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関連審決 審判1999-39087
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  下位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  数値限定 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 341号 審決取消請求事件
原告 三井化学株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴木 俊一郎
同 牧村浩次
同 鈴木亨
訴訟復代理人弁理士 八本佳子
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 石井 あき子
同 柿崎良男
同 森田 ひとみ
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/10/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第39087号事件について平成12年8月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成2年2月16日(優先権主張 平成元年2月16日・日本)に出願され、平成9年6月13日に設定登録を受けた、発明の名称を「インジェクションブロー成形品」とする特許第2662070号発明(以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成11年10月26日、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正をすることについて審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成11年審判第39087号事件として審理した上、
平成12年8月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月21日、原告に送達された。
2 訂正事項 本件審判請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は、下記(1)及び(2)の訂正事項を含むものである。
(1) 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る「環状オレフィン系樹脂から成形されるインジェクションブロー成形品」との記載を「環状オレフィン系樹脂から、ブロー成形時のプリフォーム樹脂温度を前記環状オレフィン系樹脂の軟化温度(TMA)から(TMA-10)℃の範囲でインジェクションブロー成形して得られたインジェクションブロー成形品」と訂正する(以下「訂正事項(1)」という。) (2) 本件明細書の発明の詳細な説明に係る「プリフオームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい。」(甲第2号証47欄34行目〜35行目)との記載を「ブロー成形時のプリフォーム樹脂温度は、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAから(TMA-10)℃の範囲である。」と訂正する(以下「訂正事項(2)」という。)。
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、訂正事項(1)及び(2)は、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないから、本件訂正は、
特許法126条1項ただし書(「平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書」の趣旨と解される。)の規定に適合しないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は、本件明細書記載の技術事項を誤認して、訂正事項(1)及び(2)が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(訂正事項が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないとした判断の誤り) (1) 訂正事項(1)及び(2)は、いずれも、ブロー成形時のプリフォーム樹脂の温度(以下、プリフォーム樹脂の温度を単に「プリフォーム温度」という。)が、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)の軟化温度(TMA、以下単に「TMA」という。)から(TMA-10)℃の範囲であることを記載するものである。
ところが、審決は、本件明細書又は図面に、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることの記載はされていないとして、訂正事項(1)及び(2)が、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正ではないとした。
しかしながら、審決の上記認定判断は、以下のとおり誤りである。
