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事件 平成 11年 (ワ) 9310号 販売差止請求権不存在確認等請求事件
平成 12年 (ワ) 1237号 特許権侵害差止等請求事件
原告(反訴被告) 東海機器工業株式会社
訴訟代理人弁護士 上原洋允
同 小杉茂雄
補佐人弁理士 吉田昌司
被告(反訴原告) 極東産機株式会社
訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子
同 美勢克彦
補佐人弁理士 役昌明
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告(反訴原告)が特許第2742881号の特許権に基づき原告(反訴被告)に対し別紙原告物件目録記載の畳縫着装置の製造販売を求める権利を有しないことの確認を求める原告(反訴被告)の訴えを却下する。
2 原告(反訴被告)のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
3 反訴被告(原告)は、別紙イ号物件目録(1)及び(2)記載の畳縫着装置を製造し、販売し、販売のために宣伝、広告、展示をしてはならない。
4 反訴被告(原告)は、前項記載の畳縫着装置を廃棄せよ。
5 反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対し、金3017万9537円及びこれに対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 反訴原告(被告)のその余の反訴請求を棄却する。
7 訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを2分し、その1を被告(反訴原告)の、その余を原告(反訴被告)の負担とする。
8 この判決は、第5項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
〔本訴請求〕 1 被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)は、原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)に対し、特許第2742881号に係る特許権に基づいて、
別紙原告物件目録記載の畳縫着装置について、その製造販売の差止めを求める権利を有しないことを確認する。
2 被告は、原告が製造販売する前項の畳縫着装置について、前項の特許権を侵害する旨を文書又は口頭で第三者に告知し、又は流布してはならない。
3 被告は、たたみ新聞及び敷物新聞に各1回ずつ、別紙謝罪広告目録記載の文案による謝罪広告を掲載せよ。
4 被告は、原告に対し、金400万円及びこれに対する平成11年9月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔反訴請求〕 1 主文第3、第4項同旨。
3 原告は、被告に対し、金2億4770万円及びこれに対する平成12年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 前提事実(末尾に証拠の掲記がない事実は、当事者間に争いがない。) (1) 本件特許権 ア 被告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許を「本件特許」、その特許出願に係る願書に添付した明細書を「本件明細書」、本件特許権に係る発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 第2742881号 発明の名称 畳縫着装置 出 願 日 平成6年9月30日(特願平6-259767) 公開日 平成8年4月16日(特開平8-98969) 登 録 日 平成10年2月6日 イ 本件発明の特許登録時の特許請求の範囲の請求項1は次のとおりであった(甲2)。
「平刺しと返し縫いとを行なって畳に縁及び縁下紙を縫い付ける畳逢着装置において、載置された畳に平行する走行路を走行しながら平刺しを行なう平刺機と、載置された畳に平行する走行路を走行しながら返し縫いを行なう返し縫い機と、前記畳を載置する畳縫着台とを備え、前記畳縫着台が、前記走行路に臨む位置に畳を固定する畳固定手段と、畳を回転して畳を縫着すべき辺を前記走行路側に移す回転手段とを具備することを特徴とする畳縫着装置。」 ウ 本件特許に対しては特許異議の申立てがされたが、被告は、平成11年3月31日、特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正すること等を内容とする訂正請求を行い(甲3)、特許庁は、同年4月16日、訂正(以下「本件訂正」という。)を認めるとの決定をした(乙1)。
「平刺しと返し縫いとを行なって畳に縁及び縁下紙を縫い付ける畳逢着装置において、
載置された畳に平行する走行路を走行しながら平刺しを行なう平刺機と、
載置された畳に平行する走行路を走行しながら返し縫いを行なう返し縫い機と、
前記走行路に臨む位置に畳を固定する畳固定手段および畳を回転して畳の縫着すべき辺を前記走行路側に移す回転手段を有し、前記畳を載置する畳縫着台と、
前記畳縫着台に載置された畳の上前側を前記平刺機により平刺しを行なったのち、畳を回転して下前側を前記平刺機により平刺しを行ない、次に、畳を回転して畳の上前側を前記返し縫い機により返し縫いを行なったのち、畳を回転して畳の下前側を前記返し縫い機により返し縫いを行なう動作を自動的に実行するために、前記平刺機、前記返し縫い機および前記回転手段を制御する制御手段とを具備することを特徴とする畳縫着装置。」 (2) 構成要件 本件発明は、次の構成要件に分説することができる。
A 平刺しと返し縫いとを行なって畳に縁及び縁下紙を縫い付ける畳逢着装置において、
B 載置された畳に平行する走行路を走行しながら平刺しを行なう平刺機と、
C 載置された畳に平行する走行路を走行しながら返し縫いを行なう返し縫い機と、
D 前記走行路に臨む位置に畳を固定する畳固定手段および畳を回転して畳の縫着すべき辺を前記走行路側に移す回転手段を有し、前記畳を載置する畳縫着台と、
E 前記畳縫着台に載置された畳の上前側を前記平刺機により平刺しを行なったのち、畳を回転して下前側を前記平刺機により平刺しを行ない、次に、畳を回転して畳の上前側を前記返し縫い機により返し縫いを行なったのち、畳を回転して畳の下前側を前記返し縫い機により返し縫いを行なう動作を自動的に実行するために、前記平刺機、前記返し縫い機および前記回転手段を制御する制御手段 F とを具備することを特徴とする畳縫着装置 (3) イ号・ロ号物件 ア 原告は、平成10年9月から、別紙イ号物件目録(1)及び(2)記載の畳縫着装置(商品名「東海スーパーロボ」。以下「イ号物件」という。同じ商品(別紙イ号物件目録(1)記載のもの)を原告は別紙原告物件目録記載のとおり特定しており、原・被告間に構成の記述について争いがある。)を合計13台製造販売した。
イ 原告は、イ号物件の製造販売前、別紙ロ号物件目録記載の畳縫着装置(商品名「東海スーパーロボ」。以下「ロ号物件」という。構成の記述については原・被告に争いがある。)を合計3台製造販売した。
ウ イ号物件は本件発明の構成要件Aを、ロ号物件は同A、B及びCを充足する。
(4) 警告文掲載及び挨拶文配布 ア 被告は、平成10年12月1日付け「敷物新聞」第3頁及び同年同月2日付け「たたみ新聞」第4頁の下欄の広告欄に、「謹告」と題して、「当社の両用ロボットの特許第27422881号を侵害する他社の機械の販売活動がなされています。この機械に対しては、製造元・販売元等を問わず法的手段を講じる所存です。」との警告文(以下「本件警告文」という。)を掲載した。
イ 被告は、平成10年10月6日ころ開催された新型「両用ロボット」内見会において、「6.両用ロボットの基本特許について」の項に「某メーカに対し、10年5月、製造・販売・展示の中止申し入れ、10年9月、再度、製造・販売・展示の中止申し入れ」と記載した挨拶文(以下「本件挨拶文」という。)を配布した(以下、本件挨拶文の配布と本件警告文の掲載とを併せて「本件文書配布等」という。)。
2 争点 〔本訴反訴共通〕 (1) イ号物件及びロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか。
ア イ号物件及びロ号物件の構成 イ 構成要件B、C該当性について ウ 構成要件D該当性について エ 構成要件E該当性について (2) 先願の抗弁等 (3) 本件特許には明らかな無効理由が存在するか。
ア 本件訂正は、特許法120条の4第3項で準用する同法126条2、3項に違反するか。
イ 本件発明は出願前全部公知の発明といえるか。
ウ 本件特許は特許法29条の2の規定に違反してされたか。
エ 本件発明は発明未完成か。
〔本訴〕 (4) 本件文書配布等は、不正競争防止法2条1項13号に規定する虚偽の事実の告知、流布に当たるか。
(5) 原告の損害額等。
〔反訴〕 (6) 被告の損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(イ号物件及びロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 同ア(イ号物件及びロ号物件の構成)について 【被告の主張】 ア イ号物件の構成は、次のとおりである。
a 平刺しと返し縫いとを行って畳に縁及び縁下紙9を縫い付ける畳縫着装置18であって、
b 載置された畳5に平行する走行路10を走行しながら、平刺しを行なう平刺機16を具備し、
c 載置された畳5に平行する走行路10を走行しながら、返し縫いを行なう返し縫い機17を具備し、
d 前記走行路に臨む位置に畳を固定する畳固定手段3および畳を回転して畳の縫着すべき辺を前記走行路側に移す回転手段6を有し、前記畳を載置する畳縫着台4を具備し、
e 前記畳縫着台4に載置された畳5の上前側が前記平刺機16により平刺しが行なわれ、その後、畳は回転させられて、下前側が前記平刺機16により平刺しが行なわれ、その後、畳は回転させられて、畳の上前側が前記返し縫い機17により返し縫いが行なわれ、その後、畳は回転させられて畳の下前側が前記返し縫い機17により返し縫いが行なわれるとの動作を自動的に実行するために、前記平刺機16、前記返し縫い機17および前記回転手段6を制御する制御手段14を具備し、
