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事件 平成 15年 (行ケ) 209号 審決取消請求事件
原告 日本電気株式会社
原告 埼玉日本電気株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 新保克芳
上記両名訴訟代理人弁理士 鈴木康夫,臼田保伸
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 濱野友茂,佐藤秀一,桂正憲,山下剛史,小曳満昭,伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が訂正2002-39245号事件について,平成15年4月15日にした審決を取り消す。」との判決
事案の概要
本件は,特許権者である原告らが,訂正審判の請求をしたところ,請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告らは,発明の名称を「電子機器」とする第3093727号(平成5年4月26日に出願した特願平5-98289号を平成10年5月21日に分割出願,平成12年7月28日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 本件特許について特許異議の申立てがされ(異議2001-70972号事件として係属),特許庁は,平成13年9月12日,本件特許を取り消す旨の決定をした。
(3) 原告らは,上記決定に対する取消訴訟(東京高等裁判所平成13年(行ケ)第479号)を提起し,その係属中である平成14年11月21日に,明細書の特許請求の範囲を後記2記載のとおり訂正する旨の訂正審判の請求をした(訂正2002-39245号事件として係属)ところ,特許庁は,平成15年4月15日,本件審判請求は成り立たない旨の審決をし,同月25日,その謄本を原告らに送達した。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 設定登録時のもの 「【請求項1】第1のフロントケースと第1のリアカバーとから構成される第1の筐体と,第2のフロントケースと第2のリアカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ部により回動可能に接続されており, 前記第1のフロントケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と,前記第1のリアカバーの端部に設けられた円弧状の第2の曲面部とが係合し前記第1の筐体の端部に該筐体と内通する略円筒状の第1の空洞部を構成し,前記第2の筐体の端部には該筐体と内通する略円筒状の第2の空洞部を構成し,前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており, 前記第1の筐体内の電気回路と前記第2の筐体内の電気回路とを接続するフレキシブル基板を前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通すことにより,前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する電子機器。
【請求項2】第1のフロントケースと第1のリアカバーとから構成される第1の筐体と,第2のフロントケースと第2のリアカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ部により回動可能に接続されており, 前記第1のフロントケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と,前記第1のリアカバーの端部に設けられた円弧状の第2の曲面部とが係合し前記第1の筐体の端部に該筐体と内通する略円筒状の第1の空洞部を構成し,前記第2のフロントケースの端部に設けられた円弧状の第3の曲面部と,前記第2のリアカバーの端部に設けられた円弧状の第4の曲面部とが係合し前記第2の筐体の端部に該筐体と内通する略円筒状の第2の空洞部を構成し,前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており, 前記第1の筐体内の電気回路と前記第2の筐体内の電気回路とを接続するフレキシブル基板を前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通すことにより,前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する電子機器。
【請求項3】前記フレキシブル基板は,その一端が前記第1の筐体内の電気回路に接続され,前記第1の筐体と前記第1の空洞部とを内通する部分を通り,前記両空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通し,前記第2の空洞部と前記第2の筐体とを内通する部分を通り,他端が前記第2の筐体内の電気回路に接続されることにより,前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する請求項1または請求項2記載の電子機器。」 (2) 訂正審判請求に係るもの 上記訂正審判請求は,(1)の請求項1を削除し,(1)の請求項2を訂正の上,請求項1とし,(1)の請求項3を請求項2としたものであり,下線部分が訂正箇所である。
「【請求項1】第1のフロントケースと第1のリアカバーとから構成される第1の筐体と,第2のフロントケースと第2のリアカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部 に設けた ヒンジ部によりフロントケース において 回動可能に締結されており, 前記第1のフロントケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と,前記第1のリアカバーの端部に設けられた円弧状の第2の曲面部とが係合し前記第1の筐体の端部に該筐体と内通する前記ヒンジ 部の締結 に係わる 部材 が存在 しない 略円筒状の第1の空洞部を構成し,前記第2のフロントケースの端部に設けられた円弧状の第3の曲面部と,前記第2のリアカバーの端部に設けられた円弧状の第4の曲面部とが係合し前記第2の筐体の端部に該筐体と内通する前記ヒンジ 部の締結 に係わる部材 が存在 しない 略円筒状の第2の空洞部を構成し,前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており, 前記第1の筐体内の電気回路と前記第2の筐体内の電気回路とを接続するフレキシブル基板を前記ヒンジ 軸の中央部 に設けた 前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通すことにより,前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する電子機器。
【請求項2】前記フレキシブル基板は,その一端が前記第1の筐体内の電気回路に接続され,前記第1の筐体と前記第1の空洞部とを内通する部分を通り,前記両空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通し,前記第2の空洞部と前記第2の筐体とを内通する部分を通り,他端が前記第2の筐体内の電気回路に接続されることにより,前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する請求項1記載の電子機器。」 3 審決の理由の概要 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正審判請求に係る訂正は,平成6年改正前の特許法(以下同じ。)126条1項ただし書1号及び2項の規定に適合するものの,訂正後の請求項1及び2に係る発明(以下「訂正発明1」及び「訂正発明2」という。)は,同条3項の独立特許要件の規定に適合しないので,訂正は認められない,というものである。
(1) 訂正の目的の適否,新規事項の追加の有無及び拡張変更の存否 本件訂正審判請求に係る訂正は,特許法126条1項ただし書1号の規定に適合し,かつ,同条2項の規定に適合する。
(2) 独立特許要件 訂正発明に係る訂正は,特許法126条1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲減縮を目的するものであるから,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下検討する。
