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関連審決 異議2003-73813
関連ワード 技術的思想 /  新規性 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  上位概念 /  加工 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10660号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社コスメツク
訴訟代理人弁護士 村林隆一,井上裕史,弁理士 梶良之,桂川直己
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 佐々木正章,高木彰,青木博文,前田幸雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003-73813号事件について,平成17年7月14日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,特許異議の申立てに係る特許を取り消した決定の取消しを求める事件である。
1 手続の経緯(1) 原告は,発明の名称を「データム機能付きクランプ装置」とする特許(特許番号第3459414号。請求項の数2。以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許は,平成11年8月3日に出願した特願平11-219504号の一部を平成14年7月2日に新たな特許出願(特願2002-192816号)とし,平成15年8月8日に設定登録がされたものである(甲1)。
(2) 本件特許について特許異議の申立てがされ(異議2003-73813号事件として係属),これに対し,原告は,平成17年6月23日,明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
(3) 特許庁は,平成17年7月14日,「訂正を認める。特許第3459414号の請求項1,2に係る発明についての特許を取り消す。」との決定をし,同月30日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲の記載(本件訂正後のもの)本件訂正は,訂正前の特許請求の範囲の「可動部材(M)」を「ワークパレット(3)」に改め,下線を付した部分を加えたものである。
「【請求項1】機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて,上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて,そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し,その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し,上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ,上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトルシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し,上記のストレート面(27)を前記プラグ部分(21)に軸心方向へ移動自在に支持し,上記のテーパ面(28)を,前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔(12)にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し,上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッド(31)の外周空間に,半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し,上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより,そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ,同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより,同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する,ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」「【請求項2】機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて,上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて,そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し,その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し,上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ,上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し,上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し,上記のテーパ面(28)を,前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し,上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッド(31)の外周空間に,半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し,上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより,そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ,同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより,同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する,ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」3 決定の理由の要旨決定の理由は,要するに,本件訂正を認めるとした上,請求項1及び2に係る発明(以下,各発明は請求項の番号に従い「本件発明1」のようにいう。)についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである,というものである。
( ) 訂正の適否1本件訂正は,特許法120条の4第2項並びに同条第3項において準用する特許法126条2項及び3項の規定に適合するので,当該訂正を認める。
( ) 特許異議の申立てについて 2ア 刊行物記載の発明(事項)本願の出願前に国内又は米国において頒布された刊行物である特開平7-314270号公報(本訴甲8,以下「刊行物1」という。),特開昭64-11743号公報(本訴甲9,以下「刊行物2」という。),特許第2784150号公報(本訴甲10,以下「刊行物3」という。)及び米国特許第4747735号明細書(本訴甲11の1,以下「刊行物4」という。)には,以下の事項が記載されている。