f 以上を特徴とする畳縫着装置 イ ロ号物件の構成も前記イ号物件の構成と同じである。
【原告の主張】 ア イ号物件の構成は、次のとおりである(下線部分が被告の主張と相違する箇所である。)。
a 平刺しと返し縫いとを行って畳に縁及び縁下紙を縫い付ける畳縫着装置において、
b 載置された畳に平行する走行路を走行しながら、平刺しを行なう平刺装置 と、返し縫いを行なう返し縫い装置 を一体的に設けた一頭式ミシン装置 と、
d 前記走行路に臨む位置に畳を固定する畳固定手段および畳を回転して畳の縫着すべき辺を前記走行路側に移す回転手段、並びに、畳の上前側を押し付けて畳の下前側をミシン装置に向けて押し付ける畳床押し込み手段および該押し込み手段の位置を検出する検出センサー を有し、前記畳を載置する畳縫着台と、
e 前記畳縫着台に載置された畳の上前側を前記ミシン装置の平刺装置により平刺しを行なった後、畳を回転して、畳床押し込み手段で押動して位置決めし、 下前側を前記平刺装置 により平刺しを行ない、これが完了するとミシンは停止する。この間に作業者は、上前側の縁および縁下折り、隅止め作業を手動で行ない、
作業完了後、押ボタンスイッチを手動操作にて押すことにより、ミシン装置は後退し、 畳を回転して畳の上前側を前記ミシン装置の返し縫い装置 により返し縫いを行ない、完了するとミシン装置は停止し、この間に作業者は下前側の縁及び縁下紙折り、隅止め作業を行ない、
作業完了後、押ボタンスイッチを手動操作にて押すことにより、ミシン装置が後退して、 畳を回転させ畳の下前側を前記返し縫い装置 により返し縫いを行う動作を実行するために、前記ミシン装置の平刺装置、前記返し縫い装置 、前記回転手段および畳床押し込み手段を制御する制御手段と f を具備することを特徴とする畳縫着装置 イ ロ号物件の構成は、次のとおりである(下線部分が被告の主張と相違する箇所である。)。
a 平刺しと返し縫いとを行って畳に縁及び縁下紙を縫い付ける畳縫着装置において、
b 載置された畳に平行する走行路を走行しながら平刺しを行う平刺機と、
c 載置された畳に平行する走行路を走行しながら返し縫いを行う返し縫い機と、
d 前記走行路に臨む位置に畳を固定する畳固定手段および畳を回転して畳の縫着すべき辺を前記走行路側に移す回転手段、並びに、畳の上前側を押し付けて畳の下前側をミシン装置に向けて押し付ける畳床押し込み手段および該押し込み手段の位置を検出する検出センサー を有し、前記畳を載置する畳縫着台と、
e 前記畳縫着台に載置された畳の上前側が前記平刺機により平刺しを行なった後、畳を回転して、畳床押し込み手段で押動して位置決めし、
下前側を前記平刺機により平刺しを行ない、これが完了するとミシンは停止する。この間に作業者は、上前側の縁および縁下折り、隅止め作業を手動で行ない、
作業完了後、押ボタンスイッチを手動操作にて押すことにより、平刺機は後退し、 畳を回転して畳の上前側を前記返し縫い機により返し縫いを行ない、
完了するとミシン装置は停止し、この間に作業者は下前側の縁および縁下折り、隅止め作業を行ない、
作業完了後、押ボタンスイッチを手動操作にて押すことにより、返し縫い機が後退して、 畳を回転させ畳の下前側を前記返し縫い機により返し縫いを行なう動作を実行するために、前記平刺機、前記返し縫い機、前記回転手段および畳床押し込み手段 を制御する制御手段と f を具備する畳縫着装置 (2) 同イ(構成要件B、C該当性)について 【被告の主張】 ア イ号物件は、原告の主張する構成の特定によっても、「載置された畳に平行する走行路を走行しながら、平刺しを行う平刺装置」と「返し縫いを行う返し縫い装置」を具備しており、構成要件B、Cを充足する。
イ 原告は、構成要件B、Cは「平刺しを行うミシンと返し縫いを行うミシンとを別々に設けたもの」に限定解釈されるべきであり、イ号物件は、「一体的に設けられた一頭式ミシン装置」であるから、構成要件B、Cを充足しないと主張する。しかし、「一頭式」「二頭式」なる用語はそもそも意味不明であるし、「一体的に設けられた一頭式ミシン装置」との記載は何らの具体的構成も特定していない。
原告が上記限定解釈がなされるべきであると主張する根拠は、本件明細書の特許請求の範囲では、構成要件B、Cが「行を改めて記載」されていることから、かかる改行によって「平刺機」と「返し縫い機」は「互いに独立した構成」のみに限定されたというものである。
しかしながら、構成要件B、Cについて行を改めて記載しようと、行を改めることなく記載しようと、本件発明の構成としては、構成要件B、Cとして記載されている構成を具備することを必須の要件とするだけのことにすぎず、両者の記載方法(改行の有無)により解釈の相違がもたらされるものではない。
ウ 原告は、イ号物件では平刺機と返し縫い機が「一体的」に設けられているとも主張するが、それは、イ号物件においては平刺機と返し縫い機をが一つの台座上に併置されているという意味にすぎない。走行用の車輪等の部品数の節約等の目的のために一つの台座上に併置することは、本件発明の実施の態様の一つにすぎない。
【原告の主張】 ア 本件発明は、構成要件BとCに個別に示されるように、平刺機と返し縫い機とがそれぞれ独立した「二頭式ミシン」による畳縫着装置に限定されたものである。これに対し、イ号物件は、平刺装置と返し縫い装置がミシン装置に一体的に組込まれた「一頭式ミシン」であり、本件発明と構成を異にする。
イ 「頭」とは、平刺しや返し縫いをする本体(畳縫着機)を表す用語として、当業界において周知慣用語であるが、本件明細書には、【0004】に「平刺しと返し縫いのための千鳥刺しとを行なう機構を一つに組み込んだミシン」(一頭式ミシン)、【0005】に「平刺しを行うミシンと返し縫いを行なうミシンとを別々に設け」たもの(二頭式ミシン)と記載されており、明細書において、一頭式ミシンと二頭式ミシンは明確に区別されている。
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1では、「載置された畳に平行する走行路を走行しながら平刺しを行う平刺機と、」と、「載置された畳に平行する走行路を走行しながら返し縫いを行う返し縫い機と、」は、行を改めて記載され、
「平刺機」と「返し縫い機」は互いに独立した構成として並列的に記載されているのであり、本件発明が「二頭式ミシン」に限定されていることは、本件明細書の【0004】及び【0005】の段落との対比より明らかである。
被告(出願人)は、従来技術として「一頭式ミシン」と「二頭式ミシン」とが存在していることを知りながら、そのうちの「二頭式ミシン」についてのみ特許請求の範囲に記載したのであるから、「一頭式ミシン」については意識的に除外したものと見るのが相当である。本件明細書の「実施の形態」の項にも、「二頭式ミシン」についてしか記載されておらず、本件発明が「一頭式ミシン」にも及ぶとの記載はない。
したがって、本件発明は「二頭式ミシン」に限定されたものであり、
「一頭式ミシン」は本件発明の技術的範囲に属しない。
(3) 同ウ(構成要件D該当性)について 【被告の主張】 イ号物件及びロ号物件の構成dは、構成要件Dと同一であり、これを充足する。原告主張の「畳床押し込み手段」などは、本件発明の実施に当たって適宜の手段を用いれば足りるものである。
【原告の主張】 本件発明は、「框縫いの済んだ畳を台座に載せるだけで、縁及び縁下紙の平刺しと返し縫いとを効率的な手順で自動縫着することができる畳縫着装置を提供」(本件明細書【0009】)することを目的とするものであり、構成要件Dにおいては、「固定手段」と「回転手段」とを有しさえすれば、「畳床押し込み手段」を有しなくても自動縫着できるものである。これに対し、イ号物件及びロ号物件においては、構成dにおける「畳床押し込み手段」を必須のものとしないと自動縫着できないから、構成要件Dとは構成を異にする。
(4) 同エ(構成要件E該当性)について 【被告の主張】 ア イ号物件が平刺機、返し縫い機、回転手段を制御する制御手段を具備していること、この制御手段による制御によって、畳縫着台に載置された畳の上前側が平刺機により平刺しが行なわれ、その後、畳が回転させられて、下前側が平刺機により平刺しが行なわれ、その後、畳が回転させられて上前側が返し縫い機により返し縫いが行なわれ、その後、畳が回転させられて下前側が返し縫い機により返し縫いが行なわれるとの動作が実行されるという構造を有することは、原告において自認している。
本件発明は、構成要件Eが、そこに記載されたとおり、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」との手順となるように、平刺機、返し縫い機、回転手段を制御する制御手段を具備することを必須要件とし、これによって、他方の辺の平刺し・返し縫いを自動的に行いながら、並行して作業者は、既に平刺しが済んだ辺について手作業によって折り返し隅止め工程を実施できるという極めて効率のよい作業をなし得ることを大きな特徴とするものである。このような動作手順が制御手段によって自動制御されている以上は、構成要件Eを充足するものであり、並行して行われる折り返し隅止めの手作業との関係で、平刺し・返し縫いが自動的に一時停止されるよう制御したり、折り返し隅止めを終了した作業者によるスイッチやフットスイッチなどで次の工程が開始されるよう制御したりすることは、実施の態様の問題にすぎない。本件明細書【0080】にも、「各工程ごとに作業者がスイッチやフットスイッチなどで信号を送り、その信号を受けて次の工程が開始されるように制御することもできる」と記載されている。
イ号物件は、少なくとも前記各動作に関しては、平刺機、返し縫い機、
回転手段を制御する制御手段によって、自動的に実行されているから、イ号物件の構成eは構成要件Eを充足する。
以上は、ロ号物件についても同じである。
イ 原告は、イ号物件(以下ロ号物件も同じ)は、作業途中において自動的に一時停止し、押しボタンスイッチの「手動操作」により次工程が開始されるものであり、手動操作を行わない限り、次工程は自動的に実行されないから、構成要件Eを充足しないと主張する。