(2-1) 引用刊行物及び刊行物に記載された発明 引用刊行物1:実公昭60-7516号公報(本訴甲4) 引用刊行物2:特開平4-233298号公報(本訴甲5) 引用刊行物3:実願昭60-30152号の願書に添付された明細書と図面を撮影したマイクロフィルム(実開昭61-146620号公報参照,本訴甲6) 引用刊行物4:実願昭60-75493号の願書に添付された明細書と図面を撮影したマイクロフィルム(実開昭61-190182号公報参照,本訴甲7) ア 刊行物1には,図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア) 第1及び第2の回路部と,これら回路部をそれぞれ実装した第1及び第2の筺体とを含み,前記第1及び第2の回路部どおしを電気的に接続する小型電子装置の接続構造において,互いに嵌合し前記第1及び第2の筺体の端部にそれぞれ設けられた少なくとも1対の軸受けと,これら軸受けに貫通し,前記第1及び第2の筺体が互いに回動可能なごとく接続するためのピンと,前記第1及び第2の回路部どおしを電気的に接続し前記ピンに巻回されたフレキシブルプリント板と,このプリント板の前記ピンに巻回した部分を覆うカバーとを含むことを特徴とする小型電子装置の接続構造。(登録請求の範囲) (イ) 第2図は本考案の実施例の要部分解斜視図である。二分割した筺体1及び2を互いに回動自在に結合させるため,蝶番と同様な構造となるように,筺体1及び2に軸受5を2箇所ずつ互いに嵌合するよう筺体と一体に成形する。これにピン6を挿入しネジ7により抜け止めとする。回路部3及び4は電気的に接続するために第3図に示す如くクランク状に曲った外形をなすフレキシブルプリント板8に鋼箔回路9を形成し,これを第2図の如くピン6に1回巻きつけた後鋼箔回路9の両端部をそれぞれ回路部3及び4にハンダ付又はコネクタ等により接続する。フレキシブルプリント板8をピン6に巻いた部分は筺体を回動させた時に生ずる長さの変化を吸収する役目をするものである。筺体1及び2に設けた半円状のカバー10及び11はフレキシブルプリント板8を覆い,外部からの損傷を避けるためのものであり,カバー11はネジ止め,あるいは接着等の方法で筺体に固定される。(公報3欄1〜19行目) (ウ) 第2図に記載された「筺体1及び2」は一面が開口しており,第1図に記載された「筺体1及び2」はキーボード,表示器,スイッチ類を実装した「蓋体」により当該開口が閉塞されている。
以上の記載及び図面並びにこの分野の技術常識を勘案し,上記「第1の筺体」と「第1の蓋体」を合わせたもの及び「第2の筺体」と「第2の蓋体」を合わせたものを便宜上「第1の部材」及び「第2の部材」と呼称すると,上記刊行物1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。
「第1の筺体と第1の蓋体とから構成される第1の部材と,第2の筺体と第2の蓋体とから構成される第2の部材とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部により筺体において回動可能に接続されており, 前記第1の筺体の端部に設けられた半円状の第1のカバーと,前記第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバーとが係合し前記第1の部材に該部材と内通する略円筒状の第1の空洞部を構成し,前記第2の筺体の端部に設けられた半円状の第3のカバーと,前記第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバーとが係合し前記第2の部材の端部に該部材と内通する略円筒状の第2の空洞部を構成し,前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており, 前記第1の部材内の回路部と前記第2の部材内の回路部とを接続するフレキシブルプリント板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内のピンにらせん状に巻いて通すことにより,前記回路部同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する小型電子装置。」 イ 刊行物2には,図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア) 【請求項1】 第1のエレメントが2つの突出部を含み,該突出部の一方がスリットを備えており,第2のエレメントが該突出部の間に係合するように構成され且つ別のスリットを備える突起を含んでおり,電気的リンクがこれらのスリットを通るように構成された,ヒンジの周囲に連接され且つ電気的リンクにより相互に接続された2つのエレメントから形成される装置であって,前記第1のエレメントが2つの半シェルから形成され,前記突出部の相対向する面が該半シェルの各々に半分ずつ含まれている円筒形状の窪みを備えており,前記突起の両端が同様に円筒形であり,該突起が前記ヒンジを形成するべく前記突出部に嵌合するように構成されていることを特徴とする装置。(特許請求の範囲,請求項1) (イ) 【0019】図1に側面図を示す本発明の装置は,第1の半シェル11及び第2の半シェル12から形成される第1のエレメント1と,第1のエレメントの周囲に連接された第2のエレメント2とから構成される。
【0020】第1のエレメントは同一軸を共有するほぼ円筒形の2つの突出部を備える。2つの半シェルの境界面13は,この軸を含む面に沿って各突出部を共有するように構成されている。第2のエレメントはこの場合単一構造であり,2つの突出部の間に導入され且つこの同一の軸に沿って固定されるように構成されたほぼ円筒形の突起を備えている。(4欄35〜45行目) (ウ) 【0037】ここで採用する実施例によると,突起201のセンタリングセクション205は第1の突出部101の近傍に配置される。この突起を第1のスリット207が貫通し,センタリングセクション205と第2の突出部121の側の端部との間の円筒形凹み204に連通している。突起201の側の第2の突出部の端部と長軸320の第4のディスク326との間には,第2の突出部121の内側を第1のエレメント1の本体に連結する第2のスリット137が設けられている。
一端が第1のエレメント1の本体に位置する可撓性回路4が第2のスリット137を貫通し,第3のディスク322及び第4のディスク326の間で長軸320の周囲にいずれかの方向に螺旋状に巻き付けられ,第1のスリット207を貫通し,第2のエレメント2の本体に配置された第2の端部により終端する。この可撓性回路はこうして第1のエレメント1と第2のエレメント2との間の電気的リンクを確保する。(6欄37行目〜7欄3行目) (エ) 【0022】第1の突出部101は,突起201に正対する円筒形状の窪み102を含む。第2の突出部121は同様に突起201に正対する円筒形状の窪み122を含む。この突起201は,円筒形状の窪み102,122の直径よりもやや小さい直径と,両端が突出部に嵌合するように選択された長さとを有する2つの円筒形端部202,203を有する。したがって,固定手段(図示せず)により2つの半シェルを結合すると,2つのエレメントは相互に自由に回転するが,並進運動は固定される。(5欄1〜10行目) (オ) 【0040】上述した通り,本発明は軸3の不在下でも適用される。(7欄14〜15行目) (カ) 【0016】本発明の装置は折り畳み式ポータブル電話機の製造に適用すると有利である。(4欄27〜28行目) 以上の記載及び図面並びにこの分野の技術常識を勘案すると,刊行物2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が開示されていると認められる。
「第1の半シェルと第2の半シェルとから構成される第1のエレメントと,第2のエレメントとがヒンジ部により回動可能に接続されており, 前記第1の半シェルの端部に設けられた2つの半円筒型突出部と,前記第2の半シェルの端部に設けられた2つの半円筒型突出部とが係合し, 前記第1のエレメントの端部に該エレメントと連通する略円筒状の第1の空洞部を構成し,前記第2のエレメントの端部には該エレメントと連通する略円筒状の第2の空洞部を構成し,前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を連通するように同軸上に隣接して配置されており, 前記第1のエレメントと前記第2のエレメントとの間を電気的に接続する可撓性回路を前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部に螺旋状に巻いて通す ことを特徴とするヒンジ部を有する折り畳み式ポータブル電話機。」 ウ 刊行物3には,図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア) 本考案によれば,本体基板に少なくとも2つ以上の支持部を形成し,それぞれ独立に短軸で軸支し,その軸上でフレームを回動自在に取り付けることによって,本体基板に一対の特別な支持板を設ける必要がなくなり,部品の削減及び組立時間の短縮が実現し,安価な機能を提供することが可能となった。また,フレームの支軸として,長尺の軸を用いないため,軸の単価が安くなるとともに,長尺の軸が占めていた空間に部品を実装することが出来,実装密度の高い小型機をつくることが出来る。さらに長尺の軸を使用しないため,組立性がよくなる利点もある。
