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関連審決 異議2002-72200
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10459審決取消請求参加事件 判例 特許
平成17行ケ10073審決取消(特許)請求事件 判例 特許
平成13行ケ358特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10114審決取消(特許)請求事件 判例 特許
平成17行ケ10012審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 承継 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  化学構造 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10458号 特許取消決定取消請求参加事件
参加人 ゼファーマ株式会社
訴訟代理人弁護士 片山英二,林康司,弁理士 小林浩,古橋伸茂
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 森田ひとみ,渕野留香,一色由美子,大橋信彦,井出英一郎 脱退原告 アステラス製薬株式会社(藤沢薬品工業株式会社訴訟承継人)
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/02
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 参加人の請求を棄却する。
訴訟費用は参加人の負担とする。
事実及び理由
参加人の求めた裁判
「特許庁が異議2002-72200号事件について平成15年7月28日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 脱退原告・藤沢薬品工業株式会社(平成17年4月1日,アステラス製薬株式会社に吸収承継)が特許権者であった本件特許3264301号「局所投与製剤」の発明は,平成6年3月29日に出願され,平成13年12月28日にその特許権の設定登録がなされ,その後,その特許につき山之内製薬株式会社より特許異議の申立てがなされ,平成15年1月14日に訂正請求があったが,平成15年7月28日「訂正を認める。特許第3264301号の請求項1〜3に係る特許を取り消す。」との決定があり,その謄本は同年8月13日藤沢薬品工業株式会社に送達された。
なお,藤沢薬品工業株式会社が上記決定の取消しを求める本訴を提起したが,参加人は,平成16年10月1日,藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し,平成17年3月23日その旨特許登録原簿に登録され,本訴に訴訟参加した。これに伴い,藤沢薬品工業株式会社の原告の地位を承継したアステラス製薬株式会社は,本訴から脱退した。
2 本件発明の要旨 (1) 特許査定時の特許請求の範囲の記載【請求項1】 クロモグリク酸ナトリウム1%,抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含有することを特徴とする局所投与製剤。
【請求項2】 抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンである請求項1に記載の局所投与製剤。
【請求項3】 血管収縮剤が塩酸ナファゾリンである請求項1又は2に記載の局所投与製剤。
【請求項4】 局所投与製剤が点鼻剤又は点眼剤である請求項1ないし3に記載の局所投与製剤。
(2) 訂正請求による特許請求の範囲の記載【請求項1】 クロモグリク酸ナトリウム1%,抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含有することを特徴とする点鼻剤又は点眼剤。
【請求項2】 抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンである請求項1に記載の点鼻剤又は点眼剤。
【請求項3】 血管収縮剤が塩酸ナファゾリンである請求項1又は2に記載の点鼻剤又は点眼剤。
3 決定の理由の要点 (1) 訂正の適否 訂正は所定規定に適合するので,これを認める。
(2) 引用された刊行物 刊行物1(甲3の1):第七改正日本薬局方第二部解説書(昭41年4月大改定)408頁25行〜409頁8行 ナファゾリン・クロルフェニラミン液として塩酸ナファゾリン0.5gとマレイン酸クロルフェニラミン1gを含む全量1000mlの溶液処方が記載されている。薬効欄には,ナファゾリンの効果を抗ヒスタミン剤の併用により一層増強することを目的とした処方である旨が記載され,適用欄には鼻炎などに点滴又は噴霧すると記載されている。
刊行物2(甲3の2):一般薬・日本医薬品集(1992〜1993)薬業時報社782頁〜783頁 一般用医薬品の鼻炎用点鼻薬の製造(輸入)承認基準が記載されている。782頁の表において,配合しなければならない有効成分が挙げられたI欄には塩酸ナファゾリンなどの血管収縮剤が列挙され,配合できる有効成分が挙げられたII〜VI欄の内のII欄にはマレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤が列挙されている。更に,鼻炎用点鼻薬として承認,販売されている一般薬製品の処方等が記載されている。
