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関連審決 異議2000-73204
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術常識 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 225号 特許取消決定取消請求事件
原告 旭硝子株式会社
原告 エルナー株式会社
両名訴訟代理人弁理士 萩原亮一
同 加藤公清
同 内田明
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 稲葉和生
同 川崎健
同 小林信雄
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が異議2000-73204号事件について平成13年3月27日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、名称を「電気二重層コンデンサ」とする特許第3013047号発明(平成2年10月17日特許出願、平成11年12月17日設定登録)の特許権者である。
上記特許につき特許異議の申立てがされ、特許庁は同申立てを異議2000-73204号事件として審理した上、平成13年3月27日、「特許第3013047号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年4月18日、原告らに送達された。
2 願書に添付された明細書(甲第2号証、以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨 金属の板状もしくは網体からなるテープ状集電体の少なくとも片面にシート状の分極性電極を取付けて電極体とし、同電極体の一対をセパレータを挟んで巻回してなるコンデンサ素子を有する電気二重層コンデンサにおいて、
上記各電極体における上記集電体の幅を上記分極性電極の幅よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成するとともに、上記一方の電極体の上記リード部に対して上記他方の電極体の上記リード部を反対側に配置してなり、上記各リード部を電極引出し端子としたことを特徴とする電気二重層コンデンサ。
3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件発明が、特開昭61-26209号公報(甲第3号証、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである(注、「本件発明についての特許は、特許法29条2項の規定により拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により取り消されるべきものである」との趣旨と解される。)とした。
原告ら主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、本件発明の要旨の認定、引用例の記載を摘記した部分(決定謄本2頁1行目〜18行目)の認定、引用例における「導電体」が本件発明の「集電体」に相当するとの認定(同頁20行目〜21行目)及び引用例に「導電体を分極性電極の片側にはみ出した状態にしてリード棒との接続部として用いる」点が記載されているとの認定(同頁21行目〜22行目)は認める。
本件決定は、引用例発明の構成を誤認して、本件発明と引用例発明との一致点及び相違点の各認定を誤り(取消事由1)、その認定に係る相違点についての判断を誤り(取消事由2)、本件発明の作用効果の容易想到性についての判断を誤った(取消事由3)結果、本件発明が引用例発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り) (1) 本件決定は、引用例発明が「本件発明における『電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成し、リード部を電極引出し端子とした』構成をも備えている」(決定謄本2頁23行目〜26行目)と認定した上、この認定を前提として、本件発明と引用例発明とが、「金属の板状もしくは網体からなるテープ状集電体の少なくとも片面にシート状の分極性電極を取付けて電極体とし、同電極体の一対をセパレータを挟んで巻回してなるコンデンサ素子を有する電気二重層コンデンサにおいて、上記各電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成した電気二重層コンデンサ」(同頁26行目〜31行目)である点で一致し、「本件発明において集電体を分極性電極よりも『幅方向』に大きくしているのに対し引用例記載のもの(注、引用例発明)においては幅方向ではない点」(同頁35行目〜36行目、以下「相違点2」という。)で相違する旨認定した。
しかしながら、以下のとおり、引用例発明は、本件発明における「リード部」を形成し、リード部を電極引出し端子とする構成を備えていないから、本件決定がした引用例発明の構成についての上記認定は誤りであり、この認定を前提とする本件発明と引用例発明との一致点及び相違点2の各認定も誤りである。
(2) 本件発明の要旨に「各電極体における上記集電体の幅を上記分極性電極の幅よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成する・・・各リード部を電極引出し端子とした」と規定されているとおり、本件発明において、「リード部」とは、集電体の「幅」を分極性電極の「幅」よりも大きくして、分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた部分であって、電極引出し端子、
すなわち、外部へ電荷を取り出す機能を有する部分をいうものである。