(明細書5頁8〜19行目) また,上記刊行物4には,図面とともに以下の事項が記載されている。
(イ) 以下,第3図を参照しながら,上述した従来のナイラッチを用いた部品取付装置の一例について説明する。第3図において,1は基台であり,その一部には所定間隔あけて対向するように支持板2a,2bが設けられている。3は前記支持板2aの内壁部に他方の支持板2bの方向へ突出するように設けられた支軸,4は他方の支持板2bに穿設された孔である。また,5は例えばプリント基板等が装着された可動部材であり,その一部には,前記支持板2a,2bの間隔よりも,やや小なる間隔でもって舌片部6a,6bが相対向するように設けられ,かつ,それらには孔7a,7bが穿設されている。
以上のように構成された従来の部品取付装置を組み立てるには,まず,孔7aに支軸3を挿通し,孔2bと孔7bとを重ね合わせた状態で,それらの孔に合成樹脂等で形成されたナイラッチ8を貫挿すればよい。(明細書2頁6行目〜3頁3行目) 刊行物3及び刊行物4の記載及び図面並びにこの分野の技術常識を勘案すると,「電子機器のヒンジ構造において,第1の部材と,第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に,支軸として1つの長軸に代えて2つの独立した短軸を用いること」は単なる周知技術であり,当該構成に基づく部品実装の高密度化や組立容易性に関する作用効果も周知である。
(2-2) 対比・判断 ア 訂正発明1について 訂正発明1と引用発明1とを対比するに,引用発明1の「筺体」,「蓋体」,「部材」はそれぞれ訂正発明1の「フロントケース」,「リアカバー」,「筺体」に対応し,引用発明1の「筺体」と訂正発明1の「フロントケース」はいずれも「ケース」であるという点で一致しており,引用発明1の「蓋体」と訂正発明1の「リアカバー」はいずれも「カバー」であるという点で一致している。
また,引用発明1の「半円状の第1のカバー」,「半円状の第2のカバー」,「半円状の第3のカバー」,「半円状の第4のカバー」はそれぞれ訂正発明1の「円弧状の第1の曲面部」,「円弧状の第2の曲面部」,「円弧状の第3の曲面部」,「円弧状の第4の曲面部」を構成しており,引用発明1の「フレキシブルプリント板」と訂正発明1の「フレキシブル基板」は同じものであり,引用発明1の「(フレキシブルプリント板を)空洞部内のピンに巻く」構成と訂正発明1の「(フレキシブル基板を)空洞部の内径に沿って巻く」構成とはともに「(フレキシブル基板を)空洞部内で巻く」構成であり,引用発明1の「接続」と訂正発明1の「締結」はともに「結合」の一態様であり,引用発明1の「小型電子装置」は訂正発明1の「電子機器」の一種であるから,両者は,(一致点)「第1のケースと第1のカバーとから構成される第1の筐体と,第2のケースと第2のカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりケースにおいて回動可能に結合されており, 前記第1のケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と,円弧状の第2の曲面部とが係合し前記第1の筐体の端部に該筐体と内通する略円筒状の第1の空洞部を構成し,前記第2のケースの端部に設けられた円弧状の第3の曲面部と,円弧状の第4の曲面部とが係合し前記第2の筐体の端部に該筐体と内通する略円筒状の第2の空洞部を構成し,前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており, 前記第1の筐体内の電気回路と前記第2の筐体内の電気回路とを接続するフレキシブル基板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内でらせん状に巻いて通すことにより,前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する電子機器。」の点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点1)「ケース」と「カバー」の構成に関し,訂正発明1ではそれらがそれぞれ「フロントケース」と「リアカバー」であるのに対し,引用発明1ではそれらがそれぞれ「筺体」と「蓋体」である点。
(相違点2)「円弧状の第2の曲面部」,「円弧状の第4の曲面部」の構成に関し,訂正発明1ではそれらがそれぞれ「第1のリアカバーの端部」,「第2のリアカバーの端部」に設けられるものであるのに対し,引用発明1ではそれらがそれぞれ第1及び第2の筺体に固定される」ものである点。
(相違点3)「第1,第2の空洞部」の構成に関し,訂正発明1では「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」構成であるのに対し,引用発明1では「ピン」が存在する構成である点。
(相違点4)「フレキシブル基板」の配置に関し,訂正発明1では「空洞部の内径に沿って」らせん状に巻いて通すものであるのに対し,引用発明1では「空洞部のピンに」らせん状に巻いて通すものである点。
(相違点5)「結合」に関し,訂正発明1は「締結」であるのに対し,引用発明1は「接続」である点。
そこで,上記相違点1について検討するに,訂正発明1の「フロントケース」と「リアカバー」は互いに係合して「筺体」を構成するものであるが,例えば「筺体2」において「フロントケース」が「ダイヤルボタン17」を収容する側を指す旨の記載又は示唆はなく,「フロントケース」と「リアカバー」は単に「筺体」を構成する2つの部材を区別するために用いられる名称に過ぎないものである。そして,引用発明1の「筺体」と「蓋体」は2つの「部材」を「筺体」において回動可能に結合しているから,両者の間に実質的な差異はない。
また,この点に関し,請求人は訂正拒絶理由通知に対する意見書の中で,「引用発明1の「筺体1及び2」は,機器を開いた状態のときに背面(リア)側に位置する「リアケース」として構成されている。また,引用発明1の「ヒンジ軸を貫通するピン6を有するヒンジ部」は,「筺体1及び2」(リアケース)において回動可能に締結するものである。」旨主張しているが,訂正発明1の構成は「第1のフロントケースと第1のリアカバーとから構成される第1の筐体と,第2のフロントケースと第2のリアカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりフロントケースにおいて回動可能に締結され」ていればよいのであって,その回動の向き(例えば紙面の裏側又は表側への回動)は発明の構成要件ではなく,いずれの向きに回動してもよいのであるから,仮に訂正発明1と引用発明1の回動の向きが異なっているとしても,訂正発明1と引用発明1が「第1のケースと第1のカバーとから構成される第1の筐体と,第2のケースと第2のカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりケースにおいて回動可能に結合されて」いることにかわりはなく,上記請求人が主張する点は実質的な相違点とはいえないものである。
したがって,上記請求人の主張は採用できない。
ついで,上記相違点2について検討するに,上記引用発明2には「半円筒状の突出部」(訂正発明1でいうところの「円弧状の曲面部」)を第1及び第2の「半シェル」(訂正発明1でいうところの「フロントケース」と「リアカバー」)に一体的に設ける構成が開示されている。また,上記引用発明2には可撓性回路(訂正発明1でいうところの「フレキシブル基板」)が「内通」部においてネジ止めされていない構成も記載されている。したがって,引用発明1の「第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバー」,「第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバー」を「蓋体」(訂正発明1でいうところの「リアカバー」)の端部に一体的に設けるように構成することは容易なことである。
また,相違点3,4について検討するに,上記刊行物3又は4に開示されているように,「電子機器のヒンジ構造において,第1の部材と,第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に,支軸として1つの長軸に代えて2つの独立した短軸を用いること」は単なる周知技術であり,当該構成に基づく部品実装の高密度化や組立容易性に関する作用効果も周知であるから,引用発明1で採用している長尺のピンを2つの独立した短軸に変更する程度のことは単なる設計的事項である。また,当該変更の結果,訂正発明1の「第1,第2の空洞部」の構成が「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」ものとなり,フレキシブル基板の配置が「空洞部の内径に沿って巻く」構成となることは自明のことである。
