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関連審決 異議1998-74738
関連ワード 組立方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 234号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社サンエテック代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 本渡諒一
同 木島喜一
同 伊藤孝江
同 弁理士 野河信太郎
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年異議第74738号事件について平成11年5月28日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「磁気ヘッド」(後に「磁気カード用マルチ磁気ヘッド」と補正)とする発明(以下「本件発明」という。)について、平成元年5月17日特許出願をし(特願平1-125371号)、平成9年12月26日に設定登録(特許第2732468号)を受けた特許権者である。
キャノン電子株式会社は、平成10年10月1日、本件特許に対する異議を申し立て、特許庁は、この申立てを平成10年異議第74738号事件として審理した上、平成11年5月28日、「特許第2732468号の特許を取り消す。」とする決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年7月5日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨 複数の磁気トラックを有するカード状の磁気記録媒体に接触し相対的に移動して記録再生を行う磁気カードマルチ磁気ヘッドにおいて、ギャップを有する複数の磁気ヘッドコアと磁気シールド部材を、非磁性体からなる支持部材に形成した複数の溝へ交互に装着して各ギャップ部を所定間隔で一列に配列させると共に、磁気シールド部材を各磁気ヘッドコア間に配置し、さらに、ギャップ部と磁気シールド部材間の支持部材上に形成された凹部に非磁性体からなる耐摩耗性部材を嵌合接着して耐摩耗性部材を各磁気ヘッドコアの側面に密着させて形成したマルチ磁気ヘッドの基本体と、上部に開口を有し前記基本体を収容するための有底箱状ケースとを備え、各ギャップ部と磁気シールド部材と耐摩耗性部材が開口に露出するように前記基本体が前記ケースに挿入され、箱状ケースの前記開口にギャップ部、磁気シールド部材および耐摩耗性部材が露出して同一の媒体接触面を形成することを特徴とする磁気カード用マルチ磁気ヘッド 3 本件決定の理由 本件決定の理由は、別添決定書写し記載のとおり、本件発明は、特開昭48-71216号公報(以下「刊行物1」という。)、特公昭30-9235号公報(以下「刊行物2」という。)及び特開昭62-75909号公報(以下「刊行物3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条1項及び2項の規定により、取り消されるべきであるというものである。
原告主張の決定取消事由
本件決定は、本件発明と刊行物1記載の発明の一致点の認定を誤り(取消事由1)、両発明の相違点の判断を誤り(取消事由2及び3)、本件発明の効果の判断を誤った(取消事由4)結果、本件発明が刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであり、取消しを免れない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 本件決定は、「両者は、『・・・ギャップ部と磁気シールド部材上に形成された凹部に非磁性体からなる耐磨耗性部材を嵌合接着して耐磨耗性部材を各磁気ヘッドコアの側面に密着させて形成したマルチ磁気ヘッド。』で一致し」(決定書7頁14行目〜8頁5行目)と認定するが、誤りである。
