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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 発明者 /  一定の効果 /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  出願審査請求 /  権利の濫用(権利濫用) /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  属地主義 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  予防に必要な行為 /  実施権 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 20503号 特許権侵害差止請求事件
原告 テフコ青森株式会社
訴訟代理人弁護士 新保克芳
補佐人弁理士 鈴木 俊一郎
同 鈴木亨
被告 有限会社ワーロック
訴訟代理人弁護士 宇井正一
同 上谷清
訴訟復代理人弁護士 笹本摂
補佐人弁理士 亀松宏
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙目録記載の時計文字盤等用電着画像を製造,販売してはならない。
2 被告は,その占有する別紙目録記載の時計文字盤等用電着画像を廃棄せよ。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙目録記載の時計文字盤等用電着画像を製造,販売,輸出してはならない。
2 主文第2項と同じ
事案の概要
原告は,電着画像の形成方法の発明(方法の特許)に関する特許権を有する。被告は,別紙目録記載の時計文字盤等用電着画像(以下「被告製品」という。)を製造し,これを時計文字盤等の製造を業とする企業(以下「文字盤製造業者」という。)に販売している。本件において,原告は,被告製品は,被告における製造工程に,これを購入した文字盤製造業者が行う工程(電着画像の時計文字盤等への貼付)を併せた全工程についてみると,原告の特許発明技術的範囲に属するものであり,被告は最終工程を購入者たる文字盤製造業者を道具として用いて行わせているものであるから,全行程を被告自身が行っているのと同視することができると主張して,被告に対して,被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求めている。
1 争いのない事実等 (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
ア 特許番号 第2695752号 発明の名称 電着画像の形成方法 出願年月日 平成6年6月6日 登録年月日 平成9年9月12日 イ 上記特許権に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。
本判決末尾添付の特許公報参照)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明1」という。)。
「金属板の表面に導電性被膜を形成し,前記導電性被膜表面に電着画像を形成し,感圧接着剤層を設けた支持基材の該感圧接着剤層に前記電着画像を前記導電性被膜とともに金属板から剥離転写し,前記導電性被膜を前記電着画像から剥離し,電着画像の露出面に固定用接着剤層を形成し,前記支持基材から前記電着画像を剥離しつつ,前記固定用接着剤層を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付けることを特徴とする電着画像の形成方法。」 ウ 特許請求の範囲請求項2の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明2」といい,特許発明1と併せて「本件各特許発明」ということがある。)。
「前記金属板の表面に離型処理を施した後に,電着によって導電性被膜を形成することを特徴とする請求項1記載の電着画像の形成方法。」 (2) 上記両発明の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,本件特許発明1及び2を通じ,「構成要件@」のようにいう。)。
@ 金属板の表面に導電性被膜を形成し, A 前記導電性被膜表面に電着画像を形成し, B 感圧接着剤層を設けた支持基材の該感圧接着剤層に前記電着画像を前記導電性被膜とともに金属板から剥離転写し, C 前記導電性被膜を前記電着画像から剥離し, D 電着画像の露出面に固定用接着剤層を形成し, E 前記支持基材から前記電着画像を剥離しつつ,前記固定用接着剤層を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付けることを特徴とする F 電着画像の形成方法。
(以下本件特許発明2) G 前記金属板の表面に離型処理を施した後に,電着によって導電性被膜を形成することを特徴とする H 請求項1記載の電着画像の形成方法。
(3) 被告は,業として,被告製品を,別紙目録記載の方法(以下,この製造方法を「被告方法」といい,そこに記載されている各工程を「被告方法の工程1」のようにいう。)により製造し,これを販売している。
(4) 被告から被告製品を購入した文字盤製造業者は,これを時計文字盤等へ貼付している(原告は,文字盤製造業者のこの行為が構成要件Eに該当する工程であると主張している。)。
2 争点 (1) 被告方法が本件各特許発明技術的範囲に属し,被告製品の製造・販売が本件特許権を侵害するか。なかでも, ア 被告方法が構成要件@を充足するか。すなわち,被告方法の工程1により1次メッキ層を施された矩形銅板は,構成要件@にいう「金属板」に該当するか(争点1)。
イ 被告方法が構成要件Bを充足するか。すなわち,被告方法は構成要件Bにいう「剥離転写」をするものか(争点2)。
ウ 被告方法により製造された電着画像を時計文字盤等へ貼付する行為が構成要件Eを充足するか。すなわち,被告製品の貼付は,構成要件Eにいう「剥離しつつ,‥‥貼付ける」ものか(争点3)。
構成要件Eに該当する工程(被告製品の時計文字盤等へ貼付)を,被告自らが実施せず,被告製品の購入者において実施しているとしても,この工程を含んだ全体の工程を被告の行為と同視して,本件特許権の侵害と評価することができるか(争点4)。
