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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ワ3043特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成14ワ8729損害賠償請求事件 判例 特許
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平成16ワ20601特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 下位概念 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 19129号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ブイテックス
訴訟代理人弁護士 橘高郁文
補佐人弁理士 澤木誠一
同 澤木紀一
被告 エスエムシー株式会社
訴訟代理人弁護士 清永利亮
同 宮寺利幸
補佐人弁理士 千葉剛宏
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/11/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 被告は,別紙目録1,2記載の型式番号のゲートバルブを生産し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は,その占有に係る前項記載のゲートバルブの製品,半製品及びこれらの製造用金型を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,9007万円及びこれに対する平成13年9月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
事案の概要
本件は,ゲートバルブの特許権を有する原告が,別紙目録1記載の製品は同特許権に係る発明の技術的範囲に属しており,また,同目録2記載の製品は同発明に係る「物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)に該当するから,被告がこれらの製品を製造・販売する行為は同特許権を侵害すると主張して,同製品の製造・販売の差止等及び損害賠償を求めている事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
特許番号 第2613171号 発明の名称 ゲートバルブ 出 願 日 平成5年12月16日 優先権主張 平成5年7月22日 特願平5-201309号に基づく優先権主張 登 録 日 平成9年2月27日 (2) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲2〕参照。)の特許請求の範囲の請求項3の記載は,次のとおりである(以下,上記請求項3を単に「請求項3」といい,同項記載に係る発明を「本件特許発明」という。)。
「弁箱と,この弁箱内に設けた弁座に対接されるよう上記弁箱内に配置した弁デスクと,この弁デスクに連結した,上記弁箱内から弁箱外にベローズを介して上下動及び傾動自在に気密に突出する弁ロッドと,この弁ロッドを介して上記弁デスクを上記弁座に対向する位置と対向しない位置に移動自在ならしめ,上記弁デスクが上記弁座にこれから離間して対向する位置となった後,上記弁ロッドを傾動して上記弁デスクが上記弁座に押圧されるようにした,弁箱外部に設けた移動手段とより成り,上記移動手段が,ピストンシリンダと,このピストンシリンダのピストンロッドに連結されたヨークと,上記弁ロッドの上部に連結されたブロックと,上記ヨークとブロックを互いに連結する,ピン及びこのピンに係合する傾斜長孔と,上記ヨーク及びブロックを軸方向の相対移動を抑制するよう互いに連結するばねと,上記ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため上記ピストンシリンダの側面に形成したガイドとより成り,上記ヨークを上記ブロックに対して接近するよう押圧した際,上記ピン及び傾斜長孔を介して上記弁ロッドが上記ブロックを中心として傾斜し,上記弁デスクが上記弁座に押圧されるようになることを特徴とするゲートバルブ。」 (3) 本件特許発明構成要件を分説すれば,下記AないしMのとおりである(以下,分説した各構成要件を,その記号に従い「構成要件A」などという。)。
A 弁箱と, B この弁箱内に設けた弁座に対接されるよう上記弁箱内に配置した弁デスクと, C この弁デスクに連結した,上記弁箱内から弁箱外にベローズを介して上下動及び傾動自在に気密に突出する弁ロッドと, D この弁ロッドを介して上記弁デスクを上記弁座に対向する位置と対向しない位置に移動自在ならしめ,上記弁デスクが上記弁座にこれから離間して対向する位置となった後,上記弁ロッドを傾動して上記弁デスクが上記弁座に押圧されるようにした,弁箱外部に設けた移動手段とより成り, 上記移動手段が, E ピストンシリンダと, F このピストンシリンダのピストンロッドに連結されたヨークと, G 上記弁ロッドの上部に連結されたブロックと, H 上記ヨークとブロックを互いに連結するピン I 及びこのピンに係合する傾斜長孔と, J 上記ヨーク及びブロックを軸方向の相対移動を抑制するよう互いに連結するばねと, K 上記ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため上記ピストンシリンダの側面に形成したガイドとより成り, L 上記ヨークを上記ブロックに対して接近するよう押圧した際,上記ピン及び傾斜長孔を介して上記弁ロッドが上記ブロックを中心として傾斜し,上記弁デスクが上記弁座に押圧されるようになる M ことを特徴とするゲートバルブ。