刊行物3(甲3の3):特公平1-49244号公報 特に第3欄 血管収縮剤(例,キシロメタゾリン)は鼻のうっ血に使用されることが知られているが,治療上有効な量において,ある場合は鼻咽腔の局所刺激痛などを引き起こし得ること,クロモグリク酸ナトリウムと血管収縮剤であるキシロメタゾリンを配合するとキシロメタゾリンの濃度が減少され得ること,濃度減少により副作用の危険の除去,緩和が図れること,これらを配合した抗アレルギー剤は,クロモグリク酸ナトリウム単独より(鼻炎治療において)効力があり,キシロメタゾリンがクロモグリク酸ナトリウムの作用を延長させること,また,キシロメタゾリンは治療持続時間及び効果を保有しながら投与量を減少することができることが記載されている。
また,この配合剤は,クロモグリク酸ナトリウムを0.1〜10%,好ましくは0.5〜5%,そしてより好ましくは約1又は2%w/vの量で含有し得る旨が記載されている。
刊行物4(甲3の4):European Journal of Respiratory Diseases Vol.69, Suppl. 146:A126, 1986 アレルギー性鼻炎患者に対する二重盲検法の臨床試験において,クロモグリク酸ナトリウム2%w/v単独投与された患者の75%が有効と評価したが,クロモグリク酸ナトリウム2%w/vと血管収縮剤であるキシロメタゾリン0.025%w/vの配合では投与された患者の100%が症状の抑制に有効と評価したこと,及び,この配合処方では(17名中)9名の患者が2日以内に症状が抑制されたが,単独処方では3名のみであった結果が記載されている。
刊行物5(甲3の5):THE MERCK INDEX,ELEVENTH EDITION 項目6287, 9993 ナファゾリンとキシロメタゾリンの化学構造が記載されている。
刊行物6(甲3の6):South African Medical Journal, Vol.67, p 801-803, 1985 特に801頁左欄下から27行〜5行 アレルギー性鼻炎患者に対するクロモグリク酸ナトリウム2%w/vとマレイン酸クロルフェニラミン0.2%w/vを配合した点鼻液とクロモグリク酸ナトリウム2%w/v単独の点鼻液での治療効果の比較がなされた結果,両者の相違は顕著ではなかったが,いずれも顕著な臨床改善が認められた旨が記載されている。
刊行物7(甲3の7):インタール(登録商標)点鼻液添付文書:1989年2月改訂3589〜3590頁 クロモグリク酸ナトリウムは抗ヒスタミン剤,血管収縮剤等と異なるタイプの抗アレルギー剤であり,その作用は抗原抗体反応に伴って起こるマスト細胞からのヒスタミンや,SRS-A等の化学伝達物質の遊離を抑制することによってアレルギー性鼻炎の発現を防止するものであること(薬効薬理の欄) 二重盲検試験及び一般臨床試験として収集された393例のアレルギー性鼻炎に対する有効率は67.2%であったこと,治療開始時水性鼻汁が激しい場合は短期間抗ヒスタミン剤を併用すること,本剤によりアレルギー性鼻炎の症状がコントロールされてくると,それまで必要であった抗ヒスタミン剤,ステロイド剤,血管収縮剤を減量離脱することができること(臨床適用の欄) 刊行物8(甲3の8):BRITISH NATIONAL FORMULARY, Number 23, March 1992 381頁左欄下から12行〜右欄18行 クロモグリク酸ナトリウムの項には,ファイソンズ社のリナクロム(登録商標)としてのクロモグリク酸ナトリウム4%を含有する点鼻液剤が,また,同じくファイソンズ社のリナクロム配合剤(登録商標)としてクロモグリク酸ナトリウム2%とキシロメタゾリン0.025%を配合した点鼻液剤が記載され,これはレジストンワン(登録商標)として一般用医薬品として市販されている旨記載されている。
刊行物9(甲3の9):アレルギー性鼻炎と花粉症の診療Q&A 臨床医薬研究協会(1990年5月1日)126〜131頁,140〜141頁,158〜159頁 クロモグリク酸ナトリウムを始めとする抗アレルギー薬に共通する特徴は遅効性で,各種臨床試験の成績を総合すると,連用による臨床効果の発現には2週間,効果のピークには少なくとも4週間を必要であるのに対し,抗ヒスタミン薬は速効性で,連用により2週間でピークに達すること,したがって,通年性,季節性を問わず抗アレルギー薬と抗ヒスタミン薬等の対症薬との併用が必要であり,通年性の場合は併用により症状の改善が見られたならば抗アレルギー薬も減量することができること,インタール(登録商標)療法ではその56.2%で他剤併用がなされていることが記載されている。
血管収縮性点鼻薬は鼻粘膜の血管周囲に浸潤して,血管の収縮を来し,局所に乏血を生じて粘膜の充血と腫脹を一時的に解消するので,作用は投与直後から1分以内に生じ,3〜6時間は持続する旨が記載されている。
刊行物10(甲3の10):日本臨床,第49巻,増刊号,955〜956頁,1991年 表1には,アレルギー性鼻炎の各種薬物療法の特徴がまとめられている。
刊行物11(甲3の11):診断と新薬,第21巻,第10号,51〜69頁,1984 6千名以上のアレルギー性鼻炎患者に対するクロモグリク酸ナトリウム2%点鼻液剤の市販後臨床成績が報告されている。この報告は本件明細書に開示された臨床試験と同じくアレルギー性鼻炎の諸症状の改善を評価指標としており,同様の判定基準で評価がされているが,有効率は71.7〜85.8%であり,多くは75%以上であること(62頁),インタール(登録商標)点鼻液単独使用例は全症例の25%で,他剤併用例が75%を占めており,併用としては抗ヒスタミン薬が最も多く,次いでステロイド剤,特異的減感作,非特異的減感作,血管収縮剤の順であったこと(59頁)が記載されている。
