用されうる養魚用飼料添加油」であり,上記「残サイ魚油」は「イワシ主体の製造原料より採油された」ものであ, , 「」 るから 多穫性赤身魚類から採取されたものであり しかも同引用発明7は上記 残サイ魚油を「そのまゝ」で使用することを実質上開示しているから,引用発明7は上記の相違点に係る構成を開示している。
さらに,多穫性赤身魚類から魚油を採取することは,例えば上記の周知例1ないし4にも例示されるように工業的にも確立した周知技術としてきわめて普通に行われている。
これらの事項を総合すると,後者における養魚用配合飼料に添加する未精製魚油として,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を用いることは当業者であれば容易に想到することができたものである。
ところで上記[理由1]に記載したように,養殖技術の分野において養殖魚の商品価値を高める上でウロコの剥がれがないことは当業者にとって自明な課題である。そして,上記したとおり,未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料は引用発明1ないし4並びに引用発明6に開示されるように従来より様々な形で用いられており,一方,比較的安価な多穫性赤身魚類から魚油を採取することは従来周知であるとともに,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を養魚用配合飼料に添加することも引用発明7が開示するところであり,それぞれの技術的意義は当業者に熟知されているから,引用発明1ないし4並びに引用発明6が開示する未精製魚油として,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を用いれば,多穫性赤身魚類を用いることで生産コストが低く,またウロコの剥がれがない,商品価値の高い養殖魚を生産することができるであろうと,当業者であれば容易に予測するものであり,本件発明1の上記効果も格別顕著なものとはいえない。
したがって,本件発明1は,周知技術参酌し,引用発明1ないし4並びに引用発明6のいずれかの発明と,引用発明7に基いて当業者が容易になし得たものであるから,本件発明1の特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである 」。
(3-2) 本件発明2について[理由1]「「 , () 本件発明2は 体表面にウロコを有する魚類に 請求項1の養魚用配合飼料 本件発明1を給与して,ウロコの剥がれを防止する方法」であるところ,本件発明1については「 3-1)(本件発明1に対して において理由1 に記載したとおり 周知技術参酌し 引用発明7 」,[],,に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。しかもウロコの剥がれを防止するという課題は養殖技術の分野において自明な課題であり,本件発明1の効果についても,引用発明7から当業者であれば容易に予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。
そうすると,当業者であれば,体表面にウロコを有する魚類に本件発明1に係る養魚用配合飼料を給与して,ウロコの剥がれを防止することは容易に想到することができたものである。
,【】 《》 さらに具体的な給与方法について本件明細書を参照すると 段落 0018 に 実施例1として 「市販のギンザケ用飼料」に対して 「その給与直前に該ギンザケ用飼料の重量に基づ , ,いて・・・未精製のイワシ油を10重量%の割合で添加」するものであり 「市販のギンザケ,用飼料」に対して添加する「10重量%」という割合は,引用発明7における「10%」という割合と一致しており,本件発明2の実施例をみても,当業者の予測の範囲を超えた独特な給与方法によるものではない。
したがって,本件発明2は,周知技術参酌し,引用発明7に基いて当業者が容易になし得たものであるから,本件発明2の特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである 」。
[理由2]「「 , () 本件発明2は 体表面にウロコを有する魚類に 請求項1の養魚用配合飼料 本件発明1を給与して,ウロコの剥がれを防止する方法」であるところ,本件発明1については「 3-1)(本件発明1に対して において理由2 に記載したとおり 周知技術参酌し 引用発明1 」,[],,ないし4並びに引用発明6のいずれかの発明と,引用発明7に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。しかもウロコの剥がれを防止するという課題は養殖技術の分野において自明な課題であり 本件発明1の効果についても 引用発明1ないし4並びに引用発明6 , ,のいずれかの発明と,引用発明7から予測しうる範囲内のものであって,格別顕著なものとはいえない。
そうすると,当業者であれば,体表面にウロコを有する魚類に本件発明1に係る養魚用配合飼料を給与して,ウロコの剥がれを防止することは容易に想到することができたものである。
さらに具体的な給与方法について本件明細書を参照すると,本件発明2の実施例は「市販のギンザケ用飼料」に対して「未精製のイワシ油を10重量%の割合で添加 (本件明細書の段」落【0018 )するものである。 】一方,引用発明1ないし4並びに6は,配合飼料に対してつぎの重量割合で未精製油を添加するものである。
引用発明113.5%または15.0%引用発明215.0%または18.0%引用発明311.3%または12.0%引用発明416.0% ,17.5%,19.0%引用発明65% ,15%,30%以上を総合すると,本件発明2が実施例において養魚用配合飼料に添加する未精製魚油の重量割合(10重量%)と,引用発明1ないし4並びに6の各発明が養魚用配合飼料に添加する未精製油の重量割合とは大きく相違するものではなく,本件発明2の実施例をみても,当業者の予測の範囲を超えた独特な給与方法というわけでもない。
したがって,本件発明2は,周知技術参酌し,引用発明1ないし4並びに引用発明6のいずれかの発明と,引用発明7に基いて当業者が容易になし得たものであるから,本件発明2の特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである 」。
(4)結論「以上のとおりであるから,本件発明1及び2は,上記理由1または2に記載した理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない 」。
第3原告の主張の要点1本件発明1について1-1理由1(引用発明7を主引例とした場合)について決定は 本件発明1と引用発明7との一致点の認定を誤って 相違点を看過し(取 , ,消事由1),相違点についての判断を誤り(取消事由2 ,本件発明1が奏する効果 )についての判断を誤った(取消事由3)結果,本件発明1について当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)ア引用例7記載の「残サイ魚油」は,その定義が確立している技術用語ではなく,また,当業界で慣用されている用語ともいえないが,引用例7(2頁左下欄2〜4行)の説明を参酌すると,缶詰工場,魚市場等より副生する魚腸骨(切り離された魚の頭,骨,内蔵等を指すものと考えられる )を原料として採油された液状 。
の油脂(魚油)を表しており,引用発明7の目的を達成する上では常用のアルカリ脱酸,湯洗及び脱臭処理を行うことが好ましい液状の油脂(魚油)を意味しているということができる。すなわち,引用例7における「イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油」は,缶詰工場,魚市場等より副生するイワシを主体とした魚の魚腸骨を原料として採油された液状の油脂(魚油)を表しており,一義的に未精製魚油を意味したものではない。
