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関連審決 審判1997-16457
関連ワード 製造方法 /  新規性 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  上位概念 /  出願公開 /  技術的手段 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  利害関係人 /  参酌 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求人適格 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 /  当事者適格 /  取消判決 /  利害関係人 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 403号 審決取消請求事件
原告 紫香楽教材粘土株式会社
原告 日本フイライト株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士 松村信夫、和 田宏徳、塩田千恵子、弁護士・弁理士 中島純一
被告 株式会社パジコ
訴訟代理人弁護士 下山博造、石川道夫、石井光穂
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/07/16
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が平成9年審判第16457号事件について平成13年7月23日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、昭和63年11月1日、名称を「軽量粘土」とする発明(本件発明)について特許出願(特願昭63-278133号)をし、出願公開前の平成元年6月5日に第1回補正を、出願公告の決定前の平成5年11月25日に第2回補正をし、平成6年9月7日に特公平6-70734号として出願公告がなされ、平成8年6月25日特許査定があり、平成8年12月6日に特許第2117876号として設定登録された。
被告は、平成9年10月3日、本件特許につき無効審判(平成9年審判第16457号)を請求し、平成10年3月27日、本件特許を無効とする旨の審決(第1次審決)があった。これに対し、原告らは、平成10年5月13日、審決取消しの訴訟を東京高等裁判所に提起し(平成10年(行ケ)第142号)、平成12年5月31日、審決を取り消す旨の判決(第1次取消判決)があり、確定した(その理由は、第2回補正が明細書の要旨を変更するものであって、本件出願の日を第2回補正時である平成5年11月25日とみなすべきであるとした審決の判断を誤りとするもの)。その後、平成13年7月23日、特許庁において、「特許第2117876号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(第2次審決)があり、その謄本は平成13年8月9日原告らに送達された。
2 本件発明の要旨 粒子中に気体を内包する軽量微小素材を主素材とし、これに合成粘結剤と、馴合液材と、添加物とを加えて構成される軽量粘土において、上記軽量微小素材が粒径1〜200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成されることを特徴とする軽量粘土。
3 第2次審決の理由の要点 第2次審決の理由は、別紙のとおりであるが、その要点は次のとおりである。
本件発明は、審判甲第3号証:特公昭51-893号公報、審判甲第5号証:米国特許第3607332号明細書及び審判甲第6号証:特公昭42-26524号公報に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
原告ら主張の第2次審決取消事由
1 第2次審決は、本件発明と審判甲第3号証記載の発明との相違点(軽量微小素材が、本件発明では、粒子中に気体を内包する粒径1〜200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成されるのに対して、審判甲第3号証記載の発明は発泡スチロール粉末である点)に関して、審判甲第3号証記載の発明における、発泡スチロール粉末に特定してある軽量微小素材について、周知の微小中空球を採用することは、当業者なら容易に想到し得たものと認められると誤って判断したものであり(取消事由)、違法として取り消されるべきものである。その理由は以下のとおりである。
2 審判甲第3号証の発泡スチロール粉末を素材とする粘土においては、粉末化された発泡スチロールは、その物質構造上の特性から粒子の表面に多数の棘凹を生じ、この棘凹に馴合液材等液材が吸引され、浸透することにより含水性ないし含液性に富むものとなるため、配合する水等の馴合液材が多量に必要となり、その結果製品である粘土全体の重量はあまり軽減されないという軽量化上の課題が残存する。また、発泡スチロールの粉末粒子を完全な球状に近いものとする場合、球径の微小化には製造上の限界があり、直径1ミリメートルより小さいものを製造することは極めて困難であるため、製品の使用時における滑らかさ及びきめの細かさが実現されず、また粘結剤との馴合度も粗悪であるため塑結が悪く脆いという課題がある。さらに、発泡スチロール粉末がグレーがかっているため粘土も灰色になり、製品として鮮明な色付けが困難であるという課題もある。
本件発明は、かかる審判甲第3号証のような発泡スチロール粉末を素材とする粘土における問題点を解決したものであり、明らかに本件発明と審判甲第3号証の発明とは、目的、課題、作用効果を異にするものであり、審判甲第3号証には、その外殻が単一の空間を内包するアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される微小中空球を粘土に使用することについて、何ら示唆がなされているとはいえないものである。
3 審判甲第3号証の記載において、仮に発泡構造における空間の存在が軽量化に関与していることから想起されるものがあったとしても、それは、軽量化のための微小素材として、空間を有する構造の各種微小素材が想起されるというところまでであり、何故、合成樹脂からなる各種微小素材が想起されることになるのかが明らかでない。
審判甲第3号証の記載において、何故、合成樹脂からなる各種微小素材が想起されることになるのかが明らかでないとの原告らの主張に対し、被告は、乙第4号証の1(栄光産業株式会社作成報告書)で明らかなとおり、粘土の軽量化のために粘土に配合される粉体(有機粉体、無機粉体を問わない)は、発泡させたものか、中空(バルーン状)にしたものが1964年ころから技術的に常識化していたと主張するが、1964年ころに、本件発明に類する技術が実際の実施技術であったとの調査はなく、常識化していたと被告側の業者が単に言い切っているのは、実際の実施技術ではなく、2001年の時点における1964年ころに目指すべきものとされた技術理念を述べたものにすぎない。また、被告が挙げる乙第3号証は、単に微小中空球としての性質を述べただけのものであり、これを粘土に使用することについては示されていない。さらに、被告は、乙第5号証(特開昭57-92568号公報)では、中空体であるパーライトをも構成要素としているとするが、パーライトは単に無機物質の例示であり、乙第5号証に、合成樹脂としての中空体が素材として挙げられているものではない。パーライトは、混練時に破砕が生じ、本件発明で実現し得た軽量化効果は、まず実現不可能である。
4 第2次審決は、審判甲第3号証記載の発明における、発泡スチロール粉末に特定してある軽量微小素材について周知の微小中空球を採用することが容易である根拠として、審判甲第5号証を挙げている。
しかし、審判甲第5号証の組成物は、型成型用の粘土様物質、いわゆるモデリング・コンパウンドの類であり、その用途を特に自動車業界の製品開発時のモデル作成用としたものである。また、審判甲第5号証において解決された課題とは、本件発明において解決された粘土自体の軽量化でもなければ、廃棄処理の容易化でも、
白色度の向上、彩色や細工の容易性、触感のなめらかさでもなく、ただ、クラッキングの防止のみである。さらに、その明細書中の記載には、軽量化という課題解決の記載はほとんど見られず、わずかに要約の部分に、軽量であることが望ましい、
と記述されているのみで、学校教材や工芸用としての用途の記載は皆無である。以上のように、審判甲第5号証は、本件発明とは、明らかに、構成、目的、課題、技術分野を異にするものである。
また、審判甲第5号証には、その外殻が単一の空間を内包するアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される微小中空球を粘土に使用することについて、何ら示唆がなされていない。
