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関連審決 無効2004-80194
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明が不明確 /  登録実用新案 /  特許出願日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10423号 審決取消請求事件
原告 立山アルミニウム工業株式会社
訴訟代理人弁理士 湯田浩一
被告 YKKAP株式会社
訴訟代理人弁理士 木下實三,中山寛二,石崎剛
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2004-80194号事件について平成17年3月8日にした審決を取り消す 」との判決。。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
本件は,本件発明1〜5(後記)について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁がいずれの特許権をも無効とするとの審決をしたため,原告がその取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯(1) 本件特許(甲16)特許権者:立山アルミニウム工業株式会社(原告)発明の名称: 下枠上面がフラットの屋外用サッシ構造」 「特許出願日:平成13年11月28日(国内優先:平成12年12月1日,平成13年5月10日)設定登録日:平成15年12月12日特許番号:第3501452号(2) 本件手続審判請求日:平成16年10月20日(無効2004-80194号)審決日:平成17年3月8日審決の結論: 特許第3501452号の請求項1〜5に係る発明についての特 「許を無効とする 」。
審決謄本送達日:平成17年3月18日(原告に対し)2 本件発明の要旨(以下,請求項の番号に応じ「本件発明1」などという )。
【請求項1】 屋内外を隔てる建物開口部出入口に装着される上下枠及び左右の縦枠からなるサッシと,その内側をスライド開閉する障子を有し,前記下枠は,上面がフラットに形成され前記下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,前記障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片を前記排水溝に挿入し,前記排水溝に挿入されたスライド片と前記集水凹部の室内側側壁との間にタイト材を設け,障子に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧されるシール手段とし,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え,このスライド片の室外側と排水溝壁との間に所定の隙間を設けたことを特徴とする屋外用下枠フラットサッシ構造。
【請求項2】 屋内外を隔てる建物開口部出入口に装着される上下枠及び左右の縦枠からなるサッシと,その内側をスライド開閉する障子を有し,前記下枠は,上面がフラットに形成され前記下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,前記障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片を前記排水溝に挿入し前記排水溝に挿入されたスライド片と前記集水凹部の室内側側壁との間にタイト材を設け,障子に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧されるシール手段とし,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え,このスライド片の室外側と排水溝壁との間に所定の隙間を設け,前記下枠には,前記集水凹部と,案内中空部とを備え,前記集水凹部に凹部排水口を設けて案内中空部と連通させ,前記案内中空部に屋外排水口を設けて屋外と連通させることで,前記集水凹部及び案内中空部を外気に連通させ,前記排水溝から集水凹部に流れ込んだ雨水が,凹部排水口から案内中空部に流れ込み,さらに屋外排水口から屋外に排水されることを特徴とする屋外用下枠フラットサッシ構造。
【請求項3】 屋内外を隔てる建物開口部の出入口に装着される上下枠及び左右の縦枠からなるサッシと,その内側をスライド開閉する引き違い戸を有し,前記下枠は,上面がフラットに形成され前記下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,前記障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片を前記排水溝に挿入し前記排水溝に挿入されたスライド片と前記集水凹部の室内側側壁との間にタイト材を設け,障子に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧されるシール手段とし,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え,障子縦框と縦枠の間にシール手段を備え,障子召合部と下枠上面の間に室内と室外を仕切るシール手段を備え,内障子召合部下部に位置する内障子集水凹部に止水ブロックを備え,排水溝壁と前記スライド片の室外側に所定の隙間を備え,前記下枠には,前記集水凹部と,案内中空部とを備え,前記集水凹部に凹部排水口を設けて案内中空部と連通させ,前記案内中空部に屋外排水口を設けて屋外と連通させることで,前記集水凹部及び案内中空部を外気に連通させ,前記排水溝から集水凹部に流れ込んだ雨水が,凹部排水口から案内中空部に流れ込み,さらに屋外排水口から屋外に排水されることを特徴とする下枠上面フラットの屋外用サッシ構造。
【請求項4】 建屋開口部と障子収納部を形成した上枠と下枠の間に,スライド自在に装着した屋外用片引き戸を有し,前記下枠は,上面がフラットに形成され前記下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,前記障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片を前記排水溝に挿入し前記排水溝に挿入されたスライド片と前記集水凹部の室内側側壁との間にタイト材を設け,障子に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧されるシール手段とし,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え,上枠と下枠の間に上下方向に配設した縦骨と障子召合框の間及び障子戸当框と縦枠の間にシール手段を備え,排水溝壁と前記スライド片の室外側に所定の隙間を備え,前記下枠には,前記集水凹部と,案内中空部とを備え,前記集水凹部に凹部排水口を設けて案内中空部と連通させ,前記案内中空部に屋外排水口を設けて屋外と連通させることで,前記集水凹,, 部及び案内中空部を外気に連通させ 前記排水溝から集水凹部に流れ込んだ雨水が凹部排水口から案内中空部に流れ込み,さらに屋外排水口から屋外に排水されることを特徴とする下枠上面フラットの屋外用サッシ構造。
【請求項5】 屋内外を隔てる建物開口部出入口に装着される上下枠及び左右の縦枠からなるサッシと,その内側をスライド開閉する障子を有し,下枠は,下枠ベース部材と上面部材とで上面がフラットで条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,前記障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片を前記排水溝に挿入し前記排水溝に挿入されたスライド片と前記集水凹部の室内側側壁との間にタイト材を設け,障子に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧されるシール手段とし,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え,このスライド片の室外側と排水溝壁との間に所定の隙間を設けたことを特徴とする屋外用下枠フラットサッシ構造。
3 審決の要旨審決は 本件発明1〜3は甲1 2記載の発明及び周知技術に基づき 本件発明4 ,, ,は甲1,2,6記載の発明及び周知技術に基づき,本件発明5は甲1〜3記載の発明及び周知技術に基づき,いずれも当業者が容易に発明できたものであるから,本件発明1〜5についての特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるとした。
(1) 請求人の主張及び証拠方法ア 無効理由「(ア) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜5の記載において,構成の内容に矛盾する点があり,タイト材(シール手段)の位置を特定できず,特許を受けようとする発明が不明確であるから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,本件特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効とすべきものである。
(イ) 本件の請求項1〜5に係る各特許発明は,甲1〜6に記載された発明に基いて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきである 」。
