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関連審決 不服2003-5927
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 自然法則 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  アクセス /  発明特定事項 /  下位概念 /  発明を特定する事項 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  限定的減縮 /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  合理的な理由 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10698号 審決取消請求事件
原告X1
原告X2
原告X3
原告ら訴訟代理人弁理士 澤田俊夫
被告 特許庁長官中嶋 誠
被告指定代理人 赤穂隆雄
同 篠原功一
同阿波進
同立川功
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-5927号事件について平成17年8月2日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告らは,発明の名称を「ポイント管理装置および方法」とする発明につき,平成12年10月19日,特許を出願(特願2000-319884。以下「本願」という。)し,平成15年2月17日付け手続補正書による手続補正をしたが,同年3月6日付けの拒絶査定を受け,同年4月9日,審判請求を行うとともに,同日付け手続補正(以下「第1補正」という。)をし,さらに,同年5月8日付け手続補正(以下「第2補正」という。)をした。
特許庁は,この審判請求を不服2003-5927号事件として審理し,その結果,平成17年8月2日,第1及び第2補正をいずれも却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月23日,審決の謄本が原告らに送達された。
2 特許請求の範囲平成15年2月17日付け手続補正書による補正後(第1及び第2補正を経ないもの。以下「第1補正前」という。)の本願の請求項1及び11(請求項の数は全部で11項である。)は次のとおりである。
「【請求項1】 ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶する累積ポイント記憶手段と,ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する手段と,上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段とを有することを特徴とするポイント管理装置。
【請求項11】 ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶するポイントアカウントデータベースを参照してポイントを管理する方法において,ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信するステップと,上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップとを有することを特徴とするポイント管理方法。」(以下,第1補正前の請求項11に係る発明を「本願発明」という。)3 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,第1及び第2補正は,いずれも特許法17条の2第4項の規定に反するものであるから,特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきであり,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想創作とは認められないから,特許法29条柱書の「発明」に該当せず,特許を受けることができないとするものである。
審決が上記結論を導くに当たり前提とした第1及び第2補正の要点は,次のとおりである。
(1) 第1補正の要点ア 特許請求の範囲の請求項1を,「ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶する累積ポイント記憶手段と,ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する手段と,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段と,上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記対応づけ手段により上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンの,ポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段とを有することを特徴とするポイント管理装置。」と補正する。
イ 請求項2ないし11を削除する。
(2) 第2補正の要点ア 旧請求項(第1補正前の請求項を指す。以下同じ)1を,「所定の条件の下で重複することなく発行されて一意に特定できる記号列であって1つのポイントキャンペーンに対して複数対応づけられるものを用いてユーザに対してポイントを加算するポイント管理装置において,ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶する累積ポイント記憶手段と,ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含むポイント加算用情報をネットワークを介して受信するポイント加算用情報受信手段と,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段と,上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記対応づけ手段により上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンの,ポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段とを有することを特徴とするポイント管理装置。」と補正する。
