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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 10年 (ワ) 22491号 特許権侵害差止等請求事件
原告 根本特殊化学株式会社
訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 和田聖仁
同 早稲本 和徳
同 久保田 伸
同 秋野卓生
訴訟復代理人弁護士 七字賢彦
同 鈴木英之
補佐人弁理士 黒田博道
被告 ケミテック株式会社
訴訟代理人弁護士 長谷川 純
補佐人弁理士 高久 浩一郎
同 中島幹雄
同 岩崎幸邦
同 中嶋知子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/03/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1(1) 被告は,別紙物件目録記載(1)の物品を輸入又は販売してはならない。
(2) 被告は,別紙物件目録記載(2)ないし(4)の物品を製造又は販売してはならない。
(3) 被告は,被告の本店,支店,営業所及び倉庫に存する別紙物件目録記載(1)ないし(4)の物品を廃棄せよ。
2 被告は,原告に対し,金8516万3063円及び内金5718万2426円に対する平成10年10月16日から,内金2798万0637円に対する平成12年9月30日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
5 この判決の第1項(1)(2)及び第2項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載(1)ないし(4)の物品を製造,販売又は輸入してはならない。
2 被告は,被告の本店,支店,営業所及び倉庫に存する別紙物件目録記載(1)ないし(4)の物品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金3億1400万円及び内金2億7400万円に対する平成10年10月16日から,内金4000万円に対する平成12年9月30日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 原告が有する特許権 ア 原告は,以下の特許権(以下,その特許権を「本件特許権」といい,請求項1の発明を「本件発明1」といい,請求項2の発明を「本件発明2」という。)を有している。
【発明の名称】 蓄光性蛍光体 【特許番号】 第2543825号 【出願日】 平成6年1月21日 【公開日】 平成7年1月13日 【登録日】 平成8年7月25日 【特許請求の範囲】 (請求項1) 「MAl2O 4で表わされる化合物で,Mは,カルシウム,ストロンチウム,バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にすると共に,賦活剤としてユウロピウムをMで表わす金属元素に対するモル%で0.002%以上20%以下添加し,さらに共賦活剤としてネオジム,サマリウム,ジスプロシウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム,ルテチウムからなる群の少なくとも1つ以上の元素をMで表わす金属元素に対するモル%で0.002%以上20%以下添加したことを特徴とする蓄光性蛍光体。」 (請求項2) 「SrAl2O 4で表わされる化合物を母結晶にすると共に,賦活剤としてユウロピウムをSrに対するモル%で0.002%以上20%以下添加し,さらに共賦活剤としてジスプロシウムをSrに対するモル%で0.002%以上20%以下添加したことを特徴とする蓄光性蛍光体。」 イ 本件発明の構成要件を分説すると,以下のとおりである。
【請求項1】 1-A MAl2O 4で表わされる化合物で, 1-B Mは,カルシウム,ストロンチウム,バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にすると共に, 1-C 賦活剤としてユウロピウムをMで表わす金属元素に対するモル%で0.002%以上20%以下添加し, 1-D さらに共賦活剤としてネオジム,サマリウム,ジスプロシウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム,ルテチウムからなる群の少なくとも1つ以上の元素をMで表わす金属元素に対するモル%で0.002%以上20%以下添加したことを特徴とする 1-E 蓄光性蛍光体 【請求項2】 2-A SrAl2O 4で表わされる化合物を母結晶にすると共に, 2-B 賦活剤としてユウロピウムをSrに対するモル%で0.002%以上20%以下添加し, 2-C さらに共賦活剤としてジスプロシウムをSrに対するモル%で0.002%以上20%以下添加したことを特徴とする 2-D 蓄光性蛍光体 (2) 被告の行為 ア 被告は,蓄光性蛍光体原末を輸入し,「ケミテックピカリコCP-05」(以下「CP-05」という。)という商品名で販売している。
イ 被告は,蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品を販売している。
(3) CP-05の組成 被告が輸入販売しているCP-05には,賦活剤としてユウロピウムが,共賦活剤としてジスプロシウムがそれぞれ別紙物件目録(1)記載の含有量含有されている(弁論の全趣旨)。
2 本件は,被告が蓄光性蛍光体原末を輸入し,これを販売等する行為が本件特許権を侵害するとして,原告が被告に対して,製品の製造,輸入,販売行為の差止めを求めるとともに,原告が被った損害の賠償を求める事案である。
3 本件の争点 (1) CP-05が本件発明1,2の技術的範囲に属するかどうか ア CP-05の組成 イ CP-05が,本件発明1,2の「母結晶」の構成要件を充足するかどうか (2) CP-05以外の商品名の製品について ア CP-05BはCP-05と同一の物質であるかどうか イ 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について (3) 原告の損害額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について 【原告の主張】 (1) CP-05は,SrAl2O 4結晶を主成分とするものであって,SrAl2O 4を母結晶とする。そして,CP-05は,この母結晶に,賦活剤としてユウロピウムが,共賦活剤としてジスプロシウムが別紙物件目録(1)記載の含有量添付されている蓄光性蛍光体であるから,本件発明1,2の各構成要件を充足する。
(2) CP-05には,Sr4Al14O25を母結晶とする蛍光体が含まれているが,これは,SrAl 2O 4を母結晶とする蛍光体のほかに別個の化合物(蛍光体)が含まれているということにすぎず,CP-05が本件発明1,2の各構成要件を充足することに影響するものではない。
(3) CP-05には,B(ホウ素)が含まれているが,B(ホウ素)がAlの一部に置換していることはない。仮に,B(ホウ素)がAlの一部に置換しているとしても,B(ホウ素)は,SrAl2O 4の結晶構造を変えることなくAlの格子点を不規則に占有しているから,CP-05は,SrAl2O 4を母結晶とするものである。