(2) 本件明細書(甲第2号証)には、「射出等によってプリフォームを形成する場合の条件は、環状オレフィン系共重合体のTMAあるいはMFRによって相違するが、一般に樹脂温度150〜300℃、金型温度50〜150℃、射出圧力;一次圧600〜1500kg/cm2、二次圧400〜1200kg/cm2の範囲である。プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい。このようなプリフォーム10はブロー成形部へ移行した後、割型で挟んでエアを吹き込みブロー成形を行う。また、プリフォーム10の延伸倍率は容積比で2〜20倍の範囲が好ましい。」(47欄30行目〜40行目)との記載(以下「記載A」という。)がある。そして、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分につき、
審決は、「記載Aにおける『プリフオームの温度』は、『射出等によってプリフォームを形成する場合のプリフォームの温度』を意味し、ブロー成形時のプリフォームの温度を意味するものではない」(審決謄本3頁22行目〜25行目)としたが、以下のとおり、上記記載部分は、ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものであって、審決の上記認定は誤りである。
すなわち、本件特許出願に係る優先権主張日当時、当業者の技術常識において、「インジェクションブロー成形」は、延伸ブロー成形をも包含する概念であった。延伸ブロー成形とは、ブロー成形に延伸機構を付加したものであり、したがって、当業者は、本件明細書の「インジェクションブロー成形」につき、ブロー成形時にブローのみを行うものと、ブロー成形時に延伸を行うとともにブローを行うものとの2種が含まれていると認識理解するものである。特開昭52-103282号公報(甲第9号証)、特開昭54-68869号公報(甲第10号証)、特開昭54-139967号公報(甲第11号証)、特開昭60-96434号公報(甲第12号証)、特開昭61-287716号公報(甲第13号証)、特開昭62-156923号公報(甲第14号証)、特開昭63-116830号公報(甲第15号証)、特開昭64-1516号公報(甲第16号証)及び特開平1-275122号公報(甲第17号証)には、いずれも、延伸ブロー成形をするものを含めてインジェクションブロー成形(射出吹込成形)について記載されているところ、これらの公報に掲載された明細書は当業者の技術常識を示すものであるから、
本件明細書の「インジェクションブロー成形」が延伸ブロー成形を含むものとして、当業者に認識理解されることは明らかである。
被告は、JIS規格に基づき、インジェクションブロー成形が延伸ブロー成形を包含する概念であったということはできないと主張するが、必ずしもJIS規格上の意味が一般に通用しているわけではない。
ところで、昭和57年10月12日株式会社プラスチックス・エージ発行の「PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA<進歩編>1983」(甲第5号証)に記載されているとおり、ホットパリソン法は延伸ブロー成形において広く行われている成形法であるから、本件明細書に記載の「インジェクションブロー成形」法としても一般的な方法であるということができる。
そして、ホットパリソン法によった場合には、環状オレフィン系共重合体樹脂は、本件明細書(甲第2号証)の記載Aのとおり、「一般に樹脂温度150〜300℃、金型温度50〜150℃、射出圧力;一次圧600〜1500kg/cm2、
二次圧400〜1200kg/cm2」(47欄32行目〜34行目)の範囲で射出成形(インジェクション成形)されてプリフォーム(パリソン)が形成され、このようにして得られたプリフォームは加熱ポジションで温度調節されてブロー成形に適した温度(ブロー成形温度)とされた後、延伸ブローポジションに移行し延伸ブロー成形が行われる。この過程において、射出によるプリフォーム形成温度(射出成形直後のプリフォーム温度)はプリフォームが成形できる範囲であればどのような値でもよいのに対し、ブロー成形時のプリフォーム温度はその調節が重要であって、
どのような温度でもよいというわけではない。そうすると、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、このようなブロー成形時のプリフォーム温度について好ましい値の範囲を記載したものと解するのが自然である。
また、本件明細書(甲第2号証)の実施例1〜4に係る成形条件及びインジェクションブロー成形品の物性を示した表(25頁〜26頁の表1、以下「表1」という。)に記載された「プリフォーム温度」がブロー成形時のプリフォーム温度を意味することは明らかであるところ、本件明細書において、「プリフォームの温度」又は「プリフォーム温度」という表現は、上記表1の記載及び記載A中の上記部分に使用されているだけであって、両者が異なる意味を有すると解するのは不合理である。
したがって、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したもの、すなわち、ブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTMAの±50℃の範囲に調節することが好ましいことを記載したものと解すべきである。そうとすれば、本件明細書には、ブロー成形時のプリフォーム温度と使用樹脂のTMAとを互いに関連付けた記載がされているものといえる。