しかしながら、イ号物件において自動的な一時停止と押ボタンスイッチによる次工程の開始がなされる場合とは、@畳の下前側の平刺しを自動的に行いながら、並行して平刺しの終了した畳の上前側の折り返し隅止めを作業者が手作業で行う場合に、作業者の手作業が終了していない間に畳の下前側の平刺しが完了した時には、平刺し機は自動的に一時停止を行い、作業者が手作業による折り返し隅止めを終了した時に押ボタンスイッチを押して次工程を開始させる、A畳の上前側の返し縫いを自動的に行いながら、並行して平刺しの終了した畳の下前側の折り返し隅止めを作業者が手作業で行う場合に、作業者の手作業が終了していない間に畳の上前側の返し縫いが完了した時には、返し縫い機は自動的に一時停止を行い、作業者が手作業による折り返し隅止めを終了した時に押ボタンスイッチを押して次工程を開始させるという二つの場合であり、作業者が折り返し隅止めの手作業を先に完了している場合には、作業者が押ボタンスイッチを押すことにより平刺し機あるいは返し縫い機は自動的な一時停止を行わず、直ちに次工程が自動的に開始される。
結局、イ号物件は、構成要件Eが必須要件とする手順の自動制御を具備した上で、単に、作業者が並行して行う折り返し隅止めの手作業の終了確認の信号が押ボタンスイッチで送られるまでは、次工程の開始を待つために制御装置によって自動的に一時停止せしめられるという、作業者の安全性等のために適宜付加される実施の一態様が加わったにすぎない。イ号物件は、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」との手順になるように平刺機、返し縫い機、回転手段を制御手段で自動的に制御することにより、「畳の一方の辺に対して平刺しまたは返し縫いを行ないながら、並行して、他方の辺の折り返し及び隅止めを手作業で……行なうことができる。そのため、縫着作業が滞ることなく進行し、作業能率が大幅に向上する。」(本件明細書【0096】)との本件発明の効果をそっくりそのままに奏しているのであり、構成要件Eを充足することは明らかである。
【原告の主張】 ア 本件発明の構成要件Eは、所定の動作を制御装置によって「自動的に実行する」ことを必須の要件としている。これに対し、イ号物件及びロ号物件は、作業途中において自動的に一時停止し、押しボタンスイッチの「手動操作」により次工程が開始されるものであり、手動操作を行わない限り、次工程は自動的に実行されないから、構成要件Eを充足しない。
イ また、本件発明では、必須の構成である「平刺機」、「返し縫い機」、
「固定手段」と「回転手段」を有する「畳載置台」及び「制御手段」により、「上前平刺し→回転→下前平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」という動作を自動的に実行して自動縫着するものである。これに対し、イ号物件及びロ号物件は、
「上前平刺し→回転→自動位置決め→下前平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」という動作を行い、下前平刺しの前に「自動位置決め」の工程が必須である。
このように、「回転」の動作のみで「自動位置決め」を行わなくても下前側の平刺しを自動縫着できるという本件発明の技術と、「回転」のみの動作では縫着作業ができないというイ号物件及びロ号物件の技術とでは、技術的思想が相違しており、イ号物件及びロ号物件は、本件発明の技術的範囲に属しない。
ウ 被告は、構成要件Eの「動作を自動的に実行する」の解釈について、
「各工程ごとに作業者がスイッチやフットスイッチなどで信号を送り、その信号を受けて次の工程が開始されるように制御することもできる」との本件明細書【0080】の記載を援用して、並行して行われる折り返し隅止めの手作業との関係で、
平刺し・返し縫いが自動的に一時停止されるよう制御したり、折り返し隅止めを終了した作業者によるスイッチやフットスイッチなどで次の工程が開始されるよう制御したりすることは、実施の態様の問題にすぎないと主張する。
しかし、各工程ごとに作業者がスイッチやフットスイッチなどで信号を送り、その信号を受けて次の工程が開始されるように制御することは、緊急時に緊急停止スイッチを操作して機械を停止させた後、リセットスイッチを操作して、機械を再起動させるような場合とは意味が異なり、まさしく「手動操作」であり、次工程は、「自動的に実行される」のではなく、「手動操作により実行される」のである。
さらに、被告は、本件訂正の請求をした訂正請求書において、「本件発明は、明細書の【0009】に記載した「框縫いの済んだ畳を台座に載せるだけで、縁及び縁下紙の平刺しと返し縫いとを効率的な手順で自動縫着することができる畳縫着装置を提供すること」を目的としているにも拘わらず特許請求の範囲の請求項1に記載の発明の装置によっては、框縫いの済んだ畳を台座に載せるだけで、
平刺しと返し縫いとを自動的に行なわせるための構成要件が欠如し、「手動により操作するもの」を包含していたので、前記目的を達成するために必要な構成要件の『動作を自動的に実行するために、平刺機、返し縫い機および回転手段を制御する制御手段』を具備する点を明確にする訂正を行なう。」と主張しており、本件訂正により追加された「自動的に実行する」という要件は、「手動により操作するもの」を意識的に除外したものである。
エ 被告は、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」という「手順」の自動制御がなされている以上、構成要件Eを充足すると主張し、
イ号及びロ号物件は、構成要件Eが必須とする手順の自動制御を充足した上で、単に作業者が平行して行う折り返し隅止めの手作業の終了確認の信号が押ボタンスイッチで送られるまでは、次工程の開始を待つために制御装置によって一時的に停止せしめられるだけのものにすぎないと主張する。
しかし、本件発明の「特許請求の範囲」の記載は「……行なう動作を自動的に実行する」というもので、「手順を自動制御」するものではないから、手順が同じであっても、その動作が自動的に行われないものは、本件発明の技術的範囲に属しない。しかも、イ号物件及びロ号物件の構成eでは、「上前平刺し→回転→自動位置決め→下前平刺し」という本件発明にはない手順を有し、かつ、作業途中に押ボタンスイッチの手動操作を行わない限り、「……行なう動作を自動的に実行する」ものではないので、構成要件Eを充足するものではない。
2 同(2)(先願の抗弁等)について 【原告の主張】 イ号物件及びロ号物件は、本件発明より先願(平成5年5月11日出願)である原告の有する特許第2535491号の特許権に係る畳の自動位置決めの技術に関する特許発明(以下「原告発明」といい、その特許権を「原告特許権」という。)の実施品であるから、後願である本件特許権を侵害することはない。
当業界では、「平刺機」、「返し縫い機」、「両用機」はそれぞれ周知であり、平刺機で採用可能な構成は両用機でも採用可能であるので、原告は、平刺機の「ロボオート」(平成5年の発売)に採用した原告発明を両用機に転用し、「スーパーロボ」(イ号物件、ロ号物件)として製造販売した。平刺機の「ロボオート」と両用機の「スーパーロボ」は、原告発明の実施品に変わりはない。「スーパーロボ」の当初の製品は「二頭式」(ロ号物件)であったが、被告からの警告を受け、本件特許を尊重して、原告は「一頭式」(イ号物件)に設計変更した。一頭式のイ号物件は、原告発明の実施品であり、しかも、原告の有する過去の技術の組み合わせであるから、原告にとっては自由技術である。
【被告の主張】 原告発明は、平刺し専用機に関する「畳のクセ取り逢着方法及び畳縫着機」の発明にすぎず、本件発明の構成要件とは異なるものであるから、先願の抗弁は成り立つ余地がない。
原告は、本件特許出願前には、本件発明の構成要件をすべて充足する畳縫着装置を開発しておらず、個々別々の特定構造をもった製品を販売していただけであるから、イ号物件が原告の自由技術であると主張する余地はない。しかも、原告が本件特許権の侵害物件を製造販売するに至ったのは、平成5年の「ロボオート」販売から5年も経過した平成10年が最初であり、5年もかかる技術が「自由技術」などではあり得ない。
この間、被告は、平成7年4月、本件発明の実施品である「両用ロボットTRA-T」を公然と販売し、平成8年4月16日、本件発明が出願公開された。
このような事実経過から明らかなとおり、原告は、被告実施品及び本件特許の出願公開に接してはじめて、最初の侵害物件であるロ号物件を製造することができたのであり、被告からの警告を受けて、自らロ号物件の製造販売を中止している。
イ号物件は、ロ号物件について、平刺機と返し縫い機を「一つの台座上に併置する」とのわずかな設計変更を加えたものにすぎないから、イ号物件が原告の自由技術であるとはいえない。
3 争点(3)(本件特許には明らかな無効理由が存在するか)について (1) 同ア(本件訂正の違法)について 【原告の主張】 本件訂正は、次のとおり、特許法120条の4第3項で準用する同法126条2、3項の規定に違反してされたものであるから、同法123条1項8号に該当し、明らかな無効理由がある。
ア 本件発明は、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」の手順となるように畳縫着装置を自動制御することが目的ではなく、このような手順の自動化を阻んでいる要因を除去することが目的であった。そもそも、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」という手順は、周知慣用の手順であり、このような手順を自動制御する点に発明としての新規性は認められない。
そして、平刺しと返し縫いを行う「両用機」における自動化を阻んでいた問題点は、上前側を平刺しした後、畳を180度回転させて下前側の平刺しを行う際の畳の位置決めを自動的に行うことができなかった点にあり、被告も、本件明細書【0008】において、「また、畳の上前側の縫着が済んだ後には、下前側の縫着のためのセットを同じように手作業で行わなければならなかった。このように従来の両用機は、十分に自動化されているとは言えないという問題点がある。」と記載するなど、両用機において自動化を阻んでいる要因が「畳の水平方向の位置決め技術」にあることを認識していた。