引用例発明においては、本件発明の「集電体」に相当するアルミニウム箔状の導電体を、分極性電極より長さ方向(巻き付ける方向)に大きくして、分極性電極の長さ方向の一端からはみ出させた部分である「残りしろ部42」を形成している。しかしながら、残りしろ部42は、上記のとおり、集電体が分極性電極の長さ方向の一端からはみ出した部分であり、集電体の幅を分極性電極の幅よりも大きくして、分極性電極の幅方向の片側にはみ出した部分ではない。また、電極体の一対を巻回して円柱状とした状態において、残りしろ部42はその上下端部から軸方向にはみ出すことはないから、例えば、本件明細書(甲第2号証)の第3図に示されている容器底面のような外部端子に直接接続して、分極性電極からの電荷を取り出すことはできない。残りしろ部42から電荷を外部に取り出すためには、リード棒43のような電極引出し端子が別途必要であり、残りしろ部42自体が電極引出し端子とはなり得ない。したがって、残りしろ部42は、リード棒43を取り付けるための「取付け部」又は「接続部」とでも称すべき部分であり、本件発明における「リード部」には当たらない。
なお、被告は、引用例発明は外部端子に直接接続して分極性電極からの電荷を取り出すことはできない旨の原告らの主張は、本件発明の要旨に基づくものではなく、本件明細書(甲第2号証)の実施例の構成に基づくものである旨主張するが、上記実施例の記載において、「リード部1b」には陽極リード棒7が取り付けられているが、他方の「リード部2b」は金属ケース5の底部に接続されている(4欄18行目〜23行目)から、「リード部1b」も、金属ケースの底部のような外部端子に直接接続することができる機能を備えている部分であることに変わりはなく、原告らの上記主張は、本件発明の要旨に基づくものである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 本件決定は、本件発明と引用例発明との相違点として認定した「本件発明は『一方の電極体のリード部に対して他方の電極体のリード部を反対側に配置してなり、上記各リード部を電極引出し端子とした』のに対し、引用例に記載された発明はその構成を備えていない点」(決定謄本2頁32行目〜34行目、以下「相違点1」という。)及び上記相違点2について、「電極(電極箔)を巻回して構成するコンデンサの技術分野において、コンデンサの電極(電極箔)を、誘電体フィルムや電解液含浸紙等の誘電体から互い違いに(互いに反対方向に)幅方向にはみ出させてリード部として、そこを電極引出し端子とすることは・・・周知慣用手段である・・・してみると、本件発明は、引用例に記載された発明(注、引用例発明)において、該周知慣用手段である『電極の片側に幅方向にはみ出した状態のリード部を形成するとともに、一方の電極体のリード部に対して他方の電極体のリード部を反対側に配置してなり、上記各リード部を電極引出し端子とする』という技術を採用することにより、当業者が容易に構成し得たものである」(同3頁1行目〜14行目)との判断をし、上記周知慣用手段を示す例として、特開昭51-649号公報(甲第4号証、取消理由通知における刊行物3、以下「周知例1」という。)、実願昭49-86853号(実開昭51-15635号)のマイクロフィルム(甲第5号証、同刊行物4、以下「周知例2」という。)、特開昭54-90560号公報(甲第6号証、同刊行物5、以下「周知例3」という。)及び実願昭47-7671号(実開昭48-83343号)のマイクロフィルム(甲第7号証、同刊行物6、以下「周知例4」という。)を挙げた。
しかしながら、以下のとおり、上記相違点1及び同2についての判断は誤りである。
(2) 本件発明のコンデンサは電気二重層コンデンサであるのに対し、周知例1〜4に記載された各コンデンサは、フィルムコンデンサ(周知例1、3、4)又は電解コンデンサ(周知例1、2)である。
フィルムコンデンサは、アルミニウム等の金属箔から成る電極で、誘電体であるプラスチックフイルムを挟んだ構成であって、電解質は存在しない。また、
代表的な電解コンデンサであるアルミニウム電解コンデンサは、アルミニウム箔から成る電極の表面を陽極酸化させることによってできる酸化皮膜を誘電体とし、対向するアルミニウム箔の間に、電解液を含浸した電解紙を介在させた構成である。
これに対し、電気二重層コンデンサは、異なる2相(電極と電解液)の界面にできる電荷分布である電気二重層に電圧を加えて電荷を蓄積するもので、誘電体が明確なものとしては存在せず、その構成は、セパレータを介して対向させた一対の分極性電極と電解液とから成り、分極性電極には、表面積の大きい活性炭が用いられるのが一般的で、集電体に接している。
このように、フィルムコンデンサ又は電解コンデンサの電極は、金属箔のみから成るか、又は表面に酸化皮膜が形成された金属箔から成るのに対し、電気二重層コンデンサの電極は、集電体に接している活性炭から成る分極性電極である点で両者は電極の構成を異にしており、そのことによって、電気二重層コンデンサは、フイルムコンデンサや電解コンデンサに比べて適用電圧が極めて低いものの、
静電容量が極めて高いという性能の相違が生じ、その用途も異なるものである。
そして、上記1の(2)のとおり、本件発明における「リード部」とは、集電体の幅を分極性電極の幅よりも大きくして、分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた部分であって、電極引出し端子とした部分をいうものである。
他方、周知例1〜4には、フィルムコンデンサ又は電解コンデンサにおいて、電極を互い違いに幅方向にずらして、電極の一部をプラスチックフィルムや電解液含浸紙からはみ出させた構成が開示されているが、周知例1〜4記載の各コンデンサは、集電体及び分極性電極を有していないから、上記のはみ出させた部分は本件発明における「リード部」には当たらない。
のみならず、周知例1、2(甲第4、第5号証)に記載された電解コンデンサは、上記のとおり、アルミニウム箔から成る電極の表面に形成した酸化皮膜(酸化アルミニウム層)を誘電体とするものであるが、電解液含浸紙からはみ出させた電極部分についても、その表面から酸化アルミニウム層を除去していないから、当該はみ出させた部分は、電極の一部ではなく、電極体の一部となるものであり、周知例1、2には、電極の一部を電解液含浸紙からはみ出させた部分を形成することについては記載も示唆もされていない。
したがって、本件決定の「コンデンサの電極(電極箔)を、誘電体フィルムや電解液含浸紙等の誘電体から・・・幅方向にはみ出させてリード部と」することが周知慣用手段であるとする認定は誤りである。
(3) さらに、上記(2)のとおり、本件発明に係る電気二重層コンデンサと周知例1〜4に係るフィルムコンデンサ又は電解コンデンサとは、コンデンサとしての作動原理(誘電体の有無)、作動原理に密接に関連する電極の構成、電荷の取出し方(集電体の使用の有無)等が異なり、静電容量等の性能も異なっている。
