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関連ワード 承継 /  パリ条約 /  特許料(維持年金) /  追納 /  設定登録 /  移転登録 /  異議申立 / 
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事件 平成 13年 (行ウ) 385号 手続却下処分取消請求事件
原告 アールエスイノベーション アクテイボラグ
訴訟代理人弁護士 神田英一
同 大川淳子
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 菊地原 正彦
同 小林進
同 宮島義直
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告が平成12年4月17日に,原告の特許第2066435号特許権に係る平成11年9月28日付け特許料納付書についてした手続却下処分を取り消す。
2 被告が平成12年4月25日に,原告の特許第2066435号特許権に係る平成11年11月16日付け特許料納付書(補充)についてした手続却下処分を取り消す。
事案の概要
原告は,原告が有していた特許権(特許第2066435号,以下「本件特許権」という。)について,特許法(以下「法」という。)112条の2が適用されるべきであり,原告のした特許料各納付手続は適法であると主張し,特許料等の納付について被告がした各却下処分の取消しを求めた。
1 争いのない事実 (1) 訴外ストックホルムス トレイド カンパニー アクテイボラグは,本件特許権について,第1年分から第3年分までの特許料を納付して,平成8年6月24日,その設定登録を得た。原告は,平成10年5月25日,本件特許権の移転登録を得た。本件特許権については,法108条2項所定の特許料の納付期限(以下「特許料納付期限」という。)を平成10年10月4日とする第4年分の特許料が不納付となったことを理由に,平成11年6月16日付けで登録の抹消がされた。
(2) 原告(当時の名称「プロコート アクティボラグ」)は,平成11年9月28日,本件特許権について,第4年分の特許料を納付する旨の特許料納付書(以下「本件納付書」という。)により,3万0300円を被告に納付した。これに対し,被告が,同年10月7日付けで,「権利消滅後の年分に係わる特許料の納付」であることを理由とする却下理由通知を発したところ,原告は,同年11月16日,第4年分の特許料についての特許料納付書(補充)(以下「本件補充納付書」という。)により,3万0300円を被告に納付した。
(3) 被告は,平成12年4月17日,前記却下理由通知の事由が解消されていないことを理由に,本件納付書について手続却下処分を行い,同月25日,本件納付書が手続却下処分になったことを理由に,本件補充納付書について手続却下処分を行った(両処分を以下「本件各却下処分」という場合がある。)。原告は,同年6月22日,本件各却下処分に対する異議申立てをしたが,被告は,平成13年9月12日,いずれもこれを棄却した。
(4) 原告と被告との間における前記(2)及び(3)の手続は,原告の代理人である弁理士Sを通じて行われた。
2 争点についての当事者の主張 (1) 訴えの利益の有無 (被告の主張) 本件訴えはいずれも訴えの利益を有しない。
ア 法112条の2第1項の規定によって特に特許権の回復が認められる期間(以下「特許権回復期間」という。)内に所定の追納がなければ,特許権は確定的に消滅する。なお,同条は,平成6年法律第116号による改正によって新たに設けられた規定である。同改正前は,第4年分以降の特許料について,納付期限経過後6か月の追納期間を徒過した場合には,事情の如何を問わず,失効した特許権の回復は認められていなかったが,いわゆるパリ条約が,料金の不納により失効した特許の回復に言及していることなどから,新たに特許権の回復に関する法112条の2が設けられた。
イ 本件についてみる。
(ア) 本件特許権について,第4年分の特許料納付期限である平成10年10月4日までに第4年分の特許料は納付されなかった。また,法112条1項所定の特許料追納期間(以下「特許料追納期間」という。)の経過する平成11年4月4日までに当該年分の特許料及び割増特許料が納付されなかった。したがって,本件特許権は,第4年分の特許料納付期限である平成10年10月4日を経過した時にさかのぼって消滅したものとみなされる。
(イ) さらに,原告は,特許権回復期間の経過する平成11年10月4日までに第4年分の特許料及び割増特許料の納付をしていない(特許料のみの納付手続は行われた。)。なお,原告が割増特許料の納付手続をしたのは,特許権回復期間を経過した後である平成11年11月16日である。
そうすると,本件特許権については,特許料追納期間が経過し,さらに特許権回復期間内に所定の特許料及び割増特許料が納付されなかったので,本件特許権は確定的に消滅した。
ウ 本件特許権が確定的に消滅している以上,たとえ本件各却下処分を取り消したとしても,本件特許権が回復される余地はないから,本件訴えは訴えの利益を欠く。
(原告の反論) 争う。
(2) 本件各却下処分の適法性 (被告の主張) ア 本件特許権については,第4年分の特許料納付期限である平成10年10月4日までに第4年の特許料が納付されなかった。また,特許料追納期間の経過する平成11年4月4日までに当該年分の特許料及び割増特許料が納付されなかった。本件特許権は,第4年分の特許料納付期限である平成10年10月4日を経過した時にさかのぼって消滅したものとみなされる。さらに,原告は,特許権回復期間の経過する平成11年10月4日までに第4年分の特許料及び割増特許料の納付をしていない。
