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関連審決 無効2004-35095
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  数値限定 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10116号 審決取消請求事件
原告 JSR株式会社
訴訟代理人弁理士 大島正孝
同勝又秀夫
同大原敏男
被告 チッソ株式会社
訴訟代理人弁理士 吉見京子
同石井良夫
同 後藤 さなえ
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-35095号事件について平成18年2月7日にした審決を取り消す。
事案の概要
原告は後記特許の特許権者であるところ,被告から特許無効審判請求があり,特許庁が平成17年2月17日にこれを無効とする審決をしたので,原告がその取消しを求めて訴えを提起した。これに対し当庁は,平成17年7月8日,特許法181条2項に基づき,決定により上記審決を取り消したため,再び特許庁で審理されたが,同庁は,平成18年2月7日,前回とほぼ同様の審決をした。本件は,特許権者である原告が,平成18年2月7日になされた上記審決の取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯原告(旧表示 ジェイエスアール株式会社)は,平成4年10月27日,名称を「液晶配向剤」とする発明につき特許出願をし,平成14年1月11日,特許第3267347号として設定登録を受けた(請求項1ないし4。以下「本件特許」という。)。
これに対し,被告から特許無効審判請求がされ,同請求は無効2004-35095号事件として係属したが,特許庁は,平成17年2月17日,「特許第3267347号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をしたので,原告は,その取消しを求める訴訟を提起したところ,当庁は,平成17年7月8日,原告から訂正審判請求があったことを理由に,特許法181条2項により,上記審決を取り消す旨の決定をした。
その後原告は,平成17年7月27日付けで訂正請求(訂正後の請求項は1及び2。旧請求項3,4は削除。以下「本件訂正」という。甲2。なお,平成17年12月9日付けで訂正請求の補正〔甲3〕がなされた。)をしたが,特許庁は,平成18年2月7日,補正及び訂正を認めるとした上,「特許第3267347号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」ということがある。)をし,その謄本は平成18年2月17日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件訂正後の発明の内容は,次のとおりである。(甲3。以下,請求項1及び2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」「本件発明2」という。)【請求項1】(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物,2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物,5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物,1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンおよびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物と,p-フェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン,9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン,2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンおよび2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物であるポリアミック酸から選ばれるポリマー,および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有しそして他の溶媒をさらに含有していてもよく且つこの混合溶媒に対しN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1〜50重量%の範囲にありそして上記他の溶媒の含有率が0〜80重量%の範囲にある混合溶媒,からなりそして印刷法により塗布することを特徴とする液晶配向剤。
【請求項2】他の溶媒がブチルセロソルブまたはエチルセロソルブである請求項1に記載の液晶配向剤。
(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件訂正後の本件発明1及び2は,特開昭61-275352号公報(審判甲1,本訴甲4。発明の名称「可溶性ポリイミド溶液,出願人「日本合成ゴム株式会社」。以下「引用刊行物」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項,123条1項2号により無効とすべきである,等としたものである。
イ なお,審決は,引用刊行物に記載された発明(以下「引用例発明」という。)を下記(ア)のとおり認定の上,本件発明1と引用例発明との一致点及び相違点を下記(イ),(ウ)のとおり認定している。
(ア) 引用例発明ブタンテトラカルボン酸二無水物,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物,2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物およびピロメリット酸二無水物などよりなる群から選ばれるテトラカルボン酸成分と,p-フェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物である可溶性ポリイミド,およびγ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの組成が5〜95重量部の範囲にある混合溶媒からなり,印刷法により塗布することよりなる液晶配向剤。
(イ) 一致点「(A)ブタンテトラカルボン酸二無水物,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物,2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物およびピロメリット酸二無水物よりなる群から選ばれるテトラカルボン酸二無水物と,p-フェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよび4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選ばれるジアミンの反応生成物であるポリマー,および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの含有率が5〜50重量%の範囲にある混合溶媒,からなりそして印刷法により塗布することよりなる液晶配向剤。」である点。