5 特公昭42-26524号公報(甲第7号証)及び「化学工学協会編 最近の化学工学 特殊粉体技術」(丸善株式会社)(乙第1号証)には、塩化ビニリデンを成分とするサランマイクロスフェアというような微小中空球が記載されているが、ここで記載されているのは、微小中空球についてだけであり、その機能、作用や、適用分野等については記載がなく、かかる微小中空球を粘土に使用することについては、何ら示唆がなされていない。よって、当該周知の微小中空球を、審判甲第3号証に記載された発明の微小気泡体に適用することは、当業者ならば容易に想到し得たとはいえない。
6 第2次審決は、「当該周知の微小中空球を、審判甲第3号証の発明における発泡スチロール粉末に代えて採用し、化学的粘着剤(CMC)、パルプ、水と共に練り合わせた粘土が、審判甲第3号証に記載された従来の粘土の欠点である、ひび割れしやすいとか、継ぎ足しが出来ないとか、芯材に接着し難いとか、手などを汚しやすいとか、異臭があるとか、細長いものや薄いものを作れないとか、の除去を阻害するものにならないことは、当業者において容易に予測できること」とするが(別紙審決の理由376〜383行)、何故、当業者において容易に予測し得ることになるのか、その理由が明らかでない。
世の中には、各種微小素材がそれこそ数限りなく存在する。その中で、軽量粘土の主素材として、当該周知の微小中空球を採用したことには、大いなる困難性が存在する。前記欠点の除去を阻害しないということも、数限りなく存在する各種微小素材の中から、軽量粘土の主素材として、当該周知の微小中空球を候補としてピックアップし、それを使用して実際に粘土を製作し、試験をしてみて初めて分かるものである。
7 第2次審決は、作用効果を見ても、格別のものは存在しないとするが、微小中空球が実際の製造工程において、容易に粉砕されず、そのことによって粘土の軽量化を図れるかどうかは、当該微小中空球を使用して実際に製造してみないと分からないのであるし、白色化についても、当該周知の微小中空球が、光を乱反射するものであったとしても、実際に粘土を製造しなければ、他の素材との化学反応、物理的毀損等を起こさずに、当該性質を保持できるかどうかは明らかではないし、粘土が、馴合度良く、なめらかで、きめ細かくなることも、当然などではなく、実際に粘土を製造してみないと分からないことであるから、本件発明の作用効果については、技術常識の範囲内、あるいは当業者ならば容易に推測可能というものではない。
8 特許の進歩性判断が当該特許出願時における先行技術との対比によるべきものとされる以上、当業分野において相当の技術進歩ありとされる程度の相当時間が出願時より経過した後の進歩性についての「最終判断」は、出願時の進歩性判断と比べ、相当性を失する可能性のあることを考慮すべきである。本件発明を実施した軽量粘土がかなり広く普及している現在からみれば、当該周知の微小中空球を粘土に利用することは当然と考えられるかも知れないが、本件出願当時において、そのようなことは全く思いつかなかったのである。
9 他の粘土に関する特許、あるいは、マイクロバルーンを素材とした特許をみてみても、主素材等素材を置換したところに特許性があるとされている特許は多く存在しており(甲第29〜33号証)、本件発明が、素材を置換したことをもって特許性が認められないとするのは、明らかに他の特許との均衡、ひいては、進歩性の判断の見地から不当である。
第2次審決取消事由に対する被告の反論
1 原告らは、審判甲第3号証の発泡スチロール粘土の発明について、粉末化された発泡スチロールを用いる場合、軽量化上の課題が残存すること、完全な球状に近いものとする場合、球径の微小化には製造上の限界があること等の欠点を述べるが、審判甲第3号証における発泡スチロールは発泡スチロール製品を破砕したものに限定しているわけではなく、一次発泡粒子の場合も含むものと理解される(このことは、原告ら自身も認めていることである。甲第12号証(本件出願の平成5年11月25日付け意見書)2頁)。発泡スチロールは、衝撃吸収能力に優れ、非常に軽量であり、防湿性に優れており、特に一次発泡粒子は、「粒度がそろっており、美しい成形品に仕上がります。」(甲第12号証添付パンフレット3枚目)と記載されているとおり、球体で規則正しい粒径等を有するものである。また、審判甲第5号証によれば、直径1ミリメートルよりも小さい粒径(590〜840ミクロン)の発泡スチロール粉末(発泡ポリスチレン球)が、存在することが開示されており(乙第6号証の2、日本語訳7頁)、また、甲第33号証(特公平4-27196号公報)の特許明細書によれば、「軽量骨材として、発泡ポリスチレンを用いる場合、発泡ポリスチレンは粒径が500μ〜2000μ・・・・」と記載され、本件出願前に、既に1ミリメートル以下の粒径の発泡スチロール粉末が存在することは明らかになっているのであって、粒径の大きさを根拠とした原告らの主張は、理由がない。
2 原告らは、審判甲第3号証の記載において、何故、合成樹脂からなる各種微小素材が想起されることになるのかが明らかでないと主張する。
しかしながら、乙第4号証の1で明らかなとおり、教材用粘土においても、1960年代から、粘土の軽量化のために粘土に配合される粉体(有機粉体、無機粉体を問わない)は、発泡させたものか、中空(バルーン状)にしたものを使用することが、常識化していた。そして、シラスバルーンや発泡スチロール粉末等の軽量微小素材を粘土に使用して、軽量粘土を製作することは、本件出願前公知であるうえ、本件発明の主素材とされる塩化ビニリデンないしアクリロニトリルを一成分とする共重合樹脂からなる微小中空球が存在し、同微小中空球は、直径が30〜80ミクロン、比重が0.02〜0.05の中空粒子で、少量で軽量化の効果が大きく、当該球体は弾性体で、気泡は緻密なために破損が防げること、有機物であるので焼結時消失すること、などの特徴も本件出願前に公知である(乙第3号証)。さらに、審判甲第3号証の軽量粘土に使用される発泡スチロール粉末は、「軽量化実現のための空間を有する構造の合成樹脂からなる微小素材」そのものである。したがって、同号証には、技術思想として粘土の軽量化を図る場合に空間を有する構造の合成樹脂からなる微小素材を用いることが効果的であることが示されているといえる。また、本件出願前に公開された「合成粘土」に関する特開昭57-92568号公報(乙第5号証)には、合成粘土の構成要素として合成樹脂からなる粉末を主成分とし、又は中空体であるパーライトをも構成要素とし、当該粉体素材は、1ミリメートル以下のものである旨記載され、合成樹脂粉体の例としても、スチロール樹脂、オレフィン樹脂などが挙げられている。
3 原告らは、審判甲第5号証の粘土が「モデリング・コンパウンドの類である」と主張するが、審判甲第5号証の利用態様、常温での手指の圧力による変形可能性等からすれば、これが粘土の範疇に属するものであることは明らかである。また、原告らは、「審判甲第5号証において、解決された課題とは、本件発明において解決された粘土自体の軽量化でもなければ」と主張するが、審判甲第5号証には、明らかに軽量化を示唆する記載があるのであって、原告らの上記主張は失当である。
原告らは、審判甲第5号証について「学校教材や工芸用としての用途の記載は皆無であり、よって、本件発明とは、産業上の利用分野を異にするものである。」旨主張するが、まず、本件発明の軽量粘土は、学校教材や美術工芸用としての用途に限定されたものではなく、あたかも限定されていることを前提とする原告らの主張は失当である。審判甲第5号証の粘土は上記のとおり、常温環境下で手指の圧力で変形できるものであって、これが粘土といえるものであることは明らかであって、
しかも、粘土を扱う業界においては、審判甲第5号証の組成物の用途としてある自動車業界の製品開発時のモデル作成用の粘土と学校教材または美術工芸用の粘土をほとんどその質を変更せずに、製造販売している者も存在するのであって(乙第4号証の1〜3)、原告らの主張は理由がない。
審判甲第5号証において、軽量化に関する明確な記載は、要約の部分だけではなく、明細書の「発明の分野」、「先行技術の説明における発明の目的の箇所」にそれぞれ明確にされており、審判甲第5号証が軽量化を目的としていることは疑いの余地がない(乙第6号証の2、日本語訳参照)。審判甲第5号証において、軽量化を図るための手段が、主素材としての微小粒子に微小気泡体を採用していることが明らかであるから、同じ材料からなる微小粒子であっても、微小気泡体が軽量化を図れるということは、微小気泡体が空間を有する構造だからであることは明らかである。また、審判甲第5号証において審判甲第3号証の発泡スチロールのうちの一次発泡粒子(予備発泡粒子ともいう)と同様の発泡ポリスチレン球とフェノール性微小気泡体が並列に挙げられていることは、粘土の軽量化対策として単一の空間を有するものを含む色々な合成樹脂製の微小球の選択可能性を想起させているということである。したがって、粘土の軽量化のために、「単一又は複数の空間を有する構造の合成樹脂からなる微小素材を採用すること」は、審判甲第5号証にも実質上明らかに記載されている。
