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関連ワード 技術的範囲 /  出願公開 /  警告 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 11年 (ネ) 574号 製造販売禁止等請求控訴事件
控訴人(一審原告) 日本ピラー工業株式会社 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 深井潔右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
被控訴人(一審被告) ニチアス株式会社 右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 中村稔
同 雨宮定直
同 辻居幸一
同 吉田和彦
同 飯田圭右補佐人弁理士 【E】
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2000/11/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙目録(一)ないし(八)記載の各グランドパッキンを製造、販売してはならない。
3 被控訴人は、2項記載のグランドパッキンに使用される原判決別紙目録(九)及び(一〇)記載の編み糸を製造、販売してはならない。
4 被控訴人は、その占有している2項記載のグランドパッキン、3項記載の編み糸及びこれら物件の販売又は宣伝のためのカタログ等の配布物を廃棄せよ。
5 被控訴人は、3項記載の編み糸の製造に供される設備を除却又は廃棄せよ。
6 被控訴人は、控訴人に対し、金四七二五万円及びこれに対する平成八年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
7 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人 主文と同旨 (以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」という。また、略称については、原判決のそれによることとする。)
事案の概要
一 本件は、原告が、被告に対し、原告の有する特許権(本件特許権)に基づき、被告の製造、販売する編み糸及びグランドパッキンが本件特許権を侵害するとして、これらの製造、販売の差止め及び廃棄、カタログ等の廃棄及び製造設備の除却を求めるとともに、特許法65条に基づく補償金及び本件特許権の出願公告による仮保護の権利の侵害に基づく損害賠償を請求した事案である。
原審は、被告の製造、販売する編み糸及びグランドパッキンが本件特許権を侵害していないとして原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡し、これに対して、
原告が控訴を申し立てた。
二 前提となる事実 1 原告の特許権(本件特許権) 原告は、次の特許権を有している。
(一) 発明の名称 グランドパッキン用編み糸およびグランドパッキン (二) 出願日 平成二年五月一六日(特願平二ー一二七八一八) (三) 公開日 平成四年一月二九日(特開平四ー二五六七一) (四) 公告日 平成六年四月一三日(特公平六ー二七五四六) (五) 登録日 平成八年一月一一日 (六) 特許番号 第二〇〇八四一六号 (七) 特許請求の範囲 本件特許請求の範囲は、原判決添付の特許公報(本件特許公報)の該当欄記載のとおりである(本件発明1、本件発明2)。
2 本件発明の構成要件の分説 本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
(一) 本件発明1について A 脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、
谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、
B この紐状体の外周全体を被覆するニット編み又は編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方 C との複合構造で編み糸を形成したこと D を特徴とするグランドパッキン用編み糸 (二) 本件発明2について A 脆性材料である膨張黒鉛テープを編み糸とすべく長手方向に山折り、
