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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ネ3453特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ2376特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ4193特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ180損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10034特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  置換 /  置換可能性 /  同一の作用効果 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (ネ) 6457号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 スカラ株式会社
訴訟代理人弁護士 中山徹
同 柿沼太一
同 小林幸夫
補佐人弁理士 鈴木正剛
同 村松義人
同 佐野良太
同 石崎依子
被控訴人 株式会社モリテックス
訴訟代理人弁護士 金森仁
同 山田学
補佐人弁理士 川尻明
同 澤野勝文
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置を製造、販売してはならない。
(3) 被控訴人は、その保管中の原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置及びその半製品を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置を製造するための金型を廃棄せよ。
(5) 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する平成13年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
1 控訴人は、名称を「拡大観察用の照明機構」とする発明(特許第3007978号、以下「本件発明」といい、その特許権を「本件特許権」という。)の特許権者であり、被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置(以下「被控訴人製品」という。)を製造、販売している。本件は、被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属し、被控訴人製品の製造、販売が本件特許権を侵害するとして、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人製品の製造、販売の差止め及び廃棄、不法行為による損害賠償等を求めている。
原審は、被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属さず、被控訴人製品の製造、販売が本件特許権を侵害しないとして、控訴人の請求を棄却した。
本件の当事者間に争いのない事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、
次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
2 控訴人の当審における主張 (1) 文言侵害 ア 被控訴人製品における内側LED121bは、それからの光が、本件発明における遮断用偏光板に相当する第2偏光板215を透過して偏光化されるものであって、本件発明における偏光化用偏光板である第1偏光板214を透過するようになっていないから、これを本件発明における偏光用光源とすることはできない。
イ 原判決は、被控訴人製品の有する二つの光源が、いずれも偏光板を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるから、偏光用光源であると認定するが、誤りであり、被控訴人製品の内側LED121bは、本件発明における非偏光用光源に該当する。すなわち、被控訴人製品は、2種類の画像を選択的に撮像し得るものであるから、その撮像原理に照らし、被控訴人製品が備える選択的に点灯可能な二つの光源が互いに異なる機能を持たなければならない。被控訴人製品における二つの光源がいずれも偏光用光源であるとすれば、2種類の画像を撮像することは不可能となる。被控訴人製品の二つの光源のうち外側LED121aが本件発明における偏光用光源に該当することは当事者間に争いがないから、他方の光源である内側LED121bが非偏光用光源に該当すると解するほかはない。