なお,フレキシブル基板は筺体を回動させた時に生ずる長さの変化を吸収する役目をするものであり,回転角に応じてピンの外周と空洞部内周の間に形成される空間を移動するものであるから,この点においても,(フレキシブル基板を)「空洞部の内径に沿って巻く」構成と「ピンに巻く」構成との間に実質的な差異はない。
また,相違点5について検討するに,筺体間をヒンジ結合するに際し,結合の態様を「締結」とするか「接続」とするかは,これらの態様が具体的な構成・作用効果に基づくものとは認められないから,この点も単なる設計的事項である。
以上のとおりであるから,訂正発明1は,引用発明1の第2,第4のカバーを訂正発明1でいう「リアカバー」の端部に一体的に設けるように構成するとともに,ヒンジ部を2つの短軸を用いた周知の構造で構成することにより,結果として,フレキシブル基板の配置,空洞部の態様を,「空洞部の内径に沿って巻く」,「ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」ものとしたに過ぎないものであり,当業者であれば上記刊行物1〜4に記載された発明ないし周知技術に基づいて容易に推考し得たものである。
したがって,訂正発明1は,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,この訂正は,特許法126条3項の規定に適合しない。
イ 訂正発明2について 訂正発明2は訂正発明1の構成を引用し,該構成中のフレキシブル基板の構成をより限定したものであるが,フレキシブル基板の詳細な構成は上記刊行物2(上記(2-1)イ(ウ)参照)に開示されており,当該構成と訂正発明2のフレキシブル基板の間に実質的な差異はない。
したがって,訂正発明1におけるフレキシブル基板の構成を上記刊行物2に記載されたフレキシブル基板に限定して訂正発明2のように構成することは容易なことである。
以上のとおりであるから,訂正発明2は上記刊行物1〜4に記載された発明ないし周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,この訂正は,特許法126条3項の規定に適合しない。
(3) 審決のむすび 以上のとおりであるから,訂正発明1,2に係る訂正は,特許法126条1項ただし書1号及び2項の規定に適合するも,訂正発明1,2は同条3項の独立特許要件の規定に適合しないので,当該訂正は認められない。
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決は,訂正発明1と引用発明1との相違点を看過して,一致点の認定を誤り(取消事由1),訂正発明1と引用発明1との相違点1ないし4の判断を誤り(取消事由2ないし4),また,訂正発明2について,上記と同様に認定判断を誤り(取消事由5),その結果,訂正審判請求を不成立としたものであって,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正発明1と引用発明1との相違点の看過,一致点の認定の誤り) (1) 審決は,引用発明1について,「・・・第1の部材と・・・第2の部材とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部により・・・接続されており」と認定し,訂正発明1と引用発明1が,「・・・第1の筐体と・・・第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部により・・・結合されており」との点で一致すると認定した。
しかし,引用発明は,第1の部材と第2の部材とが,ヒンジ軸を貫通するヒンジ結合用のピン6により結合されているのであって,「ヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部により・・・接続されて」いるのではないから,審決は,引用発明の認定を誤り,その結果,一致点の認定を誤ったものである。
(2) 審決は,引用発明1について,「・・・第1の部材と・・・第2の部材とが・・・筺体において回動可能に接続されており」と認定し,訂正発明1と引用発明1が,「・・・第1の筐体と・・・第2の筐体とが・・・ケースにおいて回動可能に結合されており」との点で一致すると認定した。
しかし,引用発明1は,「筐体(リアケース)において回動可能に接続されて」いるのに対し,訂正発明1は,「フロントケースにおいて回動可能に締結されて」いるのであって,その構成が異なるものであるから,審決は,相違点を看過し,一致点の認定を誤ったものである。
(3) 審決は,引用発明1について,「前記第1の筺体の端部に設けられた半円状の第1のカバーと,前記第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバーとが係合し」,「前記第2の筺体の端部に設けられた半円状の第3のカバーと,前記第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバーとが係合し」と認定し,訂正発明1と引用発明1が,「前記第1のケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と,円弧状の第2の曲面部とが係合し」,「前記第2のケースの端部に設けられた円弧状の第3の曲面部と,円弧状の第4の曲面部とが係合し」との点で一致すると認定した。
しかし,引用発明1の半円状の第2及び第4のカバーは,単独の部品であって,「筐体1及び2」の端部にフレキシブルプリント板とともに固定されるものであるのに,審決は,これを無視して,上記のとおり引用発明1を認定し,その結果,一致点の認定を誤ったものである。
(4) 審決は,引用発明1について,「略円筒状の第1の空洞部を構成し」,「略円筒状の第2の空洞部を構成し」と認定し,訂正発明1と引用発明1が,「略円筒状の第1の空洞部を構成し」,「略円筒状の第2の空洞部を構成し」との点で一致すると認定した。
しかし,引用発明1は,半円状のカバー10及び11が係合することにより構成される空洞部にヒンジ結合用のピン6が貫通しているために,「軸方向断面がリング状の空洞部」となっているのに,審決は,これを無視して,上記のとおり引用発明1を認定し,その結果,一致点の認定を誤ったものである。
(5) 審決は,引用発明1について,「フレキシブルプリント板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内のピンにらせん状に巻いて通す」と認定し,訂正発明1と引用発明1が,「フレキシブル基板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内でらせん状に巻いて通す」との点で一致すると認定した。
しかし,引用発明において,フレキシブルプリント板は,審決が認定したように,ヒンジ結合用のピン6に巻きつけられているのであって,「前記両空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通し」ているのではないから,審決は,一致点の認定を誤ったものである。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) (1) 審決は,訂正発明1と引用発明1との相違点1について,「訂正発明1の「フロントケース」と「リアカバー」は互いに係合して「筺体」を構成するものであるが,例えば「筺体2」において「フロントケース」が「ダイヤルボタン17」を収容する側を指す旨の記載又は示唆はなく,「フロントケース」と「リアカバー」は単に「筺体」を構成する2つの部材を区別するために用いられる名称に過ぎないものである。そして,引用発明1の「筺体」と「蓋体」は2つの「部材」を「筺体」において回動可能に結合しているから,両者の間に実質的な差異はない。」と判断した。
(2) 実開昭63-30055号公報(甲8),実開平2-51429号公報(甲9)及び特開平6-69851号公報(甲10)に係る各実用新案登録出願の願書添付の明細書及び図面からも明らかなように,使用する際に前面となるケース又はカバーを意味する用語として,「フロントケース」又は「フロントカバー」を用い,背面となるケース又はカバーを意味する用語として「リアケース」又は「リアカバー」を用いて,「フロント」と「リア」を区別することは,この種の電子機器筐体の分野では常識である。そして,本件明細書(甲2,3)には,訂正発明1の実施例を示す図1,2に,「フロントケース」が「ダイヤルボタン17」を収容する側を指すことが開示されているのである。
