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関連審決 不服2003-6506
関連ワード 技術的思想 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  同一の発明 /  先行技術 /  共有 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10075号 審決取消請求事件
原告松 下電器産業株式会社
訴訟代理人弁理士森下賢樹
同 三木友由
同 真家大樹
同 岩橋文雄
同 内藤浩樹
同 永野大介
同 藤井兼太郎
被告特許庁長官 中嶋誠
指定代理 人上田忠
同 山口敦司
同 立川功
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2003-6506号事件について平成18年1月5日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が,特許法29条の2第1項に該当する事由があるとして請求不成立の審決をしたので,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張1請求の原因(1)特許庁における手続の経緯原告は,平成9年6月19日,名称を「多階調画像表示装置」とする発明につき特許出願(以下「本願」という。請求項1ないし7 )をし,次いで。
平成14年5月31日付けで特許請求の範囲等を変更する補正(請求項1ないし5。以下「本件補正」という。甲5)をしたが,拒絶査定を受けた。
そこで原告は,不服の審判請求を行い,特許庁はこの請求を不服2003-6506号事件として審理したが平成18年1月5日 「本件審判の請求,は,成り立たない 」との審決をし,その謄本は平成18年1月17日原告 。
に送達された。
(2)発明の内容本件補正後の特許請求の範囲は,下記のとおりである。
記「 請求項1】入力信号の1フィールドを,所定の輝度重み付けを有する 【所定の複数M個のサブフィールドに分割し,前記各サブフィールドのオン制御またはオフ制御によって多階調表示を行う画像表示装置において,複数M個(M=8,9を除く)のサブフィールドの輝度重みが昇順または降順となる順序にて配置し,所定の輝度を表示する各サブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせが複数ある場合には,最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせを表示させることを特徴とする多階調画像表示装置。
【請求項2】前記複数M個のサブフィールドは,輝度重みが1以上2以下で,2のべき乗で表される数値であるN(N-1)個(Nは整数)のサブフィールドと,2以上の輝度重みを有し,それぞれの輝度重みが一定の差で増加(N-1)または減少する順序に並んだ複数のサブフィールドとを含むことを特徴とする請求項1記載の多階調画像表示装置。
【請求項3】入力信号の1フィールドを,10個のサブフィールドに分割し,前記各サブフィールドのオン制御またはオフ制御によって多階調表示を行う画像表示装置において,前記10個のサブフィールドの輝度重みの比が概略1:2:4:8:16:24:32:48:56:64の順序またはこの逆の順序となるように配置したことを特徴とする請求項1または2記載の多階調画像表示装置。
【請求項4】入力信号の1フィールドを,11個のサブフィールドに分割し,前記各サブフィールドのオン制御またはオフ制御によって多階調表示を行う画像表示装置において,前記11個のサブフィールドの輝度重みの比が概略1:2:4:8:16:24:32:36:40:44:48の順序またはこの逆の順序となるように配置したことを特徴とする請求項1または2記載の多階調画像表示装置。
【請求項5】入力信号の1フィールドを,12個のサブフィールドに分割し,前記各サブフィールドのオン制御またはオフ制御によって多階調表示を行う画像表示装置において,前記12個のサブフィールドの輝度重みの比が概略1:2:4:8:12:20:24:28:32:36:40:48の順序またはこの逆の順序となるように配置したことを特徴とする請求項1または2記載の多階調画像表示装置 」。
(以下これらの発明を総称して「本願発明」といい,個別にいうときは「本願発明1「本願発明2」のようにいう ) 」, 。
(3)審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明1,2は,本願より前に出願され本願後に公開された特願平9-49380号(特開平10-153982号公報〔甲2〕参照・発明の名称「階調表示方法および階調表示装置 ・出願人」日本電気株式会社 )の願書に添付された明細書及び図面(以下併せて 。
「先願明細書」という。甲3)に記載された発明(以下「先願発明」という )と同一であるから,特許法29条の2第1項の規定により特許を受 。
けることができない等というものである。
イなお,審決が認定した先願発明の内容は,次のとおりである。
「1フィールドを複数のサブフィールドに分割し,各サブフィールドの輝度の重みの比が,1番目から所定番目までのサブフィールドは公比2の等比数列で,前記所定番目以降のサブフィールドは所定の公差の等差数列で重み付けし,これらのサブフィールドの組み合わせにより階調を表現するとともに,同一の階調値を表す複数の組み合わせがある場合には,上位の変化が少ない表現を用いることにより,階調変化時のサブフィールドの変化を小さくして,動画偽輪郭の発生を抑制する階調表示装置」(4)審決の取消事由しかしながら,審決は,先願発明の認定を誤り,本願発明1,2との対比判断を誤ったものであるから,違法として取消しを免れない。
