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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ワ24626特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成17ワ11007不当利得返還等請求事件 判例 特許
平成16ワ8682損害賠償請求事件 判例 特許
関連ワード 承継 /  有用性 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  寄せ集め /  周知技術 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  一般承継 /  善意 /  援用権(援用) /  特許出願日 /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  加工 /  交換 /  構成要件 /  汎用品 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売能力 /  実施権 /  通常実施権 /  知らないで /  発明の実施である事業 /  事業の準備 /  実施又は準備(実施または準備) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 1307号 特許権侵害差止等請求事件
原告 ライン工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 櫻林正己
被告 株式会社神戸製作所
同訴訟代理人弁護士 光石忠敬
同 光石俊郎
裁判所 名古屋地方裁判所
判決言渡日 2005/04/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録記載の装置を製造,販売,販売の申出をしてはならない。
2 被告は,原告に対し,329万8471円及びこれに対する平成16年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の,その余を原告の各負担とする。
5 この判決は,原告勝訴の部分に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
原告の請求
1 主文1項と同旨 2 被告は,原告に対し,2000万円及びこれに対する平成16年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,移載装置に関する特許権を有する原告が,被告の製造,販売したパレット積替装置は当該特許発明技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,同特許権に基づき,その製造等の差止め及び損害賠償等の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実のほか証拠等により明らかに認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は,各種輸送機器の製造等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は,段ボール製造機械及び段ボール搬送機械の設計,製造,販売などを目的とする株式会社である。
(2) 原告の特許権 ア 原告は,下記特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る発明を「本件発明」という。)を有している。
(ア) 特許番号 第2528251号 (イ) 発明の名称 移載装置 (ウ) 出 願 日 平成5年4月14日(特願平5-87003) (エ) 公 開 日 平成6年10月25日(特開平6-298346) (オ) 登 録 日 平成8年6月14日 (カ) 特許請求の範囲(請求項1) パレットやベニヤ板のような敷板の待機位置に対して敷板を搬入及び搬出する敷板搬送手段と,前記敷板待機位置に製品を供給する製品供給ラインと,前記敷板待機位置の側方に張設され,少なくとも前記製品供給ラインの供給方向に沿って移動する張設区間を有する,循環駆動式の無端チェーンと, 前記製品供給ラインから供給された製品を載せて,前記無端チェーンに牽引されつつ,前記敷板待機位置の敷板の上面を前記製品供給ラインの端側から供給方向に沿って滑動可能な可撓性の薄板と, 前記薄板の滑動方向の端部近傍に配設され,前記薄板に載せられ移動する製品と当接可能な製品ストッパとを有することを特徴とする移載装置。
イ 本件発明の構成要件の分説(以下「構成要件a)」などという。) 本件発明は,以下の構成要件に分説することができる。
a)パレットやベニヤ板のような敷板の待機位置に対して敷板を搬入及び搬出する敷板搬送手段と, b)前記敷板待機位置に製品を供給する製品供給ラインと, c)前記敷板待機位置の側方に張設され,少なくとも前記製品供給ラインの供給方向に沿って移動する張設区間を有する,循環駆動式の無端チェーンと, d)前記製品供給ラインから供給された製品を載せて,前記無端チェーンに牽引されつつ,前記敷板待機位置の敷板の上面を前記製品供給ラインの端側から供給方向に沿って滑動可能な可撓性の薄板と, e)前記薄板の滑動方向の端部近傍に配設され,前記薄板に載せられ移動する製品と当接可能な製品ストッパとを有することを特徴とする f)移載装置。
ウ 本件発明の作用効果 製品供給ラインの移載装置において,上記構成により,敷板の上に配設した薄板を引き抜くときの製品の下降量がごくわずかとなり,製品に衝撃がほとんど作用しない。また薄板は従来技術で使用されているキャリッジローラに比べて表面が滑らかなので,薄板上に製品を移動させるときに製品の荷崩れ及び荷傷みを生ずるおそれがない。
(3) 被告による製造,販売行為 被告は,平成14年1月7日ころ,三菱重工東日本販売株式会社(当時。
以下「三菱重工東日本販売」という。)との間で,代金5460万円(消費税込み)でパレット積替装置を製造し,日板パッケージ東京株式会社(以下「日板パッケージ東京」という。)松戸工場に納入するとの契約を締結し,同年5月ころまでに,同装置を製造,納入し(以下,被告が日板パッケージ東京松戸工場に納入したパレット積替装置を「被告製品」という。),同年6月末日ころ,三菱重工東日本販売から上記代金の支払を受けた(乙15)。
(4) 被告製品の構成 被告製品は,別紙物件目録記載の構成を有する移載装置などから成るところ,同装置は,本件発明の構成要件a)ないしf)をいずれも充足する。
2 本件の争点 (1) 侵害論-被告による先使用権援用の可否 ア 三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」という。)が先に製造したパレット積替装置は,本件発明の技術的範囲に属するか。
イ 三菱重工東日本販売が本件特許の先使用権を有しているか。
ウ 被告が三菱重工東日本販売の先使用権援用できるか。
(2) 損害論その1-特許法102条2項の推定覆滅等の成否 ア 推定の全部覆滅(被告の主位的主張)の成否 原告の信用不安等の要因により,日板パッケージ東京松戸工場に納入されたパレット積替装置を原告が受注する可能性がなかったか。
イ 推定の一部覆滅(被告の予備的主張)の成否 被告と原告の営業力の顕著な格差により,推定の量的一部覆滅が認められるか。