刊行物12(甲3の12):Annals of Allergy, 28, 548-553, 1970 特に552頁左欄1行〜13行,右欄8行〜10行 クロモグリク酸ナトリウム1%水溶液を鼻粘膜に適用した後にアレルゲン(ハウスダスト又は牧草の花粉混合物)で刺激した後の鼻咽腔-外鼻孔の圧力変化によって保護作用を測定し,鼻粘膜に対するアレルゲンの刺激に対してクロモグリク酸ナトリウムは顕著な保護作用を示すこと,これらの結果はアレルギー性血管運動神経性鼻炎及び花粉症の治療につながる可能性があることが記載されている。
(3) 本件発明1について対比 刊行物7には,インタール(登録商標)点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液)が記載されている。
本件発明1と上記製剤とを対比すると,両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し,以下の点で相違している。
(A) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの他に抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤も含有するのに対し,後者は有効成分はクロモグリク酸ナトリウムのみである点 (B) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%であるのに対し,後者はその倍の2%である点, (4) 相違点(A)(抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含有する点)についての決定の判断 アレルギー性鼻炎の治療に使用される各種薬物のうち,クロモグリク酸ナトリウムなどのメジエター遊離抑制薬は遅効性,抗ヒスタミン薬,血管収縮薬は速効性であり(刊行物9,10),クロモグリク酸ナトリウムを有効成分とする点鼻薬は多くの場合抗ヒスタミン剤,血管収縮剤などと併用されることは広く知られている(刊行物11)。刊行物7のクロモグリク酸ナトリウム製剤にしても,既に起こっている症状を抑える薬物ではないことや治療開始時には抗ヒスタミン剤と併用される場合があること,血管収縮剤やステロイド剤とも併用されることが記載されている。
また,刊行物3,4,8にはクロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤(キシロメタゾリン)を配合したり,抗ヒスタミン剤(クロルフェニラミン)を配合して(刊行物6)点鼻剤として使用することもすでに試みられている。
このようにクロモグリク酸ナトリウム点鼻剤による治療時に併用される薬物をあらかじめ配合して用い,クロモグリク酸の遅効性を補ったり,即効性成分の副作用の緩和を図ることは当業者が普通に行う範囲のことであるところ,キシロメタゾリンと類似の化合物であり(刊行物5),同様に血管収縮剤として鼻炎に処方されるナファゾリンは,抗ヒスタミン剤との配合によって一層その効果が増強されることが知られている(刊行物1)。
そうすると,クロモグリク酸ナトリウムの遅効性であるという欠点を補うため速効性の薬剤をあらかじめ配合しておくこと,その際,刊行物1,2のような点鼻剤の一般的処方とされる血管収縮剤(塩酸ナファゾリン)と抗ヒスタミン(マレイン酸クロルフェニラミン)を配合成分とすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。
(5) 相違点(B)(クロモグリク酸ナトリウム濃度を1%とする点)についての決定の判断 刊行物3にはクロモグリク酸ナトリウムの配合により血管収縮剤キシロメタゾリンの濃度が減少でき,副作用の危険を除去するか緩和することが記載されている。
刊行物3にはクロモグリク酸ナトリウムの濃度については減量可能かどうか言及されず,単にクロモグリク酸ナトリウムの濃度範囲は0.1〜10%・・より好ましくは約1又は2%w/vとされているが,当該発明がなされたイギリスにおいて認可されているクロモグリク酸ナトリウム単剤の使用濃度は4%であることからすると,上記の好ましいとされる濃度1又は2%は通常の量である4%(刊行物8)の半分から4分の1にあたる。したがって,刊行物3には血管収縮剤と併用する場合,クロモグリク酸ナトリウムの使用濃度も通常の量より低くできることが開示されているということができる。
また,刊行物12には,1%のクロモグリク酸ナトリウム溶液にハウスダストや牧草の花粉混合物の刺激に対し明確な保護作用があると報告されている。
(6) 本件発明1の判断のまとめ そうすると,クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤や抗ヒスタミン剤を配合した場合,各配合成分の使用濃度を単剤の場合より減少させ,配合剤としての総合的な作用を適切な範囲に留めようとすることは当業者が当然に配慮することであって,特にその濃度を単剤の場合の2%(刊行物7)から,有効濃度の範囲内である1%とする点にしても格別な創意を要するものと認めることはできない。
さらに,本件発明1の点鼻薬の効果にしても,アレルギー鼻炎の諸症状の改善に有効な,作用機作の異なる3剤を配合したことにより期待される効果を格別越えるものとすることはできない。
