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関連審決 異議2002-70996
関連ワード 製造方法 /  公然知られ(29条1項1号) /  守秘義務 /  共同研究 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  共有 /  特許出願日 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  業として /  正当な理由 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10486号 特許取消決定取消請求事件
原告 三洋電機株式会社
訴訟代理人弁理士 中島淳,加藤和詳,西元勝一,福田浩志,花岡明子
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 原田隆興,脇村善一,西川和子,唐木以知良,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2002-70996号事件について平成17年4月1日にした決定を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯( ) 本件特許(甲11) 1特許権者:三洋電機株式会社(原告)発明の名称: 冷凍装置」「特許出願日:平成5年2月12日(特願平5-24170号)設定登録日:平成13年8月10日特許番号:特許第3219520号( ) 本件手続2特許異議事件番号:異議2002-70996号訂正請求日:平成14年10月28日(甲12)異議の決定日:平成17年4月1日決定の結論: 訂正を認める。特許第3219520号の請求項1に係る特許を 「取り消す 」。
決定謄本送達日:平成17年4月20日(原告に対し)2 本件発明の要旨決定が対象とした発明(下線部分が上記訂正に係る部分である。平成14年10月28日付け訂正請求後の請求項1に記載された発明であり,以下「本件発明」という。なお,請求項の数は1個である )の要旨は,以下のとおりである。 。
「圧縮機,凝縮器,減圧装置および蒸発器を少なくとも有する冷凍サイクルを備えた冷凍装置において,前記冷凍サイクルに用いる冷媒が塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒で,純度が99.95 %以上で,塩素系冷媒の混入が80 以下で wt ppmある冷媒であり,前記圧縮機に用いる冷凍機油がポリオールと,直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので,流動点が-40℃以下,二液分離温度が-20℃以下,全酸価が0.02 以下で,粘度が40℃で8〜10 mgKOH/g0 ,粘度指数が80以上のポリオールエステル油を基油とした冷凍機油である cstことを特徴とする冷凍装置 」。
3 決定の理由の要点決定の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件発明は,下記引用例イ〜ヌにそれぞれ記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例イ :特開平4-183788号公報(甲1)引用例ロ : 冷蔵庫フロン対応研究技術発表会」資料(主催 社団法人日本電 「機工業会 平成4年7月30日開催)25頁〜46頁 「代替フロン採用コンプレ ,ッサーの開発状況と解決すべき課題 (甲2)」引用例ハ : 電気絶縁材料技術 (1993年1月20日 株式会社トリケップ 「」ス発行)137頁〜153頁 「4 新フロン絶縁システム冷凍機用回転機の絶縁 ,システム (甲3)」引用例ニ : トライボレビュー,No.19,2 IDEMITSU TRIBO REVIEW(),「」 () 2〜27頁 1992 代替冷媒R134a用カーエアコン油について 甲4引用例ホ :特開平3-72437号公報(甲5)引用例ヘ :特開平4-321632号公報(甲6)引用例ト :特開平5-5098号公報(甲7)引用例チ :特開平5-32987号公報(甲8)引用例リ :トライボロジスト,第35巻,第9号,621〜626頁(1990 「冷凍機油の最近の動向 (甲9) ),」引用例ヌ : 第四回冷凍・空調および冷凍機油に関するシンポジウム 資料 主 「」(催 共同石油株式会社,日本鉱業株式会社平成元年11月14日開催 ,6-1)〜6-8頁 「冷凍機油のフロン規制対応 (甲10) ,」上記各引用例の記載内容は以下のとおりである。
(a) 引用例イ(特開平4-183788号公報)引用例イには 「少なくとも,圧縮機,凝縮器,乾燥器,膨張機構および蒸発器から構成さ ,れる冷凍サイクルにおいて,臨界温度40℃以上で,しかも塩素を含まない弗化炭化水素系を主成分とする冷媒と,粘度が40℃のとき,2〜70 ,100℃のとき1〜9 であり, cSt cSt分子中にエステル結合(-O-C(=O)-)を少なくとも2ヶ保有する脂肪酸のエステル油を基油とした冷凍機油とを有して成る冷凍装置 (特許請求の範囲請求項1)が記載され,ま 。」た 「代表的なエステル油として,ネオペンチルグリコール系エステル,トリメチロールプロ ,パン(又はエタン)系エステル,ペンタエリスリトール系エステルで代表されるヒンダードエステル油 (第15頁左下欄4〜8行)が記載されている。 」(b) 引用例ロ( 冷蔵庫フロン対応研究技術発表会」資料) 「引用例ロには 「冷蔵庫の冷凍システムと要求特性 (第29頁)に関して 「コンプレッサ ,」,ー,凝縮器,ドライヤー,キャピラリチューブ及び蒸発器」を有する冷凍サイクルを備えた冷凍冷蔵庫が図示されている。
また 「HFC134a:アプリケーション上での制限項目 (第40頁)に関して, ,」「1.有害不純物管理( ) 塩素を含有する冷媒を使用した冷媒回路を使用しない。 1・・・( ) 冷媒回路及び回路内部品に塩素を含有する洗浄剤を使用しない。 2( ) 冷媒HFC134aの純度は99.95%以上のものを使用する 」と記載されてい 3 。
る。
そして 「まとめ (第45頁)において,代替冷媒と冷凍機油の組み合わせとして,HFC ,」134aとエステル系潤滑油の組み合わせが示されている。
(c) 引用例ハ( 電気絶縁材料技術 ) 「」引用例ハには 「4.2 新冷媒と新冷凍機油との適合性評価 (第138頁)の項において ,」HFC-134aに使用される冷凍機油について記載されており 「4.2.6 新冷媒・新 ,潤滑油系冷凍サイクルでの確認結果 (第144頁)では 「 1)ネオペンチルポリオールと 」,(,, 潤滑性 原料アルコールとしては ネオペンチルポリオールの中でペンタエリスリトールが耐摩耗性,体積固有抵抗値が優れている。またエステルを構成する原料脂肪酸の炭素数と有機。」(), 材料・・・の安定性との関係が深いことが判明した 第144頁17〜22行 と記載され「表9 原料脂肪酸の炭素数とマグネットワイヤへの影響 (第144頁)に,ペンタエリス 」リトールエステル油の化学構造式が記載されている。また,次に 「 2)冷媒HFC-134 ,(aの純度とエステル油の熱安定性 HFC-134aの純度によりエステル油の熱安定性が大きな影響を受ける。CFCsの混入 と水分量を管理することが大切である ・・・表1 ppm 。
3,表14に示すのは,新冷媒・新潤滑油雰囲気下での冷媒の安定性評価である。また安定性を確保するための冷媒純度の提案を表15に示す。塩素系不純物が残留していると脱塩素反応が発生し,この酸によりエステル油が分解し,脂肪酸金属塩が形成し易くなる (第147頁。」6〜14行)と記載されており 「表15 HFC-134aの純度提案 (第150頁)に, ,」.,() 。, , 純分99 9%以上 不純成分 Cl 2×10 %以下と示されている また 表15には-2炭素数2の塩素を含有する弗化炭化水素系冷媒が5種挙げられている。
(d) 引用例ニ(トライボレビュー,No.19,第22〜27頁)引用例ニは「代替冷媒R134a用カーエアコン油について」と題する論文であり,以下の事項が記載されている。
「オゾン層破壊に伴うフロン規制の問題から,R134a用カーカーエアコン油の開発が急がれている。候補油としては,ポリグリコール(PAG)系,ポリエステル(PE)系,ポリカーボネート(PC)系合成油がある (第22頁左欄2〜5行 「また,R12用カーエア 。」) ,コンでは,R12の分解が原因で,銅配管の銅の溶出によりコンプレッサー内でCuメッキがおこる問題があった。R134aでは塩素の発生がないため起こらないが,市場でR12とR134aが混合される可能性があり,Cuメッキ防止性が油に要求される (第24頁右欄9 。」),「,, 〜13行 R12が混入するとPEおよびPCの加水分解はさらに著しくなり 金属の腐食全酸価の上昇,スラッジの生成が起こる (第26頁左欄21〜23行) 。」(e) 引用例ホ(特開平3-72437号公報)引用例ホには,1,1,1,2-テトラフルオロエタンの精製法が記載されている(特許請求の範囲請求項1,2参照 。)1,1,1,2-テトラフルオロエタンの製造の際の副生物について 「これらの不純物の ,うち,ハイドロフルオロカーボン類は,小量であれば含有されていても差支えないが,特にフルオロアルケン類およびクロロフルオロカーボン類は,含有量が微量であっても,更に減少さ」()。, せることが望まれており 第2頁左上欄8〜12行 と記載されている 実施例1において精製により,クロロフルオロカーボン類含有量0.0075 %で純度99.970 %の wt wt,,, ( )。 1 1 1 2-テトラフルオロエタンが得られることが示されている 第3頁第2表参照(f) 引用例ヘ(特開平4-321632号公報)引用例ヘには,1,1,1,2-テトラフルオロエタンの精製法が記載されており(特許請求の範囲請求項1参照 ,実施例1において,精製により,クロロフルオロカーボン類含有量 )0.0039 %で純度99.9860 %の1,1,1,2-テトラフルオロエタンが mol mol得られることが示されている(段落【 】参照 。0022)(g) 引用例ト(特開平5-5098号公報)引用例トには 「ネオペンチルポリオールと炭素数7〜9の飽和分岐鎖脂肪族モノカルボン ,酸とから得られるエステル,及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含有する冷凍機作動流体用組成物 (特許請求の範囲請求項1)が記載されている。このエステルは冷凍機油と 。」して機能するものであり(段落【 】参照 ,また,このエステルについて 「前記のアルコ 0003),ールと酸より得られるエステルの粘度範囲は,40℃での動粘度が通常5 〜115 であ cst cstり,好ましくは5 〜56 のものが用いられる (段落【 「本発明に用いられる cst cst 0020。」】),エステルは ・・・ネオペンチルポリオール1種以上と ・・・飽和分岐鎖脂肪族モノカルボン ,,酸・・・とより,通常のエステル化反応やエステル交換反応によって得ることができる。この際,得られるエステルの酸価は低いほど好ましく通常0.1 以下,特に0.05 mgKOH/g以下が好ましい (段落【 )と記載されている。 mgKOH/g 0028。」】さらに,実施例1には,ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸を,触媒を添加することなく,窒素気流下240℃で10時間エステル化反応を行いエステルAを得たこと,他(【 】), のアルコール及びカルボン酸を用い他のエステルB〜Kを得たことが記載され 段落0040表2(第9頁)には,これらエステルの粘度指数が43〜107の範囲にあり,流動点がいずれも-55℃より低いこと,表4(第11頁)には,これらエステルの低温分離温度が-45℃より低いことが示されている。