イ決定は 魚油を未精製の状態で養魚用飼料とすることは 例えば引用例1〜6 , ,に記載されているようによく知られているというが,本件訂正明細書にも記載されているとおり,魚油を未精製の状態で養魚用配合飼料に用いることは,未精製魚油は変色や酸敗などの変質が起こり易く,においが強く,低温時に白く固まって取扱いが不便になるなどの種々の理由から避けられてきた。これは,技術常識であり,魚油を未精製の状態で養魚用配合飼料にすることがよく知られているという決定の認定は誤りである。
決定が挙げる引用例1〜6のうち,引用例1にカラフトシシャモの油の一部として粗製油を用いたことが記載されていることは認めるが,引用例1の記載から直ちに引用例7の「残サイ魚油」が未精製魚油であるということはできない。また,引用例2〜5記載の「ノルサームオイル」又は「硬化油」は未精製魚油ではなく,引用例6の「タラ肝油」は魚油ですらない。
ウ引用例7(甲10)には 「残サイ魚油のヨウ素価は一般に高く,例えばイ ,ワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油の場合には,ヨウ素価190を示すこともあった。かかる残サイ魚油をそのまゝウナギに与えた場合にも健康なウナギを得ることも可能であったが,白焼きとした場合特に保存中に変性することなど,製品のフレーバー保持の上で問題があった(2頁左欄10〜17行)との記載が 。」ある。ここにいう「そのまゝ与える」とは,残サイ魚油を他の油と混合せずにそのまま単独でウナギに給与することを表したものであり 「イワシ主体の製造原料よ ,」 。 り採油された残サイ魚油 を未精製の状態で給与することを意味するものではないエ引用例7の「残サイ魚油」を「そのまゝ」与えるとの記載は,ウナギを対象とするものである。タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に関しては 「本発明にかか,る混合油はウナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用されうることは云うまでもない(2頁右下欄8〜11 。」行)との説明がなされているだけである。ここに記載されている「混合油」は,引用例7記載の「以下に詳述する残サイ魚油に対しヨウ素価125より150の範囲」(),「」 になるように米ヌカ油を添加した混合油2頁右上欄4〜6行 を指し混合油の一成分である「残サイ魚油」については 「残サイ魚油は缶詰工場,魚市場等よ ,り副生する魚腸骨より製造されるが,常用のアルカリ脱酸,湯洗および脱臭処理を行った方がよい(2頁左下欄2〜4行)と説明されている。したがって,上記海 。」産魚に対しては,常用のアルカリ脱酸,湯洗及び脱臭処理を行った精製油を用いることが開示されているにとどまり,魚の組織から採取したままの原油,あるいは原油から採取夾雑物や水を物理手段により除去しただけの魚油を用いることは開示されていない。
オしたがって,引用発明7の「残サイ魚油」が本件発明の「未精製魚油」に対応するとした上で,本件発明1と引用発明7とは「多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を添加した体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料」である点で一致するとした決定の認定は誤りであり,両発明の相違点を看過している。
(2)取消事由2(相違点についての判断の誤り)決定は 「未精製魚油を添加した,体表面にウロコを有する魚類用配合飼料にお ,いて,米ヌカ油を添加しないことは引用発明1〜4,6に例示されるようにむしろ普通のことである」と判断した。
しかしながら,引用発明7は,米ヌカ油について,残サイ魚油と併存させても,併存させなくてもよい任意の添加成分としているのではなく,併存させることが不可欠であるとしている。他方,引用例1〜4,6には,引用発明7において米ヌカ油を配合しないという構成を採用することの動機付けとなる記載ないし示唆はなく,また,そのような構成とした場合に,体表面にウロコを有する魚類に対し,どのような作用効果が生じるかを予測させるような説明は存在しない。したがって,引用発明1〜4,6において米ヌカ油を添加していない配合飼料の構成が示されているというだけで,引用発明7において米ヌカ油を添加しないことが設計事項であると結論付けることはできない。
(3)取消事由3(予期し得ない顕著な効果の看過)決定は,本件発明1の作用効果が格別顕著なものとはいえないと判断したが,この判断も誤りである。
本件発明1は,本件訂正明細書の記載から明らかなように,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油がウロコの剥がれを大幅に低減するという知見を得てなされたものであり,その効果は顕著である。
これに対し,引用例7には,引用発明7の混合油がウロコの剥がれを防止する作用を有する旨の説明は一切なされていない。また,混合油を構成する残サイ魚油と米ヌカ油のいずれかの成分が,養殖魚のウロコの剥がれの防止に関係することを示唆する記載もない。したがって,引用発明7から,本件発明1の効果を予測することはできない。
仮に,多穫性赤身魚類の精製魚油がウロコの剥がれを防止する作用を有していることが知られていたのであれば,当該精製魚油中に存在するウロコの剥がれの防止に作用する成分は未精製の魚油中にも存在するであろうと予測することは,格別困難でないといえるかもしれないが,常用されている多穫性赤身魚類の精製魚油を給, 。 与する場合には ウロコの剥がれを充分に防止することはできなかったものであるしたがって,本件発明1が奏する効果について,当業者が容易に予測できるもので,格別顕著なものとはいえないとした決定の判断は誤りである。
1-2理由2(引用例1〜4,6を主引例とした場合)について決定は,本件発明1と引用発明2〜4,6との一致点の認定を誤って,相違点を看過し(取消事由4 ,相違点についての判断を誤り(取消事由5 ,本件発明1が ) )奏する効果についての判断を誤った(取消事由6)結果,本件発明1について当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきものである。
(1)取消事由4(一致点の認定の誤り,相違点の看過)決定は,本件発明1と引用発明1〜4,6が「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料である点」で一致すると認定したところ,本件発明1と引用発明1との一致点については上記認定を認めるが 引用発明2〜4の ノルサームオイル は未精製魚油ではなく 引用発明6 ,「」,の「分子蒸留など行わない原油であるタラ肝油」は「魚油」とはいえないのである,, 。 から 決定が引用発明2〜4 6について上記一致点を認定したことは誤りであるア引用発明2について(ア)決定は,引用発明2がノルサームオイルを含んでいると認定した上で,参考資料(甲11)に「ノルサームオイル」が未精製の魚油である旨が記載されていることを参酌し,引用発明2の「ノルサームオイル」は未精製魚油であると認定した。
しかしながら,参考資料は本件特許出願後に改訂がなされているのであるから,これに基づいて,引用発明2のノルサームオイルが未精製魚油であると認定することは許されない。
