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関連審決 異議2000-70475
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  発明の利用 /  名義変更 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 451号 特許取消決定取消請求事件
原告 京セラ株式会社
原告 アレイエービー
原告ら訴訟代理人弁理士 高橋昌久
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 水垣親房、城所宏、山口由木、林栄二、高木進
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が異議2000-70475事件について平成12年10月6日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、名称を「画像形成装置」とする特許第2930241号の発明(平成1年11月29日出願、平成11年5月21日設定登録)の特許権者であるが、本件特許につき特許異議の申立てがあり(異議2000-70475号)、平成12年10月6日「特許第2930241号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定があり、その謄本は平成12年10月29日原告らに送達された。
なお、原告アレイ エービーの旧登録名義はオーベ ラーソン プロダクション アーバーであったが、平成12年12月22日登録名義人の表示変更登録申請があり、標記当事者の表示のとおりに名義変更があった。
2 本件発明の要旨(請求項1に係る発明 - 本件発明1) 通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段を挟んでトナー担持体と背面電極を配置するとともに、該背面電極表面に沿って記録材を移動させながら、前記通過手段を通過したトナーを記録材上に転移可能に構成した画像形成装置において、前記トナー担持体とトナー通過手段を一体化してユニット体となすとともに、該ユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成した事を特徴とする画像形成装置(請求項2に係る発明 - 本件発明2) 前記ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成した事を特徴とする請求項1記載の画像形成装置 3 決定の理由の要点 (1) 特許異議申立人は、下記の異議甲第1〜3号証、参考資料1〜2を提出し、
本件発明1は、異議甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。又は、異議甲第1号証及び異議甲第2号証に基づいて、当業者が容易にすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張し、
本件発明2は、異議甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。又は、異議甲第1号証及び異議甲第2号証に基づいて、当業者が容易にすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。又は、異議甲第1号証(異議甲第2号証)と異議甲第3号証に基づいて、当業者が容易にすることができた発明であるから、この発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。
異議甲第1号証:特表平1-503221号公報 異議甲第2号証:特開昭63-138359号公報 異議甲第3号証:特開昭63-173078号公報 参考資料1:本件出願に対応するアメリカ国出願の包袋資料 参考資料2:特許公報(USP第5036341号) (2) 本件発明1に関する特許異議の申立てについての決定の判断 (2)-1 本件発明1について 本件特許第2930241号の本件発明1は、明細書及び図面の記載からみて、
その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段を挟んでトナー担持体と背面電極を配置するとともに、該背面電極表面に沿って記録材を移動させながら、前記通過手段を通過したトナーを記録材上に転移可能に構成した画像形成装置において、前記トナー担持体とトナー通過手段を一体化してユニット体となすとともに、該ユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成した事を特徴とする画像形成装置」 (2)-2 引用刊行物の記載事項 異議審が通知した取消理由において引用した刊行物1(異議甲第1号証と同じ)には、
「電気信号から電荷潜像パターンを生成し、顔料粒子により情報キャリア上でこの潜像パターンを現像する方法において、情報キャリア(3;12)は、少なくとも一つのスクリーン状または格子状マトリックス、好ましくは電極マトリックス(4,5,6;4,61,62)と電気的に協働する状態にされ、このマトリックスは所望のパターン構成に従う制御のため、少なくとも一つの電源へのガルバノ接触によりマトリックスを通過する通路を少なくとも部分的に開閉すること、および情報キャリアに対して顔料粒子を引寄せるための電界が解放された通路を通して露出されることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「本方法により可能となる更に別の原理は、現像機1と紙3との間に電極マトリックスを設けることに基づく。編成ネットまたは多層マトリックスのいずれにできる電極マトリックス4,5は顔料粒子2に対し、透過性を有する。第10a図には、
編成ネットを有する本方法に係るデバイスが示されている。電極4および5は、各電極対間の空間よりも横断面がかなり細い。この原理によれば、紙は紙自体の導電性によりネット4,5を通して良好なブラックにする電位に帯電するか、電極マトリックス4,5を通してブラックにするのに充分な電界強度を発生するプレート電極6に紙3を例えば静電力で附着してもよい。」(第9頁左下欄第3行〜14行)、
「第13a図〜第13c図および第14a図〜第14c図は本発明をベースにした全プリントカートリッジのより実用的な設計例を示す。寿命すなわちトナー汚染の恐れが制限されたすべての部品を含む使い棄てカートリッジを提供することが市場で試みられている。カートリッジの寿命は、収納されているトナー量(通常400コピー)の寿命に等しく、ことのことはレーザプリンタおよび複写機でも同様である。」(第11頁左上欄第3行〜10行)、
「第13c図は、プリントスロットの一部を略図で示す。t1〜t8の参照符号の付いた黒色の正方形によるラインは紙上の水平ライン内のドット10bを示す。2つの隣接ドット、例えばt5およびt6は、一つのメッシュピッチを実際の紙速度で紙が移動するときに要する時間内にプリントされる。」(第11頁右上欄第5行〜10行)、
「第13a図内のカートリッジは、8メッシュ幅(S)のプリントスロット73を有する。紙3は、ローラ状のブラック化電極65によりプリントスロット73上を搬送される。紙と電極との間の隙間(C)はプリントスロット73内の側面の一つを構成するスライディングエッジにより決定される。この構成は、第13b図に示されている。」(第11頁右上欄第18行〜同頁左下欄第4行)、