ア取消事由1-先願発明の認定の誤り審決は,先願明細書(甲3)には 「同一の階調値を表す複数の組み合 ,わせがある場合には,上位の変化が少ない表現を用いることにより,階調変化時のサブフィールドの変化を小さくして,動画偽輪郭の発生を抑制することが示されている(審決5頁下3行〜6頁1行)とし,上記(3)イ 。」のとおり先願発明の内容を認定し 「本願発明2(前者)と上記先願発明 ,(後者)とを対比すると,後者の 「これらのサブフィールドの組み合わ ,せにより階調を表現するとともに,同一の階調値を表す複数の組み合わせがある場合には,上位の変化が少ない表現を用いる」ことは,前者の,「所定の輝度を表示する各サブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせが複数ある場合には,最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせを表示させる」ことに相当するものと認められる (審決6頁」22行〜28行)とするが,かかる審決の認定は失当である。
(ア)先願発明の「これらのサブフィールドの組み合わせにより階調を表現するとともに,同一の階調値を表す複数の組み合わせがある場合には,上位の変化が少ない表現を用いる」について@先願明細書(甲3)には 「等差数列になるように上位の各サブフ ,ィールドの輝度の重みを定める」ことで 「上位のサブフィールドの ,桁上げ時の変化が1桁で済み,1階調変化時のハミング距離を1にでき「階調変化時のサブフィールドの変化を小さくでき,動画偽輪 」,郭の発生を抑制できる」こと 「輝度48から79と176から20 ,7は第1組と第2組の2種類の表現ができ,輝度80から175は第1組,第2組,第3組の3種類の表現ができる (段落【0046 , 」】図1)ことを開示している。
Aそして,先願発明では,これらの複数種類の表現を,区別することなく選択的に利用して,サブフィールドのオン・オフを制御している。
例えば,先願明細書(甲3)には 「従って,図1では第1組の表 ,現を用いることにより,階調変化時のサブフィールドの変化を小さくでき,動画偽輪郭の発生を抑制できる。但し,第2組,第3組の表現からも,階調の変化における輝度変化が第1組と大差ない表現を選ぶことができる(段落【0046 )との記載があり,この記載から, 。」】先願発明は,第1組,第2組,第3組をそれぞれ区別して取り扱うのではなく,互いに等しく並列的に扱っていることが分かる。
また,先願明細書(甲3)には 「これらの第1から第3組の表現 ,を画素,走査線,フィールド,フレームなどで適宜選択する事により,より効果的に動画偽輪郭を抑制できる(段落【0049 )との記 。」】載があり,この記載からも,先願発明において,第1組から第3組までの表現が,任意に選択可能であることが示されている。
さらに,先願明細書(甲3)の図1をみると,輝度レベル160から175を表現する場合,第1組のSF5〜SF9のビット値が「11110 (ビット値1はオン制御,ビット値0はオフ制御に対応 , 」 )第2組のSF5〜SF9のビット値が「01101 ,第3組のSF」5〜SF9のビット値が「10011」となる点灯パターンが示される。第1組では,サブフィールド(SF9)がオフとなる組み合わせが表現されているが,一方で,第2組,第3組では,SF9がオンとなる組み合わせが表現されている。
Bしたがって,先願発明は 「同一の階調値を表す複数の組み合わせ ,がある場合には,選択肢が増えたことで,それらを適宜選択可能とする」という技術思想が開示されているものである。これに対し,本願発明1は 「最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み ,合わせを表示させる」ものであるから,最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせのみを採用するのであって,最も輝度重みの大きいサブフィールドがオンになる組み合わせと,オフになる組み合わせとを選択的に採用するものではない。
C被告は,サブフィールドの制御に当たり,第1組の表現と第1組以外の第2組,第3組の表現の中から,適宜取捨選択して階調表示するものではない,と主張し,先願明細書(甲3)の「従って,図1では第1組の表現を用いることにより,階調変化時のサブフィールドの変化を小さくでき,動画偽輪郭の発生を抑制できる(段落【004。」6 )の記載を指摘するが,以下に照らして失当である。 】a先願明細書(甲3)の段落【0030】の記載からすれば,先願発明は,2進数による重み付けを用いず,隣接するサブフィールドの輝度の差をほぼ一定値とすることにより動画偽輪郭を抑制する点を技術的思想とするものであり,段落【0044】及び段落【0046】には,2進数の重み付けを用いないことによる効果が記載されている。
したがって,先願発明は,動画偽輪郭の発生の抑制を,2進数の重み付けを用いないことで実現するにすぎず,図1の第1組の表現を,第2組,第3組より優先して用いるものではなく,さらに,第1組の表現を用いることが,第2組,第3組の表現を用いることに比べて,格別異なる技術的意味を有しているものでもない。
bまた,先願明細書(甲3)の段落【0046】の「変化が少ない」との文言は,ハミング距離が小さいことを意味するものと解釈される。すなわち,段落【0046】の「上位の変化が少ない表現」とは 「上位のサブフィールドSF5〜SF9のハミング距離 ,が小さくなる表現」と解釈される。このように解釈した場合であっても 「上位の変化が少ない」との記載は,必ずしも技術的に明確 ,とはいえないが,段落【0046】において,輝度48〜207までの第1組の表現を,輝度32〜47の表現「01000 ,輝度」208〜223の表現「10111」と比較しているところから,あえて解釈して補足すると,段落【0046】の記載は 「2種類,以上の表現から選択できる輝度48から207までの第1組の表現は,輝度32から47の表現「01000」を輝度48から63の表現( 11000「00100 )と比べ,また,輝度208 「」,」から223の表現「10111」を,輝度192から207の表現( 11011「00111 )と比べ,上位のサブフィールド 「」,」SF5からSF9の変化が少ない表現,すなわちハミング距離が小さい表現を選び,それを第1組としている 」と解釈すべきものと 。
なる。すなわち,先願発明は,段落【0046】において,第1組を決定する際に,2つの境界に着目して,変化の小さいものを選択することを述べていると考えられる。
