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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 技術的思想 /  方法の発明 /  物を生産する方法 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  発明が明確 /  補正要件 /  分割出願 /  共有 /  クレーム /  薬事法 /  優先日 /  出願経過 /  参酌 /  均等 /  均等論 /  置換 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  同意 /  発明の範囲 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (ワ) 10524号 特許権侵害差止請求事件
アメリカ合衆国イリノイ州<以下略>
原告 アボット・ラボラトリーズ山口県宇部市<以下略>
原告 セントラル硝子株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 岡田春夫
同辻淳子
同森博之
同中西淳
同長谷川裕
同 木村美樹
同 川中陽子
同補佐人弁理士小 野誠
同 大崎勝真 東京都千代田区<以下略>
被告 バクスター株式会社
被告訴訟代理人弁護士 木崎孝
被告訴訟代理人弁理士 山本秀策
同 森下夏樹
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録記載の製品を輸入,販売,又は販売の申出をしてはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
-2-3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
原告らの請求
主文と同旨
事案の概要
本件は,フルオロエーテル組成物及び,ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法について特許権を共有する原告らが,別紙物件目録記載の製品(商品名セボネス。以下「被告製品」という )の輸入・販売の準備をして 。
いる被告に対し,被告製品の生産方法が上記特許に係る発明の技術的範囲に属するとして,特許法2条3項3号,68条,100条1項に基づき,被告製品の輸入,販売等の差止めを求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び末尾掲記の証拠により認められる事実)( ) 原告アボット・ラボラトリーズ(以下「原告アボット」という )は,ア 1 。
メリカ合衆国イリノイ州法に基づき設立された法人であり,医薬品の製造販売を主たる業としている。
(「 」 。), 原告セントラル硝子株式会社 以下 原告セントラル硝子 という はガラス製品,医薬品,その他化学製品等の製造,加工,販売等を業とする株式会社である。
被告は,医薬品の輸入,製造,販売等を業とする株式会社である。
( ) 原告らの特許権2ア 原告らは,次の特許(以下「本件特許」という )につき特許権(以下 。
「本件特許権」といい,その特許出願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という )を共有している(甲1 。 。)) 特許登録番号 第3664648号 a) 発明の名称 フルオロエーテル組成物及び,ルイス酸の存在下に bおけるその組成物の分解抑制法) 優先日 平成9年1月27日 c) 出願日 平成10年1月23日 d) 公開日 平成13年7月10日 e) 登録日 平成17年4月8日 f(, イ 本件明細書の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである 以下請求項1記載の発明を「本件特許発明」という。本判決添付の特許公報参照。。)「一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,該方法は,内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,一定量のセボフルランを供する工程,該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程を含んでなることを特徴とする方法 」。
ウ 本件特許発明構成要件に分説すると次のとおりである(以下「構成要件A」などという 。。)A 一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,以下の工程を含んでなることを特徴とする方法B 該方法は,内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,C 一定量のセボフルランを供する工程,D 該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,E 及び該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程,, エ 本件特許発明においては 構成要件BないしEの工程を経た結果として常に,容器内に一定量のセボフルランが充填された,セボフルラン製剤が生産され,当該セボフルラン製剤は,容器も含めて全体として「物」として輸入,譲渡,販売といった行為の対象になり得るものである。したがって,本件特許発明は 「物を生産する方法の発明」に当たるというべきで ,ある(当事者間においても争いがない 。。)( ) 被告製品について 3ア 被告は,平成14年11月28日に被告製品について薬事法に基づく医薬品の輸入承認申請をなし,平成16年2月25日に輸入承認を受けた(甲5 。被告は,平成17年3月末ころ被告製品について薬価基準収 )載申請をなし,被告製品を日本において輸入,販売することを予定している(甲7 。)イ 被告製品は,別紙方法目録記載の方法(以下「被告方法」という )を。
用いて製造されたものである(甲6の1,弁論の全趣旨 。)ウ 被告方法を構成要件に分説すると次のとおりである(以下「被告方法の構成a」などという 。。)a 250mlのセボフルラン原液の貯蔵方法であって,以下の工程を含んでなることを特徴とする方法b 該方法は,内部空間を有するアルミニウム製容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,c 250mlのセボフルラン原液を供する工程,d 該容器の該内壁を別紙方法目録記載の一般構造式を有するエポキシフェノリックレジン(以下「エポキシフェノリックレジン」という )。
のラッカーで被覆する工程,e 及び250mlのセボフルラン原液を該容器によって規定される該内部空間内に充てんする工程( ) 被告方法の構成a及びbは,本件特許発明構成要件A及びBを充足する 4(弁論の全趣旨 。)2争点( ) 被告方法の構成c及びeが本件特許発明構成要件C及びEを充足するか 1(争点1 。)( ) 被告方法の構成dが本件特許発明構成要件Dを充足するか(争点2 。 2 )ア 本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」が本件明細書に具体的に記載された化合物に限定されるか(争点2-1 。)イ 本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」は麻酔薬組成物の一成分になり得る物質に限定されるか(争点2-2 。)ウ 被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」がルイス酸抑制効果を有するか(争点2-3 。)エ 本件特許発明構成要件Dの「被覆」が排液過程を伴う工程に限定されるか(争点2-4 。)オ 本件特許発明構成要件Dの「容器」が完成された容器に限定されるか(争点2-5 。)( ) 本件特許が無効審判により無効にされるべきものといえるか。 3ア 本件特許が特許法36条6項1号(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること)の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるか(争点3 。)イ 本件特許が平成14年法律第24号による改正前特許法(以下「改正前特許法」という )36条4項(発明の詳細な説明は,経済産業省令で定 。
めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない)の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるか(争点4 。)ウ 本件特許が特許法36条6項2号(特許を受けようとする発明が明確であること)の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるか(争点5 。)エ 本件特許が改正前特許法17条の2第3項補正要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたといえるか(争点6 。)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告方法の構成c及びeが本件特許発明構成要件C及びEを充足するか)について()原告ら1,。 被告方法の構成c及びeは 本件特許発明構成要件C及びEを充足する被告は,構成要件C及びEの「一定量のセボフルラン」とは,貯蔵される対象としてのセボフルランではなく,容器内壁を被覆するために用いられるセボフルランと解釈するべきであるから,被告方法においてはルイス酸抑制剤を被覆する際にセボフルランを用いていない以上構成要件C及びEを充足しない旨主張する。
しかし,構成要件C及びEの「セボフルラン」は,貯蔵対象となるセボフルランのことであって,被告主張のような解釈は採り得ない。
本件特許発明は,容器内壁に存在するルイス酸をルイス酸抑制剤で容器を被覆することにより中和することにその本質を有するのであるから,本件明細書の実施例において,容器内壁にルイス酸抑制剤を含有したセボフルランによりルイス酸抑制剤を被覆する方法が記載されていたとしても,重要なのはルイス酸抑制剤を容器内壁に被覆することにあることは明らかであるから,本件明細書において容器内壁表面をルイス酸抑制剤で被覆する一般的な技術思想が開示されていることは明らかである。
()被告2構成要件C及びEの「一定量のセボフルラン」とは,貯蔵される対象としてのセボフルランではなく,容器内壁を被覆するために用いられるセボフルランと解釈するのが相当である。
なぜなら,特許請求の範囲は明細書に記載された発明を表現したものであるところ,本件明細書においては容器内壁を被覆するに当たって水(ルイス酸抑制剤)を含有したセボフルランを用いる方法のみが記載されているから( 0033 ,実施例3及び実施例7,特許請求の範囲の記載における構 【】 )成要件C及びEの一定量のセボフルランについても,本件明細書の記載に合わせて解釈する必要がある。また,構成要件Cにおいては「該一定量のセボフルラン」ではなく「一定量のセボフルラン」と記載されており,構成要件Aの貯蔵対象である「一定量のセボフルラン」とは異なるものであることを示しているといえる。
被告方法においては,エポキシフェノリックレジンを容器内壁に塗布するに当たってセボフルランを用いないから,被告方法は構成要件C及びEを充足しない。
2 争点2(被告方法の構成dが本件特許発明構成要件Dを充足するか)( ) 争点2-1(本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」が本件明細 1書に具体的に記載された化合物に限定されるか)についてア原告ら) 本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」とは,ルイス酸の空 a軌道と相互作用し,それによりルイス酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物をいう(本件明細書【0026 。被告方法の構成d 】)のエポキシフェノリックレジンは,その分子中に電子供与性のあるC=,, ( ) 。 O C-OH C-O-C基を有するルイス酸抑制剤である 甲6の1また,被告方法に用いられているエポキシフェノリックレジンラッカ,,, ーの溶媒は 4-ヒドロキシ-4-メチルペンタノン n-ブタノール酢酸2-(2-ブトキシエトキシ)エチル,イソホロン及びベンジルアルコールであるところ(乙10の12項,甲6の0067頁表1 ,上)記各溶媒はいずれも非共有電子対を有する酸素原子を有しており,ルイス酸抑制剤に当たる(甲36 。)そうすると,被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」は,ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりルイス酸の潜在的な反応部位を遮断する化合物であるといえる(甲11の1,15,22の1 。)したがって,被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」は本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に当たり,被告方法の構成dは構成要件Dを充足する。
) 被告は,本件特許発明におけるルイス酸抑制剤は,ルイス酸がセボフ bルランを分解する前にルイス酸と共有結合を生じさせる必要があることを前提として,多量のセボフルランの存在下において,いかなるルイス酸抑制剤が,ルイス酸がセボフルランを分解させるより前にルイス酸と共有結合を生じさせるかは,当業者にとって明らかでないから 「ルイ,ス酸抑制剤」の範囲を本件明細書に列挙された化合物に限定して解釈すべきであると主張する。
しかし,本件特許発明は,本件明細書におけるその他の請求項に記載された発明と異なり,ルイス酸抑制剤を容器内壁に被覆し,セボフルランを容器に充てんする前に,あらかじめ容器内壁のルイス酸を中和しておくことによってセボフルランの分解を抑制することをその主要な効果とする(本件明細書の【0033 ,実施例7 。つまり,被覆された 】)ルイス酸抑制剤と容器内壁のルイス酸の反応は,当該ルイス酸がセボフルランに遭遇する前に起こることになり,ルイス酸抑制剤とルイス酸との反応速度がセボフルランとルイス酸との反応速度よりも早い必要はないから,被告の上記主張はその前提を誤っている。
) 被告は,本件明細書に記載されたとおり 「ルイス酸抑制剤」を「ル c ,イス酸の空軌道と相互作用し,それによりルイス酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物 と解釈するとセボフルランやガラスも ル 」, 「イス酸抑制剤」に該当することになる,セボフルランやガラスが「ルイス酸抑制剤」に当たらないというのであれば,上記定義に当てはまる物質のうちどの物質が本件特許発明のいう「ルイス酸抑制剤」に当たるのか不明である,したがって 「ルイス酸抑制剤」の意味が不明確である ,から,本件明細書に具体的に記載されている物質に限定して解釈すべきであると主張する。
しかし,本件特許発明における「ルイス酸抑制剤」の範囲は,当業者にとって何ら不明確ではない。すなわち,本件特許発明は,セボフルランの分解抑制を目的としているのであるから,分解抑制の対象であるセボフルラン自体がその分解抑制剤に含まれる物ではないことは自明である。ガラスについても,本件明細書においては,ガラス(特にその天然成分である酸化アルミニウム)がルイス酸のソースであることが明確に記載されているのであるから,当業者であれば,ガラスが本件明細書に定義されたルイス酸抑制剤に当たると誤解することは到底あり得ない。
本件特許権の特許請求の範囲には「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤」との文言により 「ルイス酸抑,制剤」の範囲は,抑制作用を実現する機構を具体的に明示して規定されている(甲3 。また,本件明細書の【0026】において 「ルイス ),酸抑制剤」は 「ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の ,潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物」であると定義付けされ,さらにルイス酸抑制剤が「ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断する」具体的な化学反応機構が「ルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し 該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する 本件明細書の 0 ,」 (【029 )旨明確に開示されている。ルイス酸という技術用語は化学の 】(, ), 分野において非常によく知られた基本概念であるから 乙9 甲15当業者は,上記特許請求の範囲の記載,本件明細書の定義に関する記載及び技術常識に基づき,上記のような化学反応機構を実現する物質がいかなる化学構造を有するか,すなわち,どのような物質が「ルイス酸抑制剤」に含まれ得るかを容易に理解できる。
したがって 「ルイス酸抑制剤」の意味が不明確であるとはいえない ,から,被告の主張する限定解釈は理由がない。
イ被告本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」とは,当業者に周知の技術用語ではないから,本件明細書の記載を参酌して解釈しなければならない。
そして,本件明細書の記載からは,次のとおり,いかなる化合物がルイス酸抑制剤に該当するか明確でないから,ルイス酸抑制剤は,本件明細書に具体的に記載された化合物(本件明細書【0026】に列挙された化合物)に限定して解釈すべきである。
すなわち,本件明細書の【0026】及び【0029】の記載を参酌すれば,ある化合物が「ルイス酸抑制剤」であるといえるためには,当該化合物がルイス酸の空軌道と相互作用し,空軌道に電子を供与して,該ルイス酸との間に共有結合を形成する必要がある。ところが,多量のセボフルランの存在下において,いかなる化合物がルイス酸がセボフルランを分解させるより早くルイス酸と共有結合を生じさせるかは,当業者にとって明らかでない。
また,原告らは,その分子中に電子供与性のあるC=O,-OH,-O-基を有する化合物がルイス酸抑制剤であり,その範囲は明確である旨主。, , 張する しかし 上記基を有する化合物がルイス酸抑制剤であるとすると-O-基を有するセボフルラン自体がルイス酸抑制剤ということになってしまう。さらに,ガラスも-O-基を有していることから,ルイス酸抑制剤に当たることになる。このような結果は,ガラス容器中でセボフルランの分解が生じるという本件明細書の【0004】の記載とも矛盾する。この点からも,構成要件Dのルイス酸抑制剤の意味は不明確であるというべきである。
被告方法の構成dにおいて用いているエポキシフェノリックレジンは,本件明細書にルイス酸抑制剤として具体的に記載されていないから,ルイス酸抑制剤には当たらない。
原告らは,本件特許発明においては,被覆されたルイス酸抑制剤と容器内壁のルイス酸の反応は,当該ルイス酸がセボフルランに遭遇する前に起こることになり,ルイス酸抑制剤とルイス酸との反応速度がセボフルランとルイス酸との反応速度よりも早い必要はない旨主張する。
しかし,本件明細書の記載からは,本件特許発明が上記のような発明であると解釈することはできない。原告らは,本件明細書の【0033】の記載を根拠としているが,当該箇所には洗浄またはすすぎ洗いをして中和した後に容器を空にする(中和のための溶液を排出する)ことにより,セボフルランの分解を抑制することが記載されているだけであって,容器内壁を被覆(広辞苑における定義は「おおいかぶせられた状態になる )す」ることは記載されていない。本件明細書において「被覆」の用語が記載されている箇所は2か所あるが,いずれも,水を含むセボフルランを容器に入れて一晩振とう機にかけることを記載しているにすぎない。上記記載によれば,本件明細書においては 「被覆」という語を容器を振とうさせる ,ことによって水をガラス内壁表面に接触させるといった程度の意味で用いているものと解釈できるが,このような記載をもって,水で「被覆」すなわち水で「おおいかぶせられた状態になる (広辞苑による定義)ことに 」ついて記載されているものということはできない。このように,本件明細書には,原告らの主張するような「内壁の被覆によるセボフルラン分解防止」についての記載がなされていると解釈することはできない。
( ) 争点2-2(本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」は麻酔薬 2組成物の一成分になり得る物質に限定されるか)についてア原告ら) 被告は,分割出願の当初明細書(乙6の2。以下「本件分割出願当初 a明細書」という )の記載を根拠に,本件特許発明構成要件Dの「ル 。
イス酸抑制剤」は,セボフルランに溶解し,均質な麻酔薬組成物の一成分となり得る物質に限定して解釈すべきであると主張する。
しかし,本件分割出願当初明細書及び本件明細書においては 「ルイ,ス酸抑制剤」は「ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物」と明確に定義されており(本件明細書の【0026 ,ルイス酸抑制剤をセボフルランに溶解 】)する物質とは限定していない。そもそも,本件特許発明の本質は,セボフルランの保存容器内にルイス酸抑制剤を被覆することによって,容器内壁に存在するルイス酸を中和してセボフルランの分解を抑制することにある。したがって,ルイス酸抑制剤が容器内壁表面のルイス酸と接触して中和することが重要なのであって,セボフルランに溶けるか否かは問題ではない。
被告は,本件分割出願当初明細書に記載されたルイス酸抑制剤は麻酔薬組成物を構成するものであったと主張する。しかし,上記の本件特許発明の本質及び本件分割出願当初明細書全体の記載に鑑みれば,分割出願の当初明細書の段階において「ルイス酸抑制剤」が麻酔薬組成物を構成するものに限っていたと解釈することはできない。例えば,本件分割出願当初明細書【0030】には 「容器をルイス酸抑制剤で洗浄また ,はすすぎ洗い…」と記載されており 「容器をルイス酸抑制剤を含有す ,る麻酔薬組成物で洗浄またはすすぎ洗い…」とは記載されていない。
) 仮に,被告の主張するように,ルイス酸抑制剤が均質な麻酔薬組成物 bの一成分となり得るものに限定されるとしても,被告製品に用いられているエポキシフェノリックレジンは均質な麻酔薬組成物の一成分となり得るからルイス酸抑制剤に当たる。
すなわち,被告は「全体として均質」とは,例えば,コンクリートの,,, , ように セメント 砂利 砂が固定して散在したようなものであっても対象物全体では均質とみることができることをいうと主張している(乙13 。そうすると,ルイス酸抑制剤が麻酔薬組成物に溶解しなければ )ならないものではない。そして,被告製品に用いられたエポキシフェノリックレジンは粉末の状況によってはセボフルランに添加した場合に乙13にいう「全体として均質」なものになり得る(検甲1-1,甲41-1 。)また,被告製品に用いられているエポキシフェノリックレジン(検甲1-1,甲41-1)は,被覆工程においては溶媒(検甲2-1ないし検甲2-5,甲42-1ないし甲42-5)に溶解した溶液の状態であるエポキシフェノリックレジンラッカー(検甲1-2,甲41-2)であり,容器内壁のルイス酸と接触してルイス酸を中和する(甲40の7項。)) 仮に,被告主張のとおり,ルイス酸抑制剤が麻酔薬に溶解するものに c限定されると解釈した場合であっても,被告製品に用いられているエポキシフェノリックレジンラッカー(検甲1-2,甲41-2)及びそれを構成する各溶媒(検甲2-1ないし検甲2-5,甲42-1ないし甲42-5)はセボフルランに溶解するから,本件特許発明のルイス酸抑制剤に当たる。
) なお,本件分割出願当初明細書には,ルイス酸抑制剤をセボフルラン dに「添加」する旨記載されており,仮に 「添加」という文言に着目し ,て 「ルイス酸抑制剤」がセボフルランに添加することによってルイス ,酸を抑制する物質に限られると解釈した場合であっても,被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジン」ないし「エポキシフェノリックレジンのラッカー」は本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に当たる。
本件において被告製品に用いられているエポキシフェノリックレジン,そのラッカー及び各溶媒が,いずれもセボフルランに添加した際,ルイス酸抑制効果を奏することが実証されている。