そうすると、電気二重層コンデンサの電極の構造と電荷の引き出しに関連する上記相違点について、上記のようなコンデンサとしての根本に関わる差異を考慮せず、単に「電極(電極箔)を巻回して構成するコンデンサの技術分野」という外観的な観点のみから、フィルムコンデンサ又は電解コンデンサに関する技術を周知技術として適用することが容易であるとすることは誤りである。
また、周知例1〜4に記載されている構成は、電極をプラスチックフィルムや電解液含浸紙に対して幅方向にずらすことであって、電極自体を何らかのものに対して幅方向に大きくするという構成は開示されていない。のみならず、上記(2)のとおり、周知例1、2においては、ずらしているものは電極ではなく電極体である。
これに対し、上記相違点に係る本件発明の構成は、集電体、すなわち、電極体の構成材の一方の幅を、分極性電極、すなわち電極体の構成材の他方の幅よりも大きくすることであり、このような本件発明の構成は、周知例1〜4記載の技術から発想されるものではないのみならず、集電体の幅を、分極性電極の幅よりも大きくする際に、長さ方向に大きく形成せず、より形成の困難な幅方向に大きく形成することは容易なことではない。
したがって、本件決定の「本件発明は、引用例に記載された発明(注、引用例発明)において、該周知慣用手段である・・・技術を採用することにより、当業者が容易に構成し得たものである」との判断は誤りである。
3 取消事由3(本件発明の作用効果の認定の誤り) 本件決定は、「該構成(注、本件発明の相違点に係る構成)を採用することによって得られる作用効果も、電極引出し部のインダクタンスや抵抗の低減であり、これは引用例の記載dまたは刊行物3及び4(注、周知例1、2)に記載の課題および効果(インダクタンスや直列抵抗の低減)を参酌すれば、当業者にとって容易に想到しうる事項である」(決定謄本3頁15行目〜18行目)と判断した。
しかしながら、引用例(甲第3号証)の記載d、すなわち、本件決定が引用例の記載として認定した「d.『本件発明によれば、・・・高容量、小型、大電流放電用キャパシタが得られる。』点。(公報、第4頁左上欄第6乃至15行。)」(決定謄本2頁17行目〜18行目)は、分極性電極の表面に導電層を設け、その導電層に金属導電体(集電体)を接するようにした場合の効果の記載であって、電極(電極箔)を、誘電体や電解液含浸紙等から互い違いに(互いに反対方向に)幅方向にずらしてリードとし、そこを電極引出し端子とする構成による効果ではない。
また、周知例1(甲第4号証)には、発明の課題及び効果として、「この発明は、主として大容量のものに採用されている単端型のコンデンサにおいて、インダクタンスを減ずることを目的とする」(2頁左上欄5行目〜7行目)、「以上のようにこの発明のコンデンサは、電極箔内部並びに電極箔リードによるインダクタンスを大幅に減ずることができ、しかも単端型に構成することができるので、特に大容量のコンデンサに好適で、電解型、非電解型を問わず実施できるものである」(同頁右上欄18行目〜左下欄3行目)との各記載があるが、発明の各構成とその効果との関係が明確にされているわけではなく、フィルムコンデンサ又は電解コンデンサにおいて、電極(電極箔)を、誘電体や電解液含浸紙等から互い違いに(互いに反対方向に)幅方向にずらしてリード部とし、そこを電極引出し端子とする構成による効果が明確に記載されてはいない。
さらに、周知例2(甲第5号証)には、発明の課題及び効果につき、「本考案の一般的な目的は、高周波領域においても使用可能な電解コンデンサを提供することである。本考案の具体的な目的は、低等価直列抵抗(ESR)と低等価直列インダクタンス(ESL)を有する低インピーダンス電解コンデンサを提供することである」(2頁18行目〜3頁4行目)、「第10図は、従来の電解コンデンサと、本考案に従う電解コンデンサとのインピーダンスの周波数特性を示したもので、これにより高周波領域において本考案のものが従来品に比較して低インピーダンスを有し、従つて等価直列抵抗および等価直列インダクタンスも低くなつており、高周波特性が大幅に改良されていることがわかる」(6頁16行目〜7頁3行目)との各記載があるが、周知例1と同様、発明の各構成とその効果との関係が明確にされているわけではなく、電解コンデンサにおいて、電極(電極箔)を電解液含浸紙等から互い違いに(互いに反対方向に)幅方向にずらしてリード部とし、そこを電極引出し端子とする構成による効果が明確に記載されてはいない。
したがって、本件発明の相違点に係る構成の効果が、引用例又は周知例1、
2の記載を参酌すれば容易に想到し得るとした本件決定の上記判断は誤りである。
被告の反論
本件決定の認定及び判断は正当であり、原告ら主張の本件決定取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について 原告らは、本件決定が、引用例発明につき、「本件発明における『電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成し、リード部を電極引出し端子とした』構成をも備えている」(決定謄本2頁23行目〜26行目)と認定したことについて、本件発明の「リード部」は、集電体の幅を分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた部分であって、外部へ電荷を取り出す機能を有する部分をいうものであるのに対し、引用例発明は、集電体(導電体)が分極性電極の長さ方向の一端からはみ出しており、
当該はみ出した部分(残りしろ部42)は、電極体の一対を巻回して円柱状とした状態で、その上下端部から集電体が軸方向にはみ出すことはないから、外部端子に直接接続して、分極性電極からの電荷を取り出すことはできず、本件発明の「リード部」に相当しない旨主張する。
しかしながら、本件発明の要旨の「電極体における上記集電体の幅を上記分極性電極の幅よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部」との規定にかんがみて、リード部は大電流を取り出すものと認められ、かつ、
本件明細書(甲第2号証)の実施例においては、コンデンサ外部との接続につき、
陰極側は金属ケースと接触し、陽極側は陽極リード棒が取り付けられることが記載されている(4欄18行目〜23行目)。