谷折りの少なくともいずれか一方に折りたたんで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、
B この紐状体の外周全体を被覆するニット編み又は編組体によってなる第1補強材および前記折畳層間に長手方向に沿って配置される糸状の第2補強材の少なくともいずれか一方 C との複合構造で編み糸を形成し、
D この編み糸を複数本集束して編組又は撚り加工したこと E を特徴とするグランドパッキン 3 被告の行為 (一) 被告は、平成三年九月ころから平成六年九月末ころまでの間、その製造に係るグランドパッキン用編み糸(被告旧編み糸)を使用して、グランドパッキン(被告旧グランドパッキン:製品名 トンボs二三〇・シールワン三五〇、トンボs二四〇・シールワン六〇〇)を製造、販売した。
(二) 被告は、平成六年一〇月以降、(一)とは製造工程を変更したグランドパッキン用編み糸(被告新編み糸)を使用して、グランドパッキン(被告新グランドパッキン:製品名は(一)に同じ。)を製造、販売している。
4 原告による警告 原告は、被告に対し、本件特許権の出願公開日の後である平成四年二月二四日到達の内容証明郵便をもって、本件特許権が出願公告された際には補償金請求を行う旨の通知をした。
三 争 点 1 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの特定 (一) 被告新旧編み糸は、製造工程中のどの時点のものを特定すべきか。
(二) 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの具体的構成 2 被告新旧編み糸は本件発明1の、被告新旧グランドパッキンは本件発明2の各技術的範囲に属するか。
(一) 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンは、本件発明1及び2の各構成要件Aの「折畳層構造」を充足するか。
(二) 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンは、本件発明1及び2の各構成要件Bの「第1補強材」を充足するか。
3 被告が補償金支払義務又は損害賠償責任を負う場合、原告に支払うべき補償金及び賠償すべき損害の額 四 争点に関する当事者の主張 1 争点に関する当事者の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」第三(原判決一〇頁末行から五〇頁八行目まで)に記載したとおりであるからこれを引用する。
2 原判決の訂正等 (一) 原判決一二頁末行の「防止するため」を「防止し、保形性が良くて強度が均一となる構造にして、編組時又は撚り加工時に膨張黒鉛テープの切断を防止するため」と改める。
(二) 原判決一七頁四行目の次に改行して次の文を加える。
「 なお、『編組または撚り加工』は、編組機による製造工程を指すのではなく、編み糸を編み組み位置で編み合わせることを意味するから、本件発明における編み糸の形成時期を編組時前に限定するといっても、その時期は、編み糸がボビンからキャリアーを通過した後のことをいう。」 (三) 原判決二七頁七行目及び九行目の各「膨張黒鉛テープ2」からいずれも「2」を、同八行目の「ステンレス線3」から「3」を、同九行目の「補強材4」から「4」を各削る。
(四) 原判決物件目録(一)ないし(一〇)から「イ号物件」、「ロ号物件」、
「ハ号物件」、「ニ号物件」、「ホ号物件」、「ヘ号物件」、「ト号物件」、「チ号物件」、「リ号物件」、「ヌ号物件」の表示を削る。
3 控訴理由の要旨 原告は、控訴審において、原判決の事実認定を争い、@ 本件発明における編み糸の構造をとらえるべき時点は、編組時であり、編組時でとらえたならば、被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンは、本件発明の技術的範囲に属すること、A 仮に本件発明における編み糸の構造を編組の前でとらえたとしても、右編組の前というのは、編み糸がボビンからキャリアーを通過した後のことをいうのであり、被告新旧編み糸及び被告グランドパッキンは、本件発明の技術的範囲に属すること、B さらに、仮に本件発明における編み糸の構造をボビンに巻き取られた時点でとらえ、その結果、折畳構造の間に第1補強材の一部が介在しているとしても、
被告新旧編み糸及び被告グランドパッキンは、本件発明の技術的範囲に属すると主張する。