(2) すなわち、磁気カード用磁気ヘッドには、磁気カードの走行形態(高いパッド圧、間欠的、高速、蛇行)に起因する特有の「肩だれ」という問題が生ずる。
本件発明は、耐摩耗性部材と磁気コアとを密着させることにより肩だれを防止し、
磁気カード用磁気ヘッドの長寿命化を図ることを目的とする。これに対し、刊行物1記載の発明は、磁気テープ用磁気ヘッドに関し、磁気テープが摺接するコアホルダーの位置に耐摩耗摺接部材を配設することにより、磁気コアと耐摩耗摺接部材との摩耗量に大差が生ずることを防止し、磁気テープの円滑な送りを実現することを目的とするところ、磁気テープは、磁気カードと走行形態(連続して摺動)が異なり肩だれは生じないから、本件発明と刊行物1記載の発明とは、その目的が一致しない。
(3) また、刊行物1の「耐磨耗摺接部材」は、磁気テープを対象として予定し、磁気コアと耐摩耗摺接部材との摩耗量に大差が生ずることを防止し、磁気テープの円滑な送りを実現することを目的とする。これに対し、本件発明の「耐磨耗性部材」は、磁気カード用磁気ヘッドに特有の肩だれを防止することを目的とするから、刊行物1の「耐摩耗摺接部材」に相当しない。
(4) 刊行物1記載の発明は、磁気コアと耐摩耗性部材との摩耗量の大差の発生防止を目的とするものであり、磁気コアと耐摩耗性部材との高さを同一に維持する必要はあっても、両者の間隙は考慮する必要がないから、刊行物1の「固着」は、
耐摩耗摺接部材と溝の底面との固着であって、磁気コアの側面との固着ではない。
そして、固着の方法には物理的、化学的又は電気的方法があり、これが「接着」に当たるとはいえない。これに対し、本件発明は、肩だれの防止を目的とし、耐摩耗性部材を凹部に配設するに際して磁気コアに密着させる構成を採用するから、刊行物1の「固着」に相当しない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り1) (1) 本件決定は、「刊行物1に記載のような磁気ヘッドにおいても、刊行物2に記載のように開口を備えた箱状ケースに挿入することは、容易に考えられるものと認められる。」(決定書9頁13行目〜16行目)と判断するが、誤りである。
(2) すなわち、刊行物2の「外箱」は、その中に磁気ヘッドを嵌入するとともに、磁気テープに対する磁気ヘッドの方位とねじれを調整する機構を付設するための箱である。これに対し、本件発明の「有底箱状ケース」は、その中に磁気ヘッドを嵌入して完成姿を箱状にするためのものである。したがって、刊行物2の「外箱」は、本件発明の「有底箱状ケース」と目的、構成及び作用効果が異なり、刊行物2の「外箱」から容易に本件発明に係る上記構成を推考し得るということはできない。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り2) (1) 本件決定は、「刊行物1に記載のようなコアホルダの突き合わせ部で、かつ記録媒体摺動面に露出して耐摩耗摺接部材を設けた磁気ヘッドを、磁気カードに適用可能なことは、刊行物3に記載されているので、刊行物1に記載の構成の磁気ヘッドを刊行物2に記載のように開口を備えた箱状ケースに挿入した構成の磁気ヘッドにおいても、これを磁気カード用とすることは、当業者が適宜実施知る程度(注、「実施し得る程度」の誤記と認める。)のことにすぎないと認めらる。」(決定書9頁18行目〜10頁6行目)と判断するが、誤りである。
(2) すなわち、刊行物1の磁気ヘッドは磁気テープ用であり、磁気カード用の本件発明とは、目的、耐磨耗性部材の構成及び接合方法において異なる。刊行物1の磁気テープ用磁気ヘッドをそのまま磁気カード用に転用しても、磁気カード用磁気ヘッドに特有の肩だれを解決することはできないから、刊行物3の記載に基づいて、刊行物1の磁気ヘッドを磁気カード用に適用することはできない。