が図面と共に記載されている。
また、図面第13a図〜第13b図には、現像機のコンテナーから紙3へ磁性顔料粒子を搬送するための磁石を囲むコンベアローラ63と、トナーコンテナー71と、プリントスロット73と、電極をコントローラに別々に接続するためのコネクタ74を備えた全プリントカートリッジ70の構成、及び、プリントスロット73の電極を挟んでコンベアローラ63と紙を搬送するためのローラ状のブラック化電極65が配置され、ローラ状のブラック化電極65に沿って紙3が移動する構成が図示されており、図面第13c図には、プリントスロット内で角度を付けて配置した電極の一部として、制御層4の電極8と走査層内の電極9が格子状に配置された構成が図示されている。
そして、上記記載及び図面から、顔料粒子がトナーであり、電極マトリックスを通過したトナーがローラ状のブラック化電極の表面に沿って移動する紙上にプリントされること、及び、プリントカートリッジ70がコンベアローラ63とプリントスロット73を一体に備えた構成であることは明らかであり、
加えて、刊行物1におけるプリントカートリッジ70は使い棄てのカートリッジである旨記載されていることから、プリントカートリッジ70はレーザプリンタや複写機等の画像形成装置に着脱自在である構成として理解される。
してみると、刊行物1には、
「所望のパターン構成に従う制御のため、少なくとも一つの電源へのガルバノ接触によりマトリックスを通過する通路を少なくとも部分的に開閉するプリントスロットの電極マトリックスを挟んでコンベアローラと紙を搬送するためのローラ状のブラック化電極を配置するとともに、ローラ状のブラック化電極の表面に沿って紙を移動させながら、前記プリントスロットの電極マトリックスを通過したトナーを紙上にプリントするように構成した画像形成装置において、前記コンベアローラとプリントスロットの電極マトリックスを一体化してプリントカートリッジとなすとともに、該プリントカートリッジを画像形成装置本体から着脱自在に構成した画像形成装置」が記載されていると認められる。
(2)-3 対比判断 本件発明1と刊行物1を対比すると、
刊行物1の「所望のパターン構成に従う制御のため、少なくとも一つの電源へのガルバノ接触によりマトリックスを通過する通路を少なくとも部分的に開閉するプリントスロットの電極マトリックス」、「コンベアローラ」、「紙を搬送するためのローラ状のブラック化電極」、「紙」、「トナー」、「画像形成装置」、「プリントカートリッジ」は、
各々本件発明1の「通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段」、「トナー担持体」、「背面電極」、「記録材」、「トナー」、「画像形成装置」、「ユニット体」に相当することは明らかであるから、
両者は、表現は相違するが、
「通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段を挟んでトナー担持体と背面電極を配置するとともに、該背面電極表面に沿って記録材を移動させながら、前記通過手段を通過したトナーを記録材上に転移可能に構成した画像形成装置において、前記トナー担持体とトナー通過手段を一体化してユニット体となすとともに、該ユニット体を装置本体から着脱自在に構成した画像形成装置」の点で一致しており、以下の点で相違している。
(相違点1) 本件発明1が、ユニット体を装置本体から着脱自在とする方向に関し、「背面電極から接離する方向に」を構成としているのに対し、
刊行物1の図面13a図には、プリントカートリッジ70の上面に、プリントスロット73から上流側に向かう矢印が表示されているが、刊行物1には、プリントカートリッジ70がローラ状のブラック化電極65に対し、どのような方向で着脱されるのかは明示されていない。
そこで、上記相違点1について検討すると、
異議審が通知した取消理由において引用した刊行物2(異議甲第2号証と同じ)には、「支持構造本体と、ユニット枠及び該ユニット枠に装着された静電写真感光体を含み、該ユニット枠は該支持構造本体に着脱自在に装着されているプロセスユニットと、を具備する画像生成機において;・・中略・・該プロセスユニットは、
該補助支持枠体を該開位置にせしめることによって形成される該支持構造本体の上面開口を通して該支持構造本体に装着及びこれから離脱される、ことを特徴とする画像生成機。」(特許請求の範囲第1項)、
「原稿からの反射光は光学系46及びユニット枠18の上壁48に形成された露光開口50を通して、露光域52において回転ドラム20の周表面に投射される。ハウジング2の略中央下部には、転写用コロナ放電器54及びこれに隣接してその下流側に位置する剥離用除電器56が配設されている。」(第3頁左下欄第9行〜15行)、
「複写紙搬送系64において複写紙の紙詰りが発生した場合には、上部支持枠体6を第1図に示す閉位置から第2図に示す開位置にせしめる。・・中略・・上部支持枠体6と一体にプロセスユニット16も移動される故に、第2図に示す通り、複写紙搬送系64における複写紙搬送経路の少なくとも大部分が開放され、従って複写紙搬送経路において紙詰りした複写紙を充分容易に除去することができる。」(第6頁左上欄第1行〜17行)、
「プロセスユニット16の離脱の際には、操作者は把持部材146を把持して上方に持上げる故に、プロセスユニット16を不注意に落とすことは著るしく少なくなる。また、かかる離脱の際はプロセスユニット16を上方に持上げる故に、ユニット枠18の底壁22の開口24を通して幾分突出している回転ドラム20の下部に操作者の指、或いは異物が接触する機会が少なく、離脱時の不注意による感光体の損傷も少なくなる。」(第7頁左上欄第4行〜13行)、
が図面と共に記載されており、
上記刊行物2の記載からは、プロセスユニット16を、複写紙の搬送面に対し接離する方向に移動することにより複写紙搬送経路において紙詰りした複写紙を容易に除去する技術と共に、プロセスユニット16を、その下部にある転写用コロナ放電器から接離する上下方向に着脱自在とすることにより、プロセスユニット16の下部から突出している感光体の損傷を防止する技術が把握される。
そして、本件発明1におけるトナー通過手段は、記録材を介して背面電極と対向配置される点で刊行物2の感光体と類似するものであり、上記相違点1である「背面電極から接離する方向に」の構成の技術的意義も、刊行物2とプロセスユニット移動方向の技術的意義と類似するものであるから、
刊行物1に刊行物2を適用することにより上記相違点1の構成を想到することに何ら困難性は認められない。
(3) 本件発明2に関する特許異議の申立てについての決定の判断 (3)-1 本件発明2について 特許第2930241号の本件発明2は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された次のとおりのものである。
「前記ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成した事を特徴とする請求項1記載の画像形成装置」 そして、本件発明2は、上記本件発明1に「ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成した」点を付加するものである。
(3)-2 本件発明2と刊行物1を対比すると、