(3) 損害論その2-被告の利益額 ア 特許法102条2項にいう「利益」の意義 イ 利益額の算定に当たり,本件発明の寄与割合を考慮すべきか。また,仮に考慮すべき場合,寄与割合はどの程度か。
ウ 具体的金額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(侵害論-被告による先使用権援用の可否)について (被告の主張) ア 三菱重工東日本販売の先使用権 (ア) 三菱重工による先使用権取得 三菱重工は,本件発明の内容を知らないで,本件特許出願日(平成5年4月14日)以前に,パレット積替装置を製造した上,平成4年1月10日,常陸森紙業株式会社(以下「常陸森紙業」という。)に納入した(以下,上記三菱重工製造に係るパレット積替装置を「先行品」という。)ところ,先行品における移載装置は,本件発明の構成要件a)ないしf)をいずれも充足し,その技術的範囲に属する。
この点につき,原告は,先行品における移載装置が本件発明の構成要件c)及びd)の要素である「無端チェーン」を有しておらず,仮にこれを有しているとしても,先行品の無端チェーンは,供給された製品を載せる「鋼板」を往復揺動させるためのもので,本件発明のように,「薄板」を循環移動させるものでない点で相違している旨主張する。しかし,先行品の図面(乙16)の真ん中下の04の部品の下に無端チェーンが存在する上,移載装置における「薄板」と「鋼板」の差は二義的なことであって,性能において特別な差があるわけではない。
したがって,三菱重工は本件発明の先使用権を有する。
(イ) 三菱重工東日本販売による先使用権取得 先行品の製造経緯は,以下のとおりであり,三菱重工東日本販売も,三菱重工と同様に本件発明の先使用権を有している。
a 三菱重工の販売会社であり,同社の100パーセント子会社であるトーリョーテック株式会社(以下「トーリョーテック」という。)は,常陸森紙業から先行品の注文を受け,これを三菱重工に発注した。三菱重工は,先行品を製造した上で,トーリョーテックに販売し,さらに同社が,常陸森紙業に販売した。
b トーリョーテックは,平成5年,三菱重工印刷紙工機械東部株式会社に社名を変更した後,平成6年,三菱重工印刷紙工機械西部株式会社と合併し,社名を三菱重工印刷紙工機械販売株式会社に変更した。さらに,三菱重工印刷紙工機械販売株式会社は,平成10年,外2社と合併して,社名を三菱重工東日本販売に変更した。
c ところで,物の生産事業について先使用権が成立しているときは,生産事業の下流にある物の販売事業や使用事業が先使用権の要件を満たしていなくても,それらは生産事業の先使用権の傘下にある実施として,権利侵害にならない。なぜなら,そのように考えないと,物の生産事業を先使用権により保護したことが無意味になるからである。したがって,本件の場合,三菱重工の販売会社であるトーリョーテック及びその後身の三菱重工東日本販売も,三菱重工と同様に先使用権を取得している。
イ 被告による製造行為が三菱重工東日本販売の先使用権の範囲に属すること 三菱重工東日本販売の担当者は,被告に対し,被告製品における移載装置について,「原告が納入した日板パッケージ東京古河工場の製品と同様にしてほしい。三菱重工で常陸森紙業に納入した製品は特許申請をしている。」との指示及び説明をした。このように,被告は,三菱重工東日本販売から,注文及び具体的な指示を受け,同社の指揮監督下に被告製品を製造した。
この点についても,原告は,先行品における移載装置の無端チェーンは「鋼板」を往復移動させるためのものであるのに対し,被告製品におけるそれは「薄板」を循環揺動させるものである点で相違している旨主張する。しかし,移載装置における「薄板」と「鋼板」の差は二義的なことで,性能において特別な差があるわけではない。
したがって,被告製品における移載装置の製造行為は,三菱重工東日本販売の先使用権の範囲に属するから,被告はこれを援用することができる。
(原告の主張) 被告の主張は争う。
ア 先行品は本件発明の技術的範囲に属しないこと 先使用権は,平成3年10月3日作成の図面に基づく先行品についてしか問題とならないところ,同装置は,本件発明の構成要件c)及びd)の要素である「無端チェーン」を有していない。
すなわち,本件発明の構成要件の「無端チェーン」は,「薄板」を循環移動させる機能のみを有しているのに対し,先行品における移載装置の無端チェーンは,「製品供給ラインから供給された製品を載せる板」を往復揺動させるためのものであって,同装置は本件発明の構成要件c)及びd)の要素である「無端チェーン」を有していない。
したがって,先行品における移載装置は本件発明の技術的範囲に属しないから,三菱重工について本件発明の先使用権が発生することはない。
イ 被告による製造行為が先使用権の範囲に属しないこと 本件は,三菱重工東日本販売が,日板パッケージ東京から移載装置を含むパレット積替装置の注文を受けて,被告に発注し,これを受注した被告が,原告の製造,納入に係る本件特許の実施品(以下「原告製品」という。)を日板パッケージ東京古河工場で確認した上,設計図を起こして被告製品を製造したものと思われる。このような事実関係においては,三菱重工東日本販売が被告を指揮監督し,被告を手足として使用し製造したという事実は認められない。
なお,被告が主張する事実関係によっても,三菱重工東日本販売からは,「原告製品と同じものを製造してほしい。」という抽象的な指示があっただけで,設計,購買(部品発注),製造,据付け,試運転調整などの具体的な機械製造作業等はすべて被告が行っているということにほかならない。上記のような抽象的な指示によって,「三菱重工東日本販売の手足として被告製品を製造した」とは認められない。
したがって,仮に,三菱重工東日本販売が本件発明の先使用権を有しているとしても,被告製品における移載装置の製造行為は,三菱重工東日本販売の先使用権の範囲に属しない。
先使用による通常実施権の範囲 先使用による通常実施権は,特許出願の際に,当該実施権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけに限定されるものではないが,これに具体化された発明と同一性を失わない範囲内において変更された実施形式までしか効力が認められない(最高裁判所昭和61年10月3日第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁)。
しかるところ,先行品における移載装置の無端チェーンは,ある程度の強度を有した「鋼板」たる「製品供給ラインから供給された製品を載せる板」を往復揺動させるためのものであるのに対して,被告製品における移載装置の無端チェーンは,「薄板」を循環揺動させる点で相違している。
したがって,仮に,先行品における移載装置について先使用権が成立するとしても,被告製品におけるそれは,無端チェーンの構成,動作,作用において相違しているため,上記先使用の範囲に入らない。
(2) 争点(2)(損害論その1-特許法102条2項の推定覆滅等の成否)について (被告の主張) ア 特許法102条2項推定の全部覆滅(主位的主張) 原告の信用不安等に照らすと,日板パッケージ東京松戸工場に納入すべきパレット積載装置を原告が受注する可能性が全くなかったから,特許法102条の推定覆滅事由が存在し,被告の利益を原告の損害と推定することはできない。
(ア) 原告の信用不安に基づく受注不能 原告は,平成8年,日板パッケージ東京古河工場に原告製品を納入した実績があったにもかかわらず,日板パッケージ東京は,原告の信用力に問題があったことから,平成13年5月,松戸工場のパレット積替装置の案件について,原告を除外して三菱重工東日本販売と株式会社イソワ(以下「イソワ」という。)の2社に見積りの依頼を出した。なお,日板パッケージ東京は,見積りを依頼するに際し,同社古河工場にて稼働中の原告製品と同等の構造とすることを特に指示している。そのような経過を経て,三菱重工東日本販売が受注したものである。