) 以上から,本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」は麻酔薬 e組成物の一成分になり得る物質に限定されるとの被告の主張は理由がない。
イ被告本件分割出願当初明細書(乙6の2)の特許請求の範囲の請求項1ないし6及び発明の詳細な説明に記載された「ルイス酸抑制剤」には,セボフルランに不溶性の固体で,麻酔薬組成物の一成分とならないものは含まれない。
すなわち,本件分割出願当初明細書(乙6の2)の請求項1は,ルイス酸抑制剤が麻酔薬組成物の一つの成分であることが明記されており,麻酔薬組成物は液体である。そして,一般的には組成物においてその成分は均質に存在することが必要であるから(乙13 ,均質な麻酔薬組成物の一 )成分とはなり得ない不溶性の材料はルイス酸抑制剤に含まれ得ない。同請求項2で列挙されているルイス酸抑制剤はいずれもセボフルランに可溶で,。 あり セボフルランと混合されて麻酔薬組成物の一成分となるものである同請求項3及び4においてはルイス酸抑制剤が麻酔薬組成物を調製する方法においてセボフルランに添加されるものであることが記載されている。
同請求項5及び6においては 「麻酔薬組成物」の用語は用いられていな ,いものの,ルイス酸抑制剤をセボフルランに添加することが記載されている。
また,本件分割出願当初明細書の発明の詳細な説明には次のような記載がある。
【0010 「本発明は,そこに有効な安定化量のルイス酸抑制剤が付 】加された…安定な麻酔薬組成物に関する。…本組成物は,ルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより,またはフルオロエーテル化合物をルイス酸抑制剤に加えることにより,あるいは容器をルイス酸抑制剤で洗浄した後,フルオロエーテル化合物を加えることにより調製することができる 」。
【0026 「また,本発明の麻酔薬組成物は生理学的に許容可能なあ 】らゆるルイス酸抑制剤を本発明の組成物に使用することができる 」。
【0030 「本発明の組成物は様々な方法で調製することができる。 】ある局面では,先ずガラス製ボトル等の容器をルイス酸抑制剤で洗浄またはすすぎ洗いした後,…その容器を部分的に乾燥させてもよい。フルオロエーテルを容器に付加した後,その容器を密封する 」。
【0031 「別の局面では,フルオロエーテル化合物を容器に充填す 】る前に,乾燥した容器にルイス酸抑制剤を加える。ルイス酸抑制剤を加えた後,その容器にフルオロエーテル化合物が付加される。代替的に,既にフルオロエーテル化合物を含有している容器にルイス酸抑制剤を直接加えてもよい 」。
【0032 「更に別な局面では,フルオロエーテル化合物が充填され 】ている容器にルイス酸抑制剤を湿潤条件下で加えてもよい。例えば,水分が容器内に蓄積するだけの充分な時間の間,容器を湿潤チャンバー内に置くことにより,フルオロエーテル化合物が充填された容器に水を加えることができる 」。
【0033 「ルイス酸抑制剤は製造プロセスのあらゆる適切なポイン 】トで本組成物に加えることができ,例えば,500リットル入り出荷容器等の出荷容器に充填する前の最終製造ステップで加えることもできる。適当な量の本組成物をその容器から分注し,当産業分野で使用するのにより好適なサイズの容器,例えば250mL入りガラス製ボトル等の容器に入れて包装することができる。更に,適量のルイス酸抑制剤を含有する少量の本組成物を用いて容器を洗浄またはすすぎ洗いし,容器に残っている可能性のあるルイス酸を中和することができる。ルイス酸を中和したら容器を空にし,その容器に付加量のフルオロエーテル化合物を加え,容器を密封してもよい 」。
さらに,本件特許発明出願手続のいずれの段階においても明細書の実施例に記載されたルイス酸抑制剤は,麻酔薬組成物の一成分になり得る水であった。
このように,本件特許発明におけるルイス酸抑制剤は,麻酔組成物の一成分となり得るものに限定されるから,被告製品のエポキシフェノリックレジンのように麻酔薬組成物の一成分とならない不溶性の材料は含まれない。被告方法の構成dにおいて用いられているエポキシフェノリックレジンがセボフルラン中に浸出しないことは乙8のAの宣誓供述書(以下「乙8宣誓供述書」という。19及び20頁)並びに米国イリノイ州北部地方(。「」。 ) 裁判所 事件番号01-C-1867 以下 本件米国関連訴訟 というにおける原告ら側証人であるロジャーズの証言(乙14)から明らかである。
なお,被告方法の構成dで用いられているエポキシフェノリックレジンは,容器内壁に塗布される時点においては液体(ラッカー)であるが,当該ラッカーは,容器内に麻酔薬組成物が貯蔵される前に既に固化して内壁に固定されており,不溶性になるのであって,麻酔薬組成物の一成分にはなり得ないから本件特許発明のルイス酸抑制剤とはいえない。
( ) 争点2-3(被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッ 3カー」がルイス酸抑制効果を有するか)についてア原告ら) エポキシフェノリックレジンの化学構造について a被告は,エポキシフェノリックレジンは,ルイス酸抑制効果を有しない旨主張する。しかし,エポキシフェノリックレジンはC=O,C-OH,C-O-C基を有しており,これらの基がルイス酸抑制効果を有することは学問的にも,原告らの実験結果からも明らかである(甲23,24 。)被告は,上記の基を有する化合物であっても基周辺に存在する化学構造によって反応性が変動し得る旨主張する。原告らもこのような一般論を否定するものではない。しかし,周辺の構造によって反応性の強弱に変動があったとしても,反応性が喪失されるわけではない。被告は,具体的にエポキシフェノリックレジンにおいて反応性を低下させるような化学構造が存在するのか,仮にそのような構造があったとして,反応性が喪失されるのかについては全く述べていない。
) エポキシフェノリックレジンがルイス酸と接触する回数について b被告は,被告方法の構成dで用いられるエポキシフェノリックレジンは固体であるからその分子は水分子のように自由に動くことができず,一定の時間内にエポキシフェノリックレジンの置換基がルイス酸と接触する回数は,本件明細書で実施例として記載されている水がルイス酸と接触する回数と比べて極めて少ないと主張する。
しかし,まず,本件特許発明の主要な効果は,容器内壁表面のルイス酸によるセボフルランの分解に対する抑制効果であって,セボフルラン中に存在するルイス酸によるセボフルランの分解に対する抑制効果ではないから,セボフルラン中に添加したエポキシフェノリックレジンとルイス酸との接触回数は主要な問題ではない。本件特許発明の主要な効果からすれば,エポキシフェノリックレジンと容器内壁表面のルイス酸との接触が問題である。そして,被告方法の構成dにおいては,被覆の工程においてエポキシフェノリックレジンは溶媒に溶かされてエポキシフェノリックレジンラッカーとして容器内壁表面に液体の状態で被覆され,容器内壁表面に接触するのであるから,被告方法においてエポキシフェノリックレジンが容器内壁表面のルイス酸と接触する回数はルイス酸抑制作用を奏するのに十分といえる。
) 被告方法に用いられているアルミニウム容器との関係について c被告は,被告方法に用いられているアルミニウム容器はセボフルランを分解するルイス酸ではないから,ルイス酸抑制剤で被覆する必要性がなく,エポキシフェノリックレジンはルイス酸抑制効果を奏していない旨主張する。
しかし,本件特許発明にいう「容器」はガラス容器に限定されるものではなく,被告方法において用いられているアルミニウム容器も,ルイス酸を含有しているのであるから,これにルイス酸抑制剤を被覆することによってルイス酸抑制作用を奏するものである。被告方法の容器材料であるアルミニウムは,空気中の酸素と接触することによってその表面に酸化アルミニウムを形成し,酸化アルミニウムが活性化した場合には強力なルイス酸となる。
本件特許発明の作用効果は,悪条件が重なったために存在し得るルイス酸に対する万一の場合に備えての予防的なものであるところ,アルミニウム容器を被覆なしで用いることは酸の混入等の悪条件下においては非常に危険であり,被告方法においては構成dにおいて容器内壁をエポキシフェノリックレジンで被覆しておくことでルイス酸とセボフルランが反応することを予防している(仮に,被告が主張するように実際にはルイス酸が残っておらず,問題が発生しない容器があったとしても,ルイス酸が存在し得る可能性がある以上,問題が発生しない容器も含めた全容器を対象としてその内壁をあらかじめルイス酸抑制剤で被覆しておくことがこの問題の発生を予防する上では好都合であり,これこそが,本件特許発明の意図するところである 。。)) 被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンラッカー」の溶媒 dについて甲36の実験成績証明書(以下「甲36証明書」という )の実験に。
よれば,被告方法に用いられているエポキシフェノリックレジンの溶媒(, に用いられている4-ヒドロキシ-4-メチルペンタノン 検甲2-1甲42の1 ,n-ブタノール(検甲2-2,甲42の4 ,2-(2 ))-ブトキシエトキシ)エチルアセタート(検甲2-3,甲42の3 ,)イソホロン(検甲2-4,甲42の4 ,ベンジルアルコール(検甲2 )-5,甲42の5)の各溶媒をセボフルランに添加すると,添加しない場合よりセボフルランの分解によって生じるHFIP,P1,P2の量が低下している。このことからすれば,上記各溶媒は,ルイス酸抑制効果を有するといえる。
なお,被告は,溶媒がセボフルランに溶出しない点を指摘する。しかし,本件特許発明の主要な効果は容器内壁を被覆することによって容器内壁表面のルイス酸によるセボフルラン分解を抑制することにあるから,ルイス酸抑制剤が容器内壁表面を一旦中和した後,セボフルラン中に溶出するか否かは関係がない。
さらに,原告らは甲47の実験成績証明書の実験を行い,被告方法に用いられているエポキシフェノリックレジンのラッカーについてセボフルランに添加すると添加しない場合よりセボフルランの分解によって生じるHFIP,P1,P2の量が低下することを実証している。
) 乙8宣誓供述書の実験結果について e@ 被告の提出する乙8宣誓供述書の実験結果は,エポキシフェノリックレジンを被覆したために,容器内壁のルイス酸を抑制する効果は生じたが,当該容器に供与するセボフルランにルイス酸を多量に添加したことによって,容器内壁のルイス酸ではなくセボフルランに添加したルイス酸によって分解が生じたものであって,エポキシフェノリックレジンを容器内壁に被覆することによって本件特許発明の効果を奏しないことを根拠づけるものではない。
乙8宣誓供述書の証拠Bの実験では,エポキシフェノリックレジンの被覆が損傷された検体においてもセボフルランの分解が生じなかった旨記載されている。しかし,これは,一旦エポキシフェノリックレジンのラッカーを被覆したことにより容器内壁が化学的に中和されたため,その後に物理的に被覆を損壊したことによって影響が生じていないか,あるいは,エポキシフェノリックレジンが損傷されてもその周囲にエポキシフェノリックレジンが存在しているためにセボフルランが分解しなかったものと考えられる。
乙8宣誓供述書の作成者である被告の関連会社である米国法人バクスター ヘルスケヤー コーポレーション(以下「米国バクスター」という )の所有権プロジェクト経営部長A自身が,電子メールにお 。
いて「フェノリックレジンは,セボ(フルラン)よりも強い電子供与性を持つエーテル結合を含んでおり,ルイス酸と優先的に結合してルイス酸をある程度不活性化させるだろう」とコメントしている(甲25。)また,米国バクスターが,本件特許権の関連特許である米国特許US5990176の技術的範囲が問題となった米国関連訴訟のトライアル後第1弁論趣意書(甲11の1)において,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤であることを認めている。
A むしろ,乙8宣誓供述書や乙8宣誓供述書の基になったAの実験ノート(甲17,以下「甲17ノート」という)によれば,アルミニ。
ウム容器(エポキシフェノリックレジンで被覆されていないアルミニウム容器を用いたサンプル)はセボフルランの分解を生じさせるものであることが明らかである。
すなわち,乙8宣誓供述書の証拠Hの表3,4の20573-66-5,同69-4(エポキシフェノリックレジンで被覆されていないアルミニウム容器を用いたサンプル)では,検体のpHが4.03又は4.42であり,被告製品の規格になっている5.0ないし7.5の範囲(甲26)に入っていないから,当該検体においては,セボフルランが分解されていることが分かる。これに対し,乙8宣誓供述書の証拠Gの表5のボトルナンバー19ないし21(エポキシフェノリックレジンで被覆されたアルミニウム容器を用いたサンプル)では,検体のpHがいずれも5以上であるから,当該検体においては,セボフルランが分解されていないことがわかる。
被告はpHの異常値は酸性の不純物が混入したためである旨主張する。しかし,乙8宣誓供述書の他のアルミナを加えないエポキシフェノリックレジン被覆容器においてはかかるpHの異常値は観察されておらず,被覆されていないアルミニウム容器群でのみ観察されたpHの低下を不純物の混入のせいであるとする主張は,被告に都合の良い憶測でしかなく,証拠に基づかないものである。
さらに,乙8宣誓供述書の基になったAの甲17ノートのB016166の実験20573-94-5及び20573-94-6では,セボフルランにルイス酸を添加しない場合でも,アルミニウム容器において55℃の状態に144時間おくとpHがそれぞれ3.02及び3.00となり,P1(ルイス酸によるセボフルランの分解が生じたときに発生する不純物)が0.14生じているから,ルイス酸によりセボフルランが分解されていることが分かる。これに対し,同頁の20573-94-1及び20573-94-2では,ガラス容器で上記アルミニウム容器と同じ条件下で実験を行った場合,pHがそれぞれ7.24及び7.13と中性を示し,P1が0ないし実質的に0に近い数字であるから,ルイス酸によるセボフルランの分解はない。
) 原告らの実験結果(甲23,甲31,甲32の各実験成績証明書。以 f下「甲23証明書」などという )について。
原告らは,甲23証明書において,被告が被告方法に用いているエポキシフェノリックレジンと同じビスフェノールA型エポキシ樹脂の骨格を有する旭電化工業株式会社製のエポキシフェノリックレジン粉末がセボフルランの分解を抑制することを立証している(甲23 。)被告は,上記実験の効果は,エポキシフェノリックレジンと共に混入し得た水,溶媒や製造原料であるビスフェノールA等のルイス塩基としての性質を有する不純物によるものであると主張する。
そこで,原告らは,さらに,甲31及び甲32証明書において,水,溶媒等について配慮した実験を新たに実施し,エポキシフェノリックレ( ,,)。 ジンによるセボフルラン分解抑制効果を確認した 甲31 32 34甲32証明書で用いたエポキシフェノリックレジンは,被告製品において用いられているものと同一メーカーのものである。
被告は,原告らが,甲23証明書の実験に対する被告の指摘を回避した実験を行ったところ,当該実験に対して極めて些細な点をあげつらうことで当該実験を不適切であると主張するが,この点に関する被告の主張が当を得ていないことについては甲40の陳述書のとおりである。特,, に 甲31及び甲32証明書で使用された樹脂が粉砕されていたために樹脂がセボフルラン中を動き回り実験で使用された活性化されたアルミナに自由に付着してアルミナの表面を物理的にふさいだことによって効果を奏した可能性がある旨の被告の指摘は,固体樹脂と固体アルミナ間の隙間に,液体であるセボフルランが存在しないという主張であって科学的常識に反するものである。また,pHに関する記載は,乙8宣誓供述書の証拠H,甲17ノートに関する被告の主張から大きく変遷した矛盾する主張である。
原告らの行った実験によれば,酸化アルミニウムはルイス酸である以上,その強弱にかかわらずルイス塩基と反応する(甲15,38 。ま)た,酸化アルミニウムは熱や酸によって一層活性化し,強力なルイス酸()。, , 作用を発揮する 乙10の21項このように アルミニウム容器はガラス容器以上にセボフルランの分解を生じさせることが明らかである。
) 本件米国関連訴訟について g被告は,本件米国関連訴訟の地裁判決において,あたかも「エポキシフェノリックレジンがルイス酸を抑制しない」と判断されたかのように主張する。しかし,被告が当該主張の根拠としていると考えられる米国Those tests tended to show that the epoxyphenolic 地裁判決の判旨部分は「」なる記載である。上記記載部 liner is,in practice,not an effective inhibitor.分は「これらの実験がエポキシフェノリックライナーは なルイeffectiveス酸抑制剤では実際ないことを示す傾向にある」と判示しているのみである。被告らは「 」を「貢献した」と訳しているが,より正確 tended toな訳は「傾向にある」である。そして,この「 」はまさしく, effective米国特許US5990176において重要な争点となっているルイス酸による分解を阻止する有効な( )量のルイス酸抑制剤か否かの effective関連での米国裁判官の判断を示すものである(米国特許US5990176のクレームは「一定量のセボフルラン;及び,水,ブチル化ヒドロキシトルエン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール,及びチモールから選択される,ルイス酸による分解を阻止する有効な量のルイス酸抑制剤を含む麻酔薬組成物」である。甲39の1・2 。した)がって,米国地裁判決の判決理由を正確に把握すればエポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制効果を持ち,ルイス酸抑制剤であることを前提とした上でUS5990176特許におけるルイス酸による分解を阻止する有効な( )量のルイス酸抑制剤とは証拠上認められない effectiveと判示していることがわかる。米国地裁判決が,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤であることを当然の前提としていることは,同判決が「エポキシフェノリックレジンが水等の特定された物質とのルイス酸抑制剤としての代替性につき予見可能であった」と判断していることからも明らかである。なお,被告が翻訳を付して強調する米国地裁判決35頁13行ないし18行の引用箇所及び36頁5行の引用箇所は,その前後の部分を読むと,裁判所の判断ではなく,争点を明らかにするなどのため,当事者の主張を引用している部分にすぎず,あたかも裁判所の判断であるかのように証拠提出するのはミスリーディングといわざるを得ない。
本件米国関連訴訟における,US5990176特許においては「ルイス酸による分解を阻止する有効な量のルイス酸抑制剤」との限定が存在する。そして,本件米国関連訴訟においては,上記要件における「分解を阻止する」という点についてセボフルランの分解の結果発生する不純物の総量が300ppm以下までに阻止することと解釈された(乙11の16頁13行ないし16行,甲37(2 。したがって,本件米 )国関連訴訟においては,被告製品に用いられたエポキシフェノリックレジンがルイス酸による分解を阻止する有効な量のルイス酸抑制剤か否かが重要な争点となり,エポキシフェノリックレジンについての当事者の主張,立証(実験)は主としてこの点についてなされたものである。これに対し 本件特許発明においてはUS5990176特許のように セ ,「ボフルランの分解を阻止する有効な量のルイス酸抑制剤」という限定はない。米国地裁判決の「これらの実験がエポキシフェノリックライナーは なルイス酸抑制剤では実際ないことを示す傾向にある」との effective判示部分は,US5990176特許との関係で「ルイス酸による分解を阻止する有効な( )量のルイス酸抑制剤ではない」ことをい effectiveっているにすぎない。
また,本件米国関連訴訟において問題となったUS5990176特許では,ルイス酸抑制剤を水,ブチル化ヒドロキシトルエン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール及びチモールの六つに限定しているため,エポキシフェノリックレジンがこれらの限定された六つのルイス酸抑制剤と均等か否かが問題になった。まず,US5990176特許に関しては,特許請求の範囲は,当初単に「ルイス酸抑制剤」とされていたのを,米国特許庁の指摘を受けて上記六つに限定した経緯があった。米国地裁判決では,上記経緯について,エポキシフェノリックレジンは限定前のルイス酸の中に含まれていることを前提に限定前のクレームに含まれていたエポキシフェノリックレジンを限定後のクレームにおいて均等論を適用して再び包含されるというためには,まず,禁反言の観点からクレームを限定した時点において,当業者にとってエポキシフェノリックレジンによる代替が予見可能ではなかった必要があるとした(当業者にとって,エポキシフェノリックレジンが限定後の六つのルイス酸抑制剤と代替することが予見できたという場合には,それにもかかわらずクレームから除外した以上,均等論を適用して包含させるべきであるとの主張は禁反言である 。その上で,米国地裁判決は,エ 。)ポキシフェノリックレジンが限定前のルイス酸抑制剤に含まれることを前提に,クレーム限定時にエポキシフェノリックレジンによる代替が予見可能であったことを認定し,禁反言を適用して均等の主張を排斥した(乙11の29頁13行以下,甲37(3 。上記のように,米国地 )裁判決においては,エポキシフェノリックレジンはルイス酸抑制剤に含まれるものの,有効な( )量のルイス酸抑制剤ではないと判断 effectiveしたものであって,エポキシフェノリックレジンをルイス酸抑制剤ではないと判断したわけではない。
イ被告) エポキシフェノリックレジンの化学構造について a原告らは,エポキシフェノリックレジンが,その分子中に電子供与性のあるC=O,-OH,-O-基を有するから 「ルイス酸の空軌道と ,,」 相互作用し それによりルイス酸の潜在的な反応部位を遮断する化合物すなわち,ルイス酸抑制剤に当たると主張する。
しかし,エポキシフェノリックレジンは,上記の基を有してはいるものの,実際にはルイス酸抑制作用を有しない。上記の基を有する化合物であっても,その基の周辺に存在する化学構造,ルイス酸分子及びルイス塩基分子の電気陰性度や分極のしやすさなどによっても大きく変動する(甲14 。エポキシフェノリックレジンのように複雑な分子構造を )有する化合物はその一部の置換基のみによってその化合物の反応性が決まるものではない。
) エポキシフェノリックレジンがルイス酸と接触する回数について b被告方法のエポキシフェノリックレジンは,本件明細書でルイス酸の代表例として記載されている水と異なり固体であるからその分子は水分子のように自由に動くことができず,一定の時間内にエポキシフェノリックレジンの置換基がルイス酸と接触する回数は,水がルイス酸と接触する回数と比べて極めて少ない。現実的な貯蔵時間の間にルイス酸との反応が検出可能なレベルに達しない(すなわち実質的に反応が起こらない)ことは十分にあり得ることである。
) 被告方法に用いられているアルミニウム容器との関係について c被告製品に用いられているアルミニウム容器はセボフルランを分解するルイス酸ではないから,ルイス酸抑制剤で被覆する必要性がない。このように,被告方法の構成dのエポキシフェノリックレジンはルイス酸抑制効果を奏していないのであって,構成要件Dのルイス酸抑制剤には当たらない。
ルイス酸には強いルイス酸と弱いルイス酸が存在するが(乙9 ,セ),。 ボフルランの分解には 充分に強いルイス酸が存在しなければならないアルミニウムの表面は,空気中の酸素と接触することにより酸化アルミニウムを生成し,この酸化アルミニウムはルイス酸の一種である。しかし,この酸化アルミニウムには水が混入するため,セボフルランを分解させるほど強いルイス酸ではない。酸化アルミニウムが強いルイス酸になるのは,特殊な処理により表面を活性化させた場合のみである(乙10の21項 。甲15の鑑定意見書も,上記のように特殊な処理により )表面を活性化させた酸化アルミニウムをルイス酸であると述べているものである。
原告らは,酸の混入等の悪条件が重なった場合に存在し得るルイス酸に備えての予防的な効果が本件特許発明の効果の一つであると主張する。しかし,本件明細書には「ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる (甲13【0004 )と記載されており,原告らが主張す 」】るような予防的効果については記載されていない。