当裁判所の判断
一 被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンの特定(争点1)について 1 本件発明のグランドパッキン用編み糸の構造についての判断基準時 (一) 当裁判所も、本件発明1のグランドパッキン用編み糸の構造は、遅くとも編み糸の編組又は撚り加工の前に備わっていることを要し、右の「編組又は撚り加工の前」とは、公知の編組機から編み糸が種々の力を受ける前の時点をいうと解する。
また、本件発明2のグランドパッキンは、右グランドパッキン用編み糸を使用して編組又は撚り加工をして形成したものであって、その効果は、本件発明1のグランドパッキン用編み糸を利用して形成したことによる効果にとどまるので、本件発明2における編み糸も、その構造は、編組又は撚り加工の前に備わっていることを要するものと解するのが相当である。
(二) その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」第四の一1(原判決五〇頁末行から六二頁三行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(三) 原判決の訂正 (1) 原判決五三頁五行目の「黒鉛シート1」を「黒鉛テープ1」と改める。
(2) 原判決五五頁一〇行目の「膨張黒鉛シート」の前に「本発明は上記のような実情に鑑みなされたもので、」を加える。
(3) 原判決五九頁二行目の「膨張黒鉛シート」を「膨張黒鉛テープ」と改める。
(四) 原告の主張に対する補足説明 (1) 原告は、本件発明1における編み糸の構造は、編組時に備わっていなければ、その編組時にその効果を発揮することはできないのであるから、その構造が備わっていることを要する時点は、編組時であり、編組の前ではないと主張する。
たしかに、本件発明1の効果が発揮されるのは、編組時であるが、右にいう編組は、公知の編組機による製造工程を指すものであって、編組機の作動により種々の力が加えられる工程であるところ(前記引用に係る原判決六一頁参照)、原告が編組時と主張する時点は、右のような力が加えられた後の段階をいうものであり、むしろ、編組が終了する時点の状態をいっているものと解される。したがって、原告の右主張は、本件発明1の効果を発揮した後の時点を基準時として編み糸の構造を判断すべきであるといっていることになるから、採用することができない。
(2) 原告は、「編組又は撚り加工」の時点について、公知の編組機による製造工程をいうものとすると、「集束」もその範囲に入るが、請求項2において「この編み糸を複数本集束して編組」と記載されているのであるから、集束後の編み組み位置で編み合わせる時点のことを編組と考えるべきであると主張する。
しかし、「編み糸を複数本集束して編組」の解釈として、集束自体を編組の一工程として述べているに過ぎないと解釈することも可能である上、本件発明の目的が、グランドパッキンを製造するための編組時に種々の力が加わることに対し、膨張黒鉛テープの切断を防止することにあるところ(前記引用に係る原判決五九頁一行目以下参照)、集束開始から編組位置に至るまで(編組位置に至ることは編組の最終段階にあることとなる。)の間に、引張力、捻り力が加わることを考えると(甲1、検乙1、弁論の全趣旨)、集束の時点で、既に編組が開始されていると考えるべきである。
(3) 原告は、本件発明1の編み糸の目的が「膨張黒鉛テープの切断形成作業を容易にすることと、グランドパッキンを製造するための編組又は撚り加工時において層間すべりがなく保形性が良くて強度が均一となる編み糸の構造にして、編組又は撚り加工時に膨張黒鉛テープの切断を防止することを目的としているものである。」とした上で、編組又は撚り加工の「前」にすべりをなくし、保形性を良くし、強度を均一とすることにより、テープの切断を防止しようとするものではないから、編組前に編み糸の構造を備えている必要はないと主張する。
しかし、原告の右主張は、結局、編組の時点についての解釈の違いに基づくものである。前述のとおり、本件における編組は、公知の編組機による製造工程を指すものであり、編み糸は、最終的な編組位置に至るまでの間に種々の力が加わるのであるから、これらの力が加わる前の時点で編み糸の構造を備えることは、編組時における前述した目的を達成するために必要であるといえる。