このように,平成13年5月の時点で,原告の信用力に問題があり,見積りにも参加できなかったことは,被告が三菱重工東日本販売の指示に従って被告製品を納入したのが平成14年5月であり,原告が倒産したのが同年7月であることからも明らかである。また,原告代表者自身も,「当社も見積りを提出,受注しようとしたのですが,結果的に,本件被告の神戸製作所(略)が受注しました。」と陳述している(甲3の1頁)ように,原告がこの見積りに参加できなかった事実を認めている。
さらに,原告は,平成14年1月,民事再生手続開始の申立てをしているから,日板パッケージ東京の定めた納期である平成14年5月30日までに,パレット積載装置を製造,納入することは不可能であったといわざるを得ない。
(イ) 三菱重工東日本販売からの受注不能 大手段ボールメーカーがコルゲータマシン(段ボール製造機械)を新設又は改造する際には,周辺機器(パレット積替装置,搬入装置(コンベア)など)を同時に一括して発注するのが通例である。そして,国内のコルゲータメーカー(段ボール製造機械の製造業者)は,三菱重工東日本販売とイソワの2社しかない。本件の場合,三菱重工東日本販売の営業力,ブランド力及び被告のプラスチックベルトを使用したコンベアの提案により,三菱重工東日本販売が日板パッケージ東京より一括受注したものであり,これまでイソワと組んでいる原告は,仮に被告が見積りに参加しなくても,三菱重工東日本販売から受注する可能性はおよそなかった。
なお,原告は,「三菱重工(ないし三菱重工東日本販売)の装置とラインを組んだこともあるので,仮に三菱重工東日本販売が受注したとしても,もし被告が本件特許権を侵害せず本件受注を断っていれば,顧客が本件特許製品(本件特許の実施品をいう。)を採用しようとする限りは原告に発注せざるを得ず,原告は三菱重工東日本販売とラインを組むことも可能であった」と主張する。しかし,三菱重工(ないし三菱重工東日本販売)は,過去十数年にわたって,原告に発注した事実は全くなく,また,機密保持上,イソワと緊密な関係にある原告に対して発注することは事実上あり得ないから,原告の主張は,前提において事実に反している。
イ 推定の一部覆滅-予備的主張 本件においては,原告よりも被告の営業力が顕著に優れているから,推定の量的一部覆滅を認めるべきである。
(原告の主張) 被告の主張は争う。以下のとおり,被告が主張するような推定覆滅事由は存在しない。
ア 推定の全部覆滅(被告の主位的主張)について (ア) 原告の信用不安による受注不能について a 原告の受注の方法 原告は,従前からイソワの受託生産として発注を受けていた。これは,被告が三菱重工東日本販売を通じて日板パッケージ東京から注文を受け,受託生産をしているのと全く同様の形態である。ちなみに,原告が,平成8年に日板パッケージ東京古河工場に納入した原告製品についても,イソワの受託生産として発注を受け,製造,納入したものである。
b 本件における見積り参加の経緯等 本件についても,原告は,イソワに対して見積書(甲6の1)を提出し,これを受けてイソワは日板パッケージ東京の見積りに参加していた。
そして,原告は,当初見積額を6700万円としていたところ,その後の値引き交渉により,平成13年7月11日には6000万円,同月16日には5500万円の見積額を提示しており,これは被告の受注額5460万円と近接している。
このことからも,被告が本件特許権を侵害して受注しなければ,原告が受注したことが明らかであり(発注者は,原告が納入した古河工場と同じ機械を納入させている。),まさに,特許法102条2項の利益推定が認められるべきである。
なお,被告は,原告が見積りに参加できなかった事実は原告代表者自身も認めていると主張するが,原告代表者はこのようなことを認めたことはない。
c 民事再生の申立ての状況等 確かに,原告は,平成14年1月,民事再生手続の開始を申し立て,同月24日には保全命令を受けている。
しかしながら,原告は,本件以外にも,平成13年8月当時,他の会社2社から合計1億8000万円余りの案件を受注しているばかりか,平成14年3月には,日板パッケージ東京から改造工事を受注している。そして,上記民事再生手続開始の申立てにもかかわらず,原告の日常業務自体は何らの影響を受けず,申立て前の受注案件は,大型案件も含めて解約されたことがないし,また,納期遅れなどの事態も申立て前後を通じて発生していない(平成13年12月25日に,原告振出しに係る手形等の不渡事故が生じたが,原告は,平成14年1月納期の搬送装置を納期に遅れることなく納入している。)。
(イ) 三菱重工東日本販売からの受注不能について 被告は,コルゲータマシンと周辺機器を同時に一括して発注するのが通例であるところ,本件の場合,三菱重工の営業力,ブランド力,被告のプラスチックベルトを使用したコンベアの提案により,三菱重工東日本販売が一括受注しているので,原告には受注の可能性がなかったと主張する。
しかし,コルゲータマシンと周辺機器を一括して発注するのが通例などということはなく,大手の段ボールメーカーは,分割して発注することもある。
また,コルゲータマシンは,一般に50メートルくらいの長いもので,その部分装置ごとに違うメーカーの装置を組み合わせることも可能である。現に,日板パッケージ東京松戸工場には,三菱重工製のコルゲータマシンが導入されていたが,コルゲータマシン内の管理装置部分には,イソワ製の装置を組み込むという改造がされている。
本件の場合,コルゲータマシンの出口部分に当たるスタッカー(切断して完成した段ボールを積み上げ,排出する装置)という装置を交換,改良するということで,イソワと三菱重工東日本販売に見積り依頼があり,同時にその周辺機器である移載装置,搬送装置についても,イソワ及び三菱重工東日本販売から依頼を受けた原告と被告が,見積りに参加したものである。これによれば,イソワが受注すれば原告が受注した可能性は少なからずあり,三菱重工東日本販売がスタッカーを確実に受注し,それゆえ被告が確実に受注したなどという関係はない。
なお,原告は,三菱重工製の装置とラインを組んだこと(三菱重工製のコルゲータマシンに,原告製の移載装置,搬送装置を組み合わせたこと)があるから,三菱重工東日本販売が受注した場合であっても,もし被告が本件特許権の侵害を避けるべく三菱重工東日本販売からの受注を断っていれば,顧客が本件発明の実施品を採用しようとする限り,原告に発注せざるを得なかったはずである。
イ 推定の一部覆滅について 被告の主張は争う。
(3) 争点(3)(損害論その2-被告の利益額)について (原告の主張) ア 特許法102条2項にいう「利益」の意義 特許法102条2項の「利益」は限界利益を意味するから,被告の利益を算出するに当たり,組立費についての人件費及び販売管理費を控除することは不当である。すなわち,被告は,仮に本件を受注しなくても人件費を支出する必要があったから,これを控除すべきではなく,仮に控除しても残業代に限定すべきである。
この点に関する被告提出の資料は,平均して3時間以上の残業が記録されていたり,旅費日当が異常に高額であったり,人件費計上の月日と交通費計上のそれとが合致しないなど,不自然である。