(h) 引用例チ(特開平5-32987号公報)引用例チには,モーター内蔵型冷凍機における冷媒と潤滑剤の混合物において,冷媒として1,1,1,2-テトラフルオロエタンを,また,潤滑剤としてペンタエリスリトールと炭素数7〜14の直鎖又は分岐1価高級脂肪酸とのエステルを主成分とするエステル油を使用することが記載されている(特許請求の範囲請求項1,3参照 。そして,エステルの酸価につい )て 「本発明で使用するエステル中に残存する酸価,水酸基価,二重結合は安定性に関係があ ,,,..() るので いずれも低い値であることが好ましく ・・・全酸価が0 03〜0 05KOHmg/g以上であると,冷凍機内部に使用されている金属との反応により金属石けんなどを生成し,沈殿するなどの好ましくない現象が起こるので,全酸価は0.01( )以下であること KOHmg/gが好ましい (段落【 )と記載されている。 。」】0019(i) 引用例リ(トライボロジスト,第35巻,第621〜626頁)引用例リは「冷凍機油の最近の動向」と題する論文であり,代替冷媒用冷凍機油について,「冷媒との相溶性は冷凍機油の基本特性であり,R-134aと相溶する油は,検討の初期の段階では合成油であるポリエーテル ポリアルキレングリコール PAG だけであった 第 (,). 」(625頁右欄17〜20行 「PAGの欠点を克服するため,変性PAG,エステル系の冷凍 ),機油が開発され,検討が進められている (第625頁右欄33〜35行)と記載され,後者 .」の文章は文献16参照とされている。末尾の文献欄には文献16として 「開米 貴:第4回 ,冷凍・空調および冷凍機油に関するシンポジウム前刷(1989 (第626頁右欄下から6 )」〜5行)が挙げられている。
(j) 引用例ヌ( 第四回冷凍・空調および冷凍機油に関するシンポジウム」資料) 「引用例ヌには 「冷凍機油のフロン規制対応」に関して記載されており 「3.R-134a ,,用冷凍機油」の下の「3-3 電気冷蔵庫用冷凍機油 (第6-4頁)に 「表-6に各種冷凍 」,機油の電気絶縁性と吸湿性を示した ・・・又,表-7にPAGとnon-PAGの比較で冷 。
凍機油としての特性を示した (第6-4頁3〜5頁)と記載されている。表6には試作油と 。」して 「PAG(I 「PAG( 「変性PAG 「non-PAG」とあり,そして,表 ,)」,)」,」, II-7には,試作油「non-PAG」の特性として,40℃における粘度が31.6 ,粘cSt度指数が100,流動点が-45.0℃,全酸価が0.01 ,低温側二層分離温度 mgKOH/gが-40℃と示されている。
当審の判断( ) 引用例ロ及び引用例ヌについて 1引用例ロ及び引用例ヌについて,特許権者は,これらが公知でない,または頒布された刊行物でない旨を主張しているので,まずこの点について検討する。
(引用例ロについて),(, 「」。), 特許権者は 1回目の取消理由通知に対する意見書 以下 意見書1 という において「」,, 引用例ロ・・・の 冷蔵庫フロン対応研究技術発表会 資料は 頒布された刊行物に該当せずまた,業界9社の出席のもとで行なわれた「技術発表会」において用いられた文書であり,該技術発表会は,不特定の人が聴取しうる状態において開催されたものとはいえない旨を主張している。そこで,2回目の取消理由通知において,引用例ロについて 「発表会開催当日に発 ,表された内容を記載した資料であるとするのが妥当であるので,引用例ロに記載の発明は,本件の出願前に公然知られたものといえる。もし,これを否定する特段の事情,例えば,記載内容が当日の発表内容と相違する,発表会参加者が守秘義務を負っている等の事情があるのならば,それは,主催者の日本電機工業会のメンバーであり,発表主体のコンプレッサー分科会のメンバーでもある特許権者が立証可能な事項と考える 」と記載したところ,特許権者は,2 。
回目の取消理由通知に対する意見書(以下 「意見書2」という )において 「たとえ,特許 ,。,権者が当時前記のごとき状況にあったとしましても,引用例ロに記載の発明が『本願出願前に公然と知られていた』ことは,まず,特許を取消すべきであると主張する者(異議申立人)が立証すべき事項であります。この点について異議申立人は何らの立証もしておらず,この立証を最初に特許権者に求める正当な理由はないものと思料いたします (第1頁下から14〜1 。」0行)と主張するのみで,実質的な回答はなされていない。取消理由において合議体が 「引,用例ロに記載の発明は,本件の出願前に公然知られたもの」との一応の心証を有している旨を述べているのに対し,問題点をそらすような形の主張しかしていないということは,合議体の心証をくつがえす回答をすることができないもの,と解さざるを得ない。
なお,該発表会資料によれば,主催は 「 社)日本電気工業会 冷蔵庫フロン対応研究委員 ,(会 (表紙)とあるが,それに続くプログラムの頁をみると 「2.取組状況と解決すべき課題 」,」,「」 ,「」 ,「」 の発表 として 冷蔵庫・冷凍サイクル分科会 コンプレッサー分科会 断熱材分科会それぞれからの発表があり,さらには,冷蔵庫技術専門委員会による「3.海外情報と回収リサイクル対策」についての発表があるなど,単なる一委員会(9社)の出席のもとで行われた技術発表会にすぎないというよりも,広く日本電気工業会会員に対して研究成果を発表するこ。, , とを目的とした発表会であると考えるのが至当である そして そのような発表会においてはその発表内容を秘密とすることがないのが通常である。
(引用例ヌについて)また,引用例ヌについて,2回目の取消理由通知において 「引用例リに文献16として引 ,() , 。 」 用されている 第626頁 ことからすれば 頒布された刊行物であるとするのが妥当であると記載したのに対し,特許権者は 「引用例リには引用例ヌが引用されておりますが,このこ ,とのみをもって,引用例ヌが特許法第29条第1項第3号にいう頒布された刊行物であることの証左となるものではありません (意見書2第1頁下から6〜4行)と主張している。 。」しかし,引用例リの末尾の文献欄には文献16として 「開米 貴:第4回冷凍・空調およ ,び冷凍機油に関するシンポジウム前刷(1989 」とあり,前刷とは,一般に講演会・発表 )会等において,参加者又は希望者にあらかじめ配布される講演等の内容を記載した印刷物であるから,この文献16,すなわち引用例ヌは刊行物に相当するものである。
( ) 一致点・相違点 2引用例イには 「少なくとも,圧縮機,凝縮器,乾燥器,膨張機構および蒸発器から構成さ ,れる冷凍サイクルにおいて,塩素を含まない弗化炭化水素系を主成分とする冷媒と,粘度が40℃のとき,2〜70 であり,分子中にエステル結合(-O-C(=O)-)を少なくと cStも2ヶ保有する脂肪酸のエステル油を基油とした冷凍基油とを有して成る冷凍装置 (特許請。」求の範囲請求項1)が記載され,また 「代表的なエステル油として,ネオペンチルグリコー ,ル系エステル,トリメチロールプロパン(又はエタン)系エステル,ペンタエリスリトール系」()。 エステルで代表されるヒンダードエステル油 第15頁左下欄4〜8行 が記載されているそこで,本件発明と引用例イ記載の発明を比較すると,両者は 「圧縮機,凝縮器,減圧装 ,置および蒸発器を少なくとも有する冷凍サイクルを備えた冷凍装置において,前記冷凍サイク,, ルに用いる冷媒が塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒であり 前記圧縮機に用いる冷凍機油が粘度が40℃で8〜70 のポリオールエステル油を基油とした冷凍機油である冷凍装置 」 cst 。
である点で一致し,本件発明において,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒について,(a-1)純度が99.95 %以上で,wt(a-2)塩素系冷媒の混入が80 以下ppmであると限定され,また,ポリオールエステル油について,(b-1)ポリオールと,直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもの,(b-2)流動点が-40℃以下,(b-3)二液分離温度が-20℃以下,(b-4)全酸価が0.02 以下,mgKOH/g(b-5)粘度指数が80以上とさらに限定されているのに対し 引用例イ記載の発明ではこれら a-1 a-2 b ,() ,(),(-1)〜(b-5)の限定について特に示されていない点で相違する。
( ) 相違点の検討3(塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒について)引用例ロには 「HFC134a:アプリケーション上での制限項目 (第40頁)の中で, ,」「冷媒HFC134aの純度は99.95%以上のものを使用する 」と記載されている。ま 。
た,引用例ハには,冷媒HFC-134aの純度とエステル油の熱安定性について 「HFC,-134aの純度によりエステル油の熱安定性が大きな影響を受ける。CFCsの混入 とppm水分量を管理することが大切である ・・・また安定性を確保するための冷媒純度の提案を表 。
