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関連審決 審判1999-35764 審判1995-28111
関連ワード 協議 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  実施料相当額 /  ライセンス /  権利の濫用(権利濫用) /  存続期間 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施許諾(実施の許諾) /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 24433号 特許権損害賠償等請求事件
原告 三菱電機株式会社
同訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
同 柳 誠一郎
同補佐人弁理士 加藤恒
被告 ダイニチ工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋賢一
同補佐人弁理士 吉井剛
同 吉井雅栄
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/06
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録(一)記載の温風暖房機を製造し,販売し,販売のために展示してはならない。
2 被告は,その占有する別紙物件目録(一)記載の温風暖房機を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,2億8461万円及びこれに対する平成11年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
6 この判決は,第1項及び3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 主文第1項,第2項に同じ。
2 被告は,原告に対し,5億4411万円及びこれに対する平成11年11月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,温風暖房機についての特許権及び気化管式燃焼装置についての実用新案権を有する原告が,被告の製造販売する温風暖房機は上記特許権又は実用新案権を侵害するものであるとして,被告に対し,その製造,販売等の差止め及び製造された製品の廃棄並びに損害賠償を求めている事案である。
1 当事者間に争いのない事実 (1) 原告は,東京都千代田区に本店を有し,電気機器の製造販売等を業とする株式会社であり,被告は,新潟県白根市に本店を有し,電気機器の製造販売等を業とする株式会社である。
(2) ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
特許番号 第1841614号 発明の名称 温風暖房機 出願日 昭和59年8月22日 出願番号 特願昭59-174568号 出願公告日 平成2年6月18日 出願公告番号 特公平2-27576号 登録日 平成6年5月12日 イ 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書1」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲2。以下「本件特許公報」という。〕参照)の特許請求の範囲(ただし,平成3年4月26日付補正後のもの)の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」という。)。
「液体燃料を気化させる気化器と,液体燃料の気化ガスと空気との予混合気を燃焼させるバーナーと,燃焼ガスと空気を混合させた温風を送風ファンにより水平面に対し下向きケース外へ吹き出す通路を形成する熱遮蔽板及びダクトとを備えた温風暖房機において,上記バーナーを垂直面に対し後向きに傾斜させるとともに上記気化器を前方に設けたことを特徴とする温風暖房機。」 ウ 本件特許発明構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。
A 液体燃料を気化させる気化器を備えていること B 液体燃料の気化ガスと空気との予混合気を燃焼させるバーナーを備えていること C 燃焼ガスと空気を混合させた温風を送風ファンにより水平面に対し下向きケース外へ吹き出す通路を形成する熱遮蔽板及びダクトとを備えていること D 上記バーナーを垂直面に対し後向きに傾斜させるとともに上記気化器を前方に設けていること, E 温風暖房機であること (3) ア 原告は,次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有していた(平成11年10月11日存続期間終了)。