両者は、本件発明1との相違点1に加え、「ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成した」点(相違点2)で、更に相違している。
そして、相違点1が、刊行物2から容易に想到できることは上記(2)-3で記載したとおりである。
(3)-3 相違点2について検討すると、
異議審が通知した取消理由において引用した刊行物3(異議甲第3号証と同じ)には、「電子写真記録装置の転写帯電器の一部を感光ドラムに突き当てることにより感光体面と常に一定の距離を保つ機構を含むことを特徴とする転写部。」(特許請求の範囲)、
「本発明の転写帯電部は感光ドラムに突き当てる為のスプリングと感光体面に正しく突き当たる様にガイドする為のシャフト部とシャフト部をスライドするガイドブロック及び感光ドラムに突き当てになっているローラ部を有している。」(第1頁右下欄第5行〜9行)、
「以上説明したように本発明は転写帯電器の一部を感光ドラムに突き当てることにより感光体面と転写帯電器の距離が一定に保たれ感光ドラム及び装置間のばらつきにより生じる濃度むらをおさえることができる効果がある。」(第1頁右下欄第19行〜第2頁左上欄第3行)、
が図面と共に記載されており、
刊行物3からは、感光ドラムと転写帯電器間を位置規制手段であるローラ部を介してスプリングにより弾性的に位置保持可能に構成する技術が把握される。
そして、感光ドラムをプロセスユニット化することが刊行物2に記載のように一般的な技術であることを考慮すると、刊行物3には、プロセスユニットと転写帯電器間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成する技術が示唆されており、
刊行物1に刊行物3を適用することにより、上記相違点2の構成を想到することに何ら困難性は認められない。
(4) 決定のむすび 以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1,2に基づいて、本件発明2は刊行物1〜3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、いずれの発明も特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1ないし2に係る発明についての特許は、いずれも特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
原告ら主張の決定取消事由
1 本件発明1及び2の要旨 本件発明1は、本件特許公報(甲第2号証)に記載のとおりであるが、その構成を分けて説明すると、
@ 通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段を挟んでトナー担持体と背面電極を配置するとともに、該背面電極表面に沿って記録材を移動させながら、前記通過手段を通過したトナーを記録材上に転移可能に構成したいわゆるトナージェット方式の画像形成装置において、
A 前記トナー担持体とトナー通過手段を一体化してユニット化となす、より具体的には通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段(以下「制御電極」という。)とトナー担持体が一体的にユニット化した点、
B 該ユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成した点、
を特徴とする画像形成装置にあることは明瞭である。 また、本件発明2は、本件発明1において C 前記ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成した点、
を要旨とするものである。
2 取消事由1(本件発明1についての対比判断の誤り) (1) 構成要件Aは刊行物1に開示されているという決定の事実認定の誤り 通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段、
すなわち制御電極は水平電極と垂直電極を升目状に交差して、その交差部にトナー通過空孔が形成されるのである。したがって、トナー通過空孔を形成するトナー通過手段とトナー担持体が一体的にユニット化したとは、水平電極と垂直電極の両方が一体的にトナー担持体にユニット化されていることをいう。
刊行物1の第11頁左上欄の第12行〜18行には、「すなわちカートリッジ内には電子回路及びドライバーICを入れることは勧められない。このことは、各電極はプリンタ内のコントローラのインタフェースに別々に接続しなければならないことを意味する。・・・各カートリッジ内の電極数、すなわちピン数を最小にすることが好ましい。」と記述されており、また第11頁右上欄の第11行〜13行には「本例13cではプリントスロットは8ドット幅で、垂直電極数を8に低減している。」と記載されており、更に第11頁右上欄の第16行〜17行には「第13c図に示した電極の構成を用いると、全電極数は217まで低減される。」と記載されている。
このことは、プリントスロット、すなわち電子回路及びドライバーICを入れることは認められないカートリッジ側に位置する垂直電極数は8のみであり、残余の217の電極は電子回路やドライバーICを有するカートリッジ外のプリンタ本体側にあることを意味している。より具体的には、カートリッジ内には8極の垂直電極のみがあることを意味し、217の他の制御電極はカートリッジとは別に位置していることが示唆されていることを意味する。
このことは、第14c図を見れば一層理解される。すなわち、刊行物1の第11頁左上欄の第3行〜5行に、「第13a図〜第13c図および第14a図〜第14c図は、本発明をベースにした全プリントカートリッジのより実用的な設計例を示す。」と記述されており、第14a図〜第14c図には第13a図〜第13c図と同様な構成のプリントカートリッジが開示されている。そして刊行物1の第11頁左下欄の第7行〜8行に「第14a図〜第14c図は、現像機のローラ63に一体化された同心状電極9′による解決案を示す。」と記述され、第14c図の左図の記載から明らかなように、カートリッジ内に組み込まれているのは同心状電極9′のみであって、他の水平電極8などの制御電極のほとんどは組み込まれていない。
すなわち、カートリッジ内に同心リング状の垂直電極のみが存在するが、水平電極等の制御電極は少なくともカートリッジとは一体化されておらず、別に位置していることが第14c図の拡大図から示唆される。したがって、刊行物1にはカートリッジ内に制御電極の一部(垂直電極)のみが存在するのみで、本件発明のように、
水平電極と垂直電極の両方が一体的にトナー担持体にユニット化されている事実は存在しない。
決定は第13図cの説明を行っているが、第13図bの断面図を見れば、カートリッジ70の断面構成には垂直電極9は開示されているものの、水平電極8は開示されていない。このことからも、カートリッジ70に水平電極8が一体的にユニット化されているとの決定の認定は正鵠を射ていないことが明らかである。
(2) 構成要件Bの「該ユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成した点」が刊行物1と刊行物2の組合せから容易だとする点の誤り 構成要件Bは、インクジェット方式における制御電極と現像ローラとを一体化したユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成したことである。言い換えれば制御電極を組み込んだ現像ローラユニットが背面電極から接離方向に着脱されるのであって、あくまでも現像ローラと背面電極の問題であり、
