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関連審決 審判1998-35304
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  公知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  模倣 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  目的の範囲 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 151号 審決取消請求事件
原告 株式会社セガ(審決書上の商号) 株式会社セガ・エンタープライゼス
訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
同 柳誠一郎
同 弁理士 江原望
同 中村訓
被告 コナミ株式会社
訴訟代理人弁理士 園田敏雄
同 坂上好博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成10年審判第35304号事件について平成12年3月21日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は変更前の旧商号を株式会社セガ・エンタープライゼスとしていた会社であるが、発明の名称を「ゲーム装置」とする特許第2719777号の発明(昭和62年10月6日出願の特願昭62-252011号の一部を分割して平成8年4月18日に出願した特願平8-97034号の一部を更に分割して平成9年1月30日出願、同年11月21日設定登録。以下「本件特許発明」という。)の特許権者である。
被告は、平成10年7月8日、本件特許発明について無効審判の請求をし、特許庁に平成10年審判第35304号事件として係属し、原告は、同年10月13日、本件特許発明に係る明細書の訂正請求をし(以下「本件訂正請求」という。)、平成11年12月6日、本件訂正請求に対する手続補正書を提出した。
特許庁は、上記審判事件について審理をした結果、平成12年3月21日、「特許第2719777号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年4月10日に原告に送達された。
2 本件訂正請求に係る訂正明細書(平成11年12月6日付け手続補正書による補正後のもの(甲第7号証の2)。以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下、同記載の発明を「本件訂正発明」という。) 複数の模型体が走行経路を規制されることなく移動可能に載置される模型体走行面と、
前記模型体走行面の下方に配置され、前記模型体走行面を介して前記模型体と磁力により結合して走行経路を規制されることなく模型体の走行を誘導するように構成された走行駆動制御機構をそれぞれ搭載した駆動走行体と、
前記駆動走行体が走行する駆動走行面であって、前記駆動走行体が走行経路を変更して走行可能に前記模型体走行面の下方に配置された駆動走行面と、
前記模型体走行面の下方に配置された前記駆動走行体に電力を供給する給電手段と、
前記複数の模型体によりレース展開が行われるように駆動走行体のそれぞれの走行を制御する走行制御信号を前記駆動制御機構に送信する走行制御手段と、
前記駆動走行体のそれぞれの走行中の走行位置を逐次検出する位置検出手段とを有し、
前記駆動制御機構は、車輪と、同車輪を駆動するモータと、同モータを制御するモータ制御回路と、受信した走行制御信号に基づいてモータ制御回路にモータ駆動信号を出力する駆動制御回路と、前記給電手段から電力の供給を受ける集電子とを有し、
前記給電手段は、陽極と陰極が交互に配置されるように複数の電極が敷設された構成の給電板を有し、給電板の給電用電極は前記模型体走行面と前記駆動走行面に挟まれた空間に向かって露出しており、
前記給電板は前記模型体走行面の裏側に配設され、これに対応して前記集電子は前記駆動走行体の上部側に前記給電用電極に移動接触可能に設けられており、前記給電板に接触移動する前記集電子を介して前記駆動制御機構に電力が供給されるように構成されており、
前記位置検出手段は、前記駆動走行体の下部側から位置を検出するように配置されており、
検出された位置情報に基づき生成される走行制御信号に基づき前記駆動制御機構が制御されるように構成されたことを特徴とする競争ゲーム装置。
3 審決の理由 別紙の審決書の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、原告による平成11年12月6日付け手続補正書による補正が適法な補正であると認め、この補正を含む本件訂正請求の適否について、本件訂正発明の要旨を上記2のとおり認定した上で、本件訂正発明は、実願昭60-56025号(実開昭61-171993号)のマイクロフィルム(甲第3号証。以下「刊行物1」という。)に記載された考案(以下「引用発明」という。)、米国特許第2188619号明細書(甲第4号証。以下「刊行物2」という。)に記載された発明及び特開昭60-153509号公報(甲第5号証。以下「刊行物3」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求は認められない、そして、訂正前の特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、刊行物1ないし3を含む審判甲第2ないし第11号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件特許発明の特許は、同法29条2項の規定に違反してなされたものであって、無効とすべきものであるとした。
原告主張の審決の取消事由の要点
審決の理由中、原告による平成11年12月6日付け手続補正書による補正が適法な補正であるとの判断、本件訂正発明の認定、刊行物1ないし3に記載されている事項の認定、及び本件訂正発明と引用発明との相違点(1)ないし(7)の認定は認める。
審決は、本件訂正発明と引用発明との対比において、本件訂正発明と引用発明との相違点を看過して、引用発明を誤認し(取消事由1)、また、相違点(1)ないし(7)についての判断を誤った(取消事由2)結果、本件訂正発明の独立特許要件の判断を誤って本件訂正請求を認めず、訂正前の特許請求の範囲に基づいて本件特許発明の特許について無効と判断したものであるから、違法であって、取り消されるべきものである。
1 取消事由1(相違点の看過、引用発明の誤認) (1) 審決は、本件訂正発明は「競争ゲーム装置」であるのに対して、引用発明は「ゲーム装置」であるという相違点(7)に関して、引用発明について、刊行物1に「自動車模型2が交通違反を犯したり、交通事故を起こすと予め定められたプログラムに従って減点され、ある基準点数以上であれば時間延長ができまたはそれ以上の点数であれば景品がでるようなゲームとして構成されている。」と記載されていることを認定している(審決書13頁7行ないし10行)にもかかわらず、
「引用発明は、ゲーム装置と限定しているだけであり、競争ゲーム装置を排除しているものとは認められない。」として(同頁12行ないし14行)、引用発明は、
本件訂正発明と同じ「競争ゲーム装置」を含むものであると判断している。
しかし、仮に引用発明の装置を「競争ゲーム装置」と表現するとしても、その場合の「競争ゲーム装置」の意味と、本件訂正発明の「競争ゲーム装置」の意味とでは、その趣旨が全く異なっているのであり、審決は、この相違点を看過して、引用発明について、本件訂正発明と同じ「競争ゲーム装置」であると誤って認定している。
(2) 本件訂正発明の「競走ゲーム装置」とは、遊戯者は模型体及び駆動走行体を操作することなく、完全にゲーム装置によって走行が制御される駆動走行体に結合する複数の模型体が同一のスタート地点からゴール地点までを同時に競争(競走)することによって作出されるレース展開を遊戯者が観覧、予想するゲームを行うための装置、という意味である。
このことは、本件訂正明細書(甲第7号証の2)の「特許請求の範囲」欄の請求項1の「複数の模型体によりレース展開が行われる」「競争ゲーム装置」及び「発明の詳細な説明」欄の「【0001】・・・トラック上を競争するレース等を模倣したゲームすなわち一定のフィールド上を走行体が移動する競争ゲーム装置」との記載、「【0074】そして次のステップ63のメダル投入検出までのデモンストレーションが行われ、メダルの投入があると、まずマイクロコンピュータ101はレース展開を決定する(ステップ64)。【0075】レース展開の決定は予め用意された多数のレース展開(コンピュータに記憶されている)のうちから1つを無作為に選択するものであり、レースはここで決定されたレース展開に従って進行し、
各キャリア50はこのレース展開に基づいて走行制御される。」「【0077】・・・次いで各遊戯者が勝ったか否かが判断され(ステップ71)、勝ったときは配当にしたがってメダルの払い出しがなされ(ステップ72)、・・・」との記載があること、これに対して、本件訂正明細書のどこにも遊戯者自らが模型体あるいは駆動走行体を操作ないしは走行制御する旨の構成が開示されていないことから明らかである。