(3) また、本件明細書(甲第2号証)には、実施例1〜4として、エチレンとDMONとの各種のランダム共重合体(環状オレフィン系樹脂)を用いてインジェクションブロー成形をした実施例4例についての記載(49欄2行目〜50欄26行目、以下「記載B」という。)並びに実施例1〜4に係る成形条件及びインジェクションブロー成形品の物性を示した上記表1の記載があり、記載Bには実施例1〜4に係る各ランダム共重合体のTMA値が、表1には実施例1〜4に係るブロー条件として、ブロー成形時のプリフォーム温度が、それぞれ次のように記載されている。
実施例1 TMA値115℃、プリフォーム温度115℃ 実施例2 TMA値148℃、プリフォーム温度140℃ 実施例3 TMA値135℃、プリフォーム温度125℃ 実施例4 TMA値148℃、プリフォーム温度145℃ このように、記載Aのみならず、記載B及び表1にも、ブロー成形時のプリフォーム温度が使用樹脂のTMAと関連付けられることが示されているのであり、したがって、本件明細書には、本件発明において、使用樹脂のTMAとブロー成形時のプリフォーム温度とが互いに関連付けて記載されているというべきである。
(4) そして、本件明細書の記載B及び表1に記載された実施例1〜4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度についての上記値から、ブロー成形時のプリフォーム温度の使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAに対する関係は、直接的かつ一義的に、TMA〜(TMA-10)℃であると算出することができるから、本件明細書には、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることの記載がされているということができる。
すなわち、明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載する必要があり、特に化学の分野では、そのために請求項に係る発明をどのようにして具体化するかを示す実施例を記載することが好ましいところ、本件明細書では、このような発明の実施の形態を具体的に示す実施例(実施例1〜4)において、使用樹脂のTMA値とブロー条件としてのプリフォーム温度とがそれぞれ上記の値であることが明示されているのであるから、ブロー成形時のプリフォーム温度が使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることは、本件明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことのできる事項であって、実質的に本件明細書に記載されていた事項であるともいうことができる。
被告は、本件明細書又は図面には、プリフォーム温度とTMA値との差が0〜-10になるように、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定したことは記載されていないのに対し、訂正事項(1)及び(2)には、プリフォーム温度とTMA値との差に基づいて、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定するという新たな技術手段が表現されているから、訂正事項(1)及び(2)が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲を逸脱していると主張する。
しかしながら、上記のとおり、ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものと解される記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、その「なるようにする」という表現に照らして、プリフォーム温度を積極的に「使用樹脂のTMAの±50℃の範囲」に調節することを記載したものであり、また、本件明細書に記載されたすべての実施例において、ブロー成形時のプリフォーム温度がTMA〜(TMA-10)℃の範囲に設定されていることは、記載B及び表1から容易に理解できるところである。そして、訂正事項(1)及び(2)に係るブロー成形時のプリフォーム温度とTMA値との差が0〜-10になるという関係式は、実施例記載の各数値を変数として自由に組み合わせ、新たな特定の関係式で表現したものではなく、当業者が、本件明細書の上記各記載に基づき、直接的かつ一義的に導き出すことのできるものであって、新規事項の追加に当たらないことは客観的に明らかである。
以上のように、本件明細書には、本件発明において、使用樹脂のTMAとブロー成形時のプリフォーム温度とが互いに関連付けて記載されており、かつ、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃であることが、当業者において、本件明細書の記載から、直接的かつ一義的に導き出すことができるものである。したがって、ブロー成形時のプリフォーム樹脂の温度が、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることを記載する訂正事項(1)及び(2)が、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であることは明らかであって、これが、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正ではないとした審決の判断は誤りである。