(4) 本件明細書の【発明の効果】欄(段落【0029】)の記載は,次のとおりである。
「上記のように本発明のゲートバルブによれば,ベローズ9によって外部から気密に区劃された弁箱1内には弁デスク3を弁座2に対し押圧するための機械部品が全く含まれておらず,また,弁デスク3は弁座2に対向する位置迄下降した後これに直角に押圧されるので従来のもののように弁箱1内で摩耗その他による不純物を発生するおそれが無いと共に,上記弁デスク3の傾動手段を極めて簡単な構成とすることができる。また,ブロック10はピストンシリンダ4間に配置されているのでその高さを低くでき,ゲートバルブ全体の形状を小型化できる等大きな利益がある。」 (5) 被告は,別紙目録1記載の型式番号のゲートバルブ(以下,これらを総称して「被告製品1」という。)及び別紙目録2記載の型式番号のゲートバルブ(以下,これらを総称して「被告製品2」といい,被告製品1と被告製品2を併せて,単に「被告製品」という。)を製造・販売している。
被告製品1の構成は別紙「構成説明書1」のとおりであり,被告製品2の構成は別紙「構成説明書2」のとおりであるが,被告製品2は,被告製品1から「弁箱」(構成要件A等)だけを取り除いた構成を有するものである(以下,これら製品の各部位の名称及び各部位に付された番号については,別紙構成説明書1,2の記載例に従って表記する。ただし,上記各構成説明書の(構成の説明)欄の記載及び図面については,一部争いがあるので,争いのある部分に関する被告の主張を,各構成説明書の末尾に(構成の説明及び図面に関する被告の主張)として掲記した。)。
2 争点 (1) 本件特許発明における「ピストンシリンダ」(構成要件E,F及びK)の数は,本件明細書中の段落【0011】以下の実施例(以下,単に「実施例」という。)の記載におけるように2本のものに限定されるか,それとも,そのような限定はなく,被告製品のように1本のものも含まれるか(争点1)。
(2) 本件特許発明における「ピン」(構成要件H,I及びL)は,実施例記載のように,ヨークとブロックを連結する,それ自体は回転しない棒状ないし筒状の部材を指すか,それとも,そのような限定はなく,被告製品におけるローラー68a及び68bのようにそれ自体回転する部材も含むか(争点2)。
(3) 本件特許発明における「傾斜長孔」(構成要件I及びL)は,実施例記載のように,両端が閉鎖された形状のものに限定されるか,それとも,そのような限定はなく,被告製品における長溝96a及び96bのように,片方の端だけが閉鎖された形状のものも含むか(争点3)。
(4) 本件特許発明における「ばね」(構成要件J)は,実施例記載におけるような引っ張りばねに限定されるか,それとも,そのような限定はなく,被告製品におけるコイルスプリング82a及び82bのような圧縮ばねも含むか(争点4)。
(5) 被告製品において,「ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため‥‥‥‥ピストンシリンダの側面に形成したガイド」(構成要件K)に該当するものが存在するか(争点5)。
(6) 被告製品2は,本件特許発明に係る「物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)に該当し,その結果,同製品の製造・販売が本件特許権を侵害するものと認められるか(争点6)。
(7) 原告の損害額(争点7)
争点に関する当事者の主張
1 争点1について (原告の主張) 請求項3の記載を見れば分かるとおり,本件特許発明構成要件においては,ピストンシリンダの数は何ら限定されていない。したがって,被告製品におけるピストンシリンダ30が,構成要件E,F及びKの「ピストンシリンダ」に該当することは当然である。
被告は,実施例の記載を根拠に,上記「ピストンシリンダ」は2本のものに限定されると主張するが,請求項3にそのような限定を施す根拠になる記載は存在せず,不当な解釈というべきである。もちろん,被告製品のように,ピストンシリンダを1本で弁ロッドを2本に構成しても,ゲートバルブは同様に作動し,機能するが,この場合,1本のピストンシリンダの両側に弁ロッドを配置することは,単なる設計事項にすぎない。本件特許発明出願以前に,ピストンシリンダが1本で弁棒(弁ロッド)が2本のゲートバルブは周知であり(特開平2-190691号公報〔甲10〕参照),ピストンシリンダが1本の場合もあり得るのは,当業者にとって自明のことである。
また,被告は,本件明細書の段落【0029】における「ブロック10はピストンシリンダ4間に配置されているのでその高さを低くでき,ゲートバルブ全体の形状を小型化できる等大きな利益がある。」との記載(前記第2,1(4))を根拠に,本件特許発明における「ピストンシリンダ」は2本に限定されており,だからこそ,ゲートバルブ全体の形状小型化という作用効果がもたらされる旨主張する。
しかし,上記の記載は,ピストンシリンダが2本に構成された実施例に沿って本件特許発明の作用効果を説明したものにすぎない。「高さを低くできる」のは,ブロックのガイドをピストンシリンダの側面に形成し,ブロックを同シリンダの上下ではなく側方に配置したことによる効果であり,ピストンシリンダが2本だから「高さを低くできる」ものではない。