この点に関して、被告は、本件訂正発明の「競争ゲーム装置」について、着順の予想の当たり外れを競う競馬ゲーム装置のような賭けゲーム装置などの特定のゲーム装置を意味すると限定的に解する必要はない旨主張し、遊戯者自らが模型体あるいは駆動走行体を操作ないしは走行制御して競争させるゲーム装置をも含み得る旨の主張をしている。
もとより、リパーゼ事件判決(最判平成3年3月8日)も説くように、特許請求の範囲の文言が一義的に確定される場合は、明細書の発明の詳細な説明によってこれを限定的に解釈することは許されない。しかし、本件訂正発明における「競争ゲーム装置」については、審決や被告の主張する解釈が一義的かつ当然の解釈というわけではない。このような場合には、特許法36条の要請によって明細書の発明の詳細な説明中においてその用語の意義が説明されているときに、その説明に従ってその用語を解釈することは、むしろ、法の要請するところである。したがって、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載の文言につき発明の詳細な説明の記載に基づいて上記のように解釈することは正当であり、被告の主張に理由がないことは明らかである。
(3) これに対して、引用発明は、その実用新案登録請求の範囲に「テレビカメラを搭載したリモートコントロール可能な模型自動車を所望の走行路で競争させるドライブゲーム装置」と記載されているとおり、遊戯者が、テレビカメラを通じたTVモニタの映像を観察しながら、自らリモートコントロールによって模型自動車をドライブする、すなわち、走行を操作することを目的とするゲーム装置である。このゲーム装置は、その明細書の「従来の技術」の項に「TVカメラから送られる画像をTVモニタにディスプレイさせ、プレイヤはそのTVモニタを観察しながらドライブゲームを行なうものである。このような形式のドライブゲーム装置であると、上記TVモニタ上には街並みや信号或いは対向車等がリアルに映し出されるため臨場感に富んだゲームが楽しめるという利点がある。」(甲第3号証3頁6行目ないし12行)と記載され、遊戯者が自ら操作する模型自動車以外の模型自動車を観察することは予定されていないことから明らかなように、そもそも、「競争」に当たるものを予定していないゲーム装置であるから、「競争ゲーム装置」ではありえない。また、引用発明は、複数の模型自動車が同一のスタート地点からゴール地点までを同時に競争することもあり得ない。すなわち、引用発明の実施例の走行路ブロックの短辺は略1m、長辺は略2m程度であり(7頁9、10行)、自動車模型も比較的大型の模型であって(同頁7行)、甲第3号証の第1図から見ても、引用発明においては、自動車模型が抜きつ抜かれつするレース展開を行ってゴールする着順を競うという競争を行うことは全く想定されていないことが明らかである。そもそも、引用発明は、「走行路は比較的大型のものとなり、そのため一度組み立てた走行路を変更することは非常に困難」(3頁15行ないし17行)であることを前提に、「同じコースで数回競技してそのコース内容を会得してしまうと、それ以降は容易に運転が可能となってゲームの面白味が半減するという欠点があった」(同頁19行ないし4頁2行)という課題を解決するための発明である。
したがって、引用発明のゲームは、競馬や競輪のような着順を争う競争をできるだけリアルに再現するという本件訂正発明の課題(本件訂正明細書の段落【0005】の「走行体を実際の競争に即して走行させゲームを面白くするため走行体が一定の軌道を有せず自由に移動するとなると、電力を常に安定して供給することが課題となる。」との記載参照)とは全く無関係なゲームである。
さらに、引用発明は、本件訂正発明のように、ゲーム装置が模型自動車の走行を制御することもあり得ないし、それら複数の模型自動車の競走によって作出される全体のレース展開を遊戯者が観覧することを予想しておらず、各模型自動車「ができるだけ有利なポジションを確保しようとして駆け引きを行いつつ走行する様子が模倣でき、レースを非常に興味あるものとすることができる。」(本件訂正明細書段落【0085】)といった課題もまた存在し得ない。
この点に関し、被告は、引用発明はいわゆる競争ゲーム装置ではないとはいえないと主張し、その理由として複数の模型体が同じ走行面を走行するものであることを挙げているが、引用発明の明細書(甲第3号証)には「数台の自動車模型」なる記載があるものの(3頁4行)、その「数台の自動車模型」が同一のスタート地点からゴール地点までを同時に競争(競走)するという記載やそのことを前提とする記載は一切ない。むしろ、単独走行を前提としているとしか考えられない記載があることは上記のとおりである。そもそも、テレビカメラと全ての駆動機構を搭載するため必然的に大型となる(7頁6行、7行参照)模型自動車が、複数台で並んで抜きつ抜かれつのレースをするためのコースを設置するために必要なスペースをゲームセンターに確保するという非現実的なことが引用発明の前提であるはずがない。
また、被告は、競争ゲーム装置は、競走すること自体を遊戯者が楽しむとともに、観戦者が競走を楽しめるのも常識であると主張しているが、本件訂正発明の「競走ゲーム装置」は遊戯者自身がレース展開全体を観覧し予想することを目的とするものであるのに対して、引用発明の遊戯者はTVモニタに映し出される模型自動車の前方の映像を観察するのみであるから、この点でも両者に共通するところは全くない。
(4) このように、引用発明を本件訂正発明と同じ意味において「競争ゲーム装置」と表現することはできないのにもかかわらず、この相違点を看過して、引用発明を本件訂正発明にいう「競争ゲーム装置」と同視する審決には、明らかな事実誤認がある。
2 取消事由2(相違点の判断(進歩性判断)の誤り) (1)相違点(1)及び(7)について 審決は、本件訂正発明は複数の駆動走行体が駆動走行面を移動するのに対して引用発明にはこの構成が記載されていないという相違点(1)、及び本件訂正発明が競争ゲーム装置であるのに対して引用発明はゲーム装置であるという相違点(7)について、「相違点(1)、(7)の複数の駆動走行体を駆動走行面上に移動させ、競争(レース展開)を行わせるようにした競争ゲーム装置とすることについては、例えば刊行物2に記載される競争ゲーム装置が、本件出願前周知の技術であることから(他に特公昭52-38781号公報等参照)、該周知技術に倣って引用発明を本件訂正発明のように構成することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得る程度の設計事項と認められる。」(審決書13頁1行ないし7行)としている。
しかし、審決は、着順を争う競争ゲームが公知又は周知であったといっているにすぎない。審決は、引用発明に刊行物2の技術を適用すると述べているが、引用発明と刊行物2記載の発明とは、いずれも広い意味でのゲーム装置であるという以上の共通点はない。そして、プレーヤーの運転技術の正確性を競う引用発明のゲームと、プレーヤーが制御することができない走行体が競うのをプレーヤーが観戦する本件訂正発明のゲームとが全く性格の異なるゲームであることは前記のとおりである。また、引用発明と刊行物2記載の発明は両方とも遊戯者の技術を競うという共通点はあるものの、引用発明が運転の正確性に基づく得点を競うものであるのに対し、刊行物2記載の発明は、スピードコントロールをしつつレースの着順を競う特殊なゲームである。審決は、引用発明に刊行物2記載の技術を適用するというが、
引用発明のゲームを刊行物2記載のゲームのように変えた途端にそれは全く異なる発明になってしまうから、審決のいっていることは、実質的には、競争ゲームそれ自体は公知であるといっている程度のことにすぎない。
(2)相違点(2)について 審決は、本件訂正発明が駆動走行面の上方に配置された模型体走行面と、駆動走行体と磁力により結合して該模型体走行面を移動する模型体を有しているのに対して、引用発明はこれらを有しないという相違点(2)について、模型体走行面及び模型体に相当する構成を有する刊行物2に開示される技術を「引用発明に適用して、本件訂正発明のように構成することは、当業者にとって格別困難性あるものとは認められない。」(審決書13頁19行、20行)としている。
しかし、引用発明からは、本件訂正発明の構成によって解決される課題は導かれないから、引用発明に刊行物2記載の発明を適用して組み合わせる動機づけが存在しない。
まず、刊行物2記載の発明においては、表面に見える模型体は、本物の競馬や競輪の競争体の姿に似せて作る必要があるから、それ自体に駆動装置を設けることは困難である。また、複数の走行体が同じトラック上で競争をするために、模型体を大きくすることはできないから、模型体は小型化される。したがって、別に駆動走行体を設けてこれにより模型体を走行させる必要がある。しかし、駆動走行体が観覧者から見えてしまっては興ざめであるから、模型体の走行面の下に駆動走行体を隠し、模型体と駆動走行体を磁力によって結合する必要が生じるのである。