cサブフィールドに2進数の重み付けを用いないこと(より正確には,2進数よりも進み方の小さい重み付けを用いること)により,所定の輝度を表示するサブフィールドの組み合わせが複数存在し得るのは,数学的に当然の帰結であり,数ある組み合わせのうち,先願発明のようなサブフィールドを用いれば,先願発明の図1において,第1組や第2組として記載される組み合わせが存在するというにすぎない。そして,それらの組は,技術的には同等であって,いずれが優先するというものではない。先願発明には,図1に,第1組の表現が記載されていても,これは,第2組,第3組であっても大差ないものであり,第1組を優位に扱う根拠も記述もない。このことからも,被告の,第1組の表現と,第1組以外の第2組,第3組の表現の中から,適宜取捨選択して階調表示するものではない,との主張が失当であることは明らかである。
(イ)先願発明の「上位の変化が少ない表現」について@先願明細書(甲3)には 「2種類以上の表現から選択できる輝度 ,48から207までの第1組の表現は,輝度32から47の表現「01000 ,輝度208から223の表現「10111」と比べ,上 」位の変化が少ない表現を選び,それを第1組としている(段落。」【0046 )との記載がある 「上位の変化が少ない」とは,その 】。
言葉の意味から,輝度(信号レベル)の変化があった場合に,上位の変化をなるべくさせないように,すなわち上位のオン制御(またはオフ制御)をできるだけ維持するようにして,動画偽輪郭の発生を抑制しようとするものであると解釈される。
Aそこで,先願発明において 「上位の変化を少ない表現」で,輝度 ,(信号レベル)を0から順に上げていくと,先願明細書(甲3)の図1の第1組に示す各サブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせとなるが,逆に 「上位の変化を少ない表現」で,輝度を最大値から順 ,に下げていくと,以下の参考表1(輝度を48から47に下げる場合)のようになる。
(参考表1)SF1SF2 SF3SF4 SF5SF6 SF7SF8SF9 SF10 SF11 SF12 信号レベル1248122024283236404848ONON ONON47ONONON ONONすなわち,先願発明においては,上位の変化を少なくして,輝度を48から47に変化させる場合に,輝度48の点灯パターンにおける上位のサブフィールド(上記参考表1では,SF7)のオン制御を維持しながら輝度を47に下げようとするため,輝度重みの大きいサブフィールドがオンとなる点灯パターンを回避してSF7をオフにすることをせず,上記参考表1の信号レベル47で示すようにSF7をオンのままにしたオン・オフ制御が実施されることになる。
Bこれに対し,本願発明1は 「所定の輝度を表示する各サブフィー ,ルドのオン・オフ制御の組み合わせが複数ある場合には,最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせを表示させる」ことを特徴とするから,本願発明1により,デジタル映像信号のレベル(輝度)47と48を表現するときにオン制御するサブフィールドの点灯パターンは,以下の参考表2のようになる。
(参考表2)SF1SF2 SF3SF4 SF5SF6 SF7SF8SF9 SF10 SF11 SF12 信号レベル1248122024283236404847ONON ONON ONON48ONON ONONCこのように,先願発明に係る先願明細書(甲3)の図1における第1組の表現は,段落【0046】の記載によると「上位の変化が少ない表現」とされているが,上位の変化が少ないとは,上位のサブフィールドのオン制御をできるだけ維持する表現と考えられるところ,本願発明1の「最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせを表示させる」こととは異なっており,参考表1,2を対照すると明らかなように,本願発明1と先願発明では,輝度を下げていくような場合に,オン・オフ制御する点灯パターンが異なることになる。
D先願明細書(甲3)においては,図1の第1組の説明として 「上,位の変化が少ない表現を選び,それを第1組としている (段落【0」046 )との記載はあるものの,これは,オン・オフ制御の複数組 】が発生する境界において,上位の変化が少なくなる組を,第1組とすることを述べているのであって,2つの境界以外の部分について述べているものではなく,したがって,第1組の具体的な作り方を述べているものではない。先願発明においては,第1組と第2組は同等であって所詮大差はなく,いずれを選択してもよいのであるから,わざわざ第1組の作り方を厳密に説明する必要もないものである。
先願発明は,2進数の重み付けを用いないことを技術思想として開示するのであって,そもそも先願明細書(甲3)の図1のいずれか1組,例えば第1組の表現のみを利用して,発光を制御することまで開示するものではないし,決定された組み合わせのみを利用して多階調表示を行うという技術思想も開示されていない。そもそも「上位の変化が少ない」という表現自体が不明確であり,そもそも上記図1の第1組をどのように作成しているか特定することもできない。すなわち,先願発明は,本願発明1の「最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせ」を表示させるという構成を記載するものではない。
E被告は,先願明細書(甲3)の図1における第1組の表現は,原告が,本願発明1のサブフィールドの点灯パターンとして示している上記参考表2と同様に 「所定の輝度を表示する各サブフィールのオン ,・オフ制御の組み合わせが複数ある場合に,最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせを表示させる」という条件を満たしている,と主張する。
しかし,先願発明の「2種類以上の表現から選択できる輝度48から207までの第1組の表現は,輝度32から47の表現「01000 ,輝度208から223の表現「10111」と比べ,上位の変 」化が少ない表現を選び,それを第1組としている 」との記載は,ハ。
ミング距離について検討すれば,輝度48から207までの表現と輝度208から223の表現の境界については第2組に当てはまる内容となっているものであることに照らし,技術的に誤りである。