イ 旧請求項2,4ないし6,9及び10を削除する。
ウ 旧請求項3を,「上記ポイント加算用情報受信手段は,上記ユーザの識別情報と上記ユーザが入力した記号列を含む電子メールを上記ポイント加算用情報として受信し,上記記号列は上記電子メールのヘッダ,ボディおよび添付ファイルのいずれかに含まれる請求項1記載のポイント管理装置。」と補正の上,新請求項2とする。
エ 旧請求項2,4ないし6の削除に伴い,旧請求項7の引用する請求項を,「請求項1,2,3,4,5または6」から「請求項1または2」に補正し,旧請求項7を新請求項3とする。
オ 旧請求項2,4ないし6の削除に伴い,旧請求項8の引用する請求項を,「請求項1,2,3,4,5,6または7」から「請求項1,2または3」に補正し,旧請求項8を新請求項4とする。
カ 旧請求項11を,「ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶するポイントアカウントデータベースを参照し,所定の条件の下で重複することなく発行されて一意に特定できる記号列であって1つのポイントキャンペーンに対して複数対応づけられるものを用いてユーザに対してポイントを加算するポイントを管理する方法において,ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含むポイント加算用情報をネットワークを介してポイント加算用情報受信手段により受信するステップと,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段を用い,上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記対応づけ手段により上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップとを有することを特徴とするポイント管理方法。」と補正の上,新たな請求項5とする。
原告ら主張の取消事由の要点
審決は,審判請求の日から30日以内にされた2回の手続補正(第1及び第2補正)の判断の方法を誤り(取消事由1),第1及び第2補正の適否の判断を誤って,これらを却下し(取消事由2及び3),仮に補正却下の判断が誤っていないとしても,本願発明が「発明」に該当するか否かの判断を誤った(取消事由4)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(第1及び第2補正の判断の方法の誤り)審決は,第2補正の適否を判断する基準となるのは,第1補正による補正後の明細書及び図面であるとして,まず第1補正の適否を判断し,これを却下した後に,第1補正前の明細書及び図面を基準にして,第2補正を却下している。
しかし,審判請求の日から30日以内に行われた複数の補正は,拒絶査定で指摘された瑕疵を治癒すべくなされた接着した一体不可分の手続であり,補正の適否の判断に当たっては,個々の補正を個別に評価するのでなく,後の補正を審判請求前の明細書及び図面と比較した上で評価すべきである。
その理由は,発明の保護を十全に図るという特許制度の基本目的を考慮しつつ,迅速・的確な権利付与を確保する審査手続・審理手続を確立するという特許法17条の2第4項の趣旨を考慮した場合には,全体として同一の機会に同一の目的でなされた接着した手続である複数の補正を個別に評価すべきでなく,それらを全体として把握して,後の補正を審判請求前の明細書及び図面と比較考量して,判断すべきであるからであり,最後の補正内容を考慮すれば,当事者の意思に合致し,審理の迅速にも適うからである。
また,複数の補正については,個別に評価すべきでなく,それらを全体として把握して,後の補正を審判請求前の明細書及び図面と比較考量して判断すべきことは,以下の要請・事情にも合致するものである。
(1) 審判請求は,拒絶査定の謄本送達から30日以内という極めて短い期間に行わなければならず,その対処方法が十分に検討されていない段階で,暫定的な特許請求の範囲の内容で審判請求を行うことが予想される。
(2) 当該補正の期間が,審判請求の日から30日以内と短く,早期にその内容が確定でき,審理の遅延や第三者の不測の不利益が生じない。
(3) 請求項の数が後の補正により増えても,その分の審判請求の費用については,補正に合わせて支払っており,公平に欠けるところもない。
2 取消事由2(第1補正の判断の誤り)「上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーン」は,請求項1に記載した発明を特定する事項であり,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」及び「上記対応づけ手段により」を挿入する補正は,全体的・実質的に検討した場合には,特許法17条の2第4項2号に規定される「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」である。
文章を等価な範囲で書き換えて考えれば,第1補正は,「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段により,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」という補正,あるいは「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけにより,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」と同等のものであり,第1補正が請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する補正であることは,明らかである。
特許請求の範囲の請求項の記載は,例えば,「Aと,Bと,Cと,Dとを有することを特徴とする装置。」のように記載することが多いが,これらA,B等の記載は,単に後の構成を明確にするために箇条書きにする場合も多く,そのような文脈全体を考慮して,発明を特定する事項かどうかを実質的に判断すべきである。また,「対応づけに基づいてポイントを加算する手段」が「ポイントを加算する手段」の下位概念であることは,明らかである。