(ウ) 相違点上記テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物である「ポリマー」が,引用例発明では,「可溶性ポリイミド」であるのに対して,本件発明1では「ポリアミック酸」である点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,本件発明1及び2は,以下に述べるとおり,引用刊行物及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから,審決は違法として取消しを免れない。
ア 取消事由1(本件発明1と引用例発明との一致点の認定の誤り,相違点の看過,容易想到性の判断の誤り)審決は,引用例発明の認定が不正確であるため,本件発明1と引用例発明と一致点の認定の誤り,相違点の看過,及び相違点に係る容易想到性の判断の誤りがある。
(ア) 引用例発明の認定の不正確性審決の認定した引用例発明の構成を整理すると,@ 可溶性ポリイミドを用いた液晶配向剤であること,A 可溶性ポリイミドの溶媒として,γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの組成が5〜95重量部の範囲にある混合溶媒を用いること,及びB 可溶性ポリイミドの上記混合溶媒の溶液(液晶配向剤)を印刷法により塗布すること,となる。
これを言い換えれば,引用刊行物には,@´ポリアミック酸を用いた液晶配向剤であること,A´上記混合溶媒をポリアミック酸の溶媒として用いること,及びB´ポリアミック酸の上記混合溶媒への溶液(液晶配向剤)を印刷法により塗布すること,は何ら記載されていない。
なお,引用例発明は,スピンコートで塗膜に発生する斑点やストリエーションによる塗膜の不均一性を解決することを目的としており(甲4の1頁右下欄12行〜2頁左上欄2行),塗布法としては,「スピンナー法」とともに「ロールコーター法」や「印刷法」を,発明の詳細な説明に一言記載しているにすぎず(6頁左上欄12〜13行参照),印刷法は実施例では用いられていない。
また,審決の引用例発明の認定では,前記のとおり「……テトラカルボン酸二無水物と……ジアミンの反応生成物である可溶性ポリイミド」と記載されているが,可溶性ポリイミドは,テトラカルボン酸二無水物「加熱脱水することによるイ とジアミンの反応生成物であるポリアミック酸をミド化反応を行うか,あるいは酸無水物共存下などの一般的に公知の化学的イミド化反されるものであるから ,可溶性 応を行うことにより製造」 (審決16頁3〜6行)ポリイミドが,ポリアミック酸を経由せず,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの直接の反応生成物であるかのごとき認定は正確さを欠いている。
(イ) 一致点の誤認及び相違点の看過a 上記(ア)のとおり,引用例発明における可溶性ポリイミドは,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物であるポリアミック酸をイミド化反応させて製造されるものである。これに対し,本件発明1のポリアミック酸は,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの直接の反応生成物である。
したがって,審決が,両者は「……テトラカルボン酸二無水物と,………ジアミンの反応生成物であるポリマー」という上位概念で一致すると認定したことは,誤りである。
b そして,引用刊行物には,上記(ア)A´のとおり,上記混合溶媒をポリアミック酸の溶媒として使用することは記載されておらず,また,上記(ア)B´のとおり,ポリアミック酸の上記混合溶媒への溶液(液晶配向剤)を印刷法により塗布することも記載されていないのであるから,本件発明1と引用例発明との相違点として,これらの点(以下「相違点2」,「相違点3」という。)を認定の上,検討すべきであったものである。
(ウ) 容易想到性の判断の誤りa 審決の認定した相違点(以下「相違点1」という。)につき,審決「@『ポリアミック酸』は『可溶性ポリイミド』のイミド化前駆体であり…… は,…,A『可溶性ポリイミド』が,ポリイミド配向膜の形成に用いられるのであれば,その前駆体である『ポリアミック酸』も,同様に,ポリイミド配向膜の形成に用いられることは周知であるから………,B引用例発明において,『可溶性ポリイミド』をポリイミド配向膜の形成に用いることが知られているとき,そのイミド化前駆体である『ポリアミック酸』をポリイミド配向膜の形成に用いて本件発明1とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。」(審決19頁第2段落,@〜Bの符号は便宜と判断したが,誤りである。 上付加した。)審決は,上記判断において,本件発明1の液晶配向剤が「ポリイミド配向膜」の形成に用いられるものであることを前提に判断しているが,本件発明1のポリアミック酸を用いる液晶配向剤は,「ポリアミック酸配向膜」の形成に用いられるものなのである。
本件明細書(平成17年12月9日付け「手続補正書(訂正請求書)」「……本発明の液 〔甲3〕添付の訂正明細書をいう。以下同じ。)には,晶配向剤を印刷により塗布し,好ましくは80〜200℃,より好ましくは120〜200℃のと記載され,実施例にお 温度で加熱して塗膜を形成させる。」(段落[0021])ける加熱温度は180℃である 。ポリアミック酸の液晶配 (段落[0034])向剤を塗布した後,180℃程度の温度で加熱した場合,形成される塗膜のポリアミック酸のイミド化率はほぼ0%であり,200℃の場合でもイミド化率が20%にとどまるから(1989年11月7日発行「電子情報通信学会技術研究報告」vol.89 No.273〔甲5〕7〜12頁,以下「甲5文献」という。),形成される塗膜は「ポリアミック酸配向膜」であって,「ポリイミド配向膜」ではない。
このように,本件発明の液晶配向剤は「ポリイミド配向膜」の形成に用いられるものではないから,審決の上記判断は不当である。
b 審決の上記@〜Bの判断が誤りである理由を,さらに詳細に述べると次のとおりである。
(a) 液晶配向膜を形成するに当たっては,下記の3つのルートがある(以下,順に「ルートA」のようにいう。)。
A:ポリアミック酸を基板に塗布し,塗布後,加熱して不融不溶ポリイミドの配向膜を形成する方法。なお,「不融不溶」とは加熱してもそれ自体が溶融することはなく且つ溶媒に溶解することもない,すなわち「不溶性」という意味である。従って,ルートAにおけるポリアミック酸は,塗布前に加熱または脱水剤によりイミド化すると不融不溶ポリイミドとなるので,もはやそれを塗布することはできない。
B:可溶性ポリイミドとなり得るポリアミック酸を基板に塗布し,加熱してポリアミック酸の配向膜を形成する方法。ルートBでは「ポリアミック酸」を基板に塗布した後,加熱してもポリイミド配向膜を形成しない。
C:可溶性ポリイミドとなり得るポリアミック酸を,脱水剤によりイミド化して可溶性ポリイミドに変換し,この可溶性ポリイミドを基板に塗布し,加熱してポリイミド配向膜を形成する方法。
