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関連審決 審判1999-35020
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  出願公開 /  技術常識 /  分割出願 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 273号 審決取消請求事件
原告 株式会社キンキ
訴訟代理人弁理士 角田嘉宏
同 高石郷
同 西谷俊男
同 古川安航
同 幅慶司
被告 日本スピンドル製造株式会社
訴訟代理人弁護士 露木脩二
同 弁理士 森治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第35020号事件について平成14年4月16日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,下記ア記載の特許(以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者,被告は,本件特許の無効審判請求人であり,その経緯は下記イのとおりである。
ア 特許第2813572号「シュレッダー用切断刃」 実用新案登録出願 平成3年6月14日 分割出願 平成7年4月10日 特許出願への変更 平成8年4月25日 設定登録 平成10年8月7日 イ 平成11年 1月12日 無効審判請求(平成11年審判第35020号) 平成12年 4月24日 本件特許を無効とする旨の審決 同 年 6月13日 原告が上記審決の取消しを求める取消訴訟を東京
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同年11月17日原告による明細書の訂正審判請求(訂正2000-39142号)平成13年1月17日上記訂正を認める旨の審決同年2月5日上記訂正審決の確定同年3月26日上記無効審決を取り消す旨の判決(そのころ同判決は確定し,特許庁に事件が再び係属)同年11月19日原告による明細書の訂正請求(その訂正を以下「本件訂正」という。)平成14年4月16日本件特許を無効とする旨の審決(以下単に「審決」という。)同年4月26日原告への審決謄本送達(なお,原告は,本訴提起後の平成14年9月4日に明細書の訂正を求める訂正審判の請求をしたが,被告は,同請求が本件訴訟手続の遅延目的に出たものであることは明白である旨主張しており,当裁判所は,上記経緯にかんがみ,本件の審理を進行させたものである。)2特許請求の範囲の記載(1)本件訂正前の特許請求の範囲の記載シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し,この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し,しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し,各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に,該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し,かつ,該スペーサの外径を該取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにしたシュレッダーにおいて,前記取付台の外周に段状歯部を突出形成する一方,各刃先片の端部に設けた段部と段状歯部とを係合して刃先部分と該段状歯部とを噛合する如く構成したことを特徴とするシュレッダー用切断刃。
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の記載(注,訂正部分を下線で示す。)シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し,この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し,しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し,各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし,かつ,各刃先片を該取付台に接離可能に構成すると共に,該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し,かつ,該スペーサの外径を該取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにすると共に各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定したシュレッダーにおいて,前記取付台の外周に段状歯部を突出形成する一方,各刃先片の端部に設けた段部と段状歯部とを係合して刃先部分と該段状歯部とを噛合する如く構成したことを特徴とするシュレッダー用切断刃。