(ア) 刊行物1(特開平7-314270号公報:発明の名称「パレットのクランプ装置」,平成7年12月5日公開)刊行物1には,次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「マシニングセンタ等のテーブル1にメス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20を固定する4組のクランプ機構30,30,31,31のうちの2つとして用いられて,上記のテーブル1に上記パレット20を心合わせして上記のテーブル1の端面28に上記のパレット20の端面26を固定するようにしたクランプ機構30,30であって,上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,上記凹部へ挿入される環状のオス側テーパピン40を上記のテーブル1から突設させ,上記のオス側テーパピン40の筒孔21aにピストン51を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのピストン51の外周空間に,半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動されるボール58を配置し,上記のテーブル1に設けた圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を先端方向へクランプ駆動することにより,そのピストン51のテーパ面61が上記のボール58を上記の係合位置へ切り換えて前記の環状溝59へ係合させて,前記のパレット20を前記のテーブル1へ向けて移動させ,同上の圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を基端方向へアンクランプ駆動することにより,同上のボール58が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した,クランプ機構30,30」(イ) 刊行物2(特開昭64-11743号公報:発明の名称「2つの物体を相互に取外し可能にかつ繰返し可能にクランプするための装置」,昭和64年1月17日公開)刊行物2には,次の事項(以下「刊行物2記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「装置テーブル1に工作テーブル2を心合わせして上記の装置テーブル1に上記工作テーブル2を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において,装置テーブル1に固定した円筒形ハウジング3の上部外周部に設けた切頭円錐面15と工作テーブル2に固定した環状肩材19に固定支持されるリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行うこと。」(ウ) 刊行物3(特許第2784150号公報:発明の名称「工具ホルダー」,平成10年8月6日発行)刊行物3には,次の事項(以下「刊行物3記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「主軸1に工具ホルダー本体8を心合わせして上記の主軸1に上記工具ホルダー本体8を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において,工具ホルダー本体8と主軸1のテーパ孔2との間に,直径方向に拡大及び縮小されるスリーブ3を配置し,そのスリーブ3の内周面をストレート面によって構成すると共に同上スリーブ3の外周面をテーパ面によって構成し,上記ストレート面を工具ホルダー本体8のシャンク部4に軸心方向へ移動自在に支持し,上記テーパ面をその先端へ向けてすぼまるように形成すると共に前記のテーパ孔2にテーパ係合させ,上記スリーブ3を弾性部材6によって上記テーパ係合を緊密に付勢すること。」(エ) 刊行物4(米国特許第4747735号明細書:発明の名称「ツールホルダ及び解除可能な搭載方法」,1988年3月31日発行)刊行物4には,次の事項(以下「刊行物4記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「ツール支持部材34にツールホルダ10のシャンク14を固定するようにしたクランプ装置において,ロックロッド38を基端方向へクランプ駆動することによってシャンク14をツール支持部材へ向けて移動させるものであり,また,ロックロッド38を先端方向へアンクランプ駆動するものであること。」イ対比(ア) 本件発明1について本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると,後者の「マシニングセンタ等のテーブル1」が前者の「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材R」に,後者の「メス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20」が前者の「ワークパレット3」に,後者の「テーブル1の端面28」が前者の「基準部材Rの支持面S」に,後者の「パレット20の端面26」が前者の「ワークパレット3の被支持面T」に,後者の「4組のクランプ機構30,30,31,31」が前者の「複数のクランプ装置」に,後者の「凹部」が前者の「ソケット穴11」に,後者の「環状溝59」が前者の「係止孔13」に,後者の「環状のオス側テーパピン40」が前者の「環状のプラグ部分21」に,後者の「ピストン51」が前者の「プルロッド31」に,後者の「ボール58」が前者の「係合具34」に,後者の「圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57」が前者の「駆動手段D」に,後者の「ピストン51のテーパ面61」が前者の「プルロッド31の出力部36」に,後者の「環状溝59」が前者の「係止孔13」に,それぞれ相当することは,各部材の構造,機能から明らかである。また,後者の「クランプ装置30,30」は,心合わせ機能すなわちデータム機能を有することは,その機能から明らかであるから,前者の「データム機能付きクランプ装置」と言いうるものである。
そして,後者の「メス側テーパ穴25の下部部分」は,「メス側テーパ穴25の上部部分」とともに,前者の「位置決め孔12」に相当する。
刊行物1記載の発明における「メス側テーパ穴25の下部部分」について,特許権者は,a 刊行物1の図3,4には,オス側テーパピンの根本部分は厚肉状で,かつ,フランジ部と一体形成され,弾性変形し難い形状として示されていること,b メス側テーパ穴25の下部テーパ面には,クランプ用ボールの応力により,半径方向内方への膨出部が形成されることから,刊行物1記載の発明で実質的な位置決め孔としての機能はメス側テーパ穴の上部部分が発揮し,「メス側テーパ穴25の下部部分」は単なるガイド穴程度の機能しか奏しないと解され,本件発明1の「位置決め孔12」に相当するものではないと主張する。
そこで,上記主張について検討するに,刊行物1には,「テーパブッシュ34及びテーパピン40は,テーパ穴25にテーパ面27が密着し,・・・二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」と明記されており(段落【0026】),テーパ穴25の上部分部分のみが位置決めに関与し,下部部分は位置決めに関与しないことを窺わせる記載はないことからすれば,刊行物1記載の発明において,テーパ穴25の上部分部分のみならず下部部分も位置決めに関与しているとするのが相当である。そして,特許図面は,本件発明の構成を説明する便宜のために描かれるものであって,明細書にはオス側テーパピンの肉厚形状について何ら記載されていないことから,特許権者が上記bの主張の前提とする,オス側テーパピンの根本部分が厚肉状であることが,刊行物1に記載されているとは認め得ない。また,クランプ状態において,特許権者の主張するように,テーパ穴の下部部分に膨出部が発生するとしても,当該膨出部の大きさはクランプ用ボールに対する加圧力等に影響されることを勘案すると,刊行物1記載の発明における「メス側テーパ穴25の下部部分」に,オス側テーパピンの根本部分のテーパ面とのテーパ係合を妨げる程大きな膨出部が必ず発生すると認めるに足る根拠は見出せない。したがって,刊行物1記載の「メス側テーパ穴25の下部部分」が本件発明1の「位置決め孔12」に相当するものではないとする特許権者の主張は採用できない。
そうすると,両者の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
