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関連審決 異議2003-71468
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  分割出願 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10196号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社高尾
訴訟代理人弁理士 尾崎隆弘
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 二宮千久
同 渡戸正義
同 立川功
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2003-71468号事件について平成16年3月25日にした決定中「特許第3354536号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「弾球遊技機」とする特許第3354536号の特許(平成10年4月21日に特許出願した特願平10-126693号の一部を平成11年11月26日に特願平11-335670号として分割出願。平成14年9月27日設定登録。以下「本件特許」という。後記訂正後の請求項の数は2である。)の特許権者である。本件特許に対して特許異議の申立てがされ,特許庁は,これを異議2003-71468号事件として審理した。その過程において,原告は,平成16年2月9日,願書に添付した明細書の訂正(請求項の文言の訂正を含む。以下「本件訂正」という。)の請求をした(以下,この訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成16年3月25日,「訂正を認める。特許第3354536号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年4月19日,決定の謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件訂正後) 「【請求項1】遊技球の入賞状態を検出する遊技球検出手段と,該遊技球検出手段を介して入力される遊技球の入賞信号に起因して遊技を制御する遊技制御基盤と,遊技球の入賞に起因して遊技者に賞球を払い出す賞球払出装置と,を含む弾球遊技機において,賞球数の同じ入賞口に入賞する遊技球を集合させ,該集合した遊技球を検出するよう前記遊技球検出手段を賞球数の相違毎に各々設け,前記遊技制御基盤は入力する遊技球の入賞信号に基づいたデータを,前記賞球払出装置を制御する枠制御基盤に出力し,前記枠制御基盤は,前記遊技制御基盤から入力する入賞信号に基づき記憶される記憶入賞個数又は賞球数を加算し,賞球を払い出すことに起因して記憶入賞個数又は賞球数を減算し,この加減算される記憶入賞個数又は賞球数に従って前記賞球払出装置により賞球を払い出し,前記枠制御基盤は,前記記憶入賞個数又は賞球数を停電時に消滅しないよう記憶保持手段により記憶保持し,前記遊技球検出手段を介して流下する入賞球を集合させ,該集合させた入賞球を,アウト口から取り込まれた入賞しない遊技球と合流させて排出する,よう構成し,前記遊技球検出手段にて入賞球を検出した後は対応する賞球の払い出しの終了を待たず,前記検出後の入賞球を,再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出し,前記枠制御基盤がリセットをかけられたとき,前記枠制御基盤に記憶された前記記憶入賞個数又は賞球数の値が異常であると判断すれば零クリアし,前記リセットが遊技中にかけられたと判断した場合には,異常である旨を表示する処理が実行される,よう構成したことを特徴とする弾球遊技機。」(以下「本件発明1」という。) 「【請求項2】遊技球の入賞状態を検出する遊技球検出手段と,該遊技球検出手段を介して入力される遊技球の入賞信号に起因して遊技を制御する遊技制御基盤と,遊技球の入賞に起因して遊技者に賞球を払い出す賞球払出装置と,を含む弾球遊技機において,賞球数の同じ入賞口に入賞する遊技球を集合させ,該集合した遊技球を検出するよう前記遊技球検出手段を賞球数の相違毎に各々設け,前記遊技制御基盤は入力する遊技球の入賞信号に基づいたデータを,前記賞球払出装置を制御する枠制御基盤に出力し,前記枠制御基盤は,前記遊技制御基盤から入力する入賞信号に基づき記憶される記憶入賞個数又は賞球数を加算し,賞球を払い出すことに起因して記憶入賞個数又は賞球数を減算し,この加減算される記憶入賞個数又は賞球数に従って前記賞球払出装置により賞球を払い出し,前記枠制御基盤は,前記記憶入賞個数又は賞球数を停電時に消滅しないように記憶保持し,前記遊技球検出手段を介して流下する入賞球を集合させ,該集合させた入賞球を,アウト口から取り込まれた入賞しない遊技球とは異なる経路で排出する,よう構成し,前記遊技球検出手段にて入賞球を検出した後は対応する賞球の払い出しの終了を待たず,前記検出後の入賞球を,再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出し,前記枠制御基盤がリセットをかけられたとき,前記枠制御基盤に記憶された前記記憶入賞個数又は賞球数の値が異常であると判断すれば零クリアし,前記リセットが遊技中にかけられたと判断した場合には,異常である旨を表示する処理が実行される,よう構成したことを特徴とする弾球遊技機。」(以下「本件発明2」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件訂正を認めた上で,本件発明1及び2は,特開平6-71028号公報(以下,決定と同様「第1引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した引用発明の構成,本件発明1と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(引用発明の構成) 「遊技球の入賞状態を検出する入賞球検出器41〜45,48〜51と, 該入賞球検出器41〜45,48〜51を介して入力される遊技球の入賞信号に起因して遊技を制御する電気的制御装置56と, 遊技球の入賞に起因して遊技者に賞球を払い出す遊技球排出装置71と, を含む遊技機において, 前記入賞球検出器41〜45,48〜51を遊技盤面上の全ての入賞口に個々に設け, 前記電気的制御装置56は入力する遊技球の入賞信号に基づいた賞球排出数データを,前記遊技球排出装置71を制御する排出制御装置58に出力し, 前記排出制御装置58は,前記電気的制御装置56から入力する前記賞球排出数データに基づき第2賞球排出数記憶手段123に記憶される記憶賞球排出数を加算し,前記記憶賞球排出数に従って賞球を払い出し,賞球排出動作が完了すると記憶賞球排出数をリセットして排出記憶を更新し,第2賞球排出数記憶手段123の記憶が全てなくなるまで前記賞球排出動作を連続して行い, 前記排出制御装置58は,前記第2賞球排出数記憶手段123に記憶される記憶賞球排出数を停電時に消滅しないように記憶保護手段125により記憶保持に必要な電源を供給するバックアップを行い, 前記入賞球検出器41〜45,48〜51を介して流下する入賞球を入賞球案内樋62により集合させた後,調流樋64を介して導出樋65から遊技機外へ排出するとともに,アウト口から取り込まれた入賞しない遊技球をアウト球流下路67から遊技機外へ排出する,よう構成し, 前記入賞球検出器41〜45,48〜51にて検出した入賞球を前記入賞球案内樋62から前記調流樋64に整列状態で供給し,前記調流樋64を通過する間にセーフセンサ63により入賞球を検出した後は対応する賞球の払い出しの終了を待たず,前記検出後の入賞球を遊技機外へ排出し, 前記排出制御装置58の起動に際して,電源投入であれば各種のフラグやタイマを初期化し,また,停電復帰であれば排出数表示器28への表示出力を再開する等の停電時の出力状態へ戻す停電復帰処理が実行される, よう構成した遊技機。」 (一致点) 「遊技球の入賞状態を検出する遊技球検出手段と, 該遊技球検出手段を介して入力される遊技球の入賞信号に起因して遊技を制御する遊技制御基盤と, 遊技球の入賞に起因して遊技者に賞球を払い出す賞球払出装置と, を含む弾球遊技機において, 入賞口に入賞する遊技球を検出するよう前記遊技球検出手段を各々設け, 前記遊技制御基盤は入力する遊技球の入賞信号に基づいたデータを,前記賞球払出装置を制御する枠制御基盤に出力し, 前記枠制御基盤は,前記遊技制御基盤から入力する入賞信号に基づき記憶される記憶入賞個数又は賞球数を加算し,記憶される前記記憶入賞個数又は賞球数に従って賞球を払い出し, 前記枠制御基盤は,前記記憶入賞個数又は賞球数を停電時に消滅しないよう記憶保持手段により記憶保持し, 前記遊技球検出手段を介して流下する入賞球を集合させ,該集合させた入賞球と,アウト口から取り込まれた入賞しない遊技球とを排出し, 前記遊技球検出手段にて入賞球を検出した後は対応する賞球の払い出しの終了を待たず,前記検出後の入賞球を,貯留をすることなく遊技機外へ排出する,よう構成し, 前記枠制御基盤がリセットをかけられたとき,初期化処理を実行し,前記リセットが遊技中にかけられたと判断した場合には,停電復帰処理が実行される,よう構成した弾球遊技機。」 (相違点) A 枠制御基盤が,記憶入賞個数又は賞球数に従って賞球を払い出すときに,本件発明1は,賞球を払い出すことに起因して記憶入賞個数又は賞球数を減算する構成であるのに対して,引用発明は,該構成のものであるか明らかでない点(以下「相違点A」という。)。
B 集合させた入賞球と,アウト口から取り込まれた入賞しない遊技球とを排出するときに,本件発明1は,前記入賞球と前記入賞しない遊技球とを合流させて排出する構成であるのに対して,引用発明は,前記入賞球と前記入賞しない遊技球とを異なる経路で排出する構成である点(以下「相違点B」という。)。
C 対応する賞球の払い出しの終了を待たず,入賞球を遊技機外へ排出するものにおいて,本件発明1は,遊技球検出手段にて検出後の入賞球を,再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出する構成であるのに対して,引用発明は,遊技球検出手段にて検出後の入賞球を,調流樋64を通過する間にセーフセンサ63により検出した後で遊技機外へ排出する構成である点(以下「相違点C」という。)。
D 枠制御基盤がリセットをかけられたときの初期化処理として,本件発明1は,前記枠制御基盤に記憶された前記記憶入賞個数又は賞球数の値が異常であると判断すれば零クリアするのに対して,引用発明は,各種のフラグやタイマを初期化する処理を実行する点(以下「相違点D」という。)。
E 枠制御基盤に対するリセットが遊技中にかけられたと判断した場合の停電復帰処理として,本件発明1は,異常である旨を表示する処理が実行されるのに対して,引用発明は,排出数表示器28への表示出力を再開する等の停電時の出力状態へ戻す停電復帰処理が実行される点(以下「相違点E」という。)。
F 遊技球検出手段を,本件発明1は,賞球数の同じ入賞口に入賞する遊技球を集合させ,該集合した遊技球を検出するよう賞球数の相違毎に各々設ける構成であるのに対して,引用発明は,遊技盤面上の全ての入賞口に個々に設ける構成である点(以下「相違点F」という。)。
原告主張の取消事由の要点
決定は,引用発明の認定を誤ったことにより,本件発明1と引用発明との一致点の認定を誤るとともに,相違点を看過し(取消事由1),相違点CないしEについての判断を誤り(取消事由2),さらに本件発明2についても本件発明1の場合と同様の誤った認定判断をした(取消事由3)ものであり,この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明及び一致点の認定の誤り・相違点の看過) (1) 引用発明の認定の誤り 決定は,引用発明の内容として,第1引用例の特許請求の範囲の請求項2の発明(以下「引用例請求項2発明」という。)の構成要素である入賞検出手段(セーフセンサ63)を認定しながら,同発明の他の構成要素である照合・記憶保持手段を認定せず,引用例請求項2発明を一つのまとまりのある技術的思想として認定していない。引用発明は,引用例請求項2発明を構成に含むものとして,以下のとおり認定されるべきであり,これに反する決定の認定は誤りである(下線部が付加又は変更されるべき部分である。A等は,主張を特定するために便宜付したものであり,以下「下線部A」などという。)。
「遊技球の入賞状態を検出する入賞球検出器41〜45,48〜51と, 該入賞球検出器41〜45,48〜51を介して入力される遊技球の入賞信号に起因して遊技を制御する電気的制御装置56と, 遊技球の入賞に起因して遊技者に賞球を払い出す遊技球排出装置71と,を含む遊技機において, 前記入賞球検出器41〜45,48〜51を遊技盤面上の全ての入賞口に個々に設け, 前記電気的制御装置56は入力する遊技球の入賞信号に基づいた賞球排出数データを,前記遊技球排出装置71を制御する排出制御装置58に出力し, 前記排出制御装置58は,・セーフセンサ63 から 入力 される 入賞球記憶に基づいて ,賞球排出数要求 を電気的制御装置 56 に対して 行い,入賞球検出記憶を記憶保持 し,賞球排出数要求 をしてから ,前記電気的制御装置 56 から 賞球排出数データ を受信 し,前記電気的制御装置56から入力する前記賞球排出数データに基づき第2賞球排出数記憶手段123に記憶される記憶賞球排出数を加算し,前記記憶賞球排出数に従って賞球を払い出し,・電気的制御装置 56 から 賞球数 を受けると ,記憶 リセット 信号 により 賞球排出数要求 への 信号出力 を停止 し,入賞球数記憶(セーフセンサ 63 の検出記憶 )を1減算 し,入賞球数記憶 が全てなくなるまで前記賞球排出動作 を連続 して 行い, 前記排出制御装置58は,前記第2賞球排出数記憶手段123に記憶される記憶賞球排出数・及び入賞球数記憶手段 121 に記憶 される 前記入賞球数記憶 を停電時に消滅しないように記憶保護手段125により記憶保持に必要な電源を供給するバックアップを行い, 前記入賞球検出器41〜45,48〜51を介して流下する入賞球を・遊技盤裏面 に設けた 入賞球集合樋 (図示略 )で集合 させて 遊技機外へ排出するとともに,アウト口から取り込まれた入賞しない遊技球をアウト球流下路67から遊技機外へ排出する,よう構成し, 前記入賞球検出器41〜45,48〜51にて検出した入賞球を前記入賞球案内樋62・に集合 させた 後,前記調流樋64に整列状態で供給し,前記調流樋64を通過する間にセーフセンサ63により入賞球を検出した後は対応する賞球の払い出しの終了を待たず,前記検出後の入賞球を遊技機外へ排出し, 前記排出制御装置58の起動に際して,電源投入であれば各種のフラグやタイマを初期化し,また,停電復帰であれば排出数表示器28への表示出力を再開する等の停電時の出力状態へ戻す停電復帰処理が実行される, よう構成した遊技機。」 引用発明を上記のように認定すべき理由は,次のとおりである。
ア 下線部・について 引用発明の構成は,第1引用例の段落【0051】〜【0059】及び【図7】に一つのまとまりのある発明として記載されているとおりである。
イ 下線部・について 第1引用例の段落【0058】〜【0059】及び【図7】によれば,引用発明は,排出制御装置58の入賞球数記憶手段121の入賞球数記憶から1減算する処理を行うものである。
ウ 下線部・について 第1引用例の段落【0054】〜【0059】,【0063】によれば,引用発明は,最初の検出に係る賞球排出数と,再度の検出に係る入賞球数との両者を記憶保護し,両者の記憶保持によらない限り,停電復帰時に,電気的制御装置56から排出制御装置58への賞球排出数の送信,賞球払出しはできない。
エ 下線部・,・について 第1引用例において,「集合」には「入賞球集合樋(図示略)による集合」と「入賞球案内樋62による集合」の2種類がある(段落【0030】)。このうち,「入賞球案内樋62による集合」は,単に集合させられるだけのものではなく,技術的に貯留の意味がある。入賞球の排出は,第2賞球排出数記憶手段123に記憶させた後に行なわれるからである(段落【0061】7〜12行)。すなわち,第2賞球排出数記憶手段123に記憶させるためには,入賞球数記憶手段121,賞球排出数要求手段122及び賞球排出数送信手段119の介在を無視できず(段落【0054】〜【0059】,【図7】),セーフセンサ63により検出されれば直ちに入賞球が排出されるわけではない。