(以下,上記(2)記載の本件発明を「本件訂正発明」という。)3審決の理由審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件訂正の適否について,本件訂正発明は,実公昭57-42518号公報(審判,本訴とも甲2,以下「刊行物1」という。)及び欧州特許出願公開第0401620号明細書(1990年)(審判,本訴とも甲3,以下「刊行物2」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本件訂正を認めず,本件発明の要旨を上記2(1)のとおり認定した上,本件発明は,刊行物1,2記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号の規定により無効とすべきものとした。
第3原告主張の審決取消事由審決は,本件訂正に係る独立特許要件の判断において,本件訂正発明と刊行物1記載の発明との相違点a,bについての判断をそれぞれ誤り(取消事由1,2),本件訂正は独立特許要件を欠くものとしてこれを認めずに,本件発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて認定した誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点aについての判断の誤り)(1)審決は,本件訂正発明と刊行物1記載の発明との相違点aとして,本件訂正発明は,「各刃先片と該取付台との接合境界画は平面とし」,「該スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにすると共に各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定した」ものであるのに対して,刊行物1記載の発明は,刃先片(ブレード刃体7)の嵌合凹部8を取付台(母台1)の各着座面4にインロー構造で嵌合したもので,各刃先片と該取付台との接合境界面は平面ではなく,また,スペーサ(ディスタンスカラー18)は,取付台(母台1)より小径に形成されている点を認定(審決謄本11頁最終段落以下)した上,当該相違点に係る本件訂正発明の構成は,刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものと判断する(同12頁(A-1)項)が,誤りである。
(2)審決は,上記判断の根拠として,刊行物2には「保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれている構成が記載されており,この構成が,保護キャップ69及びくさび部材85の幅方向のガタを防止するように機能していることは,当業者にとってその構成から明らかである」(審決謄本13頁第2段落)点を挙げる。しかし,刊行物2(甲3)の「固定歯71は,切断力を担うと同時に,保護キャップを半径方向に保持する作用も果たす」(訳文1頁末行以下),「後退面78を通じて,ロータ軸方向に対して横向きに設置されている保護キャップ69・・・の半径方向の固定が得られる」(訳文2頁5行目以下),「特に,保護キャップ69及び/又はくさび部材85は,分離リング5を伴う円盤ロータの場合,図25及び26に示すとおり,安全接合86として接合しなければならない」(訳文2頁下から4行目以下),「保護キャップの半径方向の固定は特に,保護キャップを分離リングへのかみ合わせ溶接86によって溶接することで得られる」(訳文3頁12行目以下)との記載によれば,刊行物2において,「保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれている構成」は,専ら保護キャップの半径方向の固定という観点から,保護キャップ等の脚部を分離リングに溶接するための溶接代をとるためのものとして記載されているというべきであり,保護キャップの幅方向のガタを防止するという機能が開示されているとは到底いえない。
しかも,刊行物1記載の発明においても,刊行物2記載の発明においても,同じ横振れ規制機能を発揮する嵌合構造という構成を備えていることから考えても,刊行物1に記載された嵌合構造に代えて,刊行物2に記載された保護キャップ等の脚部を分離リングによって挟む構成を採用する動機付けが生ずる余地はない。さらに,刊行物2記載の発明のように,保護キャップを分離リングに溶接した場合,保護キャップの取り外しが困難になることは技術常識であるから,刊行物2記載の分離リングに係る構成を刊行物1記載の発明に適用するには阻害要因が存在するというべきである。
