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平成12ネ3624特許権侵害差止等請求控訴事件 平成12ネ4895同附帯控訴事件 判例 特許
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事件 平成 12年 (ネ) 3843号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 エービー テトラパック
訴訟代理人弁護士 日野修男
補佐人弁理士 清水正三
同 田中義敏
被控訴人 凸版印刷株式会社
被控訴人 森乳業株式会社
両名訴訟代理人弁護士 竹田稔
同 勝田裕子
両名補佐人弁理士 鈴江武彦
同 河野哲
同 野河信久
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における新請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
4 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは,それぞれ別紙控訴人物件目録記載の物件を製造し,販売してはならない。
(3) 被控訴人らは,その占有する別紙控訴人物件目録記載の物件を廃棄せよ。
(4) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して金8960万円及びこれに対する平成11年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら 主文と同旨
事案の概要
本件は,パック容器の開口構造に係る特許権(原判決のいう「本件特許権」。本判決においても,同様にいう。)を有する控訴人が,パック容器を製造販売している被控訴人らに対し,(1)主位的請求として,同製品が,本件特許権の特許請求の範囲第6項記載の発明(以下「本件発明1」という。)の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害するとして,(2)当審で追加した予備的請求として,同製品が,本件特許権の特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本件発明2」という。)の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害するとして,同製品の製造・販売の中止及び廃棄,並びに,損害の賠償を求めている事案である。
当事者の主張は,主位的請求については,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」及び「第三 争点及びこれに関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する(なお,当裁判所も,「本件特許権」以外にも「本件明細書」の語を,原判決の用法に従って用いる。また,原判決は,原判決別紙物件目録記載の製品を「被告製品」と定義しているが,本判決においては,被控訴人らが製造販売しているパック容器を客観的に特定した図面であることに当事者間で争いがない別紙物件目録の図面に記載された構造の製品を「被告製品」という。)。
【主位的請求について】 1 控訴人の当審における主張の要点 (1) 被告製品の構造は,控訴人が原審において主張した原告物件目録ではなく,別紙控訴人物件目録(以下「控訴人物件目録」という。)のとおりに記載されるべきである。
控訴人が物件目録の記載の一部を上記のとおり変更したことにつき,自白の撤回であり許されないとする被控訴人らの主張は失当である。上記変更は,事実に関するもの,特に自白の対象となる主要事実に関するものではない。仮に自白が成立するとしても,控訴人が当審において物件目録の記載を変更した結果生じた部分,すなわち,被告製品の窓材(15')が本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部であることが,真実であることは,次項(2)に述べるとおりであるから,自白の撤回は許される。
(2) 原判決は,被告製品は,その窓材(15')が,本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部ではないから,同発明の「熱可塑性層(3)」に該当せず,構成要件(三)及び(四)の構成を具備しないと認定したが,誤りである。