(2) 一致点の認定の誤り 決定の認定した一致点のうち,次の点は誤りである。
ア 「前記枠制御基盤は,前記遊技制御基盤から入力する入賞信号に基づき記憶される記憶入賞個数又は賞球数を加算し,記憶される前記記憶入賞個数又は賞球数に従って賞球を払い出し,」との点は誤りであり,「前記枠制御基盤は,記憶入賞個数又は賞球数に従って賞球を払い出し,」と認定すべきである。
引用発明では,セーフセンサ63からの検出記憶(入賞球数記憶)に基づいて,記憶入賞個数又は賞球数に従って賞球を払い出すものであり,入賞データの送信自体によって賞球を払い出すものでないからである。
イ 「前記枠制御基盤は,前記記憶入賞個数又は賞球数を停電時に消滅しないよう記憶保持手段により記憶保持し,」のうち,「前記記憶入賞個数又は賞球数」との点は,「賞球に関するデータ」と認定すべきである。
引用発明は,最初の検出に係る賞球排出数と,セーフセンサ63による再度の検出に係る入賞球数との両者を記憶保護し,両者の記憶保持によらない限り,停電復帰時に,賞球排出数の送信,賞球払出しはできないからである。
ウ 「前記遊技球検出手段にて入賞球を検出した後は対応する賞球の払い出しの終了を待たず,前記検出後の入賞球を,貯留をすることなく遊技機外へ排出する,よう構成し,」のうち,「前記検出後の入賞球を,貯留をすることなく」は削除すべきであり,「・・・終了を待たず,遊技機外へ排出する・・・」と認定すべきである。
引用発明では,「検出後の入賞球を,貯留することなく」ということはあり得ないからである。
エ 「前記枠制御基盤がリセットをかけられたとき,初期化処理を実行し,前記リセットが遊技中にかけられたと判断した場合には,停電復帰処理が実行される,」よう構成した弾球遊技機との点は誤りであり,「前記枠制御基盤がリセットをかけられる,」よう構成した弾球遊技機と認定すべきである。
引用発明と本件発明1とでは,枠制御基盤がリセットをかけられることだけが共通しているに過ぎないからである。
(3) 相違点の看過 決定は,次のとおり,本件発明1と引用発明との相違点を看過している(決定が認定した相違点ごとに,看過した相違点を「C-1」などという。)。
ア 相違点C-1 本件発明1では,枠制御基盤が,再度の検出をしないで,入賞信号を受信すると,賞球払出し装置により賞球を払い出すのに対し,引用発明では,排出制御装置58がセーフセンサ63から入力される入賞球数記憶に基づいて,賞球排出数要求を電気的制御装置56に対して行い,入賞球数検出記憶を記憶保持し,賞球排出数要求をしない限り,前記電気的制御装置56から賞球排出数データを受信せず,賞球の払出しはできない点。
イ 相違点C-2 本件発明1では,枠制御基盤が記憶入賞個数又は賞球数を減算するのに対し,引用発明では,入賞球数記憶(セーフセンサ63(入賞球検出手段120)による入賞球検出記憶)を減算し,第2賞球排出数記憶手段123にセットされた記憶をリセットするものである点。
ウ 相違点C-3 本件発明1では,枠制御基盤が記憶入賞個数又は賞球数の記憶保持を行うのに対し,引用発明では,前記排出制御装置58が,前記第2賞球排出数記憶手段123に記憶される賞球排出数記憶及び入賞球数記憶手段121に記憶される前記入賞球数記憶の両者の記憶を停電時に消滅しないように記憶保護手段125により記憶保持に必要な電源を供給するバックアップを行う点。
エ 相違点C-4 本件発明1では,再度検出するための貯留をすることはないのに対し,引用発明では,遊技球検出手段にて検出された後の入賞球を,入賞球案内樋62に集合させている点 オ 相違点D-1 枠制御基盤がリセットをかけられたときの処理として,本件発明1では,電源投入時のリセットの場合を含め,前記記憶入賞個数又は賞球数の値が異常であると判断すれば零クリアし,前記記憶入賞個数又は賞球数が異常でなければ,正常処理されるのに対し,引用発明では,電源投入時であれば,排出数記憶の異常の有無の判断はせず,強制的に全てのデータが零クリアされる点。
カ 相違点E-1 枠制御基盤に対するリセットがかけられたと判断した場合の処理として,本件発明1では,リセットがかけられたことをもって異常である旨を表示する,すなわち,記憶入賞個数又は賞球数の値が異常か否か(零クリアの有無)にかかわらずに異常表示をするのに対し,引用発明では,停電という異常をもって,停電時の出力状態へ戻すものであり,排出数記憶が零クリアされる場合,表示出力自体すらされない点。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 相違点Cについての判断の誤り ア 決定は,第1引用例の特許請求の範囲の請求項1には,「入賞球を貯留して検出するためのセーフ球タンク及びセーフセンサを発明の構成要件としない,対応する賞球の払い出しの終了を待たずに入賞球を再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出するようにした非証拠玉方式の弾球遊技機の発明が完成した1つの発明として規定されている」としている(審決書25頁)。
しかし,第1引用例の特許請求の範囲の請求項1の発明(以下「引用例請求項1発明」という。)は,入賞種別検出手段と賞球排出数記憶手段と記憶保護手段と排出動作制御手段とを備える遊技機として,複数の機能実現手段から構成されるソフトウェア関連発明として規定されているものであり,このソフトウェア関連発明は,引用発明から派生することから,従来のハード構成を変更せず,ソフト構成を変更した発明として把握されるものである。すなわち,入賞球を貯留(集合)して検出するためのセーフ球タンク及びセーフセンサなどのハード構成を備えた証拠玉方式の弾球遊技機の発明に適用され,賞球排出数を記憶し,対応する賞球の払い出しの終了を待たずに,遊技機外へ排出するようにしたソフト構成を備える,互換性を基本とする証拠球互換方式の弾球遊技機の発明である。第1引用例の段落【0060】及び【0061】には,これによって従来の証拠玉方式の弾球遊技機における入賞球を貯留して検出する構成に起因する問題を解決できることが記載されているものの,従来の証拠玉方式の弾球遊技機における問題を全面的に解決できるものではない。
イ また,決定は,特開平5-237247号公報(以下,決定と同様に「第3引用例」という。),特開平4-329988号公報(以下,決定と同様に「第4引用例」という。),特開平9-266981号公報(以下,決定と同様に「第6引用例」という。)を引用して,「非証拠玉方式をもって弾球遊技機を構成することは周知技術というべきものである。」としている。
しかし,第3,4,6引用例には,証拠玉方式の弾球遊技機が開示され,入賞個数の記憶値が停電等で消去されないようにバックアップ電源を利用することの示唆はあるものの,いずれも証拠玉方式のハード構成を前提としているものである。したがって,入賞個数の記憶値が停電等で消去されないようにバックアップ電源を利用し,遊技球検出手段にて検出後の入賞球を再度検出するための貯留をすることなく(入賞球を貯留して検出するためのセーフ球タンク及びセーフセンサを発明の構成要件としないこと),対応する賞球の払出しの終了を待たず遊技機外へ排出するようにした非証拠玉方式の弾球遊技機発明が開示されているとはいえず(例えば,第3引用例の段落【0026】,第4引用例の段落【0036】,第6引用例の段落【0053】),非証拠玉方式をもって弾球遊技機を構成することは,周知技術というべきものではない。
ウ 上記ア及びイによれば,引用例請求項1発明,あるいは,第3,4,6引用例に示される証拠玉方式の構成に基づいて,引用発明における,セーフセンサ63により入賞球を検出する構成を省略し,遊技球検出手段にて検出後の入賞球を再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出する構成をもって,相違点Cに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できるものではないというべきである。
(2) 相違点Dについての判断の誤り 決定は,特開平4-58975号公報,特開昭62-14878号公報,特開昭61-259685号公報(以下,これらの公報をまとめて「甲10〜12文献」という。)を挙げて,周知技術に示される,RAMのデータが異常であると判断すれば零クリアする構成を採用して,相違点Dに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できるものであるとしている。
