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関連審決 審判1996-21661
関連ワード 製造方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  抵触 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  審理範囲 /  請求の範囲 /  審決確定(審決が確定) /  同一事実(同一の事実) /  同一証拠(同一の証拠) /  取消判決 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 126号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 羽田野 節夫
同 冨山敦
同 奥田貫介
同 松村龍彦
同 弁理士 平田義則
被告 社団法人日本砂利協会
被告 博多海砂販売協同組合
両名訴訟代理人弁護士 中村稔
同 富岡英次
同 弁理士 小堀益
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/10/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 特許庁が平成8年審判第21661号事件について平成12年2月29日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 本件審決に至る手続の経緯 原告は、名称を「コンクリート用骨材」とする特許第2056143号発明(平成3年2月19日出願、平成7年8月9日出願公告、平成8年5月23日設定登録、以下、この発明を「本件発明」といい、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告らは、平成8年12月19日、原告を被請求人として、本件特許につき無効審判の請求をした。
特許庁は、同審判請求を平成8年審判第21661号事件として審理し、平成9年7月8日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をしたが、東京高等裁判所平成9年(行ケ)第223号審決取消請求事件の判決(平成11年3月18日判決言渡、以下「第1次判決」という。)により第1次審決が取り消され、第1次判決に対する上告及び上告受理の申立てに対する最高裁判所の上告棄却決定及び上告不受理決定により、第1次判決が確定したので、特許庁は、同審判請求につき更に審理した上、平成12年2月29日、
「特許第2056143号発明の特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年3月21日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨 ふるい目寸法0.15o以下の通過率が4%以下の海砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15o以下の通過率を5〜15%としたことを特徴とするコンクリート用骨材。
3 本件審決の理由 本件審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件発明が、特開昭55-149164号公報(審判甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)、昭和61年9月1日第8版発行の社団法人日本建築学会編集著作「建築工事標準仕様書・同解説5 鉄筋コンクリート工事」(審判甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用例2」という。)、昭和60年6月21日発行の全国生コンクリート工業組合連合会外1名編「第3回(1985年)生コン技術大会研究発表論文集」195〜200頁所収の熊本県生コンクリート工業組合技術公害委員会による「骨材資源の調査」と題する論文(審判甲第3号証、本訴甲第5号証、以下「引用例3」という。)、昭和51年2月12日発行の社団法人日本建築学会編集著作「コンクリートの調合設計・調合管理・品質検査指針案・同解説」(審判甲第4号証、本訴甲第6号証、以下「引用例4」という。)、昭和61年10月発行の土木学会コンクリート委員会編「昭和61年制定 コンクリート標準示方書[施工編]」(審判甲第5号証、本訴甲第7号証、以下「引用例5」という。)、昭和58年1月25日発行の社団法人日本建築学会編集著作「流動化コンクリート施工指針案・同解説」(審判甲第6号証、本訴甲第8号証、以下「引用例6」という。)、上記「第3回(1985年)生コン技術大会研究発表論文集」43〜48頁所収の武井薫による「細骨材中の微粒分がコンクリートの性状に及ぼす影響」と題する論文(審判甲第7号証、本訴甲第9号証、以下「引用例7」という。)にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に推考することができたものであるから、本件特許は、