また,参考資料には,ノルシルドメル(Norsildmel)の「ノルサームオイル」はカラフトシシャモとニシンから作られる未精製の魚油である旨が記載されているが 引用例2 甲5 には TESSの魚油 ノルサームオイル はカラフトシシャ ,(),()モの油であると記載され,未精製魚油である旨の記載もない。さらに,参考資料には,遊離脂肪酸の含有量について最大5.0%まで許容される旨が表示されているが,引用例1(甲4)には,Norwegian Herring Oil and Meal Industry のノルサームオイルは,遊離脂肪酸含量が4.5%以下であることを保証して取引されていることが説明されている(173頁下から3〜1行 。このように,参考資料に記載 )されている「ノルサームオイル」と,引用例1,2記載の「ノルサームオイル」とでは内容が大きく異なるのであって この点からも 参考資料に記載されている ノ ,, 「ルサームオイル」が,本件発明1の「未精製魚油」に該当するとはいえない。
(イ)決定の認定は,当業者の常識から見ても,極めて疑わしいものである。前記のとおり,未精製魚油は変色や酸敗などの変質が起こり易く,においが強く,低温時に白く固まって取扱いが不便になるなどの種々の欠点を有しているという事実,, , を考えれば 本件特許出願前において 配合飼料等に直接用いられる添加油として未精製品がそのまま商品として販売されていたというのは極めて疑わしい。引用例2に記載されたノルサームオイルが未精製魚油であるのであれば,例えば,保存条件や使用期限等についての注意書きが引用例2に付されているはずであるが,そのような注意書きも存在しない。
() , (ウ)引用例2 38頁 にはノルサームオイルについての説明がなされておりTESSカラフトシシャモ油 (capelin oil) は純粋な海産油脂(英訳では puremarine oil)であることや,TESSカラフトシシャモ油には,融点が10℃のものと低融点のものとがあることが記載されている。この事実は,引用例2記載のノルサームオイルが,粗製油(crudeoil)ではなく精製油(pure oil)であることを示唆しており,融点を調整するための処理,例えば,高融点油脂成分を除去してその含有量を制御することが施されていることを示している。
(エ)以上によれば,引用例2記載のノルサームオイルは,精製魚油であるとはいえても,本件発明1の未精製魚油に相当するということはできない。
イ引用発明3,4について引用例3 甲6 記載のノルサームオイル及び引用例4 甲7 に記載のノルサー () ()ムオイルが未精製の魚油であるという認定は,いずれも,参考資料の記載事項のみに基づいたものであって,正当な根拠を欠いている。したがって,引用発明3,4が 「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロコを有する魚類 ,用としても使用される養魚用配合飼料」を実質的に開示しているとした決定の認定は誤りである。
ウ引用発明6について1988年株式会社恒星社厚生閣発行の外山健三外2名編「水産油糧学」甲16 においてJAS 日本農林規格 は水産油脂を 魚油海獣油粗 (),「()「」「」「」」(),, 肝油 などに分類し135頁2〜3行 と説明されているように 当業界では日本農林規格の分類に基づいて 「粗肝油」と「魚油」とが区別されている。周知 ,「」(),,「」 例3として引用された 油脂化学便覧甲14 でも 水産油脂について魚油「肝油 「海獣油」に区分して説明している。 」このような区分によれば,引用例6(甲9)の「分子蒸留など行わない原油であ」 ,「」,「」, るタラ肝油 は粗肝油 に属するものであって魚油 ではないのであるから引用発明6が「未精製魚油を添加し,米ヌカ油を添加しない,体表面にウロコを有する魚類用としても使用される養魚用配合飼料」を実質的に開示しているとの決定の認定は誤りである。
エ以上のとおり,本件発明1と引用発明2〜4,6との一致点についての決定の認定は誤りであり,相違点を看過している。
(2)取消事由5(相違点についての判断の誤り)決定は,未精製魚油が多穫性赤身魚から採取されたものかどうかを相違点として挙げた上で,引用発明7が上記相違点に係る構成を開示していることや,多穫性赤身魚類から魚油を採取することは工業的にも確立した周知技術として極めて普通に行われていることなどの理由に基づき,養魚用配合飼料に添加する未精製魚油として多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を用いることは,当業者であれば,容易に想到することができたと判断している。
しかしながら,前記のとおり,引用例7は,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対して,残サイ魚油を他の油と混合せずにそのまま単独で給与することを開示しているものではなく,当該海産魚に対して,常用のアルカリ脱酸,湯洗及び脱臭処理を行った精製油を用いることを開示しているにすぎない。
また,引用発明1における「カラフトシシャモの粗製油 ,引用発明2〜4にお 」ける「ノルサームオイル ,引用発明6における「分子蒸留など行わない原油であ 」るタラ肝油」について,これを引用例7記載の混合油ないし「残サイ魚油」に代えることの動機付けも存在しない。
したがって,多穫性赤身魚類から魚油を採取することが工業的に確立した周知技術であるとの点を考慮したとしても,引用発明1〜4,6の各発明における水産油脂に代えて多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を用いることが,当業者にとって容易に想到できたことであるとはいえない。
(3)取消事由6(予期し得ない顕著な効果の看過)本件発明1は,ウロコの剥がれを大幅に低減することを可能にしたという顕著な効果を奏したものである。ウロコの剥がれを防止する方策に関しては,当業者がその解決を久しく待望していた課題となってはいたが,ウロコの剥がれのメカニズムや給餌する栄養成分との因果関係等についての解明は進んでおらず,試行錯誤で解決策を探っていたというのが実情であり,この点に関する技術的要因とその技術的意義が当業者に熟知されているとは到底いえない。
引用例1〜4,6においても,引用例7と同様,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油がウロコの剥がれを低減することを記載ないし示唆する記述はないのであって,これらの引用例に基づいて,本件発明1が奏するウロコの剥がれの防止という効果を予想できるとはいえない決定は,本件発明1が奏する顕著な技術的効果について,これを当業者が容易に予測できると誤って判断したため,本件発明1における効果も格別顕著なものとはいえないとの誤った結論に至ったものである。
2本件発明2について(1)決定は,本件発明1の進歩性についての判断を誤ったのであるから,本件発明1を前提とする本件発明2の進歩性の判断も誤ったことになる。
(2)また,本件発明2は 「請求項1に記載の養魚用配合飼料」という特定の物 ,を「体表面にウロコを有する魚類に給与してウロコの剥がれを防止する」という特定の用途に用いる方法に関する発明であるが,決定が引用する文献は,いずれも,請求項1記載の養魚用配合飼料を上記用途に用いることを示唆していない。したがって,本件発明2について当業者が容易に発明をすることができたとする決定の判断は誤りである。
第4被告の主張の要点1本件発明1について1-1理由1(引用例7を主引例とした場合)について原告の主張する取消事由1〜3は,いずれも理由がない。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)に対してア引用例7(甲10)が開示する「残サイ魚油」とは 「缶詰工場,魚市場等 ,より副生する魚腸骨より製造される (2頁2〜3行)ものであり,何らの処理も 」。「 , 行っていない魚油を意味する 引用発明7は 残サイ魚油および米ヌカ油よりなりヨウ素価125より150の範囲であることを特徴とする養魚用飼料添加油 (特」許請求の範囲)をその構成要件とするものであり,残サイ魚油であることがその構成に欠くことのできない事項であって,常用のアルカリ脱酸,湯洗及び脱臭処理などの処理を行うことは任意事項にすぎない。