15に示す。塩素系不純物が残留していると脱塩素反応が発生し,この酸によりエステル油が分解し,脂肪酸金属塩が形成しやすくなる (第147頁下から13〜6行)と記載され,表 。」15(第150頁)には,HFC-134aの純度提案として,純分99.9%以上,不純成分(Cl)2×10 %以下と記載されている。なお 「不純成分(Cl 」は,表15が2つ-2,)の表からなっており,2番目の表には炭素数2の塩素を含有する弗化炭化水素系冷媒が5種挙げられていることから,これら塩素系冷媒を指すものと考えられ,また,このことは上記記載において 「CFCs (クロロフルオロカーボン類)を「塩素系不純物」と呼んでいることか ,」らも裏付けられる。さらに,引用例ニには,R134a用の冷凍機油について 「候補油とし,ては,ポリグリコール(PAG)系,ポリエステル(PE)系,ポリカーボネート(PC)系合成油がある (第22頁左欄3〜5行)と記載され,その安定性のうち耐加水分解性につい 。」て「R12が混入するとPEおよびPCの加水分解はさらに著しくなり,金属の腐食,全酸価の上昇,スラッジの生成が起こる (第26頁左欄21〜23行)と記載されている。 。」,, ,「, 上記引用例ロ ハ ニの記載からすると 弗化炭化水素系冷媒であるR134aにおいて純度は高いこと,具体的には99.9もしくは99.95%以上が望ましいこと,塩素系冷媒の混入は極力少ないこと,具体的には2×10 %(200 )以下が望ましいこと,そし-2ppmて,高い純度,少ない塩素系冷媒混入により,エステル油の分解,ひいては金属石鹸,スラッジの生成を防止し得ること」が本件の出願時に当業者に知られていたといえる。
そうしてみると,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒において,その純度を99.95%以上に設定することは当業者が容易に想到し得ることにすぎない。
また,引用例ハ,ニに,塩素系冷媒の混入は極力少ないことが望ましいこと,具体的には200 以下ということが教示されていることからすると,それより低い数値を設定すること ppmも当業者が容易に想到し得ることにすぎないといえる。
この数値の点につき本件発明においては,塩素系冷媒の混入は80 以下とされている。 ppmこの根拠として,特許権者は,意見書1において 「本件特許発明においては,冷媒中の塩素 ,系冷媒を一定限度(80 )以下にしたことにより,冷凍サイクル中におけるコンタミ量を ppm有効に低減させることができたものであります (第10頁5〜7行)と主張し,弗化炭化水 。」素系冷媒中の塩素系冷媒の混入量を50 以下から400 まで変化させた試験結果 第 ppm ppm (10頁[表A )を示している。この結果によれば,80 を越えると全酸価の数値が増加 ] ppmしていることがみてとれる。しかしながら 「全酸価は・・・コンタミ量を間接的に示す指標 ,となるもの (第10頁12〜13行)にすぎないので,この試験結果をもって,冷凍サイク 」ル中におけるコンタミ量を有効に低減させることができることについて,80 が意味のあppmる数値であるとすることはできない。また,特許権者は,意見書2において「80 」といppmう数値限定につき 「いたずらに高純度を追求することなく,機器の信頼性,能力,コストな ,どの水準を満たすことができるという技術的意義を有するものであります (第2頁32〜3 。」4行)と述べているが,その具体的な内容は一切示していない。さらには,本件特許明細書からも,80 が,コンタミ量の低減その他従来技術との比較において,格別な意味を有する ppm数値であるとは認められない。
そうしてみると,従来から塩素系冷媒の混入はより少ないことが望ましいとされていたことからすれば,具体的に刊行物に示される200 以下の数値である80 を設定したと ppm ppmしても,その数値設定により格別の予期し得ない効果を奏するものではなければ,当業者が適宜数値を設定したにすぎないといわざるを得ない。
なお,引用例ホ,ヘには,1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)の精製法wt ppm が記載されており,引用例ホの実施例1では,純度99.970 %で塩素系冷媒75のR134a(第3頁第2表参照 ,引用例ヘの実施例1では,純度99.9860 %,塩 ) wt素系冷媒39 のR134a(第4頁段落【 】参照)が得られていることからすれば, ppm 0022本件の出願時において,純度が99.95 %以上で,塩素系冷媒の混入量が80 以下 wt ppmであるR134aの製造が技術的に困難であったとも認められない。
以上のとおり,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒についての (a-1 (a-2)の限 ,),定を採用することに格別の困難性を認めることができない。
そして,本件発明は (a-1 (a-2)の限定をされた塩素を含まない弗化炭化水素系 ,),冷媒を採用することにより,格別の予期し得ない効果を奏するものでもない。
(ポリオールエステル油を基油とした冷凍機油について)引用例トには 「ネオペンチルポリオールと炭素数7〜9の飽和分岐鎖脂肪酸モノカルボン ,酸とから得られるエステル,及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含有する冷凍機作動流体用組成物 (特許請求の範囲請求項1)が記載されており,このエステルは冷凍機油と 。」して機能するものである(段落【 】参照 。そして,このエステルの粘度範囲は 「40℃ 0003),での動粘度が通常5 〜115 であり,好ましくは5 〜56 (段落【 )であ cst cst cst cst 0020」】mgKOH/g mgKOH/g り エステルの酸価は 低いほど好ましく通常0 1 以下 特に0 05 ,,「.,.以下が好ましい (段落【 )とされる。さらに,引用例トの実施例1には,ネオペンチ 。」】0028ルグリコールと2-エチルヘキサン酸を,触媒を添加することなくエステル化反応を行いエステルを得たこと 他のアルコール及びカルボン酸を用い他のエステルを得たことが記載され 段 , (落【 ,また,表2(第9頁 ,表4(第11頁)には,これらエステルの粘度指数が4 0040】))3〜107の範囲にあり,流動点がいずれも-55℃以下であること,低温分離温度が-45℃より低いことが示されている。
また,引用例チには,1,1,1,2-テトラフルオロエタンと混合して使用する潤滑剤としてペンタエリスリトールと炭素数7〜14の直鎖又は分岐1価高級脂肪酸とのエステルを主成分とするエステル油を使用すること(特許請求の範囲請求項1,3参照 ,そして,エステ),「.() 。 」(【 】) ルの酸価について 全酸価は0 01 以下であることが好ましい 段落 KOHmg/g 0019と記載されている。
上記引用例ト,チの記載からすると 「塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と使用するポリ ,オールエステル油として,ポリオールと,直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので,流動点が-55℃以下,二液分離温度が-45℃より低い,全酸価が0.01 以下,mgKOH/g粘度指数が43〜107のものを採用すること」は,本件の出願前に知られていたといえる。
また,上記引用例ト,チとは別に,引用例リには,代替冷媒用冷凍機油について,初期の段階で検討されていたポリエーテル(PAG)の欠点を克服するため,変性PAG,エステル系,(, の冷凍機油が開発され 検討が進められていることが記載され 第625頁右欄17〜20行33〜35行参照 ,また,引用例リに文献16として挙げられている引用例ヌには,R-1 )34a用冷凍機油の試作油である「PAG(I 「PAG( 「変性PAG 「non- )」,)」,」, IIPAG」について記載されている。
ここで,引用例リと引用例ヌの記載の関係について検討するに,引用例リに「PAGの欠点を克服するため 変性PAG エステル系の冷凍機油が開発され 検討が進められている 第 ,, , . 」(625頁右欄33〜35行)と記載され,この文章について文献16参照とされていること,また,表5(第626頁)に,試作油「PAG(I 「PAG( 「変性PAG 「エス )」,)」,」, IIテル」の特性が記載されているのに対し,引用例ヌの表-4(第6-3頁)には,試作油「PAG(I 「PAG( 「変性PAG 「non-PAG」の特性が記載されており,両 )」,)」,」, II表の物性値が一致していることからすれば,引用例ヌに記載される「non-PAG」は,エステル系の冷凍機油である。
そうしてみると,引用例ヌの表7(第6-4頁)におけるnon-PAGの特性はエステル系の冷凍機油についてのものであるから,引用例リ,ヌの記載からすると 「エステル系の冷,凍機油として,40℃における粘度が31.6 ,cSt粘度指数が100,流動点が-45.0℃,全酸価が0.01 ,mgKOH/g低温側二層分離温度が-40℃のものを採用すること」は,本件の出願前に知られていたといえる。
したがって,引用例ト,チ及び引用例リ,ヌの記載からすると,ポリオールエステル油についての前記(b-1)〜(b-5)の限定は,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒とともに使用されるポリオールエステル油において,通常採用される製法,特性を特定するものにすぎないといえるもので,このように限定されたポリオールエステル油を採用することに格別の困難性は認められない。
そして,このように限定されたポリオールエステル油を使用することにより,本件発明が格別の効果を奏するものでもない。
(特定冷媒と特定冷凍機油の組合せについて)上記のように,本件発明において使用される塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒,ポリオールエステル油を基油とした冷凍機油は,いずれも当業者が採用することに格別の困難性が認められるものではない。そして,その併用に格別の創意を要するものではなく,さらに,その組合せにより本件発明が予期し得ない効果を奏するものでもない。
() まとめ4以上述べたとおり,本件発明は,その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明,及び,その出願前日本国内において公然知られた発明である,前記引用例イ〜ヌに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
当事者の主張の要点