被告の反論
1 審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(訂正事項が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないとした判断の誤り)について (1) 本件明細書(甲第2号証)に記載Aがあることは認めるが、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、射出成形直後のプリフォーム温度(射出成形の終了、離型時のプリフォーム温度)について記載したものであって、ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものではない。
原告は、本件特許出願に係る優先権主張日当時、当業者の技術常識において「インジェクションブロー成形」が延伸ブロー成形をも包含する概念であったと主張するが、昭和52年5月10日財団法人日本規格協会発行の「JISハンドブック プラスチック 1977」(乙第4号証)及び平成2年4月20日同協会発行の「JISハンドブック プラスチック」(乙第5号証)に記載されているとおり、
「プラスチック工業において用いる用語、読み方及び意味について規定する」(乙第4号証13頁本文1行目、乙第5号証19頁本文1行目)JIS規格において、
「インジェクションブロー成形」は、それぞれ、「射出成形により底のあるパリソンを成形し,直ちにこれを吹き込み用金型に移して,その中に空気を吹き込み,中空の成形品を得る方法をいう」(乙第4号証16頁34番、乙第5号証22頁34番)ものとされているから、本件特許出願に係る優先権主張日の前後を通じて、インジェクションブロー成形が延伸ブロー成形を包含する概念であったということはできない。原告が当業者の技術常識を示すものとして挙げる各特許公報(甲第9号証〜第17号証)は、株式会社吉野工業所(甲第9〜第11号証、第16号証)、
日精エー・エス・ビー機械株式会社(甲第13〜第15号証、第17号証)及びA(甲第12号証)の2法人及び1個人の特許出願に係る明細書が掲載されたものであって、これらによっては、一部の業者が、場合によっては延伸工程を含むものをインジェクションブロー成形と称していた事実が認められるにすぎず、延伸ブロー成形がインジェクションブロー成形の下位概念であることが、当業者の認識理解するところであったとは到底認めることができない。
したがって、延伸ブロー成形法であるホットパリソン法は、本件明細書に記載の「インジェクションブロー成形」法に含まれないから、ホットパリソン法において、射出成形されたプリフォームが加熱ポジションで温度調節されてブロー成形に適した温度(ブロー成形温度)とされる旨の原告の主張は、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分が、ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものであることの根拠とすることはできないものである。
他方、インジェクションブロー法について記載された特開昭60-178020号公報(甲第8号証)に「プリフォームを射出成形し、そのプリフォームを成形可能な熱を保有しておる間に上型と下型とから離型して」(1頁左下欄10行目〜13行目)と、昭和45年2月20日株式会社プラスチック・エージ発行の「プラスチック成形加工講座 ブロー成形」(甲第7号証)に「インジェクションブローの場合・・・射出成形されたパリソンは次のブロー成形のため,半溶融の状態でキャビティ型より引き抜かれる」(56頁左欄20行目〜24行目)、「インジェクションブローではキャビティ内に射出された溶融樹脂が半溶融の状態でキャビティ型より離型しなければならない」(57頁右欄11行目〜13行目)と、昭和48年11月1日株式会社工業調査会発行の「プラスチックガイド/成形加工編」(乙第2号証)に「射出成形されたパリソンが冷却不足であれば,コアーに完全に密着して離型しにくいため,局部的に脹らみ不良品となる。また冷却しすぎると,離型はするが,樹脂は硬化して,ブロー成形が不可能となる」(131頁右欄下から8行目〜5行目)と、それぞれ記載されているとおり、インジェクションブロー成形において、射出成形の終了、離型時のプリフォームは、成形可能な熱を有し、かつ、離型が可能な温度である必要があり、当該温度は重要な要素であって、
原告主張のように、どのような値でもよいというものではない。
以上の各点のほか、本件明細書における記載Aの前後の文脈も考慮すれば、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、射出成形直後のプリフォーム温度(射出成形の終了、離型時のプリフォーム温度)について記載したものであることが明らかである。
すなわち、上記記載部分は、ブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTMAの±50℃の範囲に調節することが好ましいことを記載したものではなく、この記載によって、本件明細書に、ブロー成形時のプリフォーム温度と使用樹脂のTMAとを互いに関連付けた記載がされているということはできない。
(2) また、記載Bに実施例1〜4に係る各ランダム共重合体のTMA値が、表1に実施例1〜4に係るブロー成形時のプリフォーム温度が、それぞれ記載されており、その各値が原告主張のとおりであることは認めるが、記載B及び表1にも、