(被告の主張) 原告は,請求項3においてピストンシリンダの本数に関する限定がないことを根拠に,被告製品におけるピストンシリンダ30が構成要件E,F及びKの「ピストンシリンダ」に該当する旨主張するが,実施例の内容を実質的に検討すれば,2本のシリンダを駆動源とするゲートバルブ構造が本件特許発明の前提となっていることは明らかである。しかも,本件明細書の段落【0029】には,「ブロック10はピストンシリンダ4間に配置されているのでその高さを低くでき,ゲートバルブ全体の形状を小型化できる等大きな利益がある。」と記載されており,「ピストンシリンダ4」が少なくとも2本存在することが明確に示されている。
原告は,実施例の記載を根拠にピストンシリンダの本数が2本に限定されると解釈するのは不当であると反論するが,上記段落【0029】の記載は,実施例の効果を記載したものではなく,本件特許発明の効果を記載したものであるはずだから,本件特許発明は,「ブロック10はピストンシリンダ4間に配置されている」との構成を有することによって,すなわち,2本のピストンシリンダの間にブロックを配置する構成をとることによって,ブロックの長さをピストンシリンダの長さの範囲内に収めることができ,その結果,ゲートバルブの高さを低くでき,全体の形状小型化という作用効果を奏するのである。したがって,被告製品のように,ブロックがピストンシリンダ間に配置される構成をとっていないものは,本件特許発明の要求する構成を具備せず,同発明の作用効果を有しないというべきである。
2 争点2について (原告の主張) 本件特許発明における「ピン」(構成要件H,I及びL)とは,その字義からみても,また,傾斜長孔に係合してその傾斜斜面に沿って移動するという作用からみても,要するに「棒状ないし筒状の部材」を意味するものであるところ,被告製品におけるローラ68a及び68bは,筒状の回転部材にほかならないから,上記「ピン」に該当する。すなわち,上記「ピン」は,ヨークとブロックを互いに連結するため傾斜長孔に係合するもので,「ブロック10の上部に‥‥‥突出」して設けられ(本件明細書の段落【0027】),「ヨーク7をブロック10に接近するように移動せしめた際,‥‥‥斜めの長孔20によってブロック10の上部が‥‥‥横方向に移動されるように」(同【0028】)機能するものであれば足り,回転する,しないという観点からの限定は付されていない。被告製品における上記ローラは回転自在な部材であるが,このような部材であれば,回転しない部材より傾斜長孔内の移動がスムーズであるにしても,ヨークとブロックを互いに連結するため傾斜長孔と係合していることに変わりはない。したがって,上記「ピン」が回転自在な部材を排除するものではないというべきである。
ちなみに,「ピン」が「ローラ」を包含する概念であることは,文献に,「a、ピン(pin)とはその軸に直角方向の力を受ける棒状要素の総称であり」(社団法人日本機械学会編著「機械工学便覧応用編・B1機械要素設計・トライボロジー」83頁〔甲11〕),あるいは,「木や金属などで作られる円筒状の留具。二つの要素や部分の接合に使用される。接合部は自由に回転できる」(マグローヒル科学技術用語大辞典(第3版)1534頁〔甲12〕)とあるとおりである。
なお,被告は,「ピンは回転しない」との前提に立って,回転するローラはピンより摩擦抵抗が少ないから,ダストが発生しない旨主張するが,このような主張は,本件特許発明技術的範囲を画するに際して無意味である。本件特許発明は,請求項3に開示された構成をとることにより,「従来のもののように弁箱1内で摩耗その他による不純物を発生するおそれが無い」(本件明細書の段落【0029】)という作用効果を奏するものであって,「ピン」の摩擦抵抗による弁箱外におけるダスト発生の有無は,本件特許発明の作用効果とは直接関係ないからである。
(被告の主張) 原告は,「ピン」は傾斜長孔に係合するものであればよく,回転自在な部材を排除するものではない旨主張するが,特許請求の範囲に「ピン」と規定され,本件明細書の段落【0029】以下及び図9に,ブロックの上部に設けられ,ヨークの下端から垂下する袖片に設けられた斜めの長孔に係合するピンが明示されて,それ以外の実施例が記載されていない以上,かかる「ピン」はまさに限定事項であって,それ以外のものを含む旨の原告の上記主張には合理性がない。
原告は,ピンとローラが同一であるかのように主張するが,ローラは,物体を移動する際の摩擦力の低い回転体である。ピンがある部材に沿って移動するとき,一般的な摩擦係数μが0.15〜0.2であるのに対し,ローラの場合は0.002〜0.003で,約100分の1である。このため,ローラを用いるとダストの発生が少なく,この種のゲートバルブがクリーンルームで用いられることを前提にすると,その作用効果において著しい差異がある。したがって,ピンとローラは全く異なる部材というべきである。
ちなみに,工業教育研究会編「機械用語辞典」(日刊工業新聞社発行。乙3)によれば,「ピン」とは,「一般に細長い棒をいう。小型の車,歯車,ナット止めなどの大きい力のかからない機械部品の止めせんとして用いる。」とされており,他方,「ローラ」については,「ころ roller」の欄に「円形断面の転動体,物をささえたり運んだりするのに用いる。」とされている。このように,「ローラ」が「ピン」に包含され得ない概念であることは明らかであるにもかかわらず,原告は,「ローラ」を「ピン」に含ませようとする解釈を行っている。作動やその機能に特許が付与されたものでないことを忘れた解釈であり,不当である。
3 争点3について (原告の主張) 本件特許発明における「傾斜長孔」(構成要件I及びL)は,「ブロック10の上部に‥‥‥突出するピン19を設け,このピン19に係合」(本件明細書の段落【0027】)し,「ヨーク7をブロック10に接近するように移動せしめた際,‥‥‥ブロック10の上部が‥‥‥横方向に移動されるように」(同【0028】)機能するものである。その字義及び作用からみて,要するに「ピン」に係合するように形成した傾斜する長いくぼみ(穴)を意味するものというべきであり,端部が開放されていても閉じられていてもよく,その形状は特に限定されていない。
