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事件 平成 8年 (ワ) 2766号 特許権侵害差止等請求事件
原告 マイコム株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 彦惣弘右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
被告 日本電産シンポ株式会社右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 国谷史朗
同 若杉洋一
同 畑郁夫右補佐人弁理士 【E】
裁判所 京都地方裁判所
判決言渡日 2000/07/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙目録(一)のカタログ2記載のステッピングモータ駆動装置のうち、STP五Sを業として製造、販売してはならない。
二 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項のステッピングモータ駆動装置及びこれを組成する物品を廃棄せよ。
三 被告は原告に対し、三〇八六万四七七四円及びこれに対する平成八年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告の主位的請求及びその余の予備的請求、主文第二項の行為に供した設備の除去請求並びに金員支払請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
六 第一、三項は仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一(主位的) 1 被告は、別紙目録(一)のカタログ1及び2記載のステッピングモータ駆動装置のうち、STP五S、ST二〇を除く装置を、業として製造、販売してはならない。
2 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項のステッピングモータ駆動装置及びこれを組成する物品を廃棄し、右行為に供した設備を除去せよ。
3 被告は原告に対し、四億七五五一万円及びこれに対する平成八年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(予備的) 被告は原告に対し、九八六四万円及びこれに対する平成八年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 主文第一項同旨 三 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項のステッピングモータ駆動装置及びこれを組成する物品を廃棄し、右行為に供した設備を除去せよ。
四 被告は、原告に対し、一億四三四六万円及びうち六七九二万円に対する平成八年一一月二〇日から、うち七五五四万円に対する平成一〇年九月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
一 前提事実(いずれも争いがない) 1 原告の権利 (一) 原告の有する特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。) 発明の名称 五相ステッピングモータの駆動方法 出願日 昭和五九年四月二一日(特願昭五九ー八〇六〇〇号) 出願公開日 昭和六〇年一一月一二日(特開昭六〇ー二二六七九七号) 出願公告日 平成六年二月二日(特公平六ー九四四〇号) 登録日 平成八年二月二六日 登録番号 第二〇二一六一五号 特許請求の範囲 「五相ステッピングモータの順次配列されたA相、B相、C相、D相、E相の内、A相、C相、E相のグループとB相、D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し、前記A相〜E相の他端を、前記A相〜E相が常に直列に接続された第一の相グループと第二の相グループとを形成するように接続し、
前記第一の相グループと前記第二の相グループより成る直列回路に通電するとともに、ステップ毎に、第一の相グループは所定のスケジュールに従って選択された二又は三個の相を並列励磁し、第二の相グループは第一の相グループ以外の相から所定のスケジュールに従って選択した二又は三個の相を並列励磁することによって、
前記A〜E相の内四又は五個の相を励磁し、合成トルクの方向を順次可変することにより五相ステッピングモータを駆動することを特徴とする五相ステッピングモータの駆動方法」(別添明細書〔以下「本件明細書」という。〕1欄2行〜2欄2行) (二) 本件特許発明構成要件 本件特許発明構成要件は次のとおり分説することができる。
A 五相ステッピングモータの順次配列されたA相、B相、C相、D相、
E相の内、A相、C相、E相のグループとB相、D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し B 前記A相〜E相の他端を、前記A相〜E相が常に直列に接続された第一の相グループと第二の相グループとを形成するように接続し、前記第一の相グループと前記第二の相グループより成る直列回路に通電するとともに C ステップ毎に、第一の相グループは所定のスケジュールに従って選択された二又は三個の相を並列励磁し、第二の相グループは第一の相グループ以外の相から所定のスケジュールに従って選択した二又は三個の相を並列励磁することによって D 前記A〜E相の内四又は五個の相を励磁し、合成トルクの方向を順次可変することにより五相ステッピングモータを駆動することを特徴とする五相ステッピングモータの駆動方法 (三) 本件特許発明の作用効果 本件特許発明は、右構成を採ることにより、以下の作用効果を奏する。
ア 各相を直・並列になるように励磁制御するから、出力段の駆動トランジスタの数を一〇個にすることができる。したがって、本発明によれば、従来装置の半分のトランジスタによって、五相ステッピングモータを四ー五相励磁することができる(本件明細書6欄9行〜13行)。
イ 直列励磁を併用するものであるから、電源電流をモータ定格電流の二〜二・五倍にすることができる。したがって、この発明によれば、従来方法によるよりも小さい電流容量の電源を使用することができる(同欄14行〜17行)。
2 被告の行為 被告は、別紙目録(一)、(三)記載のステッピングモータ駆動装置(以下品番ごとに「ST一二」などといい、併せて「被告製品」という。)を製造販売している。なお、被告は大三工業株式会社(以下「大三工業」という。)を平成八年八月一〇日吸収合併したものであるが、同日以前は大三工業が被告製品を製造販売していた。以下、特段の記載がない限り、被告の行為には、大三工業の行為を含むものとする。
被告製品は、ステッピングモータ駆動装置であり、スター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることができ、この場合、本件特許発明構成要件A〜Dを充足するものである(ST二五につき別紙目録(四)、
(五)、その余の被告製品につき同目録(二)記載のとおり。)。
3 本件特許発明とほぼ同時期に実用化された五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させる他の技術 (一) 株式会社メレック(以下「メレック」という。)出願にかかるペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させる発明(以下「メレック発明」という。) 出願日 昭和六〇年二月六日(特願昭六〇ー二二六七四号) 出願公開日 昭和六一年八月一八日(特開昭六一ー一八五〇五六号) 出願公告日 平成六年一二月二一日(特公平六ー一〇六〇三九号。甲一七) 特許請求の範囲 「二個一組の出力段トランジスタを直列接続すると共に五組の出力段トランジスタを並列接続して駆動回路を形成し、ペンタゴン結線せる五相パルスモータの励磁相となる巻き線の結線部と各組の出力段トランジスタの接続部とを接続し、