使用樹脂のTMAとブロー成形時のプリフォーム温度とを互いに関連付けた記載は存在しない。
原告は、本件明細書の実施例1〜4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度についての上記値から、ブロー成形時のプリフォーム温度の使用樹脂のTMAに対する関係が、直接的かつ一義的に、TMA〜(TMA-10)℃であると算出することができるから、本件明細書には、ブロー成形時のプリフォーム樹脂温度が、使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることの記載がされていると主張する。
しかしながら、本件明細書には、実施例1〜4に係るブロー成形時のプリフォーム温度については、単に採用された温度が記載されているのみであって、それが、使用樹脂のTMA値に基づいて設定されたことは記載されていない。まして、プリフォーム温度とTMA値との差が0〜-10になるように、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定したことは記載されておらず、その上限と下限の境界値としての技術的意義についても全く記載されていない。記載Bや表1に、原告主張のとおり、実施例1〜4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度とが記載されているからといって、ブロー成形時のプリフォーム温度とTMA値との差値が0〜-10であることが記載されていることになるものではない。
このように、本件明細書又は図面には、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定するための技術手段は記載されていないのに対し、訂正事項(1)及び(2)には、プリフォーム温度とTMA値との差に基づいて、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定するという新たな技術手段が表現されている。
したがって、訂正事項(1)及び(2)が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲を逸脱していることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由(訂正事項が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないとした判断の誤り)について (1) 本件明細書に「射出等によってプリフォームを形成する場合の条件は、環状オレフィン系共重合体のTMAあるいはMFRによって相違するが、一般に樹脂温度150〜300℃、金型温度50〜150℃、射出圧力;一次圧600〜1500kg/cm2、二次圧400〜1200kg/cm2の範囲である。プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい。このようなプリフォーム10はブロー成形部へ移行した後、割型で挟んでエアを吹き込みブロー成形を行う。また、プリフォーム10の延伸倍率は容積比で2〜20倍の範囲が好ましい。」との記載Aがあることは当事者間に争いがない。
そこで、まず、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分が、原告主張のように、
ブロー成形時のプリフォーム温度について記載したものであるか、被告主張のように、射出成形直後のプリフォーム温度(射出成形の終了、離型時のプリフォーム温度)について記載したものであるかについて検討する。
昭和52年5月10日財団法人日本規格協会発行の「JISハンドブック プラスチック 1977」(乙第4号証)及び平成2年4月20日同協会発行の「JISハンドブック プラスチック」(乙第5号証)には、「プラスチック工業において用いる用語、読み方及び意味について規定する」(乙第4号証13頁本文1行目、乙第5号証19頁本文1行目)JIS規格として、「インジェクションブロー成形」につき「射出成形により底のあるパリソンを成形し,直ちにこれを吹き込み用金型に移して,その中に空気を吹き込み,中空の成形品を得る方法をいう」(乙第4号証16頁34番、乙第5号証22頁34番)との記載があり、また、1988年(昭和63年)11月25日株式会社朝倉書店初版第1刷発行の「新版高分子辞典」(乙第1号証)には、「ブロー成形」の項に、「射出ブロー成形(injection blow molding)」を含む「ダイレクトブロー成形」と「延伸ブロー成形」とを異なる成形方式として分類した記載(402頁〜403頁)があって、これらの記載によれば、パリソン(プリフォーム)を射出成形した後、直ちにブロー成形するインジェクションブロー成形と、射出成形したパリソンを延伸した後ブロー成形する延伸ブロー成形とは、厳密には、異なる成形方法であると認められる。