また,引用発明1は,開いて使用する際に背面(リア)側となる「筐体1及び2」において回動可能に結合されているから,そのヒンジ部が,「筐体1及び2」(リアケース)から「蓋体」(フロントカバー)側に,「蓋体」(フロントカバー)の厚み分だけ突出した状態で取り付けなければ,閉じたときに「蓋体」同士を密着させることができない。これに対し,訂正発明1は,開いて使用する際に前面(フロント)側となる「フロントケース」において回動可能に締結されているから,取り付けケースからのヒンジ軸の突出量を少なくすることができ,ヒンジ部の強度の向上及び小型化の点で,極めて有利であるという作用効果を奏する。このように,訂正発明1は,引用発明1と構成を異にし,かつ,引用発明1の構成からは予測することのできない作用効果を奏するものである。
(3) したがって,「例えば「筺体2」において「フロントケース」が「ダイヤルボタン17」を収容する側を指す旨の記載又は示唆はなく,「フロントケース」と「リアカバー」は単に「筺体」を構成する2つの部材を区別するために用いられる名称に過ぎない」とした上,「両者の間に実質的な差異はない」とした審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,訂正発明1と引用発明1との相違点2について,「上記引用発明2には「半円筒状の突出部」(訂正発明1でいうところの「円弧状の曲面部」)を第1及び第2の「半シェル」(訂正発明1でいうところの「フロントケース」と「リアカバー」)に一体的に設ける構成が開示されている。また,上記引用発明2には可撓性回路(訂正発明1でいうところの「フレキシブル基板」)が「内通」部においてネジ止めされていない構成も記載されている。したがって,引用発明1の「第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバー」,「第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバー」を「蓋体」(訂正発明1でいうところの「リアカバー」)の端部に一体的に設けるように構成することは容易なことである。」と判断した。
(2) 引用発明2は,2つの半シェルから形成される第1の筐体(エレメント)からの2つの突出部と第2の筐体(エレメント)からの1つの突起が係合するように構成され,第1の筐体からの突出部の円筒形状の窪みと第2の筐体からの突起の円筒形端部とを嵌合することにより,ヒンジ部が構成されるものである。これに対し,引用発明1は,「蓋体」(フロントカバー)と「筐体」(リアケース)からなり,半円状のカバー10は「筐体」と一体になっているが,半円状のカバー11は「蓋体」とは別体になっており,「筐体」が互いに軸方向に重ならないようにして,貫通ピン6により固定されるものである。
このように,引用発明2と引用発明1では,具体的なヒンジ構造が全く異なるところ,ヒンジ構造は,複数の部材の組合せで完成するものであって,その一部のみを取り出して,他のヒンジ構造に適用することはできない。仮に引用発明2の「半円筒状の突出部」を引用発明1に適用して訂正発明1のヒンジ構造を得ようとすると,引用発明2の2つの突出部のうちの一方のみを取り出し,かつ,これから締結機能を有する構造(突出部における窪み)を除外しなければならないが,引用発明2は,ピンの有無にかかわらず,窪みによる嵌合構造は必要不可欠なものであり,このように必要不可欠な構造を除外して,引用発明2の「半円筒状の突出部」を引用発明1に適用することは,きわめて困難である。しかも,引用発明2の「半円筒状の突出部」を引用発明1に適用すると,引用発明1における貫通ピン6によるヒンジ結合に,引用発明2における2つの突出部及び突起部の嵌合によるヒンジ結合を付加した構成になるが,これは,訂正発明1のヒンジ軸とは全く別の構成である。したがって,引用発明2の「半円筒状の突出部」を引用発明1に適用して訂正発明1のヒンジ構造を得ることは,当業者が容易になし得るものではない。
(3) 引用発明1のピン6は,第1及び第2の筐体をヒンジ結合するとともに,フレキシブルプリント板8を巻き付けるために必須の構成要素であり,また,引用発明2も,明細書には「軸3不在下でも適用される」(【0040】)と記載されているものの,軸3を用いなければ,ヒンジ部を構成する突起部と突出部を形成する材料として高強度の材料を用いるか,あるいは突出部及び突起の厚みを十分厚くして強化する必要があるから,実際には軸3が必要不可欠である。したがって,引用発明1に引用発明2を組み合わせてみても,ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない略円筒状の空洞部を構成要素とする訂正発明1を導くことはできない。
(4) 引用発明1において,フレキシブル基板を回路部にハンダ付けする場合,らせん状に巻かれたフレキシブル基板が巻かれた状態から戻ろうとするので,あらかじめフレキシブル基板を位置決めして固定しておく必要がある。そのため,軸受け5にピン6を挿入してネジ7で抜け止めを行って筐体1及び2を連結し,次に,フレキシブル基板8をピン6に巻き,フレキシブル基板8を覆うようにカバー11をネジ止め又は接着の方法で固定して,フレキシブル基板の位置決めと固定を行うことが不可欠である。したがって,引用発明1において,「カバー11」は,蓋体と別体でなければならないのであって,蓋体と一体的に設けることはできないのである。
(5) 以上によれば,「引用発明1の「第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバー」,「第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバー」を「蓋体」(訂正発明1でいうところの「リアカバー」)の端部に一体的に設けるように構成することは容易なことである。」とした審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(相違点3,4についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点3,4について,「刊行物3又は4に開示されているように,「電子機器のヒンジ構造において,第1の部材と,第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に,支軸として1つの長軸に代えて2つの独立した短軸を用いること」は単なる周知技術であり,当該構成に基づく部品実装の高密度化や組立容易性に関する作用効果も周知であるから,引用発明1で採用している長尺のピンを2つの独立した短軸に変更する程度のことは単なる設計的事項である。また,当該変更の結果,訂正発明1の「第1,第2の空洞部」の構成が「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」ものとなり,フレキシブル基板の配置が「空洞部の内径に沿って巻く」構成となることは自明のことである。」と判断した。
(2) 刊行物3及び4には,訂正発明1の構成上の特徴である,@フロントケースとリアカバーとから構成される第1,第2の筐体を,フロントケースにおいて回動可能にヒンジ結合すること,A2つの筐体の電気回路基板をフレキシブル基板で接続すること,Bフロントケースとリアカバーの各端部に設けられた円弧状の曲面部を係合することによりフレキシブル基板を通すための略円筒状の空洞部を構成することについての記載がなく,また,電気的接続と機械的接続を区別するという思想についての記載も示唆もない。相違点3,4に係る訂正発明1の構成は,上記の訂正発明1の構成上の特徴や思想と相俟って理解すべきものであって,単なる「1つの長軸に代えて2つの短軸を用い」たものとは区別されなければならないし,実際にも,刊行物3及び4からは,訂正発明1の作用効果を予測することができないのである。
(3) 引用発明1において,軸受けを貫通する「ピン」は,ヒンジ結合用のピンであるとともに,フレキシブルプリント板を巻回するためのピンであって,必要不可欠の構成要件であるから,引用発明1から,「ピン」を除いた構成を想到することは到底不可能である。
(4) 訂正発明1は,らせん状に巻いたフレキシブル基板を,ヒンジ軸の両端部でヒンジ結合されたフロントケース端部に設けられた円弧状の第1,第3曲面部の内径に沿って載置し,その上からリアカバーの端部に設けられた円弧状の第2,第4曲面部を被せれば,フレキシブル基板を略円筒状の空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通す構成とすることが可能であり,ヒンジ結合した後にフレキシブル基板をピンに巻き付けるというような作業は不要になる。相違点4に係る「空洞部の内径に沿って巻く」という構成は,このような訂正発明1の特徴を示すものであり,その組立作業は,引用発明1又は2のように,ピン6又は軸3に巻き付ける場合と比較して格段に改善されるのである。また,訂正発明1は,機械的締結部分をヒンジ軸の両端部に分担させ,電気的接続部分をヒンジ軸の中央部に分担させているので,略円筒状の空洞部を構成する円弧状の第1ないし第4曲面部は,機械的締結機能に由来する寸法精度又は強度の面での制約を受けることがなく,さらに,フレキシブル基板の巻き径だけを考えて設計することができるから,ヒンジ軸径を小さくして電子機器全体を小型化できるという特徴がある。したがって,フレキシブル基板を「略円筒状の空洞部の内径に沿って巻く」構成と「ピンに巻き付ける」構成との間には,実質的にみて,大きな差異があり,刊行物3及び4からは,訂正発明1の作用効果を予測することができない。