したがって,被告製品における,傾斜し,かつ,一方の端部が開放された長溝96a及び96bも「傾斜長孔」に該当する。
(被告の主張) 原告は,「傾斜長孔」とは長いくぼみを意味するものであり,その形状は特に限定されていない旨主張するが,請求項3で「傾斜長孔」として閉塞された孔部が規定されている上に,発明の詳細な説明にも長溝が「長孔」に含まれると解釈する根拠になる記載はない。すなわち,出願人である原告は,本件明細書において,「斜めの長孔」(本件明細書の段落【0027】,【0028】)という言葉を用いて実施例を説明しているだけで,「斜めの長孔」に代えて「斜めの長溝」でもよいとか,端部が開放されていてもよいとかの記載は一切していない。そうである以上,傾斜長孔とは,あくまで傾斜する閉じた空間からなる長孔というべきである。
したがって,被告製品における,一方の端部が開放された長溝96a及び96bは「傾斜長孔」に該当しない。
4 争点4について (原告の主張) 被告製品におけるコイルスプリング82a及び82bは,ヨーク92とブロック50の軸方向の相対移動を抑制し,ヨーク92とブロック50が共に上下動するよう両者間を連結するためのばねとして使用されており,構成要件Jの「ヨーク及びブロックを軸方向の相対移動を抑制するよう互いに連結するばね」に該当する。コイルスプリングは,ばねの下位概念であるから,コイルスプリングが「ばね」に該当しないということはない。
被告は,本件明細書の第1実施例(本件公報図1〜図5)及び第2実施例(本件公報図6〜図8)に用いられているばねが引っ張りばねであり,他方,被告製品におけるばねが圧縮ばね(コイルスプリング)であることを強調するが,構成要件Jの「ばね」は,ピンを所定の位置に抑制しつつ,ヨークがブロックに対して接近するよう押圧された際に,ピンが当該ばねの力に抗して傾斜長孔に沿って移動し,その結果弁ロッドが傾斜するように作動すれば,それで足りるものである。圧縮ばねで上記作用を確保しようとするならば,平成14年7月22日付け原告第5準備書面末尾添付の図3のように構成すればよく,また,引っ張りばねで上記作用を確保しようとするならば,同図4のように構成すればよい。そのことは,当業者ならば誰でも理解できるはずのことである。上記「ばね」を,被告主張のように「引っ張りばね」に限定して解釈しなければならない理由は何もない。
(被告の主張) 特許請求の範囲の文言が不明確な場合,発明の詳細な説明及び図面を参酌できることは,特許法70条2項の規定にかんがみ当然である。本件においては,請求項3に記載された「ばね」の文言の意義は,それだけでは不明確である。そこで,本件明細書における発明の詳細な説明及び図面を参酌すると,請求項1及び2の発明に関するものではあるが,本件明細書の発明の詳細な説明の欄(段落【0016】〜【0020】)及び図面(本件公報の図1及び図6)には,「ばね」として引っ張りばねが開示されている。他方,圧縮ばねについては何らの開示も示唆もない。したがって,請求項1及び2に記載された各発明においては,「ばね」とは引っ張りばねを指すものと解すべきである。そして,請求項1ないし3においては,いずれも,「上記ヨーク及びブロックを軸方向の相対移動を抑制するよう互いに連結するばね」という同一の文言が使用されており,同一の特許請求の範囲における文言は同一に解すべきであるから,請求項3記載に係る本件特許発明においても,「ばね」とは引っ張りばねを指すものと解すべきである。
しかるに,被告製品において使用されているばねは,圧縮ばね(コイルスプリング)であるから,同製品は,構成要件Jの「ばね」を備えていないことになる。
5 争点5について (原告の主張) 被告製品においては,ピストンシリンダ30の側面33a及び33bが,ブロック50の面58aないし58bに接して同ブロックを上下動にガイドし,また,ピストンシリンダの側面と凹部26a及び26bが,同ブロックを傾動自在にガイドしているから,構成要件Kの「上記ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため上記ピストンシリンダの側面に形成したガイド」を備えているということができる。
すなわち,ピストンシリンダの側面33a及び33bの間隔は,ブロック50における平行な面58a及び58bの間隔より,わずか0.2mm狭いのみである。他方,ブロック50の上部と板体70の脚部72a及び72bの間には2.3mmの隙間があり,連結部48の長溝62とピストンロッド40との間にも左右合計で2.5mmの隙間があるから,ブロック50の上部は,板体70及びピストンロッド40に対して,左右の移動が抑制されていない状態にある。したがって,被告が主張するように,面58a及び58bが側面33a及び33bに接触することなく,左右0.1mmずつの隙間を保って上下動することはあり得ず,一方において0.2mmの隙間を生じ,他方において面と面が接する状態になることは明らかである(甲4の4,5参照)。したがって,ブロック50は,「ガイド」されながら側面33a及び33bに沿って移動するということができる。
また,被告製品においては,ローラ60a及び60bが降下して凹部26a及び26bに達すると,ブロック50は,側面33a及び33b並びに凹部26a及び26bにガイドされて傾動する。ここで,ベースプレート22は,シリンダの蓋も兼ねて,ピストンシリンダのベースを構成してボルトで固定されており,ピストンシリンダのベース部分とみることができる。そして,上記凹部は,ベースプレート22の上面に形成されているが,ピストンシリンダの側面33a及び33bと連続した面を形成しているから,全体としてみれば,ピストンシリンダの側面に形成されているということができる。