しかし,電源投入によるリセットのときに,弾球遊技機の遊技制御装置を構成するRAMのメモリをチェックし,該メモリが異常であると判断すればRAM領域を初期化することは,周知技術(甲10〜12文献)であるが,甲10〜12文献には,本件発明1のような,弾球遊技機の制御装置としての枠制御基盤を構成するRAMのデータである記憶入賞個数又は賞球数の値の異常をチェックする旨の記載はない。そうすると,引用発明に示される,弾球遊技機の制御装置としての遊技制御基盤がリセットをかけられたときの初期化処理として,上記周知技術に示される,RAMのメモリが異常であると判断すれば,RAMを初期化する(全てのデータを零クリアする)構成を採用したとしても,枠制御基盤の記憶入賞個数又は賞球数の異常判断の結果の零クリアについての記載はなく,他の相違点C,Eとの関係から,相違点Dに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できるものではないというべきである。
(3) 相違点Eについての判断の誤り ア 一般にマイコン回路が動作中に停電が発生し,その後に電源が復帰した場合に,該マイコン回路にリセットをかけるとともに停電という異常が発生した旨を表示する処理を実行することは,特定の技術分野に限定されない周知技術(甲13〜15号証)である。そして,弾球遊技機の技術分野においても,遊技中に停電が発生し,その後に電源が復帰した場合に,弾球遊技機に関連するマイコン回路にリセットをかけるとともに,停電という異常が発生した旨を表示する処理を実行することは,適宜実施されている周知技術(甲17号証)である。
しかしながら,本件発明1は,停電をもって異常表示する趣旨ではなく,遊技中にリセットをかけられたことにより異常表示をするものであり,遊技中のリセットと営業時間外の停電とを同視することはできないので,周知技術ではない。
イ また,停電をもって異常表示するもののほかに,停電復帰時に停電発生前の遊技状態を容易に確認する発明がなされている(甲16号証)。しかし,甲16号証には,弾球遊技機にその遊技状態を記憶保持するバックアップ機能を付加し,停電解消後に記憶内容を読み出せるようにすることが有効であるとしても,バックアップ機能を利用してメモリに不正なデータを書き込むことにより本来の遊技内容とは違った極端に射幸心をあおる遊技内容に変更してしまう不正行為を防止することは困難であることが記載されている。そのため,バックアップ機能を搭載した引用発明では不正行為を放任してしまうことになる。
ウ そして,弾球遊技機の技術分野において,停電から復帰した場合に係員が遊技機の状態に応じて動作を停電時の出力状態へ戻して再開するか,初期化するかを選択して停電復帰処理を実行する構成が,周知技術(甲18号証)であったとしても,本件発明1のように,遊技中のリセットがかけられたことをもって,記憶保持された記憶入賞個数又は賞球数の異常判断の有無(零クリアの有無)にかかわらずに,異常表示をすることにより,店員に注意を喚起し不正書換等を判断する余地を残すことは,当業者が適宜になし得る設計的事項とはいえない。
エ したがって,引用発明において,相違点Eに係る本件発明1のように構成することは,当業者が容易に想到できるものではない。
(4) 本件発明1には,次のような予測困難な作用効果があるから,本件発明1の進歩性は肯定されるべきである。
ア 記憶入賞個数又は賞球数の値が改竄又は変更された場合には零クリアされるので,賞球が不当に払い出されてしまうことを防止できる。
イ 記憶賞球個数の値が異常であるか否かにかかわらず,遊技中のリセット時に異常である旨を表示することにより不正行為に対応できる。
ウ セーフタンク及びセーフセンサ等をなくして遊技機の構成を簡素化できるとともに,主制御基盤の処理の負担を減少させることができる。
3 取消事由3(本件発明2についての認定判断の誤り) 本件発明2は,本件発明1と「入賞しない遊技球と合流させて排出する」か「入賞しない球技球とは異なる経路で排出する」かの点で相違するだけであり,前記取消事由1及び2と同一の理由により,本件発明2についてした決定の認定判断は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(引用発明及び一致点の認定の誤り・相違点の看過)について (1) 引用発明の認定について 引用発明は,本件発明1の容易推考性を検討判断する際の比較発明として必要充分な範囲で認定すべきところ,決定では,引用例請求項1発明に着目し,実施例に基づいて,遊技球検出手段にて検出した入賞球について,調流樋64を通過する間にセーフセンサ63により入賞球を検出した後で,対応する賞球の払い出しの終了を待たずに遊技機外へ排出するよう構成した遊技機を認定したものである。
すなわち,第1引用例には,従来の遊技機においては,入賞球を調流樋等に一旦貯留し,当該入賞球に対する賞球排出動作が完了した後に当該入賞球の排出動作を行うことから,未処理分の入賞球が大量に調流樋及び入賞球集合樋内に停留して遊技の円滑な進行を妨げるという問題点があったことから,それを解決する引用例請求項1発明として,入賞種別検出手段によって検出された入賞球の種別に応じた賞球排出数を個別に記憶する賞球排出数記憶手段と,上記賞球排出数記憶手段の記憶内容を保護する記憶保護手段と,賞球を排出させる排出動作制御手段とを備える弾球遊技機が開示されており,決定は,これを引用発明として認定したものである。なお,決定が,引用例請求項1発明に対応するものに加えて認定したセーフセンサ63に係る要素は,本件発明1が「検出後の入賞球を再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出する」構成を含むことから,これに合わせて認定したものであり,引用発明として,引用例請求項2発明を一つのまとまりのある技術思想として認定すべき必然性はない。
原告は,下線部AないしEのように認定すべきであると主張するが,いずれもその必要がないものである。
すなわち,電気的制御装置56と排出制御装置58との間の送受信構造は,引用例請求項1発明を構成する手段とは技術的関係がなく,入賞球検出手段120が検出した入賞球と入賞種別検出手段117が検出した入賞球種別とを照合する引用例請求項2発明の実現手段として必要な要件になるものである。また,調流樋64は,入賞球の流れを調整して整列状態でセーフセンサ63に導く構造のものであり,入賞球を通過させるものであって,従来の証拠玉方式の如き貯留を意図するものではないから,大量の入賞球が発生したときに該入賞球が調流樋64に短時間停滞する状況が発生することがあるとしても,これをもって調流樋64に貯留すると認定すべき理由にはならない。
(2) 一致点の認定について ア 原告主張の「一致点の認定の誤り」ア及びイについて 本件発明1及び引用発明は,いずれも決定が一致点と認定した構成を具備しており,一致点の認定に誤りはない。
イ 原告主張の「一致点の認定の誤り」ウについて 引用発明は,貯留の構成を必須の要件としないものであるから,決定の一致点の認定に誤りはない。
ウ 原告主張の「一致点の認定の誤り」エについて 引用発明は,リセットの状況に応じて初期化処理あるいは停電復帰処理が実行されるものであり,決定の一致点の認定に誤りはない。
(3) 相違点の看過について 原告が相違点の看過と主張する事項は,いずれも引用発明の認定及び一致点の認定に誤りがあることを前提とするものであるところ,その誤りがないことは前記のとおりであるから,決定が相違点を看過している旨の原告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 相違点Cについて 第1引用例には,引用例請求項1発明として,入賞種別検出手段(117)と賞球排出数記憶手段(123)と排出動作制御手段(124)と記憶保護手段(125)とを備え,入賞球を貯留して検出するためのセーフ球タンク及びセーフセンサを必須の構成要件としないで,対応する賞球の払い出しの終了を待たずに入賞球を再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出するようにした非証拠玉方式の弾球遊技機の発明が開示されているから,引用発明における,セーフセンサ63により入賞球を検出する構成を省略し,遊技球検出手段にて検出後の入賞球を再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出する構成をもって,前記相違点Cに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できるものである。