四相励磁の場合には、相隣合う二つのペンタゴン結線部を同電位にして当該結線部間の励磁相を励磁せずにおくと共に他の結線部間の四つの励磁相では異電位として当該四つの励磁相を励磁し、五相励磁の場合には、いずれか一つの結線部に接続せる組みの両出力段トランジスタをオフにして当該結線部をハイインピーダンスにすると共にハイインピーダンスとなっている結線部の両側の結線部間を異電位にして当該二つの励磁相を励磁すると共に他の三つの結線部間でも異電位として残る三つの励磁相を励磁して五つの励磁相全てを励磁し、前記四相励磁と五相励磁とを交互に繰り返すと共に四相励磁時に同電位となる結線部の位置を順次移動させ、五相励磁時にハイインピーダンスとなる結線部の位置も順次移動させる事によって四ー五相励磁によるハーフステップ駆動を行わせる事を特徴とする五相パルスモータのペンタゴン結線の四ー五相駆動方式」 (二) オリエンタルモーター株式会社(以下「オリエンタルモーター」という。)出願にかかる新ペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させる発明(以下「オリエンタル発明」という。) 出願日 昭和五九年一二月二二日(特願昭五九ー二七一三一七号) 出願公開日 昭和六一年七月九日(特開昭六一ー一五〇六五五号) 出願公告日 平成三年六月五日(特公平三ー三七四〇〇号甲一八) 特許請求の範囲 「奇数相数からなる多相ステッピングモータの各相巻線を、その始端及び終端を順次に接続して環状に形成し、これら相数個の接続点に各別にスイッチング手段を接続し、かつ、該スイッチング手段により前記各接続点を駆動電源の正極又は負極に接続するか、或いはそのいずれの極にも接続しないように構成されるステッピングモータの駆動回路に於いて、駆動時に前記駆動電源の正極と負極に接続される接続点の合計数が入力パルスを受ける毎に二又は三を交互に繰り返すように制御すべく構成したことを特徴とする多相ステッピングモータの駆動回路。」 4 警告書の到達 原告は、大三工業に対し、被告製品が本件特許権を侵害する旨の警告書(甲七の2 以下「本件警告書」という。)を発し、これは、昭和六一年一月二八日ころ到達した。同じころ、本件特許発明の公開公報も送付されている。
二 原告の請求 1 STP五S、ST二五を除く被告製品の間接侵害に関する主位的請求 原告は、STP五P、ST一二、一四ないし一七、一九は、現在はメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるためにも用いることが可能であるが、これは、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることと均等であるから、被告がこれら被告製品を製造、販売した行為は間接侵害に当たるとし(均等論を前提とした間接侵害論)、本件特許権に基づき、STP五S、ST二五を除く被告製品の製造販売の停止とこれら被告製品及びその組成部品の廃棄、製造設備の除去、STP五S、ST二五を除く被告製品について本件警告書到達の日の後である昭和六一年一月三〇日から出願公告日である平成六年二月二日までの補償金、
同日以降の損害賠償金の内金として四億七五五一万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年一一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 STP五S、ST二五を除く被告製品の間接侵害に関する予備的請求 原告は、予備的に、昭和六一年一月三〇日からST一二、一五、一九については平成三年三月二六日まで、ST一六、一七については昭和六二年二月一六日まで、ST一四については昭和六三年二月一八日まで(いずれも右各被告製品がメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動することが可能になったと原告が認める日)の補償金の内金として九八六四万円及びこれに対する平成八年一一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 STP五Sに関する請求 原告は、STP五Sは、現在においても、スター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させる本件特許発明実施にのみ使用するものであるとして(間接侵害)、STP五Sの製造販売の停止、STP五S及びその組成部品の廃棄、製造設備の除去、昭和六一年一月三〇日から平成六年二月二日までの補償金、同日以降の損害賠償金として六七九二万円及びこれに対する平成八年一一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 共同不法行為に基づく請求 原告は、また、シャープ株式会社(以下「シャープ」という。)及び松下電器産業株式会社(以下「松下電器」という。)は、ST一二、二五を購入した上、スター結線して用いており、これは本件特許権の直接侵害に当たるところ、右各製品をシャープ及び松下電器に売却した被告には共同不法行為責任が成立するとして、右不法行為責任に基づき、損害賠償金の内金として七五五四万円及びこれに対するST二五売却の後である平成一〇年九月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求四は、3の金員支払請求と4を合算したものである。)。 三 争 点 1 ST一二、一四ないし一七、一九、STP五Pをメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるために用いることは、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることと均等であるか。
2 ST一二、一五、一九については平成三年三月二六日まで、ST一六、一七については昭和六二年二月一六日まで、ST一四については昭和六三年二月一八日まで、STP五Sについては現在においても、本件特許発明実施にのみ使用する物であるか。
3 シャープ及び松下電器はST一二、二五をスター結線して用いているか。
用いているとして被告に共同不法行為が成立するか。
4 被告が損害賠償義務ないし補償金支払義務を負う場合の額。
争点に関する当事者の主張
一 争点1(ST一二、一四ないし一七、一九、STP五Pをメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるために用いることは、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることと均等であるか。)について 【原告の主張】 1 最判平成一〇年二月二四日第三小法廷判決・民集五二巻一号一一三頁によれば、「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、@右部分が特許発明の本質的部分ではなく、A右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、B右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、C対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」と判示している(以下、右各要件を「均等要件@ないしD」という。)。
2 以下のとおり、ST一二、一四ないし一七、一九、STP五Pについて、
メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動することは、本件特許発明の構成に関して右各均等要件を充足し、本件特許発明技術的範囲に属するものであるから、右各被告製品は、本件特許発明実施にのみ使用されるものである。
(一) 均等要件@について。
(1) 本件特許発明の出願時における五相ステッピングモータの従来技術としては、スタンダードドライブ、ユニポーラスタードライブがあった。
スタンダードドライブでは、四ー五相励磁を行うことができ、ハーフステップ駆動が可能である反面、トランジスタの数が二〇個必要となるという欠点があった。また、ユニポーラスタードライブでは、トランジスタの数が五個でよい反面、四ー五相励磁ができず、ハーフステップ駆動が不可能であるとともに、トルクもスタンダードドライブに比べ約六〇パーセントしか得られないという欠点があった。
(2) 本件特許発明の本質的部分は、五相ステッピングモータをA相、C相、E相のグループとB相、D相のグループとが互いに逆相となるように接続することによって従来の半分のトランジスタで四ー五相励磁(ハーフステップ駆動)を行うことができるようになったという点にある。これに対し、スター結線は、ユニポーラスタードライブで採用されており、スター結線かペンタゴン結線かは本件特許発明の本質的部分に当たらない。
(二) 均等要件Aについて ペンタゴン結線を用いた駆動方法の場合、本来的にはスター結線の半分のトルクしか発生しないが、従来の半分のトランジスタで四ー五相励磁を行い、回転磁界が得られるという特許発明の目的、作用効果は同一であるといえる。
(三) 均等要件Bについて 本件特許発明の本質的部分が各グループの相を逆相にしたことにあるところ、従来からスター結線やペンタゴン結線が五相ステッピングモータの駆動方法として用いられていたのであるから、本件特許発明はスター結線についてのものであるが、ペンタゴン結線についても同様に逆相にすることによって同様の作用効果が得られることは当業者において容易に想到することができたといえる。