2取消事由2(相違点bについての判断の誤り)(1)審決は,本件訂正発明と刊行物1記載の発明の相違点bとして,取付台の外周に歯部を突出形成する一方,各刃先片と歯部とを係合して刃先部分と該歯部とを噛合する如くした構成において,本件訂正発明は,前記歯部を「段状歯部」とし,「各刃先片の端部に設けた段部と段状歯部」とを係合して刃先部分と該「段状歯部」とを噛合する如く構成したものであるのに対して,刊行物1記載の発明は,前記歯部が「段状歯部」と明記されたものではなく,各刃先片の端部と歯部との係合部分の各刃先片に「段部」が形成されていない点を認定(審決謄本12頁第2段落)した上,当該相違点について,刊行物2に記載された構成に基づいて当業者が容易に想到し得ると判断する(同13頁(A-2)項)が,誤りである。
(2)審決の上記判断は,刊行物2記載の発明の固定歯及び保護キャップのポケットが,いずれも「段状」に形成されているとの認定(審決謄本11頁3行目以下)に基づくものであるが,このポケットは,立体的に見れば固定歯が嵌入するための単なる穴ないしほり込みであり,また,固定歯は,立体的に見れば,ロータ円板から半径方向に突出した略角柱状の突起部であり,これらを「段状」と認定することは到底できないというべきである。そうすると,これを前提とする審決の上記判断は失当というべきである。
(3)本件訂正発明は,「各刃先片の端部に設けた段部と取付台の段状歯部とを係合して刃先部分と該段状歯部とを噛合する如く構成した」ものであるところ,この構成は,本件特許の願書添付図面図1(甲5)からも明らかなように,刃先片の段部の立面が段状歯部の前面に当接するとともに刃先片の水平面が段状歯部の上面に覆い被さるように当接している形態をいう。この構成を採用することにより,本件訂正発明は,次のような技術的意義を有するところ,これらの点は,当業者の予測し得ないものである。
ア破砕時には刃先片の爪部に大きな衝撃力(負荷荷重)が作用するところ,刊行物1記載の発明では,ブレード刃体7の一端部が受圧座面5に衝合するだけの構成であって,本件訂正発明のように刃先片端部の段部が取付台の段状歯部の上面に覆い被さるような構成ではないので,負荷荷重を主に締付ボルト12の剪断で受け持つこととなり,ボルトとしては強度の劣る使い方となる。なお,一般的に,鋼材質は引張強度と比較して剪断強度が大きく劣ることは技術常識である。刊行物2記載の発明では,負荷荷重を固定歯94で受け持つことになる。これに対し,本件訂正発明では,ボルトヘの剪断力は刃先片端部の段部に係合した段状歯部で支持する一方,当該ボルトヘは段部を回転中心とする引張力が支配的に作用することになり,刃先片端部の段部の存在は当該ボルトにとってより強度のある使い方となる。このため,ボルト径を小さくできるので,刃先片の厚みの制約を受けない。
イ種々の破砕物を破砕しているとその被破砕物の粘着性により刃先片が取付台に固着してしまい,現場では刃先片を取り外し難いという事態が大きな現実問題となっている。本件訂正発明では,段状歯部に覆い被さっている段部の部位をハンマーで叩けば刃先片が取付台面に沿って少し移動し,その後は簡単に取り外せるようになる。これに対して,刊行物1記載の発明では,ブレード刃体の端部に母台の歯部に覆い被さるような段部が存在しないので,ブレード刃体をどの方向から叩いても移動せず,結局一つのブレード刃体を取り外してもこれと隣接するブレード刃体の取り外しが容易化されることはない。また,刊行物2記載の発明のように固定歯が嵌入する方式では刃先片を真上方向にしか取り外せないから,必ず固定歯の高さ分だけ持ち上げなければならず,交換作業に労力と時間がかかる。この場合も一つの保護キャップ(刃先片)を取り外してもこれと隣接する保護キャップ(刃先片)の取り外しは容易とはならない。
(4)本件発明の実施品は,米国で特許を取得したほか,平成9年7月28日,第27回機械工業デザイン賞において日本商工会議所会頭賞を獲得した優秀な技術として評価されており,商業的成功を収めている。この点も,本件発明の進歩性ないし本件訂正の独立特許要件の判断において考慮されるべきである。
第4被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1取消事由1(相違点aについての判断の誤り)について刊行物2には,溶接代をとるために脚部と分離リングとを重ね合わせているとの記載はなく,その記載の構成が,保護キャップ等の幅方向のガタを防止するように機能していることは明らかである。