これに対し、引用例発明も集電体(導電体)を分極性電極の片側にはみ出した状態にし、そこから大電流を取り出すものであって、外部との接続にはリード棒を用いるものである。
したがって、本件決定が、引用例発明の分極性電極からはみ出した状態の部分である残りしろ部42を「リード部」と認定したことに誤りはない。
なお、本件発明のリード部が集電体の幅を分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた部分であり、引用例発明のリード部が集電体(導電体)を分極性電極の長さ方向の一端からはみ出させた部分である点については、本件決定は、別途「本件発明において集電体を分極性電極よりも『幅方向』に大きくしているのに対し引用例記載のものにおいては幅方向ではない点」(決定謄本2頁35行目〜36行目)を相違点2として認定し、これについて判断を加えているものである。
さらに、原告らの、引用例発明は外部端子に直接接続して分極性電極からの電荷を取り出すことはできない旨の主張は、本件発明の要旨に「外部端子に直接接続して分極性電極からの電荷を取り出すこと」が記載されていないから、本件発明の要旨に基づくものではなく、上記実施例において、陰極側が金属ケースと接触する構成に基づくものであるが、そのように、リード部を金属の平面部分に接触させて外部に電流を取り出すことも、例えば、周知例3(甲第6号証)に記載されている(5頁右上欄12行目〜左下欄2行目、第4図)ように、従来から実施された技術であり、格別のものではない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告らは、本件発明における「リード部」が集電体の幅を分極性電極の幅よりも大きくして、分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた部分であるのに対し、周知例1〜4記載の各コンデンサは集電体及び分極性電極を有していないから、上記各コンデンサのはみ出させた部分は本件発明における「リード部」には当たらない旨主張する。
しかしながら、上記1のとおり、本件発明のはみ出させた部分と引用例発明のはみ出させた部分とは、それぞれ、そこから外部に電流を取り出すという点で共通するものであるところ、周知例1(甲第4号証の1頁右下欄16行目〜2頁左上欄1行目)、同2(甲第5号証の実用新案登録請求の範囲)、同3(甲第6号証の特許請求の範囲)及び同4(甲第7号証の実用新案登録請求の範囲)には、そこに記載された各コンデンサのはみ出させた部分から外部に電流を取り出すことが記載されており、これらのコンデンサのはみ出させた部分も、そこから外部に電流を取り出す部分であるという意味で、本件発明と同様、「リード部」と称して差し支えない部分である。
したがって、周知例1〜4記載の各コンデンサのはみ出させた部分が本件発明における「リード部」に当たらない旨の原告らの上記主張は誤りである。
(2) 原告らは、本件発明に係る電気二重層コンデンサと周知例1〜4に係るフィルムコンデンサ又は電解コンデンサとは、作動原理(誘電体の有無)、電極の構成、電荷の取出し方(集電体の使用の有無)等が異なり、静電容量等の性能も異なっているから、本件発明と引用例発明との相違点について、上記のような差異を考慮せず、「電極(電極箔)を巻回して構成するコンデンサの技術分野」という外観的な観点のみから、フィルムコンデンサ又は電解コンデンサに関する技術を周知技術として適用することが容易であるとすることは誤りである旨主張する。
しかしながら、周知例1〜4に記載された発明は、電極等を巻回して形成したコンデンサからどのようにして電流を外部に取り出すかという、コンデンサの外形に関する技術という点において、本件発明及び引用例発明と同一の技術分野に属するものであり、コンデンサの種類が本件発明及び引用例発明と異なっているとしても、互いに相容れない技術であって応用することができないというものではない。したがって、この点についての本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明の作用効果の認定の誤り)について 原告らは、引用例又は周知例1、2には、電極引出し部のインダクタンスや抵抗の低減が、電極(電極箔)を、誘電体や電解液含浸紙等から互い違いに(互いに反対方向に)幅方向にずらしてリード部とし、そこを電極引出し端子とする構成による効果として明確に記載されていないから、本件発明の相違点に係る構成の効果である電極引出し部のインダクタンスや抵抗の低減が、引用例又は周知例1、2の記載を参酌すれば容易に想到し得るとした本件決定の判断が誤りである旨主張する。
しかしながら、一般にコンデンサの接続部分をできるだけ増やす構成を採用すれば、そのことにより電流の流れが良好になって、接続部のインダクタンスや抵抗などが減少するという効果があることは、極めて自明の技術常識である。したがって、「電極を巻回して構成するコンデンサ」の場合、金属箔の側面の複数個所でリード線と接続する構成を採用することにより、一個所のみにリードを接続する場合と比較して、電流の流れが良好になり、インダクタンスや抵抗などが減少するという作用効果が得られることは自明であって、そのような構成と作用効果との相互の関係は改めて明細書に記載するまでもない事項である。
そして、周知例1(甲第4号証)には、「帯状の1対の電極箔をその間に誘電体フィルムや電解液含浸紙などの隔離層を挟んで巻回したコンデンサにあっては、
電極箔に起因するインダクタンスがかなり大きい」(1頁左下欄17行目〜右上欄1行目)との課題に対し、電解コンデンサの電極リードを複数設けた従来技術(同頁右上欄1行目〜15行目、第2図)、チューブラ型コンデンサの電極箔を互いにずらして巻回して、巻回物の両端にリードを接続する従来技術(1頁右下欄16行目〜2頁左上欄4行目、第4図)のほか、従来技術の巻回物において、さらに同軸ケーブルをリードとして用いる同周知例の特許請求の範囲に記載された発明が示されており、
同発明の作用効果として、「この発明のコンデンサは、電極箔内部並びに電極箔リードによるインダクタンスを大幅に減ずることができ」(2頁右上欄18行目〜末行)との記載がある。