メレック発明について特許出願がされたのは、昭和六〇年二月六日であり、本件特許発明出願公開(昭和六〇年一一月一二日)より前である。すなわちメレック発明に関して新規性進歩性の有無が判断されるにあたって、本件特許発明の技術内容は従来技術の基礎にならなかった。このような場合には、メレック発明に特許権が付与されたからといって、直ちにメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動することが本件特許権侵害に該当しないということはできないから、右発明の存在は、均等要件Bの充足判断に影響しない。
(四) 均等要件Cについて 本件特許発明の本質的部分は前記のとおりであり、B相とD相を他の相と逆相に接続してステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させる方法は従来存在していなかったのである。そして、本件特許発明において、原告の出願が特許となり、被告から請求された特許無効審判も却下審決されているという事実に照らしても、均等要件Cが充足されることは明らかである。
(五) 均等要件Dについて 原告は、特許出願手続において、各相のグループを逆相にする接続方法の一つとしてスター結線の方法を用いたものであり、特段ペンタゴン結線を除外する意識はなかった。
なお、被告は、原告の特許異議答弁書(甲九 以下「本件異議答弁書」という。)の記載を問題とするが、原告は本件特許発明技術的特徴を理解してもらうためにスター結線であるとしたまでであり、出願手続においてペンタゴン結線を除外する旨の明示はない。
【被告の主張】 1 均等要件@について (一) 本件特許発明はB相、D相を逆相に接続したスター結線という結線方法と、四ー五相励磁という励磁方法との組合せからなるステッピングモータの駆動方法であって、スター結線を採用しなければ成り立ち得るものではない。したがって、本件特許発明において、ステッピングモータのコイルをスター結線にすることは本質的部分であり、構成要件Aにも「各相の一端を接続し」として明示されている。それゆえ、ペンタゴン結線を用いて五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるメレック発明に対して、本件特許発明とは別に特許権が成立しているのである。
本件特許発明のようにスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動することとメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動することとは、その構成及び作用において全く異なっているのであるから、両者が本質的部分において異なっていることは明らかである。
(二) 構成要件が公知かどうかということと、その構成要件が当該特許発明において本質的かどうかということとは全く関連性のない別の問題である。したがって、スター結線が従来技術であるスタードライブで採用されているとしても、これが本件特許発明に本質的な部分ではないということにはならない。
(三) 原告は、本件異議答弁書において、「特に五相ステッピングモータのA相〜E相の巻線をスター結線するとともにB相及びD相の巻線を逆相に接続した上で、バイポーラ方式により四ー五相励磁を行うことによりステッピングモータを駆動する構成となっていますので」としており、原告自ら、スター結線が本件特許発明を特徴づける本質的部分であると強調しているところであり、本訴に至ってこれと矛盾する主張をすることは禁反言の原則に反する。
2 均等要件Aについて 原告は、従来の半分のトランジスタでハーフステップ駆動ができることをとらえて、目的、作用、効果が同一であると主張するが、メレック発明でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させる場合、本件特許発明のように三相並列/二相並列の直列の励磁は不可能であるから、作用効果が同一ではない。
3 均等要件Bについて メレック発明に対して、本件特許発明とは別に特許権が成立していることからも置換容易性がないことは明らかである。
4 均等要件Cについて 原告は、本件特許発明に対して特許権が成立していることをもって、均等要件Cが充足される旨主張するが、右要件は被告製品であるST一二、一四ないし一七、一九、STP五Pに対して判断されるべきもので、本件特許発明に対して判断されるべきものではない。
5 均等要件Dについて 原告がペンタゴン結線の方法を本件特許発明技術的範囲から除外せず、
これに含まれるものとして明細書を作成したのであれば、明細書にその旨記載されている筈である。しかし、その記載がないのであるから、原告はペンタゴン結線を除外する意識がなかったということはできない。
二 争点2(ST一二、一五、一九については平成三年三月二六日まで、ST一六、一七については昭和六二年二月一六日まで、ST一四については昭和六三年二月一八日まで、STP五Sについては現在においても、本件特許発明実施にのみ使用するものであるか。)について 【原告の主張】 1 右各終期以前におけるST一二、一四ないし一七、一九とスター結線、ペンタゴン結線について (一) 右各終期以前においても、右各被告製品は、メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることが可能であった。しかし、その際に発生するトルクはモータをスター結線により駆動させた場合に比べて約半分に低下する。すなわち、ペンタゴン結線の場合、モータの各相コイルに流れる電流はスター結線の場合の約半分の値であり、これに応じてモータが発生するトルクも約半分の値となるのである。
もっとも、ペンタゴン結線の場合も、本件特許発明の方法でスター結線した場合と同程度のトルクが得られるように右各被告製品を設計変更することは可能であるが、その場合は、別紙目録(二)の第1図の電界効果トランジスタQ一ないし一〇をより高価で大きな大電流用のものに交換することが必要となる。
(二) 「発明の実施にのみ使用する物」(特許法101条2号)にいう「使用」とは、当該発明の一環としてその実施に最も適わしい本来の用法を指していると解されるから、当該物の「他の用途」の存否を検討するに際しても、単にその物が「他の用途」に使えば使いうるといった程度の実験的又は一時的な使用の可能性があるだけでは足りないことはもちろん、「他の用途」が商業的、経済的にも実用性ある用途として社会通念上通用し承認されうるものであり、かつ原則としてその用途が現に通用し承認されたものとして実用化されている必要があると解すべきである。
そうすると、右各被告製品が、スター結線によってもペンタゴン結線によってもモータを駆動させることができる装置であったといっても、ユーザーが、
トルクが約半分に低下するペンタゴン結線用として被告製品を使用するとは考えられないから、本件特許発明実施にのみ使用するものというべきである。
これを具体的にみるに、右各被告製品のうち、ST一二、一五ないし一七について、PH五六六のモータを駆動するについて、被告が推奨する電流選択スイッチの設定(SW二セット)は1となっており、この相電流は〇・七五アンペアである(甲一二)ところ、メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを駆動させる場合、右各製品の相電流が〇・七五アンペアでは、甲一三の1のパンフレットに記載されているトルク曲線を発生させることはできず、モータを十分駆動させることはできない。また、右各製品によって、PH五六九のモータを駆動するについて、被告が推奨する電流選択スイッチの設定はFであり、この相電流は一・四アンペアであるところ、これでは、ペンタゴン結線の場合、スター結線したモータの〇・七アンペアの電流値によって発生するトルクと同じ数値しか発生しないのであり、ペンタゴン結線によって右モータを駆動させるためには、
二・八アンペアの電流を流す必要が出てくるが、これは駆動電流の最高値が一・四アンペアである右各製品では不可能である。
(三) 本件特許発明の出願以後、五相ステッピングモータの駆動方法や駆動回路に関する特許として、メレック発明や、オリエンタル発明等が出願公告されている。そして、ST一二、一四ないし一七、一九は、駆動装置であり、その駆動方法は、本件特許発明の構成要素であると同時に、メレック発明やオリエンタル発明の構成要素でもある。すなわち、被告製品は、原告やメレック、オリエンタルモーターとの間で実施権を有しない限り、右三社の発明にかかる結線方法を使用する駆動装置として販売する限りにおいて、常に右三社いずれかの「発明の実施にのみ使用するもの」にあたり、右各発明を間接侵害するものである。
そうすると、被告会社は、そもそも、製造販売業者としての利益を享受する立場にないというべきである。それにもかかわらず、被告製品が、右三社のモーターの駆動装置として使用されていることを根拠として、「他の用途が存在する」物と認めることは間接侵害を認める特許法101条2項の趣旨を没却するものである。