1 原告主張の決定取消事由決定は,引用例ロに記載された発明が本件出願前に公然と知られていたと誤って認定し,また,本件発明と引用例イ記載の発明との相違点についての判断を誤った結果,本件発明が,本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明又は本件出願前に公然と知られていた発明である引用例イ〜ヌに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると誤って判断したものであるから,取り消されなければならない。
( ) 取消事由1(引用例ロ記載の発明が本件出願前に公然と知られていたとし 1た認定の誤り),, 「 」 決定は 引用例ロに関し それが用いられた 冷蔵庫フロン対応研究技術発表会が 「単なる一委員会(9社)の出席のもとで行われた技術発表会にすぎないとい ,うよりも,広く日本電気工業会会員に対して研究成果を発表することを目的とした発表会であると考えるのが至当である。そして,そのような発表会においては,その発表内容を秘密とすることがないのが通常である」として,同引用例に記載された発明が本件出願前に公然知られたものと認定したが,誤りである。
上記発表会は,冷蔵庫に関するものであるから,冷蔵庫を扱うごく限られた業種の会社の会員に向けて開催されたものである 引用例ロの上記発表会プログラム 2 。(枚目)には「参加各社9社」と記載されているが,決定が引用する「代替フロン採用コンプレッサーの開発状況と解決すべき課題」の研究発表がなされたコンプレッサー分科会の組織表(6枚目)には,同分科会のメンバーが5社であることが示されている。したがって,上記発表会には,各分科会併せて9社の者が出席し,コンプレッサー分科会には5社の者が出席したにすぎないと考えるのが相当である。
そして,このような分科会で発表された内容は分科会レベルに止めるという暗黙の了解があり,開示された技術データを出席者以外に開示することは一般に許されていない。
したがって,引用例ロに記載された発明が本件出願前に公然と知られていたとする決定の認定は誤りである。
,「 」, 被告は 引用例ロが用いられた 冷蔵庫フロン対応研究技術発表会 においては,, 各分科会の主査が プログラムに従い続けて発表を行ったと見られると主張するが仮にそうであったとしても,冷蔵庫フロン対応研究委員会に関わる9社の者が上記発表会に出席したことが推定されるだけであって,上記発表会が同委員会のメンバー以外の者をも対象とした発表会であるとすることはできない 「主催者」という。
語句は 「中心となってある行事や会を催す者」を意味するにすぎないから,引用 ,例ロに「主催: 社)日本電機工業会冷蔵庫フロン対応研究委員会」との記載が (あるからといって,上記発表会に同委員会のメンバー以外の者が出席したことにはならない。また,被告は,日本電機工業会の事業内容や活動内容が公共の利益を目指すものであることから見て,上記発表会における各分科会の発表内容は,一委員会の内部に留めるのではなく,広く会員に発表し,工業会に共有すべきものとされていたと考えるのが妥当であるとも主張するが,日本電機工業会の事業内容等が公共の利益をも目指しているとしても,個々の発表会における発表内容を出席者以外の者に開示してよいかどうかは個々に取り決められるべきもので,日本電機工業会主催の発表会におけるすべての発表が守秘義務から解放されているとはいえない。
したがって,被告の上記各主張は失当である。
( ) 取消事由2(相違点の判断の誤り) 2ア 塩素系冷媒の混入量の限定について決定は,本件発明と引用例イ記載の発明との相違点(a-2)として挙げた,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒につき,本件発明においては,塩素系冷媒の混入が80 以下と限定されているのに対し,引用例イ記載の発明においては,か ppmかる限定が示されていない点について,引用例ロ,ハ,ニに,塩素系冷媒の混入は極力少ないことが望ましく,具体的には200 以下とすることが教示されて ppmいるから,それより低い数値を設定することも当業者が容易に想到し得ることにすぎないとし,また,本件明細書(平成14年10月28日付け訂正後)からも,80 とすることが,コンタミ(コンタミネーション)量の低減その他従来技術 ppmとの比較において,格別な意味を有する数値であるとは認められず,その数値設定により格別の予期し得ない効果を奏するものではないから,当業者が適宜数値を設定したにすぎないと判断したが,誤りである。
まず,引用例ロ,ハ,ニの記載からは,塩素系冷媒の混入は極力少ないことが望ましいことを導き得るものではない。
被告は,引用例ニの「R12が混入するとPEおよびPCの加水分解はさらに著しくなり,金属の腐食,全酸価の上昇,スラッジの生成が起こる (26頁左欄2」1〜23行)との記載を引用して,塩素系冷媒の混入が少なければ,酸の生成,エステル油の分解が少なくなり,ひいては,スラッジの生成も少なくなるであろうことは容易に想到することができると主張するが,引用例ニの当該記載は,R12とR134aが市場において混合されカーエアコン用冷媒として用いられる場合(24頁右欄9〜13行)における問題を述べているのであって,本件発明におけるR134aの不純物を説明するものではない。
,「 」( ) また 引用例ハの HFC-134aの純度提案 と題する表 150頁表15には 「不純成分(Cl 」を「2×10 %(注,200 )以下」とするこ ,)-2ppmppm ppm とが示されているところ,被告は 「200 以下」という特定には200 ,,, 以下のあらゆる数値が含まれていると主張するが 引用例ハに記載されているのは200 程度の塩素系冷媒の混入量であれば,エステル油の分解,ひいては金 ppm属石鹸,スラッジの生成を防止し得るということであって,それとレベルが著しく異なる80 以下とすることまで示されているとはいえない。 ppm, , 次に 塩素系冷媒の混入量を80とすることが臨界的意義を有することは ppm原告の平成14年10月28日付け意見書(甲14)に掲載された「シールドチューブ試験 JIS K2211 付属2」の結果(10頁表A)により裏付けられている。この試験は,弗化炭化水素系冷媒中の塩素系冷媒の含有量を50 かppmら400 まで変化させた場合の冷凍機油の全酸価がどのように変化するかを ppm,, , 調べたものであるが 全酸価は コンタミ量を間接的に示す指標となるものであり上記試験結果のとおり,塩素系冷媒の混入量が80 を超えると全酸価が大き ppmくなるから,塩素系冷媒の混入量を80 以下とすることにより,コンタミ量 ppmを有効に低減させることができるものである。決定は,全酸価がコンタミ量の間接的な指標であることを捉えて 「この試験結果をもって,冷凍サイクル中における ,コンタミ量を有効に低減させることができることについて,80 が意味のあppmる数値であるとすることはできない」とするが,この試験は,当業界で認められたものであり,塩素系冷媒の混入量とコンタミ量との相関を十分明らかにし得るものである。
なお,被告は,本件明細書に,全酸価とコンタミ量との具体的な関係や,コンタppm ミ量又は全酸価の好ましい数値範囲について,記載も示唆もないから,80を意味のある数値であるとすることはできないと主張する。しかしながら,冷凍装,, 置においては 機器の信頼性や能力に悪影響を与える冷媒回路中のコンタミの量を数値によって具体的に設定できないからこそ 「酸価」や「色相」を測定すること ,により間接的に評価するのであり,これらは,間接的であってもコンタミの発生量を予測する指標であるとされているものである。
また,被告は,上記シールドチューブ試験の結果において,塩素系冷媒の含有量が50 であるときの全酸価は0.45であるところ,含有量80 と12 ppm ppm0 との間にも全酸価が0.45を示す点があるはずであるから,80 を ppm ppm臨界点とすることができないと主張する。しかしながら,80 の全酸価0.ppm4と50 の全酸価0.45との差異は,実験におけるバラツキともいえるも ppmので,実際には,同程度のものと評価されるのであり,塩素系冷媒の混入量が80以下になると,塩素系冷媒による影響が少なくなり,バラツキの範囲を含め ppmても安定域になっていることを示すものであって,このことは,これ以上塩素系冷媒の混入量を0 に近づけても,全酸価,オイル劣化に対し,大きな効果は期 ppm待できないことを示唆するものである。
本件発明は,塩素系冷媒の混入量を80 とすることにより,徒に冷媒の高 ppm純度化を追求することなく,機器の信頼性,能力,コストなどの水準を満たし,性能的,コスト的に実用に耐え得る冷凍装置を実現し得たものである。
したがって,塩素系冷媒の混入量を80 以下に設定することは,当業者が ppm容易に想到し得たものではない。
イ 冷凍機油の限定について決定は,本件発明と引用例イ記載の発明との相違点(b-1)〜(b-5)として挙げた,圧縮機に用いるポリオールエステル油を基油とした冷凍機油につき,本件発明においては,ポリオールと直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸とを無触媒で反応させたもの(b-1 ,流動点が-40℃以下(b-2 ,二液分離温度が-20 ))℃以下(b-3 ,全酸価が0.02以下(b-4 ,粘度指数が80以 )) mgKOH/g上(b-5)と限定されているのに対し,引用例イ記載の発明においては,かかる限定が示されていない点について,まず,引用例ト,チの記載によって 「塩素を,含まない弗化炭化水素系冷媒と使用するポリオールエステル油として,ポリオールと直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので,流動点が-55℃以下,二液分離温度が-45℃より低い,全酸価が0.01 以下,粘mgKOH/g度指数が43〜107のものを採用すること」は,本件の出願前に知られていたといえると判断し,さらに,引用例リ,ヌの記載によって 「エステル系の冷凍機油 ,,.,,. として 40℃における粘度が31 6 粘度指数が100 流動点が-45 cSt0℃,全酸価が0.01 ,低温側二層分離温度が-40℃のものを採用 mgKOH/gすること」は,本件の出願前に知られていたといえると判断したが,いずれも誤りである。
すなわち,引用例トには,ネオペンチルポリオールと炭素数7〜9の飽和分岐鎖脂肪酸モノカルボン酸とから得られるエステルが記載され,そのエステル粘度範囲cst cst cst に関しては「40℃での動粘度が通常5 〜115 であり,好ましくは5cst mgKOH/g 〜56 と エステルの酸価に関しては 低いほど好ましく通常0 1 」, 「 .以下,特に0.05 以下が好ましい 」とそれぞれ記載され,また,具 mgKOH/g。