一方、引用発明においては、走行する模型は自動車の模型であり、それ自体がかなりの大きさのものである。したがって、それ自体に駆動装置を設けることは容易であり、引用発明においては、単に駆動装置が搭載されているばかりでなく、テレビカメラや、リモコンの受信装置、駆動装置の制御装置も搭載されている。自動車の模型であるがゆえに、4つの車輪を有し、リモコンのハンドル操作で車輪が転回方向に向きを変えることは、現実感を増すことはあっても、現実感を損なうことはない。
したがって、引用発明に刊行物2記載の発明の技術を適用する動機は全くない。
この点に関し、被告は、模型体による競争ゲーム装置では、多数の模型体が限られた幅の競走トラックを並走するものであることから、適当な限度で小型であることが望ましいのは当業者の常識であり、また、刊行物2記載のものが、比較的小さな模型体による競争ゲーム装置の模型体の駆動機構を構成するに好都合であることも、その全体構造から明らかなことであり、したがって引用発明を刊行物2に記載された構造にするのは当業者が容易に推考し得たと主張しているが、上記のとおり、引用発明の模型自動車が必然的に大型であることはその明細書にも記載されている。つまり、引用発明は「適度な限度で小型」たり得ないのであるから、被告の論法に従えば、そのような引用発明に、被告がいうところの「比較的小さな模型体による競争ゲーム装置の模型体の駆動機構を構成するに好都合である」刊行物2記載の発明を適用することに当業者が容易に想到し得るはずがない。
(3)相違点(3)について 走行駆動制御機構に関しては、審決の認定するとおり、周知技術から見て、引用発明がモータ制御回路、駆動制御回路を有することは当然のことである。しかし、
相違点(5)について述べるとおり、引用発明の走行制御信号が遊戯者のリモコン操作(ブレーキ操作、ハンドル操作、アクセル操作)によって生成されるのに対し、本件訂正発明の走行制御信号は、駆動走行体の位置情報に基づいてレース展開が行われるように生成される点で異なる。
(4)相違点(4)について 給電手段の配置位置の相違点(4)に関しては、本件訂正発明は、走行面において繰り広げられるレース展開を遊戯者が走行面の周囲で観覧することを予定するため、走行面の周囲にいる遊戯者が手を伸ばして走行面に触れることが容易であるからこそ、走行面に電極を敷設せずに移動する走行体に外部からいかに電力を供給するかという課題が生じるのである。
これに対し、引用発明では、遊戯者はTVモニタを見てハンドル等を操作してゲームすることを予定しており、遊戯者が走行路の周囲にいることは予定されていないから、遊戯者が手を伸ばして走行面に触れるというおそれは存在しない。また、
引用発明では、駆動装置を備えた自動車模型が走行面を走行するから、自動車模型に電力を供給する電極を走行面に設けることは当然である。したがって、ここでも、引用発明に刊行物2記載の発明の技術を適用する動機は全くない。
なお、審決は、引用発明に刊行物2に記載された技術を適用することを前提に、
刊行物2のテーブルの上部13の下方から電磁石に電力を供給する給電手段が開示されていることを認定している。この認定自体は正しいが、本件訂正発明では、永久磁石が用いられているから、電磁石用に電力を供給する必要はない。本件訂正発明では、駆動制御回路に対する電力が走行面の下方に配置されている。これに対して、刊行物2記載の発明では、モータに供給され、走行体のスピードを決める電力は走行体の下方から供給されている(レール45及び46)。したがって、仮に、
引用発明に刊行物2の給電手段を適用したところで、本件訂正発明のようにはならない。
この点に関し、被告は、二階建て構造の競馬ゲームについて、その給電手段に遊戯者が触れるおそれがあるかのような原告主張の上記問題認識自体ははなはだ不可解であると主張するが、給電手段に遊戯者が触れるおそれがあるという問題点を解決することも二階建て構造を採用した理由の1つである。
(5) 相違点(5)について 審決は、走行制御手段に関する相違点(5)について、引用発明と本件訂正発明とで「実質的に差異は認められない」(審決書14頁19行)と判断している。
しかし、この判断は、相違点(1)及び(7)についての判断と同様、引用発明のゲームと本件訂正発明の競争ゲームの本質的な相違点を看過するものである。
審決は、複数の模型自動車が所定のスタート地点からゴール地点まで走行して順位を争うようなゲーム態様も引用発明に含まれると想定しているようであるが、引用発明では、そのようなゲーム態様は想定されていない。したがって、引用発明では、本件訂正発明におけるレース展開はそもそも存在しない。
さらに、仮に、引用発明におけるゲームの進行をも「レース展開」と呼ぶとしても、引用発明には、「レース展開が行われるように駆動走行体(模型自動車)のそれぞれの走行を制御する走行制御信号」は存在しない。
本件訂正発明のレース展開は予め(レースのスタート前に)定められている必要はない。しかし、本件訂正発明においては、遊戯者の操作によってレース展開が決定されるのではなく、競争ゲーム装置がレース展開を決定する。ここで、レース展開は、ある瞬間、瞬間に、どの駆動走行体がどの位置にいるかを決定することによって決定することができる。このレース展開は、「実際のレースと同じようにコースに規制されることなく、実際に即したレース展開が可能で、遊戯者には到着順位の予想はつかずより興趣をそそるものとすることができる」(本件訂正明細書の段落【0014】)ように決定される。レース展開は、時々刻々変化する駆動走行体の位置によって決定されるものである。したがって、「レース展開が行われるように駆動走行体のそれぞれの走行を制御する走行制御信号」とは、それぞれの駆動走行体が時々刻々定まる位置をとるように走行するように制御する信号にほかならない。
これに対して、引用発明の操縦信号は、例えば、遊戯者のハンドル操作によって車輪の向きを変え、アクセル操作によって速度を変えるものである。したがって、
遊戯者が何もしなければ、何も起こらない。すなわち、引用発明のゲームの進行は遊戯者の操作の結果として生ずるもので、ゲーム装置の側からゲームの進行を起こす信号は発生しない。
(6) 相違点(6)について 審決は、刊行物3に位置検出手段及び位置検出手段の検出した位置情報に基づき生成される走行制御信号に基づき駆動制御機構を制御することが開示されているから、「この開示技術を、引用発明に、刊行物2記載の発明と共に採用して本件訂正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到し得る」(審決書14頁25行ないし27行)と判断している。
しかし、刊行物3は、ゲーム装置とは何の関係もない無人車を開示しているにすぎない。この無人車は、工場等で資材や製品を運搬することを目的とするものであって、刊行物3は、単に位置制御の技術を開示しているにすぎない。位置制御においては、目標位置と検出された現在位置との差に基づく制御信号が発生し、これによって駆動装置を制御することは周知である。本件訂正発明は、既に述べたレース展開を実現するために、かかる周知技術を利用するものであるが、位置制御の技術そのものの発明ではない。上述の点と、相違点(5)について述べたことからも分かるとおり、本件訂正発明の走行制御信号は、検出された位置情報に基づくとともに、レース展開が行われるように駆動走行体を制御するものである。すなわち、本件訂正発明の競争ゲーム装置は、それぞれの駆動走行体の時々刻々の位置を決定し、その位置を指示する信号を発生する。一方、それぞれの駆動走行体の時々刻々の位置が検出され、その検出された位置と指示された位置の差によって走行制御信号が生成される。このことは、本件訂正明細書に「レース展開による予想位置と実際のキャリアの位置との差を算出し(ステップ95)、同計算結果に基づいて各キャリアの走行が制御され(ステップ96)、ステップ94に戻る。」(段落【0083】)と記載されているとおりである。
(7) 進歩性の判断の全体について 審決は、本件訂正発明と引用発明の相違点を細分化し、それぞれについて公知技術が存在することを認定している。しかし、本件訂正発明は、「走行体を実際の競争に則して走行させゲームを面白くするため走行体が一定の軌道を有せず自由に移動するとなると、電力を常に安定して供給すること」という課題を解決し、「実際のレースと同じようにコースに規制されることなく、実際に即したレース展開が可能」という効果を奏するものである。審決は、個々の要素が公知であることにのみとらわれ、特定の課題の解決、特定の効果の実現のために個々の要素を組み合わせることの困難性については何の判断もしていない。審決が本件訂正発明の進歩性の判断を誤っていることは明らかである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点の看過、引用発明の誤認)に対して (1) 原告は、本件訂正発明の「競争ゲーム装置」は、競馬ゲーム装置のように、着順の予想の当たり外れを競うゲーム装置(いわば、賭けゲーム装置)を意味するものである旨主張しているが、そのように解すべき理由は、本件訂正明細書の特許請求の範囲にも、発明の詳細な説明における課題、解決手段及びその作用などの発明の開示箇所にも特にない。