したがって、本件のような場合にまで、同条を限定的に解釈する必要はなく、「他の用途」が他の特許権を侵害する場合は、「他の用途」に当たらないと解するのが同条の趣旨に合致する。
2 ST一二、一四ないし一七、一九をペンタゴン結線に用いることが可能になった時期について 山洋電気株式会社(以下「山洋電気」という。)の開発にかかるモータは、ペンタゴン結線でありながら、巻線を細くすることによって巻数を増やして磁力を強めることによりスター結線と同じだけのトルクを発生させることを可能とした。そうであれば、右モータが実用化された時期から、被告製品は、「他の用途」を有すると認めざるを得ない。その時期はST一二、一五、一九については平成三年三月二六日が(乙二、四)、ST一六、一七については、昭和六二年二月一六日が(乙六ないし一三)それぞれ基準となる。
3 STP五Sについて STP五Sによるスター結線したモータを四ー五相励磁して駆動させる方法は、本件特許発明構成要件AないしDを充足している。したがって、右製品は、まさに本件特許発明実施にのみ使用されるものである。
4 その他 大三工業も被告も、ST一二、一四ないし一七、一九が本件特許権を侵害することを承知して、許諾を求めていた(甲三、四、二五)。
大三工業のST一二の取扱説明書(昭和六一年一月二三日ころ作成、以後改版)、ST一五の取扱説明書(昭和六一年九月二七日ころ作成、以後改版)には、いずれもスター結線の接続方法しか示されておらず、ペンタゴン結線の接続方法は示されていない。
【被告の主張】 1 被告製品の間接侵害該当性について (一) 被告製品は、メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることにも使用できる汎用性を有する物である。右駆動方法は、四相五相切替時のトルクリップル(トルクのむら)が、スター結線を用いた場合より小さい点が優れており、ユーザーにとって商業的、経済的、実用的にメリットがある。したがって、被告製品は本件特許の「発明の実施にのみ使用する物」ではない。なお、本件特許発明は五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動する方法の特許であるが(甲六)、被告製品は、五相ステッピッグモータを四ー五相励磁して駆動する方法のみならず、四相励磁して駆動する方法の実施にも用いることができる(四相励磁して駆動する方法には、四ー五相励磁より速く回転するというメリットがある。四ー五相励磁と四相励磁との切替は、ジャンパーピンの差替又はトグルスイッチの切替で極めて容易にすることができる。)。
(二) 原告は、ST一二、一四ないし一七、一九は、原告主張の各終期以前において、ペンタゴン結線を用いたモータを接続して駆動させることができるものの、スター結線の場合の約半分のトルクしかないから、右各被告製品をペンタゴン結線のモータを駆動するために用いることに経済的合理性がない旨主張する。しかし、右各被告製品は、消費電力を同一にした条件では、ペンタゴン結線の場合もスター結線の場合と同一のトルクが得られるのである(乙一)。経済的観点からすれば、電気代と比例する電力を比較すべきであり、原告の主張は、いずれも電流のみに着目したもので失当である。
なお、原告は、右各被告製品の適応ステッピングモータの一部(PH五六六、PH五六九)について、メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを駆動させる場合、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを駆動させる場合よりトルクが落ちる旨主張するが、他の大部分のモータでペンタゴン結線したモータを駆動することができる以上、間接侵害が成立する余地はない。
(三) 原告は、右各被告製品は、原告、メレック及びオリエンタルモーター三社の発明にかかる結線方法を使用する駆動装置として販売する限りにおいて常に右三社いずれかの発明の間接侵害に当たるとし、このような場合には特許法101条2号を限定的に解する必要はない旨主張する。
右主張が論理上成り立つのかどうか疑問である。しかし、それを措くとしても、間接侵害は本来例外的に認めるべき筋合いのものである。殊に、間接侵害といえども刑事責任を問われることも考え合わせれば(特許法196条)、間接侵害の成立要件の解釈に際しては、競合の自由を不当に制限しないように、厳格に限定して解釈されるべきであり、原告の主張は不当である。
2 被告製品のペンタゴン結線駆動の実用化時期について オリエンタルモーター製モータのような外部に一〇本のリード線を有するステッピングモータは、モータ内部で特定の結線がされていないことから、一〇本のリード線の接続の仕方によってスター結線にもペンタゴン結線にもすることができ、汎用性がある点は、原告主張の終期以後に実用化された山洋電気製のモータと同じである。そして、このような外部に一〇本のリード線を有するステッピングモータは、本件警告書が送付された昭和六一年一月二七日以前に、既に産業界で実用化されており、さらに、この種のステッピングモータをペンタゴン結線して駆動する方法(ペンタゴンドライブ)もまた、既に産業界で実用化されていた。例えば、
ペンタゴン結線したステッピングモータを五相励磁して駆動する方法は、米国において既に昭和五三年(一九七八年)に特許されており(四〇九五一六一)、同じく四相励磁して駆動する方法は、昭和五四年に日本において技術専門雑誌に紹介されていた(「自動化技術」昭和五四年八月号六〇頁、乙一六)。すなわち、被告製品を用いて一〇本リード線を有するモータをペンタゴン結線して駆動する方法(四相励磁又は五相励磁)は、山洋電気製のペンタゴン結線専用モータが開発される前から公知となっており、現実に用いられてきたのである。
山洋電気のペンタゴン結線専用モータは昭和六一年一〇月四日にカタログが作成・頒布され、市場において現実に使用されていることから、遅くとも右時期において、ST一二、一四ないし一七、一九が、ペンタゴン結線したステッピングモータを四ー五相励磁で駆動させるのに現実に使用されてきたことは明らかである。また、ペンタゴン結線を用いた五相励磁の駆動方法は、昭和五三年から昭和五四年ころまでには実用化されていた。
3 STP五Sについて STP五Sは、装置の構造内容においてSTP五Pと全く同一であり、電流設定値を変更すれば、STP五Pと同様、ペンタゴン結線のモータ駆動に用いることができる(電流設定値は、ドライバー一本で極めて簡単に変更することができる。)。
別紙目録(一)のカタログ2から明らかなように、STP五SとSTP五Pは、電流設定を変更することで、同一のモータ(例えばPH五三三MHーA等のオリエンタル製モータ)を、スター結線でもペンタゴン結線でも駆動することができるものとして実用化されている。したがって、STP五Sには、ペンダゴン結線のモータの駆動に用いられるという「他の用途」があり、本件特許発明実施にのみ使用される物ではない。
なお、STP五Sが四ー五相励磁のみならず四相励磁にも用いることができること、四相励磁には速く回転するメリットがあること、四ー五相励磁と四相励磁との切替は、ジャンパーピンの差替又はトグルスイッチの切替で極めて容易にすることができることは、他の被告製品について主張したとおりである。
4 その他 原告は、大三工業はST一二、一四ないし一七、一九が本件特許権を侵害することを承知していた旨主張するが、特許権侵害を巡る紛争の初期の段階では、
侵害者とされた側において、紛争を避けるために許諾を求めるなどのことは珍しくないし、訴訟での反論や無効審判を想定しているのであるから(甲二五)、失当である。
三 争点3(シャープ及び松下電器はST一二、二五をスター結線して用いているか。用いているとして被告に共同不法行為が成立するか。)について 【原告の主張】 1 被告は、平成七年四月から平成一〇年八月の間に、シャープに対し、原告に判明しているだけでも、ST二五を一八六八台販売し、うち一二八六台が本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるのに使用されてきた。
被告は、また、松下電器に対し、平成五年四月から平成七年一〇月までの間にST一二の松下電器向仕様、平成七年一一月から平成一〇年八月までの間にST二五の松下向仕様のものをそれぞれ販売している。これらは、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるのに使用されている。その販売台数は少なくとも合計一三二〇台である。
2 被告の右行為は、シャープや松下電器に対して本件特許権を侵害する旨の教唆あるいは、社会通念上、右各社と一体として本件特許権を侵害する行為に該当する。
なお、共同不法行為間接侵害とは要件・効果が異なっており、間接侵害に関する規定は共同不法行為に基づく損害賠償請求権を排除するものではない。