イ 証拠方法(本訴の証拠番号は審判手続の証拠番号と同一)甲1:登録実用新案第3035344号公報甲2:実用新案登録第2534625号公報甲3:特開平7-173945号公報甲4:実公昭49-11380号公報甲5:特開平10-227184号公報甲6:特公昭62-33393号公報(2) 引用刊行物に記載された発明ア 甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という )。
「図1,2からみて,下枠1の上面1aに設けた直状の切り込み溝9の上部が排水溝になりその下部である底部が細長状気密体11に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部となること,切り込み溝9上部の排水溝に内挿される突条13が引き戸下框5の屋内c側側壁から垂下させて設けられていること,細長状気密体11が突条13の屋内c側に設けられていること,及び,切り込み溝9上部の壁と突条13の外界a側に所定の隙間を備えていることは,当業者に明らかな事項である。
これら1〜6の記載等及び図面の記載並びに当業者の技術常識によれば,甲1には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「屋内cと外界aとの間の出入口に装着される引き戸建具と,その内側をスライド開閉する引き戸12を有し,前記下枠1は,上面1aが平坦となされ前記下枠1の上面1aに直状の切り込み溝9を障子スライド方向に設けてその上部を排水溝とし,前記障子の下框5屋内c側側壁から垂下させた突条13を前記切り込み溝9上部の排水溝に挿入し前記排水溝に挿入された突条13と前記切り込み溝9の縦壁面9aとの間に細長状気密体11を設けてシール手段とし,この排水溝の直下に,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる切り込み溝9底部である集水凹部を備え,排水溝壁と前記突条13の外界a側に所定の隙間を備え,前記下枠1には,前記切り込み溝9底部の集水凹部を備え,前記集水凹部に排除孔10を設けて外界aと連通させることで,前記集水凹部を外気に連通させ,前記排水溝から集水凹部に流れ込んだ雨水が,排除孔10から外界aに排水される下枠1の上面1aが平坦となされた引き戸建具構造 」。」イ 甲2に記載された技術事項「(ア) 屋内外を隔てる建物開口部に装着される上下枠2,3及び左右の縦枠1a,1bからなる窓枠と,その内側をスライド開閉する内側障子4及び外側障子5を有する引違い窓。
(イ) 下枠3は,上面がフラットに形成され下枠フラット面に突片案内部9を障子スライド方向に設けて排水溝とし,障子の下框6から垂下させた突片7を排水溝に挿入しこの排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,雨水を受け入れるふところとなる水溜り部10を備えたこと。
(ウ) 内障子召合せ部下部に位置する内側障子4の水溜り部10に仕切部材14を備えたこと。
(エ) 下枠3には,水溜り部10と,中空部11とを備え,水溜り部10に排水孔20を設けて中空部11と連通させ,中空部11に排出口26を設けて屋外と連通させることで,水溜り部10及び中空部11を外気に連通させ,排水溝から水溜り部10に流れ込んだ雨水が,排水孔20から中空部11に流れ込み,さらに排出口26から屋外に排水されること 」。
ウ 甲3に記載された技術事項(ア) 屋内外 ベランダと室内 を隔てる建物開口部の出入口に装着される上下枠47 3 「( ) ,及び左右の竪枠45,46からなる枠体と,その内側をスライド開閉する片引戸あるいは引違い戸を有する引戸。
(イ) 下枠3は,下枠本体15とこれに着脱自在に連結される複数の下枠補助部材16a,16bとで上面がフラットに形成され下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,障子の下框側壁から垂下させたスカート部分34a,34b,34cを排水溝に挿入し,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く雨水などを受け入れるふところとなる集水凹部を備えたこと 」。
エ 甲4に記載された技術事項「(ア) 下枠Bにおける上面が水平の上壁12に溝13を障子スライド方向に設けて排水溝として,この排水溝に障子の下框から垂下させた延長端縁2aを挿入し,延長端縁2aと溝13の室内側側壁との間に気密材9を設けて,強い風雨の際には下框の延長端縁が風圧で溝側面に押圧されてますます気密性が高められる建物開口部に装着される引違い障子窓。
(イ) 下枠Bにおける溝13の底部に水抜孔15を設けて空白部17と連通させ 空白部17,に排水孔16を設けて屋外と連通させることで,溝13の底部及び空白部17を外気に連通させ,排水溝から溝13の底部に流れ込んだ雨水が,水抜孔15から空白部17に流れ込み,さらに排水孔16から屋外に排水されること 」。
オ 甲5に記載された技術事項「(ア) 建物開口部の出入口に装着される上下枠10,11及び左右の縦枠12,13からなる枠体と,その内側をスライド開閉する複数の障子16A〜16Cを有する引き戸。
(イ) 障子16A,16Bを全閉状態とした場合の隣接する障子16A,16B,16Cと重合する位置(図1におけるP1及びP2)と下枠11上面の間に,防水部材20を備えたこと。
(ウ) 建屋開口部と障子収納部を形成した上枠10と下枠11の間に,障子16A,16B,16Cをスライド自在に備えた建物開口部に装着される引き戸。
(エ) 摺動側障子16Bの召合框の係合片33と固定側障子16Cの召合框の係合片34との間に,弾性材からなる緩衝部材35を設け,係合時の水の浸入を防止すること 」。
カ 甲6に記載された技術事項「(ア) 開口枠1に上下方向に配設した方立10と引戸6の召合せ框25との間,及び,引戸6の竪框24と開口枠1の竪枠8との間に,それぞれ,気密部材11,9を備えたこと。
(イ) 建屋開口部と障子収納部を形成した開口枠1に,引戸6をスライド自在に備えた屋内外を隔てる建物開口部の出入口に装着される引戸装置 」。
(3) 本件発明1についてア 甲1発明との対比(ア) 一致点「屋内外を隔てる建物開口部出入口に装着される上下枠及び左右の縦枠からなるサッシと,その内側をスライド開閉する障子を有し,下枠は,上面がフラットに形成され下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,前記障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片を前記排水溝に挿入し,前記排水溝に挿入されたスライド片と前記集水凹部の室内側側壁との間にタイト材を設けてシール手段とし,この排水溝の直下に,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え,このスライド片の室外側と排水溝壁との間に所定の隙間を設けた屋外用下枠フラットサッシ構造」。
(イ) 相違点「<相違点1>下枠の排水溝の直下に備えた集水凹部の構成について,本件発明1が 「排水溝幅より幅が ,広」い集水凹部であるのに対し,甲1発明では,集水凹部が上部を排水溝とした一定幅の切り込み溝の底部として形成されたもので,そのような構成を有していない点。
<相違点2>下枠の排水溝に設けたシール手段の構成について,本件発明1が 「障子に室外側から風圧 ,を受ければ受ける程強く押圧されるシール手段」であるのに対し,甲1発明では,シール手段がどのような構成を有するのか不明である点 」。
イ 相違点についての検討(ア) 相違点1について「相違点1について検討するために甲2をみると,甲2には,下枠3(下枠)は,上面がフラットに形成され下枠フラット面に突片案内部9(条状の幅の狭い溝)を障子スライド方向に設けて排水溝とし,障子の下框6(下框)から垂下させた突片7(スライド片)を排水溝に挿入しこの排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,雨水を受け入れるふところとなる水溜り部10(集水凹部)を備えたこと(技術事項(イ)参照)が記載され,また,このような集水凹部は,甲3に,下枠3(下枠)は,…上面がフラットに形成され下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,障子の下框側壁から垂下させたスカート部分34a,34b,34c(スライド片)を排水溝に挿入し,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く雨水などを受け入れるふところとなる集水凹部を備えたこと(技術事項(イ)参照)が記載され,その他,実願平1-129812号(実開平3-68285号)のマイクロフィルム(以下「周知例1」という。本訴甲7)にも記載されているように従来から周知のものである。そして,このような技術を甲1発明に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,かつ,当該技術に基づき相違点1として摘記した本件発明1の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件発明1の上記相違点1に係る構成は当業者が必要に」 応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎない。