すなわち、本件訂正明細書の特許請求の範囲には、「複数の模型体によりレース展開が行われるように・・・・駆動走行体のそれぞれの走行を制御する」と記載され、また「競争ゲーム装置」と記載されているが、これはあくまで個々の駆動走行体を走行させることで、「複数の模型体によりレース展開」が行われる競争ゲーム装置であることをいうにすぎず、着順の予想の当たり外れを競う競馬ゲーム装置のような賭けゲーム装置などの特定のゲーム装置を意味すると限定的に解する必要はない。また、本件訂正明細書の特許請求の範囲には、駆動走行体の走行位置を逐次検出して、この位置情報に基づいて生成される走行制御信号で、走行制御手段によりその走行を制御することは規定されているが、これは、位置情報に基づく制御信号で駆動走行体の走行を制御することをいうにすぎず、この走行制御信号が位置情報に基づいて生成されるときの基準プログラムが競馬ゲームのような賭けゲーム実現のためのプログラムであることを明確にした記載は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載にはないのであるから、結局、このことも上記「競争ゲーム装置」は賭けゲーム装置を意味すると限定的に解さねばならない根拠にはならない。
このように、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載における「競争ゲーム装置」について、原告主張のように、賭けゲームを実行する競争ゲーム装置であるというべき理由はなく、原告の上記主張は、本件訂正発明の要旨外の事項に基づく主張であって、理由がない。
なお、本件訂正発明の親出願である特許発明は、賭けゲーム装置であり、その明細書の特許請求の範囲には、「遊戯者が入賞模型体を予想して投票を行い、投票終了後複数の模型体が順番を競って競走するレースを実行し、レース結果及び投票に応じて遊戯者に配当を行うゲーム装置であって、」と明確に記載されている。このように賭けゲーム装置であることを明確に記載した特許請求の範囲の記載における「ゲーム装置」と、賭けゲーム装置であることを明確に記載していない本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載における「競争ゲーム装置」とが、原告が主張するように、同じ賭けゲーム装置を意味するというのであれば、それは特許請求の範囲の記載を離れた根拠のない独自の見解にすぎず、原告の上記主張はこの意味においても不合理であって、理由がない。
(2) 他方、引用発明は、複数の模型体が無軌道走行して、そのゴールタイムを競い、合わせて、所定のルールに従って走行を競うものである。そして、これが走行途中での得点を競うものであることは確かであるが、複数の模型体が同じ走行面を走行するものであることから、その着順あるいはタイムなどの競走の結果をも競えるものであることは自明のことである。また、複数の模型走行体の競走の勝敗を競うゲーム装置は従来周知であるから(甲第4号証の刊行物2及び乙第1号証の特公昭52-38781号公報はその一例である。)、引用発明のゲーム装置が競走の勝敗を競うゲーム装置、いわゆる競争ゲーム装置ともなり得ることは、当業者の常識に照らして自明のことである。
したがって、引用発明のゲーム装置は、いわゆる競争ゲーム装置ではないとはいえない。
さらにいえば、競争ゲーム装置は、競走すること自体を遊戯者が楽しむとともに、観戦者が競走を楽しめるのも常識である(例えば、競馬の観戦者は、特定の馬の着順の予想の当たり外れだけでなく、馬の競走それ自体を楽しめるのは間違いないが、乗手が競争を楽しんでいることもまた明らかなことである。)。このことからすれば、引用発明が、複数の走行体の競走を観戦して楽しめるものであることは否定し得ない。まして、「競走を観戦して楽しむゲーム装置」それ自体が新規であるわけではなく、また、これが本件訂正発明の特別の工夫点であるわけでもないから、仮に、本件訂正発明の「競争ゲーム装置」の意味が、主に遊戯者が観戦して楽しむ競馬ゲームのような競争ゲーム装置で、この点において引用発明と相違するとしても、遊戯者が観戦して楽しむ競馬ゲーム装置は従来周知であること(例えば、
乙第1号証)を持ち出すまでもなく、本件訂正発明は引用発明から当業者が容易に想到し得たものである。
2 取消事由2(相違点の判断(進歩性判断)の誤り)に対して (1) 相違点(1)及び(7)について 原告の相違点(1)及び(7)についての主張は、本件訂正発明の競争ゲーム装置は、プレーヤーが制御することができない駆動走行体が競うのをプレーヤーが観戦するゲームであるという認識を前提として、引用発明に刊行物2記載の発明を適用しても、本件訂正発明の競争ゲーム装置とはならない旨主張するものであるところ、その前提自体が失当であることは、上記のとおりである。
また、上段の走行面(フリートラック)上を複数の模型体を走行させ、この複数の模型体を、下段の走行面を走行する駆動走行体で磁力を介して誘導して競馬ゲームのように競走させることは、刊行物2に記載されていることである。したがって、引用発明の模型体による競争ゲーム装置の模型体駆動機構及びゲーム装置の機構構造を、刊行物2に記載されたものに変更することにより、二階建て構造の無軌道走行による競争ゲーム装置が構成され、それが競馬ゲームのように競走するゲーム装置が構成されることは、刊行物2に記載されたものがまさにそのようなものであるから、当業者が当然に容易に予想し得たことである。したがって、引用発明と刊行物2記載の技術を組み合わせて進歩性を否定した審決に誤りはない。
なお、相違点(7)の「競争ゲーム装置」が、例えばコインを賭ける競馬ゲームのような賭けゲーム装置を意味すると仮定しても、競馬ゲームのように競走するゲーム装置によって着順予想の当たり外れを競う競走ゲームを行うことは、出願前に周知の事項であり(例えば、乙第1号証)、他方、本件訂正発明の競争ゲーム装置は、賭けゲーム装置であるための特別な事項を構成要件とするものではなく、単に「賭けゲーム装置」であるというにすぎないから、引用発明の模型駆動走行機構を刊行物2に記載されたものに変更し、これを上記のような賭けゲームを行う競争ゲーム装置にすることは、刊行物2に記載されたもの及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。したがって、相違点(7)についての審決の判断に特段の誤りはない。
(2)相違点(2)について 引用発明は、模型体と駆動走行体とを一体にした走行体であるが、これに対し、
刊行物2記載の発明は、模型体と駆動走行体とを分離して別体とし、駆動装置を備えた駆動走行体を下段の走行面を走行させるものであるから、模型体を走行駆動部の大きさとは無関係に小型化することができる。他方、模型体による競争ゲーム装置において遊戯者の目にさらす必要があるものは模型体のみであり、多数の模型体が限られた幅の競走トラックを並走するものであることから、適当な限度で小型であることが望ましいのは、この種の競争ゲーム装置が限られた屋内の一室に設置されるのが一般的であることから、当業者の常識であり、また、刊行物2記載のものが、比較的小さな模型体による競争ゲーム装置の模型体の駆動機構を構成するに好都合であることも、その全体構造から明らかなことである。
したがって、引用発明の多数の模型体による競走走行機構を、刊行物2に記載された、いわば二階建て構造の競争ゲーム装置にして、比較的幅の狭い競走トラック上を複数(実際には多数)の模型体を併走させるのに適した競争ゲーム装置とすることは、刊行物2記載の競争ゲーム装置の機構、構造から、当業者が容易に推考し想到し得たことである。
(3)相違点(3)について 原告の主張は、本件訂正発明の走行制御信号は、駆動走行体の位置情報に基づいてレース展開が行われるように生成されるものであり、この点は引用発明が備えていない事項であるということである。
しかし、本件訂正発明について、「駆動走行体の位置情報に基づいてレース展開が行われるように走行制御信号は生成される」との主張は、基準となる制御プログラムが予め定められていることが前提事項であるが、本件訂正発明はこの前提事項をその構成要件とするものではない。
仮に、この相違点(3)は、上記のとおり原告が認識するように解さざるを得ないとすれば、このことは、相違点(5)、(6)と重複する事項である。そして、
相違点(5)、(6)についての審決の判断に誤りはないことは後記のとおりである。
(4)相違点(4)について 原告主張のうち、「本件訂正発明の模型体誘導磁石は永久磁石であり、これに給電するものではなく、模型体走行面の下方に配置した給電手段は駆動走行体の駆動手段への給電手段である」という主張は、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載されていないのであるから、本件訂正発明の要旨外のことである。なぜなら、本件訂正明細書の特許請求の範囲には、上記給電手段から磁石に給電する旨の記載はないが、逆に、走行駆動モータにのみ給電手段から給電する旨の記載もないのであるから、上記磁石に給電するものは含まないとはいえないからである。