2取消事由2(相違点bについての判断の誤り)について段状歯部と係合する刃先片の位置を,本件訂正発明のように刃先片の端部とするか,刊行物2記載の発明のように中間部とするかは,二者択一の単なる設計上の事項にすぎない。また,ボルトに剪断力がかからず,引張力が作用するようにしたとの原告の主張する技術的意義は,刊行物1に記載されているものにほかならない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点aについての判断の誤り)について(1)原告は,刊行物2(甲3)において,「保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれている構成」は,専ら保護キャップの半径方向の固定という観点から,保護キャップ等の脚部を分離リングに溶接するための溶接代をとるためのものとして記載されており,保護キャップの幅方向のガタを防止するという機能が開示されているとはいえない旨主張する。
しかし,刊行物2(甲3)記載の発明においては,ロータ円板66と分離リング5とが交互に配置され,かつ,ロータ円板66が保護キャップ69の脚部69aの位置する領域においては,分離リング5の直径Dよりもロータ円板66の直径dが小さくなっている実施例が開示されている(訳文2頁7行目以下,図24,25)のであるから,「保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれている構成」を備えるものであることは明らかであるところ,この構成を採用した目的が,脚部と分離リングとの溶接代をとることにあるとの記載はなく,当業者であれば,この構成が有する機能が明示的に説明されているか否かにかかわらず,当該客観的な構成自体から,保護キャップの幅方向のガタを生じないように挟持固定する機能を有することを明らかに理解,把握し得るというべきである。そして,刊行物2記載の発明において,保護キャップの幅方向への移動を抑え,ガタを防止する固定構造として,図25に図示されるような嵌合構造を備えることは原告の主張するとおりであるが,そのことのゆえに,分離リング5による挟持固定が保護キャップの幅方向への移動を抑え,ガタを防止する機能を有することが否定されるものではなく,むしろ,この機能を担うための選択可能な構成が示されていると解すべきである。
他方,刊行物1(甲2)には,「スリッター機能はブレード刃体7の側面同志の摺接噛合精度によるが,ブレード刃体7はその嵌合凹部8が多角形母台1の外周着座面4にインロー嵌合されていることから,スリットカッタ構造体Cの横揺れは規制され,ここに摺接噛合精度を高くすることができるのである。更に又,嵌合凹部8を着座面4に外嵌嵌合したことに基づき,ボルト12に対する支軸13方向のロードも少なく・・・」(5欄27行目以下)と記載されているところ,ここでいう横揺れ規制機能は,刊行物2記載の上記構成に示される,保護キャップの幅方向への移動を抑え,ガタを防止する機能と同様のものと理解されるものである。
したがって,刊行物1(甲2)記載の発明の嵌合構造に代えて,刊行物2に記載された分離リング5による挟持固定構造を採用する動機付けに欠けるものではなく,当該動機付けが生じないとする原告の主張は採用することができない。
そして,軸方向への移動を阻止する他の構成が確保されている限り,刃先片と取付台の接合境界面を平面として,当該平面同士を衝合して固定すること自体は,嵌合構造を採用する以上に単純な固定構造として周知慣用の技術にすぎないことを考えると,刊行物1記載の発明の嵌合構造に代えて,これと同様の選択可能な機能を有する刊行物2記載の「保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれている構成」を適用し,各刃先片と取付台との接合境界面を平面とすることは,当業者の容易に想到し得たものというべきであり,この趣旨をいう審決の判断に誤りはない。
(2)また,原告は,刊行物2記載の発明のように,保護キャップを分離リングに溶接した場合,保護キャップの取り外しが困難になるから,刊行物2記載の分離リングに係る構成を刊行物1記載の発明に適用するには阻害要因が存在する旨主張するが,刊行物2(甲3)には,「図31においては,前述の2つの実施例とは異なり,回転体又はロータ円板93の周囲に備わる固定歯94は,半径方向の面77に対してきわめてわずかに後退しているのみか又は垂直となっているので,保護キャップ95は容易に半径方向の取り外し又は交換ができる」(訳文3頁9行目以下)と記載されるように,保護キャップは交換可能なものとされているのであるから,原告の主張する阻害要因があるとはいえない。
したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2取消事由2(相違点bについての判断の誤り)について(1)原告は,刊行物2記載の発明の固定歯及び保護キャップのポケットは「段状」に形成されているとはいえない旨主張するので,まず,本件訂正発明の規定する「取付台の外周に段状歯部を突出形成する」の構成における「段状」の意義について検討する。