登録番号 第1858417号 考案の名称 気化管式燃焼装置 出願日 昭和59年10月11日 出願番号 特願昭59-153414号 出願公告日 平成2年8月7日 出願公告番号 実公平2-29379号 登録日 平成3年7月10日 イ 本件実用新案権に係る明細書(以下「本件明細書2」という。本判決末尾添付の実用新案公報〔甲4。以下「本件実用新案公報」という。〕参照)の実用新案登録請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,この考案を「本件考案」という。)。
「液体燃料を気化する気化管と,この気化管に連通するノズルと,このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーと,液体燃料を気化管に送る電磁ポンプと,液体燃料を収容したカートリッジタンクを本体内に配設してなる気化管式燃焼装置において,前記カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設し,その本体内前面側のスペースに前記気化管,ノズル,電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したことを特徴とする気化管式燃焼装置。」 ウ 本件考案の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下「構成要件a」などという。)。
a 液体燃料を気化する気化管を備えること b この気化管に連通するノズルを備えること c このノズルから噴出する気化ガスを燃焼させるバーナーを備えること d 液体燃料を気化管に送る電磁ポンプを備えること e 液体燃料を収容したカートリッジタンクを本体内に備えること f 前記カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設していること g その本体内前面側のスペースに前記気化管,ノズル,電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設していること h 気化管式燃焼装置であること (4) 被告は,平成2年6月18日から同9年3月31日までの間に,別表(一)記載のとおり,その製造に係る温風暖房機を販売した。これらの温風暖房機はいずれも別紙物件目録(一)の構造を有し,本件特許発明構成要件A,B及びEを充足する。また,別表(一)のうち,製品番号FA-307,FA-337,FA-337F,FA-308,FA-338,FA-338F,FA-329,FA-339,FA-339Fを除く製品は,構成要件Cを充足する。
(5) 被告は,平成2年8月7日から同9年3月31日までの間に,その製造に係る別表(二)記載の製品番号の気化管式燃焼装置(ただし,FX-320Fを除く。)を販売した。このうち,FA-330,FA-330F,FA-3301,FA-3301D,FA-3301Fを除く製品は,いずれも別紙物件目録(二)の構造を有し,本件考案の構成要件のうち要件gを除く各要件を充足する(なお,製品番号FX-304,FX-325,FX-326,FY-326,FX-327の製品は,別表(一)と別表(二)の双方に記載されているが,これらは本件特許発明構成要件A,B,C,Eと本件考案の構成要件のgを除く構成要件の双方を充足する物であることから,重複して記載されている。)。
(6) 被告は,別表(一)記載の温風暖房機を製造し,販売し,販売のために展示している。
2 争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 別表(一)記載の温風暖房機のうち,製品番号FA-307,FA-337,FA-337F,FA-308,FA-338,FA-338F,FA-329,FA-339,FA-339Fの各製品は,本件特許発明構成要件Cを充足するか。
(原告の主張) ア 上記各製品は,別紙物件目録(一)の構造を有するところ,同目録の構成の説明及び添付第三図のとおり,熱遮蔽板7とダクト8により形成される通路Tは,ケース前面の出口11aに連続し,出口11aに向かって下向きに形成されているから,構成要件Cを充足する。
イ 被告は,後記のとおり,吹出口が上方にある上記各製品は構成要件Cを充足しない旨主張するが,理由がない。
被告が根拠とする本件明細書1の記載は,発明が解決しようとする問題点に関するものであるが,この課題は熱遮蔽板の上端とケース前面吹出口の間に温風がスムーズに斜め下前方に流れる傾斜の通路を形成する構成の温風暖房機であれば,等しく生じるものである。すなわち,バーナーの取付位置を変えずにバーナーを直立させれば,当然火炎の位置が高くかつ前寄りになり,また火炎の形も垂直になるから,熱遮蔽板が傾斜する構成では,火炎の真上付近に熱遮蔽板が位置することになり,バーナーを後傾させる場合に比べて火炎と熱遮蔽板の距離が縮まる。それゆえ,バーナーを直立させるにもかかわらず,傾斜している熱遮蔽板が過度に熱せられないようにするには,バーナーを後傾させる場合ほど熱遮蔽板をバーナーに近づけて配置することができない。これに対して,本件特許発明は,熱遮蔽板及びダクトをバーナーが垂直に配置される従来の製品よりも背面側に配置することを可能にし,温風暖房機の奥行を短くし得るものである。よって,本件特許発明は,実施例にあるような吹出口が温風暖房機の足元近くの下方に設けられたタイプに限定して解釈されるものではない。