ウ 被控訴人製品の内側LED121bは、形式的には、自然光を被観察物に照射するという構成を具備せず、一見、非偏光用光源に該当しないかのように見える。しかしながら、被控訴人製品の第2偏光板215の外周部分は、第1偏光板214と偏光面が同方向となるように配置されているから、減光手段以外に何ら技術的意義はなく、「それからの光が、偏光化用偏光板を透過して偏光化されることなく」という構成を具備しているというべきである。そうすると、被控訴人製品の内側LED121bは、本件発明の非偏光用光源に該当し、被控訴人製品は、本件発明の構成をすべて具備した上、その作用効果に何ら影響のない不要な第2偏光板215を付加したものにすぎない。
エ 本件明細書では、「照明」と「照射」が使い分けられており、前者は光学系CCDに到達する光の性質を、後者は被観察物に当たる光の性質を問題としている。本件発明は、照明機構の発明であるから、「照明」の観点がより重要であり、
2種類の光源から「照射」される光がいずれも偏光であることを理由として被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属しないとする原判決の判断は、「照明」の観点が欠落している。
(2) 均等論 ア 発明の本質的部分 本件発明は、間接反射光を主体とした被観察物内部の観察と、直接反射光を主体とした被観察物表層の観察とを選択的に行い得る照明機構のパイオニア発明ではなく、その照明を単純で製作容易な機構で制御することを可能とした応用発明である。均等の成立要件である発明の本質的部分とは、本件発明において、2種類の光源及びこれに基づく2系統の照明系の一方で間接反射光主体の撮像を、他方で直接反射光主体の撮像を行うことを可能とし、これらの光源を選択的に発光させるだけで、上記2種類の撮像を選択的に行い得ることである。原判決は、被控訴人製品が非偏光用光源による照明を選択し得ないことから、本件発明の作用効果を奏することもないと判示するが、誤りである。この判断は、非偏光が自然光であるという認定に基づくものであるが、本件発明における照明光の選択は、被観察物の内部及び表層を選択的に観察するために行われるのであり、この観察が可能である限り、本件発明の本質的部分を具備しているということができる。
置換可能性 均等の成立要件である置換可能性の有無を判断するに際し、発明の奏する作用効果とは、発明の本質的部分の奏する作用効果であると解すべきである。本件において、発明の本質的部分の奏する作用効果は、「故障的要素の少ない、より単純で製作が容易な機構で偏光の制御が行える」という作用効果に限られ、「直接反射光を主体とする観察を行う際に自然光を照射する」ことは、これに含まれない。被控訴人製品は、環状に配列された光源を複数のブロックに分けて形成された2種類の光源を設け、これらの光源を選択的に発光させることを可能とする構成を採用しているのであり、本件発明の作用効果を奏するということができる。
原判決は、非偏光による照明を選択することができなければ本件発明の作用効果を奏することもないと判示するが、本件発明における照明光の選択は、被観察物の内部及び表層を選択的に観察するために行われるのであり、これが可能である限り、本件発明の作用効果は奏される。原判決は、被控訴人製品が非偏光による照明を選択することができないと判断するが、非偏光が自然光と同一の意義であると解するものであって、誤りである。
被控訴人製品は、技術的に意味のない偏光板を光路中に置くことで、本件発明と同一の作用効果を奏するものであって、本件発明と置換可能性がある。本件明細書(甲第1号証)の【従来の技術】欄に記載された、特開平3-135276号公報(特願平1-273419号公報、甲第7号証)には、光源からの照明光が、偏光板を機械的に動かすか又はその偏光面を回転させることにより、偏光化された状態又は自然光の状態で選択制御される構成が開示されている。被控訴人製品が置換可能性を有することは、上記公報の記載からも明らかである。
3 被控訴人の当審における主張 (1) 文言侵害 本件発明における「偏光用光源」と「非偏光用光源」の意義は、そこから偏光又は非偏光が照射されるものであり、被控訴人製品の第1偏光板と第2偏光板の向きが直交しないからといって、控訴人主張のように内側LED121bが非偏光用光源に該当するということはできない。
(2) 均等論 ア 発明の本質的部分 本件発明の本質は、「偏光用光源」及び「非偏光用光源」という選択的に発光可能な二つの光源を備えた拡大観察用の照明機構において、単純で製作が容易な機構により照明光の制御を行うことに尽きる。
置換可能性 偏光は、ある特定の方向にのみ振動する光であるのに対し、自然光は、
様々な振動方向を有する偏光の集合であることは、控訴人も認めるものである。両者は光学要素が相違するから、非偏光用光源を偏光用光源に置換することはできない。
当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決7頁24行目の「照明機構において,」の次に「偏光用光源及び非偏光用光源は、環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であり,」を加える。