〈一致点1〉機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて,上記の基準部材に上記ワークパレットを心合わせして上記の基準部材の支持面に上記ワークパレットの被支持面を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記ワークパレットの上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ,上記のプラグ部分の筒孔にプルロッドを軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッドの外周空間に,半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される係合具を配置し,上記の基準部材に設けた駆動手段によって上記プルロッドをクランプ駆動することにより,そのプルロッドの出力部が上記の係合具を上記の係合位置へ切り換えて前記の係止孔へ係合させて,前記ワークパレットを前記の基準部材へ向けて移動させ,同上の駆動手段によって上記プルロッドをアンクランプ駆動することにより,同上の係合具が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した,データム機能付きクランプ装置。
〈相違点1〉前者は,係止孔より開口端の側だけに位置決め孔を形成しているのに対して,後者は,係止孔より開口端の側に加えて,頂壁側にも位置決め孔を形成している点。
〈相違点2〉前者は,プルロッドを基端方向へクランプ駆動し,それによりワークパレットを基準部材へ向けて移動させ,また,プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであるのに対して,後者は,プルロッドを先端方向へクランプ駆動し,また,プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものである点。
〈相違点3〉前者は,プラグ部分と位置決め孔との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し,そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し,上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し,上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ,上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して,後者は,シャトル部材を備えてなく,そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。
(イ) 本件発明2について本件発明2と刊行物1記載の発明とを対比すると,両者は,上記一致点1で一致し,上記相違点1,2及び下記の相違点4で相違する。
〈相違点4〉前者は,プラグ部分と位置決め孔との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し,そのシャトル部材の外周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の内周面をテーパ面によって構成し,上記ストレート面を前記の位置決め孔に軸心方向へ移動自在に支持し,上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分にテーパ係合させ,上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して,後者は,シャトル部材を備えてなく,そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。
ウ 決定の判断上記相違点1〜4等について,以下検討する。
(ア) 相違点1について刊行物1記載の発明は,係止孔より開口端の側に加えて,係止孔より頂壁側にも位置決め孔を形成しているが,仮に,刊行物1記載の発明において,係止孔よりも頂壁側に位置決め孔が形成されていない,すなわち,刊行物1記載のメス側テーパブッシュの内面が環状溝59の頂壁側ではテーパ面でないとしても,係止孔より開口端の側の位置決め孔が存在することから,基準部材にワークパレットを心合わせすることができるものと認められる。
そして,刊行物2記載の心合わせ機能付きクランプ措置では,工作テーブル2側で心合わせに寄与する円錐面25が,工作テーブル2と装置テーブル1との係止に寄与する,工作テーブル2側の環状肩材19及び装置テーブル1側の締付け手段9の鼻部12よりも下方側にしか存在しないこと,また,マシニングセンタの主軸のテーパ穴へツールホルダのテーパ軸を係合させる目的の7/24テーパに関するJIS B6340,B6339の規定によると,テーパ穴はマイナス公差に,テーパ軸はプラス公差に定められていることから,テーパ穴にテーパ軸を嵌め合わせる場合,大径側のテーパ面同士を当接させることが重要であることを勘案すると,刊行物1記載の発明において,位置決め孔を係止孔より開口端の側だけに形成するように変更することは,当業者が容易になし得ることである。
この点について,特許権者は,a 刊行物1記載の発明は,刊行物1の段落【0033】の記載からみて,押圧点が両端面の近傍に位置し,クランプ機構の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にあることで位置決め精度の向上を図るものであるから,位置決め孔を係止孔より開口端の側にだけ配置するように変更することは,係止孔に相当する環状溝59を上側に位置させる必要があり,このことは上記段落【0033】の記載と整合しないから,当該変更には阻害要因があり,b JIS B6340,B6339にテーパ穴はマイナス公差に,テーパ軸はプラス公差に定められていることから,テーパ穴にテーパ軸を嵌め合わせる場合に大径側のテーパ面同士を当接させることが重要であるとしても,当該JISの規定は二面拘束構造のものを対象としていないから,二面拘束構造の刊行物1記載の発明に上記JISの規定に基づく考えを適用することはできない,と主張する。
そこで,当該特許権者の主張について検討するに,aについてはイ(ア)で述べたとおりであり,また,bについては下記(ウ)で示すとおりであり,したがって,特許権者の上記主張は採用できない。
(イ) 相違点2について刊行物4記載の「ツール支持部材34」,「ツールホルダ10」,「ロックロッド38」及び「シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68」は,その構造及び機能からみて,それぞれ本件発明1,2の「基準部材」,「可動部材」,「プルロッド」及び「ソケット穴の頂壁」というべきものであり,そうすると,刊行物4には,基準部材に可動部材を固定するクランプ装置において,「プルロッドを基端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり,また,プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであって,そのアンクランプ駆動により,プルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものである」との事項が示されていると認められる。
そして,刊行物1記載の発明と当該刊行物4記載の事項とは,「基準部材に可動部材を固定するクランプ装置」という同一の技術分野に属するものであるから,刊行物1記載の発明に刊行物4記載の事項を組み合わせ,刊行物1記載の発明の相違点2に係る構成を本件発明1,2のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。
特許権者は,刊行物1記載の発明と刊行物4記載の事項を組み合わせる点について,a 前者が,機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するものであるのに対して,後者は,工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定するものである,言い換えれば,前者は,基準部材が静止固定側の部材であるのに対して,後者は,基準部材が回転する部材であり,b 前者の被固定物は,大重量で偏平形状であるのに対して,後者の被固定物は,細長くて小型かつ小重量のものであり,c 前者のクランプ装置は複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられるものであるのに対して,後者のクランプ装置は単独で使用されるものであるから,互いに技術分野を異にし,したがって両者を組み合わせることができない,と主張する。
しかし,当該特許権者の主張は,下記(ウ)で示す理由から採用できない。