オ 被告方法は,公知技術実施にすぎないか(争点5) (2) 本件特許権には無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか(争点6)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告方法の構成要件@の充足性。すなわち,被告方法の工程1により1次メッキ層を施された矩形銅板は,構成要件@にいう「金属板」に該当するか)について (1) 原告の主張 被告方法では,矩形銅板に1次メッキを施した後に,さらに2次メッキを施しているが,これは,本件各特許発明構成要件@の「金属板の表面に導電性被膜を形成し」に該当する。1次メッキは,矩形銅板の表面の平滑化のために行われているものであり,1次メッキされた矩形銅板が構成要件@の「金属板」にほかならない。2次メッキ層が,導電性の被膜であることはいうまでもない。したがって,被告方法は,構成要件@を充足する。
そして,2次メッキ層の表面に製品電鋳層すなわち電着画像を形成している被告方法は,構成要件Aも充足する。
(2) 被告の主張 ア 本件明細書には,従来技術の問題点の1つとして,「金属板の表面粗さが,電着画像裏面の表面粗さに大きな影響を与えるため,裏面の平滑な電着画像を得るためには金属板表面を鏡面加工する工程等が必要であった。同様に金属板の表面が粗いと,電着画像を形成するために用いるレジスト膜が金属板に密着しないため,得られる電着画像の周囲にバリが発生するという問題もあった。」(段落【0005】)と記載され,また,発明が解決しようとする課題の1つとして,「金属板表面を鏡面加工せずとも,裏面が滑らかでバリ等の欠陥を有しない良質な電着画像を形成する方法を提供することを目的としている。」(段落【0008】)と記載され,さらに,本件各特許発明の効果の1つとして,「金属板表面を鏡面加工せずとも,表面が滑らかでバリ等の欠陥を有しない良質な電着画像を製造することができる。」(段落【0044】)と記載されている。これらの記載から明らかなように,本件各特許発明は,従来,周知・慣用的に行っていた,基板となる金属板の表面を平滑化する鏡面加工等の工程を省くことにより,電着画像を形成する工程数を減ずることを主たる目的の1つとするものである。してみれば,何らかの表面加工ないし表面処理が施された金属板は,構成要件@における「金属板」に含まれないと解すべきである。
イ これに対し,被告方法においては,別紙目録記載のとおり,矩形銅板(基板)の表面に,最初,平均約4.5μmのニッケルメッキ層(1次メッキ層)を形成する(工程1)が,この1次メッキ層を形成する工程は,基板金属の銅とは異なる金属のニッケルを用い,銅板表面の粗さを低減して平滑化する工程であり,その後の1次メッキ層を離型剤液で処理する工程2と相まって,1次メッキ層と2次メッキ層との層間剥離(工程7,8)を容易にすることを目的とするものである。
事実,上記1次メッキ層の表面には,鮮鋭な光沢があり,該表面が平滑なものであるから,該1次メッキ層は,あたかも,矩形銅板(基板)の表面に鏡面加工を施したと同様の効果を奏する。したがって,被告方法における1次メッキ層の形成(工程1)は,本件各特許発明発明者が,該発明の発明に際し,従来技術における改善すべき点の1つであり,省くべき工程であると認識した「金属板の平滑化」のための工程そのものであり,本件各特許発明から当然に排除されている工程である。被告方法における1次メッキは金属板表面の平滑化のために行われているにすぎないとの原告の主張は,本件各特許発明技術的範囲から排除した事項を,その技術的範囲に属すると主張するもので,矛盾することは明らかであり,失当である。
ウ また,本件各特許発明の発明の効果に,「この方法によれば,金属板を半永久的に使用できる。」と記載されている(段落【0044】)。これに対し,被告方法においては,2次メッキ層を剥離した,使用後の表面は粗面化されているので,使用後の1次メッキ層を有する矩形銅板を,そのままの状態で再度使用することはできない。実際には,使用後の矩形銅板は,1次メッキ層を備えたまま,回収業者に売却されている。したがって,この点でも,被告方法は,本件各特許発明技術的範囲に該当しない。
2 争点2(被告方法が構成要件Bを充足するか。すなわち,被告方法は構成要件Bにいう「剥離転写」をするものか)について (1) 原告の主張 被告方法におけるアプリケーションシートは,構成要件Bの「感圧接着剤層を設けた支持基材」に該当する。被告方法においてアプリケーションシートに製品電鋳を貼る点が,構成要件Bの「支持基材の該感圧接着剤層に前記電着画像を‥‥転写」するものであることも明らかである。被告方法では,1次メッキ層と2次メッキ層の間に画像部分全体にわたって空隙をまず作る。すなわち「導電性被膜」に該当する2次メッキ層とその上に存在する電着画像を,「金属板」に該当する1次メッキされた銅板から同時に剥離しているから,構成要件Bの「前記導電性被膜とともに金属板から剥離」に該当する。したがって,被告方法は,構成要件Bを充足する。
また,その後で,2次メッキ層と製品電鋳を剥離するから,構成要件Cの「前記導電性被膜を前記電着画像から剥離し」に該当し,その電着画像の裏面に接着剤を塗布するから,構成要件Dの「電着画像の露出面に固定用接着剤層を形成し,」に該当するものであり,構成要件CDも充足する。
(2) 被告の主張 ア 本件明細書には,構成要件B「感圧接着剤層を設けた支持基材の該感圧接着剤層に前記電着画像を前記導電性被膜とともに金属板から剥離転写し」について,次のように記載されている。
「上記のように構成した本発明によれば,電着画像を支持基材の感圧接着剤層に転写する際に,金属板と導電性皮膜との間を剥離させ,この導電性被膜上に形成されている電着画像を支持基材の感圧接着剤層上に転写している。この導電性被膜の金属板からの剥離は比較的小さな力で可能なので,電着画像に過剰な応力が負荷されることはない。」(段落【0011】) また,本件明細書には,構成要件Bに関し,実施例について,次のように記載されている。