特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当するとした。
原告主張の本件審決取消事由
1 本件審決の理由中、本件発明の要旨の認定、引用例1〜7の記載事項の認定(審決謄本2頁下から12行目〜6頁下から13行目)、本件発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の各認定は認める。
本件審決は、相違点についての判断を誤り、本件発明が引用例1〜7にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に推考することができたものであるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り) (1) 本件審決は、本件発明と引用例1記載の発明との相違点である「甲第1号証(注、引用例1)記載の技術においては、単に原料砂と記載されているのに対して、本件特許発明(注、本件発明)においては、原料砂を海砂に特定している点」(審決謄本8頁1行目〜3行目)につき、引用例2〜4の各記載により、「海砂をコンクリート骨材として他の河川砂、山陸砂と同様に使用することは、本件特許発明の特許出願前に広く知られていたことが認められ」(同頁13行目〜15行目)、「甲第1号証記載の技術における原料砂を海砂に適用することは、本件特許発明の特許出願の当時、当業者が容易に想到し得たものと認められる。」(同頁19行目〜21行目)と認定判断し、かつ、本件発明は、海砂自体を更に摩砕することにより0.15o以下の微粒分を5〜15%加えて、必要水量をかえって減少させ、強度の高いコンクリートを得ることを可能にしたものであって、公知技術とは発想を全く異にし、それによって容易に推考できるものではないとの原告の主張については、引用例2及び同6の各記載により、「海砂を使用するコンクリート用骨材において、0.15o以下の微粒分を相当量加えて、コンクリートの性能を向上させる技術は、当業者の間で周知の事実であったものと認められる」(同9頁3行目〜5行目)として、これを排斥したものである。
しかしながら、次のとおり本件審決の判断は誤りである。
(2) 従来、コンクリートの品質を高める上で、特に問題とされてきたのは、コンクリートの乾燥収縮によるひび割れを防ぐため、コンクリートを製造する際にセメントや骨材(砕石や砂)と一緒に混ぜ合わせる水の量をいかに少なくするかという点であった。
すなわち、砕石等をロッドミルで粉砕して製造された砕砂には、ふるい目寸法0.15%以下の微粒子が多く含まれており、これを単味(砕砂のみ)で骨材として使用すれば、コンクリートの品質を害するような多量の水が必要となった。
他方、海砂を骨材として使用する場合には、採取時や除塩過程において微粒子が流出し、欠如しているので、ワーカビリティーやブリーディングを改善するため微粒子を補う必要があったが、従前は、海砂以外のものを混ぜて微粒子を補う混合方法で対応するしか方法がなく、この方法では、混ぜる微粒子の量が多くなると、使用する水の量が増えるという困難な課題があった。
本件発明は、海砂を更に摩砕し、採取時や除塩過程において流出したふるい目寸法0.15o以下の海砂の微粒子を5〜15%加えることによって、画期的な効果を奏するに至ったものである。すなわち、自然の海砂が、他の原料砂と決定的に違うのはその丸味であり、本件発明は、海砂の丸味が流動性を与え、実績率の向上(空隙率の減少)により、単位水量(コンクリート1m3当たりの水の量)の大幅な低減をもたらして、コンクリート打設時のワーカビリティーが良好で、施工性に優れ、かつ、コンクリートの単位水量を大幅に低減して、その高品質化に大きく寄与することができるコンクリート用骨材の提供を可能としたものである。
本件審決は、上記相違点につき、単に、海砂がコンクリート骨材として他の河川砂等と同様に使用されていることのみを根拠として、引用例1記載の技術の原料砂を海砂に適用することは当業者が容易に想到し得たものとしたが、「自然の海砂」を原料としたことが本件発明の核心であり、すべてであるにもかかわらず、
本件審決は、この構成の違い、つまり「海砂」か「粗粒砂」かの違いについて何ら考慮していない。
