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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ネ1563特許権差止請求権不存在確認等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ1112各特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ959損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ2818特許権不侵害確認請求・特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ1223特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  製造方法 /  新規性 /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  消尽 /  権利の濫用(権利濫用) /  出願経過 /  意識的除外(意識的に除外) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  先使用権(先使用) /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  算定方法 /  譲渡数量 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 平成 13年 (ネ) 4146号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(被告) リンテック株式会社
訴訟代理人弁護士 田倉整、復代理人弁護士 田倉保、補佐人弁理士 志水浩
被控訴人(原告) 三水株式会社
訴訟代理人弁護士 森田政明、補佐人弁理士 永井義久
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決。
事案の概要
発明の名称を「記録紙」とする特許第2619728号(平成2年1月25日出願、平成9年3月11日設定登録)の特許権者である被控訴人は、原判決別紙製品目録記載のタコグラフ・チャート用紙の原紙を製造、販売していた控訴人に対し、
その製造、販売等の差止め等及び損害賠償を請求している。
原判決が、損害賠償請求の一部を棄却した以外は被控訴人の請求を認容したので、本件控訴があった。
被控訴人の請求内容、当事者間に争いのない事実及び争点(原審におけるもの)は、原判決事実及び理由中の第1及び第2に記載のとおりである。
原判決摘示の争点に対する判断
上記争点に対する当裁判所の判断も、原判決事実及び理由中の「第3 当裁判所の判断」に示されているとおりであるので、その判断に基づき被控訴人の請求を認容した部分を支持するものである。被控訴人の請求を認容する関係での説示は原判決のこの判断で十分に尽くされているが、控訴人が当審において補足して主張するところに対し、項を改めて、控訴人の主張を簡単に要約しつつ当裁判所の判断を示すことにする。
補足追加に係る控訴人の主張と当裁判所の判断
1 明らかな無効事由の存否 控訴人は、本件特許発明は昭和63年9月19日に出願されて平成2年3月20日に出願公開されたいわゆる拡大先願の範囲(特許法29条の2)に該当する特開平2-80288号の発明(いわゆる本州発明)、との対比において無効とされるべきである、と主張する。しかしながら、控訴人も自認するように、この無効理由に基づいてはこれから無効審判請求をする予定であるというのであり、現段階においては明らかに無効事由があると認めることはできない(明らかな無効事由があることを認めるべき証拠もない。)。
控訴人は、本件特許発明が特公昭50-14567号公報に記載の発明(いわゆるチャンピオン発明)との対比においても無効であると主張する。しかしながら、
その根拠が本件特許発明新規性欠如にあるのか、進歩性欠如にあるのか、主張からも判然としないし、また、@控訴人は平成11年審判第35263号無効審判請求において、平成5年11月12日付け手続補正は明細書の要旨を変更するものであること、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に発明実施することができる程度に構成等が記載されていないことを主張したが、その審判の請求は成り立たないとされ、その審決取消訴訟(東京高裁平成12年(行ケ)第149号)の判決でもその審決が支持されたこと(甲第192号証)、A控訴人は別の平成11年審判第35526号無効審判請求において、本件特許発明は、特開昭60-223873号公報、特開昭61-288118号公報、実願昭57-62444(実開昭58-164773号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム、実願昭49-156934(実開昭51-83366号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム及び特公昭43-778号公報に記載の各発明に照らして進歩性を欠如することを主張したが、その審判の請求は成り立たないとされ、その審決取消訴訟(東京高裁平成12年(行ケ)第280号)の判決でもその審決が支持されたこと(甲第193号証)、B無効2000-35092の無効審判請求において、平成4年12月14日付け手続補正は明細書の要旨を変更するものであるとして、平成4年12月14日に出願されたものとみなされるとし、その結果それより以前の公知文献と対比して進歩性を欠如すると主張したが、控訴人主張の要旨変更は認められないとして、その審判請求は成り立たないとされたこと(甲第199号証)、が認められる。このように、数度にわたり控訴人が請求した無効審判請求が成り立たないとされ、審決取消訴訟でもその審決が支持された経緯にあることにもかんがみると、本訴において、控訴人の上記主張に基づき本件特許発明に明らかな無効原因があるとまで認めることはできない。