「このようにして,電着法によって導電性被膜2の表面に所望の形状に沿った電着画像9,10を形成した後,図8に示すように,この電着画像9,10をフイルム等の支持基材11の感圧接着剤層12上に転写するのであるが,この時,導電性被膜2を同時に剥離する。」(段落【0027】) これらの記載並びに特許公報の図8に示される金属板1,導電性被膜2,電着画像及び支持基材11の態様から明らかなように,構成要件Bは,導電性被膜の金属板からの剥離が比較的小さな力で可能であることから,剥離するための何らかの手段・器具を用いずに,電着画像の支持基材への転写と,電着画像が形成された導電性被膜の金属板からの剥離を,同時進行的に,1工程として行うものである。そして,本件明細書には,構成要件Bの剥離・転写を,何らかの手段・器具等を用いて行わなければならないことを示唆する技術事項は,何ら記載されていない。この剥離のみに着目すれば,本件各特許発明における剥離は,転写の際,剥離手段・器具等を必要とせず,金属板と導電性被膜との間に作用する剥離力のみで,転写と同時進行的になされるものである。
イ これに対し,被告方法の剥離は,工程7(別紙目録図5参照),8(同図6(a),(b)参照)及び9(同図7参照)を経て行われるものであるところ,この剥離の態様は,1次メッキ層と2次メッキ層との間に,何らかの手段・器具で大きな外力を加えなければ剥離しないという点で,本件各特許発明構成要件Bにおける剥離とは本質的に異なる。したがって,この点でも,被告方法は本件各特許発明とは異なり,構成要件Bと被告方法の工程7,8を対比しても,被告方法は本件各特許発明技術的範囲に属しない。
3 争点3(被告方法により製造された電着画像を時計文字盤等へ貼付する行為が構成要件Eを充足するか。すなわち,被告製品の貼付は,構成要件Eにいう「剥離しつつ,‥‥貼付ける」ものか)について (1) 原告の主張 上記2(1)のようにして製造された被告製品は文字盤製造業者に販売されるが,これを購入した文字盤製造業者において,被告製品を文字盤等の上に貼り付けてからアプリケーションシートを剥離することでその画像を文字盤等に形成させるから,構成要件Eに該当する。
(2) 被告の主張 構成要件Eは,「前記支持基材から前記電着画像を剥離しつつ,前記固定用接着剤層を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付けることを特徴とする」というものであり,本件明細書における実施例の記載を見ても,「図13に示すように,被着物15としての時計用表示板15'の表面に,支持基材11の電着画像保持側に塗布した固着用接着剤14を介して前記電着画像9,10を前記支持基材11から剥離しつつ貼付け固定する。」(段落【0039】)とか,「支持基材11の電着画像保持側に塗布した固着用接着剤14を介して前記電着画像9を前記支持基材11から剥離しつつ時計用表示板(被着物)15'の表面に貼付け固定する。」(段落【0041】)と記載されているように,「剥離しつつ貼付け固定する」ことが強調されている。このことは,文言上,本件各特許発明においては,剥離と貼付け固定とを同時に行うことを意味している。しかしながら,被告製品における製品電着層(電着画像)を文字盤に貼り付ける場合,「剥離しつつ貼付け固定する」のではなく,製品電着層(電着画像)を文字盤に貼付け固定した後にアプリケーションシートを剥離するのであって,上記構成要件Eとは一致しない。これは,別紙目録記載のとおり,被告製品においては,製品電鋳層と捨て電鋳層とがアプリケーションシートに付着している段階で,裏側から粘着剤を塗布して粘着剤層を形成し,その後で捨て電鋳層のみを剥離してしまうので,時計の文字盤に貼付される文字(いわゆる時字-ときじ)の裏側のみに粘着剤が残っていることとなるからである。かかる技術は,株式会社旺電舎の有する特許第1472443号の発明(発明の名称「電鋳によるバラ文字の製造方法」。乙1。以下「バラ文字特許」という。)の技術的範囲に属するものであるが,被告は,当該特許につき特許権者より実施権を得て適法に実施している。
4 争点4(構成要件Eに該当する工程〔被告製品の時計文字盤等へ貼付〕を,被告自らが実施せず,被告製品の購入者において実施しているとしても,この全体の工程を被告の行為と同視して,本件特許権の侵害と評価することができるか)について (1) 原告の主張 構成要件Eは,支持基材(アプリケーションシート)に転写された電着画像(露出面には接着剤層が形成されている)を被着物(時計文字盤)に貼り付けて,支持基材(アプリケーションシート)を剥離するという機械的な工程にすぎず,被告製品を購入した文字盤製造業者は必ず業として右工程を行う。すなわち,被告は,文字盤製造業者をいわば手足として,上記構成要件Eを実施しているのにほかならない。
また,以上が構成要件Fの「電着画像の形成方法」に該当することは,いうまでもない。
(2) 被告の主張 被告は,電着画像を文字盤製造業者に販売しているのであって,粘着材層を介して,文字盤に電着画像を固着するという工程を自ら行っているものではない。もとより被告は,文字盤製造業者の仕様に適合するように製品を製造しているのであって,被告が文字盤製造業者を手足として利用しているのではない。
5 争点5(被告方法は,公知技術実施にすぎないか)について (1) 被告の主張 被告方法は,本件特許の出願前の公知技術実施するものにほかならないから,本件特許権を侵害しない。
ア 特開平1-225789号公開特許公報(乙2)に記載された発明(日竹精工株式会社出願。発明の名称「金属パターンの形成方法」)が昭和63年3月に特許出願され,平成1年9月に出願公開されている(なお,この発明は出願審査請求されずに取下擬制されている。)。この公開特許公報の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「日竹発明」という。)は,次のとおりである。
「金属,合成樹脂,ガラス等よりなる材料の表面に形成した離形層の上に導電薄膜を形成した後,文字,記号,線,画等のパターンをレジストとして印刷等の方法で形成し,レジストにより覆われていない導電薄膜の表面に金属メッキを施し,レジストおよび金属メッキの表面に,金属,樹脂,ガラス等の材料に積層した接着層を当接させて積層体を形成した後,材料および離形層を剥離して形成することを特徴とする金属パターンの形成方法」 イ 日竹発明と被告方法を対比すると,仮に,原告の主張するように,被告製品における1次メッキ層を形成した銅板を,本件各特許発明にいう「金属板」に該当すると解すれば,該銅板は,日竹発明における「金属‥‥等よりなる材料」に該当することとなる。そして,被告方法における2次メッキ層は,日竹発明における「導電薄膜」に,同じく「アプリケーションシート」は,同「樹脂に積層した接着層」に,それぞれ該当するとすれば,被告方法は,日竹発明をそのまま実施しているにすぎないものとなる。もっとも,日竹発明においては,レジストを剥離せず残存させることによって,一定の効果を生ぜしめることを特徴とするものであるところ,本件明細書の特許請求の範囲の記載においては,レジストについて言及されておらず,また,被告方法においてレジストは除去されるものであり,このレジストの除去の点で見れば,被告方法は,日竹発明に対する従来技術にほかならないこととなる。以上のとおり,原告の主張を前提とする限り,日竹発明の存在により,被告方法は,公知技術あるいは自由技術を実施しているにすぎないものである。