イ取消事由2-先願発明と本願発明1,2との対比判断の誤り審決は 「後者(判決注,先願発明)は,実施形態として明示されては ,いないものの,8及び9以外の分割サブフィールド数を有する実施例(例えば,分割サブフィールド数が10のもの)を包含するものであり,また,このような実施例は前者(判決注,本願発明2)にも包含されることになるから,両者は実施例を共有することとなり,両者は同一の発明である。
また,本願発明1は,本願発明2を包含するものであるから,先願発明と同一の発明である(審決6頁下8行〜下1行)とするが,発生する疑 。」似輪郭は,サブフィールド数に応じて異なるものであることなどからすれば,本願発明1と先願発明とを同一とすることはできない。
また,先願明細書(甲3)の図1の第1組に関する記載からすれば,結局は第1組と第2組には技術的な差異はなく,先願明細書(甲3)の図1においては,結果として第1組,第2組,第3組の三つの組の一つとして第1組が記載されているに過ぎない。そうすると,先願発明においては,せいぜい,分割サブフィールド数が9のもののみが記載されているというべきである。さらに,上記図1が,先願発明の技術思想を示すものではないことに鑑みれば,先願明細書(甲3)においては 「8及び9以外の分,割サブフィールド数」はおろか,分割サブフィールド数が9のものすら記載されていないといえる。
2請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1(ア)に対し原告は,先願発明の「これらのサブフィールドの組み合わせにより階調を表現するとともに,同一の階調値を表す複数の組み合わせがある場合には,上位の変化が少ない表現を用いる」について,先願発明は 「同一の階調値,を表す複数の組み合わせがある場合には,選択肢が増えたことで,それらを適宜選択可能とする」という技術思想が開示されているものである,と主張するが,失当である。
アすなわち,先願明細書(甲3)の段落【0041】〜【0046】及び図1において,発光期間の異なるサブフィールドを組み合わせて0〜255階調の輝度を表示するため,1,2,4,8,16,32,48,64,80の輝度の重みに対応する各サブフィールドのオン,オフを1と0の数字の組み合わせによるB0〜B8の9ビットで表現することが示されており(図1には,各輝度についてB4〜B8の上位5ビットが表示されている,第1組,第2組,第3組の3種類の表現とは,それぞれ,0〜2 。)55階調の輝度に対応する256個の9ビットからなる一群の表現を意味するものであって,サブフィールドの制御に当たり,第1組の表現と,第1組の以外の第2組,第3組の表現の中から,適宜取捨選択して階調表示するというものではない。このことは,先願明細書(甲3)段落【0046】に「図1では第1組以外に第2組,第3組の表現が可能である。輝度0から47と208から255までは第1組の表現しかできないが,輝度48から79と176から207は第1組と第2組の2種類の表現ができ,輝度80から175は第1組,第2組,第3組の3種類の表現ができる。
2種類以上の表現から選択できる輝度48から207までの第1組の表現は,輝度32から47の表現「01000 ,輝度208から223の表 」現「10111」と比べ,上位の変化が少ない表現を選び,それを第1組としている。従って,図1では第1組の表現を用いることにより,階調変化時のサブフィールドの変化を小さくでき,動画偽輪郭の発生を抑制できる 」と記載され,図1に第1組の表現として各輝度についてB4〜B8 。
の上位5ビットが表示されていることからも明らかである。
イまた,先願明細書(甲3)の図1に示される第1組の表現は,原告が本願発明1のサブフィールドの点灯パターンとして示している上記「参考表2」と同様に「所定の輝度を表示する各サブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせが複数ある場合に,最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせを表示させる」という条件を満たしているのであり,このことを先願明細書(甲3)は 「2種類以上の表現から選択できる輝 ,度48から207までの第1組の表現は,輝度32から47の表現「01000 ,輝度208から223の表現「10111」と比べ,上位の変 」化が少ない表現を選び,それを第1組としている(段落【0046 ) 。」】と記載しているものである。そして,先願明細書(甲3)の段落【0046】の「但し,第2組,第3組の表現からも,階調の変化における輝度変化が第1組と大差ない表現を選ぶことができる 」との記載は,第2組, 。
第3組の表現であっても,第1組の表現と比べて動画偽輪郭の発生を抑制する効果に大きな差異がない場合があることを指摘するものであって,第1組の表現の意味するところが,この記載により左右されるというものでもない。
(2)取消事由1(イ)に対し原告は,先願発明の「上位の変化が少ない表現」について,本願発明1と先願発明では,輝度を下げていくような場合に,オン・オフ制御する点灯パターンが異なる,と主張する。
しかし,先願明細書(甲3)の図1の第1組の輝度48のビット表現は「000011000 ,輝度47のビット表現は「111101000」 」であって,輝度47から輝度48に変化した場合と,輝度48から輝度47に変化した場合とで,そのビット表現が変わるものではないから,原告の主張する検討結果は根拠のないものである。
(3)取消事由2に対し原告は,審決が「後者(判決注,先願発明)は,実施形態として明示されてはいないものの,8及び9以外の分割サブフィールド数を有する実施例(例えば,分割サブフィールド数が10のもの)を包含するものであり,また,このような実施例は前者(判決注,本願発明2)にも包含されることになるから,両者は実施例を共有することとなり,両者は同一の発明である。
また,本願発明1は,本願発明2を包含するものであるから,先願発明と同一の発明である(審決6頁下8行〜下1行)とするのは,発生する疑似輪 。」郭はサブフィールド数に応じて異なるのであるから失当であると主張する。