被告製品における注ぎ口(7')の周囲部においては,窓材(15')も,本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部であり,同発明の「熱可塑性層(3)」に該当するものである。すなわち,一方で,「ラミネート」とは,「プラスチック・フィルム・アルミ箔・紙などを重ねて貼り合わせること」をいうから,基材と分離不能に密着付合している物であれば,ラミネート材料といえるのであり,他方,被告製品の窓材(15')は,ラミネート紙にあらかじめラミネートされ,パックラミネート材料とされているものであって,カートカン製造工程においてラミネート貼付されるものではない以上,窓材(15')は,本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部であり,同発明の「熱可塑性層(3)」に該当することになるからである。
被控訴人らは,控訴人の上記主張について,窓材(15')が本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部ではないとの原審における控訴人の主張を変更するものであるから,自白の撤回であるとして異議を述べる。しかし,窓材(15')が,本件発明1における「パックラミネート材料(1)」の一部であるかどうか,についての主張は,被告製品の構造の一部と本件発明1の構成要件の一部との間の当てはめに関する主張にすぎず,事実,特に主要事実についての主張ではないので,自白は成立しない。また,仮に,自白が成立するとしても,被告製品の窓材(15')がパックラミネート材料(1')の一部であることは,上記のとおり,真実であるから,その撤回は許される。
(3) 本件発明1においては,「熱可塑性材料の層」の用語は,キャリア層とともにパックラミネート材料を構成する材料を示すために使用されるものであるのに対し,「熱可塑性層」の用語は,パック容器の開口構造において使用されるものであり,両者は,その使用される場面あるいは目的を異にするものである。すなわち,被告製品の上部被覆材(3')は,本件発明1の「熱可塑性材料の層」であるが,パック容器の開口構造においては,本件発明1の「熱可塑性層(3)」ではない。本件発明1のパック容器の開口構造に関する「熱可塑性層(3)」に該当するものは,被告製品においては,窓材(15')である。
2 被控訴人らの反論の要点 (1) 控訴人は,当審において,被告製品の構造を原審において主張した原判決別紙原告物件目録記載のものから控訴人物件目録記載のものに変更すべきであると主張している。しかし,控訴人物件目録において訂正されている部分(同目録@'とB'-1)は,原審において争いがなかった部分であるから,これは自白の撤回に当たる。被控訴人らには,同自白の撤回について異議がある。
(2) 控訴人は,被告製品において,本件発明1の「パックラミネート材料(1)」に該当するものは,キャリア層(2')とその上部被覆材(3')及び下部被覆材(4')であり,窓材(15')はこれに含まれないと,原審において主張していた。すなわち,被告製品における窓材(15')が本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部ではないことは,原審において当事者間に争いのない事実であった。したがって,控訴人が,当審において,被告製品の窓材(15')が本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部であると主張するのは,自白の撤回に当たる。被控訴人らには,上記自白の撤回について異議がある。
(3) 本件発明1の「パックラミネート材料(1)」は,本件明細書によれば,キャリア層とその両側に全面にわたって接合された熱可塑性材料の層からなるものであるのに対し,被告製品の窓材(15')は,キャリア層(2')の上部被覆材(3')に部分的に接合されたものであるから,本件発明1の「パックラミネート材料」には当たらない。また,被告製品の窓材(15')のように,別部材である「内側のカバー層」等を用いて開口端面の防水状態を維持する構成は,本件発明の出願前に公知となっていた構成であり,被告製品は,上記の公知の構成と同様の構成であるから,本件発明1の技術的範囲には属さない。
控訴人は,被告製品の窓材(15')がラミネート紙にあらかじめラミネートされたものであることを自己の主張の根拠として主張するが,本件明細書の記載中に,ラミネート加工の時期がいつであるかが,本件発明1のパックラミネート材料に該当するかどうかの判断に影響することを示すものは,全く存在しない。