また、周知例2(甲第5号証)には、「本考案の具体的な目的は、低等価直列抵抗(ESR)と低等価直列インダクタンス(ESL)を有する低インピーダンス電解コンデンサを提供することである」(3頁1行目〜4行目)、「すなわち本考案は、展開した状態で陽極箔と陰極箔とを、それらの間に挟まれる電解紙から捲回する方向に対して直角に、互いに反対方向にずらして重ね合せ、これらを捲回したのち扁平化して、両端に陽極箔および陰極箔のはみ出し部を有する扁平形素子を形成し、該扁平形素子を複数個用いそれらを整列させて積み重ね、これら複数個の扁平形素子の各陽極箔はみ出し部に接するように、また各陰極箔はみ出し部に接するように、少なくとも一対の外部電極引出線を接続し、並列形電解コンデンサを構成させることによつて、周波数特性の良い、低等価直列抵抗(ESR)と低等価直列インダクタンス(ESL)を有する低インピーダンス電解コンデンサを実現したものである」(同頁5行目〜19行目)との記載がある。
これらの記載は、電極をずらしてはみ出し部を設け、そこをリードとして、
電極引出し端子とする構成を備えることにより、インダクタンスや直列抵抗の低減という作用効果を奏する旨を記載したものであり、これらの記載から、本件発明の課題及び効果が当業者にとって容易に想到し得るものであることは明らかであるから、「該構成(注、本件発明の相違点に係る構成)を採用することによって得られる作用効果も、電極引出し部のインダクタンスや抵抗の低減であり、これは引用例の記載dまたは刊行物3及び4(注、周知例1、2)に記載の課題および効果(インダクタンスや直列抵抗の低減)を参酌すれば、当業者にとって容易に想到しうる事項である」(決定謄本3頁15行目〜18行目)とした本件決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について (1) 原告らは、本件決定が、引用例発明についてした「本件発明における『電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成し、リード部を電極引出し端子とした』構成をも備えている」(決定謄本2頁23行目〜26行目)との認定につき、本件発明の「リード部」は、集電体の幅を分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた部分であって、外部へ電荷を取り出す機能を有する部分をいうものであるのに対し、引用例発明は、集電体(導電体)が分極性電極の長さ方向の一端からはみ出しており、当該はみ出した部分である「残りしろ部42」は、電極体の一対を巻回して円柱状とした状態で、その上下端部から集電体が軸方向にはみ出すことはないから、外部端子に直接接続して、分極性電極からの電荷を取り出すことはできず、本件発明の「リード部」に相当しない旨主張し、この主張に基づいて、本件決定のした本件発明と引用例発明との一致点及び相違点2の各認定が誤りである旨主張する。
(2) 本件発明の要旨の「金属の板状もしくは網体からなるテープ状集電体の少なくとも片面にシート状の分極性電極を取付けて電極体とし」、「上記各電極体における上記集電体の幅を上記分極性電極の幅よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成する」、「上記各リード部を電極引出し端子とした」との各規定に照らして、本件発明において、集電体の少なくとも片面に分極性電極が取り付けられること、リード部は集電体が分極性電極の幅方向の片側にはみ出した部分であり、電極引出し端子、すなわち、電流取出し機能を有する部分であることが認められる。
そして、本件明細書(甲第2号証)には、本件発明の実施例につき、「例えば電極体2が陰極側であるとすると、その渦巻状に巻回されたリード部2bの端縁全面が広い接触面をもって金属ケース5の底部に接触することになる。他方、陽極側の電極体1のリード部1bには、封口部材6を貫通する電流容量の大きな陽極リード棒7が取付けられる」(4欄18行目〜23行目)との記載があり、この記載によれば、本件発明におけるリード部は、そこからの電流取出しの手段としてリード棒を用いたものも含まれることは明らかである。
他方、引用例(甲第3号証)に、「少なくとも活性短繊維をその構成材料として含む分極性電極の片方の面に導電層を有し、この導電層と箔状もしくはネット状の導電体とを隣接、接触させたもの2つをセパレータを介して前記分極性電極が相対向するようにして捲回して構成した電気二重層キャパシタ」(決定謄本2頁6行目〜9行目、なお、引用例に照らして、「活性短繊維」とあるのは「活性炭繊維」の誤記と認められる。)、「第5図で示すように、・・・活性炭素繊維布・・・の片面にプラズマ溶射法により・・・Al溶射膜40を形成した。・・・アルミニウム箔41の上にAl溶射膜40がアルミニウム箔41に接するようにして載置した。アルミニウム箔41の残りしろ部42にアルミニウム製リード棒43をかしめ44によって接続した」(同頁11行目〜15行目)との各記載があることは当事者間に争いがなく、さらに、引用例には、上記決定謄本11行目〜15行目の記載に引き続いて、「このようにしてできた電極2つをセパレータを介して第1図bのような形に組立てた」(甲第3号証3頁右上欄7行目〜9行目)との記載があることが認められ、これらの記載と引用例の第1図(b)及び第5図とによれば、引用例発明は、導電体(本件発明の「集電体」に相当することにつき当事者間に争いがない。)の片面に分極性電極を取り付けたもの(すなわち、本件発明の電極体に相当する。)における導電体を、分極性電極よりも長さ方向に大きくして分極性電極の片側にはみ出した状態である残りしろ部42を形成し、残りしろ部42から電流を取り出すものであって、その電流取出しの手段としてリード棒を用いるものであることが認められる。
そうすると、引用例発明の残りしろ部42は、リード棒を用いて電流を取り出すという機能の面において本件発明のリード部に相当し、また、その構成の面においても、電極体における集電体(導電体)を分極性電極よりも大きくしたのが集電体及び分極性電極の「幅方向」である点を除き、本件発明のリード部に相当することは明らかである。