(2) 同8頁10行目から11行目までを「も合致するものである。」に改め、
18行目の「光源は,」の次に「そこからの光が,」を加え、23行目の「被告装置」を「被控訴人製品」に改める。
(3) 同9頁1行目の「照明機構において,」の次に「偏光用光源及び非偏光用光源は,環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であるという構成を採用することにより,」を加え、8行目の「を『偏光用光源』に」から9行目「認められないから,」までを「は,本件発明の本質的部分であるから,これを具備しない」に改める。
2 控訴人の当審における主張について (1) 文言侵害 ア 控訴人は、被控訴人製品における内側LED121bは、それからの光が、本件発明における遮断用偏光板に相当する第2偏光板215を透過して偏光化されるものであって、本件発明における偏光化用偏光板である第1偏光板214を透過するようになっていないから、これを本件発明における偏光用光源とすることはできないと主張する。
しかしながら、本件発明においては「選択的に発光可能とされた偏光用光源と非偏光用光源とを設け、そして、偏光用光源からの光については偏光化用偏光板を透過させる」(原判決3頁の構成要件ア。以下、単に「構成要件ア」などという。)という構成が採用されているから、それからの光が偏光化用偏光板を透過しない光源は「非偏光用光源」であることとなるけれども、本件においては、被控訴人製品がこのような本件発明の構成を具備するかどうかが争点であるから、控訴人主張のような推論をすることは、被控訴人製品が本件発明の構成を具備することを前提として結論を先取りするものであり、誤りである。すなわち、被控訴人製品の内側LED121bは、本件発明の偏光化用偏光板に相当する第1偏光板を透過していないが、このことから直ちに内側LED121bが本件発明の非偏光用光源に該当するということはできないのであって、そのようにいうためには、被控訴人製品が本件発明の構成要件アを充足することが前提となる。本件発明と被控訴人製品が同一の作用効果を奏するとしても、一般に、複数の異なる構成が同一の作用効果を奏することはあり得るから、被控訴人製品が、偏光用光源を有し非偏光用光源を有しないにもかかわらず、本件発明と同一の作用効果を奏することはあり得ることである。
なお、被控訴人製品が本件発明の構成要件ウを充足することは当事者間に争いがなく(原判決3頁)、被控訴人製品において、本件発明の「偏光化用偏光板」に相当する第1偏光板214の透過により形成された偏光を、本件発明の「遮断用偏光板」に相当する第2偏光板215が遮断するけれども、このことは、被控訴人製品の内側LED121bが「非偏光用光源」に該当することを何ら推認させるものではない。
イ 原判決は、被控訴人製品の有する二つの光源が、いずれも偏光板を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるから、偏光用光源であると認定するところ、控訴人は、被控訴人製品の内側LED121bは、本件発明における非偏光用光源に該当すると主張する。しかしながら、上記引用に係る原判決の説示(6頁19行目〜8頁21行目)のとおり、被控訴人製品の内側LED121bからの光は、第2偏光板215を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるから、内側LED121bが本件発明における非偏光用光源に該当するということはできない。
控訴人は、被控訴人製品が2種類の画像を選択的に撮像し得るものであるから、その撮像原理に照らし、被控訴人製品が備える選択的に点灯可能な二つの光源が互いに異なる機能を持たなければならないとか、被控訴人製品における二つの光源がいずれも偏光用光源であるとすれば2種類の画像を撮像することは不可能になると主張する。しかしながら、被控訴人製品において、内側LED121bからの光は、第2偏光板215を透過することにより偏光化されて被観察物に照射されるが、被観察物表面からの直接反射光は、その偏光化の向きが第2偏光板215によって遮断されないものであるから、被控訴人製品における二つの光源をいずれも偏光用光源と解しても、その撮像原理に照らし、2種類の画像を撮像することは可能であって、
内側LED121bを偏光用光源ということは何ら妨げられるものではない。
ウ また、控訴人は、第2偏光板215の外周部分が第1偏光板214と偏光面が同方向となるように配置されているから、被控訴人製品の内側LED121bは、減光手段以外に何ら技術的意義はなく、「それからの光が、偏光化用偏光板を透過して偏光化されることなく」という構成を具備しているというべきであると主張する。しかしながら、原判決説示(前同)のとおり、被控訴人製品の内側LED121bからの光は、