しかし、「畳の水平方向の位置決めを自動化する」技術に関しては、原告特許権が存在するため、被告は、本件訂正において、畳の自動位置決めに関する事項を限定することができず、従来技術を単に自動化した「制御手段」を限定せざるを得ず、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」の手順となるよう自動制御するものに目的を変更した。その結果、本件訂正は、特許法120条の4第3項で準用する同法126条3項に違反するものとなった。
イ また、本件訂正により追加された「制御手段」は、平刺し機、返し縫い機及び回転手段を制御するものとされている。しかし、本件明細書を精査すれば、
制御手段は、本件発明の構成要件である「畳固定手段」も制御するものであり、畳固定手段を制御しないものは本件訂正前の明細書には開示されていない。しかるに、本件訂正後の特許請求の範囲に記載された制御手段は、「畳固定手段」を制御対象から除いたため、「畳固定手段を制御しないもの」(畳の固定を手動操作で行うもの)も包含することになった。このようなものも含む記載は「新規事項を追加する」ものであるから、本件訂正は、特許法120条の4第3項で準用する同法126条2項の「新規事項追加の禁止」に違反する。
【被告の主張】 ア 本件発明は、出願当初から「框縫いの済んだ畳台座に載せるだけで、縁及び縁下紙の平刺しと返し縫いとを効率的な手順で自動縫着することができる畳縫着装置を提供する」ことを目的としており(本件明細書【0009】)、本件訂正において目的の変更は存在しない。
本件発明による畳縫着装置が、「制御装置」によって「畳の上前側を平刺し→畳を回転→畳の下前側を平刺し→畳を回転→畳の上前側を返し縫い→畳を回転→畳の下前側を返し縫い」するとの手順で動作を行わせるものであることは、本件明細書の【0043】〜【0080】に出願当初から記載されており、本件訂正は、特許請求の範囲減縮に該当するものであって、特許請求の範囲を実質的に変更するものではない。
イ 本件訂正が「新規事項の追加」になるという原告の主張は論旨自体が不明瞭であるが、いずれにせよ、特許異議の申立についての決定(乙1)のとおり、
「願書に添付した出願当初の明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、
特許請求の範囲減縮と、明瞭でない記載釈明に該当し、実質的に特許請求の範囲拡張または変更するものではない」との特許庁による判断が、既に明確に示されているところである。
(2) 同イ(全部公知)について 【原告の主張】 ア 本件特許出願日前に頒布されていた株式会社キビ製のカタログ(甲5)には、全自動の両用機が開示されている。
原告発明の実施品である「東海ロボオート」(甲6)は、平成5年の「たたみ博」に出展され、発売されたから、原告発明の特許出願の内容は、その公開特許公報(甲22)発行の前で、かつ本件特許出願日前に公知であった。すなわち、本件発明の構成要件Eのうち「畳縫着台に載置された畳の上前側を平刺機により平刺しを行ったのち、畳を回転して下前側を平刺機により平刺しを行う動作を自動的に実行するために、平刺機及び回転手段を制御する制御手段」という構成は、
公知であった。
一方、実公昭51-44579号実用新案公報(甲19)には、平刺しと返し縫いを行う「両用機」が開示され、かつ、本件発明の構成要件Eの「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」の手順が示唆されている。そして、前記株式会社キビのカタログ(甲5)には、「ボタンを押すだけで止め縫いから本縫いまでの一連の作業がすべて自動運転」と記載されている。
さらに、本件特許出願当時、平刺し専用機、返し縫い専用機、及び平刺しと返し縫いの機能を備えた両用機は周知のものであり(本件明細書【0003】〜【0007】)、平刺機の構成を両用機に転用することは単なる転用にすぎず、
平刺機で公知の構成は両用機でも公知であるとみなされる。
以上の事実から、本件発明の構成要件A〜Fの構成は、本件特許出願前に全部公知である。
イ 本件発明は、原告が本件特許出願前から製造販売していた畳縫着装置「ミニロボシステム」の構成と同一である。
(ア) 原告は、平成5年、数値制御により畳の自動位置決めを行う技術である原告発明を完成して特許出願した。原告発明は、畳の自動位置決め技術に関するパイオニア発明であり、その実施品である平刺し専用機「東海ロボオート」(甲6)は、平成5年の「たたみ博」において、「ミニロボシステム」の一構成機種として出展された(甲21)。
(イ) ミニロボシステムは、框縫機である「ホープGAM」(甲29)、平刺機である「東海ロボオート」(甲6)及び返し縫い機である「東海ロボエース」(甲27)からなる生産ラインシステムであり(甲28)、複数の機械から構成される「畳縫着装置」である。
ミニロボシステムでは、框縫機により畳の框縫いが行われ、框縫いが済んだ畳は平刺機にセットされ、この平刺機によって「上前平刺し」→「回転」→「下前側の自動位置決め」→「下前平刺し」と「上前の縁折り」の工程が行われる。平刺しが済んだ畳は、返し縫い機にセットされ、返し縫い機により「上前側の返し縫い」と「下前側の縁折り」→「回転」→「下前側の自動位置決め」→「下前側の返し縫い」の工程が行われる。このように、ミニロボシステムでは、本件発明の作業手順である「上前平刺し」→「回転」→「下前側の自動位置決め」→「下前平刺し」と同時に「上前の縁折り」→「回転」→「上前側の返し縫い」と「下前側の縁折り」→「回転」→「下前側の自動位置決め」→「下前側の返し縫い」という工程が行われていた。
(ウ) 被告は、前記ミニロボシステム(畳縫着装置)が公開された後の平成6年、ミニロボシステムと同じ作業手順を1台の両用機で行う本件発明を出願したが、当初出願の特許請求の範囲は、1台の両用機のみならず、平刺機と返し縫い機とからなるミニロボシステム(畳縫着装置)をも含む内容であった。さらに、本件訂正後の本件発明の内容も、ミニロボシステム(畳縫着装置)そのものである。
すなわち、本件訂正後の本件発明においても、1台の両用機で作業を行うとは限定しておらず、平刺機と返し縫い機とにより行う作業も包含している。
(エ) また、ミニロボシステムにおけるロボオートとロボエースの配置は、両者を対向配置するものに限られず、合隣接して直線状に配置することも可能であり、このようなものは、本件発明の出願日前に群馬製畳有限会社において稼働していたから、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」の工程は公然実施されていた。
(オ) したがって、本件発明は、公知の工程手順を単に自動化したにすぎず、全部公知の発明である。
【被告の主張】 ア 株式会社キビのカタログ(甲5)には、少なくとも構成要件Eについて記載も示唆もなされておらず、甲6は単なる平刺し専用機のカタログにすぎないから、甲5、6により本件発明が出願前に全部公知であるという原告の主張は根拠がない。
また、実公昭51-44579号実用新案公報(甲19)は、畳の方向転換と入れ替え装置に関する技術を示すものにすぎず、本件発明の構成要件Eにいう「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」の手順は、記載も示唆もされていない。
イ 「ミニロボシステム」は、原告の主張によっても、生産ラインシステムであり、そもそも単体の畳縫着装置ですらなく、框縫機と、自動反転式の平刺専用畳縫着装置のロボオートと、自動反転式の返し縫い専用畳縫着装置のロボエースと、各々の装置の間に畳を手で移動させるためのコンベアとからなるものである。
しかも、その作業は、框縫機で框縫いを行った後、手作業でコンベアを用いて畳を運んでロボオートの畳縫着台上に移し、ロボオートで平刺しを行った後に、手作業でコンベアを用いて畳を運んでロボエースの畳縫着台上に移し、ロボエースによって返し縫いを行うというものである。
また、システムの配置についてみれば、ロボオートの畳縫着台上の畳をコンベアによってロボエースの畳縫着台上に移動せしめるため、ロボオートの畳縫着台とロボエースの畳縫着台とがコンベアを介して向き合うように配置され、その結果、ロボオートの平刺しミシンは向かって左側の端になり、ロボエースの返し縫いミシンは向かって右側の端になるように配置されている(ロボオートに向かっている作業者はロボエースに背を向けて立っているという位置関係である。)。
このような複数の畳縫着装置とコンベアとを特定の位置関係に配置してなるミニロボシステムは、単体の畳縫着装置に係る本件発明の構成とは全く異なるものである。
(3) 同ウ(特許法29条の2違反)について 【原告の主張】 本件発明は、本件発明の特許出願日より前に特許出願され、本件発明の特許出願後に公開された出願に係る願書に最初に添付した明細書に記載された発明である原告発明と実質的に同一であるから、特許法29条の2により特許を受けることができないものであり、本件特許は無効理由がある。
【被告の主張】 原告発明の特許出願に係る明細書には、畳の上前側を平刺しすること、方向転換機により方向転換すること、畳の下前側を平刺しすることのみが記載されており、原告発明と本件発明との間には実質的同一性は存しない。
(4) 同エ(発明未完成)について 【原告の主張】 本件発明は、「平刺しと返し縫いとを効率的な手順で自動縫着することができる畳縫着装置を提供」(本件明細書【0009】)することを目的とするが、
効率的な手順などは重要ではなく、畳の自動位置決め技術が重要なのである。本件発明が解決しようとする課題で重要なのは、「畳の上前側の縫着が済んだ後には、
下前側の縫着のためのセットを同じように行わなければならなかった。このように従来の両用機は、十分に自動化されているとはいえないという問題点がある。」(本件明細書【0008】)という点であった。すなわち、作業手順よりも、畳の自動位置決め技術の問題を解決しなければ自動化が達成できないのである。本件発明の「畳を回転して下前側を平刺機により平刺しを行ない」という工程においては、「畳の自動位置決め」を行わないと、この工程の自動化を達成することができないのである。そして、この「畳の自動位置決め」の問題は、原告発明を利用することにより初めて解決できるものである。