また、刊行物2に記載された二階建て構造の競争ゲーム装置に限らず、ゲーム装置では、内部構造が機枠側壁によって覆われているなど、その内部構造が露見しないようにしているのが一般的であるから、ゲーム装置の内部に配置された給電手段に遊戯者が直接触れるおそれがあるとは常識的には考えられない。したがって、その給電手段に遊戯者が触れるおそれがあるかのような、原告主張の問題認識自体は、はなはだ不可解である。しかし、仮に側壁などによる防護がないと仮定すれば、その場合は、遊戯者が給電手段に直接触れることがないように配慮することは設計上当然のことである。給電手段を上段の走行面の下方に配置することにより、
その危険を低減し得ることは、例えば刊行物2の二階建ての構造から当業者が容易に推測し得たことである。
さらに、次のようにいうこともできる。すなわち、引用発明は走行面に給電手段を配置するのに特段の支障はないから、走行面に給電手段を配置しているが、この給電手段を適用する対象装置において、その走行面にこれを配置するのに特段の支障があるとき(例えば、走行レールがある場合がこれに当たる)は、給電手段を走行面に配置することはできないのであるから、これに換えて、給電手段を天井に配置すればよいことは、設計上当業者が容易に想到し得たことであり(走行体の集電子が、常に一定の位置関係を保ち得る面は、走行面か天井面しかないことは構造上自明である。)、その一例が刊行物2に記載されているといえる。したがって、相違点(4)は当業者が設計上容易に採用し得たことである。
(5)相違点(5)について 原告の主張は、レース展開は予め決められているものではなく、駆動走行体が走行するときの「時々刻々変化する駆動走行体の位置によって決定され」るものであり、走行制御信号は、「それぞれの駆動走行体が時々刻々定まる位置をとるように走行するように制御する信号」として、位置検知情報に基づいて生成されるものであるということのようである。このことから、本件訂正発明の走行制御は、競走の結果としての「レース展開」がなされるように、「それぞれの駆動走行体が時々刻々定まる位置をとるように走行するように制御する」ものである、と推測されないでもない。しかし、「時々刻々走行体の位置を変化させる」は、文字どおりにいえば、走行体を走行させることに他ならないから、結局、これはただ走行体を走行させるように走行制御信号で制御してレースを行わせることをいうにすぎないことになる。そうであるとすれば、位置を検出しながら走行体を単に走行させるだけでは、期待するある「レース展開」が行われることは到底あり得ない。
他方、原告の主張は、「本件訂正発明の走行制御は、遊戯者の技量、意思とは無関係なところで走行制御されるものであり、また本件訂正発明のレース展開はこのように、遊戯者とは無関係に実行されるレース展開を意味する」ということと推測されないではない。しかし、この相違点をそのように限定的にとらえなければならない理由はない。また、仮にそのように限定的にとらえるとしても、その点は、競馬ゲーム装置などの賭けゲーム装置(例えば、乙第1号証)におけるゲーム展開、
模型体の走行制御それ自体に相当するものであり、特に本件訂正発明特有の新規な技術的事項ではなく、この点に格別の発明が存在するというものではない。まして、相違点(5)は、ゲーム展開の具体的な仕方に関わる事項ではないから、競走ゲームの展開への遊戯者の何等かの参加を許すかどうかは、相違点(5)の範囲外のことであり、また、本件訂正発明の要旨外のことである。
(6) 相違点(6)について 本件訂正発明は、走行体の走行制御技術については、要するに、位置検知手段を有すること、位置検知手段からの位置信号に基づいて、レース展開が行われるように生成された走行制御信号によって走行体の走行を制御することを構成要件とするにすぎず、予め定めたプログラムに従って、予め定めた位置を順次追跡させるようにフィードバック制御することをその要旨とするものではない。このことは、本件訂正発明のレース展開は予め定められている必要はないものであるとの原告の主張とも符合する。他方、上記のように、予め定めた走行経路上の位置を順次追跡するようにフィードバック制御することは、本件訂正発明の要旨外のことであり、また、定められた基準を基にしたフィードバック制御とは異なる制御技術は、本件訂正明細書には記載されていないのであるから、原告の主張は明細書に記載された制御技術以外のことであるということにもなる。
また、原告は、刊行物3記載の発明は、運搬車両の走行制御技術であるから、これを競争ゲーム装置に適用することは容易ではないとも主張するが、この種の無軌道走行体の走行制御技術それ自体はその用途が限定されるものではなく、あらゆる技術分野における無軌道走行体の走行技術に共通する一般的な制御技術であるから、この周知の走行制御技術を競争ゲーム装置の無軌道走行体の走行制御に適用すること自体は当業者が適宜し得たことである。
なお、本件訂正発明の競争ゲーム装置は、競馬ゲームのような賭けゲーム装置を意味するものと限定して解釈しなければならないものではないが、仮に、そのように解釈するとしても、完全に自動制御されるゲーム装置で競馬ゲームのゲーム展開を実行させることは、例えば、乙第1号証のものなどの従来周知の競馬ゲーム装置が備えている事項である。
(7) 進歩性判断の全体について 本件訂正発明の構成要件は、上記の公知技術を単に並列的に用いるというにすぎない。そして、このことは、本件訂正発明の構成要件による作用効果が、上記公知技術それ自体の作用効果、あるいはそれから当然に予想される範囲を越えるものではないところからもいえることである。
以上のとおりであるから、本件訂正発明の進歩性全体についても、審決の判断に誤りはない。
理 由 1 取消事由1(相違点の看過、引用発明の誤認)について (1) 本件訂正発明の「競争ゲーム装置」の意義について ア 原告は、本件訂正発明の「競走ゲーム装置」は、遊戯者は模型体及び駆動走行体を操作することなく、完全にゲーム装置によって走行が制御される駆動走行体に結合する複数の模型体が同一のスタート地点からゴール地点までを同時に競争(競走)することによって作出されるレース展開を遊戯者が観覧、予想するゲームを行うための装置という意味である旨主張している。
そこで、本件訂正発明の「競争ゲーム装置」の意義について検討する。
イ(ア) 甲第4号証、乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば、本件の出願当時のゲーム装置の技術分野において、複数の馬、自動車等を模した造型体のそれぞれの移動を制御して平面上を走行させることによって、それらのスピード、順位等を競い争い、勝負、優劣を決するレース展開を模倣して、遊戯者を遊興させるという種類のゲーム装置が周知となっており、該装置による走行体の制御の方法として、遊戯者が走行体を制御する装置の構成部分を操作することができるもの(以下「参戦型」という。)と、遊戯者は該構成部分を操作することはできず、専らレースを観戦し、その勝敗を予想等するもの(以下「観戦型」という。)とが存在しており、このいずれの構成のゲーム装置も周知であり、両構成のゲーム装置が存在することは、当業者の技術常識に属していたことが認められる。
また、広辞苑第5版(当裁判所に顕著)によれば、「競争」の用語は、「勝負・優劣を互いにきそい争うこと」という意味であることが認められ、本件全証拠によっても、ゲーム装置の技術分野において、「競争」の用語の意味についてこれと異なる特別の意義を有するものと解すべき根拠を認めることはできないから、上記の両構成のゲーム装置(参戦型及び観戦型)を総じて、「競争ゲーム装置」と称呼することができるものと認められる。
(イ) 本件訂正発明を構成する「競争ゲーム装置」の意義についてみると、前記第2(前提となる事実)の2のとおり、本件訂正明細書の「特許請求の範囲」欄には、請求項1として、「複数の模型体が走行経路を規制されることなく移動可能」、「前記複数の模型体によりレース展開が行われるように駆動走行体のそれぞれの走行を制御する」、「競争ゲーム装置」と記載されていることが認められる。
この特許請求の範囲の記載によると、本件訂正発明における「競争ゲーム装置」の意義として、上記の通常の意味とは異なり、原告が主張するように、遊戯者が操作することを排除し、完全にゲーム装置のみによって走行が制御されることをその構成としているもの(観戦型)に限定して解釈すべき根拠は認められない。
さらに、甲第7号証の2によると、本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」欄には、【発明の属する技術分野】として、「本発明は、例えば競馬、競輪、自動車レース等のトラック上を競争するレース等を模倣したゲームすなわち一定のフィールド上を走行体が移動する競争ゲーム装置に関する。」(段落【0001】)と記載され、
【従来の技術】として、「従来、競馬、自動車レース等を模倣した競争ゲーム装置は種々あり、走行体がモータ等の駆動手段を有して自らを走行させるようにした例もある。かかる走行体において、自ら電源を搭載する場合としない場合があるが、搭載する場合は走行体が大型で重くなり、蓄電力の消耗および交換等を考慮しなければならず使い勝手が良くない。そこで、外部からの電力の供給を受けて走行するようにすることで、小型軽量の走行体として、電力の消耗や交換などの心配はいらない。しかし移動する走行体に外部からいかに電力を供給するかが問題である。従来の競争ゲーム装置は、予め決められた一定の軌道を各走行体が走行するものであったので、軌道に沿って電力線を配線しておく等の方法も考えられるが、走行体を実際の競争に即して走行させゲームを面白くするため走行体が一定の軌道を有せず自由に移動するとなると、電力を常に安定して供給することが課題となる。