被申立人(脱退原告)は,刊行物3にはクロモグリク酸ナトリウム1%と血管収縮剤の配合剤の臨床試験結果は全く示されていず,刊行物12は,単に溶液状態のクロモグリク酸の「薬理作用」を見ているにすぎないと主張するが,刊行物3には0.1〜10%という幅広い有効濃度範囲が開示されており,通常,濃度2%で有効である薬剤を半分の濃度1%で使用した場合,2%よりはその作用は緩和されるとしても,それなりの作用を奏することは経験則上明らかであり,クロモグリク酸ナトリウムの場合は1%でその薬理作用を奏すること自体確認されているのであるから,上記点は1%濃度の採用の困難性の根拠となるものではない。
また,被申立人(脱退原告)は3成分の配合によりクロモグリク酸ナトリウム2%の単独投与あるいは該成分と抗ヒスタミン剤,あるいは血管収縮剤との2剤の組合せから予想できない顕著な相乗効果が得られる旨主張している。この主張は,主に本件明細書に,クロモグリク酸ナトリウム1%,マレイン酸クロルフェニラミン0.25%,塩酸ナファゾリン0.025%を有効成分とする実施例1の製剤が34症例で有効率76.5%であり,比較例1(クロモグリク酸ナトリウム2%),比較例2(クロモグリク酸ナトリウム1%マレイン酸クロルフェニラミン0.25%)の製剤は29症例で有効率それぞれ55.2%,58.6%であることを根拠とするものであるが,本件発明1は実施例1の処方に限定されるものではない上,上記の有効率の結果自体,3成分配合の効果を格別顕著と評価するに足りないものである。
すなわち,刊行物7によれば,クロモグリク酸ナトリウム2%の点鼻薬の393例のアレルギー性鼻炎に対する有効率は67.2%,刊行物11によれば同点鼻薬の有効率は71.7〜85.8%(表12)と報告され,本件明細書の有効率55.2%より高い有効率であることや,異議申立人の提出した参考資料1(薬理と治療,第23巻,第8号,303-310頁,1995年),参考資料2(医学と薬学,第34巻,第2号,295-305頁,1995年),参考資料3(医学と薬学,第34巻,第2号,307-318頁,1995年),参考資料4(臨床医薬,第11巻,第8号,1727-1737頁,1995年),参考資料5(基礎と臨床,第29巻,第12号,3277-3286頁,1995年)によれば,実施例1の処方の製剤の有効率は56.3〜88.2%という幅のある範囲で報告されていることからすると,「有効率」の値は,症例数や重症度等によりかなり変動することを前提に評価すべきであると考えられる。そうすると,本件明細書の臨床使用の結果の有効率の数値から,直ちに実施例1の製剤が顕著な相乗効果を奏するとすることはできない。
以上のとおりであるから,本件発明1は刊行物1〜12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(7) 本件発明2,3についての対比判断 本件発明2,3は,本件発明1の抗ヒスタミン剤をマレイン酸クロルフェニラミンに,血管収縮剤を塩酸ナファゾリンに特定したもの,あるいはクロモグリク酸ナトリウム1%とマレイン酸クロルフェニラミン,塩酸ナファゾリンの3成分の組合せからなる点鼻剤又は点眼剤に係る発明であるが,上記の通りこれらはいずれも点鼻薬成分として周知であるから,上記と同様の理由により当業者が容易に発明し得たものである。
(8) 決定のむすび 以上のとおり,本件発明1〜3は,上記刊行物1〜12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
参加人主張の決定取消事由
1 取消事由1(相違点(A)に関する進歩性判断の誤り) (1) クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することは容易想到でない。
刊行物6,11は,クロモグリク酸ナトリウムと抗ヒスタミン剤を併用することを開示し,さらに,クロモグリク酸ナトリウムを単独で用いた場合と,クロモグリク酸ナトリウムと抗ヒスタミン剤を併用した場合を比較している。
刊行物6は,クロモグリク酸ナトリウムを単独で用いた点鼻剤と,クロモグリク酸ナトリウムと抗ヒスタミン剤を含む点鼻剤との相違は顕著ではなかったと結論付けている(訳文7〜8行)。刊行物11には,クロモグリク酸ナトリウム2%の点鼻剤について,クロモグリク酸ナトリウム単剤の例,他剤併用療法として,抗ヒスタミン剤(経口投与)を併用した例について,それぞれの有効率(クロモグリク酸ナトリウム単剤:83.0%,抗ヒスタミン剤との併用:80.4%)を示す表が開示されているが,両例は有効率の差がほとんどなく,かえってクロモグリク酸ナトリウムが抗ヒスタミン剤と併用されることによって,クロモグリク酸ナトリウム単剤に比べて有効率が減少している(60頁表12)。
これらの記載は,刊行物6と11は,共に,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合しても,鼻炎治療効果にほとんど差がないことを示している。
他方,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することは副作用の危険性や拮抗性の危険性を増加させる(甲4,2277頁左欄5〜9行,2278頁左欄12〜18行,2283頁右欄13行〜2284頁左欄3行,2283頁表2,2286〜2288頁)。具体的には,抗ヒスタミン剤であるマレイン酸クロルフェニラミンを配合するには様々な注意事項(他の薬剤との相互作用による併用注意,副作用等)がある(甲5)。
クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合しても鼻炎治療効果に差が見られず,逆に,抗ヒスタミン剤を配合することは副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物6,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することを避けようとする。
よって,刊行物6,11記載の発明は,クロモグリク酸ナトリウムを含む医薬に抗ヒスタミン剤を配合しない動機付けを与えるものである。
(2) クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合することは容易想到でない。
刊行物3,4,8及び11には,クロモグリク酸ナトリウムと血管収縮剤を含む点鼻剤又はこれらを併用する例が開示され,刊行物3,4から,クロモグリク酸ナトリウム単剤よりもクロモグリク酸ナトリウムとキシロメタゾリンの合剤の方が鼻炎治療効果の点で優れていることがわかる。
しかしながら,刊行物3,4には,両者を配合することによって,具体的に鼻炎治療にどの程度の効果があるのか開示されておらず,また,刊行物4にはその効果がわずかであると記載されている(刊行物4の訳文12〜14行)。
また,刊行物11では,クロモグリク酸ナトリウム2%の点鼻剤についてクロモグリク酸ナトリウム単剤の例,他剤併用療法として血管収縮剤を用いた例について,それぞれの有効率(クロモグリク酸ナトリウム単剤:83.0%,血管収縮剤との併用:79.1%)が開示されているが,クロモグリク酸ナトリウムが血管収縮剤と併用されることにより,かえって有効率が減少している(60頁表12)。
また,クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合すると,副作用発現頻度が高く(刊行物11,65頁左欄下から2行〜66頁左欄2行),合剤にすることによる拮抗性の危険性も増加する(甲4)。具体的には,血管収縮剤であるナファゾリンを配合するには様々な注意事項(他の薬剤との相互作用による併用注意,副作用等)がある(甲5)。
クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合しても鼻炎治療効果が増大せず,逆に,血管収縮剤を配合することが副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物3,4,8,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合することを避けようとする。
よって,刊行物3,4,8,11記載の発明は,クロモグリク酸ナトリウムを含む医薬に血管収縮剤を配合しない動機付けを与えるものである。
(3) 以上,刊行物6,11記載の発明は,クロモグリク酸ナトリウムを含む医薬に抗ヒスタミン剤を配合しない動機付けを与え,刊行物3,4,8,11記載の発明は,クロモグリク酸ナトリウムを含む医薬に血管収縮剤を配合しない動機付けを与えるから,クロモグリク酸ナトリウムに,刊行物1,2記載の点鼻剤の一般的処方とされる抗ヒスタミン剤と血管収縮剤を配合成分とすることを,当業者は容易に想到し得ない。
2 取消事由2(相違点(B)に関する進歩性判断の誤り) (1) そもそも,刊行物3はクロモグリク酸ナトリウム濃度4%の単剤と,クロモグリク酸ナトリウムと血管収縮剤の合剤の鼻炎治療効果の比較を行っているものではなく,クロモグリク酸ナトリウムの使用濃度を通常よりも低くできることを開示しているのではない。
クロモグリク酸ナトリウムは遅効性であり,血管収縮剤は即効性であるから,血管収縮剤を加えてクロモグリク酸ナトリウムの濃度を低下させた医薬は,将来的に発現する鼻炎治療効果を低下させかねず,優れた鼻炎治療効果を奏することができない。
したがって,遅効性のクロモグリク酸ナトリウム濃度と,即効性の血管収縮剤との間には,一方の濃度を上昇させたからもう一方の濃度を低下させることを想到することはない。
即効性の血管収縮剤を併用することが,遅効性のクロモグリク酸ナトリウム濃度を低下させることの可能性を開示するとする決定の認定は誤っており,クロモグリク酸ナトリウム濃度2%の点鼻剤について開示されている刊行物7記載の発明に基づいて,当業者はクロモグリク酸ナトリウム濃度1%の点鼻剤を容易に想到し得ない。
(2) 刊行物12の試験では,アレルギー性血管運動神経性鼻炎及び花粉症の治療につながる可能性があると評価している(552頁右欄8〜10行)が,その評価は,クロモグリク酸ナトリウムとアレルゲンを鼻腔に塗布してからわずか1時間以内に行っている(549頁右欄23〜28行,550頁右欄8〜10行)。クロモグリク酸ナトリウムは遅効性で,鼻炎治療効果を発揮するのは投与後約2〜4週間であるから,刊行物12の評価は,単にクロモグリク酸ナトリウムによるアレルゲンの誘発反応の抑制の評価にすぎず,アレルギー性鼻炎の諸症状に対するクロモグリク酸ナトリウムの有効性の評価ではない。
クロモグリク酸ナトリウムの有効性について正確に評価していない刊行物12記載の発明から,1%クロモグリク酸ナトリウム溶液にハウスダスト等の刺激に対して明確な保護作用があるとして当該溶液を点鼻剤に適用しようとすることを,当業者は容易に想到し得るものではない。