(イ) 相違点2について甲1には 11は切り込み溝9の縦壁面9aに固定された細長状気密体で 前記縦壁面9 「,「,aと後述の突条13の縦壁面13aとの間を風雨密にシールするためのものである。ここに,細長状気密体11の主体部は弾性変形し易いシール性に優れたゴム質の一様断面体となしてある 記載事項3 参照 との記載 及び ところが風雨が強くなると 雨水が切り込み溝9 。」(.),,「,に侵入することが生じ得る。…細長状気密体11は風雨が切り込み溝9を通じて屋内cに侵入するのを抑制する (記載事項5.参照)との記載があり,一方,本件特許公報には 「障子 。」,に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧するシール構造として障子の室内側とサッシ枠の間に弾性材からなるタイト材を介在させた」との記載があり,これらの記載によれば,甲1発明の「細長状気密体11」も,本件発明1の「タイト材」と同様に弾性材からなるものであり,しかも 「突条13」の「屋内c」側に設けられて 「風雨密にシールする」との作用効果 ,,を奏するものであるから 「障子に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧される」とい ,う機能を有するものと推測でき,したがって,本件発明1の上記相違点2に係る構成の点において,本件発明1が甲1発明に比して格別のものとはいえない。
あるいは,甲4には,下枠B(下枠)における上面が水平(上面がフラットに形成され)の上壁12(下枠フラット面)に溝13(条状の幅の狭い溝)を障子スライド方向に設けて排水溝として,この排水溝に障子の下框から垂下させた延長端縁2a(スライド片)を挿入し,延長端縁2aと溝13(集水凹部)の室内側側壁との間に気密材9(タイト材)を設けて,強い風雨の際には下框の延長端縁が風圧で溝側面に押圧されてますます気密性が高められる建物開口部に装着される引違い障子窓(屋外用サッシ(技術事項(ア)参照)が記載されており,この )ような技術を甲1発明に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,かつ,当該技術に基づき相違点2として摘記した本件発明1の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件発明1の上記相違点2に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎない 」。
ウ 作用効果についての検討「本件発明1の構成によってもたらされる効果も,甲1,2記載の発明及び周知技術から,普通に予測できる範囲内のものであって 格別なものがあるとは認められないから 本件発明1 ,,は,甲1,2記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない 」。
(4) 本件発明2についてア 甲1発明との対比「上記一致点及び相違点1,2に加えて,さらに以下の点で相違する。
<相違点3>下枠の集水凹部の屋外排水のための構成について,本件発明2が 「集水凹部に凹部排水口 ,を設けて案内中空部と連通させ,案内中空部に屋外排水口を設けて屋外と連通させることで,集水凹部及び案内中空部を外気に連通させ,排水溝から集水凹部に流れ込んだ雨水が,凹部排水口から案内中空部に流れ込み,さらに屋外排水口から屋外に排水される」ようにしたのに対して,甲1発明では,集水凹部に屋外排水口を直接設けて屋外と連通させることで,集水凹部を外気に連通させたものであって,案内中空部を備えず,したがって,集水凹部に凹部排水口を設けて案内中空部と連通させていない点 」。
イ 相違点3についての検討「相違点3について検討するために甲2をみると,甲2には,下枠3(下枠)には,水溜り部10(集水凹部)と,中空部11(案内中空部)とを備え,水溜り部10に排水孔20(凹部排水口)を設けて中空部11と連通させ,中空部11に排出口26(屋外排水口)を設けて屋外と連通させることで,水溜り部10及び中空部11を外気に連通させ,排水溝から水溜り部10に流れ込んだ雨水が,排水孔20から中空部11に流れ込み,さらに排出口26から屋外に排水されること 技術事項(エ)参照 が記載され またこのような屋外排水構造は 甲4 (),, ,に,下枠B(下枠)における溝13の底部(集水凹部)に水抜孔15(凹部排水口)を設けて空白部17(案内中空部)と連通させ,空白部17に排水孔16(屋外排水口)を設けて屋外と連通させることで,溝13の底部及び空白部17を外気に連通させ,排水溝から溝13の底部に流れ込んだ雨水が,水抜孔15から空白部17に流れ込み,さらに排水孔16から屋外に排水されること(技術事項(イ)参照)が記載され,その他,上記周知例1にも記載されているように従来から周知のものである。そして,このような技術を甲1発明に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,かつ,当該技術に基づき相違点3として摘記した本件発明2の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件発明2の上記相違点3に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎない 」。
ウ 作用効果についての検討「本件発明2の構成によってもたらされる効果も,甲1,2記載の発明及び周知技術から,普通に予測できる範囲内のものであって 格別なものがあるとは認められないから 本件発明2 ,,は,甲1,2記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない 」。
(5) 本件発明3についてア 甲1発明との対比「上記一致点及び相違点1〜3に加えて,さらに以下の点で相違する。
<相違点4>サッシの内側をスライド開閉する障子の構成について,本件発明3が 「引き違い戸」であ ,るのに対し,甲1発明では,引き戸である点。
<相違点5>サッシにおける下枠の排水溝のシール手段以外のシール手段等の構成について,本件発明3が 「障子縦框と縦枠の間にシール手段を備え,障子召合部と下枠上面の間に室内と室外を仕 ,切るシール手段を備え,内障子召合部下部に位置する内障子集水凹部に止水ブロックを備え」るのに対して,甲1発明では,そのような構成を有していない点 」。
イ 相違点4,5についての検討「<相違点4について>相違点4について検討するために甲2をみると,甲2には,窓枠(サッシ)の内側をスライド開閉する内側障子4及び外側障子5(引き違い戸)を有する引違い窓(屋外用サッシ (技)術事項(ア)参照)が記載され,また,このような引き違い戸は,甲3に,枠体(サッシ)の内側をスライド開閉する片引戸あるいは引違い戸(引き違い戸)を有する引戸(屋外用サッシ)(),, () 技術事項(ア)参照 が記載され 甲4に 建物開口部に装着される引違い障子 引き違い戸窓(技術事項(ア)参照)が記載され,その他,上記周知例1にも記載されているように従来から周知のものである。そして,このような技術を甲1発明に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,かつ,当該技術に基づき相違点4として摘記した本件発明3の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件発明3の上記相違点4に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎない。
<相違点5について>相違点5について検討するために甲2をみると,甲2には,内障子召合せ部下部に位置する内側障子4(内障子)の水溜り部10(集水凹部)に仕切部材14(止水ブロック)を備えたこと(技術事項(ウ)参照)が記載され,また,障子召合部と下枠上面の間に室内と室外を仕切るシール手段を備えることは,例えば,甲5に,障子16A,16Bを全閉状態とした場合の隣接する障子16A,16B,16Cと重合する位置(図1におけるP1及びP2 (障子召)合部 と下枠11 下枠 上面の間に防水部材20 シール手段 を備えたこと 技術事項(イ) )() () (参照)が記載され,その他,特開2000-34869号公報(以下「周知例2」という ,。)実願昭60-106742号(実開昭62-16694号)のマイクロフィルム(以下「周知例3」という ,実公平4-23190号公報にも記載されているように従来から周知のもの 。)であり,さらに,障子縦框と縦枠の間にシール手段を備えることは,例えば,甲6に,引戸6の竪框24(障子戸当框)と開口枠1の竪枠8(縦枠)との間に,気密部材9(シール手段)を備えたこと(技術事項(ア)参照)が記載され,その他,上記周知例2,3にも記載されているように従来から周知のものである。そして,このような技術を甲1発明に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,かつ,当該技術に基づき相違点5として摘記した本件発明3の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件発明3の上記相違点5に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎない 」。
ウ 作用効果についての検討「本件発明3の構成によってもたらされる効果も,甲1,2記載の発明及び周知技術から,普通に予測できる範囲内のものであって 格別なものがあるとは認められないから 本件発明3 ,,は,甲1,2記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない 」。
(6) 本件発明4についてア 甲1発明との対比「上記一致点及び相違点1〜3,5に加えて,さらに以下の点で相違する。