しかしながら、株式会社吉野工業所の特許出願に係る「ポリエチレンテレフタレート樹脂製壜とこの壜の成形用金型装置及び成形方法」の発明の明細書が掲載された公開公報である特開昭52-103282号公報(甲第9号証)に「ポリエチレンテレフタレート樹脂による成形品の成形は、上記したポリエチレンテレフタレート樹脂のもつ特性からインジェクションブロー成形に限定されるが、この成形順序を簡単に説明すると、まず射出成形(インジェクション成形)によって1次成形品としてのピースを成形して、このピースの温度がブロー成形に適合する温度まで冷却された時点でピースをブロー成形して最終の製品に成形するのである。そして、このブロー成形操作時に2軸延伸が行われてポリエチレンテレフタレート樹脂製壜体に所望の機械的強度と高い透明度とを与えるわけである」(2頁右上欄12行目〜左下欄4行目)との記載があるほか、同社の特許出願に係る発明の明細書が掲載された公開公報である特開昭54-68869号公報(甲第10号証)、特開昭54-139967号公報(甲第11号証)及び特開昭64-1516号公報(甲第16号証)には、同様に、インジェクションブロー成形の方法として、射出成形によって成形した一次成形品を延伸ブロー成形することが記載されており、また、日精エー・エス・ビー機械株式会社の特許出願に係る「射出吹込成形機」の発明の明細書が掲載された公開公報である特開昭61-287716号公報(甲第13号証)に「この発明は合成樹脂の薄肉容器を射出吹込成形する場合に用いられる成形機に関するものである・・・射出成形したプリフォームや吹込成形した成形品を順に移送する成形機は、プリフォームの射出成形から温調及び延伸吹込成形を連続して行うことができる成形機として広く使用されている」(1頁左下欄19行目〜右上欄12行目)との記載があるほか、同社の特許出願に係る発明の明細書が掲載された公開公報である特開昭62-156923号公報(甲第14号証)、特開昭63-116830号公報(甲第15号証)及び特開平1-275122号公報(甲第17号証)には、同様に、射出吹込(インジェクションブロー)成形の方法として、プリフォームの射出成形から延伸吹込(延伸ブロー)成形までを連続して行うことが記載されている。そうすると、これらの公開公報の記載によれば、少なくとも、本件発明の属する技術分野における当業者と認められる上記2社は、射出成形によって成形した成形品を延伸ブロー成形するものも「インジェクションブロー成形」の概念中に含ませていることが認められる。
そうとすれば、上記のとおり、インジェクションブロー成形と延伸ブロー成形とは、厳密には異なる成形方法であるとしても、当業者の間においては、延伸ブロー成形を伴うものをも包含して「インジェクションブロー成形」と称することもあり得るとの認識が存在しているものと推認される。
そして、本件明細書(甲第2号証)には、「発明の技術的背景」として、
「合成樹脂のブロー成形方法としては・・・インジェクションブロー・・・等が知られており・・・特に、インジェクションブローに基づいて、ポリエステル樹脂等からなるパリソン(プリフォーム)を軸方向に延伸し、かつ金型内で流体により周方向に膨張させることにより得られたプラスチック容器では、その容器胴部が二軸方向に分子配向されており、透明性、ガスバリアー性、耐熱性等が優れた容器として広く使用されている」(3欄48行目〜4欄30行目)との、「発明の目的」として、「本発明の目的は、このような従来のインジェクションブロー成形品の問題に鑑み、耐薬品性を備えたインジェクションブロー成形品を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、耐薬品性に優れるだけでなく機械的強度にも優れたインジェクションブロー成形品を提供することにある」(4欄36行目〜41行目)との各記載があり、これらの記載にかんがみれば、本件明細書においては、プリフォームを軸方向に延伸し、かつ、金型内で流体により周方向に膨張させる方法、すなわち、延伸ブロー成形を従来技術としてのインジェクションブロー成形に含まれるものとしており、また、本件発明のインジェクションブロー成形品についても、そのような従来技術としてのインジェクションブロー成形を前提としていて、延伸ブロー成形により得られるものを、本件発明から除外していないことが明らかである。
したがって、本件明細書の記載上、本件発明のインジェクションブロー成形は延伸ブロー成形も包含しているものであり、かつ、上記のように、当業者の間では、延伸ブロー成形を伴うものをも包含して「インジェクションブロー成形」と称することもあり得るとの認識が存在していると認められるから、当業者も、本件明細書の上記記載から、そのことをたやすく読み取ることができるものというべきである。
ところで、昭和57年10月12日株式会社プラスチックス・エージ発行の「PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA<進歩編>1983」(甲第5号証)には、「延伸ブロー成形」の章に、「二軸延伸配向ブロー成形法」として、「ホットパリソン法」と「コールドパリソン法」とが一般に広く行われているとした(158頁左欄)上、
ホットパリソン法が、@溶融樹脂を金型内に射出し、急冷すると透明な有底パリソンが成形される、A射出成形された有底パリソンは、ネジ部をリップ金型で保持されたまま加熱ポジションに移され、内外面をヒータにより加熱される、B加熱された有底パリソンは、延伸ブローポジションに移され、約2倍に延伸された後、ブロー成形される、C延伸ブロー成形された製品は、次のポジションに移され、ネジ部割型が開かれ、取り出される、との成形プロセスを経る旨が記載されている(159頁図1、図2)。これらの記載によれば、本件発明のインジェクションブロー成形が包含する延伸ブロー成形において、ホットパリソン法が一般的であるところ、
