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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ネ6451各補償金請求控訴事件 判例 特許
平成16ネ2790損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ730実績報償金請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10125補償金請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  相当の対価(相当な対価) /  創作性(創作) /  共同発明 /  先行技術 /  技術的特徴 /  優先権 /  着想 /  登録意匠 /  抵触 /  実施 /  実施料 /  共同発明者 /  対価 /  拒絶査定 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10117号 特許権譲渡代金請求控訴事件
控訴人 X
訴訟代理人弁護士 永島孝明,安國忠彦,明石幸二郎
補佐人弁理士 磯田志郎
被控訴人 ファイザー株式会社
訴訟代理人弁護士 中島和雄
補佐人弁理士 松居祥二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
1 原判決中,被控訴人に対する1億円及びこれに対する平成16年7月15日。 から支払済みまでの年5分の割合による金員の支払請求を棄却した部分を取り消す2 被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成16年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,被控訴人の従業員であった控訴人が,被控訴人に対し,職務発明について特許を受ける権利を被控訴人に承継させたことにつき,特許法35条3項の規定に基づき,相当の対価の支払を求めた事案である。
1 手続の経過(1) 控訴人は 原審において 特許第3015677号の特許権に係る発明 以 ,, (下「本件発明」という )は,被控訴人の従業員であった控訴人がAとともに職務 。
上した発明であり,これについて特許を受ける権利を被控訴人に承継させたと主張して,特許法35条3項の規定に基づき,相当の対価である53億9665万50() 00円のうち10億円とこれに対する訴状送達の日の翌日 平成16年7月15日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(2) 原審は,控訴人が本件発明の真の共同発明者ということはできないと判示して,原告の請求を棄却した。
(3) 控訴人は,原判決のうち,1億円及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分を不服として,控訴した。
2 争いのない事実,争点等争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決の「事実及び」「 」「 」 「 」 理由 の 第2 事案の概要 の 1 争いのない事実等 及び 3 本件の争点並びに「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,原判決32頁20行目に「原告は,このうち10億円の支払を求める 」とあるのを 「原告は,このうち1億円の支払を求める 」に改める。 。, 。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,当審における控訴人の主張に対する判断を以下に付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の主張について(1) 控訴人は,本件発明は,錠剤の形状の着想が重要であり,実験はただ一つの錠剤の形状についてその効果を確認したにすぎないから,錠剤の形状を着想した,,, 者が その後の実験への関与の程度を問わず発明者又は共同発明者となるとして控訴人が,平成元年末には,後のノルバスク分割錠と同一の形状を着想していたと主張する。もっとも,この点は原審でも主張され,この主張は原判決(50頁2行目ないし53頁12行目,55頁3行目ないし56頁14行目)でも念頭に置いて判断しているところである。
ア 錠剤の形状の着想が重要であるとの主張について,, (ア) フィルムコーティングを施した分割錠剤において いかなる形状であれば均一かつ容易に分割できるか,フィルムコーティング工程においてツウィンニング等のトラブルが生じないかを事前に予想することは困難であって,具体的な実験によって初めて確認できるものであること,また,どのような組成のフィルムコーティング剤でどのような引っ張り強度及び伸び率にすれば,均一かつ容易に分割できるか,フィルム付着等の問題が生じないかを事前に予想することも困難であり,具体的な実験によって発見ないし検証することが不可欠であることは,原判決50頁26行目ないし51頁22行目に説示されており,当裁判所もこの判断を支持するものである。
(イ) そして,原判決が認定した(40頁3行目ないし14行目,42頁10行目ないし45頁15行目)ように,Bは,ノルバスク分割錠の開発について,平成「」 6年1月10日に開催された被控訴人の社内会議Nagoya-Tokyo Creative Forumにおいて,フィルムコーティングの問題,分割性の問題及び光に対する安定性確保の問題等があることを指摘した上,同年3月28日 「Nagoya-Tokyo Creative Fo ,rum」の事務局である情報企画部長に宛てて,開発状況として,スプレー液噴霧速度などのコーティング条件,水系フィルムコーティング装置の機種による影響,錠(,。 ), 剤形状 カルデナリン錠4mgと同様形状にするか その一部変更形状にするかコーティング液の処方及び素錠の硬度とコーティング錠の分割性の関係を検討している旨報告し,さらに,平成6年4月ころに開催された被告の社内会議「Nagoya-Tokyo Creative Forum」において,素錠の形状に問題があったり,コーティング条件が不適当であったりしたことなどを原因として,フィルムコーティング工程でツウィンニングが発生する問題( ノルバスク分割錠プラセボの製造において発生し 「たトラブルとその対策 (乙28)中の「発生したトラブル」欄@ ,フィルムコ 」)ーティング工程で素錠が摩損する(コアエロージョン)問題(同「発生したトラブル」欄A ,フィルムコーティング工程で割線及び刻印部分が詰まる問題(同「発 )生したトラブル」欄B ,分割時の錠剤の割れやすさの問題(同「発生したトラブ )ル」欄C)及び錠剤分割時のフィルム残りの問題(同「発生したトラブル」欄D)が発生し,対策として,杵のデザインの変更やコーティング条件の変更などが考えられたことを指摘しているものである。