【予備的請求について】 1 前提となる事実(括弧内記載の証拠により認められる。) (1) 本件特許権の特許請求の範囲第1項の記載は,次のとおりである(甲第1号証)。
特許請求の範囲第1項 液体内容物に使用され,紙のキャリア材料の層と熱可塑性材料の層とを含むパックラミネート材料により,全体的または部分的に作られている形式のパック容器用の開口構造であって,あらかじめ設けられた注ぎ口(7)と,該注ぎ口(7)の上部に付着された引きはがしカバーストリップとを有する開口構造において,前記注ぎ口(7)の方向に向いたキャリア層(2)の縁(12)が,該キャリア層(2)の両側に設けられ該注ぎ口(7)の方向に張り出された熱可塑性層(3,4)により,該縁(12)から間隔をおいて覆われており,これら熱可塑性層(3,4)は互いに対面して合わさり防水状態に接着され,該注ぎ口(7)が,対面して合わさった熱可塑性層(3,4)に,少なくとも該防水状態の接着を残して,孔をあけて形成され,カバーストリップと外側の熱可塑性層(3)との間で該注ぎ口(7)の廻りにシール(11)を形成していることを特徴とする開口構造。
(2) 本件発明2の構成要件は,次のとおり分説される(甲第1号証)。
A 液体内容物に使用され,紙のキャリア材料の層と熱可塑性材料の層とを含むパックラミネート材料により,全体的又は部分的に作られている形式のパック容器用の開口構造であって,あらかじめ設けられた注ぎ口(7)と,該注ぎ口(7)の上部に付着された引きはがしカバーストリップとを有する開口構造において, B 前記注ぎ口(7)の方向に向いたキャリア層(2)の縁(12)が,該キャリア層(2)の両側に設けられ該注ぎ口(7)の方向に張り出された熱可塑性層(3,4)により,該縁(12)から間隔をおいて覆われており,これら熱可塑性層(3,4)は互いに対面して合わさり防水状態に接着され, C 該注ぎ口(7)が,対面して合わさった熱可塑性層(3,4)に,少なくとも該防水状態の接着を残して,孔をあけて形成され, D カバーストリップと外側の熱可塑性層(3)との間で該注ぎ口(7)の廻りにシール(11)を形成していることを特徴とする開口構造。
2 予備的請求における争点 (1) 当審における請求の予備的追加的変更が許されるか。
(2) 被告製品は,本件発明2の構成要件Bの構成を具備するか。
(3) 被告製品は,本件発明2の構成要件Cの構成を具備するか。
(4) 被告製品は,本件発明2の構成要件Dの構成を具備するか。
3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について (被控訴人らの主張) 控訴人の当審における請求の予備的追加的変更は,著しく訴訟手続を遅滞させるものである。したがって,被控訴人らは,上記請求の予備的追加的変更を許さない旨の決定を求める。
(2) 争点(2)について (控訴人の主張) 本件発明2は,「前記注ぎ口(7)の方向に向いたキャリア層(2)の縁(12)が,該キャリア層(2)の両側に設けられ該注ぎ口(7)の方向に張り出された熱可塑性層(3,4)により,該縁(12)から間隔をおいて覆われており,これら熱可塑性層(3,4)は互いに対面して合わさり防水状態に接着され,」をその要件(構成要件B)としている。
被告製品の「予め設けられた注ぎ口(7')」の周囲部においては,窓材(15')と下部被覆材(4')が,キャリア層(2')の縁(12')から間隔をおいて張り出し,かつ,互いに対面して合わさっている。そして,窓材(15')と下部被覆材(4')は,ともにポリプロピレンとシリカ蒸着したポリエチレンテレフタレートとポリエチレンの層からなる熱可塑性の層であるから,両者は,対面して張り合わされることにより,キャリア層(2')に対して防水状態を維持する。したがって,被告製品の窓材(15')は,本件発明2の「熱可塑性層(3)」に該当し,被告製品の下部被覆材(4')は,本件発明2の「熱可塑性層(4)」に該当し,被告製品は,本件発明2の構成要件Bの構成を具備する。
(被控訴人らの反論) 被告製品は,本件発明2の構成要件Bの構成を具備していない。
ア 本件発明2は,「前記注ぎ口(7)の方向に向いたキャリア層(2)の縁(12)」との構成をその要件(構成要件B@)としている。これに対し,被告製品は,そのパック容器の縁(12')が,キャリア層(2')と上部被覆材(3')から形成されており,上部被覆材(3')が存在するため,本件発明2の構成要件B@の上記構成とは異なる。