そこで走行面に電極を敷設して走行体から集電子を延出させて電極に接触させる例もあるが、電極が外部に露出していて遊戯者が触れるおそれがある。本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、走行経路を規制されずに移動する走行体に常時電力を供給する給電用電極が外部に露出せず遊戯者が触れるおそれのない競争ゲーム装置を供する点にある。」(段落【0002】ないし【0006】)と記載され、
【課題を解決するための手段および効果】として、上記の目的を達成するために、本発明は、上記の請求項1の記載のように構成された競争ゲーム装置としたこと(段落【0007】)が記載され、「模型体走行面上の模型体をその下方の駆動走行面上を走行する駆動走行体が磁力により結合して走行経路を規制されることなく誘導する構成で、遊戯者は模型体走行面とその上を走行する模型体を見ることになり、実際のレース展開に近い状況が構成できる。そして、模型体走行面の下方に配置された給電手段は給電用電極を前記模型体走行面と前記駆動走行面に挟まれた空間に向かって露出しているので、外部に余計な電極等が露出しておらず遊戯者の目に入ることはなく、かつ遊戯者が電極に触れるおそれは全くない。このように内部に設けられた給電用電極が敷設された給電板に集電子が接触移動するので、走行経路を規制されることなく移動する駆動走行体に常時電力を供給することができる。また駆動走行体の下部側では位置検出手段により駆動走行体の位置が検出される。」(段落【0008】)と記載されていることが認められる。
上記の本件訂正明細書の「発明の詳細な説明」における本件訂正発明の内容についての記載事項(従前の技術において解決すべき課題、解決するために本件訂正発明が採用した手段、構成、本件訂正発明の作用、効果)をみても、本件訂正発明の「競走ゲーム装置」について、模型体及び駆動走行体の走行を制御する方法として、遊戯者が操作するものであるか否かについて触れた記載は全くなく、原告が主張するように、遊戯者が操作することを排除し、完全にゲーム装置のみによって走行が制御されることをその構成としており(観戦型)、遊戯者が操作する構成のもの(参戦型)は含まないものであると限定して解すべき根拠は認めることはできない。
なお、給電用電極が模造体(模型体)の走行面に露出している場合、参戦型のゲーム装置においても、遊戯者の走行体(模型体)の操作方法、操作位置等によって、遊戯者が電極に触れるおそれが生じることは、観戦型のゲーム装置において、
遊戯者の観戦方法、観戦位置等によって、遊戯者が電極に触れるおそれが生じることと異なることはなく、本件訂正発明が解決すべきとした上記本件訂正明細書記載の課題は、上記の通常の意味の競争ゲーム装置(参戦型及び観戦型)に共通して認められるものである。
ウ 原告は、上記主張の根拠として、本件訂正明細書中に、「【0074】そして次のステップ63のメダル投入検出までのデモンストレーションが行われ、メダルの投入があると、まずマイクロコンピュータ101はレース展開を決定する(ステップ64)。【0075】レース展開の決定は予め用意された多数のレース展開(コンピュータに記憶されている)のうちから1つを無作為に選択するものであり、レースはここで決定されたレース展開に従って進行し、各キャリア50はこのレース展開に基づいて走行制御される。」「【0077】・・・次いで各遊戯者が勝ったか否かが判断され(ステップ71)、勝ったときは配当にしたがってメダルの払い出しがなされ(ステップ72)、・・・」と記載されていることを挙げている。確かに、甲第7号証の2によれば、原告指摘の各記載があること、及び「実際のレースと同じようにコースに規制されることなく、実際に即したレース展開が可能で、遊戯者には到着順位の予想はつかずより興趣をそそるものとすることができる」(段落【0014】)と記載されていることが認められる。しかしながら、同号証によれば、これらの記載は、いずれも、【発明の実施の形態】として、
「以下本願発明の一実施の形態について図1ないし図24に基づき説明する。」(段落【0010】)とした上で記載されたものであることが認められ、本件訂正発明の実施例の1つについて説明したものにすぎないことが明らかであるから、本件訂正発明の要旨を構成する「競争ゲーム装置」についての上記イの解釈を左右するものではなく、他に、本件訂正明細書には、原告の主張を首肯するに足りる記載は認められず、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 引用発明の誤認の主張について ア 以上のとおり、本件訂正発明の競争ゲーム装置の意義についての原告の主張は採用することができないから、この主張を前提として審決が引用発明について誤認したという原告の主張も、失当である。
イ また、原告は、引用発明は、そもそも「競争」に当たるものを予想していないゲーム装置であり、また、複数の模型自動車が同一のスタート地点からゴール地点までを同時に競争することもあり得ず、模型自動車が抜きつ抜かれつするレース展開を行ってゴールする着順を競うという競争を行うことは全く想定されていない旨主張し、審決が相違点(1)及び(7)についての判断中で「引用発明は、ゲーム装置と限定しているだけであり、競争ゲーム装置を排除しているものとは認められない。」(審決書13頁12行ないし14行)とした点につき、誤認であると主張している。
甲第3号証によれば、刊行物1(実願昭60-56025号(実開昭61-171993号)のマイクロフィルム)には、明細書の「実用新案登録請求の範囲」欄に、「テレビカメラを搭載したリモートコントロール可能な模型自動車を所望の走行路で競争させるドライブゲーム装置」(明細書1頁5行ないし7行)と記載されていること、また、「考案の詳細な説明」欄には、〔産業上の利用分野〕として、
「本考案はドライブゲーム装置、特にリモートコントロール可能な自動車模型を所望の走行路上で競争させるドライブゲーム装置の改良に関する。」(同2頁17行ないし19行)と記載され、〔従来の技術〕として、「市街地等を模したフロア上でTVカメラを搭載した数台の自動車模型をそれぞれリモートコントロールして走行させる」(同3頁3行ないし5行)と記載され、〔実施例〕として、「プレイヤは・・・他人の操縦する自動車模型等の映像を観察しながら自己の自動車模型を操縦する」(同7頁14行ないし18行)と記載されていることが認められる。
これらの記載によれば、審決が本件訂正発明と引用発明との相違点(1)及び(7)として認定するように、刊行物1には、引用発明が複数の模型自動車が走行路を移動して、それらのスピード、順位等を競い争い、勝負、優劣を決するレース展開を模したゲーム装置であることについて明示する記載はないが、複数の模型自動車が走行路を走行すること、及び模型自動車を走行路で競争させることを開示しているのであるから、少なくとも、審決が認定するように、引用発明のゲーム装置が、複数の模型自動車により上記のレース展開が行われる競争ゲーム装置を排除するものであると認めることはできないことは明らかである。
なお、刊行物1(甲第3号証)には、原告が主張するとおり、走行路ブロックの大きさに関する記載があり(7頁9行、10行)、また、模型自動車が「比較的大型の模型」であるとの記載がある(7頁7行)こと、及び「自動車模型2が交通違反を犯したり、交通事故を起こすと予め定められたプログラムに従って減点され、
ある基準点数以上であれば時間延長ができまたはそれ以上の点数であれば景品がでるようなゲームとして構成されている。」との記載がある(8頁2行ないし7行)ことが認められる。
しかしながら、他方、甲第3号証によれば、刊行物1には、走行路ブロックと自動車模型との幅の比率に関する記載はないことが認められるから、複数の模型自動車が同一の走行路ブロックを併走し得ない構成であると認めることはできず、原告が主張するように、引用発明では模型自動車が抜きつ抜かれつするレース展開を行ってゴールする着順を競うという競争を行うことは全く想定されていないと解することはできない。また、同号証によれば、原告主張の上記刊行物1記載のゲームの構成(点数により時間延長されたり景品が出される構成)は、〔実施例〕欄に、
「本考案の詳細を具体的に説明する。」(5頁19行、20行)とした上で記載されているものであり、同欄に続く〔考案の効果〕欄には、「なお、上記説明では・・・述べてきたが、本考案に係る装置は、・・・更にまた各構成要素は本考案の目的の範囲内で自由に設計変更できるものであって、本考案はそれらの総てを包摂するものである。」(13頁5行ないし12行)と明記されていることが認められる。したがって、刊行物1記載の上記各事項をもって、引用発明が複数の模型自動車による競い合いをする競争ゲーム装置を排除するものであると認めることはできない。