<相違点6>サッシの構成について,本件発明4が 「建屋開口部と障子収納部を形成した上枠と下枠の ,間に,スライド自在に装着した屋外用片引き戸を有し 「上枠と下枠の間に上下方向に配設し 」,」, , , た縦骨と障子召合框の間にシール手段を備え るのに対し 甲1発明では 引き戸ではあるが障子収納部等及びシール手段の構成については不明である点 」。
イ 相違点6についての検討「相違点6について検討するために甲6をみると,甲6には,開口枠1に上下方向に配設した方立10(縦骨)と引戸6の召合せ框25(障子召合框)との間,及び,引戸6の竪框24(障子戸当框)と開口枠1の竪枠8(縦枠)との間に,それぞれ,気密部材11,9(シール手段)を備えたこと(技術事項(ア)参照 ,及び,建屋開口部と障子収納部を形成した開口枠1 )に,引戸6(片引き戸)をスライド自在に備えた屋内外を隔てる建物開口部の出入口に装着される引戸装置(技術事項(イ)参照)が記載され,また,このような障子収納部を形成した片引き戸タイプであって適宜位置にシール手段を備えたサッシは,例えば,甲5にも,建屋開口部と障子収納部を形成した上枠10 上枠 と下枠11 下枠 の間に 障子16A 16B 16 () () , , ,C(片引き戸)をスライド自在に備えた建物開口部に装着される引き戸(技術事項(ウ)参照 ,)及び,摺動側障子16Bの召合框の係合片33と固定側障子16Cの召合框(縦骨)の係合片34との間に,弾性材からなる緩衝部材35を設け,係合時の水の浸入を防止すること(技術事項(エ)参照)が記載されているように従来から周知のものである。そして,このような技術を甲1発明に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,かつ,当該技術に基づき相違点6として摘記した本件発明4の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件発明4の上記相違点6に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎない 」。
ウ 作用効果についての検討「本件発明4の構成によってもたらされる効果も,甲1,2,6記載の発明及び周知技術から,普通に予測できる範囲内のものであって,格別なものがあるとは認められないから,本件発明4は,甲1,2,6記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない 」。
(7) 本件発明5についてア 甲1発明との対比「上記一致点及び相違点1,2に加えて,さらに以下の点で相違する。
<相違点7>下枠の構成について,本件発明5が 「下枠ベース部材と上面部材とで」形成されるのに対 ,し,甲1発明では,そのようなものではない点 」。
イ 相違点7についての検討相違点7について検討するために甲3をみると 甲3には 下枠3 下枠 は 下枠本体15 「,,(),(下枠ベース部材)とこれに着脱自在に連結される複数の下枠補助部材16a,16b(上面部材)とで上面がフラットに形成され下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝としたこと(技術事項(イ)参照)が記載され,また,このような下枠構造は,例えば,上記周知例1にも記載されているように従来から周知のものである。そして,このような技術を甲1発明に適用することについては何ら阻害要因を認めることができず,かつ,当該技術に基づき相違点7として摘記した本件発明5の構成を想起する点に格別の困難性は認められないから,本件発明5の上記相違点7に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎない 」。
ウ 作用効果についての検討「本件発明5の構成によってもたらされる効果も,甲1〜3記載の発明及び周知技術から,普通に予測できる範囲内のものであって 格別なものがあるとは認められないから 本件発明5 ,,は,甲1〜3記載の発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない 」。
(8) 結論「以上のように,本件発明1〜3は甲1,2記載の発明及び周知技術に基づき,また,本件発明4は甲1,2,6記載の発明及び周知技術に基づき,さらに,本件発明5は甲1〜3記載の発明及び周知技術に基づき,いずれも,当業者が容易に発明できたものであるということができ,本件発明1〜5についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,特許法123条1項2号により無効とすべきである 」。
原告の主張の要点
1 取消事由1(本件発明1について)(1) 取消事由1-1(甲1発明の認定の誤り)ア 審決は,甲1に「直状の切り込み溝9を障子スライド方向に設けてその上部を排水溝とし」との構成が記載されているものと認定したが,この認定は誤りである。
甲1の直状の切り込み溝9は,引き戸下框5の屋内側から垂下させて設けられた突条13を案内するためのもので,風雨時には雨水が侵入するものの,従来の技術常識として,雨水の侵入を防止するため,溝壁をできるだけ突条13に近接させて構成するものであり,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水することをねらいとした「排水溝」ではない。
イ 審決は,甲1発明について 「下枠の上面1aに設けた直状の切り込み溝9 ,の上部が排水溝になりその下部である底部が細長状気密体11に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部となる」ものであると認定したが,この認定は誤りである。
甲1の切り込み溝9は,図1,2を参照しても,切り込みであるために溝の上面から底部まで前後方向(人の出入り方向)が同じ幅であるから,底部に侵入した雨水を排除孔10まで誘導する通水路にすぎない。すなわち,切り込み溝9に通水以上の集水機能はなく,本件発明1のように「雨水を受け入れるふところとなる」ものではない。
本件発明1における「雨水を受け入れるふところ」とは「シール手段に雨水が,溜まることがないように雨水を受け入れる」ものであるから,あたかも人がふところへ物を取り込むように雨水を受け入れるという,奥深く収容力のある凹部のことである。
ウ 審決は,甲1発明が「排水溝壁と前記突条13の外界a側に所定の隙間を備え」ていると認定したが,この認定は誤りである。
本件発明1の「所定の隙間」は,排水をねらいとし,風圧に比例して大きくなる隙間のことであり(甲16の7欄12,17〜18行 ,スライド片の室外側面と )溝壁との間に積極的に設けられ 風圧に応じて隙間の寸法が異なるものである 所 ,。 「定」なる用語が,風圧に応じてそれぞれに異なる寸法の隙間を総称するために用いられていることは,本件明細書を参照すれば明らかである。
これに対し,甲1発明の突条13と切り込み溝9との間の隙間は,下枠1に対する引き戸12の移動が滑らかになるように,突条13と切り込み溝9との間に設けられたものであり,単なる慣用手段にすぎない。
(2) 取消事由1-2(一致点認定の誤り)ア 審決が,本件発明1と甲1発明は「上下枠及び左右の縦枠からなるサッシ」を有するとの点で一致すると認定したのは,誤りである。
甲1発明は,引き戸の支持案内構造として下枠1を有するのみで上下枠及び左右の縦枠を備えるものではない。この点につき,審決は,一致点の認定に先立ち「建物開口部に装着されるサッシが,通常,上下枠及び左右の縦枠から枠状に形成されるものである」と認定しているが,甲1はサッシ(窓枠ないし窓枠に障子を組み合わせたもの)を開示するものではない。
なお 甲1の図1〜3に図示された支持案内構造 下枠1 は 甲1の レール4 ,(),「はステンレス材などで形成し (段落【0021 )等の記載に照らすと,木製のようで 」】あり,しかも「土間の出入り口に設置したり,風呂場と脱衣場を仕切る間仕切などに設置することもできる (段落【0032 )などの記載によれば,単独で使用される 」】ものである。このような木造の支持案内構造は,例えば,甲11に雨戸敷居21として,また,甲12に交換用敷居枠1eとして示されているように,単独で使用されることがある。
イ 甲1発明において,切り込み溝9の底部は,単なる通水路であって容量が少なく,500Pa(パスカル)級の風雨では切り込み溝全体に雨水が溢れ 「シー,ル手段に雨水が溜まることがないように」したものとはいえないことが容易に推測できるから,甲1発明は 「排水溝の直下に,前記シール手段に雨水が溜まること ,がないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え」ているとはいえな。, ,。 い したがって この点を本件発明1との一致点とした審決の認定は 誤りである(3) 取消事由1-3(相違点1の認定の誤り)審決は,本件発明1と甲1発明との相違点1において「下枠の排水溝の直下に備えた集水凹部の構成について…甲1発明では,集水凹部が上部を排水溝とした一定幅の切り込み溝の底部として形成されたもの と認定しているが この認定は 甲1 」,,発明の切り込み溝9の底部が集水凹部であることを前提とするものであり 前記(1),イ記載のとおり,誤りである。
(4) 取消事由1-4(相違点1の判断の誤り)審決は,甲2には,雨水を受け入れるふところとなる水溜り部10(集水凹部)を備えたことが記載され,甲3には,雨水などを受け入れるふところとなる集水凹部を備えたことが記載されており,周知例1(甲7)からもこのような集水凹部は周知であると認定している。