特に現像ローラはメッシュ状の制御電極に包被されているために、現像ローラの傷つきのおそれがない。
ところが、刊行物2に記載されているのは、感光体ドラムに静電潜像を担持するカールソン方式であって、一体化したユニットは静電潜像を担持する感光体ドラムユニットと転写器との間が離間されるのであって、このような構成では、前記抜出の際に感光体ドラムの背面電極側周面が露出し、OPCのような軟質な感光体ドラムの周面を傷つけてしまうという欠点がある。しかも刊行物2はカールソン方式である以上、感光体ドラムに転写器が直接対面する構成であり、また刊行物2は感光体ドラムという中間像形成体の存在が前提となるが、本件発明1にはこれに対応するものはなく、言い換えれば背面電極も制御電極も存在せず画像形成の仕方が異なり、ジャム状態にある記録材が制御電極との摺擦により制御電極を損傷させることがない。また前記ユニット体の抜出により制御電極が直接露出するために、その空孔の目詰まりも簡単に除去し得るという本件発明1の特有の効果は、トナー層が厚肉に担持している現像ローラとメッシュ状制御電極の組合せの場合に初めて必要な効果である。
被告は、乙第1号証(特開昭63-89369号公報)、乙第2号証(特開昭63-244059号公報)及び乙第3号証(実願昭60-101557号(実開昭62-9266号)のマイクロフイルム)で、記録紙の搬送経路上でジャムが生じることは周知であり、また乙第2、3号証で、記録紙がジャムを起こしたときに記録紙を容易に取り出すことは周知であり、したがって、刊行物1の画像形成装置も制御電極と背面電極の間を通過する搬送系を有するものであるから、記録紙のジャムに対する対策は当然に考慮すべき事項であるとしている。
しかしながら既に説明したように、カールソン方式においても感光体を含むプロセスユニットをジャム処理のために着脱自在にした技術はあるが、かかる技術には、感光体を含むプロセスユニットを、転写用コロナ放電器から接離する方向に脱着させる技術と、感光体ドラムと現像器が一体のカートリッジユニットで感光体軸方向に脱着させる技術が存在し、感光体軸と平行に前記ユニットを手前に引き抜いて脱着させる前開き方式が圧倒的に多いことは、当業者にとって周知である。したがって、トナージェットという異なる技術で、本件発明1の構成要素Bの「制御電極を含むユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成」した技術を選択することが容易であるという主張は当たらない。
しかも乙第1ないし第3号証においても、本件発明の構成要素Bの「制御電極を含むユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成」した技術ではない。
乙第1号証に記載されている画像形成装置は電子写真式プリンタ及び静電プリンタ装置であり、乙第2号証に記載されている画像形成装置は、複写機やLBP等の電子写真方式及びインクジェットタイプのノンインパクトプリンタであり、乙第3号証に記載されている画像形成装置は液晶プリンタ・静電プリンタ・LEDプリンタ・LBPである。本件のトナージェットプリンタについての開示はない。一般に記録紙搬送系について、ジャムが一つの課題になり得ることを否定するものではないが、このことをもって一律に論じることはできない。ジャムの問題は、画像形成手段が異なれば、個々に検討が必要な課題である。トナージェット方式のプリンタについては、本件出願当時には画像形成手段そのものの研究開発に着手された段階にあり、いかに画像形成を行うかという点が最大の課題であった。
(3) 刊行物1と刊行物2に基づいて容易に想到され、進歩性のない発明であるとする点の誤り 本件発明1は、異なる技術分野であってその作用も異なる刊行物2と、構成要件Aのユニットや構成要件Bが開示も示唆もされていない刊行物1との組合せでは容易に想到できず、本件発明1は十分進歩性を有する発明といえる。
本件発明1は、その構成要素@において、「通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段」と記載されているように、電子画像情報により制御電極を通電制御しながら、画像形成を行ういわゆるプリンタであるのに対し、刊行物2及び刊行物3(甲第4号証の4)は、いずれも原稿を反射して形成されるアナログ光像に基づいて感光体上に潜像を形成する複写機に関するものであり、国際特許分類においてB41(プリンタ)とG03(複写機)で技術分類が異なる。
感光体を用いたいわゆるカールソン方式(電子写真方式)において、アナログ光像方式の複写機の技術を電子画像情報により感光体上に潜像を形成するプリンタに転用することが本件出願時に当業者に周知な事項であるにしても、本件発明1は、
いわゆる感光体を用いないトナージェット方式であり、トナージェット方式では、
電子画像情報により通電制御する制御電極を必須の構成要件とするものであり、プリンタ以外には適用できないので、異なる技術分野でかつ異なる技術方式のカールソン方式(電子写真方式)の複写機を用いて本件発明1の進歩性を否定する論理には飛躍がある。
3 取消事由2(本件発明2についての対比判断の誤り) (1) 刊行物3(甲第4号証の4)に、「感光ドラムと転写帯電器間を位置規制手段であるローラ部を介してスプリングにより弾性的に位置保持可能に構成する技術」が開示されている事実は認めるが、かかる技術から本件発明2の構成要件Cが容易に想到可能とした決定の判断は誤りである。
本件発明2は、ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成したものである。しかしながら、刊行物3はユニット体ではなく、単に感光体ドラムと転写帯電器間が位置規制されるものである。言い換えれば、本件発明2は制御電極と現像ローラはユニット体により間隔固定されており、更に制御電極と現像ローラとを一体化したユニット体を背面電極との間で位置規制することにより3つの要素(制御電極、現像ローラ、背面電極)が関連付けられて、精度よく位置規制されるのである。このように、3つの要素を、ユニットと弾性的な位置規制手段という要素により効果的に位置規制するという発想は、刊行物3において開示も示唆もされていない。
決定は、「感光体ドラムをプロセスユニット化することが刊行物2に記載のように一般的な技術であることを考慮すると」と説示しているが、いわゆる感光体ドラムを用いたカールソン方式の技術分野では、感光体ドラム回りをユニット化することが周知であるにしても、トナージェット方式ではそのようなものは存在しない。
刊行物3においては、カールソン方式の感光体ドラムの位置決めを行っているが、
本件発明は現像ローラの外側に位置するメッシュ状の制御電極を一体化することにより初めて位置決め可能なユニット体ができるのであって、制御電極のみでは柔らかくて位置決めできず、また現像ローラのみでもトナーがこぼれて位置決めが不可能である。すなわちユニット化することにより初めて位置決め可能な状態になる。
したがって、刊行物1ないし3をどのように組み合わせても本件発明2の構成は想到し得ない。