(4) 原告は、種々の力が加わる編組工程の前の時点においては、膨張黒鉛テープを長手方向に塑性変形させた折畳層構造にしておかなくても、第1補強材で膨張黒鉛テープの外周全体を被覆しているだけで、膨張黒鉛テープの切断は防止されるから、編組前の時点で、膨張黒鉛テープの折畳層構造が必要になるわけではないと主張する。
しかし、本件発明1は、折畳層構造の紐状体と補強材との複合構造を有する編み糸により、右の目的を達するものと解されるし、右(3)で述べたことを併せ考えると、編組前の時点において、右複合構造を備えたものを本件発明1の編み糸と解するべきである。
2 被告新編み糸及び被告新グランドパッキンの特定 (一) 当裁判所も、被告新編み糸は、前記1に述べた基準時を適用すると、
被告新編み糸がボビンへ巻き取られた状態をもって特定するのが相当であり、右時点における被告新編み糸は、原判決別紙目録(一〇)のとおり特定するのが相当であると考える。そして、被告新グランドパッキンは、右被告新編み糸を使用して製造したものであるから、原判決別紙目録(五)ないし(八)のとおり特定するのが相当であると考える。
(二) その理由は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」第四の一2(原判決六二頁四行目から六八頁一〇行目まで)に記載されたとおりであるから、
これを引用する(ただし、原判決六二頁一〇行目から末行にかけての「膨張黒鉛シート」を「膨張黒鉛テープ」と改る。)。
(三) 原告の主張に対する補足説明 (1) 原告は、被告新編み糸は、ガイドローラーを通され、引張力を加えられながらボビンに巻き取られるまでの間、引張力により、袋編みしたステンレス製補強材は、円になろうとしながら縮径変形し、右縮径変形により、右補強材は、折り畳まれた膨張黒鉛テープの折り畳み面からほとんど外に抜け出し、しかも、その後、編組機にセットされた後、キャリアーを通過するまでに、引張力やしごきが加えられるため、偶然を除いて、右補強材は右折り畳み面から全て抜け出すため、編組前の時点においても、被告新編み糸は、別紙目録(九)又は同(一〇)のものとして特定されると主張する(被告新編み糸を別紙目録(九)と特定すべきであるとの主張は未だ主位的に主張されていると考える。)。
たしかに、甲17、検乙2によると、ボビンに巻き取られる直前の段階でも、袋編みしたステンレス製の右補強材のうち、折り畳まれた膨張黒鉛テープの折り畳み面から抜け出るものがあり得ることは否定できないが、ほとんどが抜け出るという原告の主張を認めるに足る証拠はない。
一方、その後、キャリアーを通過するに際し、引張力やしごきなどが加わることにより、被告新編み糸に、原告の主張する変化があるとしても、このような強い力が加わる工程は、既に、編組段階に入っているというべきであり、このような強い力の加わっている時点で、被告新編み糸を特定することは相当でないと考える。
(2) 原告は、編組時に本件発明の編み糸の構造が形成されて編組されると、各編み糸は締め付け状態となり、折畳層構造の膨張黒鉛テープはV字状に拡開することができないから、編組後において、上下左右に圧縮成形されても、編組時における編み糸の構造の痕跡が残ると考えられるとした上、被告新グランドパッキンの編み糸の構造は、膨張黒鉛テープを長手方向に折り畳んで塑性変形させた折畳層構造の紐状体と、この紐状体の外周のみを被覆した袋編みのステンレス製補強材との複合体となっているから、編組時においても、同様の構造であったと主張する。
しかし、被告新編み糸は、編組前の時点におけるものを比較すべきであることは前述したとおりであって(編組時における被告新編み糸が編組後のそれと同様の構造をとることがあり得ることは否定するものではない。)、右時点の被告新編み糸の構造をもって被告新編み糸と特定することはできない。
のみならず、甲13、19の1ないし4によると、被告新グランドパッキンを構成する被告新編み糸の構造は、必ずしも、右ステンレス製補強材が右紐状体の外周のみを被覆しているわけではなく、膨張黒鉛テープの折畳層構造の間にも介在していることが窺える。
3 被告旧編み糸及び被告旧グランドパッキンの特定 (一) 当裁判所も、被告旧編み糸は、原判決別紙旧イ号物件目録のとおり特定し、被告旧グランドパッキンは、原判決別紙旧ロ号ないし旧ホ号物件目録のとおり特定するのが相当であると考える。