) 被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンラッカー」の溶媒 dがルイス酸抑制効果を有するかについて原告らは,エポキシフェノリックレジンに用いられる溶媒もルイス酸抑制効果を有すると主張して甲36証明書を提出する。しかし,甲36証明書は,それぞれの溶媒の使用量すら明らかにしておらず不十分である。また,甲36証明書のサンプルは,被告製品のエポキシフェノリックレジンを含んでいないから,被告製品のエポキシフェノリックレジンのラッカーと異なる組成物による実験である。いずれにしても,被告製品のエポキシフェノリックレジンにおいては,セボフルラン中に溶媒が溶出するようなことはないから(乙8宣誓供述書の証拠I ,甲36証)明書の実験は,被告製品中のエポキシフェノリックレジンのラッカーがルイス酸抑制剤として作用するか否かに関係がない。
) 乙8宣誓供述書の実験結果について eエポキシフェノリックレジンラッカーがルイス酸抑制作用を有しないことは,乙8宣誓供述書に係る実験において,エポキシフェノリックレジンラッカーの被覆が損傷された容器においてもセボフルランの分解が生じていないこと(乙8宣誓供述書の証拠B)から明らかである。
原告らは,乙8宣誓供述書はむしろアルミニウム容器がセボフルランの分解を生じさせることを示している旨主張し,Aの甲17ノートを提出して,アルミニウム容器はセボフルランを分解させる旨主張する。しかし,乙8宣誓供述書の証拠Hの表3,4の20573-66-5,同69-4では,検体のpHが4.03又は4.42となっているが,これらの検体においてもセボフルランの含有量は99.994%,99.995%となっている。また,上記各検体と同条件で行われた実験である20573-66-4,20573-69-5の実験では,pH値は6.66,6.77と正常である。これらのことを総合すると,原告らが指摘する検体でpH値が異常値を示したのは,セボフルランの分解が,。 生じたからではなく 酸性の不純物が混入したためであると考えられるまた,原告らは,乙8宣誓供述書の実験B及びDについて被覆工程における処理で容器表面に存在するルイス酸を中和する作用効果が奏されているか,損傷したレジンの周囲のレジンにより作用効果が奏されるからエポキシフェノリックレジンラッカーの作用効果は否定されない旨主張する。しかし,容器には深い損傷が与えられているので表面からライナー層が除去されるだけでなく被覆工程の際に処理されなかった新たなアルミニウム金属が露出する(乙12の宣誓供述書(以下「乙12宣誓供述書」という )の18項 。また,損傷された領域付近のエポキシ 。)フェノリックライナーの分子は容器に接着され,新たに露出されたアルミニウムから非常に離れた位置に固定されている。新たに露出されたアルミニウム表面とこの固定されたエポキシフェノリックライナーが相互作用することは不可能である(乙12宣誓供述書の19項 。その他の)乙8宣誓供述書に対する原告らの指摘が誤りであることは,乙12宣誓供述書の13ないし23項に記載されているとおりである。
甲17ノートについては,B016166の実験20573-94-5及び20573-94-6でルイス酸によりセボフルランが分解されているのは,アルミニウム容器からルイス酸が発生したためではなく,セボフルランに不純物が混入したためと考えられる。上記検体のセボフルランに不純物が混入したことは,甲17ノートのB016166頁の20573-94-13及び20573-94-14においてルイス酸を発生するはずのないPTFE(テフロン)の容器を用いてもセボフルランの分解が生じていることから明らかである。
原告らは,甲25の電子メール(以下「甲25メール」という )を。
提出して,乙8宣誓供述書の実験を行ったAが,電子メールにおいてフェノリックレジンがルイス酸抑制効果を有する旨記載していると主張する。しかし,Aが甲25メールを作成したのは,乙8宣誓供述書に係る実験を行う前である。Aは,実験に基づいて乙8宣誓供述書の結論に至ったものである。
原告らは,被告のアメリカ関連法人である米国バクスターが,本件米国関連訴訟のトライアル後第1弁論趣意書(甲11の1)において,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤であることを認めたと主張する。しかし,上記趣意書は,本件特許とは異なる米国特許に関して均等論の不成立を議論しているものである 「エポキシフェノリックレジ 。
ンの使用は,それがもしルイス酸抑制剤の潜在的な反応部位をブロックするよう作用する場合には,その範囲においては,クレーム範囲に包含され得るが…」という趣旨であって,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤の潜在的な反応部位をブロックするよう作用する場合を仮定した議論である。
さらに,被告は,エポキシフェノリックレジンラッカーによる被覆なしのアルミニウム容器中で被告製品の安定化の実験を行った(乙12宣誓供述書の証拠J 。その結果,40℃で1か月貯蔵した後にもセボフ )ルランは分解しなかった。この実験は,被告製品のアルミニウム表面にセボフルランを分解するルイス酸がないことを実証している(乙12宣誓供述書の15項 。)) 原告らの実験結果等について f原告らは,鑑定意見書(甲15)を提出するが,同鑑定意見書には,-OH基や-O-基等の酸素原子がルイス塩基であり,ルイス酸の活性を抑制し得る可能性があることを,その構造式のみを根拠に一般論として説明しているにすぎず,被告製品で使用されているエポキシフェノリックレジンが現実にルイス塩基としての性質を示すか否かについては具体的に言及してない。
原告らは,さらに,甲23証明書を提出する。しかし,甲23証明書の実験は,エポキシフェノリックレジンと共に水が混入していると考えられる。すなわち,被告製品に使用されているエポキシフェノリックレジンは1ないし3%程度の水を吸湿する性質を有している。甲23証明書においては,635mgのエポキシ樹脂を用いているから,セボフルラン30gの瓶に6ないし19mgの水分が混入することになり,セボフルランに混入している水20ppmと合計して1瓶に220ないし620ppmの水分が混入していることになる。したがって,セボフルラ,, ンの分解抑制効果は エポキシフェノリックレジンによるものではなく水によるものであると考えられる。また,エポキシ樹脂にはビスフェノールAや4-ヒドロキシ-メチルペンタノン等のルイス塩基が不純物として含まれ得るところ,甲23証明書の実験結果においては,分解物Cp-P1,HFIP,Cp-P2以外の分解物成分が420ppmないし319ppmと多量に検出されているから,上記のような不純物がルイス酸と反応してセボフルランの分解を抑制したものと考えられる。したがって,甲23証明書は,エポキシフェノリックレジンが「ルイス酸抑制剤」であることを示しているものではない(乙10 。さらに,甲)23証明書の実験で用いられているエポキシ樹脂は,旭電化工業株式会社製のものであり,被告製品に使用されているエポキシ樹脂とは同一でない。エポキシ樹脂は,硬化剤等の添加物の配合によって性能が大きく変わるから(乙10の15項 ,甲23証明書の実験結果は,被告製品 )に用いられているエポキシ樹脂がルイス酸抑制効果を有することの証明にならない。なお,甲23証明書の実験結果においては,72時間におけるボトル番号15及び16よりも24時間におけるボトル番号11及び12の方が総分解物が多いという矛盾した結果となっており,甲23証明書が適正な実験結果でないことを裏付ける。
原告らは,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤であることの証拠として甲31及び甲32報告書を提出する。
しかし,上記各実験には次のような不備があり,上記各実験をもってエポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤であるということはできない(乙12宣誓供述書 。第1に,いずれの実験も被告製品のエポキ )シフェノリックレジンを正確に再現していない。すなわち,エポキシフェノリックレジンの効果の時間,温度,硬化させる樹脂の下に存在する表面の熱伝導特性及び樹脂の厚みのすべてが硬化プロセスに重大な影響を与えるところ,甲31及び甲32証明書には樹脂が被告製品中のエポキシフェノリックレジンと同様に硬化したか否か確認されていない。さらに,甲31及び甲32証明書で使用されたエポキシフェノリックレジンは,粉砕されておりボトルの壁に結合して動くことのできない被告製品とは全く異なる状況にある。樹脂は粉砕されるとセボフルラン中を動き回り実験で使用された活性化されたアルミナに自由に付着してアルミナの表面を物理的にふさぐ(化学的に中和するのではなく)ことができる状態にある。第2に,甲31及び甲32証明書においては,甲23証明書の実験では行われていなかった残存溶媒など樹脂中から溶出する可能性のある不純物を抽出,除去する作業が行われているが,不十分であ,。 り 残存可溶性成分の効果によってルイス酸が抑制された可能性がある甲31及び甲32証明書では抽出作業を1回しか行っていないが,通常1回の抽出では混合物の可溶性成分のすべてを除去することはできないものである。第3に,甲31及び甲32証明書では粉砕されて表面積が増大した樹脂に吸着する水の制御が不十分であったと考えられる。すなわち,甲31及び甲32証明書における水含有量の測定は強力に水を吸着する活性化アルミナを含むサンプルにおいて行われているため不正確である。また,水含有量が少なく,かつ強酸性のサンプルにおいてはカールフィッシャー分析の信頼性が非常に低い。したがって,甲31及び甲32証明書においては,測定された値とは異なる,それ以上の水分が存在したと考えられ,甲31及び甲32証明書の結果は,結局,水によるルイス酸抑制効果を示しているものと考えられる。第4に,甲31及び甲32証明書にはpHが記載されていないので,エポキシフェノリックレジンを含まないサンプル中のセボフルランが分解しなかったとの結果には信頼性がない。第5に,甲31及び甲32証明書は,アルミニウムボトルではなくガラス容器内で行われており,ガラス容器に特異なカスケード反応を妨害する効果が測定されたと考えられる。甲31及び甲32証明書から,アルミニウム容器においてエポキシフェノリックレジ。, ンがルイス酸抑制効果を有するか否かを理解することはできない なお原告らは,甲35の実験成績証明書(以下「甲35証明書」という )。
により,甲31証明書の旭電化工業株式会社のエポキシ樹脂と甲32のHOBA製エポキシ樹脂が同一であると主張する。しかし,乙12宣誓供述書の25項で説明されているように,甲35証明書のFT-IR試験は精度の高い定量分析法ではなくさらに,甲35証明書で使用されたスペクトルの質が劣悪であることからその結果は有意な結果とはいえない。また,そもそも甲31及び甲32証明書のいずれのエポキシ樹脂も被告製品に用いられているものと同一であることは確認されていない。
原告らの行った実験(甲38)は,アルミニウムを強酸(塩素またはフッ化水素酸)で処理することによりルイス酸を生成させている。しかし,市販されている被告製品に強酸が混入されることはあり得ないのであるから甲38の実験は意味がない。原告らの実験では,被告製品のアルミニウム表面上にセボフルランを分解し得るルイス酸が存在することを立証できていない(乙12宣誓供述書の23項 。)) 本件米国関連訴訟について gエポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤に該当するか否かとい,, う点については 本件米国関連訴訟においても争点とされていたところ米国地方裁判所裁判官は,エポキシフェノリックレジンはルイス酸抑制剤に当たらないとの見解を示している。
すなわち,米国地方裁判所は「これらの試験は,エポキシフェノリックライナーが,実際には有効な抑制剤ではないことを示すことに貢献した 」との判断を示した(乙11の37頁 。この点,原告らは,米国 。)地方裁判所の判断の「有効な抑制剤」とは「有効な量の抑制剤」の意味であるから,被告製品のエポキシフェノリックライナーにルイス酸抑制効果がないとまでは判断していない旨主張する。しかし,米国地方裁判not an effective amount of inhibitor not an 所判決は「 」とは記載せずに「」と記載しているのであるから,量とは無関係に被告 effective inhibitor製品のエポキシフェノリックライナーがルイス酸抑制剤ではないと判断したことは明らかである。
また,原告らは 「 」のより正確な訳は「傾向にある」であ ,tended toると主張するが,非侵害であるとの判決の結論を考慮すれば 「貢献し,た」との訳がより正確であるといえる。原告らは 「エポキシフェノリ,ックレジンが水等の特定された物質とのルイス酸抑制剤としての代替性につき予見可能であった」旨の記載を根拠に,米国地裁判決は,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制効果を有することを当然の前提としている旨主張する。しかし,米国地裁判決は,エポキシフェノリックレジンは一般的にその置換基の構造からしてルイス酸抑制効果を持ち得る,ルイス酸抑制剤となり得ることが予見可能であったと判断しているだけで,実際の被告製品に使用されている具体的なエポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制効果を持つというような判断をしているわけではない。
( ) 争点2-4(本件特許発明構成要件Dの「被覆」が排液過程を伴う工 4程に限定されるか)についてア原告ら被告は,仮に原告らの主張するとおり,本件特許発明が「ルイス酸抑制剤を容器内壁に被覆し,セボフルランを容器に充てんする前に,あらかじめ容器内壁のルイス酸を中和しておくことによってセボフルランの分解を抑制することに主要な効果を有する」発明であり,その根拠が本件明細書の【0033】及び実施例7であるとすれば,原告らの主張する「被覆」とは,本件明細書の【0033】及び実施例7に記載された工程を意味するものと解すべきであり,当該箇所に記載された工程とは,排液過程を伴うから 「被覆」とは,排液過程を伴う工程であると解釈されるべきであ ,る。そして,被告方法は,排液過程を伴わないからいずれにせよ構成要件Dを充足しない旨主張する。
しかし,原告らが本件明細書の【0033】及び実施例7の記載を根拠に本件特許発明の本質を上記のように主張したからといって 「被覆」の,意味を本件明細書の【0033】及び実施例7に記載された工程に限定して解釈しなければならない理由はない。
特許発明における用語の意義を解釈するにあたっては,実施例を含めた()。, 本件明細書の記載全体を考慮すべきである 特許法70条2項 確かに【0033】及び実施例7の記載は 「被覆」の実施例の一つであるが, ,「被覆」の意味を実施例に記載したものに限定して解釈する必要はない。
本件明細書全体を考慮すれば 「被覆」とは「容器表面に存在し得るルイ ,ス酸を中和してその働きを抑制するという作用を奏し得る程度に容器の表面を水等のルイス酸抑制剤で『被覆 ,つまり覆い被せること」であると 』解釈すべきであって,排液するか否かは要件とはなっていない。本件特許発明の本質は,容器内壁をルイス酸抑制剤で被覆することによって容器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制する点にあるところ,「被覆する工程」によって上記ルイス酸を中和してその働きを抑制する効果を奏していれば,排液工程を有するか否か,当該被覆が覆い被せられた状態で残存するか否かは本件特許発明の本質とは無関係な付加的構成にすぎない。
イ被告仮に原告らが主張するように本件明細書の【0033】及び実施例7の記載に基づいて「被覆」の意味を解釈するとすれば,排液過程を伴う工程が「被覆」であるというように解釈することになり,被告方法は排液工程を伴わないから構成要件Dを充足しないことに変わりない。
( ) 争点2-5(本件特許発明構成要件Dの「容器」が完成された容器に 5限定されるか)についてア原告ら被告は,本件特許発明構成要件Dの「容器」は完成された容器でなければならないとした上で,被告方法においては,エポキシフェノリックレジンを塗布してから容器の首部分を完成させるから構成要件Dを充足しない旨主張する。
しかし,特許請求の範囲には「内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程」とのみ記載されており,本件明細書のどこにも完成した容器に限定するような記載はないから,被告の上記解釈は採り得ない。本件特許発明における容器は,特許請求の範囲に記載されているとおり,内部空間を規定し,該内部空間に隣接する内壁を有するものであれば足りる。
被告方法において,エポキシフェノリックレジンを,未完成ボトルの内壁に塗布した後にボトルの口部の金属を折り曲げ平坦にする工程が行われ,。 ていたとしても それは本件特許発明とは無関係な付加的工程にすぎないイ被告構成要件Bと構成要件Dは経時的な要件であるから,内壁表面をルイス酸抑制剤で被覆する(構成要件D)前に,容器(構成要件B)が完成していなければならない。したがって,本件特許発明構成要件Dの「容器」とは容器として完成されたものに限定される。
被告方法においては,ボトルが未完成の段階でエポキシフェノリックレジンを塗布し,その後にボルトの首部分を加工して完成させるのであるから(乙15 ,被告方法は構成要件Dを充足しない。 )3 争点3(本件特許が特許法36条6項1号(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること)の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるか)について()被告1ア 本件特許発明は,その分割出願の経緯から,水以外のルイス酸抑制剤に関する発明である。
ところが,本件明細書には,ルイス酸抑制剤として水を用いた場合についての記載しかなされていない。したがって,本件明細書には,本件特許発明に関する記載はなされていないことになる。
イ 本件特許発明のセボフルランは「ルイス酸抑制剤不含有セボフルラン」であると解釈される。
,,「」 ところが 本件明細書には ルイス酸抑制剤を添加したセボフルランを容器に入れる構成しか記載されていない。
ウ 原告らは,本件特許発明の本質は,あらかじめ容器の内壁をルイス酸抑制剤で被覆することにより,特に容器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制する点にあると主張する。しかし,本件明細書には原告らの主張する上記事項について記載されていない。
本件明細書の【0033 ,実施例3及び実施例7には 「ルイス酸抑 】,制剤で容器を洗浄またはすすぎ洗いした後容器を空にすること」や「ルイス酸抑制剤を含む麻酔薬組成物を容器に入れて振とうさせ容器内壁に接触させること」が記載されているにすぎず,ルイス酸抑制剤によって容器内壁表面を「被覆」すること,すなわち,被告方法のようにボトル内壁の表面上に固体の被覆膜を形成する方法については記載されていない。液体である水飽和セボフルランをガラス表面に接触させてルイス酸と中和させる方法と表面上に固体の被覆膜を形成する方法とでは技術的に全く異なる意義を有する。実施例6と実施例7を比較すると,水飽和セボフルランを容器に入れて2時間回転機にかけた実施例7の方がよりセボフルランの分解が抑制されているが,これは,回転機にかけたことによってガラス表面のルイス酸とルイス酸抑制剤である水の間で中和反応がより多く起こったからにすぎない。実施例7では「容器内壁の被覆」がなされているわけではないから,実施例6と実施例7とを比較してもルイス酸抑制剤で容器内壁を被覆した効果を読み取ることはできない。
エ 原告らは,本件特許発明においてはセボフルランを含まない被覆材料を用いて容器内壁表面を被覆する構成も含まれると主張する。しかし,本件明細書の実施例7及び【0033】には,ルイス酸抑制剤とセボフルラン等のフルオロエーテル化合物からなる麻酔薬組成物を用いて被覆する工程しか記載されておらず,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物を含まない被覆材料を用いて容器内壁表面を被覆する構成は記載されていない。
オ 本件特許発明構成要件Dの「容器」が未完成の容器をも含むものとすれば,本件明細書には未完成の容器をルイス酸抑制剤で被覆する工程についても記載されていなければならないところ,本件明細書にはそのような記載がない。
すなわち,ルイス酸抑制剤で容器内壁を被覆してから容器を加工する場合には,被覆後容器の完成までにさらにルイス酸が容器内部に混入する可能性があるが,本件特許発明においては,このようにして混入するルイス酸を中和する方法について記載されていない。
したがって,本件特許発明構成要件Dの「容器」に未完成の容器をも含むのであれば,本件特許は特許法36条6項1号に違反しており無効理由を有する。
()原告ら2ア 被告は,本件特許発明は,その分割出願の経緯から,水以外のルイス酸抑制剤に関する発明であると主張する。
確かに,親出願においては,ルイス酸抑制剤を水に限定したが,これを限定すると同時になされた分割出願である本件特許発明においてルイス酸抑制剤から水を除かなければならないとする理由はない。上記分割出願においては,ルイス酸抑制剤を水とそれ以外に分割する趣旨ではなく 「セ,ボフルランとルイス酸抑制剤である水を含んだ麻酔薬組成物」と 「あら,かじめ容器の内壁をルイス酸抑制剤で被覆することにより特に容器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制する方法」を分割する趣旨であった。
したがって,本件特許発明のルイス酸抑制剤が水以外のものに限定されることを前提とした被告の主張は的を射ない。
イ 被告は,本件特許発明の「セボフルラン」を「ルイス酸抑制剤不含有セボフルラン」であると解釈することを前提に,本件明細書に本件特許発明に関する記載がない旨主張する。
しかし,本件特許発明の「セボフルラン」は「ルイス酸抑制剤不含有セボフルラン」ではない。本件特許発明の好適な具体例として記載されている実施例7においてはセボフルラン中にルイス酸抑制剤である水が一定量含まれている例が挙げられている。
したがって,本件特許発明のセボフルランがルイス酸抑制剤を含まないことを前提とした被告の主張は的を射ない。
なお,被告方法のセボフルラン原液が本件特許発明のセボフルランに該当することは当然であるが,被告方法のセボフルラン原液にルイス酸抑制剤が含まれていないとはいえないむしろ 被告製品の輸入承認申請書 甲 。, (5)によれば,セボフルラン原液には一定量の水が含まれている蓋然性が高い。仮に,被告製品のセボフルラン原液にルイス酸抑制剤が含まれていないとしても,本件特許発明のセボフルランを被告主張のように解釈する理由はない。
ウ 被告は,本件明細書の【0033 ,実施例3及び実施例7には 「ル 】,イス酸抑制剤で容器を洗浄またはすすぎ洗いした後容器を空にすること」や「ルイス酸抑制剤を含む麻酔薬組成物を容器に入れて振とうさせ容器内壁に接触させること」が記載されているにすぎず,ルイス酸抑制剤によって容器内壁表面を「被覆」することは記載されていないと主張する。
しかし 「被覆」とは「おおいかぶせること」であり本件特許発明にお ,いては,容器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制するという作用を奏し得る程度に容器の表面を水等のルイス酸抑制剤で「おおいかぶせる」ことである。そして,本件明細書の【0033】及び実施例7には容器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制するという作用を奏し得る程度に容器の表面を水等のルイス酸抑制剤で「おおいかぶせる」構成が記載されている。
なお,被告は,被告方法についてボトル内壁の表面上に被覆層を形成する方法と述べ,被告方法における被覆があたかも「固体」であるかのように主張し,本件特許発明とは技術的思想が異なる旨主張する。確かに,最終的に得られた被告方法の内壁表面上に形成されているのは固体のエポキシフェノリックレジンであるが,答弁書において被告も認めるとおり,被告方法においては容器の該内壁をエポキシフェノリックレジンのラッカーで被覆しているのであるから,少なくとも被覆する工程においてはエポキシフェノリックレジンはラッカー溶媒に溶解された状態,すなわち液体状態で存在しているものである。被告方法においてもエポキシフェノリックレジンのラッカーという液体を用いて被覆層を形成しているのであるから,被覆が固体であることを前提とした被告の主張は当を得ない。ちなみに,被告方法においてはラッカーを被覆した後にエポキシフェノリックレジンを硬化させることにより固体化しているが 本件特許発明における 被 ,「覆」の意義が,上記のとおり「容器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制するという作用が奏し得る程度に,ボトル表面をルイス酸抑制剤を覆い被せれば足りるもの」という意味であることからすれば,本件特許発明においてまず第一義的に必要なのは,被覆工程においてボトル表面にルイス酸抑制剤を接触させることであって,一旦かかる被覆工程によって当該作用を奏するように被覆されたならば,その後に該被覆が固体に変性(硬化)されたとしても,かかる硬化の工程は「方法」に係る発明である本件特許発明との関係では,単なる付加的な工程にすぎず,被告方法の侵害認定において何らの影響を与えるものではない。