(2) 被告は、刊行物1には、「スロットSおよび電極から制御された距離にて・・・紙3をその包絡面に固定する。」と記載され、また制御電極と背面電極間を所定間隔とすることは、乙第4号証(特開昭61-2166号公報)及び乙第5号証(特開昭63-123060号公報)に記載され、したがって、制御電極と背面電極との間を所定の間隔に保持しなければならないこと、そのためには、プリントカートリッジと背面電極との間の位置規制を行う必要があることは明らかであると主張している。
乙第4号証と乙第5号証に記載されているのが、本件発明と同一のトナージェット方式の技術分野のものであることは認める。しかしながら、そこには、制御電極と背面電極との間を所定の間隔に保持する手段と、制御電極側がユニット体である技術のいずれも開示ないし示唆がない。すなわち、乙第4号証第4頁右下欄第15行〜21行に、「背面電極61とベース電極55の間隔t3 は、通常100μm〜10mmの範囲とされるが、ここでは300μmに設定された」と「間隔の数値」が単に記載されているだけで、対応する図面の第8図からも明らかなように、背面電極61とベース電極55の間隔t3 を規制する固定部材や間隔規制部材は何ら開示も示唆もされておらず、両電極は単に空中に位置しているのみである。しかも、
100μm〜10mmの範囲という、機械技術者にとっては許容範囲が極めて広い範囲の中を通常といっている以上、「300μmに設定」するというのは単なる任意寸法であって、位置精度を要求する寸法指定ではない。位置精度の向上を図るために、「制御電極とトナー担持体を一体的にユニット化する」という発想は出てこない。
乙第4号証に用いられている記録紙は、カット紙(ページ紙)ではなく、背面電極61として機能するローラ周面に支持されたロール紙(連続紙)である。連続紙では、カット紙のように記録紙始端が搬送系にぶつかってジャムすることはなく、
ジャムという発想すら生じ得ない。ジャム防止やジャム処理のために位置精度を要求する寸法指定という発想はもともと生じないのであり、したがって「制御電極と背面電極との間を(ジャム処理のために)所定の間隔に保持しなければならない」ということは考える必要がない。
このことは、乙第5号証についても同様である。乙第5号証第5頁右下欄第3行〜5行には、「紙シートは、印字ヘッドとシートの間を通過するとき、0.005〜0.030インチ程度の距離だけ印字ヘッド14から離れている。」との記載があるとおり、0.2〜7.5ミリという広い範囲の許容差を持たせている。しかも乙第5号証に用いられている記録紙も、カット紙(ページ紙)ではなく、背面電極16として機能する弧状周面に支持されたロール紙(連続紙)である。このためジャムという発想すら生じず、したがって、ジャム防止やジャム処理のために位置精度を要求する寸法指定という発想はもともと生じない。
決定取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(本件発明1についての対比判断の誤り)に対して (1) 刊行物1の制御電極は制御層の電極8と走査層の電極9とがマトリックス状に配置され、両者が共同してドット位置を指定するものであることは、発明の詳細な説明の記載から明らかである。原告らは、カートリッジ側に位置する垂直電極数は8のみであり、残余の217の電極はカートリッジ外のプリンタ本体側にあることを意味しており、より具体的にはカートリッジ内には8極の垂直電極のみがあることを意味し、217の他の制御電極はカートリッジとは別に位置していることが示唆されていると述べているが、これは刊行物1の内容を誤って理解したものである。
原告らは、第13図bの断面図を見ればカートリッジ70の断面構成には垂直電極9は開示されているが、水平電極8は開示されておらず、このことからも、カートリッジ70に水平電極8が一体的にユニット化されているとの決定の認定は正鵠を射ていないと主張する。
確かに、第13図bには、コンベアローラ63と記録紙3との間には、プリントカートリッジ側とプリンタ本体側とにかかわらず制御層の電極8に相当するものは示されていない。しかし、示されていないことは、存在しないことを示しているのではなく、単に図示を省略されているものとして理解するのが妥当である。このことは、刊行物1の第6頁左下欄第10行〜16行の記載「第13a図は、本発明に係る全プリントカートリッジを示す。第13b図は、第13a図中のカートリッジの横断面を示す。このプリントスロットは細部を示すため拡大してある。第13c図は、プリントスロット内で角度を付けて配置した電極の一部を略図で示す。」及び第6頁右下欄第8行〜第7頁右下欄第3行の記載「3 情報キャリア、例えば紙・・・ 4 制御層と称される、現像機に最も隣接する電極層 5 走査層と称される、現像機から見た制御層の後方に位置する電極層 6 現像機からみた走査層の後方に位置するプレート電極 ・・・ 8 制御層4の電極 ・・・ 9 走査層内の電極 ・・・ 63 現像機のコンテナーから紙3へ磁性顔料粒子を搬送するための磁石を囲むコンベアローラ ・・・ 65 紙を搬送するための導電性装置 ・・・ 70 全プリントカートリッジ 71 トナーコンテナー 73 プリントスロット 74 電極をコントローラに別々に接続するためのコネクタ」から理解される。
すなわち、上記記載から、第13a〜c図で示されるプリントカートリッジ70のプリントスロット周辺の構成は、現像機として作用するコンベアローラ63を最下部として、その上部に下から順に、現像機に最も隣接する電極層である制御層4の電極8、現像機から見た制御層の後方に位置する電極層である走査層5の電極9、紙3、そして最上部に、紙を搬送するための導電性装置で構成されるローラ状のブラック化電極65、の順に配置されていることが把握される。
そして、第13c図の電極がプリントスロット73内に配置されていることが記載されており、第13b図にはコンベアローラ63と走査層の電極9がプリントカートリッジ内に設けられていることが図示されていることから、コンベアローラ63と走査層5の電極9との間に配置されている制御層4の電極8も当然プリントカートリッジ内に配置されているものとして理解すべきである。
よって、刊行物1には「前記コンベアローラとプリントスロットの電極マトリックスを一体化してプリントカートリッジとなす」の構成が記載されており、前記電極マトリックスは制御層の電極8と走査層の電極9とを有するものであるから、本件発明のトナー通過手段に相当し、前記構成が、本件発明の「前記トナー担持体とトナー通過手段を一体化してユニット体となす」の構成と一致するものとした決定の認定に、原告ら主張の誤りはない。
(2) 原告らは、構成要件B「該ユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成した点」が刊行物1と2の組合せから容易だとする点が、決定の判断の誤りである旨主張している。
本件発明1において、「ユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在とした」ことについて、本件明細書には、「本基本技術は・・・トナー担持体1と背面電極2間の狭小空隙(例えば数百μm)内に制御電極3を配し、而も該制御電極3と非接触の状態で背面電極に沿って記録紙を搬送する構成を取るために、該画像形成部位でジャム等が生ずる危険性が極めて高い。而も一旦ジャムったものを前記微小スリット空隙の入口側若しくは出口側より引出そうとすると、前記制御電極が薄層若しくはメッシュ状に形成されている為に、該制御電極を破損してしまう恐れもある。」(第2頁右欄第41行〜49行)、「本発明はかかる基本技術の技術的課題に鑑み、メインテナンスの容易化を図った画像形成装置を提供する事を目的とする。」(第3頁左欄第6行〜8行)と記載されており、その目的は、