本件発明は、「畳の自動位置決め」という自動化のための必須の構成を欠如しているので、発明の目的を達成することができない未完成発明である。したがって、本件特許は、特許法29条1項柱書違反の無効理由を有する。
【被告の主張】 畳の自動位置決めについては、本件発明の実施において適宜の手段を用いれば足りるのであるから、本件発明は発明未完成ではない。
4 争点(4)(本件文書配付等は虚偽事実の告知、流布に当たるか)について 【原告の主張】 本件警告文中の「他社」が原告を指すことは当業界では自明であり、本件挨拶文中の「某メーカー」が原告を指すことも明らかである。
イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属さないから、イ号物件が本件特許権を侵害する旨の被告の本件文書配付等は、虚偽の事実の告知、流布に当たり、不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為に該当する。
【被告の主張】 争う。被告は、原告を名指しで、本件特許権の侵害品を販売していると公然と摘示するような行為をしたことはない。
5 争点(5)(原告の損害額等) 【原告の主張】 ア 被告は、イ号物件の製造販売が本件特許権を侵害しないことを知りながら、又は過失により知らないで、本件文書配布等をして原告の業務上の信用を著しく低下させたから、原告は被告に信用回復措置として謝罪広告の掲載を求めることができる。
イ 被告は、原告に対し再三警告を行い、原告が話し合いによる解決を目指したにもかかわらず話し合いを拒否し、東京地方裁判所において法的措置を直ちに講じると最後通告をした。そこで、原告はやむなく本訴を提起したものであり、本訴提起に要した弁護士、弁理士費用400万円が原告の被った損害である。
【被告の主張】 争う。
6 争点(6)(被告の損害額)について 【被告の主張】 (1) 逸失利益ー主位的請求(特許法102条1項に基づく請求) ア 原告による販売数量 (ア) イ号物件 原告は、イ号物件を本件特許登録後の平成10年9月から販売し、平成12年7月末までに、イ号物件単体を1台780万円で少なくとも120台販売した。
また、原告は、イ号物件に東海マイコン両框裁断機付框縫機を組み合せたセット(以下「イ号物件セット」という。)を平成10年9月から平成12年7月末日までに、1セット1500万円で少なくとも30セット販売した。
(イ) ロ号物件 原告は、ロ号物件を平成10年3月から同年8月末日までに、1台780万円で少なくとも10台販売した。
イ 被告の利益の額と製造能力 (ア) ロ号物件、イ号物件及びイ号物件セットに対応する被告が製造販売する本件発明の実施品は、次のとおりである。
a 平成10年3月ないし同年8月 「両用ロボットTRA-U」 b 平成10年9月ないし平成12年7月 「両用ロボットV」及びこれに両框裁断機付框縫機を組み合わせたセット(「スーパーミニライン」、以下「被告セット」という。) (イ) 上記各期間における被告製品の販売による利益額は次のとおりである。
a 被告の「両用ロボットTRA-U」の1台当たりの利益の額は、少なくとも168万7862円である。
b 被告の「両用ロボットV」の1台当たりの利益の額は、少なくとも170万1227円である。
c 被告の被告セットの1セット当たりの利益の額は、469万7396円である。
(ウ) 被告は、ロ号物件に対応する「両用ロボットTRA-U」、イ号物件に対応する「両用ロボットV」、イ号物件セットに対応する被告セットを、それぞれロ号物件、イ号物件、イ号物件セットの各販売数量と同数製造する製造能力を有していた。
ウ 被告の損害額 (ア) 原告によるロ号物件の製造販売行為によって被告が被った損害の額は、ロ号物件の販売台数10台に、被告製品である「両用ロボットTRA-U」の1台当たりの利益の額168万7862円を乗じた、1687万8620円である。
(イ) 原告によるイ号物件単体の製造販売行為によって被告が被った損害の額は、イ号物件の販売台数120台に、被告製品である「両用ロボットV」の1台当たりの利益の額170万1227円を乗じた、2億0414万7240円である。
(ウ) 原告によるイ号物件セットの製造販売行為によって被告が被った損害の額は、上記侵害セットの販売数量30セットに、被告セットの1セット当たりの利益の額469万7396円を乗じた1億4092万1880円である。
(エ) 上記損害の合計は3億6194万7740円であり、被告は、内金2億2770万円を特許法102条1項に基づく逸失利益相当損害として、原告に対し、その賠償を請求する。
(2) 逸失利益ー予備的請求(特許法102条2項に基づく請求) ア 原告によるイ号物件、ロ号物件及びイ号物件セットの販売数量は、前記(1)アのとおりである。
イ 原告の得た利益の額 (ア) 原告がロ号物件の製造販売行為によって得た利益の額は、1台当たり、少なくとも販売価格の15%の117万円であり、ロ号物件10台の製造販売行為によって原告が得た利益の額は、合計1170万円である。
(イ) 原告がイ号物件単体の製造販売行為によって得た利益の額は、1台当たり、少なくとも販売価格の15%の117万円であり、イ号物件単体120台の製造販売行為によって原告が得た利益の額は合計1億4040万円である。
(ウ) 原告がイ号物件セットを製造販売して得た利益の額は、1セット当たり、少なくともセット販売価格の15%の225万円であり、前記セットを30セット製造販売して原告が得た利益の額は6750万円である。
(エ) よって、上記利益の額の合計額である2億1960万円は、特許法102条2項により被告の損害の額と推定される。
(3) 弁護士・弁理士費用相当損害金 本件事案の性質等に鑑み、原告による侵害行為の差止め及び損害賠償請求のために要した弁護士・弁理士費用のうち、少なくとも2000万円は、本件特許権侵害行為と相当因果関係のある損害である。
【原告の主張】 イ号物件及びロ号物件の製造販売数量は、前記第2の1の(3)記載の限度で認め、ロ号物件に対応する被告の本件発明の実施品「両用ロボットTRA-U」及びイ号物件に対応する被告の本件発明の実施品「両用ロボットV」の各1台当たりの販売による利益が被告主張のとおりであることは認め、その余は争う。
当裁判所の判断
1 原告の差止請求不存在確認請求について 原告は、本訴において、別紙原告物件目録記載のイ号物件について被告が原告に対し本件特許権に基づいて製造販売の差止めを求める権利を有しないことの確認を求めている。しかし、同一の物件について、被告は反訴で原告に対し本件特許権に基づき製造販売の差止めを請求しているから、同一の訴訟物について消極的確認請求と給付請求が並立することになった以上、原告の確認請求の訴えは、確認の利益を欠くに至ったものというべきである。
2 争点(1)(イ号物件及びロ号物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 同ア(イ号物件及びロ号物件の構成)について イ号物件及びロ号物件の構成については、原・被告間に争いがある。そこで、両者を対比すると、イ号物件の構成において、平刺機及び返り縫い機が一体になったもの(原告のいう一頭式)であることを明示するように表現する必要があるかどうかの点を除けば、被告の主張するイ号物件及びロ号物件の構成に対し、原告は、本件発明の特許請求の範囲の記載に対応する構成以外に、技術的範囲の属否に関する自己の主張のために必要であると考える構成を付加しているものにすぎず、
被告の主張する構成自体を備えていることは、事実上争いがないといえる。そこで、以下の技術的範囲の属否の判断においては、被告主張の構成を基礎として、属否の判断に必要な限度で原告が主張する付加的な構成についても検討することとする。
(2) 同イ(構成要件B、C該当性)について ア 本件発明の構成要件B及びCは、畳縫着装置が「載置された畳に平行する走行路を走行しながら平刺しを行なう平刺機」(構成要件B)及び「載置された畳に平行する走行路を走行しながら返し縫いを行なう返し縫い機」(構成要件C)を具備することを要件とするものである。
イ号物件については、原告においても、「載置された畳に平行する走行路を走行しながら、平刺しを行なう平刺装置と、返し縫いを行なう返し縫い装置を一体的に設けた一頭式ミシン装置」が存在することは認めるところであり、別紙原告物件目録添付の図面の記載及び乙2によれば、イ号物件は、一台の畳縫着装置の走行路上に平刺機(平刺装置)と返り縫い機(返り縫い装置)が併置結合されていることが認められる。ここにいう「平刺装置」と「返し縫い装置」は、それぞれ平刺しと返し縫いを行うものであるから、本件発明にいう「平刺機」と「返し縫い機」に当たることは明らかである。したがって、イ号物件は本件発明の構成要件B及びCを充足する。
イ 原告は、本件発明の畳縫着機は、平刺機と返し縫い機とがそれぞれ独立した「二頭式ミシン」によるものに限定されると主張し、その根拠として、明細書の特許請求の範囲の記載において、構成要件Bの部分と構成要件Cの部分の間で改行していることを挙げるが、明細書に特許請求の範囲を記載するに当たって行を改めて記載したからといって、直ちに、改行の前後に記載された装置を互いに独立した別体のものに限定して解釈しなければならない理由はない。明細書の特許請求の範囲の記載の文言上は、原告主張のように解しなければならない根拠はない。
ウ また、本件明細書の第1実施例(図1、2)には平刺機と返し縫い機を別体とした畳縫着装置(原告のいう二頭式ミシン)が示されているが(甲2)、本件明細書の「発明の詳細な説明」を参酌しても、本件発明の構成要件B、Cを、前記第1実施例に限定して解釈しなければならないとする根拠はない。
この点について、原告は、本件明細書には【0004】に「平刺しと返し縫いのための千鳥刺しとを行なう機構を一つに組み込んだミシン」、【0005】に「平刺しを行なうミシンと返し縫いを行なうミシンとを別々に設け」たものという記載があり、明細書において、一頭式ミシンと二頭式ミシンは区別されていると主張する。