エ 被告は,本件明細書には,ルイス酸抑制剤とセボフルラン等のフルオロエーテル化合物からなる麻酔薬組成物を用いて被覆する工程しか記載されておらず,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物を含まない被覆材料を用いて容器内壁表面を被覆する構成は記載されていない旨主張する。しかし,本件明細書の記載から本件特許発明の本質が「容器内壁をルイス酸抑制剤で被覆することにより,特に容器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制する点」にあることは明らかであり,一方,容器の内壁に各種の被覆を設けること自体は当業者の技術常識であることから,実施例7による水飽和セボフルランによる被覆の開示等に基づき これを ル,「イス酸抑制剤で被覆する工程」一般へ拡張したとしても,本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できることは明らかであるから,特許法36条6項1号違反となるものではない。
オ 被告は,本件特許発明構成要件Dの「容器」に未完成の容器も含むと解釈する場合には,本件明細書に未完成の容器をルイス酸抑制剤で被覆した後容器を完成させる技術の記載がないから特許法36条6項1号に違反する旨主張する。
しかし,本件明細書【0030】に「本明細書で用いる『容器』という用語は,物品を保持するために使用できる…入れ物を意味している。容器の例はボトル・アンプル・試験管・ビーカー等を含む」と記載されているように,本件特許発明構成要件Dの「容器」は入れ物であれば足りることが明らかにされているのであり,市販・貯蔵容器として完成されていることを要求していない。本件特許発明の本質は 「容器内壁」をルイス酸 ,抑制剤で被覆することにより 「容器内壁表面」に存在し得るルイス酸を ,中和してその働きを抑制する点にあるのであるから,構成要件Dの容器は物品を保持するために使用できる入れ物で,被覆工程を経て前記被覆の効果を奏し得るものであれば足りる。そうすると,未完成の容器が本件特許発明構成要件Dの「容器」に含まれるからといって何ら特許法36条6項1号に違反するものではない。
4 争点4(本件特許が改正前特許法36条4項(発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない)の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるか)について()被告1ア 本件明細書は,本件特許発明の効果を当業者が理解できる程度に記載していないから,本件特許は,平成14年改正特許法(法律24号)の附則2条により本件特許に適用される平成14年改正前特許法36条4項に違反する特許出願に対してなされたものであり,特許法123条1項4号により無効とされるべきものである。
イ 本件明細書には,ルイス酸抑制剤について「ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物」との記載がある( 0026 。しかし,ルイス酸と反応し得る化合物で 【】)あっても,その反応速度がルイス酸とセボフルランとの間の反応速度よりも速くなければ,当然に分解を抑制することができないのであって,本件明細書に定義された上記定義に該当する化合物がすべてセボフルランの分解を抑制するルイス酸抑制剤として機能するものではない。ところが,本件明細書には,ルイス酸とセボフルランとの間の反応速度よりも早くルイス酸を攻撃する化合物がどのような化合物であるかを一切記載していない。したがって,当業者は,例示された化合物を除き,実際にセボフルランの分解を抑制できる化合物を本件明細書から理解することができない。
本件明細書は,上記のような反応速度に関するルイス酸抑制剤の要件を無視しているために,次のような矛盾を含んでいる。本件明細書の上記定義に該当する化合物をルイス酸抑制剤であるとすると,-O-基を有するセボフルラン自体がルイス酸抑制剤ということになってしまう。また,ガラスも-O-基を有していることから,ルイス酸抑制剤に当たることになり,ガラス容器中でセボフルランの分解が生じるという本件明細書の【0004】の記載とも矛盾する。
さらに,本件親出願の出願当初明細書にはセボフルランに限定することなくアルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物にルイス酸抑制剤を添加して安定化させる構成が記載されていた。このことから,原告らの主張によれば,セボフルランやガラスのみならず,アルファフルオロエーテル部分を有する各種フルオロエーテル化合物もルイス酸抑制剤に含まれないと解釈しなければならない。
そうすると,本件明細書上の「ルイス酸抑制剤」に該当するにもかかわらず,ルイス酸抑制剤ではないとされる物質が多数存在するということになり,本件明細書はどのような物質がルイス酸抑制剤に当たるのか当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
原告らは,当業者であれば,本件明細書における「ルイス酸抑制剤」にガラスやセボフルランが含まれるとは解釈しない旨主張する。しかし,本件明細書中の定義規定によれば,ガラスやセボフルランも「ルイス酸抑制剤」に含まれることになるから,結局,原告らは,本件明細書の「ルイス酸抑制剤」の定義に誤りがあることを認めているだけで何の反論もしていない。
ウ 本件明細書の実施例3には,容器をルイス酸抑制剤で被覆することによってはルイス酸による分解を防ぐことができない旨記載されているのであるから,当業者が,本件明細書を読んでも本件特許発明の効果を理解できないことは当然である。
,【】 () すなわち 実施例3に関する 0040には容器をルイス酸抑制剤 水で被覆したセットAと被覆していないセットBとの比較実験を行ったが,サンプル1及び3においては,セットAの方がセットBより総分解産物量が多く,サンプル5ではセットAの方がセットBよりHFIP量及び総分解産物量が多くなっている。また,本件明細書【0042】には,この実験について「この結果は,一晩振とうしたアンプルと一晩振とうしなかっ。」。 たアンプルとの間に有意な差がないことを示している との記載がある原告らは,実施例3は適正な条件下で行われたものではないから通常の結果を反映していないと主張するが,本件明細書【0042】には「上記表2の結果は,…少なくとも595ppmの水があれば充分にセボフルランの分解を抑制できることを示している」と記載されており,実施例3が通常の結果を反映させたものであることは明らかである。
「」 , , 実施例7にも 被覆 についての記載があるが 当該実施例においては容器にルイス酸抑制剤を被覆するだけでなく,セボフルラン中に400ppmという大量のルイス酸抑制剤(水)を添加しているから,当該添加されたルイス酸抑制剤によって効果が得られている可能性が大きい。したがって,本件明細書からは,容器をルイス酸抑制剤で被覆しただけでセボフルランの分解を抑制する有意な効果が得られるか否かを当業者は理解することができない。
原告らは,実施例7にも「被覆」についての記載があり,実施例7は実施例6との比較において本件特許発明の効果を示す好適な例である旨主張する。しかし,実施例7にはガラス表面のルイス酸をルイス酸抑制剤で中和し,ボトルから水飽和セボフルランを排液した場合の効果が記載されているのみであって,ガラス容器をルイス酸抑制剤で「被覆」する(おおいかぶせる)ことによる効果が記載されているわけではない。また,そもそも,実施例7においては,容器にルイス酸抑制剤を被覆するだけでなく,セボフルラン中に400ppmという大量のルイス酸抑制剤(水)を添加しているから,当該添加されたルイス酸抑制剤によって効果が得られている可能性が大きい。原告らは,セボフルラン中に400ppmのルイス酸抑制剤(水)を添加している点では実施例6も実施例7と同様であるところ,実施例7では,実施例6よりセボフルランの分解が抑制されており,これは,容器をルイス酸抑制剤で被覆したことによる効果である旨主張する。しかし,実施例7において実施例6よりセボフルランの分解が抑制されたのは,実施例7においては,水飽和セボフルランを入れて2時間回転機に掛ける処理を行ったため,ガラス表面のルイス酸とルイス酸抑制剤である水との間で中和反応がより多く起こったからに過ぎない。水飽和セボフルランを入れて2時間回転機に掛ける処理は 「被覆 (おおいかぶせ ,」ること)とは異なるから,上記記載をもって容器の内壁の被覆によりセボフルランの分解が抑制されたということはできない。むしろ,実施例3においては,振とうしなかった場合と振とうした場合のサンプルの間に有意な差がなかった旨記載されており,実施例7において,実施例6よりセボフルランの分解が抑制されたのは,一晩振とうしたことによるものではなく,ボトルを洗浄した後に排液を行ったこと(実施例3では,ボトルを洗浄した後に排液を行っていない)によるものと考えられる。 。
実施例3と実施例7の内容を比較すると,結局,被覆するか否かではなく,被覆した後に排液するか否かで本件特許発明の効果が生じるか否かが決定されることになると解釈できるが,ルイス酸抑制剤を容器内壁に被覆し,セボフルランを容器に供与する前に,あらかじめ容器内壁のルイス酸を中和しておくことによってセボフルランの分解を抑制するという効果については記載されていない。
したがって,本件明細書からは,容器をルイス酸抑制剤で被覆しただけでセボフルランの分解を抑制する有意な効果が得られるか否かを当業者は理解することができない。
()原告ら2ア 被告は,本件明細書には,ルイス酸とセボフルランとの間の反応速度よりも早くルイス酸を攻撃する化合物がどのような化合物であるかを記載していないため,当業者は,例示された化合物を除き,実際にセボフルランの分解を抑制できる化合物を本件明細書から理解することができない旨主張する。
しかし,本件特許発明は,ルイス酸抑制剤を容器内壁に被覆し,セボフルランを容器に充てんする前に,あらかじめ容器内壁のルイス酸を中和しておくことによってセボフルランの分解を抑制することを主要な効果とする。つまり,被覆されたルイス酸抑制剤と容器内壁のルイス酸の反応は,当該ルイス酸がセボフルランに遭遇する前に起こることになり,ルイス酸抑制剤とルイス酸との反応速度がセボフルランとルイス酸との反応速度よりも早い必要はない。
したがって,本件明細書に,ルイス酸とセボフルランとの間の反応速度よりも早くルイス酸を攻撃する化合物がどのような化合物であるかを記載していなくとも何ら改正前特許法36条4項に反するものではない。
,, 「 」 , また 被告は 本件明細書における ルイス酸抑制剤 の定義によればセボフルラン自体やガラスもルイス酸抑制剤に当たることになる旨主張する。
しかし,本件特許発明は,セボフルランの分解抑制を目的としているのであるから,分解抑制の対象であるセボフルラン自体がその分解抑制剤に含まれる物ではないことは自明である。ガラスについても,本件明細書においては,ガラス(特にその天然成分である酸化アルミニウム)がルイス酸のソースであることが明確に記載されているのであるから,当業者であれば,ガラスが本件明細書に定義されたルイス酸抑制剤に当たると誤解することは到底あり得ない。
被告は,本件明細書上,ルイス酸抑制剤に該当するにもかかわらず,ルイス酸に該当しないものとして,セボフルランやガラスだけでなく,アルファフルオロエーテル部分を有する各種フルオロエーテル化合物も存在する旨主張し,本件明細書の記載のみではいかなる物質がルイス酸抑制剤に当たるのか不明であると主張する。
しかし,アルファフルオロエーテル部分を有する各種フルオロエーテル化合物も,セボフルランと同様,分解抑制の対象,つまりルイス酸抑制剤により安定化される化合物であることは当業者には容易に理解できることであるから,被告の主張は失当である。
イ 被告は,本件明細書の実施例3について,容器をルイス酸抑制剤で被覆することによってはルイス酸による分解を防ぐことができない旨記載されていると主張する。
しかし,実施例3の結果は本件明細書に記載されているとおり「両サンプル(一晩振とうしたセットAと振とうしなかったセットB)に有意な差がない」と評価すべきであって,多少のデータの上下は測定誤差によるものにすぎない。なお,セットAとセットBとの間に有意な差異がみられなかったのは,沸点58℃のセボフルランを通常の貯蔵状態ではあり得ない119℃という苛酷試験であったことに加え,そもそも,実施例3においては,被覆処理後,該処理に用いた水含有セボフルラン自体をそのまま対照サンプルとして用いていることから,結局,セットAとセットBとではサンプル内にいれた水分量が同一であったから,容器を水で被覆することによる効果と水をセボフルランに添加することによる効果との総和たるセボフルランの分解抑制効果に有意な差がみられなかったものであって,むしろ当然の結果である。
本件明細書の実施例3に記載された発明は,同実施例6,7記載の実験結果との比較において,本件特許発明における被覆の効果を明確に示すものである。
被告は,本件明細書の実施例7について,容器にルイス酸抑制剤を被覆するだけでなくセボフルラン中に400ppmという大量のルイス酸抑制剤(水)を添加しているから,容器をルイス酸抑制剤で被覆しただけでセボフルランの分解を抑制する有意な効果が得られるか否かは不明である旨主張する。
しかし,実施例7は,実施例6と同様の5本のボトルを用い,容器を水で被覆する以外は,実施例6と同じ条件で実験したものであるから,両者の結果を比較することで,容器をルイス酸抑制剤で被覆することによる効果を知り得るものである。そして,実施例7の実験結果は,実施例6の実験結果より明らかにHFIPや総分解産物の量が少ないのであるから,容器をルイス酸抑制剤で被覆することの効果が大きいことを示しているといえる。
5 争点5(本件特許が特許法36条6項2号(特許を受けようとする発明が明)) 確であること の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるかについて()被告1本件明細書は,ルイス酸抑制剤について「ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物」と記載している( 0026 。そして,-O-基を有する化合物は,上記定 【】)義に当てはまることになる。
しかしながら,-O-基を有する化合物であっても,セボフルラン自体や,ガラス,アルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物はルイス酸抑制剤ではあり得ないから,結局,上記定義に当てはまる化合物のうちどの範囲がルイス酸抑制剤に当たるかを当業者は容易に理解することができない。
()原告ら2被告は,本件明細書がルイス酸抑制剤について「ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物」と定義しているが,かかる定義によれば,セボフルランやガラス,アルファフルオロエーテル部分を有する各種フルオロエーテル化合物も「ルイス酸抑制剤」に含まれることになってしまうとして,上記ルイス酸抑制剤の定義が不明瞭である旨主張する。
しかし,セボフルラン,ガラス,アルファフルオロエーテル部分を有する各種フルオロエーテル化合物のいずれも,本件明細書に明記された本件特許発明の目的や趣旨等に照らして 「ルイス酸抑制剤」に含まれないもの ,であることは当業者には自明なことであるから,この点をもってしても何ら本件特許発明における「ルイス酸抑制剤」の定義を不明瞭にするものではない。
, アルファフルオロエーテル部分を有する各種フルオロエーテル化合物もセボフルランと同様,分解抑制の対象,つまりルイス酸抑制剤により安定化される化合物であることは当業者には容易に理解できることである。被告の主張は失当である。
6 争点6(本件特許が改正前特許法17条の2第3項補正要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたといえるか)について()被告1ア 本件分割出願当初明細書(乙6の2)には,容器をルイス酸抑制剤で被覆することを示唆する表現として,次の記載があるだけである。
「 0040】約20mLのセボフルランと,約109ppmから約9 【51ppmの範囲の異なるレベルの水を各アンプルに入れた。…セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け,水分をガラス表面に被覆できるようにした 」。
「【】 。 0056 各ボトルに約125mLの水飽和セボフルランを入れたその後,その5本のボトルを回転機に約2時間掛け,活性化されたガラス表面に水を被覆できるようにした。次いで,各ボトルから水飽和セボフルランを排液し,400(添加)ppmの水を含有する100mLのセボフルランで置換した 」。
上記はいずれも水を添加したセボフルランを水で被覆したガラス容器中に貯蔵する構成を記載したものであって,水を添加しないセボフルランを被覆容器中で貯蔵することや,水以外のルイス酸抑制剤で容器を被覆することや,ガラス以外の容器の表面にルイス酸抑制剤を被覆する構成については記載されていない。
したがって,容器としてガラス容器以外の容器を含み,ルイス酸抑制剤として水以外のものを含み,容器の処理として容器と水を接触させる処理以外に容器をルイス酸抑制剤で「被覆」する(おおいかぶせる)処理を含む構成に変更する,平成16年6月25日付け手続補正書による補正(甲2の最終頁。以下「本件補正1」という)及び平成17年2月23日付 。
け手続補正書による補正(甲3。以下「本件補正2」といい,本件補正1と併せて「本件各補正」という )は,平成14年改正特許法(法律24 。
号)の附則2条により本件特許に適用される平成14年改正前特許法17条の2第3項に違反してなされたものであり,特許法123条1項1号により無効とされるべきものである。
原告らは,本件明細書には上記のほか 「適量のルイス酸抑制剤を含有 ,する少量の本組成物を用いて容器を洗浄またはすすぎ洗いし,容器に残っている可能性のあるルイス酸を中和することができる。ルイス酸を中和したら容器を空にし,その容器に付加量のフルオロエーテル化合物を加え,容器を密封してもよい 【0033】との記載もあると指摘する。しか 。」し,当該記載は 「洗浄またはすすぎ洗い」の後に「容器を空に」するこ ,とを記載しているものであって,言い換えれば「洗浄またはすすぎ洗いして中和した後の溶液を容器の外へ排出すること」によってセボフルランの分解を抑制することを記載したものである。容器内壁を「被覆」することに関する記載ではない。
原告らは,本件明細書全体の記載を考慮すれば多様な材料の容器が記載されており,各種の具体的被覆方法が記載されているから「被覆」を追加する補正は新規事項を追加するものではない旨主張する。しかし,本件明細書全体の記載を考慮しても「被覆」の方法としては「液体をボトル内壁の表面に接触させてルイス酸と中和させる方法」が記載されているにすぎず各種の具体的被覆方法が記載されているとはいえない。
また,原告らは,本件特許発明には,現に容器内壁に存在するルイス酸の反応を抑制するというだけでなく,酸の混入等悪条件が重なったために存在し得るルイス酸に対する万一の場合に備えての予防的な効果もあると主張し,現にルイス酸が存在するガラス容器だけでなく酸化することによってルイス酸となり得るアルミニウム容器も本件特許発明の容器たり得ると主張するようである。しかし,本件明細書【0004】には「フルオロエーテルの分解はガラス製の容器中で起こることが分かった。ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる 」と記載されている。本件明細書に 。
はガラス中に存在する酸化アルミニウムに由来するルイス酸によるセボフルランの分解及びその防止のみを記載しているのであって,原告ら主張のような予防的効果は一切記載されていない。
したがって,本件各補正は新規事項を追加するものである。
イ 本件出願当初のクレーム及び明細書には,セボフルランとルイス酸抑制剤とを含む麻酔薬組成物を被覆工程に用いることのみが記載されており,セボフルランを含まないルイス酸抑制剤を被覆工程に用いることは全く記載されていない。
したがって,本件補正後のクレーム技術的範囲にセボフルランを含まないルイス酸抑制剤を被覆工程に用いる構成も本件特許発明の範囲に含まれるというのであれば,そのような補正は新規事項の追加に該当する。
ウ 本件明細書には,容器が完成される前に被覆を行う方法は記載されていないから,本件特許発明構成要件Dの「容器」に完成前の容器も含まれるとすれば,本件特許発明の特許請求の範囲は新規事項を含むというべきである。
()原告ら2ア 被告は,本件分割出願当初明細書には,その【0040】及び【0056】に,水を添加したセボフルランを水で被覆したガラス容器中に貯蔵する構成に関する記載があるだけで 「容器の内壁をルイス酸抑制剤で被覆 ,する」構成に関する記載がないから,本件各補正は,改正前特許法17条の2第3項に違反してなされたものであり,特許法123条1項1号により無効とされるべきものである旨主張する。
しかし,そもそも,本件分割出願当初明細書には,上記【0040】及び【0056】のほか 【0033】に 「適量のルイス酸抑制剤を含有 ,,する少量の本組成物を用いて容器を洗浄またはすすぎ洗いし,容器に残っている可能性のあるルイス酸を中和することができる。ルイス酸を中和したら容器を空にし,その容器に付加量のフルオロエーテル化合物を加え,容器を密封してもよい 」との記載があるから,容器を水で被覆すること 。
について【0040 【0056】の記載しかないという被告の主張の前 】提自体が誤りである。
また,被告の指摘する記載は,いずれも実施例中の記載であるが,実施例に記載した構成以外の構成を含む補正であるからといって直ちに新規事項の追加に当たるというものではなく,本件分割出願当初明細書の記載全体,当業者の技術常識をも加味した上で,当該補正が当該明細書中に記載されている事項及び当該記載から自明な事項の範囲を超えるものであるか否かを基準として判断する必要がある。本件については,本件分割出願当初明細書の実施例には 「水を添加したセボフルランを水で被覆したガラ ,ス容器中に貯蔵する構成」のみが記載され,例えば 「水を添加しないセ,ボフルランを水で被覆したガラス容器中で貯蔵する構成」や「セボフルランを水以外のルイス酸抑制剤で被覆したガラス容器中に貯蔵する構成 ,」「セボフルランを水で被覆したガラス容器以外の容器中に貯蔵する構成」は記載されていないものの,本件分割出願当初明細書には,本件特許発明の特徴が概括的に記載されており,水のみならず,ルイス酸抑制剤全般について定義が記載されていること等を勘案すれば,本件各補正はいずれも新規事項を追加する補正には当たらない。
また,被告は 「被覆」に固体の被覆膜層を形成する方法も含むという ,のであれば,そのような被覆の構成を追加する補正は新規事項の追加に当たる旨主張する しかし 本件明細書全体を考慮すれば 被覆 とは 容 。, ,「」「器表面に存在し得るルイス酸を中和してその働きを抑制するという作用を奏し得る程度に,ボトルの表面をルイス酸抑制剤で覆い被せれば足りるもの」と解釈されるから,これに該当するものであればその具体的な態様が液体であろうとも固体であろうとも本件特許発明においては技術的には全く同様の意義を有する。したがって 「被覆」の定義に固体の被覆膜層が ,包含されるとしても何ら新規事項の追加には該当しない。
被告は,補正前の明細書には現に容器内壁に存在するルイス酸の反応を抑制することだけが記載されており,本件訴訟で原告らが主張する酸の混入等悪条件が重なったために存在し得るルイス酸に対する万一の場合に備えての予防的な効果については記載されていなかったとして,補正により原告ら主張のような効果を含む発明になったとすれば新規事項の追加があった旨主張する。
しかし,この点についても,本件明細書全体の記載に当業者の技術常識を加味すれば実質的に予防効果が本件明細書に記載されているのは明らかであるから被告の主張は失当である。
イ 被告は,セボフルランを含まない被覆材料を被覆工程に用いる場合も本件特許発明の範囲に含まれると主張するのであれば,そのような補正は新規事項の追加に当たると主張する。しかし,本件分割出願当初明細書にはルイス酸抑制剤を含有した麻酔薬組成物による被覆について記載がある。