イ 本件発明2は,「該キャリア層の両側に設けられ該注ぎ口(7)の方向に張り出された熱可塑性層(3,4)により,該縁(12)から間隔をおいて覆われており」との構成をその要件(構成要件BA)としている。
これに対し,被告製品は,そのキャリア層(2')と上部被覆材(3')との縁(12')が,上部被覆材(3')の上側に設けられた窓材(15')と,キャリア層(2')の下側に設けられた下部被覆材(4')によって覆われている。被告製品の窓材(15')は,キャリア層(2')の上に接合している上部被覆材(3')のさらに上面に設けられており,キャリア層(2')の両側に設けられたものではないから,本件発明2の構成要件Bの「キャリア層(2)の両側に設けられ」た「熱可塑性層」には該当しない。なお,被告製品の上部被覆材(3')も,注ぎ口(7')の方向に張り出しておらず,本件発明2の構成要件BAの「注ぎ口(7)の方向に張り出された熱可塑性層」には該当しない。
ウ 本件発明2は,「これら熱可塑性層(3,4)は互いに対面して合わさり防水状態に接着され」との構成をその要件(構成要件BB)としている。 これに対し,被告製品は,その窓材(15')と下部被覆材(4')が防水状態に接着されているが,窓材(15')は,上記のとおり本件発明の構成要件BBの「熱可塑性層」には該当しないから,構成要件BBの構成を具備しない。
(控訴人の再反論) ア 被告製品のパック容器の縁(12')が,キャリア層(2')と上部被覆材(3')から形成されていることは,縁(12')がキャリア層(2')から形成されていることを否定するものではないので,被控訴人らの上記の主張アは失当である。
イ 本件発明2のパックラミネート材料のキャリア層(2)は,熱可塑性材料によってコーティングされることを予定しているものである。被告製品のキャリア層(2')に上部被覆材(3')がコーティングされていてもキャリア層でなくなるわけではないから,窓材(15')は,上部被覆材(3')によってコーティングされたキャリア層(2')に設けられた熱可塑性層である。したがって,被控訴人らの上記の主張イ,ウは失当である。
(3) 争点(3)について (控訴人の主張) 本件発明2は,「該注ぎ口(7)が,対面して合わさった熱可塑性層(3,4)に,少なくとも該防水状態の接着を残して,孔をあけて形成され」との構成をその要件(構成要件C)としている。
被告製品は,その窓材(15')と下部被覆材(4')が,対面して張り合わされており,かつ,防水状態の接着を残して,注ぎ口(7')が孔をあけて形成されている。
したがって,被告製品は,本件発明2の構成要件Cの構成を具備する。
(被控訴人らの反論) 被告製品は,窓材(15')と下部被覆材(4')が防水状態の接着を残して孔をあけて注ぎ口(7')を形成しているものであり,窓材(15')が,上記のとおり本件発明2の構成要件Cの「熱可塑性層(3)」には該当しないので,構成要件Cの構成を具備しない。
(4) 争点(4)について (控訴人の主張) 本件発明2は,「カバーストリップと外側の熱可塑性層(3)との間で該注ぎ口(7)の廻りにシール(11)を形成していることを特徴とする開口構造」をその要件(構成要件D)としている。
被告製品においては,そのカバーストリップ(8')と本件発明2の「熱可塑性層(3)」に当たる窓材(15')との間には,注ぎ口の廻りにシールが形成されており,被告製品は,本件発明2の構成要件Dの構成を具備する。
(被控訴人の反論) ア 本件発明2は,「カバーストリップと外側の熱可塑性層(3)との間で・・・シール(11)を形成している」との構成をその要件(構成要件D@)としている。
これに対し,被告製品は,カバーストリップ(8')と窓材(15')との間でシールAを形成しており,窓材(15')は,上記のとおり本件発明2の構成要件Dの「熱可塑性層(3)」には該当しないから,本件発明の構成要件D@の構成を具備しない。
イ 本件発明2は,「該注ぎ口(7)の廻りにシール(11)を形成している」との構成をその要件(構成要件DA)としている。この「注ぎ口(7)の廻りに」とは,本件明細書の記載によれば,熱可塑性層(3,4)の接着部分からの直近部分をいうものと解される。
これに対し,被告製品においては,カバーストリップ(8')との間でシールAを形成しているのは,窓材(15')のうち注ぎ口(7')から離隔した部分であるから,被告製品は,「注ぎ口(7)の廻りにシール(11)を形成している」との構成要件DAの構成を具備しない。