しかし,甲2の水溜り部10や甲3の下枠3におけるスカート部分34a,34b,34c直下の空間,あるいは周知例1の細条溝15直下の空間が,雨水を受けるものであっても,この空間は,その上部にある本来はできるだけ止水してある箇所(例えば,甲2の引違い窓における水溜り部10の上部は,突片案内部9の嵌合溝12に嵌着された気密材13により両側から幅狭に構成されている)から侵入してくる漏水を受け止めるだけの空間である。本件発明1のように,所定の隙間とともに下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水するために積極的に雨水を受け入れる「ふところとなる集水凹部」ではない。審決は,甲2,3,周知例1の図面に示された形態に基づき,形式的な類比判断を行っているにすぎない。
本件発明1の本質は 「排水溝 「ふところ 「集水凹部 「所定の隙間」に関す ,」 」 」る構成を全て備えている点にあり,これらの構成を全て備えることにより,初めて,500Pa級における脈動圧に対して,障子とサッシ枠の間に安定したシール構造を維持しつつ,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水できる。
これにより,本件発明1は,これまで困難とされていた屋内開口部のバリアフリー化を達成することができるものであるが,審決は,本件発明1の本質を無視し,このような課題ないし技術的思想の示唆すらない甲1,2及び周知例1と形態上の類比判断を行い,当業者が容易に発明をすることができたと誤って判断したものである。
(5) 取消事由1-5(予期し得ない顕著な作用効果の看過)本件発明1の構成によってもたらされる効果は,500Pa級における脈動圧に対して,障子とサッシ枠の間に安定したシール構造を維持しつつ,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水できるのであるから,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術のように,本来できるだけ止水してある箇所から侵入してくる漏水を受け止めるだけの,受身で雨水を受ける技術思想のものから普通に予測できる発明ではない。
原告は,本件発明1と同様の構造の試験体1と甲1発明と同様の構造の試験体2を用いて室内漏水の程度について実験をしたところ,500Pa脈動圧下における漏水は試験体1ではわずかにしみ出す程度で十分実用に耐え得るものと考えられたのに対し,試験体2では泡立ちから吹き出す状態となり,ついには枠外へあふれ出る状態になるもので到底実用に耐え得るものではなかった(甲18,19 。この)ことからも,本件発明1が顕著な効果を奏することは明らかである。
2 取消事由2(本件発明2について:予期し得ない顕著な作用効果の看過)本件発明1と同様の理由に基づき,本件発明2の奏する作用効果は,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から普通に予測し得ない格別なものといえるのであるから,本件発明2の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(本件発明3について)(1) 取消事由3-1(相違点4の認定の誤り)審決は,相違点4として 「サッシの内側をスライド開閉する障子の構成につい ,て,…甲1発明では,引き戸である点」と認定し,甲1発明がサッシ(窓枠)を備えていることを前提としているが,前記のとおり,甲1発明は,引き戸の支持案内構造として下枠を開示するにとどまり,サッシは開示されていないのであるから,相違点4の上記認定は誤りである。
(2) 取消事由3-2(相違点5の認定の誤り)審決は 相違点5として サッシにおける下枠の排水溝のシール手段以外のシー ,,「ル手段等の構成について,…甲1発明では,…」と認定し,甲1発明がサッシにおける下枠の排水溝を備えることを前提としているが 前記のように 甲1発明はサッ ,,シに関するものではなく,本件発明3の排水溝に相当する構成も備えていないのであるから,相違点5の上記認定は誤りである。
(3) 取消事由3-3(予期し得ない顕著な作用効果の看過)本件発明1と同様の理由に基づき,本件発明3の奏する作用効果は,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から普通に予測し得ない格別なものといえるのであるから,本件発明3の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(本件発明4について:相違点6の判断の誤り等)本件発明4は本件発明3を主要な構成としているところ,本件発明3が,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものではないことは,前記のとおりである。したがって,本件発明4の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
審決は,甲5,6記載の技術事項を甲1発明に適用することに阻害要因はないとするが,前記のように,甲1発明は,本来,引き戸の支持構造(下枠)に関するものであるから,甲5,6記載の技術事項を適用するには,甲1発明をまずサッシにした上で,片引き戸としなければならない。したがって,甲1発明に甲5,6記載の技術事項を適用することに阻害要因がないとの審決の上記判断は誤りである。
また,甲6記載の技術事項を勘案したとしても,容易に発明をすることはできたものとはいえないので,相違点6についての審決の判断は誤りである。
5 取消事由5(本件発明5について:相違点7の判断の誤り等)本件発明5は本件発明1を主要な構成としているところ,本件発明1が,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは,前記のとおりである。したがって,本件発明5の進歩性を否定した審決の判断は誤りである。
また,甲3記載の技術事項を勘案したとしても,本件発明5は容易に想到し得たものとはいえないので,相違点7についての審決の判断は誤りである。
被告の主張の要点
1 取消事由1(本件発明1について)に対して(1) 取消事由1-1(甲1発明の認定の誤り)ア 原告は,甲1発明の「切り込み溝9」は,雨水を確実に排水することをねらいとするものではないから本件発明1の「排水溝」には当たらないと主張する。し,, かしながら 本件特許請求の範囲にはそのような限定はされていないのであるから原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
仮に,原告の主張を前提としても,甲1発明において,引き戸としてスムーズな,, 開閉を行うには 切り込み溝9の溝壁と突条13との間に隙間を設ける必要があり隙間がある以上,雨水が侵入することは予定されている。切り込み溝9の底部に排,, 水用の排除孔10が形成されているのであるから 切り込み溝9に侵入した雨水は排除孔10により排出されることは明らかである。したがって,甲1発明の「切り込み溝9」と本件発明1の「排水溝」とは,その構成及び作用の点で何ら差異はない。
イ 原告は,甲1の切り込み溝9には通水以上の集水機能はなく,本件発明1のように「シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる」ものではないと主張する。しかしながら,本件発明1において,雨水が流れ,「」, 込むのは 排水溝とスライド片の室外側側面とで形成される 所定の隙間 であり甲1においても,切り込み溝9の溝壁と突条13との間の隙間に雨水が流れ込むように構成され,この隙間の幅寸法に対して切り込み溝9の底部空間の幅寸法が大きくなっているのであるから,甲1における切り込み溝9の底部空間は 「雨水を受,け入れるふところとなる集水凹部」と認められる。
さらに,甲1の切り込み溝9の底部空間に滞留する雨水の量は,排水溝に流れる雨水の量と,排除孔10から排水される排水量とのバランスによって定められるのであるから,そのバランスによって切り込み溝9の底部空間が「雨水を受け入れるふところとなる集水凹部」となることは明らかである。
ウ 原告は,甲1発明において突条13と切り込み溝9との間の隙間は,風圧に比例して大きくなるものではないから,本件発明1の「所定の隙間」には当たらないと主張する。しかしながら,本件特許請求の範囲にはそのような限定はされていないのであるから,原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
仮に,原告の主張を前提としても,甲1記載の引き戸の構造においても,引き戸に風圧が作用すると,室内側の細長状気密体は弾性変形し,これに伴い,引き戸の突条13と切り込み溝9との間の隙間が大きくなるのであるから 本件発明1の 所,「定の隙間」に相当する。
(2) 取消事由1-2(一致点認定の誤り)ア 原告は,甲1発明は,引き戸の支持案内構造として下枠1を有するのみで上下枠及び左右の縦枠を備えるものではないと主張する。
しかしながら,甲1の「本考案では,引き戸建具の下枠の平坦な上面に直状の切り込みを設け (段落【0014 )との記載によれば,甲1発明の下枠は,上下枠, ,」】縦枠を備えた建具の構成部材であることが明らかである。
イ 原告は,甲1発明の切り込み溝9の底部は本件発明1の「集水凹部」に相当しないと主張するが,前記のとおり,審決の認定に誤りはない。
(3) 取消事由1-3(相違点1の認定の誤り)前記のとおり,審決の相違点1の認定には誤りはない。