しかしながら、甲2によれば、原告が挙示する本件明細書の【0004】【0005】の段落は、いずれも、【従来の技術】の項で、「平刺しや返し縫いの縫着を一台の装置で自動化する工夫が行なわれている。」(【0003】)、「こうした平刺しと返し縫いとを一台でこなす畳縫着装置は、畳業界では両用機と呼ばれている。」(【0007】)とされている従来技術の両用機の例として記載されているものであり、本件発明は、「従来の両用機は、十分に自動化されているとは言えないという問題点」(【0008】)があったので、これを解決するために、
「框縫いの済んだ畳を台座に載せるだけで、縁及び縁下紙の平刺しと返し縫いとを効率的な手順で自動縫着することができる畳縫着装置を提供」(【0009】)することを目的としてされた発明であると認められる。以上によれば、本件発明は、
従来技術の両用機には、平刺機と返し縫い機が一体に設けられたミシン(原告のいう一頭式ミシン)と、平刺し機と返し縫い機を別々に設けたミシン(原告のいう二頭式ミシン)の両方が存在したことを前提として、これら両用機が十分に自動化されていなかったという問題点を解決しようとしたものであって、特に一頭式ミシンと二頭式ミシンとを区別して一方のみを発明の対象としたものとは解されず、一頭式ミシンを意識的に除外したものと見ることはできない。
原告の主張は採用できない。
(3) 同ウ(構成要件D該当性)について イ号物件及びロ号物件の構成dは、いずれも「走行路に臨む位置に畳を固定する畳固定手段」、「畳を回転して畳の縫着すべき辺を走行路側に移す回転手段」及び「畳を載置する畳縫着台」を具備するものであるから、イ号物件及びロ号物件は、いずれも構成要件Dを充足する。
この点につき、原告は、イ号物件及びロ号物件の構成dとして、「畳床押し込み手段」及び「該押し込み手段の位置を検出する検出センサー」が存在するとし、イ号物件及びロ号物件においては、「畳床押し込み手段」を必須のものとしないと自動縫着できないから、本件発明とは構成を異にする旨主張する。しかしながら、本件発明は、原告も主張するような前記の目的(本件明細書【0009】)を達成するために特許請求の範囲記載の構成を必須のものとして採用したものであり、本件発明を実施するに当たって更に具体的な適宜の手段を採用することは当然のことであって、畳の位置決めについても、実施において適宜の手段を用いれば足りるものというべきである。したがって、イ号物件が、本件発明の特許請求の範囲には記載のない「畳床押し込み手段」や「該押し込み手段の位置を検出する検出センサー」を備えているからといって、本件発明と構成を異にするとはいえない。原告の主張は採用できない。
(4) 同エ(構成要件E該当性)について ア イ号物件及びロ号物件の構成eは、原告の主張するところによっても、少なくとも、@畳縫着台に載置された畳の上前側を平刺装置(平刺機)により平刺しを行った後、A畳を回転し、B下前側を平刺装置(平刺機)により平刺しを行ない、C畳を回転し、D畳の上前側を返し縫い装置(返し縫い機)により返し縫いを行ない、E畳を回転し、F畳の下前側を返し縫い装置(返し縫い機)により返し縫いを行う、という順序で動作が実行されること、G平刺装置(平刺機)、返し縫い装置(返し縫い機)及び回転手段を制御する制御手段を備えていることが認められる。
そうすると、イ号物件及びロ号物件は、少なくとも、「上前側平刺し→回転→下前側平刺し→回転→上前側返し縫い→回転→下前側返し縫い」という一連の動作については、制御手段によって自動的に実行されているということができる。
イ 原告は、イ号物件及びロ号物件は、作業途中において自動的に一時停止し、押しボタンスイッチの「手動操作」により次工程が開始されるものであり、手動操作を行わない限り、次工程は自動的に実行されないから、構成要件Eの「自動的に実行する」との要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件発明(特許請求の範囲の請求項1)自体は、構成要件Eに記載された前記の動作を自動的に実行するために平刺機、返し縫い機及び回転手段を制御する制御手段を設けたものであって、それ以外の作業、すなわち縁及び縁下紙の折り返し工程及び隅止め工程を自動的に行うことを構成要件にしたものではない(そのような工程を自動化した畳縫着装置は特許請求の範囲第9項に記載されている。)(甲2、3)。
加えて、本件明細書の「発明の詳細な説明」には、本件発明の第1実施例の説明として、「クランプが完了した後、作業者は、……平刺機2による下前側の縫着作業と並行して、平刺しが終了した上前側の縁6及び縁下紙7の折り返し作業と隅止め作業とを行なう。」(【0058】)、「作業者は、……返し縫い機3による上前側の返し縫い作業と並行して、平刺しの終了した下前側の縁6及び縁下紙7の折り返し作業と隅止め作業とを行なう。」(【0067】)、「第1実施例の畳縫着装置では、縁及び縁下紙の折り返し及び隅止めの工程を手作業に頼るだけで、その他の工程を全て自動化することができる。」(【0079】)、「各工程ごとに作業者がスイッチやフットスイッチなどで信号を送り、その信号を受けて次の工程が開始されるように制御することもできる。」(【0080】)との記載があり、さらに、本件明細書の「発明の効果」の項には、「この畳縫着装置では、畳の一方の辺に対して平刺しまたは返し縫いを行ないながら、並行して、他方の辺の折り返し及び隅止めを手作業で、または機械的に行なうことができる。そのため、
縫着作業が滞ることなく進行し、作業効率が大幅に向上する。」(【0096】)との記載がある(甲2)。
以上の本件明細書の記載に照らすと、畳の縁及び縁下紙の折り返し工程及び隅止め工程を手作業で行うもの、作業者によるスイッチ操作により次工程が開始されるものも、本件発明において予定されているということができ、本件発明においては、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」との手順が自動制御されておれば足りると解すべきである。
ウ 原告は、イ号物件及びロ号物件においては、下前平刺しの前に「自動位置決め」の工程が必須であるから、そのような工程なしに畳の自動縫着をする本件発明とは技術的思想が異なると主張する。しかし、先に構成要件Dの充足性の判断で述べたのと同じく、「自動位置決め」といった工程も、本件発明の実施に当たって適宜の手段を採用すればよいものというべきであるから、原告の主張は理由がない。イ号物件及びロ号物件も、前記アで述べた構成を備えることにより、前記の本件発明の効果を奏するものと認められる。
したがって、イ号及びロ号物件は、構成要件Eを充足するというべきである。
エ 原告は、本件訂正によって追加された「自動的に実行する」という要件は、「手動により操作するもの」を意識的に除外したものであると主張する。
本件発明の「……動作を自動的に実行する」ために「制御手段」を設ける構成は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1にはなく、本件訂正で加えられたものである(前記第2の1(1)イ、ウ参照)。そして、本件請求に係る訂正請求書(甲3)には、訂正の原因として、原告が指摘するような記載がある。しかし、前記訂正請求書の記載に照らすと、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「框縫いの済んだ畳を台座に載せるだけで……平刺と返し縫いとを効率的な手順で自動縫着することができる畳縫着装置を提供」(本件明細書【0009】)することを目的としながら、これらを自動的に行わせる構成の記載が欠如していたため、これらの動作を「手動により操作するもの」も包含することになっていたので、本件訂正は、「……動作を自動的に実行する」ために「制御手段」を設ける構成を明確にする訂正を行ったものと認められ、構成要件Eに記載された動作以外の工程もすべて自動化することを目的としたものとは解されないから、本件訂正によって「手動により操作するもの」をすべて意識的に除外したものとは認められない。
(4) 以上の認定と前記第2の1(1)ウの事実によれば、イ号物件及びロ号物件は、いずれも本件発明の構成要件AないしEを充足する畳縫着装置(構成要件F)であるから、本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。
3 争点(2)(先願の抗弁等)について 原告は、イ号物件及びロ号物件は、先願である原告発明の実施品であるから、
後願である本件特許権を侵害することはないと主張する。しかし、仮にイ号物件及びロ号物件が本件発明より先願の特許発明実施するものであったとしても、それだけで直ちに本件特許権を侵害しないことになるわけではない。原告の主張する先願の抗弁なるものが成り立ち得る場合があるとしても、それは、先願の原告発明と本件発明とが同一の場合に限られるというべきところ、甲4によれば、原告発明は「畳のクセ取り縫着方法及び畳縫着機」の発明であって、その特許請求の範囲に記載された発明の構成は本件発明と異なるものであることが明らかである。したがって、原告の主張は採用できない。
さらに、原告は、イ号物件は、原告発明の実施品であるとともに、本件特許出願前から公知である原告の有する過去の技術の組み合わせであるから、原告にとっては自由技術であると主張する。
原告の上記主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、その主張によっても、イ号物件は、原告が本件特許出願前から製造販売をしていた原告製品に使用されていた技術を組み合わせたものであるというのであって、イ号物件が本件特許出願時の公知技術と同一であるというわけではなく(なお、本件特許出願時に本件発明の構成をすべて備えた畳縫着装置が公知であった事実が認められないことは、後記4(2)で示すとおりである。)、本件特許出願時の公知技術から当業者が同出願時に容易に推考できたものであることの立証もないから、原告の主張は採用の限りでない。
4 争点(3)(本件特許権には明らかな無効原因が存在するか)について (1) 同ア(本件訂正の違法)について ア 本件特許登録時の本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)及び本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1)は、前記第2の1(1)イ、ウのとおりである。