そして,本件明細書の記載及び当業者の技術常識に基づけば,ルイス酸抑制剤による被覆によっても本件特許発明の作用効果を奏することは明らかなのであるから,かかる拡張36条1項1号違反とはならない適法なものであるから,本件各補正は新規事項の追加に当たらない。
また,被告は,セボフルランを含まない被覆材料を被覆工程に用いる場合も本件特許発明の範囲に含まれると主張するのであれば,そのような補正は新規事項の追加に当たると主張する。しかし,本件分割出願当初明細書にはルイス酸抑制剤を含有した麻酔薬組成物による被覆について記載がある。そして,本件明細書の記載及び当業者の技術常識に基づけば,ルイス酸抑制剤による被覆によっても本件特許発明の作用効果を奏することは明らかなのであるから,かかる拡張36条1項1号違反とはならない適法なものであるから,本件各補正は新規事項の追加に当たらない。
ウ 被告は,本件特許発明構成要件Dの「容器」に未完成の容器も含まれるとすると,本件特許発明の特許請求の範囲は新規事項を含むものである。, , 旨主張する しかし 本件明細書の記載及び当業者の技術常識に照らせばこのような未完成の容器であっても物品を保持するために使用できる入れ物であって,被覆工程を経て前記被覆の効果を奏し得るものであれば本件特許発明における「容器」として十分であると評価できるから,本件特許発明の特許請求の範囲には何ら新規事項を含むものではない。
当裁判所の判断
1 争点1(被告方法の構成c及びeが本件特許発明構成要件C及びEを充足するか)について( ) 被告は,構成要件C及びEの「一定量のセボフルラン」は,貯蔵される対 1象としてのセボフルランではなく,容器内壁を被覆するために用いられるセボフルランを意味すると解釈すべきであり,被告方法は容器内壁を被覆するためにセボフルランを用いていないので構成要件C及びEを充足しないと主張する。しかし,構成要件C及びEの「セボフルラン」は,貯蔵対象となるセボフルランのことであって,被告主張のような解釈は採り得ない。その理由は,次のとおりである。
ア 本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2,1( )イのとおり2であり,本件特許発明の特許請求の範囲においては,容器を被覆する工程として「該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程(構成要件D)が記載され,そ 」れとは別に 「一定量のセボフルランを供する工程 (構成要件C 「該 ,」) ,一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程 (構成要件E)が記載されているのであるから,上記構成要件C 」及びEは被覆工程についての記載ではなく貯蔵対象となるセボフルランを用意し,容器に充填する工程についての記載と解するのが相当である。仮に,被告主張のように解釈した場合には,セボフルランの貯蔵方法である本件特許発明の特許請求の範囲において,貯蔵対象となるセボフルランを容器に充填する工程が記載されていないことになり極めて不自然である。
イ 被告は,本件明細書においては容器内壁を被覆するに当たって水(ルイス酸抑制剤)を含有したセボフルランを用いる方法のみが記載されているから( 0033 ,実施例3及び実施例7 ,特許請求の範囲の記載にお 【】 )ける構成要件C及びEの一定量のセボフルランについても明細書の記載に合わせて解釈する必要があると主張する。
甲13によれば,本件明細書には次の )ないし )の記載がある。 ad) 【0030】a本発明の組成物は様々な方法で調製することができる。ある局面では,先ずガラス製ボトル等の容器をルイス酸抑制剤で洗浄またはすすぎ洗いした後,その容器にフルオロエーテル化合物が充填される。…)【0033】b…適量のルイス酸抑制剤を含有する少量の本組成物を用いて容器を洗浄またはすすぎ洗いし,容器に残っている可能性のあるルイス酸を中和することができる。ルイス酸を中和したら容器を空にし,その容器に付加量のフルオロエーテル化合物を加え,容器を密封してもよい。
)【0040】c実施例3…合計10本のアンプルにセボフルランと様々な量の水を充填した。…次いで,それらのアンプルを119℃で3時間オートクレーブした。セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け,水分をガラス表面に被覆できるようにした。
)【0056】d実施例7…各ボトルに約125mLの水飽和セボフルランを入れた。その後,その5本のボトルを回転機に約2時間掛け,活性化されたガラス表面に水を被覆できるようにした。次いで,各ボトルから水飽和セボフルランを排液し,400(添加)ppmの水を含有する100mLのセボフルランで置換した。50℃で18時間,36時間,及び178時間加熱した後,すべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。
以上によれば,確かに,本件明細書にはルイス酸抑制剤とセボフルラン等のフルオロエーテル化合物とからなる組成物を用いて容器内壁を中和させる構成が記載されている(上記 )ないし ) 。しかしながら,本件明細 bd)書には,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物を用いることなくルイス酸抑制剤単体で容器内壁を中和させ,その後にセボフルラン等のフルオロエーテル化合物を容器に充填するとの構成も記載されているのである(上記 ) 。また,ルイス酸抑制剤とセボフルラン等のフルオロエーテル a)化合物とからなる組成物を用いて容器内壁を中和させる構成においても,容器の被覆工程において用いたセボフルラン等のフルオロエーテル化合物とは別に貯蔵対象用のセボフルラン等のフルオロエーテル化合物を用意し,() て 被覆した後の容器に充填する構成が記載されている 上記 )及び )bdところからすれば,ルイス酸抑制剤とセボフルラン等のフルオロエーテル化合物とからなる組成物を用いて容器内壁を中和する構成が開示されているとしても,構成要件C及びEの「一定量のセボフルラン」を被告が主張するように解する理由はない。なお,本件特許発明において容器内壁を被覆するのはルイス酸抑制剤であってセボフルランではないのであるから,被告主張のように解釈するのであれば,構成要件C及びEの「一定量のセボフルラン」にルイス酸抑制剤が添加されていることを記載する必要があ,。 るにもかかわらず 本件発明の特許請求の範囲にはそのような記載はない被告の上記主張は採用し得ない。
( ) 前記第2,1( )ウ記載のとおり,被告方法は,貯蔵対象となる250m 23lのセボフルラン原液を供する工程(被告方法の構成c)及び貯蔵対象となる250mlのセボフルラン原液を容器によって規定される該内部空間に充填する工程(被告方法の構成e)を有しており,これらは本件特許発明構成要件C及びEの工程に当たる。
したがって,被告方法は構成要件C及びEを充足する。
2 争点2(被告方法の構成dが本件特許発明構成要件Dを充足するか)( ) 争点2-1(本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」が本件明細 1書に具体的に記載された化合物に限定されるか)についてア 平成元年10月20日に発行された「化学大辞典 (甲14)に次の ) 」aの記載があり,平成6年10月1日に発行された「化学辞典 (乙9)に」は次の )の記載があり,本件明細書(甲13)には「ルイス酸抑制剤」 bについて次の )ないし )の記載がある。 chなお,本件明細書には,分割出願に係る本件特許発明(セボフルランの貯蔵方法に関する発明)に関する事項のみならず,親出願(特願平10-532168)に係る発明(セボフルランとルイス酸抑制剤からなる麻酔薬組成物)に関する事項についての記載が含まれているが 「ルイス酸抑,制剤」の用語は親出願に係る発明においても本件特許発明においても共通であることから,以下では,親出願に係る発明の記載か本件特許発明の記載かを問わず 「ルイス酸抑制剤」を解釈する上で必要な記載を挙げる。 ,) 「ルイス塩酸基説に従うと,酸塩基反応はルイス酸がルイス塩基の非 a共有電子対を塩基と共有して配位錯体を生成する反応である (9頁)。」「ルイス塩基… ルイス酸塩基説で定義される塩基で “共有されて,いない少なくとも一つの電子対をもつ物質,すなわち電子対供与体…のことをいう (6頁)。”」) 「ルイス酸塩基説… 1923年に が非共有電子対の授受 bG.N.Lewisに着目して提出した酸塩基の概念。 は“少なくとも一つの電子対 Lewisを受取ることのできる空の軌道をもった物質,すなわち電子対受容体…”を酸と “共有されていない少なくとも一つの電子対をもった物質, ,すなわち電子対供与体…”を塩基と定義した 」。
) 特許請求の範囲c【請求項1】一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,…該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程を含んでなることを特徴とする方法。
) 【0003】dフルオロエーテルは優れた麻酔薬であるが,幾つかのフルオロエーテルでは安定性に問題があることが判明した。より詳細には,特定のフ,, ルオロエーテルは 1種類もしくはそれ以上のルイス酸が存在するとフッ化水素酸等の潜在的に毒性を有する化学物質を含む幾つかの産物に分解することが明らかになった。フッ化水素酸は経口摂取及び吸入すると毒性を呈し,皮膚や粘膜を強度に腐食する。
) 【0004】eフルオロエーテルの分解はガラス製の容器中で起こることが分かった。ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる。ルイス酸のソースはガラスの天然成分である酸化アルミニウムであり得る。ガラス壁が何らかの原因で変質または腐食すると酸化アルミニウムが露出し,容器の内容物と接触するようになる。すると,ルイス酸がフルオロエーテルを攻撃し,フルオロエーテルを分解する。
) 【0026】f本明細書で用いる「ルイス酸抑制剤」という用語は,ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物を表している。生理学的に許容可能なあらゆるルイス酸抑制剤を本発明の組成物に使用することができる。本発明で使用できるルイス酸抑制剤の例は,水,ブチル化ヒドロキシトルエン(1,6-ビス(1,1-ジメチル-エチル)-4-メチルフェノール ,メチル)パラベン(4-ヒドロキシ安息香酸メチルエステル ,プロピルパラベ)ン(4-ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル ,プロポホール(2, )6-ジイソプロピルフェノール 及びチモール 5-メチル-2- 1 ),( (-メチルエチル)フェノール)を含む。
) 【0028】g本発明の組成物で使用するのに好適なルイス酸抑制剤は水である。…他のルイス酸抑制剤の場合は,水のモル量に基づくモル当量を使用すべきである。
) 【0029】hフルオロエーテル化合物がルイス酸に晒されると,本組成物中に存在する生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し,該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する。
イ 以上によれば,本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」とは,ルイス酸の空軌道と相互作用し(すなわち,分子中に電子供与性のある基を有しており,ルイス酸の空軌道部位に電子を供与し ,それにより当該)ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断して,当該ルイス酸と接触するセボフルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸によって分解することを抑制するあらゆる化合物を意味することが明らかであり,しかも,請求項1において 「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイ ,ス酸抑制剤」と規定されているところから,ルイス酸に対し電子を供与するとの機能を果たすものが「ルイス酸抑制剤」であることは,特許請求の範囲の記載自体からも明らかである。そして,分子中に電子供与性のある基を有しており,ルイス酸の空軌道と相互作用する化合物(ルイス酸抑制剤)とは,前記化学大辞典及び化学辞典に記載されたルイス塩基と同義であり,本件明細書に具体的に例示されているもの以外のもので,いかなる化合物が上記定義に該当するかは当業者にとって自明である。
なお,被告は,本件明細書の記載からは,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物やガラスもルイス酸抑制剤に該当するように解釈される旨主張する。確かに,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物及びガラスも分子中に電子供与性のある基を有する(弁論の全趣旨 。しかし,セボフ)ルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸の空軌道と相互作用することはセボフルランが分解されることを意味している。しかし,本件特許発明でいうルイス酸抑制剤は,前記認定のとおり,ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断して当該ルイス酸と接触するセボフルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸によって分解することを抑制する化合物である。したがって,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸と相互作用するものであるとしても,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物の分解を抑制するものではないから,セボフルラン等のフルオロエーテル化合「」 。 物が本件特許発明の ルイス酸抑制剤 に含まれないことは明らかであるまた,本件明細書には,ガラスの天然成分である酸化アルミニウムがセボフルランを分解する原因であることが記載されているのであるから(前記ア ) ,ガラスで容器内壁を被覆したとしてもセボフルランの分解は抑制 e)されず,ガラスが本件特許発明の「ルイス酸抑制剤」に含まれないことは明らかである。
被告は,本件明細書【0026 【0029】の記載を参酌すれば, 】,ある化合物が「ルイス酸抑制剤」であるといえるためには,当該化合物がルイス酸の空軌道と相互作用し,空軌道に電子を供与して,該ルイス酸との間に共有結合を形成する必要があるものの,多量のセボフルランの存在下において,いかなる化合物がルイス酸がセボフルランを分解させるより,, 早くルイス酸と共有結合を生じさせるかは 当業者にとって明らかでないと主張する。確かに,本件明細書にはセボフルランとルイス酸抑制剤からなる組成物を用いて容器内壁を被覆するとの構成(実施例7)が記載されている(甲13 。しかし,セボフルランよりルイス酸との反応が遅い化 )合物は,ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断して当該ルイス酸と接触するセボフルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸によって分解することを抑制する化合物とはいえないのであるから,本件特許発明構成要件Dにいう「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤」に当たらないと解すべきである。したがって,ルイス酸抑制剤の反応速度についての記載がないとしても,本件特許発明においてはルイス酸抑制剤の意味が不明確であるということはない。なお,本件特許発明においてルイス酸による容器内壁の「被覆」は,必ずしもセボフルランとルイス酸抑制剤からなる組成物を用いてなされる場合に限定されるものではないことは後記( )のとおりである。3ウ小括したがって,本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」を本件明細書に具体的に列挙された化合物に限定して解釈する理由はない。
( ) 争点2-2(本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」は麻酔薬組 2成物の一成分になり得る物質に限定されるか)についてア 本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」とは,ルイス酸の空軌道と相互作用し(すなわち,分子中に電子供与性のある基を有しており,ルイス酸の空軌道部位に電子を供与し,それにより当該ルイス酸の潜在 )的な反応部位を遮断して,当該ルイス酸と接触するセボフルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸によって分解することを抑制するあらゆる化合物を意味することは前記認定のとおりである。したがって,このことからすれば,本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」を麻薬組成物の一成分に成り得るものに限定して解すべき理由はない。
イ 被告は,本件分割出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6及び本件分割出願当初明細書及び本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載からすれば,本件特許発明の「ルイス酸抑制剤」には,セボフルランに不溶性の固体で,麻酔薬組成物の一成分とならないものは含まれないと主張する。
証拠(甲2,3,13,24,29,乙1の1・2,2,5,6の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許発明出願経過並びに本件分割出願当初明細書及び本件明細書の記載は次のとおりである。
) 原告らは,平成11年7月26日,本件特許発明の親出願(特願平1 a0-532168)をした(乙1の1・2。なお,上記特許請求の範 )囲の記載は,その後,2度にわたって補正された(乙2,5 。)) 原告らは,平成12年11月16日付けで本件特許発明分割出願し bた(本件特許出願 。本件分割出願当初明細書の特許請求の範囲の記載 )は次の@のとおりである(乙6の1・2 。また,本件分割出願当初明 )細書の【発明の詳細な説明】の記載は 【図面の簡単な説明】の記載が ,加わったほかは,親出願の当初明細書の【発明の詳細な説明】の記載のとおりである。そして,本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載も,本件分割出願当初明細書の【発明の詳細な説明】の記載と同じであり,同明細書には次のAないしPの記載がある(乙6の1・2,甲13 。)@ 特許請求の範囲請求項1「一定量のセボフルランを含む麻酔薬組成物であって,ルイス酸による該一定量のセボフルランの分解を防止するために十分量の水以外のルイス酸抑制剤が該組成物に添加されることを特徴とする,前記麻酔薬組成物」請求項2「該ルイス酸抑制剤が,ブチル化ヒドロキシトルエン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール,またはチモールか,」 らなる群から選択されることを特徴とする 請求項1に記載の組成物請求項3「上記一定量のセボフルランに対して上記ルイス酸抑制剤を添加するステップを含むことを特徴とする,請求項1に記載の麻酔薬組成物の調製法」請求項4「上記ルイス酸抑制剤に対して上記一定量のセボフルランを添加するステップを含むことを特徴とする,請求項1に記載の麻酔薬組成物の調製法」請求項5「一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法であって,該方法は,該一定量のセボフルランに対して,ルイス酸による該一定量のセボフルランの分解を防止するために有効な量の水以外のルイス酸抑制剤を添加するステップを含んでいることを特徴とする方法」請求項6「上記ルイス酸抑制剤が,ブチル化ヒドロキシトルエン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール,またはチモール,」 からなる群から選択されることを特徴とする 請求項5に記載の方法A【発明の詳細な説明】【0001】発明の技術分野本発明は,一般に,ルイス酸の存在下においても分解しない,安定した麻酔用フルオロエーテル組成物に関する。また,本発明は,ルイス酸の存在下におけるフルオロエーテルの分解抑制法についても開示する。
B 【0004】フルオロエーテルの分解はガラス製の容器中で起こることが分かった。ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる。ルイス酸のソースはガラスの天然成分である酸化アルミニウムであり得る。ガラス壁が何らかの原因で変質または腐食すると酸化アルミニウムが露出し,容器の内容物と接触するようになる。すると,ルイス酸がフルオロエーテルを攻撃し,フルオロエーテルを分解する (下線付加)。
C 【0010】発明の要約本発明は,そこに有効な安定化量のルイス酸抑制剤が付加されたアルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物を含有する安定な麻酔薬組成物に関する。好適なフルオロエーテル化合物はセボフルランであり,また,好適なルイス酸抑制剤は水である。本組成物は,ルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより,またはフルオロエーテル化合物をルイス酸抑制剤に加えることにより,あるいは容器をルイス酸抑制剤で洗浄した後,フルオロエーテル化合物を加えることにより調製することができる。
【0011】また,本発明は,アルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物の安定化法も含む。本方法は,有効な安定化量のルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより,ルイス酸による該フルオロエーテル化合物の分解を防止することを含む。…D 【0017】発明の詳細な説明本発明はルイス酸の存在下においても分解しない,安定な麻酔薬組成物を提供する。また,本発明は該麻酔薬組成物の調製法についても開示する。
E 【0025】本発明の組成物は,…フルオロエーテル化合物を含んでいる。…【0026】また,本発明の麻酔薬組成物は生理学的に許容可能なルイス酸抑制。「」, 剤も含んでいる 本明細書で用いるルイス酸抑制剤 という用語はルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物を表している。生理学的に許容可能なあらゆるルイス酸抑制剤を本発明の組成物に使用することができる。本発明で使用できるルイス酸抑制剤の例は,水,ブチル化ヒドロキシトルエン(1,6-ビス(1,1-ジメチル-エチル)-4-メチルフェノール ,メチルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸メチルエステ )),( ) , ル プロピルパラベン 4-ヒドロキシ安息香酸プロピルエステルプロポホール(2,6-ジイソプロピルフェノール ,及びチモール)(5-メチル-2-(1-メチルエチル)フェノール)を含む。
F 【0029】フルオロエーテル化合物がルイス酸に晒されると,本組成物中に存在する生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し,該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する。…G 【0030】本発明の組成物は様々な方法で調製することができる。ある局面では,先ずガラス製ボトル等の容器をルイス酸抑制剤で洗浄またはすすぎ洗いした後,その容器にフルオロエーテル化合物が充填される。任意に,洗浄またはすすぎ洗いした後,その容器を部分的に乾燥させて。,。 もよい フルオロエーテルを容器に付加した後 その容器を密封する本明細書で用いる「部分的に乾燥」という用語は,乾燥された容器または容器内に化合物の残留物が残るような不完全な乾燥プロセスを表している。また,本明細書で用いる「容器」という用語は,物品を保,,, 持するために使用することができるガラス プラスチック スチール。,, または他の材料でできた入れ物を意味している 容器の例は ボトルアンプル,試験管,ビーカー等を含む。
H 【0031】別の局面では,フルオロエーテル化合物を容器に充填する前に,乾燥した容器にルイス酸抑制剤を加える。ルイス酸抑制剤を加えた後,その容器にフルオロエーテル化合物が付加される。代替的に,既にフルオロエーテル化合物を含有している容器にルイス酸抑制剤を直接加えてもよい。