そうすると,本件特許権については,特許料追納期間が経過し,さらに特許権回復期間内に所定の特許料及び割増特許料が納付されなかったので,本件特許権は確定的に消滅した。
イ 本件納付書による納付手続 原告は,平成11年9月28日に,特許権の回復に何ら言及しないまま,本件納付書によって,特許料のみの納付手続をした。
原告のした本件納付書による納付手続は,特許料のみの納付であり,これを法112条の2第1項の規定に基づく追納と解する余地はなく,特許権消滅後の特許料の納付であるから不適法であって補正できない。
ウ 本件補充納付書による補充納付手続 また,原告は,特許料回復期間を経過した同年11月16日に,特許権回復の手続である旨の弁明書と共に,本件補充納付書によって割増特許料の納付手続をした。
原告のした本件補充納付書による納付手続は,特許権回復期間を経過した後に納付されたものであるから,不適法であって補正することができない。
なお,原告は,本件補充納付書による納付手続には,法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があったと主張する。しかし,そもそも,同納付手続は,特許権回復期間を経過した後のものであるから,法112条の2第2項の適用の余地はなく,主張自体失当である。のみならず,本件において,我が国において,期限徒過の通知等がされないことを理由に,原告に「責めに帰することができない理由」が存在したと解することは相当でない。また,特許権の管理を代理人等に委任した場合,代理人の過誤によって期間を徒過した場合には,本人である原告に「責めに帰することができない理由」があると解することはできない。さらに,本件特許権は,原告が承継取得したものであるが,原告は,本件特許料の納付期限が経過する約6か月前既に,本件譲渡に係る移転登録申請をしているのであって,原告が本件特許の特許料の納付期限を確認することが不可能であったということはできない。
エ 本件各却下処分の適法性 以上によれば,法18条の2第1項に基づき,本件納付書及び本件補充納付書を却下した本件各却下処分に違法はない。
(原告の反論) (1) 特許権回復期間内に特許料及び割増特許料が納付されなかった事情 本件特許は,スエーデン法人であるストックホルムス トレイド カンパニー アクテイエボラグが出願し,設定登録を得た。その後,本件特許権は,同社から,訴外プロコート イノベーション アクテイボラグ(以下「プロコート イノベーション社」という。)を経由して,原告に譲渡されたが,一連の譲渡に係る移転登録は,平成10年5月25日付けで行われた。本件特許出願の復代理人であったS弁理士は,本件特許権の第4年分の特許料納付期限について,プロコート イノベーション社に特許証を送付する際に,本件特許権の第4年分の特許料納付期限は,正しくは平成10年10月4日であるにもかかわらず,誤って平成11年10月4日である旨を伝えた。さらに,S弁理士は,平成11年7月8日付けで,原告の在スウェーデン代理人に対し,本件特許権の第4年分の特許料納付期限は平成11年10月4日である旨を再度伝えた上,第4年分の特許料を納付するか否かを問い合わせ,原告から,4年分の特許料を納付する旨の指示を受けた。
同弁理士は原告を代理して,平成11年9月28日に,特許権の回復に何ら言及しないまま,本件納付書によって,特許料のみの納付手続をした。
また,同弁理士は原告を代理して,特許権回復期間を経過した同年11月16日に,特許権回復の手続である旨の弁明書と共に,本件補充納付書によって割増特許料の納付手続をした。
(2) 原告のした本件補充書による納付手続の法112条の2第1項所定の要件適合性 法112の2第1項は,原特許権者は,「追納期間内に追納できなかったことが原特許権者の責めに帰することができない理由による場合」,及び「追納できない理由が解消されてから14日(在外者にあっては2か月)以内で,追納期間の経過後6か月以内に,原特許権者が特許料及び割増特許料追納した場合」に,特許料及び割増特許料追納することができる旨を規定する。
ア 諸外国の例では,納付期限内に特許料の納付がされない場合,催促状(リマインダー)が特許権者に送付され,我が国のように催促状が送付されない国は少ない。我が国のように自己責任の名目の下で,特許権者に注意と負担を強いる制度の下では,法112条の2の「責めに帰することができない理由」について広く解されるべきである。すなわち,不可抗力のような客観的な事由がある場合のみならず,通常用いると期待される注意を尽くしたにもかかわらず期限を徒過したしたという主観的な事由のある場合も,「責めに帰することができない」場合に含まれると解すべきである。
原告は,スウェーデンに設立された小規模な企業であり,特許を専門に担当する者も部署もなく,我が国の特許法に関する知識を全く有しない。原告としては,我が国における特許料の納付期限について,S弁理士からの連絡に頼るほかなく,S弁理士から納付期限を伝えられた際,直ちにその期限までに特許料を納付するよう指示したのであるから,原告において可能な限りの注意を払ったということができる。