【被告の主張】 1 ST一二、二五は、メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータ(ST二五については、オリエンタル発明の方法で新ペンタゴン結線した五相ステッピングモータも)を四ー五相励磁させて駆動するのに使用することができる。
2 原告の主張は、被告の行為が特許法101条の要件を充たさない場合にまで間接侵害(共同不法行為)に該当するというものであり、特許法101条の解釈を誤ったものとして、主張自体失当である。
四 争点4(被告が損害賠償義務ないし補償金支払義務を負う場合の額。)について 【原告の主張】 1 STP五S、ST二五を除く被告製品の間接侵害に関する主位的請求 大三工業においては、昭和六三年度二九億円、平成元年度二五億円、平成二年度二八億五〇〇〇万円、平成三年度三一億円、平成四年度二〇億円、平成五年度二〇億円、平成六年度一七億五〇〇〇万円、平成七年度一三億円の売上を計上し、平均して年間約二三億円の売上を計上しているが、このうち、被告製品の製造販売による売上は少なくとも三五パーセントに達し、その一〇パーセントが純利益である。
また、補償金請求にかかる実施料率としては、五パーセントが妥当である。
そうすると、昭和六一年一月三〇日から平成六年二月二日までの補償金の額は三億二二四四万一〇九六円となり(2300000000×0.35×0.05×2924/365=322441096)、損害額としては、特許法102条2項により、それ以降訴訟提起まで二億二〇九八万九〇四一円(2300000000×0.35×0.1×1002/365=220989041)が原告の受けた損害と推定される。
以上合計五億四三四三万〇一三七円から、後記STP五Sの補償金、損害賠償金六七九二万円を控除した四億七五五一万〇一三七円の内金四億七五五一万円を請求する。
2 STP五S、ST二五を除く被告製品の間接侵害に関する予備的請求 (一) ST一二、一五、一九について 昭和六一年一月三〇日から平成三年三月二六日までの補償金の額は各二五九二万八一六八円(2300000000×0.35×0.05×1881/365/8=25928168)となる。
(二) ST一六、一七について 昭和六一年一月三〇日から昭和六二年二月一六日までの補償金の額は各五二六万五五八二円(2300000000×0.35×0.05×382/365/8=5265582)となる。
(三) ST一四について 昭和六一年一月三〇日から昭和六三年二月一八日までの補償金の額は一〇三二万四四〇一円(2300000000×0.35×0.05×749/365/8=10324401)となる。
3 STP五Sの補償金請求、損害賠償請求 昭和六一年一月三〇日から平成六年二月二日までの補償金の額は四〇三〇万五一三七円(2300000000×0.35×0.05×2924/365/8=40305137)となり、損害額としては、特許法102条2項により、それ以降訴訟提起まで二七六二万三六三〇円(2300000000×0.35×0.1×1002/365/8=27623630)が原告の受けた損害と推定される。以上合計六七九二万八七六七円の内金六七九二万円を請求する。
4 共同不法行為に基づく損害賠償請求 被告がシャープに売却したST二五は一台約三万円、販売台数は前記のとおり一二八六台であるから、代金合計三八五八万円となり、これが原告の逸失利益である。
被告が松下電器に売却したST一二、二五は一台約二万八〇〇〇円、販売台数は前記のとおり約一三二〇台であるから、代金合計三六九六万円となり、これが原告の逸失利益である。
争点に対する判断
一 争点1(ST一二、一四ないし一七、一九、STP五Pをメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるために用いることは、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることと均等であるか。)について 1 均等要件@について (一) 特許法が保護する発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術にみられない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから、特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうと解すべきである。そして、対象製品との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかは、特許発明先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で、対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか、
それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきである。
(二) 先行技術と対比した本件特許発明の課題解決手段の特徴的原理について (1) 本件明細書等の記載について @ 本件明細書の記載 従来技術につき、「五相ステッピングモータの駆動方法としては、
いわゆるスタンダードドライブ、ペンタゴンドライブ、スタードライブなどが提案実施されている。しかして、ペンタゴンドライブ、スタードライブでは四ー五相励磁によるハーフステップ駆動を行うことが困難であるため、前記ハーフステップ駆動を行うにあたってはスタンダードドライブが主に用いられる。」(2欄8行〜14行)、「この駆動方法(スタンダードドライブのこと。裁判所注記)は各相ごとに四個のトランジスタを使用するから、全部で二〇個ものトランジスタで出力段を構成する必要がある。そのため、出力段での発熱が多くなること、出力段の形状が大きくなること、出力段を制御する制御回路は複雑となるほど(「など」の誤記と認める。)の欠点がある。また、各相はそれぞれ並列励磁される構造であるから、
電源7は四ー五相励磁に応じてモータの定格電流(各相に流し得る電流)の四〜五倍の電流を供給する必要がある。そのため、従来の駆動方法によれば、電流容量の大きな電源を使用しなければならないという欠点がある。」(3欄7行〜17行)とし、本件特許発明の目的として、「この発明は比較的少ない数のトランジスタで五相ステッピングモータの四ー五相励磁を行うことができるとともに、比較的小さい電流容量の電源を使用し得る五相ステッピングモータの駆動方法を提供することを目的としている。」(3欄19行〜23行)とする。
A 本件異議答弁書の主張 「(1)本願発明の特徴は特許請求の範囲に記載の通りでありますが、特に五相ステッピングモータのA相〜E相の巻線をスター結線するとともにB相及びD相の巻線を逆相に接続した上で、バイポーラ方式により四ー五相励磁を行うことによりステッピングモータを駆動する構成となっていますので、従来の駆動方法では決して得られない顕著な目的効果を達成するものであります。即ち、スタンダードドライブでは、ハーフステップ駆動が可能であるものの、多くの出力トランジスタを必要とするという欠点があります。またペンタゴンドライブ(常に一相を短絡しながら四相を励磁する方式)では、スタンダードドライブに比べて出力トランジスタの数が半分で済むものの、五相励磁を行えずハーフステップ駆動が不可能であるという欠点があります。更に、スタードライブ(ユニポーラ方式で二相励磁と三層励磁《「三相励磁」の誤記と認める。》とを交互に繰り返す方式)では、他の方式に比べてトルクが約半分に低下するだけでなく、ハーフステップ(0.36deg/step)駆動が不可能であるという欠点があります。一方、本願発明はかような従来の駆動方法の欠点を一挙に解消することができます。しかも非常に簡単な構成でありますので、実用性の高い極めて優れた発明であります。かような目的効果を達成できるのは、A相〜E相の巻線のうちB相及びD相の巻線を逆相に接続するという構成要件が含まれているからであります。もしA相〜E相の巻線を同相に接続して励磁するだけなら、回転ベクトルは一応得られるものの、トルクは得られず、モータとして機能し得ません。」(2頁2行〜20行)、「(2)特許異議申立人が提示した甲第一号証(米国特許四〇九五一六一号)及び甲第二号証(米国特許一六〇九五〇〇号《「三六〇九五〇〇号」の誤記と認める。》)には、本願発明の特徴部分であるA相〜E相の巻線のうちB相及びD相の巻線を逆相に接続するという事項が記載されておらず、その示唆さえありません。」(2頁24行〜27行)と主張している。
B 平成七年八月二四日付特許異議の決定(甲一〇 以下「本件異議決定」という。) 特許異議申立人提出にかかる刊行物記載の先行技術(米国特許四〇九五一六一号、米国特許三六〇九五〇〇号)のいずれにも、「五相ステッピングモータの順次配列されたA相、B相、C相、D相、E相の内『A相、C相、E相のグループと、B相、D相のグループとが互いに逆相になるように』各相の一端を接続することについては、何ら記載がなく、また、これを導出するに足る記載も見出すことができない。」とし(8頁3行〜8行)、本件特許発明は、「端的に云うと、