(3) 以上のとおり、原告の取消事由1(相違点の看過、引用発明の誤認)の主張は、採用することができない。
2 取消事由2(相違点の判断(進歩性判断)の誤り)について (1) 相違点(1)及び(7)について 原告は、審決が、相違点(1)の「本件訂正発明は複数の駆動走行体が駆動走行面を移動するのに対して、引用発明は、この構成が記載されていない点」、相違点(7)の「本件訂正発明は、競争ゲーム装置であるのに対して、引用発明は、ゲーム装置である点」について、「相違点(1)、(7)の複数の駆動走行体を駆動走行面上に移動させ、競争(レース展開)を行わせるようにした競争ゲーム装置とすることについては、例えば刊行物2に記載される競争ゲーム装置が、本件出願前周知の技術であることから(他に特公昭52-38781号公報等参照)、該周知技術に倣って引用発明を本件訂正発明のように構成することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得る程度の設計事項と認められる。」(審決書13頁1行ないし7行)と判断したことについて、引用発明と刊行物2(米国特許第2188619号明細書、甲第4号証)記載の発明とは、いずれも広い意味でのゲーム装置であるという以上の共通点はなく、審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら、引用発明と刊行物2記載の発明とがいずれも広い意味でのゲーム装置である点で共通することについては原告が自認するところであり、両発明は、
技術分野を同じくするものであるということができる。そして、当業者が同一の技術分野における周知技術公知技術を適用することは通常行われることであり、格別困難なものということはできない。
原告は、引用発明が運転の正確性に基づく得点を競うものであるのに対し、刊行物2記載の発明は、スピードコントロールをしつつレースの着順を競う特殊なゲームであると主張する。しかし、引用発明が複数の模型自動車によるレース展開を行う競争ゲーム装置を排除するものでないことは、前判示1のとおりであるから、引用発明に対して、刊行物2に明示されている周知の競争ゲーム装置の構成を適用して本件訂正発明の構成とすることを阻害すべき事由は認められない。
なお、原告は、引用発明のゲーム装置と本件訂正発明のゲームとが全く性格の異なるゲームである旨主張しているが、本件訂正発明を構成する「競争ゲーム装置」について、原告主張のように観戦型のゲームに限定して解釈することができないことは、前判示1のとおりである。
以上のとおり、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 相違点(2)について 原告は、審決が、相違点(2)の「本件訂正発明は、駆動走行体の上方に配置された模型体走行面を有し、該模型体走行面を駆動走行体と磁力により結合して走行経路を規制されることなく移動可能に構成された模型体を有しているのに対して、
引用発明は、この構成が記載されていない点」について、模型体走行面及び模型体に相当する構成を有する刊行物2に開示される技術を「引用発明に適用して、本件訂正発明のように構成することは、当業者にとって格別困難性あるものとは認められない。」(審決書13頁19行ないし20行)とした点につき、引用発明に刊行物2記載の技術を適用する動機は全くないとして、審決の判断は誤りであると主張する。
引用発明と刊行物2記載の発明とがゲーム装置という点で共通しており、引用発明に刊行物2記載の発明を適用することを阻害すべき事由が見当たらないことは前判示(1)のとおりである。そして、ゲーム装置の技術分野において、該ゲーム装置全体の規模、大きさについては、それが設置される場所の広狭等によって小型化されることが課題となることは、当業者にとって自明なことである。また、引用発明について、複数の模型自動車が同一の走行面を走行する競争ゲーム装置として構成する場合には、走行体について、より小型化すべき課題が生じることも自明のことであり、その場合、例えば、自動車を模した造型体の内部にはテレビカメラのみを搭載し、その余の駆動走行部分等は、他の構造部分に配置し、かつ、該部分について遊戯者の目に触れない構成とするなどして模型自動車の小型化を図ることも容易に想起し得るものである。
したがって、原告が主張するように、ゲーム装置ないし走行体の小型化という点について、引用発明に刊行物2記載の発明を適用する動機が全くないということはできない。
なお、甲第3号証によれば、原告が指摘するとおり、刊行物1には、模型自動車が「比較的大型の模型」であるとの記載があることが認められるが、この記載は、
実施例〕欄に、「本考案の詳細を具体的に説明する。」とした上で記載されているものであり、前判示のとおり、同欄に続く〔考案の効果〕欄には、「なお、上記説明では・・・述べてきたが、本考案に係る装置は、・・・更にまた各構成要素は本考案の目的の範囲内で自由に設計変更できるものであって、本考案はそれらの総てを包摂するものである。」と明記されていることが認められ、原告指摘の記載部分は、引用発明における模型自動車が大型であることを発明の必須の構成要件とするものとして記載されたものではないと認められるから、上記のとおり、引用発明のゲーム装置においても模型自動車をより小型化するという技術的課題が生じ得ることを否定するものではない。
付言すると、引用発明のような参戦型の競争ゲーム装置においても、自動車模型に電力を供給する電極を走行面上に設けた場合に、遊戯者又はその他の者が給電手段に直接触れることがないように配慮する必要性が存在することは、後記(4)の相違点(4)について判示するとおりである。したがって、このような技術的課題が存在することを考慮すれば、刊行物2記載の発明や本件訂正発明のように、駆動走行体の上方に模型体走行面を配置し、該模型体走行面を模型走行体が走行するという構成を採り、かつ、該駆動走行体に電力を供給する電極の配置とすることについて、動機付けが存在することも否定することができない。
以上のとおり、原告の上記主張は、採用することができない。
(3) 相違点(3)について 原告は、審決が、相違点(3)の「走行駆動制御機構に関し、本件訂正発明は、
モータを制御するモータ制御回路と受信した走行制御信号に基づいてモータ制御回路にモータ駆動信号を出力する駆動制御回路とを有しているのに対して、引用発明は、この構成が不明瞭である点」について、「走行駆動制御機構が、モータ制御回路及び受信した走行制御信号に基づいてモータ制御回路にモータ駆動信号を出力する駆動制御回路を有することは本件出願前周知の技術であって、この周知技術を付加することも、当業者にとって格別困難性あるものとは認められない。」(審決書13頁25行ないし29行)と判断した点を誤りと主張する。
原告は、引用発明がモータ制御回路、駆動制御回路を有することについて争わず、引用発明の走行制御信号が遊戯者のリモコン操作によって生成されるのに対し、本件訂正発明の走行制御信号は、駆動走行体の位置情報に基づいてレース展開が行われるように生成される点で異なると主張する。
しかしながら、審決は、本件訂正発明がレース展開が行われるように走行体の走行を制御する走行制御信号を走行駆動制御機構に送信する走行制御手段を有している点については、相違点(5)として、本件訂正発明が位置情報に基づき生成される走行制御信号に基づき走行駆動制御機構が制御される点については、相違点(6)として認定した上で、それぞれ判断しているところであり、相違点(3)について審決の判断が誤りであるとの原告の主張は、その理由を欠くものであって、
失当である。
(4) 相違点(4)について 原告は、審決が、相違点(4)の「給電手段の配置位置に関し、本件訂正発明は模型体走行面の下方に配置され、これに伴って、集電子は駆動走行体の上部側に設けられているのに対して、引用発明は、給電手段は駆動走行面に配置され、従って、集電子は駆動走行体の下部側に設けられている点」について、「引用発明における給電板を模型体走行面の下方に配置すること及びこの構成に伴って集電子を駆動走行体の上部側に設けることは、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。」(審決書13頁32行ないし34行)と判断した点につき、引用発明では、遊戯者がTVモニタを見てハンドル等を操作してゲームすることを予定しており、走行路の周囲にいることは予定されていないから、遊戯者が手を伸ばして走行面に触れるという恐れは存在せず、また、駆動装置を備えた自動車模型が走行面を走行するから、自動車模型に電力を供給する電極を走行面に設けることは当然であり、引用発明に刊行物2記載の発明の技術を適用する動機は全くない旨主張している。
しかしながら、刊行物1(甲第3号証)には、遊戯者が操作する装置部分の具体的な構成、及び引用発明における走行路、TVモニタ、遊戯者が操作する装置部分のそれぞれの配置関係については、一切記載されていないから、引用発明では遊戯者が走行路の周囲にいることが予定されていないとの原告の上記主張には根拠が認められない。そして、ゲーム装置の技術分野において、遊戯者又はその他の者が給電手段に直接触れることがないように構成することは技術常識であることは明らかであり、引用発明においても、遊戯時、又はその他の場合に、遊戯者又はその他の者が走行路の周囲にいることがあり得ないとすべき根拠は全くなく、遊戯者等が給電手段に直接触れることがないように配慮する必要性は当然に存在するということができる。