【被告の主張】 (1) 本件特許明細書の記載からすると,本件発明1の「母結晶」とは,蓄光性蛍光体における賦活剤及び共賦活剤との組合せにおいて,賦活剤及び共賦活剤が添加されている母体となる物質(化合物)それ自体を意味するというべきであって,本件発明1において,母結晶となり得る化合物は,「MAl2O 4で表される化合物で,Mは,カルシウム,ストロンチウム,バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物」であり,請求項1の「M」に関する記載から,「M」がカルシウム,ストロンチウム,バリウムのうちから1つ選ばれた以下の3種類の化合物,@CaAl2O 4,ASrAl 2O 4,BBaAl 2O 4,「M」がカルシウム,ストロンチウム,バリウムのうちから2つ選ばれ,これらの2種の金属を種々の比率で組み合わせた以下の3種類の化合物,CCaxSr (1ーx)Al 2O 4 ,DSr xBa (1ーx) Al 2O 4,ECa xBa (1ーx) Al 2O 4,「M」としてカルシウム,ストロンチウム,バリウムの3つが選ばれ,これらの3種の金属を種々の比率で組み合わせた化合物,FCaxSr yBa (1ーxーy) Al 2O 4のいずれかに限定されるというべきである。また,本件発明2においては,母結晶は,SrAl2O4に限定されるというべきである。
したがって,Sr(又はCa,Ba及びこれらの混合物),Al,Oが他の元素によって一部でも代替される場合を含まないと解すべきである。
(2) CP-05は,(Sr,Eu,Dy)1ーx (Al,B) 2O 4-x で表されるA物相と,(Sr,Eu,Dy)4-y (Al,B) 14 O 25-y で表されるB物相とが共生してなる複相物質であって,A物相及びB物相とも,Alの一部がB(ホウ素)で置換されている。
したがって,CP-05は,上記B物相が共生している点及びAlの一部がB(ホウ素)で置換されている点において,本件発明1,2とは,母結晶が異なる。
2 争点(2)について 【原告の主張】 (1) CP-05Bについて 被告の「CP-05B」という商品名の製品は,CP-05と同一の物質である。
(2) 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について 被告は,第二次製品である別紙物件目録記載(2)ないし(4)の各製品を販売している。
【被告の主張】 (1) CP-05Bについて CP-05Bは,CP-05とは異なる物質である。CP-05Bは,原材料にEuを用いず,CP-05と同様な方法で製造するものであり,構造式は,(Sr,Dy)(Al,B)2O 4・(Sr,Dy) 4(Al,B) 14 O 25 とされるべきものである。
なお,原告は,損害論の審理に入った段階で,CP-05Bを請求の対象に加えたが,このような変更は認められるべきではない。
(2) 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について 被告は,「ピカリコシート」と「ピカリコシルクインク」を販売していることは認めるが,現在は「ピカリコペレット」は販売していない。
3 争点(3)について 【原告の主張】 (1) 主位的主張 ア 原告は,平成6年から,SrAl2O 4:Eu,Dy蓄光性蛍光体の中国における製造と輸入を開始した。他方,被告は,平成7年1月ころより中国から別紙物件目録記載(1)の蓄光性蛍光体原末を税表番号「3206.50ルミノホア」として輸入し,蓄光性蛍光体の販売を開始した。ところで,上記「3206.50ルミノホア」の日本への輸入総数量に関しては,大蔵省貿易統計によって明らかとなる。そして,原告及び被告以外の第三者の「3206.50ルミノホア」の輸入量はわずかであり,その輸入量は,原告及び被告の輸入量の増加にかかわらず,ほぼ一定であるとみなすことができる。そうすると,上記統計における中国からのルミノホアの全輸入量から,この第三者のほぼ一定数量の輸入量及び原告の輸入量をそれぞれ控除すると,その残量が被告の「3206.50ルミノホア」の輸入量であると非常に精度が高く推定することができる。
以上のようにして推定すると,平成7年1月から平成12年9月までの間における被告の「3206.50ルミノホア」の輸入総数量は,4万3139sとなる。
イ 被告の仕入単価は,1s当たり1万5390円であり,販売単価は,1s当たり3万1216円であるから,粗利益率は,50.7パーセントとなる。
ウ 被告が輸入したものをすべて販売したものとすると,同販売による被告の粗利益額は,以下のとおりとなる。
(ア) 平成8年8月から平成10年7月まで 総輸入量 1万5532s 仕入額 2億3903万7480円 販売額 4億8484万6912円 粗利益額 2億4580万9432円 (イ) 平成10年8月から平成12年9月まで 総輸入量 1万5380s 仕入額 2億3669万8200円 販売額 4億8010万2080円 粗利益額 2億4340万3880円 (ウ) 上記総粗利益額 4億8921万3312円 エ 原告が輸入した「3206.50ルミノホア」には,本件特許の実A品であるSrAl2O 4:Eu,Dy蓄光性蛍光体(Greenに発光するので,以下,「G」という。)の他に,Sr4Al 14O 25 :Eu,Dy蓄光性蛍光体(Blue Greenに発光するので,以下,「BG」という。)が含まれているところ,原告の輸入数量の88パーセントがGであり,12パーセントがBGである。
この比率は,市場の需要に基づくものであると考えられるので,被告のG(すなわち,別紙物件目録記載(1)の原末)とBGの輸入比率もほぼ同等であると推測することが合理的である。
オ そこで,被告が別紙物件目録記載(1)の原末の輸入販売により得た粗利益額を算定すると,以下のとおり,4億3050万7714円となり,当該金額が,原告が受けた損害額である。
(ア) 平成8年8月から平成10年7月の期間の被告の粗利益額 2億4580万9432円×0.88=2億1631万2300円 (イ) 平成10年8月から平成12年9月までの期間の被告の粗利益額 2億4340万3880円×0.88=2億1419万5414円 (ウ) 上記@+A=4億3050万7714円 (2) 予備的主張(被告提出の書証に基づく損害額の主張) ア CP-05原末の販売による逸失利益 被告による平成8年7月25日から平成12年9月25日までの期間におけるCP-05の売上金額は,1億9080万6000円であり,その販売数量は,6104.9sである(乙53)。また,上記期間の平均輸入単価は,1s当たり1万7196円であった(乙52の1ないし36)から,6104.9sに対する仕入金額は1億0498万円となる。したがって,売上金額から仕入金額を差し引いた粗利益額は,8582万6000円となり,その売上金額に対する比率は,45.0パーセントである。
以上の粗利益額がそのまま被告が得た利益額であるとも考えられるが,販売管理費を差し引くとすると,その額は,次のようになる。すなわち,損益計算書(乙64の2)に基づいて,被告における販売管理費の売上金額に対する割合を算出すると,17.5パーセントとなるので,上記売上金額に対する販売管理費の額は,3346万4000円となる。
