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事件 平成 18年 (行ケ) 10288号 審決取消請求事件
原告 スリーエムカンパニー
訴訟代理人弁護士 片山英二,長沢幸男,弁理士 小林純子,田村恭子
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 板橋一隆,大黒浩之,斉藤信人,徳永英男,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2006-39037号事件について平成18年6月9日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,訂正審判請求を却下する旨の審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁等における手続の経緯(甲1,2の1,2及び弁論の全趣旨により認められる。)(1) 原告は,発明の名称を「マイクロバブル」とする特許第1627765号(請求項の数9。昭和63年1月11日に出願(優先日1987年(昭和62年)1月12日米国),平成3年11月28日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 旭硝子株式会社は,平成5年3月5日,本件特許について無効審判の請求をした(同年審判第4291号事件として係属)ところ,特許庁は,平成8年5月15日,本件特許を無効とする旨の審決(以下「第1次審決」という。)をした。
(3) 原告は,平成8年10月1日,東京高等裁判所に第1次審決の取消しを求める訴えを提起する(同年(行ケ)第220号事件として係属)とともに,その係属中の同月2日,明細書を訂正することについての審判の請求をした(同年訂正審判第16778号事件として係属)ところ,特許庁は,平成9年7月30日,上記訂正を認める旨の審決をし,同審決は,そのころ確定した。東京高等裁判所は,平成11年6月29日,上記訂正を認める旨の審決が確定したことにより,第1次審決は,結果として判断の対象となるべき発明の要旨の認定を誤ったとして,これを取り消す旨の判決を言い渡し,同判決は,そのころ確定した。
(4) 原告は,平成12年10月23日,明細書を訂正することについての審判の請求をした(訂正2000-39124号事件として係属)ところ,特許庁は,平成14年3月5日,上記訂正を認める旨の審決をし,同審決は,そのころ確定した。
(5) 特許庁は,上記無効審判請求事件について更に審理し,平成14年3月26日,本件特許の請求項5,9(上記(4)の訂正後のもの)に係る発明(以下,「前回訂正発明5」,「前回訂正発明9」という。)は,本件特許出願前国内において公然に販売されていた原告製の商品名「C15/250」のガラスバブルと同一ではなく,かつ,当業者がこれから容易に発明をすることができたものでもないなどとして,無効審判請求が成り立たない旨の審決(以下「第2次審決」という。)をした。
(6) そこで,無効審判の請求人である旭硝子株式会社は,平成14年5月1日,東京高等裁判所に第2次審決の取消しを求める訴えを提起した(同年(行ケ)第213号事件として係属)ところ,同裁判所は,平成16年3月24日,前回訂正発明5,9は,本件特許出願前国内において公然に販売されていた原告製の商品名「C15/250」のガラスバブルと同一であり,第2次審決は,新規性に関する判断を誤ったなどとして,これを取り消す旨の判決(以下「第2次判決」という。)を言い渡し,同判決は,そのころ確定した。
(7) 特許庁は,上記無効審判請求事件について更に審理し,平成17年6月24日,前回訂正発明5,9は,本件特許出願前国内において公然に販売されていた原告製の商品名「C15/250」のガラスバブルと同一であるなどとして,前回訂正発明5,9に係る特許を無効とする旨の審決(以下「第3次審決」という。)をした。
(8) 原告は,平成17年11月1日,知的財産高等裁判所に第3次審決の取消しを求める訴えを提起し(同年(行ケ)第10776号事件として係属),その係属中の平成18年3月13日,特許請求の範囲を訂正することについての審判の請求をした(訂正2006-39037号事件として係属。以下「本件訂正」という。)ところ,特許庁は,同年6月9日,本件訂正審判請求を却下する旨の審決をし,同月21日,その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正審判の請求は法定期間経過後の不適法な請求であり,その補正をすることができないから,特許法135条の規定によって却下すべきである,というものである。
平成15年改正法の特許法126条2項の規定によれば,特許無効審判の審決に対する訴えの提起後に訂正審判を請求できる期間については,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内に限られている。
そして,平成15年改正法のうち,審判制度及び審決取消訴訟に関する規定は,附則第1条の規定により,平成16年1月1日から施行することとされている。
また,附則2条7項の規定により,施行前に請求された審判については,なお従前の例によるとされ,したがって,平成15年改正法の施行後に請求される訂正審判については平成15年改正法を適用することとされている。
そこで,本件の場合についてみるに,本件訂正審判の請求は平成18年3月13日にされており,平成15年改正法の施行後に請求された訂正審判であり,平成15年改正法の規定が適用されるものである。