順次配列された各相をスター結線し五相ブリッジ接続スイッチから可逆方向に通電する(バイポーラ形)五相ステッピングモータの駆動方法において、『五相の内互いに一相を隔てて実際に配列されている二相を他の三相とは逆相の関係に接続し』、所定ステップシーケンスに従って正方向及び負方向に夫々通電される所定の二又は三相を選択することによって『四ー五相励磁する』点を特徴的構成としており、かかる特徴的構成によって本願明細書記載のとおりの技術的効果を奏するものである。」(9頁9行〜19行)のに対し、前記刊行物記載の先行技術はこれら特徴的構成あるいはこれを導出するに足りる技術思想を有していないとして、特許異議申立を理由がないものとした。
C 【F】(【G】訳)「ステッピングモータの新しい駆動方法」と題する論文(「自動化技術」昭和五四年八月号所収、乙一六。一九七七年〔昭和五二年〕のIMCSDシンポジウムで発表されたもの)の記載 スタンダードドライブ、スタードライブ(ユニポーラスタードライブ)、ペンタゴンドライブの内容について、本件明細書や原告の特許異議答弁書とほぼ同旨の記載がある。
(2) 右にみたところに照らして検討する。
@ 本件特許発明出願当時の五相ステッピングモータの駆動方法としては、代表的なものとして、スタンダードドライブ、ユニポーラスタードライブ、ペンタゴンドライブがあった。
スタンダードドライブは、唯一、四ー五相励磁が可能なものであったが、各相を独立に制御するため、各相ごとに四個、全部で二〇個ものトランジスタで出力段を構成する必要があり、出力段での発熱が多くなり、出力段の形状が大きくなる、出力段を制御する制御回路は複雑となるなどの欠点があった。また、各相はそれぞれ並列励磁される構造であるから、電源は四ー五相励磁に応じてモータの定格電流の四〜五倍の電流を供給する必要があり、電流容量の大きな電源を使用しなければならないという欠点があった。
ユニポーラスタードライブ(スター結線した各相の一端《中点》を外部電源に接続し、各相の一方向にだけ電流を流す駆動方式)は、二ー三相励磁によるもので、他の方式に比べてトルクが約半分に低下するだけでなく、ハーフステップ駆動が不可能であるという欠点があった。
従来の(メレック発明登場以前の)ペンタゴンドライブ(常に一相を短絡しながら四相を励磁する方式)では、スタンダードドライブに比べて出力トランジスタの数が半分で済むものの、五相励磁を行えずハーフステップ駆動が不可能であるという欠点があった。
A 本件特許発明は、先行技術としてスタンダードドライブ、ユニポーラスタードライブ、ペンタゴンドライブが存在することを前提とした上で、結線方法としてスター結線を採用し、構成要件A(五相ステッピングモータの順次配列されたA相、B相、C相、D相、E相のうち、A相、C相、E相のグループとB相、
D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続すること)によりスタンダードドライブの半分のトランジスタで四ー五相励磁をすることができるバイポーラスタードライブという新たな類型を確立し、また、直列励磁の併用によりスタンダードドライブに比べ電源電流を小さくすることを可能にしたものである。
従来、複数の結線方式があることを前提としながらあえてスター結線を採用したこと、また、本件特許発明における直列励磁の併用はスター結線を前提とすることからすると、モータがスター結線されたものであることは、本件特許発明の本質的部分であるというべきである。
B もっとも、前記のとおり、本件異議答弁書には、「かような目的効果を達成できるのは、A相〜E相の巻線のうちB相及びD相の巻線を逆相に接続するという構成要件が含まれているからであります。」「(2)特許異議申立人が提示した甲第一号証(米国特許四〇九五一六一号)及び甲第二号証(米国特許一六〇九五〇〇号《「三六〇九五〇〇号」の誤記と認める。》)には、本願発明の特徴部分であるA相〜E相の巻線のうちB相及びD相の巻線を逆相に接続するという事項が記載されておらず、その示唆さえありません。」との記載があり、また、本件異議決定が「五相の内互いに一相を隔てて実際に配列されている二相を他の三相とは逆相の関係に接続し」「四ー五相励磁する」点を特徴的構成として強調していることからすると、原告主張のようにA相〜E相の巻線のうちB相及びD相の巻線を逆相に接続すること、四ー五相励磁することのみが本質的部分であると解する余地もあるかのようである。
もとより、このような逆相接続がなければ、トルクが得られずモータとしての用をなさないのであるから(本件異議答弁書)、これらの部分が本件特許発明の本質的部分に属することは疑いない。しかし、A相〜E相の巻線のうちB相及びD相の巻線を逆相に接続すること、四ー五相励磁することだけでは、スタンダードドライブにおいて二〇個のトランジスタを要していたことによる課題を解決する手段としては全く具体性を欠くものであり(結線方式が決まらなければ逆相接続をどのように実現するかも決まらない。)、本件特許発明は、右課題の解決のために右二点に加えて具体的結線方式としてはスター結線を採用したものというべきである。また、電源電流を小さくするという課題を解決するためにもスター結線という構成が意味を有することは前記A記載のとおりであるから、本件特許発明の本質的部分にモータがスター結線されたものであることが含まれることは疑いない。
なお、本件異議答弁書は、「特に五相ステッピングモータのA相〜E相の巻線をスター結線するとともにB相及びD相の巻線を逆相に接続した上で、
バイポーラ方式により四ー五相励磁を行うことによりステッピングモータを駆動する構成となっていますので」「しかも非常に簡単な構成でありますので、実用性の高い極めて優れた発明であります。」とし(右「非常に簡単な構成」は、スター結線という具体的な構成を前提としているものと解するほかない。)、本件異議決定も、「端的に云うと、順次配列された各相をスター結線し五相ブリッジ接続スイッチから可逆方向に通電する(バイポーラ形)五相ステッピングモータの駆動方法において、」としているところであって、全体としてみれば、スター結線を本件特許発明の本質的部分とみていることは明らかというべきである。
(3) 本件特許発明とメレック発明との差異について メレック発明は、従来型のペンタゴンドライブが常に一相を短縮しながら四相ずつ励磁する方式であったのに対し、「四相励磁の場合には、相隣合う二つのペンタゴン結線部を同電位にして当該結線部間の励磁相を励磁せずにおくと共に他の結線部間の四つの励磁相では異電位として当該四つの励磁相を励磁し、五相励磁の場合には、いずれか一つの結線部に接続せる組みの両出力段トランジスタをオフにして当該結線部をハイインピーダンスにすると共にハイインピーダンスとなっている結線部の両側の結線部間を異電位にして当該二つの励磁相を励磁すると共に他の三つの結線部間でも異電位として残る三つの励磁相を励磁して五つの励磁相全てを励磁」することで、ペンタゴン結線した五相ステッピングモータの四ー五相励磁を可能としたものであり、逆相接続により四ー五相励磁を可能としたという点では本件特許発明と一致するが、具体的な課題解決手段としてスター結線を採用せず、ペンタゴン結線を採用しているのであるから、本件特許発明とは本質的部分において差異があるものといわざるを得ない。なお、メレック発明は並列励磁を前提としているので、この限度では従来技術であるスタンダードドライブと一致し、電源電流を小さくするという課題を解決するものではなく、この面からは本件特許発明とは作用、効果をも異にするといえる(すなわち、ST一二、一四ないし一七、
一九、STP五Pをメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるために用いても、本件特許発明の作用効果イを奏さず、均等要件Aも充足しないことになる。)。
2 結 論 以上によれば、その余の均等要件について判断するまでもなく、ST一二、一四ないし一七、一九、STP五Pをメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるために用いることは、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることと均等ではないというべきである。したがって、右各製品についての均等論を前提とする間接侵害を理由とする主位的主張は理由がない。
二 争点2(ST一二、一五、一九については平成三年三月二六日まで、ST一六、一七については昭和六二年二月一六日まで、ST一四については昭和六三年二月一八日まで、STP五Sについては現在においても、本件特許発明実施にのみ使用する物であるか。)について 1 ある物が特許発明の「実施にのみ使用する物」である(特許法101条2号)というためには、他の用途すなわち特許発明実施以外の用途がないことを要するが、ここにいう「他の用途」があるとは、理論的に使おうと思えば使えるというだけでは足りず、原則として、現に経済的、商業的、実用的なものとして使用の実績があることを要するものと解すべきである。右のような実績がない限り、現実には特許権侵害以外の用途に使われていないことになるからである。したがって、