(二) その理由は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」第四の一3(原判決六八頁末行から七一頁四行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決六九頁四、五行目の「折り畳まれて」を「そもそも折り畳まれてさえ」と改める。)。
(三) 原告の主張に対する補足説明 (1) 原告は、被告旧編み糸を膨張黒鉛テープを第1補強材で被覆したものを伸延するのであるが、伸延による強い引張力により、右補強材は、女性のストッキングを伸ばしたときのように、円になろうとしながら縮径変形し、その縮径変形力で、内部の膨張黒鉛テープが幅方向の中心から谷折りに折り曲げられるので、被告旧編み糸は、原判決別紙物件目録(九)のとおり特定すべきであると主張する。また、被告旧編み糸についても、このような構造が形成されるのは、編組時において、同様の構造(袋編みのステンレス製補強材が紐状体の外周のみを被覆した構造)を有していたからであると主張する。
たしかに、甲4の写真4、甲27の1によると、被告旧グランドパッキンを構成する、編組後における被告旧編み糸の構造は、紐状体のほぼ外周のみを被覆した構造であることが窺われる。しかし、被告旧編み糸についても、編組時における引張力が加わった後の編み糸を被告旧編み糸と特定することは相当でなく、前記2(三)で説示したのと同様、被告旧編み糸についても、編組前の時点におけるものを特定すべきである。キャリアーを通過するに際し、引張力やしごきなどが加わることにより、被告旧編み糸に、原告の主張する変化があるとしても、このような強い力が加わる工程は、既に、編組段階に入っているというべきであり、このような強い力の加わっている時点で、被告旧編み糸を特定することは相当でないと考える。
そして、前記引用に係る原判決六九頁一行目から五行目に記載されたとおり、乙2、検乙1、3によると、被告旧編み糸がボビンに巻き取られた状態(キャリアーを通過する前)は、むしろ、原判決旧イ号物件目録記載のとおりであることが認められる。
原告は、被告旧編み糸は、ボビンに巻き取られる前の段階で既に伸延されていると主張し、甲21を提出するが、前記乙2、検乙1、3の内容に照らすと、甲21に伸延の工程が記載されているからといって、伸延された結果、被告旧編み糸が、原告が主張する経過により原判決別紙物件目録(九)の構造となると認めることはできず、他に、これを認めるに足る証拠はない。
(2) 原告は、旧編み糸については、被告が述べる旧グランドパッキンの製造条件(乙28の実験1)によっては、膨張黒鉛テープが各所で切断されて編み糸を適正に編組できないから、他の製造条件の下に製造しているものであると主張し、その旨の実験結果を提出する(甲29)。
しかし、その実験の前提となる条件が、被告旧グランドパッキンの製造工程と同じであるか否かが必ずしも明らかでない上、現に、乙2、検乙1、3によると、被告は、被告が述べる旧グランドパッキンの製造条件によって、これを製造していることが認められるのであって、原告の右主張は理由がないというべきである。
二 被告新旧編み糸は本件発明1の、被告新旧グランドパッキンは本件発明2の各技術的範囲に属するか(争点2)について 1 当裁判所も、第1補強材は、膨張黒鉛テープの折畳層構造の保形性を良くするためにその外周全体を被覆するもので、単層の膨張黒鉛テープを被覆した後にこれを折り畳むことを予定していないところ、被告新編み糸の補強材は膨張黒鉛テープの折畳層構造の間にも介在しており、また、被告旧編み糸の補強材は、膨張黒鉛テープの折畳層構造(構成要件A)を被覆していないから、被告新旧編み糸は、
いずれも本件発明1の第1補強材の構成(構成要件B)を備えていないと考える。
また、そのことにより、被告新旧グランドパッキンは、本件発明2の構成要件Bを満たさないと考える。
2 その理由は、原判決「事実及び理由」第四の二(原判決七一頁七行目から八〇頁八行目まで)に記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決八〇頁一行目の「(なお、」から三行目の「見ない。)」までを削る。)。
3 原告の主張に対する補足説明 (一) 原告は、本件各発明の第1補強材について、筒状の構造体として折畳層構造の紐状体のまさに外周全体のみに覆い被さることまで限定していないと主張する。
しかし、前記引用に係る原判決(七六頁三行目以下)に記載のとおり、