体的に示されたエステルの粘度指数は43〜107の範囲にあり,流動点はいずれ,。, も-55℃以下で 低温分離温度が-45℃より低いことが記載されている 他方引用例チには,エステル冷凍機油が記載され,その低温側二層分離温度に関しては「約0℃〜-40℃」と,エステルの酸価に関しては「0.01( )以KOHmg/g下であることが好ましい 」と記載されているものの,エステルが無触媒で合成さ 。
れたものであるかどうかは不明であり,また,低温側二層分離温度は引用例トとは相違し,流動点,粘度指数に関する記載はない。そうすると,引用例トに記載されたエステル冷凍機油と引用例チに記載されたエステル冷凍機油とに共通性はなく,このような引用例ト,チに基づいて,決定が 「ポリオールと,直鎖又は側鎖のア ,ルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので,流動点が-55℃以下,二液分離温度が-45℃より低い,全酸価が0.01 以下,粘度指数が43〜10 mgKOH/g7のものを採用すること」は本件の出願前に知られていたとした判断は,誤りであるといわざるを得ない。
次に,決定は,引用例リが,その「PAGの欠点を克服するため,変性PAG,エステル系の冷凍機油が開発され,検討が進められている (625頁右欄33〜 .」35行)との記載につき,注で引用例ヌを引いており,かつ 「PAG-1 「P,」,AG-2 「変性PAG 「エステル」の各特性が記載された引用例リの表5と, 」,」,「PAG-1 「PAG-2 「変性PAG 「non-PAG」の特性が記載 」,」,」,された引用例ヌの表-4との物性値が一致しているから,引用例ヌの表-4の「non-PAG」はエステル系の冷凍機油であり,そうすると,引用例ヌの表-7の「non-PAG」もエステル系の冷凍機油であるとした上,同表の「non-PAG」に係る特性を列挙して 「エステル系の冷凍機油として,40℃における粘 ,度が31.6 ,粘度指数が100,流動点が-45.0℃,全酸価が0.01 cSt,低温側二層分離温度が-40℃のものを採用すること」が容易である mgKOH/gと判断した。
しかしながら,引用例リの表5及び引用例ヌの表-4は,いずれもカーエアコン用冷凍機油に係るものであるところ,カーエアコン用冷凍機油と冷蔵庫用冷凍機油とは異なるのが通常であるから,仮に,引用例ヌの表-4に記載された「non-PAG」がエステル系の冷凍機油であるとしても,引用例ヌの表-7に記載された「non-PAG」までもがエステル系の冷凍機油であると直ちにいうことはでき。,, , 「, ない したがって 引用例リ ヌの記載によって エステル系の冷凍機油として40℃における粘度が31.6 ,粘度指数が100,流動点が-45.0℃, cSt全酸価が0.01 ,低温側二層分離温度が-40℃のものを採用するこ mgKOH/gと」は本件の出願前に知られていた,と判断し得るものではない。
ウ 発明の効果について決定は,特定冷媒と特定冷凍機油の組合せにより本件発明が予期し得ない効果を奏するものではないと判断したが,誤りである。
,, , , すなわち 本件発明は 必要以上に冷媒純度を高めるのではなく 機器の信頼性冷却性能の維持が可能なレベルを明記することにより,最小限の価格アップに抑えるとともに,冷却性能を長期にわたり維持するという,従来技術では得られない優れた効果を達成することができるものである。
2 被告の反論引用例ロ記載の発明が本件出願前に公然と知られていたとした決定の認定に誤りはなく,本件発明と引用例イ記載の発明との相違点についての判断にも誤りはないから,原告主張の決定取消事由は,いずれも理由がない。
( ) 取消事由1(引用例ロ記載の発明が本件出願前に公然と知られていたとし 1た認定の誤り)について,「 」 引用例ロの記載によれば それが用いられた冷蔵庫フロン対応研究技術発表会は,日本電機工業会4階ホール1か所で行われ,冷蔵庫・冷凍サイクル分科会,コンプレッサー分科会及び断熱材分科会の各主査が 「取組状況と解決すべき課題」 ,というテーマで,プログラムに従い続けて発表を行ったと見られる。また,上記発表に前後して,冷蔵庫フロン対応研究委員会委員長の活動経過報告,他委員会委員長の報告,質疑応答などが行われていることに照らして,上記発表会は,単に「冷蔵庫フロン対応研究委員会」という一委員会内部の発表会というよりも,当該委員会メンバー以外の者をも対象とした発表会であるとするのが妥当である。このことは,引用例ロの「主催: 社)日本電機工業会 冷蔵庫フロン対応研究委員会」と (の記載における「主催」という語句が,当該委員会が委員会メンバー以外の者を対象とする発表会を開催したことを意味することからも裏付けられる。この発表会が開催された平成4年当時は,世界的に代替フロンとその潤滑油が検討されていたところ,引用例ハの記載によれば,日本電機工業会の冷蔵庫フロン対応研究委員会の活動が他業界でも知られていたことも認められる。
加えて,日本電機工業会の事業内容は 「電気機械器具・・・の製造並びに関連 ,事業の総合的な発展 (乙1)を図るものであり,その活動内容は 「地球環境の保 」,全を基本として,オゾン層保護対応策の推進・・・等,関係官庁・地方自治体・関係団体等との連携をとりつつ,電機産業としての環境保護対策を推進 (乙2)す」るという公共の利益をも目指すものであるから,この点から見ても,上記発表会における各分科会の発表内容は,一委員会の内部に留めるのではなく,広く会員に発表し,工業会に共有すべきものとされていたと考えるのが妥当である。
したがって,引用例ロに記載の発明は,本件の出願前に公然知られたものとする決定の認定に誤りはない。
( ) 取消事由2(相違点の判断の誤り)について 2ア 塩素系冷媒の混入量の限定について原告は,引用例ロ,ハ,ニの記載からは,塩素系冷媒の混入は極力少ないことが望ましいことを導き得るものではないと主張する。
しかしながら,引用例ハには,冷媒HFC-134a中に塩素系不純物(塩素系冷媒)が含まれていると,脱塩素反応により生じた酸(塩酸)によりエステル油が分解し,脂肪酸金属塩が形成しやすくなること(147頁下から14〜1行)が,引用例ニには,塩素系冷媒(R12)の混入によるエステル油(PE:ポリエステル系合成油)の加水分解により,金属の腐食,全酸価の上昇,スラッジの生成が起こること(26頁左欄21〜23行)が,それぞれ記載されているから,塩素系冷媒の混入が少なければ,酸の生成,エステル油の分解が少なくなり,ひいては,スラッジの生成も少なくなるであろうことは容易に想到することができるところ,冷凍装置においてスラッジの生成が少ないことは,運転の安定性から望ましいことである。すなわち,引用例ハ,ニの記載から「塩素系冷媒の混入は極力少ないこと ,が望ましいこと」を導き得るのである。そして,引用例ハの「HFC-134aの-2純度提案」と題する表(150頁表15)に「不純成分(Cl 」を「2×10)%(注,200 )以下」とする提案が示されているところ,塩素系冷媒の混 ppm入は極力少ないことが望ましいのであるから,引用例ハの「200 以下」とppmいう特定には,200 以下のあらゆる数値が含まれているということができ ppmる。
また,原告は,その主張に係る「シールドチューブ試験 JIS K2211付属2 (甲14の10頁表A)について,弗化炭化水素系冷媒中の塩素系冷媒の 」含有量を50 から400まで変化させた場合の冷凍機油の全酸価がどの ppm ppmように変化するかを調べたものであり,全酸価はコンタミ量を間接的に示す指標となるものであって,塩素系冷媒の混入量を80 とすることが臨界的意義を有 ppmすることは,同試験の結果により裏付けられていると主張する。しかしながら,本件明細書には,全酸価とコンタミ量との具体的な関係や,コンタミ量又は全酸価の好ましい数値範囲(どんな数値以下ならよいのか)について,記載も示唆もないから,上記試験結果によっても,コンタミ量を有効に低減させることができることについて80 を意味のある数値であるとすることはできない。のみならず,仮 ppmに全酸価が正確にコンタミ量を示す指標であるとしても,上記試験結果によれば,塩素系冷媒の含有量が上記数値範囲内である「50 」であるときの全酸価は ppm0.45であるから,この全酸価の値は許容値となるところ,含有量80 とppm.,, 120 との間にも全酸価が0 45を示す点があるはずであり したがって ppm80 を臨界点とすることもできない。結局,上記試験結果から読み取れるの ppmは,塩素系冷媒の混入が少なければ,酸の生成,エステル油の分解及びスラッジの生成も少なくなり,塩素系冷媒の混入は200 以下が望ましいという引用例 ppmハ,ニから明らかである内容とほぼ同等である。
以上のとおり,本件発明において 「塩素系冷媒の混入量を80 以下」とす , ppmることにより格別の効果を奏するとはいえないから,塩素系冷媒の混入量を80以下とすることは,当業者が「200以下」での適宜の数値を設定した ppm ppmにすぎないものといわざるを得ない。
イ 冷凍機油の限定について原告は,引用例トに記載されたエステル冷凍機油と引用例チに記載されたエステ,, , ,「, ル冷凍機油とに共通性はなく 決定が引用例ト チに基づいて ポリオールと直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので,流動点が-55℃以下,二液分離温度が-45℃より低い,全酸価が0.01 以下,粘度mgKOH/g指数が43〜107のものを採用すること」は,本件の出願前に知られていたとした判断は誤りであると主張する。しかしながら,引用例チには 「全酸価が0.0,3〜0.05( )以上であると・・・金属石けんなどを生成し,沈殿す KOHmg/gるなどの好ましくない現象が起こるので,全酸価は0.01( )以下でKOHmg/gあることが好ましい」と記載されているところ,この現象とエステルの製造方法又はその他のエステルの物性値とは何ら関係ないので,エステル製造時の触媒の有無又はその他の特性値がどうであれ,冷凍機油としての好ましい全酸価の値が変わるものではない。したがって,引用例チにおいてエステル冷凍機油に好ましいとされる全酸価の値「0.01 以下」は,引用例トのエステル冷凍機油におい mgKOH/gても好ましいといえるのであり,決定の上記判断に誤りはない。