(4) 取消事由1-4(相違点1の判断の誤り)甲1の段落【0022】及び図1に示されるように,排除孔10は,切り込み溝9に対して所定間隔で形成され,少なくとも切り込み溝9において排除孔10が形成されていない部分は流入した雨水を,一旦溜めて排除孔10部分に流すことになるのであるから,切り込み溝9の底部空間が本件発明1にいう「集水凹部」であることは明らかである。
甲2,3には,下枠の引き戸の突条が挿入される溝の直下に,雨水を受ける集水凹部に相当するものが記載され,この集水凹部は,上部の溝幅よりも幅広な構成とされている。上部の溝幅よりも幅広な集水凹部を有する構成とすることは,周知技術にすぎないとの審決の認定判断に誤りはない。
(5) 取消事由1-5(予期し得ない顕著な作用効果の看過)甲1発明は,屋内外をバリアフリー化するに当たり,屋外からの雨水の侵入を防止する必要があるという観点から「排水溝 「集水凹部 「シール手段 「所定の隙 」」 」間」に相当する構成を採用している。甲1発明においても,引き戸に風圧が作用するとシール手段が押圧され,所定の隙間が広がるように作用するのであるから,本件発明1の作用効果は甲1発明から予測できる範囲のものである。
原告は,本件発明1の作用効果に関する実験を行ったとして,甲18,19を提出するが,甲18の試験体1が本件発明1と同様の構造を有するかは疑問であり,,,, 仮に本件発明1と同様の構造を有するとしても 甲18の実験結果は 試験体1と集水凹部の部分に気密ゴムを貼り付けて容積を小さくした試験体2の水密性を対比したものにすぎず,本件発明1と甲1発明の効果を対比したものとはいえない。仮に,両発明の効果を対比したものであるとしても,本件発明1と甲1発明の相違点は,甲2,3及びその他の周知例に示された周知技術の点にあり,いずれにしても本件発明1の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(本件発明2について:予期し得ない顕著な作用効果の看過)に対して本件発明2の奏する作用効果は,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から予測し得る範囲のものであるから,本件発明2の進歩性を否定した審決の判断には誤りがない。
3 取消事由3(本件発明3について)に対して(1) 取消事由3-1(相違点4の認定の誤り)前記のとおり,甲1発明の下枠は,上下枠,縦枠を備えた建具の構成部材であるから,審決の相違点4の認定には誤りはない。
(2) 取消事由3-2(相違点5の認定の誤り)甲1発明の下枠は,上下枠,縦枠を備えた建具の構成部材であり,本件発明3の「排水溝」に相当する構成も備えているのであるから,審決の相違点5の認定に誤りはない。
(3) 取消事由3-3(予期し得ない顕著な作用効果の看過)本件発明3の奏する作用効果は,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から予測し得る範囲内のものであるから,本件発明3の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(本件発明4について:相違点6の判断の誤り等)に対して本件発明3は,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明4の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
前記のとおり,甲1発明の下枠は,上下枠,縦枠を備えた建具の構成部材であるから 甲5 6記載の技術事項を甲1発明に適用することに阻害要因はない 甲5 6 ,, 。,記載の技術事項を甲1発明に適用すれば,本件発明3は容易に想到することができたものである。
5 取消事由5(本件発明5について:相違点7の判断の誤り等)に対して本件発明1は,甲1発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明5の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
また,甲3記載の技術事項に照らせば,本件発明5は当業者が容易に発明をすることができたものであるから,相違点7についての審決の判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1について)(1) 取消事由1-1(甲1発明の認定の誤り)ア 原告は,甲1の「切り込み溝9」は,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水することをねらいとした「排水溝」ではないから,審決が甲1には「直状の切り込み溝9を障子スライド方向に設けてその上部を排水溝とし」との構成が記載されていると認定したのは誤りであると主張する。
(ア) そこで,まず,本件発明1の「排水溝」について検討する。
本件発明1に係る請求項1は 「屋内外を隔てる建物開口部出入口に装着される ,,, 上下枠及び左右の縦枠からなるサッシとその内側をスライド開閉する障子を有し前記下枠は,上面がフラットに形成され前記下枠フラット面に条状の幅の狭い溝を障子スライド方向に設けて排水溝とし,前記障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片を前記排水溝に挿入し,前記排水溝に挿入されたスライド片と前記集水凹部の室内側側壁との間にタイト材を設け,障子に室外側から風圧を受ければ受ける程強く押圧されるシール手段とし,この排水溝の直下に排水溝幅より幅が広く,前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え,このスライド片の室外側と排水溝壁との間に所定の隙間を設けたことを特徴とする屋外用下枠フラットサッシ構造 」というものである。 。
上記記載によれば,本件発明1の排水溝は,下枠平面に設けられた細長いすじ状の幅の狭い溝であり,排水溝には,障子の下框室内側側壁から垂下させたスライド片が挿入され,排水溝の直下には,排水溝幅より幅が広く,雨水を受け入れるふところとなる集水凹部が設けられるとともに,スライド片の室内側と排水溝壁との間にはタイト材が設けられ,スライド片の室外側と排水溝壁との間には所定の隙間が。,「」 設けられているものと認められる かかる構造に照らすと 本件発明1の 排水溝は,下枠平面に設けられた細長いすじ状の幅の狭い溝であり,雨水は,排水溝に挿入された構造物と排水溝壁の隙間を通じて侵入し,雨水を受け止めるための構造物に流れ込むものと認められる。
(イ) 他方,甲1には,以下の記載がある。
(a) 「上記目的を達成するため,本考案では,引き戸建具の下枠の平坦な上面に直状の切り込み溝を設け,この切り込み溝内より雨水を流出させる排除孔を下枠の側面に設ける一方,引き戸下框の下端面に前記切り込み溝に内挿される突条を設け,この突条の側部となる下框下面に,前記下枠の平坦な上面に支持され引き戸の支持と移動を担う戸車を下框長手方向の適当間隔に設けるのである (段落【0014 )。」】(b) 「排除孔は下枠の一側方へ向かう横長の比較的大きな通路断面を有するものとなし,かつ,切り込み溝の底部に沿った適当間隔位置毎に複数設ける。雨水の侵入を確実に阻止するには,切り込み溝の縦壁面と突条の縦壁面との間を風雨密にシールするための細長状気密体を,これら縦壁面の何れか一方に付設する。また,この細長状気密体と共に,あるいはこれに代えて,下枠の平坦な上面と引き戸下框の下端面との間を風雨密にシールするための細長状気密体を,引き戸下框の下端面に付設することもできる (段落【0016】〜【0018 ) 。」】(c) 「9は下枠1の上面1aに設けた直状の切り込み溝であり,従来の引き戸の溝に比べて深い断面を有している。…10は下枠1の肉厚部に設けた排除孔で,具体的には下枠1の一側方f1へ向かう横長の比較的大きな通路断面を有し,かつ,切り込み溝9の底部に沿った適当間隔位置毎に複数設けられている。11は切り込み溝9の縦壁面9aに固定された細長状気密体で,前記縦壁面9aと後述の突条13の縦壁面13aとの間を風雨密にシールするためのものである。…一方,12は引き戸で,…下框5の下端面に,前記切り込み溝9に内挿される突条13が設けてある (段落【0021】〜【0024 ) 。」】(d) 「…引き戸が閉鎖された状態の下で風雨に曝されると,雨水が切り込み溝9に侵入しようとするが,細長状気密体14がこの侵入を抑制する。ところが風雨が強くなると,雨水が切り込み溝9に侵入することが生じ得る。このさい,侵入した雨水は排除孔10を通じて直ちに外界aへ流出し 切り込み溝9に滞留することはない 細長状気密体11は風雨が切り込み溝9 ,。
を通じて屋内cに侵入するのを抑制する (段落【0034 【0035 ) 。」】】上記記載によれば,甲1発明の切り込み溝9は,下枠平面に設けられた細長いすじ状の幅の狭い溝であり,切り込み溝9には,引き戸下框の下端面に設けられた突条13(本件発明1のスライド片に相当する )が内挿され,切り込み溝9の底部 。
に沿って横長の比較的大きな通路断面を有する排除孔10が設けられるとともに,上記突条の室内側と切り込み溝9との間には細長状密体11(本件発明1のタイト材に相当する )が設けられ,その室外側と切り込み溝9との間には隙間があり, 。
風雨が強くなると雨水が切り込み溝9に侵入するものと認められる。かかる構造に照らすと,甲1発明の「切り込み溝9」は,本件発明1の「排水溝」と同様,下枠平面に設けられた細長いすじ状の幅の狭い溝であり,雨水は,排水溝に挿入された構造物と排水溝壁との隙間を通じて侵入し,雨水を受け止めるための構造物に流れ込むものと認められる。