(控訴人の再反論) 本件発明2の構成要件Dの「注ぎ口(7)の廻りに」とは,注ぎ口(7)の周囲にという意味であり,注ぎ口(7)からの直近部分に限定されるものではない。
当裁判所の判断
当裁判所は,本訴の主位的請求及び予備的請求は,いずれも理由がないから棄却すべきものである,と判断する。その理由は,主位的請求については,次のとおり付加するほか,原判決の「第四 当裁判所の判断」の一,二のとおりである(ただし,二2(一)を除く。また,原判決中24頁11行,25頁2行,3行,26頁5行の「バック」を「パック」と訂正し,28頁9行の「酸化タイブ」を「酸化タイプ」と訂正する。)から,これを引用し,予備的請求については,以下に述べるとおりである。
【主位的請求について】 1 被告製品の構造の特定について 控訴人は,原審において,被告製品の構造について,原判決の別紙原告物件目録に記載したとおりのものであると主張し,これに対し,被控訴人らが,被告製品の構造は,原判決の別紙被告物件目録記載のとおりであると主張したのに対し,原判決は,被告製品の構造は,原判決別紙物件目録記載のとおりであると認定した。そして,控訴人は,当審において,被告製品の構造について,原判決別紙原告物件目録の記載を一部変更し,控訴人物件目録記載のとおりであると主張している。
しかし,控訴人物件目録,原判決別紙被告物件目録及び原判決別紙原告物件目録を比較してみると,被告製品の客観的な構造及びこれを構成する各層の組成については,当事者間に何ら争いはないことが明らかである。各物件目録の記載において相違があるのは,単に,本件発明1の技術的範囲の解釈に関する主張,特に,被告製品のある構造が本件発明1の構成要件におけるある構成に該当するか否かの当てはめに関する主張を,物件目録の記載の中に盛り込んでいる部分においてのみである。これらが,被告製品の構造を客観的に記載すべき物件目録においては,不要な部分であることは明らかである。例えば,控訴人が控訴人物件目録に盛り込んでいる,被告製品の窓材(15')が本件発明1のパックラミネート材料(1)に該当する旨の主張に対応する記載は,このような記載がなくとも窓材(15')の構造は既に同物件目録において明らかにされているのであるから,被告製品の構造を客観的に特定すべきものとして全く不要である。
上記当事者間に争いがない被告製品の客観的な構造及びこれを構成する各層の組成を客観的に表現すれば,被告製品の構造は,原判決の別紙物件目録のとおりとなるものと認められる(以下,原判決別紙物件目録記載の製品を「被控訴人製品」という。)。
被控訴人らは,控訴人が当審において,原告物件目録を控訴人物件目録に変更したことについて,自白の撤回であるとして異議を述べるが,失当である。被控訴人製品の客観的な構造,組成について争いがないことは,上記のとおりであり,少なくとも,対象物件の特定に関する限り,自白の撤回の問題は生じ得ないからである。
2 本件発明1の技術的範囲について (1) 自白の撤回について 被控訴人らは,控訴人が,当審において,被控訴人製品の窓材(15')は,本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部であり,「熱可塑性層(3)」に該当する旨主張したことについて,控訴人が原審において,窓材(15')が本件発明1の「パックラミネート材料(1)」には該当しないことを認めており,この点は争いがなかったことから,自白の撤回に当たり,異議がある旨述べる。
しかし,控訴人が当審において改めたのは,被控訴人製品の物理的構成そのものについての主張ではなく,同構成の一要素である窓材(15')が,本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部である「熱可塑性層(3)」に該当するか否かの評価についての主張,本件発明1を中心にみれば,「パックラミネート材料(1)」あるいは「熱可塑性層(3)」の解釈についての主張である。このような主張は,もともと,自白の対象とすべき事柄ではないというべきであるから,控訴人の上記主張の変更については,自白の撤回の問題は,生じ得ない。被控訴人らの異議は,理由がない(ただし,控訴人の上記主張の変更が,時機に遅れた攻撃防禦方法として,許されない場合も生じ得ることは,当然である。)。