4 原告らは「審判甲第3号証に記載された従来の粘土の欠点であるひび割れしやすいなどの除去を阻害するものとならないことが何故当業者において容易に予測できることになるのかその理由が明らかではない」旨主張するが、例えば、「ひび割れしやすい」ことの除去については、既に審判甲第5号証の明細書中において、
「本発明による好ましい成形用組成物は、成形後もひび割れに対する顕著な抵抗性を持続的に有する規則正しい形状をした微粒状の素材を、重量比約10〜50で含む、好ましくは、この微粒状の素材が、硬い中空(hollow)の微小気泡体であることで、そのことにより更に密度を著しく低減させる効果がもたらされ、よって組成物のゆがみに対する抵抗性を向上せしめる」(乙第6号証の2=日本語訳3頁)と記載され、なおかつ、成型用組成物のひび割れを低減せしめるのに効果的な微小球体の例として、「中空のガラス微小気泡体、中実のガラス微小球体、中実のエポキシ微小球体、発泡ポリスチレン球体並びにフェノール系微小気泡体がある」(乙第6号証の2=日本語訳4頁)とも記載されているのであって、これらのことから、審判甲第5号証には、当該課題とその解決方法が明確に示されているのである。したがって、当業者において「ひび割れしやすい」課題の解決方法は、当然に予測し得ることになる。
周知の微小中空球が、嵩比重0.016と極めて軽量であり、防湿性に優れ(水を通し難いこと)、弾性があること、などの機能や作用を有していること、特に、
一次発泡粒子は審判甲第5号証におけるひび割れ防止のための素材として適切なものであることは明らかであるから、これらの機能や作用は、審判甲第3号証における一次発泡粒子と同質である。したがって、周知微小中空球を審判甲第3号証の発泡スチロール粉末に代えて採用することにより、同じように審判甲第3号証に記載された課題の除去を達成できるであろうことは容易に推測できるのである。
審判甲第3号証の発明の発泡スチロール粉末は、「空間構造を有する合成樹脂からなる微小素材」であり、衝撃吸収性に優れ、非常に軽量である、防湿性に優れ、
また特に一次発泡粒子は、粒度がそろっているといった物性を有し、粒径として1o以下のものがある。同様に、「空間構造を有する合成樹脂からなる微小素材」である当該周知の微小中空球は、極めて軽量で、防湿性に優れ、弾性があり、粒径が小さいという発泡スチロールと同様の物性を有している。したがって、そのような関係にある発泡スチロール粉末に代えて当該周知の微小中空球を使用し、化学的粘着剤(CMC)、パルプ、水と共に練り合わせた粘土にした場合、軽量性、白色性が達成され、さらに再生パルプ、紙粘土、泥粘土の欠点(ひび割れしやすい、継ぎ足し出来ない、芯材に接着しがたい、手を汚しやすい、悪臭がある、細長いものや薄いものを作れないこと)の除去を阻害するものとならないことは、当然予測される範囲である。
原告らが「数限りなく存在する」と主張している素材は、「微小素材」であって、「微小中空球」ではない。「微小中空球」は、決して「数限りなく存在する」ものではないため、軽量粘土を製作するに際して、当該周知の微小中空球を採用することは極めて容易なことである。特に、本件出願以前に審判甲第3号証、審判甲第5号証のように合成樹脂製の微小中空球を使用した粘土の存在することが明らかである場合には、非常に容易といわざるを得ない。
5 原告らは、軽量化の理由として、微小中空球の弾性を挙げているが、乙第3号証(高分子学会発行「高分子」1987年9月号)により明らかなとおり、もともと当該微小中空球の基本的な性質として、「弾性体であって、気泡は緻密なため、破損を防ぐ」効果を有するのであるから、本件粘土に特異な作用効果というものではない。
また、原告らは粘土の白色化についても言及するが、当該周知の微小中空球が光の乱反射により白色であることは、周知の事実であり、その特性がそのまま現出されたということであって、周知の微小中空球の持つ新たな特性を見いだし、それによって、特異な作用効果が生じたというものではない。なお、本件発明は、添加物として、白色なものに限定されていないから、これらの白色なもの以外の添加物を使用した場合には、粘土の白色化を奏することができない。
原告らは、「粘土が、馴合度良く、なめらかで、きめ細かくなることも、当然などではなく、実際に粘土を製造してみないと分からないことである。」と主張するが、周知の微小中空球のように、球形の軽量微小素材を使用することにより、粘土が馴合度良く、なめらかで、きめ細かくなることは、非球形の素材や表面がざらつく素材を使用する場合に比較すれば、当然のごとく、上記の効果が生ずることは明らかであって、このことは、当業者であれば容易に予測ができるものである。発泡スチロール粉末も、一次発泡粒子のように球形の粉体素材が存在するのであって、
このことからすれば、上記のような予測は極めて容易になされることは明らかである。なお、粘土の「滑らかさ」を向上させる手段が、既に審判甲第5号証の中に「組成物のコンシステンシーがどの程度であれば望ましいかによって左右されるが、好適な微小気泡体は、直径5〜300ミクロンの範囲のものから選ぶのがよかろう。成形用組成物に、敢えてなめらかなコンシステンシーを必要としない場合は、もっと直径の大きい微小気泡体を選んでもよかろう。好ましい微小気泡体は、
平均直径が10〜150ミクロンのものである。直径150ミクロン以上のものは、組成物にやや粗いコンシステンシーをもたらしめる。」と開示されており、本件発明に特有の目的効果ではない。
当該周知の微小中空球を他の材料と混錬して、粘土状の組成物とした場合の作用(粒径の細かさ、非破砕性、非吸水性など)は、本件出願前に公開された甲第33号証において、発泡スチロール(発泡ポリスチレン)と比較して明記されているのであって、これにより、審判甲第3号証の発泡スチロールに代えて当該周知の微小中空球を使用した場合の作用効果は、既に明らかにされていた。
当裁判所の判断
1 原告らは、審判甲第3号証に基づいて本件発明に想到するのが容易ではなかったことの理由の一つとして、審判甲第3号証に記載された発泡スチロール粉末を素材とする粘土には、軽量化上の課題があること、発泡スチロールの粉末粒子を完全な球状に近いものとする場合、直径1ミリメートルより小さいものを製造することは極めて困難であるため、製品の使用時における滑らかさ及びきめの細かさが実現されず、塑結が悪く脆いという課題があること、発泡スチロール粉末がグレーがかっているため粘土も灰色になり、製品として鮮明な色付けが困難であるという課題があること等を指摘し、本件発明は、かかる審判甲第3号証のような発泡スチロール粉末を素材とする粘土における問題点を解決したものであり、明らかに本件発明と審判甲第3号証の発明とは、目的、課題、作用効果を異にするものであることを主張する。
審判甲第3号証(甲第4号証)には、「発泡スチロール粉末を主材とし、これに化学粘着剤とパルプを加えた彫塑材料」が記載されており(特許請求の範囲)、発泡スチロールを主材としたから軽量であることも記載されている(2欄16〜17行)。
一方、甲第2号証によれば、本件明細書には、〈発明が解決しようとする課題〉の欄に、特公昭51-893号(審判甲第3号証)に係る技術における課題が列記された後、「本発明はこれらの課題にかんがみ、馴合液材の必要料(「必要量」の誤記)が少量でありながらも塑結がよく、また滑らかできめが細かく鮮明な色付けが可能であるとともに、廃棄処理も容易な軽量粘土を提供することを目的とする。」(3欄6〜32行)と記載され、〈発明の効果〉の欄に、「以上詳述したように、本発明軽量粘土によれば、水等の馴合液材の必要量が少量でありながらも塑結がよく、また滑らかできめが細かく鮮明な色付けが可能であるとともに、廃棄処理も容易な軽量粘土が提供される。軽量化の度合いが顕著であるため、運搬時の負担は大幅に軽減される。」(6欄13〜19行)と記載されていることが認められるのであり、本件発明は、審判甲第3号証のような発泡スチロール粉末を素材とする粘土における問題点の解決を目的、課題、作用効果とするものであって、審判甲第3号証における「軽量化」を更に改善することが本件発明の目的、課題、作用効果の一つであることが明らかである。
そうすると、本件発明と審判甲第3号証に記載された発明とは、軽量化という点において、目的ないし解決しようとする課題の方向性を共通にし、同種の作用効果を奏するものということができる。
したがって、審判甲第3号証には、本件発明に至る動機付けとなるに足りる目的ないし課題及び作用効果が記載されていることとなるから、原告らの主張は理由がない。
2 原告らは、審判甲第3号証の記載において、仮に発泡構造における空間の存在が軽量化に関与していることから想起されるものがあったとしても、それは、軽量化のための微小素材として、空間を有する構造の各種微小素材が想起されるというところまでであって、何故、合成樹脂からなる各種微小素材が想起されることとなるのか明らかでないと主張する。