以上によれば,甲1発明の「切り込み溝9」は,本件発明1の「排水溝」に相当するものであるということができ,審決が,甲1発明について 「下枠1の上面1,aに直状の切り込み溝9を障子スライド方向に設けてその上部を排水溝とし」と認定したことに誤りはないというべきである。
(ウ) これに対し,原告は,本件発明1の排水溝は,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水することをねらいとしたものである点で,甲1発明の切り込み溝9とは異なると主張する。
しかしながら 「下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水する」こ ,とは,本件発明1が奏する作用効果とでもいうべきものであり,排水溝の具体的な構成を規定するものではなく,もとより特許請求の範囲にもそのような記載は存在しない。また,流れ込んだ雨水を確実に排水するという作用効果は,甲1に「風雨が強くなると,雨水が切り込み溝9に侵入することが生じ得る。このさい,侵入した雨水は排除孔10を通じて直ちに外界aへ流出し,切り込み溝9に滞留することはない (段落【0035 )と記載されているように,甲1発明の切り込み溝9も同 。」】様にこれを奏するものである。
したがって,原告の主張には理由がない。
イ 原告は,審決が,甲1発明について「切り込み溝9…の下部である底部が ,細長状気密体11に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部となる」ものであると認定したのは,誤りであると主張する。
一般に 「ふところ」とは 「物にかこまれた所 「内部」を意味する用語である ,, 」ところ(広辞苑第5版 ,本件明細書には「フラット面に条状の幅の狭い溝を障子 ),スライド方向に設け,この直下にこの溝より幅の広い集水凹部を設けて雨水を受け入れるふところとし (6欄17〜19行 「風圧を伴って降ってきた雨水は,屋 」),外と下枠内部に圧力が生じ,上記集水凹部に流れ込むように作用し優れた排水性を得ることができるとともに,集水凹部に多少の雨水が溜まってもシール部分に雨水がかかることがなく 毛細管現象にて室内側に侵入してくるのを防止できる 10 ,。 」(欄28〜33行)と記載され,集水凹部の集水,溜水機能が説明されているだけであって 「ふところ」という用語の定義はなく,この言葉が通常の意味とは異なる ,意味で用いられていることを示す記載はない。
そうすると,本件特許に係る請求項1の本件発明1の「ふところ」とは,排水溝の直下に設けられた集水凹部の内部空間のことを指すにすぎないというべきであり 「雨水を受け入れるふところとなる集水凹部」とは 「内部に雨水を受け入れる ,,ことができる集水凹部」を意味するものというべきである。
他方,甲1には,前記のとおり 「9は下枠1の上面1aに設けた直状の切り込 ,み溝であり,従来の引き戸の溝に比べて深い断面を有している (段落【0021 ,。」】)「10は下枠1の肉厚部に設けた排除孔で,具体的には下枠1の一側方f1へ向かう横長の比較的大きな通路断面を有し,かつ,切り込み溝9の底部に沿った適当間隔位置毎に複数設けられている (段落【0022 「風雨が強くなると,雨水が切 。」】),り込み溝9に侵入することが生じ得る。このさい,侵入した雨水は排除孔10を通じて直ちに外界aへ流出し 切り込み溝9に滞留することはない 細長状気密体11 ,。
は風雨が切り込み溝9を通じて屋内cに侵入するのを抑制する (段落【0035 )。」】と記載されている。
上記記載によれば,雨水は,切り込み溝9から切り込み溝9の底部へと流入し,底部に設けた排除孔10を通じて直ちに外界aへ流出し,切り込み溝9に滞留することはないものと認められる。排除孔10は,切り込み溝9の底部に,複数箇所設けられており,雨水は,切り込み溝9の底部から,いずれかの排除孔10を通って流出するのであるから,切り込み溝9の内部空間が,雨水の集水機能を果たしていることは明らかであり,しかも,雨水が切り込み溝9に滞留することはないのであるから,この内部空間がシール手段である細長状気密体11に雨水が溜まることがないような容量のものであることも明らかである。
そうすると,甲1発明の切り込み溝9は,細長状気密体11に雨水が溜まることがないように,その内部に雨水を受け入れることができる集水凹部ということができるから,審決が,甲1発明は 「下枠1の上面1aに設けた直状の切り込み溝9 ,の上部が排水溝になりその下部である底部が細長状気密体11に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部となる」構成を備えていると認定したことに誤りはないというべきである。
ウ 原告は,甲1発明の突条13と切り込み溝9との間の隙間は,排水のために積極的に設けられ,風圧に比例して大きくなるものではないから,審決が,甲1発明が「排水溝壁と前記突条13の外界a側に所定の隙間を備え」ていると認定したのは誤りであると主張する。
一般に「所定の」とは 「定まっていること。定めてあること 」を意味するとこ ,。
ろ(広辞苑第5版 ,本件特許に係る請求項1には 「スライド片の室外側と排水溝 ),壁との間に所定の隙間を設けた」と記載されているにすぎず 「所定の隙間」の寸,法,形状,構造は何ら特定されていない。
また,本件明細書には「障子下框室内側側壁から垂下したスライド片と下枠凹部の室内側側壁との間には,シール手段として横タイト材が設けられているが,このスライド片の室外側(屋外側)と下枠凹部の側壁との間に横タイト材が設けられていなく,排水をねらいとしたスライド溝が存在するのでこの隙間により,障子戸の開閉がスムーズに行なえ,風圧が室外側から戸面に負荷されるとこのスライド片の室内側側壁と横タイト材が風圧により強く押圧されることによりシール性が向上するとともに,このスライド片とスライド溝壁の室外側の隙間K(図5参照)が風圧に比例して大きくなり,スライド溝から下枠凹部に外気とともに雨水が流れる 」。
7欄8〜19行 と記載され 甲16の図5には隙間Kが図示されているが 所 (), , 「定の隙間」の寸法,形状,構造は何ら特定されていない。
他方,甲1発明においては,突条13の室外側(屋外側)と,切り込み溝9の側壁との間に細長状気密体が設けられていないのであるから,これらの間に隙間が存在することは明らかであり,甲1に「風雨が強くなると,雨水が切り込み溝9に侵入することが生じ得る (段落【0035 )と記載されているように,風雨が強い場 。」】合には,雨水が,突条13と切り込み溝9の側壁との隙間から,切り込み溝9内に侵入するものと認められる。
また,突条13の室内側(屋内側)と,切り込み溝9の側壁との間に設けられた細長状気密体11は 「主体部は弾性変形し易いシール性に優れたゴム質の一様断 ,面体となしてある (甲1の段落【0023 )のであるから,引き戸が,室外側(屋外 」】側)から風圧を受ければ受けるほど,細長状気密体11も強く押圧されることとなり,その結果,突条13の室外側(屋外側)と,切り込み溝9の側壁との間の隙間が広がることとなるものと認められる。
以上によれば,甲1発明の突条13と切り込み溝9の側壁との間には,あらかじめ隙間が設けられており,この隙間は風圧に比例して大きくなる形状,構造のものであり かつ 雨水を排水する機能を有するものであるということができるのであっ ,,て,本件発明1の「所定の隙間」の寸法,形状,構造等についてはそれ以上の特定はされていないのであるから,甲1発明の突条13と切り込み溝9間の隙間は,本件発明1の「所定の隙間」に相当するというべきである。
したがって,審決が,甲1発明は 「排水溝壁と前記突条13の外界a側に所定 ,の隙間」を備えていると認定したことに誤りはない。
(2) 取消事由1-2(一致点認定の誤り)ア 原告は,甲1発明は,引き戸の支持案内構造として下枠1を有するのみで上下枠及び左右の縦枠を備えるものではないから,審決が,本件発明1と甲1発明は「上下枠及び左右の縦枠からなるサッシ」との点で一致すると認定したのは誤りであると主張する。
確かに,甲1には,下枠1が示されているだけであり 「上下枠及び左右の縦枠 ,からなるサッシ」を有すると明示的には記載されていない。しかしながら,建物開口部に装着されるサッシは,通常,上下枠及び左右の縦枠から枠状に形成されるものであり,甲1の「下枠1」という用語自体,下枠以外の上枠や左右の縦枠が存在することを示唆しているということができる。
したがって,審決が,本件発明1と甲1発明とは 「上下枠及び左右の縦枠から ,なるサッシ」を有する点で一致すると認定した点に誤りがあるとはいえない。
イ 原告は,審決が,本件発明1と甲1発明は「前記シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備え」ている点で一致していると認定したのは誤りであると主張する。しかし,審決のこの認定に誤りはないことは,上記(1)イで判示したとおりである。
ウ 以上によれば,審決の一致点の認定に誤りがあるということはできない。
(3) 取消事由1-3(相違点1の認定の誤り)原告は 相違点1の 下枠の排水溝の直下に備えた集水凹部の構成について…甲1 ,「発明では,集水凹部が上部を排水溝とした一定幅の切り込み溝の底部として形成されたもの」との認定は,甲1発明が集水凹部を備えているという前提において誤りであると主張するが,切り込み溝9の底部が本件発明1の「集水凹部」に相当することは,前記判示のとおりである。したがって,審決の相違点1の認定に誤りがあるとはいえない。