これによれば、本件訂正は、特許登録時の本件明細書の特許請求の範囲に、「畳の上前側の平刺し→回転→下前側の平刺し→回転→上前側の返し縫い→回転→下前側の返し縫い」という一連の動作を「自動的に実行する」ために、「平刺機、返し縫い機及び回転手段を制御する制御手段」という構成を付加したものであり、これによって、特許請求の範囲減縮したものということができる。また、前記2(4)エで認定したところからすれば、本件訂正は、明瞭でない記載釈明に当たるということもできる。
そして、甲2によれば、特許登録時の明細書の「発明の詳細な説明」には、「発明が解決しようとする課題」として、従来の両用機では、準備の整った畳を手作業で台座に位置合わせしてセットする必要があり、また、畳の上前側の縫着が済んだ後には、下前側の縫着のためのセットを同じように手作業で行わなければならず、十分に自動化されているとはいえないという問題点があったことを指摘し(【0008】)、本件発明は、このような課題を解決するため、「框縫いの済んだ畳を台座に載せるだけで、縁及び縁下紙の平刺しと返し縫いとを効率的な手順で自動縫着することができる畳縫着装置を提供」するところに目的がある(【0009】)と記載されていたこと、実施例の説明として、「畳縫着台1、平刺機2及び返し縫い機3の各部の動作は、制御装置(図示せず)により制御される。制御装置は、操作者が入力部から設定した畳の寸法や畳の枚数に応じて、各部の動作を制御する。」(【0040】)とした上で、「制御装置」によって「畳の上前側を平刺し→畳を回転→畳の下前側を平刺し→畳を回転→畳の上前側を返し縫い→畳を回転→畳の下前側を返し縫い」するとの手順で動作を行わせるように制御されることが具体的に記載されていた(【0043】〜【0080】)ことが認められる。したがって、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の構成は、訂正前の明細書に記載されていたものであり、本件訂正は、「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」(特許法120条の4第3項で準用する同法126条2項)のものであり、かつ、「実質上特許請求の範囲拡張し、又は変更するもの」ではない(同法126条3項)ということができる。
イ この点につき、原告は、本件発明は、当初「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」という手順の自動化を阻んでいる要因を除去することが目的であったが、「畳の水平方向の位置決めを自動化する」技術として原告発明が存在するため、「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」の手順となるように自動制御するものに変更せざるを得なかったのであり、その結果、本件訂正は特許法120条の4第3項で準用する同法126条3項に違反するものとなったと主張する。
しかし、本件明細書に記載された本件発明の目的は、前記のとおりであり、この記載は本件訂正の前後で変更されておらず(甲2、3)、本件訂正前の明細書の記載を検討しても、原告が主張するように、本件発明が「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」の手順の自動化を阻んでいる要因を除去することを目的とすることや、このような手順の自動化を阻んでいる要因を除去するには、畳の水平方向の位置決めを自動化することが前提となることを示唆する記載は存在しない。したがって、原告の主張は理由がない。
ウ 原告は、本件訂正により、特許請求の範囲に記載された制御手段が「畳固定手段」を制御対象から除いたため、本件訂正は特許法120条4第3項で準用する同法126条2項の「新規事項の追加の禁止」に違反すると主張する。
本件明細書の発明の詳細な説明中には、実施例の説明として畳固定手段も制御装置で制御する畳縫着装置が示されているといえるが(甲2)、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1は前記のとおりであって、畳縫着装置が畳固定手段を具備することは記載されていたけれども、制御装置によって動作を制御することは明示されていなかったものであるから、本件訂正前の明細書が制御装置による制御対象に畳固定手段を含むもののみに限定していたと解することはできない。そうすると、本件訂正によって、特許請求の範囲の請求項1における制御装置による制御の対象から「畳固定手段」が除外されていることをもって、明細書記載した事項の範囲を超える新規事項を追加したとはいえない。原告の上記主張も採用できない。
(2) 同イ(全部公知)について ア 株式会社キビのカタログ(甲5)等による全部公知について (ア) 甲5は、株式会社キビの1993年(平成5年)版総合カタログであるが、これには、自動電子制御平刺返縫両用機「スーパーサーボHM-3型」が掲載され、「全自動 ボタンを押すだけで止め縫いから本縫いまでの一連の作業がすべて自動運転」といった宣伝文が記載されていることが認められるが、本件発明の構成要件E所定の手順による動作の自動実行のための制御を行う構成は何ら示されていない。
(イ) 甲6は、原告が平成5年9月発行した全自動(反転式)平刺ロボット「東海ロボオート」のカタログであるが、原告も認めるとおり、同製品は平刺し専用機であり、そもそも、本件発明の構成要件Aにいう、平刺しと返し縫いを一台の機械で行う両用機とは種類が異なる機械であって、本件発明のすべての構成が開示されたものでないことは明らかである。
(ウ) 実公昭51-44579号実用新案公報(甲19)は、考案の名称を「畳台における畳の自動転換並びに入替え装置」とするものであり、「畳緊締装置の動作と畳方向転換装置とを適確に組み合わせることによって、畳緊締動作と方向転換動作とを関連づけ、自動的に上記各動作が遂行でき、しかも畳入れ変え動作をスムーズに行えるようにした装置を提供する」というものであるが(同公報2欄28〜33行)、同公報には、本件発明の構成要件Eにある「平刺し→回転→平刺し→回転→返し縫い→回転→返し縫い」という縫着作業の手順を自動化する方法については全く触れられていない。かえって、同考案においては、縫着機で畳の片側縫いを終了した後、その縫着機を復動させ、その後、畳を180度方向転換させ(同公報5欄11〜14行)、さらにその後、畳の反対側を縫うために、畳締の機構で、畳締めした後、前回と同様に縫着機で残りの片側縫いを終了して、次の畳入替えに移行するところ(同公報6欄3〜6行)、同考案にいう「片側縫い」とは、畳の製造工程から見て、片側の平刺し及び返し縫いの両工程を合わせたものと見るのが相当であるから(同公報2欄5〜9行)、同考案と本件発明とでは、平刺し、回転、返し縫いの手順が異なるというべきである。
したがって、甲19の実用新案公報により本件発明が特許出願時に全部公知であったとはいえない。
イ ミニロボシステムについて (ア) 証拠(甲6、21、27ないし29)によれば、原告は、「ミニロボシステム」を開発して、平成5年に開催された「たたみ博」に出展し、同年秋から発売を始めたこと、この「ミニロボシステム」は、原告製の框縫機(ホープGAM)、
平刺機(東海ロボオート)及び返し縫い機(東海ロボエース)の3種類の装置を組み合わせ、平刺機と返し縫い機を横に並べた間に、作業者が畳を手で移動させるためのローラーコンベアを配置した生産ラインシステムであり、1台の畳縫着装置ではないことが認められる。
これに対し、本件発明は、既に述べてきたとおり、「畳縫着装置」に関する発明であり、具体的には、平刺しと返し縫いを1台でこなす両用機と呼ばれる畳縫着装置において、平刺機、返し縫い機、回転手段を制御する制御手段を備えることにより「上前側の平刺し→回転→下前側の平刺し→回転→上前側の返し縫い→回転→下前側の返し縫い」という動作を自動的に行うことを可能にしたものである。
したがって、3種類の装置及びコンベアを組み合わせたミニロボシステムは、単体の畳縫着装置である本件発明とは別の技術的思想からなるものというべきであり、ミニロボシステムによって本件発明が全部公知であるとすることはできない。
(イ) なお、証拠(甲33、34)によれば、群馬製畳有限会社が平成6年9月30日時点で行っていたミニロボシステムでは、平刺機(ロボオート)と返し縫い機(ロボエース)を縦に並べ、その間に畳移動用ローラを設ける配置としており、このような機械配置をすれば、畳の製作工程が「上前側平刺し→回転→下前側平刺し→回転→上前側返し縫い→回転→下前側返し縫い」の順序となることもあり得ることがうかがわれる。しかし、この場合も、ミニロボシステムが平刺機と返し縫い機という2台の畳縫着装置を使用した生産ラインシステムであることには変わりなく(このことは、本件明細書の【0007】に、「両用機は、平刺し装置と返し縫い装置とをライン状に並べて、そこを通過する畳の上前と下前とに同時に縁を縫い付ける大型のライン化装置に比べて、遥かに割安であるため、小規模畳店等で広く利用されている。」という記載がある(甲2)ことからも明らかである。)、
本件発明のように、単体の畳縫着装置(両用機)を用いるものではないから、ミニロボシステムにおいて上記のような機械配置が可能であることをもって、本件発明の構成の全部がミニロボシステムによって公知であったとすることはできない。
ウ 以上によれば、本件発明が特許出願時に全部公知であったとの原告の主張を認めることはできない。
(3) 同ウ(特許法29条の2違反)について 甲22(原告発明の特許出願に係る公開特許公報)によれば、原告発明は「畳のクセ取り縫着方法及び畳縫着機」の発明であって、出願公開時の特許請求の範囲請求項2として、「数値制御により自動的にクセ取り運動をする畳縫着機(10)と、該畳縫着機(10)の側方に配置されていて直線基準定規(20)および畳床締付け手段(6)を有する畳台(4)と、を備えているものにおいて、前記畳台(4)に、上前側を切断縫着した畳床(5)を方向転換する方向転換手段(32)と、畳床(5)の上前側を押付けて畳床(5)の下前側を畳縫着機(10)に向けて押付ける畳床押込み手段(41)と、を備えているとともに、該畳床押込み手段(41)で押付けられた畳床(5)の下前側の累積誤差修正量を確認する検出センサー(53)を備えていることを特徴とする畳縫着機。」と記載されているところ(なお、請求項1は畳のクセ取り縫着方法の発明が記載されている。)、その「発明の詳細な説明」の記載を参照すると、原告発明は、畳の製作工程のうち、「畳の上前側の切断縫着(平刺し)→畳の方向転換→下前側のクセ取り切断縫着(平刺し)」までの過程において、上前側の切断縫着をした畳を方向転換手段によって畳床の方向転換をするとともに、検出センサーにより位置を確認して数値制御により下前側のクセ取り切断の開始位置を計算し、上前側を畳床押し込み手段により畳台に押し付けることにより下前側を切断位置に合致させるという技術を開示したものであると認められる。