以上により,上記売上金額から上記仕入金額及び販売管理費の額を差し引くと,被告がCP-05の原末販売によった得た利益額は,5236万2000円となり,これが,CP-05原末の販売による原告の逸失利益額となる。
イ CP-05B原末の販売による原告の逸失利益 被告による平成8年7月25日から平成12年9月25日までの期間におけるCP-05Bの輸入数量は,3500sであり(乙52の1ないし36),被告は,これらをすべて販売したと考えられる。その輸入金額は,カナダ銀行がインターネット上のウェブサイトに公開しているドル-円為替レートによって換算すると,2718万5000円となる。
上記のとおり輸入されたCP-05Bの売上金額は,上記アの粗利益率45.0パーセントによって上記輸入金額から逆算すると,4942万7000円となる。
上記アのとおり,被告における販売管理費の売上金額に対する割合は17.5パーセントであるので,上記売上金額に対する販売管理費の額は,865万円となる。
以上により,上記売上金額から上記仕入金額及び販売管理費の額を差し引くと,被告がCP-05の原末販売によった得た利益額は,1359万2000円となり,これが,CP-05B原末の販売による原告の逸失利益額となる。
ウ 第二次製品の販売による原告の逸失利益 被告が,CP-05及びCP-05Bの第二次製品の販売によって得た利益額は,上記アの利益額を下回ることはないから,これが,第二次製品の販売による原告の逸失利益額となる。
エ 以上のとおり,これまでに被告から提出された書証等に基づいて逸失利益の算定を行っても,原告の逸失利益額は1億1831万6000円を下らない。
【被告の主張】 (1) 被告の売上額等 平成12年9月25日までの間におけるCP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコシート,ピカリコシルクインクの販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙被告主張売上一覧表記載のとおりである。
なお,上記製造原価は,輸入原価の10パーセントに当たる関税,輸入費用,被告工場までの運送費を含めた金額である。
(2) 販売管理費 CP-05等に係る販売費用を個別に計算することは困難であるので,全商品の販売管理費用から,売上げによる案分計算によって求めることとする。そうすると,その額は,別紙被告主張販売管理費一覧表記載のとおりとなる。
(3) 製造管理費用等 被告は,CP-05等を工場に搬入した後,管理,仕分け等を行っている。また,被告は,CP-05及びCP-05Bの粒子を細かくする分級作業を行っており,その分級作業の費用(そのための運賃を含む)の額は,別紙分級費用一覧表記載のとおりである。
分級作業の費用以外の製造管理費用は,全商品の製造管理費用から,売上げによる案分計算によって求めることとする。そうすると,分級作業の費用以外の製造管理費用の額は,別紙被告主張製造原価表記載のとおりとなる。
(4) 利益額 CP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコシート,ピカリコシルクインクの利益額は,以上の売上額から製造原価,販売管理費,分級作業の費用及び製造管理費用を控除することによって計算することができ,その総額は,別紙被告主張利益計算表のとおり,4170万1241円となる。
しかし,CP-05の第二次製品については,一度加工会社に売却し,加工後のものを購入して再度ユーザーに売却するという方法をとっていることから,CP-05の売上げに二重に計上されている。また,被告は,平成8年度,平成9年度は,CP-05等の売上げを拡大するために多くの営業費を投入しており,その概算額は,平成8年度が800万円,平成9年度が700万円である。
(5) 以上によると,CP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコシート,ピカリコシルクインクの販売により被告が得た利益の額は,概ね2600万円程度である。
当裁判所の判断
1 争点(1)について (1) 本件発明1,2について ア 証拠(甲3,乙20)によると,本件特許明細書には,次の記載があるものと認められる。
【発明が解決しようとする課題】 市販の硫化物系蛍光体に比べて遥かに長時間の残光特性を有し,更には化学的にも安定であり,かつ長期にわたり耐光性に優れる蓄光性蛍光体の提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】 従来から知られている硫化物系蛍光体とは全く異なる新規の蓄光性蛍光体材料としてユウロピウム等を賦活したアルカリ土類金属のアルミン酸塩に着目し,種々の実験を行った結果,この蓄光性蛍光体材料が,市販の硫化物系蛍光体に比べて遥かに長時間の残光特性を有し,更には酸化物系であることから化学的にも安定であり,かつ耐光性に優れることが確認でき,従来の問題点がことごとく解消でき,放射能を含有しなくとも1晩中視認可能な夜光塗料あるいは顔料として,様々な用途に適用可能な長残光の蓄光性蛍光体を提供することが可能となることが明らかとなったものである。
【発明の効果】 以上説明したように,本発明は,従来から知られている硫化物系蛍光体とは全く異なる新規の蓄光性蛍光体材料に関するものであり,市販の硫化物系蛍光体と比べても遥かに長時間,高輝度の残光特性を有し,更には酸化物系であることから化学的にも安定であり,かつ耐光性に優れたものである。
イ 本件特許請求の範囲の記載に上記ア認定の事実を総合すると,本件発明1,2は,従来から知られている硫化物系蛍光体とは異なる新しい蓄光性蛍光体材料に関する発明であって,母結晶と賦活剤・共賦活剤のみを構成要件とするものであるから,蓄光性蛍光体であって,母結晶と賦活剤・共賦活剤が本件発明1,2の構成要件に該当し,本件発明1,2の効果が達成されるものであれば,他に含まれているものがあったとしても,本件発明1,2の構成要件を充足するものと認められる。
(2) CP-05は,本件発明1,2の「母結晶」の構成要件を充足するかどうか ア 証拠(甲29,30,乙38,39)と弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア) 理想的完全結晶は,結晶材料が完全に理想的な格子である。すなわち,結晶片の端から端まで完全に原子配列の周期性が保たれている結晶をいうが,現実の結晶は,結晶の規則性に乱れが存在しており,この乱れを格子欠陥という。
(イ) 結晶中に異種の原子,分子,イオンが溶け込んで固溶体となる場合に,これらが結晶格子の隙間に入るときは,侵入型固溶体という。これに対して,結晶格子の格子点の原子などを置換する形で入るときは,置換型固溶体という。いずれの場合も,どの位置に溶け込むかについては,規則性がない。
(ウ) 結晶の単位格子の大きさと形は,格子定数によって表わされる。