そして、本件決定が、引用例発明が「本件発明における『電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成し、リード部を電極引出し端子とした』構成をも備えている」(決定謄本2頁23行目〜26行目)との認定に基づき、「金属の板状もしくは網体からなるテープ状集電体の少なくとも片面にシート状の分極性電極を取付けて電極体とし、同電極体の一対をセパレータを挟んで巻回してなるコンデンサ素子を有する電気二重層コンデンサにおいて、上記各電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成した電気二重層コンデンサ」(同頁26行目〜31行目)である点を本件発明と引用例発明との一致点と認定し、他方で、「本件発明において集電体を分極性電極よりも『幅方向』に大きくしているのに対し引用例記載のものにおいては幅方向ではない点」(同頁35行目〜36行目)をその相違点(相違点2)と認定したことにかんがみると、本件決定が、上記のとおり、引用例発明につき、「本件発明における『電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成し、リード部を電極引出し端子とした』構成をも備えている」と認定したのは、引用例発明の集電体を分極性電極よりも長さ方向に大きくして分極性電極の片側にはみ出した状態の部分である残りしろ部42が、上記のとおり、リード棒を用いて電流を取り出すという機能の面並びに集電体を分極性電極よりも大きくしたのが集電体及び分極性電極の「幅方向」である点を除く構成の面で、本件発明のリード部に相当するという趣旨であることが明らかであり、その認定に誤りはない。
(3) 原告らは、電極体の一対を巻回して円柱状とした状態において、残りしろ部42はその上下端部から軸方向にはみ出すことはないから、容器底面のような外部端子に直接接続して、分極性電極からの電荷を取り出すことはできず、リード棒のような電極引出し端子が別途必要であるから、残りしろ部42自体が電極引出し端子とはなり得ない旨主張する。
しかしながら、本件発明の要旨は、リード部につき、「電極引出し端子とした」と規定するものの、リード部が容器底面のような外部端子に直接接続することは規定していない。また、外部端子とリード棒を介して接続するからといって、
「電極引出し端子」に当たらないということもできないことは、上記のとおり、本件明細書の実施例の記載により、電流取出しの手段としてリード棒を用いたものも本件発明の「リード部」に含まれるものと解されることに照らして明らかである。
なお、原告らは、この点につき、さらに、上記実施例に係るリード棒7が取り付けられている「リード部1b」も、金属ケースの底部のような外部端子に直接接続することができる機能を備えている旨主張するが、リード棒を用いた場合に本件発明の「リード部」に含まれないとすれば、上記実施例における「リード部1b」は本件発明の「リード部」に含まれず、したがって、上記実施例は本件発明の実施例に当たらないことにならざるを得ないから、上記主張は採用することができない。
(4) したがって、本件決定が、引用例発明につき「本件発明における『電極体における上記集電体を上記分極性電極よりも大きくして、同分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成し、リード部を電極引出し端子とした』構成をも備えている」(決定謄本2頁23行目〜26行目)と認定した上、この認定を前提として行った本件発明と引用例発明との一致点の認定及び相違点2の認定に原告ら主張の誤りがあるとはいえない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 周知例1(甲第4号証)には、「チューブラ型コンデンサの場合、例えば第4図に示すように電極箔21及び22を互にずらせ、その間に隔離層(この場合は誘電物質フイルム)を挟んで巻回し、その巻回物の両端に露出している各電極箔にそれぞれ半田付け等によってリードを設けることが知られている」(1頁右下欄16行目〜2頁左上欄1行目)との記載があり、この記載及び第3、第4図によれば、上記コンデンサは、電極箔21及び同22を、その間に誘電物質フィルムを挟み、幅方向に互いに反対側に誘電物質フィルムからずらして重ねた上巻回し、その巻回物の両端で軸方向に露出している各電極箔、すなわち、上記のとおり、各電極箔が幅方向にずれてはみ出したまま巻回された部分から外部に電流を取り出すものであることが認められる。
次に、周知例2(甲第5号証)には、「電解コンデンサにおいて、展開した状態で陽極箔と陰極箔とを、それらの間に挟まれる電解紙から巻回する方向に対して直角に、互いに反対方向にずらして重ね合せ、これらを巻回したのち扁平化して、両端に陽極箔および陰極箔のはみ出し部を有する扁平形素子を形成し・・・これら複数個の扁平形素子の各陽極箔はみ出し部に接するように、また各陰極箔はみ出し部に接するように、少なくとも一対の外部電極引出線を接続したことを特徴とする低インピーダンス電解コンデンサ」(実用新案登録請求の範囲)との記載があり、この記載によれば、上記電解コンデンサは、陽極箔及び陰極箔を、その間に電解紙を挾み、巻回する方向に対して直角に、すなわち幅方向に互いに反対方向に電解紙からずらして重ね合わせた上巻回し、その巻回物の両端で陽極箔及び陰極箔のはみ出したまま巻回された部分から外部に電流を取り出すものであることが認められる。
また、周知例3(甲第6号証)には、「捲回型コンデンサ素子の端面に突出した金属箔電極」(特許請求の範囲)、「金属箔電極の端面を溶融一体化し、リード線引出部を形成する」(同)との各記載があり、これらの記載及び第1、第2図によれば、周知例3には、巻回型コンデンサにおいて、一対の金属箔電極の間に誘電体フィルムを挟み、幅方向に互いに反対側に誘電体フィルムからずらして重ねた上巻回し、その巻回物の両端で軸方向に露出している各金属箔電極、すなわち、
上記のとおり、各金属箔が幅方向にずれてはみ出したまま巻回された部分から外部に電流を取り出すことが記載されていると認められる。
さらに、周知例4(甲第7号証)には、「複数枚重ね合せたプラスチック・フイルムの間に電極金属箔を互いに反対側にずらせて配置し、これらを巻回して扁平状に形成し、両端縁の電極金属箔を金属板で挟み込んで圧着する・・・ことを特徴とするコンデンサ」(実用新案登録請求の範囲)との記載があり、この記載によれば、上記コンデンサは、電極金属箔を、その間にプラスチックフィルムを挟み、幅方向に互いに反対側にプラスチックフィルムからずらして重ねた上巻回し、