特許権者としては、侵害者物件が特許発明実施以外の用途に現に使用されていないことを立証すれば足りる。
2 被告製品のカタログ等の記載 (一) ST一二のカタログ(甲一三 弁論の全趣旨により昭和六一年四月二〇日印刷され、被告に納入されたものと認められる。) 相電流は一・四アンペア、励磁方式として〇・三六度と〇・七二度切替可能(四ー五相励磁と四ー四相励磁の切替可能との趣旨と解される。)、適用モータは相電流〇・七五アンペア〜一・四アンペア、巻線インダクタンス二・五〜一五mHのものと記載されている。端子接続図にはスター結線のみが記載されている。
(二) ST一四のカタログ(甲一四 弁論の全趣旨により昭和六一年九月二〇日印刷され、被告に納入されたものと認められる。) 相電流は二・八アンペア、励磁方式として〇・三六度と〇・七二度切替可能、適用モータはオリエンタルPH五九一三A、山洋電気一〇三ー八五七三ー五〇四〇と記載されている。端子接続図にはスター結線のみが記載されている。
(三) ST一五のカタログ(甲一五 弁論の全趣旨により平成元年九月二七日印刷され、被告に納入されたものと認められる。) 相電流は一・四アンペア、励磁方式として〇・三六度と〇・七二度切替可能、適用モータは相電流〇・七五アンペア〜一・四アンペア、巻線インダクタンス二・五〜一五mHのものと記載されている。端子接続図にはスター結線のみが記載されている。
(四) ST一五の仕様書(甲一六 昭和六一年九月二七日作成) 相電流は一・四アンペア、励磁方式として〇・三六度と〇・七二度切替可能、適用モータはPH五九六ーA、PH五六九ーA及びその相当品と記載されている。端子接続図にはスター結線のみが記載されている。
(五) ST二五のカタログ(甲一九 作成時期不明) 相電流は一・五アンペア、励磁方式として〇・三六度と〇・七二度切替可能(二ー三相励磁にも対応可能)と記載され、また、スター接続と新ペンタゴン接続がスイッチにより切替可能であることが明記されている。端子接続図は、五相ステッピングモータであることが示されているのみで、結線方式は特定されていない。
(六) ST二五の取扱説明書第四版(甲二〇 平成六年一月一二日) 最大相電流は一・五アンペア、駆動方式として「本装置は新ペンタゴン駆動及びスター(ペンタゴン)駆動方式にも切り換えが可能です。」、励磁方式として四ー四相励磁と四ー五相励磁の切替可能と記載されている。また、端子接続図として、スター接続、新ペンタゴン接続、ペンタゴン接続が明記されている。
(七) ST一二の取扱説明書第四版(甲二九 異なる時期に作成された図面やカタログ、説明書などを合わせたもののようであり、作成時期ははっきりしないが、末尾に添付された「ST一二、ST一五、ST一六、ST一七適応モーター一覧表」〔甲一二と同じもの〕の作成日付である平成四年九月一日より後であることは確実である。) 適用モータとしてPH五六六ーA(相当品含む。以下同じ。)、PH五六九ーA、PH五九六ーA、PH五九九ーA、設定電流値は右適用モータの順に〇・七五アンペア、一・四アンペア、一・二五アンペア、一・一五アンペア、励磁方式として四ー四相励磁と四ー五相励磁の切替可能と記載されている。また、端子接続図(一二頁、平成四年二月一〇日作成)には、スター結線のみが記載されている。
(八) 「ST一二、ST一五、ST一六、ST一七適応モーター一覧表」(甲一二 平成四年九月一日作成) 右記載の適応モーターは概ねスター結線したものと認められ、ペンタゴン結線したものであるとの裏付けがあるのは、SW二セットF、電流値一・四アンペアに対応する一〇三H七五二三ー七〇五一(乙四)、七〇二一(乙五)、一〇三H七五二二ー七〇五一(乙二)、七〇二一(乙三)の各モータのみである。
(九) 五相ステッピングモータ駆動装置一覧(別紙目録(一)のカタログ1・2、平成五年四月二二日発行) (1) ST一二、一五について 適応ステッピングモータの相電流一・四アンペア/相(ペンタゴン結線の時〇・七五アンペア/相)、励磁方式四ー四相励磁・四ー五相励磁切替可能、
結線方式スター結線(一部ペンタゴン結線)、適応ステッピングモータとしてはオリエンタル社の各種モータ(PH五六六ーA(B)、PH五六九ーA(B)など、
スター結線したものと認められる。)、山洋電気の各種モータ(このうち、一〇三Hー七五二二ー七〇五一(七〇二一)、一〇三H七五二三ー七〇五一(七〇二一)については、前記のとおりペンタゴン結線したものと認められる。)と記載されている。
(2) ST一六、一七について 適応ステッピングモータの相電流一・四アンペア/相(ペンタゴン結線の時〇・七五アンペア/相)、励磁方式四ー四相励磁・四ー五相励磁切替可能、
結線方式スター結線(ペンタゴン結線も可)、適応ステッピングモータとしてはST一二、一五と同じもののほか、一〇三ー七五一六ー七〇四一など山洋電気のペンタゴン結線したモータ(乙六ないし一三、二一ないし二八)と記載されている。
(3) ST一九について 適応ステッピングモータの相電流一・四アンペア/相、励磁方式四ー四相励磁・四ー五相励磁切替可能、結線方式スター結線、適応ステッピングモータとしてはST一二、一五と同じと記載されている。
(4) ST一四について 適応ステッピングモータの相電流二・八アンペア/相、励磁方式四ー四相励磁・四ー五相励磁切替可能、結線方式スター結線、適応ステッピングモータとしてはスター結線したもののほか、山洋電気のペンタゴン結線したモータ一〇三ー八五七三ー八〇四一(八〇一一)(乙一四、一五、三七、三八)が記載されている。
(5) STP五Sについて 適応ステッピングモータの相電流一・四アンペア/相、励磁方式四ー四相励磁・四ー五相励磁切替可能、結線方式スター結線、適応ステッピングモータとしてはスター結線したものが記載されている。
(一〇) 昭和六一年一〇月四日発行の山洋電気の五相ステッピングモータの駆動装置のカタログ(乙二〇) 前記五相ステッピングモータ駆動装置一覧記載の適用モータのうち、いずれもペンタゴン結線したものである一〇三ー七五一六ー七〇四一(七〇一一)、
一〇三ー七五〇一ー七〇四一(七〇一一)、一〇三ー八五七二ー七〇四一(七〇一一)、一〇三ー八五七五ー七〇四一(七〇一一)、一〇三ー八五七三ー八〇四一(八〇一一)、一〇三ー八五七三ー七〇四一(七〇一一)が記載されている。
3 以上に照らして検討するに、被告製品のカタログ等に、被告製品の適応モータとしてスター結線したもののみが記載されていたり、端子接続図にスター結線のみが記載されている時点においては、当該被告製品が本件特許発明実施にのみ使用されていた蓋然性が極めて高いものといわなければならない。被告においては、ST二五の場合のごとく、他の結線方式に対応しうる駆動装置については、その旨明示しているからである。
この点、前記山洋電気のカタログ(1(一〇))においては、ペンタゴン結線したモータが記載されているから、山洋電気製の五相ステッピングモータ駆動装置が、昭和六一年一〇月四日の時点で、前記五相ステッピングモータ駆動装置一覧記載の適用モータのうち、いずれもペンタゴン結線したものであるものを四ー五相励磁して駆動するのに使用されていた可能性が高い。しかし、当該山洋電気製の五相ステッピングモータ駆動装置とここで問題となる被告製品が同一の構造であるとは直ちにいえないから、ここで問題としている被告製品が同時期においてこれらのモータをメレック発明の方法で四ー五相励磁して駆動するのに使用されていたとの結論に結びつくものではない。
なお、本件警告書送付は昭和六一年一月二八日ころが最初であり、公開公報も同じころ送付されているのに、大三工業は、平成七年二月七日付「特許権使用に関する件」と題する書面、同年三月二〇日付「特許権使用に関する件」と題する書面において、本件特許発明が登録された場合の実施許諾を求めているが、被告製品がメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動するのに用いられることについては全く言及していない(甲三、四の各1ないし3)。確かに、対象製品の製造業者が訴訟外で実施許諾を求めたか否かは技術的範囲の属否の判断について意味をもつものということはできないが、特許発明実施以外の用途があるか否かということは、単純な事実問題であって高度の法律的・技術的判断を要するわけでもないのに、このような長期間、本件特許発明実施以外の用途の存在を主張してこなかったことは、被告自身、問題となる被告製品が本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることにのみ使用するものであることを前提としていたことを窺わせる間接事実といえる。