(2) 原告の主張 日竹発明には,本件各特許発明と類似する工程があるが,各工程の目的・構成は異なっている。
ア 日竹発明の導電薄膜は,レジスト及び金属メッキを容易に行えるようにするために設けられているにすぎず,本件各特許発明のような,電着画像の剥離時に,支持基材と導電性被膜とで電着画像を挟み込むことで時計のバラ文字のような電着画像の飛散を低減しようとすることは全く想定されておらず,記載も示唆もない。
イ また,日竹発明においては,材料1(以下,本項における番号は,乙2の日竹発明の公開特許公報における図面中のものである。)と導電薄膜の剥離においては,材料1の方を変形させるので(日竹発明の公開特許公報第1図(F)),材料(金属板)の再使用を視野に置いている本件各特許発明とは全く異なる。そして,材料の方を変形させる日竹発明では,画像の変形は起こらない。したがって,本件各特許発明が解決しようとする課題(金属板を変形しないようにして画像を剥離すると,画像が変形してばねのようになり飛び散る現象)は,日竹発明において全く認識されていない。
ウ さらに,日竹発明には,本件各特許発明構成要件DとEの工程が全く想定も記載もされていない。すなわち,本件各特許発明は,導電性被膜上に形成された電着画像を,「感圧接着剤層を設けた支持基材」に転写し(1回目),さらに被着体(文字盤等)に転写するものである(2回目)。このようなプロセスを経ることで,金属板の変形や電着画像の変形を低減でき,また,電着後転写前に電着画像に施された仕上げメッキや着色は,2度転写することで,被着物上の画像表面に再配置される。
これに対し日竹発明では,導電薄膜上に形成された画像を,材料5に1回転写しているだけである。同発明の明細書中に「第1〜第3のいずれの方法においても,形成された金属パターンをホットプレスすれば,移転した金属メッキ層等が移転先材料に強固に接着するので好ましい。」と記載されており,材料5に転写された金属パターンを,さらに他の材料に転写することは全く意図されていない。
以上のとおり,日竹発明と本件各特許発明は異なるものであるところ,被告方法は,本件各特許発明実施しているものであるから,被告方法が公知技術実施しているにすぎないという被告の主張は,失当である。 6 争点6(本件特許権には無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか)について (1) 被告の主張 本件各特許発明は,上記日竹発明及びバラ文字特許の特許公報に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号により無効とされるべきものである。
ア 本件各特許発明と日竹発明は,装飾部品等の画像(金属パターン)を形成する方法である点で共通する。
イ 日竹発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
(a) 金属,合成樹脂,ガラス等よりなる材料の表面に形成した離形層の上に導電薄膜を形成し (b) 文字,記号,線,画等のパターンをレジストとして印刷等の方法で形成し, (c) レジストにより覆われていない導電薄膜の表面に金属メッキを施し, (d) レジストおよび金属メッキの表面に,金属,樹脂,ガラス等の材料に積層した接着層を当接させて積層体を形成し (e) 材料及び離形層を剥離して形成する ことを特徴とする金属パターンの形成方法 ウ 本件各特許発明と日竹発明のそれぞれの構成要件を対比すると,次のように等しいことがわかる。
(ア) 本件各特許発明における「金属板」(構成要件@等)は,日竹発明における「金属,合成樹脂,ガラス等よりなる材料」(構成要件(a)等)に該当する。
(イ) 同「導電性被膜(構成要件@等)」は,同「導電薄膜」(構成要件(a)等)に該当する。
(ウ) 同「電着画像」(構成要件A等)は同「金属メッキ」(構成要件(c)等)及び「金属パターン」に該当する。
(エ) 同「支持基材」(構成要件B)は,同「金属,樹脂,ガラス等の材料(構成要件(d)等)」に該当する。
(オ) 同「感圧接着剤層」(構成要件B)は「接着層」(構成要件(d))に該当する。
エ したがって,本件各特許発明構成要件@「金属板の表面に導電性薄膜を形成し」は,日竹発明の構成要件(a)「金属,合成樹脂,ガラス等よりなる材料の表面に形成した離形層の上に導電薄膜を形成し」に該当する。
次に,本件各特許発明構成要件A「前記導電性薄膜表面に電着画像を形成し」は,日竹発明の構成要件(b)「文字,記号,線,画等のパターンをレジストとして印刷等の方法で形成し」及び構成要件(c)「レジストにより覆われていない導電薄膜の表面に金属メッキを施し」に該当する。
本件明細書の段落【0026】によれば,本件各特許発明の1態様は,構成要件Aを実施した後,レジストを除去し,次の構成要件Bを実施するものであるところ,レジストを除去することは,本件各特許発明構成要件として規定されていないから,本件各特許発明は,「レジストを除去しない」こともその1態様として包含することは明らかであり,そのことを前提とすれば,本件各特許発明構成要件B「感圧接着剤層を設けた支持基材の該感圧接着剤層に前記電着画像を前記導電性被膜とともに金属板から剥離転写し」は,日竹発明の構成要件(d)「レジストおよび金属メッキの表面に,金属,樹脂,ガラス等の材料に積層した接着層を当接させて積層体を形成し」及び構成要件(e)「材料及び離形層を剥離して形成する」に該当する。
オ 以上によれば,本件各特許発明と日竹発明とは,以下の2点で相違する。(x) 本件各特許発明においては,「レジストを除去」するかしないかは構成要件として規定されていないのに対し,日竹発明においては,構成要件(d)に「レジストおよび金属メッキの表面に」と規定されているように,レジストを除去しない(相違点(x))。