審判甲第3号証には、発泡スチロールを主材とする粘土についてしか明記はされていないが、発泡スチロールを主材としたから軽量であることが記載されており(2欄16〜17行)、審判甲第3号証に接した当業者は、軽量化が発泡スチロールの有する空間によりもたらされることを当然に想起するものと認められる。
一方、審判甲第5号証(甲第6号証)には、「実質的に揮発性成分を含まず、100゚F〜150゚F(約37.8℃〜約65.6℃)位の温度では比較的柔らかくて容易に成形されるような可塑性と成形性とを有し、そして室温ではより硬くかつ崩れや変形に対する抵抗性があるが、なお柔軟で手指の圧力で変形可能な熱可塑性造形用組成物であって、該組成物の物質は、細かく分割された粒子状固体充填材(この少なくとも10重量%がクレーである)と、そのための熱可塑性可塑化用有機ビヒクルと、そして全体にわたって分布している約10〜50容量%のあらかじめ定められた規則的な形と大きさの硬い微小粒子とからなる可塑性粘土様物質の親密な混合物からなり、該組成物は、成形された後の放置中ではひび割れに対する抵抗性があるものである。」(5欄58〜6欄11行、訳文1頁下4〜2頁9行)と記載されていることが認められ、室温で柔軟で手指の圧力で変形可能な熱可塑性造形用組成物であること、少なくともその10重量%がクレーである可塑性粘土様物質の親密な混合物であること等の点からみて、審判甲第5号証に記載された組成物は粘土の一種であると認められる。
そして、審判甲第5号証(甲第6号証)には、「本発明は、ひび割れに対する抵抗性があり、しかも好ましくは軽量である造形用組成物に関するものである。」(1欄8〜10行、訳文1頁3〜4行)、「したがって、本発明の目的は、ひび割れに対して持続的に抵抗性があり、好ましくは軽量であるような成形用組成物で、
高温では比較的軟らかくて成形しやすく、室温では鈍性つまりゆがみに対して抵抗性があるものの、やはり柔軟で、指で押して変形し得るものである。」(1欄49〜51行、乙第6号証の2=日本語訳2頁19〜21行)と記載されていることが認められることからして、審判甲第5号証に記載された発明は軽量化を課題の一つとするものであることが認められる。また、審判甲第5号証(甲第6号証)には「好ましくは、この微粒状の素材が硬い中空の微小気泡体(例:米国特許第3,365,315、ベック他、1968年1月23日発行)であることで、そのことによりさらに密度を著しく低減させる効果がもたらされ、よって組成物のゆがみに対する抵抗性を向上せしめる。」(2欄46〜50行、乙第6号証の2=日本語訳3頁23〜26行)とも記載されているように、「密度の低減」すなわち「軽量化」のために、中空微小気泡体を配合したものであることも明らかである。
さらに、審判甲第5号証(甲第6号証)には、「造形用組成物のひび割れを減少させるために有効な微小球をさらに例示すると、中空ガラス微小気泡体、中実ガラス微小球、中実エポキシ微小球、発泡ポリスチレン球、およびフェノール系微小気泡体である。」(3欄10〜14行、訳文1頁下8〜下6行)と記載されているように、空間を有する微小球として発泡ポリスチレン以外にも無機質素材や合成樹脂素材からなる種々のものが例示されている。
そうすると、審判甲第5号証に示される技術常識を通して審判甲第3号証の記載を読めば、審判甲第3号証に記載された粘土の軽量化のためには、発泡スチロール以外にも、合成樹脂素材のものを含め、空間を有する種々の微小球の選択が可能であると理解することができる。
3 原告らは、審判甲第5号証には、軽量化、廃棄処理の容易化、白色度の向上、彩色や細工の容易性、感触のなめらかさなど本件発明で解決された課題や、学校教材や工芸用といった本件発明の用途について記載されていないから、本件発明と甲第5号証に記載された発明とは、構成、目的、課題、技術分野を異にするものであると主張する。
2で説示したように、審判甲第5号証に記載された発明は、軽量化を課題の一つとするものであることが認められ、「密度の低減」すなわち「軽量化」のために、
中空微小気泡体を配合したものであることも明らかである。そうすると、本件発明と審判甲第5号証に記載された発明は、軽量化という点で、目的ないし解決しようとする課題を共通にするものである。
同じく2で説示したように、審判甲第5号証に記載された組成物は粘土の一種であると認められることから、本件発明も審判甲第5号証に記載された発明も、粘土に関するものであって、両発明の技術分野は共通であるということができ、具体的に例示されている粘土の用途が違うからといって技術分野が異なるとまではいえない。
したがって、本件発明と審判甲第5号証に記載された発明とは、目的、課題、技術分野を異にするものであるとの原告らの主張は理由がない。
4 原告らは、審判甲第5号証、特公昭42-26524号公報(甲第7号証)及び「化学工学協会編 最近の化学工学 特殊粉体技術」(丸善株式会社。乙第1号証)には、アクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される微小中空球を粘土に使用することが示唆されていないから、周知の微小中空球を審判甲第3号証に記載された発明の微小気泡体に適用することは当業者にとって容易ではなかったと主張する。
2で説示したとおり、審判甲第5号証には、「軽量化」のために、中空微小気泡体を配合することが記載されており、中空微小気泡体としては無機質素材や合成樹脂素材からなる種々のものが例示されている。そして、中空微小気泡体の材質や空間の状態について特に限定されてはいないので、審判甲第5号証は、例示されたものに限らず、軽量化を達成できるものであれば、公知の微小球の選択が可能であることを示唆するものといえる。
一方、「化学工学協会編 最近の化学工学 特殊粉体技術」(丸善株式会社。乙第1号証)には、微小中空球の一つとして、ポリ塩化ビニリデンを原料とするかさ比重0.016のサランマイクロスフェアが記載され(112頁表1)、また塩化ビニリデン及びアクリロニトリルを原料とするサランマイクロスフェアにおいて膨張前のかさ密度45lb/ft3が膨張後には1.0lb/ft3となることが記載されている(126頁表6)。ここで、かさ密度の減少が軽量化を意味することは明らかである。また、特公昭42-26524号公報(甲第7号証)にはアクリロニトリルあるいは塩化ビニリデンを一成分として含有する微小中空体が記載され、加熱することにより容量が著しく増大すること、比較的薄い透明壁及びガス状中心部を有することすなわち単細胞であることも記載されている(実施例10,32,51,52、9頁右欄11〜12行、同17〜19行)。ここで、容量の増大が軽量化を意味することは明らかである。
してみると、特公昭42-26524号公報及び「化学工学協会編 最近の化学工学 特殊粉体技術」に記載された微小中空球は、軽量化という目的を達成できるものであると認められる。そして、2で説示したように、審判甲第5号証に示された技術常識を通して審判甲第3号証の記載を読めば、審判甲第3号証に記載された粘土の軽量化のためには、発泡スチロール以外にも、合成樹脂素材のものを含め、
空間を有する種々の微小球の選択が可能であると理解することができるのであるから、審判甲第5号証、特公昭42-26524号公報及び「化学工学協会編 最近の化学工学 特殊粉体技術」に、アクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される微小中空球を粘土に使用することが明示的に示唆されていなくても、特公昭42-26524号公報及び「化学工学協会編 最近の化学工学 特殊粉体技術」に記載された微小中空球を、粘土の軽量化を目的とする審判甲第3号証に記載された微小気泡体として適用することは当業者にとって容易に想到可能なことであったと認めることができる。
5 原告らは、第2次審決がした判断、すなわち「周知の微小中空球を、審判甲第3号証の発明における発泡スチロール粉末に代えて採用し、化学的粘着剤(CMC)、パルプ、水と共に練り合わせた粘土が、審判甲第3号証に記載された従来の粘土の欠点の除去を阻害するものにならないことは、当業者において容易に予測できること」の根拠が明らかでないと主張する。
しかしながら、審判甲第5号証(甲第6号証)には、ひび割れを低減せしめるのに効果的な微小球体の例として、「中空ガラス微小気泡体、中実ガラス微小球、中実エポキシ微小球、発泡ポリスチレン球およびフェノール系微小気泡体」(3欄10〜14行、訳文1頁下8〜下6行)が記載されているから、審判甲第3号証における発泡スチロール粉末に代えて周知の各種微小中空球を用いても、ひび割れの欠点の除去が阻害されないことは明らかである。