イ 本件発明の寄与割合 被告の利益額算定に当たり,本件発明の寄与割合を考慮するのは,前記の見積り状況に照らして不相当であるが,仮にこれを考慮するとしても,以下の事情に照らせば,被告製品によって得られた利益に対する本件発明の寄与割合は,50パーセントを下回るものではない。
(ア) 本件発明は,業界では画期的なものと受け止められたものである。
また,機械単価でみても,被告製品における移載装置(別紙物件目録の「110 移載装置」をいう。以下同じ。)のそれは,少なくとも全体の30パーセントを占める。
(イ) 被告製品においては,移載装置以外は,駆動コンベア,直交移載機,敷紙供給装置,フリーローラ,ターンテーブル,パレット関係装置などの汎用品であって,いってみればどの業者でも(極端にいえば中国,東南アジアその他諸外国の業者でも)製造可能であり,付加価値ひいては競争力は知れたものである。
また,被告製品は,移載装置に合わせて全体が組み立てられているが,このことは,移載装置があるが故に商品価値が大幅に高められていることの証左である。
したがって,移載装置は,被告製品の中心部分に該当するものである。
(ウ) 被告の主張に対する反論 被告は,被告製品による利益に対する移載装置の寄与率が10ないし15パーセントにとどまることの根拠として,@被告製品には国内で初めてプラスチックベルト(プラスチックピースを樹脂製部材で連結した構成のもの)を使用したコンベアと,被告が開発したプラスチックベルトを採用した直交移載装置が配置されていること,Aその原価が約23パーセントを占めること,B本件発明の実施品は,場所を取り,コスト高をもたらすことから,販売実績に乏しく,有用性は乏しいことなどを挙げる。
しかしながら,以下に述べるとおり,被告の主張は妥当ではない。
a コンベアにおいて,物品を搬送することに用いられていた従来技術は,合成樹脂製のベルト上に物品を載せるベルト方式であるが,これによってもプラスチックベルトを採用した場合と同様に機械のレイアウトを組むことができる。
そもそも,搬送手段として考えたときに,プラスチックベルトを使用したからといって,レイアウトがコンパクト化できるという理由が不明である。
b プラスチックベルトのメリットは,ベルトが摩耗・損傷した場合,合成樹脂製ベルトであればベルト全体を交換する必要があるのに対し,損傷した樹脂製部材だけを交換すればいいという程度でしかない。
また,従来技術の合成樹脂製ベルトであっても,通常,耐用年数は10年以上あるので,実際上の違いはほとんどない。
c 国内で初めて段ボール搬送用コンベアにプラスチックベルトを使用したのは被告であるとしても,プラスチックベルトは,段ボール以外の搬送用コンベアでは周知慣用技術になっていたものであり,海外では昔からごく当たり前の段ボール搬送手段として使用されてきた技術である。
また,直交移載装置(搬送品の搬送方向を90度変換させるコンベア)も,単にベルトコンベア関係の従前公知技術寄せ集め周知技術にすぎない。
被告の主張する特許出願の内容は,このような周知技術である直交移載装置に,同様に周知技術であるプラスチックベルトを使用したにすぎないものであり,原告としては,本当に進歩性が認められるものか疑問を持たざるを得ない。
d 本件発明の実施品がより場所を取るということはない。確かに,本件発明の実施品においては,ピット(穴)を掘る必要があり,その分,コストを要することは事実であるが,それにもかかわらず顧客からの発注があるということ自体が本件発明の有用性を物語っている。また,販売実績は,被告の主張するように2台などということはなく,仮に,本件発明が有用性に乏しいものであるならば,顧客である日板パッケージ東京が,松戸工場のパレット積替装置を発注するに際し,わざわざ本件発明の実施品である原告製品と同じものを指定した理由を説明できない。
ウ 損害の具体的金額 被告は,平成14年以降,被告製品を少なくとも4台は製造・販売しているところ,1台当たりの利益は,以下のとおりであるから,本件特許を無断で実施することによって,少なくとも2000万円の利益を得ており,これは原告の損害額と推定される。
(ア) 主位的主張 1784万9605円 被告の主張する経費については,後記のとおり,問題点があるものの,その額を前提としても,被告の利益の額は,下記のa代金からb部品費及びe交通費等を控除して算出した1784万9605円を下回ることはない。
a 代 金 5460万円 b 部 品 費 3537万6853円 被告が主張する金額であると仮定する。
c 人 件 費 被告の主張する人件費573万円は,仮に本件を受注しなくても被告は支出する必要があったから,限界利益説からは,これを控除すべきではない。
d 販売管理費 被告の主張する販売管理費1104万4902円は控除すべきではない。最近の裁判例(大阪地方裁判所平成16年9月30日判決)でも,販売管理費の控除は認められていない。
e 交通費等 137万3542円 (イ) 予備的主張その1 1211万9605円 人件費を経費として控除するとしても,残業代部分に限定されるべきであるが,仮に,被告の主張する人件費573万円全額を控除するとしても,被告の利益の額は1211万9605円を下回ることはない。
(ウ) 予備的主張その2 892万4803円 仮に,本件発明の寄与割合によるべき場合であっても,前記のとおり,同割合は50パーセントを下ることはないから,本件特許権を無断で使用したことにより被告の得た利益の額は892万4803円を下回ることはない。
(エ) 被告主張に係る経費の問題点 被告は,原告の要請にもかかわらず,必要な書類を開示せず,また,被告の主張する経費には,以下のような問題点がある。
a 部品代 部品代の立証のために被告が提出した書証は,いずれも当業者において考えられないような高額なものが散見される。例えば,アトムエンジニアリングに対する支払として934万5000円が計上されているが,本件程度の装置であれば,600万円ないし650万円程度しか必要ないはずである。
また,各部品が被告製品の製造と関連することを確認するために必要な具体的資料が提出されていない。
b 人件費 (a) 残業の有無 被告は,乙10において,組立人件費算出根拠を示しているところ,従業員は,平均して10時間ないし12時間の勤務をしている。他方,被告は,残業はほとんどないと主張している。このように,被告の主張には,残業の有無に関して矛盾がある。
なお,被告は,被告製品を初めて製造したことから作業に時間を要したなどと主張するかもしれない。しかし,移載装置は作業ラインの一部で,それ以外はほとんどが既存の汎用装置である。したがって,移載装置以外については,組立に際して残業などするはずがなかったから,平均して3時間以上の残業をしたというのは不自然というほかない。
(b) 旅費日当 日当が,一般的に給与を支給している従業員に対するものとしては,異常に高額であり,その金額の根拠は全く不明である。また,販売管理費に計上されるべき交通費,福利厚生費などが計上されているなど不自然な点が認められる。
さらに,本当に被告製品の製造ないし組立に従事した者に支給されたものだけが計上されているかどうかも判然としない。
そのほか,製造組立人件費を計上している乙10と交通費を計上している乙12とを対比すると,日時などが全く合致していない。
(c) 労働時間単価の算出 被告は,労働時間単価を算出するに当たり,48期(平成13年11月1日から平成14年10月31日まで)決算報告書の製造原価報告書に計上された労務費1億1084万1015円を,年間の所定労働日数に所定労働時間を乗じたもので除している。しかし,上記労務費総額は,残業を含めた総労務費であるところ,年間所定労働日数,所定労働時間はこれを含んでいないのであるから,このような計算をすれば単位時間当たりの労務費が高額に算出される結果となり,不当である。