(y) 本件各特許発明においては,構成要件Bに次いで,構成要件C,D及びEが規定されているのに対し,日竹発明においては,構成要件(e)以後の扱いが規定されていない(相違点(y))。
カ このように,本件各特許発明と日竹発明には,2つの相違点があるが,両相違点は,いずれも当業者が容易に想到しうる程度のものである。
(ア) 相違点(x)について 日竹発明の明細書の「従来の技術及び課題」欄にあるように,レジストパターンを用いて金属パターンを形成する技術において,不要のレジストパターンを除去する技術は,本件特許の出願(平成6年6月6日)前に周知慣用のことであった。したがって,本件各特許発明において,構成要件Aを実施した後,同Bを実施する前に,不要のレジストを除去することは,本件特許の出願前に周知慣用のこととして,当業者が適宜なし得ることである。また,レジストを除去しないとなれば,日竹発明と同じであるので,これを実施することになる。したがって,この相違点は実質的な相違ではない。
(イ) 相違点(y)について 日竹発明の明細書には,構成要件(e)以後の扱いとして,不要になった導電薄膜を,科学的又は機械的手段で除去することの記載があり,このことは本件特許の出願(平成6年6月6日)前に周知慣用のことである。本件各特許発明構成要件Cも,同Dへ至る段階で,不要になった導電性被膜を剥離するという程度のものであり,同様に本件特許の出願前に周知慣用のことである。
本件各特許発明は,構成要件D及びEにより,電着画像を被着物の表面に貼付するものであるところ,日竹発明の明細書には,これら構成要件に該当する処理は記載されていない。しかし,前掲バラ文字特許の明細書には,ビニールテープ上に弱い接着剤で接着した電鋳物の表面に強い接着剤の層を形成し,この強い接着剤の面を商品の表面に貼り付けた後,ビニールテープを剥離して,最終的に電鋳物を商品の表面に貼り付けることが記載されている。このうちビニールテープは本件各特許発明における支持基材に,電鋳物は同じく電着画像に,強い接着剤は同じく固定用接着剤層に該当し,この強い接着剤層の形成は,本件各特許発明における構成要件Dに該当する。そして,商品は,同じく被着物に該当し,最終的な貼り付け手順が本件各特許発明における構成要件D及びEに該当する。バラ文字特許の出願は昭和57年7月16日であるから,上記貼り付け手順は,本件特許の出願前に周知慣用のことである。してみれば,本件各特許発明における構成要件D及びEは,本件特許の出願前に周知慣用の貼り付け手順にすぎない。
そうすると,本件各特許発明における構成要件C,D及びEは,いずれも,本件特許の出願前に周知慣用のものであるので,当業者が公知技術として適宜なし得ることであり,相違点(y)も,実質的な相違ではない。
(2) 原告の主張 上記5に述べたように,本件各特許発明は,日竹発明とは明らかに異なっており,新規性を有するものであるし,日竹発明から容易に想到し得るということもできない。したがって,被告の無効の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1 争点1(被告方法が構成要件@を充足するか。すなわち,被告方法の工程1により1次メッキ層を施された矩形銅板は,構成要件@にいう「金属板」に該当するか)について (1) 本件各特許発明における「金属板の表面」の意味 本件明細書の特許請求の範囲には,「金属板の表面に導電性被膜を形成し」(請求項1),「前記金属板の表面に離型処理を施した後に,電着によって導電性被膜を形成する」(請求項2),と記載されており,また,「発明の詳細な説明」欄には,「導電性被膜2は,後の工程において,金属板1の表面から剥離される。したがって,導電性被膜2の剥離を容易にするために,導電性被膜2の形成に先立って,金属板1の表面に離型処理を施しておくことが好ましい。離型処理は,たとえば陽極電解による表面酸化,界面活性剤等で金属板の表面を処理することにより行われる。」(段落【0015】),「‥‥この電着画像9,10をフィルム等の支持基材11の感圧接着剤層12上に転写するのであるが,この時,導電性被膜2を同時に剥離する。すなわち,導電性被膜2と金属板1との界面で剥離を行い,電着画像9,10を導電性被膜2と支持基材11とで挟み込みながら剥離する。」(段落【0027】),「【発明の効果】本発明では,電着画像を支持基材の感圧接着剤層に転写する際に,金属板と導電性被膜との間で剥離し,電着画像とともに導電性被膜をも転写している。この剥離は比較的小さな力で可能なので,電着画像に過剰な応力が付加されることはない。したがって,電着画像に内部応力が残留しないため,被着物に貼付後に変形が起こらない。また,電着画像が支持基材と導電性被膜とに挟まれた形で剥離されているため,剥離時に過剰な応力が付加されたとしても,電着画像が散乱することもない。さらにこの方法によれば,金属板を半永久的に使用できる。また金属板表面を鏡面加工せずとも,表面が滑らかでバリ等の欠陥を有しない良質の電着画像を製造することができる。」(段落【0044】)との記載がある。したがって,本件各特許発明における金属板は,その表面に好ましくは離型処理を施し,その後に導電性被膜を形成するものであり,電着画像形成後に該導電性被膜を金属板との間で剥離するものということができるが,金属板の組成,構造については何ら限定されていない。
(2) 被告方法について 被告方法は,前記争いのない事実記載のとおり,別紙目録記載の工程をたどるものであるが,そのうち工程1ないし4は,次のとおりである。
1 矩形銅板の表面に,1次メッキ層を形成する。
2 1次メッキ層の表面を離型剤液で処理し,ごく薄い離型層を形成する。
3 離型層を有する1次メッキ層の上に,2次メッキ層を形成する。
4 2次メッキ層の表面にフォトレジストを塗布し,製品電鋳層(時計文字盤等用電着画像)及び捨て電鋳層(後で剥離して捨てる電鋳層)を形成する部分以外の部分に絶縁パターンを形成し,次いで,露出した2次メッキ層の表面に,上記2と同様の離型剤処理を施して,製品電鋳層および捨て電鋳層を形成する。
そして,電鋳層の転写に際しては,工程5ないし8で,1次メッキ層と2次メッキ層の間で層間剥離し,袋状の空隙を形成する。
すなわち,被告方法は,1次メッキ層に剥離処理が施され,その上に2次メッキ層(導電性被膜)が形成されるものであり,2次メッキ層上に電着画像が形成される。そして,電着画像の転写に際しては,1次メッキ層と2次メッキ層の間で剥離されるものである。