幅広で単層の膨張黒鉛テープを被覆した後にこれを折り畳むような被覆の形態(折畳層間に第1補強材が介在する被覆形態)と、当該膨張黒鉛テープを折り畳んだ後にその外周全体を被覆する形態(折畳層に第1補強材が介在せずに、外周のみを被覆する形態)とを比較した場合、その効果に違いがあると考えられ、また、その形成過程を考えても、折畳層構造の紐状体を作成した後、第1補強材で被覆するとされているのであるから、その構造は、紐状体の外周全体のみを被覆するものであることが当然予定されていたと解するのが相当である。
したがって、本件発明1は、第1補強材について、折畳層構造の紐状体の外周全体のみを被覆するものに限定していると解さざるを得ない。
(二) 原告は、編組時において、ステンレス製補強材の一部が折畳層構造の間から外に抜け出ないのは、折畳層構造に補強材が抜け出ないような挟着力が発生しているからであり、このような挟着力が発生するのは、折畳層構造の外周全体を被覆した補強材が、引張されることにより折畳層構造を周囲から締め付けているからであり、補強材が折畳層構造に介在することによって、保形性が劣ることはなく、したがって、外周全体のみを被覆していない補強材であっても、第1補強材といえると主張する。
しかし、甲4、7、13、27、検乙1、3によると、被告新編み糸がボビンに巻き取られた段階では、未だ、補強材が折畳層構造に介在しているにもかかわらず、その後、被告新グランドパッキンに編組された段階では、編組の際に加わる引張力によって、かなりの補強材が折畳層構造の間から外に抜け出ることが認められ、右によると、被告新編み糸のように、折畳層構造に介在する部分を含む補強材と、当初から紐状体の外周のみを被覆している補強材と比較して、膨張黒鉛テープの折畳層構造の保形性に差異がないということはいえない。
(三) 原告は、本件発明2のグランドパッキンにおいては、編組時に編み糸の構造が形成されておればよく、その構造の編み糸は、複数本(二本以上)集束して編組されていればよく、グランドパッキンを構成する全ての編み糸がその構造を備える必要はないと主張する。
しかし、被告新旧グランドパッキンに用いられる編み糸の構造は、編組前のものをもって特定すべきであるところ、その時点において、本件発明1の編み糸の構造を有していないことは前述のとおりである。
したがって、仮に、原告の主張どおり、被告新旧グランドパッキンの編組後における編み糸のうち、ステンレス製補強材が紐状体の外周のみを被覆しているものがあるとしても、そのことによって、被告新旧編み糸及び被告新旧グランドパッキンが、本件発明1、同2の構成を充足することにはならないというべきである。
(四) 原告は、第1補強材の機能は、第1補強材をニット編み又は編組体で構成して、編組の時に引張力により、紐状体の折畳層を周囲から締め付けて、紐状体と第1補強材との一体結合力を強いものとして、両者の分離を抑えることにあり、その結果として、編み糸の保形性を良くするという効果を奏するものであるが、第2補強材の機能は、第2補強材を紐状体の折畳層間に配置することにより、
折畳層の内部側から補強し、紐状体と第2補強材の結合力を高め、その結果として、第2補強材の偏在が抑えられ、強度の均一性を確保できるほか、紐状体と第2補強材の一体結合力が高められるので、結局、紐状体と第2補強材との分離も抑えられ、編み糸としての保形性の向上も図れるとし、第1補強材にしろ、第2補強材にしろ、結局は、一体結合力を高めて編み糸の保形性を向上させようとする点は共通であり、第1補強材と第2補強材の効果を違うものと考えることはできないから、折畳層の間に第2補強材を配置することは、第1補強材が折畳層の間に介在することを含むと主張する。
しかし、第1補強材と第2補強材の効果に共通するものがあったとしても、第1補強材が折畳層の間に介在することは、紐状体の外周のみを被覆することに比べて、その効果に違いがあると考えられるのは、前記(一)のとおりであり、第1補強材については、折り曲げた膨張黒鉛テープの保形性をよくするためにその外周を覆うのであるから、折り曲げた内側に第2補強材が入ることは全く予定されていないというべきであって、原告の主張は、その効果に違いがないということを前提とするものであって、採用することができない。
三 結 論 以上によると、原告の請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき、民事訴訟法67条
61条を適用して主文のとおり判決する。
【当審口頭弁論終結日 平成一二年一月二一日】
裁判長裁判官 鳥越健治
裁判官 山田陽三
裁判官 小原卓雄