(b) ところで,液晶配向剤のポリアミック酸が「イミド化前駆体」といえるか否かは,ポリアミック酸を基板に塗布し,加熱して形成した配向膜がポリイミド配向膜であるか否かで決まる。形成された配向膜がポリイミド配向膜であるときには,ポリアミック酸は「イミド化前駆体」といえるが,形成された配向膜がポリアミック酸のままの配向膜であるときには,塗布前の(液晶配向剤中の)ポリアミック酸は,当然のことではあるが,「イミド化前駆体」とはいえないのである。
上記ルートAでは,塗布されたポリアミック酸がポリイミド配向膜を形成するので,液晶配向剤中のポリアミック酸は「イミド化前駆体」といえるのに対し,ルートBでは,塗布されたポリアミック酸がポリアミック酸のままの配向膜を形成するので,当該ポリアミック酸はイミド化前駆体とはいえないのである。また,ルートCの場合も,ポリアミック酸が基板に塗布されるのではなく,ポリアミック酸があらかじめ可溶性ポリイミドに変換され,可溶性ポリイミドが塗布されるのであるから,ポリアミック酸がイミド化前駆体であるとはいえない。
(c) 上記ルートA〜Cと,審決が上記判断の中で引用している技術文献(本訴乙2〜乙7)に記載された方法との関係を示しつつ,審決の上記判断@〜Bが誤っている理由を説明すると,次のとおりである。
(T) 1990年10月30日初版2刷発行(日刊工業新聞社刊)「液晶デバイスハンドブック」(乙2。以下「乙2文献」という。)に「ポリイミド系配向膜材料の特徴は,前駆体であるポリアミック酸の状態 は,では溶解性が良好で,塗工材として濃度,粘度などの調整が容易であり,硬化により不融不溶の安定したポリイミド膜を形成するという点である」(250頁2と記載されている。乙2文献に記載されている方法 〜7行参照)は,ルートAの方法に該当する。したがって,この場合ポリアミック酸は「イミド化前駆体」ということができる。
(U) 乙2文献は,ポリアミック酸から可溶性ポリイミドを得ることについては何も記載していないが,審決の上記認定は,「ポリアミック酸」を「可溶性ポリイミド」のイミド化前駆体と認定しているから,「可溶性ポリイミド」となり得る「ポリアミック酸」の場合も,それを基板に塗布し加熱すると,乙2文献に開示されたポリアミック酸と同様にポリイミド配向膜を与えるものと理解していることは明らかである。
しかしながら,下記乙3〜乙7公報の開示内容から明らかとなるとおり,「可溶性ポリイミド」となり得る「ポリアミック酸」は基板に塗布し加熱してもポリイミド配向膜を与えないから,審決の上記判断のうち(i)は誤っている。
(V) 審決は,上記判断のAにおいて,下記の特許公報を引用した(以下,順に「乙3公報」〜「乙7公報」という。)。
・特開平1-239526号公報(審決甲9,本訴乙3)・特開平1-214821号公報(審決甲10,本訴乙4)・特開平2-173614号公報(審決甲11,本訴乙5)・特開平2-291527号公報(審決甲12,本訴乙6)・特開平2-287324号公報(審決甲13,本訴乙7)乙3〜乙7公報の実施例には,イミド化により「可溶性ポリイミド」となり得る「ポリアミック酸」を用いて,配向膜を形成する2つの方法が記載されており,これらの方法はそれぞれ,ルートBとルートCに該当する。
すなわち,乙3〜乙7公報に開示された実施例又は比較例の一部においては,ポリアミック酸を基板に塗布した後,150〜180℃程度の温度で加熱(乾燥)して配向膜を得ている。このような温度でイミド化が殆んど進まないことは甲5文献に記載されているから(上記a),得られた配向膜もポリアミック酸のままであり,ルートBに該当する。ルートBにおいて,ポリアミック酸は,「イミド化前駆体」として用いられているわけではない。
また,乙3〜乙7公報に開示された実施例の他の一部では,ポリアミック酸をそのまま基板に塗布するのではなく,塗布する前に予めイミド化して「可溶性ポリイミド」を製造し,「可溶性ポリイミド」を基板に塗布して液晶配向膜を形成している。ルートCにおいても,ポリアミック酸は,「イミド化前駆体」として用いられているわけではない。
したがって,乙3〜乙7公報を根拠に,「可溶性ポリイミド」の前駆体であるポリアミック酸が,ポリイミド配向膜の形成に用いられることは周知である,とする上記Aの判断は誤りである。
(W) 以上のとおり,乙2文献はルートAの方法を開示しており,乙3〜乙7公報はルートB又はCを記載しており,また引用刊行物(甲4)も「可溶性ポリイミド」からポリイミド配向膜を形成する方法(ルートC)を記載しているだけである。
したがって,引用例発明に乙2文献及び乙3〜乙7公報の周知技術を組み合わせても,「可溶性ポリイミド」からポリイミド配向膜を形成する方法が得られるだけである。これに対し,本件発明1の液晶配向剤は,ポリアミック酸からポリアミック酸配向膜を形成するのに用いられるものであるから,周知技術を考慮しても引用例発明から当業者が容易に想到し得たものではない。上記Bの判断が誤っていることは明らかである。
イ 取消事由2(本件発明1が奏する効果についての判断の誤り)「……本件発明1の奏する効 (ア) 本件発明1が奏する効果について,審決は,果は格別なものではなく,甲第1号証及び周知技術から予測し得る程度のものと云うべと判断した。 きである」(審決22頁最終段落)しかしながら,取消事由1において述べたとおり,本件発明1は,引用例発明とは発明の構成が大きく異なり,しかも,下記(イ)に述べるとおり,引用刊行物は,本件発明1のポリアミック酸を用いる液晶配向剤についての作用効果を何ら記載していない。
このように,本件発明1は,引用例発明と発明の構成が大きく異なり,引用例発明及び周知技術からから容易に想到できる構成ではない以上,効果について判断するまでもなく,本件発明1は引用例発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのである。
(イ) 膜厚のバラツキにつき本件発明1の液晶配向剤の印刷時の膜厚ムラ(膜厚のバラツキ)が少「……甲第1号証(判決注:引用刊行物のこ ないという効果に関連して,審決はと)においても,液晶配向剤を塗布して得られた塗膜には,斑点,ストリエーション(スジ状の凹凸)などがなく,均一な塗膜を形成することができる旨の効果を奏すること認定している。 とが示されている」(審決19頁下から第2段落)しかし,上記のとおり,引用刊行物には,可溶性ポリイミドの液晶配向剤が記載されているだけであり,しかも発明の目的はスピンコートで塗膜に発生する斑点やストリエーションによる塗膜の不均一性を解決しようとするものであり,印刷法は一言記載されているだけであるから,引用刊行物に記載された上記効果はスピンコートによる可溶性ポリイミドの液晶配向剤の効果にすぎない。引用刊行物には,ポリアミック酸の液晶配向剤は記載されていないので,上記効果は印刷法によるポリアミック酸の液晶配向剤の効果ではない。
むろん,引用刊行物の実施例では,スピンコートで得られた塗膜について斑点やストリエーションなどがないことが確認されているだけであり,本件発明1に関連する印刷で得られた塗膜について確認されているわけではない。
したがって,本件発明1の液晶配向剤の印刷時の膜厚ムラ(膜厚のバラツキ)が少ないという効果は,引用例発明に何ら記載も示唆もされていないから,引用例発明から決して予測し得るものではない。