そうしてみると,被告方法における「矩形銅板+1次メッキ層」が本件各特許発明の「金属板」と同じ作用を奏しており,これが本件各特許発明の「金属板」に相当するというべきである。
(3) 被告は,被告方法の1次メッキ層は鏡面加工した状態と同じであり,また,使用後の「矩形銅板+1次メッキ層」は,何度か使用した後に回収業者に売却され,再使用しないから,本件各特許発明の「金属板を半永久的に使用できる。また金属板表面を鏡面加工せずとも,表面が滑らかでバリ等の欠陥を有しない良質の電着画像を製造することができる。」の効果を奏しないと主張する。
しかしながら,被告の「矩形銅板+1次メッキ層」は,小さな力による剥離を可能にするもので,本件各特許発明の金属板としての,上記「電着画像に内部応力が残留しないため,被着物に貼付後に変形が起こらない。また,電着画像が支持基材と導電性被膜に挟まれた形で剥離されているため,剥離時に過剰な応力が付加されたとしても,電着画像が散乱することもない。」との効果を奏している。
また,鏡面加工せずともよいということは,単に鏡面加工する必要がないというにすぎず,さらに鏡面加工を施して,その平滑化をさらに改良することを排除するものではない。また,使用後に,再度1次メッキ(平滑化)して,再使用することも可能なものであり,これを再使用するか,回収業者に販売するかはコスト上の問題にすぎず,本件各特許発明の効果と異なる効果を奏しているものではない。
以上より,上記被告の主張は採用することができず,金属板の表面に1次メッキ層を施す被告方法の工程1は,構成要件@にいう「金属板」から除外されているものではなく,そこにいう「金属板」に該当する。被告方法の工程3は,上記金属板の表面に2次メッキ層を形成するので,導電性被膜を形成しているものであり,被告方法は,構成要件@を充足する。
(4) 前記争いのない事実によれば,被告方法の工程4は,上記2次メッキ層の上に電着画像を形成するので,被告方法は,構成要件Aも充足する。
2 争点2(被告方法が構成要件Bを充足するか。すなわち,被告方法は構成要件Bにいう「剥離転写」をするものか)について (1) 前記争いのない事実によれば,被告方法の工程6ないし8は次のとおりである。
6 2次メッキ層上の製品電鋳層及び捨て電鋳層の全パターン領域を覆うように,アプリケーションシートを貼付する。
7 矩形銅板の一辺における1次メッキ層と2次メッキ層の層間にナイフを入れて2次メッキ層を少し剥がし,差込み口を形成する。
8 上記差込み口から,物差し状体を差し込み,物差し状体を,1次メッキ層と2次メッキ層の層間において前後左右に動かし,1次メッキ層と2次メッキ層を層間剥離せしめるが,他の3辺における1次メッキ層と2次メッキ層は,約1〜2cmの幅でそのままとし,1次メッキ層と2次メッキ層との層間に袋状の空隙を形成する。
上記工程は,構成要件Bの「支持基材」に該当するアプリケーションシートに,「電着画像」に該当する電鋳層を転写し,かつ「導電性被膜」に該当する2次メッキ層と共にこれを剥離するものであるから,構成要件Bを充足する。
(2) 被告は,被告の剥離方法は,物差し状体を用いるものであるから,剥離手段・器具等を必要とせず,転写の際,金属板と導電性被膜との間に作用する剥離力のみで,転写と同時進行的になされる本件各特許発明の「剥離」とは実質的に異なると主張する。
しかし,本件明細書には,構成要件Bの「剥離」は,比較的小さな力で可能であると記載されているが,その剥離のための手段や器具は何ら限定されていないし,転写の際,金属板と導電性被膜との間に作用する剥離力のみで剥離されるものと限定されているわけでもない。被告方法の工程8においては,その剥離は,物差し状体を用いているが,比較的小さな力で可能なものと考えられるので,上記主張は採用できず,被告方法の工程8は構成要件Bの「剥離」を充足するというべきである。
3 争点3(被告方法により製造された電着画像を時計文字盤等へ貼付する行為が構成要件Eを充足するか。すなわち,被告製品の貼付は,構成要件Eにいう「剥離しつつ,‥‥貼付ける」ものか)について (1) 被告方法の工程9ないし11によれば,被告方法にあっても,電着画像からアプリケーションシートを剥離することと,工程10において電着画像に塗布された粘着剤により,電着画像を被着物に貼付することを行っているものである。
(2) 被告は,構成要件Eにいう「剥離しつつ,前記固定用接着剤層を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付ける」とは,剥離と貼付け固定とを同時に行うことを意味しているので,電着画像を被着物の表面に貼り付けた後にアプリケーションシートを剥離する被告方法は,構成要件Eを充足しないと主張する。
(3) 本件明細書には,次の記載がある。
「次に,図13に示すように,被着物15としての時計用表示板15'の表面に,支持基材11の電着画像保持側に塗布した固着用接着剤14を介して前記電着画像9,10を前記支持基材11から剥離しつつ貼付け固定する。」(段落【0039】) 「ここに,図14に示すように,時計用表示板15'を保持している保持板16にガイドピン17を突設しておき,このガイドピン17と前記電着画像10に設けたガイド穴(図示せず)とを介して,電着画像9の時計用表示板15'に対する位置決めを行うことができる。」(段落【0040】) 「この時,前述のように,前記感圧接着剤層12の接着力が低下しているため,弱い接着剤で電着画像9,10を保持しているのと同じ状態となり,支持基材11の電着画像保持側に塗布した固着用接着剤14を介して前記電着画像9を前記支持基材11から剥離しつつ時計用表示板(被着物)15'の表面に貼付けることができる。」(段落【0041】) これらの記載からは,本件明細書は,上記図13に見られるように,まず被着物に貼り付けた状態で支持基材を剥離している態様も含めて,「剥離しつつ」と表現しているものと解される。すなわち,電着画像を被着物に貼り付けた状態で前記支持基材を剥離する際に,電着画像が貼付された状態を維持したまま(電着画像は剥がれることなく)支持基材の剥離が行われることを,「剥離しつつ,‥‥貼付ける」と表したものにすぎないということができる。上記のように,転写する際に,位置決めをしてから貼り付けることは通常行われていることであり,特別な態様ではない。