3 取消事由3(第2補正の判断の誤り)(1) 補正後の請求項1に係る補正について「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段と,」及び「上記対応づけ手段により」を付加する補正は,補正前の「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」中の「上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウント」が,「対応づけ手段により上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンの,ポイントアカウント」であり,この対応づけ手段が「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う」ことを限定するものであり,請求項の発明を特定する事項を限定するものである。
この補正は,「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段により,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」という補正,あるいは「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけにより,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」と同等のものであり,実質的に考えれば,旧請求項1に記載された発明を特定する事項を限定する補正であることは,明らかである。
(2) 補正後の請求項5に係る補正について「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段を用い,」及び「上記対応づけ手段により」を付加する補正は,第1補正前の「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ」中の「上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウント」が「対応づけ手段により上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンの,ポイントアカウント」であり,この対応づけ手段が「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う」ことを限定するものであり,旧請求項11の発明を特定する事項を限定するものである。
この補正は,「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段により,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ」という補正,あるいは「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけより,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ」と同等のものであり,実質的に考えれば,請求項に記載された発明を特定する事項を限定する補正であることは明らかである。
4 取消事由4(「発明」該当性の判断の誤り)(1) 人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合について審決は,人間が各手段を捜査してポイント管理を行う場合を挙げているが,本願発明において,人間が直接に「ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する」ことは,考えられない。何らかの受信回路や表示装置等を利用して,送信情報を受領して,認識する必要があるが,旧請求項11にはかかる記載はなく,人間がそのような受信を行う合理的な根拠がない。発明の詳細な説明にも,そのようなことを裏付ける記載はない。
また,人間が直接に「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算する」ことも,考えられない。上述の送信情報を,ネットワークを介して受領して認識できたとしても,ポイントアカウントデータベースの所定のポイントアカウントの累積ポイントに,所定ポイントを加算するには,ポイントアカウントデータベースの所定のポイントアカウントから現在のアカウントを読み出して,読みだし結果に上記の所定ポイントを加算操作し,さらに元のポイントアカウントに書き戻す処理が必要であるが,このような処理を行うには,読み出し回路や加算回路や書き込み回路が必要であり,このような記載がない以上,人間が,かかる処理を実行する合理的な理由がない。さらに,発明の詳細な説明にも,そのようなことを裏付ける記載はない。
本願発明は,仮に何らかの人為的な取り決めを前提としても,全体としては旧請求項11記載のステップを実行することにより,所期の目的を実現するものであり,自然法則を利用した技術的思想創作たる「発明」に該当する。
(2) コンピュータがポイント管理を行う場合について発明が,コンピュータにより実現されようと,コンピュータを用いない機械(例えば,組み合わせ論理回路を用いた順序機械)により実現されようと,基本的には,その発明の成立性には変わりがないはずである。コンピュータにより実現されている,あるいは実現可能であるという理由だけで,発明の成立性が否定されるという考え方には,合理的な理由がないし,産業保護の観点からも問題である。また,コンピュータを利用しないで,通常の装置(トランジスタやICやシーケンス回路を用いてかかる装置を形成することが可能である)で実現するポイント管理方法では,発明性が成立し,コンピュータを利用して実現するポイント管理方法では,発明の成立性がないというのでは,不合理である。
基本的には,本来,精神的作用に属する事柄(数学上の理論等)のような,発明といえないものであっても,コンピュータを利用しているという理由だけで,自然法則を利用した技術的思想創作であるという外観を持つもののみ,排除できればすむのであり,ソフトウェア関連発明については,そのような観点からも,発明の具体的な解決手段の内容が吟味されれば,十分である。また,数学的なルール,経済的なルール等は,特許制度上独占を許すべきでないので,発明の成立性がないとしているが,コンピュータは,このような数学的なルールや経済学的なルールも実行可能である。審査基準(第U部第1章)の趣旨は,このような単なるコンピュータの利用について発明の成立性がないというだけである。