(3) さらに,クロモグリク酸ナトリウムについて,1時間の作用時間では,実際の投与間隔が短くなりすぎ,投与回数を著しく増加させなくてはならない等の問題が生じ,投与後30分後の誘発反応の抑制は臨床上不十分である(刊行物9,126頁左欄7〜10行)ことにかんがみれば,クロモグリク酸ナトリウムの塗布後1時間以内の観察結果に基づく刊行物12の評価の信憑性は極めて疑わしい。
(4) 以上,刊行物12はアレルギー性鼻炎の諸症状に対するクロモグリク酸ナトリウムの有効性を評価しているものではないため,刊行物12の記載から,クロモグリク酸ナトリウムを1%とする点について,格別な創意を要するものではないとする決定の判断は誤っている。そもそも,刊行物12の記載内容の信憑性が疑われるから,刊行物12に記載された発明に基づいて,当業者は1%クロモグリク酸ナトリウム溶液を点鼻剤に適用しようとすることを想到し得ない。
3 取消事由3(本件発明1の顕著な効果の看過) (1) 本件発明1は,クロモグリク酸ナトリウムと抗ヒスタミン剤と血管収縮剤の3剤を加えることによって,クロモグリク酸ナトリウム単剤の点鼻剤や,クロモグリク酸ナトリウムと抗ヒスタミン剤を含む点鼻剤のように2剤を含む点鼻剤では奏し得なかった,極めて高いアレルギー性鼻炎治療効果を奏するものである。
この3剤を含む本件発明1が奏する高いアレルギー性鼻炎治療効果が,クロモグリク酸ナトリウム単剤又は2剤を含む点鼻剤に比べて優れた効果を示すことは,本件特許公報に記載された3つの試験例(実施例1,比較例1,比較例2)及び耳鼻咽喉科展望35に記載の試験例(甲6,37頁上段要約,38〜41頁「2.試験方法」,「3・観察項目」,「4・効果判定」)から明らかである。
3剤のうち1剤又は2剤を含む点鼻剤の有効率はすべて50%台であるにもかかわらず,3剤すべてを含有した点鼻剤の有効率は75%を超える。このような有効率の上昇は,統計処理上でも比較例1の点鼻剤と比べて5%の危険率で有意差があり,先行文献に記載された前記3剤の中の1又は2剤を含む点鼻剤等の発明から当業者が予測できる範囲をはるかに超えている。
よって,当業者は,3剤の中の1又は2剤を含む点鼻剤等の発明から,本件発明1を容易に想到し得ないものである。
(2) 決定は,顕著な相乗効果に関する参加人の主張に対する判断中で,実施例1の処方の製剤の有効率について,幅のある範囲と認定している。しかしながら,本件発明1の有効率は,参考資料1〜5に記載された個々の施設における試験結果のバラツキとしてとらえるのではなく,5施設の合計の結果である72.5%としてとらえるべきものである(甲8意見書1項)。また,刊行物7及び刊行物11に記載の試験におけるプロトコールと,本件明細書及び参考資料1〜5に記載された試験におけるプロトコールとは相違する(同2項)。したがって,刊行物7及び刊行物11に記載されたクロモグリク酸ナトリウム2%単剤の点鼻剤の有効率と,本件明細書に記載された点鼻剤の有効率及び参考資料1〜5に記載された本件発明1の点鼻剤の有効率を単純に比較して,本件明細書の試験結果の有効率の数値を評価している決定の判断は誤りである。
抗ヒスタミン剤又は血管収縮剤を含むクロモグリク酸ナトリウム点鼻剤において,抗ヒスタミン剤又は血管収縮剤のアレルギー性鼻炎治療効果がクロモグリク酸ナトリウムのアレルギー性鼻炎治療効果と重なり合ってしまうことは当業者の技術常識であった(甲8意見書4項)。実際,クロモグリク酸ナトリウム1%と抗ヒスタミン剤を含む点鼻剤(表1の比較例2)及び抗ヒスタミン剤と血管収縮剤(表1の耳鼻咽喉科展望35の試験例)の点鼻剤の有効率がそれぞれ58.6%,56.5%であることを技術常識(各薬剤のアレルギー性鼻炎治療効果が互いに重なり合うこと)に基づいて評価すれば,クロモグリク酸ナトリウム1%に抗ヒスタミン剤と血管収縮剤を併用した点鼻剤の有効率は55〜60%の範囲であろうと当業者には予想された。しかしながら,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤と血管収縮剤を併用した点鼻剤は,アレルギー性鼻炎治療効果が重なり合わずに,76.5%という極めて高い有効率を示し,有効率は当業者の予想をはるかに超える(同4項)。
(3) 本件発明1の実施態様である実施例1の有効率は76.5%であるが,これほど高い有効率を有するアレルギー性鼻炎治療薬はない(甲8意見書3項)。実際,アレルギー性鼻炎に対する売上げ上位医療用医薬品の臨床有効率について記載された表2によれば,その有効率は47.7〜69.4%であり,このことからも,本件発明1の点鼻剤が極めて高い有効率を有する優れた医薬であることがわかる。
4 取消事由4(本件発明2,3に関する進歩性判断の誤り) 本件発明2及び3は,本件発明1を引用する発明であるから,取消事由1〜3について記載した理由と同じ理由により,本件発明2及び3は刊行物1〜12に記載の発明から当業者が容易に想到し得ない発明である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(A)に関する進歩性判断の誤り)について (1) クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することが容易想到ではないという主張について 刊行物6(甲3の6)の801頁の要約には,「抗ヒスタミン剤/クロモグリク酸ナトリウム点鼻剤の鼻腔内への使用によるいかなる副作用も報告されなかった」(脱退原告提出の訳文)と記載され,また,同頁右欄19〜23行には,実験の目的として,「2%クロモグリク酸ナトリウムと0.2%マレイン酸クロルフェニラミンを含む鼻スプレーの活性の開始,総合的な効果及び安全性を2%クロモグリク酸ナトリウムのみをふくむ鼻スプレーと比較することである。」