イ 証拠(甲5の1,2,甲14,17,18,20,21,26ないし28,乙3,乙13の1,2,乙26,27)と弁論の全趣旨によると,CP-05は,Sr(ストロンチウム),Al,O,Eu(ユウロピウム),Dy(ジスプロシウム),B(ホウ素)の各元素から構成されていること,Sr,Al,Oは,SrAl2O 4の結晶とSr 4Al 14 O 25 の結晶を構成していること,SrAl 2O 4の結晶が主成分であり,SrAl 2O 4の結晶とSr 4Al 14 O 25 の結晶との重量比は約9対1であること,以上の事実が認められる。
ウ ところで,被告は,CP-05においては,Alの一部がB(ホウ素)によって置換されている結果,本件発明1,2における母結晶とCP-05の母結晶は異なると主張するので,まず,この点について判断する。
(ア) 乙13号証の1,2(A教授の鑑定報告書)には,CP-05においては,Alの一部がB(ホウ素)によって置換されている旨記載されている。そして,同報告書には,その根拠として,CP-05を赤外線吸収スペクトル法で分析したところ1431p-1,と1340p-1にB-Oの三角形結合から生じるものと考えられる振動が認められたこと及び高温と圧力の条件下,燐酸化合物中のPO4がCO 3と置換する例が報告されていることを挙げている。しかし,同報告書の記載及び乙36号証の1,2に弁論の全趣旨を総合すると,上記赤外線吸収スペクトル法による分析結果は,CP-05のサンプルにB-Oの三角形結合が存すること以上の意味を有するとは認められない(すなわち,結晶構造中にB-O三角形結合が存在することまで示すものではない)し,他の元素において一般的に置換する例が報告されていることは,直ちにCP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることの根拠となるものではない。
乙23号証の1,2(A教授の追加鑑定書)には,Sr,Al,Eu,Dyの配合量を一定にして,H3BO 3の添加量を変化させて,化合物を作成し,X線回析をしたこと,H3BO 3の添加量の異なる3つの試料(H 3BO 3を添加しないもの,CP-05と同量添加したもの,CP-05よりも多く添加したもの)についてX線回析をしたところ,H3BO 3の添加量が多くなるにしたがって,(222)ピークの位置が高角度側にシフトし,格子定数が減少したことが記載されているものと認められる。また,乙28号証の1,2(韓国資源研究所員らによる論文)には,蛍光体のB2O 3成分は,5パーセントの範囲まで固溶体を形成し,結晶中の均一歪み源としての役割を演じることが示された旨の記載があることが認められる。しかし,格子定数が減少したことが直ちにAlとBとの置換が生じることを示しているとは認められないうえ,証拠(甲25)によると,乙23号証の1,2の実験における格子定数の減少量はきわめて小さく,測定誤差の範囲内といってもよいものであると認められること,乙28号証の1,2も,固溶体が形成され結晶中の歪みが生じたことが記載されているのみで,AlとBとの置換についてまでは言及されていないことからすると,これらは,直ちにCP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることの根拠となるものではない。
乙35号証(被告の測定報告書)には,CP-05,CP-05の原料からB(ホウ素)を除いて作ったもの,CP-05の原料からEuを除いて作ったもの,CP-05の原料からDyを除いて作ったもの,CP-05の原料からEuとDyを除いて作ったものについて,残光輝度の測定をしたところ,原料からEuとDyを除いたものは,全く残光性がなかったこと,原料からB(ホウ素)を除いたものには,残光性があったが,B(ホウ素)を加えたものに比べて残光性が劣ること,原料からEu又はDyのみを除いたものには,残光性があったことが記載されている。しかし,これによっても,B(ホウ素)は,EuとDyのような賦活剤の機能を有しないこと,B(ホウ素)の存在によって残光性が影響を受けることがわかるのみで,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることの直接の根拠となるものではない。
(イ) 証拠(乙18,19,26,27)によると,CP-05を水洗いしても,その残光輝度,組成,X線回析結果に変化がないことが認められる。しかし,水洗いによって影響を受けないからといって,直ちにCP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されているとは認められないから,上記実験結果は,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることの根拠となるものではない。
その他,被告がCP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることの根拠として援用する証拠(甲19,乙24の1,2,乙25,29ないし34)は,いずれも,このような置換の可能性を示したものにすぎず,CP-05がAlとBとが置換したものであることを示すものではない。
他に,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 証拠(甲14,27)によると,CP-05のSrAl2O4結晶のX線回析による格子定数は,文献上のSrAl2O 4の格子定数とほぼ一致することが認められる。また,証拠(甲15,16,21,28,50,52,乙3,37)と弁論の全趣旨によると,Eu,Dyで賦活したSrAl2O 4蛍光体の発光スペクトルは520nm付近にピークが現れるが,CP-05の発光スペクトルも520nm付近にピークが現れるものと認められる。なお,上記乙37号証(東京都立工業技術センターの試験結果報告書)には,CP-05の発光スペクトルのピークは,5nmごとに測定した数値としては,515nmが最も高い旨の記載があるが,同報告書によると,次に高いのは520nmであると認められるから,ピークは,実際には515nmと520nmの間に現れていると推認され,520nm付近にピークが存在しているということができる。
(エ) また,証拠(甲3,20,乙20)と弁論の全趣旨によると,原告が,CP-05と本件特許明細書記載の実A例の試料2-(1)(フラックスとしてB(ホウ素)を含む)について,本件特許明細書に記載された測定方法に従って,残光輝度の試験をしたところ,CP-05と試料2-(1)の数値はほぼ一致したことが認められる。これに対して,証拠(乙21)によると,被告が,CP-05について,残光輝度の試験をしたところ,その結果は,上記原告の試験とは異なっていることが認められるが,原告が本件特許明細書に記載された測定方法に従って行っているのに対し,証拠(甲3,乙20,21)によると,被告は,それとは異なる方法で行っているものと認められるから,上記認定を覆すに足りるものではない。
証拠(甲21,22,甲23の1,2)によると,原告が,CP-05と本件特許明細書記載の実A例の試料2-(1)について,JIS及びDIN(ドイツ工業規格)に従った方法で,残光輝度,発光スペクトル及び励起スペクトルを測定したところ,CP-05と試料2-(1)の数値はほぼ一致したことが認められる。