(被告の主張) ア 本件明細書1には,発明が解決しようとする問題点として,「熱遮蔽板7と整流板10の間に温風が混合する空間を必要とするために,温風暖房機の奥行が長くなり」(本件特許公報3欄18行〜20行)との記載があることから,本件特許発明は,このような通路が長いタイプ,すなわち吹出口が足元近くの下方に設けられたタイプにおいて,バーナーを後方傾斜させることで,本来長くなる温風暖房機の奥行を長くする必要がなくなったという点に意義を有するものといえる。したがって,通路が短いタイプ,すなわち吹出口が上方に設けられたものは,そもそも奥行の長い温風暖房機になり得ないため,上記の問題点が発生しない。
イ また,本件明細書1の実施例及び本件特許公報の図面にも,吹出口が足元近くの下方に設けられたものしか記載されていない。
ウ さらに,本件特許についての無効審判事件(平成11年審判第35764号)の答弁書において,被請求人である原告は,構成要件Cにいう「通路は熱遮蔽板及びダクトにより形成され利用者の足元近くの低い位置にまで温風を送ってケース外に吹き出す構成のものを意味するところ」と主張しており,吹出口が上方に設けられたものは含まれないことを明言している。
エ なお,被告の前掲各製品がバーナーを後方に傾斜させているのは,バーナーにより放熱器を赤熱させて,放熱器からの輻射熱と温風の双方により効率的な暖房を達成するためである。
オ 以上によれば,吹出口が上方に設けられている被告の前掲各製品は,本件特許発明構成要件Cを充足しない。
(2) 別表(一)記載の温風暖房機は,本件特許発明構成要件Dを充足するか。
(原告の主張) ア 別紙物件目録(一)の構成の説明及び添付第二図,同第三図によれば,バーナー6は先端の炎口位置を背面寄りにずらして垂直面に対し傾斜して設置されており,また気化器5は本体16内部の背面付近に位置されているカートリッジタンク1の前方に設置されているから,これらは本件特許発明構成要件Dを充足する。
イ 被告は,後記のとおり「気化器を前方に設けていること」との要件を限定して解釈するが,理由がない。
本件特許発明が解決しようとする課題である間口が広くなるという問題点は,本件明細書1に「奥行を短くすると気化器5の間口方向一側にカートリッジタンク1が配置されるために間口(幅)が広くなり,暖房機が大型化するという問題があつた。この発明は,上述説明したような従来のものの問題を解決して」(本件特許公報3欄20行〜25行)とあるようにカートリッジタンクを気化器の横方向隣に配置することによって生じる場合しか想定していない。それゆえ,間口を狭くするという課題を解決するためには,気化器の位置を単にカートリッジタンクの前方すなわちカートリッジタンクよりもケース前面寄りの位置に配置する以上に限定すべき理由はない。
(被告の主張) ア 本件特許発明の課題である「奥行を短くすると気化器5の間口方向一側にカートリッジタンク1が配置されるために間口(幅)が広くなり,暖房機が大型化する」(本件特許公報3欄20行〜23行)とは,奥行を短くするために,気化器をカートリッジタンクの脇に移動させると,気化器には電磁ポンプ等も併設されることから,温風暖房機の間口が広がってしまうという趣旨に理解できる。
したがって,本件特許発明のもう一つの課題である「奥行を短くすること」を前提に間口を広げないようにするという観点から,「気化器を前方に設けていること」の要件を解釈すると,「カートリッジタンクの前方,バーナーの前方又はカートリッジタンクとバーナーの間の前方であって,かつ脇にカートリッジタンク及びバーナーのいずれもない位置に設けること」と理解するべきである。
そうすると,別表(一)記載の温風暖房機では,気化器5はバーナー6の脇に位置しており,間口の広さに影響を及ぼすものであるから,構成要件Dを充足しない。
イ 本件明細書1の「作用」の項には「この発明は,バーナーを後向きに傾斜させたことで,バーナーの炎口をケースの後側にずらすと共に,火炎も後傾することで,温風暖房機の間口を広くすることなく,奥行を短くして小型化を図ったものである。」(本件特許公報3欄33行〜37行)等の記載があるが,これらの記載からは「バーナーの後方への傾斜」という構成により,「間口が広がらずかつ奥行が短くなる」という作用効果が生じると解釈せざるを得ず,特許請求の範囲の「前方」の文言についてもこの明細書の記載と整合するように解釈すべきである。
ウ 「気化器を前方に設ける」という構成は,本件特許に対する異議申立てへの対抗手段として原告が追加したものであるが,それ自体は本件明細書1に従来例として記載されている。異議申立てに対しては,通常独自の作用効果を伴う構成を付加(限定)して対抗するのが通常であるから,「気化器を前方に設ける」という文言についても,自ら従来例として記載した自明の作用効果を超える特別の意義のある構成として理解すべきである。
(3) 本件特許は無効なものであり,本件特許権に基づく原告の権利行使は権利濫用に当たるか。