また,原告は,引用例ヌの表-7に記載された「non-PAG」がエステル系の冷凍機油であると直ちにいうことはできないと主張する。しかしながら,引用例リの「PAGの欠点を克服するため,変性PAG,エステル系の冷凍機油が開発され,検討が進められている (625頁右欄33〜35行)との記載に対応する参 .」,, 「 」, 照文献が引用例ヌとされており かつ 引用例リの表5に係る試作油 PAG-1「PAG-2 「変性PAG 「エステル」の物性値と,引用例ヌの表-4に係 」,」,る試作油「PAG-1 「PAG-2 「変性PAG 「non-PAG」の物 」,」,」,,「」 性値とが各々一致していることに照らせば引用例ヌの表-4の non-PAGがエステル系油であることは明らかである。そして,同一の論文中で同一の名称を用いているのであるから,引用例ヌの表-7の「non-PAG」と表-4の「n」,, on-PAG とが同じタイプの構造を有する化合物群の油であること すなわち表-7の「non-PAG」も表-4の「non-PAG」と同様,エステル系の冷凍機油であることも明らかである。このことは,引用例ヌの論文構成からも認められる。すなわち,引用例ヌは,冷凍機に使用されている冷媒に係るフロン規制対応を,3項の「R-134a用冷凍機油」の項で検討し,同項の最後で「non-PAGタイプが優れている」と総括しているから,この点からも同項で検討された表-4,表-7の「non-PAG」が同じタイプ(エステル系)の冷凍機油であることが結論付けられる。
そして,表-7には,本件発明の数値限定を全部満足するエステル系冷凍機油が記載されているのであるから,決定が,引用例リ,ヌに,本件発明で用いる特定の物性を有する冷凍機油が記載されているとした判断に,誤りはない。
ウ 発明の効果について原告は,本件発明が,特定の冷媒と特定の冷凍機油とを組み合わせて用いることにより従来技術では得られない優れた効果を達成することができたものであるから,本件発明が予期し得ない効果を奏するものでもないとした決定の判断が誤りであると主張する。
しかしながら,原告は,本件発明の特定冷媒と特定冷凍機油の組合せにより,従来技術と比べて,具体的にどの程度の冷却性能の向上とコストの低減が実現されたかを一切示していない。また,本件発明は「純度100 % 「塩素系冷媒の混 ,」,wt入0 」という弗化炭化水素系冷媒の使用を含むものであるところ,このよう ppmな弗化炭化水素系冷媒の使用は低コスト化とは全く相容れないものである。したがって,原告の上記主張は失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例ロ記載の発明が本件出願前に公然と知られていたとした認定の誤り)について引用例ロは 「冷蔵庫フロン対応研究技術発表会」との標題と 「日時:平成4年 ,,7月30日(木) 13:00〜16:30 「会場: 社)日本電機工業会 4階 」,(ホール」及び「主催:(社)日本電機工業会 冷蔵庫フロン対応研究委員会」との各記載がある1枚目(表紙)のほか,2枚目以降の記載から見て,平成4年7月30日に,日本電機工業会(同工業会の会館の趣旨と認められる )4階ホールにおい。
て,社団法人日本電機工業会冷蔵庫フロン対応研究委員会が主催して行われた冷蔵庫フロン対応研究技術発表会のプログラム及び発表用のテキスト(レジュメ)等から成る冊子であるものと認められ,そのプログラム部分(2枚目)には,同研究発表会が,冷蔵庫フロン対応研究委員会委員長による開会挨拶及び活動経過報告,冷蔵庫・冷凍サイクル分科会,コンプレッサー分科会及び断熱材分科会の各主査による研究発表(取組状況と解決すべき課題の発表 ,冷蔵庫技術専門委員会委員長に )よる「海外情報と回収リサイクル対策」と題する報告,冷蔵庫フロン対応研究委員,, 会参加9社の状況報告 質疑応答の順に進行するものとされていることが記載されまた,テキスト目次(3枚目)には,同冊子に,上記3分科会主査の研究発表及び上記冷蔵庫技術専門委員会委員長による報告に係るテキスト等が収録されていること及びその収録頁が記載されている。引用例ロのうち決定が引用する部分(29,40,45頁)は,いずれも,コンプレッサー分科会主査Aによる「 代替フロン『採用コンプレッサー』の開発状況と解決すべき課題」と題する研究発表に係るテキスト(25頁〜46頁)の一部であり,同テキスト中には,同分科会の構成員が松,(),,, ( ) 下冷機 三洋 原告 東芝 日立 三菱電機及び澤藤電機の6社の者 各社2名であること,同分科会の研究目的が「代替フロン採用における情報交換を通じ,課」()。 題と対応策の共有化を図り早期切り換えを目指す ことも記載されている 27頁なお,同テキスト部分は,記載事項が1頁ごとに完結しており,文字が大きく,図表が多用され,各頁にわたって,右肩に「1992.7.30/冷蔵庫フロン対応研究委員会/コンプレッサー分科会」との記載がなされている体裁に照らして,発表時には,プロジェクタ等を用いて画面表示される形式のものと推認される(仮に何らかの事情により上記形式によらなかったとしても,同テキスト部分は出席者に配布されたものと考えられ,以下の検討において格別の差異はない 。。),, , 以上の事実関係によれば 原告を含め 冷蔵庫フロン対応研究委員会は9社の者コンプレッサー分科会はそのうちの6社の者によって構成されていることが認められる。しかしながら,上記発表会においては,会場が日本電機工業会館4階ホール1か所であり,各分科会の研究発表のほか,各分科会の研究事項を総合した事項に関する報告等(冷蔵庫フロン対応研究委員会委員長による開会挨拶及び活動経過報告,冷蔵庫技術専門委員会委員長による「海外情報と回収リサイクル対策」と題する報告)が行われるものとされていること,各分科会の研究発表に係るそれぞれのテキストが1冊子にまとめられていること,各分科会の構成員は,いわば共同研究員なのであるから,当該構成員だけを対象として改まった形式の研究発表会を行う意味はないことに照らし,各分科会の研究発表が,例えば,各分科会ごとに,当該分科会の構成員のみを対象として行われたものでないことは明白であって,実際には,各分科会の主査が,プログラムに従い,上記会館4階ホールにおいて続けて発表を行ったものと推認することができる。のみならず,上記発表会の主催者は「社団法人日本電機工業会冷蔵庫フロン対応研究委員会」とされているところ 「主催,者」という語句の意味自体は,原告主張のとおり 「中心となってある行事や会を ,催す者」であるとしても 「主催者」という語句の用法としては,当該行事や会に ,「主催者」以外の者が参加することが予定されている場合に用いるのが通常であること,仮に,上記発表会に参加する者が同委員会を構成する9社の者のみであるとすれば,例えば,コンプレッサー分科会の研究発表について見れば,その構成員である6社の者は,上記のとおり,いわば共同研究員であって,発表者側に属するのであるから,発表の相手方は残り3社の者のみとなるが,そのような少数の者を対象とするにしては,上記発表会を開催すること自体や,プロジェクタ等を用いる発表の形式が大仰に過ぎて不自然と感じられることに鑑みると,上記発表会は,冷蔵庫フロン対応研究委員会を構成する9社のみではなく,さらに広範囲の者を対象として開催されたものと認めることができる。
そして,そのような状況の下では,参加者が,発表された事項について守秘義務を負うものとすることは不自然であるから,引用例ロに記載された発明は,遅くとも本件出願前である上記発表会の開催日(平成4年7月30日)に公然知られたものと認めることができ,この点についての決定の認定に,原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について( ) 塩素系冷媒の混入量の限定について 1ア 前掲引用例ロには,フロン対策による代替冷媒HFC-134aに,冷凍機油としてエステル系潤滑油を組み合わせた冷蔵庫用代替冷媒仕様コンプレッサーの発明が記載されているところ,その有害不純物管理として,塩素を含有する冷媒を使用した冷媒回路を使用しないことが記載されている(40頁 。),, , , また 引用例ハには フロン対策により冷蔵庫用コンプレッサーの冷媒として特定フロンCFC-12に代えてHFC-134aを用いる場合の冷凍機油との適合性等について記載されているところ,HFC-134aについて 「HFC-1,34aの純度によりエステル油の熱安定性が大きな影響を受ける。CFC の混入s・・・を管理することが大切である・・・安定性を確保するための冷媒純度の ppm提案を表15に示す・・・塩素系不純物が残留していると脱塩素反応が発生し,この酸によりエステル油が分解し,脂肪酸金属塩が形成し易くなる (147頁下か」ら13〜6行)との記載があり 「HFC-134aの純度提案」と題する表15 ,(),「()」() 「 」(, 150頁 には 不純成分 Cl 単位% について 2×10 以下 注-2200 以下)とすることが記載されている。 ppmさらに,引用例ニには,カーエアコンにおけるフロン対策により,代替フロンR134aを従来の特定フロンR12の代替冷媒としたときに,カーエアコン油として ポリグリコール PAG 系 ポリエステル PE 系 ポリカーボネート P ,(),(), (C)系合成油を用いた場合の特性比較等について記載されているところ,これらの合成油の耐加水分解性に関し 「R12が混入するとPEおよびPCの加水分解は ,さらに著しくなり,金属の腐食,全酸価の上昇,スラッジの生成が起こる (26」頁左欄21〜23行)との記載がある。
なお,引用例ロ(33頁 ,引用例ハ(139頁表4)及び引用例ニ(24頁右 )欄表4)並びに弁論の全趣旨によれば,これらの引用例の記載に係るHFC-13,,,,, () 4a R134aは いずれも1 1 1 2-テトラフルオロエタンCH FCF23を意味し,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒に相当すること,R12は,ジクロ() , 。 ロジフルオロメタン を意味し塩素系冷媒に相当することが認められる CCl F22そうすると,これらの引用例には,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と,冷凍機油としてエステル油とを組み合わせるに当たって,スラッジ(不純成分)を生じさせないために,塩素系冷媒の混入をできるだけ少なくすることが記載又は示唆されており,その具体的数値として,引用例ハには,200 以下とする旨の記ppm載があることが認められる。
加えて,引用例ハには,上記記載のほか,市販の冷凍HFC-134aの純度調査の結果が記載されており(148頁表13 ,そのうちの「C社」製品につき, )HFC-134aが99.9810 %,HFC-134(弁論の全趣旨によれ wtば,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒であるものと認められる )が0.012。