(ウ) 実施例の膜厚平均値がいずれも「600Å」であることにつきa 審決は,「2. 被請求人の数値限定に係る主張について」と題する項(審決20頁第2段落〜22頁下から第2段落)において,本件明細書の実施例の膜厚平均値がいずれも「600Å」であることが不自然であり,信憑性を欠くと指摘しているが,臆測であり到底納得できるものではない。
審決が,上記指摘の根拠として挙げているのは下記の3点であるが,いずれも,明細書の実施例について直接立証されたものではない。
記@「従来,可溶性ポリイミド溶液を印刷法などで基板上に塗布する場合,わずかな印刷条件の違いにより,膜厚平均値は変動するのが常であって・・・・。」(審決20頁27〜29行)A「この点については口頭審理の場で,当審から被請求人に,どのような理由でそのような膜厚平均値となったかを尋ねたところ,被請求人から納得できる説明はなされなかった。」(審決20頁下3行〜下1行)B「被請求人自身の提出に係る……実験報告書においては,ポリマーと溶媒の何れかが相違する複数の液晶配向剤についての膜厚平均値は,366Å〜520Å若しくは482Å〜608Åと,ばらついており……,不自然さはないことからみても……」(審決21頁1〜5行)b 上記@の点に関し,多くの配向膜形成条件が膜厚に影響するということは確かであるが,そうであるからといって,直ちに,各実施例の膜厚がすべて600Åであるという本件明細書の実施例のデータが極めて不自然であるということにはならない。膜厚に影響する要因が多いことによって,一定の膜厚に配向膜を形成するための操作は面倒にはなるが,得られた結果である600Åが不自然であるといわれるような性格のものではない。
膜厚に影響する要因が全く不明であれば,膜厚を所望の厚さにすることはかなり困難かもしれないが,被告の技術者の陳述書(乙11)にもあるように,膜厚に影響する要因は,当業者は詳細に把握している。確かに要因の数が多く,それらを全て調整することは面倒ではあるものの,すべて調整のできる条件であり,これらの条件を調整することにより所望の膜厚を得ることは可能なのである。例えば,特開平2-173614号公報(乙5)の実施例および比較例でも膜厚が400Åまたは600Åの配向膜が現実に得られている。
液晶配向膜の膜厚を所望の厚さに揃えるということは,ユーザーである液晶装置メーカーから通常求められる特性の1つである。原告は,数多くの形成条件を十分に把握し,こういった条件を調整することで,ユーザーの所望する膜厚を与える液晶配向剤を提供してきたことにより,商業的成功をなし得たのである。
c 上記Aの点については審決の指摘するとおりであるが,口頭審理に臨むに当たり,まさか実験データの信憑性を疑われるなどとは思いも及ばず,説明の準備をしていなかったためにすぎない。平均値のデータがすべて600Åに揃っている理由は,口頭審理の後に原告が提出した訂正請求書(甲2)に説明したとおりである。
すなわち,本件明細書の実施例に記載した実験においては,吐出量と膜厚との関係を前もって大まかに把握し,ほぼ600Åの膜厚平均値を与える吐出量を推定し,その吐出量で同様な塗布を数回繰り返して行ったものである。また,得られた塗膜の膜厚測定には,分解能5Åの膜厚計を用いたため,5Å単位で測定された。このため,膜面内5カ所で測定された膜厚の値は,600Åを中心とするきわめて狭い範囲に収まっており,平均値の5Åよりも小さい値は意味がないから5Å単位で把握するので,その結果,膜厚平均値が600Åとなったのは,何ら不自然ではない。
d 上記Bの点については,審決の指摘する乙第2号証(本訴甲8)及び乙第3号証(本訴甲9)の実験報告書においては,ことさら膜厚平均値が600Åとなるような手順を行わなかったし,また,膜厚測定には分解能1Åの膜厚計を用いて行ったので,膜厚平均値はばらついておりまた数値も1Å単位で表示されていたものである。したがって,これらの実験報告書のデータとの比較から,実施例のデータが不自然であると判断することはできない。
実際にこうした液晶配向膜が工業的に使用されている実態である大型液晶テレビ画面などを見れば明らかなとおり,その液晶配向膜は600Åや400Åといった,規定の均一な膜厚で製造されており,こうした工業製品が均一な膜厚を保っていることが,不自然なことであったり,あり得ないことであるなどとは到底いえない。
ウ 取消事由3(本件発明2についての判断の誤り)審決は,本件発明2と引用例発明は,本件発明1と引用例発明との一致点及び相違点と同じ点で一致し,相違している,と認定した上で判断している。
本件発明1の進歩性の判断に誤りがあることは上記ア,イのとおりであるから,本件発明2についても,審決の判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否請求の原因(1)〜(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,いずれも失当である。
(1) 取消事由1に対しア 原告は,審決は原告のいう相違点2,3を看過していると主張する。
たしかに,本件審決は,引用刊行物にポリアミック酸についての溶媒や印刷法が記載されていないこと(原告のいう相違点2,3)を独立した相違点として明示的に認定はしていない。しかし,審決は,ポリアミック酸と可溶性ポリイミドとの違いが本件発明1と引用例発明との相違点であることを認定した上で,引用例発明の可溶性ポリイミドをポリアミック酸に置き換えることは容易であり,置き換えた結果,引用例発明には可溶性ポリイミドに関しての溶媒や印刷法についての記載があるのと同様にポリアミック酸に関しても溶媒や印刷法について記載されているのと等しく,そうであれば本件発明1は引用例発明から容易に想到し得ると判断しているのであって,原告のいう相違点2,3についても実質的な判断をしているのである。このような相違点に関する判断手法(構成要件がA+B+Cである本件発明に対して,A’+B+Cの引用発明があるとき,A’をAに変えれば本件発明に容易に想到するという判断手法)は,通常のものであって,何ら相違点の看過はない。
イ 原告は,審決が可溶性ポリイミドもポリアミック酸もいずれも「反応生成物であるポリマー」であるとして一致点の認定をしたことについて,引用例発明の認定に誤りがあると主張する。
しかし,ポリイミドを,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物であるポリアミック酸から得ることができることは,引用刊行物にも明確に記載されていることである。審決において,可溶性ポリイミドがポリアミック酸を経由したものであることを省略しているとしても,可溶性ポリイミド及びポリアミック酸は,いずれも「……テトラカルボン酸二無水物と……ジアミンの反応生成物であるポリマー」であることには違いないのであるから,審決の一致点の認定に誤りはない。
しかも,審決は,該ポリマーに関して,可溶性ポリイミドであるかポリアミック酸であるかの点が相違点であると正しく認定して,相違点判断をしているのであるから,上記の省略は何ら結論に影響を与えるものではない。
ウ また原告は,審決が,本件発明1のポリアミック酸を用いる液晶配向剤が「ポリイミド配向膜」の形成に用いられることを前提に判断したのは不適切であると主張をする。