(被告の主張) ア 進歩性の欠如を理由とする無効 仮に,「気化器を前方に設ける」という構成について,原告のように解釈するのであれば,そのような構成を備えた温風暖房機であるFA-261(乙1)が本件特許出願前に公知であった。
また,バーナーを後方に傾斜させた温風式ガス暖房器具は実開昭56-58044号の公開実用新案公報(乙2)で本件特許出願前に公知であって,さらに,特開昭55-38427号の公開特許公報(乙10)には,石油ファンヒーターにおいてバーナーを傾斜させることで本体構造のレイアウトを変化させることができるという技術思想が開示されている。
したがって,本件特許発明は,上記の公知技術を単に組み合わせたものにすぎず,当業者において容易に想到可能な内容であるから,進歩性が否定されることは明らかである。
イ 明細書の記載不備を理由とする無効 「気化器を前方に設ける」という構成は,気化器を何の前方に設けるかが明らかでなく,気化器を何かの前方に設けるためには他の各部の位置関係が特定されていることが前提となるのに,この前提条件が特許請求の範囲に記載されていない。本件明細書1の特許請求の範囲の記載は極めて不明瞭であって,特許法36条4項に違反するものである。
(原告の主張) ア 進歩性の欠如を理由とする無効 被告製品とされる型式FA-261の温風暖房機の取扱説明書・注意書である乙1号証からは,製品の具体的な構成は明らかではない。
そして,実開昭56-58044号の公開実用新案公報(乙2)に記載されているのは,セラミックプレートを有するガスバーナーであり,本件特許発明構成要件Bにいう「液体燃料の気化ガスと空気との予混合気を燃焼させるバーナー」ではない。このガスバーナーが後方に傾斜して取付けられていることは認めるが,これにはバーナーの取付構成を改良して暖房機の奥行を短くし,小型化を図ろうとする本件特許発明の技術思想は示されていない。
よって,前記2つの公知技術を組み合わせることにより,当業者が本件特許発明の構成を容易に推考することができるとは,いえない。
イ 明細書の記載不備を理由とする無効 被告の主張は,争う。「気化器を前方に設ける」ことの意義が本件明細書1の記載から読みとれることは,前記(2)で主張したとおりである。
(4) 別表(二)記載の気化管式燃焼装置のうち,別紙物件目録(二)の構成を備えることを被告が認める製品(前記1の(5) 参照)は,本件考案の構成要件gを充足するか。
(原告の主張) ア 別紙物件目録(二)の構成の説明及び添付第第五図によれば,気化管5,ノズル6及び電磁ポンプ3は,本体内部前面付近のスペースSにほぼ左右方向横一列に配設されているから,本件考案の構成要件gを充足する。
イ 被告は,後記のとおり,「その本体内前面側のスペース」の文言を限定して解釈するが,理由がない。
本件実用新案公報の第1図の実施例をみても分かるように,「その本体内前面側のスペース」とは,それによってつくられた空間を含む本体内前面側のスペースを意味するものである。
(被告の主張) ア 本件明細書2の「問題点を解決するための手段」の項には,「この考案に係る気化管式燃焼装置は,カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配置することにより,その本体内前面側にスペースをつくり,このスペースに気化管,ノズル,電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設したものである。」(本件実用新案公報3欄34行〜39行)と記載され,審査段階で原告が提出した意見書にも同様の趣旨が記載されている。
したがって,構成要件gの「その本体内前面側のスペースに前記気化管,ノズル,電磁ポンプ等の機能部品をほぼ横一列にして配設している」にいう「その」とは「カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設することにより形成される」ということを指示した文言と解釈でき,結局のところ,「その本体内前面側のスペース」とは「カートリッジタンクを本体内背面側にその厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設することにより形成されるスペース」と解すべきである。
イ そうすると,被告の前掲各製品において,気化管及びノズルは別紙物件目録(二)添付第第五図にあるように,カートリッジタンクの前面にないから,本件考案の構成要件gを充足しない。
(5) 本件実用新案登録は無効なものであり,本件実用新案権に基づく原告の権利行使は権利の濫用に当たるか。
(被告の主張) ア 公知を理由とする無効 本件考案の構成要件gの「ほぼ横一列」とは,本件実用新案公報の第1図,第2図の実施例が気化管が前方に突出した構成であることからみて,「前面パネルを取り外した際,各機能部品が露出し,修理ができる程度に横に並んだ状態」と解釈できる。
そうすると,本件考案の出願前に公知であった前記FA-261の温風暖房機(乙1)は,上記の意味での「ほぼ横一列」に各機能部品が配置されているから構成要件gを充足し,本件考案のその余の構成要件も備えているから,本件考案は実用新案法3条1項により,実用新案登録を受けることができないものであって,本件実用新案権は明らかな無効原因を有する。