(4) 取消事由1-4(相違点1の判断の誤り),「,, 審決は 下枠の排水溝の直下に備えた集水凹部の構成について 本件発明1が「排水溝幅より幅が広」い集水凹部であるのに対し,甲1発明では,集水凹部が上部を排水溝とした一定幅の切り込み溝の底部として形成されたもので,そのような構成を有していない点 」を相違点1として認定した上で,排水溝の直下に排水溝 。
幅より広く雨水を受け入れるふところとなる集水凹部を備えることは,甲2,3にも記載されている周知事項であるから,相違点1に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎないと判断した。これに対し,原告は,審決の相違点1の判断は誤りであると主張する。
甲2には,障子の下框の下方に突出形成された突片7が枠の下枠に形成した溝条8内に挿入され,突片が溝条に案内されて走行する旨が(4欄33〜37行 ,)甲3には,障子下部の内壁に立ち下がり部としてのスカート部34a〜34cを形, (【】【】), 成して 案内レールとパッキンとの隙間に挿入する旨が 段落 0020 〜 0022周知例1には,障子の下框の下方に突出形成された突片18が細溝条15に摺動案内される旨が(甲7の7頁1〜12行 ,それぞれ記載されており,上記溝条8, )隙間,細溝条15の下方には,これらよりも幅の広い凹部が形成されていることが図示されている(甲2,甲3,周知例1のそれぞれ図1を参照 。)また 甲2に 上記内側障子4や外側障子5の表面を伝って落ちた雨水は 溝条8 ,「 ,の水溜り部10に流れていく。水溜り部10は溝条8の突片案内部9よりも幅広に形成されているので,大きな排水孔20を形成することができ,雨水は溢れ出ることがないとともに,排水は迅速で効率的に行われる (5欄37行〜6欄3行)と 。」記載されているように,上記凹部が,上記溝条8等から落ちる雨水等を溜めるための集水凹部として機能するものであることは明らかである。
そうすると,溝条幅より幅が広い集水凹部を設けることは本件特許出願前に周知の技術であると認められ,本件発明1の「ふところとなる集水凹部」も,引用発明「」, , の 切り込み溝 の底部も 雨水を溢れ出させないための手段として共通するから引用発明1における,一定幅の切り込み溝の底部を,上記周知の集水凹部に代えることは,当業者ならば容易に想到できることというべきである。
これに対し,原告は,甲2の水溜り部10や甲3の下枠3におけるスカート部分34a,34b,34c直下の空間は,所定の隙間とともに下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水するために積極的に雨水を受け入れる「ふところとなる集水凹部」ではないから,本件発明1とは異なると主張する。
,, , , , しかしながら 審決は 集水凹部の幅が 排水溝よりも広いか 同じであるかを相違点1として認定し 相違点1は 上記周知技術から容易想到と判断したのであっ ,,て,上記周知技術が,シール手段に雨水が溜まることがないように雨水を受け入れるふところを備えていると認定したのではない。審決は,かかる「ふところ」は,引用発明1が備えていると認定しているのであるから,原告の上記主張は,審決を正解しないものである。
また,原告は,本件発明1の本質は 「排水溝 「ふところ 「集水凹部 「所定 ,」」」の隙間」に関する構成を全て備えることにより,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水し,屋内開口部のバリアフリー化を達成した点にあると主張する。しかしながら,甲1発明が,本件発明1の「排水溝 「ふところ 「集水凹部」 」」「所定の隙間」をすべて備えていることは,前記判示のとおりであり,甲2,3,周知例1等に記載された技術事項は,甲1発明とその技術分野を同じくするものであるから,これらの技術事項を甲1発明に適用することについて阻害要因も存在しない。
以上のとおり,相違点1に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎないとした審決の判断に誤りはないというべきである。
(5) 取消事由1-5(予期し得ない顕著な作用効果の看過)原告は,本件発明1の作用効果は,500Pa級における脈動圧の場合でも,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水できるのであるから,甲1,2。, 発明及び周知技術から予測できる範囲内のものではないと主張する しかしながら甲1発明の切り込み溝9も,下枠のフラット面に大量に流れ込む雨水を確実に排水することができることは前記判示のとおりである。
これに対し,原告は,甲18,19に基づいて,引用発明1と本件発明1の場合とでは,500Pa級の脈動圧をともなう風雨に対する室内漏水の防止効果は明らかに異なると主張する。
しかしながら,引用発明の切り込み溝9は,従来の引き戸の溝に比べて深い断面を有しており,雨水が滞留することはない(段落【0021 【0035 )とされているも 】】のであるところ,深い断面とすることにより,切り込み溝内の容量が大きくなり,雨水の滞留量を多くできることは当業者に明らかである。甲18,19は,結局のところ,集水凹部の容量の大きさにより漏水の防止効果が異なることをいうものであるが,仮に,引用発明1において,500Pa級の脈動圧を伴った風雨によって室内漏水が起こるのであれば,切り込み溝の深さを増大することも可能であり,あるいは,周知技術のように,溝条幅より幅が広い集水凹部を設けることも容易なことというべきである いずれにしても原告が指摘する作用効果は 甲1発明 甲2 。, ,,記載の技術事項,周知例1記載の周知事項等を組み合わせた構成自体から得られる自明な作用効果にすぎないのであって,これらの発明等から予期し得ない顕著な効果を奏するものということはできない。
したがって,甲18,19を参酌したとしても,本件発明1が,当業者の予測し難い顕著な作用効果を奏するものということはできない。
2 取消事由2(本件発明2について:予期し得ない顕著な作用効果の看過)原告は 本件発明1と同様の理由に基づき本件発明2の奏する作用効果は 甲1 ,,,発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から,予測し得ない顕著なものであると主張する。しかしながら,本件発明1が,当業者の予測し難い顕著な作用効果を奏するとはいえないことは,前記判示のとおりである。したがって,本件発明2の進歩性を否定した審決の判断に誤りはないというべきである。
3 取消事由3(本件発明3について)(1) 取消事由3-1(相違点4の認定の誤り)原告は,甲1にはサッシ構造は開示されていないのであるから,甲1発明がサッシ構造を有することを前提とする相違点4の認定は誤りであると主張する。しかしながら,甲1発明が「上下枠及び左右の縦枠からなるサッシ」を有すると認められることは,前記判示のとおりである。したがって,原告の主張には理由がない。
(2) 取消事由3-2(相違点5の認定の誤り)原告は,甲1発明はサッシ構造も排水溝も有していないのであるから,甲1発明がこれらの構成を有していることを前提とする相違点5の認定は誤りであると主張する。しかしながら,甲1発明の「切り込み溝9」が本件発明3の「排水溝」に相,, 「 」 , 当し かつ 甲1発明が 上下枠及び左右の縦枠からなるサッシ を有することは前記判示のとおりである。したがって,原告の主張には理由がない。
(3) 取消事由3-3(予期し得ない顕著な作用効果の看過)原告は 本件発明1と同様の理由に基づき本件発明3の奏する作用効果は 甲1 ,,,発明,甲2記載の技術事項及び周知技術から,予測し得ない顕著なものであると主張する。しかしながら,本件発明1が,当業者の予測し難い顕著な作用効果を奏するとはいえないことは,前記判示のとおりである。したがって,本件発明3の進歩性を否定した審決の判断に誤りはないというべきである。
4 取消事由4(本件発明4について:相違点6の判断の誤り等)原告は,本件発明4は本件発明3を主要な構成としているところ,本件発明3は容易に想到し得たものではないのであるから,本件発明4の進歩性を否定した審決の判断は誤りであると主張する。しかしながら,本件発明3の進歩性を否定した審決の判断に誤りがあるとはいえないことは,前記判示のとおりである。
原告は 甲1発明は 引き戸の支持構造 下枠を有しないのであるから 甲5 6 ,, () ,,記載の技術事項を甲1発明に適用することに阻害要因があるとも主張する。しかしながら 甲1発明がサッシ構造を備えていることは 前記判示のとおりであり 甲1 ,,,発明に甲5,6記載の技術事項を適用することに阻害要因があるということはできない。
,,, , , また 甲1発明 甲2 6記載の技術事項及び周知技術によれば 本件発明4はこれらの発明等に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるということができる。
5 取消事由5(本件発明5について:相違点7の判断の誤り等)原告は,本件発明5は本件発明1を主要な構成としているところ,本件発明1は容易に想到し得たものではないのであるから,本件発明5の進歩性を否定した審決の判断は誤りであると主張する。しかしながら,本件発明1の進歩性を否定した審決の判断に誤りがあるとはいえないことは,前記判示のとおりである。
また,甲1〜3及び周知例1によれば,相違点7に係る構成は当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎないということができる。したがって,相違点7についての審決の判断にも誤りがあるとはいえない。
6結論以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文