(2) 本件発明1の技術的範囲について 控訴人は,被控訴人製品の窓材(15')が,本件発明1の「パックラミネート材料(1)」の一部であり,同発明の「熱可塑性層(3)」に該当する旨主張する。そこで,本件発明1の構成要件中,これに関連する構成要件(一)の「紙のキャリア材料の層と熱可塑性材料の層とを含むパックラミネート材料」との要件,構成要件(三)の「キャリア層(2)の各側に接合され,ガス遮断材料と防水材料との少なくとも一方からなる層を含む熱可塑性層(3,4,6)」との要件,及び,構成要件(四)の「パックラミネート材料(1)の外側の互いにシールされた熱可塑性層(3,4,6)」との要件について考察する。
ア 甲第1号証によれば,本件明細書中に,本件発明1における「パックラミネート材料(1)」あるいは「熱可塑性層(3)」についての明示的な定義は示されていないことが認められる。
イ 本件明細書の「発明の詳細な説明」の欄の「ラミネートパック材料は,例えば紙のような繊維状材料のキャリア層を備えている。前記キャリア層は,少なくとも一方の側を,通常では両側を,例えばポリエチレンの薄い熱可塑性材料からなる防水層で覆われている。この種のパックラミネート材料は・・・折り曲げと加熱シールを行うことで,所望の形状例えば平行六面体形状をしたパック容器に組立てられる」(甲第1号証4欄16行〜24行)との記載からは,本件発明1における「パックラミネート材料(1)」は,紙のキャリア材料の層とその一方の側又は両方の側の全面を覆っている熱可塑性材料からなるものということになる。
本件発明1の構成要件(三)のガス遮断材料から成る層は,本件明細書の「本明細書で言うパックラミネート材料は,一般には1つまたは1つ以上の新たな層を備え,ラミネート材料のガス遮断性を高めるようになっている。通常,ガス遮断層として,例えばアルミニウムホイルのような金属ホイルが使用されている。前記金属ホイルはラミネート材料の内部に設けられ,例えばポリエチレンのような熱可塑性材料の別に設けた層により覆われている。」(甲第1号証5欄5行〜12行)との記載からは,キャリア層の外側全面を覆った金属ホイル等から成る層ということになり,また,ポリエチレンのような別に設けた熱可塑性層によって覆われるものということになる。
ウ 本件明細書の記載(甲第1号証により認められる。)によれば,本件発明1は,「液体内容物を詰める際,孔を打ち抜くことで露出したパックラミネート材料の縁を,適当な方法で内容物から保護する必要がある。保護しないと,繊維状キャリア層が内容物を吸収し,ラミネート材料が溶けて内部強度が低下し外観も損なわれる。」(甲第1号証4欄34行ないし39行)との課題を解決するために,「開口構造において,注ぎ口の方向に向いたキャリア層の縁が,該キャリア層の両側に設けられ該注ぎ口の方向に張り出された熱可塑性層により,該縁から間隔をおいて覆われており,これら熱可塑性層は互いに対面して合わさり防水状態に接着され」(甲第1号証6欄17行〜21行)るとの構成をとるものであることが認められる。
エ 甲第1号証によれば,本件明細書においては,実施例1,2の説明の後に,本件発明のパック容器に係る開口構造の製造方法についての説明があり,その説明は,「キャリア層には,まず打ち抜きによって孔が設けられ,パック容器製品の注ぎ口を形成している。・・・所定の形状と大きさの孔をキャリア層に設けた後,前述した熱可塑性材料の層3,4によりこのキャリア層を被覆する。これら熱可塑性材料の層は,ウェブ上を横切って延びるダイスを通じて加熱された熱可塑性材料を押し出すことにより,キャリア層2の両面に付着される。・・・アルミニウムホイルのガス遮断層5を必要とする場合,当該ガス遮断層はウェブの形態で供給され,一方の熱可塑性層に付着される。さらに,新たな熱可塑性層6を重ねて,アルミニウムホイルを完全に覆う。孔のあけられた区域では,押し出し成形時に2つの熱可塑性層3と4は互いに圧接され,お互いに対してシールされる。・・・キャリア層2に所望の数の材料層を付着させた後,ラミネートウェブを第2の組の打ち抜き工具に通す。この工具により,以前に打ち抜きを行ってある材料ウェブの場所を再び打ち抜いて孔を形成する。ただし,第2の打ち抜き作業では,以前の打ち抜き作業によって作られたものより僅かに寸法の小さい孔があけられる。その結果,パックラミネート材料にあけられた孔は,パックラミネート材料からなる幾つかの熱可塑性層とガス遮断体として働く金属ホイルで形成された縁により,全周を縁どられている。こうした状況の下では,キャリア層2の切断縁12は,縁14に集まる熱可塑性層により閉じられ,前記切断縁は内容物と接触することがない。」(甲第1号証9欄13行〜49行)というものであることが認められる。この説明からも,本件発明1の熱可塑性層(3,4,6)は,キャリア層の各側の全面にわたって接合されたものであり,パックラミネート材料の一部を構成する熱可塑性層であるものとされている。