(5) 以上によれば,「引用発明1で採用している長尺のピンを2つの独立した短軸に変更する程度のことは単なる設計的事項である。また,当該変更の結果,訂正発明1の「第1,第2の空洞部」の構成が「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」ものとなり,フレキシブル基板の配置が「空洞部の内径に沿って巻く」構成となることは自明のことである。」とした審決の判断は誤りである。
5 取消事由5(訂正発明2について) (1) 審決は,「訂正発明1におけるフレキシブル基板の構成を上記刊行物2に記載されたフレキシブル基板に限定して訂正発明2のように構成することは容易なことである。」と判断した。
(2) 訂正発明2は,訂正発明1の構成を引用し,該構成中のフレキシブル基板の構成をより限定したものであるが,上記1ないし5に主張したように,訂正発明1についての審決の認定判断は誤りであるから,訂正発明2についての審決の認定判断も誤りである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正発明1と引用発明1との相違点の看過,一致点の認定の誤り)について (1) 取消事由1(1)について 刊行物1(甲4)には,「互いに嵌合し前記第1及び第2の筐体の端部にそれぞれ設けられた少なくとも1対の軸受けと,これら軸受けに貫通し,前記第1及び第2の筐体が回動可能なごとく接続するためのピンと」(実用新案登録請求の範囲),「二分割した筐体1及び2を互いに回動自在に結合させるため,蝶番と同様な構造となるように,筐体1及び2に軸受5を2箇所ずつ互いに嵌合するよう筐体と一体に成形する。これにピン6を挿入しネジ7により抜け止めとする。」(3欄2行ないし6行)との記載があるところ,ここにいう「軸受け」は,訂正発明1の「ヒンジ部」に相当するから,これらの記載によれば,引用発明1は,「第1の部材と・・・第2の部材とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部により・・・回動可能に締結され」ていて,ピンが挿入されているものであると認められる。そして,審決は,訂正発明1と引用発明1が,「・・・第1の筐体と・・・第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部により・・・結合されており」との点で一致すると認定し,ピンの有無については,相違点3として認定している。
そうであれば,審決は,引用発明1にピンがあることを看過しているわけではないから,審決の一致点の認定に誤りはない。
(2) 取消事由1(2)について 刊行物1(甲4)には,上記(1)に引用した記載があるところ,これらの記載によれば,引用発明1は,「第1の部材と・・・第2の部材とが・・・筐体において回動可能に締結され」ているものであると認められる。そして,審決は,「引用発明1の「筺体」と訂正発明1の「フロントケース」はいずれも「ケース」であるという点で一致しており,引用発明1の「蓋体」と訂正発明1の「リアカバー」はいずれも「カバー」であるという点で一致している。」とし,訂正発明1と引用発明1が,「・・・第1の筐体と,・・・第2の第2の筐体とが・・・ケースにおいて回動可能に結合されており」との点で一致すると認定した上,「ケース」と「カバー」の構成について,「訂正発明1ではそれらがそれぞれ「フロントケース」と「リアカバー」であるのに対し,引用発明1ではそれらがそれぞれ「筺体」と「蓋体」である点。」を相違点1として認定している。
そうであれば,審決は,訂正発明1と引用発明1における「ケース」と「カバー」の構成が異なることを看過しているわけではないから,審決の一致点の認定に誤りはない。
(3) 取消事由1(3)について 審決認定に係る刊行物1(甲4)の記載(図面を含む。)によれば,引用発明1は,「第1の筺体の端部に設けられた半円状の第1のカバーと,第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバーとが係合し」,また,「第2の筺体の端部に設けられた半円状の第3のカバーと,第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバーとが係合し」ているものであるところ,刊行物1(甲4)には,「プリント板の前記ピンに巻回した部分を覆うカバー」(実用新案登録請求の範囲),「筐体1及び2に設けた半円状のカバー10及び11はフレキシブルプリント板8を覆い,外部からの損傷を避けるためのものであり,カバー11はネジ止め,あるいは接着等の方法で筐体に固定される。」(3欄15行ないし19行)との記載があるので,第2のカバーと第4のカバーは,それぞれフレキシブルプリント板8とともに,第1又は第2の筺体の端部に固定されるものであると認められる。
審決は,訂正発明1と引用発明1が,「前記第1のケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と,円弧状の第2の曲面部とが係合し」,「前記第2のケースの端部に設けられた円弧状の第3の曲面部と,円弧状の第4の曲面部とが係合し」との点で一致すると認定したが,第2のカバーと第4のカバーがそれぞれフレキシブルプリント板8とともに第1又は第2の筺体の端部に固定されることについては,相違点1ないし5に挙げていない。
しかし,審決は,相違点2についての判断の中で,「引用発明2には可撓性回路(訂正発明1でいうところの「フレキシブル基板」)が「内通」部においてネジ止めされていない構成も記載されている。」とした上,「引用発明1の「第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバー」,「第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバー」を「蓋体」(訂正発明1でいうところの「リアカバー」)の端部に一体的に設けるように構成することは容易なことである。」と判断しているのであって,審決の上記説示に照らすと,審決は,引用発明1では,第2のカバーと第4のカバーがそれぞれフレキシブルプリント板8とともに第1又は第2の筺体の端部に固定されるものであることを前提として,相違点2に係る構成の容易想到性を検討しているということができる。
そうであれば,審決は,引用発明1が第2のカバーと第4のカバーがそれぞれフレキシブルプリント板8とともに第1又は第2の筺体の端部に固定されるものであることを看過したというわけではないから,審決の一致点の認定に誤りはない。
(4) 取消事由1(4)について 刊行物1(甲4)には,審決が認定した記載があるところ,これらの記載によれば,引用発明1は,第1の筺体の端部に設けられた半円状の第1のカバーと,第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバーとが係合して,「略円筒状の第1の空洞部を構成し」,第2の筺体の端部に設けられた半円状の第3のカバーと,第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバーとが係合して,「略円筒状の第2の空洞部を構成し」ており,かつ,第1の空洞部及び第2の空洞部内にピンが貫通しているものであると認められる。そして,審決は,訂正発明1と引用発明1が,「略円筒状の第1の空洞部を構成し」,「略円筒状の第2の空洞部を構成し」との点で一致すると認定し,ピンの有無については,相違点3として認定している。
そうであれば,審決は,引用発明1が第1の空洞部及び第2の空洞部内にピンが貫通していることを看過しているわけではないから,審決の一致点の認定に誤りはない。
(5) 取消事由1(5)について 刊行物1(甲4)には,「前記第1及び第2の回路部どおしを電気的に接続し前記ピンに巻回されたフレキシブルプリント板と,このプリント板の前記ピンに巻回した部分を覆うカバー」(実用新案登録請求の範囲),「クランク状に曲がつた外形をなすフレキシブルプリント板8に鋼箔回路9を形成し,これを第2図の如くピン6に1回巻きつけた後鋼箔回路9の両端部をそれぞれ回路部3及び4にハンダ付又はコネクタ等により接続する。・・・筐体1及び2に設けた半円状のカバー10及び11はフレキシブルプリント板8を覆い,外部からの損傷を避けるためのものであり,カバー11はネジ止め,あるいは接着等の方法で筐体に固定される。」(3欄8行ないし19行)との記載があるところ,これらの記載によれば,引用発明1は,フレキシブルプリント板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内のピンにらせん状に巻いて通すものであると認められる。そして,審決は,訂正発明1と引用発明1が,「フレキシブル基板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内でらせん状に巻いて通す」との点で一致すると認定し,フレキシブル基板をピンにらせん状に巻いて通すことについては,相違点4として認定しているのである。