そうすると,本件における特許料追納期限の徒過については,法112条の2第1項に規定する「責めに帰することができない理由」があったというべきである。
特許料や割増特許料が不足していた場合,特許庁より補充指令書が送付され,法定期間経過後であっても,追納による瑕疵の補正が認められている。本件補充書による納付によって,特許料及び割増特許料の納付があり,前記納付の瑕疵は補正されたと解すべきである。
また,本件納付書による納付の後,遅滞なく補正の指示等があれば,原告は特許権回復期間内に不足分を追納することができたにもかかわらず,被告は,前記期間経過後に却下理由通知を発した。
ウ そうすると,本件においては,法112条の2第1項の期間内に,特許料及び割増特許料の納付があったとみるべきである。
(3) 以上によれば,本件納付書及び本件補充納付書による納付手続について,被告のした本件各却下処分には違法がある。
当裁判所の判断
1 法108条2項は,第4年以降の各年分の特許料を前年以前に納付すべきことを定めている。また,法112条は,特許権者は,納付期限が経過した後であつても,特許料納付期限経過後6か月以内であれば,特許料及びこれと同額の割増特許料追納することができ,特許料追納期間内に特許料及び割増特許料の納付がない場合に,その特許権は,納付期限の経過の時にさかのぼつて消滅したものとみなす旨を定めている。
さらに,法112条の2第1項は,特許料追納期間内に追納がなく,特許権が消滅したものとみなされる場合であっても,@特許料追納期間内に追納できなかったことが原特許権者の責めに帰することができない理由によること,及び,A追納できない理由が解消されてから14日(在外者にあっては2か月)以内で,特許料追納期間の経過後6か月以内に,原特許権者が特許料及び割増特許料追納したことの両要件が充たされた場合に,原特許権者において,特許料及び割増特許料追納することができる旨規定する。
2 争いない事実及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められる。
ア 本件特許権については,第4年分の特許料について,特許料納付期限内に特許料の納付がされなかった。また,特許料追納期間の経過する平成11年4月4日までに特許料及び割増特許料追納がなかった。本件特許権は,特許料納付期限である平成10年10月4日を経過した時にさかのぼって消滅したものとみなされる。さらに,原告は,法112条の2第1項が規定する特許権回復期間の経過する平成11年10月4日までに第4年分の特許料及び割増特許料の納付をしていない。そうすると,本件特許権については,特許権回復期間内に所定の特許料及び割増特許料が納付されなかったので,本件特許権の消滅については回復の余地はない。
イ 原告は,平成11年9月28日,本件納付書により,第4年の特許料の名目で3万0300円のみを納付手続をした。原告のした本件納付書による納付手続は,特許権消滅後の納付であるにもかかわらず,特許料のみの納付であるから不適法であって補正の余地はない。
ウ また,原告は,特許権回復期間を経過した同年11月16日に,特許権回復の手続である旨の弁明書と共に,本件補充納付書により,3万0300円の割増特許料の納付手続をした(本件補充納付書の提出日の欄には同年9月28日と記載されているが,乙5及び6によれば,本件補充納付書の作成日付は前記のとおり同年11月16日である。)。原告のした本件補充納付書による納付手続は,特許権回復期間を経過した後に納付されたものであるから,不適法であって補正することができない。
3 そうすると,法18条の2第1項に基づき,被告が平成12年4月17日に本件納付書及び本件補充納付書を却下した本件各却下処分に違法はない。
これに対して,原告は,原告のした本件補充納付書による補充納付手続は,法112条の2の要件を充足した適法な手続である旨主張する。しかし,法112条の2が適用されるためには,前記のとおり,@特許料追納期間内に追納できなかったことが原特許権者の責めに帰することができない理由によること,及び,A追納できない理由が解消されてから14日(在外者にあっては2か月)以内で,特許料追納期間の経過後6か月以内に,原特許権者が特許料及び割増特許料追納したことの両要件が充たされた場合であることが必要であるところ,本件補充納付書による補充納付手続は,特許権回復期間を経過した後の平成11年11月16日であるから,上記Aの要件を充足せず,不適法な手続である。
念のため付言する。特許権者が,代理人によって特許に関する手続をする場合,法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の有無については,代理人の事情をも考慮して判断すべきであるのは当然である。本件において,特許料追納期間の経過は,弁理士である代理人が特許料納付期限又は特許料追納期間を誤認したことによって生じたのであるから,特許権者の責めに帰することができない理由があると判断することはできない。
4 結語 以上のとおりであり,本件特許権については,特許料追納期間が経過し,さらに特許権回復期間内に所定の特許料及び割増特許料が納付されなかったので,本件特許権は確定的に消滅している。本件特許権が確定的に消滅している以上,たとえ本件各却下処分を取り消したとしても,本件特許権が回復される余地はないから,本件訴えは訴えの利益を欠く。主文のとおり判断する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 佐野信
裁判官 谷有恒