第1引用例の段落【0123】における「遊技球を一旦貯留する方式の従来の遊技機においても,遊技機のハード構成を変更することなく,賞球数記憶に基づいた賞球排出処理を実現できるので,従来の遊技機とも互換性を保持できる」との記載は,遊技球を貯留しない方式の遊技機が発明の主体となることを前提に,それ以外に遊技球を一旦貯留する方式の従来の遊技機とも互換性を保持できるという副次的作用効果を備えていることをいうものに過ぎない。
(2) 相違点Dについて 甲10〜12文献には,リセットによる起動,あるいは,タイマ割込による起動のときに,弾球遊技機の制御基盤におけるRAMのデータをチェックし,該データが異常であると判断すれば零クリアする周知技術が記載されているところ,RAMのデータの異常をチェックする制御基盤として,上記周知技術が遊技制御基板を対象とするのに対して,本件発明1は枠制御基盤を対象とする点で相違しているが,上記周知技術は,弾球遊技機の制御基板を構成するRAMの異常をチェックする技術として,制御基板の種別によることなく採用し得る汎用技術である。
甲10〜12文献に示される,制御基盤にリセットがかけられたときにRAMのデータをチェックして異常があれば零クリアする周知技術に基づいて,制御基盤の一種である枠制御基盤を対象にRAMのデータとして記憶入賞個数又は賞球数の値をチェックすることは,不正行為やノイズ等に対処する課題解決手段として当業者が通常想起するところというべきである。
したがって,引用発明の枠制御基盤に上記周知技術を適用して,相違点Dに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できるものである。
(3) 相違点Eについて マイコン回路を利用したパチンコ機において,動作中の電源異常によりリセットをかけられたときに異常が発生した旨を表示することは,汎用的な周知技術に示される作用機能を単にパチンコ機に適用するだけであって,当業者が適宜になし得る設計的事項に過ぎない。したがって,引用発明に示される,枠制御基盤に対するリセットが遊技中にかけられたと判断した場合に停電時の出力状態へ戻す停電復帰処理が実行される構成において,停電が発生後に電源が復帰した場合にマイコン回路にリセットをかけるとともに異常である旨を表示する処理を実行する汎用的な周知技術を採用して,相違点Eに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できるものである。
(4) 予測困難な作用効果について 本件発明1が引用発明及び各周知技術に基づいて容易に発明ができる以上,その効果も当然予測の範囲内のものというべきである。
3 取消事由3(本件発明2についての認定判断の誤り)について 前記のとおり,取消事由1及び2は,全て失当であるから,取消事由1及び2に理由があることを前提とする取消事由3も理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明及び一致点の認定の誤り・相違点の看過)について (1) 引用発明の認定について 原告は,決定は引用例請求項2発明の構成要素である「セーフセンサ63」を引用発明の内容として認定しているのであるから,引用例請求項2発明の他の構成も含むものとして引用発明を認定すべきであると主張する。
ア 第1引用例には,引用例請求項1発明に関し,次の記載がある(甲4号証)。
「【請求項1】 遊技盤の遊技部内に設けた入賞領域へ入賞した入賞球の種別を検出する入賞種別検出手段と,上記入賞種別検出手段によって検出された入賞球の種別に応じた賞球排出数を個別に記憶する賞球排出数記憶手段と,上記賞球排出数記憶手段の記憶内容を保護する記憶保護手段と,上記賞球排出数記憶手段が記憶する賞球排出数に基づいて,遊技球排出装置より賞球を排出させる排出動作制御手段と,を備えることを特徴とする遊技機。
【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,遊技内容に応じて交換される各種の遊技盤と互換性を保持し,当該遊技盤の入賞領域に応じて設定された数の賞球を排出制御可能な排出制御装置を備える遊技機に関する。
【0002】 【従来の技術】パチンコ機に代表される遊技機においては,・・・ 【0004】・・・また,賞球排出動作を行う場合,各入賞球毎に排出賞球数を電気的制御装置で設定することから,各入賞領域から受け入れた入賞球を集める入賞球集合樋を経て集められた入賞球を調流樋等に一旦貯留し,当該入賞球に対する賞球排出動作が完了した後に,当該入賞球の排出動作をセーフ球払出機構によって行うものとなっている。
【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,近来の遊技機においては,比較的短時間に多量の入賞球が発生する特別遊技等が設定された遊技内容が主流となっており,斯かる遊技機においては,未処理分の入賞球が大量に調流樋および入賞球集合樋内に停留することで,各入賞領域から入賞球を受け入れられないような不都合が生じ,円滑な遊技を妨げることにもなりかねない。斯かる事態を防止するためには,大量のセーフ球を貯留可能なスペースを予め確保した遊技機を構成しなければならないが,僅少なスペースを有効に活用して各種の機構を設けてある遊技機に,更に多くのスペースを確保することは比較的困難であると共に,遊技機全体の設計変更を余儀なくされるために,従前の遊技機との互換性を確保することもできなくなる。
【0006】また,入賞球を一旦貯留しないで,各入賞球を順次記憶しておく構成を採用することも考えられるが,遊技中に停電や故障が生じた場合には,未処理分の入賞球の記憶が消滅してしまい,遊技者が多大の不利益を蒙る可能性もあり,単純に記憶方式に切り替える訳にも行かない。
【0007】そこで,短時間に大量の入賞球が発生した場合であっても,遊技に影響を及ぼすことなく確実に賞球排出処理できると共に,遊技中における不意の停電や故障の際にも,遊技者が不利益を受けることなく,入賞球に応じた賞球を確実に獲得できる遊技機の開発が望まれていた。
【0008】 【課題を解決するための手段】本発明は上記に鑑み提案されたもので,遊技盤(10)の遊技部(9)内に設けた入賞領域(例えば,第1〜第3特図始動口38a〜38c,変動入賞装置33の大入賞口33a等)へ入賞した入賞球の種別を検出する入賞種別検出手段(117)と,上記入賞種別検出手段(117)によって検出された入賞球の種別に応じた賞球排出数を個別に記憶する賞球排出数記憶手段(例えば第2賞球排出数記憶手段123)と,上記賞球排出数記憶手段(123)の記憶内容を保護する記憶保護手段(125,125′)と,上記賞球排出数記憶手段(123)が記憶する賞球排出数に基づいて,遊技球排出装置(71)より賞球を排出させる排出動作制御手段(124)と,を備えるものとした。
【0009】 【作用】遊技盤の遊技部内に設けた各種の入賞領域へ入賞した入賞球の種別を入賞球種別検出手段が検出し,該入賞球種別検出手段によって検出された入賞球の種別に応じた賞球排出数が,賞球排出数記憶手段に一旦記憶されることとなる。そして,この賞球排出数記憶手段に記憶されている賞球数記憶に基づいて,排出動作制御手段が遊技球排出装置を制御し,賞球数記憶に応じた賞球を排出する。
また,賞球排出数記憶手段に記憶保持された記憶内容は,記憶保護手段によって保護された状態となる。
【0122】 【発明の効果】以上説明したように,本発明に係る遊技機においては,遊技盤の遊技部内に設けた各種の入賞領域へ入賞した入賞球の種別を入賞球種別検出手段が検出し,該入賞球種別検出手段によって検出された入賞球の種別に応じた賞球排出数が,賞球排出数記憶手段に一旦記憶されることとなる。したがって,入賞球を一旦貯留しておく従来の遊技機の如く,短時間に発生した大量の入賞球を処理できない場合に,貯留している入賞球が遊技盤の裏面側にまで溢れてしまい,各入賞領域からの入賞球受け入れを阻害してしまうような遊技上の不都合が生ずることを防止できる。