オ 甲第1号証によれば,本件明細書には,従来技術との比較について,「前述した問題(判決注:キャリア層の縁が内容物を吸収するという問題)を解消する様々な解決策が試みられているが,何れも比較的複雑であり,またラミネートストリップの形態をした内側のカバー層を備えている。」(甲第1号証5欄27行〜30行)との記載,及び,「本発明の目的は,無菌パック用に適していて,周知の開口構造に関連して説明したような欠点の生じない,前述した形式の開口構造を提供することにある。本発明の他の目的は,内側のカバー層を用いなくてもガス遮断性と防水性が得られるように注ぎ口の縁を保護してある,開口構造を提供することにある。」(甲第1号証6欄6行〜12行)との記載があることが認められる。
この記載から,本件発明1の主要な目的が,キャリア層の縁が内容物を吸収するという課題を,従来技術におけるものに比べて単純な方法,特に,「内側のカバー層」を用いることのない方法によって解決することにあることが明らかであり,これを前提にした場合,開口部において接着されるのは,キャリア層の両側全面に設けられてパックラミネート材料を構成する層となっている層の注ぎ口よりの一部であり,特に接着のためにのみに設けられたものではないとみないと,全体を合理的に理解することが困難になるということができる。
カ 乙第3,乙第7ないし14号証によれば,本件発明1との関係で公知技術に当たるものとして,キャリア層の縁が内容物を吸収するのを防ぐために,キャリア層の縁に,パックラミネート材料を構成する熱可塑性層とは別な部材(保護層)を設ける構成のものが多数存在していることが認められる。
キ 以上を総合すると,本件発明1は,キャリア層が内容物を吸収するのを防ぐためのものとして,特別の材を設けることなく,キャリア層の全面を覆って,パックラミネート材料を構成する熱可塑性層そのものにより,前記課題を解決しようとした技術思想の発明であると認められ,上記多数の技術の存在にもかかわらず,特許権が設定された理由も,その点にこそあったものと認めることができる。
そして,そうだとすると,本件発明1の構成要件(三)(1)の「該キャリア層(2)の各側に接合され(る)・・・熱可塑性層(3,4,6)」とは,「キャリア層(2)の各側の全面にわたって接合されている熱可塑性層」という趣旨であり,構成要件(四)の「パックラミネート材料(1)の外側の互いにシールされた熱可塑性層(3,4,6)の残部により縁取られた注ぎ口(7)」における「パックラミネート材料(1)の外側の・・・熱可塑性層(3,4,6)」とは,パックラミネート材料を構成している熱可塑性層のうち,外側のものという意味であるとみるのが合理的であるというべきである。
ク 控訴人は,被控訴人製品の窓材(15')は,ラミネート紙にあらかじめラミネートされ,パックラミネート材料とされているものであり,カートカン製造工程においてラミネート貼付されるものではないから,パックラミネート材料(1')の一部であり,本件発明1の熱可塑性層(3)に該当する旨主張する。しかし,窓材(15')は,キャリア層(2')の全面にわたって接合されているものではなく,開口部周辺においてのみ接合されているものであるから,パックラミネート材料(1')に該当しないことは前記のとおりであり,このことは,貼付の時期と無関係である。控訴人の主張は採用することができない。
また,控訴人は,本件発明1においては,「熱可塑性材料の層」は,キャリア層とともにパックラミネート材料を構成する材料であるのに対し,「熱可塑性層」との用語は,開口構造において使用される用語であり,両者は,その使用される場面あるいは目的を異にするものである旨主張するが,この主張も採用することができないことは,上述したところから明らかである。
(3) 被控訴人製品と本件発明1との対比 被控訴人製品は,原判決別紙物件目録に記載されているとおり,その窓材(15')が,キャリア層(2')の全面にわたって設けられたものではなく,その開口部分周辺にのみ設けられているものであって,パックラミネート材料を構成するものではない。また,被控訴人製品は,そのキャリア層(2')の縁を保護するために,パックラミネート材料の一部ではない窓材(15')とパックラミネート材料の一部である下部被覆材(4')を熱溶着シールして,これにより注ぎ口(7')を形成しているものであって,本件発明1の構成要件(三)の「キャリア層(2)の各側に接合され,ガス遮断材料と防水材料との少なくとも一方からなる層を含む熱可塑性層(3,4,6)であって・・・前記熱可塑性層が互いに対面して・・・熱溶着シールされている」との構成,及び,構成要件(四)の「パックラミネート材料(1)の外側の互いにシールされた熱可塑性層(3,4,6)」との構成を具備しないものであることは明らかである。