イ 明細書の訂正の違法を理由とする無効 原告は,かつて被告が申し立てた無効審判申立事件(平成7年審判第28111号)において,本件明細書2の考案の実施例の項の最終段落の「なお,上記実施例では,電磁ポンプ3をソレノイド8の右方に配置したが,ソレノイド8の前部に配置しても良い。要は前パネル15をはずした時に前方に露出するようにして容易に修理,交換ができれば良く前記実施例と同様の効果を奏する。」との記載を削除する訂正を行い,無効審決もこれを認めたが,この訂正により「機能部品をほぼ横一列にして配設した」との要件を解釈する根拠が実施例の図面のみとなり,実用新案登録請求の範囲が不明瞭となった。さらに,この訂正は実用新案登録請求の範囲を実質的に変更するものであり,違法である(特許法123条1項8号参照)。
(原告の主張) ア 公知を理由とする無効 被告製品とされる型式FA-261の温風暖房機の取扱説明書・注意書である乙1号証からは,製品の具体的な構成は必ずしも明らかではない。特に,カートリッジタンクの厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設するという構成を読み取ることができないから,本件実用新案権は無効となることはない。
イ 明細書の訂正の違法を理由とする無効 被告の主張は,否認し,争う。被告が指摘する無効審判手続における訂正は「機能部品をほぼ横一列にして配設した」との記載をより明確にするためにされたものであり,適法なものである。
(6) 原告に生じた損害の額(実施料相当額) (原告の主張) ア 被告は,原告の許諾を得ることなく,別表(一)記載のとおり,温風暖房機を合計94万8700台販売し,別表(二)記載のとおり,気化管式燃焼装置を合計86万5000台販売した。
イ 原告は,特許権者及び実用新案権者として,実施料相当額の金額を損害賠償として被告に対し請求できるところ,本件特許発明実施料は温風暖房機1台当たり300円が相当であり,本件考案の実施料は気化管式燃焼装置1台当たり300円が相当である。
このうち,本件特許発明実施料の算定根拠は,本件特許発明には石油ファンヒーターの本体のコンパクト化を可能にするという効果があるところ,コンパクトであることは他製品と比べて有効なセールスポイントとなるから,本件特許発明の寄与度は大きく,その実施料は製品の売上高の3%を下ることはない。被告の販売する温風暖房機の卸売価格は別表(一)に記載されている小売価格の最低額である3万6800円の6割の2万2080円程度であると推測されるところ,その3%は662円となるから,販売価格に多少の誤差があるとしても,1台当たりの実施料が300円を下回ることはない。
ウ よって,原告は,主位的に不法行為に基づく損害賠償請求として,予備的に不当利得返還請求として,上記販売台数に各実施料を乗じた実施料相当額合計5億4411万円及びこれに対する平成11年11月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張) 原告の主張のうち,別表(一)記載の販売台数,販売価格及び別表(二)認否表に○印を付した部分は認め,その余は否認し,争う。
特に,本件特許発明実施料の額については,本件特許の被告の製品における寄与度を考慮して算定するのが公平かつ合理的であるところ,本件特許発明は,バーナーを後方に傾斜させた点及び気化器の位置にポイントがあるから,実施料の額はバーナー及び気化器の価格を基準とするべきであり,製品全体の価格を基準とすべきではない。石油ファンヒーターで用いられるバーナーの価格は1000円,気化器の価格は2000円程度であるから,これを基準にすれば,1台当たり300円の実施料は高額にすぎ,妥当でない。
当裁判所の判断
1 争点(1) (一部製品についての構成要件Cの該当性)について (1) 被告が指摘する製品番号FA-307,FA-337,FA-337F,FA-308,FA-338,FA-338F,FA-329,FA-339,FA-339Fの各製品の具体的な形状は被告作成の図面(乙25,26)のとおりであり,熱遮蔽版とダクトにより形成される通路は下向きに形成されているものの,温風の吹出口が暖房機の足元付近ではなく,上方にあることが認められる。
(2) 被告は,本件明細書1の「発明が解決しようとする問題点」の記載を根拠に吹出口が上方にある上記各製品は構成要件Cを充足しない旨主張するので,この主張の当否について検討する。
ア 本件明細書1の「発明が解決しようとする問題点」の項には,「従来の温風暖房機は,温風をケース11正面から下向きに吹き出させるために,カートリッジタンク1の前方に気化器5とバーナー6が設置されていると共に,熱遮蔽板7と整流板10の間に温風が混合する空間を必要とするために,温風暖房機の奥行が長くな」るという記載がある(本件特許公報3欄15行〜20行)。
そして,この問題点を解決するための手段として,バーナーを後向きに傾斜させたことが記載されている(同3欄27行〜31行)。