【0123】さらに,この賞球排出数記憶手段に記憶されている賞球数記憶に基づいて,排出動作制御手段が遊技球排出装置を制御し,賞球数記憶に応じた賞球を排出させるので,排出数記憶手段と排出動作制御手段を遊技機の排出制御装置等に設けることで,賞球数記憶に基づいた賞球数排出処理を実現できる。したがって,遊技球を一旦貯留する方式の従来の遊技機においても,遊技機のハード構成を変更することなく,賞球数記憶に基づいた賞球排出処理を実現できるので,従来の遊技機とも互換性を保持できる。
【0124】しかも,賞球排出数記憶手段に記憶保持された記憶内容は,記憶保護手段によって保護されるので,遊技中における不意の停電や故障の際にも,遊技者が不利益を受けることなく,入賞球に応じた賞球を確実に獲得できる。」 第1引用例における以上の記載によれば,引用例請求項1発明は,「入賞球を調流樋等に一旦貯留し,当該入賞球に対する賞球排出動作が完了した後に,当該入賞球の排出動作をセーフ球払出機構によって行う」という構成の従来の遊技機では,「未処理分の入賞球が大量に調流樋および入賞球集合樋内に停留する」との問題点があったため,入賞種別検出手段(117)によって検出された入賞球の種別に応じた賞球排出数を個別に記憶する賞球排出数記憶手段(123)を設け,その賞球排出数記憶手段(123)が記憶する賞球排出数に基づいて,遊技球排出装置(71)より賞球を排出させる排出動作制御手段(124)を備え,入賞球をセーフ球タンク等のスペースに貯留させることなく排出するとともに,「遊技中における不意の停電や故障の際にも,遊技者が不利益を受けることなく,入賞球に応じた賞球を確実に獲得できる」ようにするため,賞球排出数記憶手段(123)の記憶内容を保護する記憶保護手段(125,125′)を設けたものであると認められる。
イ 第1引用例には,引用例請求項2発明に関し,次の記載がある(甲4号証)。
「【請求項2】 全ての入賞領域へ入賞した球を一括して検出する入賞球検出手段を備え,上記入賞球検出手段が検出した入賞球と入賞種別検出手段が検出した入賞球種別とを照合して決定された賞球排出数を賞球排出数記憶手段が個別に記憶保持するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の遊技機。
【0054】一方,遊技機1の入賞球検出手段120(全ての入賞領域へ入賞した球を一括して検出するもので,上記実施例においてはセーフセンサ63に該当する。なお,セーフセンサ63では第1,第2普図始動ゲート36a,36bを通過入賞した球を検出できないので,これらの通過入賞球に対する賞球も行うように設定した場合には,セーフセンサ63と第1,第2普図始動ゲート通過球検出器46,47とで入賞球検出手段として機能する。)より入力される入賞球検出信号は,排出制御装置58の入賞球数記憶手段121へ入力されるものとしてあり,この入賞球数記憶手段121の入賞球記憶に基づいて,排出排出制御装置(判決注・「排出制御装置」の誤記と認められる。)58の賞球排出数要求手段122が上記賞球排出数送信手段119へ賞球排出数要求を行うのである。
【0055】すなわち,賞球排出の対象となる何れかの入賞領域を通過する際に,各入賞球は入賞種別検出手段117によって検出されることで,当該入賞球種別に応じた賞球排出数が第1賞球排出数記憶手段118に記憶保持され,上記入賞領域を通過した後に入賞球検出手段120によって検出されることで,当該入賞球検出に基づく入賞球検出記憶が入賞球数記憶121に記憶保持されると共に,この入賞球検出記憶に基づいて賞球排出数要求手段122より賞球排出数送信手段119へ賞球排出数要求が為されると,上記第1賞球排出数記憶手段118より賞球排出数送信手段119に供給されていた賞球排出数が,排出制御装置58内の第2賞球排出数記憶手段123へ送信されるのである。なお,賞球排出数送信手段119は賞球排出数の送信動作が完了する毎に第1賞球排出数記憶手段118へリセット信号を送信するものとし,該リセット信号の入力に伴って第1賞球排出数記憶手段118は当該賞球排出数の記憶を消去すると共に,別の賞球排出数を賞球排出数送信手段119へ出力するのである。
【0056】斯くして,第2賞球排出数記憶手段123は,上記入賞種別検出手段117によって検出された入賞球の種別に応じた賞球排出数を個別に記憶し,該第2賞球排出数記憶手段が記憶する賞球排出数に基づいて,排出動作制御手段124が遊技球排出装置71の動作制御を行い,該遊技球排出装置71より所定数の賞球を排出させるのである。
【0057】このように,全ての入賞領域へ入賞した球を一括して検出する入賞球検出手段120を備えるものとし,該入賞球検出手段120が検出した入賞球と上記入賞種別検出手段117が検出した入賞球種別とを照合して決定された賞球排出数を第2賞球排出数記憶手段123が記憶保持するようにすれば,遊技者の不正行為に起因して入賞種別検出手段117のみが動作したような場合を検出することが可能となり,不正検出に基づく遊技停止等を実行できる。なお,入賞種別検出手段117によって検出されない入賞球(例えば,第1〜第4一般入賞口への入賞球)に対しては,賞球排出数送信手段119が予め定められた賞球数を第2賞球排出数記憶手段123へ送信するように構成してもよい。」 第1引用例における以上の記載によれば,引用例請求項2発明は,遊技者の不正行為に起因して入賞種別検出手段117のみが動作したような場合を検出するため,全ての入賞領域へ入賞した球を一括して検出する入賞球検出手段120を備え,この入賞球検出手段120が検出した入賞球と入賞種別検出手段117が検出した入賞球種別とを照合して決定された賞球排出数を第2賞球排出数記憶手段123が記憶保持するようにしたものであり,引用例請求項1発明に,入賞球検出手段120(実施例におけるセーフセンサ63),入賞球数記憶手段121,賞球排出数要求手段122を付加したものであると認められる。
ウ そこで,検討するに,引用発明の認定は,本件発明1の進歩性を判断する上で必要かつ十分な範囲で行えば足りるものであるところ,本件発明1は,1度入賞球を検出した後に再度入賞球を一括して検出し,その各検出結果を照合するという構成を有するものではないのであるから,前記認定した引用例請求項1発明及び引用例請求項2発明の内容に照らせば,本件発明1と対比検討すべき引用発明は,引用例請求項1発明の構成に基づいて認定すれば足りるというべきであり,引用例請求項2発明で付加された構成をも含めてこれを認定しなければならない理由がないことは明らかである。したがって,前記認定のとおり,セーフセンサ63,入賞球検出手段120,入賞球数記憶手段121,賞球排出数要求手段122は,専ら引用例請求項2発明を構成する要素であるから,本件において,これらを引用発明の構成として認定する必要はないというべきである。
決定の認定した引用発明の内容によれば,決定は,引用例請求項1発明の構成を引用発明として認定したものと解されるところ,その一方で,決定は,引用発明が「調流樋64を通過する間にセーフセンサ63により入賞球を検出した後は対応する賞球の払い出しの終了を待たず,前記検出後の入賞球を遊技機外へ排出し,」との構成を備えているとして,引用例請求項2発明の構成のみに係るセーフセンサ63を引用発明の一部として付加して認定している。この点について,被告は,本件発明1の「検出後の入賞球を再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出する」との構成に合わせて認定したものであると主張しているが,決定が,引用例請求項1発明の構成を引用発明として認定しながら,引用例請求項2発明の一体となる構成要素のうちの一部のみを取り出し,これを付加して引用発明を認定することは相当でないといわざるを得ない。したがって,決定がセーフセンサ63により入賞球を検出する構成を引用発明の一部として認定し,さらに,これを前提に本件発明1との相違点Cを認定したことは,適切さを欠くものというべきであるが,上記構成に関する認定は引用発明の一部として付加的にされたものに過ぎず,この認定部分があるからといって,決定が引用例請求項2発明の構成を引用発明として認定したといえないことは明らかであり,また,決定は相違点Cの構成は容易に想到できるとして進歩性を否定しているのであるから,決定の上記不適切な点は結論に影響を与えるものでないというべきである。