(4) また,「つつ」の意味としては,「前件と後件とが矛盾無く行われることを表す」(新明解国語辞典)との意味もあり,構成要件Eの「剥離しつつ,前記固定用接着剤を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付ける」の意味は,被着物への貼付けと支持基材からの剥離が矛盾無く行われることを表しているにすぎないと解することができるから,被告の主張するように,同時に行われる場合に限られるとはいえない。本件各特許発明において,支持基材から被着物へ電着画像を貼り付ける工程も「転写」といえるものであるところ,「転写」とは剥離と固定が起こるのが前提であり,これが矛盾無く行われるのは当然である。
他に,「つつ」は,「動作が継続又は進行中である意を表す」「それが続いている間に,次も行われることを表す」(広辞苑)という用例もあるところ,貼付後に支持基材を剥離する場合でも,剥離という動作が進行中に,その剥離の力に反して貼付けも行われているのであるから,「剥離しつつ,‥‥貼付ける」に該当するというべきである。
4 争点4(構成要件Eに該当する工程〔被告製品の時計文字盤等へ貼付〕を,被告自らが実施せず,被告製品の購入者において実施しているとしても,この工程を含んだ全体の工程を被告の行為と同視して,本件特許権の侵害と評価することができるか)について (1) 被告製品は,前記争いのない事実記載のとおり,工程11において,裏面から捨て電鋳層を剥離し,次いで,剥離紙を貼付した後,製品電鋳層を切り離した上で,包装され,販売されている。被告製品は,この状態で,文字盤製造業者に販売されているところ,これを購入した文字盤製造業者によって,裏面の剥離紙を剥がされて,文字盤等の被着物に貼付されることは,「時計文字盤等用電着画像」という被告製品の商品の性質及び上記の被告製品の構造に照らし,明らかである。被告製品には,他の用途は考えられず,これを購入した文字盤製造業者において上記の方法により使用されることが,被告製品の製造時点から,当然のこととして予定されているということができる。したがって,被告製品の製造過程においては,構成要件Eに該当する工程が存在せず,被告製品の時計文字盤等への貼付という構成要件Eに該当する工程については,被告が自らこれを実施していないが,被告は,この工程を,被告製品の購入者である文字盤製造業者を道具として実施しているものということができる。したがって,被告製品の時計文字盤等への貼付を含めた,本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程が被告自身により実施されている場合と同視して,本件特許権の侵害と評価すべきものである。
(2) もっとも,被告製品が輸出された場合には,日本国外において被告製品を購入した文字盤製造業者がこれを時計文字盤等に貼付することとなる。この場合には,被告自身は国内に所在しているとしても,構成要件Eに該当する工程は国外に所在する購入者により国外で実施されるものである。このような場合には,本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程についてみると,その一部を日本国内において,残余を日本国外において実施することとなり,国内においては方法の特許の技術的範囲に属する行為を完結していないことになるから,方法の特許を国内において実施していると評価することはできない。そうすると,我が国の特許権の効力が我が国の領域内においてのみ認められること(特許権の属地主義の原則)に照らすと,被告製品が輸出される場合には,被告製品の製造行為を本件特許権の侵害ということはできない(なお,特許法2条3項1号に規定する物の発明実施には,その物を輸出する行為は含まれていない。)。
本件においては,被告が日本国内において被告製品を販売していることは認められるが,被告製品を輸出している事実を認めるに足りる証拠はないから,原告は,本件特許権の侵害の停止及びその予防に必要な行為として,被告に対し,被告製品の製造・販売の差止め及び被告製品の廃棄を求めることができる。しかし,上記に説示した理由により,被告製品の輸出の差止めを求めることはできない。
5 その余の構成要件について (1) 前記争いのない事実記載のとおり,被告方法においては,工程9において,アプリケーションシートを貼付した製品電鋳層と捨て電鋳層を,2次メッキ層から剥離している。上記認定のように,被告方法における2次メッキ層は,本件各特許発明における導電性被膜に当たるから,これを剥離することは,構成要件Cの「前記導電性被膜を前記電着画像から剥離し」に該当し,被告方法は構成要件Cを充足する。また,工程10において,剥離した製品電鋳層と捨て電鋳層の裏面に粘着剤を塗布した後,養生し,粘着剤層を形成しているが,これは,構成要件D「電着画像の露出面に固定用接着剤層を形成し」に該当し,被告方法は構成要件Dを充足する。
さらに,被告方法が,電着画像の形成方法であることは明らかであるから,被告方法は構成要件Fを充足する。
したがって,被告方法は,本件特許発明1の構成要件をすべて充足するので,本件特許発明1の技術的範囲に属する。
(2) 被告方法は,1次メッキ層の表面を離型剤液で処理し,ごく薄い離型層を形成している(工程2)。さらにその上に2次メッキ層を形成しており(工程3),前記判示のとおり,これが導電性被膜に当たるから,構成要件Gを充足する。構成要件Hについては上記(1)と同じである。したがって,被告方法は本件特許発明2の構成要件をすべて充足するので,本件特許発明2の技術的範囲に属する。
6 争点5(被告方法は,公知技術実施にすぎないか)及び争点6(本件特許権には無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか)について 特許に無効事由が存在することが明らかであるときは,その特許権に基づく差止め,損害賠償等の請求は,特段の事情がない限り,権利の濫用に当たり許されないことに照らせば(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第3小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照),特許発明技術的範囲に属する被告製品ないし被告方法が公知技術実施にすぎない場合には,当該特許には当然に無効事由が存在することとなるから,上記の特許無効を理由とする権利濫用の抗弁のほかに,いわゆる「自由技術の抗弁」(公知技術の抗弁)を理論上認める余地があるかどうかは疑問というべきである。しかし,その点をひとまずおくとしても,これらの点についての判断は,共通するものがあるので,争点5及び争点6を一括して判断することとする。