(被告提出訳文)と記載され,同803頁右欄7〜40行には,実験結果に関し,「この研究は,クロモグリク酸ナトリウムがアレルギーの季節性鼻炎の症状や徴候をコントロールするのに非常に効果的であることを裏付けた。最終的な所見では,1,2の両グループ(各々84%及び88%)のほとんどの患者は症状の十分なあるいは程よいコントロールが達成されたと評価した。季節性鼻炎の症状のコントロールにクロモグリク酸ナトリウムの鼻スプレーが非常に効果的であるにもかかわらず多くの患者はまだ,通常は抗ヒスタミンの併用療法を必要とするかもしれない。クロモグリク酸ナトリウムの鼻スプレーに0.2%クロルフェニラミンを配合することによってシステマチックな抗ヒスタミン療法の望ましくない副作用なしに症状のコントロールが達成されることが望まれた。しかし,2%クロモグリク酸ナトリウム鼻スプレーへクロルフェニラミンを加えてもその効果に重大な改善はなかった。これは0.2%クロルフェニラミンという量が少なすぎたことによるのかもしれない。抗ヒスタミン鼻スプレーからの副作用は見られなかったので,より高濃度の抗ヒスタミンを含む鼻スプレーをテストすべきであることが示唆される。季節性鼻炎症の治療においては,クロモグリク酸ナトリウムのみとクロモグリク酸ナトリウム/クロルフェニラミンの配合を含む鼻スプレーの間に総合的効果や活性の開始,安全性に有意の差はないという結果であった。両治療法ともに季節性鼻炎の症状をコントロールするのに非常に効果的であり,コントロールは2,3日で達成された。
クロモグリク酸ナトリウムのみの場合より配合剤療法の患者の方が速やかな症状のコントロールが達成されることが示され,グループ2の患者のデイリーカードスコアはより大きな改善を示した。グループ2の患者はスプレーの使用に伴う鼻の一時的ほてりを報告したが,副作用は最小であった。抗ヒスタミン/クロモグリク酸ナトリウムスプレーの使用に関連する他の副作用はなかった。」(被告提出訳文)と記載されている。
(1)-1 してみると,刊行物6から,クロモグリク酸ナトリウム単剤の使用による治療と,クロモグリク酸ナトリウム/クロルフェニラミン配合剤の使用による治療との間には,総合的効果や活性の開始,安全性において有意の差はなく,両剤ともに季節性鼻炎の症状のコントロールに非常に効果的であったこと,特に,配合剤療法の患者の方により速やかな症状のコントロールが達成されたことが理解される。また,副作用に関しては,配合剤療法の患者の方が鼻の一時的なほてりを報告する患者数より多かったとも触れられているが,これは,あくまで,副作用は最小であったことを述べる一文において言及されたところであり,続けて,他の副作用はなかったとも述べられていることからみて,その真意は,配合剤についても副作用が最小であったことを報告することにあると解され,さらに,刊行物6では,「クロルフェニラミンを加えてもその効果に重大な改善はなかった」ことの原因を分析し,その一因として,「0.2%…という量が少なすぎたこと」を想到し,「副作用は見られなかったので,より高濃度の抗ヒスタミンを含む鼻スプレーをテストすべきである」との示唆があるものと解するのが相当である。
(1)-2 してみれば,刊行物6の解釈としては,少なくともその筆者であるNiekerk自身は,副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。
(2) クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合することは容易想到でない,との主張について (2)-1 抗アレルギー剤について記載された英国法人による特許出願に係る特許公報である刊行物3(甲3の3)には, 「キシロメタゾリン濃度は,ナトリウムクロモグリケートと混合して使用される場合,その治療持続期間及び効果をなお保有しながら劇的に減少され得ることが見出された。キシロメタゾリンの濃度そしてそれゆえ薬用量における減少は望まぬ副作用の危険を除くか又は緩和することとなる。また驚くべきことに,この混合物はナトリウムクロモグリケート単独より効力がありそしてキシロメタゾリンの存在がナトリウムクロモグリケートの作用を延長させる傾向がある。」(2頁3欄13〜22行),「本発明によれば,ナトリウムクロモグリケート及びキシロメタゾリン又はその薬学的に受容し得る塩の混合物が提供される。その溶液が透明であることが好ましい。この溶液はナトリウムクロモグリケートを0.1〜10%,好ましくは0.5〜5%そしてより好ましくは約1%又は2%w/vの量で含有し得る。」(2頁3欄29〜35行)とあり, アレルギー性鼻炎患者に対して,ナトリウムクロモグリケート2.0%w/v,キシロメタゾリン塩酸塩0.025%w/vを含有する保存用鼻用スプレー溶液を使用して二重盲群比較で処置した例2が示されている(3頁6欄18行〜4頁8欄4行)。