以上によれば,ピストンシリンダの側面33a及び33b並びに凹部26a及び26bが,全体として,「ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするためピストンシリンダの側面に形成したガイド」に該当するというべきである。
(被告の主張) 原告は,被告製品においては,ピストンシリンダ30の側面33a及び33bが,ブロック50の面58aないし58bに接して同ブロックを上下動にガイドする旨主張するが,上記側面33a及び33bには,実施例におけるガイド溝に対応する溝構造は設けられていない。また,被告製品においては,ベローズ44a及び44bがその軸方向に沿って弾発力をもって伸縮するように構成され,しかも互いに平行に配置されているので,弁ロッド20a及び20bの横方向への移動が抑制され,ブロック50とピストンシリンダの側面33a及び33bとの間には,それぞれ少なくとも0.1mmの隙間が存在するように構成されている(乙1の1〜3参照)。したがって,原告が主張するように,33aないし33bのいずれかの側面にのみ0.2mmの間隔が発生し,他方の面と58aないし58bのいずれかの面が摺接してガイド作用が営まれることはあり得ない。
また,被告製品においては,ブロック50の突起部56a及び56bに設けられたローラ60a及び60bが,ピストンシリンダとは明らかに別の部材であるベースプレート22に形成された凹部26a及び26bに到達すると,クッション部材28a及び28bに当接し,ブロック50を揺動させる。したがって,上記ブロックは,「ピストンシリンダの側面に形成したガイド」によって傾動するものではない。
以上のとおり,被告製品には,ブロック50が上下動する際に案内されるガイドが存在せず,また,同ブロックが傾動する際にローラ60a及び60bが当接するのは,ピストンシリンダの側面33a及び33bではなく,ベースプレートの凹部26a及び26bであるから,結局,同製品は,「ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするためピストンシリンダの側面に形成したガイド」を有しないというべきである。
6 争点6について (原告の主張) 被告製品2は,被告製品1から「弁箱」(構成要件A等)だけを取り除いた構成を有するものである。
しかるところ,「弁箱」とは,弁を構成する主体部品の総称であって(社団法人日本バルブ工業会編「バルブ用語事典」オーム社・平成2年発行〔甲3〕参照),ゲートバルブである被告製品2は,このような弁箱と組み合わせて使用されることを前提にしており,他の用途はない。そのことは,同製品におけるベースプレート22に,弁箱に結合するための4個の取付孔が存在することに照らして明らかである。
以上によれば,被告製品2は,本件特許発明に係る「物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)に該当するものというべきである。
(被告の主張) 争点1〜5に関する被告の主張から明らかなとおり,そもそも,被告製品1が本件特許発明技術的範囲に属するとは認められない上に,被告製品2のベースプレート22に4個の取付孔が設けられているにしても,同製品の購入者が,同製品をいかなる部位に取り付けるかは被告の規制の及ぶところではなく,必ず弁箱に取り付けられると断定することはできない。
したがって,被告製品2が,本件特許発明に係る「物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)に該当するということはできない。
7 争点7について (原告の主張) 被告は,平成10年3月ころから平成13年8月末日までの間,被告製品1及び被告製品2を合わせて少なくとも2000個以上販売しており,その売上額は4億円を下らない。原告は,被告に対し,特許法102条2項に基づき,本件特許発明実施によって得た利益に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額として請求するものであるところ,被告が本件特許発明実施によって得た利益は,少なくとも売上額の20%を下らないから,原告の損害額は8000万円を下らない。
また,弁護士費用相当額の損害として,被告に負担させるべき額は1007万円とみるのが相当である。
以上によれば,原告が受けた損害の額は合計9007万円である。
(被告の主張) 原告の上記主張は,不知ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点1について ア 特許法70条は,1項において「特許発明技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定し,2項において「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定する。同規定に照らせば,特許権侵害訴訟において,特許発明技術的範囲を確定するに当たっては,原則として明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてこれを定めなければならないが,特許請求の範囲の記載が不明確であったり一義的に解釈できないような場合には,明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面の記載を参照し,その記載内容を考慮すべきものである。