c 交通費について 交通費は,被告の48期決算報告書の製造原価報告書に計上された旅費交通費の63.5パーセントをも占めることになり,このようなことはあり得ない。
(被告の主張) 原告の主張は争う。
ア 特許法102条2項の「利益」 特許法102条2項の「利益」については,販売額から製造原価と費用の全部を控除した額を意味するとする純利益説がほぼ通説であり,多くの判例もこの説に依拠している。
この点につき,原告は,特許権者にとって追加的に必要な費用が変動費のみである場合には,侵害の利益を算出するに当たっても,侵害者が要した変動費のみを控除すべきであるとする限界利益説に基づき,特許法102条2項にいう利益は限界利益であると主張する。
しかし,この見解は,法文が「侵害者が侵害の行為により受けた利益」としているところに特許権者側の事情を持ち込むところが失当である上,製品の製造,販売の方法や,それに応じた費用構造は,各事業者によって種々様々であることから,具体的事案において侵害者側の費用控除項目を,特許権者側にとって適当な費用控除項目とそろえることが困難な事案も多い。限界利益説の意図するところは,平成10年改正による特許法102条1項の新設によってほぼ達成されており(1項の場合には特許権者自身の限界利益が適用されると解されている。),1項が存在するという状況の下での2項の存在意義を考えれば,それは専ら侵害者側の事情のみによって損害の推定を行う点にある。したがって,侵害者にとって追加的に必要な費用である限り,特許権者側の事情いかんにかかわらず控除すべきである。
イ 本件発明の寄与割合 (ア) 製造原価に占める割合 本件特許請求の範囲には,移載装置の全体が記載されているところ,本件発明の改良点は,本件明細書の「発明が解決しようとする課題」及び「課題を解決するための手段」([0004],[0006])で明らかなとおり,「敷板移載装置」の部分であり,被告製品では別紙物件目録の「110 移載装置」がこれに該当する。
このように,発明の新規性進歩性(改良点)が当該発明の一部にある場合には,製品の一部が特許権侵害となる場合と同様に考えるべきである。すなわち,本件発明の寄与割合は,装置全体の原価に占める移載装置の割合をもって算定すべきである。
(イ) 本件発明の具体的寄与割合 本件発明の寄与割合は,以下の事情に照らすと,せいぜい10ないし15パーセントにすぎない。
a プラスチックベルトを使用したコンベア及び直交移載機の採用 被告製品は,国内で初めてプラスチックベルトを使用したコンベアを段ボール工場において採用し,かつ被告が開発したプラスチックベルトを採用した直交移載装置(方向変換コンベア装置・特許出願済み。特許出願公開番号・特開2003-160225)を配置している。
すなわち,日板パッケージ東京松戸工場では,シートを積み上げて送り出す装置(スタッカー)からパレット移載装置及びパレットに載せない取り出し口までの距離が,敷地の狭さ及び機械のレイアウトの関係で長くなるという条件があり,通常のローラコンベアでは技術的に問題があるため,特殊なコンベアが必要であった。
そして,製造原価で比較すれば,移載装置は被告製品全体の10パーセントを占めるのに対し,プラスチックベルトを採用した直交移載装置及びコンベアは合計約23パーセントを占める。
この点につき,原告は,プラスチックベルトを採用した直交移載装置の有用性を否定するが,合成樹脂ベルトと比べてコストが2,3割高いにもかかわらず,平成13年に1台,平成14年に2台,平成15年に1台,平成16年に1台,平成17年に3台と急速に受注等を得ており,プラスチックベルトが合成樹脂ベルトと比べて多大なメリットがあることを裏付けている。
b 本件発明の画期性に対する反論 本件発明の実施品たる移載装置は,場所を取ることと,幅4.4メートル,奥行き4.9メートル,深さ1メートルから成るコンクリートの大きなピットを掘らなければならないため,かなりコスト高になる。そのため,過去8年間の北海道,東北,関東地区内の販売実績はわずか2台にすぎず,大手段ボールメーカーのうち王子製紙系の工場やレンゴー系の工場では,ほとんど他のメーカーの移載装置が使われているなど,販売実績がない。
ウ 具体的金額 (ア) 被告製品全体の利益 被告は,三菱重工東日本販売の発注により,被告製品を1台製造,販売したのみである。
また,上記アのとおり,特許法102条2項の利益は純利益と解すべきであるから,被告製品による利益は,下記のとおり,107万4703円となる。
a 納 入 価 格 5460万円(消費税相当額含む。) b 製 造 原 価 4248万0395円 (a) 総仕入価格 3537万6853円 (うち移載装置 354万7642円) (b) 人件費(総組立費) 573万円 (うち移載装置 115万5000円) (c) 交通費その他 137万3542円 c 管 理 費 1104万4902円 d 装置全体の利益 107万4703円 (イ) 寄与割合の考慮 a 上記イ(ア)のとおり,製造原価に占める割合をもって移載装置の利益を計算すべきところ,同金額は,次の計算式のとおり,11万8971円となる。
107万4703円×(354万7642円+115万5000円)÷4248万0395円 b また,上記イ(イ)のとおり,本件発明の寄与割合は10ないし15パーセントにとどまるから,これを利用したことによって被告が得た利益は,10万7470円ないし16万1205円にすぎない。
(ウ) 経費についての反論 a 部品代 原告は,「アトムエンジニアリングに対する支払として934万5000円が計上されているが,本件程度の装置であれば,600万円ないし650万円程度しか必要ないはずである」と主張するが,何ら具体的な根拠を示しておらず,同主張は失当である。
b 人件費 原告は,「労務費総計1億1084万1015円は,残業を含めた総労務費であるところ,年間所定労働日数,所定労働時間はこれを含んでいないのであるから,このような計算をすれば単位時間当たりの労務費が高額に算出されてしまい,不相当である」と主張する。
しかし,被告は,従業員にあまり残業をさせていないので,両者の時間単価に大きな違いはないから,原告の主張は失当である。ちなみに,残業時間を考慮して計算したところ,2968円が2827円となり,わずか141円の差である。
なお,乙12に記載されている「日当」は,出張先の食費の意味合いがあり,伝票上は旅費,交通費で仕訳しているので,乙10の組立費とは異なる。
c 交通費 原告は,交通費について,48期決算報告書に計上された額に比べ,異常に高いことを指摘する。
これは,公認会計士の仕訳の誤りにより,「製造原価報告書」の「旅費交通費」に計上すべきものを「販売費及び一般管理費」の「旅費交通費」に仕訳したためである。しかし,いずれにせよ,本件の旅費,交通費が137万3542円であることに間違いはない。
当裁判所の判断
1 争点(1)(侵害論-被告による先使用権援用の可否)について (1) 被告による本件発明の実施について 原告は,本件特許権を有しているところ,被告によって製造,販売された被告製品の移載装置が本件発明の構成要件すべてを充足していることは,前記前提事実のとおりである。
(2) 先使用権の及ぶ範囲について 一般に,特許法79条先使用による通常実施権の制度を定めたのは,特許出願の際に,国内においてその発明と同一の技術思想を有していただけでなく,更に進んでその発明の実施である事業をしていたり,その事業の準備をしていた善意の者については,公平の見地から,出願人に特許権が付与された後においてもなお継続してこれを実施する権利を認めるのが相当と考えられたことによると解される。