また、審判甲第3号証(甲第4号証)には「発泡スチロールに化学的粘着剤を加えたのみでは連繁性がなく脆いが、これにパルプを加えたことによりパルプの繊維が化学的粘着剤を介して発泡スチロールに絡み合うため強度を出すことが出来、発泡スチロールの軽量性と相まって細長いもの、又は薄いものの塑型に一層好適となる。」(2欄22〜28行)と記載されていることから、連繁性に関連するものと認められる欠点(細長いものや薄いものをつくれない、継ぎ足しができない、芯材に接着し難い)は、パルプを加えることにより主に解決され、軽量な発泡スチロールを加えることにより一層好適となることが認められる。そうすると、発泡スチロール粉末に代えて同じく軽量な周知の各種微小中空球を用いた場合に、上記の欠点の除去が阻害されないことも、当業者には予測可能といえる。
さらに、周知の各種微小中空球が、泥粘土のように手などを汚したり異臭を発生する成分でないことも、当業者には自明であったということができる。
6 原告らは、微小中空球が実際の製造工程において、容易に破砕ないし破損されず粘土の軽量化を図れるかどうかは、当該微小中空球を使用して実際に製造してみないと分からないことであるし、白色化、馴合度良く、なめらかで、きめ細かくなる等の効果も、実際に粘土を製造してみないと分からないことであるとも主張する。
しかしながら、4で説示したとおり、甲第7号証及び乙第1号証の記載によれば、アクリロニトリルあるいは塩化ビニリデンを原料とする微小中空球は、軽量化という目的を達成できるものであることが認められるから、これを粘土に混合すれば粘土の軽量化が図れることは、当業者が容易に予測できることであって、この点に関する第2次審決の判断に、不合理な点は認められない。
そして、特公平4-27196号公報(昭和63年2月9日付けで公開公報発行。甲第33号証)には、「セメントに骨材、補強繊維を配合すると共に粒径が1〜100μで発泡倍率が20〜100倍の熱可塑性樹脂の中空発泡体を配合してセメント成形材料を調製し、これを押出し成形したのちに養生することを特徴とする軽量セメント製品の製造方法。」(特許請求の範囲1)、「中空発泡体はポリ塩化ビニリデン系樹脂で形成されたものであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の軽量セメント製品の製造方法。」(特許請求の範囲2)と記載され、さらに「本発明においては軽量骨材として熱可塑性樹脂の中空発泡体を用いているものであり、パーライトや硬質微小中空球対(「中空球体」の誤記)などと異なり、中空発泡体はその塑性のためにセメント成形材料を調製する混練の際の剪断力や押出し成形の際の剪断力で破壊されることを低減することができ、軽量化の硬化(「効果」の誤記)を十分に発揮させることができると共に、セメント成形材料の混練を高速でおこなってセメント成形材料を均一な組成に調製することができる。」(6欄2〜11行)と記載されている。この記載によれば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる中空発泡体は、混練工程等で加えられる剪断力によって破壊されにくいという性質を有することが、本件出願の前に既に知られていたことが認められる。そうすると、少なくとも、ポリ塩化ビニリデンの中空発泡体を粘土に用いれば、粘土の製造の際の混練工程等において、当該中空粒子が容易に破砕されないであろうことも、容易に予想されることである。
また、透明な微小中空球が光の乱反射で白く見えることは技術常識であるから、
このような微小中空球を配合した粘土が白色化されることは当業者にとって容易に想起し得ることであるし、また、球形の軽量微小素材を用いれば非球形や表面のざらつくものを用いる場合より粘土が馴合度よく滑らかできめ細かくなることも当然のことといえるから、これらの点に関する第2次審決の判断に、誤りはない。
原告らは、微小中空球が光を乱反射するものであったとしても、他の素材との化学反応、物理的毀損を起こさずに、白色化の効果を保持できるかどうかは明らかでないとするが、粘土に通常用いられる他の素材の中に白色化を阻害するようなものが高い確率で存在する等の特別な事情は認めることができない。
加えて、本件明細書には、「外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される」微小中空球を選択することにより、他の公知の微小中空球を用いた場合に比べ、当業者の予想を超える顕著な効果があることをうかがわせる実施例・比較例等の記載も認められない。
そうであれば、本件発明の作用効果は、当業者が予測可能な作用効果を単に確認したにすぎないものであって、進歩性を肯定するに足りる作用効果であるとはいえない。
7 以上のとおり、原告らの主張はいずれも理由のないものであるから、審判甲第3号証記載の発明における、発泡スチロール粉末に特定してある軽量微小素材について、周知の微小中空球を採用することは、当業者なら容易に想到し得たものであるとした第2次審決の判断に誤りはない。なお、原告は、本件発明と審判甲第5号証に記載された発明とは構成を異にするものであると主張するが、審決が認定した相違点以外の具体的な構成の相違のあることを主張するものではなく、理由がない。
結論
よって、原告らの請求は棄却されるべきである。
(平成14年7月2日口頭弁論終結)
追加
平成13年(行ケ)第403号平成9年審判第16457号審決の理由1.手続の経緯本件特許第2117876号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、昭和63年11月1日の出願(特願昭63-278133号)であって、
出願公開前の平成元年6月5日に第1回補正がなされ、出願公告の決定前の平成5年11月25日に第2回補正がなされ、出願公告(特公平6-70734号)後の平成8年12月6日にその特許の設定登録がなされたものである。
2.本件発明本件発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「粒子中に気体を内包する軽量微小素材を主素材とし、これに合成粘結剤と、馴合液材と、添加物とを加えて構成される軽量粘土において、上記軽量微小素材が粒径1〜200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成されることを特徴とする軽量粘土。」3.請求人適格の有無本件審判請求については、請求人と被請求人のあいだで当事者適格が争われており、被請求人は、請求人が利害関係人でなく、請求人適格を有しないため、請求人不適格として本件審判請求は却下されるべきである旨答弁書で主張している。
そこで、まず、この点について検討するに、請求人株式会社パジコは、本件発明同様、粘土に関する出願(例えば、特開昭52-78232号、同54-153826号、同63-220190号公報等参照)を行っており、釈明を求めるまでもなく、請求人は本件発明の特許の存否に利害関係を有しているといえるから、本件審判請求は請求人不適格として却下されるべきであるとの被請求人の主張は採用しない。
よって、次に、本件発明について、その特許を無効とすべき理由があるかどうかについて判断する。
4.請求人の主張する無効理由請求人株式会社パジコは、本件発明に係る特許は無効であるとして、概ね、次の無効理由を主張している。
(1)無効理由1上記第2回補正による本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された、「合成粘結剤」、「馴合液材」、「添加物」、及び「軽量微小素材が粒径1〜200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される」は、出願当初の明細書又は図面の記載範囲を逸脱しており、第2回補正は明細書の要旨を変更するものであって、本件発明の出願日は平成5年11月25日とみなされ、本件発明は、審判甲第2号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、本件特許は、同条第1項の規定に違反してなされたものである。
(2)無効理由2本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄の記載は、特に、「合成粘結剤」、「馴合液材」、「添加物」、及び「軽量微小素材」に関してみると、同欄の実施例の項の記載では、課題を解決するための手段の項の記載から推測できるすべての技術手段が当業者にとって容易に実施できる程度に記載されていないから、本件特許は、
特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
(3)無効理由3本件特許明細書の特許請求の範囲の欄の記載は、発明の詳細な説明の欄に記載された作用効果を奏するために必要不可欠とする技術的手段を記載しておらず、上位概念的記載が過ぎて同作用効果を奏しない発明をも混在せしめたものとなっているため、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。
(4)無効理由4本件発明は、審判甲第3乃至6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