なお、被告は、問題の被告製品は五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動する方法のみならず、四ー四相励磁して駆動する方法の実施にも用いることができる旨主張する。確かに、前記のとおり、カタログ等にこれら被告製品は五相ステッピングモータを四ー四相励磁して駆動する方法の実施にも用いることが記載されている。しかし、四ー四相励磁も四ー五相励磁も本件特許発明当時知られており、前者は一ステップ〇・七二度、後者は一ステップ〇・三六度であるが、後者は一回転を一〇〇〇分割と非常に細かくできて、トルク変動が少ないなどメリットが大きいものであったため(甲一七)、スタンダードドライブのように多数のトランジスタを要することなく四ー五相励磁を実現するために本件特許発明、メレック発明、オリエンタル発明などが考案されたものであることからすると、これら被告製品が四ー五相励磁のみならず四ー四相励磁して駆動することにも用いることができるからといって間接侵害が否定されると解することはできない(結局本件特許発明の構成を前提に、より簡易な方法で駆動しているというに過ぎないというべきである。)。
4 結 論 以上によれば、ST一二については甲一三のカタログが被告に納入された昭和六一年四月二〇日において、ST一四については甲一四のカタログが被告に納入された昭和六一年九月二〇日において、ST一五については甲一五のカタログが被告に納入された平成元年九月二七日において、それぞれ本件特許発明実施にのみ使用されていたことは確実であるといえ、ST一二については、甲二九の端子接続図にスター結線のみしか記載されていないことからすると、平成四年に入ってもなお本件特許発明実施にのみ使用されていた疑いすらある。これらを総合すれば、原告主張のとおり、ST一二、一五、一九については平成三年三月二六日まで、ST一六、一七については昭和六二年二月一六日まで、ST一四については昭和六三年二月一八日まで、それぞれ本件特許発明実施にのみ使用する物であったと認めるのが相当である。
STP五Sについては、五相ステッピングモータ駆動装置一覧の前記記載からすると現在においても本件特許発明実施にのみ使用する物とみるべきである。被告は、STP五Sは、メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動するのに使用されるSTP五Pと同一構造である旨主張するが、これを客観的に裏付ける証拠はない。また、仮に、被告の主張が認められるとしても、五相ステッピングモータ駆動装置一覧は、STP五Sの対応モータの結線方式をスター結線と、STP五Pの対応モータの結線方式をペンタゴン結線と明記していることからすると、STP五Sは、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるのに用いることを目的とする顧客を対象にしたものと解さざるを得ず(そうでなければSTP五Pと分けて記載する意味がない。)、理論的使用可能性はともかく、使用実績の観点からみれば本件特許発明実施にのみ使用する物と解するよりほかはない。
三 争点3(シャープ及び松下電器は被告製品ST一二、ST二五をスター結線して用いているか。用いているとして被告に共同不法行為が成立するか。)について 1 被告は、間接侵害が成立しない物の製造・販売については、直接侵害が成立する余地が無く、直接侵害者との共同不法行為も成立しない旨を主張する。
ところで、間接侵害と直接侵害との関係については諸論があるが、いずれにしても、特許法は、特許発明実施する過程において、業としてその物の生産にのみ、あるいはその発明の実施にのみ使用する物を製造等する行為を特許権の侵害(間接侵害)として、これに対して損害賠償及び差止請求を認め、一般法である民法以上の保護を特許権者に与えているのである。反面、間接侵害を構成しないが、
直接侵害の教唆、幇助等に該当する行為については、特許法の規定の範囲外にあるものとして、その要件を充足する限り、共同不法行為(民法719条)の適用が妨げられないというべきである。
2 原告が、ST一二が松下電器に納入された期間であると主張する平成五年四月から平成七年一〇月までについて、これが本件特許発明実施に使われていたことを認めるに足りる証拠はない。
一方、平成七年四月から平成一〇年八月の間にシャープに対して納入されたST二五は、一八六八台中一二八六台が本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁(四ー四相励磁も含む。甲二一)して駆動させるのに使用され、その他は、オリエンタル発明の方法で新ペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動されるのに使用されていたことが認められる(甲二一)。しかし、ST二五は前記二において認定したとおり汎用性を有するものであり、本件特許発明の方法でスター結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させるほか、メレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることも、オリエンタル発明の方法で新ペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることも可能なものである。したがって、シャープにおいてST二五を使用した直接侵害行為があったとしても、ただちに被告において右直接侵害行為の教唆ないし幇助行為をしたということはできず、他に被告とシャープの間に共同不法行為が成立することを認めるに足りる証拠もない。
そうすると、原告の共同不法行為に基づく損害賠償請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
四 争点4(被告が損害賠償義務ないし補償金支払義務を負う場合の額。)について 1 STP五Sについて 原告主張期間のSTP五Sの具体的な販売数、販売金額を認めるに足りる証拠はない。
2 その他の被告製品についての販売数、販売金額 間接侵害に関する予備的主張は理由があるから、これについて検討するに、証拠(乙四一ないし四五)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) ST一二について 昭和六二年一月一日(原告が文書提出命令申立の始期とした日。以下同様)から、平成三年三月二六日(原告がST一二が本件特許発明実施以外の用途に用いられるようになったことを認めた日。以下同様)までの販売台数は一万三二三一台、販売総額は、四億六九六五万三七一八円である。
(二) ST一四について 昭和六二年一月一日から昭和六三年二月一八日までの販売台数は二七台、販売総額は一五二万七五〇〇円である。
(三) ST一五について 昭和六二年一月一日から平成三年三月二六日までの販売台数は四四三二台、販売総額は一億三六八二万〇四二二円である。
(四) ST一六、一七について これらが昭和六二年一月一日から昭和六二年二月一六日の間に販売されたことを認めるに足りる証拠はない。
(五) ST一九について 昭和六二年一月一日から平成三年三月二六日までの販売台数は二六六台、販売総額は九二九万三八四三円である。
(六) 右期間以外にこれら被告製品が販売されたことやその販売台数を裏付けるに足りる証拠はない。
3 補償金の額 (一) 以上によれば、補償金計算の基礎となる期間における被告製品の販売総数は六億一七二九万五四八四円である。
(二) 前記のとおり、本件特許発明先行技術の欠点を克服し、@トランジスタの数をスタンダードドライブの半分にして五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動させることに成功し、また、Aスタンダードドライブより電流容量の小さい電源を使用することを可能にしたものである。@の点についてはほぼ同時期に実用化されたメレック発明及びオリエンタル発明においても実現し(甲一七、一八)、また、Aの点についてはオリエンタル発明で実現していることである(甲一八)が、本件特許発明が画期的な効果を奏することにかわりはなく、実施料率としては、五パーセントを相当とする。
そうすると、補償金の額としては、三〇八六万四七七四円となる。
五 結 論 よって、@原告の間接侵害を根拠とする主位的請求、STP五Sについての補償金請求及び損害賠償請求並びに共同不法行為を根拠とする損害賠償請求は、いずれも理由がなく、ASTP五Sについての差止請求は主文第一、二項の限度で理由があり(STP五Sの製造、販売に供した設備の除去については、その特定に問題があり、理由がない。)、間接侵害を根拠とする予備的請求は、主文第三項の限度で理由がある。主文第二項についての仮執行宣言については相当でないからこれを付さない。
裁判長裁判官 赤西芳文
裁判官 本吉弘行
裁判官 鈴木紀子