ホットパリソン法においては、射出成形されたパリソン(プリフォーム)が、延伸ブローポジションに移される前に、加熱ポジションで加熱されることが認められる。そして、その加熱が、プリフォームを延伸ブロー成形に適した温度とするために行われるものであることは明白であるから(パリソン(プリフォーム)が射出ポジションから移された後の工程であるから、射出されたパリソン(プリフォーム)の離型のためであることはあり得ない。)、加熱ポジションにおける工程は、ブロー成形時のプリフォーム温度の調節を目的とするものということができる。
そうとすれば、上記記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は、原告主張のように、ブロー成形時のプリフォーム温度について好ましい値の範囲を記載したものと解するのが相当であり、この点に関する審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。
被告は、特開昭60-178020号公報(甲第8号証)、昭和45年2月20日株式会社プラスチック・エージ発行の「プラスチック成形加工講座 ブロー成形」(甲第7号証)及び昭和48年11月1日株式会社工業調査会発行の「プラスチックガイド/成形加工編」(乙第2号証)の各記載を引用して、射出成形の終了、離型時の温度は重要な要素であると主張するが、被告の引用に係る上記各文献の記載は、主として、射出成形の次の工程であるブロー成形に適したプリフォーム温度を保持するという観点から、離型時の温度について述べたものであって、結局、ブロー成形時のプリフォーム温度の調節について記載しているものということができるから、上記判断を左右するに足りない。また、被告は、本件明細書における記載Aの前後の文脈から見て、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分は射出成形直後のプリフォーム温度について記載したものである旨主張するが、ホットパリソン法において、射出成形されたプリフォームが、延伸ブローポジションに移される前に、延伸ブロー成形に適した温度とするため加熱ポジションで加熱されることを考慮すれば、文脈上も、記載A中の上記記載部分が射出成形工程におけるプリフォーム温度について記載したものであると断定することはできない。
そして、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分が、ブロー成形時のプリフォーム温度について好ましい値の範囲を記載したものであるとすれば、当該記載は、ブロー成形時のプリフォーム温度と使用樹脂のTMAとを互いに関連付けて記載したものということができる。
(2) 本件明細書の記載Bに実施例1〜4に係る各ランダム共重合体のTMA値が、表1に実施例1〜4に係るブロー時のプリフォーム温度が、それぞれ記載されており、その各値が次のとおりであることは当事者間に争いがない。
実施例1 TMA値115℃、プリフォーム温度115℃ 実施例2 TMA値148℃、プリフォーム温度140℃ 実施例3 TMA値135℃、プリフォーム温度125℃ 実施例4 TMA値148℃、プリフォーム温度145℃ ところで、原告は、記載B及び表1に、ブロー成形時のプリフォーム温度が使用樹脂のTMAと関連付けられることが示されている旨主張するが、本件明細書(甲第2号証)の記載B及び表1には、上記のとおりのブロー成形時のプリフォーム温度と使用樹脂のTMA値とが、それぞれ個別に記載されているのみであって、各実施例に係る当該プリフォーム温度が当該TMA値と関連付けて定められた旨の具体的な記載は、記載B及び表1自体はもとより、本件明細書又は図面の全体を通じて見いだすことができないから、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は、本件明細書の記載B及び表1に記載された実施例1〜4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度についての上記値から、ブロー成形時のプリフォーム温度の使用樹脂のTMAに対する関係が、直接的かつ一義的に、TMA〜(TMA-10)℃であると算出することができるから、本件明細書には、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることの記載がされているということができる旨主張する。
そして、記載B及び表1に記載された実施例1〜4に係る樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度についての上記値に基づき、各実施例ごとに(プリフォーム温度-TMA値)の値を算出すると、実施例1において0、実施例2において-8、実施例3において-10、実施例4において-3となることは計算上明らかである。
しかしながら、本件明細書(甲第2号証)又は図面には、いずれの実施例についても、それぞれそのブロー成形時のプリフォーム温度をどのようにして決定したかについての記載は見当たらず、したがって、各実施例に係るブロー成形時のプリフォーム温度が、各実施例に係るTMA値から、例えば実施例1については0を、実施例2については8を、実施例3については10を、実施例4については3を差し引いた値となるように決定したことはもとより、各実施例に係る樹脂のTMA値を基礎として定められたことさえも、本件明細書又は図面に記載されているということはできない。