被告は,この測定結果について,試料2-(1)の励起スペクトルと本件特許明細書に記載された励起スペクトル(本件特許明細書図2)が一致しないし,試料2-(1)のグローカーブ(甲26図1)が本件特許明細書に記載されたグローカーブ(本件特許明細書図6)と一致しないと主張するが,証拠(甲3,乙20)によると,本件特許明細書図2の励起スペクトルは,試料2-(1)の励起スペクトルではないと認められるから,一致しなくても直ちに不自然ではないし,また,証拠(甲3,26,乙20)によると,甲26号証の測定は,本件特許明細書とは測定条件が異なっていると認められるから,グローカーブが一致しなくても直ちに不自然ではない。さらに,乙3号証(被告作成に係るCP-05の技術資料)4ページに記載されているCP-05の熱発光スペクトルの図は,上記本件特許明細書に記載されたグローカーブ(本件特許明細書図6)と一致しないが,証拠(甲3,乙3,20)によると,乙3号証における実験は,本件特許明細書とは測定条件が異なっていると認められるから,グローカーブが一致しなくても直ちに不自然ではない。
以上のとおりCP-05と本件特許明細書の実A例記載の試料と光学特性が変わらないことは,CP-05が本件発明1,2のものと変わらないものであることを示しているということができる。
(オ) 以上述べたところを総合すると,CP-05においては,「Alの一部がB(ホウ素)によって置換されている結果,本件発明1,2における母結晶とCP-05の母結晶は異なる」と認めることはできない。
(カ) 仮に,被告が主張するように,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)に置換されているとしても,弁論の全趣旨によると,その置換は,不規則に生じているものと認められる。そして,この事実に,CP-05のB(ホウ素)の量は,前掲乙13,36の各号証の各1,2によると,約0.47-0.97wt%,乙27号証によると,0.718-0.788wt%,甲27号証によると,0.75wt%であること,前記(ア)のとおり,前掲乙28号証の1,2によると,蛍光体のB2O 3成分が固溶体を形成するのは,5パーセントの範囲までであること,前記(ウ)(エ)のとおり,CP-05のSrAl2O 4結晶のX線回析による格子定数は,文献上のSrAl2O 4の格子定数とほぼ一致し,発光スペクトルのピークもEu,Dyで賦活したSrAl2O 4:Eu蛍光体の発光スペクトルのピークと一致するうえ,CP-05と本件特許明細書の実A例記載の試料と光学特性が変わらないこと,証拠(甲27,28)と弁論の全趣旨によると,B(ホウ素)を使用せずに焼成したSrAl2O 4:Eu,Dyであっても,焼成条件次第で,B(ホウ素)を使用した場合と同様の光学特性を得ることができることが認められることを総合すると,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)に置換されているからといって,CP-05の「母結晶」がSrAl2O 4の結晶ではないということはできないものというべきである。
エ 次に,被告が主張するB物相について検討する。
(ア) 前記イで認定したとおり,CP-05には,Sr4Al 14 O 25 の結晶が存在することが認められる。
(イ) 前掲乙13号証の1,2は,このSr4Al 14 O 25 の結晶をB物相といい,SrAl2O 4の結晶からなるA物相とは「共生」している旨記載されている。そして,被告は,「共生」について,「生成過程で随伴過程にあり,2種類の相が相伴って同じ場所に接して生成されること」を意味すると主張する。しかし,証拠(甲9)と弁論の全趣旨によると,鉱物については「共生」という用語が用いられるが,人工的に合成された物質には,一般に用いられていないものと認められるから,その意味は,そもそもはっきりしないし,CP-05の写真(乙13の1,2,乙14,15)によるも,Sr4Al 14 O 25 の結晶がSrAl 2O 4の結晶と「共生」しているのかどうか明らかではない。
この点,乙17号証(被告の輝度試験報告書)には,A物相からなる蛍光体(試薬A),主としてB物相からなる蛍光体(試薬B),A物相とB物相が「共生」しているもの,A物相からなる蛍光体(試薬A)と主としてB物相からなる蛍光体(試薬B)を混合したものについて輝度及び残光性の試験を行ったところ,A物相とB物相が「共生」しているものとそれ以外では,輝度及び残光性に違いが生じた旨記載されている。しかし,乙17号証の試験で用いられた試薬Aと試薬Bが,それぞれCP-05におけるA物相とB物相と同一であるとは認めがたいから,この試験結果は採用できない。
前記ウ(エ)のとおり,CP-05と本件特許明細書の実A例記載の試料の光学特性は変わらないものと認められる。また,証拠(甲15,16)と弁論の全趣旨によると,Eu,Dyで賦活したSr4Al 14 O 25 蛍光体の発光スペクトルのピークは,490nm付近に現れるものと認められるが,前記ウ(ウ)のとおり,CP-05の発光スペクトルは520nm付近にピークを持ち,これは,Eu,Dyで賦活したSrAl2O 4蛍光体の特徴であることが認められる。
(ウ) 以上述べたところからすると,Sr4Al14O25の結晶が存在するからといって,CP-05の「母結晶」がSrAl2O 4の結晶ではないということはできないものというべきである。
(3) 前記(2)で述べたところに前記争いのない事実等を総合すると,CP-05は,SrAl2O 4を母結晶とするとともに,賦活剤としてユウロピウムが,共賦活剤としてジスプロシウムがそれぞれ別紙物件目録記載の含有量含有されている蓄光性蛍光体であると認められ,また,前記(2)ウ(エ)のとおり,CP-05は,本件特許明細書の実A例記載の試料と同様の光学特性を有するものと認められる。前記(1)イのとおり,蓄光性蛍光体であって,母結晶と賦活剤・共賦活剤が本件発明1,2の構成要件に該当し,本件発明1,2の効果が達成されるものであれば,他に含まれているものがあったとしても,本件発明1,2の構成要件を充足するものと認められるから,CP-05は,本件発明1,2の各構成要件を充足する。
2 争点(2)について (1) CP-05Bについて ア 証拠(甲49,50,52,乙79)と弁論の全趣旨によると,CP-05Bは,Sr,Al,O,Eu,Dy,B(ホウ素)の各元素から構成されていること,Sr,Al,Oは,SrAl2O 4の結晶とSr 4Al 14 O 25 の結晶を構成していること,SrAl2O 4の結晶が主成分で,SrAl 2O 4の結晶とSr 4Al14 O 25 の結晶の割合は,重量比で約9対1であること,以上の事実が認められる。
イ 証拠(甲49)によると,新潟大学B教授(以下「B教授」という。)が,CP-05Bについて,ICP発光分析法による定量分析を行ったところ,CP-05B中には,EuがCP-05B1g当たり0.013290g,Srに対して1.85モル%,DyがCP-05B1g当たり0.009843g,Srに対して1.28モル%存したことが認められる。
これに対し,証拠(乙79)によると,財団法人化学物質評価研究機構が,CP-05Bについて,ICP発光分析法による定量分析を行ったところ,CP-05B1g中にEuが0.00011g,Dyが0.012g存したことが認められる。