背面電極と制御電極間を通過する記録紙がジャムを起こしたときに、記録紙を容易に取り出すことができ、その際電極を傷つけることがなく、メンテナンスが容易な画像形成装置を提供する点にあると認められる。
一方、記録紙の搬送系を有する画像形成装置においては、画像形成手段がどのようなものであるかによらず、記録紙の搬送経路上でジャム(紙詰まり)を生じる恐れがあることは周知であり(乙第1号証、乙第2号証及び乙第3号証)、記録紙がジャムを起こしたときに記録紙を容易に取り出すことができるようにすることも周知である(乙第2号証、乙第3号証)。そして、記録紙のジャムに対する対策を講ずる必要のあることは、記録紙の搬送系を有する画像形成装置に共通する認識であると理解される。それ故、刊行物1の画像形成装置も、トナー通過手段と背面電極の間を記録材が通過する搬送系を有するものであるから、記録紙のジャムに対する対策は当然に考慮すべき事項であるといえる。そのとき、ジャム処理に際して他の部分に損傷を与えないようにすることはいうまでもない。
一方、刊行物2からは、プロセスユニット16を、複写紙の搬送面に対し接離する方向に移動することにより複写紙搬送経路において紙詰まりした複写紙を容易に除去する技術と共に、プロセスユニット16を、その下部にある転写用コロナ放電器から接離する上下方向に着脱自在とすることにより、プロセスユニット16の下部から突出している感光体の損傷を防止する技術が把握される。
そして、刊行物1の画像形成装置と刊行物2の画像生成機は、画像形成原理は異なるものの、記録紙の搬送経路の片側に、画像形成手段の一部であるユニット体(刊行物1ではプリントカートリッジ、刊行物2ではプロセスユニット)を着脱自在に配置する構成を有する点で共通するものであり、刊行物1の画像形成装置において、記録紙のジャムに対する対策として、刊行物2の技術を適用し、プリントカートリッジを記録紙の搬送面から接離する方向、すなわち背面電極から接離する方向に着脱自在とするのに、困難性はない。
原告らは、本件発明1では現像ローラの露出面には、制御電極が包被されており、現像ローラを傷つけることもなく、ユニット体の抜出により制御電極が直接露出するために、その空孔の目詰まりも簡単に除去し得ると主張するが、刊行物1のプリントカートリッジは「現像ローラの露出面には、制御電極が包被されて」いるものであり、原告ら主張の効果は、刊行物1の着脱自在なプリントカートリッジが、着脱方向にかかわらず本来的に有しているものであって、格別のものではない。
(3) 原告らは、刊行物1と刊行物2に基づいて容易に想到され、進歩性のない発明であるとする点が、決定の判断の誤りである旨主張するとともに、その具体的内容として、刊行物2は制御電極も背面電極も有さない異なる技術分野の画像形成装置である旨主張している。しかしながら、刊行物1に刊行物2を適用することは、
刊行物2の発明の構成をそのまま刊行物1の発明の構成として用いることを意味するものではなく、刊行物2に開示されたプロセスユニットを装置本体に着脱する技術を刊行物1におけるプリントカートリッジを装置本体に着脱する技術として適用することを述べたものであって、両者の技術的共通性については、前で述べたとおりである。
原告らは、本件発明がプリンタの技術分野に属するのに対し、刊行物2及び刊行物3はいずれも複写機の技術分野に属するものであって、プリンタと複写機とは技術分類も異なり、異なる技術分野のものであり、特に、感光体を用いない方式のプリンタと感光体を用いた複写機とは技術的に互いに適用できるものではない旨を主張している。
一般的に、画像形成装置は搬送されてくる記録紙上に画像を形成する装置を総称したものであって、その際に画像の形成手段の相違(インクジェット式、トナージェット式、カールソン式等)、あるいはその用途(プリンタ、ファクシミリ、複写機等)によって種々のタイプに区別されている。しかし、それぞれのタイプによって画像形成手段は異なるとしても、給紙部と排紙部の間の記録紙の搬送路に隣接して画像形成部を設けるという装置の基本的構成は共通しており、記録紙の搬送手段等は多くの場合に共通した技術が用いられている。したがって、刊行物1のトナージェット式のプリンタも、刊行物2及び刊行物3の複写機も画像形成装置としての共通の技術分野に属するものであり、技術分野が相違することから、それぞれの技術を相互に適用することができないということはできない。このことは、本件特許公報に、国際特許分類として、プリンタの分類(B41J)と複写機の分類(G03G)とが共に記載されており、また、刊行物1にも前記両分類が記載されていることからも理解できる。
具体的な例として、乙第1号証及び乙第2号証には、画像形成装置におけるジャムに対する対策等のメンテナンスの技術が、感光体ドラムを用いたカールソン方式の画像形成装置に限らず、静電プリンタ装置又は感光体ドラムを用いないインクジェットタイプのノンインパクトプリンタにも適用できることが記載されている。このことからも、感光体ドラムを用いた複写機とその他のタイプのプリンタとは画像形成そのものの技術以外の周辺の技術、例えば搬送系の技術等においては互いに適用できるものであるということができる。
したがって、刊行物1に記載されたトナージェット方式と感光体ドラムを用いた複写機とは画像形成そのものの技術は異なっているが、着脱自在の画像形成部と記録紙搬送系との技術等、においては互いに適用できるものであることが理解される。
2 取消事由2(本件発明2についての対比判断の誤り)に対して 前述のとおり、刊行物1のプリントカートリッジはトナージェット方式において制御電極とコンベアローラ(「現像ローラ」に相当)とを一体化したものであり、
制御電極と現像ローラとの間の位置規制が既になされていることは明らかであって、この点では本件発明2のユニット体と変わるところはない。してみると、刊行物1のものと本件発明2との相違点は、本件発明1との間の相違点1に加え、「ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成した」点(相違点2)である。
そして、決定では、刊行物1のプリントカートリッジと背面電極との位置規制の技術として、刊行物3の感光ドラムと転写帯電器間の位置規制の技術を用いることによって前記相違点2の構成を容易に想到できることを説示したものである。
補足説明すると、刊行物3は、感光ドラムと転写帯電器との間に記録紙を通過させると共に記録紙上に画像を形成するものであって、記録紙の安定的な通過と画像形成を良好に行うために、感光ドラムと転写帯電器の間の位置規制を行うものである。一方、刊行物1は、プリントカートリッジと背面電極との間に記録紙を通過させると共に記録紙上に画像を形成するものである。ここで、トナージェット方式の画像形成装置において、背面電極は、制御電極との間に電界を形成して、トナーを背面電極の表面の記録紙等に付着させるものであるから、安定した画像を形成するためには、制御電極と、背面電極又はその表面の記録紙との間隔は一定であることが必要であり、刊行物1には「スロットSおよび電極から制御された距離にて、・・・紙をステップ状に移動し、・・・電極の電位を制御すると、このとき一つのスクリーンドット列を現像できる。よって、電極は紙3の後方(現像機から見て)に嵌合しなければならない。この電極はローラ65として好ましくは設計でき・・・紙3をその包絡面に固定する。」(第10頁右上欄末行〜左下欄7行)と記載されている。また、制御電極と背面電極間を所定間隔とすることは、乙第4号証、乙第5号証に記載されている。したがって、制御電極を組み込んだプリントカートリッジの制御電極と背面電極との間を所定の間隔に保持しなければならないこと、そのためには、プリントカートリッジと背面電極との間の位置規制を行う必要があることは明らかである。