その巻回物の両端で軸方向に露出している各電極金属箔、すなわち、上記のとおり、各電極金属箔が幅方向にずれてはみ出したまま巻回された部分を金属板で挟み込んで圧着するものであることが認められ、かつ、当該金属板は外部に電流を取り出すために設けられるものであることは技術常識上明らかである。
周知例1〜4のこれらの記載によれば、本件の特許出願当時、陽極及び陰極用の各電極(電極箔)を、その間に誘電体フィルムや電解液含浸紙等の誘電体を挾んで重ね合わせた上巻回して構成するコンデンサにおいて、各電極を、幅方向に互い違いに(互いに反対方向に)誘電体フィルムや電解液含浸紙等からはみ出させて巻回し、各電極がはみ出したまま巻回されて巻回物の両端で軸方向に露出している部分に、外部に電流を取り出す機能、すなわち、本件発明でいう「リード部」に相当する電極引出し端子の機能を備えさせることは、周知慣用の技術であったことが明らかである。
したがって、本件決定が、「電極の片側に幅方向にはみ出した状態のリード部を形成するとともに、一方の電極体のリード部に対して他方の電極体のリード部を反対側に配置してなり、上記各リード部を電極引出し端子とする」(決定謄本3頁11行目〜13行目)ことを周知慣用技術と認定したことに誤りはない。
そして、上記のとおり、引用例発明は、集電体(導電体)の片面に分極性電極を取り付けた本件発明の電極体に相当する構成を備えており、本件発明及び引用例発明において、集電体(導電体)と分極性電極とが電気的に接続していることを考慮すれば、引用例発明に、上記周知慣用技術を適用して、上記相違点1に係る本件発明の構成(一方の電極体のリード部に対して他方の電極体のリード部を反対側に配置してなり、上記各リード部を電極引出し端子としたこと)及び同2に係る本件発明の構成(集電体を分極性電極よりも「幅方向」に大きくしていること)とすることは、当業者が容易に想到することができたものというべきである。
(2) 原告らは、本件発明における「リード部」が集電体の幅を分極性電極の幅よりも大きくして、分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた部分であるのに対し、周知例1〜4記載の各コンデンサは集電体及び分極性電極を有していないから、上記各コンデンサのはみ出させた部分は本件発明における「リード部」には当たらず、本件決定のした上記周知慣用技術の認定は誤りであると主張する。
しかしながら、周知例1〜4記載の各コンデンサにおける、各電極がはみ出したまま巻回されて巻回物の両端で軸方向に露出している部分が、本件発明でいう「リード部」に相当する機能を備えると認められることは上記のとおりであり、
本件決定がした上記周知慣用技術の認定もその趣旨であって、集電体の幅を分極性電極の幅よりも大きくして、分極性電極の幅方向の片側にはみ出させた状態の「リード部」が周知慣用技術であると認定したものではない。
なお、上記のとおり、本件決定がした本件発明と引用例発明との一致点の認定に誤りはなく、集電体を分極性電極よりも大きくして、分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成する点は、引用例発明が備える構成であるから、周知例1〜4記載の各コンデンサが集電体及び分極性電極を有していないとしても、
そのこと自体によって、引用例発明に、上記認定に係る周知慣用技術を適用して、
相違点1及び同2に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたとの判断に消長を来すものではない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(3) 原告らは、さらに、周知例1、2(甲第4、第5号証)に記載された電解コンデンサにおいては、アルミニウム箔から成る電極の表面に形成した酸化皮膜(酸化アルミニウム層)を誘電体とするところ、電解液含浸紙からはみ出させた電極部分についても、その表面から酸化アルミニウム層を除去しておらず、当該はみ出させた部分は、電極の一部ではなく、電極体の一部となるものであり、電極の一部を電解液含浸紙からはみ出させた部分を形成することについては記載も示唆もされていないから、本件決定のした上記周知慣用技術の認定は誤りであるとも主張する。
しかしながら、昭和60年10月30日株式会社総合技術出版発行の「コンデンサ最新技術と材料 '86年版」(甲第9号証)には、アルミニウム電解コンデンサの構造に関し、「アルミニウム箔の細かな凹凸の表面に,化成処理によって作られた薄い誘電体の真の対向電極として,電解液が使用されている。この電解液と外部端子とを接続する方法として,エッチング処理されたアルミニウム箔の電極が使用されている(この電極を通称マイナス電極,またはマイナス箔と呼んでいる。)。また電解液を保持する手段として電解紙が使用されている。電解紙は二つの電極の間に介在している」(71頁左欄5行目〜15行目)との記載があり、この記載によれば、電解コンデンサにおいて、アルミニウム電極箔が電解紙(電解液含浸紙)と対向していない部分は、たとえ電極箔の表面に酸化皮膜(酸化アルミニウム層)が形成されていても、電解コンデンサの作用を奏し得ないことが明らかである。そうすると、周知例1、2に記載された電解コンデンサにおいて、電解液含浸紙からはみ出させた電極部分の表面から酸化アルミニウム層が除去されていないとしても、当該部分の酸化アルミニウム層は本来不要なものであり、製造上、除去する手間を省いた等の理由で存在するにすぎないと考えられ、誘電体の機能を果たすことが意図されているものではないから、当該部分を電極の表面に誘電体が形成されたもの(原告ら主張の「電極体」)の一部と考える必要はなく、単に電極の一部としてとらえれば足りるものである。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(4) 原告らは、本件発明に係る電気二重層コンデンサと周知例1〜4に係るフィルムコンデンサ又は電解コンデンサとは、作動原理(誘電体の有無)、電極の構成、電荷の取出し方(集電体の使用の有無)、静電容量等の性能が異なっているから、本件発明と引用例発明との相違点について、上記のような差異を考慮せず、