当業者がかかるステップを採用して,ポイント管理方法を実現して,上記の目的・効果を実現できることは,明白であるから,本願発明には,発明一般の成立性があり,さらに,本来発明でないものを,単にコンピュータの利用という外観を装って規定するものでもないので,ソフトウェア関連発明の具体性も十分である。また,旧請求項11の各ステップは,かかる具体的な手段に相当し,これにより,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現するので,本願発明は,審査基準(第U部第1章)に照らしても,自然法則を利用した技術的思想創作である。
所期の目的・効果を,当業者が実現できる程度に上記のステップが記載されていれば,十分具体的であると認定すべきであり,それを超えて,その具体的な態様,例えば,中央処理装置,主メモリ,バス,外部記憶装置,各種インタフェース等のコンピュータの各部品をどのように用いるかまで,具体的に特定する必要はない。これら部品は,原理的には機械装置のねじ,くぎに過ぎず,発明の特徴が,これら部品に関連するものであれば事情は異なるが,一般的な場合において,これらの部品の類まで具体的に特定する必要があるとすることに,合理的な理由はない。旧請求項11の各ステップの記載は,当業者が,所期の目的・効果を実現できるように記載されている。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(第1及び第2補正の判断の方法の誤り)について審判請求の日から30日以内という同一の補正の機会に行われた2つの補正について,それらの2つの補正を一体のものとしてとらえる旨の規定が特許法にはないので,それぞれが独立して手続がなされた以上,2つの補正を一体のものとしてとらえるべきでない。
審判請求時の補正の適法性の判断については,特許法17条の2第3項の規定に加えて,同條4項及び5項の規定に適合するかを判断する必要がある。この特許法17条の2第4項及び5項は,特許請求の範囲を基準にして判断されるものであり,補正の目的を検討するにあたって基準にすべき特許請求の範囲は,当然に,当該補正の直前に適法に補正されたものである。
特許法では,特定の補正に限り暫定的な手続を認めるような運用,すなわち,後の手続がなされた場合に,前の手続が自動的に消滅するような運用は行われていないので,拒絶査定の謄本送達から30日以内に,複数の補正がなされた場合でも,それぞれが独立した手続として扱われるべきであり,そのことを考慮して,それぞれの特許請求の範囲の補正の検討がなされるべきである。また,原告らが主張する要請・事情があったとしても,審判請求時に同一の目的でなされた2つの補正については,特許法17条の2第4項の規定からみて,的確な審理手続のためには,それぞれ独立した補正として,個別にそれらの補正の適否が判断されるべきである。
特許法の規定からみて,手続は,方式不備等の理由に基づき,特許法18条の規定により手続却下されない限り,各手続は,消滅することはない。そして,複数回の補正があった場合,各々の補正は,その補正手続がされた時点が考慮されて,その適法性が検討され,適法であると判断されると,補正制度の趣旨からみて,その時点で,補正の効力は出願時に遡及すると考えるべきである。
2 取消事由2(第1補正の判断の誤り)について第1補正後の請求項1には,「対応づけ手段」が記載されているのに対し,第1補正前の請求項1には,「対応づけ手段」が記載されていないことからみて,この第1補正により,補正前の請求項1に係る発明に存在しなかった手段である「対応づけ手段」を,管理装置が新たに有することになるので,発明特定事項が実質的に追加されたと解される。
原告らが文章を等価な範囲で書き換えたという記載では,第1補正前の請求項になかった手段である「対応づけ手段」を,管理装置が新たに有するという点が考慮されていないので,第1補正により追加された記載と書き換えた記載とが同等とは認められない。
特許請求の範囲が「Aと,Bと,Cと,Dとを有することを特徴とする装置。」と記載されている場合には,一般的に,AないしDの全てが,発明特定事項である。そして,「Aと,Bと,Cとを有することを特徴とする装置。」から「Aと,Bと,Cと,Dとを有することを特徴とする装置。」に補正することは,新たに発明特定事項Dを追加するものであり,補正前のAないしCを限定的に減縮するものではないと判断すべきである。原告らの主張では,第1補正前及び補正後の請求項1のどの記載が発明特定事項であり,どの記載が発明特定事項でないとしているのか不明である。そして,第1補正前及び補正後の請求項1に記載された各手段は,発明特定事項であり,補正後の請求項1の記載の文脈からみて,第1補正は,実質的には,「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」及び「加算する手段」の三つの手段を有する「ポイント管理装置」に,新たに「対応づけ手段」を追加して,手段を四つにするものであるので,「対応づけ手段」という発明特定事項が増加するため,特許請求の範囲減縮されるが,補正前の発明特定事項のいずれかを限定したものではなく,特許法17条の2第4項2号で規定された限定的減縮には,該当しない。
3 取消事由3(第2補正の判断の誤り)について(1) 新たな請求項1に係る補正について第2補正後の請求項1には,「対応づけ手段」が記載されており,第2補正前の請求項1には,対応づけ手段が記載されていないことからみて,この第2補正により,補正前の請求項1になかった手段である「対応づけ手段」を,管理装置が新たに有することになるので,「対応づけ手段」という発明特定事項が実質的に追加されたと解するのが妥当である。
原告らが第2補正による追加の記載と同等であると書き換えた記載も,第2補正前の請求項になかった手段である「対応づけ手段」を,管理装置が新たに有するという点が考慮されていないので,第2補正による追加の記載と書き換えた記載とが同等でないといえる。
(2) 新たな請求項5に係る補正について補正後の請求項5には,「対応づけ手段」が記載されているのに対して,補正前の旧請求項11には,「対応づけ手段」を用いることが記載されていないことからみて,この第2補正により,補正前の旧請求項11になかった手段である「対応づけ手段」を用いた処理が新たに加わることになるので,発明特定事項が実質的に追加されたと解するのが妥当である。
原告らが同等であると書き換えた記載も,新たに「対応づけ手段」を用いる点が考慮されていないので,この点で,第2補正による追加の記載と,原告らが同等であるとして書き換えた記載とが,同等であるとは認められない。