そして、両者はともに記録紙上に画像を形成する技術である点で共通し、かつ、
一定の間隔に位置規制された、上下の画像形成部材間に記録紙を通過させるという類似の構成を有するものである。
よって、前記位置規制の技術は前記原理上の相違によって左右されるものではないから、「刊行物1に刊行物3を適用することにより、上記相違点2の構成を想到することに何ら困難性は認められない。」とした決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1についての対比判断の誤り)について (1) 原告らは、決定が本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比し、「両者は、
表現は相違するが、「通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段を挟んでトナー担持体と背面電極を配置するとともに、該背面電極表面に沿って記録材を移動させながら、前記通過手段を通過したトナーを記録材上に転移可能に構成した画像形成装置において、前記トナー担持体とトナー通過手段を一体化してユニット体となすとともに、該ユニット体を装置本体から着脱自在に構成した画像形成装置」の点で一致」すると認定した点につき、通電制御により画像情報に対応したトナー通過空孔を形成するトナー通過手段とトナー担持体が一体的にユニット化した点は、刊行物1には開示されていないと主張する。
甲第4号証の2によれば、刊行物1には、「本発明に係る方法によれば、電極マトリックスの設計および機能の異なる原理が可能となる。これら原理の一つによれば、・・・ネットから形成できるマトリックスは次に層4のうちの・・・2本の隣接電極および第2層5内の2本の隣接電極により境界が定められたメッシュを有する。」(第7頁右下欄第4行〜14行)、「本方法により可能となる更に別の原理は、現像機1と紙3との間に電極マトリックスを設けることに基づく。編成ネットまたは多層マトリックスのいずれにできる電極マトリックス4、5は顔料粒子2に対し、透過性を有する。」(第9頁左下欄第3行〜7行)、「第13a図〜第13c図および第14a図〜第14c図は本発明をベースにした全プリントカートリッジのより実用的な設計例を示す。寿命すなわちトナー汚染の恐れが制限されたすべての物品を含む使い棄てカートリッジを提供することが市場で試みられている。カートリッジの寿命は、収納されているトナー量(通常400コピー)の寿命に等しく、このことはレーザプリンタおよび複写機でも同様である。・・・カートリッジ内に電子回路およびドライバー用ICを入れることは勧められない。
このことは、各電極はプリンタ内のコントローラのインタフェースに別々に接続しなければならないことを意味する。更に・・・各カートリッジ内の電極数、すなわちピン数を最小にすることが好ましい。」(第11頁左上欄第3行〜18行)、 「第13c図は、プリントスロットの一部を略図で示す。t1〜t8の参照符号の付いた黒色の正方形によるラインは紙上の水平ライン内のドット10bを示す。2つの隣接ドット、例えばt5およびt6は、一つのメッシュピッチを実際の紙速度で紙が移動するときに要する時間内にプリントされる。」(第11頁右上欄第5行〜10行)、 「第13a図内のカートリッジは、8メッシュ幅(S)のプリントスロット73を有する。紙3は、ローラ状のブラック化電極65によりプリントスロット73上を搬送される。紙と電極との間の隙間(C)はプリントスロット73内の側面の一つを構成するスライディングエッジにより決定される。この構成は、第13b図に示されている。」(第11頁右上欄第18行〜左下欄第4行)との記載があることが認められる。
また、甲第4号証の2によれば、刊行物1の第13a図には全プリントカートリッジ70が、第13b図には、上から順に、ブラック化電極65、紙3、プリントスロット73、走査層内の電極9、コンベアローラ63が配置されること、第13c図には、プリントスロット内で角度を付けて配置した電極の一部として、制御層4の電極8と走査層内の電極9が格子状に配置されることの構成が示されているものと認められる。
これによれば、第13a図ないし第13c図に記載されたものでは、全プリントカートリッジ70内に走査層内の電極9及びコンベアローラ63が収納されることが明示されており、少なくとも刊行物1記載のものはトナー担持体を形成するコンベアローラとトナー通過手段を形成する電極を一体化してユニット体としているものと認めることができる。
制御層4の電極8は第13c図に記載されているが、第13a図、第13b図には明示されていない。しかしながら、制御層4の電極8と走査層内の電極9とでマトリックスを形成すること、更にネットでマトリックスを形成することについて記載がされていることを考慮すれば、第13a図、第13b図に明示はないものの、
制御層4の電極8も走査層内の電極9と一体的に扱うことが通常であると認められる。
そうすると、決定が、上記のように本件発明1と刊行物1記載の発明との間の一致点を認定した点に誤りがあるということはできない。
原告らは、刊行物1に「すなわちカートリッジ内には電子回路及びドライバーICを入れることは勧められない。このことは、各電極はプリンタ内のコントローラのインタフェースに別々に接続しなければならないことを意味する。・・・各カートリッジ内の電極数、すなわちピン数を最小にすることが好ましい。」(第11頁左上欄第12行〜18行)、「本例13cではプリントスロットは8ドット幅で、
垂直電極数を8に低減している。」(第11頁右上欄第11行〜13行)、「第13c図に示した電極の構成を用いると、全電極数は217まで低減される。」(第11頁右上欄第15行〜17行)と記載されていることを根拠に、カートリッジ側に位置する垂直電極数は8のみであり、残余の217の電極は電子回路やドライバーICを有するカートリッジ外のプリンタ本体側にあることを意味していると主張する。
甲第4号証の2(刊行物1)によれば、刊行物1には原告ら主張のように「カートリッジ内に電子回路およびドライバー用ICを入れることは勧められない。」との記載のあることは認められるが、217の電極がカートリッジ外のプリンタ本体側にあるとの記載は認められない。むしろ、「カートリッジ内に電子回路およびドライバー用ICを入れることは勧められない。」との記載を裏から理解すれば、
「電子回路」、「ドライバー用IC」以外のものはカートリッジ内に配置することを許容しており、原告ら主張の上記「各カートリッジ内の電極数、すなわちピン数を最小にすることが好ましい。」との記載も、電極をカートリッジ内に配置することを肯定するものである。