(3) また、刊行物3は、磁気ヘッドの組立方法に関するものであり、その組立方法により組み立てられた磁気ヘッドが「磁気カード用磁気ヘッド」に適用可能であること、「一対のコアホルダーを突き合わせることにより多数の磁気ヘッドを形成する」ことについては記載がなく、刊行物3の組立方法により組み立てられる各種磁気ヘッドの作用効果についても記載がない。さらに、このような磁気ヘッドは、ギャップが磁気ヘッドの横方向に耐摩耗性部材及び磁気シールドを貫通する構成であり、刊行物1の磁気ヘッドとはギャップの構成が異なる。加えて、刊行物3の組立方法では、刊行物1記載の発明及び本件発明の磁気ヘッドを組み立てることができないので、刊行物3の組立方法で組み立てられる磁気ヘッドを磁気カード用に適用することはできない。なお、刊行物3の組立方法により組み立てられた磁気ヘッドの耐摩耗性部材の材質では、肩だれが顕著に生じ、改札用カードの使用に耐えない。
4 取消事由4(効果の判断の誤り) (1) 本件決定は、「特許権者は、特許異議意見書において本件発明を自動改札に使用する磁気カード用磁気ヘッドとして使用可能である旨主張しているが、これらの主張は、実施例に係る効果にすぎず、特許請求の範囲に記載された各構成要件により特定される発明から当然得られる効果とは認められない。」(決定書10頁12行目〜17行目)と判断するが、誤りである。
(2) 本件発明の磁気ヘッドを自動改札用磁気カードに使用したときには、肩だれが生じにくいという作用効果を奏するところ、実施例は発明の適用例であるから、実施例の効果は発明の効果でもあり、「自動改札に使用する磁気カード用磁気ヘッドとして使用可能である」という効果は、本件発明の効果にほかならない。
被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して (1) 本件発明及び刊行物1記載の発明の目的は、いずれも、磁気ヘッドの製作容易及び長寿命化であり、両者の目的が一致するとした本件決定に誤りはない。
(2) 本件発明の「耐摩耗性部材」は、摩耗に耐える機能を有する部材を意味し、その表面を磁気カードが接触し移動するから、摺接の状態にある。一方、刊行物1の「耐摩耗摺接部材」は、摩耗に耐える機能を有し、かつ、摺接の状態にあるから、本件発明の「耐摩耗性部材」と一致する。
(3) 本件発明における「密着」は、耐摩耗性部材を凹部に嵌合し接着することにより固定することであり、その結果、耐摩耗性部材と凹部が実質的に密接又は密着の状態になることをいう。
刊行物1記載の発明の「溝の底面に耐摩耗摺接部材を固着する」構成は、
この分野において普通に用いられる接着剤による固着を意味するから、本件発明の「接着」に相当する。また、刊行物1記載の発明では、「嵌入」により耐摩耗摺接部材と磁気コアの側面は接触しており、両側面の接触状態は、本件発明と同様に密着状態である。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り1)について 刊行物2の外箱が磁気ヘッドの方位とねじれを調整するための調整機構を設けていても、上記外箱に磁気ヘッドの基本的部分である多重磁気頭部を入れて完成装置を形成しているのであるから、本件発明と同様、その完成姿は箱状である。したがって、刊行物1記載の磁気ヘッドを刊行物2の開口を備えた箱状ケースに挿入することの容易想到性を肯定した本件決定に誤りはない。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り2)について (1) 磁気コア及び耐摩耗性部材の耐摩耗性の程度を特定していない本件発明は、磁気カード用特有の肩だれの防止を意図していないので、刊行物1記載の発明が肩だれを防止し得ないことは、相違点の判断とは無関係である。
(2) 本件決定は、刊行物3の磁気ヘッドが「一対のコアホルダーを突き合わせることにより多数の磁気ヘッドを形成すると共に、突き合わせたコアホルダーの媒体と接触する部分に耐摩耗性材料を備える」(決定書5頁5行目〜8行目)と認定したにとどまり、その他の子細な構成について認定していない。また、刊行物3には、組立てに用いられる部材の特性、形状が記載されているから、組立後の磁気ヘッドの構成を認定することができ、耐摩耗材料の配設によりテープとの摺動部分の摩耗に基づく特性の劣化等が防止されるとの記載があるから、刊行物3の組立方法により組み立てられた磁気ヘッドも、従来の磁気ヘッドと同様、上記の不具合を防止する効果を有する。なお、本件発明の磁気カードは、「改札用カード」との構成を備えていないので、刊行物3記載の耐摩耗材料が改札用カードの使用に耐えるかどうかは、相違点の判断と関係がない。