被告は,ICP発光分析法によるCP-05BのEu含有量について,B教授による測定結果は,1桁間違っている(0.001329g/gである。)旨主張する。しかしながら,証拠(甲49)と弁論の全趣旨によると,B教授が測定したCP-05Bは,市場から入手した未開封のものを使用したこと,B教授による上記測定値は,コンピュータが出力した生のデータに基づくものであること,B教授が行ったEPMA定性分析の図1及び図2によると,EuとDyのピークはほぼ同じ高さであること,以上の事実が認められ,これらの事実からすると,B教授による上記測定値は信用できるものである。
また,被告は,B教授による上記測定値が正しいとすると,サンプルの採取時にその選択を誤ったか,品質管理上の問題があって,何らかの原因で原料の選択を誤ったかのいずれかである旨主張するが,これらの事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,B教授による上記測定値を採用することとする。財団法人化学物質評価研究機構による上記測定値は,上記のとおり信用できるB教授による測定値と異なること,同機構による測定値は,被告主張の数値(B教授による測定値の一桁下の数値)よりも更に一桁低いこと,証拠(乙79)によると,同機構による測定対象となったCP-05Bの蛍光スペクトルの強度は弱いとされているから,そのようなものが実際の製品として販売されていたとは考え難いことに照らすと,採用できない。
ウ 証拠(甲50,52)と弁論の全趣旨によると,原告は,CP-05Bについて,発光スペクトル及び励起スペクトルを測定したところ,CP-05Bの発光スペクトルのピークは521nmであったこと,CP-05Bの発光スペクトルの波形は,CP-05の発光スペクトルの波形とほぼ一致すること,CP-05Bの励起スペクトルの波形は,CP-05の励起スペクトルの波形と共通点がみられること,CP-05BとCP-05の残光輝度曲線の傾きが一致していること,以上の事実が認められる。また,証拠(乙79)によると,財団法人化学物質評価研究機構がCP-05Bについて発光スペクトルを測定したところ,CP-05Bの最大波長は517nmであったことが認められる。
前記1(2)ウ(ウ)認定のとおり,CP-05の発光スペクトルは,520nm付近にピークが現れるものと認められるところ,上記CP-05Bの発光スペクトルのピークの測定値は,CP-05とほぼ一致するものということができる。
以上の認定に反する被告の主張は採用できない。
エ 以上述べたところに弁論の全趣旨を総合すると,CP-05Bは,CP-05とほぼ同じ構成を有する蓄光性蛍光体であって,本件発明の構成要件を充足するものと認められる。
オ なお,被告は,CP-05Bにおいては,B(ホウ素)がAlに置換されているから,本件発明1,2とは母結晶が異なると主張するが,上記1で述べたとおり,CP-05はB(ホウ素)がAlの一部を置換しているとはいえず,仮に,置換しているとしても,母結晶は変わらないものと認められるところ,上記認定のとおり,CP-05BはCP-05とほぼ同じ構成を有するものと認められ,特に母結晶構造が異なるというべき事情も認められないから,CP-05Bの母結晶に係る被告の上記主張は理由がない。
カ また,被告は,損害論の審理に入った段階でCP-05Bを請求の対象に加えることは認められるべきではないとも主張するが,CP-05とCP-05Bの同一性については,損害額の審理と並行して審理を行い,損害額の審理が終わるまでに審理を終えることができたのであるから,訴訟の完結を遅延させるものということはできない。
(2) 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について 証拠(甲33,58)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP-05原末を加工した第二次製品である「ピカリコシート」という商品名のシートを販売していること,被告は,この製品を製造するために第三者にCP-05を販売し,第三者がそのCP-05を原料としてこの製品を製造し,被告は,第三者が製造したこの製品を買い受けて販売していること,被告は,CP-05原末を加工した第二次製品である「ピカリコシルクインク」という商品名のインクを販売していること,被告は,この製品を製造するために第三者にCP-05を無償で供与し,第三者がそのCP-05を原料としてこの製品を製造し,被告は,第三者が製造したこの製品の一部について無償供与を受けて販売していること,以上の事実が認められる。
証拠(甲33,乙80の1,2)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP-05原末を加工した第二次製品である「ピカリコペレット」という商品名の成形用樹脂材料を販売していたことがあること,被告は,現在はこの商品を販売していないが,その理由は,被告が,この製品を製造するためにCP-05を販売した第三者が倒産したためであること,以上の事実が認められる。
(3) 原告の被告に対する差止請求について ア 証拠(乙52の1ないし36,乙61の1ないし28)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP-05とCP-05Bの原末をすべて中国から輸入して販売していて,自ら製造していないものと認められ,将来自ら製造するおそれがあるというべき事情も認められないから,上記両製品については,輸入及び販売の差止請求は理由があるが,製造の差止請求は理由がない。
イ 上記(2)認定のとおり,被告は,「ピカリコシート」及び「ピカリコシルクインク」を販売しており,その製造等の形態からすると,原告は,将来これらの製品を製造するおそれがあるものと認められる。しかし,被告が,これらの製品を輸入しているとは認められず,将来輸入するおそれがあるというべき事情も認められない。したがって,上記両製品については,製造及び販売の差止請求は理由があるが,輸入の差止請求は,理由がない。
ウ 上記(2)認定のとおり,被告は,「ピカリコペレット」を販売したことがあり,現在は「ピカリコペレット」を販売していないが,その理由は,被告がこの製品を製造するためにCP-05を販売した第三者が倒産したためであると認められるから,被告は,将来この製品を製造販売するおそれがあるものと認められる。
しかし,被告が,この製品を輸入しているとは認められず,将来輸入するおそれがあるというべき事情も認められない。したがって,上記製品については,製造及び販売の差止請求は理由があるが,輸入の差止請求は,理由がない。
エ 以上によると,原告の被告に対する差止請求及び廃棄請求は,主文記載の限度で理由がある。
3 争点(3)について (1) 原告の主位的主張について 原告は,大蔵省貿易統計に掲載された税表番号「3206.50のルミノホア」の全輸入量から,第三者のほぼ一定数量の輸入量及び原告の輸入量をそれぞれ控除すると,その残量が被告の「3206.50ルミノホア」の輸入量であると非常に精度が高く推定することができ,このようにして推定すると,平成7年1月から平成12年9月までの間における被告の「3206.50ルミノホア」の輸入総数量は,4万3139sとなると主張する(前記第3・3争点(3)に関する【原告の主張】(1)主位的主張ア)ので,まず,この点について判断する。