そうすると,ある発明について先使用権を有している製造業者が,先使用権の範囲内の製品を製造して販売業者に販売し,当該販売業者が同製品を販売(転売)するような場合においては,当該販売業者について先使用権の発生要件の具備を問うまでもなく,当該販売業者は製造業者の有する先使用権援用することができると解するのが相当である。なぜなら,そのように考えないと,販売業者が製造業者から同製品を購入することが事実上困難となり,ひいては先使用権者たる製造業者の利益保護も不十分となって,公平の見地から先使用権を認めた趣旨が没却されるからである。
もっとも,先使用権者たる製造業者の利益保護のためには,販売業者による同製品の販売行為が特許権の侵害にならないという効果を与えれば足りるのであって,製造業者が先使用権を有しているという一事をもって,販売業者にも製造業者と同一の先使用権を認めるのは,販売業者に過大な権利を与えるものとして,これまた,先使用権制度の趣旨に反することが明らかである。
(3) 被告による先使用権援用の可否について そこで,本件について検討するに,被告は,@三菱重工が本件発明の内容を知らないで,本件特許出願日前に,本件発明と同一の技術的範囲に属する先行品を製造したので,三菱重工は本件発明について先使用権を有すること,A三菱重工の子会社であるトーリョーテックは,三菱重工から先行品を購入した上で,常陸森紙業に対して販売したから,本件発明について先使用権を有すること,B三菱重工東日本販売は,トーリョーテックの一般承継人であること,C被告は,三菱重工東日本販売の注文及び具体的な指示を受けて被告製品を製造したこと,以上を理由として,被告製品の製造及び販売は三菱重工東日本販売の先使用権の範囲に属する旨主張する。
しかしながら,上記のとおり,仮に,三菱重工が,先行品を製造・販売したことによって,本件発明について先使用権を取得したとしても,トーリョーテックないし三菱重工東日本販売は,三菱重工が製造する(先行品と同一の範囲内の)製品を販売することが本件特許権の侵害とならないことを主張できるにとどまり,自らかかる製品の製造ないし製造の発注を行うことまでも正当化できるものではない。そうすると,仮に,被告が,三菱重工東日本販売から注文を受けて,専ら同社のために,被告製品を製造,納入したにすぎないとしても,かかる行為を正当化することができないことも当然である。
したがって,被告による先使用権援用は許されないというべきである。
2 争点(2)(損害論その1-特許法102条2項の推定覆滅等の成否)について (1) 特許法102条2項の意義について 特許法102条2項は,特許権が侵害された特許権者の保護を図るため,「特許権者……が故意又は過失により自己の特許権……を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権者……が受けた損害の額と推定する。」と定め,立証上の容易性の観点から,侵害行為によって得られた利益の額をもって特許権者が受けた損害額と推定することを許容している。
もっとも,同項は,損害額についての推定規定であって,損害の発生そのものの推定を許容するものではないから,特許権者が,特許権侵害に基づく損害賠償を請求する場合には,侵害行為によって損害を被ったことを主張立証しなければならない。しかしながら,特許権者が当該発明を実施して製品を製造・販売していた場合には,特段の事情がない限り,特許権侵害により得べかりし利益が喪失するという関係があると考えられるから,特許権者における損害の発生を肯認できるというべきところ,原告が本件発明を利用して,移載装置を含むパレット積替装置を製造・販売していたことは,被告の自認するところである。
したがって,上記の推定が覆滅するためには,これを妨げるべき特段の事情が認められる必要があるところ,その主張立証責任は,推定の覆滅を主張する被告が負担すべきものである。
(2) 被告の主位的主張(推定の全部覆滅)について ア 認定事実 被告は,原告の信用不安や三菱重工東日本販売との取引関係に照らせば,原告が日板パッケージ東京の松戸工場の案件を受注する可能性がおよそなかったと主張するので,これについて判断するに,証拠(甲6及び7の各1・2,8,9,乙9,15,22)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) コルゲータマシン及びパレット積替装置の取引の態様 我が国におけるコルゲータマシンの製造業者は,三菱重工東日本販売とイソワの2社のみであるところ,原告はイソワに,被告は三菱重工東日本販売にそれぞれパレット積替装置等を納入している。原告は,過去十数年にわたって,三菱重工ないしその関連会社からパレット積替装置の発注を受けたことはない。
また,大手段ボールメーカーは,コルゲータマシンの新設及び改造などの設備投資を行うときには,コルゲータマシンとともにその周辺機器をも一括して,三菱重工東日本販売ないしイソワに発注することが多い(もっとも,場合によってはコルゲータマシンの周辺機器のみを発注することもある。)。
(イ) 日板パッケージ東京松戸工場の物件の受注経緯等 日板パッケージ東京は,平成13年5月ないし7月ころ,松戸工場にコルゲータマシン及び周辺機器(シート搬送装置,原紙搬送装置)を新設する設備投資計画を立案し,イソワ及び三菱重工東日本販売に対して,同計画に関する見積書の提出を依頼した。その後,イソワは原告に対して,三菱重工東日本販売は被告に対して,それぞれパレット積替装置の見積書の提出を求めた。
原告は,平成13年7月10日,イソワに対して,日板パッケージ東京向けのパレット積替装置を6700万円(消費税相当額を除く。)で製造する旨の見積書を提出したものの,イソワとの打合せに基づき,同月11日には代金を6000万円に,さらに同月16日には5500万円にそれぞれ減額した。
他方,三菱重工東日本販売は,被告に対して,@日板パッケージ東京は,移載装置については,古河工場のそれ(原告製品)と同じものとするように要望していること,A古河工場の移載装置は,三菱重工が製造,納入した先行品のそれと構造が同等であって問題がないので,日板パッケージ東京の要望どおり製造してほしいことを伝えた。
これを受けて,被告は,日板パッケージ東京の要望どおり,上記古河工場の移載装置とほぼ同様の構造で製造することを企画し(ただし,昇降ローラ及び昇降装置については,省略することとした。),このころ,三菱重工東日本販売に対して,パレット積替装置の見積書を提出した。
三菱重工東日本販売及びイソワは,平成13年7月ころ以降,日板パッケージ東京に対して,コルゲータマシン及び周辺機器を一括した見積書を提出するなどしたが,日板パッケージ東京は,同年8月ころ,三菱重工東日本販売と契約を締結した。
受注した三菱重工東日本販売は,平成14年1月7日,被告に対して,被告製品を代金5460万円で正式に発注し,被告は,このころ,これを承諾した。
(ウ) 原告の信用状況等 原告は,平成13年12月25日,その振出しに係る手形等について不渡り事故を発生させたため,平成14年1月,名古屋地方裁判所に対し,民事再生の開始を申し立て,同月24日には,同裁判所から保全命令を受けた。その後,原告は,同年2月25日,同裁判所から民事再生手続の開始命令を受け,同年10月16日,再生計画の認可を受けた。