(ウ) 相違点3について刊行物3記載の「主軸1」,「工具ホルダー8」,「スリーブ3」及び「テーパ孔2」は,その構造及び機能からみて,それぞれ本件発明1の「基準部材」,「可動部材」,「シャトル部材」及び「位置決め孔」に相当するものであり,そうすると,刊行物3には,基準部材に可動部材を固定するクランプ装置において,「プラグ部分と位置決め孔との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し,そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し,上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し,上記テーパ面を,その先端へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ,上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものである」との事項が示されていると認められる。
そして,刊行物1記載の発明と当該刊行物3記載の事項とは,「基準部材に可動部材を固定するクランプ装置」という同一の技術分野に属するものであるから,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせ,刊行物1記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明1のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。
この点に関連して,特許権者は,a 刊行物1記載の発明と刊行物3,4記載の事項とは,前者が,機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するものであるのに対して,後者は,工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定するものである,言い換えれば,前者は,基準部材が静止固定側の部材であるのに対して,後者は,基準部材が回転する部材であり,前者の被固定物は,大重量で偏平形状であるのに対して,後者の被固定物は,細長くて小型かつ小重量のものであり,前者のクランプ装置は複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられるものであるのに対して,後者のクランプ装置は単独で使用されるものであるから,互いに技術分野を異にするから,両者を組み合わせることができない,また,b 刊行物1記載の発明は,位置決め精度向上のために,環状溝よりも下側のテーパ穴の背丈を小さくする必要があり,一方,刊行物3記載のスリーブは軸方向に大きな背丈を必要とすること,また,刊行物1記載の発明では,クランプ用ボールの集中応力により環状溝の下側のテーパ穴の周方向複数箇所が膨出し,該膨出で歪みが発生する下側テーパ穴を精密な位置決め孔として利用することが不可能であることから,刊行物1記載の環状溝よりも下側のテーパ穴に刊行物3記載のスリーブを適合させることは極めて困難である,と主張する。
当該特許権者の主張のうち,bについてはイ(ア)で述べたとおりである。そこで,上記aの主張について検討するに,機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定する刊行物1記載のクランプ装置と,工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定する刊行物3,4記載のクランプ装置とは,ともに工作機械に使用されるクランプ装置であること,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であることから,技術分野及び課題を共通にするものと云える。したがって,特許権者の上記主張は採用できない。
(エ) 相違点4について刊行物3記載の「スリーブ3」は,その内周面がストレート面で外周面がテーパ面で構成され,また,上記テーパ面をテーパ孔2の内周面にテーパ係合する点で,外周面がストレート面で内周面がテーパ面であり,上記テーパ面をテーパ孔でない側のプラグ部分の外周テーパ面とテーパ係合する点で本件発明2の「シャトル部材」とは相違する。しかしながら,テーパ孔でない側の外周テーパ面と内周テーパ面を有する部材の内周面とをテーパ係合させて心あわせを行うことは,刊行物2に示されている。
そして,当該刊行物2記載の事項は刊行物1記載の発明及び刊行物3記載の事項と同じく,「データム機能付きクランプ装置」という技術分野に属するものである。
そうすると,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせるに際して,刊行物2記載の事項を勘案して,刊行物1記載の発明の相違点4に係る構成を本件発明2のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。
エ 決定のむすび以上のとおりであるから,本件発明1,2についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
したがって,本件発明1,2についての特許は,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
当事者の主張の要旨
1 原告主張の決定取消事由(1) 取消事由1(相違点1の認定の誤り)決定は,刊行物1記載の発明が「上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,」との構成を有していると認定し,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点1が,「前者は,係止孔より開口端の側だけに位置決め孔を形成しているのに対して,後者は,係止孔より開口端の側に加えて,頂壁側にも位置決め孔を形成している点。」であると認定した。
ア しかしながら,刊行物1記載の発明のテーパ穴25は,図3のとおり,環状溝59の上側部であり(テーパ穴25が密着するテーパ面27も,ボール58の上側部である。),かつ,刊行物1に,環状溝59の下側部がテーパ穴25であることを示唆する記載はない。
イ したがって,本件発明1の位置決め孔12に相当する刊行物1記載の発明のテーパ穴は,環状溝59よりも頂壁側(上側部)にのみ存在し,開口端側(下側部)には存在しないから,刊行物1記載の発明が「上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,」との構成を有しているとの認定は誤りであり,その結果,決定は,相違点1の認定を誤ったものである。
(2) 取消事由2(相違点3及び4の認定の誤り)決定は,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点3及び本件発明2と刊行物1記載の発明との相違点4として,「前者は,プラグ部分と位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し,」と認定した。
ア 本件発明1及び2は,基準部材及びワークパレットを,前記第2の2のとおりに構成し,これにより,高精度な心合わせとクランプ装置の長期間にわたる良好な使用を実現したものであって,それぞれの部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかは,当該発明の新規性に深く関与する事柄であり,刊行物1記載の発明との相違点を認定するに当たっては,相違点に係る各部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかを明確にすべきである。
イ しかるに,決定は,相違点の判断において,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせて,相違点に係る構成を本件発明1及び2のそれとすることは,当業者が容易になし得ることであるとしているところ,本件発明1及び2は,「基準部材に設けられたプラグ部分とワークパレットのソケット穴に設けられた位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し」たものであるのに対し,刊行物3記載の事項は,「可動部材に設けられたプラグ部分と基準部材に設けられた位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し」たものであるから,刊行物3には,本件発明1及び2の上記構成は記載されていない。