また,発明の作用としては「バーナーを後向きに傾斜させたことで,バーナーの炎口をケースの後側にずらすと共に,火炎も後傾することで,温風暖房機の間口を広くすることなく,奥行を短くして小型化を図ったものである。」(同3欄32行〜37行)と記載されている。
実施例及びその図面(本件特許公報第1図,第2図)の記載によれば,バーナー6が後傾することにより,その炎口の位置が後方でかつ下方にずれ,また火炎も後傾するために,熱遮蔽板7の前面部を後傾させて後方に近づけることができ,その上方にあるダクトの前面部もそれに合わせて傾斜が大きくなり,従来例と比べケース11全体の奥行が短くなっていることを把握できる。
イ 上記アによれば,本件特許発明は,「温風を送風ファンにより水平面に対し下向きケース外ヘ吹き出す通路を形成する熱遮蔽板及びダクトとを備えた」温風暖房機であることを必要な前提とした上で,「バーナーを垂直面に対し後向きに傾斜させる」ことによって,バーナーの炎口が後側にずれ,火炎も後傾するため,バーナーが垂直な場合よりも,熱遮蔽板前面部を後方に位置でき,温風暖房機の間口を広げずに奥行を短くすることができたというものである。
そうすると,熱遮蔽板及びダクトにより構成される温風の通路が下向きに傾斜していることは本件特許発明の要件であり,そのためには吹出口がケース前面の上端に形成されることはあり得ないとしても,上記の本件明細書1の記載及び本件特許発明技術的意義に照らし,温風の吹出口が下方にあることまでを要件とするものではないと解すべきである。
ウ 被告は,本件特許に対する無効審判事件(平成11年審判第35764号)における「(構成要件Cの)通路は熱遮蔽板及びダクトにより形成され利用者の足元近くの低い位置にまで温風を送ってケース外に吹き出す構成のものを意味するところ」との答弁書(乙19)の記載を根拠に,原告は本件特許発明につき吹出口が上方にあるものを含まない旨明言したと主張する。しかし,被告の指摘する記載部分の前後を含めてみると,被請求人である原告は,請求人である被告の主張に対する反論として,無効審判事件の証拠である製品の取扱説明書(本訴における乙1と同一)からは温風を下向きに吹き出す通路が形成されていることを読み取ることができないという趣旨を述べているにすぎず,本件特許発明が吹出口を下方にあるものに限定されることや,上方にあるものを含まないことまでを主張したものではない。
さらに,被告はバーナーを後傾させたのは放熱器を赤熱させて,輻射熱による暖房効果をも加えるためであると主張するが,バーナーを傾斜させずに放熱器からの輻射を行う温風暖房機もあり(乙23参照),放熱器を赤熱させるためにバーナーを後傾させることが必須であるとはいえないから,この主張も理由がない。
エ 以上によれば,前掲の各製品は本件特許発明構成要件Cを充足するものと認められる。
2 争点(2) (構成要件Dの充足性)について (1) 当事者間に争いのない別紙物件目録(一)の記載,特に添付第二図によれば,気化器5は本体16内部の背面付近に位置するカートリッジタンク1の前方に設置されていることが認められる。
(2) 被告は,本件明細書1の「発明が解決しようとする問題点」等の記載を根拠に「気化器を前方に設けていること」の要件を限定して解釈すべきである旨主張するので,この主張の当否について検討する。
ア 本件明細書1の「発明が解決しようとする問題点」の項には,「また,奥行を短くすると気化器5の間口方向一側にカートリッジタンク1が配置されるために間口(幅)が広くなり,暖房機が大型化するという問題があつた。」(本件特許公報3欄20行〜23行)と記載されている。
「気化器を前方に設けていること」という要件は,特許異議申立てがされた後に公告後補正において加えられたものであり,上記の問題点を排除するためのものであると理解できる。
イ そうすると,上記「発明が解決しようとする問題点」の記載は,気化器とバーナーの位置関係について述べたものでも,気化器を新たに別の位置に置いたときの問題点について述べたものでもなく,奥行を短くしようとすると気化器の間口方向一側にカートリッジタンクが配置されて間口が広くなることを述べているにすぎないものというべきである。
そして,従来例である本件特許公報の第3図,第4図の配置において,カートリッジタンク1を気化器5の間口方向の一側に配置すると,奥行は短くなるが,間口は広くなることから,「気化器を前方に設けていること」の要件は,この配置を排除したものである。
ウ ただ,そのように間口の広がる場合でも,気化器の位置が依然として前方にある場合もあるから,特許請求の範囲の「気化器を前方に設けていること」という記載だけでは,構成の特定が不十分であるという被告の指摘にも傾聴すべき点はある。しかし,本件明細書1の「カートリッジタンク1の前方に気化器5とバーナー6が設置されている」との記載(本件特許公報3欄16行〜18行),「気化器5の間口方向一側にカートリッジタンク1が配置されるために間口(幅)が広くなり」との記載(同3欄21行〜23行)等からみて,特許請求の範囲の「前方」とはカートリッジタンクの前方を意味し,本件特許発明は,このような配置によって前記の問題点を解決しようとしていることが明らかであって,このように解釈すれば特許請求の範囲の記載は明確である。