4 取消事由4(「発明」該当性の判断の誤り)について(1) 人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合について旧請求項11の記載からみて,ポイントを「管理する」行為は,ポイントアカウントデータベースにアクセス可能な端末装置等を用いることにより,人間,例えばキャンペーン管理事業者が,当該データベースの内容を,端末装置の表示画面等で参照して,ポイントを管理するという解釈が,技術上不合理や矛盾がなく可能である。同様に,「受信する」との行為についても,ネットワークを介してアクセスされることが可能な端末装置等を用いて,人間であるキャンペーン管理事業者が,ユーザからの情報を受信するという解釈も,技術上不都合がなく可能であるし,「加算する」との行為についても,ポイントアカウントデータベースにアクセス可能な端末装置等を用いることにより,キャンペーン管理事業者が,アカウントデータベースの現状の内容,すなわち,現状の累積ポイントを参照して把握し,その累積ポイントに所定のポイントを加算した上で,累積ポイントを更新するという解釈も,技術上不都合がなく可能である。
旧請求項11でハードウエア資源として用いられている「アカウントデータベース」は,単に処理対象の蓄積ポイントを記憶しているだけであり,データベースにデータを記憶することは,データベースの通常の利用の仕方であり,また,「ネットワーク」は,単に送信情報の送信経路を特定しているだけであり,「ネットワーク」を送信経路とすることは,「ネットワーク」の通常の利用の仕方であり,これらを利用することが技術的意味を持つとは認められない。
したがって,行為の主体を人間とする解釈では,本願発明は,専ら,ポイント管理事業者が,アカウントデータベースやネットワークを道具として用いて,どのような手順で,複数のキャンペーンに関するユーザのポイント管理業務を実行するかという人為的取り決めを特定したものであって,その発明の背景であるところの,キャンペーンに対する応募者に,ポイントを付与する仕方自体も,商取引上の販売促進についての人為的取り決めであるから,本願発明は,一部に「アカウントデータベース」及び「ネットワーク」という自然法則を利用したものを用いてはいるが,技術的意味を持たないので,全体としては人為的取り決めであり,自然法則を利用した技術思想の創作とは,認められない。
(2) コンピュータがポイント管理を行う場合について本願発明におけるポイント管理の各ステップの行為主体をコンピュータとした場合も考えられるが,本願発明を,その記載から検討すると,行為主体が「コンピュータ」であることすら,審決における解釈として仮定した事項であり,いわばコンピュータの部品ともいうべき,いわゆるハードウエア資源を直接的に示す事項は,当然に何も記載されていないから,審決では,「データベース」との記載から何らかの記憶手段の存在を推定し,また,「ネットワーク」との記載からいわゆるコンピュータ・ネットワークの一部をなす通信手段の存在を推定した上で,これらをハードウエア資源とみて,これらを用いて具体的に実現されたソフトウエアの情報処理が,請求項に係る発明から把握し得るかどうかを検討している。審決で検討したとおり,旧請求項11に記載された「ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信するステップ」からも「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ」からも,ソフトウエアの情報処理として把握し得る程度の具体的な処理手順は,把握できない。
よって,これらのステップを備え,ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて,当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶するポイントアカウントデータベースを参照して,ポイントを管理する方法との記載から把握される本願発明は,ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより,ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法が,構築されているものとはいえない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(第1及び第2補正の判断の方法の誤り)について原告らは,審判請求の日から30日以内に行われた複数の補正は,これらを一体のものとして把握した上で,後の補正を審判請求前の明細書及び図面と比較して補正の適否を判断すべきであり,そのように取り扱うことが当事者の意思に合致すると主張する。
しかし,@ 特許法には,審判請求の日から30日以内という同一の補正の機会に行われた複数の補正がある場合に,それらの補正を一体のものとして扱うべきことを規定した条文は存在せず,A 特許法上,手続補正の手続は,方式不備等の理由に基づいて18条の規定により手続却下がされない限り,消滅することはないから,審判請求の日から30日以内に複数回の補正があった場合には,次の理由により,これらを一体として扱うのではなく,それぞれの補正を独立したものとして扱うべきものと解するのが相当である。
ある補正が,特許法17条の2第4項及び第5項の規定に適合するか否かについての判断をする場合には,当該補正よりも前の時点での特許請求の範囲を基準にしなければならないところ,その基準となるのは,最後に適法に補正された特許請求の範囲であり,そのような補正がない場合には願書に添付された特許請求の範囲である。そして,特許請求の範囲に関するある補正について上記判断をする場合において,それ以前にされた複数の補正についてその適否がいまだ判断されていないときには,補正のされた順番に従って,補正の適否について順次判断すべきである。
本件においては,第2補正の適否を判断する際に,直前の第1補正の適否がいまだ判断されていないから,まず第1補正の適否を判断すべきものである。
そして,第1補正が不適法なものとして却下されるときは,第1補正前の明細書及び図面を基準に,第2補正の適否を判断すべきである。したがって,審決のした判断の方法に誤りはない。
2 取消事由2(第1補正の判断の誤り)について第1補正は,第1補正前の請求項1に下記の下線部の文言を付加するものである。