他方,原告は,平成13年8月8日,椿本興業株式会社から「ELIプロ」を代金1993万円で,同月14日,イソワからシート搬送設備を代金1億6000万円でそれぞれ受注しているほか,平成14年3月25日,イソワから日板パッケージ東京古河工場の設備の改造を代金300万円で請け負い,いずれも納入ないし改造を完了している。そのほか,原告は,平成14年1月納期の搬送装置を納期に遅れることなく納品している。
イ 原告の信用不安に基づく受注不能について 上記認定事実によれば,原告は,平成13年12月25日に手形不渡り事故を発生させ,平成14年2月25日に民事再生手続の開始命令を受けているなど,平成13年の末ころから平成14年にかけての時期において,客観的に資金繰り等が懸念される状況であったことが明らかである。
しかしながら,日板パッケージ東京が松戸工場のコルゲータマシン等の契約相手方を選定しようとしていた平成13年7,8月ころ,同社が原告の経営状態悪化の事実を認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,イソワが受注することができなかった原因が,専ら原告の経営状態の悪化にあったと認めることはできない。
また,原告は,平成13年8月14日にイソワから代金1億6000万円もの設備を受注し,また,平成14年1月納期の搬送装置を納期に遅れることなく納品していたことにかんがみると,その経営状態の悪化のため,日板パッケージ東京松戸工場に納入すべきパレット積替装置を納入する能力を欠いていたとまで認めることはできない。
そうすると,原告が,その経営状態の悪化のために,上記パレット積替装置を受注することができなかったと認めることはできない。
ウ 三菱重工東日本販売からの受注不能について また,上記認定事実によれば,確かに,三菱重工東日本販売が日板パッケージ東京の物件を受注した場合には,イソワとの関係が密接であった原告が,三菱重工東日本販売からパレット積替装置を受注することは事実上困難であったというほかない。
しかしながら,仮に,三菱重工東日本販売が,受注者の選定過程において,日板パッケージ東京に対し,その古河工場における原告製品と同等品のパレット積載装置を供給することは本件特許権の侵害になり得る旨回答していた場合には,日板パッケージ東京の要望に添えないこととなるから,そもそも三菱重工東日本販売が受注した可能性は極めて低かったと推認される。かかる場合には,相対的にイソワが日板パッケージ東京から受注する可能性が高まると考えられるから,三菱重工東日本販売と被告との密接な関係を考慮しても,原告が,上記パレット積替装置を受注することができなかったと認めることはできない。
(3) 被告の予備的主張(推定の一部覆滅)について 次に,被告は,原告よりも被告の営業力が顕著に優れているから,推定の量的一部覆滅を認めるべきである旨主張する。
確かに,侵害者の方が特許権者よりも,営業努力,宣伝や広告,製造技術等において格段に勝っており,大量の商品を販売する能力を有していた結果,侵害者に大きな利益をもたらしていたと認められる場合には,同利益の相当部分は,特許権の侵害以外の要因によって得られたと考えられるから,推定の量的一部覆滅を認める余地を否定できない。
しかしながら,本件のように,単発的な装置の製造,販売においては,営業能力,販売能力など,特許権以外の要因が利益の取得に大きく影響すると考えることは困難であるので,かかる推定の量的一部覆滅を認めるべき基礎は認め難いというべきである。
(4) 小括 よって,原告は,被告による本件特許権侵害行為により,得べかりし利益の喪失という損害を被っていると認められるところ,特許法102条2項に基づく推定を覆滅すべき特段の事情は認められず,被告の上記主張はいずれも採用できない。
3 争点(3)(損害論その2-被告の利益額)について (1) 特許法102条2項にいう「利益」の意義 特許法102条2項にいう「利益」とは,侵害者が特許権侵害に係る製品の製造,販売のみに要する専用の設備を新たに設置し,あるいは従業員を雇い入れたといった例外的な事情がない限り,侵害に係る製品の売上額から,原材料の仕入れ,加工,保管,運送等に要した経費のうち当該製品の製造,販売のみのために要した変動費を控除した限界利益をいう(もっとも,必ずしも財務会計上の限界利益と一致するものではない。)と解するのが相当である。
(2) 寄与割合 ア ところで,本件発明の目的は,従来の移載装置では荷崩れ及び荷傷みを生じやすかったことから,これらを発生させない移載装置を提供することにあり(甲2の[0004],[0005]),この課題を解決するため,「パレットやベニヤ板などの敷板の待機位置の側方に,少なくとも製品供給ラインの供給方向に沿って移動可能な張設区間を有する循環駆動式の無端チェーンを配設し,この無端チェーンによって可撓性の薄板を敷板の上面に於いて製品供給ラインの端側から供給方向に沿って牽引して滑動させ,薄板に載せられて敷板上に移動された製品に製品ストッパを当てて停止させ,この状態で敷板を製品の下面から引き抜くことにより製品を敷板上に載置させるようにした」ことが,本件発明の特徴である(同[0006])。すなわち,本件発明の新規性進歩性は,ひとえに構成要件c)及びe)にかかっているといえる(この点は,原告も特に争っていない。)。
このように,特許発明新規性進歩性が当該発明の一部にかかる場合には,侵害者による製造・販売による利益のうち,新規性進歩性にかかる部分のみが寄与した部分,すなわち全体の利益に寄与割合を乗じた金額をもって,特許法102条2項の所定の利益に当たると解するのが相当である。
イ 本件発明の構成要件c)及びe)は,被告製品においては別紙物件目録の「110 移載装置」に該当するところ,下記の事項を総合考慮すれば,被告製品の製造・販売によって得られた被告の限界利益のうち,上記移載装置が寄与する割合は,20パーセントと認めるのが相当である。
(ア) 本件発明の進歩性は,前記のとおり,「パレットやベニヤ板などの敷板の待機位置の側方に,少なくとも製品供給ラインの供給方向に沿って移動可能な張設区間を有する循環駆動式の無端チェーンを配設し,この無端チェーンによって可撓性の薄板を敷板の上面に於いて製品供給ラインの端側から供給方向に沿って牽引して滑動させ,薄板に載せられて敷板上に移動された製品に製品ストッパを当てて停止させ,この状態で敷板を製品の下面から引き抜くことにより製品を敷板上に載置させるようにした」点にあると考えられる。
しかるところ,三菱重工が平成4年1月10日に常陸森紙業の水戸工場に納入した先行品は,@パレット直前のコンベアの搬送速度と薄板の移動速度を一致させ,Aパレット上でコンベアから薄板に載せ替え,B薄板を引き抜くことにより,荷傷みを生じにくくさせる点で,少なくとも本件発明の構成と基本的に一致していると認められる(乙9,16)。そうすると,三菱重工が本件発明の先使用権を有するか否かはともかくとしても,本件特許出願日(平成5年4月14日)よりも1年以上前に,本件発明と類似する先行品が製造されている事実は,無視することができない。
(イ) 本件発明の実施品を設置するには,無端チェーンを循環駆動させるスペースを必要とする上,工場に穴(ピット)を設ける必要がある(原告の自認するところである。)。この点は,経済的にはマイナスと評価せざるを得ない。
(ウ) 他方,前記のとおり,日板パッケージ東京は,松戸工場に設置すべきパレット積載装置を発注するに当たり,移載装置については古河工場のそれ(原告製品)と同等品であることを要望している。もっとも,日板パッケージ東京の要望が,本件発明の進歩性に着目したことに基づくものであるか,古河工場の同等品であれば,操作方法についての教育やメンテナンス等が容易であることに基づくものかは必ずしも明確ではない。