以上からすれば,本件において引用例請求項2発明の構成も含むものとして引用発明を認定すべきであるとの原告の主張は,採用することができない。
エ そこで,原告が引用発明の認定の誤りとして主張する下線部・ないし・について検討する。
@ 下線部・について 原告は,第1引用例の段落【0051】〜【0059】及び【図7】に一つのまとまりのある発明として記載していることを理由に,下線部・を付加して認定すべきであると主張する。しかしながら,下線部・は,専ら引用例請求項2発明のみに係る,セーフセンサ63による再度の検出の後の,その検出結果の処理に関する構成についてのものであり,原告の上記主張は,引用例請求項2発明の構成が引用発明に含まれることを前提とするものであって,その前提を欠き,失当である。原告主張の点に係る決定の認定に誤りはない。
A 下線部・について 原告は,第1引用例の段落【0058】〜【0059】及び【図7】の記載を理由に,下線部・のとおり認定すべきであると主張する。しかしながら,下線部・は,セーフセンサ63による再度の検出の後の,その検出結果の記憶に関する構成についてのものであり,原告の上記主張も,引用例請求項2発明の構成が引用発明に含まれることを前提とするものであって,その前提を欠き,失当である。原告主張の点に係る決定の認定に誤りはない。
B 下線部・について 原告は,第1引用例の段落【0054】〜【0059】,【0063】の記載を理由に,下線部・を付加して認定すべきであると主張する。しかしながら,下線部・は,最初の検出結果と再度の検出結果とを照合することに関するものであり,原告の上記主張も,引用例請求項2発明の構成が引用発明に含まれることを前提とするものであって,その前提を欠き,失当である。原告主張の点に係る決定の認定に誤りはない。
C 下線部・,・Eについて 原告は,入賞球案内樋による集合には「貯留」の意味があるとの理解を前提に,下線部・,・のとおり認定すべきであると主張する。しかしながら,前記のとおり,引用発明である引用例請求項1発明は,入賞球を貯留させることなく排出するという構成のものであるから,原告の上記主張は,その前提において失当であり,採用することができず,原告主張の点に係る決定の認定に誤りはない。
オ 以上のとおり,原告が引用発明の認定の誤りとして主張する点はいずれも理由がない。
(2) 一致点の認定について ア 原告主張の「一致点の認定の誤り」アについて 原告の主張は,引用発明がセーフセンサ63からの検出記憶(入賞球数記憶)に基づいて記憶入賞個数又は賞球数に従って賞球を払い出すとの構成を備えていることを前提とするものであるところ,そのような前提を採用できないことは,前記のとおりであるから,原告の主張は失当である。
イ 原告主張の「一致点の認定の誤り」イについて 原告の主張は,引用発明がセーフセンサ63による再度の検出を行う構成を備えていることを前提とするものであるところ,そのような前提を採用できないことは,前記のとおりであるから,原告の主張は失当である。
ウ 原告主張の「一致点の認定の誤り」ウについて 原告の主張は,引用発明が入賞球を貯留する構成を備えていることを前提とするものであるところ,そのような前提を採用できないことは,前記のとおりであるから,原告の主張は失当である。
エ 原告主張の「一致点の認定の誤り」エについて 原告は,引用発明と本件発明1とでは,枠制御基盤がリセットをかけられることだけが共通しているに過ぎないから,決定が「前記枠制御基盤がリセットをかけられたとき,初期化処理を実行し,前記リセットが遊技中にかけられたと判断した場合には,停電復帰処理が実行される,」点を一致点と認定したことは誤りである旨主張する。
@ 第1引用例には,「排出制御装置58の起動に際して,先ず,当該遊技機1に対する電源投入によるものか,停電復帰によるものか・・・を判定し,電源投入であれば各種のフラグやタイマを初期化する。一方,停電復帰であれば,停電時の出力状態へ戻す・・・停電復帰処理を行って,停電によって中断された際の各処理へ戻る。」(段落【0088】)との記載がある(甲4号証)。上記記載によれば,引用発明において,リセットがかけられたときに初期化処理が行われ,停電復帰によるリセットであると判定された場合には,停電復帰処理が行われることが明らかである。そして,停電復帰によるリセットは,電源投入後に初期化が行われた後の遊技可能な状態で行われるのであるから,決定が,リセットが生じたときの状況に着目し,停電復帰によるリセットを「遊技中」のリセットと認定しても,誤りとはいえない。
A 本件明細書には,「パワーオンリセット信号が有り,かつタッチスイッチ55がオンとの肯定判断が共にされたときは突発的な瞬停時であり・・・,リセット釦96が押下されるまで発射装置制御基盤65を制御して遊技球の発射を停止し異常ランプを点灯させる等の異常処理が実行される・・・。リセット釦96が押下されれば・・・,メモリの値はクリアされ・・・。一方,・・・電源投入時と判断されメモリの値はクリアされ」(段落【0020】),「一般的なマイコン回路では電源投入時及び瞬停時にもリセット信号が出力されるが,・・・本具体例では,・・・電源投入時と瞬停時とを区別する構成としそれぞれの場合で実行される処理を異なるものとしている」(段落【0021】),「賞球払出し処理に関し瞬停時には入賞記憶M1〜M3に基づき賞球処理は実行されないが,バッテリバックアップされた入賞記憶M1〜M3に基づき未だ払い出されていない賞球個数Hが表示されたまま残る。これにより,未だ払い出されていない賞球をパチンコホールの店員により遊技者に損失補填され得るという効果を奏する。」(段落【0022】)との記載がある(甲3号証)。上記記載によれば,本件発明1では,電源投入時のリセットの際に初期化処理が行われるとともに,リセットが「遊技中」にかけられたかどうかが判定されることは明らかである。また,本件明細書には停電復帰処理が行われるとの明示の記載はないが,本件発明1においては,リセット発生の原因について特段の限定はなく,遊技中にリセットがかけられる原因には,当然,その想定される典型的な場合である停電時が含まれることは明らかであるし,瞬停等によりリセットが「遊技中」にかけられた場合に,自動的に賞球の払出しをせず,店員等を介して不正の有無を確認してから払出し未了の賞球を払い出すことは,「停電復帰処理」ということができる。
B 上記@,Aによれば,引用発明と本件発明1は,いずれも,枠制御基盤がリセットをかけられたとき,初期化処理を実行し,リセットが遊技中にかけられたと判断した場合には停電復帰処理を実行するものであり,決定の上記一致点に関する認定に誤りはなく,原告の主張は失当である。
(3) 相違点の看過について ア 相違点C-1ないしC-4について 原告が主張する相違点C-1〜C-3は,引用発明がセーフセンサ63,入賞球数記憶手段121,賞球排出数要求手段122を備えていることを,また,相違点C-4は,引用発明が入賞球を貯留する構成を備えていることを,それぞれ前提とするものであり,その前提を欠くことは前記のとおりであるから,それらの相違点の看過をいう原告の主張は失当である。
イ 相違点D-1及びE-1について 原告が主張する相違点D-1及びE-1は,決定の認定した相違点D及びEに付加訂正を加えるものであるが,その主張するところと相違点D及びEの記載とを対比検討しても,本件発明1の容易想到性を判断する前提として把握すべき相違点の内容として,実質的に新たな事項を見出すことはできず,決定のした相違点D及びEの認定に誤りがあるとは認められないのであって,原告主張のように付加訂正しなければ,相違点を看過することになるということはできない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 相違点Cについて 前記のとおり,引用発明である引用例請求項1発明は,入賞球を一括して検出するセーフセンサ63を必須の構成とするものではなく,入賞球は再度の検出のために貯留されることなく遊技機外へ排出されるものであるから,引用発明と本件発明1は,「遊技球検出手段にて検出後の入賞球を,再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出する構成である」点で一致し,相違点Cが存在するとは認められない(決定が,相違点Cを認定したことは適切でないが,このことが結論に影響を与えるものでないことは,前記のとおりである。)。