そして,前記イのとおり,上記本件明細書1の記載は,気化器とバーナーの位置関係について述べたものではなく,しかも気化器で気化した蒸気がバーナーに送り込まれるという構造を採っている以上気化器はバーナーに隣接して配置されることからすれば,構成要件Dについて脇にバーナーが存在しないような前方の位置というように限定して解釈すべきでないことは明らかである。また,被告が指摘する本件明細書1の「作用」の項の記載は,従来例との比較において間口を広くすることなく,奥行を短くできることを述べたにとどまり,それ以上に間口を広げないための気化器の配置にまで言及したものではないと解される。被告の主張は理由がない。
エ 以上によれば,構成要件Dの「気化器を前方に設けていること」という要件は,カートリッジタンクの前方に気化器が配置されていることを意味するから,被告の製造に係る別表(一)記載の温風暖房機はこの要件を充足する。
3 争点(3) (本件特許の無効)について (1) 進歩性の欠如を理由とする無効 被告は,被告の製品である型式FA-261の取扱説明書・注意書(乙1)と実開昭56-58044号の公開実用新案公報(乙2)等を組み合わせることにより,当業者は本件特許発明容易に想到することができる旨主張するので,これらの証拠について検討する。
ア 乙1号証について これは,被告の製造販売に係る型式FA-261の気化式石油ストーブの取扱説明書・注意書である。この製品の構造図(7頁下)によれば,気化管がカートリッジタンクの前に設置されていることは読みとれるが,温風吹出口が本体の上端にあること(7頁上外観図参照)からみて,温風を送風ファンにより水平面に対し下向きにケース外ヘ吹き出す通路を備えているか否かは明らかでない。
イ 乙2号証について これは,温風式ガス暖房器具に関する実開昭56-58044号の公開実用新案公報及び実願昭54-142070号のマイクロフィルムであるが,同公報末尾の第1図によれば,バーナーが垂直面に対し後向きに傾斜していることが認められ,この点で本件特許発明の構成と共通する。しかし,考案の詳細な説明をみても,バーナーを後傾させた意義は記載されておらず,この考案はガス暖房器具に係るものであって,本件特許発明のようにカートリッジタンクや気化管の配設を要するものではないから,本件特許発明の問題点である奥行や間口の問題も生じ得ない。
ウ 乙10号証について これは,傾斜型ポット式燃焼装置に関する特開昭55-38427号の公開特許公報であるが,この発明の燃焼装置は気化器等とは何の関係もないものであるし,バーナーを傾斜させることで奥行を短くするという技術思想は開示されていない。
以上によれば,前記の各文書に記載された内容を組み合わせることにより,当業者において本件特許発明の内容に容易に想到できるとは認めることができないから,進歩性の欠如を理由に本件特許権が無効であるとする被告の主張は,採用できない。
(2) 明細書の記載不備を理由とする無効 本件特許発明構成要件Dにいう「気化器を前方に設けていること」という要件は,カートリッジタンクの前方に気化器が配置されていることを意味し,特許請求の範囲の記載として明確であることは,前記2で判示したとおりであるから,明細書の記載不備を理由とする特許無効の主張は,採用できない。
(3) 以上によれば,別表(一)記載の製品はいずれも,本件特許権を侵害するものであるから,これらの製品に対する原告の差止請求及び廃棄請求はいずれも理由がある。
4 争点(5) (本件実用新案登録の無効)について (1) 被告は,被告の製品である型式FA-261の温風暖房機(以下「先行被告製品」という。)は,構成要件gを含む本件考案のすべての構成を備えているところ,先行被告製品は本件考案の出願時に公知であったから,本件実用新案登録は新規性を欠き無効であると主張するので,この主張について検討する。
ア 先行被告製品が公知であることについて 証拠(乙1,11〜17,20〜22)によれば,被告は,本件考案の出願前である昭和59年8月6日に先行被告製品の販売を開始し,そのころ先行被告製品の取扱説明書・注意書(乙1)及び販売店用テキスト(乙13,14)を各販売店に交付したことが認められる。
したがって,先行被告製品及びその取扱説明書・注意書等の刊行物はいずれも本件考案の出願前に公知であったということができる。
イ 先行被告製品の構成について 証拠(乙1,13,14,18)によれば,先行被告製品は,気化管,ノズル,電磁バルブ等の機能部品の配列に対して,電磁ポンプが他の部品の列の前に配設されている点を除き,本件考案と同一の構成を備えていることが認められる。
原告は,この点について乙1号証からはカートリッジタンクの厚さの薄い方を本体の奥行側にして配設するという構成を読み取ることができない旨主張するが,同号証の表紙及び11頁の図面によればカートリッジタンクの蓋が左右に長いことが認められ,カートリッジタンクの奥行側が薄いことは明らかである。
ウ 本件考案の構成との対比 本件明細書2の「実用新案登録請求の範囲」の記載においては,気化管とノズルを明記した上で,これらを含む機能部品が「ほぼ横一列」であることを要件としており,実施例においては,気化器はノズル,ソレノイド,電磁ポンプの列から前方に配置されている。