しかし,先願明細書(甲3)の図1の第1組の表現においては,分割サブフィールド数を9としているが,先願明細書(甲3)の特許請求の範囲に「 請求項6】電気的表示デバイスの表示電極に印加される駆動電圧の1 【フィールド期間を複数のサブフィールドに分割し,そのサブフィールドの組み合わせにより階調表示する階調表示方法において,輝度の高さの順序で隣接する2つのサブフィールドの輝度の差がほぼ一定値となる複数のサブフィールドを有することを特徴とする階調表示方法。 【請求項8】前記複数のサブフィールドの輝度を等差数列に選ぶことを特徴とする請求項6記載の階調表示方法 」と記載されているところからみても,先行技術には分割サブ 。
, フィールド数が9のもののみが記載されているとする必要はないものであり審決の「8及び9以外の分割サブフィールド数を有する実施例 例えば,分割(サブフィールド数が10のもの を包含する」との前記認定に誤りはない。ま )た 「発生する疑似輪郭はサブフィールド数に応じて異なる」との原告の主 ,張は,事象自体としては理解できるものの,それを以て,同一性の認定の誤りとする根拠が不明である。すなわち,先願発明も,発生する疑似輪郭がサブフィールド数に応じて異なるとしても,本願発明1と同様に動画偽輪郭の発生を抑制する効果を有するものと理解すべきである。
第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審決 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
本件訴訟の争点は,本願発明(出願日平成9年6月19日)が先願発明(出願日平成9年3月4日,公開日平成10年6月9日。甲2参照)と同一であるとして特許法29条の2(審決は 「29条の2第1項」とするが,29条の ,2第2項が平成6年法律第116号により削除されているから,正確でない。
ただし,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない )により特許を。
受けることができないか,である。
2本願発明と先願発明の内容(1)本願発明ア本願明細書(本件補正後の明細書。甲4,5)には 「特許請求の範,囲」として,前記第3の1(2)(発明の内容)の記載があるほか 「発明,の詳細な説明」として次の記載がある。
(ア)発明の属する技術分野「本発明は,画像の1フィールド分を,複数のサブフィールドの画像に分割して表示して多階調表示を行う表示装置において,動画像表示時に発生する中間調表示の階調乱れを改善して表示する多階調画像表示装置に関するものである(段落【0001 ) 。」】(イ)従来の技術「従来,画像の1フィールド分を,複数のサブフィールドの画像に分割して表示して多階調表示を行う表示装置,例えばプラズマディスプレイ装置を用いて階調表示を行う場合,動画像表示においていわゆる疑似輪郭状の階調乱れが発生することが知られている(段落【0002 ) 。」】「…動画疑似輪郭を軽減する試みとして,従来の画像表示装置においては,上位の複数ビットに対応するサブフィールドの輝度重みを分割し,さらに分散配置して構成することによって動画像表示における中間調表示乱れを軽減しようとする試みがなされている。…最上位ビットの重みを小さくして,中間調乱れの発生をできるだけ抑えようとするとともに,サブフィールドの始めと終りに重みの大きいサブフィールドを分散して配置することで,動画像を表示した時に観測される画像にボケを発生させ,動画疑似輪郭を目立たなくしようとするものである(段落【0。」004 )】(ウ)発明が解決しようとする課題「…従来の画像表示装置においては,最も輝度重み付けの大きいサブフィールドが1フィールドの前半と後半とに分散して配置されている。…動画像を視線が追従して観測した場合は,…視線の方向によって異なる強い階調乱れが発生しており,動画像疑似輪郭の抑制が不十分であった。
… (段落【0005 ) 」】(エ)課題を解決するための手段「前記課題を解決するために,本発明の多階調画像表示装置は,入力信号の1フィールドを,所定の輝度重み付けを有する所定の複数M個のサブフィールドに分割し,前記各サブフィールドのオン制御またはオフ制御によって多階調表示を行う画像表示装置において,前記複数M個のサブフィールドの輝度重みが単調増加または単調減少となる順序にて配置し,前記複数M個の各サブフィールドは,前記入力信号の信号レベルを昇順に変化させて表示した時,当該輝度の表示が可能なサブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせのうち,輝度重みの大きいサブフィールドのオン制御をできるだけ抑制するように制御したことを特徴とする多階調画像表示装置である(段落【0006 ) 。」】「本発明によれば,複数のサブフィールドの輝度重みが単調増加または単調減少となる順序にて配置し,前記複数の各サブフィールドは,前記入力信号の信号レベルを昇順に変化させて表示した時,当該輝度の表示が可能なサブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせのうち,輝度重みの大きいサブフィールドのオン制御をできるだけ抑制するように制御したことを特徴としているので,発光の分布の大きな変化をできるだけ抑制することができ,結果として動画疑似輪郭の発生を少なくすることができる。… (段落【0009 ) 」】(オ)発明の実施の形態「…所定の輝度を表示することが可能な各サブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせのうち,輝度重みの大きいサブフィールドはできるだけオフとなる組み合わせを優先して発光させることになる。このため,入力信号の変化があった場合の各サブフィールドでの発光分布の大きな変化をできるだけ抑制することができ,結果として動画疑似輪郭の発生を少なくすることができる。… (段落【0011 ) 」】(カ)発明の効果「本発明の多階調画像表示装置は,所定の輝度を表示することが可能な各サブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせのうち,輝度重みの大きいサブフィールドはできるだけオフとなる組み合わせを優先して発光させることを特徴としている。