引用例1記載の技術(審決の引用する発明の詳細な説明に記載された従来技術)は、規格外のU級又はV級の粒度に属する粗粒な細骨材を原料として、T級の粒度の細骨材の製造方法を提供することを目的とするものであり、本件発明とは技術思想が全く異なるものである。のみならず、後記松下博通作成の鑑定書(甲第26号証)並びに「セメント・コンクリート」1998年(平成10年)8月号所収の中江兼二「角ばった石を丸めてつかう」と題する論文(甲第30号証)及び「月刊ダム日本」1996年(平成8年)7月号所収の爲沢長雄「温井ダムの施工について」と題する論文(甲第31号証)によって明らかなとおり、本件特許出願当時から現在に至るまで、当業者の関心は砕砂をいかに天然砂(海砂、川砂)に近づけるかという点にあり、天然砂をわざわざ摩砕加工して砕砂にするという発想は全くなかったから、引用例1において、ロッドミルで摩砕するものとされている「原料砂」の中に海砂が含まれているなどということはあり得ず、当業者が、引用例1記載の原料砂を海砂に適用することを容易に想到し得たということも到底あり得ない。加えて、引用例1にその発明の具体例を説明するものとして掲載されている表(2枚目14行目〜29行目)には、数値の誤りが多数存在し、引用例1の技術的信頼性にも問題がある。このような技術を基本引用例として本件発明の進歩性を否定するのは合理性を欠くものである。
さらに、引用例2及び同6に記載されているのは、海砂に他のものを混ぜて微粒子を補う「混合方法」であって、本件発明とは本質を異にするものであり、
本件審決が、これらの技術によって、本件発明が容易に推考できるとしたことは、
何らの根拠も合理性もないものである。
(3) 引用例2及び同6の記載は、流動化コンクリート、すなわち、あらかじめ練り混ぜられたコンクリート(べースコンクリート)に流動化剤を添加し、これを攪拌することによって、その流動性を増大させたコンクリートであって、通常の生コンクリート(レディーミクストコンクリート)とは異なる、特殊なコンクリートに関するものである。
したがって、このような引用例2及び同6を、通常の生コンクリートに関する他の引用例とともに引用して、引用例1記載の技術の原料砂を海砂に適用することは当業者が容易に想到し得たとすることは誤りである。
(4) 本件審決は、本件発明の顕著な作用効果を看過したものである。
すなわち、藤沢薬品工業株式会社筑波コンクリート研究所作成の実験報告書(甲第13号証)は、@海砂を破砕して作った0.15o以下の微粒子を混入した(ふるい目寸法0.15oの通過率11%)細骨材(ハイテクサンド、本件発明)を使用したコンクリートと、A海砂の欠如した微粒分を砕石生産時に生ずる石粉で補った(ふるい目寸法0.15oの通過率7%)細骨材(一本砂)を使用したコンクリートとの比較実験を行った結果の報告書であり、@がAよりも単位水量を10s/m3程度少なくすることができることが記載されている。従来技術では、微粒子を増加させると単位水量が増加する傾向があるので、この実験で、Aの石粉のふるい目寸法0.15oの通過率を@と同じ11%とすれば、単位水量の差は更に広がったものと推測される。
また、株式会社サンド工場長作成の報告書(甲第18号証)は、@海砂を摩砕してふるい目寸法0.15oを通過する微粒子を増量した摩砕海砂(本件発明)を使用したコンクリートと、Aふるい目寸法0.15oを通過する微粒子を増量した砕砂を使用したコンクリートとの比較試験を行い(ふるい目寸法0.15oの通過率は両者とも6%)、両者の単位水量の差等を確認した実験報告書であり、
これには、両者の配合条件を同一にしたときのスランプ(流動性)値は、@が19.0pであるのに対し、Aが7.0pであり、また、両者のスランプ値が同じ値となるように、コンクリートの配合を修正して試験練りした場合に、@の単位水量が177sであるのに対し、Aの単位水量が194sであることが記載されている。すなわち、@の本件発明が、Aの砕砂を使用したコンクリートに比べて、スランプ(流動性)に優れ、単位水量を減少させることが理解されるものである。
さらに、九州大学大学院教授松下博通作成の鑑定書(甲第26号証)には、@破砕する前の海砂、A@の海砂をロッドミルで破砕して製造した砂(原料砂を海砂に適用した上、引用例1記載の方法によって製造したもの)、B@の海砂を竪形回転式遠心破塊装置で破砕して製造した砂(本件発明であるハイテクサンド)について、コンクリート用細骨材としての品質試験を実施した結果、Bが@、Aに比較して形状が丸みを帯び、粒度分布が良好となること、モルタルの配合では、Bを使用した場合に@、Aを使用した場合よりも単位水量を約15s/m3(約5.4%)低減することが可能であるのに対し、Aは@と比較してさえ、単位水量が多くなること、モルタルの圧縮強度は、Bを使用した場合が、Aを使用した場合よりも7N/o2大きくなることが記載されている。すなわち、Bの本件発明が、Aの引用例1記載の方法で製造した砕砂と比べ、全く品質の異なるものであることが明らかにされている。