相違点の判断において,部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかを無視することになるような相違点の認定をすることは,相違点を過度に上位概念化するものであって,誤りである。
ウ また,近年,特許法については,国際的な統一化を図る基調が高まっているから,立法的な差異はともかく,判断基準は統一化されるべきである。そして,米国特許商標庁は,再審査事件において,本件発明と刊行物3との技術的な対比をするに当たり,各構成が基準部材にあるのか,可動部材にあるのかを重視した判断をし,欧州特許庁も,特許異議申立事件において,本件発明と刊行物3との技術的な対比をするに当たり,各構成が基準部材にあるのか,可動部材にあるのかを重視した判断をしているから,このような国際的な判断基準を考慮すべきである。
エ そうすると,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点3及び本件発明2と刊行物1記載の発明との相違点4は,「前者は,基準部材に設けられたプラグ部分とワークパレットのソケット穴に設けられた位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し,」と認定すべきであるから,決定は,相違点3及び4の認定を誤ったものである。
(3) 取消事由3(相違点3の判断の誤り)決定は,刊行物3に「上記テーパ面をその先端へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されていると認定し,「刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせ,刊行物1記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明1のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。」と判断した。
ア しかしながら,テーパ面である以上,一方の端面に向かってすぼまり,他方の端面に向かって拡がるのはいうまでもないから,「その先端へ向けてすぼまる」との決定の認定は,テーパ面であることを言い換えただけであって,決定は,その取付けの方向(すぼまっている側の方向)を認定していない。
イ また,決定は,相違点3の判断において,刊行物3に「上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されていると認定するが,刊行物3には係止孔が存在しないから,「係止孔へ向けて」と認定する余地はない。
ウ 上記のとおり,決定は,刊行物3のテーパ面の取付けの方向(すぼまっている側の方向)を認定していないから,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせても,相違点3は解消されず,これを本件発明1の構成とすることはできない。
したがって,「刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせ,刊行物1記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明1のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。」とした決定の判断は誤りである。
(4) 取消事由4(刊行物1記載の発明に刊行物3又は4記載の事項を組み合わせることの誤り)決定は,「刊行物1記載の発明に刊行物4記載の事項を組み合わせ,刊行物1記載の発明の相違点2に係る構成を本件発明1,2のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。」(相違点2),「刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせ,刊行物1記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明1のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。」(相違点3),「刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせるに際して,刊行物2記載の事項を勘案して,刊行物1記載の発明の相違点4に係る構成を本件発明2のそれとすることは,当業者が容易になし得ることである。」(相違点4)と判断した。
ア しかしながら,刊行物1記載の発明は,ワークパレットのクランプに関する発明であって,固定された基準部材に加工されるワークを取り付けたワークパレットを取り付けるものであるから,基準部材とワークパレットは基本的に不動である。これに対し,刊行物3又は4記載の事項は,高速機械加工用のスピンドルに固定されるツールホルダに関する発明であって,加工時に,基準部材が高速で回転し,ツールホルダには強力な回転力が生じる。そうであるから,刊行物1記載の発明と刊行物3又は4記載の事項とは,その設計思想や設計者が直面している課題が根本的に異なる。
イ しかも,刊行物3記載の工具ホルダーは,スリーブ(本件発明1及び2のシャトル部材に相当する。)と弾性部材を採用し,テーパ孔とテーパ面とを密着し,かつ,主軸端面とフランジ端面を密着した二面拘束を実現したのに対し,刊行物1記載のワークパレットは,シャトル部材も,弾性部材も備えないで,テーパ孔とテーパ面とを密着し,かつ,パレット端面とテーブル端面を密着した二面拘束を実現したものであって,同一の技術課題(二面拘束)の解決のための技術的思想を異にするから,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することの動機付けはない。
ウ したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3又は4記載の事項を組み合わせることはできないから,決定の上記判断は誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1(相違点1の認定の誤り)に対してア 刊行物1の段落【0030】の記載によれば,メス側テーパブッシュ34の内面は,その中程の環状溝59以外ではすべてテーパ面のテーパ穴であり,また,図3によれば,テーパ穴が,メス側テーパブッシュ34の環状溝59の上部のみならず,環状溝59の下部にも及んでいる(同様に,オス側テーパピン40の外面も,ボール58のための貫通孔65以外はすべてテーパ面である。)。そして,刊行物1に,テーパ穴25の上部部分のみが位置決めに関与し,下部部分は位置決めに関与しないことをうかがわせるような記載はない。
イ そうであれば,刊行物1記載の発明が「上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,」との構成を有しているとの決定の認定に誤りはなく,相違点1の認定にも誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点3及び4の認定の誤り)に対してア 決定は,プラグ部分が基準部材に設けられ,位置決め孔がワークパレット(可動部材)のソケット穴に設けられていることを一致点として認定し,一致点である上記事項を除き,相違点3及び4を認定したのである。
イ 米国特許商標庁の再審査事件において,対象としているのは本件特許ではなく,本件特許の親出願に対応する米国出願であって,進歩性の判断材料となる主引例は刊行物1ではない。また,欧州特許庁の特許異議申立事件において,対象としているのは本件特許ではなく,本件特許の親出願に対応する欧州出願であって,審理する異議理由も刊行物1を主引例とするものではない。このように,対象となる特許,進歩性判断の基礎となる主引例が本件と相違するから,米国特許商標庁や欧州特許庁の判断は,参考にすることができない。
ウ したがって,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点3及び本件発明2と刊行物1記載の発明との相違点4として,「前者は,プラグ部分と位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し,」と認定したことに誤りはない。
(3) 取消事由3(相違点3の判断の誤り)に対してア 決定は,刊行物3記載の事項における,シャトル部材のテーパ面のすぼまっている側を「テーパ面の先端」側,すなわち,刊行物3の図1の左側の「テーパ係合を緊密にする」側と認定している。