I 【0032】更に別な局面では,フルオロエーテル化合物が充填されている容器にルイス酸抑制剤を湿潤条件下で加えてもよい。例えば,水分が容器内に蓄積するだけの充分な時間の間,容器を湿潤チャンバー内に置くことにより,フルオロエーテル化合物が充填された容器に水を加えることができる。
J 【0033】ルイス酸抑制剤は製造プロセスのあらゆる適切なポイントで本組成物に加えることができ,例えば,500リットル入り出荷容器等の出荷容器に充填する前の最終製造ステップで加えることもできる。…更に,適量のルイス酸抑制剤を含有する少量の本組成物を用いて容器を洗浄またはすすぎ洗いし,容器に残っている可能性のあるルイス酸を中和することができる。ルイス酸を中和したら容器を空にし,その容,。 器に付加量のフルオロエーテル化合物を加え 容器を密封してもよいK 【0040】実施例3:水添加試験…によるアンプル内でのセボフルランの分解…合計10本のアンプルにセボフルランと様々な量の水を充填した。
そのうち5本のアンプルをセットAとし,残りの5本をセットBとした。次いで,それらのアンプルを119℃で3時間オートクレーブした。セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け,水分をガラス表面に被覆できるようにした …その結果が以下の表2に示されている 下 。。 (線付加)L 【0042】表2の結果は,セットA及びセットBのアンプルの場合,少なくとも595ppmの水があれば充分にセボフルランの分解を抑制できることを示している。また,この結果は,一晩振とうしたアンプルと一晩振とうしなかったアンプルとの間に有意な差がないことを示している。
M 【0050】実施例6:…褐色ガラス製ボトル内でのセボフルランの分解に関する追加試験【0051】10本のボトルすべてを,約20ppmの水を含有する分解していないセボフルランで再度数回すすぎ洗いした。5本の対照Sevoグループのボトルに対しては,約20ppmの水を含有する100mLのセボフルランを各ボトルに入れた。一方,5本の試験グループボトルに対しては,約400ppmの水(添加)を含有する100mLのセボフルランを各ボトルに入れた。
【0052】開始時間(時間ゼロ時)と50℃で18時間加熱した後にすべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。…その結果が以下の表6に示されている。
N 【0054】表6の結果は,時間ゼロ時では,表4のゼロ時の結果と比べると,セボフルランの有意な分解が観察されなかったことを示している。表6の結果は,試験Sevoグループ(400ppmの水)ではセボフルランの分解度がかなり低減されたことを示している。…しかし,試験SevoグループのHFIP濃度はかなり高く,ガラス表面が尚も幾分活性状態にあったことを示唆している。
O 【0056】実施例7:活性化された…褐色ガラス製ボトル内でのセボフルランの分解に関する追加試験。, …各ボトルを新鮮なセボフルランで充分にすすぎ洗いした 次いで各ボトルに約125mLの水飽和セボフルランを入れた。その後,その5本のボトルを回転機に約2時間掛け,活性化されたガラス表面に水を被覆できるようにした。次いで,各ボトルから水飽和セボフルランを排液し,400(添加)ppmの水を含有する100mLのセボフルランで置換した。50℃で18時間,36時間,及び178時間,。 加熱した後 すべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した…その結果が以下の表7に示されている (下線付加)。
P 【0058】表7の結果は,活性化されたガラス表面を加熱する前に水飽和セボフルランで処理することにより,セボフルランの分解が大いに抑制されたことを示している (下線付加)。
) 原告らは,平成16年6月25日提出の手続補正書において,本件特 c許出願における特許請求の範囲の記載を次のとおり補正した(下線部が補正部分である。以下「本件補正1」という。甲2最終頁 。)@ 請求項1「一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,該方法は,内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,一定量のセボフルランを供する工程,該容器の該内壁をルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程を含んでなることを特徴とする方法」A 請求項2「上記ルイス酸抑制剤が,水,ブチル化ヒドロキシトルエン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール,及びチモールからなる群から選択されることを特徴とする,請求項1に記載の方法」B 請求項3「セボフルラン貯蔵用容器であって,該容器が内部空間を規定し,かつ該容器により規定される内部空間に隣接する内壁を有する容器であり,更に該内壁がルイス酸抑制剤により被覆されている容器」C 請求項4「上記ルイス酸抑制剤が,水,ブチル化ヒドロキシトルエン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール,及びチモールからなる群から選択されることを特徴とする,請求項3に記載の容器」) 原告らは,平成16年10月6日付けで,意見書(甲29)と共に参 d考資料3及び同4として,前記 )Eに記載された水以外のルイス酸抑 b制剤がセボフルランの分解抑制効果を有することを証明する実験成績証明書1及び同2(甲24)を作成して提出した。当該各実験成績証明書においては,いずれのルイス酸抑制剤についてもこれをセボフルランに添加して組成物にした上で実験が行われた。
) 原告らは,平成17年2月23日提出の手続補正書において,本件特 e許出願における特許請求の範囲の記載を次のとおり補正した(下線部が補正部分である。以下「本件補正2」という。甲3 。)@ 請求項1(本件特許発明)「一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,該方法は,内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,一定量のセボフルランを供する工程,該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程を含んでなることを特徴とする方法」A 請求項2「上記空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤が,水,ブチル化ヒドロキシトルエン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール,及びチモールからなる群から選択されることを特徴とする,請求項1に記載の方法」) 以上によれば,本件明細書(本件分割出願当初明細書及び親出願の当 f初明細書のいずれについても同じである )の【発明の詳細な説明】に 。
は,まず,ルイス酸抑制剤を一成分とする麻酔薬組成物及び同組成物の調製方法並びにルイス酸の存在下におけるフルオロエーテルの分解抑制法が記載されている(前記 )ACD 。このうち,ルイス酸の存在下に b)おけるフルオロエーテルの分解抑制法の一態様として,ルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に添加する方法が記載されている(前記 )bC 。また,ルイス酸抑制剤として具体的に例示されている化合物はす )べてセボフルラン等からなる麻酔薬組成物の一成分になり得るものであり(前記 )E, ) ,本件明細書においては,上記組成物及び同組成物 bd)調製方法並びにルイス酸の存在下におけるフルオロエーテルの分解抑制法の実施態様として,ルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に添加する方法が詳細に記載されている(前記 )GないしJ 。実施例におい b)てもルイス酸抑制剤を一成分とする麻酔薬組成物を用いる構成が記載されている(前記 )KないしP 。さらに,ルイス酸抑制剤が麻酔薬組成 b)物の一成分となる場合を想定して,麻酔薬組成物に用いられるルイス酸抑制剤は 「生理学的に許容可能な」ものであることがたびたび記載さ ,れ(前記 )EF ,ルイス酸抑制剤がルイス酸と相互作用する経過を記 b)載するに当たって「本組成物中に存在する…ルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し…」と記載している(前記 )F 。なお,本件b)分割出願当初明細書の特許請求の範囲にはルイス酸抑制剤を麻酔薬組成物の一成分とする構成のみが記載されている(前記 )@。同当初明細b書の請求項1及び2が組成物についての記載,請求項3及び4が組成物の調製方法についての記載,請求項5及び6がセボフルランの分解抑制法についての記載である 。このように,本件明細書は,主としてル 。)イス酸抑制剤が麻酔薬組成物の一成分となる態様を念頭において記載されたものといえる。
しかしながら,本件明細書においては,フルオロエーテル化合物を分解するルイス酸が容器中に存在すること,すなわち,ガラス壁が何らかの原因で変質又は腐食すると酸化アルミニウム(ルイス酸)が露出し,(),, フルオロエーテルを分解することが記載されており 前記 )B またbルイス酸抑制剤が当該ルイス酸の空軌道に電子を供与して共有結合を形成し ルイス酸の潜在的な反応部分を遮断することも記載されている 前 ,(記 )E,F 。また,ルイス酸抑制剤を一成分とする麻酔薬組成物の調 b)製方法の記載としてではあるが 「先ずガラス製ボトル等の容器をルイ ,ス酸抑制剤で洗浄またはすすぎ洗いした後,その容器にフルオロエーテル化合物が充填される (前記 )G)旨の記載が存在し,ルイス酸抑制 」b剤単体で容器表面を中和する構成が記載されている。
,,(,) さらに 本件明細書には 実施例6 前記 )MN 本件明細書表6 bの試験グループ(容器の表面を約20ppmの水を含有するセボフルランですすぎ洗いした後,容器に400ppmという十分な量の水を添加したセボフルランを充填した実施例である)においては,18時間後 。
にセボフルランが分解することにより生じるHFIPの値が84ないし605,総分解産物の値が98ないし669と分解の抑制が不十分であったのに対し,実施例7(前記 )OP,本件明細書表7)において, b水飽和セボフルランを入れた後に,容器を約2時間回転機に掛け,ガラス表面に水を被覆した後,水飽和セボフルランを排液し,その後に,水含有セボフルランを入れ,実施例6と同1条件で実験したところ,36時間後,178時間後においてもHFIPの値が10以下ないし28,総分解産物の値が50以下と極めて低くなっており,セボフルランの分。, 解抑制効果が著しいことが記載されている上記実施例の効果の差異は貯蔵対象であるセボフルランを容器に充填する前に,水飽和セボフルランを入れた容器を回転機に掛けて,容器内壁を水(ルイス酸抑制剤)で被覆した後,排液することがセボフルランの分解を抑制するのに有効であることを示すものである。確かに,実施例7は,容器表面をルイス酸抑制剤である水を添加した水飽和セボフルラン(ルイス酸抑制剤を一成分とする麻酔薬組成物)で処理する態様であるものの,約2時間回転機にかけることにより,ルイス酸抑制剤である水を容器内壁に被覆するというものである。そして,本件明細書には,上記のとおり,容器内壁に存在するルイス酸が原因となって,セボフルランが分解されること,ルイス酸抑制剤が当該ルイス酸の空軌道と相互作用することによって,ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断するとの技術思想の中核となる部分が記載されているのであるから(前記 )BEF ,当業者であれば,実施 b)例7から,容器内壁をルイス酸抑制剤で被覆し,ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断した上で,その後に,貯蔵用セボフルランを入れるとの技術思想(発明)を把握することができるのである。そして,同発明において,実施例7における容器内壁の表面の処理をルイス酸抑制剤単体で行うかルイス酸抑制剤を添加したセボフルランで行うかでセボフルランの分解抑制という作用効果に違いが生じるものではないことは,上記の本件明細書の記載(前記 )BEF)から明らかである。 bウ小括以上によれば,本件分割出願当初明細書の請求項1は 「水以外のルイ,,」 ス酸抑制剤が該組成物に添加されることを特徴とする 前記麻酔薬組成物であり,その余の請求項も,麻酔薬組成物の調製方法,セボフルラン分解抑止方法である等の違いはあるものの,いずれも水以外のルイス酸抑制剤をセボフルランに添加するというものであり,ルイス酸抑制剤をセボフルランに添加するとの要件があることから,当該ルイス酸抑制剤がセボフルランに均一に分散し,麻酔薬組成物となるものを特許請求の範囲に明記したものであるということはできるものの,それは,各請求項に「添加」との用語あるいは「麻酔薬組成物」との用語が使用されているためであり,「ルイス酸抑制剤」との用語自体は,本件明細書の【0026】に定義されたとおりのものとして理解すべきである。本件明細書においては「ルイス酸抑制剤」は 「ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の ,潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物 (甲13【0026 )と 」】定義されているのであり,それが麻酔薬組成物の一成分になり得るものに限定されているということはできない。
( ) 争点2-3(被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカ 3ー」がルイス酸抑制効果を有するか)についてア 証拠(甲11の1・2,15,21の1・2,22の1・2,25の1・2,31,32,47,乙8)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
) 東京大学大学院理学系研究科化学専攻助教授理学博士B作成の鑑定意 a見書には,次のような記載がある(甲15 。)「エポキシフェノリックレジンは分子中に多くのヒドロキシ基(-OH)やエーテル基(-O-)などの酸素原子を有するが,この酸素原子は不対電子対…を有するルイス塩基である。アルミニウムの酸化物を例に挙げると中心金属アルミニウムは電子が欠乏した電子対受容体(ルイス酸)であり,酸素原子の電子対の配位により(電子対を当該酸素と共有する形で)配位化合物を形成する。電子対の供与を受けたルイス酸は電子対受容能力を失い,いわゆるルイス酸としての活性(酸強度)を抑制される 」。
「…ルイス酸とルイス塩基の反応は電子対のやり取りという非常に単純,簡単な反応形式である。多くの場合,ルイス酸は電子不足状態にある金属原子であり,例えば,酸化アルミニウムの中心金属原子のアルミニウムもその一つである。一方,含酸素有機物…,含窒素有機物…といった有機化合物中の酸素原子や窒素原子は,不対電子対を有する,いわゆるルイス塩基である。ルイス酸とルイス塩基の反応は容易に進行し,電子対を共有する配位化合物を形成する…」) 合衆国地方裁判所イリノイ州北地区東部においてロナルド・エイ・グ bズマン判事の面前でなされた審理手続記録には,ケース・ウエスタン・リザーブ大学ケース・スクール・オブ・エンジニアリング高分子化学・エンジニアリング学部名誉教授Cの発言記録として次の記載がある(甲21の1・2,22の1・2 。)「これが…エポキシフェノリックレジンのエポキシ部分で,左上手や右上手にあるのが,いわゆるOH基です。…OH基は…アルコール基となっており,非共有電子を有し,ルイス酸が接近すると,電子を与え,共有することができます。同様に,エーテル基が2,3ありますが,一般に…これらのエーテル基もルイス酸と共有されうる電子を有しています。よって,エポキシ部分だけでもルイス酸と相互作用できます 」。
「…どんなエポキシフェノリックのエポキシ部分にもこれらのアルコールやエーテル基があります 」。
「…エポキシフェノリックと正しく分類される全てのレジンは,一義的にヒドロキシ基で且つアルコールすなわちヒドロキシアルコールと,エーテル基を有しており,これらの基はルイス酸と反応します 」。
) Dは,平成12年5月1日,米国バクスターのAに対し,次のような c内容の電子メールを送信した …被覆されたアルミ容器について… ル 。「『イス酸触媒による分解』が起こる心配をする必要がありましょうか 」。
Aは,同日,Dに対し,次のような電子メールを送信して上記の質問に返答した。
「私の直感では無いと思います。エポキシフェノリックレジンはそれ自体もその一部もルイス酸の特性を有しないはずです。唯一の懸念は,埋まっている不純物…が在るかもしれないことです。しかし,エポキシフェノリックレジンはルイス酸触媒ではなく求核触媒の下で重合されるはずです。たとえ,その触媒がルイス酸性としても,フェノリックレジンは,セボより優れた電子供与性のあるエーテル結合を含んでおり,ある程度優先的にルイス酸と結合し,不活性化してくれるでしょう (甲。」25の1・2)) 被告の関連会社であるバクスター・ファーマスーティカル・プロダク dツ・インク及び米国バクスターは,本件米国関連訴訟において,米国イリノイ州北部地方裁判所東部地区に対し 「バクスターによるトライア ,ル後第1弁論趣意書」を提出した。同書面には 「ルイス酸抑制剤」に ,ついて次のような記載がある(甲11の1・2 。)「添付明細書には 『ルイス酸抑制剤』とは 『ルイス酸の空軌道に ,,相互に作用し,それによりルイス酸の反応をブロックする化合物のすべて』を意味することが明白に示されている。…エポキシフェノリックレジンの使用は(それが潜在的な反応部位をブロックするよう作用する範囲において ,クレーム範囲に包含されていた。しかしながら,199 )8年12月,アボット社は,抑制剤の範囲を()水,又は( )マーカッシ abュグループから選択された化合物に限定するとのクレーム補正を行った。そこで…エポキシフェノリックレジンは,クレームの文言の範囲から外された 」。
) 原告セントラル硝子常務執行役員E作成の平成17年10月11日付 eけ実験成績証明書(甲31証明書)によれば,次の事実が認められる。
褐色ガラスに20mLの乾燥セボフルランと活性アルミナ10mgを入れたサンプルを6本用意し,各瓶に0から635mgまでの様々な量の粉砕した旭電化工業 株 製エポキシフェノリックレジンを入れた 同 () (エポキシフェノリックレジンと実際に被告方法において使用されているHOBA社製のエポキシフェノリックレジンとの比較実験(甲35証明書)によれば,両者は類似するビスフェノールA型エポキシ樹脂である 。50℃で24時間放置した場合,エポキシフェノリックレジン 。)の添加量(0mgないし200mg)に応じて総分解物の値が0.68124から0.10271まで段階的に減少し,エポキシフェノリックレジンを635mg添加したサンプルは200mg添加したサンプルより総分解物の値がわずかに多く0.11173であった。50℃で72時間放置した場合,エポキシフェノリックレジンの添加量(0mgないし635mg)に応じて総分解物の値が5.76091から0.13651まで段階的に減少した。
() f) E作成の平成17年10月31日付け実験成績証明書 甲32証明書によれば,次の事実が認められる。
褐色ガラスに20mLの乾燥セボフルランと活性アルミナ10mgを入れたサンプルを10本用意し,各瓶に0から200mgまでの様々な量の粉砕したHOBA社製エポキシフェノリックレジンを入れた。50℃で24時間放置した場合,エポキシフェノリックレジンの添加量(0).. mgないし200mg に応じて総分解物の値が0 45642から013996まで段階的に減少し,50℃で72時間放置した場合,エポキシフェノリックレジンの添加量(0mgないし200mg)に応じて総分解物の値が3.63895から1.13231まで段階的に減少した。
) E作成の平成18年3月16日付け実験成績証明書(甲47)によれ gば,次の事実が認められる。
褐色ガラスに20mLの乾燥セボフルランと活性アルミナ10mgを入れたサンプル6本を用意し,各瓶に0から100mgまでの様々な量のHOBA社製エポキシラッカー(11.0gを硬化させた場合のエポキシ量4.2g)を入れた。50℃で24時間放置した場合,エポキシラッカーの添加量(0mgないし100mg)に応じて総分解物の値が0.15620から0.00329まで段階的に減少し,50℃で72時間放置した場合,エポキシラッカーの添加量(0mgないし100mg)に応じて総分解物の値が5.14676から0.00326まで段階的に減少した。
イ 以上の認定事実によれば,エポキシフェノリックレジンは,その化学構造からルイス酸の空軌道と相互作用し(すなわち,分子中に電子供与性のある基を有しており,ルイス酸の空軌道部位に電子を供与し ,それによ)り当該ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断する性質を有することは明らかである(前記ア )ないし ) 。また,サンプルに含まれる水分量を制限し ad)て行った実験においても,ルイス酸(ガラス容器)に晒されたセボフルランにエポキシフェノリックレジンを添加すると,添加量に応じてセボフルラン中の総分解物の値が段階的に減少しているのであるから,エポキシフェノリックレジンがルイス酸による分解を抑制していることが明らかである(前記ア )ないし ) 。したがって,エポキシフェノリックレジンは, eg)ルイス酸の空軌道と相互作用し,それにより当該ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断して当該ルイス酸と接触するセボフルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸によって分解することを抑制する化合物であるから,本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に当たる。
ウ 前記ア )及び )の実験結果について ef) 前記ア )及び )の実験について,Aが次のような内容を含む宣誓供 aef述書を作成している(乙12 。)「第1に,いずれのテストも,バクスターの容器からのエポキシフェノリックレジンを用いて行われなかった。甲31号証の実験は,異なるメーカーの樹脂を用いている。甲32号証の実験は,HOBA 7940HL樹脂を用いているが,この樹脂は,不特定の条件下,不特定の表面。,『 』 の上で硬化させられている E博士は樹脂が 硬化し硝子状となって,, , ,, と述べているが E博士は 残留溶媒も 樹脂の厚みも報告せず またこの実験室での調製物がバクスターのボトルに存在するライニングと等価であることを実証するための他の特性の測定も報告していない。硬化の時間および温度,硬化させる樹脂の下に存在する表面の熱伝導特性,,。 ならびに樹脂層の厚みのすべてが硬化プロセスに重大な影響を与えるさらにまた,E博士に使用された粉砕樹脂は,セボフルラン中を動き回り,この研究において使用された活性化されたアルミナに自由に付着して,アルミナの表面を(化学的に中和するのでなく)物理的に塞ぐことができる。このことにより,樹脂がボトルの壁に結合して動くことができないバクスターのボトル中の状況とは完全に異なる状況が発生する。
第2に,硬化して粉砕されたエポキシ樹脂が,混入物をセボフルランに導入し,その混入物が実験結果を妨げた可能性がある。…甲31号証および甲32号証において,E博士は,彼の粉砕樹脂の調製に抽出工程を追加した。…E博士により用いられた抽出手順が,この問題を解決したとは示されていない。…現実に,1回の抽出が混合物の可溶性成分の全てを除去するほど有効であることは滅多にない。第3に,この研究は,この研究に使用された粉砕樹脂に吸着された水の存在について適切に制御されなかった。私の第2の宣誓供述書に説明したとおり,樹脂の粉砕の使用により,水を吸着し得る表面積が増加する。E博士は,甲第31号証および甲第32号証の実験において水について制御したと主張したが,E博士の制御は,実験中に粉砕樹脂により水が添加される可能性を排除するには不十分であった。E博士は,彼の実験においてサンプル中の水含有量を測定しようと試みた。しかし…活性化されたアルミナが添加されたサンプルの水含有量の測定は,本質的に不適切である。なぜなら,そのアルミナ自体が,混合物から強力に水を吸着しかつ除去するからである。…適切な試験は,樹脂を添加するがアルミナが添加されないセボフルランのボトルのカールフィッシャー分析を行うことであった…。しかしながら,E博士は,この試験を行わなかった。このため,実験の開始の際にサンプル中にどれだけ多くの水が存在したかわからない。第4に,いずれのサンプルにおいてもpH試験が行われなかった。