また、前判示(2)のとおり、引用発明においても、自動車を模した造型体の内部にはテレビカメラのみを搭載し、その余の駆動走行部分等は、他の構造部分に配置し、かつ、該部分について遊戯者の目に触れない構成とするなどして模型自動車の小型化をすることが要請されることは容易に想起し得るものであるから、その場合、駆動部分に対する電力の供給手段について、刊行物2記載の発明の技術を適用する動機が存在するのであり、これを否定することはできない。
以上のとおり、引用発明に刊行物2記載の発明の技術を適用する動機が全くないとの原告の上記主張は、採用することができない。
なお、原告は、本件訂正発明では永久磁石が用いられており、引用発明に刊行物2記載の給電手段を適用したところで、本件訂正発明のようにはならないとも主張しているが、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、前記第2(前提となる事実)の2のとおりであり、永久磁石を用いる点は、本件訂正発明の構成要件となっていないことは明らかであるから、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって、失当である。
(5) 相違点(5)について 原告は、審決が、相違点(5)の「本件訂正発明は、複数の模型体によりレース展開が行われるように駆動走行体のそれぞれの走行を制御する走行制御信号を走行駆動制御機構に送信する走行制御手段を有しているのに対して、引用発明は、この構成が不明瞭である点」について、引用発明と本件訂正発明とで「実質的に差異は認められない」(審決書14頁19行)と判断した点につき、相違点(1)及び(7)についての判断と同様、引用発明のゲームと本件訂正発明の競争ゲームの本質的な相違点を看過するものであり、引用発明では、本件訂正発明におけるレース展開はそもそも存在せず、仮に、引用発明におけるゲームの進行をも「レース展開」と呼ぶとしても、引用発明のゲームの進行は遊戯者の操作の結果として生ずるもので、ゲーム装置の側からゲームの進行を起こす信号は発生せず、引用発明には、「レース展開が行われるように駆動走行体(模型自動車)のそれぞれの走行を制御する走行制御信号」は存在せず、審決の判断は誤りである旨主張している。
しかしながら、審決は、「引用発明も・・・操縦装置が、走行制御手段を有することをも示唆しているものである。してみれば、引用発明において、上記相違点(1)において述べたように模型自動車(「駆動走行体」)を複数備えることにより、引用発明が、複数の走行駆動体それぞれの走行を制御する走行制御信号を走行駆動制御機構に送信する複数の走行制御手段を当然に備えることとなる。」(審決書14頁11行ないし17行)と判断しているのであり、引用発明において、模型自動車を複数備え、競争ゲーム装置の構成をとることを前提に判断しているのであり、この前提について誤りとはいえないことについては、前記(1)の相違点(1)及び(7)について判示したとおりである。そして、このような前提に立つ場合、甲第3号証によれば、引用発明は、「TVモニタと、プレイヤの操作に応じて操縦信号を発信する送信機とから成る別途設けた操縦装置」(甲第3号証の明細書7頁2行ないし4行)を備えていると認められるのであるから、引用発明について、複数の模型自動車による競争が行われるように、それぞれの走行を制御する操縦信号が走行駆動制御機構に送信されるという走行制御手段を備えることになるものと認められるのであり、審決の判断に誤りはない。
原告は、審決は、引用発明のゲーム装置と本件訂正発明の競争ゲーム装置との本質的な相違点を看過するものであり、本件訂正発明では、遊戯者の操作によってレース展開が決定されるのではなく、競争ゲーム装置が決定するのに対して、引用発明におけるゲームの進行は、遊戯者の操作の結果として生ずるもので、ゲーム装置の側からゲームの進行を起こす信号は発生しない旨主張している。
しかしながら、本件訂正発明の競争ゲーム装置の意義について、原告主張のように限定して参戦型のゲーム装置を排除して解釈すべき根拠はなく、審決が、引用発明のゲーム装置と本件訂正発明の競争ゲーム装置との対比判断において、本質的な相違点の看過をしたとは認められないことは、前判示1に説示したとおりであって、原告の上記主張は、その前提において失当であり、採用することができない。
(6) 相違点(6)について 原告は、審決が、相違点(6)の「本件訂正発明が駆動走行体のそれぞれの走行中の走行位置を逐次検出する位置検出手段を有し、該位置検出手段は、駆動走行体の下部側から位置を検出するように配置されており、検出された位置情報に基づき生成される走行制御信号に基づき走行駆動制御機構が制御されるように構成しているのに対して、引用発明は、この構成が記載されていない点」について、刊行物3(特開昭60-153509号公報、甲第5号証)に位置検出手段及び位置検出手段の検出した位置情報に基づき生成される走行制御信号に基づき駆動制御機構を制御することが開示されているから、「この開示技術を、引用発明に、刊行物2記載の発明と共に採用して本件訂正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到し得る」(審決書14頁25行ないし27行)と判断した点につき、刊行物3は、ゲーム装置とは何の関係もない無人車を開示しており、単に位置制御の周知の技術を開示しているにすぎず、本件訂正発明の走行制御信号は、検出された位置情報に基づくとともに、既に述べたレース展開が行われるように、競争ゲーム装置がそれぞれの駆動走行体の時々刻々の位置を決定して、駆動走行体を制御するのであり、審決の判断は誤りである旨主張している。
刊行物1に、「本考案はドライブゲーム装置、特にリモートコントロール可能な自動車模型を所望の走行路上で競争させるドライブゲーム装置の改良に関する。」(審決書7頁32行ないし34行)、「自動車模型2、2の操縦は、上記無線送像装置からの映像信号を受信して映し出すTVモニタと、プレイヤの操作に応じて操縦信号を発信する送信機とから成る別途設けた操縦装置(図では省略)によって行なわれる。」(同8頁1行ないし4行)との記載があることについては、原告において争わない。
これらの記載によれば、引用発明は、操縦装置を用い、自動車模型を所望の走行路を競争させるドライブゲーム装置に関するものであり、自動車模型の移動の制御を行うものであるということができる。また、刊行物3に示されている位置制御の技術は、その用途が限定されるものでなく、当業者においてゲーム装置の技術分野に利用することができることは明らかである。そうすると、引用発明における移動の制御の方法について、当業者が刊行物3に示される位置制御の周知の技術を用いて、本件訂正発明におけるように走行制御信号が検出された位置情報に基づくように構成することは、これを困難であると解すべき特段の事情がない限り、容易に想到し得るものであると認められるのであり、本件全証拠によっても、この特段の事情は認めることはできない。また、この走行制御の方法を、刊行物2記載の発明のように、複数の模型自動車を競争させる構成とする場合に、それぞれの走行体を制御するように構成することについても、上記と同様に、当業者にとって格別困難性があるものとは認めることはできないから、これと同旨の審決の判断に誤りはない。
なお、本件訂正発明の競争ゲーム装置の意義について、原告主張のように限定して参戦型のゲーム装置を排除して解釈すべき根拠はなく、本件訂正発明における走行体の制御方法について、完全に競争ゲーム装置がそれぞれの走行体の走行位置を決定して制御する構成のものに限定されるものと解釈することができないことは、
前判示1に説示したとおりである。
以上のとおり、原告の上記主張は、採用することができない。
(7) 進歩性判断の全体について 原告は、審決が特定の課題の解決、特定の効果の実現のために個々の要素を組み合わせることの困難性については何の判断もしていない旨主張している。
しかしながら、以上に判示したとおり、本件訂正発明と引用発明との相違点(1)ないし(7)につき、それぞれ刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたとする審決の判断は、いずれも誤りが認められないのであり、本件全証拠によっても、これらを組み合わせて、本件訂正発明全体の構成として発明することが当業者にとって格別困難であると解すべき根拠は認めることはできない。
したがって、審決が、本件訂正発明について、「刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない」(審決書14頁31行ないし33行)とした判断に誤りはない。
(8) 小括 以上のとおり、原告の取消事由2(相違点の判断(進歩性判断)の誤り)の主張も採用することができない。
3 結論 以上の次第で、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史