まず,一般に「段状」という文言自体から理解されるのは,周辺部分と高低差のある段差が形成されているという意味にとどまると解されるところ,訂正明細書(甲8添付)の関連記載を見るに,作用欄には,「取付台の外周に刃先部分に噛合する如く段状歯部が突出形成されていることから,この段状歯部により軸回転力が刃先部分に確実に伝達されると共に,破砕切断時に刃先片を介して伝わってくる反力がこの段状歯部を介して取付台で支持される」(段落【0011】)との記載があり,これによれば,本件訂正発明における「段状歯部」の構成は,軸回転力を刃先部分に確実に伝達すること及び破砕切断時に刃先片を介して伝わる反力を取付台に支持することを意図するものと認められる。これに本件特許の願書添付図面図1(甲5)の図示を総合すれば,本件訂正発明の規定する「取付台の外周に段状歯部を突出形成する」の構成における「段状」とは,軸回転方向前面に立ち上がりを有する段差を備えた形状をいうものと解するのが相当である。
そこで,刊行物2(甲3)の固定歯を見るに,図23,24等の図示から明らかなように,軸回転方向前面に立ち上がりを有する段差を備えた形状で突出形成されているものと認められるから,これを本件訂正発明におけるのと同様の意味で,「段状」に形成されているというべきである。そうすると,当該固定歯と噛合する保護キャップのポケットを段状と認定した点を含め,審決の認定に誤りはない。
(2)次に,原告は,本件訂正発明では,「各刃先片の端部に設けた段部と取付台の段状歯部とを係合して刃先部分と該段状歯部とを噛合する如く構成した」ことにより,破砕時に発生する刃先片への負荷荷重が,段部を回転中心とする引張力としてボルトに支配的に作用することになり,ボルトにとって強度のある使い方になるとして,このような技術的意義は当業者の予測し得ないものである旨主張する。
しかし,刊行物1(甲2)においても,刃先片(ブレード刃体7)の一端面7Aが,取付台(母台1)に突出して形成された受圧座面5に衝合する構成を備えることが第1図に図示されており,しかも,破砕時に発生する負荷荷重に関して,「引込み外力が爪7Bに第1図のF1方向に作用することになる。この外力F1に対してはブレード刃体7の一端面7Aが母台1の受圧座面5に衝合していることから,外力F1は母台1にて受担することになり,ここに締付ボルト12に対する負荷が軽減され,同ボルト12の弛み機会は少なくなる」(5欄6行目以下)と記載されているところであり,この記載は,本件訂正発明の上記構成の技術的意義として原告の主張するところと同様の趣旨をいうものと解される。すなわち,原告の主張する上記の技術的意義は,刊行物1記載の発明に開示されているものにすぎないというべきであり,その予測困難性をいう主張は理由がない。
また,原告は,本件訂正発明では,段状歯部に覆い被さっている段部の部位をハンマーで叩けば刃先片が取付台面に沿って少し移動し,その後は簡単に取り外せるようになるとして,このような技術的意義は当業者の予測し得ないものである旨主張する。しかし,そのような内容を基礎付ける訂正明細書(甲8添付)の記載は見当たらない上,上記主張のように「段状歯部に覆い被さっている段部の部位をハンマーで叩けば刃先片が取付台面に沿って少し移動」することが可能なのは,本件訂正発明の一実施例にすぎない本件特許の願書添付図面図1(甲5)のもののように,ハンマーの殴打による衝撃力が,刃先片に対し,段状歯部の立ち上がり面から離隔する方向の分力を生じさせる形態(同図でいえば,段状歯部に覆い被さっている段部の部位が右上がりに傾斜している形態)を有している場合に限って妥当するものであり,そのような形態を特許請求の範囲の記載において規定していない本件訂正発明の技術的意義として評価することはできないというべきである。
(3)また,原告は,本件発明の商業的成功等についても主張するが,機械工業デザインとしての優秀性が評価されているとしても,発明の進歩性とは次元が異なる問題というべきであるし,商業的成功だけから本件訂正発明の顕著な作用効果を肯定することもできないから,この点の原告の主張は採用し得ない。
(4)したがって,刊行物2記載の段状歯部に相当する固定歯の構成を刊行物1記載の発明に適用するに当たり,刊行物1に記載されたブレード刃体8と着座面5との衝合態様に沿うように,刃先片の端部と係合するように構成することは,当業者の容易に想到し得たことというべきであり,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部裁判長裁判官篠原勝美裁判官長沢幸男裁判官宮坂昌利