証拠(乙52の1ないし36,乙54,55,乙56の1ないし7,乙57の1ないし4,乙58の1ないし3,乙59,乙61の1ないし28,乙69の1,2)と弁論の全趣旨によると,被告は,平成8年1月1日から平成12年9月25日までの間における税表番号「3206.50のルミノホア」に係るコマーシャルインボイス,パッキングリストをそれぞれ証拠として提出していること,上記インボイス及びパッキングリストは,いずれも「SEA EAGLE ELECTRO-MECHANICAL TECH ACADEMY」の一部門(同社国際貿易部の蓄光性蛍光体部)から発行されたものであるところ,これらは,いずれも各発行年度ごとに通し番号が付されていること,大蔵省貿易統計に掲載された税表番号「3206.50のルミノホア」については,日本国内の複数の会社が中国から輸入していること,以上の事実が認められ,上記統計に掲載された税表番号「3206.50のルミノホア」について,原告被告以外の第三者の輸入量については,これを認めるに足りる証拠がない。
このように,第三者の輸入量について,これを認めるに足りる証拠がない以上,上記統計から,直ちに被告の「3206.50ルミノホア」の輸入総数量を推定することはできないものというべきである。これに対し,被告提出の上記コマーシャルインボイス及びパッキングリストは,その内容,体裁等について,不自然な点は認められない。なお,原告は,貿易実務等を根拠として,各年ともに,最後の1ないし2回分の輸入に関するインボイスが提出されていないと主張しているが,この事実を具体的に裏付ける証拠はないから,原告の上記主張は採用できない。
(2) CP-05及びCP-05Bの輸入数量について 証拠(乙52の1ないし36,乙61の1ないし28)と弁論の全趣旨によると,被告提出の上記コマーシャルインボイス及びパッキングリストは,それから商品名が明らかになるものと「Luminescent Materials」としか記載されていないため,商品名が明らかにならないものがあることが認められるところ,証拠(乙83の1ないし12)によると,「Luminescent Materials」としか記載されていないものには,CP-05及びCP-05Bは含まれていないものと認められる。
そして,証拠(乙52の1ないし36,乙61の1ないし28)と弁論の全趣旨によると,上記コマーシャルインボイス及びパッキングリストからすると,被告の平成8年1月1日から平成12年9月25日までの間におけるCP-05の輸入量は8220s,CP-05Bの輸入量は3500sであると認められる。
(3) 被告提出の売上金額等に関する証拠について 証拠(乙53,乙80ないし82の各1,2,乙84)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコシート,ピカリコシルクインクに係る平成9年4月1日以降の商品別・売上明細表を提出していること,上記商品別・売上明細表は,被告によりコンピュータ管理されているデータを出力したものであるところ,当該明細表には,被告販売に係る上記各製品の販売年月日,販売数量,売上金額,製造原価,粗利益等が時系列に従って記載されていること(ただし,被告において,得意先名の記載が消去されている。),平成9年3月31日以前については,被告には,上記のようなコンピュータ管理されているデータはないため,被告は,手作業で集計した上記各製品の販売年月日,販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額等について主張していること,以上の事実が認められる。
原告は,上記商品別・売上明細表は,その体裁や内容等からして,全売上高の一部を選択して作成されたものであると主張し,この根拠として,@被告は,6s,20s包装の商品群を販売していると認められるところ,商品別・売上明細表には,これらの商品群の記載がない,A返品とそれに対応して存在すべき売上げの記録が対応しないなどと主張する。確かに,甲42号証は,平成8年5月時点で被告が作成したCP-05に係る納入仕様書であるところ,同仕様書中には「梱包容器:6sは,1sのプラスチック容器6個入りダンボール,20sは,5sアルミ袋4個入りプラスチック缶」との記載があるが,証拠(乙72)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP-05を,通常は5s又は1sの袋で販売しており,6s,20sの包装は,特殊な注文を除いて存在しないものと認められるから,上記商品別・売上明細表に6s,20sの商品群が存在しないからといって,直ちに上記商品別・売上明細表が信用できないということにはならない。また,証拠(乙73,77,79)と弁論の全趣旨によると,上記商品別・売上明細表に記載されている返品に対応する売上げが存在しないとはいえないことが認められる。そして,その他に,上記商品別・売上明細表について,特段不自然不合理な点は認められない。
証拠(乙53,84)と弁論の全趣旨によると,上記商品別・売上明細表と上記手作業による集計結果として被告が主張する販売数量の合計は,CP-05については,6104.9s,CP-05Bについては,3066sであると認められるから,被告が平成8年7月24日時点でのCP-05の在庫数量が3145.3sであったと主張していることをも考慮すると,この販売数量は,前記(2)認定の輸入数量と比較して,不自然ではない。
(4) 被告の売上金額等について ア そこで,上記商品別・売上明細表(乙53,乙80ないし82の各1,2,乙84)と上記手作業による集計結果として被告が主張する売上金額等に基づいて,被告の売上金額等を認定することとする。
証拠(乙53,乙80ないし82の各1,2,乙84)と弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(ア) CP-05の売上金額等について 平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における被告によるCP-05の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧表(1)のとおりである。
(イ) CP-05Bの売上金額等について 平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間におけるCP-05Bの販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧表(2)記載のとおりである。
(ウ) ピカリコペレットの売上金額等について 平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における「ピカリコペレット」の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧表(3)のとおりである。
(エ) ピカリコシートの売上金額等について 平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における「ピカリコシート」の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧表(4)のとおりである。