以上によれば,被控訴人製品は,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1の技術的範囲に属さないことが明らかである。
【予備的請求について】 1 控訴審における予備的請求の追加について 当事者は,控訴審においても,請求の基礎に変更がなく,かつ,これにより著しく訴訟手続を遅滞させることがない限り,請求又は請求の原因を変更することができる(民事訴訟法297条,143条)。
控訴人は,被控訴人らに対し,原審においては,被控訴人製品が本件発明1の技術的範囲に属するとして,被控訴人製品の製造・販売の中止等と損害の賠償を求め,当審において,予備的追加的に,被控訴人製品が本件発明2の技術的範囲に属するとして,被控訴人製品の製造・販売の中止等と損害の賠償を求めている。
控訴人による上記予備的追加的変更は,請求の基礎に変更がないものと解することができる。また,本件においては,次に述べるように,被控訴人製品が本件発明2の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては,被控訴人製品が本件発明1の技術的範囲に属するかどうかを判断する場合とその争点を共通にし,本件発明1についての判断をすることにより,それと同様な考え方で本件発明2についての判断をすることが可能であるので,上記予備的追加的変更が,本訴の訴訟手続を著しく遅滞させることはない。控訴人の上記予備的追加的変更は,許される。
2 本件発明2の技術的範囲について 本件発明2の構成要件Bの「キャリア層(2)の縁(12)が,該キャリア層(2)の両側に設けられ該注ぎ口(7)の方向に張り出された熱可塑性層(3,4)により,該縁(12')から間隔をおいて覆われており,これら熱可塑性層(3,4)は互いに対面して合わさり防水状態に接着され」における「熱可塑性層(3,4)」とは,本件発明1について前述したのと同様の理由により,キャリア層の両側全面に設けられた熱可塑性層と解すべきである。すなわち,本件発明1について,上記【主位的請求について】2(2)アないしカにおいて述べたことは,すべて本件発明2についてもそのまま当てはまることであり,本件発明2の技術思想も,本件発明1と同様に,パックラミネート材料を構成する熱可塑性層,すなわち,キャリア層(2)の両側全面にわたって接合された熱可塑性層を防水状態に接着して,キャリア層(2)の縁が内容物を吸収することを防止するとの課題を解決したものと解すべきである。
3 被控訴人製品と本件発明2との対比について 被控訴人製品は,原判決別紙物件目録に記載されているとおり,その窓材(15')が,キャリア層(2')の全面にわたって設けられたものではなく,その開口部周辺にのみ設けられているものであって,パックラミネート材料を構成するものではない。また,被控訴人製品は,そのキャリア層(2')の縁を保護するために,パックラミネート材料の一部ではない窓材(15')とパックラミネート材料の一部である下部被覆材(4')を熱溶着シールして,これにより注ぎ口(7')を形成しているものであって,本件発明2の構成要件Bの「キャリア層(2)の縁(12)が,該キャリア層(2)の両側に設けられ該注ぎ口(7)の方向に張り出された熱可塑性層(3,4)により,該縁(12')から間隔をおいて覆われており,これら熱可塑性層(3,4)は互いに対面して合わさり防水状態に接着され」との構成を具備しないものであることは明らかである。被控訴人製品は,本件発明2の技術的範囲に属さない。
【結論】 以上に検討したところによれば,控訴人の主位的請求及び予備的請求は,いずれも,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。そこで,本件控訴を棄却し,当審における新請求(予備的請求)も棄却することとして,訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について,民事訴訟法67条1項,61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