そうであれば,審決は,引用発明1がフレキシブル基板をピンにらせん状に巻いて通すことを看過しているわけではないから,審決の一致点の認定に誤りはない。
(6) したがって,原告ら主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 訂正発明1は,請求項1に記載されているように,「第1のフロントケースと第1のリアカバーとから構成される第1の筐体と,第2のフロントケースと第2のリアカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりフロントケースにおいて回動可能に締結されており」を構成要件の1つとする「ヒンジ部を有する電子機器」である。そして,一般に,「フロント」の語は「正面。前面。」を,「リア」の語は「後ろ。後部。」をそれぞれ意味する(広辞苑第5版)ものであるから,訂正発明1における「フロントケース」,「リアカバー」は,それぞれ,前面の「ケース」,後部の「カバー」であると理解することができる。
引用発明1は,審決が上記第2の3(2-1)ア(ウ)で説示するように,「第2図に記載された「筺体1及び2」は一面が開口しており,第1図に記載された「筺体1及び2」はキーボード,表示器,スイッチ類を実装した「蓋体」により当該開口が閉塞されている。」(このことは,原告らも争わない。)という,小型電子機器の接続構造に関するものである。そして,ここでいう「筺体」と「蓋体」は,その文言自体からみて,「ケース」と「カバー」に相当するものであるから,引用発明1の小型電子機器は,「ケース」を覆う「カバー」が小型電子機器の前面(小型電子機器を使用する際に操作者からみて前面)にあり,「ケース」が小型電子機器の後部にあると理解することができる。
(2) そして,筺体をケースとカバーで構成する場合において,前面をカバーにする,すなわち表蓋とするか,あるいは,後部をカバーにする,すなわち裏蓋にするかは,一般に,製造上の都合等により,当業者が適宜選択すべきものであるから,「ケース」を覆う「カバー」が前面にあり,「ケース」が後部にある引用発明1において,「ケース」を前面にし,「カバー」を後部とする構成に置き換えることに格別の困難はなく,当業者にとって単なる設計上考慮すべき事項にすぎないと認められる。
そうであれば,訂正発明1と引用発明1とは,筺体の構成において,実質的な差異はないというべきであり,したがって,相違点1についての審決の判断に誤りはない。
(3) 原告らは,「フロント」と「リア」を区別することは,この種の電子機器筐体の分野では常識であるところ,本件明細書(甲2,3)には,「フロントケース」が「ダイヤルボタン17」を収容する側を指すことが開示されているし,また,訂正発明1は,引用発明1と構成を異にし,かつ,引用発明1の構成からは予測することのできない作用効果を奏するから,「両者の間に実質的な差異はない」とした審決の判断は誤りであると主張する。
なるほど,実開昭63-30055号公報(甲8),実開平2-51429号公報(甲9)及び特開平6-69851号公報(甲10)には,いずれも,機器を使用する際に操作者からみて前面を「フロントカバー」,「フロントケース」などとし,後部を「リアカバー」,「リアーケース」などとしており,「フロント」と「リア」を区別している。そして,訂正発明1についても,上記(1)のとおり,「フロントケース」,「リアカバー」は,それぞれ,前面の「ケース」,後部の「カバー」であると理解することができるものである。そうすると,審決が説示するように,「フロントケース」と「リアカバー」は単に「筺体」を構成する2つの部材を区別するために用いられる名称にすぎないかは別としても,筺体をケースとカバーで構成する場合において,表蓋とするか,あるいは,裏蓋にするかは,一般に,製造上の都合等により,当業者が適宜選択すべきものであることは,上記(2)に判示したとおりであるから,訂正発明1と引用発明1とは,筺体の構成において,実質的な差異はないものといわなければならない。
また,ヒンジ部は,機器の折曲げの容易性をも考慮して,機器の折り曲げる側にこれを取り付ける技術が,一般的に採用されているということができるから,操作者からみて前面に折り曲げる引用発明1において,「ケース」を前面にし,「カバー」を後部とする構成に置き換えるに当たり,前面の「ケース」側にヒンジを取り付けることは,当業者が普通に採用する単なる設計事項であり,その作用効果も,引用発明1の構成が奏する範囲内のものにすぎない。
原告らの上記主張は,採用することができない。
(4) そうすると,原告ら主張の取消事由2は,理由がない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 刊行物2(甲5)には,次の記載がある。
「【請求項1】 第1のエレメントが2つの突出部を含み,該突出部の一方がスリットを備えており,第2のエレメントが該突出部の間に係合するように構成され且つ別のスリットを備える突起を含んでおり,電気的リンクがこれらのスリットを通るように構成された,ヒンジの周囲に連接され且つ電気的リンクにより相互に接続された2つのエレメントから形成される装置であって,前記第1のエレメントが2つの半シェルから形成され,前記突出部の相対向する面が該半シェルの各々に半分ずつ含まれている円筒形状の窪みを備えており,前記突起の両端が同様に円筒形であり,該突起が前記ヒンジを形成するべく前記突出部に嵌合するように構成されていることを特徴とする装置。」 「【0019】図1に側面図を示す本発明の装置は,第1の半シェル11及び第2の半シェル12から形成される第1のエレメント1と,第1のエレメントの周囲に連接された第2のエレメント2とから構成される。
【0020】第1のエレメントは同一軸を共有するほぼ円筒形の2つの突出部を備える。2つの半シェルの境界面13は,この軸を含む面に沿って各突出部を共有するように構成されている。・・・」 「【0037】ここで採用する実施例によると,突起201のセンタリングセクション205は第1の突出部101の近傍に配置される。この突起を第1のスリット207が貫通し,センタリングセクション205と第2の突出部121の側の端部との間の円筒形凹み204に連通している。突起201の側の第2の突出部の端部と長軸320の第4のディスク326との間には,第2の突出部121の内側を第1のエレメント1の本体に連結する第2のスリット137が設けられている。一端が第1のエレメント1の本体に位置する可撓性回路4が第2のスリット137を貫通し,第3のディスク322及び第4のディスク326の間で長軸320の周囲にいずれかの方向に螺旋状に巻き付けられ,第1のスリット207を貫通し,第2のエレメント2の本体に配置された第2の端部により終端する。この可撓性回路はこうして第1のエレメント1と第2のエレメント2との間の電気的リンクを確保する。」 (2) 刊行物2は,「ヒンジの周囲に連接され且つ電気的リンクにより相互に接続された2つのエレメントから形成される装置に係る」(段落【0001】)ものであり,上記(1)の記載によれば,引用発明2には,「半円筒状の突出部」を第1及び第2の「半シェル」に一体的に設ける構成が開示されていると認められるから,これを引用発明1の「円弧状の曲面部」の固定手段に代えて適用することは,技術的に困難でないから,当業者が容易に想到することができたものといわなければならない。
そうであれば,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
(3) 原告らは,引用発明2と引用発明1では,具体的なヒンジ構造が全く異なるところ,ヒンジ構造は,複数の部材の組合せで完成するものであって,その一部のみを取り出して,他のヒンジ構造に適用することはできないから,引用発明2の「半円筒状の突出部」を引用発明1に適用して訂正発明1のヒンジ構造を得ることは,当業者が容易になし得るものではないと主張する。
しかし,引用発明1の「円弧状の曲面部」の固定手段に代えて,引用発明2の発明を適用するに当たり,引用発明2の発明から把握した事項は,「半円筒状の突出部」を第1及び第2の「半シェル」に一体的に設けるという構成であって,ヒンジ構造全体ではないのである。したがって,引用発明1及び2の具体的なヒンジ構造やその差異は判断に影響を及ぼすものではないのであるから,原告らの上記主張は,採用の限りでない。