(1) バラ文字特許と本件各特許発明の差異 バラ文字特許の特許公報(乙1)によれば,バラ文字特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「金属板にレジストを施し,それに電鋳を施し,弱い接着剤のついたテープ等で電鋳物をレジストと金属板より離し,その剥離した面に接着剤を塗布する電鋳によるバラ文字の製造方法において,文字等の外周端の過剰電着を防止するために設けた捨て電着物を文字に接着剤を塗るためのマスクとして用いた後に捨て去ることを特徴とする電鋳によるバラ文字の製造方法。」 これによれば,バラ文字特許は,電鋳によるバラ文字の製造方法であり,この点において本件各特許発明と目的を同じくするが,導電性被膜を形成する点が記載されておらず,したがって,導電性被膜と支持基材で電着画像を挟み込んだ上で導電性被膜ごと剥離するという,本件各特許発明構成要件Bに当たる部分もない。そうすると,バラ文字特許は,本件各特許発明との関係では,従来技術に当たるものであるから,バラ文字特許と本件各特許発明とは異なるものである。
(2) 日竹発明と本件各特許発明の差異 日竹発明の構成要件は,前記第3,6(1)のとおりであるところ,日竹発明において導電性被膜を形成するのは,レジスト及び金属メッキを容易にするためであり(日竹発明の明細書の「作用」欄の記載),本件各特許発明のように,電着画像の剥離時に,導電性被膜と支持基材で電着画像を挟み込むことにより,電着画像の飛散を低減するという発想は存在しない。また,金属板の変形を低減しようとする意図も存しないし,同発明の明細書記載の材料5に転写された金属パターンをさらに他の材料に転写することも意図されていない。上記バラ文字特許と同様,本件各特許発明構成要件Bに当たる部分も存在しない。したがって,日竹発明と本件各特許発明とは異なるものである。
(3) 上記のように,バラ文字特許及び日竹発明と本件各特許発明との間には,差異があるが,本件各特許発明と同様の方法であるバラ文字特許において,日竹発明の導電性薄膜を形成することに,当業者が容易に想到し得るかどうかが問題となる。前記認定のように,本件各特許発明は,電着画像の剥離時に,導電性被膜と支持基材で電着画像を挟み込むことにより,電着画像の飛散を低減し,また,金属板の変形を低減しようとする意図を有するものであるが,日竹発明においては,電着画像はレジストと共に剥離されるのであるから,電着画像の飛散はそもそも問題にならないし,金属板の変形の低減についても触れられていない。すなわち,日竹発明には,導電性被膜と支持基材で電着画像を挟み込むことにより,電着画像の飛散及び金属板の変形を低減しようとする本件各特許発明の技術内容は開示されていない。したがって,バラ文字特許に日竹発明を適用することに,当業者が容易に想到し得るということはできず,バラ文字特許及び日竹発明の存在を理由として,本件各特許発明進歩性を欠くということはできない。
したがって,本件特許の無効を理由として原告の本訴請求が権利の濫用に当たるとの被告の主張は,採用できない。
(4) 上記のとおり,バラ文字特許及び日竹発明と本件各特許発明との間には差異があるところ,既に判示したとおり,被告方法は本件各特許発明技術的範囲に属するものであるから,被告方法が公知技術実施にすぎないということはできない。したがって,特許無効を理由とする権利濫用の抗弁のほかに,いわゆる「自由技術の抗弁」(公知技術の抗弁)を理論上認める余地があるかどうかは,ともかくとして,被告の主張はその前提を欠くものであって,失当である。
7 結論 以上判示のとおり,被告が被告製品を製造・販売して,その購入者である文字盤製造業者をして被告製品を時計文字盤等へ貼付させる行為は,全体として本件特許権を侵害するものであり,また,本件特許権に無効事由があるとは認められないから,本訴請求において,原告が被告に対し,被告製品の製造・販売の差止め及び被告製品の廃棄を求める点は,理由がある。しかし,被告製品の輸出の差止めを求める点は,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
目録下記工程に従って製造される時計文字盤等用電着画像1矩形銅板の表面に,平均約4.5μm厚のニッケルメッキ層(以下「1次メッキ層」という。)を形成する。
21次メッキ層の表面を離型剤液で処理し,極薄い離型層を形成する。
3離型層を有する1次メッキ層の上に,平均約18μm厚のニッケルメッキ層(以下「2次メッキ層」という。)を形成する(図1参照)。
42次メッキ層の表面にフォトレジストを塗布し,製品電鋳層(時計文字盤等用電着画像)及び捨て電鋳層(後で剥離して捨てる電鋳層)を形成する部分以外の部分に絶縁パターンを形成し,次いで,露出した2次メッキ層の表面に,上記2と同様の離型剤処理を施して,平均約27μm厚の製品電鋳層および捨て電鋳層を形成する(図2参照)。
5上記電鋳層を形成した銅板をレジスト剥離液に浸漬してレジストを剥離した後,さらに,中和及び活性化処理をし,その後,該電鋳層に,適宜,仕上げメッキ,防錆,塗装等の仕上げ処理を行なう(図3参照)。
62次メッキ層上の製品電鋳層及び捨て電鋳層の全パターン領域を覆うように,アプリケーションシートを貼付する(図4参照)。
7矩形銅板の一辺における1次メッキ層と2次メッキ層の層間にナイフを入れて2次メッキ層を少し剥がし,差込み口を形成する(図5参照)。
8上記差込み口から,物差し状の金属体またはプラスチック体(以下「物差し状体」という。)を差し込み,物差し状体を,1次メッキ層と2次メッキ層の層間において前後左右に動かし,1次メッキ層と2次メッキ層を層間剥離せしめるが,他の3辺における1次メッキ層と2次メッキ層は,約1〜2cmの幅でそのままとし,1次メッキ層と2次メッキ層との層間に袋状の空隙を形成する(図6参照)。
9アプリケーションシートを貼付した製品電鋳層と捨て電鋳層を,2次メッキ層から剥離する(図7参照)。
10剥離した製品電鋳層と捨て電鋳層の裏面に粘着剤を塗布した後,養生し,粘着剤層を形成する。
11上記裏面から捨て電鋳層を剥離し,次いで,剥離紙を貼付した後,製品電鋳層を切り離し,包装し,販売する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之