イ引用例1(甲4)には,カラフトシシャモの油として粗製油(crudeoil)を用いたことが記載され,引用発明7における残サイ魚油が未精製の状態の魚油であることを裏付けている。また,引用例2〜4,6は,魚油を未精製の状態で養魚用飼料に添加することを実質的に開示しており,これらの引用例をも勘案すると,引用発明7の残サイ魚油が未精製の状態の魚油であることが,さらに裏付けられる。
ウ引用例7には,常用のアルカリ脱酸,湯洗及び脱臭処理などの処理を施していない残サイ魚油のヨウ素価は一般に高いこと,例えば,イワシ主体の製造原料より採油されたままの何らの処理も施していない残サイ油の場合には,ヨウ素価190を示すことがあったことが記載され,かかる残サイ魚油をそのままウナギに与えた場合にも健康なウナギを得ることも可能であったが,白焼きとした場合には,処理が施されていないために,製品のフレーバー保持の上で問題があったと記載されている。引用例7にいう「そのまゝ」とは,常用のアルカリ脱酸,湯洗及び脱臭処理等の処理を施すことなく,採油されたままの状態,すなわち実質的に未精製の状態でウナギに給与することを表したものである。
エしたがって,本件発明1と引用発明7とは「多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を添加した,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料」である点で一致するのであって,決定の認定に誤りはない。
(2)取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対してア引用例7によれば 「食肉魚を満足に発育させるためには,元来天然で捕食 ,している食魚の脂肪酸組成に近似させるべき」であり 「理想的な飼料のヨウ素価 ,は例えばウナギの場合には,天然ウナギのヨウ素価104ないし142の範囲である」が 「残サイ魚油のヨウ素価は一般に高く,例えばイワシ主体の製造原料より ,採油された残サイ油の場合には,ヨウ素価190を示すことがあ」るため 「かか,る残サイ魚油をそのまゝウナギに与えた場合にも健康なウナギを得ることも可能であったが 白焼きとした場合特にその保存中に変性することなど 製品のフレーバー , ,保持の上で問題があった」ので 「残サイ魚油に対しヨウ素価125より150の ,範囲になるように米ヌカ油を添加」することにより 「食肉性の養殖魚に対し極め ,て優れた養育効果を示し,かつ優れたフレーバーを有する白焼きを得ることが出来た (2頁左上欄2行〜2頁右上欄8行)とされている。 」上記記載によれば,米ヌカ油は,残サイ魚油の高いヨウ素価を調整する作用を有しているとしても,残サイ魚油と化学的に反応もしくは結合して新たな物質に変容するわけではなく,混合油の一組成をなすものとして,残サイ魚油とともに併存しているにすぎないことが理解できる。
,「 ,, イ本件訂正明細書にも配合飼料に添加される油脂類としては ・・・大豆油米糠油などの植物油,イワシ油などの他の魚油が用いられているが・・・ (段落」【0007 )と記載されているように,米ヌカ油自体は養魚用飼料添加物として 】周知であるが,引用例1〜4,6に例示されるように,米ヌカ油を他の養魚用飼料添加物と併用しない方がむしろ普通のことである。体表面にウロコを有する魚類の養殖に携わる当業者であれば,飼料効率のより良い,また商品価値のより高い養殖魚が得られる配合飼料を得ようと試みるものであり これらの引用例は 引用発明7 ,,の改変を試みる上での十分な動機付けとなり得る。
ウしたがって,引用発明7において,米ヌカ油を添加しないこととすることは当業者が飼料設計上,適宜なし得る設計変更にすぎないとの決定の判断に誤りはない。
(3)取消事由3(予期し得ない顕著な効果の看過)に対して本件訂正明細書(段落【0003 )にも記載されているように,体表面にウロ 】コを有する魚類とは 「サケ類,マス類,タイ類,コイ,フナ等」の,多種,広範 ,囲にわたる養殖魚類を含むものであって,養魚用配合飼料が対象とする養殖魚類の, 。 うちの大半は 体表面にウロコを有する魚類が占めているといっても過言ではないこれらの体表面にウロコを有する魚類にとって,魚体に傷などがなく外見的に優れていること,魚体の傷に起因する疾病に感染しておらず生育状態が良好であることとは,ウロコの剥がれがないことでもある。したがって,体表面にウロコを有する魚類の商品価値は,ウロコの剥がれの有無により大きく影響される。従来より開発されてきた養魚用配合飼料は,ウロコの剥がれがない養殖魚を養育できる飼料であることが求められ,その作用効果が問われてきたのである。
引用発明7の混合油は,ウナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等の体表にウロコを有する海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用され得るのであるから,引用例7の記載に接した当業者は,体表面にウロコを有する海産魚の配合飼料飼育時の添加油として引用発明7を使用すれば,これらの魚類のウロコの剥がれを防止し得ることを容易に理解できる。
また,引用例1〜4,6に例示されるように,米ヌカ油を他の養魚用飼料添加物と併用しない方がむしろ普通のことであるから,米ヌカ油を添加しないという設計上の変更により,体表面にウロコを有する海産魚の配合飼料飼育時の添加油として所期の効果を奏する可能性があることを,当業者であれば予測し得る。
さらに,イワシ主体の製造原料より採油された残サイ油は,イワシ,すなわち,多穫性赤身魚類に由来することから比較的安価であり,生産コストを低く押さえられることも,当業者であれば予測し得る。
このように,本件発明1の作用効果は,本件発明7から当業者が容易に予測し得るものであるから,本件発明1の作用効果が格別顕著なものではないとの決定の判断に誤りはない。
2-2理由2(引用例1〜4,6を主引例とした場合)について原告の主張する取消事由4〜6は,いずれも理由がない。
(1)取消事由4(一致点の認定の誤り,相違点の看過)に対してア引用発明1,2についてノルサームオイルは,本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用例1,4に記載されており,本件特許出願前に,それ自体,既に魚油として公知であったことは明らかである。しかし,引用例1,4は,ノルサームオイルの成分までは開示していないので,決定は,本件特許出願後に更新された参考資料を参酌したものである。参考資料(甲11)に記載されている 「Updated10.11.98」について,原 ,告は 「改訂がなされた」と主張するが 「改訂」であれば 「revised」と記載され , ,,るはずであり,上記参考資料は「更新(Updated 」されたもので 「改訂」された ),ものではない。
参考資料の「製造方法(Productionprocess 」の欄の記載(2〜7行)によれ )ば,ノルサームオイルは「貯蔵されていない原材料(unpreserved raw material)」から製造されるものであり,原材料としては 「選択された種類の魚(selected ,species of fish)」を用いるとされ 「多くは(mostly)」として「カラフトシシャ ,モ(capelin)とニシン(herring) が具体的に例示され新鮮で特徴的な匂い(fresh 」,「and characteristic smell)」のする「粗製魚油(unrefined crude fish oil)」であると記載されている。