しかし,ポリアミック酸は,通常,ポリイミド配向膜の形成に用いられるのである。しかも,審決は,周知例として乙3〜乙7公報を参照し,「ポリアミック酸も,……同,ポリイミド配向膜の形成に用いられることは周知である」としているのであるが,例えば,乙7公報には,実施例及び比較例として,テトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させて得たポリアミック酸について,「ポリアミック酸中間体溶液」を調製し,この溶液を基板に塗布した後加熱処理して「ポリイミド樹脂膜」を形成することが記載されている。
このように,ポリアミック酸もポリイミド配向膜の形成に用いられることは周知であり,審決がかかる周知事項をを前提に判断したことに誤りはない。
エ さらに原告は,ポリアミック酸を基板に塗布した後に加熱乾燥しポリイミド配向膜を得る技術と,ポリアミック酸をあらかじめイミド化して得た可溶性ポリイミドを基板に塗布してポリイミド配向膜を得る技術とは,相互に関連しないかのごとく主張する。
しかし,液晶配向剤に用いるポリマーとして,ポリアミック酸と可溶性ポリイミドとは互換性があり同等であることは,乙3〜7文献を始めとする多数の文献に記載されていた技術常識であり,原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2に対しア 原告は,引用刊行物には,本件発明1のポリアミック酸を用いる液晶配向剤の作用効果(膜厚のバラツキが少ないこと)は何ら記載されておらず,本件発明1の作用効果は,引用例発明から予測できない顕著なものである旨主張する。
しかし,ポリアミック酸を用いる液晶配向剤について膜厚のバラツキが少ないという効果は,引用刊行物の記載から予測し得るものである。引用刊行物には,可溶性ポリイミドを用いる液晶配向剤についての効果が記載されている。そして,上記(1)エのとおり,液晶配向剤についてポリアミック酸と可溶性ポリイミドは同等に扱われているのであるから,その作用効果も同等であると当業者は予測するのである。
よって,本件発明1の効果は引用例発明から予測し得る程度のものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
イ 原告は,審決が,本件明細書の実施例の膜厚平均値がいずれも600Åであるのは信憑性を欠くと判断したのは,根拠のない憶測であると主張する。
しかし,液晶配向膜の膜厚に影響する要因は数多く,これらを制御して膜厚平均値を600Åに揃えることはきわめて困難である。現に,原告自身に係る液晶配向剤関連の他の特許出願明細書においても,膜厚平均値は例外なく数10〜数100Åの単位でばらついている。
したがって,各実施例の膜厚平均値がすべて600Åであるという本件発明の実施例に信憑性がないことは明らかである。
(3) 取消事由3に対し原告は,本件発明2について,本件発明1についての審決の判断が誤りである以上,同様に本件発明2についての審決も誤りであると主張するが,前記のとおり,本件発明1についての審決の判断に誤りはないから,原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告の主張する審決の取消事由について順次判断する。
2 取消事由1について(1) 一致点の認定の誤り及び相違点の看過をいう主張につきア 原告は,本件発明1におけるポリアミック酸は,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの直接の反応生成物であるのに対し,引用例発明における可溶性ポリイミドは,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物であるポリアミック酸をイミド化反応させて製造されるものであるから,本件審決が,両者を,「………テトラカルボン酸二無水物と………ジアミンの反応生成物であるポリマー」という上位概念で一致すると認定したことは誤りであると主張する。
しかし,審決が「第5-2」の「a.」の「V」(審決15頁)及び「[」(同16頁)において摘示した引用刊行物(審決甲1,本訴甲4)の記載に照らすと,審決も,引用例発明における可溶性ポリイミドが,ポリアミック酸をイミド化反応させて製造されるものであることを理解していることは明らかである。そして,引用例発明における可溶性ポリイミドが,ポリアミック酸を経由して製造されるものであっても,テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて製造するものであることに変わりはないのであるから,審決の上記認定に誤りはない。
イ また原告は,引用例発明が混合溶媒を可溶性ポリイミドの溶媒として使用しているのに対し,本件発明1が混合溶媒をポリアミック酸の溶媒として使用していることを「相違点2」として認定すべきであり,さらに,ポリアミック酸の混合溶媒への溶液を印刷法により塗布していることを「相違点3」として認定すべきであり,審決がこれらを独立した相違点として認定の上検討していないことは誤りであると主張する。
しかし,審決は,引用例発明と本件発明1の一致点として,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物であるポリマーを,特定組成の混合溶媒への溶液とし,印刷法により塗布する液晶配向剤であることを認定し,相違点として,上記ポリマーが本件発明1ではポリアミック酸,引用例発明では可溶性ポリイミドと相違することを認定している。そして,その上で,可溶性ポリイミドをポリアミック酸に置き換えた構成が容易なことを判断しているのであるから,原告のいう相違点2,3についても実質的に判断している。
審理の対象となる発明の発明特定事項を,構成要件ごとに分けて,それぞれ引用発明と対比し,一致点及び相違点を認定し,一致点の技術的事項を前提にして相違点の容易想到性を判断するのは,進歩性の判断における通常の対比・判断手法である。相違点については,一致点の技術的事項との関連において判断するのであるから,原告主張のように,いずれかの構成要件に相違があったときに,その点のみならず,その点と他の構成要件との組合せが記載されていない点までも相違点として認定しなければならない理由はない。
したがって,審決が相違点2,3を看過したとの原告の主張は採用できない。
(2) 容易想到性の判断の誤りをいう主張につきア 本件発明1の液晶配向剤はポリアミック酸配向膜の形成に用いられることを前提にする主張に対し(ア) 原告は,本件発明1はポリアミック酸配向膜(イミド化率が0%であるか,0%でないとしても低いもの)の形成に好適に用いられるもので「……引用例発明において,『可溶性ポリイミド』をポリイミ あるから,審決が,ド配向膜の形成に用いることが知られているとき,そのイミド化前駆体である『ポリアミック酸』をポリイミド配向膜の形成に用いて本件発明1とすることは,当業者が容易と判断したのは,誤り に想到し得ることである」(審決19頁第2段落,下線付加)であると主張する。
しかし,本件明細書(甲3)の請求項1の記載によれば,本件発明1は,液晶配向剤を印刷法により塗布した後,最終的に液晶配向膜を得るまでの乾燥工程における温度及び時間等を特定するものでもないし,得られる液晶配向膜のイミド化率を規定したものでもないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,採用できない。