このように、本件発明が顕著な作用効果を有することは明らかであるのに、本件審決は、この点を看過した誤りがある。
(5) 被告らは、本件審決が第1次判決の拘束力に従ってされたものであるから、これを違法とすることはできない旨主張する。
しかしながら、本件のように、特許無効の審判請求を不成立とした最初の審決を取り消す判決が確定し、特許を無効とする再度の審決がされたときに、特許権者が提起する再度の審決取消訴訟においては、特許権者は、審決取消訴訟の審理範囲内の主張立証として許される限度内で、再度の審決の認定判断の違法性を裏付ける実質的に新しい証拠を提出して、これに基づき再度の審決の認定判断の違法を主張することが許され、裁判所も右主張立証に基づいて再度の審決の認定判断を違法とすることができるものと解すべきである(東京高裁平成元年4月26日判決・無体集21巻1号327頁)。最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁の事案は、特許を無効とした最初の審決を取り消す判決が確定し、特許無効の審判請求を不成立とする再度の審決がされたときに、特許無効審判の請求人が提起する再度の審決取消訴訟に係るものであって、同判決のいう取消判決の拘束力は、本件には適用がない。
なぜならば、特許無効審判の請求人が提起する再度の審決取消訴訟においては、当該請求人に新たな主張立証を許さないとしても、新たな証拠に基づいて、
別の特許無効の審判請求をすることができるのに、特許権者が再度の審決取消訴訟を提起した場合に、取消判決の拘束力を厳格に適用し、特許権者に新たな主張立証を許さないとすれば、特許権者は敗訴判決を受けて永久に権利を失う結果となることが免れないからである。したがって、特許法181条2項の適用については、特許権者が再度の審決取消訴訟を提起する場合と、特許権者でない者(特許無効審判の請求人)が当該訴訟を提起する場合とを区別して考えるべきである。特許無効の審判請求を不成立とした最初の審決取消訴訟においては、特許権者は十分勝訴が見込まれ、提出すべき証拠も最小限にする等、油断して敗訴に至ることもあり得るのであり、特許権者が敗訴した場合のみ、絶対的に特許権を失うに至る結果となるのは公平を欠く。
また、そもそも、行政事件訴訟法33条1項は、取消判決の実効性を担保するという政策的な見地から、当該処分に関係のある行政庁に対し、判決の趣旨に従うべきことを規定したにとどまり、最初の審決取消訴訟の判決が再度の審決取消訴訟の係属する裁判所の審理判断を当然に拘束することまで規定したものではない。
そして、本件において、原告は、新たな証拠(甲第10、第11号証、第14〜第23号証、第26号証、第28〜第32号証)を提出し、本件審決の認定判断の誤りを主張するものである。
(6) 以上のとおり、本件発明が引用例1〜7にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に推考することができたとする本件審決の判断は誤りである。
被告らの反論
1 審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り)について 第1次審決は、引用例1〜7によっては本件特許を無効とすることはできないとして、本件の特許無効の審判請求を不成立としたが、第1次判決(乙第1号証)は、「本件発明は、引用例(注、引用例1)記載の技術及び甲第4号証ないし甲第6号証の刊行物(注、引用例2〜4)記載の技術に基づいて当業者が容易に推考することができたものであるにもかかわらず、審決(注、第1次審決)は、本件発明と対比すべき引用例記載の技術内容を誤り、かつ、進歩性の判断を誤ったものであって、違法であるというべきところ、この違法は審決の結論に影響を及ぼすべきことが明らかである。」(40頁14行目〜20行目)として、第1次審決を取り消したものである。
そして、本件審決は、第1次判決の内容に従った認定判断を経て、本件発明が引用例1〜7記載の発明に基づいて当業者が容易に推考することができたものであり、本件特許が特許法29条2項の規定に違反して特許されたもので、同法123条1項2号に該当するものとして、本件特許を無効としたものであって、第1次判決の拘束力に従ってされたものであるから、これを違法とすることはできない。
原告引用に係る最高裁判決の実質的根拠は、確定判決により指摘された違法状態の早期排除と係争の早期解決による法的安定性の実現にあり、本件のような無効審判請求不成立-取消判決-無効審決という類型の場合についても、取消判決の拘束力を認めるべき実質的必要性があることに変わりはないから、上記判決の射程距離が本件に及ばないとする原告の主張は誤りである。