4 取消事由4(効果の判断の誤り)について 本件決定の判断は正当であり、原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 本件明細書(甲第2号証)には、「この発明はこのような事情を考慮してなされたもので、マルチ磁気ヘッドの摩耗を低減させて長寿命化を図ることが可能で、マルチ磁気ヘッドのトラック間における電磁変換特性のばらつきが小さく、しかも、製作が容易な磁気カード用磁気ヘッドを提供するものである。」(3欄31行目〜35行目)と記載されており、この記載によれば、本件発明は、磁気ヘッドの摩耗を低減させて長寿命化を図ること、製作が容易な磁気カード用磁気ヘッドを提供すること等を目的としていると認められる。
次に、刊行物1(甲第3号証)には、「突合わせ法による磁気ヘッドは、
その製作に当って磁気コアの取付位置、多チャンネル用磁気ヘッドの場合の各チャンネル用磁気ヘッドの間隔等を容易に正確なものとすることができるために、従来から広く使用されている。」(1頁左下欄18行目〜右下欄3行目)、「磁気コアとコアホルダーとの摩耗量に大差が生じ、走行する磁気テープと磁気コアとの接触が不安定なものとなって記録再生信号中にレベル変動などの不都合が生じるために、磁気コアを耐摩耗性の高い材料としても磁気ヘッドの長寿命化が達成されないということが問題となった。」(1頁右下欄12行目〜18行目)、「本発明は上記した従来法における問題点を解決して、製作容易な突合わせ法による磁気ヘッドを長寿命化し、かつ、磁気ヘッドの摩耗の状態を容易に知ることができるような便利な磁気ヘッドを提供したものであり」(2頁左上欄9行目〜13行目)、「その製作が極めて容易であり」(3頁右上欄18行目)と記載されている。これらの記載によれば、刊行物1の発明は、磁気コアとコアホルダとの摩耗量の差をなくして多チャンネル用磁気ヘッドを長寿命化すること、製作容易な磁気ヘッドを提供すること等を目的としていると認められる。
そうすると、本件発明の「マルチ磁気ヘッド」と刊行物1記載の発明の「多チャンネル用磁気ヘッド」とは同義であるから、両発明は、マルチ磁気ヘッドの長寿命化及び製作の容易化において、目的が一致するものと認められる。
原告は、本件発明の目的が磁気カード用磁気ヘッドの肩だれの防止にあるのに対して、刊行物1記載の発明がこのような目的を有しないと主張する。そこで、検討すると、本件明細書(甲第2号証)には、「磁気ヘッドコアの摩耗が早く進行すると、磁気記録媒体が耐摩耗性部材のみに支持される状態となり、磁気ヘッドコアと磁気カード等の磁気記録媒体との間にギャップを生じ、記録/再生特性が低下する。逆に耐摩耗性部材の摩耗が早く進行すると磁気ヘッドコアの摩耗も促進されることになる。このため、磁気ヘッドコアと耐摩耗部材との摩耗がほぼ等しく進行することが好ましい。」(4欄10行目〜17行目)、「磁気記録媒体は磁気ヘッドコアと耐摩耗性部材との両者によって支持されるので、磁気ヘッドコア表面、特にギャップ部の肩の摩耗の程度が低減し、磁気ヘッドの長寿命化が可能となる。」(4欄31行目〜35行目)、「本願発明では耐摩耗部材が、ギャップ部と磁気シールド部材との間に介在する非磁性材料(支持部材)上に磁気ヘッドコア側面に密着させて設けられるので、磁気カード用磁気ヘッドに特有の肩だれに伴う上記の問題が解決される。」(6欄18行目〜22行目)との記載があり、これらの記載によれば、本件発明の「肩」には、「ギャップ部」のほか、「記録媒体の進行方向のコア表面の端の部分」も含まれると認められる。また、本件明細書(甲第2号証)には、「磁気カード用磁気ヘッドはオーディオ用磁気テープ用に比べて磁気コアに肩だれが生じ易く」(6欄13行目〜14行目)との記載があるから、これによれば、肩だれは、磁気カード用磁気ヘッドだけでなく、オーデイオ用磁気テープ用のものでも生ずる現象であると認められる。