上記記載から明らかなように,ノルサームオイルの本質は粗製魚油(unrefinedcrude fish oil)である点にある。一方 「多くは(mostly)」の記載が示すように, ,貯蔵されていない原材料(unpreserved raw material) として例示されている カ 「 」「ラフトシシャモ(capelin)とニシン(herring)」は双方が必須というわけではなく,どちらか一方,例えば,カラフトシシャモのみでも商品としての均質性,一貫性は損なわれるものではない。
原告は,引用例2(甲5)のノルサームオイルが未精製の魚油とはいえないと主張するが,引用例2にノルサームオイルの原材料として「カラフトシシャモ」のみが記載されているからといって参考資料の「ノルサームオイル」と引用例2の「ノルサームオイル」とが異質の商品であるということはできない。参考資料は 「ノ,ルサームオイル」についての普遍的な技術的特徴を記載したものにすぎないのであるから,決定が,参考資料を参酌して,引用例2のノルサームオイルが未精製の魚油であると認定したことに誤りはない。
原告は,引用例2の38頁2〜3行の記載(英訳)を引用して,引用例2には,TESSカラフトシシャモ油(capelin oil)が純粋な海産油脂(ren marin olje,英訳では pure marine oil)であることが記載されているとし,これは,引用例2記載のノルサームオイルが粗製油(crude oil)ではなく精製油(pure oil)であることを示していると主張する。しかしながら,精製油であるならば “pureoil”で,はなく“refined oil”と表記されるはずであるから,"pure oil"は「精製油」ではなく,新鮮な原材料から採油されたままの状態で添加物等を加えていない,原油として純度の高い(pure)状態をいうと解すべきである。
原告は,参考資料と引用例1では,遊離脂肪酸の含有量についての数値が異なることを指摘するが,参考資料に記載されている「ノルサームオイル」の遊離脂肪酸含有量は,典型的には3%,最大で5%とされており,引用例1における,遊離脂肪酸含量が4.5%以下であることを保証して取引されている旨の記載と何ら矛盾するものではない。
したがって,決定における,本件発明1と引用発明2との相違点の認定に誤りはない。
イ引用発明3,4について参考資料に記載されているノルサームオイルは,本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用例1,4に記載されており,本件特許出願前に,それ自体,既に魚油として公知であったことが明らかである 前記のとおり 商品としてのノルサー 。,ムオイルの本質は「粗製魚油(unrefined crude fish oil)」にあることは参考資料記載のとおりであるから,参考資料を参酌して,引用発明3,4のノルサームオイルが実質的に未精製の魚油であるとした決定の認定に誤りはない。
ウ引用発明6について原告は,日本農林規格の分類に依拠して 「粗肝油」と「魚油」は区別されてい ,,「」 , ると主張するが 両者は 必須脂肪酸の供給源 として共通した技術的課題のもと配合飼料に添加される油脂類として適宜選択して使用されているのであるから,日本農林規格の分類に従って区別しても意味がない。むしろ,引用例6(甲9)記載の「分子蒸留など行わない原油であるタラ肝油」が分子蒸留など行わない原油であることを開示していることの方が本件発明1との関係においては重要である。
したがって,決定における,本件発明1と引用発明6との相違点の認定に誤りはない。
エ以上のとおり,本件発明1と引用発明1〜4,6との一致点についての決定の認定に誤りはなく,相違点の看過もない。
(2)取消事由5(相違点についての判断の誤り)に対して本件発明1と引用発明1〜4,6とを対比したとき,両者の相違点は,添加する未精製魚油が多穫性赤身魚類から採取されたものであるかどうかに尽きる。
決定は,引用発明7は上記相違点に係る構成を開示しているとして,引用発明1〜4,6のいずれかの養魚用配合飼料に添加する未精製魚油として,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を用いることは当業者であれば容易に想到することができたと判断している。引用発明1〜4,6と,引用発明7とは,魚類用の養魚用配合飼料に未精製魚油を添加する点で技術的に共通するのであるから,上記技術事項を適用するに際しての動機付けは十分に存在している。
さらに,魚油の技術分野において,多穫性赤身魚類から魚油を採取することは工業的にも確立した周知技術であること(周知例1〜4)を勘案すれば,引用発明1〜4,6を改変して本件発明1を得る動機付けも存在する。
したがって,決定の相違点の判断に誤りはない。
(3)取消事由6(予期し得ない顕著な効果の看過)に対して養魚用配合飼料として一般に流通している飼料の多くが,現実に,体表面にウロコを有する魚類の養殖に用いられていることを考慮すれば,引用例1〜4,6に接した当業者は,これらの発明が,養魚用配合飼料としての養育効果を奏すること,すなわち,体表面にウロコを有する魚類にとって商品価値が高いとされる,体表面に傷がなく,ウロコの剥がれがない養殖魚を養育する上での養育効果を奏することを十分予測することができる。
また,当業者は,引用発明7が,イワシ,すなわち,多穫性赤身魚類に由来することから,比較的安価であり,生産コストを低く押さえられるであろうことを予測し,認識するものである。
原告は,ウロコの剥がれのメカニズムや給餌する栄養成分との因果関係等についての解明は進んでいないことを指摘するが,従来から,ウロコの剥がれのメカニズムや給餌する栄養成分との因果関係等が解明されているか否かに関係なく,体表面に傷がなくてウロコの剥がれがない養殖魚は高い評価を得ており,養殖に携わる当業者は,高い評価が得られる商品価値の高い養殖魚を養育できる養魚用配合飼料を経験的に求めてきたのである。したがって,ウロコの剥がれのメカニズム等の解明と作用効果の予測性とは一義的な対応関係があるものではない。
以上によれば,本件発明1の効果は格別顕著なものとはいえないとした決定の判断に誤りはない。
2本件発明2について(1)本件発明1の進歩性についての決定の判断は誤っていないのであるから,本件発明1についての判断の誤りを前提として,本件発明2の進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
(2)本件発明2は 「請求項1に記載の養魚用配合飼料」を 「体表面にウロコ , ,を有する魚類に給与してウロコの剥がれを防止する」という用途に用いる発明であるが,前記のとおり 「体表面にウロコを有する魚類」は養殖魚の大半を占めるも ,のであるから,養魚用配合飼料の大半も「体表面にウロコを有する魚類」に給与することを主たる用途としており,高品質の養殖魚を得るために 「体表面にウロコ,を有する魚類」のウロコの剥がれを防止することは当業者によく知られた課題であ。,, , る したがって 本件発明2は 格別顕著な技術的意義を有しているわけではなく当業者であれば容易に想到し得たものである。