(イ) また原告は,審決が,本件発明1の液晶配向剤がポリイミド配向膜の形成に用いられると決めつけたのは不適切であると主張する。原告の主張は,イミド化率の低い配向膜は「ポリイミド配向膜」とは呼ばないという前提でなされたものであるが,ポリイミドはポリアミック酸をイミド化して製造するものであるところ,純粋なポリアミック酸(イミド化率0%)と純粋なポリイミド(イミド化率100%)の中間に当たる様々なイミド化率のものについて,これをイミド化率○○%のポリアミック酸というか,イミド化率○○%のポリイミドというかは,定義の問題にす「実施例1 ぎない。例えば,乙7公報(特開平2-287324号公報)には,……ポリアミック酸中間体溶液を……希釈後,透明電極付ガラス基板に……スピンコートし……加熱処理してポリイミド樹脂膜を形成した。得られたポリイミド樹脂の……との記載があり,イミド化 イミド化率は45%であった。」(4頁右下欄6〜末行)率が50%に満たないものについても「ポリイミド樹脂膜」という語が用いられている。したがって,審決が,本件発明1の液晶配向剤を使用して形成される液晶配向膜が「ポリイミド配向膜」であることを前提として判断したことに,原告主張の誤りはない。
イ ポリアミック酸溶液を塗布する技術と,可溶性ポリイミド溶液を塗布する技術の相違をいう主張に対し「『ポリアミック酸』は『可溶性ポリイミド』のイミド化前 (ア) 原告は,審決が,駆体であり」……,『可溶性ポリイミド』が,ポリイミド配向膜の形成に用いられるのであれば,その前駆体である『ポリアミック酸』も,同様に,ポリイミド配向膜の形成に用いられることは周知であるから……,引用例発明において,『可溶性ポリイミド』をポリイミド配向膜の形成に用いることが知られているとき,そのイミド化前駆体である『ポリアミック酸』をポリイミド配向膜の形成に用いて本件発明1とすることは,当と判断したことは, 業者が容易に想到し得ることである。」(審決19頁第2段落)誤りであると主張する。そして,その理由として,審決の判断は,ポリアミック酸溶液を基板に塗布して液晶配向膜を得る技術と,ポリアミック酸をイミド化して可溶性ポリイミドを得た後に,可溶性ポリイミド溶液を基板に塗布して液晶配向膜を得る技術との間に,技術的意義の相違があることを看過している旨指摘する。
しかし,原告の主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
(イ) 乙3公報(平1-239526号公報)には,次の記載がある(下線付加)。
@「2.特許請求の範囲(1)ポリアミド誘導体および/またはイミド系ポリマーならびに多価アルコール誘導体を含有する液晶配向膜用組成物。」(1頁左下欄)A「実施例1 (1)4,4’-ジアミノジフェニルメタン……をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)……に溶解し,かきまぜながら2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物……を加え……反応させてポリアミド酸溶液を得た。……(2)……グリセリンモノオクタデカン酸エステル……を溶解させ,さらにDMACを添加し,ポリアミド酸とグリセリンモノオクタデカン酸エステルの……組成物溶液を調製し……ろ過し,不溶分を除去した。この組成物溶液を……透明電極付きガラス基板上……塗布し……乾燥させ……塗膜を得……ラビング処理を行った。」(8頁右上欄〜左下欄)B「実施例2 実施例1の(1)で得たポリアミド酸溶液にDMAC……を添加し,さらにピリジン……と無水酢酸……を添加し……反応させ,ポリイミドを得た。……沈殿させ……乾燥したのち,再びDMAC中に溶解させ……ポリイミド溶液を調製した。……(2)……グリセリンモノオクタデカン酸エステル……を溶解させ,さらにDMACを添加し,ポリイミドとグリセリンモノオクタデカン酸エステルの……組成物溶液を調製し……ろ過した。この組成物溶液を用いて,実施例1の(2)と同様にして液晶表示素子を作製し」(8頁右下欄〜9頁左上欄)乙3公報の上記記載Aによれば,実施例1は,ポリアミド酸(ポリアミック酸)の組成物の溶液を直接基板上に塗布し,乾燥して液晶配向膜を得ている。一方,上記記載Bによれば,実施例1で得たポリアミック酸溶液をイミド化して可溶性ポリイミドとし,この可溶性ポリイミドを基板上に塗布し,乾燥して液晶配向膜を得ている。そして,上記記載@によれば,乙3公報に係る特許出願では,実施例1,2を開示した上で, ポリアミド誘導体および/またはイミド系ポリマー……を含有す「る液晶配向膜用組成物」につき特許が請求されている。
このような乙3公報の記載によれば,特定の原料から得られるポリアミック酸と,当該ポリアミック酸の溶液をイミド化して得られる可溶性ポリイミドとは,乙3公報記載の発明が目的とする作用効果を得られるという点において共通することが開示されているといえる。
(ウ) 乙5公報(平2-173614号公報)には,次の記載がある。
「本発明において,配向膜を構成する樹脂材料としては,具体的には,ポリイミド,ポリアミック酸,……の群から選ばれる1種または2種以上の混合物を挙げることができる。基本的には,溶媒に可溶であればいかなるものも使用できる。これら樹脂を適当な溶媒に溶解させ,配向膜の膜厚に応じて溶液の粘度を調整する。」(2頁右上欄〜左下欄)乙5公報の上記記載によれば,ポリアミック酸溶液と,可溶性ポリイミド溶液とは,乙5公報によって出願される特許の目的とする作用効果を得られる点において,共通すると考えられていたことがわかる。
(エ) 乙6公報(平2-291527号公報)には,次の記載がある。
@「2.特許請求の範囲(2) 下記一般式(Y)………で表わされる基を末端に有するポリアミド酸及び/またはポリイミドを含有する液晶配向剤。」(2頁右上欄)A「実施例23 ……前記式……で示される基を末端に有するポリアミド酸……をγ-ブチロラクトン/ブチルセロソルブ(60/40,重量比)に溶解して……溶液を調製し……濾過して配向剤を得た。得られた配向剤を用いて……液晶表示素子を作製し」(16頁右下欄〜17頁左上欄)B「実施例24 ……ジオクチル基をポリマー中に有するポリイミド……を用いて,実施例23と同様に液晶表示素子を作製し」(17頁左上欄〜右上欄)以上の記載から,乙6公報においては,乙3公報について上記(イ)に説示したのと同様に,特定の構造を有するポリアミド酸(ポリアミック酸)と,これをイミド化した可溶性ポリイミドとが,いずれも,乙6公報記載の発明が目的とする作用効果を奏する液晶配向膜を形成するために,好適に用いられることが開示されている。
(オ) 乙7公報(平2-287324号公報)には,次の記載がある。