原告らは、第14c図の左図の記載からカートリッジ内に組み込まれているのは同心状電極9′のみであって他の水平電極8などの制御電極のほとんどは組み込まれていないとも主張する。しかし、甲第4号証の2の第14c図(第13a図ないし第13c図とは異なる、非使い棄てプリントユニットの例)をみても、他の電極がカートリッジ外に存在するとの記載が刊行物1にあるものとは認められず、原告らの主張は理由がない。
(2) 原告らは、相違点1(本件発明1が、ユニット体を装置本体から着脱自在とする方向に関し、「背面電極から接離する方向に」を構成としている点)について、「刊行物1に刊行物2を適用することにより上記相違点1の構成を想到することに何ら困難性は認められない。」とした決定の判断は、誤りであると主張する。
原告らは、その根拠として、刊行物2記載のものは感光体ドラムに静電潜像を担持するカールソン方式であって、背面電極も制御電極も存在せず画像形成の仕方が異なり、また前記ユニット体の抜出により制御電極が直接露出するために、その空孔の目詰まりも簡単に除去し得るという本件発明1の特有の効果は、トナー層が厚肉に担持している現像ローラとメッシュ状制御電極の組合せの場合に初めて必要な効果であると主張する。
しかしながら、ユニット体の抜出により電極が直接露出するためにその空孔の目詰まりも簡単に除去し得るという効果については、刊行物1の着脱自在なプリントカートリッジも有する効果であると認めることができ、本件発明1特有の効果ということはできない。刊行物2記載のものは感光体を用いているが、「画像生成機」(発明の名称)に関するものであって(甲第4号証の3)、刊行物1記載の発明と技術分野を同じくするものと認められ、刊行物2記載の技術手段を刊行物1記載の発明に適用することを阻害する要因があると認めることはできない。
原告らは、感光体軸と平行に前記ユニットを手前に引き抜いて脱着させる前開き方式が圧倒的に多く、トナージェットという異なる技術で、本件発明1の「制御電極を含むユニット体を背面電極から接離する方向に装置本体から着脱自在に構成」した技術を選択することは容易でないと主張する。しかし、脱着の方式として前開き方式が多いとしても、このことにより、刊行物2に記載された技術手段を刊行物1記載の発明に適用することが困難になるとは認められない。前開き方式のものが多いとしても、刊行物2に記載されているように「本体の上面開口を通して・・・本体に装着及びこれから離脱」(第1頁左下欄第16行〜17行。甲第4号証の3)することも既に知られていたと認められ、技術分野を同じくする刊行物2に記載の技術手段を採用することが困難であったと認めることはできない。
(3) 原告らは、本件発明1が電子画像情報により制御電極を通電制御しながら、
画像形成を行ういわゆるプリンタであるのに対し、刊行物2等はいずれも原稿を反射して形成されるアナログ光像に基づいて感光体上に潜像を形成する複写機に関するものであり、国際特許分類においてB41(プリンタ)とG03(複写機)で技術分類が異なると主張する。
本件発明1の特許請求の範囲の記載は前判示のとおりであり、請求項1の末尾は「画像形成装置」とあって、請求項1には「プリンタ」との記載はない。本件明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明をみても、産業上の利用分野について「本発明は・・・画像形成装置に関する。」(第2頁左欄第6行〜8行)、従来の技術について「従来より・・・電子写真装置は公知であり、プリンタ、複写機その他の画像形成装置に多用されている。」(第2頁左欄第10行〜15行)と記載されており、発明の利用分野が画像形成装置であるとされているのであって、かつ、画像形成装置の例としてプリンタだけでなく複写機も挙げられているのである。そうすると、本件発明1がプリンタであるとする原告らの主張は、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に基づくものではなく、理由がない。
(4) 以上のとおりであって、本件発明1の容易想到性に関する決定の認定、判断に原告ら主張の誤りがあるということはできない。
2 取消事由2(本件発明2についての対比判断の誤り)について (1) 原告らは、決定が、本件発明2と刊行物1記載の発明とを対比し、「両者は、本件発明1との間の相違点1に加え、「ユニット体と背面電極間を位置規制手段を介して弾性的に位置保持可能に構成した」点(相違点2)で、更に相違している。」と認定し、更に「刊行物1に刊行物3を適用することにより、上記相違点2の構成を想到することに何ら困難性は認められない。」と判断した点につき、刊行物3はユニット体ではなく、単に感光体ドラムと転写帯電器間が位置規制されるのであり、かかる技術から本件発明2の構成要件容易に想到できるとした決定の判断は誤りであると主張する。
甲第4号証の4によれば、刊行物3には、産業上の利用分野について「本発明は電子写真装置に於ける転写材の転写機構に関するものである。」(第1頁左下欄第10行〜11行)、実施例について「ローラ6はガイドブロック3に回転する様に固定されて、ガイドブロック3は転写帯電器2の両端に固定されシャフト5をガイドにスラスト方向にスライドする。スプリング4により感光ドラム1にローラ6が突き当てられている。」(第1頁右下欄第12行〜17行)、発明の効果について「以上説明したように本発明は転写帯電器の一部を感光ドラムに突き当てることにより感光体面と転写帯電器の距離が一定に保たれ感光ドラム及び装置間のばらつきにより生じる濃度むらをおさえることができる効果がある。」(第1頁右下欄第19行〜第2頁左上欄第3行)との記載のあることが認められる。これによれば、刊行物3記載の発明は、本件発明2や刊行物1記載の発明と技術分野を同じくするものであり、位置規制手段であるローラ部を介してスプリングにより弾性的に位置保持可能に構成する技術を開示するものであると認めることができる。
原告らは刊行物3記載の発明はユニット体ではないと主張するが、電極とコンベアローラとを一体化し、ユニット化することは、上記のように、刊行物1に示されているところである。そして、刊行物1記載のものにおいても、電極間等の距離を一定に保つことが必要であることは明らかである。例えば、乙第4号証(特開昭61-2166号公報)には、「原稿からの電気信号により制御部材の開口部をトナー粒子が通過するのを制御して、記録像を形成する画像記録装置」(第1頁右下欄第16行〜19行)について「背面電極・・・とベース電極・・・との間隙・・・は300μmに設定」(第4頁右下欄第14行〜17行)との記載があり、乙第5号証(昭63-123060号公報)には「直接静電印刷装置」(第2頁左下欄第3行)について「この記録装置は、普通紙から所定の距離だけ離して配置」(第3頁左上欄第16行〜17行)、「記録媒体30は、・・・カット紙であってもよい。紙シートは・・・0.005〜0.030インチ程度の距離だけ印字ヘッド14から離れている。」(第5頁右下欄第2行〜5行)との記載があることが認められる。
そうすると、刊行物1記載の発明において、電極間等の距離を適正に保つことが当然必要であり、そのために、刊行物3に示された手段を用いる点が格別困難なものということはできない。
(2) よって、本件発明2の容易想到性に関する決定の認定、判断に、原告ら主張の誤りがあるということはできない。
結論
以上のとおり、原告ら主張の決定取消事由は理由がないので、原告らの請求は棄却されるべきである。
(平成14年4月25日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利