第5当裁判所の判断1本件発明1について1-1理由1について(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)について決定は,引用発明7の「イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油」は,「 」, 本件発明1の 多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油 に対応するとした上で両発明は「多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を添加した,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料」である点で一致すると認定した。原告は,引用発明7の「残サイ魚油」は「未精製魚油」ではないので,決定の上記認定は誤りであると主張する。
(),「」,。 ア本件明細書 甲2 には未精製魚油 の意義に関し 以下の記載がある「 0007】配合飼料に添加される油脂類としては,必須脂肪酸の供給源としてタラ肝油ま 【たはイカ肝油が最も汎用されており,その他に大豆油,米糠油などの植物油,イワシ油などの他の魚油が用いられているが,変色や酸敗の防止,その他の変質の防止,においの除去,取扱い性などの点から,いずれの油脂を使用する場合であっても精製油が専ら用いられている。すなわち 未精製油は 変色や酸敗などの変質が起こり易く においが強く 低温時に白く固まっ ,, ,,て取扱が困難になるなどの種々の理由から養魚用配合飼料には従来用いられていなかった。そして,配合飼料に添加される精製タラ肝油,精製イワシ油などの精製魚油は,一般に,油中に含まれる不溶性の夾雑物および水を除去した後に,脱ガム-脱酸-水洗-乾燥-脱色-水素化反応-脱臭という極めて多くの工程を経て製造されており,そのため精製油を得るのに繁雑な手間およびコストがかかり,これが養魚用配合飼料の価格の上昇の一因ともなっている。
【0010】養魚用配合飼料において従来使用されてきた精製魚油は,通常 (a)イワシ等,の魚の組織からまず原油を採取する工程; b)原油から不溶性夾雑物および水分を除去する (工程; c)酸などを添加してリン脂質,ガム質,金属塩,ステロールなどを除去する脱ガム (工程; d)アルカリなどを添加して遊離酸,着色成分,金属塩,油溶性リン脂質,有臭成分 (などを除去する脱酸工程; e)石鹸分などを除くための水洗工程; f)乾燥工程; g)着 ( ((色成分,石鹸分,不鹸化物,金属化合物などを除くための脱色工程; h)油脂中の不飽和基 (をなくす水素化反応工程; i)遊離脂肪酸,色素,不鹸化物などを除く脱臭工程などの一連 (の工程を経て製造されており,工程(a)から得られる原油および工程(b)から得られる粗油は未精製魚油として取り扱われている。そしてその場合に,工程(a)および工程(b)を分けて行わずに遠心分離機を利用して未精製油を採取する方法もある。
【0011】そして,本発明では,イワシ等の多穫性赤身魚類の組織から採取した上記の工程(a)で得られた原油,または工程(a)で得られる原油から不溶性夾雑物および水を除去しただけの工程(b)で得られる粗油を養魚用配合飼料中に添加する。その場合に,工程(a)における原油の採取方法,工程(b)における粗油中に含まれる不溶性夾雑物および水の除去方法などは特に制限されず,上記した工程(a)および工程(b)として従来から採用されているいずれの方法で採取したものであってもよい。また,工程(b)の後に,水を加えて水溶性夾雑物を除去する工程を付加して得られた油を用いてもよい。いずれにしろ,本発明でいう未精製魚油とは,多穫性赤身魚類の組織から採取したままの原油,或いは原油から採取夾雑物や水などを物理的手段により除去しただけで脱ガムや脱酸などの化学的処理を施してないものをいう。また,本発明の目的の達成のために,本発明では未精製魚油として,イワシ,アジ,サバ,サンマなどの多穫性赤身魚類から採取されたものを用いる 」。
上記記載,とりわけ 「本発明でいう未精製魚油とは,多穫性赤身魚類の組織か ,ら採取したままの原油,或いは原油から採取夾雑物や水などを物理的手段により除去しただけで脱ガムや脱酸などの化学的処理を施してないものをいう 」との記載。
によれば,本件発明1の「未精製魚油」は,イワシ,アジ,サバ,サンマなどの多穫性赤身魚類の組織から採取したままの原油,あるいは原油から不溶性夾雑物や水などを物理的手段により除去しただけで,脱ガムや脱酸などの化学的処理を施していないものを意味するものと認められる。
イ次に,引用発明7の「残サイ魚油」の意義に関し,引用例7(甲10)には以下の記載がある。
(ア)「残サイ魚油および米ヌカ油よりなり,ヨウ素価125より150の範囲であることを特徴とする養魚用飼料添加油(特許請求の範囲) 。」(イ)「油の安定性についてはその不飽和度およびヨウ素価が小さい油が好ましい。しかしながら食肉魚を満足に発育させるためには,元来天然で捕食している食魚の脂肪酸組成に近似させるべきであることは論を待たない。更に食肉魚の脂肪酸組成は餌のそれに似かよってくる傾向にあるといわれている。かかる観点からすれば理想的な飼料のヨウ素価は例えばウナギの場合には,天然ウナギのヨウ素価104ないし142の範囲であることが好ましい。しかしながら残サイ魚油のヨウ素価は一般に高く,例えばイワシ主体の製造原料より採油された残サイ油の場合には,ヨウ素価190を示すことがあった。かかる残サイ魚油をそのまゝウナギに与えた場合にも健康なウナギを得ることも可能であったが,白焼きとした場合特にその保存中に変性することなど,製品のフレーバー保持の上で問題があった。更に米ヌカ油は・・・飼料添加油としても極めて優れた油種であるが,養殖魚特に食肉魚種であるウナギに対してはその成長もしくは飼育に対しては必ずしも満足させなかった。本発明者達は特に食肉魚種に対する飼料添加油として,以下に詳述する残サイ魚油に対しヨウ素価125より150の範囲になるように米ヌカ油を添加した混合油は食肉性の養殖魚に対し極めて優れた養育効果を示し,かつ優れたフレーバーを有する白焼きを得ることが出来た(2頁左上欄1行〜右上欄8行) 。」(ウ)「残サイ魚油は缶詰工場,魚市場等より副生する魚腸骨より製造されるが,常用のアルカリ脱酸,湯洗および脱臭処理を行った方がよい(2頁左下欄2〜4行) 。」(エ)「本発明にかかる混合油はウナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用されうることは云うまでもない(2頁右下欄8〜 11 。」行)上記記載によれば,引用発明7の「残サイ魚油」は,例えば,イワシ主体の製造原料から採油され 「缶詰工場,魚市場等より副生する魚腸骨より製造される」魚 ,油であり 「常用のアルカリ脱酸,湯洗および脱臭処理を行った方がよい」とはさ ,れているものの,そのような処理を行うことが必須ではないことが認められる。そうすると,引用発明7の「残サイ魚油」は,一義的に未精製魚油を意味するとはいえないとしても,魚の組織から採取したままの魚油,あるいは夾雑物や水などを取り除いただけの魚油で,脱酸,脱臭等の処理を施していない未精製魚油を含むことは明らかである。
ウこれに対し,原告は,引用例7にいう「残サイ魚油をそのまゝウナギに与えた場合」の「残サイ魚油」とは,未精製魚油を意味するものではないと主張する。
しかしながら,引用例7の「残サイ魚油のヨウ素価は一般に高く,例えばイワシ主体の製造原料より採油された残サイ油の場合には,ヨウ素価190を示すことがあった。かかる残サイ魚油をそのまゝウナギに与えた場合にも健康なウナギを得ることも可能であった」との記載によれば 「そのまゝウナギに与え」る残サイ魚油 ,「 」 , が イワシ主体の製造原料より採油された残サイ魚油 であることは明らかであり引用例7の「残サイ魚油」が,脱酸,脱臭等の処理を行ったものに限定されていないことは前記判示のとおりであるから 「残サイ魚油をそのまゝウナギに与えた場 ,合」とは,未精製魚油を,米ヌカ油を添加することなく,そのままウナギに与えることを意味すると解すべきである。したがって,原告の主張は採用できない。