pHは,セボフルラン分解の公知の指標である。試験されたサンプルのすべてに見られる分解物のレベルからすると,pHの値が4未満であると認められ,麻酔薬として使用するのに不適切なポイントにまでセボフ。, ルランが分解したことを示したであろうことがほぼ確実である 第5に実験が(バクスターの容器とは異なり)ガラス容器において行われたという事実のために,添加された活性アルミナにより引き起こされたセボフルランの分解に樹脂が効果を有したのかを知ることが不可能である。
ガラスは,セボフルランの分解に,本件訴訟において問題となっている特許に記載された『カスケード反応』により寄与することが知られている。この『カスケード反応』において,セボフルランの分解により放出されたHFは,ガラスを腐食し,そしてさらなるルイス酸部位を露出させ,分解速度の加速をもたらす。セボフルランの分解は(分解生成物P1およびP2の形成により示されるように)E博士のサンプルのすべてで明確に生じたのであるから,サンプルの間での分解の相違は容器のガラス表面上の反応において発生したHFの攻撃の抑制によるものであって,そして,セボフルランが実験中に曝される追加的なルイス酸部位の数の結果的な減少をもたらした可能性がある。樹脂がルイス酸分解よりもむしろカスケード反応を妨害できた可能性は,甲第31号証および甲第32号証に示されたデータ(このデータにおいて,ほとんどのサンプルにおいて経時的に分解が加速するが,最も粉砕された樹脂においてはそれほど顕著には分解が加速しない)と整合する。これらの欠点のすべてのために,甲第31号証および甲第32号証のE博士の実験から,バクスターの容器のエポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤であると結論することはできない。甲第31号証および甲第32号証のすべてのサンプルは,米国および欧州の監督機関により要求される99.97%の純度よりも低く,および日本の監督機関により要求される99.985%の純度よりも低い純度のセボフルランを示す。結果的にこれらの実験からルイス酸分解が任意のルイス酸抑制剤により防がれることをどのようにして結論できるのかを理解することは困難である (乙12)。」しかし,上記第1の点については,エポキシフェノリックレジンの化学構造を有していればルイス酸抑制剤に当たることは明らかである上,実験に用いられたエポキシフェノリックレジンは,被告製品において用いられているものと同一メーカーの製造する同一製品なのであるから,Aの主張する被告製品のエポキシフェノリックレジンと等価であることを実証する実験をするまでの必要はない。また,上記各実験において,セボフルランに添加された粉末状のエポキシフェノリックレジンが活性化されたアルミナの表面を物理的に塞いでいるとは到底認められない。
上記第2の点については,上記各実験においては不純物を除くための処置が施されているのであって,その信用性に問題はない。当該措置だけで不純物が取り除かれているとは限らない旨のAの指摘は単なる憶測に。, , すぎない 上記第3の点については甲31及び甲32証明書によれば上記各実験において用いるセボフルラン及びエポキシフェノリックレジンについては,いずれもこれらを乾燥させる処置が施されており,その後も水分の混入を極力避けるためにドライボックス内にて作業を行っているのであるから,セボフルランとエポキシフェノリックレジンを混合した後に水含有量の測定を行っていないとしても,その信用性に問題はない。上記第4の点については,pH値が測定されていないとしても,セボフルランの総分解量の値からセボフルランの分解が抑制されていることは明らかである。上記第5の点についても,Aの指摘するところは単なる憶測に過ぎない上,仮にAの指摘するとおりであったとしても容器のガラス表面上の反応において発生したHFの攻撃を抑制することもルイス酸抑制効果の一つであるといえる。
したがって,Aの乙12宣誓供述書は上記結論に影響を与えるものではない。
) 被告は,次の実験結果を指摘して,エポキシフェノリックレジンで b容器表面を被覆していても当該容器に保存されたセボフルランが分解される旨主張する。すなわち,A作成の平成13年10月26日付け医薬品開発レポート(乙8宣誓供述書の証拠B)によれば,エポキシフェノリックレジンラッカーで被覆したアルミニウム容器入りの被告製品3本に10から50mgまでの様々な量の酸性アルミナを入れ,55℃で2日間放置した場合は酸性アルミナの添加量に応じてセボフルランの純度が99.9377%から99.7732%まで段階的に減少し,55℃で3日間放置した場合は99.8916%から99.703%まで段階,.. 的に減少し 55℃で5日間放置した場合は99 8908%から997224%まで段階的に減少したものと認められる。しかし,上記実験においては,当該容器に意図的に添加されたルイス酸(酸性アルミナ)によってセボフルランが分解しているのであって,容器内壁表面に存在するルイス酸によってセボフルランが分解されているものではない。上記の実験結果は,エポキシフェノリックレジンが容器内壁表面に存在するルイス酸によるセボフルランの分解を抑制する旨の結論に影響を与えるものではない。
エ エポキシフェノリックレジンがルイス酸と接触する回数について被告は,被告製品に用いられているエポキシフェノリックレジンは固体であるからその分子がルイス酸と接触する回数が極めて少なくルイス酸と反応が起こらない旨主張する。しかし,被告製品のエポキシフェノリックレジンは,ラッカー溶媒に溶かして液体状にして(溶媒に均一に溶けた状態で)容器表面に塗布されるものであって固体状で塗布されるものではないから,この段階においては,被告の主張が理由がないことは明らかである。被告方法においては,液体状のエポキシフェノリックレジンが容器内壁に塗布される工程が本件特許発明構成要件Dの「該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程」に該当するものであると解すべきである。したがって,被告製品に用いられているエポキシフェノリックレジンが固体になった段階については,本件特許発明との対比においては,この部分は付加的工程にすぎないのであるから,この段階において,エポキシフェノリックレジンがルイス酸と接触する可能性があるかどうかについて判断する必要性はない(ただし,被告製品においては,この段階においても,溶媒に均一に溶けたエポキシフェノリックレジンがアルミ容器内壁表面にまんべんなく塗布されたものが固化したものであるから,ルイス酸と接触する可能性が少ないということもできないであろう 。。)オ 被告方法に用いられているアルミニウム容器との関係について被告は,被告製品に用いられているアルミニウム容器はセボフルランを分解するルイス酸を含むものではないから,当該アルミニウム容器を被覆しているエポキシフェノリックレジンはルイス酸抑制効果を奏しない旨主張する。
) 次の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告製品に使用されるアルミ aニウム容器とルイス酸について,次の事実が認められる。
@ A作成の平成13年10月26日付け医薬品開発レポート(乙8宣誓供述書の証拠B)の結果エポキシフェノリックレジンラッカーで被覆した被告製品に使用されるアルミニウム容器について,容器を六角形のステンレス鋼製ナットとともに振ることによってその内壁の被覆を損傷し,これに被告製品に用いられているセボフルランを充填したサンプルを4本用意す。, る 当該サンプルのうち活性アルミナを添加しないサンプルにおいて., セボフルランの純度は55℃で2日間放置した場合で99 995%55℃で13日間放置した場合で99.993%であった。
A A作成の平成13年10月8日付け医薬品開発レポート(乙8宣誓供述書の証拠D)の結果エポキシフェノリックレジンラッカーで被覆した被告製品に使用されるアルミニウム容器について,容器を六角形のステンレス鋼製ナットとともに振ることによってその内壁の被覆を損傷し,これに被告製品に用いられているセボフルランを充填したサンプルを用意し,これを55℃で放置した。放置直後の不純物割合は0.0093%(セボフルラン純度99.9907% ,放置後2週間の不純物割合は0. )0091%(セボフルラン純度99.9909% ,放置後1月目の).( .), 不純物純度は0 0094% セボフルラン純度99 9906%.( . 放置後2月目の不純物割合は0 0095% セボフルラン純度999905% ,放置後3月目の不純物割合は0.0099%(セボフ )ルラン純度99.9901%)であった。
B A作成の平成13年10月24日付け医薬品開発レポート(乙8宣誓供述書の証拠H)の結果被告製品に使用されるアルミニウム容器のエポキシフェノリックレジンラッカーで被覆していないもの20本を,乾燥窒素ガスのゆっくりした気流の中で冷却し,その後,乾燥窒素でフラッシュした後,被告製品に用いられているセボフルランを充填し,このうち14本について酸性アルミナを添加することなく,55℃又は室温で保存した。
室温保存で活性アルミナを添加していない合計4本のうち2本について,0時間後のセボフルラン含有率はアルミニウム容器及びガラス容器でいずれも99.994%であった(表1。残り2本の7日後)のセボフルラン含有率は99.994%又は99.995%であった(表2 。55℃保存で酸性アルミナを添加していない10本のうち )2本について,24時間後のセボフルラン含有率は99.992%又は99.994%,pHは6.66又は4.03であった(表3 。)上記10本のうち2本について72時間後のセボフルラン含有率はい.,. . () 。 ずれも99 995% pHは442又は6 77であった 表4上記10本のうち2本について144時間後のセボフルラン含有率はいずれも99.995%であった(表5 。上記10本のうち2本に )ついて14日後のセボフルラン含有率はいずれも99.995%であった(表6 。上記10本のうち2本の43日後のセボフルラン含有 )率は99.993%又は99.992%であった(表7 。)C 乙12宣誓供述書に添付された証拠J「安定性データ」の結果被覆されていないアルミニウム容器にセボフルラン250mLを充填し,40℃で1か月保存したサンプル2本を分析したところ,不純物合計の割合は,0.00%ないし0.01%であった。
D 甲38によれば,塩酸又はフッ化水素を入れ,40℃で96時間放置し,内壁を腐食させたアルミニウム容器にセボフルランを入れた場合,セボフルランは分解されることが認められる。
E Aは,甲38の実験結果について,次のような内容を含む宣誓供述書を作成した(乙12宣誓供述書の10頁 。)「この試験は,ルイス酸が通常のアルミニウム(例えば,バクスターの容器において使用されるアルミニウム)の中または表面上に存在するか否かに関係がない。バクスターは,バクスターのボトルをパッケージングする前に濃酸による洗浄を行わず,そしてバクスターの製品は,塩酸もフッ化水素酸も…含まない 」。
これに対し,Eは,次のような内容を含む陳述書を作成した(甲40の9頁 「製造工程での酸混入の可能性は否定できない(我々は )。
,, 同意していませんが 注意深く実施されたはずの分解試験においても作業員のミスによって少量の酸が混入したとAは主張しており,予想外のミスによって酸が混入する可能性が起こりうることを認めています )と考えます。また,ルイス酸はあらゆる場面に存在し,これが 。
,, 何らかの理由で混入して セボフルランが少量でも分解した場合にはフッ化水素酸が発生し,これがアルミニウムを活性化することは我々が甲38号証で立証しています。更に,アルミ容器製造の過程でアルミニウム表面が活性化される可能性も充分にあると考えます 」。
) 次の各証拠によれば,セボフルランとルイス酸について,次の事実が b認められる。
@ 合衆国地方裁判所イリノイ州北部地区東部においてロナルド・エイ・グズマン判事の面前でなされた審理手続記録には,カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉教授のFの発言記録として次の記載がある(甲18の1・2,19の1・2 。)「ルイス酸は本来どこにでもあります。どこでルイス酸がみられるかを予測する方法はありません。ほとんどのルイス酸は,一般に酸化されうる金属,又はいわゆる擬似金属であり,その酸化物である,金属酸化物又は擬似金属酸化物は,ルイス酸となります。ですから,酸化物になりうる金属や,金属がさらされているところはどこでも,ルイス酸が在りえます 」。
「, セボフルラン製造のどのような時点でもルイス酸に晒され得ますよって,セボフルラン製造の最終段階においても晒される可能性があります。容器に詰めたり,取り扱ったり,輸送したり,そして確かにセボフルランを投与する時点においてもです。当該ラインのどの時点においても,ルイス酸と接触し得ます 」。
A 米国バクスターは,本件米国関連訴訟において,次のような主張をした(甲16の1・2 。)「セボフルランは様々な方法でルイス酸と接触することが可能である。例えば,セボフルランが容器に詰められる前に輸送される場合には,セボフルランは輸送コンテナのさびに接触しうるが,そのさびはルイス酸の原因となりうる。…セボフルランがガラス容器に貯蔵され,, たときのように その原料にルイス酸を有する容器に貯蔵された場合その容器のルイス酸はセボフルランと接触し得る。セボフルランはまた容器を開けると,空気中のちりの中のルイス酸にさらされうる 」。
B 原告アボットが,平成13年6月18日付けで,米国食品医薬品局等に提出した文書には,次のような記載がなされている(甲20の1・2 。)「,, ルイス酸は自然に工場のちりやさび製品製造や充填のラインや製品の輸送に使用される容器に自然に存在します。アボットは後に,製品の輸送に使用されるバルクドラッグコンテナや貯蔵用コンテナにおいてルイス酸がセボフルランの分解やフッ化水素の形成をひきおこしうることを発見しました。実際問題,ルイス酸はセボフルランの製造,配布,臨床投与から除くことはできません…。実際に,酸化物の金属や多くの共有結合の金属化合物はルイス酸となりえます。ルイス酸の一般的な原因物質は酸化アルミニウム,酸化鉄,硫酸鉄,塩化マンガン(U ,硝酸塩,硫酸水素ナトリウム,硫酸カルシウム,酸化 )亜鉛が含まれます…。皮肉にも,これらの物質の多くが一般に医療用現場で使用されています 」。
C Aが作成した実験ノートのB016166頁には,別紙Aの実験ノートのような記載がある(甲17 。)Aは,上記実験結果のうちアルミニウム容器を用いたサンプル20573-94-5及び20573-94-6について,次のような内容を含む宣誓供述書を作成した(乙10 。)「これらのサンプルにおける分解は,アルミニウム容器に起因するものではない。…このセボフルランは,その後測定したところ,セボフルランに自発的な分解を起こさせる何らかの物質(恐らく,フッ化水素酸)で汚染されていた。このセボフルランが汚染されていたという事実は,…サンプル20573-94-13および20573-9。,() 4-14により示される それらのサンプルは テフロン PTFEの瓶中で保存されたが,…アルミニウムサンプルよりもいっそう大きい分解を受けた。PTFEは,何らのルイス酸性をも有しない…。テフロン容器中でのセボフルランの…分解は…その容器由来の汚染物よりはむしろ,セボフルラン自体に内在する汚染物から生じた。…私の実験室ノート…の83頁で…周囲の頁に記載された研究のために意図された多くのセボフルランは,蒸留後の保存の間に分解していた…B016166の探索的研究のおけるセボフルランサンプルは,ノート…の85〜86頁…に記載されたものと同じ装置を用いて蒸留された」。
) 前記 )@及びAについては,アルミニウム容器内壁表面を一旦エポ caキシフェノリックレジンラッカーで被覆処理した後に同被覆層を損傷させたサンプルで行われた実験であることからすれば,容器内壁表面がエポキシフェノリックレジンラッカーによって化学的に中和されているた(, めにセボフルランの分解が抑制されている可能性があり 甲33の4頁6頁 ,この実験から,被告製品のアルミニウム容器においては,ルイ )ス酸は存在せず,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤としての作用効果を果たしていないということはできない。
前記 )Bについては,アルミニウム容器にセボフルランを入れる前 aに,乾燥窒素ガスで容器内を充填していることが認められ,乾燥窒素ガスは,ルイス塩基であり,ルイス酸抑制剤であると認められるから(甲15 ,アルミニウム容器のルイス酸反応部位が既に乾燥窒素ガスによ )り遮断されていた可能性があり,この実験により直ちに被告製品のアルミニウム容器においてはルイス酸は存在せず,エポキシフェノリックレジンがルイス酸抑制剤としての作用効果を果たしていないということはできない。
前記 )Cによれば,被告製品のアルミニウム容器でセボフルランを a1か月保存しても,不純物の生成を抑制することができたことが認められる。しかし,前記 )D及びE記載のとおり,アルミニウムは,酸化 aすることで酸化アルミニウムを形成するものであり,酸化アルミニウムはルイス酸であること,及び,前記 )認定のとおり,ルイス酸がどこ bにでも存在するものであり,セボフルランの製造,輸送あるいは貯蔵工程のどこでもルイス酸によるセボフルランの分解が起こり得ること,すなわち,セボフルランを保存するアルミニウム容器において,その製造工程や保存・使用工程において,空気に触れたり,ルイス酸が混入することでフッ化水素が発生することによって容器内壁表面が酸化すること,, は充分あり得ることであることからすると上記 )Cの実験のみからa被告製品のアルミニウム容器(エポキシフェノリックレジンによる被覆をしていないもの)においては,ルイス酸が存在せず,セボフルランが分解されることはないと認めることはできない。
そうすると,被告製品におけるアルミニウム容器の表面をルイス酸抑制剤で被覆することでルイス酸抑制効果を期待できるといえるから,被告製品におけるアルミニウム容器を被覆しているエポキシフェノリックレジンはルイス酸抑制効果を奏しない旨の被告の主張は採り得ない。
カ 本件米国関連訴訟について原告ら及び被告は,本件米国関連訴訟における裁判所の判断を引用して本件特許発明技術的範囲の議論をしている。しかし,本件米国関連訴訟において審理の対象となっている特許発明(USP5990176)のクレームは 「一定量のセボフルラン;及び,水,ブチル化ヒドロキシトル ,エン,メチルパラベン,プロピルパラベン,プロポホール,及びチモールから選択される,ルイス酸による分解を阻止する有効な量のルイス酸抑制剤を含む麻酔薬組成物」であり(甲34,39の1・2 ,本件特許発。)明の特許請求の範囲とは異なるものであり,また,そもそも本件特許発明() に対応する米国特許は特許番号US6677492B2 甲27の1・2であり,これとも異なるものである。また,当然ながら,本件米国関連訴( , ,,, 訟と本件とでは証拠関係が異なるのであり 乙11 甲23 31 3237,47等 ,本件米国関連訴訟の判断は,本件の判断に直接影響する )ものではないことは当然である。
キ小括以上によれば,被告方法の構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」はルイス酸抑制効果を有しており,本件特許発明構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に当たる。
( ) 争点2-4(本件特許発明構成要件Dの「被覆」が排液過程を伴う工程 4に限定されるか)について「被覆」の通常の意味は 「おおいかぶせること (平成10年11月1 ,」1日発行の広辞苑第5版)であり(甲30 ,本件特許発明構成要件Dの )「被覆」を排液過程を伴う工程に限定して解釈する理由はない。
被告は,本件明細書の【0033】及び実施例7にのみ本件特許発明の記載がなされている旨主張し,これを上記限定解釈の理由とする。しかし,前記( )記載のとおり,本件特許発明についての記載は【0033】及び実施 3例7に限られるものではなく,その技術思想の中核となる部分が本件明細書の【0026 【0029】等に記載されていることは前記のとおりであ 】,る。したがって,本件特許発明の「ルイス酸抑制剤で被覆する」態様については,これをその実施例のものに限定して解釈する必要はなく,ルイス酸抑制剤で容器内壁を被覆し,ルイス酸の空軌道に電子を供与することにより,ルイス酸とセボフルランとの反応を妨げるものであればよく 「被覆」の後,に排液工程を伴うか否か,当該被覆が覆い被された状態で固化し,そのまま残存するかどうかは,付加的な事項にすぎず,その特許請求の範囲にもそのような限定を示唆する記載はない。
被告方法の構成dは「該容器の内壁を…エポキシフェノリックレジンのラッカーで被覆する工程」であり,容器の内壁をエポキシフェノリックレジンのラッカーでおおいかぶせる工程を有するものであるから 構成要件Dの 該,「容器の内壁を…ルイス酸抑制剤で被覆する工程」に当たる。
( ) 争点2-5(本件特許発明構成要件Dの「容器」が完成された容器に限 5定されるか)について被告は,構成要件B「内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程」と構成要件D「該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程」が経時的な要件であることを理由に構成要件Dのルイス酸抑制剤で被覆される「容器」が完成された容器に限定される旨主張する。
構成要件Bには「内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程」と記載されており,本件明細書には「本明細書で用いる『容器』という用語は,物品を保持するために使用することができるガラス,プラスチック,スチール,または他の材料でできた入れ物を意味している。容器の例は,ボトル,アンプ,, 。」(【】)。 ル 試験管 ビーカー等を含む と記載されている 甲13 0030上記特許請求の範囲の記載と,本件明細書の上記記載から,本件特許発明構成要件Dの「容器」とは「物品を保持するために使用できる入れ物」を意味すると解すべきである。そして,被告製品においては,内壁を有する容器にエポキシフェノリックレジンを被覆した後に,容器の首部分を完成させるものであるとしても,本件特許発明は,容器内壁のルイス酸をルイス酸抑制剤で中和することによって当該容器内壁に接触するセボフルランがルイス酸によって分解されることを抑制する発明なのであるから,ルイス酸抑制剤を,, 容器内壁表面に被覆する時点で 容器内壁が存在することは必要であってもその余の付加的な部分,例えば,容器の首部分が完成している必要はない。
したがって,本件特許発明構成要件Dの「容器」については,内壁を有する入れ物としての容器が存在していれば足り,容器の首部分が完成していないものを除外して解すべき理由はない。
被告方法の構成dの「容器」は 「物品を保持するために使用できる入れ ,物 であり 内壁を有するものであるから 本件特許発明構成要件Dの 容 」, , 「器」に当たる。
()小括6被告方法の構成dは,アルミニウム容器の内壁をエポキシフェノリックレジンのラッカーで被覆するものであり,液体状のエポキシフェノリックレジンを容器内壁に塗布する工程が,本件特許発明構成要件Dを充足するものである(なお,エポキシフェノリックレジンのラッカーがその後固化する工程は,本件特許発明との関係では,付加的な工程にすぎないことは前記のとおりである 。。)3 争点3(本件特許が特許法36条6項1号(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること)の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるか)について( ) 被告は,本件特許発明は,その分割出願の経緯から,水以外のルイス酸抑 1制剤に関する発明であるのに対し,本件明細書にはルイス酸抑制剤として水を用いた構成しか記載されていないとして本件特許が特許法36条6項1号に違反する旨主張する。しかし,本件明細書の「 0026】本明細書で用 【いる「ルイス酸抑制剤」という用語は,ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物を表している。生理学的に許容可能なあらゆるルイス酸抑制剤を本発明の組成物に使用することができる。本発明で使用できるルイス酸抑制剤の例は,水,ブチル化ヒドロキシトルエン(1,6-ビス(1,1-ジメチル-エチル)-4-メチルフェノール ,メチルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸メチルエス )テル ,プロピルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル , ))プロポホール(2,6-ジイソプロピルフェノール ,及びチモール(5- )メチル-2- 1-メチルエチル フェノール を含む との記載及び 0 ())。」「【028】本発明の組成物で使用するのに好適なルイス酸抑制剤は水である。