4 %であること,すなわち,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒だけで合計9 wt.,,.() 9 9934 %を占め したがって 他の成分が0 0066 % 66 wt wt ppmであることが示されており,また,1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)の精製法に関する引用例ホには,塩素系冷媒に相当する成分( , )の含有量が,合計0.0075 %(75 )であ CF CFCl CF CFHCl wt ppm323るもの(実施例1)と,合計0.0070%(70 )であるもの(実施例 wt ppm2)とが記載され,同様に1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)の精製法に関する引用例ヘには,塩素系冷媒に相当する成分 の含CF CHClF3有量が0.0016 %,同 の含有量が0.0023 %であるも mol CH CCl F mol 32の(実施例1)が記載されている(同実施例に係る主成分1,1,1,2-テトラフルオロエタン( )の含有量は99.9860 %であって,これら以 CF CH F mol32外の成分は塩素系冷媒に属さず,その含有量も微少であり,また, ,CF CHClF 3, の分子量は,順次,136.5,117 102であるので, CH CCl F CF CH F , 32 32CF CHClF wt CH CCl F wt3 32の含有量は0.0021%に, の含有量は0.0026%にそれぞれ換算され,その合計は0.0047 %(47 )である 。 wt ppm。)以上によれば,引用例ロ〜ニに,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と,冷凍機油としてエステル油とを組み合わせるに当たって,スラッジ(不純成分)を生じさせないために,塩素系冷媒の混入をできるだけ少なくすることが記載又は示唆されており,その具体的数値として,200 以下とすることが記載されているほ ppmか,引用例ハ,ホ,ヘに,塩素系冷媒の混入量が47〜75 である塩素を含ppmまない弗化炭化水素系冷媒が示されているのであるから,塩素系冷媒の混入量として,200 以下の数値である80を選択設定することは,当業者におい ppm ppmて容易になし得たものといわざるを得ない。
イ 原告は,引用例ニの上記記載(26頁左欄21〜23行)が,R12とR134aが市場において混合されカーエアコン用冷媒として用いられる場合における問題を述べているのであって,本件発明におけるR134aの不純物を説明するものではないと主張するところ,引用例ニが,主として,カーエアコンにおける代替冷媒としてのR134aについて記載されたものであって,上記記載も,カーエアコン用冷媒としてのR134aに,カーエアコン油としてPAG系,PE系及びPC系合成油を使用した場合の特性比較等に関するものであることは,そのとおりである。しかしながら,引用例ニには,電気冷蔵庫についても,従来の特定フロンR12に代えて,代替フロンR134aを冷媒とすること(23頁表1)が記載されているところ,カーエアコン用冷媒としてのR134aを,カーエアコン油としてのPE系合成油(エステル油)と組み合わせたときに,R12が混入することにより,エステル油の加水分解が著しくなり,金属の腐食,全酸価の上昇,スラッジの生成が起こるのであれば,冷蔵庫用コンプレッサーの冷媒としてのR134aを,冷凍機油としてのエステル油と組み合わせたときにも,R12の混入により同様の現象が生ずるであろうことは自明であり,引用例ニの上記記載がカーエアコンに関するものであるからといって,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と,冷凍機油としてエステル油とを組み合わせるに当たって,スラッジを生じさせないために,塩素系冷媒の混入をできるだけ少なくすることが示唆されていないとすることはできない。
また,原告は,引用例ハに記載されているのは,200 程度の塩素系冷媒ppmの混入量であれば,エステル油の分解,ひいては金属石鹸,スラッジの生成を防止し得るということであって,レベルが著しく異なる80 以下とすることまで ppm示されているとはいえないと主張する。しかしながら,上記のとおり,引用例ハには 「安定性を確保するための冷媒純度の提案を表15に示す・・・塩素系不純物 ,が残留していると脱塩素反応が発生し,この酸によりエステル油が分解し,脂肪酸金属塩が形成し易くなる」との記載があるところ,この記載が,特定の混入量の程度にとどまっているのであれば,塩素系不純物が混入していても,エステル油の分解,スラッジの生成を防止し得るという趣旨であるとは到底解し得ず,他に,その旨の記載も示唆も見当たらないのであるから,表15において,HFC-134aの純度提案の1項目として 「不純成分(Cl (単位%)につき「2×10 以 ,)」-2下」と特定されているのは,文字どおり,2×10 %以下(200 以下)-2ppmのあらゆる数値を含むものというべきである。原告の上記主張を採用することはできない。
原告は,さらに,塩素系冷媒の混入量を80 とすることが臨界的意義を有 ppmすることは 原告の平成14年10月28日付け意見書 甲14 に掲載された シ ,()「ールドチューブ試験 JIS K2211 付属2」の結果(10頁表A)により裏付けられていると主張する。そして,上記意見書及び試験結果によれば,上記試験は,所定の同1条件の下で,弗化炭化水素系冷媒中の塩素系冷媒の含有量を50以下から400 まで変化させたときの,冷凍機油の全酸価及び色相の変 ppm ppm化を測定したものであって,塩素系冷媒の含有量が,50 以下,80 , ppm ppm120 ,200 ,400 であるときに,全酸価が,それぞれ0.4 ppm ppm ppmmgKOH/g mgKOH/g mgKOH/g mgKOH/g mgKOH/g 5040550608 ,. ,. ,. ,.を示したものであることが認められ,また,上記意見書には「全酸価は・・・コンタミ量を間接的に示す指標となるものです(10頁12〜13行)との記載があ 」る。
mgKOH/g しかしながら 本件発明の要旨が 冷凍機油について 全酸価が0 02 ,,「.以下」と規定し,また,本件明細書(甲12)の発明の詳細な説明に「DBPCを添加した本発明のポリオールエステル系油18によれば,初期段階において,全酸価が0.01以下となり,良好な結果が得られた (段落【 )とする記載があ 」】0035るほかは,本件明細書に,冷凍機油の全酸価についての好適値又は許容値に関する。,,, , 記載はない そうすると たとえ 全酸価が コンタミ量を示す指標であろうとも上記「0.02 」との規定又は「0.01」という値のみによっては, mgKOH/g上記意見書掲載のシールドチューブ試験に係る「0.4 (塩素系冷媒の mgKOH/g」含有量80 の場合の全酸価 「0.55 (同120 の場合の ppm mgKOH/g ppm ),」全酸価)等の数値が示す技術的意義は,結局,明らかではないといわざるを得ないから,塩素系冷媒の混入量を80とすることが臨界的意義を有すると認める ppmこともできない。したがって,原告の上記主張も失当である。
原告は,さらに,本件発明は,塩素系冷媒の混入量を80 とすることによppmり,徒に冷媒の高純度化を追求することなく,機器の信頼性,能力,コストなどの水準を満たし,性能的,コスト的に実用に耐え得る冷凍装置を実現し得たものであ,, , るとも主張するが 本件明細書に そのような事項の記載又は示唆は全くないからこの主張を採用することもできない。
( ) 冷凍機油の限定について 2ア 引用例トには 「ネオペンチルポリオールと炭素数7〜9の飽和分岐鎖脂肪 ,族モノカルボン酸とから得られるエステル,及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンを含有する冷凍機作動流体用組成物(請求項1)であって 「電気冷蔵庫用 」,等の圧縮式冷凍機の作動流体用組成物に関する (段落【 )発明が記載されて 」】0001おり,かつ,その「実施例1」に関し 「1リットルの4つ口フラスコに攪拌機, ,温度計,窒素吹き込み管,及び冷却器付きの脱水管を取り付けた。ネオペンチルグリコール104g(1.0 )と2-メチルヘキサン260g(2.0 )を mol mol前記フラスコに取り,窒素気流下240℃で10時間エステル化反応を行いエステルAを得た。また,表1に示すアルコール及びカルボン酸を用い,以下同様な反応を行ってエステルB〜K・・・を得た(段落【 「エステルA〜K及びこ 。」】),0040,。 れらのエステルの混合により 表2に示すような本発明に用いる油1〜12を得た・・・これらの本発明品に用いる油1〜12・・・の40℃及び100℃における動粘度,並びに粘度指数( )を測定した。また,流動点( ) JIS K-2283 JIS K-2269を測定した。その結果を表2に示す (段落【 )との各記載が,また 「実施 」】 , 0042例2」に関し 「実施例1で得られた油(本発明に用いる油1〜26・・・)とそ ,れぞれ1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)との組成物である本発明品1〜26・・・の相溶性を調べるため,1,1,1,2-テトラフルオロエタンに対する各種試料濃度10%における低温及び高温での二相分離温度 volを測定した ・・・その結果を表4・・・に示す (段落【 )との記載がある 。。 」】0046ところ,これらの各記載並びに表1(段落【 ,表2(段落【 )及び表 0041 0043】)】4(段落【 )に,弁論の全趣旨を併せ考えれば,上記引用例トの「本発明に 0047】用いる油」1〜12は,本件発明の「ポリオールと,直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させた・・・ポリオールエステル油」に相当すること,そのうち 「本発明に用いる油」3〜12が,本件発明のポリオールエステル油に係る流 ,動点 -40℃以下 二液分離温度 低温二層分離温度 -20℃以下 粘度 4 (),( ,) ,(0℃で8〜100 ,粘度指数(80以上)の各限定を満たしていることが認め cst)られる(なお 「本発明に用いる油」3の粘度は40℃で7.81 であるが, , cst本件発明が規定する粘度のように1単位で表示すれば,8になるから 「本発 cst ,明に用いる油」3の粘度も本件発明の限定を満たすことになる 。もっとも,エス。)テル油の全酸価については,引用例トに 「エステルの酸価は低いほど好ましく通 ,.,. 