イ そこで,争点1について判断すると,請求項3は,本件特許発明を構成する必須の要素として,弁箱,弁デスク,弁ロッド及び弁箱外部に設けた移動手段をあげて,その機能上ないし位置上の相互関係を規定した上(構成要件A〜D),上記移動手段は,ピストンシリンダ,ヨーク,ブロック,ヨークとブロックを連結するピン,このピンに係合する傾斜長孔,ヨークとブロックの相対移動を抑制するよう連結するばね,及び,ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするピストンシリンダ側面に形成されたガイドからなるものとし(同E〜L),ヨークをブロックに対して接近して押圧した際,弁ロッドがピン及び傾斜長孔を介してブロックを中心に傾斜し,弁デスクが弁座に押圧されるように作動することを特徴とするゲートバルブ(同M)が本件特許発明に係る物であると規定している。しかるところ,ピストンシリンダはもちろんのこと,弁ロッドやピストンロッドについても,その本数や位置関係については,文言上何らの限定も付されていない。また,「ピストンシリンダ」は,文字通りピストン内に配されたシリンダを指すものと解され,これらの用語が,特許請求の範囲の記載からだけでは,一義的に解釈できないということもできない。したがって,構成要件Eにいう「ピストンシリンダ」については,上記請求項3に規定された構成上の要件を充たすものであるならば,その本数等に関係なく,これに該当するものと解するのが相当である。
しかるところ,被告製品におけるピストンシリンダ30は,ピストンシリンダが2本に構成された本件明細書の実施例の記載と異なり,その本数が1本に構成されているものの,雌ねじ102によりピストンロッド40を介してヨーク92に連結されているから,上記「ピストンシリンダ」に該当するものと認められる。
ウ なお,被告は,本件特許発明の効果を記載した本件明細書の段落【0029】における「ブロック10はピストンシリンダ4間に配置されているのでその高さを低くでき,ゲートバルブ全体の形状を小型化できる等大きな利益がある。」との記載(前記第2,1(4)参照)を根拠に,ゲートバルブ全体の形状小型化という作用効果がもたらされるのは,本件特許発明における「ピストンシリンダ」が2本に限定されているからである旨主張する。
しかしながら,ピストンシリンダの本数に何ら限定を付していない請求項3の文言の解釈によっても,「高さを低くできる」のは,ブロックのガイドをピストンシリンダの側面に形成し,同シリンダの上下ではなく側方にブロックを配置したことによる効果である,すなわち,ピストンシリンダとブロックを縦方向に配置せず,並列に配置したからこそ,「高さが低くできる」ものであると合理的に説明することができる。本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を全体的・総合的に併せ読めば,被告が指摘する段落【0029】の記載は,ピストンシリンダが2本ある実施例に沿って本件特許発明の作用効果を説明したものにすぎず,必ずしも,ピストンシリンダが2本あることによって,「高さを低くできる」効果が奏されるものではないというべきである。被告の上記主張は,採用することができない。
2 争点2について 「ピン」とは,一般に,その軸に直角方向の力を受ける棒状要素の総称(社団法人日本機械学会編著「機械工学便覧応用編・B1機械要素設計・トライボロジー」83頁〔甲11〕),あるいは,2つの要素や部分の接合に使用される円筒状の留具の総称(マグローヒル科学技術用語大辞典(第3版)1534頁〔甲12〕)と解されているところ,請求項3においては,「ピン」に関して,ヨークとブロックを互いに連結する(構成要件H)一方で,傾斜長孔と係合する(同I)という機能ないし作用にかかる記載以外の記載はされていない。本件明細書の発明の詳細な説明の記載を見ても,そこには,「ブロック10の上部に‥‥‥突出」(段落【0027】)して設けられ,「ヨーク7をブロック10に接近するように移動せしめた際,‥‥‥斜めの長孔20によってブロック10の上部が‥‥‥横方向に移動される」(段落【0028】)と,上記請求項3に規定された機能ないし作用が,実施例に沿って具体的に説明されているだけである。
上記によれば,本件特許発明における「ピン」とは,ヨークとブロックを互いに連結するため,傾斜長孔に係合する棒状ないし筒状の部材であれば足りるものであって,被告が主張するような当該部材が回転するかどうかという観点からの限定は付されていないことが明らかというべきである。しかるところ,被告製品におけるローラ68a及び68bは,ヨーク92とブロック50を互いに連結するため,長溝96a及び96b(なお,前記第2,2(3)で争点3として摘示したとおり,これらが「傾斜長孔」にあたるかについては争いがあるが,その点については後述する。)に係合する筒状の部材に他ならないから,上記「ピン」に該当するものと認められる。
なお,被告は,回転部材であるローラはピンより摩擦抵抗が少なく,ダストの発生が少ないから,この種のゲートバルブがクリーンルームで用いられることを前提にすると,その作用効果において著しい差異があり,したがって,ピンとローラは全く異なる部材というべきである旨主張する。しかしながら,原告が指摘するとおり,本件特許発明は,請求項3に開示された構成をとることにより,「従来のもののように弁箱1内で摩耗その他による不純物を発生するおそれが無い」(本件明細書の段落【0029】)という作用効果を奏するものであって,ピンを用いるかローラを用いるかの違いによる弁箱外のダスト発生の有無は,その技術的範囲を画するに際し,直接関係のない議論である。したがって,仮に被告が主張するようなダスト発生低減という効果が生じたとしても,それは,あくまで付加的な効果にすぎず,当該効果があるからといって,本件特許発明技術的範囲に属するかどうかが左右されるものではない。被告の上記主張は,採用できない。