「電極(電極箔)を巻回して構成するコンデンサの技術分野」という外観的な観点のみから、フィルムコンデンサ又は電解コンデンサに関する技術を周知技術として適用することが容易であるとすることは誤りである旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、本件発明及び引用例発明において集電体(導電体)と分極性電極とが電気的に接続していることを考慮すれば、周知例1〜4記載の各コンデンサの各電極(電極箔)を重ね合わせた上巻回して成る構成は、
本件発明及び引用例発明と同様ということができ、さらに、上記各コンデンサは、
本件発明でいう「リード部」に相当する電極引出し端子の機能を備えた電極のはみ出し部分を有するものである。また、誘電体の有無及び静電容量等の性能の相違により、周知例1〜4記載の各コンデンサにおける電極がはみ出した部分から電流を取り出す構成を引用例発明に適用できないとする技術的理由を見いだすことはできない。
したがって、周知例1〜4の記載により認められる上記周知慣用技術を引用例発明に適用するに当たり、原告らの主張する周知例1〜4記載の各コンデンサと本件発明との相違が妨げになるものではなく、原告らの上記主張は採用することができない。
(5) 原告らは、さらに、周知例1〜4に記載されている構成は、電極又は電極体をプラスチックフィルムや電解液含浸紙に対して幅方向にずらすことであるのに対し、本件発明の構成は、集電体、すなわち、電極体の構成材の一方である集電体の幅を、同構成材の他方である分極性電極幅よりも大きくすることであり、このような本件発明の構成は、周知例1〜4記載の技術から発想されるものではないとか、集電体の幅を分極性電極の幅よりも大きくする際に、長さ方向に大きく形成せず、より形成の困難な幅方向に大きく形成することは容易なことではない旨主張する。
しかしながら、例えば、折り紙等に見られるように、はみ出した部分を形成する手法として、「ずらすこと」も、「構成材の一方を他方に対して大きくすること」もともに周知の事項であることは明らかであり、そのいずれを採用するかは単なる設計的事項にすぎないというべきである。のみならず、上記のとおり、本件決定がした本件発明と引用例発明との一致点の認定に誤りはなく、電極体における集電体を分極性電極よりも大きくして、分極性電極の片側にはみ出した状態のリード部を形成する点は、引用例発明が備える構成である。本件決定は、集電体を分極性電極よりも大きくして、分極性電極の片側にはみ出す方向を「幅方向」とする点を本件発明と引用例発明との相違点(相違点2)としたものであり、したがって、
周知例1〜4記載の各コンデンサが、上記のとおり、電極を誘電体フィルムや電解液含浸紙等から幅方向にはみ出させるものである以上、そのはみ出した部分を形成する手法が「ずらすこと」であるか、「構成材の一方を他方に対して大きくすること」であるかは、上記相違点の判断に消長を来すものではない。また、周知例1、
2(甲第4、第5号証)に記載された電解コンデンサにおいて、電解液含浸紙からはみ出させた部分が、電極体の一部であることが上記相違点の判断に影響しないことも上記のとおりである。さらに、上記のとおり、「電極の片側に幅方向にはみ出した状態のリード部を形成する」周知技術を引用例発明に適用して、
本件発明の相違点2に係る構成とすることは容易であると認められる。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
3 取消事由3(本件発明の作用効果の認定の誤り)について 原告らは、引用例又は周知例1、2には、電極引出し部のインダクタンスや抵抗の低減が、電極(電極箔)を、誘電体や電解液含浸紙等から互い違いに(互いに反対方向に)幅方向にずらしてリード部とし、そこを電極引出し端子とする構成による効果として明確に記載されていないから、本件発明の相違点に係る構成の効果である電極引出し部のインダクタンスや抵抗の低減が、引用例又は周知例1、2の記載を参酌すれば容易に想到し得るとした本件決定の判断が誤りである旨主張する。
しかしながら、周知例1(甲第4号証)には、「帯状の1対の電極箔をその間に誘電体フィルムや電解液含浸紙などの隔離層を挟んで巻回したコンデンサにあつては、電極箔に起因するインダクタンスがかなり大きい。これを減ずるために・・・チューブラ型コンデンサの場合、例えば第4図に示すように電極箔21及び22を互にずらせ、その間に隔離層(この場合は誘電物質フイルム)を挟んで巻回し、その巻回物の両端に露出している各電極箔にそれぞれ半田付け等によってリードを設けることが知られているが、チューブラ型であるために比較的小容量のものにしか実施できず」(1頁左下欄18行目〜2頁左上欄3行目)との記載があり、比較的小容量のものに限られるとしながらも、電極箔を、誘電体(誘電物質フィルム)から互い違いに(互いに反対方向に)幅方向にずらしてリード部とし、そこを電極引出し端子とする構成による効果として、インダクタンスを低減し得ることが記載されている。
また、周知例2(甲第5号証)には、「本考案の具体的な目的は、低等価直列抵抗(ESR)と低等価直列インダクタンス(ESL)を有する低インピーダンス電解コンデンサを提供することである」(3頁1行目〜4行目)、「すなわち本考案は、展開した状態で陽極箔と陰極箔とを、それらの間に挟まれる電解紙から捲回する方向に対して直角に、互いに反対方向にずらして重ね合せ、これらを捲回したのち扁平化して、両端に陽極箔および陰極箔のはみ出し部を有する扁平形素子を形成し、該扁平形素子を複数個用いそれらを整列させて積み重ね、これら複数個の扁平形素子の各陽極箔はみ出し部に接するように、また各陰極箔はみ出し部に接するように、少なくとも一対の外部電極引出線を接続し、並列形電解コンデンサを構成させることによつて、周波数特性の良い、低等価直列抵抗(ESR)と低等価直列インダクタンス(ESL)を有する低インピーダンス電解コンデンサを実現したものである」(同頁5行目〜19行目)との各記載があって、電極箔(陽極箔と陰極箔)を電解液含浸紙(電解紙)から幅方向に互いに反対方向にずらしてリード部とし、そこを電極引出し端子とする構成による効果として抵抗及びインダクタンスを低減し得ることが明確に記載されている。
そうとすれば、当業者が、これらの記載を参酌することにより、本件発明の相違点に係る構成の効果である電極引出し部のインダクタンスや抵抗の低減に想到することは容易であるというべきであり、その旨の本件決定の判断に誤りはない。
4 以上のとおりであるから、原告ら主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利