イ また,決定は,相違点3の判断において,刊行物3に「上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されているとは認定していない。
ウ したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせて,刊行物1記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明1のそれとすることは,当業者が容易になし得ることであって,決定の判断に誤りはない。
(4) 取消事由4(刊行物1記載の発明に刊行物3又は4記載の事項を組み合わせることの誤り)に対してア 機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定する刊行物1記載のクランプ装置と,工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定する刊行物3又は4記載のクランプ装置とは,工作機械に使用されるクランプ装置であるとともに,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,技術分野を共通にする。
そして,刊行物1には,テーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うことが示されているから,刊行物1記載の発明に刊行物3又は4記載の発明の二面拘束構造を組み合わせることは,当業者が容易になし得ることである。
イ したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3又は4記載の事項を組み合わせることに困難はないから,決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1の認定の誤り)について(1) 刊行物1(甲8)には,次の記載がある。
ア 「・・・メス側テーパ穴25及び端面26を有するとともに凹部32内に配設されてパレット20に締結固定されたメス側テーパブッシュ34・・・」(段落【0021】)イ 「凹部32は,パレット裏面23に設けられた突出部36に形成されており,凹部32内に装着されたメス側テーパブッシュ34は,複数の締付けボルト37により突出部36に締結固定されている。・・・」(段落【0024】)ウ 「オス側テーパ面27及び端面28を有するオス側テーパピン40が,複数の締付けボルト41によりテーブル1に位置決め固定されている。・・・」(段落【0025】)エ 「テーパブッシュ34及びテーパピン40は,テーパ穴25にテーパ面27が密着し,且つ平面状のメス側端面26に平面状のオス側端面28が密着して二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」(段落【0026】)オ 「テーパピン40に放射状に形成された複数(例えば3個)の貫通孔65内にはそれぞれボール58が遊嵌されている。各ボール58は,テーパピン40の半径方向に移動可能になっており,またテーパブッシュ34に形成された環状溝59内に移動できるようになっている。・・・」(段落【0030】)カ オス側テーパピン40の端面28とメス側テーパブッシュ34の端面26とは密着し,オス側テーパピン40は,端面28の内側から上方に向けてすぼまるように立ち上がる凸状部分を有し,かつ,メス側テーパブッシュ34の端面26の内側から上方に向けてすぼまるように形成された凹状部分に対し,オス側テーパピン40の貫通孔65,メス側テーパブッシュ34の環状溝59を除いて密着している(図3)。
(2) 上記(1)によれば,刊行物1記載の発明は,メス側テーパブッシュ34のテーパ穴25及び端面26が,オス側テーパピン40のオス側テーパ面27及び端面28にそれぞれ密着して二面拘束状態になるものであるが,メス側テーパブッシュ34には環状溝59が形成され,オス側テーパピン40には複数の貫通孔65が放射状に形成されている。ところで,刊行物1には,図3の上方に向けてすぼまるように形成されたメス側テーパブッシュ34の凹状部分について,環状溝59よりも頂壁側(上側部)のみが二面拘束に関与し,開口端側(下側部)がこれに関与していないことをうかがわせる記載はないから,メス側テーパブッシュ34の凹状部分の内周面は,環状溝59以外が二面拘束に供されるテーパ穴25であると認めるのが相当である。そして,そうであれば,オス側テーパピン40の凸状部分の外周面も,同様に,貫通孔65以外が二面拘束に供されるテーパ面27であると認めるのが相当である。
(3) 原告は,刊行物1記載の発明のテーパ穴25は,図3のとおり,環状溝59の上側部であり(テーパ穴25が密着するテーパ面27も,ボール58の上側部である。),かつ,刊行物1に,環状溝59の下側部がテーパ穴25であることを示唆する記載はないから,本件発明1の位置決め孔12に相当する刊行物1記載の発明のテーパ穴は,環状溝59よりも頂壁側(上側部)にのみ存在し,開口端側(下側部)には存在しないと主張する。確かに,図3は,テーパ穴25が環状溝59の上側部を指し示し,また,テーパ面27もボール58の上側部を指し示しているかのようであるが,上記(1)アないしオの記載をも合わせ考えると,上記(2)のとおり,テーパ穴25は,環状溝59以外のメス側テーパブッシュ34の凹状部分の内周面であると認めるのが相当であるから,原告の上記主張は,採用の限りでない。
(4) したがって,刊行物1記載の発明が「上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,」との構成を有しているとした決定の認定に誤りはなく,相違点1の認定にも誤りはないから,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(相違点3及び4の認定の誤り)について(1) 本件発明1及び2の要旨は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,プラグ部分と位置決め孔についてみると,「上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて,そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し,その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し,上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ,」という構成である。
そして,刊行物1記載の発明について,本件発明1及び2のプラグ部分と位置決め孔に相当する部材をみてみると,決定が認定したように,「上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,上記凹部へ挿入される環状のオス側テーパピン40を上記のテーブル1から突設させ,」という構成である(なお,原告は,「その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,」とした決定の認定を争うが,決定の認定に誤りがないことは,1に判示したところである。)。
そうであれば,本件発明1及び2と刊行物1記載の発明とは,「上記ワークパレットの上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ,」との構成において一致しているといわなければならない。
(2) 原告は,それぞれの部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかは,当該発明の新規性に深く関与する事柄であり,刊行物1記載の発明との相違点を認定するに当たっては,相違点に係る各部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかを明確にすべきであると主張する。
しかしながら,決定は,第2の3のとおり,本件発明1及び2と刊行物1記載の発明について,それぞれの部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかを認定した上,「上記ワークパレットの上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ,」との構成において一致するとし,これを除いた事項を,相違点3及び4としたのであって,それぞれの部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかについて認定しているのである。