このため,入力信号の変化があった場合の各サブフィールドでの発光分布の大きな変化をできるだけ抑制することができ,結果として動画疑似輪郭の発生を少なくすることができる(段落【0026 ) 。」】「また本発明の多階調画像表示装置は,…発光の分布の変化の方向を分散できるため,発生する動画疑似輪郭の大部分を等価的にキャンセルする効果が得られる(段落【0027 ) 。」】「なお,本発明の効果は以上説明した実施の形態に示す特定の場合にのみ限定されるものではなく,サブフィールド数を増加させたり,サブフィールドの順序を逆転させる等,種々の変形を行っても同様の効果が期待できることは言うまでもない。… (段落【0029 ) 」】イ上記ア(ア)〜(カ)の各記載によれば,本願明細書(甲4,5)には,画像の1フィールド分を,複数のサブフィールドの画像に分割して表示して多階調表示を行う表示装置(例えばプラズマディスプレイ装置)を用いて階調表示を行う場合,動画像表示においていわゆる疑似輪郭状の階調乱れが発生するという技術的課題があったこと,かかる技術的課題を解決する手段として,輝度の表示が可能なサブフィールドのオン・オフ制御の組み合わせのうち,輝度重みの大きいサブフィールドのオン制御をできるだけ抑制するように制御したことを特徴とする多階調画像表示装置としたこと,が記載されていると認められる。
(2)先願発明ア先願発明の認定のうち,先願発明が 「1フィールドを複数のサブフィ ,ールドに分割し,各サブフィールドの輝度の重みの比が,1番目から所定番目までのサブフィールドは公比2の等比数列で,前記所定番目以降のサブフィールドは所定の公差の等差数列で重み付けし,これらのサブフィールドの組み合わせにより階調を表現する 「階調表示装置 (審決6頁1 」」5行〜18行,21行)であることは,当事者間で争いがない。
イまた先願明細書(甲3)には,次の記載があることが認められる。
(ア)「…動画偽輪郭は2進数で輝度が重み付けされた複数のサブフィールドを組み合わせて階調を表示させる階調表示方法において,桁上げが生じる1階調の変化時に発生する時間的な不均一性により起こる。従来はサブフィールドの配置や上位サブフィールドの分割などにより,この時間的な不均一を分散させる対策を行っていたが,動画偽輪郭の発生原因である時間的な変動を根本的に除去する対策になっておらず,効果に限界がある。時間的な不均一の発生原因は,2進数による重み付けをしたサブフィールド法にあり,これを変えない限り,根本的な解決にならない(段落【0030 ) 。」】(イ)「本発明の階調表示方法とその表示装置は,輝度の高さの順序で並べた複数のサブフィールドの輝度を等差数列に選ぶことにより,輝度の桁上げが1桁で済むため,輝度を2進数で重み付けした従来の階調表示方法によるサブフィールドで問題となる輝度の桁上げ時における時間的な乱れが著しく緩和される。その結果,動画偽輪郭が著しく抑制される(段落【0034 ) 。」】(ウ)「図1は,本発明の第1の実施形態による階調表示方法の説明図であり,1フィールドをSF1からSF9の9個のサブフィールドを用いて,256階調の各階調を表すサブフィールドの組み合わせを示す。図1の例では上位のサブフィールドSF5からSF9のみを示しているが,下位のサブフィールドSF1からSF4は図18と同様に通常の2進数による重み付けをしており,図示されていない。即ち,SF1,SF2,SF3,SF4はそれぞれB0,B1,B2,B3に対応して1,2,4,8の輝度に重み付けされている。これら4個のサブフィールドSF1からSF4を組み合わせて,0から15の範囲の輝度を表現する 」。
(段落【0041 )】「…従来の2進数で重み付けした場合に問題になった輝度63から64,輝度127から128,輝度191から192に1階調変化した時の発光期間の変化が,本実施形態では隣接サブフィールドに発光が移動するだけで済む。すなわち,輝度63から64への変化は,サブフィールドSF6からその隣のサブフィールドSF7に発光が移るだけである 」。
(段落【0044 )】「また,最大の動画偽輪郭が発生する輝度127から128への変化は,同様にサブフィールドSF6からSF7に発光を移すだけで済む。さらに,輝度191から192への変化は,サブフィールドSF7からSF8に発光が移るだけで済む。当然,下位4個のサブフィールドの変化は従来と同じであるが,下位4個のサブフィールドは発光期間が極めて小さいため,無視できる(段落【0045 ) 。」】「この様に,等差数列になるように上位の各サブフィールドの輝度の重みを定めると,上位のサブフィールドの桁上げ時の変化が1桁で済み,1階調変化時のハミング距離を1にできる。また,情報の冗長性が増し,同じ輝度をビット4からB8を用いて複数個の組み合わせで表現できる。
図1では第1組以外に第2組,第3組の表現が可能である。輝度0から47と208から255までは第1組の表現しかできないが,輝度48から79と176から207は第1組と第2組の2種類の表現ができ,輝度80から175は第1組,第2組,第3組の3種類の表現ができる。
2種類以上の表現から選択できる輝度48から207までの第1組の表現は,輝度32から47の表現「01000 ,輝度208から223 」の表現「10111」と比べ,上位の変化が少ない表現を選び,それを第1組としている。従って,図1では第1組の表現を用いることにより,階調変化時のサブフィールドの変化を小さくでき,動画偽輪郭の発生を抑制できる。但し,第2組,第3組の表現からも,階調の変化における輝度変化が第1組と大差ない表現を選ぶことができる(段落【00。」46 )】「さらに,これらの第1から第3組の表現を画素,走査線,フィールド,フレームなどで適宜選択する事により,より効果的に動画偽輪郭を抑制できる(段落【0049 ) 。」】(エ)「図3は…図1との違いは,図1の最上位のサブフィールドSF9を除き,8個のサブフィールドSF1,SF2,SF3,SF4,SF5,SF6,SF7,SF8を用いている点である。これにより,図3に示すように,輝度0から175までの176階調を表示できる。