@「N-メチルピロリドン,N,N-ジメチルアセトアミド,N,N-ジメチルホルムアミド,γ-ブチロラクトン等の有機極性溶剤中で反応,重合を行いポリアミック酸中間体溶液とし,ポリアミック酸中間体溶液をそのまま基板上に塗布し,基板上で加熱イミド化してポリイミド被膜を形成することができる。」(3頁右下欄13〜19行)A「本発明のポリイミド樹脂は溶媒に溶解するという特徴を有し,従って得られたポリアミック酸中間体を溶液中でそのままイミド化してポリイミド溶液とすることができ,得られたポリイミドを単離し,適当な溶媒に溶解してポリイミド溶液とすることもできる。この溶液を基板上に塗布し,溶媒を揮発させることにより基板上にポリイミド被膜を形成させることもできる。」(4頁左上欄11〜19行)B「実施例1 2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン……及びTDA……をN-メチル-2-ピロリドン(以下,NMPと略す)……中……反応させポリアミック酸中間体溶液を調製した。……この溶液をNMPにより……希釈後,透明電極付ガラス基板に……スピンコートし……加熱処理してポリイミド樹脂膜を形成した。得られたポリイミド樹脂の……イミド化率は45%であった。」(4頁右下欄)C「実施例2 実施例1で得られたポリアミック酸中間体溶液……にイミド化触媒……を加え……反応させポリイミド樹脂溶液を調製し……ポリイミド樹脂粉末を得た。……この粉末……をγ-ブチロラクトン……に溶解し……透明電極付ガラス基板に……スピンコートし……加熱処理してポリイミド樹脂膜を形成した。」(5頁左上欄)以上の記載から,乙7公報においても,乙3,乙6公報について上記(イ),(エ)に説示したのと同様に,特定の構造を有するポリアミック酸と,これをイミド化した可溶性ポリイミドとが,いずれも,乙6公報に係る特許が目的とする作用効果を奏する液晶配向膜を形成するために,好適に用いられることが開示されている。
(カ) 上記(イ)〜(オ)のとおり,液晶配向剤の技術分野においては,その主たる成分として,ポリアミック酸と可溶性ポリイミドとが特段の区別なく併記される場合が多く,特定の原料の反応生成物であるポリアミック酸と,これをイミド化した可溶性ポリイミドとは,一方が優れた作用効果を有していれば他方も同様であると認識されており,かかる認識は技術常識となっていたことが認められる。そうすると,引用例発明,すなわち,特定のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物であるポリアミック酸をイミド化した可溶性ポリイミドを特定の混合溶媒に溶解させた液晶配向剤の開示に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって,ポリアミック酸をイミド化せずに(ポリアミック酸のまま)同様の混合溶媒に溶解させた液晶配向剤に想到することも,特段の創意を要することではないというべきである。審決の判断は,これと同旨をいうものとして是認することができる。
(キ) なお,液晶配向剤の技術分野において,特定の原料から合成されるポリアミック酸と,当該ポリアミック酸をイミド化して成る可溶性ポリイミドとが相互に置換可能なものであることが技術常識であったことは,以下のとおり,本件訂正前の本件特許の内容に照らしても,明らかであるというべきである。
a 本件訂正前の本件特許の明細書(甲1。以下「訂正前明細書」という。)によれば,訂正前の本件特許の請求項1の内容は下記のとおりである(下線付加)。
記【請求項1】 (A)テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物であるポリアミック酸および可溶性ポリイミドから選ばれる少なくとも1種のポリマー,および(B)γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンを含有し且つN-メチル-2-ピロリドンの含有率が0.1〜50重量%の範囲にある混合溶媒,からなりそして印刷法により塗布することを特徴とする液晶配向剤。
b 上記の特許請求の範囲の記載によれば,特許権者(原告)は,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応生成物であるポリアミック酸と,これをイミド化して得られる可溶性ポリイミドとは,いずれも,上記(B)の混合溶媒に溶解させたときに,同様の優れた作用効果を奏することを前提に,特許を請求していたものと認められる。
しかるに,訂正前明細書によれば,その根拠とされた実施例及び比較例を見ると,実施例1,5,7がポリアミック酸,実施例2〜4,6,8が可溶性ポリイミドを用いた実験結果であり,これに対する比較例1,2は,いずれも可溶性ポリイミドを用いたものである(訂正前明細書の段落【0027】〜【0038】)。このような実施例及び比較例の挙げ方からみて,実施例と比較例との間で作用効果の相違が実際に検証されているのは可溶性ポリイミドについてのみである。
そうすると,原告がポリアミック酸についても特許請求の範囲に含めているのは,可溶性ポリイミドにおいて優れた作用効果がある以上,当然にポリアミック酸についても優れた作用効果があることが推認されると考えていたからにほかならないというべきである。。
(ク) 以上要するに,特定の原料(本件特許でいえば特定のテトラカルボン酸二無水物と特定のジアミン)の反応生成物であるポリアミック酸と,当該ポリアミック酸をイミド化した可溶性ポリイミドとは,液晶配向剤の技術分野において,相互に置換可能なものとして扱われており,そのことは,乙3〜6公報のような特許文献に表れているのみならず,訂正前明細書自体が前提にしていた技術常識であったことが優に認められる。
したがって,可溶性ポリイミドに代えてポリアミック酸を用いるというという,本件発明1の相違点1に係る構成が当業者にとって容易に想到し得るものではないという原告の主張は,自らが訂正前の本件特許の明細書において前提としていた技術常識を否定しているのに等しいといわざるを得ず,この点からしても,採用することができない。
(ケ) また原告は,液晶配向膜を形成するに当たっての反応には,原告のいう「ルートA」〜「ルートC」の3つのルートがあり,乙2文献は「ルートA」の,乙3〜乙7公報は「ルートB」及び「ルートC」の方法を開示したものであり,「ルートB」に関する引用例発明に乙2文献及び乙3〜乙7公報の周知技術を組み合わせても,「可溶性ポリイミド」からポリイミド配向膜を形成する方法が得られるだけであるのに対し,本件発明1の液晶配向剤は,ポリアミック酸からポリアミック酸配向膜を形成するのに用いられるものであるから,周知技術を考慮しても引用例発明から当業者が容易に想到し得たものではない,と主張する。
しかし,原告の主張は,本件発明1の液晶配向剤はポリアミック酸からポリアミック酸配向膜を形成するのに用いられるものであるということを前提とするものであるところ,かかる前提が,本件発明1の特許請求の範囲の記載に基づかないものであることは,前記アのとおりである。また,乙2文献及び乙3〜乙7公報に示される技術内容についても,各文献の記載内容に照らすと,液晶配向剤の技術分野において,ポリアミック酸と可溶性ポリイミドとは相互に置換可能なものとして扱ううのが技術常識であると認められることは上記(ア)〜(カ)のとおりであり,最終的に液晶配向膜が形成されるまでの化学反応が原告のいう「ルートA」〜「ルートC」のいずれのルートで進行するかが区別されていることもうかがわれない。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
3 取消事由2(本件発明1の効果についての判断の誤り)について「本件発明1が奏する効果は,以下に述べるように,甲第1号証か 原告は,審決が,ら当業者が当然予測し得る程度のものに過ぎず,また,引用例発明と比較して,格別顕著なと判断したのは誤りであると主 効果を奏するものともいえない」(審決19頁第3段落)張するので,検討する。