これに対し、本件発明は、前記のとおり、一台で平刺しと返し縫いの両方の機能を有する畳縫着装置について、平刺機、返し縫い機、回転手段を制御する制御手段を備えることにより、「上前側の平刺し→回転→下前側の平刺し→回転→上前側の返し縫い→回転→下前側の返し縫い」という工程の一連の動作を自動的に行うようにしたものであるから、甲22に記載された発明と同一であるということはできない。その他、原告発明の特許出願に係る明細書に本件発明と同一の発明が記載されているとは認められない。
よって、原告の特許法29条2による無効の主張は理由がない。
(4) 同エ(発明未完成)について 原告は、本件発明の目的とする畳縫着の自動化は、原告発明による「畳の自動位置決め」の技術を用いなければ達成できないのであり、本件発明は、「畳の自動位置決め」という必須の構成を欠如しているから、発明未完成であると主張する。
しかし、本件発明は、前記のとおり、平刺しと返し縫いを1台の畳縫着装置で行う両用機において、平刺機、返し縫い機、回転手段を制御する制御手段を備えることにより、「上前側平刺し→回転→下前側平刺し→回転→上前側返し縫い→回転→下前側返し縫い」という一連の動作を自動的に行うことを可能にしたことに特徴がある発明であり、畳の位置決めについては、本件発明の実施において適宜の手段を用いれば足りるものと解される。したがって、本件明細書に畳の位置決めに関する記載がないからといって、本件発明が発明未完成であるとはいえない。
5 争点(4)(本件文書配布等は虚偽事実の告知、流布に当たるか)及び争点(5)(原告の損害額等)について 争点(4)及び争点(5)に関する原告の主張は、原告がイ号物件を製造販売することが本件特許権を侵害しないことを前提とするものであるところ、この前提が成り立たないことは前示のとおりであるから、争点(4)及び争点(5)について検討する必要をみない。
6 争点(6)(被告の損害額)について (1) 逸失利益の主位的請求 原告がイ号物件を13台、ロ号物件を3台販売したこと、ロ号物件に対応する被告の本件発明の実施品である「両用ロボットTRA-U」の1台当たりの利益の額は168万7862円であり、イ号物件に対応する被告の本件発明の実施品である「両用ロボットV」の1台当たりの利益の額は170万1227円であることについては当事者間に争いがなく、イ号物件及びロ号物件の各売上台数が前記台数を超えることを認めるに足りる証拠はない。
また、弁論の全趣旨によれば、被告は、ロ号物件に対応する「両用ロボットTRA-U」及びイ号物件に対応する「両用ロボットV」をそれぞれロ号物件及びイ号物件の前記販売台数製造して市場に供給する能力があったものと認められる。
以上によれば、特許法102条1項により、被告が本件特許権の侵害により被った損害の額は、2717万9537円(1,687,862×3+1,701,227×13=2,7179,537)と認められる。
被告は、特許法102条2項に基づく予備的請求もするが、イ号物件及びロ号物件の製造販売による原告の利益が前記被告の利益額を超えることの主張立証はなく、主位的請求を超える損害があったとは認められない。
(2) 弁護士費用・弁理士費用 本件事案の性質、内容、訴訟の経過、認容額等を考慮すれば、原告の本件特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用は、300万円と認めるのが相当である。
(3) 上記(1)及び(2)を合計すると、被告が原告に対して賠償請求することのできる損害額は、3017万9537円となる。
7 以上によれば、原告の本訴請求のうち、差止請求不存在確認請求に係る訴えは不適法であり、その余の本訴請求は理由がなく、被告の反訴請求は、主文掲記の限度で理由がある。
追加
別紙原告物件目録商品名全自動反転式両用機スーパーロボ1図面の説明第1図は斜視図、第2図は平面図である。
2符号の説明1ミシン装置2直線基準定規3畳固定手段4畳縫着台5畳6回転手段7畳床押込み手段8検出センサー9縁及び縁下紙10走行路11平刺し針12切断刃13返し縫い針14制御手段15押ボタンスイッチ3構造の説明この畳縫着装置は、数値制御により自動的にクセ取り運動をするミシン装置1と、該ミシン装置1の側方に配置されていて直線基準定規2及び畳床固定手段3を有する畳縫着台4とを備えている。前記畳縫着台4に、上前側を切断縫着した畳5を方向転換する回転手段6と、畳5の上前側を押し付けて畳5の下前側をミシン装置1に向けて押し付ける畳床押込み手段7とを備えていると共に、該畳床押込み手段7で押し付けられた畳5の下前側の下前基準線の位置を計算するため確認する検出センサー8を備えている。
更に、この畳縫着装置は、平刺しと返し縫いとを行って畳5に縁及び縁下紙9を縫い付けるものである。
前記ミシン装置1は、載置された畳5に平行する走行路10を走行しながら、平刺し針11により平刺しを行う平刺装置と、畳5の縁を切断する切断刃12と、返し縫い針13により返し縫いを行う返し縫い装置とが一体的に設けられた一頭式ミシン装置である。
前記ミシン装置1(平刺装置と返し縫い装置)および前記回転手段6並びに畳床押込み手段7を制御する制御手段14を有する。
この制御手段14による動作は次のとおりである。
前記畳縫着台4に載置された畳5の上前側を前記ミシン装置1の切断刃12により、直線的に切断しつつ、平刺し針11により平刺しを行う。
次に、回転手段6により畳5を回転して、前記畳床押込み手段7で押動して、
前記検出センサー8により位置決めして、下前側を前記切断刃12によりクセ取りすると共に平刺し針11により平刺しを行い、これが完了するとミシン装置1は停止する。
この間に作業者は、上前側の縁及び縁下紙折り、隅止め作業を行う。
次に、作業者が、押ボタンスイッチ15を手動操作にて押すことにより、ミシン装置1は後退し、畳5を回転して畳5の上前側を前記ミシン装置1の返し縫い針13により返し縫いを行い、完了するとミシン装置1は停止する。
この間に作業者は、下前側の縁及び縁下紙折り、隅止め作業を行う。
次に、作業者が、押ボタンスイッチ15を手動操作にて押すことにより、ミシン装置1は後退し、畳5を回転して畳の下前側を前記ミシン装置1の返し縫い針13により返し縫いを行う。
図面別紙イ号物件目録(1)下記記載の畳縫着装置であり、「東海スーパーロボ」との名称のものを含む。
1図面の説明第1図は斜視図、第2図は平面図である。
2符号の説明3畳固定手段4畳縫着台5畳6回転手段9縁及び縁下紙10走行路14制御手段16平刺機17返し縫い機18畳縫着装置3構造の説明畳の平刺しと返し縫いとを行って畳に縁及び縁下紙9を縫い付ける畳縫着機18であって、載置された畳5に平行する走行路10を走行しながら平刺しを行なう平刺機16を具備しており、載置された畳5に平行する走行路10を走行しながら返し縫いを行なう返し縫い機17を具備しており、前記走行路10に臨む位置に畳を固定する畳固定手段3および畳を回転して畳の縫着すべき辺を前記走行路側に移す畳固定手段6を有し、前記畳5を載置する畳縫着台4を具備しており、後記「4動作の説明」の1乃至4に記載する動作を自動的に実行するために、前記平刺機16、前記返し縫い機17および前記回転手段6を制御する制御手段14を具備した畳縫着装置である。
4動作の説明(1)畳縫着台4に載置された畳5の上前側が平刺機16により平刺しが行なわれ、
(2)その後、畳は回転させられて、下前側が平刺機16により平刺しが行なわれ、
(3)その後、畳は回転せしめられて、畳の上前側が返し縫い機17により返し縫いが行なわれ、
(4)その後、畳は回転せしめられて、畳の下前側が返し縫い機17により返し縫いが行なわれる。
図面別紙イ号物件目録(2)下記記載の畳縫着装置であり、「東海スーパーロボ」との名称のものを含む。
別紙イ号物件目録(1)との相違は、斜視図写真のとおり、液晶パネル(写真の19)が制御装置(イ号物件目録第1図、第2図の14)の付近に設けてあることのみである。
記1写真の説明斜視図写真であり、19は液晶パネルである。
2符号の説明、3構造の説明、4動作の説明は、イ号物件目録(1)のとおり添付写真別紙ロ号物件目録下記記載の畳縫着装置であり、「東海スーパーロボ」との名称のものを含む。
記1図面の説明第1図は斜視図、第2図は平面図である。
2符号の説明3畳固定手段4畳縫着台5畳6回転手段9縁及び縁下紙10走行路14制御手段16平刺機17返し縫い機18畳縫着装置3構造の説明畳の平刺しと返し縫いを行って畳に縁及び縁下紙を縫い付ける畳縫着装置18であって、載置された畳5に並行する走行路10を走行しながら平刺しを行なう平刺機16を具備しており、載置された畳5に並行する走行路10を走行しながら返し縫いを行なう返し縫い機17を具備しており、前記走行路10に臨む位置に畳を固定する畳固定手段3及び畳を回転して畳の縫着すべき辺を前記走行路側に移す畳回転手段6を有し、前記畳5を載置する畳縫着台4を具備しており、後記「4動作の説明」の1乃至4に記載する動作を自動的に実行するために、前記平刺機16、返し縫い機17および前記回転手段6を制御する制御手段14を具備した畳縫着装置である。
4動作の説明(1)畳縫着台4に載置された畳5の上前側が平刺機16により平刺しが行われ、
(2)その後、畳は回転させられて、下前側が平刺機16により平刺しが行われ、
(3)その後、畳は回転せしめられて、畳の上前側が返し縫い機17により返し縫いが行われ、
(4)その後、畳は回転せしめられて、畳の下前側が返し縫い機17により返し縫いが行われる。
図面別紙謝罪広告目録省略
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 阿多麻子
裁判官 前田郁勝