したがって、原告主張の取消事由について審理するまでもなく、本件請求は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について (1) 第1次判決(乙第1号証)及びこれに添付された第1次審決の理由部分によれば、第1次審決及び第1次判決の認定判断につき、次のとおり認められる。
(ア) 第1次審決(乙第1号証添付)は、請求人(被告ら)が引用例1〜7を提出してした「本件特許発明(注、本件発明)は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜第7号証(注、引用例1〜7)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」(2頁15行目〜19行目)との主張に対し、「請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。」(23頁16行目〜18行目)として、無効審判請求を不成立とした。
(イ) 第1次判決(乙第1号証)は、まず、引用例1及びこれと本件発明との対比につき、「引用例(注、引用例1)には、ふるい目寸法0.15o以下の通過率が3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15o以下の通過率が5.8%とした摩砕砂(D)が開示されている」(25頁16行目〜19行目)、「本件発明と対比されるべきは、引用例の特許請求の範囲に係る発明に限られるように考えて、本件発明とそのほかの引用例記載の技術とを対比せずに、同技術が示されているとしても、それは本件発明と対比されるべき技術とはなりえず、
また、そもそも発明の目的が明らかに違っているから、本件発明との対比に当たって、引用例の特許請求の範囲に係る発明を引用することはできないなどとした審決(注、第1次審決)の認定判断は、相当ではない。」(29頁17行目〜30頁4行目)、「上記認定判断のとおり、本件発明と対比すべきは、引用例の特許請求の範囲に係る発明に限られるものではなく、引用例記載のそのほかの技術も含まれるものであるところ、両者は、ふるい目寸法0.15o以下の通過率が4%以下の砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15o以下の通過率を5〜15%としたコンクリート用骨材である点で一致し、一方、引用例記載の技術においては、単に原料砂と記載されているのに対して、本件発明においては、原料砂を海砂に特定している点で相違していることが認められる。」(30頁6行目〜14行目)とした上、当該相違点につき、「甲第4号証の刊行物(注、引用例2)には、微粒分の少ない海砂を使用する際に、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足したり分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりすることが記載されており、甲第5号証の刊行物(注、引用例3)には、細骨材として海砂が使用されていることが示されており、甲第6号証の刊行物(注、引用例4)には細骨材原料として海砂が使用されていることが記載されているのである。・・・以上によれば、海砂をコンクリート骨材として他の河川砂、山陸砂と同様に使用することは、本件発明の特許出願前に広く知られていたことが認められる」(36頁2行目〜16行目)との認定に基づき、「引用例記載の技術における原料砂を海砂に適用することは、本件発明の特許出願の当時、当業者が容易に想到し得たものと認められる。」(37頁2行目〜5行目)と判断した。次いで、本件発明は、海砂自体を更に摩砕することにより0.15o以下の微粒分を5〜15%もの量加えて、しかも、必要水量をかえって減少させ、強度の高いコンクリートを得ることを可能にしたものであって、引用例1を含む公知技術とは発想を全く異にし、そのような公知技術によって容易に推考できるものではないとの被告(本訴原告)の主張については、「甲第4号証の刊行物には、微粒分の少ない海砂を用いた場合、細骨材の粒度分布で0.3o又は0.15o以下の微粒分が不足すると、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足し、
分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりする傾向が強くなるので注意を要し、このような場合には、フライアッシュなどを加えてコンクリート中に占める0.3o以下の粒子の量(セメントを含めて)を400〜450s/m3程度にするのがよいということが記載されている。また、・・・甲第8号証の刊行物(注、引用例6)には、細骨材の微粒分(0.3o以下または0.15o以下)が少ないと、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足し、分離しやすくなったり、