もっとも、上記のとおり、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分が、ブロー成形時のプリフォーム温度について好ましい値の範囲を記載したものであると解されるから、各実施例に係るブロー成形時のプリフォーム温度も、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲内では、TMA値と関連付けて定められたものということはできるが、ブロー成形時のプリフォーム温度が、そのような広範な範囲で使用樹脂のTMAと関連付けられているからといって、TMA値から0〜10を差し引いた値とすることが当業者において当然に導き出せるものでないことは明らかである。ブロー成形時のプリフォーム温度を、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲内において、115℃(実施例1)、140℃(実施例2)、125℃(実施例3)及び145℃(実施例4)とするに当たっては、何らかの技術的な手段に基づく検討の結果、当該温度が採用されたものであることは明らかであり、あるいは、その技術的な手段も使用樹脂のTMA値に根拠を置くものであることも可能性としては考えられるが、それが本件明細書又は図面に表現されていない以上、記載B及び表1に個別に記載された実施例1〜4に係る使用樹脂のTMA値とブロー成形時のプリフォーム温度に基づいて、各実施例ごとに(プリフォーム温度-TMA値)を算出した結果が0〜-10の値となるからといって、そのことから直ちに、ブロー成形時のプリフォーム温度が使用樹脂のTMAに対する関係で、TMA〜(TMA-10)℃に数値限定されることが、当業者において本件明細書又は図面の記載から直接的かつ一義的に導き出せるとか、本件明細書又は図面に、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることの記載がされているとはいえないことが明らかである。
なお、本件審判請求に係る審判請求書(甲第3号証)には、本件訂正についての独立特許要件に関する主張として、ブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTMAから(TMA-10)℃の範囲とすることの技術的意義につき、「本発明者は・・・ブロー成形時のプリフォーム樹脂温度を前記環状オレフィン系樹脂の軟化温度(TMA)から(TMA-10)℃の範囲でインジェクションブロー成形して得られたインジェクションブロー成形品が、透明性、耐熱性、耐薬品性等の特性に加え、さらに降伏点応力、破断点応力および弾性率などの機械的強度にも優れていることを見出して本発明を完成するに至った」(9頁24行目〜10頁第4行目)、「従来、樹脂のブロー成形は、樹脂の軟化温度(TMA)よりも高い温度で行われるものであって、本件特許発明のように、『ブロー成形時の樹脂温度を前記環状オレフィン系樹脂の軟化温度(TMA)から(TMA-10)℃の範囲でインジェクションブロー成形する』という条件を採用するという技術的思想は、従来の技術的思想とは明確に異なるものである」(10頁28行目〜11頁3行目)との各記載があり、さらに、その記載内容を裏付けるものとして、ブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTMAより15℃又は14℃高く設定した比較実験例(比較実験例1〜4)及びブロー成形時のプリフォーム温度を使用樹脂のTMAより15℃低く設定した比較実験例(比較実験例5〜8)と本件明細書記載の実施例1〜4との、物性や耐薬品性等を比較した実験の結果(表1〜5)が掲載されている。
そして、これらの記載及び実験結果によれば、本件訂正において、訂正事項(1)及び(2)に係る、使用樹脂のTMA値との比較におけるブロー成形時のプリフォーム温度の上下限値(0及び-10)は、格別な技術的意義を有するものとされていることが認められるが、本件明細書又は図面に、上記プリフォーム温度の上限及び下限の境界値としての技術的意義を読み取ることのできる記載は全く見いだすことはできない。
したがって、ブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることを記載する訂正事項(1)及び(2)には、プリフォーム温度とTMA値との特定範囲の差に基づいて、ブロー成形時のプリフォーム温度を設定することにより、本件明細書又は図面に記載のない新たな技術手段が表現されているものといわざるを得ず、訂正事項(1)及び(2)が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲を逸脱していることは明らかであるというべきである。
(4) そうすると、審決が、記載A中の「プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい」との部分につき、ブロー成形時のプリフォーム温度を意味するものではないと判断したことは誤りであるというべきであるが、その誤りを正し、上記記載部分がブロー成形時のプリフォーム温度についての記載であることを前提としたとしても、本件明細書又は図面にブロー成形時のプリフォーム温度が、使用樹脂(環状オレフィン系樹脂)のTMAから(TMA-10)℃の範囲であることの記載はないとして、訂正事項(1)及び(2)が本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないとした審決の判断には結局誤りはなく、上記の誤りは審決の結論に影響を及ぼさないものというべきである。
2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利