この実施例も図1と同様,上位のサブフィールドSF5からSF8までの輝度が等差数列になるように重み付けしているため,桁上がりが隣のサブフィールドに移るだけになる。この結果,…動画偽輪郭を著しく抑制できる(段落【0053 ) 。」】(オ)「図8は本発明による階調表示装置の実施形態を示し,とくにプラズマディスプレイパネル(PDP)の階調表示装置の具体的な構成図である。データ電極7は1本ごとにデータドライバ71に接続され,そのデータドライバ71によって書き込み走査期間にデータパルスが各データ電極に印加される(段落【0064 ) 。」】「外部から入力されたRGB表示データは逆ガンマ補正回路81に供給され,プラズマディスプレイパネルの輝度特性に合うように補正される。逆ガンマ補正回路81は256階調の場合,256ワード8ビットの読み取り専用メモリで実現される。逆ガンマ補正回路81で変換されたRGB各8ビットの表示データは,輝度情報変換回路82に供給される。輝度情報変換回路82(判決注 「52」は誤記 )は各8 ,。
ビットの256階調を表現するRGBデータを入力とし,少なくとも上位桁が等差数列に重み付けられた表示データ,例えば,図1,図3,図4に示されたビットに変換し,メモリ制御回路78を介してフレームメモリ79に供給される(段落【0069 ) 。」】「輝度情報変換回路82の出力は,図1に示した方法では下位桁B0からB3が1,2,4,8に重み付けされ,上位桁B4からB8が16,32,48,64,80にそれぞれ重み付けされている。このB0からB8のデータを基にサブフィールドの維持期間が決められ,階調表示が行われる。同様に図3,図4,図5に示した符号に基づくサブフィールドを発生できる。フレームメモリ79を読み出すタイミングは,タイミング制御回路83により制御される。フレームメモリ79のアドレスは,タイミング制御回路83で指示されたタイミングにメモリ制御回路が発生する(段落【0070 ) 。」】「輝度情報変換回路82は,読み取り専用メモリ(ROM)で容易に実現できる。例えば,図1に示した方法では256ワード,9ビット以上のROMで実現でき,図3の例では256ワード8ビットのROMで実現でき,下位桁を図4に示す方法で重み付けされても256ワード9ビット,あるいは10ビットで実現できる(段落【0071 ) 。」】(カ)「…本発明により,サブフィールドの組み合わせにより階調を表示する際に,桁上げされる1階調の輝度の変化に際しても,隣接サブフィールドに発光期間が移動するだけで済むため,…従来問題となっていた…動画像偽輪郭を著しく抑制…できる(段落【0078」 。」】)【図1】ウ上記イ(ア)〜(カ),図1(特に(オ),図1)の各記載によれば,先願明細書(甲3)には,先願発明の階調表示装置の実施形態として,輝度情報変換回路82が,各8ビットの256階調を表現するRGBデータを入力とし,少なくとも上位桁が等差数列に重み付けられた表示データである,図1に示されたビットに変換し,メモリ制御回路78を介してフレームメモリ79に供給すること,輝度情報変換回路82の出力は,図1に示した方法では下位桁B0からB3が1,2,4,8に重み付けされ,上位桁B4からB8が16,32,48,64,80にそれぞれ重み付けされていること,及び,輝度情報変換回路82は,図1に示した方法では256ワード,9ビット以上のROMで実現できることが,開示されている。
したがって,先願明細書(甲3)の図1の方法は,輝度情報変換回路は,256ワード,9ビットのROMで実現できるものであり,最終的に輝度情報変換回路として実現されたときには,いずれか一つの組に特定されるものというべきである。そうすると,先願明細書(甲3)には,図1の第1組に特定した輝度情報変換回路が実施例として記載されていることは明らかであり,同明細書(甲3)には,同一の階調値を表す複数の組み合わせがある場合には,上位の変化が少ない表現を用いることにより,階調変化時のサブフィールドの変化を小さくして,動画偽輪郭の発生を抑制する階調表示装置が記載されているということができる。
以上を前提に,以下検討する。
3取消事由1について(1)原告は,先願発明の「これらのサブフィールドの組み合わせにより階調を表現するとともに,同一の階調値を表す複数の組み合わせがある場合には,上位の変化が少ない表現を用いる」について,先願明細書(甲3)の【0046【0049 ,図1の記載などから,先願発明は 「同一の階調値を 】,】 ,表す複数の組み合わせがある場合には,選択肢が増えたことで,それらを適宜選択可能とする」という技術思想が開示されているものである,と主張する。
しかし,先願明細書(甲3)の図1の各組が適宜選択可能であり,各組に優劣が存在しないとしても,上記2(2)ウに説示したとおり,先願明細書(甲3)には,図1の第1組に特定した輝度情報変換回路が実施例として記載されていることが明らかであるから,このように図1の第1組に特定した輝度情報変換回路内において,他の組と適宜選択可能とみることはできない。
このことは,先願発明が,上記2(2)イ(ア)のように,2進数による重み付けをしたサブフィールド法に対する問題意識からなされたことなどによっても,また,原告の指摘する段落【0046【0049】の記載によって 】,も,何ら左右されるものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,先願発明の「上位の変化が少ない表現 (段落【0046 )に 」】ついて,輝度(信号レベル)の変化があった場合に,上位の変化をなるべくさせないように,すなわち上位のオン制御(またはオフ制御)をできるだけ維持するようにして,動画偽輪郭の発生を抑制しようとするものであると解釈される,そうすると,本願発明1と先願発明では,輝度を下げていくような場合に,オン・オフ制御する点灯パターンが異なることになる,と主張する。
しかし 「上位の変化が少ない表現」との文言が十分明確なものとまでは ,言い難いとしても,本願発明1において,サブフィールド数を9個とし,輝度重みを1,2,4,8,16,32,48,64,80とした場合には,先願発明における図1の第1組の実施例と同一の輝度表現となるものである。