この点について,原告は,引用例請求項1発明は,セーフ球タンク及びセーフセンサなどを備えた従来の遊技機のハード構成を変更しない,互換性を基本とするソフトウエア関連発明である旨主張する。確かに,第1引用例には,「遊技球を一旦貯留する方式の従来の遊技機においても,遊技機のハード構成を変更することなく,賞球数記憶に基づいた賞球排出処理を実現できるので,従来の遊技機とも互換性を保持できる。」(甲4号証段落【0123】)との記載があるが,上記記載は,入賞球の貯留を行わない構成にしたとしても,従来の遊技機のハード構成を変更する必要がないという副次的な効果があることを説明したに過ぎないというべきであり,引用例請求項1発明が,従来の遊技機における遊技球を一旦貯留するという方式を前提として,そのような構成を有することを意味するものと解することはできない。
そうすると,相違点Cが存在することを前提として,これについての決定の判断の誤りをいう原告の主張は,失当というべきであるが,念のため,相違点Cに係る本件発明1の構成の容易想到性について付言するに,第3引用例(甲7号証)の段落【0026】,第4引用例(甲8号証)の段落【0036】に,第6引用例(甲9号証)の段落【0053】には,入賞個数の記憶値が停電等で消去されないようにバックアップ電源を利用することにより,遊技球検出手段による検出後の入賞球を再度検出するための貯留を行うことなく,対応する賞球の払出しの終了を待たず遊技機外へ排出するようにした弾球遊技機発明が開示されているのであって,本件発明1のように,「遊技球検出手段にて検出後の入賞球を,再度検出するための貯留をすることなく遊技機外へ排出する構成」とすることは,周知技術であり,当業者が容易に想到できるものということができる。この点について,原告は,上記各引用例は,いずれも証拠玉方式のハード構成を前提としているものであり,入賞球を再度検出するための貯留をすることなく,対応する賞球の払出しの終了を待たず遊技機外へ排出するようにした非証拠玉方式の弾球遊技機ではないと主張するが,例えば,第3引用例の段落【0026】及び第4引用例の段落【0036】には,「証拠玉を貯留する代わりにマイクロコンピュータ等で入賞個数等を記憶しておき,その記憶値に基づいて払出制御を行なうようにしてもよい。」と記載されているのであって,原告の主張は理由がない。
(2) 相違点Dについて 原告は,電源投入によるリセットのときに,弾球遊技機の遊技制御装置を構成するRAMのメモリをチェックし,該メモリが異常であると判断すればRAM領域を初期化することは,周知技術(甲10〜12文献)であることを認めつつ,上記各文献には,枠制御基盤を構成するRAMのデータである記憶入賞個数又は賞球数の値の異常をチェックする記載がないから,相違点Dに係る本件発明1の構成は容易想到でないと主張する。
しかしながら,甲10〜12文献に開示されている上記周知技術は,弾球遊技機の制御基板を構成するRAMの異常をチェックする技術として制御基板の種別によることなく採用し得る汎用技術であり,制御基盤にリセットがかけられたときにRAMのデータをチェックして異常があれば零クリアするという一般的な技術に基づき,制御基盤の一種である枠制御基盤のRAMに含まれるデータである記憶入賞個数又は賞球数の値をチェックすることは,当業者が,不正行為等に対処する課題解決手段として通常容易に想到し得ることというべきである。
したがって,相違点Dに係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到できるものであるとした決定の判断に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。
(3) 相違点Eについて ア 一般にマイコン回路の動作中に停電が発生し,その後に電源が復帰した場合に,当該マイコン回路にリセットをかけるとともに停電という異常が発生した旨を表示する処理を実行することは,特定の技術分野に限定されない周知技術であり,弾球遊技機の技術分野においても,遊技中に停電が発生し,その後に電源が復帰した場合に,弾球遊技機に関連するマイコン回路にリセットをかけるとともに停電という異常が発生した旨を表示する処理を実行することは,適宜実施されている周知技術であることは,原告も認めるところである。
そうすると,本件発明1のように,枠制御基盤に対するリセットが遊技中にかけられたと判断した場合の停電復帰処理として,異常である旨を表示する処理を実行することは,弾球遊技機の分野においても周知技術であったと認められ,引用発明に上記周知技術を組み合わせる動機付けが存在することも明らかである。
イ 原告は,本件発明1は,停電をもって異常表示する趣旨ではなく,遊技中にリセットをかけられたことにより異常表示をするものであり,このことは周知技術ではない旨主張する。
しかしながら,本件発明1において,遊技中にリセットがかけられる原因には,当然,その想定される典型的な場合である停電時が含まれることは,前記のとおりであるから,原告の上記主張は失当である。
ウ また,原告は,甲16号証に,バックアップ機能に対する不正行為を防止することが困難であることが記載されており,バックアップ機能を搭載した引用発明では不正行為を放任してしまうと主張しているが,これは,甲16号証の記載事項を引用発明に適用することに阻害事由があることを主張する趣旨と解される。
しかしながら,決定は,甲16号証を「遊技中に停電が発生し,その後に電源が復帰した場合に,弾球遊技機に関連するマイコン回路にリセットをかけるとともに停電という異常が発生した旨を表示する処理を実行すること」という周知技術を開示している一例として引用しているものであり,甲16号証に原告主張のような記載があるからといって,異常発生の表示という上記周知技術を引用発明に適用することに格別の困難性があるとは認められず,原告の上記主張は失当である。
エ さらに,原告は,本件発明1のように,遊技中のリセットがかけられたことをもって,記憶保持された記憶入賞個数又は賞球数の異常判断の有無(零クリアの有無)にかかわらずに,異常表示をすることにより,店員に注意を喚起し不正書換等を判断する余地を残すことは,当業者が適宜になし得る設計的事項とはいえないと主張する。
しかしながら,弾球遊技機の遊技中に停電が発生し,マイコン回路にリセットをかける場合において,記憶保持された記憶入賞個数又は賞球数が異常な場合にのみ異常表示をするかどうかは,設計事項というほかなく,異常の有無に関係なく異常表示をすることにより店員が不正の有無の判断を行うようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであるというべきである。
オ 以上のとおり,相違点Eに係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到できるものであるとした決定の判断に誤りはなく,その誤りをいう原告の主張は採用することができない。
(4) 原告は,本件発明1には予測困難な作用効果があるから,進歩性が肯定されるべきであると主張する。
しかしながら,原告の主張する作用効果は,いずれも,引用発明と周知技術に基づいて容易に想到することができる本件発明1の構成から,当然に生じ,あるいは生じると予測されるものであって,予期し得ないほどの顕著な効果であるとは認められず,本件発明1の進歩性を基礎付けるものとはいえない。
3 取消事由3(本件発明2についての認定判断の誤り) 取消事由3は,取消事由1及び2と同一の理由に基づいて,本件発明2についての決定の認定判断の誤りをいうものであり,取消事由1及び2が理由のないことは前記のとおりであるから,取消事由3もまた理由がない。
4 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りはない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 若林辰繁
裁判官 沖中康人