(オ) ピカリコシルクインクの売上金額等について 平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における「ピカリコシルクインク」の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧表(5)のとおりである。
(カ) 平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における上記(ア)ないし(オ)に係る売上総額,製造原価,粗利益額は,別紙売上集計表記載のとおりである。
イ 弁論の全趣旨によると,被告がCP-05及びCP-05Bを輸入し,販売するためには,関税,輸入費用,被告工場までの運送費が必要となるところ,上記ア認定の製造原価は,輸入代金額にこれらの費用として輸入代金額の10パーセントを加えたものであることが認められるが,この加算は合理的なものということができる。
ウ また,乙81号証の2(商品別・売上明細表)には,「ピカリコテープ」及び「蓄光テープ」の記載が存在するところ,甲58号証(ピカリコ商品案内)中の「■ ピカリコシート・テープ」の項に,「軟質プラスチックに,発光材料『ピカリコ』を練り込んでシート状にし,裏面に接着剤を塗布加工した光るシートです。50o幅に切断しテープ状にしたのがピカリコテープです。」という趣旨の記載が存すること,証拠(乙73,乙81の1)と弁論の全趣旨によると,商品別・売上明細表は,商品コードを入力することにより特定の商品を検索表示することができるものであるところ,被告は,「ピカリコシート」と「ピカリコテープ」ないし「蓄光テープ」を,同じ商品であるとして検索しているものと認められることからすると,「ピカリコシート」と「ピカリコテープ」及び「蓄光テープ」は同一物であると認めることができる。したがって,上記ア認定の「ピカリコシート」には,「ピカリコテープ」及び「蓄光テープ」が含まれている。
(5) その他の費用について ア 分級費用 証拠(乙85の1ないし14,乙85の17ないし22)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP-05及びCP-05Bの販売に当たって,顧客から分級(粒子を細かくすること)を求められることから,岐阜県土岐市所在の会社に対し,CP-05粉体の分級作業を依頼していたこと,その分級費用及びそのための運送費は,別紙分級費用一覧表のとおりであること(合計198万2694円),以上の事実が認められる。被告支出に係る当該費用は,CP-05及びCP-05Bを販売するに際して必要な作業により生じたものであると認められるから,CP-05及びCP-05Bの粗利益額から控除するのが相当である。CP-05とCP-05Bの控除額の割り振りは,上記(4)認定のそれぞれの総売上金額の比(1億9080万4810円対6883万6548円)によって行うこととし,CP-05について145万7039円,CP-05Bについて52万5655円を控除することとする。
イ 販売管理費及び製造管理費用 証拠(乙64ないし68の各1,2)と弁論の全趣旨によると,被告の平成8年1月1日から平成12年12月31日までの間における総売上高は,100億0323万7126円であること,上記期間における販売管理費の総額は,17億4814万0233円であること,上記期間における製造管理費用の総額は,7億2734万1015円であること,以上の事実が認められるから,被告における売上高に対する販売管理費の割合は約17.5パーセント,売上高に対する製造管理費用の割合は約7.3パーセントであると認められる。
ところで,証拠(乙64ないし68の各1,2)と弁論の全趣旨によると,被告の平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における総売上高は,81億8718万8345円であることが認められるから,CP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコシート,ピカリコシルクインクの売上総額2億8108万6408円は,上記総売上高の3.4パーセントに当たるものと認められる。そうすると,被告が,他の売上げのほかに,これらの商品の売上げをあげるために,更に上記割合による販売管理費及び製造管理費用を要したとまでは認められないが,一定の販売管理費及び製造管理費用については,これを要したものと認め,売上高に対する10パーセントの限度で,控除することとする。
ウ その他 被告は,CP-05の第二次製品については,一度加工会社に売却し,加工後のものを購入して再度ユーザーに売却するという方法をとっていることから,第二次製品については,CP-05の売上げに二重に計上されていると主張するが,二重に計上されている事実及びその額を認めるに足りる証拠はない。また,被告は,平成8年度,平成9年度は,CP-05等の売上げを拡大するために多くの営業費を投入しており,その概算額は,平成8年度が800万円,平成9年度が700万円であると主張するが,この営業費の支出を認めるに足りる証拠もない。
したがって,これらの被告の主張は採用することができない。
(6) 以上によると,上記(4)の粗利益額から上記(5)アの分級費用並びにイの販売管理費及び製造管理費用を控除した金額が,被告が得た利益の額であると認められ,その額は,次のようになる。これをもって,原告の逸失利益の額であると認める。
ア CP-05 5118万7239円 イ CP-05B 3125万2462円 ウ ピカリコペレット 64万7235円 エ ピカリコシート 133万2025円 オ ピカリコシルクインク 74万4102円 合計 8516万3063円 (7) 遅延損害金の算定 証拠(乙53,乙80ないし82の各1,2,乙84)と弁論の全趣旨によると,別紙売上集計表記載のとおり,被告が得た粗利益の額のうち,@平成8年7月25日から平成10年7月24日までの間における粗利益の合計額は,7738万7142円であり,A平成10年7月25日から平成12年9月25日までの間における粗利益の合計額は,3786万7256円であると認められる。そして,上記(6)の被告が得た利益額を上記粗利益の額によって按分すると,5718万2426円については,平成10年10月16日から,2798万0637円については,平成12年9月30日から,それぞれ年5分の割合による遅延損害金が認められることとなる。
4 結論 以上の次第で,原告の請求は主文掲記の範囲で理由があるから,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録(1)主成分がSrAl2O4結晶であり,ユウロピウムをSrに対するモル%で0.1%以上2.0%以下含有し,ジスプロシウムをSrに対するモル%で0.1%以上2.0%以下含有する蓄光性蛍光体原末(商品名ケミテックピカリコCP-05,ケミテックピカリコCP-05B)(2)品名を「ピカリコペレット」とする上記(1)記載の原末を含有する成形用樹脂材料(3)品名を「ピカリコシート」とする上記(1)記載の原末を含有するシート(4)品名を「ピカリコシルクインク」とする上記(1)記載の原末を含有するインク被告主張売上一覧表被告主張販売管理費一覧表被告主張製造原価表被告主張利益計算表売上一覧表売上集計表分級費用一覧表
裁判長裁判官 森義之
裁判官 内藤裕之
裁判官 上田洋幸