エ以上によれば,本件発明1の「未精製魚油」と引用発明7の「残サイ魚油」は,いずれも,イワシ等の多穫性赤身魚類から採取された魚油であり,脱酸,脱臭等の処理がされていないものを含むのであるから,引用発明7の「残サイ魚油」が本件発明の 未精製魚油 に対応するとした上で 本件発明1と引用発明7とは 多 「」, 「穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を添加した体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料」である点で一致するとした決定の認定に誤りはない。
(2)取消事由2(相違点についての判断の誤り)について決定は本件発明1は米ヌカ油を添加しないものであるのに対して 引用発明7 , ,は米ヌカ油を添加するものである点で相違していると認定した上で,体表面にウロコを有する魚類用の養魚用配合飼料において,米ヌカ油を添加しないことは引用発明1〜4,6に例示されるようにむしろ普通のことであるから,引用発明7において米ヌカ油を添加しないこととすることは当業者が飼料設計上,適宜になし得る設計変更にすぎないと判断した。原告は,決定のこの判断は誤りであると主張する。
アまず,引用発明7において米ヌカ油を添加した理由について,引用例7の前記摘示部分(2頁左上欄1行〜右上欄8行)には,@食肉魚を満足に発育させるためには,天然で捕食している食魚の脂肪酸組成に近似させることが好ましいこと,A天然ウナギのヨウ素価は104ないし142の範囲であるのに対し,イワシ主体の製造原料より採油された残サイ油の場合には,ヨウ素価190を示すこともあること,B残サイ魚油をそのままウナギに与えた場合にも健康なウナギを得ることが可能であること,Cしかし,ウナギの場合には,かかる残サイ魚油をそのままウナギに与えると,白焼きとした場合に,製品のフレーバー保持の上で問題が生じること,Dそこで,残サイ魚油に対しヨウ素価125より150の範囲になるように米ヌカ油を添加したところ,極めて優れた養育効果を示し,優れたフレーバーを有する白焼きを得ることができたこと,が記載されている。
これらの記載によれば,引用発明7の米ヌカ油は,残サイ油中のヨウ素価を調節するために加えるものであり,飼料中のヨウ素価を天然で捕食している当該魚種の脂肪酸組成に近似させることが好ましいことから,対象となる養殖魚によって米ヌカ油の望ましい添加量は異なり得るものの,米ヌカ油を添加しないで残サイ魚油をそのままウナギに与えた場合でも,健康なウナギを得ることは可能であると認められる。そうすると,引用発明7の残サイ魚油と米ヌカ油は区別してその必要性を考慮することが可能であり,米ヌカ油は必ずしも必須ではないことは引用例7自体に記載されているということができる。
イまた,引用例7には 「本発明にかかる混合油はウナギのみならず,タイ, ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用されうることは云うまでもない(2頁右下欄8〜11行)との記載がある。この記載は,米 。」ヌカ油を添加した残サイ魚油が,ウナギに対してのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等のウロコを有する養殖魚に対しても使用することができることを教示しており,残サイ魚油をそのままウナギに与えた場合にも健康なウナギを得ることが可能である旨の前記記載事項も併せて考慮すると,タイ,ヒラメ,ハマチ等の養殖魚に対して米ヌカ油を添加することなく未精製魚油を給与した場合にも,健康な養殖魚,, 。 を得ることができることは 当業者であれば 容易に想到し得るというべきであるこれに対して,原告は,引用例7の残サイ魚油をそのまま与える旨の記載は,ウナギを対象とするものであり,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚の場合は,常用のアルカリ脱酸,湯洗および脱臭処理を行った精製油を用いることが開示されているにすぎないと主張する。しかしながら,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する配合飼料飼育時の添加油として使用し得る「本発明にかかる混合油」とは,引用発明7の請求項1の記載からも明らかなとおり,未精製魚油を含む残サイ魚油と米ヌカ油の混合油を意味するものであり,常用のアルカリ脱酸,湯洗および脱臭処理を行った精製油に限定すべき理由はない。したがって,原告の主張は採用できない。
, , ウ未精製魚油を米ヌカ油を添加せずに ウロコを有する養殖魚に与えることは引用例7に示唆されているにとどまらず,本件特許出願前に頒布された刊行物にも記載されている。すなわち,本件特許出願前に頒布された刊行物1には「カラフトシシャモの未精製油(crude oil)を13.5%または15.0%添加し,米ヌカ油, 。」, を添加しない 虹鱒と鮭の養魚の成育実験に用いる配合飼料が記載されており未精製魚油を米ヌカ油を添加せずに,ウロコを有する養殖魚に与えることが開示されている。また,引用例2〜4の「ノルサームオイル」が未精製の魚油といえるかどうかについては,当事者間に争いがあるが,少なくとも,米ヌカ油を添加していない養魚用配合飼料が開示されていることは明らかであり,これらの引用例も,養魚用配合飼料に米ヌカ油を添加しないことが周知であることを示している。
エ以上によれば,引用発明7の残サイ魚油と米ヌカ油よりなる養魚用飼料添加油について,米ヌカ油を添加しない構成とすることは,当業者が適宜になし得る設計変更にすぎないというべきであり,相違点についての決定の判断に誤りはない。
(3)取消事由3(予期し得ない顕著な効果の看過)について原告は,本件発明1の作用効果は,当業者には予期し得ない格別顕著なものであると主張する。
ア本件訂正明細書には,本件発明の効果について,以下の記載がある。
「 0022】【【発明の効果】本発明の飼料を体表面にウロコを有する魚類に給餌すると,ウロコの剥がれが極めて少なくて,外見が良好な商品価値の高い養殖魚を生産することができる。更に,魚類におけるウロコの剥がれが少ないので,魚の体表にウロコの剥がれによる傷が生じにくく,病原微生物がウロコが剥がれて傷になった箇所に寄生したり,その箇所から魚類の体内に侵入することが少なくなり,生育状態の良好な魚類を生産性よく得ることができる。そして,本発明の飼料は,多穫性赤身魚類から採取された安価な未精製魚類を使用しているために,配合飼料の生産コストおよび養殖魚の生産コストを従来よりも下げることができる 」。
そして,同明細書の【表1】には,未精製イワシ油を添加した配合飼料をギンザケに給与した第1区(試験区)では,精製イワシ油を添加した配合飼料を同種魚に給与した第2区(対照区)と比較して,ウロコの剥がれが少なく,体重の増加が大きいことが示されている。
以上によれば,本件発明1は,ウロコ剥がれが極めて少なく,生育状態の良好な魚類を得ることができ,配合飼料及び養殖魚の生産コストを削減できるとの作用効果を奏するものと認められる。
イ原告は,本件発明1の効果のうち,とりわけ,多穫性赤身魚類の精製魚油がウロコの剥がれを防止する作用を有していることは,当業者にも予期しない顕著な, ,, ものであると主張するところ ウロコ剥がれの防止について 本件訂正明細書には以下の記載がある。
「 0002】【【従来の技術 ・・・そして,養殖魚の商品価値を高める上で,ウロコの剥がれや体表の傷な 】どがなくて外見的に優れていること,疾病に感染しておらず生育状態が良好であることが求められている。