(4) また,原告らは,引用発明1のピン6は,第1及び第2の筐体をヒンジ結合するとともに,フレキシブルプリント板8を巻き付けるために必須の構成要素であり,また,引用発明2も,明細書には「軸3不在下でも適用される」(【0040】)と記載されているものの,実際には軸3が必要不可欠であるから,引用発明1に引用発明2を組み合わせてみても,ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない略円筒状の空洞部を構成要素とする訂正発明1を導くことはできないと主張する。
しかし,刊行物1にピン6が記載され,刊行物2に軸3が記載されているとしても,このことと「半円筒状の突出部」の設置手段とは,技術的にみて関連性がないから,引用発明1の「円弧状の曲面部」の固定手段に代えて,引用発明2の「半円筒状の突出部」を第1及び第2の「半シェル」に一体的に設ける構成を適用することに格別の阻害要因があるとはいえない。原告らの上記主張は,採用することができない。
(5) さらに,原告らは,引用発明1は,軸受け5にピン6を挿入してネジ7で抜け止めを行って筐体1及び2を連結し,次に,フレキシブル基板8をピン6に巻き,フレキシブル基板8を覆うようにカバー11をネジ止め又は接着の方法で固定して,フレキシブル基板の位置決めと固定を行うことが不可欠であるから,「カバー11」は,蓋体と別体でなければならず,蓋体と一体的に設けることはできないと主張する。
しかし,刊行物1(甲4)には,「第2図は本考案の実施例の要部分解斜視図である。二分割した筺体1及び2を互いに回動自在に結合させるため,蝶番と同様な構造となるように,筺体1及び2に軸受5を2箇所ずつ互いに嵌合するよう筺体と一体に成形する。これにピン6を挿入しネジ7により抜け止めとする。回路部3及び4は電気的に接続するために第3図に示す如くクランク状に曲った外形をなすフレキシブルプリント板8に鋼箔回路9を形成し,これを第2図の如くピン6に1回巻きつけた後鋼箔回路9の両端部をそれぞれ回路部3及び4にハンダ付又はコネクタ等により接続する。フレキシブルプリント板8をピン6に巻いた部分は筺体を回動させた時に生ずる長さの変化を吸収する役目をするものである。筺体1及び2に設けた半円状のカバー10及び11はフレキシブルプリント板8を覆い,外部からの損傷を避けるためのものであり,カバー11はネジ止め,あるいは接着等の方法で筺体に固定される。」(3欄1頁ないし19頁)と記載されているところ,これによれば,カバーは,鋼箔回路9の両端部をそれぞれ回路部3及び4に接続した後に,筺体に固定されるものであると認められるから,これと異なる原告らの上記主張は,採用することができない。
(6) そうすると,原告ら主張の取消事由3は,理由がない。
4 取消事由4(相違点3,4についての判断の誤り)について (1) 刊行物3(甲6)には,次の記載がある。
「複数の支持部の間の長尺の軸を渡す為,その間の空間に部品を実装することが困難になる。また,長尺の軸を必要とするため,結果としてコストアップになる問題点を有する。」(2頁9行ないし13行) 「本考案によれば,本体基板に少なくとも2つ以上の支持部を形成し,それぞれ独立に短軸で軸支し,その軸上でフレームを回動自在に取り付けることによって,本体基板に一対の特別な支持板を設ける必要がなくなり,部品の削減及び組立時間の短縮が実現し,安価な機能を提供することが可能となった。また,フレームの支軸として,長尺の軸を用いないため,軸の単価が安くなるとともに,長尺の軸が占めていた空間に部品を実装することが出来,実装密度の高い小型機をつくることが出来る。さらに長尺の軸を使用しないため,組立性がよくなる利点もある。」(5頁8行ないし19行) また,刊行物4(甲7)には,次の記載がある。
「以下,第3図を参照しながら,上述した従来のナイラッチを用いた部品取付装置の一例について説明する。第3図において,1は基台であり,その一部には所定間隔あけて対向するように支持板2a,2bが設けられている。3は前記支持板2aの内壁部に他方の支持板2bの方向へ突出するように設けられた支軸,4は他方の支持板2bに穿設された孔である。また,5は例えばプリント基板等が装着された可動部材であり,その一部には,前記支持板2aと2bの間隔よりも,やや小なる間隔でもって舌片部6a,6bが相対向するように設けられ,かつ,それらには孔7a,7bが穿設されている。
以上のように構成された従来の部品取付装置を組み立てるには,まず,孔7aに支軸3を挿通し,孔2bと孔7bとを重ね合わせた状態で,それらの孔に合成樹脂等で形成されたナイラッチ8を貫挿すればよい。」(2頁6行ないし3頁3行) (2) 上記(1)の記載にかんがみると,「電子機器のヒンジ構造において,第1の部材と,第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に,支軸として1つの長軸に代えて2つの独立した短軸を用いること」は周知技術であると認められるから,引用発明1の「第1及び第2の筐体が互いに回動可能なごとく接続するためのピン」に代えて2つの独立した短軸を用いることは,当業者が普通に採用する単なる設計事項であるといわなければならない。そして,引用発明1の「第1及び第2の筐体が互いに回動可能なごとく接続するためのピン」に代えて2つの独立した短軸を用いた場合には,相違点3に係る構成が「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」ものとなり,相違点4に係る構成が「空洞部の内径に沿って」らせん状に巻いて通すことになるのは,自明のことである。
そうであれば,相違点3,4についての審決の判断に誤りはない。
(3) 原告らは,相違点3,4に係る訂正発明1の構成は,その構成上の特徴や思想と相俟って理解すべきものであって,単なる「1つの長軸に代えて2つの短軸を用い」たものとは区別されなければならないところ,実際にも,刊行物3及び4からは,訂正発明1の作用効果を予測することはできないと主張する。
しかし,刊行物3及び4から把握した事項は,「電子機器のヒンジ構造において,第1の部材と,第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に,支軸として1つの長軸に代えて2つの独立した短軸を用いること」が周知技術であるということである。この周知技術公知技術である引用発明1に適用することが可能ならば,訂正発明1の技術的思想に至るわけであり,原告らの上記主張は,採用の限りでない。
(4) また,原告らは,引用発明1において,軸受けを貫通する「ピン」は,ヒンジ結合用のピンであるとともに,フレキシブルプリント板を巻回するためのピンであって,必要不可欠の構成要件であるから,引用発明1からは,「ピン」を除いた構成を想到することは到底不可能であると主張する。
しかし,技術常識からみれば,引用発明1においても,周知技術を採用することなどによる設計変更は可能であり,引用発明1が「軸受けを貫通する「ピン」はヒンジ結合用のピンであるとともに,フレキシブルプリント板を巻回するためのピンとして,構成要件となっている。」ものであるとしても,「電子機器のヒンジ構造において,第1の部材と,第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に,支軸として1つの長軸に代えて2つの独立した短軸を用いること」という周知技術を採用することが困難であると認めるべき特段の事情はうかがえない。そうであれば,引用発明1から,「ピン」を除いた構成を想到することは十分に可能である。これと異なる原告らの主張は,採用することができない。
(5) さらに,原告らは,フレキシブル基板を「略円筒状の空洞部の内径に沿って巻く」構成と「ピンに巻き付ける」構成との間には,実質的にみて,大きな差異があり,刊行物3及び4から,訂正発明1の作用効果を予測することができないと主張する。
しかし,上記(2)のとおり,引用発明1の「第1及び第2の筐体が互いに回動可能なごとく接続するためのピン」に代えて2つの独立した短軸を用いることは,当業者が普通に採用する単なる設計事項であって,2つの独立した短軸を用いた場合には,相違点4に係る構成が,フレキシブル基板を「略円筒状の空洞部の内径に沿って巻く」ことになるのは,自明のことであって,訂正発明1の作用効果は,普通に予測される範囲内のものにとどまり,格別のものであるとは認められない。原告らの上記主張は採用することができない。
(6) そうすると,原告ら主張の取消事由4は,理由がない。
5 取消事由5(訂正発明2について)について 原告らは,訂正発明2に係る取消事由として,訂正発明1についての審決の認定判断の誤りを援用するだけであり,上記のとおり,審決には,訂正発明1と引用発明1との一致点の認定の誤りや相違点の判断の誤りはないから,原告ら主張の取消事由5は,理由がない。
結論
以上のとおりであって,原告ら主張の審決取消事由は,いずれも理由がないから,原告らの請求は,棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利
裁判官 野輝久