クロモグリク酸ナトリウム+キシロメタゾリンの配合の季節性鼻炎治療効果及び長期結果をクロモグリク酸ナトリウム単独と比較した二重盲検法による比較試験について記載された刊行物4(甲3の4)には, 「この試験の目的は2%クロモグリク酸ナトリウム単独と,0.025%キシロメタゾリンとクロモグリク酸ナトリウムの配合の6週間以上の治療の有効性,効果の徴候及び許容性を比較することである。」とあり(脱退原告提出の訳文6〜8行),「いずれの治療も季節性鼻炎の症状と徴候の治療に有効であった。試験の終了時には配合群の患者の100%が症状が良好に抑制されたと考え,クロモグリク酸ナトリウム単独群の患者では75%だったのに比べて配合はわずかに(slightly)優れていた。クロモグリク酸ナトリウム単独群ではたった3名の患者であるのに比べ,配合群では9名の患者が2日以内に症状が抑制されたと考えた(P=0.08)。痒み,鼻閉,出膿に関する患者の日誌カードスコアでは,配合群に顕著に低い症状スコアが観察された。わずかに1つの治療関連の副作用が観察され,これは非常に軽症であった。いずれの群の患者にもリバウンド充血は見られなかった。」(脱退原告提出訳文下から8行〜最終行)と記載されている。
さらに,リナクロム配合物(ファイソンズ)について記された英国雑誌である刊行物8(甲3の8)には,「点鼻液剤,クロモグリク酸ナトリウム2%(2.6mg/噴霧)及び塩酸キシロメタゾリン0.025%(32.5μg/噴霧)。正価ポンプ入26ml=£5.94。各鼻孔に1噴霧を1日4回投与。(注)クロモグリク酸ナトリウム2%及び塩酸キシロメタゾリン0.025%の登録商標(レジストワン)は公衆に市販されている。」と記載されている。
以上からみれば,「わずかに」との限定付きではいるが,客観的には,単独群(75%)より配合群(100%)の方が症状の抑制に効果的であったことは明らかであり,2日以内の症状抑制については,単独群(3名)より配合群(9名)の方が即効性があることが理解されるといえ,また,英国では,血管収縮剤がクロモグリク酸ナトリウムとの配合剤として,既に一般用医薬品化(OTC化)されている状況にあったこともうかがわれる。
(2)-2 そして,刊行物1(甲3の1)には,塩酸ナファゾリンとマレイン酸クロルフェニラミンを成分として含有する「ナファゾリン・クロルフェニラミン液」が記載され,その薬効として,「ナファゾリンの効果を抗ヒスタミン剤の併用により一層強化することを目的とした処方である」と記載され,「アレルギー性又は炎症性の粘膜充血,腫脹の治療に有効」であり,「それゆえ抗ヒスタミン剤マレイン酸クロルフェニラミンの配合は効果を増強する」とも記載され,刊行物2(甲3の2)に,塩酸ナファゾリンとマレイン酸クロルフェニラミンを成分とする種々の鼻炎用点鼻薬が記載されている。
(2)-3 してみれば,英国において既に一般用医薬品化された点鼻剤である,クロモグリク酸ナトリウムと血管収縮剤塩酸キシロメタゾリンを配合したものにおいて,血管収縮剤を日本における汎用の塩酸ナファゾリンに代え,その際に,前記の抗ヒスタミン剤マレイン酸クロルフェニラミンの配合により効果が増強された,ナファゾリン・クロルフェニラミン液を用いることを想到することは,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤マレイン酸クロルフェニラミンを配合した場合においては,特に留意すべき副作用が確認されなかったことも踏まえると,これを阻害するべき個別具体的な事情はないといわざるを得ない。
2 取消事由2(相違点(B)に関する進歩性判断の誤り)について (1) 刊行物3(甲3の3)には,クロモグリク酸ナトリウムの好ましい濃度として「0.1〜10%,好ましくは0.5%〜5%そしてより好ましくは約1又は2%w/vの量で含有し得る」と明示されているから,実施例が濃度2.0%w/vのもののみであっても,少なくとも1%を有効ではないと解すべき根拠はない。
刊行物12(甲3の12)は,鼻粘膜に対し作用が期待できる濃度として,現に1%が想到されて実験されたことを示すものであり,クロモグリク酸ナトリウムのアレルギー性鼻炎及び花粉症の治療の用途を示唆していると解することができる。
(2) してみると,「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤や抗ヒスタミン剤を配合した場合,各配合成分の使用濃度を単剤の場合より減少させ,配合剤としての総合的な作用を適切な範囲に留めようとすることは当業者が当然に配慮することであって,特にその濃度を単剤の場合の2%(刊行物7)から,有効濃度の範囲内である1%とする点にしても格別な創意を要するものと認めることはできない。」とした決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明1の顕著な効果の看過)について 訂正発明に係る具体的3剤,すなわち,クロモグリク酸ナトリウム,塩酸ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンは,いずれも鼻炎の症状緩和に使用され,その効果が確認されている成分であり,特に後者の2成分は,日本においても,その配合剤(一般薬)としても広く使用されているものであるところ,これら3剤の配合に当たっては,有効性,安全性が高い範囲を考慮して設定されるのが常識であることは前記のとおりであり,最終的には臨床的に有効性,安全性を確認することは当然に必要ではあるものの,設計の段階では,期待するところとしての効果は既に明確に存在している。
3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。
4 取消事由4(本件発明2,3に関する進歩性判断の誤り)について 本件発明1に関する取消事由1〜3に理由がない以上,本件発明2,3に関する取消事由4も理由がない。
結論
以上のとおり,参加人主張の決定取消事由は理由がないので,参加人の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久