一方、刊行物1(甲第3号証)には、「突合わせ法による磁気ヘッドに用いられるコアホルダーとしては、その構成材料に従来から機械加工の容易な金属、
例えばアルミニウム、黄銅などが用いられていたが、磁気ヘッドの長寿命化のためにコアホルダーに装着される磁気コアとして高い耐摩耗性を有する材料、例えばセンダスト合金(真空溶解法によって作られたセンダスト合金)などが用いられた場合には、磁気テープとの摺接部における磁気コアとコアホルダーとの摩耗量に大差が生じ、走行する磁気テープと磁気コアとの接触が不安定なものとなって記録再生信号中にレベル変動などの不都合が生じるために、磁気コアを耐摩耗性の高い材料としても磁気ヘッドの長寿命化が達成されないということが問題となった。」(1頁右下欄4行目〜18行目)、「本発明は上記した従来法における問題点を解決して、製作容易な突合わせ法による磁気ヘッドを長寿命化し、かつ、磁気ヘッドの摩耗の状態を容易に知ることができるような便利な磁気ヘッドを提供したものであり」(2頁左上欄9行目〜13行目)との記載があり、これらの記載によれば、刊行物1記載の発明は、磁気テープが摺接するコアホルダーの部分を耐摩耗摺接部材とすることにより、磁気コアとコアホルダーとの摩耗量の差により生ずる磁気コア側の突出を防止し、同突出による磁気コアの摩耗を低減することを図るものであると認められ、上記認定のとおり、肩だれは磁気テープ用磁気ヘッドでも生ずる現象であることに照らせば、刊行物1記載の発明は、肩だれの防止も目的としていると認められる。
(2) 原告は、刊行物1の「耐摩耗摺接部材」は磁気テープ用であるのに対し、
本件発明の「耐磨耗性部材」は磁気カード用であり、対象とする媒体が異なる旨主張するが、本件決定は、「本件発明が磁気カード用マルチ磁気ヘッドであるのに対し、刊行物1に記載の発明が磁気カードでない点(相違点A)で相違する。」(決定書8頁18行目〜9頁1行目)として、この点を相違点として認定しているから、原告の主張は失当である。
(3) 本件明細書(甲第2号証)には、「ギャップ部と磁気シールド部材間の支持部材上に形成された凹部に非磁性体からなる耐摩耗性部材を嵌合接着して耐摩耗性部材を各磁気ヘッドコアの側面に密着させて」(特許請求の範囲)、「ホルダー3に磁気ヘッドコア4および磁気シールド板6などを装着する際にホルダー3上面の溝に嵌合させ、エポキシ系接着剤を用いて接着する。・・・溝幅W1はセラミックチップ7の幅W2よりも若干広く設定され、ホルダー3の溝にセラミックチップ7が嵌着される寸法になっている。・・・セラミックチップ7の長さL2は磁気ヘッドコア4と磁気シールド板6との間隔L1(第2図)に等しいか若干短く設定され、セラミックチップ7が磁気ヘッドコア4と磁気シールド板6との間に嵌着されるようになっている。」(5欄19行目〜34行目)との記載がある。この記載及び第2図(4頁)によれば、本件発明の「嵌合接着」は、セラミックチップを凹部に「嵌合」し、接着剤を用いて「接着」することであると認められる。
刊行物1(甲第3号証)には、「取付面Aは、例えば第2図示のように磁気コアの先端部分の後方位置に溝状の切欠部を構成するものであってもよい」(2頁左下欄7行目〜9行目)、「取付面Aには例えばブロック状を呈するガラス製の耐摩耗摺接部材8、8・・・を固着する。・・・耐摩耗摺接部材8、8・・は、第2図示の例のものにおいては、コアホルダー1の上端面と上部の磁気コアの上面との間の溝状の取付面の空間、上部の磁気コアの下面とシールド板Sの上面との間の溝状の取付面の空間、及びシールド板Sの下面と下部の磁気コアの上面との間の溝状の取付面の空間、ならびに下部の磁気コアの下面とコアホルダーの下端面との間の溝状の取付面の空間内にそれぞれ嵌入でき」(2頁右下欄9行目〜19行目)、
「前記した各空間内にそれぞれ嵌入固着したガラス製の耐摩耗摺接部材8、8・・は、」(3頁左上欄2行目〜3行目)、「上記したガラス製の耐摩耗摺接部材8、