(1) 本件明細書の実施例における実験データにつきア 審決は,本件発明1には顕著な作用効果が認められないとした理由として,本件明細書の実施例に記載された実験データが,膜厚平均値のすべてが揃って「600Å」である点において不自然であり,信憑性を欠くということを挙げている(審決20頁第2段落〜22頁下第2段落)。そして,審判被請求人(原告)が,すべての実験データにおいて膜厚平均値が「600Å」となったことは,次の@〜Cのとおり,事実に基づく十分な合理性を有すると主張したのに対し,当該主張を排斥している。
@ 実施例におけるすべての膜厚平均値が600Åというのは,実測膜厚の平均値であって,特別の製造方法や試験方法を採用して求めたものではない。
A 塗膜形成手順は,液晶配向剤塗布液を準備し,塗布用印刷機により吐出量を変えて塗布し,吐出量と塗膜膜厚との関係を把握し,この関係からほぼ600Åの膜厚平均値を与える吐出量を推定し,その吐出量で同様な塗布を数回繰返すという手順を行うことにより,膜厚平均値が600Åの塗膜が形成される。
B 塗膜の膜厚測定には,本件特許の出願当時(平成4年)に市販されていた触針式膜厚計が用いられた。この膜厚計は膜厚の変動を曲線として表示するものであり,また膜厚分解能が5Åであったので,測定された膜厚は,読み取る際の読み取り誤差を避けられず,また5Åという膜厚分解能の下での膜厚であるため,5Åを1単位として表示するのがせいぜいで,5Åよりも小さい膜厚の表示は意味のないものであった。そして,膜面内5ヶ所において測定された膜厚の平均値が膜厚平均値となるが,その平均値についても,5Åよりも小さい値は意味がないから,5Å単位で表示される。従って,この平均値を基礎として求められる膜厚ムラ(バラツキ)も5Åを1単位としており,この膜厚計により測定された膜厚平均値として600Åを示す塗膜を形成することは,さほど困難なことではない。
C なお,本訴甲8,甲9(審判乙2,審判乙3)の実験報告書において膜厚平均値がばらついているのは,ことさら膜厚平均値が600Åとなるような手順を行わなかったことと,より精度の高い触針式膜厚計(膜厚分解能1Å)を用いて測定したので数値が1Å単位で表示されたことによる。したがって,本訴甲8,甲9(審判乙2,審判乙3)のデータから実施例のデータが不自然であると判断することはできない。
イ 原告は,審決が原告の上記ア@〜Cの主張をいずれも排斥したのは誤りであると主張するが,以下のとおり,審決の判断は妥当であり,原告の主張は採用することができない。
(ア) 上記ア@の主張につき訂正前明細書及び本件明細書に記載されたデータが,実測膜厚の平均値であるというなら,実験ノートなどの測定結果を記載した証拠を提出すべきであるが,原告は証拠を提出していない。
(イ) 上記アA,Bの主張につき「液 本件明細書(甲3)の実施例には,液晶配向剤の印刷法については晶配向膜塗布用印刷機を用いて,ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の上に透明電極面に塗布し」(段落【0034】) 「触針式膜厚計を用,膜厚の測定法についてはと,それぞれ記載されているだいて,面内の膜厚を測定した」(段落【0034】)けであり,原告の上記A,Bの主張は,明細書の記載に基づかないものであるし,そのような塗膜形成手順と膜厚測定方法が,本件出願当時の技術常識であったと認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 上記アCの主張につき原告は,原告が本件特許無効審判手続中に行った実験のデータ(本訴甲8,9)において膜厚平均値がばらついているのは,本件明細書の実験データとは実験の手順や測定器の精度が異なるためであると主張するが,本訴甲8,9の実験において,本件明細書の実施例と同一の手順及び測定器で実験を行うことが困難ないし不可能であったことについては何ら主張していない。実施例の追試実験は,追試である以上,基本的に同一の手順等で行うべきことは当然であるから,原告の主張は,これを無視したものであるというほかない。
(2) 本件発明1の効果の予測性についての主張につきア 原告は,引用例発明の奏する作用効果は,引用例発明の可溶性ポリイミドをスピンコートした塗膜において,斑点やストリエーションのない均一な塗膜を形成することができるというものであり,印刷法で塗布した塗膜において膜厚ムラ(膜厚のバラツキ)が少ないという本件発明1の効果は,引用例発明の効果から予測できるものではないと主張する。
しかし,上記(1)でみたとおり,実施例の記載が信憑性を欠くものであるとの審決の判断に誤りがない以上,本件発明1の奏する作用効果が顕著であることに基づいて本件発明1に進歩性があるという原告の主張は,根拠を欠くといわざるを得ない。
イ また,実施例のデータに仮に信憑性があるとしても,原告の主張は採用できない。その理由は次のとおりである。
本件発明1の構成を引用例発明に基づき当業者が容易に想到し得ることは前記2のとおりであり,かかる場合に,作用効果が予測し得ないものであることを理由に進歩性が認められるためには,本件発明1の奏する作用効果が引用例発明の作用効果に比べて顕著であることが前提となる。しかるに,訂正前明細書(甲1)によれば,実施例として,ポリマーとしてポリアミック酸を用いた3例(実施例1,5,7)とポリイミドを用いた5例(実施例2〜4,6,8)とが挙げられているが,膜厚のバラツキ(Å)は,ポリアミック酸の3例については±25,±20,±15,ポリイミドの5例については±30,±20,±15,±20,±20,であって,ポリマーがポリアミック酸である場合とポリイミドである場合との間に特段の差異はない。しかも,ポリイミドの5例のうち,実施例2〜4,8は,ポリマーの原料であるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類並びに混合溶媒の組成のいずれにおいても,審決の認定した引用例発明に含まれるものである。
本件訂正により,本件発明1の特許請求の範囲はポリアミック酸を用いるものに限定され,これに伴い,本件明細書(甲3)の実施例からもポリイミドを用いた実施例2〜4,6,8が削除され,ポリアミック酸を用いた実施例1,5,7のみとされた(段落【0034】〜【0036】)。しかし,上記のとおり,訂正前明細書の記載によれば,本件発明1には,引用例発明に比べて,膜厚のバラツキに関する顕著な作用効果がそもそも認められないのである。したがって,本件明細書に実施例として記載された膜厚のバラツキの値が仮に正しいとしても,作用効果の予測可能性を問うまでもなく,本件発明1に,引用例発明に対する進歩性が認められる余地はない。
4 取消事由3について本件発明2の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあることをいう原告の主張は,本件発明1の進歩性に関する判断に誤りがあることを前提とするものであるから,上記2,3のとおり,本件発明1の進歩性に関する判断に誤りがない以上,理由がない。
5結語以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。よって,原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