ブリージングが異常に多くなったりすることがあり、特に微粒分の少ない海砂は微粒分を増す必要があることが記載されているものである。・・・以上によれば、海砂を使用するコンクリート用骨材において、0.15o以下の微粒分を相当量加えて、コンクリートの性能を向上させる技術は、当業者の間で周知の事実であったものと認められる。」(37頁17行目〜38頁19行目)として、その主張を排斥し、また、被告(本訴原告)が、本件発明の作用効果を裏付ける証拠として提出した乙第1号証(藤沢薬品工業株式会社筑波コンクリート研究所作成の実験報告書、
本訴甲第13号証)につき、「ハイテクサンド(注、本件発明の実施例)と一本砂(注、従来技術の例)とは、ふるい目通過率の条件設定において明らかに相違しており、しかも、結果において、ハイテクサンドが、一本砂に比べて必ずしも良好であったとはいいがたいのであって、乙第1号証をもって、本件発明に格別の作用効果があるとの裏付けとすることは困難である。」(40頁6行目〜11行目)として、これを排斥した上、結論として、「本件発明は、引用例記載の技術及び甲第4号証ないし甲第6号証の刊行物記載の技術に基づいて当業者が容易に推考することができたものであるにもかかわらず、審決は、本件発明と対比すべき引用例記載の技術内容を誤り、かつ、進歩性の判断を誤ったものであって、違法であるというべきところ、この違法は審決の結論に影響を及ぼすべきことが明らかである。」(同頁14行目〜20行目)として、第1次審決を取り消した。
(2) 本件審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、甲第13号証(藤沢薬品工業株式会社筑波コンクリート研究所作成の実験報告書)に対する判断部分を除き、
上記第1次判決の認定判断に係る説示をほぼそのまま踏襲して、「本件特許発明(注、本件発明)は、甲第1号証(注、引用例1)及び甲第2ないし甲第7号証(注、引用例2〜7)記載の発明に基づいて当業者が容易に推考することができたものである」(審決謄本9頁7行目〜9行目)として、本件特許を無効とした。
(3) ところで、特許無効審判及びその審決に対する取消訴訟において、特定の引用例に基づいて当業者が当該発明を容易に推考することができたものであるか否か、すなわち、特定の引用例との関係における当該発明の進歩性の有無が争われ、
審決取消訴訟の判決が、その点について審決とは逆の判断を示して審決を取り消した後、再度の審判手続において、特許庁が当該取消判決の拘束力に従って、その点につき当該取消判決と同様の判断をし、それに基づいて再度の審決がされた場合においては、その再度の審決に対する再度の審決取消訴訟において、上記拘束力に従った再度の審決の判断が誤りであるとする主張立証をすることは、許されないものと解すべきである。この理は、当該取消判決及び再度の審決のその点についての判断が、@当該引用例に基づき当該発明を容易に推考することができたとはいえないという、特許権者の主張に沿うものであるときのみならず、A当該引用例に基づき当該発明を容易に推考することができたという、特許無効審判の請求人の主張に沿うものであるときでも異なるところはない。
すなわち、特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、右取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手続において、審判官は、当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは右主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきでなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ない。以上の理は、
上記@の場合について、最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁の判示するところであるが、上記Aの場合においても、そのまま妥当する。