【0003】魚類を養殖して流通,販売するに当たっては,育成期間の途中で大きさを揃えるために網などを使用して選別作業を行ったり,飼育水域の浄化のために魚類を別の水域に移したり,流通や販売のために魚類を生きたまま出荷して移動したり輸送したりすることが度々行, 。, われているが そのような作業に際して魚体に無理やストレスなどがかかることが多い また魚類は通常養殖水域中でかなり密集した状態で飼育されるところから,魚類同士の体が互いに触れたり,水槽の内壁に触れたりして魚類の体表などに傷を生じることも多い。そして,上記のような状況下において,サケ類,マス類,タイ類,コイ,フナなどの比較的大きなウロコを有する魚類ではウロコの剥がれがたびたび生ずる。ウロコの剥がれた魚類は外見が不良になって商品価値が著しく低下し,しかも病原微生物がウロコの剥がれて傷になった箇所に寄生したり,その箇所から魚類の体内に侵入し易くなって,疾病,発育不全などを生じ易く,例えばウロコの剥がれたサケ類などではビブリオ病,せっそう病などの疾病に感染し易く,かかる点からも魚類の商品価値の低下,および生産性の低下を招く原因ともなっている。そのようなウロコの剥がれを防止するための方策が従来からも色々検討されているが,充分に満足のゆく方法が見いだされていないのが現状である 」。
上記記載によれば,ウロコの剥がれた魚類は外見が不良になって商品価値が著しく低下し,疾病,発育不全などを招きやすいため,当業界においては,ウロコの剥がれを防止するための方策が従来から検討されてきたとの事実が認められる。この記載からも明らかなように,体表面にウロコを有する魚の養殖において,ウロコの剥がれが少ないことは,斃死率の低さや発育状況の健全さを示す一つの条件又は指標とでもいうべきものであり,従前より当業者が追求してきた一般的な課題であるということができる。そうすると,養殖魚飼料がウロコを有する魚の養殖に適するといった場合に,ウロコが剥がれにくいとの作用効果を奏することは,当業者であれば,当然予期し得るものであるというべきである。
ウ引用例7(甲10)には,前記判示のとおり 「本発明にかかる混合油はウ ,ナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等の海産魚に対する混合飼料飼育時の添加油として使用されうることは云うまでもない(2頁右下欄8〜11行)との記載 。」がある。同引用例では,養鰻試験の結果として,養鰻の体重増及び増重率が記載されているにすぎないが,前記のとおり,ウロコの剥がれを防止することは,斃死率の低さや発育状況の健全さを示す条件又は指標として従前より当業者が追求してきた一般的な課題である以上,引用発明7に係る混合油がタイ,ヒラメ,ハマチ等のウロコを有する海産魚に対する混合飼料飼育時の添加油として使用し得るとの記載に接した当業者は,同発明に係る混合油をこれらの魚に与えた場合には,本件訂正明細書の表1に記載されているような養殖魚の平均体重の増加とともに,ウロコの剥がれにくさという作用効果を奏することを容易に予期し得たというべきである。
配合飼料及び養殖魚の生産コストを削減できるとの作用効果についても,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油を添加するという構成から,当業者であれば容易に予期し得るものにすぎない。
エ以上によれば,本件発明1の作用効果は,いずれも,引用例7から当業者が予測し得るものであるとした決定の判断に誤りはない。
(4)したがって,原告の取消事由1〜3に理由はなく,理由1に基づいて,本件発明1の進歩性を否定した決定の判断に誤りがあるということはできない。
1-2理由2について, , 上記のとおり 決定の理由1の判断に基づき本件特許を取り消した決定の判断は是認することができるが,原告は,理由2についても争っているので,この点についても,念のため,判断しておくこととする。
(1)取消事由4(一致点の認定の誤り,相違点の看過)について決定は,理由2において,本件発明1と引用発明1〜4,6を対比し,一致点及び相違点を認定しているところ,原告は,本件発明1と引用発明1との一致点の認定は認めるものの,本件発明1と引用発明2〜4,6との一致点の認定については争っている。
以下,本件発明1と引用発明1との対比に基づき,検討を加える(したがって,取消事由4は理由がないことになる。。)(2)取消事由5(相違点についての判断の誤り)について決定は,本件発明1と引用発明1との相違点を 「添加する未精製魚油が,前者 ,においては,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油であるのに対して,後者においては,多穫性赤身魚類から採取された未精製魚油であるか明確でない点」と認定した上で,本件発明1は,周知技術参酌し,引用発明1,7に基いて当業者が容易になし得たものであると判断した。
決定の認定した上記相違点は,要するに,添加する未精製油がイワシ等の多穫性赤身魚類から採取されたものかどうかに尽きるところ,前記判示のとおり,引用発明7は,イワシ等の製造原料より採油された魚油であり,未精製魚油を含む残サイ魚油をウナギのみならず,タイ,ヒラメ,ハマチ等のウロコを有する海産魚に対する配合飼料飼育の添加油として使用することが記載されているのであるから,相違点に係る構成は,引用例7に開示されているということができ,引用発明7を引用発明1に適用することは,当業者であれば,容易に想到し得ることである。
また,周知例1〜4(甲12〜15)に示されているように,多穫性赤身魚類から魚油を採取することが工業的にも確立した技術として極めて普通に行われていることは,当事者間に争いがない。
以上によれば 本件発明1と引用発明1との相違点に係る構成は 引用発明1 7 , ,,及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明し得たものということができる。
(3)取消事由6(予期し得ない顕著な効果の看過)について原告は,本件発明1の作用効果は,当業者には予期し得ない格別顕著なものであると主張するが,本件発明1の作用効果は,いずれも,当業者が予測し得るものであって,決定の判断に誤りはないことは,取消事由3についての検討において判示したとおりである。
, ,, (4)以上のとおり 原告の取消事由4〜6にも理由はなく 理由2に基づいて本件発明1の進歩性を否定した決定の判断にも誤りはない。
2本件発明2について(1)原告は,本件発明1は当業者が容易に発明できたものではないから,本件発明1を前提とする本件発明2についても,その進歩性を否定した決定の判断は誤りであると主張する。しかしながら,本件発明1の進歩性を否定した決定の判断に誤りがないことは,前記判示のとおりであるから,原告の主張は理由がないことになる。
(2)本件発明の請求項2は「体表面にウロコを有する魚類に,請求項1の養魚用配合飼料を給与して,ウロコの剥がれを防止する方法 」というものであるとこ 。
ろ,原告は,本件発明2で特定された用途は,引用例のいずれにも示唆ないし記載のないものであるから,容易に想到し得たものではないと主張する。
, 「 」 しかしながら 請求項1に係る養魚用配合飼料を 体表面にウロコを有する魚類に給与することは,当業者が当然予定することであり,また 「ウロコの剥がれを,防止する」という作用効果の特定についても,前記判示のとおり,当業者が容易に予測し得ることである。
したがって,本件発明2は,当業者が容易に想到し得るものであるとした決定の判断に誤りはない。
3結論, ,。 よって 原告主張の取消事由はいずれも理由がないので 棄却されるべきである
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 石原直樹
裁判官 佐藤達文