3 争点3について 請求項3における「傾斜長孔」は,「ピンに係合する」(構成要件I)と規定されているだけで,その他に何らかの限定を付すべき根拠は見当たらない。本件明細書の発明の詳細な説明における,「ブロック10の上部に‥‥‥突出するピン19‥‥‥に係合」(段落【0027】)して,「ヨーク7をブロック10に接近するように移動せしめた際,‥‥‥斜めの長孔20によってブロック10の上部が‥‥‥横方向に移動されるように」(段落【0028】)作用する旨の各記載に照らしても,「傾斜長孔」とは,要するに「ピン」に係合するように形成した傾斜する長いくぼみ(穴)を意味するもので,端部が開放されていても閉じられていてもよく,その形状は特に限定されていないと解するのが相当である。
したがって,被告製品における,傾斜し,かつ,一方の端部が開放された長溝96a及び96bも,「傾斜長孔」に該当するというべきである。
被告は,本件明細書においては,「斜めの長孔」(段落【0027】,【0028】)という言葉を用いて実施例を説明しているだけであり,「斜めの長孔」に代えて「斜めの長溝」でもよいとか,端部が開放されていてもよいとかの記載は一切ないから,傾斜長孔とは,あくまで閉じた空間からなる傾斜した長孔と解すべきである旨主張する。しかしながら,発明の詳細な説明における実施例の説明がそうであるからといって,直ちに,特許請求の範囲に記載された文言を当該実施例に限定して解釈することはできない。被告の主張は,採用できない。
4 争点4について 構成要件Jの「ばね」については,「ヨーク及びブロックを軸方向の相対移動を抑制するよう互いに連結する」との機能上の要件が付されているだけで,引っ張りばねであるか,圧縮ばねであるかといった観点からの限定は付されていない。
したがって,どのような種類のばねであっても,ヨーク及びブロックを軸方向の相対移動を抑制するよう互いに連結している限り,上記「ばね」に該当すると解するのが相当というべきである(なお,「軸方向の相対移動を抑制する」とは,弁ロッドを介して弁デスクを弁座に対向する位置と対向しない位置に移動自在ならしめ,弁デスクが弁座にこれから離間して対向する位置となった後,弁ロッドを傾動して弁デスクが弁座に押圧されるようにする(構成要件D参照)という本件特許発明の作動に照らせば,ピストンロッドの移動に伴い,ヨークが弁ロッド側に移動(別紙構成説明書1及び2の各図2及び各図6において,下降する方向への移動。)する際に,ピンが長溝に沿って自由に移動するのを防止し,ヨークとブロックを一定の間隔に保つことが必要であるとの趣旨と解されるから,ピストンロッドの軸方向(すなわち上記各図における上下方向)を指すというべきである。)。
しかるところ,被告製品におけるコイルスプリング82a及び82bは,ヨーク92とブロック50が軸方向(すなわち上下方向)に相対的に移動する(ずれる)ことを抑制し,ヨーク92とブロック50が共に上下動するよう両者間を連結するためのばねとして使用されているから,構成要件Jの「ヨーク及びブロックを軸方向の相対移動を抑制するよう互いに連結するばね」に該当するものというべきである。
被告は,請求項1に関する実施例の図1及び請求項2に関する実施例の図6に引っ張りばねが示されている一方で,請求項3に関する図9にばねが明示されていないことを根拠に,上記「ばね」は引っ張りばねに限定される旨主張する。しかしながら,構成要件Jの「ばね」は,ピンを所定の位置に抑制しつつ,ヨークがブロックに対して接近するよう押圧された際に,ピンが当該ばねの力に抗して傾斜長孔に沿って移動し,その結果弁ロッドが傾斜するように作用すればそれで足りるものであり,ばねの種類を限定して解釈すべき理由のないことは上述のとおりである。また,上記図9にばねが明示されていないことについても,本件明細書及び図面を詳細に検討すれば,図1及び図6にばねが示されており,図9(請求項3記載に係る本件特許発明)の場合にも,ばねの構成を特に変更すべき理由がないことから,請求項3記載に係る本件特許発明の特徴である傾動機構の要部についてのみ示したのが図9の記載であることが明らかである。したがって,図9を理由に被告主張のような限定解釈をすべきものではない。被告の上記主張は,採用できない。
5 争点5について ア 構成要件Kは,「ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため‥‥‥ピストンシリンダの側面に形成したガイド」を本件特許発明の構成要素として規定する。
本件特許発明において,ブロックを上下方向に移動するときにまっすぐに移動するように案内しておく必要があるのは,上下移動の動作中に弁デスクが弁座に接触することのないようにするためである。すなわち,本件公報の図1(縦断側面図)においていえば,上下移動の動作中にブロックが弁座方向(当該図における左右方向)に振れることで弁デスクが弁座と摺動することを防止するためである。
したがって,構成要件Kにいう「ガイド」は,上下動の際にブロックが弁座方向に振れることを防止するようにガイド(案内)する機能を備えたものと解するのが相当である。