原告の上記主張は,決定を正解しないものであって,採用することができない。
(3) また,原告は,刊行物3には,本件発明1及び2の「基準部材に設けられたプラグ部分とワークパレットのソケット穴に設けられた位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し」たとの構成は記載されていないから,相違点の判断において,部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかを無視することになるような相違点の認定をすることは相違点を過度に上位概念化するものであって,誤りであると主張する。
しかしながら,決定は,上記(2)のとおり,一致する構成を除いた事項を相違点3及び4としたものであるところ,本件発明1及び2と刊行物1記載の発明とは,部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかについて一致しているから,これを相違点としなかったのである。そして,刊行物3に,本件発明1及び2の「基準部材に設けられたプラグ部分とワークパレットのソケット穴に設けられた位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し」たとの構成が記載されていないとしても,刊行物3は,刊行物1記載の発明が「シャトル部材を備えてなく,そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない」との相違点3及び4に係る構成について判断するために引用したのであって,部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかについては相違点3及び4の判断に関係しないことであるから,相違点の判断において,部材が基準部材とワークパレットとのいずれに設けられているかが検討されなかったとしても,相違点を過度に上位概念化して認定したということはできない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(4) さらに,原告は,米国特許商標庁も,欧州特許庁も,本件発明と刊行物3との技術的な対比をするに当たり,各構成が基準部材にあるのか,可動部材にあるのかを重視した判断をしているから,このような国際的な判断基準を考慮すべきであると主張する。
しかしながら,米国特許商標庁が再審査事件において対象としているのは,本件特許に係る出願ではなく,その親出願に対応する米国出願であって,進歩性の判断材料となる主引用例も刊行物1ではない(甲4)。また,欧州特許庁が異議審理事件において対象としているのも,本件特許に係る出願ではなく,その親出願に対応する欧州出願であって,異議理由の審理における主引用例も刊行物1ではない(甲7)。決定は,本件特許を対象とし,進歩性の判断の基礎となる主引用例を刊行物1とするものであり,かつ,上記(1)のとおり,本件発明1及び2と刊行物1記載の発明とは,「上記ワークパレットの上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ,」との構成において一致しているのであって,各構成が基準部材にあるのか,可動部材にあるのかは相違点にはなっていないから,米国特許商標庁や欧州特許庁の事件とは,事案を異にする。
原告の上記主張も,採用の限りでない。
(5) したがって,本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点3及び本件発明2と刊行物1記載の発明との相違点4につき,「前者は,プラグ部分と位置決め孔との間に,・・・シャトル部材を配置し,」とした決定の認定に誤りはないから,原告主張の取消事由2は,理由がない。
3 取消事由3(相違点3の判断の誤り)について(1) 刊行物3(甲10)には,「前記スリーブ3は,内外周面を有するリング状体で,その外周面がテーパ面に形成され,その内周面はストレート面に形成されている。・・・」(【0019】),「このとき,スリーブ3は弾性部材6の圧縮による反発力により軸方向に押圧され,該押圧力により,スリーブ3のテーパ面と主軸1のテーパ孔2とのテーパ接触結合が得られる。そして,このテーパ接触による締め付けによりスリーブ3の内径は縮径し,シャンク部4を強固に把持する。・・・」(【0031】)と記載され,また,図1には,スリーブ3の外周面に形成されたテーパ面が主軸1のテーパ孔2と接触結合した装着構造が側断面図として示されているが,当該テーパ面の側断面を示す上下二本の直線が同図中の左側において交わるように記載されている。以上の記載によれば,テーパ面は,図1の左側へ向けてすぼまるように形成されていると認められる。
また,刊行物3には,「・・・本発明の工具ホルダーは,工作機械の主軸1のテーパ孔2に嵌合するスリーブ3と,・・・を有する。」(【0017】),「前記工作機械の主軸1には,該主軸1のテーパ孔2に装着された工具ホルダーを引き込むための引張手段7が内装されている。・・・」(【0018】)と記載されているところ,図1の左側は,主軸1からみたときにスリーブ3を有する工具ホルダーを引き込む方向を指しているから,スリーブ3からこれをみたときにはその先端方向を指すということができる。
そうであれば,スリーブ3のテーパ面は,図1の左側,すなわち,その先端へ向けてすぼまるように形成されているということができるのであって,決定が,刊行物3に「上記テーパ面をその先端へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されていると認定したことに誤りはない。
(2) 原告は,「その先端へ向けてすぼまる」との決定の認定は,テーパ面であることを言い換えただけであって,決定は,その取付けの方向(すぼまっている側の方向)を認定していないと主張する。
しかし,すぼまっている側の方向は,上記(1)のとおり,刊行物3の図1の左側,すなわち,その先端側であるということができるのであって,決定は,そのとおり認定しているから,取付けの方向(すぼまっている側の方向)を認定していないとの原告の主張は,採用することができない。
(3) また,原告は,刊行物3には係止孔が存在しないから,刊行物3に「上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されていると認定する余地はないと主張する。
しかし,決定は,刊行物3に「上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されていると認定したわけではなく,「上記テーパ面を,その先端へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されていると認定した上,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせて,本件発明1及び2の「上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成する」という構成とすることは,当業者が容易になし得ると判断したのである。原告の上記主張は,決定を正解しないものであって,採用の限りでない。
(4) したがって,刊行物3に「上記テーパ面をその先端へ向けてすぼまるように形成する」との構成が記載されているとした決定の認定に誤りはなく,これを前提に,相違点3について判断したことにも誤りはないから,原告主張の取消事由3は,理由がない。
4 取消事由4(刊行物1記載の発明に刊行物3又は4記載の事項を組み合わせることの誤り)について(1) 刊行物1には,次の記載がある。