8の上下の端面は平滑に研磨しておく方がよい。」(3頁右上欄3行目〜4行目)との記載がある。これらの記載及び第2図(3頁右下欄)によれば、刊行物1記載の発明の「嵌入固着」は、耐摩耗摺接部材を「上部の磁気コアの下面とシールド板Sの上面との間の溝状の取り付け面の空間」又は「シールド板Sの下面と下部の磁気コアの上面との間の溝状の空間」に「嵌入」し、その後「固着」するものと認められる。刊行物1(甲第3号証)には、「固着」の具体的方法について記載がないので、この分野の固着において普通に用いられる接着剤による固着、すなわち、接着を意味するものと解するのが自然である。
したがって、刊行物1記載の発明の「嵌入固着」が本件発明の「嵌合接着」に相当するとした本件決定の認定(決定書6頁17行目〜19行目)に誤りはない。
(4) 以上のとおり、一致点に係る本件決定の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り1)について 原告は、刊行物2の外箱が磁気ヘッドの方位とねじれを調整する機構を付設するためのものであって、本件発明と目的、構成及び作用効果が異なることを主張するが、刊行物2(甲第4号証)の外箱は、磁気ヘッドの基本的な部分である多重磁気頭部を入れるものである以上、箱状の完成姿を有する「完成装置」を形成しているから、刊行物1記載の磁気ヘッドを刊行物2の開口を備えた箱状ケースに挿入することは、当業者が容易に想到し得ることである。原告の主張は、失当である。
3 取消事由3(相違点の判断の誤り2)について (1) 原告は、刊行物1の磁気ヘッドは磁気テープ用のものにすぎず、肩だれは発生しないと主張するが、上記認定のとおり、肩だれは磁気テープ用磁気ヘッドにおいても生じるから、原告の主張は採用し得ない。
(2) 刊行物3(甲第5号証)には、「本発明の目的は、コアの両側及びコアとコアとの間に耐摩耗材料を配設してなる磁気ヘッドを容易に組み立てることができ、コアと耐摩耗材料との間に隙間を生ずることもなく、しかも、高いシールド効果を得ることができる磁気ヘッドの組み立て方法を提供することにある。」(2頁左上欄12行目〜17行目)、「以上のようにして組み立てられた磁気ヘッド10の媒体との摺接部分を見ると、第5図に示されているように、・・・上記各コアの両側および各シールド板の両側に、耐摩耗材料が配設された形になっている。・・・また、耐摩耗材料とコア及びシールド板との間の隙間をなくすことができるから、テープの磁性体のはがれを防止することができる。」(3頁左下欄6行目〜右下欄6行目)との記載があり、これらの記載によれば、刊行物3の組立方法により組み立てられた磁気ヘッドは、コアの両側及びコアとコアとの間に耐摩耗材料を配設して成りコアと耐摩耗材料との間に隙間を生ずることなく組み立てられた磁気ヘッドであると認められる。また、刊行物3(甲第5号証)には、「第3図乃至第6図に示されているように、図示の実施例に係る磁気ヘッドは、コアホルダー13と、センターコアホルダー25と、コアホルダー33と、消去ヘッド42と、
取付けホルダー44とを主体としてなるマルチチャンネル磁気ヘッドである。まず、コアホルダー13には、第1図に示されているように、媒体との摺接部分に非磁性耐摩耗材料からなるブロック17を固定する。・・・次に、第2図に示されているように、上記耐摩耗材料のブロック17を含むコアホルダー13の突き合わせ面18に、メタルソーを用いてコアを保持するための溝19とシールド板を保持するための溝20を・・・形成する。・・・次に、コアホルダー13の溝19には、
第3図に示されているように、コイル21に券回されたコア12を圧入して保持させ、また、コアホルダー13の溝20にはシールド板16を圧入して保持させる。」(2頁右上欄18行目〜右下欄11行目)、「このようにして組み立てられたコアホルダー13は、その突き合わせ面をセンターコア25の一方の突き合わせ面にギャップスペーサ24を介在させて互いに突き合わせ、・・・コアホルダー13とセンターコアホルダー25を互いに固着する。」(3頁右上欄3行目〜10行目)との記載があり、これらの記載によれば、この磁気ヘッドは、「一対のコアホルダーを突き合わせることにより多数の磁気ヘッドを形成すると共に、突き合わせたコアホルダーの媒体と接触する部分に耐摩耗性材料を備える磁気ヘッド」であると認められる。