この点について、原告は、特許無効の再度の審決がされたときに、特許権者が提起する再度の審決取消訴訟においては、上記最高裁判決のいう取消判決の拘束力は及ばず、特許権者は、審決取消訴訟の審理範囲内の主張立証として許される限度内で、再度の審決の認定判断の違法性を裏付ける実質的に新しい証拠を提出して、その認定判断の違法を主張することが許されるものと解すべきであるとし、その根拠として、無効審判の請求人が提起する再度の審決取消訴訟においては、再度の審決の認定判断の違法主張が許されなくとも、別の特許無効の審判請求をすることができるのに、特許権者が提起する再度の審決取消訴訟において、特許権者に再度の審決の認定判断の違法主張が許されないとすれば、特許権者は敗訴判決を受け、絶対的に特許権を失う結果となって公平を欠く旨主張する。
しかしながら、特許無効の審判請求に対し、これを不成立とする審決が確定した場合に、同一の事実及び同一の証拠に基づくものでない限り、当該審判請求人あるいは他の者が新たな特許無効の審判請求をすることは妨げられないし(特許法167条参照)、他方、特許無効の審決が確定した場合には、特許権者は遡及的に当該特許権を失うに至る(同法125条)ことは、特許無効審判の制度における一般的な原則であって、例えば、無効審決に対する審決取消訴訟においてその審決を維持する判決がされ、審決がそのまま確定した場合であってもいえることであり、無効審判請求を不成立とする審決を取り消す判決の拘束力に従った再度の審決として無効審決がされた場合に特有のことではない。そして、これらいずれの場合であっても、特許権者には、審判の段階及び審決に対する取消訴訟の段階(最初の審決を取り消す判決がされる場合においては、最初の審判及び取消訴訟の段階)において、発明の進歩性につき主張立証する機会があったのであるから、それにもかかわらず、審決取消訴訟において発明の進歩性を否定する認定判断がされたとすれば、当該特許権を失うに至ってもやむを得ないものといわなければならない(なお、最初の審決取消訴訟で油断することがあるなどということが、およそ理由となるものでないことはいうまでもない。)。
また、原告は、行政事件訴訟法33条1項が、最初の審決取消訴訟の判決が再度の審決取消訴訟の係属する裁判所の審理判断を当然に拘束することを規定したものではないとも主張するが、同項の規定上、審決取消判決の拘束力が、再度の審決取消訴訟の係属する裁判所に対して直接及ぶものとされていないことはそのとおりであるとしても、前示のとおり、同項の規定により、審判官は審決取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されないという拘束を受け、この拘束力に従ってした審決はその限りにおいて適法であって、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのであるから、その意味で、再度の審決取消訴訟の係属する裁判所も、審決取消判決の判断の影響を受けることとなるものである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(4) 前示(1)の(イ)の第1次判決の認定判断に照らせば、第1次判決の拘束力は、第1次審決を取り消す旨の結論(主文)を導くのに直接必要な認定判断、すなわち、本件発明は引用例1記載の技術及び引用例2〜4記載の技術に基づいて当業者が容易に推考することができたとの認定判断について生ずるものと解することができる(なお、第1次判決のうち、前示(1)の(イ)記載のそれ以外の認定判断については、当該拘束力が直接生ずるものではないが、上記のとおり拘束力を生ずる認定判断に対する反証として、被告(本訴原告)が主張立証したことに対する応答としてされたものであるから、審判官が上記拘束力を生ずる認定判断と抵触する認定判断をすることができない以上、その反証としての主張立証をどのように補充しようとも無意味であるという趣旨では、当該拘束力の影響を受けるということができる。)。
そして、前示(2)のとおり、再度の審判手続を経てされた本件審決が、この第1次判決の拘束力に従ってされたものであることは明らかであるから、第1次判決のうち拘束力を生じた上記認定判断に従ってされた本件審決の認定判断の部分、
すなわち、本件発明は、引用例1記載の発明及び引用例2〜4記載の発明に基づいて当業者が容易に推考することができたとの部分は、再度の審決の取消訴訟である本件訴訟において、これを違法とすることはできず、原告は、本件審決のその認定判断が誤りであることを主張立証することは許されないものといわざるを得ない。
そうすると、本件訴訟における原告の主張立証は、直接的に、又は反証を挙げることによって間接的に、第1次判決の拘束力に従ってされた本件審決の上記認定判断が誤りであるとすることに帰着するものであるから、いずれも許されず、
それ自体失当というべきである。
2 以上のとおりであるから、原告主張の本件審決取消事由は理由がなく、他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利