記「ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶する累積ポイント記憶手段と,ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する手段と,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段と,上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記対応づけ手段により上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンの,ポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段とを有することを特徴とするポイント管理装置。」(1) 原告らは,「上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーン」は,請求項1に記載した発明を特定する事項であり,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」及び「上記対応づけ手段により」を挿入する補正は,全体的・実質的に検討した場合には,特許法17条の2第4項2号に規定される「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であると主張する。
第1補正前の請求項1において,発明を特定するために必要な事項としては,「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」,「加算する手段」等があるが,「(上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの)対応づけ」は,これらのいずれかを概念的により下位にしたものとはいえず,むしろ,「(累積ポイントの)記憶」,「受信」,「加算」と概念的に同位にある。
したがって,第1補正は,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから,特許法17条の2第4項の規定に違反するものである。
(2) 原告らは,第1補正の文章を等価な範囲で書き換えれば,「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段により,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」又は「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけにより,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」と同等のものであり,第1補正は,請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する補正であると主張する。
第1補正と同等であり,文章を等価な範囲で書き換えたと原告らが主張するものは,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「加算する手段」を,形式的に限定するものではある。しかし,第1補正後の請求項1において,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」は,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」及び「加算する手段」と同様に,ポイント管理装置を構成する一つの手段として位置付けられていることは,明らかである。したがって,第1補正は,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」を追加するものである。原告らの主張は,第1補正の内容に基づかないものであり,採用することはできない。
(3) 原告らは,特許請求の範囲の請求項に,例えば,「Aと,Bと,Cと,Dとを有することを特徴とする装置。」と記載された場合でも,単に後の構成を明確にするために箇条書きにする場合も多いから,A,B,C及びDすべてが発明を特定するために必要な事項であるわけではなく,発明を特定する事項かどうかを実質的に判断すべきであると主張する。また,これを前提に「対応づけに基づいてポイントを加算する手段」が「ポイントを加算する手段」の下位概念であることは,明らかであると主張する。
発明を特定する事項かどうかは,文脈全体を考慮して,実質的に判断すべきことは,原告らの主張するとおりである。しかし,第1補正後の請求項1においては,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」は,「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」及び「加算する手段」と同様に,ポイント管理装置を構成する独立した一手段として位置付けられている。また,「対応づけに基づいてポイントを加算する手段」が「ポイントを加算する手段」の下位概念であったとしても,第1補正のうち,「上記対応づけ手段により」を挿入して「…ポイントを加算する手段」に限定を加えたことを正当化し得るにすぎず,第1補正により「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」を追加することを正当化することにはならない。
(4) 以上のとおり,第1補正は,第1補正前の発明特定事項のいずれかを限定したものではなく,特許法17条の2第4項2号で規定された限定的減縮には,該当しない。したがって,第1補正を不適法なものとして却下した審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(第2補正の判断の誤り)について(1) 第2補正のうち,新たな請求項1に係るものについて,原告らは,請求項の発明を特定する事項を限定するものであると主張する。
前記1において判示したとおり,第2補正の適否を判断する場合において,直前の第1補正がいまだ判断されていないときはまず第1補正の適否を判断すべきであり,前記2のとおり,第1補正は不適法として却下されるべきであるから,第2補正の適否は,第1補正前の明細書及び図面を基準に判断することになる。