(3) また、刊行物3(甲第5号証)には、「本出願人は、第7図に示されているような磁気ヘッドに関して先に実用新案登録出願をした。・・・上記出願に係る磁気ヘッドによれば、コアの両側及びコアとコアとの間に耐摩耗材料が配設されているため、テープとの摺動部分の摩耗が防止され、摩耗に基づく特性の劣化その他の不具合が防止される。・・・このように、上記出願に係る磁気ヘッドは優れた効果を奏するものであるが、・・・組み立て方法に関して解決すべき問題点が残されていた。即ち、張りつける耐摩耗材料の数が多く作業時間がかかる。・・・コアと耐摩耗材料との間に隙間を生じ易く、テープが摺接したときテープの磁性材が削られることがある。」(1頁右下欄1行目〜2頁左上欄6行目)、「本発明の目的は、コアの両側及びコアとコアとの間に耐摩耗材料を配設してなる磁気ヘッドを容易に組み立てることができ、コアと耐摩耗材料との間に隙間を生ずることもなく、
しかも、高いシールド効果を得ることができる磁気ヘッドの組み立て方法を提供することにある。」(2頁左上欄12行目〜17行目)との記載があり、これらの記載によれば、刊行物3記載の発明は、耐摩耗材料の数が多いことにより作業時間がかかり、コアと耐摩耗材料との間に隙間を生じやすいという問題点の解決を目的とするものと認められる。そうすると、刊行物3の組立方法は、磁気ヘッドについて、「テープとの摺動部分の摩耗が防止され摩耗に基づく特性の劣化その他の不具合が防止される」との効果を奏するものと認められ、刊行物3の組立方法により組み立てられる各種磁気ヘッドの上記作用効果について記載があることは明らかである。
(4) 原告は、刊行物3(甲第5号証)には、その組立方法による磁気ヘッドが「磁気カード用磁気ヘッド」に適用可能であることが記載されていないと主張するが、刊行物3(甲第5号証)には、「本発明の目的は、コアの両側及びコアとコアとの間に耐摩耗材料を配設してなる磁気ヘッドを容易に組み立てることができ、コアと耐摩耗材料との間に隙間を生ずることもなく、しかも、高いシールド効果を得ることができる磁気ヘッドの組み立て方法を提供することにある。」(2頁左上欄12行目〜17行目)、「本発明によって得られる磁気ヘッドは、・・・カードリーダ用、オーデイオ用その他各種磁気ヘッドの組み立て方法として適用可能である。」(3頁右下欄10行目〜14行目)と記載されており、これらの記載によれば、刊行物3の組立方法により組み立てられる磁気ヘッドは、カード用磁気ヘッドに適用可能であるから、原告の主張は失当である。また、原告は、刊行物3の組立方法で組み立てられる磁気ヘッドが刊行物1のものとギャップの構成が異なること、刊行物3の組立方法が本件発明のような耐摩耗性の高い部材を用いる磁気ヘッドに適用することはできないこと、刊行物3の磁気ヘッドが自動改札用磁気カードの使用に耐えないことを主張するが、本件決定は、刊行物3記載の磁気ヘッドについて、ギャップの構造及び耐摩耗材料の材質を認定しておらず、また、本件発明の磁気ヘッドは自動改札用磁気カードに用いることを要件としないので、原告の上記主張は、本件発明の容易想到性に関する判断に影響を及ぼすものではない。
4 取消事由4(効果の判断の誤り)について 原告は、本件発明の磁気ヘッドを自動改札用磁気カードに使用したときには、肩だれが生じにくいという作用効果を奏すると主張し、この主張に沿う証拠(甲第7、第9号証)もあるが、本件発明の要旨には、磁気ヘッドを「自動改札用」磁気カードに使用するという用途の限定が付されていないことが明らかである。したがって、この作用効果は、本件発明の容易想到性の判断に影響を及ぼすものではなく、「特許請求の範囲に記載された各構成要件により特定される発明から当然得られる効果とは認められない」(決定書10頁15行目〜17行目)とした本件決定の判断に誤りはない。
5 以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男