ア 「【産業上の利用分野】本発明は,パレットのクランプ装置に関し,特に工作機械のテーブルに対してパレットを正確に位置決めするパレットのクランプ装置に関する。」(段落【0001】)イ 「従来のパレットのクランプ装置としては,・・・実開昭63-4239号公報及び実開平5-26241号公報のように,テーパ面を有する複数(通常4個)のコーンパッド(テーパピン)を,テーパ穴を有するテーパブッシュにそれぞれ装着してパレットをクランプするものが提案されている。」(段落【0003】)ウ 「一方,後者のクランプ装置では,コーンパッドとテーパブッシュとがテーパ部で密着するので水平方向の精度は比較的良いが,端面が非接触なので縦方向(例えば上下垂直方向)の繰り返し精度のばらつきが大きかった。 また,テーパ部のみでクランプしているのでクランプ力が弱く,パレットを強固にクランプすることが難しかった。そのため,ワーク加工中にパレットに反力が加わるとパレットが不安定となって動くこともあり,加工精度が低下する虞れがあった。」(段落【0005】)エ 「【作用】本発明においては,パレット側装着部のメス側テーパ穴及び端面に,テーブル側のオス側テーパ面及び端面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束とし,またこの構造のクランプ機構を少なくとも4組設けてパレットをテーブルに装着している。」(段落【0011】)オ 「図1及び図2に示すように,クランプ装置22は,少なくとも4組のクランプ機構30,31を備えている。クランプ機構30,31は,パレット20の裏面23側に設けられたパレット側装着部24のメス側テーパ穴25及び端面26に,テーブル1に設けられたオス側テーパ面27及び端面28をそれぞれ密着させて,パレット20をテーブル1に着脱可能に装着している。これにより,パレット側装着部24はテーブル1に対してテーパ面部と端面部との二面拘束によりクランプされる。」(段落【0020】)(2) 上記(1)によれば,工作機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するクランプ装置において,テーパ面を有する複数(通常4個)のコーンパッド(テーパピン)を,テーパ穴を有するテーパブッシュにそれぞれ装着してパレットをクランプするものは,端面が非接触なので縦方向(例えば上下垂直方向)の繰返し精度のばらつきが大きく,また,テーパ部のみでクランプしているので,クランプ力が弱く,パレットを強固にクランプすることが難しいという課題があったところ,刊行物1記載の発明は,このような課題を解決するために,パレット側装着部の端面及びメス側テーパ穴に,テーブル側の端面及びオス側テーパ面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束によりクランプするという構成を採用したものであると認められる。
(3) 刊行物3記載のクランプ装置は,工作機械の主軸に工具ホルダーを固定するものであるところ,「・・・本発明の工具ホルダーは,工作機械の主軸1のテーパ孔2に嵌合するスリーブ3と,・・・シャンク部4と一体的に設けられて前記主軸の端面に当接するフランジ部5と・・・」(段落【0017】),「前記フランジ部5のシャンク部側の端面は,前記工作機械の主軸1の端面に面接当する・・・」(段落【0021】),「このとき,主軸1のテーパ孔2と,工具ホルダーのスリーブ3のテーパ面とが密着嵌合する。・・・」(段落【0029】),「このとき,スリーブ3は弾性部材6の圧縮による反発力により軸方向に押圧され,該押圧力により,スリーブ3のテーパ面と主軸1のテーパ孔2とのテーパ接触結合が得られる。・・・」(段落【0031】),主軸1の端面と工具ホルダーのフランジ部5のシャンク部側の端面とが密着し,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダーのスリーブ3の外周面に形成されたテーパ面とが密着していること(図1)に照らせば,主軸1の端面及びテーパ孔2に,工具ホルダーのフランジ部5のシャンク部側の端面及びスリーブ3のテーパ面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束するという構成を採用したということができる。
また,刊行物4記載のクランプ装置も,工作機械の主軸に工具ホルダーを固定するものであるところ,「この前向き回転面52は,半径方向内側に面しており,後方側へ向かって小径化するようにテーパになっており,図示のように好ましくは円錐状であり,シャンク14の第1回転面20と同じ角度でテーパー化している。シャンク14の第1回転面20と穴の前向き回転面52は,弾性的に密着し,ツールホルダの後向き面16がツール支持部材34の前向き面52に当接する。」(4欄18ないし29行目),ツール支持部材34の前向き面52とツールホルダの後向き面16とが密着し,ツール支持部材34の穴51の前向き回転面52(テーパ)とツールホルダのシャンク14の第1回転面20(テーパ)とが密着していること(図2)に照らせば,ツール支持部材34の前向き面52及び穴51の前向き回転面52に,ツールホルダの後向き面16及びシャンク14の第1回転面20をそれぞれ同時に密着させて二面拘束するという構成を採用したということができる。
(4) そして,機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定する刊行物1記載のクランプ装置と,工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定する刊行物3及び4記載のクランプ装置とは,共に工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,技術分野を共通にする。
そうであれば,刊行物1記載の発明に刊行物3及び4記載の事項を組み合わせることは,当業者が容易になし得るものであると認められる。
(5) 原告は,刊行物1記載の発明は基準部材とワークパレットが基本的に不動であるのに対し,刊行物3及び4記載の事項は加工時に基準部材が高速で回転するから,刊行物1記載の発明と刊行物3及び4記載の事項とは,その設計思想や設計者が直面している課題が根本的に異なると主張する。
しかしながら,上記(4)のとおり,刊行物1記載のクランプ装置と刊行物3及び4記載のクランプ装置とは,共に工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,かつ,その設計思想や課題ないしその背景にある技術は基本的に共通するのであるから,刊行物1記載の発明に刊行物3及び4記載の二面拘束の構成を組み合わせることは格別妨げられないというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。
(6) また,原告は,刊行物3記載の工具ホルダーと刊行物1記載のワークパレットとは,同一の技術課題(二面拘束)の解決のための技術的思想を異にするから,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用する動機付けがないと主張する。
しかし,刊行物3には,「前記従来の工具ホルダーは,そのフランジ部の外周面に凹設された周溝部を自動工具交換装置のアームで把持することにより,工作機械の主軸のテーパ孔に着脱自在に装着される。この装着の時,スリーブ外周面のテーパ面が主軸のテーパ孔に嵌合し,主軸端面とフランジ端面との間には,所定の間隙が形成されている。そして,主軸に内装された引張手段により工具ホルダーが主軸内方に引き込まれることによりフランジ端面が主軸端面に当接する。このとき,スリーブは,弾性部材によって押圧され,主軸のテーパ孔との結合を強固にすると共に,スリーブの内径が縮径して,スリーブとシャンク部との結合が強化される。即ち,前記従来の工具ホルダーは,工作機械の主軸のテーパ孔と工具ホルダーのシャンク部のテーパ面,及び,主軸端面と工具ホルダーのフランジ部端面の二個所で主軸に密着当接し,且つ,スリーブとシャンク部との結合を強化することにより,同じ引っ張り力において,テーパ孔とテーパ面の一個所のみにより結合されるものよりも強固な結合剛性を得ようとするものであった。」(段落【0005】,【0006】)との記載があるから,刊行物3に接した当業者は,より強固な二面拘束を実現することを期待して,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項の適用を試みると考えられる。そうであれば,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用することの動機付けはあるということができる。原告の上記主張は,採用の限りでない。
(7) したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3又は4記載の事項を組み合わせることに困難はないから,原告の取消事由4は,理由がない。
結論
以上のとおりであって,原告の主張する決定取消事由は,すべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文