そこで,第1補正前の請求項1(旧請求項1)を基準にして第2補正をみると,第2補正は,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段」との文言を追加する補正を含んでいる。第1補正は,旧請求項1を基準にして「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」という文言を追加するものであったのであり,第2補正は「間の1対多の関係の」との文言が加わるほかは,第1補正と同じ補正である。「間の1対多の関係の」との文言が加わることによって「対応づけ」が限定されることは認められるものの,「対応づけ手段」を追加する点においては,第2補正も第1補正も同じである。また,第2補正の「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段」としても,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」,「加算する手段」のいずれかを,概念的により下位にしたものとはいえないとの結論を左右するものではない。したがって,前記2において第1補正について判示したのと同じ理由により,第2補正のうち,請求項1に係る部分も特許法17条の2第4項の規定に違反するものとして却下すべきである。
(2) 前記(1)のとおり,第2補正のうち新たな請求項1に係るものは不適法であり,却下すべきものである。そして,第2補正のうち新たな請求項5に係るものも,第1補正前の請求項11(旧請求項11)の内容及び当該請求項に係る補正の内容に照らせば,新たな請求項1に係る第2補正につき上記(1)において説示したのと同様の理由により,不適法として却下すべきものである。
4 取消事由4(「発明」該当性の判断の誤り)について前記2及び3のとおり,第1補正及び第2補正が不適法なものとして却下されるべきであるから,第1補正前の特許請求の範囲を基にして,本願発明(旧請求項11)が特許法29条柱書の「発明」に該当するか否かを判断する。
審決は,本願発明において,人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合とコンピュータがポイント管理を行う場合とがあるとした上で,「発明」該当性を判断しているが,原告らは,本願発明において人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合はあり得ず,コンピュータがポイント管理を行う場合しかないと主張し,このような本願発明は特許法29条柱書の「発明」に該当すると主張する。
(1) 人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合について原告らは,本願発明において人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合はあり得ないと主張する。
しかし,第1補正前の特許請求の範囲の請求項11(旧請求項11)において,「(累積ポイントの)記憶」,「受信」,「加算」等の行為の主体がコンピュータに限定されていないし,次のとおり,各行為を人間が行うことも可能である。
ア 例えば電子メールやFAXにより,人間が「ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する」ことは,可能である。
イ 適当な対応表を用いて,人間が「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて」ユーザを決定し,また,「上記記号列に基づいて」ポイントキャンペーンを決定することにより,ポイントアカウントを特定することも,可能である。
ウ データベースは,整理して体系的に蓄積されたデータの集まりであって,例えばカード・ファイルのような紙媒体も一つの態様として含むものであり,ポイントアカウントは,ポイントキャンペーンに対応付けされたカードに相当することから,人間が,累積ポイントが記載されたカード・ファイルからなるデータベースを用いて,決定したユーザの,決定した「ポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算する」ことも,可能である。
エ ポイントアカウントデータベースがコンピュータからなるシステムとしても,そのデータベース・システムをカード・ファイルの代わりに,人間が,単に累積ポイントを蓄積するための道具として用いることも,可能である。
以上の検討結果によると,本願発明の各行為を人間が実施することもできるのであるから,本願発明は,「ネットワーク」,「ポイントアカウントデータベース」という手段を使用するものではあるが,全体としてみれば,これらの手段を道具として用いているにすぎないものであり,ポイントを管理するための人為的取り決めそのものである。したがって,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想創作とは,認められない。
(2) コンピュータがポイント管理を行う場合について本願発明は「ポイント管理方法」の発明であるところ,ポイント管理における各ステップの行為主体がコンピュータであることは,旧請求項11には,明示されておらず,コンピュータの構成要素,すなわちハードウエア資源を直接的に示す事項は,何も記載されていない。上記旧請求項11には,「データベース」,「ネットワーク」との記載があるが,「データベース」は整理して体系的に蓄積されたデータの集まりを意味し,「ネットワーク」は通信網又は通信手段を意味するもので,いずれの文言もコンピュータを使ったものに限られるわけではない。したがって,上記旧請求項11の記載からは,本願発明の「ポイント管理方法」として,コンピュータを使ったものが想定されるものの,ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより,ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を把握し得るだけの記載はない。
ア 原告らは,発明がコンピュータにより実現されようと,コンピュータを用いない機械(例えば,組み合わせ論理回路を用いた順序機械)により実現されようと,基本的には,その発明の成立性には変わりがないはずであるのに,コンピュータにより実現されている,あるいは実現可能であるという理由だけで,発明の成立性が否定されるという考え方には,合理的な理由がないし,産業保護の観点からも問題であると主張する。また,コンピュータを利用しないで,通常の装置(トランジスタやICやシーケンス回路を用いてかかる装置を形成することが可能である)で実現するポイント管理方法では,発明性が成立し,コンピュータを利用して実現するポイント管理方法では,発明の成立性がないというのでは,不合理であると主張する。