その理由は,次のとおりである。すなわち,本件明細書においては,従来技術の問題点として,@機械的可動部分の多くが通路内(弁箱内)に存在したことから,これらの機械的摩耗等により発生する不純物が処理室内(クリーンルーム)に混入しがちであったこと(段落【0005】),及び,Aゲートバルブを斜めに下向させてこれをシール材に当接し,閉塞するよう構成した場合においては,僅かではあるが両者が互いに摺動するため,シール材の摩耗による通路内(弁箱内)の汚染が免れなかったこと(同【0006】)の2点が指摘され,これらが【発明が解決しようとする課題】として掲げられた上,これに対し,本件特許発明においては,(ア)弁箱は,ベローズによって外部から気密に区画され,その内部に弁デスクを弁座に対し押圧するための機械的可動部分を含んでおらず,また,(イ)弁デスクは,弁座に対向する位置まで下降した後に,これに直角に押圧されるので,従来技術のように弁箱内で摩耗等による不純物を発生するおそれがないとともに,弁デスクの傾動手段を極めて簡単な構成にすることができる旨が,【発明の効果】として記載されている(段落【0029】)。そして,上記@を解決する原理(構成)として同(ア)が,上記Aを解決する原理(構成)として同(イ)が,それぞれ対応しているのは明らかであるところ,仮に,ブロックが上下方向に移動する際に弁座方向に振れると,弁デスクが弁座に接触,摺動することとなり,その摩耗により弁箱内で不純物が発生するおそれを生じるが,それでは,本件特許発明の重要な解決課題である弁箱内における部材の接触・摩耗による不純物の発生の防止という課題が解決できず,本件特許発明の作用効果を奏することができないからである。
上記のとおり,構成要件Kにいう「ブロックを上下動‥‥‥にガイドする」とは,単に,ブロックが上下動する際に何かの面に沿って動くことを意味するものではなく,上下動の際にブロックが弁座方向に振れることを防止するようにガイド(案内)することを意味するものであり,同構成要件によれば,そのような機能を備えた「ガイド」がピストンシリンダの側面に形成されていることを要するものである。
イ これを被告製品についてみると,上下動の際にブロックが弁座方向に振れるというのは,別紙構成説明書1及び2の図6における左右方向であるが,これを同じく図5においてみると紙面に対して垂直な方向であり,同じく図10においてみると上下方向である。
ところが,被告製品においては,このような方向に振れることを防止するようにブロックの上下動を案内する機能を有する部位が存在しない。
この点につき,原告は,被告製品においては,ピストンシリンダ30の側面33a及び33bが,ブロック50の面58aないし58bに接して同ブロックを上下動にガイドすると主張する。しかしながら,被告製品において,仮にピストンシリンダの側面33a及び33bが,ブロックの面58aないし58bに接してブロックを上下動にガイドするとしても,それにより上下動の際にブロックが振れることを防止することができる方向は弁座方向ではなく,それとは90度異なる(直交する)方向(すなわち,別紙構成説明書1及び2の図6における紙面に垂直な方向,同じく図5における左右方向,同じく図10における左右方向)にすぎないものである。そして,ブロックの振れを防止すべき弁座方向(すなわち,別紙構成説明書1及び2の図6における左右方向,同じく図5における紙面に垂直な方向,同じく図10における上下方向)は,ピン66a及び66bによる位置決めにより完全に振れが防止されているものである。
ウ 以上によれば,被告製品においては,「ブロックを上下動‥‥‥にガイドするため‥‥‥ピストンシリンダの側面に形成したガイド」に該当するものが存在しないから,「傾動自在にガイド」の点につき検討するまでもなく,同製品は,構成要件Kを充足しない。
結論
以上のとおり,被告製品は,「ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため‥‥‥ピストンシリンダの側面に形成したガイド」を備えておらず,構成要件Kを充足しない。
したがって,被告製品1は本件特許発明技術的範囲に属するものではなく,また,被告製品2が本件特許発明に係る「物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)に該当するものでもないから,原告の請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)目録1(型式番号)XGT-0101BWMXGT-0402BWMXGT222-32222XGT222-46236目録2(型式番号)XGT-0101AWMXGT-0402AWMXGT221-32222XGT221-46236構成説明書1図1図2図3図4図5図6図7図8図9図10(構成の説明及び図面に関する被告の主張)1(構成の説明)Iの記載は,正しい記載ではない。粗い面58aと側面33aとの間及び粗い面58bと側面33bとの間には,それぞれ少なくとも0.1mmの間隔が存在することを示すように改めるべきである。
2(図面)図4における粗い面58a及び58bの描出箇所に誤りがある。
3(図面)図5及び図10に示されている「X+0.2mm」は正しい記載ではない。粗い面58aと側面33aとの間及び粗い面58bと側面33bとの間には,それぞれ少なくとも0.1mmの間隔が存在することを示すように改めるべきである。
構成説明書2図1図2図3図4図5図6図7図8図9図10(構成の説明及び図面に関する被告の主張)1(構成の説明)Iの記載は,正しい記載ではない。粗い面58aと側面33aとの間及び粗い面58bと側面33bとの間には,それぞれ少なくとも0.1mmの間隔が存在することを示すように改めるべきである。
2(図面)図4における粗い面58a及び58bの描出箇所に誤りがある。
3(図面)図5及び図10に示されている「X+0.2mm」は正しい記載ではない。粗い面58aと側面33aとの間及び粗い面58bと側面33bとの間には,それぞれ少なくとも0.1mmの間隔が存在することを示すように改めるべきである。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之