…他のルイス酸抑制剤の場合は,水のモル量に基づくモル当量を使用すべきである 」との記載(甲13)によれば,本件明細書においては 「ルイス 。,酸抑制剤」として水以外のものも記載していることは明らかである。
( ) 被告は,本件特許発明の「セボフルラン」は「ルイス酸抑制剤不含有セボ 2フルラン」であり,本件明細書にはルイス酸抑制剤を添加したセボフルランを容器に入れる構成しか記載されていないとして本件特許が特許法36条6項1号に違反する旨主張する。
しかし,本件明細書の【発明の詳細な説明】の「 0010】本発明は, 【そこに有効な安定化量のルイス酸抑制剤が付加されたアルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物を含有する安定な麻酔薬組成物に関する。好適なフルオロエーテル化合物はセボフルランであり,また,好適なルイス酸抑制剤は水である。…【0011】また,本発明は,アルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物の安定化法も含む。本方法は,有効な安定化量のルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより,ルイス酸による該フルオロエーテル化合物の分解を防止することを含む 」との記載及び「 0017】本発明はルイス酸の存在下にお 。【いても分解しない,安定な麻酔薬組成物を提供する。また,本発明は,該麻。」() , 酔薬組成物の調製法についても開示するとの記載 甲13 からすれば本件明細書には,@ルイス酸抑制剤が付加された麻酔薬組成物,A同組成物の調製方法及びBセボフルランの安定化法の発明が記載されており,本件特許発明は,そのうち,上記@AではなくBに関する発明であるといえる。そして,上記Bに関する発明であるからといってセボフルランにルイス酸抑制剤を添加する構成が除外されるものではないことは明らかである。また,本件特許発明(請求項1)の特許請求の範囲においては,単に「一定量のセボフルラン」と記載されているだけであるから,構成要件Eの容器の内部空間に配置される「一定量のセボフルラン」については「セボフルラン」であれば足り,ルイス酸抑制剤を添加したセボフルランであるか,同抑制剤を添加しないセボフルランであるかは問わないと解すべきである。
むしろ,本件明細書の「 0029】フルオロエーテル化合物がルイス酸 【に晒されると,本組成物中に存在する生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し,該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する。…」及び「 0056】実施例7…各ボトルを新鮮なセボフルラン 【で充分にすすぎ洗いした。次いで,各ボトルに約125mLの水飽和セボフルランを入れた。その後,その5本のボトルを回転機に約2時間掛け,活性化されたガラス表面に水を被覆できるようにした。次いで,各ボトルから水飽和セボフルランを排液し,400(添加)ppmの水を含有する100mLのセボフルランで置換した。50℃で18時間,36時間,及び178時間加熱した後,すべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。…その結果が以下の表7に示されている【0058】表7の結果は,活性化 。
されたガラス表面を加熱する前に水飽和セボフルランで処理することにより,セボフルランの分解が大いに抑制されたことを示している 」との記載。
(甲13)によれば,本件明細書には,実施例7として,セボフルランとルイス酸抑制剤(水)の組成物を容器に充填し,これを回転機で約2時間回転させ,同組成物中に存在するルイス酸抑制剤(水)を容器内壁表面に被覆させ,同ルイス酸抑制剤が容器内壁表面のルイス酸の空軌道に電子を供与して共有結合を形成させ,その後,このセボフルランを排液して,水を含有するセボフルランを入れるとの構成が記載されている。これによれば,本件特許発明構成要件Eの「セボフルラン」を「ルイス酸抑制剤不含有セボフルラン」に限定して解釈する理由はないことは明らかである。
( ) 被告は,本件明細書には,ガラス容器表面にルイス酸抑制剤を接触させ, 3同表面のルイス酸をルイス酸抑制剤で中和し,ボトルから水飽和セボフルランを排液する構成が記載されているにすぎず,容器表面をルイス酸抑制剤で被覆する構成(おおいかぶせる構成)は記載されていないとして,本件特許が特許法36条6項1号に違反する旨主張する。
本件特許発明は 「該容器の該内壁を…ルイス酸抑制剤で被覆する工程」 ,により,当該容器内壁に存在するルイス酸をルイス酸抑制剤と反応させ,同容器に充填されるセボフルランがルイス酸によって分解されるのを抑制する発明である。したがって,本件明細書には,容器内壁をルイス酸抑制剤で被覆する(おおいかぶせる)工程が記載されている必要がある。
本件明細書には,次の記載がある(甲13 。)「 0004】【フルオロエーテルの分解はガラス製の容器中で起こることが分かった。ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる。ルイス酸のソースはガラスの天然成分である酸化アルミニウムであり得る。ガラス壁が何らかの原因で変質または腐食すると酸化アルミニウムが露出し,容器の内容物と接触するようになる。すると,ルイス酸がフルオロエーテルを攻撃し,フルオロエーテルを分解する。
【0026】…本明細書で用いる「ルイス酸抑制剤」という用語は,ルイス酸の空軌道と相互作用し,それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物を表している。生理学的に許容可能なあらゆるルイス酸抑制剤を本発明の組成物に使用することができる。本発明で使用できるルイス酸抑制剤の例は,…【0029】フルオロエーテル化合物がルイス酸に晒されると,本組成物中に存在する生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し,該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する。
【0030】本発明の組成物は様々な方法で調製することができる。ある局面では,先ずガラス製ボトル等の容器をルイス酸抑制剤で洗浄またはすすぎ洗いした後,その容器にフルオロエーテル化合物が充填される。…【0031】別の局面では,フルオロエーテル化合物を容器に充填する前に,乾燥した容器にルイス酸抑制剤を加える。ルイス酸抑制剤を加えた後,その容器にフルオロエーテル化合物が付加される。代替的に,既にフルオロエーテル化合物を含有している容器にルイス酸抑制剤を直接加えてもよい。
【0040】実施例3…合計10本のアンプルにセボフルランと様々な量の水を充填し。,。 た そのうち5本のアンプルをセットAとし 残りの5本をセットBとした次いで,それらのアンプルを119℃で3時間オートクレーブした。セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け,水分をガラス表面に被覆できるようにした。…その結果が表2に示されている (下線付加)。
【0056】実施例7…各ボトルを新鮮なセボフルランで充分にすすぎ洗いした。次いで,各ボトルに約125mLの水飽和セボフルランを入れた。その後,その5本のボトルを回転機に約2時間掛け,活性化されたガラス表面に水を被覆できるようにした。次いで,各ボトルから水飽和セボフルランを排液し,400(添加)ppmの水を含有する100mLのセボフルランで置換した。
50℃で18時間,36時間,及び178時間加熱した後,すべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。…その結果が以下の表7に示されている (下線付加 」。)本件明細書の上記各記載によれば,本件明細書には容器表面のルイス酸をルイス酸抑制剤で中和するために,容器表面をルイス酸抑制剤ないしルイス酸抑制剤を一成分とする組成物で被覆する(おおいかぶせる)構成が記載されているといえる。なお,この中には,ルイス酸抑制剤ないしルイス酸抑制,, 剤を一成分とする組成物を容器表面に被覆した後 容器から排液する構成と排液しない構成とが示されているものの,容器内壁をルイス酸抑制剤で被覆した(おおいかぶせた)後に,ルイス酸抑制剤を容器内壁に被膜として固着するとの構成を示したものはない。しかし,本件特許発明における容器内壁にルイス酸抑制剤を被覆する(おおいかぶせる)との工程は,容器内壁表面のルイス酸にルイス酸抑制剤を接触させることによって,ルイス酸の空軌道に電子を供与し,ルイス酸とルイス酸抑制剤との間に共有結合を生じさせ,ルイス酸の反応部位を遮断してセボフルランとの反応を抑制するために存するのであり,これが本件特許発明の技術思想の中核部分であるというべきである。したがって,容器内壁をルイス酸抑制剤で被覆した後に,被覆を固着した上で,その被覆された状態を長時間持続させるかどうかについては,本件特許発明においては,何も規定されておらず,かかる構成は,本件特許発明の構成と併存し得る付加的な構成にすぎない。被告の上記主張は,本件特許発明の構成を上記のような付加的構成を有するものに限定解釈することを前提とした独自の見解であって,採用することはできない。
( ) 被告は,本件明細書には,ルイス酸抑制剤とセボフルラン等のフルオロエ 4ーテル化合物からなる麻酔薬組成物を用いて被覆する工程しか記載されておらず,セボフルラン等のフルオロエーテル化合物を含まない被覆材料を用いて容器内壁表面を被覆する構成は記載されていない旨主張する。
しかし 「ルイス酸抑制剤」が麻酔薬組成物の一成分になり得るものに限 ,定されていると解することができないことは前記2( )で説示したとおりで 2ある。そして,本件明細書における,上記【0004 【0026 【0】,】,029】の上記各記載からすれば,ルイス酸抑制剤がガラス容器内壁表面に生じるルイス酸の空軌道に電子を供与して共有結合を形成し,セボフルランの分解を抑制するとの本件特許発明の技術思想の中核的な部分が記載され,また,上記【0030】には,ルイス酸抑制剤単体で容器を洗い流すこと等が記載されていることからすれば,上記【0040 (実施例3)及び【0 】056 (実施例7)の各実施例が,上記のとおり,水を含有するセボフル 】ランを振とう機ないし回転機に掛け,容器内壁に水を被覆しているものであるものの 「ルイス酸抑制剤とセボフルラン等のフルオロエーテル化合物を ,成分とする麻酔薬組成物」を用いて,これを回転機に掛けた上で,ルイス酸抑制剤で容器内壁表面を被覆しようと「ルイス酸抑制剤」単体で容器内壁 ,表面を被覆しようと,容器内壁のルイス酸とルイス酸抑制剤とが反応し,セボフルランの分解を抑制するとの作用効果が生じることに変わりはないのであるから,本件明細書の上記各記載からすれば,当業者にとって,本件明細書の【0026】において前記のとおり定義されているルイス酸抑制剤について,同【0026】で例示されているルイス酸抑制剤を参考としながら,ルイス酸抑制剤単体で容器内壁を被覆することも開示されているものと認められる。したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。
( ) 被告は,本件特許発明構成要件Dの「容器」に未完成の容器も含まれる 5のであれば,本件明細書に未完成の容器をルイス酸抑制剤で被覆する構成も記載されていなければならないところ,これが記載されていないとして本件特許が特許法36条6項1号に違反する旨主張する。
しかし,前記認定2( )認定のとおり,本件特許発明構成要件Dの「容 5」「 」 , 器 とは 物品を保持するために使用できる入れ物 を意味するものであり容器の内壁を備えていれば足り,容器の首部分が未完成のものであっても,本件特許発明における「容器」と解することができる。そして,本件明細書にはかかる「容器」をルイス酸抑制剤で被覆する工程が記載されているのであるから,本件明細書には首部分が未完成の容器をルイス酸抑制剤で被覆する工程が記載されていなければならないとする被告の上記主張は理由がない。
4 争点4(本件特許が改正前特許法36条4項(発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない)の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるか)について( ) 被告は,@本件特許発明のルイス酸抑制剤はルイス酸とセボフルランの反 1応速度より早くルイス酸を攻撃する化合物でなければならないが,本件明細書にはいかなる化合物がセボフルランより早くルイス酸と反応するのか記載されておらず,また,ルイス酸と反応する化合物であってもセボフルランを含むフルオロエーテル化合物やガラス等本件特許発明のルイス酸抑制剤に当たらないものが存在するため,本件明細書を見ても当業者はいかなる化合物がルイス酸抑制剤に当たるのか理解できない,A本件明細書にはセボフルランに多量のルイス酸抑制剤を添加することによって分解を抑制することが記載されているだけであり,その実施例3にも,実施例7にも,容器をルイス酸抑制剤で被覆することによる分解抑制効が記載されていないから,本件明細書を見ても,当業者は本件特許発明の効果を理解できないとして,本件特許は改正前特許法36条4項の要件を満たしていない旨主張する。
ア 被告の上記@の主張については,前記2( )で認定判断したとおりであ 1り,同様の理由により,被告の主張は理由がない。
イ 被告の上記主張Aについて) 本件明細書の「 0004】フルオロエーテルの分解はガラス製の容 a【器中で起こることが分かった。ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる。ルイス酸のソースはガラスの天然成分である酸化アルミニウムであり得る。ガラス壁が何らかの原因で変質または腐食すると酸化アルミニウムが露出し,容器の内容物と接触するようになる。すると,ルイス酸がフルオロエーテルを攻撃し,フルオロエーテルを分解する 」。
及び「 0029】フルオロエーテル化合物がルイス酸に晒されると, 【本組成物中に存在する生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し,該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する (甲13)との記載のとおり,本件明細書には,セボフルランの 。」分解が生じる原因がガラス容器中に存在するルイス酸であること,ルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与しルイス酸抑制剤がルイス酸と共有結合を形成することによってセボフルランの分解が抑制できることが記載されている。そして,前記認定のとおり,本件明細書の実施例7においては,水飽和セボフルランを約2時間回転機に掛けて,容器内壁表面に水を被覆し,その後,同セボフルランを排液し,水を含有するセボフルランを入れることにより,容器内壁に水を被覆せずに,水を含有するセボフルランを容器にいれた実施例6のものと比べ,セボフルランの分解抑制作用において顕著な効果があることが示されているのである。ルイス酸抑制剤で容器表面を被覆し,これによりセボフルランの分解抑制効果があることが当業者が実施可能な程度に開示されていることが明らかである。
) 被告は,本件明細書の実施例7で記載されている水飽和セボフルラン bを容器に入れて2時間回転機に掛ける処理は「被覆」とはいえない旨主張する。しかし,前記3( )に判断したとおり 「容器表面をルイス酸 3,抑制剤で被覆する」とは,容器表面にルイス酸抑制剤をおおいかぶせることを意味しており,水飽和セボフルランを容器に入れて2時間回転機に掛けることで容器表面にルイス酸抑制剤である水をおおいかぶせることになるから,これは「被覆」に当たるのである。被告の上記主張は本件特許発明における「被覆」を,おおいかぶせるだけでなくおおいかぶせた状態を持続し得るような構成に限定して解釈することを前提とした独自の見解であって,採用することができないことは前記のとおりである。
) また,被告は,実施例3においては振とうしなかった場合と振とうし cた場合のサンプルの間に有意な差がなかった旨記載されており,実施例3と実施例7を合わせ読むと,セボフルランを容器に供する前にあらかじめ容器内壁のルイス酸を中和しておくことによってセボフルランの分解を抑制するという効果について記載されているとはいえない旨主張する。
確かに,本件明細書には,@「0040】実施例3合計10本のア 【ンプルにセボフルランと様々な量の水を充填した。…次いで,それらのアンプルを119℃で3時間オートクレーブした。セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け,水分をガラス表面に被覆できるようにした。…その結果が以下の表2に示されている。A【0042】上記表2の結果は,セットA及びセットBのアンプルの場合,少なくとも595ppmの水があれば充分にセボフルランの分解を抑制できることを示している。また,この結果は,一晩振とうしたアンプルと一晩振とうしなかったアンプルとの間に有意な差がないことを示している 」との記載があ。
る(甲13 。)しかし,この実施例3は,容器内壁表面を被覆する構成(本件特許発明)と,セボフルランにルイス酸抑制剤を添加して麻酔薬組成物にする構成(親出願にかかる発明)との間で有意な差がなかったことを示すにすぎず,容器内壁を被覆することにセボフルランの分解を抑制する効果がないことを示すものではない。実施例3の記載が,前記実施例7に記載されたルイス酸抑制剤で容器を被覆することによるセボフルラン分解抑制効についての記載を減殺するものではない。
) したがって,本件明細書には容器をルイス酸抑制剤で被覆すること dによる分解抑制効が記載されていない旨の被告の主張は理由がない。
( ) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をす 2ることができる程度に明確かつ十分に,記載されているといえるから,本件特許が改正前特許法36条4項の要件を備えていない旨の被告の主張は理由がない。
5 争点5(本件特許が特許法36条6項2号(特許を受けようとする発明が明)) 確であること の要件を満たしていない特許出願に対してなされたといえるかについて被告は,本件明細書の【0026】のルイス酸抑制剤の記載によれば,-O-基を有する化合物は本件特許発明のルイス酸抑制剤に当たることになるものの,-O-基を有する化合物であってもセボフルランを含むフルオロエーテル化合物やガラス等本件特許発明のルイス酸抑制剤に当たらないものが存在するとして,本件特許は特許法36条6項2号に反する旨主張する。
しかし,ルイス酸抑制剤の意味は明確であることは,前記2( )に説示した1とおりであり,この点に関する被告の主張は理由がない。
6 争点6(本件特許が改正前特許法17条の2第3項補正要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたといえるか)について( ) 改正前特許法17条の2第3項は 「第1項の規定により明細書又は図面 1 ,について補正をするときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない 」旨規定し,同1項は「特許出願人は,特許すべき旨の査定の 。
謄本の送達前においては,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる 」旨規定する。。
被告は,本件各補正は,本件分割出願当初明細書を補正するものであるところ,@本件分割出願当初明細書には,容器としてガラス容器以外の容器は,, 記載されておらず ルイス酸抑制剤として水以外のものは記載されておらず容器の処理として容器を水以外のルイス酸抑制剤で被覆する構成も,被覆容器中に水を添加しないセボフルランを貯蔵することも記載されていない,A本件分割出願当初明細書には,セボフルランとルイス酸抑制剤を成分とする麻酔薬組成物で容器を被覆する構成しか記載されておらず,ルイス酸抑制剤単体で容器を被覆する構成は記載されていない,B本件分割出願当初明細書には,容器として未完成の容器を含むことは記載されていないとして,上記各記載されていない構成を含むように変更する本件各補正は改正前特許法17条の2第3項に違反する補正であると主張する。
ア 本件分割出願当初明細書(本件親出願の当初明細書も同様である。以下同じ )には,ガラス容器以外の容器,水以外のルイス酸抑制剤,容器を 。
ルイス酸抑制剤で被覆する構成,被覆容器中に水を添加しないセボフルランを貯蔵する構成について記載がないといえるかについて本件明細書及び本件分割出願当初明細書の 発明の詳細な説明 は 図 【】,【面の簡単な説明】が加わったほかは,本件親出願の当初明細書の【発明の】(,,)。 詳細な説明 の記載と同じである 甲13 乙1の1・2 6の1・2そして,本件明細書の【発明の詳細な説明】には,@容器としてガラス容器以外の容器が記載されていることは,本件明細書の前記2( )で指摘5した【0030】の記載から明らかであり,ルイス酸抑制剤として水以外のものも含むこと及び容器表面をルイス酸抑制剤で被覆する構成が記載されていることは,前記3( )及び( )に説示したとおりである。 13また,本件特許発明構成要件Eの「一定量のセボフルラン」については 「セボフルラン」であれば足り,ルイス酸抑制剤を添加したセボフル ,ランであるか,同抑制剤を添加しないセボフルランであるかは問わないと解すべきであることは前記3( )に説示したとおりであるから,本件明細 2書において,被覆容器中に水を添加しないセボフルランを貯蔵することが具体的に記載されている必要はない。
したがって,本件分割出願当初明細書に上記各記載がなかった旨の被告の主張は理由がない。
イ 本件分割出願当初明細書に,ルイス酸抑制剤単体で容器を被覆する構成が記載されていないといえるかについては,前記3( )に説示したとおり4であり,本件明細書にはルイス酸抑制剤単体で容器を被覆する構成についての開示があるということができる。また,本件分割出願当初明細書に容器として未完成の容器も含む構成が記載されていないといえるかについては,前記3( )説示のとおりであり,本件明細書には,未完成,完成を問 5わず 「物品を保持するために使用できる入れ物」が本件特許発明の「容 ,」( ) 。 器 に当たることが記載されている甲13の6頁13行ないし16行そして 当該記載は 本件分割出願当初明細書においても存在していた 乙 ,, (6の2 。)したがって,本件分割出願当初明細書に上記記載がなかった旨の被告の主張は理由がない。
( ) 以上によれば,本件各補正は改正前特許法17条の2第3項に違反する旨 2の被告の主張は理由がない。
7 以上によれば,被告方法は本件特許発明技術的範囲に属するから,被告が,, , 被告方法により生産した被告製品を輸入販売 又は販売の申出をする行為は(,)。 原告らの本件特許権を侵害する行為に当たる 特許法2条3項3号 68条
結論
よって,原告らの本件請求は理由があるからこれを認容し,仮執行宣言につき民訴法259条1項を,訴訟費用の負担につき民訴法61条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
追加
一裁判長裁判官設樂隆裁判官古河謙一吉川泉裁判官別紙物件目録有効成分としてセボフルランを含有する全身麻酔剤(商品名セボネス)別紙方法目録アルミニウム容器内面を以下の一般構造式を有するエポキシフェノリックレジンのラッカーによって被覆し,当該内面に接する当該容器空間内に250mlのセボフルラン原液を充てんすることによって,当該セボフルラン原液を別紙物件目録記載の全身麻酔剤〔セボフルラン剤〕として貯蔵する方法(図省略)別紙Aの実験ノートHFIPP1pHSampleBottleType0.00450.00047.2420573-94-1Glass0.00490.00047.1320573-94-2Glass0.00490.143.0220573-94-5Aluminium0.00650.143.0020573-94-6Aluminium0.0290.00643.1620573-94-13PTFE0.0320.00043.5120573-94-14PTFEHFIPP1P2SampleBottleType0.00480.0004NO20573-92-1Glass0.00490.0004NO20573-92-2Glass0.00390.1380.02820573-92-5Aluminium0.0070.0530.000120573-92-6Aluminium特許公報添付略