」 (【】) 常0 1 以下 特に0 05 以下が好ましい 段落 mgKOH/g mgKOH/g 0028との記載があるものの,上記「本発明に用いる油」3〜12の全酸価が,本件発明のエステル油の限定に係る0.02以下であるとの記載はない。 mgKOH/g引用例チには 「冷媒と潤滑剤の混合物がマグネットワイアーの絶縁材料に直接 ,接触するモーター内蔵型冷凍機において,潤滑剤としてペンタエリスリトールと炭素数7〜14の直鎖又は分岐1価高級脂肪酸とのエステルを主成分とするエステル油を使用することを特徴とする絶縁材料の安定性保持方法 (請求項1 「冷媒が 」),1,1,1,2-テトラフルオロエタンであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁材料の安定性保持方法 (請求項3)の発明が記載され 「本発明で使用するエ 」,.. ステル中に残存する酸価・・・は安定性に関係がある・・・全酸価が0 03〜005( )以上であると,冷凍機内部に使用されている金属との反応によ KOHmg/gり金属石けんなどを生成し,沈澱するなどの好ましくない現象が起こるので,全酸価は0.01( )以下であることが好ましい (段落【 )との記載 KOHmg/g 0019」】があるほか,実施例に関し 「表1にアルコールの種類,1価脂肪酸の炭素数及び ,エステル・・・等の性状を示す (段落【 「上記エステルと冷媒R-134 」】),0023aを用いて・・・全酸価 ・・・相溶性等の各種の試験を行った。結果を表2に示 ,す (段落【 「全酸価:・・・試験前の全酸価0.01( )以下 。」】),0025 KOHmg/gの上記エステル (段落【 )との各記載があり,これらの記載並びに表1(段 」】0027落【 )及び表2(段落【 )に弁論の全趣旨を併せ考えると,表1,2に 0024 0026 】】記載された実施例1〜3(エステルa-1〜a-3)及び比較例1〜3(エステルb-1〜b-3)は,本件発明の「ポリオールと,直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を反応させた・・・ポリオールエステル油」に相当し,本件発明の二液分離温度低温二層分離温度 -20℃以下 全酸価 0 02 以下 粘度 4 (,),(. ),( mgKOH/g0℃で8〜100 )の各限定を満たしていることが認められるが,上記実施例 cst1〜3及び比較例1〜3が,本件発明のエステル油の限定に係る,ポリオールと直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたものであること,流動点が-,,。 40℃以下であること 粘度指数が80以上であることの記載は 引用例チにないさらに,引用例トの「本発明に用いる油」3〜12に係るエステルを生成するた( ) , ( ,,), めのアルコール ポリオール の種類 二液分離温度及び粘度 表1 2 4 と引用例チの実施例1〜3及び比較例1〜3に係るエステルを生成するためのアルコール(ポリオール)の種類,二液分離温度及び粘度(表1,2)をそれぞれ比較した場合,その全部が共通するものも存在しない。
そうすると,本件発明のポリオールエステル油に係る,ポリオールと直鎖又は側,, ,, 鎖のアルキル系脂肪酸とを無触媒で反応させた点 流動点 二液分離温度 全酸価,, , 粘度指数の各限定をすべて満たすようなエステル油は 引用例ト チのいずれにもまた,引用例ト,チを併せ見ても,これが記載されているということはできない。
しかしながら,引用例チの上記「全酸価:・・・試験前の全酸価0.01( )以下の上記エステル」との記載に係る「上記エステル」とは,表1 KOHmg/gに記載されたa-1〜a-5(実施例1〜5 ,b-1〜b-3,b-5,b-6 )(比較例1〜3,5,6)の各エステルのことであるが,これらのエステルは,アルコールとして,ペンタエリスリトール,ネオペンチルグリコール又はトリメチロールプロパンを反応させて生成させたものであって(表1 ,その点で引用例トの )「」 (,) 。 本発明に用いる油 3〜12に係るエステルと共通するものである 表1 2そして,引用例チの上記「本発明で使用するエステル中に残存する酸価・・・は安..() , 定性に関係がある・・・全酸価が0 03〜0 05 以上であると KOHmg/g冷凍機内部に使用されている金属との反応により金属石けんなどを生成し,沈澱するなどの好ましくない現象が起こるので,全酸価は0.01( )以下でKOHmg/gあることが好ましい」との記載を併せ考えれば,これらのエステルであって,全酸価が0.01 以下であるものが,好ましいものとして採用されていると mgKOH/gいうことができるから,上記のとおり 「エステルの酸価は低いほど好ましく通常 ,0.1 以下,特に0.05 以下が好ましい」との記載がある mgKOH/g mgKOH/g引用例トの「本発明に用いる油」3〜12に係るエステルにおいて,全酸価が0.05 以下である0.01 のものを採用すること,すなわち, mgKOH/g mgKOH/g本件発明のエステル油の限定に係る全酸価0.02 以下とすることは, mgKOH/g当業者が容易になし得たものと認めることができる。
したがって,決定が 「引用例ト,チ・・・の記載からすると,ポリオールエス ,テル油についての前記(b-1)〜(b-5)の限定は,塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒とともに使用されるポリオールエステル油において,通常採用される製法,特性を特定するものにすぎないといえるもので,このように限定されたポリオールエステル油を採用することに格別の困難性は認められない」とした判断は,引,,。 用例リ ヌについての判断を経るまでもなく 誤りはないものということができるイ 原告は,引用例トに記載されたエステル冷凍機油と引用例チに記載されたエステル冷凍機油とに共通性はなく,このような引用例ト,チに基づいて,決定が,「ポリオールと,直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので,流動点が-55℃以下,二液分離温度が-45℃より低い,全酸価が0.01以下,粘度指数が43〜107のものを採用すること」は,本件の出願 mgKOH/g前に知られていたとした判断は誤りであると主張する。確かに,本件発明のポリオールエステル油に係る,ポリオールと直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸とを無触媒で反応させた点,流動点,二液分離温度,全酸価,粘度指数の各限定をすべて満たすようなエステル油は,引用例ト,チのいずれにも,また,引用例ト,チを併せ見ても,記載されていないことは上記のとおりであるから,決定の「引用例ト,チの記載からすると 『塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と使用するポリオールエス ,テル油として,ポリオールと,直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので,流動点が-55℃以下,二液分離温度が-45℃より低い,全酸価が0.01 以下,粘度指数が43〜107のものを採用すること』は,本 mgKOH/g件の出願前に知られていたといえる」との判断が,仮に,引用例ト,チを併せ見れば,本件発明のポリオールエステル油に係る各限定をすべて満たすようなエステル油が,記載されているという趣旨であれば,正確ではないといわざるを得ない。しかしながら,決定の上記「引用例ト,チ・・・の記載からすると・・・このように限定されたポリオールエステル油を採用することに格別の困難性は認められない」との説示に照らすならば,決定が,本件発明のポリオールエステル油に係る各限定をすべて満たすようなエステル油が,引用例ト,チを併せ見れば,記載されているという趣旨を説くものでないことは明らかであり,原告の上記主張を採用することはできない。
( ) 本件発明の効果について 3原告は,本件発明は,必要以上に冷媒純度を高めるのではなく,機器の信頼性,冷却性能の維持が可能なレベルを明記することにより,最小限の価格アップに抑えるとともに,冷却性能を長期にわたり維持するという,従来技術では得られない優れた効果を達成することができたものであると主張する。
しかしながら,本件発明が必要以上に冷媒純度を高めることなく,また,それによって最小限の価格アップに抑えるという事項は,本件明細書に記載がないのみなwt ppm らず 「冷媒が・・・純度が99.95 %以上で,塩素系冷媒の混入が80 ,以下である」とする本件発明の構成上,冷媒について,純度を100 %,塩素wt, 系冷媒の混入量を0 に極力近付けたものも本件発明に含まれるのであるから ppm上記主張が失当であることは明らかである。
また,本件発明が,冷却性能を長期にわたり維持するという点については,本件明細書に,これに関連して,本件発明につき「加水分解を抑制することができ,全酸価を低減して金属石鹸の生成を抑制し,装置の信頼性を向上できる。以上の作用効果は,図2に示す実機による耐久試験結果からも確認された (段落【 】〜」0038【 )との記載があり,図2の説明が記載された表1(段落【 )を併せ考 0039 0042 】】えると,図2(甲11の5頁)には 「本発明の基準」による試料Wが 「従来の基 ,,準」による試料T〜Vよりも,耐久期間(経過期間)に対応したコンタミ量が最も少ないことが示されていると認められる。しかしながら,上記表1によれば,試料Wと試料T〜Vとでは,本件発明の必須構成要件である冷媒の純度において異なっているのは当然であるとしても それ以外に 本件発明の必須構成要件ではない 冷 ,, 「凍サイクルA内の平衡水分量」及び「冷凍サイクルA内の残留酸素量」の各点,さらには用いている添加剤の種類の点でも異なっていることが認められるのであるから,試料Wが試料T〜Vに比べ良好な結果を示したとしても,それが本件発明の効果によるものと即断し得ないというほかはない。のみならず,図2は,コンタミ量をグラフの縦軸で表したものであるが,当該縦軸には「mg」との単位が記載されているものの,数値は表示されていないなど,図2によって,試料Wと試料T〜Vとのコンタミ量の具体的な差異を知ることは困難である。そうすると,上記図2によって,本件発明の効果を認めることはできないといわざるを得ず,他に,本件明細書中にこれを認めるべき記載もないから,結局,本件発明が,冷却性能を長期にわたり維持するという,従来技術では得られない優れた効果を達成するとの主張も採用することはできない。
3結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 佐藤達文
裁判官 清水知恵子