(エ) 被告製品においては,プラスチックベルトを採用した直交移載装置(特開2003-160225により特許出願済み)及びプラスチックベルトコンベアが配置されている(弁論の全趣旨)ところ,原告の指摘するように,このような構成は,段ボール以外の搬送用コンベアにおいては周知慣用技術であって,海外においては以前から段ボールの搬送手段として使用されてきた技術であるものの,反面,プラスチックベルトは,スリップや蛇行が発生しにくく,短時間でベルトの修理や交換が可能であるなどの利点もあると認められる(甲10の1)。
(オ) 被告製品の製造原価(原材料費及び組立費)のうち,移載装置の占める割合は11.4パーセント,プラスチックベルトを採用した直交移載装置及びコンベアの占める割合は合計約23パーセントである(乙10,22)。
(3) 具体的金額 ア 被告製品全体の利益 (ア) 販売価格 5460万円(争いがない。) (イ) 部品代 3537万6853円 証拠(乙11)によれば,被告製品を製造するに当たり必要となった部品代は,3537万6853円であると認められる。
この点につき,原告は,部品代の立証のために被告が提出した書証には,いずれも当業者において考えられないような高額なものが散見される旨主張し,その例としてアトムエンジニアリングに対する支払額を挙げるが,その支払額が不相当に高額なものであることを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 交通費その他 135万6165円 被告は,被告製品を製造するに当たり必要となった交通費等は137万3542円である旨主張するところ,原告は,@交通費が被告の48期決算報告書に計上された額の63.5パーセントも占めることになり,このようなことはあり得ない,A日当が異常に高額であり,その金額の根拠も不明である,B管理費に計上されるべき交通費,福利厚生費などが計上されているなど不自然な点がある,C本当に製造ないし組立に従事した者だけが計上されているかどうかも判然としない,D製造組立人件費を計上している乙10と交通費を計上している乙12とを対比すると,日時などが全く合致していないなどと主張する。
そこで判断するに,まず,被告の主張する交通費等の内訳は,別紙「日板パッケージ東京交通費」(乙12添付)のとおりであるところ,同表の金額には,日当,消耗品,福利厚生,材料,通信費などが含まれていることが明らかである。これは,同表が出張明細表に記載された各費目を集計して作成されたことによると考えられるところ,これらは,被告の第48期決算報告書(乙13)中の製造原価報告書においては,それぞれ賃金,消耗品費,福利厚生費,材料仕入高,雑費に計上されていると推認される。そうすると,被告主張に係る交通費等の金額では,上記報告書に計上された交通費に占める比率が大きすぎるとの原告の主張は,その前提条件が異なるものとして,ただちに採用することはできない。また,日当も,出張に伴う雑費(食費を含む。)としての性格のほか,宿泊手当としての性格をも有していることが考えられるから,原告主張のように異常に高額であるとまでは断定できない。そのほか,別紙「日板パッケージ東京交通費」の表と組立費の計算表との間では人数の食い違いがある点が認められ,その原因を確定することはできないものの,出張旅費の精算が行われていないなどの理由が考えられるから,これのみで直ちに上記各書証がずさんなもので信用できないとまではいえない。
もっとも,別紙「日板パッケージ東京交通費」の「その他」欄に記載された「交際費1万7377円」については,被告製品の製造原価に含めるべきでないことが明らかである。
そうすると,被告が主張する137万3542円のうち上記交際費を控除した135万6165円をもって製造原価に含まれる交通費等と認めるのが相当である。
(エ) 人件費 137万4627円 被告は,人件費(総組立費)として573万円を控除すべき旨主張するところ,証拠(乙10,12)中には,これに沿う部分もある。しかしながら,前記の限界利益の考え方からは,特別の事情がない限り,組立に要する人件費,経費(旅費交通費,減価償却費,賃借料,修繕費,水道光熱費,電力費,消耗品費,リース料,燃料費,雑費)の全部が製造原価に含まれるものではなく,当該製品の製造のみのために要した部分に限り,売上げから控除すべきである(なお,旅費交通費の部分については,そもそも(ウ)で考慮しているから,この部分を別途控除することは二重控除となる。)。
もっとも,被告においては,通常は残業がないにもかかわらず,受注した被告製品を製造するに際し,1日1人当たり2時間ないし4時間の残業をしたことが認められる(乙10)ところ,これは,被告製品の製造のために特に要したものであって,原告が本件特許権に基づく製品を製造するためにも同程度の残業を要したものと認められるから,これに対する手当の支払については,変動経費として売上げから控除すべきものと判断する。
そして,残業時間に対する割増賃金の支払を考慮すると,組立における人件費のうち残業時間に相当する部分の占める割合は30パーセントと認めるのが相当である。
そうすると,被告の利益の算定に当たって控除すべき人件費の額は,下記のとおり,137万4627円となる。
a 1時間当たりの人件費の額 2399円 (製造原価報告書中の労務費-残業代)÷(直接労働者22人の年間所定労働時間)=(1億1084万1015円-611万1894円)÷(248×8×22)=2399円/時間(乙10,13,弁論の全趣旨。小数点以下切り捨て) b 被告製品の製造に要した時間 延べ1910時間(乙10) c 控除すべき人件費の額 137万4627円 2399円/時間×1910時間×0.30=137万4627円 (オ) 管理費 被告は,管理費1104万4902円を控除すべき旨主張する。しかし,前記のとおり,控除すべき管理費は,侵害者が侵害品の製造,販売のために初めて追加的に要したものに限られるところ,被告の主張する上記管理費は,被告製品の売上高に一般管理費の製造原価に対する比率を乗じたものであるから(乙10),必ずしも製品の販売のために追加的に要したものとは認められない。
したがって,被告の利益の計算に当たって,管理費を控除することはできない。
(カ) 小括 被告製品全体の利益は,上記(ア)から(イ)ないし(エ)を順次控除した1649万2355円となる。
イ 原告の損害額 被告製品を製造,販売したことにより被告が得た利益額は,上記1649万2355円に本件発明の寄与割合20パーセントを乗じた329万8471円となる。
そして,特許法102条2項によって,同金額が原告の損害と推定されるところ,これを覆す事情のないことは前記のとおりである。
なお,原告は,被告は少なくとも被告製品を4台製造,販売した旨主張するが,本件全証拠によっても,日板パッケージ東京松戸工場へ納入した1台を超える台数の製造,販売の事実を認めることはできない。
4 結論 よって,原告の本訴請求は,被告に対し,別紙物件目録記載の装置の製造等の差止め並びに損害賠償として329万8471円及びこれに対する平成16年4月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は失当として棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を,仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 加藤幸雄
裁判官 舟橋恭子
裁判官 尾河吉久