5.被請求人の反論被請求人は、請求人の上記無効理由1乃至4に対し、答弁書において、概ね、次の反論をしている。
(1)無効理由1に対する反論第2回補正による本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された、「合成粘結剤」、「馴合液材」及び「添加物」を含む「おいて書き」部分は、出願当初の明細書の記載から自明であり、かつ、本件特許の先行技術、産業上の利用分野を特定明示し、しかも出願時の当業界における公知技術として何ら新規性進歩性を有しない技術構成要素のみを、記載の明瞭化を期するべく詳述したものである。
また、「軽量微小素材が粒径1〜200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される」については、補正前の記載が茫漠とした感を与えかねず、解釈次第では不要に広い権利範囲とされる可能性があったところ、出願当初の明細書等の記載をもとに、大幅に制限を加え、適法に特許請求の範囲減縮を試みたものである。
さらに、請求人は、本件発明がその公開公報である審判甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であるとしているが、このことは第2回補正が新規事項の付加のない適正な補正であることの証左である。
したがって、第2回補正は明細書の要旨を変更するものではなく、出願日も当初通りであって、審判甲第2号証は公知刊行物とはいえないから、請求人の主張する無効理由1には理由がないものである。
(2)無効理由2に対する反論本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄における実施例の項の記載は、出願人が最良と思うものを記載すれば良く、課題を解決するための手段の項の記載から推測できる全ての技術手段を記載する必要はないから、請求人の主張する無効理由2には理由がないものである。
(3)無効理由3に対する反論本件特許明細書の特許請求の範囲の欄の記載は上位概念的過ぎるとのことであるが、その理由が具体的且つ論理的に示されていないことから、請求人の主張する無効理由3には理由がないものである。
(4)無効理由4に対する反論本件発明は、審判甲第3乃至6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求人の主張する無効理由4には理由がないものである。
6.当審の判断便宜上、まず、無効理由4について判断する。
(1)本件発明本件発明は、上記「2.本件発明」で認定したとおりのものである。
(2)証拠これに対して、請求人の提示した、審判甲第3乃至6号証とその記載事項は次のとおりである。
1)審判甲第3号証:特公昭51-893号公報a.「本発明は、発泡スチロールを主材とした児童工作用の彫塑材料に関するものである。」(1欄21〜22行)b.「従来、児童用工作材料として用いられる彫塑材料としては、再生パルプ、
紙粘土、泥粘土等があるが、これらには次のような欠点がある。(1)ひび破れができ破損し易い。(2)未乾燥のものでも継ぎ足しができず、乾燥後の継ぎ足しは不可能である。(3)重い。(4)芯材に接着し難い。(5)附着すると手その他を汚し易い。(6)一部のものは異臭がある。(7)細長いもの、薄いものを作ることは困難である。(8)白色のものは得られない。本発明は、このような欠点を除去するために、発泡スチロールを主材とし、これに化学的粘着剤とパルプを加え発泡スチロールとパルプが化学的粘着剤でねり合されて軽量で加工性の良いしかも色の美しいものを得ようとするものである。」(1欄23行〜2欄4行)c.「本発明品の一例を説明する。発泡スチロール粉末10%パルプ6.5%CMC6.5%水その他77%以上の重量比配合剤をねり合せて製品とする。このものは発泡スチロール粉末とパルプの繊維がCMCによって結合されて粘土状となったものである。」(2欄5〜15行)d.「本発明は上述のように、発泡スチロールを主材としたから軽量であり、塑型したときに自重により変形したりすることがなく、・・・製品が軽重であるから指人形等に用いるに好適である。」(2欄16〜22行)e.「パルプの繊維が化学的粘着剤を介して発泡スチロールに絡み合うため強度を出すことが出来、前述の発泡スチロールの軽量性と相まって細長いもの又は薄いものの塑型に一層好適となる。」(2欄24〜28行)f.「発泡スチロール、パルプは何れも任意の着色のものを得ることが出来るから、例えば白色等の美しい色彩のものを得ることが出来る。」(2欄28〜31行)等が記載されている。
これらの記載をまとめると、審判甲第3号証には、発泡スチロール粉末を主材とし、これにCMCなどの化学的粘着剤と、水その他と、パルプ繊維とを加えて構成される児童工作用の粘土状の彫塑材料が記載され、かつ、その目的が軽量化や任意に着色できることや白色のものを得ることなどであることが記載されている。
2)審判甲第4号証:特公昭51-34331号公報a.「模型用粘土組成物」(発明の名称)b.「本発明に係る添加物としては、・・・マイクロバルーン(硝子製およびナイロン製)などの粉末のうち何れか1種または2種以上の混合物を使用する。」(3欄2〜10行)等が記載されている。
3)審判甲第5号証:米国特許第3607332号明細書(特許日1971年9月21日、翻訳は、請求人による翻訳とこの翻訳に対する被請求人の平成10年1月20日付け答弁書による意見とを参酌しつつ当審が行った)a.「この発明は、ひび割れに対する抵抗性があり、しかも軽量であることが好ましい熱可塑性の造形用組成物に関するものであり、この組成物は、高温では可塑性で、かつ成形可能であり、そして室温においては、硬くなって崩れや変形に対する抵抗性があるものとなるが、それでもなお柔軟であって手指の圧力で変形することができ、この造形用組成物中には、硬い規則的な形をした微小粒子が分布しており、その微小粒子の形状は、例えば球状あるいは板状であって、好ましくは硬くてhollow(辞書的には、中空の、穴のある、くぼみのある、などの意)の微小気泡体であり、その微小粒子の大きさはここでは500ミクロン以下に規定されている」(1欄8〜17行)b.「少なくともクレーと可塑化のための有機ビヒクルを含む細かく分割された充填材を約10〜50容量%の硬くて規則的な形をした微小粒子と一緒にした可塑性のあるクレー様物質のよく混ぜ合わせたものが、上記目的を達成する熱可塑性の造形用組成物として使用できることが見い出され、その実施に用いられる微小粒子は、好ましくはhollowの微小球である」(1欄60〜68行)c.「このクレー様物質は、さらに充填材を滑らかにし且つ結合させるための、
熱軟化性で可塑性のビヒクルを含む」(2欄20〜22行)d.「好適なビヒクルとしては、次のような物質およびそれらの混合物、すなわち、グリセリン、脂肪酸、重合脂肪酸、ロジン油、ヤシ油の如き油、また、ラノリン、ペトロラタム、獣脂の如きグリース、並びにパラフィンワックス、ビーワックスおよび結晶性脂肪酸エステルの如き熱可塑性の固体などがある」(2欄31〜36行)e.「好ましいビヒクルは、約30〜75重量%のダイマーもしくはトリマー酸(例えばウッドロジンから誘導されるもの)、約0〜45重量%のラノリンまたはグリセリン、および約20〜40重量%の炭化水素ワックス(例えばパラフィン)からなる」(2欄37〜41行)f.「この発明の好ましい造形用組成物は、規則的な形の微小粒子を約10〜50容量%含み、それにより成形された後に放置されてもひび割れに対して顕著な抵抗性がある」(2欄42〜46行)g.「その微小粒子は、好ましくは硬くてhollowの微小気泡体(例えば米国特許第3365315号,Beck他,1968年1月23日発行)であって、
これはさらに密度の著しい低下の効果をもたらすものであり、これにより組成物の崩れに対する抵抗性を改善する」(2欄46〜50行)h.「所望する組成の調度に応じて、微小気泡体の直径は5〜300ミクロンのオーダーの範囲で選択されるのが適切であり、造形用組成物へ滑らかさが要求されない場合にはより大きな直径の微小気泡体を用いることができるが、好ましい微小気泡体の平均直径としては10〜150ミクロンであり、その理由として、150ミクロンを超える直径を持つものは組成物を幾分荒くするからであって、自動車用の原形型を成形する等のためには10〜100ミクロンの直径を持つ微小気泡体が特に好適であり、また、密度の特に小さい造形用組成物を欲しいときには、密度が0.10〜0.60g/ccの、好ましくは0.20〜0.40g/ccのオーダーを持つ微小気泡体を使用すればよい」(2欄61〜75行)i.「造形用組成物のひび割れを減らすのに有効な微小球のさらなる例として、