そして,本件訂正審判に係る本件特許の無効審判(平成5年審判第4291号)は平成17年11月1日にその特許無効審判の審決に対する訴えの提起がなされており,本件訂正審判は,その特許無効審判の審決に対する訴えの提起後に請求されたものであるから,平成15年改正法の特許法126条2項の規定が適用されるものである。
なお,審判請求人は,上申書を提出して,本件訂正審判の請求前に別の2つの訂正審判が請求できたのだから,そのことからして,本件訂正審判については平成15年改正法は適用されないと主張しているが,上記の別の2つの訂正審判は,その特許無効審判の審決に対する訴えの提起前に請求されたものであるから,その特許無効審判の審決に対する訴えの提起後に請求される訂正審判についてのものである平成15年改正法の特許法126条2項の規定は適用されないのであり,係る別の2つの訂正審判が請求できたことは,本件訂正審判に平成15年改正法が適用されないことの根拠とはならない。
そうすると,本件訂正審判は,その特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内である平成18年1月30日までにされなければならないものであるところ,本件訂正審判の請求は平成18年3月13日にされているので,上記法定期間経過後の不適法な請求であり,その補正をすることができないものである。
したがって,本件審判の請求は,特許法135条の規定によって却下すべきものである。
当事者の主張の要点
1 原告の審決取消事由審決は,「本件訂正審判は,その特許無効審判の審決に対する訴えの提起後に請求されたものであるから,平成15年改正法の特許法126条2項の規定が適用されるものである。」と判断したが,誤りである。
(1) 本件の無効審判は,平成5年法律第26号による改正後の特許法(以下「平成5年改正後特許法」という。)の施行(平成6年1月1日)前である平成5年3月5日に請求されたものであり,これが特許庁に係属している場合における同法施行後に訂正をする特許についての同法126条1項の規定の適用については,同法附則2条6項により,特許権者は願書に添付した明細書又は図面の訂正をすることについて審判を請求することができるとされている。
したがって,本件訂正審判の請求は,上記経過規定によるものであって,適法なものである。
(2) 本件訂正審判の請求が,特許法(平成15年法律第47号による改正後のもの,以下「平成15年改正後特許法」という。)126条2項により不適法とされるというためには,平成5年改正後特許法附則2条6項が平成15年法律第47号により失効したものと解するほかない。しかし,そのように解すると,平成5年改正後特許法附則2条6項により特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間であっても訂正審判を請求することができた原告が,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内を除き,訂正審判を請求する機会を奪われる結果となってしまうから,不合理である。そうであれば,平成5年改正後特許法附則2条6項は,平成15年改正後特許法の下においても,有効に存続していると解するのが正当である。
このことは,平成15年改正後特許法附則2条13項が,同法の施行(平成16年1月1日)前に請求された特許無効審判に係る審決に対する訴えが同法施行の際現に裁判所に係属している場合に,同法施行後訴えについての判決が確定するまでの間に訂正をする特許についての同法126条2項の規定に適用については,「特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は」とあるのを「特許無効審判が特許庁に係属している場合は」と読み替えて,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間を経過した後も訂正審判を請求することを認めていることに照らしても,明らかである。
(3) なお,審決は,本件訂正審判の請求前に請求した別の2つの訂正審判について,「その特許無効審判の審決に対する訴えの提起前に請求されたものであるから,その特許無効審判の審決に対する訴えの提起後に請求される訂正審判についてのものである平成15年改正法の特許法126条2項の規定は適用されない」と説示するが,別の2つの訂正審判も,平成15年改正後特許法の施行後に請求したものであるから,附則2条7項の規定により同条を適用することになるはずである。
そして,平成15年改正後特許法126条2項の規定が特許無効審判の審決に対する訴えの提起前に請求された訂正審判に適用されないとする根拠はない。
2 被告の反論(1) 本件訂正審判の請求は,平成15年改正後特許法の施行(平成16年1月1日)後に請求されたものであるから,同法附則2条7項により,同法126条の規定が適用されるところ,これによれば,特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間であっても,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内は,訂正審判を請求することができるとされている。
原告は,平成17年11月1日に第3次審決の取消しを求める訴えを提起しているから,同日から起算して90日の期間内である平成18年1月30日までに訂正審判を請求しなければならないところ,原告が本件訂正審判の請求をしたのは同年3月13日である。そうであるから,本件訂正審判は,上記法定期間を経過した後に請求されたものであって,不適法である。
なお,第3次審決の取消しを求める訴えは,平成15年改正後特許法の施行の際現に裁判所に係属していたものではないから,同法附則2条13項の適用はない。