第2偏光板215を透過することにより偏光化するのであるから、内側LED121bが「それからの光が、偏光化用偏光板を透過して偏光化されることなく」という構成を具備するということはできない。
エ さらに、控訴人は、本件明細書では「照明」と「照射」が使い分けられており、前者は光学系CCDに到達する光の性質を、後者は被観察物に当たる光の性質を問題としているとした上、本件発明が照明機構の発明であるから、「照明」の観点がより重要であるとか、被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属しないとする原判決の判断は「照明」の観点が欠落していると主張する。しかしながら、本件明細書における「照明」と「照射」の使い分けについてはさておいても、被控訴人製品の内側LED121bからの光が第2偏光板215を透過することにより偏光化する以上、
内側LED121bが本件発明の非偏光用光源に該当しないことは上記のとおりであって、
このことは、本件明細書における「照明」と「照射」の使い分けいかんによって左右されるものではない。
(2) 均等論 ア 発明の本質的部分 控訴人は、本件発明について、間接反射光を主体とした被観察物内部の観察と直接反射光を主体とした被観察物表層の観察とを選択的に行い得る照明機構のパイオニア発明ではなく、その照明を単純で製作容易な機構で制御することを可能とした応用発明であると主張する。
確かに、間接反射光を主体とした被観察物内部の観察と直接反射光を主体とした被観察物表層の観察とを選択的に行い得る照明機構については、本件明細書(甲第1号証)の【従来の技術】の欄に記載された、特開平3-135276号公報(特願平1-273419号公報、甲第7号証)において、光源からの照明光が、偏光板を機械的に動かすか(特許請求の範囲の請求項4)、又は偏光面を回転させる(同1)ことにより、偏光化された状態又は自然光の状態で選択制御される構成が開示されている。また、本件明細書には、「【0003】このような制御の例としては、例えば、特願平1-26462号及び特願平1-27341号(注、
「273419号」の誤記と認める。)等に示される技術がある。これらの技術は、何れも偏光板を機械的に動かすか、あるいは偏光面を回転させるための手段を設けることにより偏光の選択制御を行うようにしている。しかし、このように偏光板を機械的に動かしたり、偏光面回転手段を設けるようにする技術には、その作動機構の構成がなかなか面倒であり、またそのために全体が複雑化し、さらには故障的要素が多くなる等の欠点がある。【0004】【発明が解決しようとする課題】そこで、この発明では、偏光板を動かしたり偏光面回転手段を設けたりすることなく偏光の制御を行えるようにした拡大観察用の照明機構の提供を目的とする」との記載がある。
これらの証拠によれば、本件発明の本質的部分は、偏光板を動かしたり偏光面回転手段を設けたりすることなく、その照明を単純で製作容易な機構により制御することを可能とした点、すなわち、特許請求の範囲の記載中「偏光用光源及び非偏光用光源は、環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であり」(構成要件イ)の部分であるというべきであるから、非偏光用光源を有しない被控訴人製品は、本件発明の本質的部分を具備しないものであって、本件発明と均等のものとしてその技術的範囲に属するということはできない。
イ 控訴人は、本件発明における照明光の選択は、被観察物の内部ないし表層を選択的に観察するために行われるのであり、これが可能である限り、本件発明の作用効果を奏するということができると主張する。しかしながら、被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するというためには、その構造が本件明細書の特許請求の範囲に記載された要件を文言上具備するか、又はこれと均等であることが必要である。仮に、被控訴人製品が本件発明の奏する効果と同様の効果を奏したとしても、本件明細書の特許請求の範囲に記載された「非偏光用光源」を具備せず、したがって、本件発明の本質的部分である「偏光用光源及び非偏光用光源は、環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であり」との構成を具備せず、均等ということもできない場合には、被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に属するということはできない。
ウ 控訴人は、本件発明の非偏光用光源と被控訴人製品の内側LED121bの置換可能性についても主張するが、被控訴人製品が本件発明の本質的部分である「偏光用光源及び非偏光用光源は、環状に形成された光源を分けて形成した複数のブロックの各々であり」の構成を具備しない以上、上記置換可能性につき判断するまでもなく、被控訴人製品が本件発明と均等であるということはできない。
3 結論 以上のとおり、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男