hollowのガラス微小気泡体、中実ガラス微小球、中実エポキシ微小球、発泡ポリスチレン球およびフェノール性微小気泡体がある」(3欄10〜14行)j.「この発明の造形用組成物には場合により着色剤等を含有してもよく、酸化クロム、カーボンブラック、油展クロムイエローのような顔料は、それらが接触する材料を汚さないので染料より好ましい」(3欄45〜49行)k.「請求項1.実質的に、揮発性成分を含まず、100°F〜150°F(約38°C〜66°C)の温度では比較的柔らかくて容易に成形されるような可塑性と成形性とを有しており、そして室温では硬くなって崩れや変形に対する抵抗性があるものとなるが、それでもなお柔軟であって手指の圧力で変形することができる熱可塑性の造形用組成物であり、この組成物は、少なくともその10重量%がクレーである細かく分割された粒子状固体の充填材と、そのための熱可塑性可塑化用の有機ビヒクルと、そして全体にわたり分布される約10〜50容量%の予め定められた規則的な形と大きさの硬い微小粒子とからなる可塑性のクレー様物質のよく混ぜ合わせた混合物であって、成形された後に放置されてもひび割れに対する抵抗性があるものである」(5欄58行〜6欄11行)等が記載されている。
これらの記載を整理すると、審判甲第5号証には造形用組成物について次の事項が記載されている。
イ.室温において、高温時より硬くなって崩れや変形に対する抵抗性があるが、
なお柔軟であって手指の圧力で変形することができるクレー様物質のよく混ぜ合わせた熱可塑性の造形用組成物であることロ.成形後のひび割れに対する抵抗性を図るものであり、さらに好ましくは軽量化を図るものであることハ.ひび割れに対する抵抗性のためには球状などの規則的な形と大きさの硬い微小粒子を混ぜ合わせることニ.微小粒子が好ましくはhollowの微小球または微小気泡体であることホ.微小粒子が微小気泡体であると密度の著しい低下の効果をもたらして組成物を崩れ難くすることヘ.微小球としてはガラス製の他にエポキシ系やポリスチレン系やフェノール系などの合成樹脂製のものも考えられることト.微小気泡体の直径は500ミクロン以下に規定され、5〜300ミクロンの範囲で選択するのが適切であること4)審判甲第6号証:特公昭42-26524号公報a.「揮発性流体発泡剤を含む膨張性熱可塑性重合体粒子」(発明の名称)b.「本発明はプラスチック粒子に関する。」(1頁右欄21行)c.「多くの例において、細胞のサイズの小さい単一細胞状ボジー(body)を形成することができ、型のくぼみの微細な変化に合致させることのできる膨張性熱可塑性樹脂状物質を入手できる事が望ましい。」(1頁右欄下14〜下10行)d.「本発明に従えばこれらの利益は、その中に少なくとも1つの液状揮発性の膨張剤を個々に内包した単一細胞状の熱可塑性樹脂状粒子を提供することによって達成される。」(1頁右欄下4〜末行)e.「第1図は、粒子10の断面を示す。粒子10は熱可塑性樹脂状の一般に球状の殻12から構成される。・・・内部には液状発泡剤17が含まれ、・・・粒子10は一般に対称的球状形態を有し、内表面15と外表面14は通常同心円的に配置される。第2図は、熱可塑性樹脂状物質の物体21からなる単細胞状粒子または単細胞20の断面図を示す。物体21は一般に球状殻状を呈し、・・・内表面24は空間26を限界する。・・・第1図の球状殻12を第2図の殻21に変形するに適当な圧を与えるほど充分に発泡剤17の少なくとも一部分を蒸発または揮発させるに十分な温度まで加熱することにより形成される。」(2頁左欄1〜19行)f.「塩化ビニルと塩化ビニリデンとの共重合体および、塩化ビニル、臭化ビニルおよびこれらに類するハロゲン化ビニル化合物を含むアクリロニトリルは本発明に基づく組成物中に組合わせられる。」(3頁左欄21〜24行)g.「一般に、大部分の応用に対しては、1〜50ミクロン好ましくは、2〜10ミクロンの極めて小さい直径を有するビードを製造することが望ましい。」(4頁左欄28〜31行)h.「一般に、第1図のごとき対称性のビートを作るためには、単量体混合物中に共重合性極性系を混合することが望ましく」(4頁左欄下5〜下3行)i.「10〜80wt%のアクリロニトリルとスチレンとの共重合体は特に有利に使用される。」(4頁右欄20〜22行)j.「少なくとも80%対称性の包込みはアクリロニトリルと塩化ビニリデン約7〜60wt%の重合体を利用して達成される。」(4頁右欄下16〜下13行)k.「膨張したビードまたは粒子、好ましくは本発明による直径0.5〜20ミクロンの膨張粒子は容易に被膜中に混合できる。」(5頁右欄下10〜下8行)l.「膨張粒子は、水溶性重合体物質を用いて水性系に容易に分散させることができる。」(6頁左欄下17〜下15行)m.「ビードは最初の直径の約2〜5倍に膨張した。」(13頁右欄3〜4行)等が記載され、
また、図面第1図に、本発明の球状の殻を有する熱可塑性樹脂状粒子が、第2図に、第1図の熱可塑性樹脂状粒子を熱処理して、外殻が単一の空間を内包する単一の中空球としたものが記載されている。
これらの記載を整理すると、審判甲第6号証には膨張性熱可塑性重合体粒子について次の事項が記載されている。
イ.球状の殻に内包する発泡剤を揮発させることにより膨張し、外殻が単一の空間を内包する単一の中空球となることロ.ビードの直径は、大部分の応用に対しては1〜50ミクロンであり、膨張の例として直径が約2〜5倍になる例があることハ.外殻の材料としては共重合体が有利であり、塩化ビニリデンを一成分とする共重合体やアクリロニトリルを一成分とする共重合体などがあること(3)対比本件発明と審判甲第3号証に記載された発明とを対比するに、審判甲第3号証記載の発明の彫塑材料は、児童工作用の粘土状のものであり、教室などで使用される粘土であって、軽量化を主な目的の一つとし、それを達成している点で軽量粘土と称することができるものである。
審判甲第3号証記載の発明における発泡スチロール粉末は、合成樹脂からなる微小な素材であり、軽量化を主な目的の一つとして用いられる主材である点で軽量微小素材と称することができるものである。
審判甲第3号証記載の発明におけるCMC(カルボキシメチルセルロース)は、
化学的合成物質であり、化学的粘着剤として用いられていることから、本件発明のカルボキシメチルセルロース(粉)などを具体例として含む合成粘結剤に対応する。
審判甲第3号証記載の発明における水は、非液状成分を馴合させて粘土としての柔軟性を与えることのできる液体成分であるから、本件発明の水などを具体例として含む馴合液材に対応する。
審判甲第3号証記載の発明におけるパルプ繊維は、微小な発泡スチロール粉末と絡み合うものであり、当然に微細化されて添加される物であるから、本件発明のパルプ(繊維粉)などを具体例として含む添加物に対応する。
これらのことから、本件発明と審判甲第3号証に記載された発明とは、「軽量微小素材を主素材とし、これに合成粘結剤と、馴合液材と、添加物とを加えて構成される軽量粘土」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>軽量微小素材が、本件発明では、粒子中に気体を内包する粒径1〜200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成されるのに対して、審判甲第3号証記載の発明は発泡スチロール粉末である点。
(4)相違点についての判断相違点について検討するに、粒子中に気体を内包し、粒径が1〜200ミクロンの範囲内にあり、その外殻が単一の空間を内包し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される微小中空球自体は周知である。
すなわち、審判甲第6号証には、ダウ・ケミカル社の出願に係る発明において、
外殻が単一の空間を内包する単一の中空球が記載され、その外殻の材料の例として、塩化ビニリデンを一成分とする共重合体やアクリロニトリルを一成分とする共重合体が記載されている。
審判甲第6号証に記載された前記中空球は、球状の殻に内包する発泡剤を揮発させることにより膨張したものであるから、当然に気体を内包しているものである。
また、審判甲第6号証に記載された前記中空球の大きさについては、膨張前の直径が大部分の応用に対して1〜50ミクロンであるとの記載があり、膨張後の直径については特定の例において約2〜5倍になることが示されているが、塩化ビニリデンやアクリロニトリルを一成分とする共重合体を材料とする前記中空球においても、この程度の倍率で膨張させることは、膨張前の発泡剤の量やそれを内包する殻の厚さや加熱条件などを適宜調整してできるものと認められる。
加えて、昭和50年10月25日に丸善株式会社が発行した「化学工学協会編最近の化学工学特殊粉体技術」(本件発明の特許に係る平成9年審判第4513号無効審判事件の審判甲第5号証でもある)の112頁の「表1各種微小中空体とその簡単な性質(末尾の文献・資料より)」には、DOW社のポリ塩化ビニリデンを原料とする大きさが平均28ミクロンでかさ比重が0.016のサランマイクロスフェアが記載されており、同126〜127頁の「表6サランマイクロスフェアの性質」に、膨張後の化学組成が塩化ビニリデンとアクリロニトリルであり、