これに照らせば,このような同一の輝度表現を,本願発明1では「最も輝度重みの大きいサブフィールドがオフとなる組み合わせを表示させ」ると特定するのに対し,先願発明では「上位の変化が少ない」と特定したものというべきであり,同一の輝度表現を異なった表現を用いて特定したに過ぎないと解するのが相当である。
また,前記2(2)ウで説示したとおり,先願発明の図1の方法では,輝度情報変換回路は,256ワード,9ビットのROMで実現できるのであるから,最終的に輝度情報変換回路として実現されたときには,いずれか一つの組に特定されるものである。そうすると,先願発明では,当然に,輝度とサブフィールドのオン・オフとの組み合わせは,一対一に対応することになるから,輝度の上げ,下げにより,オン・オフ制御が異なるものではない。したがって,原告が主張するように,先願発明において,輝度を下げていくような場合のみオン・オフ制御する点灯パターンが異なることはないものである。
なお,原告は,先願発明は,先願明細書(甲3)の図1のいずれか1組,例えば第1組の表現のみを利用して,発光を制御することまで開示するものではないし,決定された組み合わせのみを利用して多階調表示を行うという技術思想も開示されていない,また,先願発明書(甲3)は,第1組の具体的な作り方を述べていない,と主張する。
しかし,先願明細書(甲3)に開示された先願発明において,輝度情報変換回路として実現される前の段階を捉えて上記のような側面があるといえたとしても,前記2(2)ウで説示したように,先願明細書(甲3)には図1の第1組に特定した輝度情報変換回路が実施例として記載されていることが明らかであり,このように図1の第1組に特定した輝度情報変換回路内においては他の組と適宜選択可能とみることはできないということが何ら左右されるものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3)原告は 「変化が少ない」との文言は,ハミング距離が小さいことを意 ,味するものと解釈され,先願発明は,段落【0046】において,第1組を決定する際に,2つの境界に着目して,変化の小さいものを選択することを述べていると考えられる,と主張する。
しかし,先願明細書(甲3)においては,ハミング距離の記載は,上記2(2)イ(ウ)に記載したように,段落【0046】の「この様に,等差数列になるように上位の各サブフィールドの輝度の重みを定めると,上位のサブフィールドの桁上げ時の変化が1桁で済み,1階調変化時のハミング距離を1にできる。…」との部分のみであるところ,上位のサブフィールドの桁上げ時にはその下位のサブフィールドはオフになり,この場合,ハミング距離は1ではなく2になるから 「1階調変化時のハミング距離を1にできる 」 , 。
という記載自体が誤りであると認められる。しかも,前後の記載(上記2(2)イ(ウ)の,段落【0044】〜【0046】の記載)に照らしても,先願発明は,ハミング距離を小さくすることで,動画偽輪郭の発生を抑制するという目的を達成するものとは認められず,段落【0046】のハミング距離に関する記載は,単に,等差数列になるように上位の各サブフィールドの輝度の重みを定めると,上位のサブフィールドの桁上げ時の変化が1桁で済むことを意味するにすぎないものであって,先願明細書(甲3)において,ハミング距離の記載自体が,技術的に意味を持つものではないというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
4取消事由2について(1)原告は,審決が,先願発明につき,実施形態として明示されてはいないものの,8及び9以外の分割サブフィールド数を有する実施例(例えば,分割サブフィールド数が10のもの)を包含するものであると認定したのを失当であるとし,先願発明においては,せいぜい,分割サブフィールド数が9のもののみが記載されている,と主張する。
しかし,前記2(2)イ(オ)に記載した段落【0071】の記載によれば,先願明細書(甲3)には,図1の方法の下位桁を,図4に示す方法で重み付けした例として,サブフィールドが10個のものも開示されている。
また,前記2(2)イ(エ)に記載した段落【0053】の記載によれば,先願明細書(甲3)には,図1の最上位のサブフィールドSF9を除き,8個のサブフィールドからなる176階調の実施例が開示されている。
そうすると,先願明細書(甲3)に,図1のサブフィールド数を変えた場合の例が記載されているというのであるから,先願発明は,分割サブフィールド数が9のもののみに限られるものではなく,図1の上位のサブフィールドSF9,SF8を除き,7個のサブフィールドから成る112階調のものや,図1の最上位のサブフィールドSF9の上位に,更に輝度96のSF10を加えた10個のサブフィールドからなる352階調のものも含まれているというべきである。
したがって,先願発明は,分割サブフィールド数を8又は9とした実施例に特定されるものではないというべきである。
(2)なお,原告は,上記主張の根拠として,発生する疑似輪郭は,サブフィールド数に応じて異なる,と指摘する。
しかし,先願明細書(甲3)には,発明の効果として,前記2(2)イ(カ)に記載した段落【0078】のとおりの記載があり,これによれば,先願発明は,サブフィールドの組み合わせにより階調を表示する際に,桁上げされる1階調の輝度の変化に際し,隣接サブフィールドに発光期間が移動するだけで済む構成により,従来問題となっていた動画像偽輪郭を著しく抑制するものと認められる。これに,前記2(2)イ(ア)〜(カ)の記載を併せ考慮すると,先願発明の動画像偽輪郭を抑制するという効果は,桁上げされる1階調の輝度の変化に際し,隣接サブフィールドに発光期間が移動するだけで済む構成によりもたらされるというべきであり,サブフィールド数という構成によるものとは認められないから,発生する疑似輪郭がサブフィールド数によって異なるということを理由に本願発明1と先願発明の同一性がないということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
5結語以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決には違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 田中孝一