このように,平成6年においてもなお,錠剤の形状やコーティングの条件を確定するに至っていないのであって,このことからみても,本件発明は,実際にフィルムコーティング実験等を繰り返すことによって,課題を解決する手段が具体化される性質のものであったということができる。
(ウ) そうであれば,本件発明は,錠剤の形状についての着想を得ただけでは,期待する作用効果を奏するか否かが明らかでなく,実際に実験等を繰り返すことによって,初めて発明が具体化し,完成したものであるから,本件発明における発明者を認定するに当たっては,実際にフィルムコーティング実験等を実施して創作的にその構成を見いだしたか否かという観点に依拠するのが相当である。
イ 控訴人が錠剤の形状を着想したことについて(ア) 引用した原判決の認定した事実に,甲4,乙20,48,50及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
a サンド社は,昭和60年12月3日,原判決別紙図2記載の形状,すなわち一方の面が平面で,溝状の割線の入っている他方の面が凹面となっており,周縁部が面取りされている円盤状のパーロデル型分割錠につき意匠の登録出願をし,この意匠は昭和62年2月27日に登録された。サンド社は,また,昭和61年6月3日,上記登録意匠と同様の形状の錠剤について特許出願をし(特願昭61-130011。なお,優先権主張は昭和60年6月4日である ,平成7年に実用新案 。)登録出願に切り替え(実願平7-6660 ,この出願に係る考案は平成8年6月 )21日に公開された(実開平8-1012)が,その後に拒絶査定が確定した(甲4,弁論の全趣旨 。)サンド社のパーロデル型分割錠は,指で押すだけで分割できるという技術的特徴を有するものであった(弁論の全趣旨 。)b 被控訴人のC製剤研究室長は,上記サンド社の特許出願に係る特許公開公報(特開昭61-289027号公報)を発見し,昭和63年3月8日付けで,D調査部長に対応を相談したところ,D調査部長は,同月17日付けで,カルデナリン(ドキサゾシン)錠1mgをカラテ型割線入りで進めるのであれば,対応として,他の特許出願,文献を含めた先行技術の調査,上記サンド社の特許出願についての特許庁に対する審査請求を行うなどの方策を講じてサンド社の特許権を成立させないようにする方法と特許権が成立した場合には実施料を支払う方法があると回答した(乙20 。)c 製剤研究室長であった控訴人は,平成元年4月19日付けで,R&D業務部,( ) , 長に カルデナリン ドキサゾシン 錠1mgを割線入りカラテ型錠で進めるときはサンド社の特許に抵触するか否かの問題が解決されていないので,上記特許が成立したか,上記特許が成立したときはこれに抵触しないか,抵触するときはその対応をどうするかについて再度確認してほしい旨上申した。
さらに,控訴人は,平成元年11月16日付けで,特許部長に対し,カルデナリン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠はサンド社の特許に抵触しないように考案されたものであるが,本当に抵触しないかどうか再度検討してほしい旨上申した。
(イ) 上記(ア)に認定したように,昭和63年から平成元年にかけて,被控訴人が進めているカルデナリン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠がサンド社の特許に抵触するか否かが問題となっていたところ,仮に控訴人が平成元年末に錠剤の形状を着想していたというのであれば,上記着想に係る錠剤の形状は,割線のない面が凸曲面である点で,Eが着想したカルデナリン分割錠の形状よりもパーロデル分割錠の形状から離れたものであり,サンド社の特許に抵触しない可能性がより高いと評価することができるから,製剤研究室長であった控訴人としては,少なくとも,上記着想に係る錠剤の形状を提案したり,開発担当者のEにその着想を伝えたりするのが通常であると考えられる。しかるところ,本件全証拠によっても,,。 控訴人が上記のような提案をしたり 着想を伝えたりしたとの事実は認められない(ウ) もっとも,控訴人は,上記のような提案をしたり,着想を伝えたりしなかったことについて,@ 原審において,被控訴人が当時の厚生省に対し非分割錠の承認申請を分割錠の承認申請に改める変更申請を行った直後で,再度錠剤の形状変更による承認申請を行うことは事実上不可能であり,他方,割線のない面を平面とする形状でも,分割錠開発の所期の目標(十分な分割性)は十分に達成されていたと主張し,A 当審において,割線のない面を平面とする形状を工場サイドに報告した後で,再度変更するには,新しい杵型(錠剤形状)を用いて比較実験を行うために予算が必要であり,他方,割線のない面を平面とする形状でも,分割錠開発の所期の目標 十分な分割性 は十分に達成されていたと主張する しかし 上記(ア) () 。,に認定したように,昭和63年から平成元年にかけて,被控訴人が進めているカルデナリン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠がサンド社の特許に抵触するか否かが問題となっており,控訴人自身もこれを懸念していたのであって,被控訴人がサンド社の特許に抵触すると判断したときは,被控訴人が進めていたカルデナリン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠を断念するか,その形状を変更するなどしなければならないのであるから,控訴人の主張するような事情があるとしても,このために,提案等することさえも差し控えなければならないとは考えられない。控訴人の上記主張による弁解には無理がある。
(エ) 上記(イ)のとおり,控訴人が上記のような提案をしたり,着想を伝えたりしたとの事実は認められないのであって,このことだけからみても,控訴人が平成元年末に既に錠剤の形状を着想したとは認め難いといわなければならない。そして,他に控訴人が錠剤の形状を着想したことを認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上のとおりであって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(2) 控訴人は,その他縷々主張して原判決の認定判断を非難するが,実際にフィルムコーティング実験等を実施して創作的にその構成を見いだしたか否かという,( 。) 観点に依拠して検討するならば 以上に説示 引用した原判決の理由説示を含むしたように,控訴人が本件発明の真の共同発明者ということはできず,そうである以上,控訴人の主張は,結論に影響を及ぼすものであるとはいえないから,採用の限りでない。
結論
よって,控訴人の請求は理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 佐藤達文