そうすると,たとえ,横一列の前方に配される一部の機能部品があっても,本件考案の作用効果である前面パネルを取り外したときに機能部品がすべて露出し,故障時の修理や部品交換作業が容易になるように(本件実用新案公報4欄38行〜41行参照)配置されている場合には,なお「ほぼ横一列」であるということができる。
先行被告製品においては,カートリッジタンク前面側のスペースに,ノズル,気化器,電磁コイルの機能部品が横一列に配置され,そのわずか前方に同じく機能部品である電磁ポンプが配置され,前面パネルを取り外したときに,これらの機能部品がすべて露出し,また,それらが互いに干渉することなく,容易に取り外しできることは,証拠(乙1,13,14)から明らかである。
エ まとめ 以上によれば,先行被告製品においては,各機能部品は,本件考案の構成要件gにいう「ほぼ横一列」に配設されているといえるから,両者には実質的な相違はなく,本件考案は先行被告製品に係る公知の考案であるというべきである。
したがって,本件考案は実用新案法3条1項により実用新案登録を受けることができないものであり,本件実用新案権には明らかな無効理由がある。
(2) 以上によれば,本件実用新案権に基づく原告の権利行使は権利の濫用に当たり許されないから,その余の点について判断するまでもなく,本件実用新案権に基づく原告の損害賠償請求は,理由がない。
5 争点(6) (損害額)について (1) 原告は,本件特許権の侵害を理由とする損害賠償として,実施料相当額の金額を請求しているところ(特許法102条3項),特許権の実施料相当額の算定に当たっては,当該技術の属する分野,被告製品の性質・内容,単価,販売数量,販売期間,被告製品全体における当該特許発明の寄与度,原告及び被告の事業規模,当該特許発明についての許諾例,同種の発明についての許諾例等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
ア 本件特許発明の寄与度 本件特許発明は,温風暖房機のバーナーを後傾させることにより,間口を広げることなく奥行を短くするという作用効果を有するものであり,石油ファンヒーターの本体をコンパクト化するという効果をもたらすものである。このことは他の製品との比較で一つのセールスポイントになるが,上記の作用効果は本件特許発明の構成を有する温風暖房機それ自体にかかり,バーナーや気化器といった個々の部材にかかるものではない。
被告の製造販売に係る別表(一)記載の温風暖房機(以下「本件各製品」という。)は,いずれも本件特許発明構成要件を充足し,間口を広げることなく奥行を短くするという作用効果を有するものであるから,本件各製品の売上げには機能,デザイン等の他の要素の影響があるとしても,本件特許発明の寄与度は相当程度認められるというべきである。
イ 被告の行為態様 証拠(乙41,43)及び前記争いのない事実によれば,被告は,平成2年6月から本件各製品を製造販売していたこと,同7年2月,原告から被告に対し,本件各製品は本件特許権を侵害するのでライセンス契約を締結されたい旨の申入れがあり,当事者間で協議が行われたが,同8年6月この協議は打ち切られ,ライセンス契約は締結されなかったこと,が認められる。
実施許諾の例 現在のところ,本件特許権についての実施許諾の例は見あたらない。
ただし,証拠(甲16)によれば,被告は温風暖房機に関する特許権(第1904449号)を有していたところ,原告に対して,平成8年4月,この特許発明を製品1台当たり300円の実施料で許諾する旨申し入れたことが認められる。
また,発明協会研究所編「実施料率〔第4版〕」(甲11)によれば,温風暖気が含まれる「金属製品」の分野においては,実施料率の平均値は,昭和43〜48年度において4.41%,昭和49〜52年度において4.46%,昭和63〜平成3年度において4.40%であることが認められる。
(2) 以上認定の事実を前提とすると,温風暖房機という本件各製品の性質,本件各製品の販売価格,販売数量,販売期間に加えて,同種分野での許諾例がおおむね4.4%程度であることからすれば,本件特許発明実施料相当額は,販売価格の3%を下らないものと認められる。
そして,証拠(乙12,17)及び弁論の全趣旨によれば,本件各製品の卸売価格は販売価格の6割程度であることが認められるから,本件の実施料相当額は,別表(一)の中で最も販売価格の低い3万6800円の6割である2万2080円に3%を乗じた金額(662円)を下回ることはないというべきである。
そうすると,原告の主張する本件各製品1台当たり300円という金額は,実施料相当額としてこれを認めることができる。
(3) 以上によれば,実施料相当額は,当事者間に争いのない本件各製品の販売数量である94万8700台に1台当たりの実施料相当額300円を乗じた2億8461万円となる。
6 結論 以上によれば,原告の本訴請求は,特許権侵害に基づく差止め及び廃棄請求並びに主文掲記の損害賠償額の限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 和久田道雄