(2) 本件の無効審判は,第2次審決に対する訴えが平成15年改正後特許法施行の際現に裁判所に係属していたから,同法附則2条13項により,裁判所に係属している間は訂正審判を請求することができるが,第2次判決が確定し,特許庁に係属すると,訂正審判を請求することはできない。
ところで,平成5年改正後特許法の施行後に請求された無効審判については,特許庁に係属している間は訂正審判を請求することができなくても,訂正を請求することができるが,同法の施行前に請求された本件の無効審判については,訂正請求の規定が適用されないから,訂正の機会が全くない。平成15年改正後特許法がこのような不均衡を容認していたとは考えられないから,本件の無効審判が特許庁に係属している間は,平成5年改正後特許法附則2条6項によるのが妥当であると考えて,本件訂正審判の請求前に請求された別の2つの訂正審判について審理をしたのである(なお,これらの訂正審判の請求は取り下げられた。)。
当裁判所の判断
1 平成15年改正後特許法附則1条本文は,「この法律は,平成16年1月1日から施行する。」と規定し,また,2条7項は,「この法律の施行前に請求された特許異議の申立て若しくは審判又は再審については,その特許異議の申立て若しくは審判又は再審について決定又は審決が確定するまでは,なお従前の例による。」と,同条13項は,「この法律の施行前に請求された特許異議の申立て又は特許法第123条第1項の審判に係る取消決定又は審決に対する訴えが,この法律の施行の際現に裁判所に係属している場合において,この法律の施行後当該訴えについての判決が確定するまでの間において訂正をする特許に係る新特許法第126条第2項の規定の適用については,前項の規定にかかわらず,新特許法第126条第2項中「特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は」とあるのは「特許異議の申立て又は特許無効審判が特許庁に係属している場合は」とし,同項ただし書の規定は,適用しない。」と規定している。
2 上記第2の1のとおり,本件の無効審判は,平成15年改正後特許法の施行(平成16年1月1日)前である平成5年3月5日に請求され,その第2次審決の取消しを求める訴え(東京高等裁判所平成14年(行ケ)第213号事件)が同法の施行の際現に裁判所に係属していたから,上記1の経過規定によれば,同法の施行後における訂正審判は,上記訴えについての第2次判決が確定するまでの間は,いつでも請求することができるものの,その後,本件の無効審判の審決が確定するまでの間は,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内に限って請求することができるにとどまることになる。
本件の無効審判の第3次審決に対する訴えの提起があった日は,平成17年11月1日であるから,同日から起算して90日の期間内であれば,訂正審判を請求することができたところ,本件訂正審判は,上記90日の期間を経過した後の平成18年3月13日にされている。そうであれば,本件訂正審判は,法定期間経過後にされた不適法な請求であり,かつ,その不備を補正をすることはできない。
したがって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
3 原告は,上記のように解すると,平成5年改正後特許法附則2条6項により特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間であっても訂正審判を請求することができた原告が,特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内を除き,訂正審判を請求する機会を奪われる結果となってしまうから,不合理であり,そうであれば,平成5年改正後特許法附則2条6項は,平成15年改正後特許法の下においても,有効に存続していると解するのが正当であると主張する。
しかしながら,法律に改正があり,改正法が施行されたときは,別段の定めのない限り,すべて改正法によって規律されるのが原則であるところ,平成15年改正後特許法において,平成5年改正後特許法の施行前特許無効審判が特許庁又は裁判所に係属している場合における平成15年改正後特許法の施行後に訂正をする特許についての同法126条2項の規定に適用について,別段の定めはされていない。
原告が主張するように,平成5年改正後特許法附則2条6項が平成15年改正後特許法の下においても有効に存続しており,原告は時期を問わず訂正審判を請求することができるというのであれば,平成15年改正後特許法の附則にその旨の定めが設けられるべきであって,その旨の定めがないにもかかわらず,平成5年改正後特許法における経過規定が,平成15年改正後特許法の下においても,そのまま存続していると解すべき根拠はない。
なお,弁論の全趣旨によれば,原告は,第2次審決の取消しを求める訴えについての第2次判決が確定した後であって,かつ,第3次審決の取消しを求める訴えの提起をする前である平成16年7月15日及び平成17年7月20日に訂正審判を請求しているところ,特許庁は,これらを不適法として却下することなく審理している(なお,これらは,審決に至らずに,取下げにより終了している。)ことが認められるが,このことは,本件訂正審判請求が法定期間経過後にされた不適法なものであるとの上記判断を左右するものではない。
原告の上記主張は,採用することができない。
結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由は理由がないから,これを棄却すべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文