2 市場に競合品が存在する場合の損害額の算定 控訴人は、市場には、本件特許発明の非侵害品で競合品が存在するから、原判決がしたように、控訴人の販売量のすべてについて被控訴人が主張するような利益率を掛けて損害額を算出するのは社会常識に合致しない、と主張するが、この主張をもってしても、侵害者の譲渡数量と特許権者の利益率とに基づいて特許権侵害損害額を算定すべきものとする特許法102条1項の規定に従ってした原判決の損害額算定方法を動かすものではない。
3 タコグラフ記録紙の特殊事由 控訴人は、タコグラフ記録紙の取引分野においては特許法102条1項の適用を認めるべきでない特殊な事情が存すると主張する。その根拠として、被告製品の品質が優れているのに対し、被控訴人の特許発明実施品は劣悪なものであること、被控訴人の特許発明実施品は低価格で特売されていたこと、解析体制が伴わないままではタコグラフ記録紙は市場に受け入れられないこと(解析体制やエンドユーザーの認証体制が整った控訴人の純正品でなければ、市場に受け入れられることはないこと)などを挙げ、乙第97号証の1をもって、これらの裏付けとしている。しかしながら、控訴人主張のこれらの事実をもってしても、特許法102条1項の適用を排斥するまでの特段の事実関係とすることはできず、控訴人の主張は理由がない。
4 原告製品が本件特許発明実施品ではないとの主張 控訴人は、被控訴人が本件特許発明実施品を製造、販売していないから特許法102条1項を適用することはできない旨主張する。しかし、甲第223号証によれば、被控訴人が平成4年9月ころから本件特許発明実施品を製造し、販売してきたことは明らかであり、これに反する証拠はない(乙第97号証の1は控訴人担当者の報告書であるが、被控訴人の実施品の成分については単に推測しているにすぎない。そこには、被控訴人実施品の製造方法が本件特許明細書に記載されているところと異なるとの報告部分もあるが、本件特許発明物の発明であるから、この報告部分は意味を持たない。)。
5 本件特許発明は本件特許出願前から先行実施されていたとの主張 控訴人は、本件特許発明に係る製品は、本件特許出願前から被控訴人の当時の取締役であったAによって販売されていたと主張し、この主張事実に基づき、本件特許は消尽していること、本件特許発明実施につき控訴人は畔柳典男の口頭による特許保証を得たこと、本件特許発明は出願前公然実施されていたこと、控訴人は先使用権を有することなどを主張し、これらの事実関係などに基づき本件特許権の行使は権利濫用に当たるなどと主張する。しかし、控訴人主張の販売に係る製品についての構成を認めるべき客観的な証拠はなく、控訴人のこれらの主張は前提事実を欠くものとして理由がない。
6 被告製品の特定 控訴人は、被告製品については原判決別紙製品目録記載のものとは別の特定をすべきであると主張するが、被告製品は平成9年1月から平成11年9月14日までの間のものであり、原判決別紙製品目録記載の特定が、平成11年9月14日に行われた仮処分執行(被控訴人を債権者とし控訴人を債務者とする東京地裁平成11年(ヨ)第22019号(甲第212号証はその認可決定)の仮処分命令に基づくもの。甲第33号証)によって執行官保管とされた被告製品に基づき、控訴人自らによってされたものであることは本訴の経緯から見て明らかである。したがって、
控訴人の上記主張は採用することができない。
7 文書提出命令の効果 当裁判所は、当審第1回口頭弁論期日前の平成13年7月31日、控訴人の証拠保全の申立てに基づき被控訴人に対して、納品書用紙帖及び請求書(控)の提出を命じたが、被控訴人からその提出はなかった。これについて、被控訴人代表取締役は平成13年8月17日に上申書を当裁判所に提出し、そこには、納品書用紙帖及び請求書(控)に関しては必要な書証を既に提出しており、代金決済の確認が完了した時点で廃棄しているから、文書提出命令に係る書類は既に廃棄済みであるとの説明記載がある。この記載説明に不自然な点は認められず、この説明記載が虚偽であることを認めるべき証拠もないので、当裁判所は、民訴法224条1項所定の効果を発動させないこととする。
8 その他の控訴人の主張について 控訴人は、◇本件特許発明は未完成発明であるとの主張、◇本件特許発明出願経過には要旨変更を理由とする補正があったとの主張、◇被告製品がいわゆる本州発明の実施品であることを理由とする自由技術の抗弁主張、◇畔柳典男の行為に基づく被控訴人の名板貸し責任や共同不法行為責任の主張、◇本件特許発明では着色原紙の表面に水を含んだ隠蔽層が含まれるのに、被控訴人の実施品や被告製品では水を含まない乾燥した隠蔽層であるとの主張(意識的除外、包袋禁反言)などに基づき、本件侵害を認め、損害額を算定した原判決説示の誤りを述べるが、これらの主張は上記説示したところから理由がないことが明らかであるか、又は主張事実を認めるべき証拠がないものに帰するものとして、いずれも採用することができない。
結論
以上のとおりであって、一部の金銭請求を除いて被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利