粒子径が10〜100μ、静水耐圧(破裂)が50〜250psi、耐溶剤性が優か良であることが記載されている。
DOW社のサランマイクロスフェアについては、「サラン」が、市販商品の「サランラップ」のように塩化ビニリデンを一成分とする共重合樹脂からなる製品の名称に使用されることがよく知られており、例えば、昭和45年6月20日に第2版が発行された「実用プラスチック用語辞典」(瀬戸正二監修、株式会社プラスチック・エージ)の192頁「サラン」の項に、「塩化ビニリデン樹脂に対する、DowChemical社(米)の商品名であるが、長期にわたって市場占有率が高かったため、慣用的にこの樹脂をサランと呼ぶことが多い。単独重合体は加工性にきわめて乏しいので塩化ビニルやアクリロニトリルとの共重合体にしている。繊維、フィルム、エマルジョン、成形粉がある。製品はSaranBtypeが塩化ビニル共重合体、SaranXtypeがラテックス、SaranFtypeがアクリロニトリル共重合体、SaranWrapが透明可撓性包装フィルムとなっている。」と記載されているように、当業者であれば、サランマイクロスフェアが塩化ビニリデンとアクリロニトリルの共重合体からなる透明な微小中空体であることを当然に理解できるものである。
審判甲第6号証に係る発明の特許出願についての出願公告時期や前記「化学工学協会編最近の化学工学特殊粉体技術」と「実用プラスチック用語辞典」の発行時期、及び後者の二つの文献が共にプラスチックの分野における一般的概説書であると認められることも併せ考えると、本件発明の出願当時、粒子中に気体を内包し、粒径が1〜200ミクロンの範囲内にあり、その外殻が単一の空間を内包し、
該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂から形成される透明な微小中空球は、当業者にとって周知であったものと認められる(以下、この周知の微小中空球を「当該周知の微小中空球」という)。
本件発明は、審判甲第3号証に記載された発明に、発泡スチロール粉末に代えてこの当該周知の微小中空球を採用したものといえる。
そこで、次に、該採用が当業者にとって容易といえるか否かについて検討する。
審判甲第3号証記載の発明において、発泡スチロール粉末は粘土の軽量化を主な目的の一つとする主素材としての軽量微小素材であるが、その発泡構造における空間の存在が軽量化に関与していることは明らかであるから、軽量化のための微小素材としては、発泡スチロール粉末に限らず、空間を有する構造の合成樹脂からなる微小素材が想起されるものである。
このような空間を有する構造の合成樹脂からなる微小素材により粘土の軽量化を図ることは審判甲第5号証にも記載されている。
審判甲第5号証に記載された造形用組成物は、室温において、高温時より硬くなって崩れや変形に対する抵抗性があるが、なお柔軟であって手指の圧力で変形することができるクレー様物質のよく混ぜ合わせた熱可塑性の造形用組成物であるから、室温環境下で手指の圧力で変形できる粘土といえるものであり、ひび割れに対する抵抗性を図るために混ぜ合わされる主素材としての微小粒子は、合成樹脂からなる500ミクロン以下の球状のものでもよいのであるが、さらに好ましくは軽量化を図るものでもある。
審判甲第5号証には軽量化を図るための手段について直接的な記載はないが、hollowの微小球または微小気泡体が好ましい旨の記載、及び微小粒子が微小気泡体であると密度の著しい低下の効果をもたらして組成物を崩れ難くする旨の記載があり、密度の低下は単位体積当たりの質量が小さくなること、すなわち軽量になることであって、軽量な組成物は自重によっては崩れ難くなるものであるから、軽量化を図るための手段が、主素材としての微小粒子に微小気泡体を採用することであることは明らかであり、かつ、同じ材料からなる微小粒子であっても、微小気泡体が軽量化を図れるということは、微小気泡体が空間を有する構造だからであることも明らかである。
すなわち、粘土の軽量化のために、空間を有する構造の合成樹脂からなる微小素材を採用することは、審判甲第5号証にも実質的に記載されていることであり、また、該微小素材の大きさや形状については、審判甲第3号証記載の発明が数百ミクロン以下のものや球状のものを除外しているわけでもなく、審判甲第5号証の記載からみても、例えば、500ミクロン以下の球状のものでもよいものである。
そうすると、審判甲第3号証記載の発明における、発泡スチロール粉末に特定してある軽量微小素材について、従来知られた、空間を有する構造の合成樹脂からなる500ミクロン以下の球状の微小素材の中から、審判甲第3号証に記載された従来の粘土の欠点(記載事項b参照)の除去を阻害しないものを求めて適宜採用することは、当業者ならば容易に想起できることと認められる。
そして、前記当該周知の微小中空球は、従来知られた、空間を有する構造の合成樹脂からなる500ミクロン以下の球状の微小素材に該当するものであり、この当該周知の微小中空球を、審判甲第3号証記載の発明における発泡スチロール粉末に代えて採用し、化学的粘着剤(CMC),パルプ,水と共にねり合わせた粘土が、
審判甲第3号証に記載された従来の粘土の欠点である、ひび破れし易いとか、継ぎ足しができないとか、芯材に接着し難いとか、手などを汚し易いとか、異臭があるとか、細長いものや薄いものを作れないとか、の除去を阻害するものにならないことは、当業者において容易に予測できることであり、前記サランマイクロスフェアのかさ比重が0.016と極めて軽量である例からみても、粘土の軽量化をより図れることは当業者において当然に想起できることであり、透明な微小中空球が光の乱反射で白く見えることは技術常識であるから、粘土の白色化をより図れることも当業者において当然に想起できることであり、かつ、化学的粘着剤(CMC),パルプ,水と共にねり合わせることで当該周知の微小中空球の空間が消滅することなどないことも当業者にとって容易に予測できることであるから、審判甲第3号証記載の発明における、発泡スチロール粉末に特定してある軽量微小素材について、前記当該周知の微小中空球を採用することは、当業者ならば容易に想到できることと認められ、前記相違点は当業者が容易になし得た設計の変更と認められる。
しかも、前記相違点に係る構成を採用した本件発明の作用効果についてみても格別のものは認められない。
軽量微小素材を前記当該周知の微小中空球とすることによって、粘土の軽量化や白色化がより図られることは、前示したように、当業者において当然に想起できることであって、軽量化によって運搬が楽になることや白色化によって鮮明な色付けができることも技術常識といえることである。
水等の馴合液材が軽量微小素材の表面に浸透しないため少量で済むことや中空の軽量微小素材がその弾性により破砕し難いことは、前記サランラップ(商品名)が日常的な例であるが、塩化ビニリデンを成分とする共重合樹脂からなるものが水を通し難いことや弾性を有すること(一般に熱可塑性樹脂の発泡体は弾性を有する)は当業者においてよく知られていることであるため、容易に予測できるものである。
また、球形の軽量微小素材により粘土が馴合度よく滑らかできめ細かくなることも、非球形のものや表面がざらつくものなどからすれば当然のことであって、当業者ならば容易に予測できることである。
さらに、塩化ビニリデンないしアクリロニトリルを一成分とする共重合樹脂からなる微小中空球が無機質成分でないことは自明であって、通常の焼却炉で焼却できることは当業者ならば容易に予測できることである(塩化ビニリデンの蒸気が人体に有毒であることやアクリロニトリルが毒性の高い液体であることはよく知られており、通常の焼却炉では有毒なガスの発生の可能性もあって効果といえるかどうか疑わしい点もあるが)。
被請求人は、平成10年1月20日付け答弁書において、審判甲第5号証には軽量化の課題解決の記載はない旨主張しているが、前示のとおり、微小気泡体が空間を有する構造であることによって解決することが実質的に示されていることから、
この主張は採用できない。
また、被請求人は、同書において、審判甲第5号証記載の造形用組成物は学校教材用や美術工芸用でないため産業上の利用分野を全く異にする旨主張しているが、
前示のとおり、室温環境下で手指の圧力で変形できる粘土といえるものであって、
その前記軽量化のための技術的事項は、前示のとおり、審判甲第3号証記載の発明が主たる目的の一つとする軽量化のために当業者であれば容易に勘案できることから、この主張は採用できない。
したがって、本件発明は、審判甲第3,5乃至6号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
7.むすび以上のとおりであり、請求人の主張する無効理由4には理由があり、無効理由1乃至3について判断するまでもなく、本件発明は、審判甲第3,5乃至6号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実