特許法29条柱書の「発明」に該当するためには,自然法則を利用したものでなければならないところ,審決は,上記旧請求項11の記載からは,コンピュータを使った「ポイント管理方法」が自然法則を利用していると認められだけの記載がないと判断しているのであって,コンピュータを用いるか,コンピュータを用いない機械(例えば,組み合わせ論理回路を用いた順序機械)を用いるかによって,「発明」該当性が左右されると判断したものではない。原告らの主張は,審決を正解しないでされたものであって,失当である。
イ 原告らは,コンピュータが数学的なルールや経済学的なルールも実行可能であることから,審査基準(第U部第1章)の趣旨は,精神的作用に属する事柄(数学上の理論等)のように,本来発明といえないにもかかわらず,コンピュータを利用しているという理由だけで,自然法則を利用した技術的思想創作であるという外観を持つものを排除できればすむのであり,ソフトウェア関連発明については,そのような観点からも,発明の具体的な解決手段の内容が吟味されれば,十分であると主張する。
審査基準(第Z部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(2))には,自然法則を利用した技術的思想創作であると判断するためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されていることを必要とする旨が記載されている。この基準には,「コンピュータによって処理される文書データが,入力手段,処理手段,出力手段の順に入力されることをもって,情報処理の流れが存在するとはいえても,情報処理が具体的に実現されているとはいえない。」との記載(第Z部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(3))もあり,原告らのいう趣旨に解することはできない。
ウ 原告らは,上記旧請求項11の各ステップがポイントの管理という目的・効果を実現するものであり,ソフトウェア関連発明の具体性も十分であるから,本願発明は,審査基準に照らして,自然法則を利用した技術的思想創作であると主張する。
しかし,本願発明は,ハードウェア資源としては,「ネットワーク」と「ポイントアカウントデータベース」のみを有するものであり,本願発明のソフトウェアは,これらのハードウェア資源について,「ポイントアカウントデータベースを参照」し,「ネットワークを介して受信」し,「ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算する」ものでしかない。そうすると,旧請求項11の各ステップには,ポイントを管理するための処理と,「ネットワーク」及び「ポイントアカウントデータベース」からなるハードウェア資源とが,どのように協働しているのかが具体的に記載されていない。したがって,情報処理の流れが存在するとはいえても,ハードウェア資源を用いて,情報処理が具体的に実現されているとはいえない。したがって,本願発明は,審査基準に照らしても,自然法則を利用した技術的思想創作であるとは,認められない。
エ 原告らは,ソフトウェア関連発明における特許請求の範囲の記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できる程度に記載されていれば,十分具体的であり,それを超えて,その具体的な態様,例えば,中央処理装置,主メモリ,バス,外部記憶装置,各種インタフェース等のコンピュータの各部品をどのように用いるかまで,具体的に特定する必要はないから,旧請求項11の各ステップの記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できるように記載されていると主張する。
審査基準(第Z部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(2))には,ソフトウェア関連発明において,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されているか否かにより,「自然法則を利用した技術的思想創作」であるかを判断することが記載されているが,審査基準は,自然法則を利用した技術的思想創作であるためには,コンピュータの部品の類まで具体的に特定する必要があるとするものではないし,コンピュータの部品の類まで具体的に特定していれば,「自然法則を利用した技術的思想創作」であると判断するというものでもない。
審決は,本願発明がポイントの管理方法として,「(ア)ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信するステップ」及び「(イ)上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ」を有し,「(ア)及び(イ)のステップの処理が,ネットワークやポイントアカウントデータベースなどのハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって,どのように実現されるのか,という点に関しては,何ら具体的に記載されていない。そして,これら(ア)及び(イ)のステップを実質的な要部として含む本願発明は,その技術的課題を解決できるような特有の事項を具体的に提示するものではなく,一定の技術的課題の解決手段であるとは到底いえないから,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想創作である発明に該当するとは認められない。」と判断したものであって,コンピュータの各部品をどのように用いるかを具体的に特定していないことのみを理由にしてはいない。
原告らの主張は,審査基準の意味及び審決を正解しないものであり,失当である。
5結論以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告らの請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条第1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
裁判官 嶋末和秀